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特許7687637抗ウイルス活性を有するペプチド、当該ペプチドを含む抗ウイルス剤、当該抗ウイルス剤の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-26
(45)【発行日】2025-06-03
(54)【発明の名称】抗ウイルス活性を有するペプチド、当該ペプチドを含む抗ウイルス剤、当該抗ウイルス剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/00 20060101AFI20250527BHJP
   C07K 7/08 20060101ALI20250527BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20250527BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20250527BHJP
   A61K 38/10 20060101ALI20250527BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20250527BHJP
   C12N 15/11 20060101ALN20250527BHJP
   C12N 7/06 20060101ALN20250527BHJP
【FI】
C07K14/00 ZNA
C07K7/08
A61P31/14
A61K9/08
A61K38/10
A61K38/16
C12N15/11
C12N7/06
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023533162
(86)(22)【出願日】2022-07-06
(86)【国際出願番号】 JP2022026804
(87)【国際公開番号】W WO2023282281
(87)【国際公開日】2023-01-12
【審査請求日】2023-12-13
(31)【優先権主張番号】P 2021113006
(32)【優先日】2021-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021145370
(32)【優先日】2021-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022103949
(32)【優先日】2022-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、次世代治療・診断実現のための創薬基盤技術開発事業、革新的中分子創薬技術の開発/中分子シミュレーション技術の開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願。令和3年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業、スパイクタンパク質を標的とした抗SARS-CoV-2ペプチド医薬の実用開発研究、産業技術力強化法第17条の規定の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京科学大学
(73)【特許権者】
【識別番号】518076779
【氏名又は名称】株式会社CeSPIA
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤吉 好則
(72)【発明者】
【氏名】中村 駿
(72)【発明者】
【氏名】野村 莉紗
(72)【発明者】
【氏名】谷村 幸宏
(72)【発明者】
【氏名】亀川 亜希子
(72)【発明者】
【氏名】沼本 修孝
【審査官】山内 達人
(56)【参考文献】
【文献】CAO, L., et al.,SCIENCE,2020年,Vol. 370, Issue 6515,pp. 426-431
【文献】HAN, Y., et al.,ACS Nano,2020年,Vol. 14,pp. 5143-5147
【文献】BIBILASHVILI, R., et al.,Biomed Khim,2021年,Vol. 67, Issue 3,pp. 244-250
【文献】CHOWDHURY, S., et al.,J Phys Chem,2020年,Vol. 124, Issue 44,pp. 9785-9792
【文献】SITTHIYOTHA, T., et al.,J Phys Chem B,2020年,Vol. 124, Issue 48,pp. 10930-10942
【文献】CAMPOS, L., et al.,J Phys Chem B,2021年,Vol. 125, Issue 24,pp. 6572-6586
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12N 7/00-7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号52~55からなる群から選ばれる1つのアミノ酸配列からなることを特徴とするペプチド。
【請求項2】
N末端からC末端の方向に第1領域と第2領域を有し、
上記第1領域が以下の(h)、(i)、(j)、(k)又は(l)から選択されるアミノ酸配列を含み 、
(h)配列番号56のアミノ酸配列、
(i)配列番号59のアミノ酸配列、
(j)配列番号61のアミノ酸配列、
(k)配列番号63のアミノ酸配列、又は、
(l)配列番号65のアミノ酸配列、
上記第2領域が配列番号57のアミノ酸配列を含む 、
SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合するペプチド。
【請求項3】
配列番号58のアミノ酸配列からなる、SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合するペプチド。
【請求項4】
配列番号60のアミノ酸配列からなる、SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合するペプチド。
【請求項5】
配列番号62のアミノ酸配列からなる、SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合するペプチド。
【請求項6】
配列番号64のアミノ酸配列からなる、SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合するペプチド。
【請求項7】
配列番号66のアミノ酸配列からなる、SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合するペプチド。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のペプチドを有効成分として含有する、医薬組成物。
【請求項9】
新型コロナウイルス感染症治療用である、請求項記載の医薬組成物。
【請求項10】
新型コロナウイルス感染症は、受容体結合ドメイン(RBD)を構成する339番目のアミノ酸残基がグリシン残基であり、371番目のアミノ酸残基がセリン残基であり、373番目のアミノ酸残基がセリン残基であり、375番目のアミノ酸残基がセリン残基であり、376番目のアミノ酸残基がスレオニン残基であり、405番目のアミノ酸残基がアスパラギン酸残基であり、408番目のアミノ酸残基がアルギニン残基であり、417番目のアミノ酸残基がリシン残基であり、440番目のアミノ酸残基がアスパラギン残基であり、446番目のアミノ酸残基がグリシン残基であり、452番目のアミノ酸残基がロイシン残基であり、477番目のアミノ酸残基がセリン残基であり、478番目のアミノ酸残基がスレオニン残基であり、484番目のアミノ酸残基がグルタミン酸残基であり、493番目のアミノ酸残基がグルタミン残基であり、496番目のアミノ酸残基がグリシン残基であり、498番目のアミノ酸残基がグルタミン残基であり、501番目のアミノ酸残基がアスパラギン残基であり、505番目のアミノ酸残基がチロシン残基である野生型SARS-CoV-2;501番目のアミノ酸残基がチロシン残基である第1の変異型SARS-CoV-2;484番目のアミノ酸残基がリシン残基である第2の変異型SARS-CoV-2;417番目のアミノ酸残基がアスパラギン残基であり、484番目のアミノ酸残基がリシン残基であり、501番目のアミノ酸残基がチロシン残基である第3の変異型SARS-CoV-2;417番目のアミノ酸残基がスレオニン残基であり、484番目のアミノ酸残基がリシン残基であり、501番目のアミノ酸残基がチロシン残基である第4の変異型SARS-CoV-2;452番目のアミノ酸残基がアルギニン残基であり、478番目のアミノ酸残基がリシン残基である第5の変異型SARS-CoV-2;452番目のアミノ酸残基がアルギニン残基であり、484番目のアミノ酸残基がグルタミン残基である第6の変異型SARS-CoV-2;339番目のアミノ酸残基がアスパラギン酸残基であり、371番目のアミノ酸残基がロイシン残基であり、373番目のアミノ酸残基がプロリン残基であり、375番目のアミノ酸残基がフェニルアラニン残基であり、417番目のアミノ酸残基がアスパラギン残基であり、440番目のアミノ酸残基がリシン残基であり、446番目のアミノ酸残基がセリン残基であり、477番目のアミノ酸残基がアスパラギン残基であり、478番目のアミノ酸残基がリシン残基であり、484番目のアミノ酸残基がアラニン残基であり、493番目のアミノ酸残基がアルギニン残基であり、496番目のアミノ酸残基がセリン残基であり、498番目のアミノ酸残基がアルギニン残基であり、501番目のアミノ酸残基がチロシン残基であり、505番目のアミノ酸残基がヒスチジン残基である第7の変異型SARS-CoV-2;339番目のアミノ酸残基がアスパラギン酸残基であり、371番目のアミノ酸残基がフェニルアラニン残基であり、373番目のアミノ酸残基がプロリン残基であり、375番目のアミノ酸残基がフェニルアラニン残基であり、376番目のアミノ酸残基がアラニン残基であり、405番目のアミノ酸残基がアスパラギン残基であり、408番目のアミノ酸残基がセリン残基であり、417番目のアミノ酸残基がアスパラギン残基であり、440番目のアミノ酸残基がリシン残基であり、477番目のアミノ酸残基がアスパラギン残基であり、478番目のアミノ酸残基がリシン残基であり、484番目のアミノ酸残基がアラニン残基であり、493番目のアミノ酸残基がアルギニン残基であり、498番目のアミノ酸残基がアルギニン残基であり、501番目のアミノ酸残基がチロシン残基であり、505番目のアミノ酸残基がヒスチジン残基である第8の変異型SARS-CoV-2のいずれかの感染に起因することを特徴とする請求項記載の新型コロナウイルス感染症治療用の医薬組成物。
【請求項11】
上記ペプチドを溶解した水溶液であることを特徴とする請求項記載の新型コロナウイルス感染症治療用の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)における受容体結合ドメイン(RBD)に対して相互作用するペプチド、当該ペプチドを含む抗ウイルス剤、当該抗ウイルス剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)が引き起こした新型コロナウイルス感染症(Coronavirus Disease 2019 (COVID-19))の世界的なパンデミックは、世界的な公衆衛生対策の実施にもかかわらず収束が予測できる状況とは言えない。SARS-CoV-2によって誘発される臨床症状は、無症候性感染から重度の肺炎、多臓器不全及び死亡にまで及ぶ。
【0003】
現在、SARS-CoV-2感染、感染に起因する病気を予防、治療するため、複数の製薬企業によりmRNAワクチン等が供給されている。しかしながら、中国武漢にて見いだされたSARS-CoV-2(野生型SARS-CoV-2)が変異した変異型SARS-CoV-2、いわゆる英国変異型、南アフリカ変異型及びブラジル変異型などをはじめとする複数種の変異株が出現しており、新型コロナウイルス感染症の収束を更に困難なものとしている。ここで、野生型SARS-CoV-2とは、受容体結合ドメイン(RBD)を構成するアミノ酸配列における339番目がグリシン残基であり、371番目がセリン残基であり、373番目がセリン残基であり、375番目がセリン残基であり、376番目がスレオニン残基であり、405番目がアスパラギン酸残基であり、408番目がアルギニン残基であり、417番目がリシン残基であり、440番目がアスパラギン残基であり、446番目がグリシン残基であり、452番目がロイシン残基であり、477番目がセリン残基であり、478番目がスレオニン残基であり、484番目がグルタミン酸残基であり、493番目がグルタミン残基であり、496番目がグリシン残基であり、498番目がグルタミン残基であり、501番目がアスパラギン残基であり、505番目がチロシン残基であるタイプのSARS-CoV-2を意味する。一方、変異型SARS-CoV-2とは、受容体結合ドメイン(RBD)を構成するアミノ酸配列における339番目がアスパラギン酸残基となる変異、371番目がロイシン残基又はフェニルアラニン残基となる変異、373番目がプロリン残基となる変異、375番目がフェニルアラニン残基となる変異、376番目がアラニン残基となる変異、405番目がアスパラギン残基となる変異、408番目がセリン残基となる変異、417番目がアスパラギン残基又はスレオニン残基となる変異、440番目がリシン残基となる変異、446番目がセリン残基となる変異、452番目がアルギニン残基となる変異、477番目がアスパラギン残基となる変異、478番目がリシン残基となる変異、484番目がリシン残基、グルタミン残基又はアラニン残基となる変異、493番目がアルギニン残基となる変異、496番目がセリン残基となる変異、498番目がアルギニン残基となる変異、501番目がチロシン残基となる変異及び505番目がヒスチジン残基となる変異からなる群から選ばれる少なくとも1つの変異を有するSARS-CoV-2を意味する。
【0004】
より具体的に、変異型SARS-CoV-2としては、受容体結合ドメイン(RBD)を構成するアミノ酸配列における501番目がチロシン残基となる変異を有し、339番目、371番目、373番目、375番目、376番目、405番目、408番目、417番目、440番目、446番目、452番目、477番目、478番目、484番目、493番目、496番目、498番目及び505番目のアミノ酸残基が野生型であるタイプのSARS-CoV-2を挙げることができる(PANGO系統名: B.1.1.7、一般に英国変異型SARS-CoV-2と称される場合がある)。また、変異型SARS-CoV-2としては、受容体結合ドメイン(RBD)を構成するアミノ酸配列における417番目がアスパラギン残基となる変異、484番目がリシン残基となる変異及び501番目がチロシン残基となる変異を有し、339番目、371番目、373番目、375番目、376番目、405番目、408番目、440番目、446番目、452番目、477番目、478番目、493番目、496番目、498番目及び505番目のアミノ酸残基が野生型であるタイプのSARS-CoV-2を挙げることができる(PANGO系統名: B.1.351、一般に南アフリカ変異型SARS-CoV-2と称される場合がある)。さらに、変異型SARS-CoV-2としては、受容体結合ドメイン(RBD)を構成するアミノ酸配列における417番目がスレオニン残基となる変異、484番目がリシン残基となる変異及び501番目がチロシン残基となる変異を有し、339番目、371番目、373番目、375番目、376番目、405番目、408番目、440番目、446番目、452番目、477番目、478番目、493番目、496番目、498番目及び505番目のアミノ酸残基が野生型であるタイプのSARS-CoV-2を挙げることができる(PANGO系統名: P.1、一般にブラジル変異型SARS-CoV-2と称される場合がある)。さらにまた、変異型SARS-CoV-2としては、受容体結合ドメイン(RBD)を構成するアミノ酸配列における452番目がアルギニン残基となる変異及び478番目がリシン残基となる変異を有し、339番目、371番目、373番目、375番目、376番目、405番目、408番目、417番目、440番目、446番目、477番目、484番目、493番目、496番目、498番目、501番目及び505番目のアミノ酸残基が野生型であるタイプのSARS-CoV-2を挙げることができる(PANGO系統名: B.1.617.2、一般にインド変異型(δ型)SARS-CoV-2と称される場合がある)。さらにまた、変異型SARS-CoV-2としては、受容体結合ドメイン(RBD)を構成するアミノ酸配列における452番目がアルギニン残基となる変異及び484番目がグルタミン残基となる変異を有し、339番目、371番目、373番目、375番目、376番目、405番目、408番目、417番目、440番目、446番目、477番目、478番目、493番目、496番目、498番目、501番目及び505番目のアミノ酸残基が野生型であるタイプのSARS-CoV-2を挙げることができる(PANGO系統名: B.1.617.1、一般にインド変異型(κ型)SARS-CoV-2と称される場合がある)。さらにまた、変異型SARS-CoV-2としては、受容体結合ドメイン(RBD)を構成するアミノ酸配列における339番目がアスパラギン酸残基となる変異、371番目がロイシン残基となる変異、373番目がプロリン残基となる変異、375番目がフェニルアラニン残基となる変異、417番目がアスパラギン残基となる変異、440番目がリシン残基となる変異、446番目がセリン残基となる変異、477番目がアスパラギン残基となる変異、478番目がリシン残基となる変異、484番目がアラニン残基となる変異、493番目がアルギニン残基となる変異、496番目がセリン残基となる変異、498番目がアルギニン残基となる変異、501番目がチロシン残基となる変異及び505番目がヒスチジン残基となる変異を有し、376番目、405番目、408番目及び452番目のアミノ酸残基が野生型であるタイプのSARS-CoV-2を挙げることができる(PANGO系統名: B.1.1.529/BA.1、一般にオミクロン変異型(BA.1系統)SARS-CoV-2と称される場合がある)。さらにまた、変異型SARS-CoV-2としては、受容体結合ドメイン(RBD)を構成するアミノ酸配列における339番目がアスパラギン酸残基となる変異、371番目がフェニルアラニン残基となる変異、373番目がプロリン残基となる変異、375番目がフェニルアラニン残基となる変異、376番目がアラニン残基となる変異、405番目がアスパラギン残基となる変異、408番目がセリン残基となる変異、417番目がアスパラギン残基となる変異、440番目がリシン残基となる変異、477番目がアスパラギン残基となる変異、478番目がリシン残基となる変異、484番目がアラニン残基となる変異、493番目がアルギニン残基となる変異、498番目がアルギニン残基となる変異、501番目がチロシン残基となる変異及び505番目がヒスチジン残基となる変異を有し、446番目、452番目及び496番目のアミノ酸残基が野生型であるタイプのSARS-CoV-2を挙げることができる(PANGO系統名: B.1.1.529/BA.2、一般にオミクロン変異型(BA.2系統)SARS-CoV-2と称される場合がある)。
【0005】
非特許文献1には、野生型SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に高い親和性を示す56アミノ酸残基或いは64アミノ酸残基のミニタンパク質が開示されており、特に、56アミノ酸残基からなる特定のタンパク質(LCB1と呼称)が、野生型SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に対して最も高い親和性を持つことが示されている。このLCB1と呼称されるミニタンパク質は、3つのヘリックスが互いに相互作用することで野生型SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合しうる所定の立体構造を取ることとなる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】L Cao et al., Science 370, 426-431 (2020)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1に開示されるように、SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)をターゲットとして、これに相互作用するタンパク質(ペプチド)をCOVID-19の治療薬とする創薬戦略が期待される。しかし、非特許文献1に開示されたタンパク質(具体的には非特許文献1においてLCB1とされたタンパク質等)は、化学的に合成するには非常に長い配列であり、現在の技術では安価に合成することが不可能であるため、非特許文献1に開示されたタンパク質(具体的には非特許文献1においてLCB1とされたタンパク質等)を主成分とする治療薬上市の実現性は非常に乏しい。加えて、非特許文献1に開示されたタンパク質のうち、野生型SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に最も強く結合するLCB1は、英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)等の変異型SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)との結合状態を維持することができないことが本発明者らの検討によって明らかとなった。
【0008】
そこで、本発明は、野生型SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)や、英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)等の変異型SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に強く結合することができ、且つ、化学合成が容易であり、超純水或いは緩衝溶液に対する溶解度が極めて高く、COVID-19の治療薬として実現可能性が高いペプチドを提供するとともに、当該ペプチドを含む医薬組成物、当該ペプチドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成するため、本発明者らが鋭意検討した結果、2つのヘリックス構造を含み、野生型SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)や、英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)等の変異型SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に対して高い結合活性を有し、安定した立体構造を維持する、容易に化学的に合成可能で、超純水或いは緩衝溶液に対する溶解度が極めて高いペプチド群の開発に成功し、本発明に至った。本発明は以下を包含する。
【0010】
[1] N末端からC末端の方向に、第1のヘリックスを含む第1領域と第2のヘリックスを含む第2領域とを有し、上記第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列が以下の(a)、(b)、(c)又は(d)のアミノ酸配列を含み、
(a)配列番号1のアミノ酸配列、
(b)配列番号61のアミノ酸配列、
(c)配列番号59のアミノ酸配列、又は
(d)配列番号1、61若しくは59のアミノ酸配列に対して80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列
上記第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列が以下の(e)、(f)又は(g)のアミノ酸配列を含み、
(e)配列番号2のアミノ酸配列、
(f)配列番号57のアミノ酸配列、又は
(g)配列番号2若しくは57のアミノ酸配列に対して80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列
上記第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列におけるN末端側5残基以内のアミノ酸残基と上記第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列におけるC末端側5残基以内のアミノ酸残基との間に結合を形成し、SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合するペプチド。
【0011】
[2] N末端からC末端の方向に、第1のヘリックスを含む第1領域と第2のヘリックスを含む第2領域とを有し、上記第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列が以下の(a)又は(d1)のアミノ酸配列を含み、
(a)配列番号1のアミノ酸配列、又は
(d1)配列番号1のアミノ酸配列に対して80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列
上記第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列が以下の(e)又は(g1)のアミノ酸配列を含み、
(e)配列番号2のアミノ酸配列、又は
(g1)配列番号2のアミノ酸配列に対して80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列
上記第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列におけるN末端側5残基以内のアミノ酸残基と上記第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列におけるC末端側5残基以内のアミノ酸残基との間に結合を形成し、SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する、[1]のペプチド。
【0012】
[3] N末端からC末端の方向に、第1のヘリックスを含む第1領域と第2のヘリックスを含む第2領域とを有し、上記第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列が以下の(b)又は(d2)のアミノ酸配列を含み、
(b)配列番号61のアミノ酸配列、又は
(d2)配列番号61のアミノ酸配列に対して80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列
上記第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列が以下の(f)又は(g2)のアミノ酸配列を含み、
(f)配列番号57のアミノ酸配列、又は
(g2)配列番号57のアミノ酸配列に対して80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列
上記第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列におけるN末端側5残基以内のアミノ酸残基と上記第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列におけるC末端側5残基以内のアミノ酸残基との間に結合を形成し、SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する、[1]のペプチド。
【0013】
[4] N末端からC末端の方向に、第1のヘリックスを含む第1領域と第2のヘリックスを含む第2領域とを有し、上記第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列が以下の(c)又は(db3)のアミノ酸配列を含み、
(c)配列番号59のアミノ酸配列、又は
(d3)配列番号59のアミノ酸配列に対して80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列
上記第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列が以下の(f)又は(g2)のアミノ酸配列を含み、
(f)配列番号57のアミノ酸配列、又は
(g2)配列番号57のアミノ酸配列に対して80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列
上記第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列におけるN末端側5残基以内のアミノ酸残基と上記第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列におけるC末端側5残基以内のアミノ酸残基との間に結合を形成し、SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する、[1]のペプチド。
【0014】
[5] 上記第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列が以下の(h)、(i)、(j)、(k)又は(l)のアミノ酸配列を含み、
(h)配列番号56のアミノ酸配列、
(i)配列番号59のアミノ酸配列、
(j)配列番号61のアミノ酸配列、
(k)配列番号63のアミノ酸配列、又は
(l)配列番号65のアミノ酸配列、
上記第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列が配列番号57のアミノ酸配列を含む、
[1]~[4]のいずれかに記載のペプチド。
【0015】
[6] 上記第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列が配列番号56のアミノ酸配列からなる、[5]記載のペプチド。
【0016】
[7] 上記第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列が配列番号59のアミノ酸配列からなる、[5]記載のペプチド。
【0017】
[8] 上記第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列が配列番号61のアミノ酸配列からなる、[5]記載のペプチド。
【0018】
[9] 上記第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列が配列番号63のアミノ酸配列からなる、[5]記載のペプチド。
【0019】
[10] 上記第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列が配列番号65のアミノ酸配列からなる、[5]記載のペプチド。
【0020】
[11]上記N末端側5残基以内のアミノ酸残基と上記C末端側5残基以内のアミノ酸残基とは、リシン残基とアスパラギン酸残基との組合せ、リシン残基とグルタミン酸残基との組合せ、アルギニン残基とグルタミン酸残基との組合せ、又はアルギニン残基とアスパラギン酸残基との組合せであることを特徴とする[1]~[4]のいずれかに記載のペプチド。
【0021】
[12] 上記(d)又は(d1)のアミノ酸配列は、配列番号1のアミノ酸配列における1番目のアミノ酸残基、8番目のアミノ酸残基、11番目のアミノ酸残基及び18番目のアミノ酸残基からなる群から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換したアミノ酸配列であることを特徴とする[1]又は[2]に記載のペプチド。
【0022】
[13] 上記(g)又は(g1)のアミノ酸配列は、配列番号2のアミノ酸配列における2番目のアミノ酸残基、14番目のアミノ酸残基及び18番目のアミノ酸残基からなる群から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換したアミノ酸配列であることを特徴とする[1]又は[2]に記載のペプチド。
【0023】
[14] 上記(d)又は(d1)のアミノ酸配列は、配列番号1のアミノ酸配列における15番目のアルギニン残基及び19番目のグルタミン酸残基がそれぞれリシン残基とアスパラギン酸残基に置換したアミノ酸配列であることを特徴とする[1]又は[2]に記載のペプチド。
【0024】
[15] 上記(g)又は(g1)のアミノ酸配列は、配列番号2のアミノ酸配列における2番目のグリシン残基がアラニン残基に置換したアミノ酸配列であることを特徴とする[1]又は[2]に記載のペプチド。
【0025】
[16] 上記(g)又は(g1)のアミノ酸配列は、配列番号2のアミノ酸配列における18番目のアルギニン残基がリシン残基に置換したアミノ酸配列であることを特徴とする[1]又は[2]に記載のペプチド。
【0026】
[17] 上記(d)又は(d1)のアミノ酸配列は、配列番号1のアミノ酸配列における10番目のチロシン残基及び13番目のメチオニン酸残基が更に保存されたアミノ酸配列であることを特徴とする[1]又は[2]に記載のペプチド。
【0027】
[18] 上記(g)又は(g1)のアミノ酸配列は、配列番号2のアミノ酸配列における1番目のヒスチジン残基、9番目のセリン残基、10番目のアスパラギン酸残基及び13番目のチロシン残基が更に保存されたアミノ酸配列であることを特徴とする[1]又は[2]に記載のペプチド。
【0028】
[19] 上記第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列及び/又は上記第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列は18~22アミノ酸残基であることを特徴とする[1]~[4]のいずれかに記載のペプチド。
【0029】
[20] 上記第1領域と上記第2領域とからなり、全体の配列長が39アミノ酸残基であることを特徴とする[1]~[4]のいずれかに記載のペプチド。
【0030】
[21] 配列番号52~55、58、60、62、64及び66からなる群から選ばれる1つのアミノ酸配列からなることを特徴とする[1]~[4]のいずれかに記載のペプチド。
【0031】
[22] N末端からC末端の方向に第1領域と第2領域を有し、
上記第1領域が以下の(h)、(i)、(j)、(k)又は(l)から選択されるアミノ酸配列を含み 、
(h)配列番号56のアミノ酸配列、
(i)配列番号59のアミノ酸配列、
(j)配列番号61のアミノ酸配列、
(k)配列番号63のアミノ酸配列、又は、
(l)配列番号65のアミノ酸配列、
上記第2領域が配列番号57のアミノ酸配列を含む 、
SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合するペプチド。
【0032】
[23] 上記第1領域が配列番号56のアミノ酸配列からなる、[22]のペプチド。
【0033】
[24] 上記第1領域が配列番号59のアミノ酸配列からなる、[22]のペプチド。
【0034】
[25] 上記第1領域が配列番号61のアミノ酸配列からなる、[22]のペプチド。
【0035】
[26] 上記第1領域が配列番号63のアミノ酸配列からなる、[22]のペプチド。
【0036】
[27] 上記第1領域が配列番号65のアミノ酸配列からなる、[22]のペプチド。
【0037】
[28] 上記第2領域が配列番号57のアミノ酸配列からなる、[22]~[27]のいずれかのペプチド。
【0038】
[29] 配列番号58のアミノ酸配列からなる、SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合するペプチド。
【0039】
[30] 配列番号60のアミノ酸配列からなる、SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合するペプチド。
【0040】
[31] 配列番号62のアミノ酸配列からなる、SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合するペプチド。
【0041】
[32] 配列番号64のアミノ酸配列からなる、SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合するペプチド。
【0042】
[33] 配列番号66のアミノ酸配列からなる、SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合するペプチド。
【0043】
[34] 上記[1]~[33]のいずれかに記載のペプチドを有効成分として含有する医薬組成物。
【0044】
[35] 少なくとも一つの薬剤学的に許容される担体を含有する、上記[34]に記載の医薬組成物。
【0045】
[36] 新型コロナウイルス感染症治療用である、上記[34]又は[35]に記載の医薬組成物。
【0046】
[37] 新型コロナウイルス感染症の治療において使用するための上記[1]~[33]のいずれかに記載のペプチド。
【0047】
[38] 治療上有効量の上記[1]~[33]のいずれかのペプチドを、それを必要とする患者に投与することを含む、新型コロナウイルス感染症の治療方法。
【0048】
[39] 新型コロナウイルス感染症治療用の医薬組成物を製造するための上記[1]~[33]のいずれかに記載のペプチドの使用。
【0049】
[40] 新型コロナウイルス感染症は、受容体結合ドメイン(RBD)を構成する339番目のアミノ酸残基がグリシン残基であり、371番目のアミノ酸残基がセリン残基であり、373番目のアミノ酸残基がセリン残基であり、375番目のアミノ酸残基がセリン残基であり、376番目のアミノ酸残基がスレオニン残基であり、405番目のアミノ酸残基がアスパラギン酸残基であり、408番目のアミノ酸残基がアルギニン残基であり、417番目のアミノ酸残基がリシン残基であり、440番目のアミノ酸残基がアスパラギン残基であり、446番目のアミノ酸残基がグリシン残基であり、452番目のアミノ酸残基がロイシン残基であり、477番目のアミノ酸残基がセリン残基であり、478番目のアミノ酸残基がスレオニン残基であり、484番目のアミノ酸残基がグルタミン酸残基であり、493番目のアミノ酸残基がグルタミン残基であり、496番目のアミノ酸残基がグリシン残基であり、498番目のアミノ酸残基がグルタミン残基であり、501番目のアミノ酸残基がアスパラギン残基であり、505番目のアミノ酸残基がチロシン残基である野生型SARS-CoV-2;501番目のアミノ酸残基がチロシン残基である第1の変異型SARS-CoV-2;484番目のアミノ酸残基がリシン残基である第2の変異型SARS-CoV-2;417番目のアミノ酸残基がアスパラギン残基であり、484番目のアミノ酸残基がリシン残基であり、501番目のアミノ酸残基がチロシン残基である第3の変異型SARS-CoV-2;417番目のアミノ酸残基がスレオニン残基であり、484番目のアミノ酸残基がリシン残基であり、501番目のアミノ酸残基がチロシン残基である第4の変異型SARS-CoV-2;452番目のアミノ酸残基がアルギニン残基であり、478番目のアミノ酸残基がリシン残基である第5の変異型SARS-CoV-2;452番目のアミノ酸残基がアルギニン残基であり、484番目のアミノ酸残基がグルタミン残基である第6の変異型SARS-CoV-2;339番目のアミノ酸残基がアスパラギン酸残基であり、371番目のアミノ酸残基がロイシン残基であり、373番目のアミノ酸残基がプロリン残基であり、375番目のアミノ酸残基がフェニルアラニン残基であり、417番目のアミノ酸残基がアスパラギン残基であり、440番目のアミノ酸残基がリシン残基であり、446番目のアミノ酸残基がセリン残基であり、477番目のアミノ酸残基がアスパラギン残基であり、478番目のアミノ酸残基がリシン残基であり、484番目のアミノ酸残基がアラニン残基であり、493番目のアミノ酸残基がアルギニン残基であり、496番目のアミノ酸残基がセリン残基であり、498番目のアミノ酸残基がアルギニン残基であり、501番目のアミノ酸残基がチロシン残基であり、505番目のアミノ酸残基がヒスチジン残基である第7の変異型SARS-CoV-2;339番目のアミノ酸残基がアスパラギン酸残基であり、371番目のアミノ酸残基がフェニルアラニン残基であり、373番目のアミノ酸残基がプロリン残基であり、375番目のアミノ酸残基がフェニルアラニン残基であり、376番目のアミノ酸残基がアラニン残基であり、405番目のアミノ酸残基がアスパラギン残基であり、408番目のアミノ酸残基がセリン残基であり、417番目のアミノ酸残基がアスパラギン残基であり、440番目のアミノ酸残基がリシン残基であり、477番目のアミノ酸残基がアスパラギン残基であり、478番目のアミノ酸残基がリシン残基であり、484番目のアミノ酸残基がアラニン残基であり、493番目のアミノ酸残基がアルギニン残基であり、498番目のアミノ酸残基がアルギニン残基であり、501番目のアミノ酸残基がチロシン残基であり、505番目のアミノ酸残基がヒスチジン残基である第8の変異型SARS-CoV-2のいずれかの感染に起因することを特徴とする、上記[36]~[39]のいずれかに記載の医薬組成物、ペプチド、治療方法又は使用。
【0050】
[41]上記ペプチドを溶解した水溶液であることを特徴とする[36]記載の新型コロナウイルス感染症治療用の医薬組成物。
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2021-113006号、2021-145370号、2022-103949号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0051】
本発明に係るペプチドは、野生型SARS-CoV-2又は変異型SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に対する結合能に優れ、化学合成が容易であり、且つ、超純水或いは緩衝溶液に対する溶解度が極めて高く、COVID-19の治療薬として実現可能性が高い特徴を有する。このため、本発明に係るペプチドによれば、体内において野生型SARS-CoV-2及び変異型SARS-CoV-2の細胞への感染を防止することができる。
【0052】
また、本発明に係る新型コロナウイルス感染症治療薬は、野生型SARS-CoV-2又は変異型SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に対する結合能に優れ、化学合成が容易であり、且つ、超純水或いは緩衝溶液に対する溶解度が極めて高いペプチドを有効成分とする。したがって、本発明に係る新型コロナウイルス感染症治療薬は、体内において野生型SARS-CoV-2及び変異型SARS-CoV-2の細胞への感染を防止することができ、COVID-19に対する有効な治療薬として期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
図1】実施例で作製したCa1、Cb1、Cb2、Cb3、Cb4、Cb5、Cb6、Cb7及びCe1のCDスペクトルを示す特性図である。
図2】実施例で作製したCe1について、野生型SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)との相互作用を測定した結果を示す特性図である。
図3】実施例で作製したCe1について、野生型SARS-CoV-2を用いて実施したプラーク減少アッセイの結果を示す写真と、Ce1の濃度条件を示す図である。
図4図3に示したCe1ペプチド濃度と阻害率との関係を示す特性図である。
図5】LCB1ペプチドについて、野生型SARS-CoV-2を用いて実施したプラーク減少アッセイの結果を示す写真と、LCB1の濃度条件を示す図である。
図6】Ca1について、野生型SARS-CoV-2を用いて実施したプラーク減少アッセイの結果を示す写真と、Ca1の濃度条件を示す図である。
図7図5に示したLCB1ペプチド濃度と阻害率との関係を示す特性図である。
図8図6に示したCa1ペプチド濃度と阻害率との関係を示す特性図である。
図9】実施例で作製したCe4について、野生型SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)との相互作用を測定した結果を示す特性図である。
図10】実施例で作製したCe4について、野生型SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)との相互作用を、結合開始から3時間2分測定した結果を示す特性図である。
図11】実施例で作製したCe9について、野生型SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)との相互作用を測定した結果を示す特性図である。
図12】実施例で作製したCe6について、野生型SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)との相互作用を測定した結果を示す特性図である。
図13】実施例で作製したCe5について、野生型SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)との相互作用を測定した結果を示す特性図である。
図14】実施例で作製したCe14について、野生型SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)との相互作用を測定した結果を示す特性図である。
図15】実施例で作製したCe15について、野生型SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)との相互作用を測定した結果を示す特性図である。
図16】実施例で作製したCe16について、野生型SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)との相互作用を測定した結果を示す特性図である。
図17】実施例で作製したCe41について、野生型SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)との相互作用を測定した結果を示す特性図である。
図18】実施例で作製したCe41について、英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)における受容体結合ドメイン(RBD)との相互作用を測定した結果を示す特性図である。
図19】実施例で作製したCe41について、ブラジル変異型SARS-CoV-2(P.1)における受容体結合ドメイン(RBD)との相互作用を測定した結果を示す特性図である。
図20】実施例で作製したCe41について、南アフリカ変異型SARS-CoV-2(B.1.351)における受容体結合ドメイン(RBD)との相互作用を測定した結果を示す特性図である。
図21】実施例で作製したCe41について、インド変異型(δ型)SARS-CoV-2(B.1.617.2)における受容体結合ドメイン(RBD)との相互作用を測定した結果を示す特性図である。
図22】実施例で作製したCe41について、インド変異型(κ型)SARS-CoV-2(B.1.617.1)における受容体結合ドメイン(RBD)との相互作用を測定した結果を示す特性図である。
図23】実施例で作製したCe41について、英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)を用いて実施したプラーク減少アッセイの結果を示す写真と、Ce41の濃度条件を示す図である。
図24図23に示したCe41ペプチド濃度と阻害率との関係を示す特性図である。
図25】実施例で作製したCe41について、英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)における受容体結合ドメイン(RBD)との相互作用を、結合開始から3時間2分測定した結果を示す特性図である。
図26】実施例で作製したCe59について、野生型SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)との相互作用を測定した結果を示す特性図である。
図27】実施例で作製したCe59について、英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)における受容体結合ドメイン(RBD)との相互作用を測定した結果を示す特性図である。
図28】実施例で作製したCe59について、ブラジル変異型SARS-CoV-2(P.1)における受容体結合ドメイン(RBD)との相互作用を測定した結果を示す特性図である。
図29】実施例で作製したCe59について、南アフリカ変異型SARS-CoV-2(B.1.351)における受容体結合ドメイン(RBD)との相互作用を測定した結果を示す特性図である。
図30】実施例で作製したCe59について、インド変異型(δ型)SARS-CoV-2(B.1.617.2)における受容体結合ドメイン(RBD)との相互作用を測定した結果を示す特性図である。
図31】実施例で作製したCe59について、インド変異型(κ型)SARS-CoV-2(B.1.617.1)における受容体結合ドメイン(RBD)との相互作用を測定した結果を示す特性図である。
図32】実施例で作製したCe59について、インド変異型(δ型)SARS-CoV-2(B.1.617.2)を用いて実施したプラーク減少アッセイの結果を示す写真と、Ce59の濃度条件を示す図である。
図33図32に示したCe59ペプチド濃度と阻害率との関係を示す特性図である。
図34】実施例で作製したCe59について、英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)を用いて実施したプラーク減少アッセイの結果を示す写真と、Ce59の濃度条件を示す図である。
図35図34に示したCe59ペプチド濃度と阻害率との関係を示す特性図である。
図36】実施例で作製したCe59について、英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)における受容体結合ドメイン(RBD)との相互作用を、結合開始から3時間2分測定した結果を示す特性図である。
図37】実施例で作製したCe113について、英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)における受容体結合ドメイン(RBD)との相互作用を測定した結果を示す特性図である。
図38】実施例で作製したCe113について、インド変異型(δ型)SARS-CoV-2(B.1.617.1)における受容体結合ドメイン(RBD)との相互作用を測定した結果を示す特性図である。
図39】実施例で作製したCe113について、オミクロン変異型(BA.1系統)SARS-CoV-2(B.1.1.529/BA.1)における受容体結合ドメイン(RBD)との相互作用を測定した結果を示す特性図である。
図40】実施例で作製したCe113について、オミクロン変異型(BA.2系統)SARS-CoV-2(B.1.1.529/BA.2)における受容体結合ドメイン(RBD)との相互作用を測定した結果を示す特性図である。
図41】実施例で作製したCe172について、英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)における受容体結合ドメイン(RBD)との相互作用を測定した結果を示す特性図である。
図42】実施例で作製したCe172について、インド変異型(δ型)SARS-CoV-2(B.1.617.1)における受容体結合ドメイン(RBD)との相互作用を測定した結果を示す特性図である。
図43】実施例で作製したCe172について、オミクロン変異型(BA.1系統)SARS-CoV-2(B.1.1.529/BA.1)における受容体結合ドメイン(RBD)との相互作用を測定した結果を示す特性図である。
図44】実施例で作製したCe172について、オミクロン変異型(BA.2系統)SARS-CoV-2(B.1.1.529/BA.2)における受容体結合ドメイン(RBD)との相互作用を測定した結果を示す特性図である。
図45】実施例で作製したCe172について、英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)を用いて実施したプラーク減少アッセイの結果を示す写真と、Ce172の濃度条件を示す図である。
図46図45に示したCe172ペプチド濃度と阻害率との関係を示す特性図である。
図47】実施例で作製したCe172について、インド変異型(δ型)SARS-CoV-2(B.1.617.1)を用いて実施したプラーク減少アッセイの結果を示す写真と、Ce172の濃度条件を示す図である。
図48図47に示したCe172ペプチド濃度と阻害率との関係を示す特性図である。
図49】実施例で作製したCe172について、オミクロン変異型(BA.1系統)SARS-CoV-2(B.1.1.529/BA.1)を用いて実施したプラーク減少アッセイの結果を示す写真と、Ce172の濃度条件を示す図である。
図50図49に示したCe172ペプチド濃度と阻害率との関係を示す特性図である。
図51】実施例で作製したCe173について、英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)における受容体結合ドメイン(RBD)との相互作用を測定した結果を示す特性図である。
図52】実施例で作製したCe173について、インド変異型(δ型)SARS-CoV-2(B.1.617.1)における受容体結合ドメイン(RBD)との相互作用を測定した結果を示す特性図である。
図53】実施例で作製したCe173について、オミクロン変異型(BA.1系統)SARS-CoV-2(B.1.1.529/BA.1)における受容体結合ドメイン(RBD)との相互作用を測定した結果を示す特性図である。
図54】実施例で作製したCe173について、オミクロン変異型(BA.2系統)SARS-CoV-2(B.1.1.529/BA.2)における受容体結合ドメイン(RBD)との相互作用を測定した結果を示す特性図である。
図55】実施例で作製したCe173について、英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)を用いて実施したプラーク減少アッセイの結果を示す写真と、Ce173ペプチド濃度と阻害率との関係を示す図である。
図56】実施例で作製したCe173について、インド変異型(δ型)SARS-CoV-2(B.1.617.1)を用いて実施したプラーク減少アッセイの結果を示す写真と、Ce173ペプチド濃度と阻害率との関係を示す図である。
図57】実施例で作製したCe173について、オミクロン変異型(BA.1系統)SARS-CoV-2(B.1.1.529/BA.1)を用いて実施したプラーク減少アッセイの結果を示す写真と、Ce173ペプチド濃度と阻害率との関係を示す図である。
図58】実施例で作製したCe174について、英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)における受容体結合ドメイン(RBD)との相互作用を測定した結果を示す特性図である。
図59】実施例で作製したCe174について、インド変異型(δ型)SARS-CoV-2(B.1.617.1)における受容体結合ドメイン(RBD)との相互作用を測定した結果を示す特性図である。
図60】実施例で作製したCe174について、オミクロン変異型(BA.1系統)SARS-CoV-2(B.1.1.529/BA.1)における受容体結合ドメイン(RBD)との相互作用を測定した結果を示す特性図である。
図61】実施例で作製したCe174について、オミクロン変異型(BA.2系統)SARS-CoV-2(B.1.1.529/BA.2)における受容体結合ドメイン(RBD)との相互作用を測定した結果を示す特性図である。
図62】実施例で作製したCe174について、英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)を用いて実施したプラーク減少アッセイの結果を示す写真と、Ce174ペプチド濃度と阻害率との関係を示す図である。
図63】実施例で作製したCe174について、インド変異型(δ型)SARS-CoV-2(B.1.617.1)を用いて実施したプラーク減少アッセイの結果を示す写真と、Ce174ペプチド濃度と阻害率との関係を示す図である。
図64】実施例で作製したCe174について、オミクロン変異型(BA.1系統)SARS-CoV-2(B.1.1.529/BA.1)を用いて実施したプラーク減少アッセイの結果を示す写真と、Ce174ペプチド濃度と阻害率との関係を示す図である。
図65】実施例で作製したCe149について、英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)における受容体結合ドメイン(RBD)との相互作用を測定した結果を示す特性図である。
図66】実施例で作製したCe149について、インド変異型(δ型)SARS-CoV-2(B.1.617.1)における受容体結合ドメイン(RBD)との相互作用を測定した結果を示す特性図である。
図67】実施例で作製したCe149について、オミクロン変異型(BA.1系統)SARS-CoV-2(B.1.1.529/BA.1)における受容体結合ドメイン(RBD)との相互作用を測定した結果を示す特性図である。
図68】実施例で作製したCe149について、オミクロン変異型(BA.2系統)SARS-CoV-2(B.1.1.529/BA.2)における受容体結合ドメイン(RBD)との相互作用を測定した結果を示す特性図である。
図69】実施例で作製したCe149について、英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)を用いて実施したプラーク減少アッセイの結果を示す写真と、Ce149の濃度条件を示す図である。
図70図69に示したCe149ペプチド濃度と阻害率との関係を示す特性図である。
図71】実施例で作製したCe149について、インド変異型(δ型)SARS-CoV-2(B.1.617.2)を用いて実施したプラーク減少アッセイの結果を示す写真と、Ce149の濃度条件を示す図である。
図72図71に示したCe149ペプチド濃度と阻害率との関係を示す特性図である。
図73】実施例で作製したCe149について、オミクロン変異型(BA.1系統)SARS-CoV-2(B.1.1.529/BA.1)を用いて実施したプラーク減少アッセイの結果を示す写真と、Ce149の濃度条件を示す図である。
図74図73に示したCe149ペプチド濃度と阻害率との関係を示す特性図である。
図75】実施例で作製したCe4、Ce9、Ce41、Ce59、Ce113、Ce149、Ce172、Ce173及びCe174のCDスペクトルを示す特性図である。
図76】実施例で作製したCe41の3次元立体構造モデルにおける、第1領域における2番目のリシン残基と第2領域におけるC末端5残基の相互作用を示す特性図である。
図77】実施例で作製したCe41について、オミクロン変異型(BA.1系統)SARS-CoV-2(B.1.1.529/BA.1)における受容体結合ドメイン(RBD)との相互作用を測定した結果を示す特性図である。
図78】実施例で作製したCe59について、オミクロン変異型(BA.1系統)SARS-CoV-2(B.1.1.529/BA.1)における受容体結合ドメイン(RBD)との相互作用を測定した結果を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下、本開示に係る発明を詳細に説明する。
本開示に係るペプチドは、野生型SARS-CoV-2又は変異型SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に対して結合することができる。これにより、本開示に係るペプチドは、細胞上に発現しているACE2(angiotensin-converting enzyme 2)と当該SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)との結合を阻害し、細胞に対する当該SARS-CoV-2の感染を防止できる。野生型SARS-CoV-2については、Wrapp, D. et al. Cryo-EM structure of the 2019-nCoV spike in the prefusion conformation. Science 367, 1260-1263 (2020)において、ウイルス表面に存在するSpike(S)タンパク質の構造解析結果が示されている。Sタンパク質は3量体を形成しており、宿主のタンパク質分解酵素であるfurinによる開裂を受ける塩基性のアミノ酸配列を有することが知られている。Sタンパク質は、furinによって、受容体結合能を担うS1サブユニットと膜融合能を担うS2サブユニットとに開裂される。本開示に係るペプチドは、S1サブユニットに存在する受容体結合ドメイン(RBD)と結合することができる。本開示において、「受容体結合ドメイン(RBD)」とは、Spikeタンパク質のS1サブユニットに存在する受容体結合ドメイン(RBD)を意味する。
【0055】
本開示に係るペプチドは、2つのヘリックス構造を有している(便宜的に、N末端側を第1のヘリックスと呼称し、C末端側を第2のヘリックスと呼称する)。本開示に係るペプチドは、N末端側の第1のヘリックスを有する領域(便宜的に第1領域と呼称する)と、C末端側の第2のヘリックスを有する領域(便宜的に第2領域と呼称する)を含み、第1領域の当該SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列におけるN末端側5残基以内のアミノ酸残基と第2領域の当該SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列におけるC末端側5残基以内のアミノ酸残基との間に結合を形成している。このように、本開示に係るペプチドは、第1領域に含まれる上記N末端側5残基以内のアミノ酸残基と第2領域に含まれる上記C末端側5残基以内のアミノ酸残基との間に形成された結合により所望の立体構造を維持できることが特徴の一つである。本開示において、第1領域に含まれる上記N末端側5残基以内のアミノ酸残基と第2領域に含まれる上記C末端側5残基以内のアミノ酸残基との間の結合は、塩橋又は水素結合を含み、以下、結合を具体的に塩橋や水素結合という場合があるが、塩橋や水素結合を結合ということができる。
【0056】
なお、「N末端側5残基以内のアミノ酸残基」とは、N末端から数えて1~5アミノ酸残基の間に位置するアミノ酸残基を意味し、上記結合の形成に関与するアミノ酸残基の位置をN末端に限定する意味ではない。同様に、「C末端側5残基以内のアミノ酸残基」とは、C末端から数えて1~5アミノ酸残基の間に位置するアミノ酸残基を意味し、上記結合の形成に関与するアミノ酸残基の位置をC末端に限定する意味ではない。
【0057】
また、本開示に係るペプチドは、第1のヘリックスにおいて、親水性アミノ酸残基を導入することで(具体的には、例えば配列番号1の15番目のアルギニン残基及び19番目のグルタミン酸残基)、これらの残基による塩橋の形成に伴うヘリックス構造の安定化と親水化が実現され、超純水或いは緩衝溶液に対する極めて高い溶解度を獲得していることも特徴の一つである。
【0058】
さらに、本開示に係るペプチドにおいて、第1領域及び第2領域は、それぞれ上述した立体構造を取った状態でSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合しうるアミノ酸配列を有しており、それぞれのアミノ酸配列によって規定することができる。具体的に、第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列は以下の(a)、(b)、(c)又は(d) のアミノ酸配列として規定することができる。
(a)配列番号1のアミノ酸配列
(b)配列番号61のアミノ酸配列
(c)配列番号59のアミノ酸配列
(d)配列番号1、61若しくは59のアミノ酸配列に対して80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列
また、第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列は以下の(e)、(f)又は(g)のアミノ酸配列として規定することができる。
(e)配列番号2のアミノ酸配列
(f)配列番号57のアミノ酸配列
(g)配列番号2若しくは57のアミノ酸配列に対して80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列。
【0059】
さらに、第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列は以下の(a)又は(d1)のアミノ酸配列として規定することができる。
(a)配列番号1のアミノ酸配列
(d1)配列番号1のアミノ酸配列に対して80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列
また、第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列は以下の(e)又は(g1)のアミノ酸配列として規定することができる。
(e)配列番号2のアミノ酸配列
(g1)配列番号2のアミノ酸配列に対して80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列。
【0060】
さらに、第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列は以下の(b)又は(d2)のアミノ酸配列として規定することができる。
(b)配列番号61のアミノ酸配列
(d2)配列番号61のアミノ酸配列に対して80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列
また、第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列は以下の(f)又は(g2)のアミノ酸配列として規定することができる。
(f)配列番号57のアミノ酸配列
(g2)配列番号57のアミノ酸配列に対して80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列。
【0061】
さらに、第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列は以下の(c)又は(d3)のアミノ酸配列として規定することができる。
(c)配列番号59のアミノ酸配列
(d3)配列番号59のアミノ酸配列に対して80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列
また、第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列は以下の(f)又は(g2)のアミノ酸配列として規定することができる。
(f)配列番号57のアミノ酸配列
(g2)配列番号57のアミノ酸配列に対して80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列。
【0062】
第1領域を規定する(a)、(b)又は(c)のアミノ酸配列はリシン残基(配列番号1、59又は61においてはN末端から2番目のアミノ酸残基)を有し、第2領域を規定する(e)又は(f)のアミノ酸配列はアスパラギン酸残基(配列番号2又は57においてはC末端から1番目のアミノ酸残基)を有している。配列番号1、59若しくは61並びに配列番号2若しくは57で規定される本開示に係るペプチドは、これらリシン残基とアスパラギン酸残基との間に上記塩橋が形成されることで所望の立体構造を安定化することができる。
【0063】
ただし、第1領域及び第2領域の間に形成される塩橋は、上記リシン残基及び上記アスパラギン酸残基によるものに限定されない。例えば、配列番号1、59又は61におけるN末端から2番目のアミノ酸残基がアスパラギン酸残基であり、配列番号2又は57におけるC末端から1番目のアミノ酸残基がリシン残基であっても、これらアスパラギン酸残基とリシン残基との間に塩橋が形成され、所望の立体構造を安定化することができる。
【0064】
また、塩橋を形成するアミノ酸残基の組合せは、上述したリシン残基とアスパラギン酸残基の組合せに限定されず、リシン残基とグルタミン酸残基との組合せ、アルギニン残基とグルタミン酸残基との組合せ、及びアルギニン残基とアスパラギン酸残基との組合せを例示することができる。すなわち、一例として、配列番号1、59又は61におけるN末端から2番目をアルギニン残基とし、配列番号2又は57におけるC末端から1番目をグルタミン酸残基とした場合でも、これらアルギニン残基とグルタミン酸残基との間に塩橋が形成され、所望の立体構造を安定化することができる。なお、塩橋をアルギニン残基とグルタミン酸残基との間に形成する場合、配列番号1、59又は61におけるN末端から2番目をグルタミン酸残基とし、配列番号2又は57におけるC末端から1番目をアルギニン残基としても良い。
【0065】
上記(d)、(d1)、(d2)又は(d3)に規定するアミノ酸配列は、SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位のアミノ酸配列であって、第1領域及び第2領域の間の上記結合の形成に関与するアミノ酸残基を保存していれば、配列番号1、59又は61のアミノ酸配列に対して80%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上又は95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列とすることができる。
【0066】
また、上記(d)、(d1)、(d2)又は(d3)に規定するアミノ酸配列は、SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位のアミノ酸配列であって、第1領域及び第2領域の間の上記結合の形成に関与するアミノ酸残基を保存していれば、配列番号1、59又は61のアミノ酸配列に対して1~4個のアミノ酸残基を置換したアミノ酸配列とすることができる。なお、配列番号1、59又は61のアミノ酸配列に対して1個のアミノ酸残基を置換したアミノ酸配列は、配列番号1、59又は61のアミノ酸配列に対して95%の配列同一性を有する。配列番号1、59又は61のアミノ酸配列に対して2個、3個又は4個のアミノ酸残基を置換したアミノ酸配列は、配列番号1、59又は61のアミノ酸配列に対してそれぞれ90%、85%又は80%の配列同一性を有する。
【0067】
配列番号1、59又は61のアミノ酸配列に対して1~4個のアミノ酸残基を置換する場合、置換対象のアミノ酸残基は、特に限定されないが、配列番号1、59又は61のアミノ酸配列における1番目のアミノ酸残基(アスパラギン酸残基)、8番目のアミノ酸残基(リシン残基)、11番目のアミノ酸残基(グルタミン酸残基)及び18番目のアミノ酸残基(グルタミン酸残基)からなる群から選ぶことができる。これら配列番号1、59又は61のアミノ酸配列における1番目のアミノ酸残基(アスパラギン酸残基)、8番目のアミノ酸残基(リシン残基)、11番目のアミノ酸残基(グルタミン酸残基)及び18番目のアミノ酸残基(グルタミン酸残基)は、ヘリックス構造の安定化に寄与しているが、SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)への相互作用は僅かであるため、性質が類似するアミノ酸残基への置換が可能である。
【0068】
配列番号1、59又は61における1番目のアスパラギン酸残基は、特に限定されないが、アスパラギン残基やグルタミン酸残基へ置換することができる。アスパラギン酸及びアスパラギンなどは、Nキャップと呼ばれるヘリックスを開始する性質を有しており、性質が類似している。また、アスパラギン酸及びグルタミン酸は、ともに酸性アミノ酸であり、性質が類似している。よって、配列番号1、59又は61における1番目のアスパラギン酸残基をアスパラギン残基やグルタミン酸残基へ置換したとしても、第1のヘリックスの構造に対する影響やSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)への相互作用に対する影響が極めて少なく、本開示に係るペプチドの機能を維持することができる。
【0069】
また、配列番号1、59又は61における8番目のリシン残基は、特に限定されないが、アルギニン残基やヒスチジン残基へ置換することができる。リシン、アルギニン及びヒスチジンは塩基性アミノ酸であり、性質が類似している。よって、配列番号1、59又は61における8番目のリシン残基をアルギニン残基やヒスチジン残基へ置換したとしても、第1のヘリックスの構造に対する影響やSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)への相互作用に対する影響が極めて少なく、本開示に係るペプチドの機能を維持することができる。特に、リシン及びアルギニンは芳香環を有しない点で共通するため、8番目のリシン残基をアルギニン残基へ置換した場合には、第1のヘリックスの構造に対する影響やSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)への相互作用に対する影響が極めて少なく、本開示に係るペプチドの機能を高く維持することができる。
【0070】
さらに、配列番号1、59又は61における11番目のグルタミン酸残基及び18番目のグルタミン酸残基は、特に限定されないが、アスパラギン酸残基へ置換することができる。グルタミン酸及びアスパラギン酸ともに酸性アミノ酸であり、性質が類似している。よって、配列番号1、59又は61における11番目のグルタミン酸残基及び/又は18番目のグルタミン酸残基をアスパラギン酸残基へ置換したとしても、第1のヘリックスの構造に対する影響やSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)への相互作用に対する影響が極めて少なく、本開示に係るペプチドの機能を維持することができる。
【0071】
上記(g)、(g1)又は(g2)に規定するアミノ酸配列は、SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位のアミノ酸配列であって、第1領域及び第2領域の間の上記結合の形成に関与するアミノ酸残基を保存していれば、配列番号2又は57のアミノ酸配列に対して80%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上又は95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列とすることができる。
【0072】
また、上記(g)、(g1)又は(g2)に規定するアミノ酸配列は、SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位のアミノ酸配列であって、第1領域及び第2領域の間の上記結合の形成に関与するアミノ酸残基を保存していれば、配列番号2又は57のアミノ酸配列に対して1~3個のアミノ酸残基を置換したアミノ酸配列とすることができる。なお、配列番号2又は57のアミノ酸配列に対して1個のアミノ酸残基を置換したアミノ酸配列は、配列番号2又は57のアミノ酸配列に対して94.7%の配列同一性を有する。配列番号2又は57のアミノ酸配列に対して2個又は3個のアミノ酸残基を置換したアミノ酸配列は、配列番号2又は57のアミノ酸配列に対してそれぞれ89.5%又は84.2%の配列同一性を有する。
【0073】
配列番号2又は57のアミノ酸配列に対して1~3個のアミノ酸残基を置換する場合、置換対象のアミノ酸残基は、特に限定されないが、配列番号2又は57のアミノ酸配列における2番目のアミノ酸残基(グリシン残基)、14番目のアミノ酸残基(グルタミン酸残基)及び18番目のアミノ酸残基(アルギニン残基)からなる群から選ぶことができる。
【0074】
配列番号2又は57における2番目のグリシン残基は、アラニン残基へ置換することができる。配列番号2又は57における2番目のグリシン残基は、SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)のアミノ酸配列における501番目のアスパラギン残基がチロシン残基に変異した全ての受容体結合ドメイン(RBD)に対して最適なアミノ酸残基であるが、野生型SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に対しては、アラニン残基への置換により結合が更に強いものとなる。
【0075】
本開示に係るペプチドにおいて、配列番号2又は57における1番目のアミノ酸残基はヒスチジン残基であることが好ましい。配列番号2又は57における1番目のアミノ酸残基がヒスチジン残基である場合、配列番号1、59又は61における19番目のアミノ酸残基、例えばグルタミン酸残基との間に相互作用を生じることで構造安定化に寄与することができる。さらに、このヒスチジン残基は、ヘリックスバンドル構造の安定化に寄与する。
【0076】
また、配列番号2又は57における14番目のグルタミン酸残基は、特に限定されないが、アスパラギン酸残基へ置換することができる。グルタミン酸及びアスパラギン酸ともに酸性アミノ酸であり、性質が類似している。よって、配列番号2又は57における14番目のグルタミン酸残基をアスパラギン酸残基へ置換したとしても、第2のヘリックスの構造に対する影響やSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)への相互作用に対する影響が極めて少なく、本開示に係るペプチドの機能を維持することができる。
【0077】
さらに、配列番号2又は57における18番目のアルギニン残基は、特に限定されないが、リシン残基やヒスチジン残基へ置換することができる。アルギニン、リシン及びヒスチジンは塩基性アミノ酸であり、性質が類似している。よって、配列番号2又は57における18番目のアルギニン残基をリシン残基やヒスチジン残基へ置換したとしても、第2のヘリックスの構造に対する影響やSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)への相互作用に対する影響が極めて少なく、本開示に係るペプチドの機能を維持することができる。特に、リシン及びアルギニンは芳香環を有しない点で共通するため、18番目のアルギニン残基をリシン残基へ置換した場合には、第2のヘリックスの構造に対する影響やSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)への相互作用に対する影響が極めて少なく、本開示に係るペプチドの機能を高く維持することができる。
【0078】
上述のように、上記(d)、(d1)、(d2)若しくは(d3)並びに(g)、(g1)若しくは(g2)で規定される第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列及び第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列について、それぞれ置換可能なアミノ酸残基の例を説明したが、第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列及び第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列は上記の説明に限定されるものではない。
【0079】
本開示に係るペプチドにおける第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列は、配列番号1、59又は61における1番目のアスパラギン酸残基、8番目のリシン残基、11番目のグルタミン酸残基及び18番目のグルタミン酸残基以外のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換したアミノ酸配列でも良いし、配列番号1、59又は61のアミノ酸配列に対して1~4個のアミノ酸残基を欠失及び/又は挿入したアミノ酸配列であっても良い。すなわち、第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列は、20アミノ酸残基からなる配列番号1、59又は61に限定されず、16~24アミノ酸残基、好ましくは18~22アミノ酸残基からなるアミノ酸配列とすることができる。
【0080】
また、本開示に係るペプチドにおける第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列は、配列番号2又は57における2番目のグリシン残基、14番目のグルタミン酸残基及び18番目のアルギニン残基以外のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換したアミノ酸配列でも良いし、配列番号2又は57のアミノ酸配列に対して1~3個のアミノ酸残基を欠失及び/又は挿入したアミノ酸配列であっても良い。すなわち、第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列は、19アミノ酸残基からなる配列番号2又は57に限定されず、16~23アミノ酸残基、好ましくは18~22アミノ酸残基からなるアミノ酸配列とすることができる。
【0081】
本開示に係るペプチドは、第1領域及び第2領域を併せて全体で36~44個のアミノ酸残基から構成するようにしても良いが、全体で39個のアミノ酸残基からなることが最も好ましい。第1領域及び第2領域を併せて全体で39個のアミノ酸残基とすることで、第1領域におけるN末端側のリシン残基と、第2領域におけるC末端側のアスパラギン酸残基との間に塩橋を形成することができ、且つSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)との結合に適したサイズとなる。
【0082】
このように、第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列が配列番号1、59又は61とは異なるアミノ酸配列からなり、第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列が配列番号2又は57とは異なるアミノ酸配列からなる場合でも、第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列におけるN末端側5残基以内のアミノ酸残基(配列番号1においてはN末端から2番目のリシン残基)と、第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列におけるC末端側5残基以内のアミノ酸残基(配列番号2においてはC末端から1番目のアスパラギン酸残基)との間に塩橋を形成することで、所望の立体構造を維持することができる。よって、第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列が配列番号1、59又は61とは異なるアミノ酸配列からなり、第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列が配列番号2又は57とは異なるアミノ酸配列からなる場合でも、本開示に係るペプチドはSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に対して同様に結合することができる。
【0083】
ここで、配列番号1のアミノ酸配列からなる第1領域及び配列番号2のアミノ酸配列からなる第2領域について、各アミノ酸残基の役割をそれぞれ以下の表1及び2にまとめて示す。
【0084】
【表1】
【0085】
【表2】
【0086】
ここで、配列番号59のアミノ酸配列からなる第1領域及び配列番号57のアミノ酸配列からなる第2領域について、各アミノ酸残基の役割をそれぞれ以下の表3及び4にまとめて示す。
【0087】
【表3】
【0088】
【表4】
【0089】
ここで、配列番号61のアミノ酸配列からなる第1領域について、各アミノ酸残基の役割をそれぞれ以下の表5にまとめて示す。
【0090】
【表5】
【0091】
なお、上記表において、例えば「RBDのS477」という表記は、SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)のアミノ酸配列における477番目のセリン残基を意味する(S477以外も同様の意味)。また、上記表において「N501Y変異を有するRBDのN501Y」とは、SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)のアミノ酸配列における501番目がチロシン残基となる変異を有するSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)を構成するアミノ酸配列における501番目のチロシン残基を意味する。
【0092】
上記表から理解できるように、第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列及び第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号1、59、61、2や57に限定されず、各アミノ酸残基の役割に応じて適宜変更することができる。
【0093】
例えば、第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列を構成するN末端から1番目のアスパラギン酸残基は、RBDとの特異的な相互作用はないが、このアミノ酸残基を除くと結合能が低下するため、アスパラギン酸と化学構造が類似するグルタミン酸残基とすることができる。また、第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列を構成するN末端から15番目のアルギニン残基は、第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列を構成する19番目のグルタミン酸残基と塩橋を形成し、ヘリックス構造の安定化に寄与しているが、それぞれをリシン残基とアスパラギン酸残基にすることにより、同様の安定性を実現することができる。第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列を構成するN末端から2番目のグリシン残基は、英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)における受容体結合ドメイン(RBD)をはじめとする、受容体結合ドメイン(RBD)にN501Yの変異を含む受容体結合ドメイン(RBD)に対して極めて重要であるが、野生型SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に対しては、アラニン残基への置換により更に強い結合能を獲得する。さらに、第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列を構成するN末端から3番目のグルタミン酸残基は、グルタミン残基とすることができる。さらに、第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列を構成するN末端から6番目のロイシン残基は、メチオニン残基とすることができる。さらに、第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列を構成するN末端から16番目のメチオニン残基は、トリプトファン残基とすることができる。さらに、第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列を構成するN末端から3番目のグルタミン酸残基、6番目のロイシン残基、16番目のメチオニン残基を、同時にグルタミン残基、メチオニン残基、トリプトファン残基とすることで、変異型SARS-CoV-2に強く結合し、抗ウイルス活性を示すペプチドとすることができる。
【0094】
ただし、第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列は、N末端から1番目のアミノ酸残基がアスパラギン酸残基であることが好ましい。第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列のN末端から1番目をアスパラギン酸残基とすることで、SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)との結合活性を向上させることができる。
【0095】
また、第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列は、N末端から5番目のアミノ酸残基がイソロイシン残基であることが好ましい。第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列のN末端から5番目をイソロイシン残基とすることで、第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列を構成するN末端から9番目のイソロイシン残基及び第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列を構成するN末端から15番目のフェニルアラニン残基との間で安定した相互作用を形成することができる。さらに、第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列は、N末端から9番目のアミノ酸残基がイソロイシン残基であることが好ましい。第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列のN末端から9番目をイソロイシン残基とすることで、第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列を構成するN末端から5番目のイソロイシン残基、第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列を構成するN末端から8番目のバリン残基、第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列を構成するN末端から11番目のロイシン残基、第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列を構成するN末端から12番目のイソロイシン残基及び第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列を構成するN末端から15番目のフェニルアラニン残基との間で安定した相互作用を形成することができる。さらにまた、第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列は、N末端から10番目のアミノ酸残基がチロシン残基及び13番目のアミノ酸残基がメチオニン残基であることが好ましい。第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列のN末端から10番目をチロシン残基及び13番目をメチオニン残基とすることで、SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に対する高い結合活性が実現される。当該2残基に対して、1残基でも当該アミノ酸残基以外のアミノ酸残基に置換した場合、SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)との結合活性は著しく低下する。さらにまた、第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列は、N末端から12番目のアミノ酸残基がイソロイシン残基であることが好ましい。第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列のN末端から12番目をイソロイシン残基とすることで、第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列を構成するN末端から16番目のロイシン残基及び第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列を構成するN末端から8番目のバリン残基との間で安定した相互作用を形成することができる。さらにまた、第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列は、N末端から16番目のアミノ酸残基がロイシン残基であることが好ましい。第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列のN末端から16番目をロイシン残基とすることで、第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列を構成するN末端から12番目のイソロイシン残基、第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列を構成するN末端から4番目のアラニン残基及び第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列を構成するN末端から8番目のバリン残基との間で安定した相互作用を形成することができる。
【0096】
第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列については、N末端から1番目がヒスチジン残基であることが好ましい。第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列のN末端から1番目をヒスチジン残基とすることで、ヘリックスバンドル構造の安定化に寄与するとともに、第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列の19番目のグルタミン酸残基と塩橋を形成し、ターン構造を安定化することができる。
【0097】
第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列については、N末端から10番目のアミノ酸残基がアスパラギン酸残基であることが好ましい。第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列のN末端から10番目をアスパラギン酸残基とすることで、SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)のアミノ酸配列における403番目のアルギニン残基及び417番目のリシン残基との塩橋の形成が可能となる。第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列のN末端から10番目をグルタミン酸残基とした場合には、当該グルタミン酸残基とSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)のアミノ酸配列における403番目のアルギニン残基及び417番目のリシン残基との塩橋が形成できず、SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)との結合活性が低下する虞がある。
【0098】
また、第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列においてN末端から13番目のアミノ酸残基がチロシン残基であることが好ましい。第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列のN末端から13番目をチロシン残基とすることで、SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)のアミノ酸配列における420番目のアスパラギン酸残基との水素結合の形成が可能となる。
【0099】
さらに、第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列は、N末端から4番目のアミノ酸残基がアラニン残基であることが好ましい。第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列のN末端から4番目をアラニン残基とすることで、第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列を構成するN末端から16番目のロイシン残基との間で安定した相互作用を形成することができる。さらに、第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列は、N末端から8番目のアミノ酸残基がバリン残基であることが好ましい。第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列のN末端から8番目をバリン残基とすることで、第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列を構成するN末端から9番目のイソロイシン残基、第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列を構成するN末端から12番目のイソロイシン残基、第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列を構成するN末端から13番目のメチオニン残基及び第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列を構成するN末端から16番目のロイシン残基との間で安定した相互作用を形成することができる。さらにまた、第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列は、N末端から11番目のアミノ酸残基がロイシン残基であることが好ましい。第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列のN末端から11番目をロイシン残基とすることで、第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列を構成するN末端から9番目のイソロイシン残基及び第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列を構成するN末端から8番目のバリン残基との間で安定した相互作用を形成することができる。さらにまた、第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列は、N末端から15番目のアミノ酸残基がフェニルアラニン残基であることが好ましい。第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列のN末端から15番目をフェニルアラニン残基とすることで、第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列を構成するN末端から5番目のイソロイシン残基、第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列を構成するN末端から6番目のロイシン残基及び第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列を構成するN末端から9番目のイソロイシン残基との間で安定した相互作用を形成することができる。
【0100】
これらに加えて、第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列におけるN末端から14番目のアミノ酸残基は、任意のアミノ酸残基でよいものの、グルタミン酸残基とすることが好ましい。第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列のN末端から14番目をグルタミン酸残基とすることで、ペプチドの親水的な性質を高く保つことができる。
【0101】
さらに、第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列においてN末端から17番目のアミノ酸残基がリシン残基であることが好ましい。第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列のN末端から17番目をリシン残基とすることで、SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)のアミノ酸配列における420番目のアスパラギン酸残基と塩橋を形成し、421番目のチロシン残基及び460番目のアスパラギン残基との間に水素結合を形成することができる。
【0102】
さらにまた、第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列におけるN末端から18番目のアミノ酸残基は、任意のアミノ酸残基でよいものの、アルギニン残基とすることが好ましい。第2のヘリックスのN末端から18番目をアルギニン残基とすることで、ペプチドの親水的な性質を高く保つことができるとともに、第1のヘリックスのN末端から2番目のリシン残基と水素結合を形成し、ヘリックスバンドル構造の安定化に寄与する。
【0103】
なお、この18番目のアルギニン残基をリシン残基に置換した場合にもまた、ペプチドの親水的な性質を高く保つことができる。
【0104】
ところで、本開示に係るペプチドは、配列番号1、59又は61のアミノ酸配列における15番目がアルギニン残基及び19番目がグルタミン酸残基となっている点も特徴の一つとなっている。配列番号1、59又は61のアミノ酸配列における15番目のアルギニン残基と19番目のグルタミン酸残基との間に塩橋が形成されることで、第1のヘリックスの構造安定化に寄与することができる。これにより、本開示に係るペプチドとSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)との結合速度を向上させることができる。
【0105】
本開示に係るペプチドにおいて、これら配列番号1、59又は61のアミノ酸配列における15番目のアルギニン残基及び19番目のグルタミン酸残基を、それぞれリシン残基とアスパラギン酸残基に置換したアミノ酸配列としてもよい。言い換えると、本開示に係るペプチドにおいて、配列番号1、59又は61のアミノ酸配列における15番目のアミノ酸残基及び19番目のアミノ酸残基は、リシン残基とアスパラギン酸残基との組合せか、アルギニン残基とグルタミン酸残基との組合せの何れであってもよいが、特に、アルギニン残基とグルタミン酸残基との組合せであることが望ましい。配列番号1、59又は61における15番目をリシン残基とし、19番目をアスパラギン酸残基とした場合でも、これらリシン残基とアスパラギン酸残基との間に塩橋が形成され、第1のヘリックスの構造安定化に寄与することができる。特に、配列番号1、59又は61の15番目をアルギニン残基とし、19番目をグルタミン酸残基とした場合には、配列番号1の15番目をリシン残基とし、19番目をアスパラギン酸残基とした場合と比べて、本開示に係るペプチドとSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)との結合速度を更に向上させることができる。
【0106】
ところで、本開示に係るペプチドは、配列番号2又は57のアミノ酸配列における2番目がグリシン残基となっている点も特徴の一つとなっている。本開示に係るペプチドは、配列番号2又は57のアミノ酸配列における2番目がグリシン残基となっているため、野生型SARS-CoV-2及び変異型SARS-CoV-2の何れにおいても、受容体結合ドメイン(RBD)に対する優れた結合活性を有している。
【0107】
ここで、野生型SARS-CoV-2とは、受容体結合ドメイン(RBD)を構成するアミノ酸配列における339番目がグリシン残基であり、371番目がセリン残基であり、373番目がセリン残基であり、375番目がセリン残基であり、376番目がスレオニン残基であり、405番目がアスパラギン酸残基であり、408番目がアルギニン残基であり、417番目がリシン残基であり、440番目がアスパラギン残基であり、446番目がグリシン残基であり、452番目がロイシン残基であり、477番目がセリン残基であり、478番目がスレオニン残基であり、484番目がグルタミン酸残基であり、493番目がグルタミン残基であり、496番目がグリシン残基であり、498番目がグルタミン残基であり、501番目がアスパラギン残基であり、505番目がチロシン残基であるタイプのSARS-CoV-2を意味する。一方、変異型SARS-CoV-2とは、受容体結合ドメイン(RBD)を構成するアミノ酸配列における339番目がアスパラギン酸残基となる変異、371番目がロイシン残基又はフェニルアラニン残基となる変異、373番目がプロリン残基となる変異、375番目がフェニルアラニン残基となる変異、376番目がアラニン残基となる変異、405番目がアスパラギン残基となる変異、408番目がセリン残基となる変異、417番目がアスパラギン残基又はスレオニン残基となる変異、440番目がリシン残基となる変異、446番目がセリン残基となる変異、452番目がアルギニン残基となる変異、477番目がアスパラギン残基となる変異、478番目がリシン残基となる変異、484番目がリシン残基、グルタミン残基又はアラニン残基となる変異、493番目がアルギニン残基となる変異、496番目がセリン残基となる変異、498番目がアルギニン残基となる変異、501番目がチロシン残基となる変異及び505番目がヒスチジン残基となる変異からなる群から選ばれる少なくとも1つの変異を有するSARS-CoV-2を意味する。より具体的に、変異型SARS-CoV-2としては、受容体結合ドメイン(RBD)を構成するアミノ酸配列における501番目がチロシン残基となる変異を有し、339番目、371番目、373番目、375番目、376番目、405番目、408番目、417番目、440番目、446番目、452番目、477番目、478番目、484番目、493番目、496番目、498番目及び505番目のアミノ酸残基が野生型であるタイプのSARS-CoV-2を挙げることができる(PANGO系統名: B.1.1.7、一般に英国変異型SARS-CoV-2と称される場合がある)。また、変異型SARS-CoV-2としては、受容体結合ドメイン(RBD)を構成するアミノ酸配列における417番目がアスパラギン残基となる変異、484番目がリシン残基となる変異及び501番目がチロシン残基となる変異を有し、339番目、371番目、373番目、375番目、376番目、405番目、408番目、440番目、446番目、452番目、477番目、478番目、493番目、496番目、498番目及び505番目のアミノ酸残基が野生型であるタイプのSARS-CoV-2を挙げることができる(PANGO系統名: B.1.351、一般に南アフリカ変異型SARS-CoV-2と称される場合がある)。さらに、変異型SARS-CoV-2としては、受容体結合ドメイン(RBD)を構成するアミノ酸配列における417番目がスレオニン残基となる変異、484番目がリシン残基となる変異及び501番目がチロシン残基となる変異を有し、339番目、371番目、373番目、375番目、376番目、405番目、408番目、440番目、446番目、452番目、477番目、478番目、493番目、496番目、498番目及び505番目のアミノ酸残基が野生型であるタイプのSARS-CoV-2を挙げることができる(PANGO系統名: P.1、一般にブラジル変異型SARS-CoV-2と称される場合がある)。さらにまた、変異型SARS-CoV-2としては、受容体結合ドメイン(RBD)を構成するアミノ酸配列における452番目がアルギニン残基となる変異及び478番目がリシン残基となる変異を有し、339番目、371番目、373番目、375番目、376番目、405番目、408番目、417番目、440番目、446番目、477番目、484番目、493番目、496番目、498番目、501番目及び505番目のアミノ酸残基が野生型であるタイプのSARS-CoV-2を挙げることができる(PANGO系統名: B.1.617.2、一般にインド変異型(δ型)SARS-CoV-2と称される場合がある)。さらにまた、変異型SARS-CoV-2としては、受容体結合ドメイン(RBD)を構成するアミノ酸配列における452番目がアルギニン残基となる変異及び484番目がグルタミン残基となる変異を有し、339番目、371番目、373番目、375番目、376番目、405番目、408番目、417番目、440番目、446番目、477番目、478番目、493番目、496番目、498番目、501番目及び505番目のアミノ酸残基が野生型であるタイプのSARS-CoV-2を挙げることができる(PANGO系統名: B.1.617.1、一般にインド変異型(κ型)SARS-CoV-2と称される場合がある)。さらにまた、変異型SARS-CoV-2としては、受容体結合ドメイン(RBD)を構成するアミノ酸配列における339番目がアスパラギン酸残基となる変異、371番目がロイシン残基となる変異、373番目がプロリン残基となる変異、375番目がフェニルアラニン残基となる変異、417番目がアスパラギン残基となる変異、440番目がリシン残基となる変異、446番目がセリン残基となる変異、477番目がアスパラギン残基となる変異、478番目がリシン残基となる変異、484番目がアラニン残基となる変異、493番目がアルギニン残基となる変異、496番目がセリン残基となる変異、498番目がアルギニン残基となる変異、501番目がチロシン残基となる変異及び505番目がヒスチジン残基となる変異を有し、376番目、405番目、408番目及び452番目のアミノ酸残基が野生型であるタイプのSARS-CoV-2を挙げることができる(PANGO系統名: B.1.1.529/BA.1、一般にオミクロン変異型(BA.1系統)SARS-CoV-2と称される場合がある)。さらにまた、変異型SARS-CoV-2としては、受容体結合ドメイン(RBD)を構成するアミノ酸配列における339番目がアスパラギン酸残基となる変異、371番目がフェニルアラニン残基となる変異、373番目がプロリン残基となる変異、375番目がフェニルアラニン残基となる変異、376番目がアラニン残基となる変異、405番目がアスパラギン残基となる変異、408番目がセリン残基となる変異、417番目がアスパラギン残基となる変異、440番目がリシン残基となる変異、477番目がアスパラギン残基となる変異、478番目がリシン残基となる変異、484番目がアラニン残基となる変異、493番目がアルギニン残基となる変異、498番目がアルギニン残基となる変異、501番目がチロシン残基となる変異及び505番目がヒスチジン残基となる変異を有し、446番目、452番目及び496番目のアミノ酸残基が野生型であるタイプのSARS-CoV-2を挙げることができる(PANGO系統名: B.1.1.529/BA.2、一般にオミクロン変異型(BA.2系統)SARS-CoV-2と称される場合がある)。
【0108】
なお、本開示に係るペプチドにおける第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列は、配列番号2又は57のアミノ酸配列における2番目のグリシン残基がアラニン残基にされたアミノ酸配列であってもよい。配列番号2又は57における2番目のアミノ酸残基をアラニン残基とした場合、上述した野生型SARS-CoV-2及び変異型SARS-CoV-2のうち、野生型SARS-CoV-2等の501番目のアミノ酸残基が野生型であるタイプのSARS-CoV-2の受容体結合ドメイン(RBD)に対して優れた結合活性を有することとなる。
【0109】
ところで、本開示に係るペプチドは、配列番号2又は57のアミノ酸配列における18番目がアルギニン残基となっている点も特徴の一つとなっている。本開示に係るペプチドは、配列番号2又は57のアミノ酸配列における18番目がアルギニン残基となっているため、野生型SARS-CoV-2の受容体結合ドメイン(RBD)及び上述した全ての変異型SARS-CoV-2の受容体結合ドメイン(RBD)に対して優れた結合活性を有している。
【0110】
ここで、上述した本開示に係るペプチドの構成例を下記表6に示すが、本開示の技術的範囲は以下の具体的のアミノ酸配列からなるペプチドに限定されるものではない。
【0111】
【表6】
【0112】
例えば、本開示のペプチドは、
第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列が以下の(h)、(i)、(j)、(k)又は(l)のアミノ酸配列を含み、
(h)配列番号56のアミノ酸配列、
(i)配列番号59のアミノ酸配列、
(j)配列番号61のアミノ酸配列、
(k)配列番号63のアミノ酸配列、又は
(l)配列番号65のアミノ酸配列、
上記第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列が配列番号57のアミノ酸配列を含む、ペプチドである。
【0113】
また、本開示のペプチドは、
第1領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列が以下の(m)、(n)、(o)又は(p)のアミノ酸配列を含み、
(m)配列番号4のアミノ酸配列、
(n)配列番号6のアミノ酸配列、
(o)配列番号7のアミノ酸配列、又は
(p)配列番号8のアミノ酸配列、
上記第2領域のSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に結合する部位の配列が配列番号2、3、5又は9のアミノ酸配列を含む、ペプチドである。
【0114】
これら具体的なペプチドは、L Cao et al., Science 370, 426-431 (2020)に開示されたLCB1ペプチド(配列番号10:DKEWILQKIYEIMRLLDELGHAEASMRVSDLIYEFMKKGDERLLEEAERLLEEVER(3本のヘリックスを有している))と異なり、2本のヘリックスから構成される。
【0115】
これらの具体的なペプチドの全長アミノ酸配列は、以下の配列番号52~55、58、60、62、64及び66からなる群から選ばれる1つのアミノ酸配列からなるペプチドを含む。
配列番号52:DKEWILQKIYEIMRKLDEDGHAEASMRVSDLIYEFMKKD
配列番号53:DKEWILQKIYEIMRRLDEEGHAEASMRVSDLIYEFMKKD
配列番号54:DKEWILQKIYEIMRRLDEEGHGEASLRVSDLIYEFMKKD
配列番号55:DKEWILQKIYEIMRRLDEEGHGEASLRVSDLIYEFMKRD
配列番号58:DKEWILQKIYEIMQRLDEEGHGEASLMVSDLIYEFMKRD
配列番号60:DKLWILQKIYEIMVRLDEEGHGEASLMVSDLIYEFMKRD
配列番号62:DKEWILYKIYEIMVRLDEEGHGEASLMVSDLIYEFMKRD
配列番号64:DKLWILQKIYEIMQRLDEEGHGEASLMVSDLIYEFMKRD
配列番号66:DKEWILYKIYEIMQRLDEEGHGEASLMVSDLIYEFMKRD
【0116】
また、これら具体的なペプチドについては、後述の実施例に示すように、SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に対して優れた結合活性を示すことが分かっている。ここで結合活性とは、結合速度及び解離度から総合的に判断することができる。特定のペプチドについてSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に対する結合活性を評価するシステムは特に限定されないが、表面プラズモン共鳴(SPR)を利用したシステムを利用することができる。例えば、SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)をセンサーチップの表面に固定し、各種アナライト(ペプチド)を含む試料を当該表面に接触させ、SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)とペプチドとの結合によるSPR角度の変化に基づいて結合速度を測定することができる。また、センサーチップ表面においてSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)とペプチドとが結合した状態でアナライトを含まないバッファーを流し、SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)とペプチドとの解離によるSPR角度の変化に基づいて解離度を測定することができる。
【0117】
なお、ペプチドとSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)との結合速度や解離度は、表面プラズモン共鳴(SPR)を利用したシステムに限定されず、例えばバイオレイヤー干渉法(BLI)等の生体分子の相互作用を解析するシステムによって測定しても良い。
【0118】
また、本開示に係るペプチドは、SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に対して優れた結合活性を有するものである限り、そのN末端及びC末端の少なくとも一端に1以上のアミノ酸が結合しているペプチドであってもよく、また、他のペプチドやタンパク質と融合させた融合ペプチド、非天然アミノ酸を挿入したペプチド、タグもしくは標識物等を付加したペプチド、及びそれ以外の修飾が施されたペプチドの形態であってもよい。例えば、融合ペプチドとしては、投与したときに細胞内に導入されるよう、膜透過性ペプチド(CPP)と融合させたものが挙げられるが、これに限られない。本開示のペプチドのN末端及びC末端の少なくとも一端に1以上のアミノ酸が結合しているペプチドであってもよく、また、他のペプチドやタンパク質と融合させた融合ペプチド、非天然アミノ酸を挿入したペプチド、タグもしくは標識物等を付加したペプチド、及びそれ以外の修飾が施されたペプチドも、本開示に係るペプチドが含まれている限り、本開示に係るペプチドに含まれる。
【0119】
<ペプチドの製造方法>
上述した本開示に係るペプチドは、全体で39アミノ酸残基程度の長さであるため一般的な化学合成法に準じて容易に製造することができる。例えば、ペプチド合成法としては、固相合成法や液相合成法を挙げることができる。固相合成法としては、アミノ基の保護基としてBoc(t-butyloxycarbonyl)或いはFmoc(9-fluorenylmethoxycarbonyl)を利用する方法が挙げられる。また、固相合成法を適用した市販のペプチド合成装置により上述したペプチドを合成することができる。
【0120】
なお、上述したペプチドをコードするDNAを合成し、当該DNAを導入した宿主細胞内で上記ペプチドを発現させることもできる。宿主細胞としては、酵母、大腸菌等の細菌、昆虫細胞、動物細胞、植物細胞を利用することができる。或いは、無細胞タンパク質合成システムを用いて上述したペプチドをインビトロ合成することもできる。ただし、本開示に係るペプチドは、化学合成によって製造することが好ましく、その理由として、本開示に係るペプチドは全体で39アミノ酸残基程度の長さであるため一般的な化学合成法により化学合成することが簡便であること、GMP(Good Manufacturing Practice:製造業者および製造販売業者に求められる「適正製造規範」)準拠の条件での製造が化学合成の場合比較的容易であることが挙げられる。
【0121】
<医薬組成物、治療薬>
上述した本開示に係るペプチドは、医薬組成物として使用することができる。上述のように本開示に係るペプチドは、超純水或いは緩衝溶液に対する著しく高い溶解度を有し、SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に対する優れた結合活性を有する。したがって、本開示に係るペプチドは、SARS-CoV-2により引き起こされる新型コロナウイルス感染症(Coronavirus Disease 2019 (COVID-19))の治療及び/又は予防用の医薬組成物として利用することができる。換言すると、本開示は、新型コロナウイルス感染症(Coronavirus Disease 2019 (COVID-19))の治療用及び/又は予防用の医薬組成物の製造における上記ペプチドの使用である。
【0122】
かかる医薬組成物の投与対象は、特に限定されないが、例えばヒト、サル、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、モルモット、ウシ、ブタ、イヌ、ウマ、ネコ、ヤギ、ヒツジを含む哺乳類を含む動物であり、好ましくはヒトである。本開示の医薬組成物の投与経路は、経口及び非経口のいずれでもよい。本開示の医薬組成物の投与量は、製剤化方法、投与方式、投与時間、投与対象の年齢、体重、性別、病的状態、排泄速度、及び反応感応性といった要因によって多様に処方されることができる。本開示の医薬組成物を投与するタイミングは、特に限定されず、任意でよい。また、食前、食後、食間のいずれでもよい。また、投与/摂取期間は特に限定されない。
【0123】
本開示の医薬組成物は、当該技術分野における通常の知識を有する者が通常実施する方法によって、薬剤学的に許容される担体及び/又は賦形剤を用いて製剤化することで単位用量形態に製造するか、或いは多用量容器内に内入させて製造することができる。本開示の医薬組成物は、投与方法に応じて、適宜所望の剤形に製剤化することができる。本開示の医薬組成物は、例えば、日本薬局方(JP)、米国薬局方(USP)又は欧州薬局方(EP)に記載された方法等、既知の方法に従って製造することができる。また、公知の又は将来的に見出される新型コロナウイルス感染症の治療用及び/又は予防用の医薬(mRNAワクチンを含む)や、他の疾患の治療用及び/又は予防用の医薬などを併用することも可能である。
【実施例
【0124】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0125】
〔実施例1〕
本実施例では、L Cao et al., Science 370, 426-431 (2020)に開示されたLCB1ペプチド(配列番号10:DKEWILQKIYEIMRLLDELGHAEASMRVSDLIYEFMKKGDERLLEEAERLLEEVERにおけるDKEWILQKIYEIMRLLDELGHAEASMRVSDLIYEFMKKG(配列番号11)からなるペプチド(Ca1と称す))を比較例とし、Ca1を改変し、野生型SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に対して優れた結合活性を示すペプチドの開発を行った。LCB1は3本のヘリックスを有するペプチドであるが、Ca1はLCB1のN末端側から数えて2本のヘリックスを有するペプチドである。Ca1のDKEWILQKIYEIMRLLDELG(配列番号4)を第1領域、HAEASMRVSDLIYEFMKKG(配列番号12)を第2領域と称し、上記第1領域及び上記第2領域に改変を加えた。
【0126】
Ca1ペプチド、本実施例で設計したペプチドのアミノ酸配列を表7にまとめた。なお、表7に示したアミノ酸配列において、Ca1ペプチドのアミノ酸配列から変更したアミノ酸残基を枠で囲った。
【0127】
【表7】
【0128】
表7に示した全てのペプチドについて、詳細を後述するプロトコル(CDスペクトル測定プロトコル)に従ってCDスペクトルを測定した結果を図1に示した。図1から判るように、Cb1、Cb2、Cb3、Cb4、Cb5、Cb6及びCb7は、第1領域のアミノ酸配列及び第2領域のアミノ酸配列がヘリックス構造を形成していないペプチドであることが明らかとなった。また、Ca1は、L Cao et al., Science 370, 426-431 (2020)に開示されたLCB1ペプチドの結果から予想された通り、ヘリックス構造を形成していることが判った。
【0129】
これに対し、第2領域のC末端であって、第1領域におけるN末端から2番目のリシン残基との間に塩橋を形成しうる位置をアスパラギン酸残基としたCe1は、図1に示すように、第1領域に含まれる第1のヘリックスと第2領域に含まれる第2のヘリックスとがヘリックスバンドル構造を形成していることが明らかとなり、Ca1よりもより安定な構造を獲得していることが判った。そこで、Ce1について、詳細を後述するプロトコル(分子間相互作用解析プロトコル)に従って、野生型SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に対する結合活性を測定したところ、図2に示すように、結合速度が速く、且つ解離度も低いという優れた特徴を有することが明らかとなった。
【0130】
〔実施例2〕
本実施例では、実施例1で設計したCe1について、詳細を後述するプロトコル(プラーク減少アッセイプロトコル)に従ってプラーク減少アッセイ(Plaque reduction assay)により野生型SARS-CoV-2感染力低減効果を測定し、その結果に基づいてIC50値を算出した。なお、比較のため、LCB1ペプチド及びCa1についても、野生型SARS-CoV-2を用いたプラーク減少アッセイを実施し、IC50値を算出した。
【0131】
Ce1について実施したプラーク減少アッセイの結果を図3に示した。各プレートに形成されたプラークの数に基づいて阻害率を算出した、Ce1ペプチド濃度と阻害率との関係を図4に示した。その結果、Ce1のIC50値は1.5nMと算出された。
【0132】
また、LCB1ペプチド及びCa1について実施したプラーク減少アッセイの結果をそれぞれ図5及び6に示し、阻害率とペプチド濃度との関係をそれぞれ図7及び8に示した。これらの結果、LCB1ペプチド及びCa1のIC50値は、それぞれ5.7nM及び106.7nMと算出された。
【0133】
これらの結果より、実施例1で設計したCe1は、LCB1ペプチド及びCa1よりも、野生型SARS-CoV-2に対する優れた抗ウイルス活性を示すことが明らかとなった。
【0134】
〔実施例3〕
本実施例では、実施例1で設計したCe1を更に改良し、野生型SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に対してより優れた結合活性を示すペプチドの開発を行った。
【0135】
本実施例で設計したペプチドのアミノ酸配列を表8にまとめた。なお、表8に示したアミノ酸配列において、Ce1ペプチドのアミノ酸配列から変更したアミノ酸残基を枠で囲った。
【0136】
【表8】
【0137】
表8に示した全てのペプチドについて、野生型SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に対する結合活性を測定した。その結果、野生型SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に対する結合活性が、Ce1よりも高いペプチド群(Ce4、Ce9、Ce14、Ce15及びCe16)、Ce1と同等のペプチド群(Ce6、Ce8、Ce10及びCe11)及びCe1よりも低いペプチド群(Ce2、Ce3、Ce5、Ce7、Ce12、Ce13、Ce17 及びCe18)にわけられることが判った。野生型SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に対する結合活性が、Ce1よりも高いペプチド群の代表例として、Ce4の結合活性測定の結果を図9及び10に、Ce9の結合活性測定の結果を図11に示した。また、野生型SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に対する結合活性が、Ce1と同等のペプチド群の代表例として、Ce6の結合活性測定の結果を図12に示した。また、野生型SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に対する結合活性が、Ce1よりも低いペプチド群の代表例として、Ce5の結合活性測定の結果を図13に示した。
【0138】
なお、Ce4及びCe9は、第1のヘリックスにおける15番目のアミノ酸残基及び19番目のアミノ酸残基を、それぞれリシン残基とアスパラギン酸残基のペア、アルギニン残基とグルタミン酸残基のペアとしている。これにより、第1のヘリックスにおける15番目のアミノ酸残基と19番目のアミノ酸残基との間に塩橋が形成され、当該塩橋により第1のヘリックスの構造安定化を企図するものである。Ce4及びCe9の全長アミノ酸配列をそれぞれ配列番号52及び53に示した。
【0139】
Ce4について野生型SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に対する結合活性を測定した結果を図9及び10に、Ce9について野生型SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に対する結合活性を測定した結果を図11に示した。なお、図9及び10には、Ce4について野生型SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に対する結合活性を測定した結果を示すが、図9は結合開始から720秒までの測定結果を示し、図10は結合開始から3時間2分までの測定結果を示している。
【0140】
図9及び11から判るように、これらCe4及びCe9は、Ce1の結果(図2)と比較して結合速度を大幅に向上させることができた。この結果から、第1領域の内部に塩橋を形成することで第1領域の構造が安定化され、野生型SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に対する結合活性が向上したものと考えられた。特に、第1領域における15番目のアミノ酸残基及び19番目のアミノ酸残基を、それぞれアルギニン残基とグルタミン酸残基としたCe9は、Ce4よりも更に優れた結合活性を示すことが明らかとなった。
【0141】
この結果から、実施例1で設計したCe1は、第1領域における15番目のアミノ酸残基及び19番目のアミノ酸残基を、それぞれリシン残基とアスパラギン酸残基のペア、アルギニン残基とグルタミン酸残基のペアとすることが好ましく、特にアルギニン残基とグルタミン酸残基のペアとすることがより好ましいことが明らかとなった。
【0142】
特に、図10に示すように、Ce4は、バッファーで3時間洗い流しても、一旦結合した野生型SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)からは全く解離していないことが理解できる。この結果は、Ce9についても同様に当てはまることから、本実施例で作製したCe4及びCe9は、野生型SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に対する優れた結合活性を長期にわたって持続できることが明らかとなった。
【0143】
また、本実施例で作製したCe14、Ce15、及びCe16について、野生型SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に対する結合活性を測定した結果を、それぞれ図14、15及び16に示した。これら図14~16に示したように、Ce14、Ce15及びCe16については、Ce1の結果(図2)と比較して、高い結合活性を示すことが判った。
【0144】
〔実施例4〕
本実施例では、変異型SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に対して優れた結合活性を示すペプチドの開発を行った。実施例3において、野生型SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に対して最も優れた結合活性を示したCe9は、野生型SARS-CoV-2を用いたプラーク減少アッセイの結果から、IC50値が0.4nMと非常に優れた抗ウイルス活性を示すことが明らかとなっている(図示せず)。
【0145】
ところが、Ce9について、変異型SARS-CoV-2を用いたプラーク減少アッセイの結果、英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)についてはIC50値が13nMであり、ブラジル変異型SARS-CoV-2(P.1)についてはIC50値が1195nMであった。すなわち、Ce9は、野生型SARS-CoV-2に対して特異的に極めて優れた抗ウイルス活性を有するものであった。本実施例では、Ce9を改変して変異型SARS-CoV-2に対しても優れた抗ウイルス活性を有するペプチドを開発した。本実施例で設計したペプチドのアミノ酸配列を表9に示した。なお、表9に示したアミノ酸配列において、Ce9ペプチドのアミノ酸配列から変更したアミノ酸残基を枠で囲った。
【0146】
【表9】
【0147】
表9に示した全てのペプチドについて検討を行い、Ce41が、野生型SARS-CoV-2、英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)、ブラジル変異型SARS-CoV-2(P.1)、南アフリカ変異型SARS-CoV-2(B.1.351)、インド変異型(δ型)SARS-CoV-2(B.1.617.2)及びインド変異型(κ型)SARS-CoV-2(B.1.617.1)における受容体結合ドメイン(RBD)の全てに対して高い結合活性を有するペプチドであることが判った。野生型SARS-CoV-2、英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)、ブラジル変異型SARS-CoV-2(P.1)、南アフリカ変異型SARS-CoV-2(B.1.351)、インド変異型(δ型)SARS-CoV-2(B.1.617.2)及びインド変異型(κ型)SARS-CoV-2(B.1.617.1)における受容体結合ドメイン(RBD)に対するCe41の結合活性を測定した結果を、それぞれ図17、18、19、20、21及び22に示した。なお、Ce41の全長アミノ酸配列を配列番号54に示した。
【0148】
〔実施例5〕
本実施例では、実施例4で設計したCe41について、英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)を用いて実施したプラーク減少アッセイによりウイルス感染力低減効果を測定し、その結果に基づいてIC50値を算出した。
【0149】
Ce41について、英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)を用いて実施したプラーク減少アッセイの結果を図23に示した。また、各プレートに形成されたプラークの数に基づいて阻害率を算出した、ペプチド濃度と阻害率との関係を図24に示した。その結果、英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)に対するCe41のIC50値は0.68nMであると算出された。
【0150】
以上の結果から、実施例4で設計したCe41は、英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)に対する極めて優れた抗ウイルス活性を有することが明らかとなった。
【0151】
〔実施例6〕
本実施例では、実施例4で設計したCe41について、英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)における受容体結合ドメイン(RBD)に対する結合活性を測定し、Ce41の英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)における受容体結合ドメイン(RBD)に対する結合状態を検討した。
【0152】
Ce41について、英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)における受容体結合ドメイン(RBD)に対する結合活性を、結合開始から3時間2分測定し、結果を図25に示した。
【0153】
この結果、Ce41は、バッファーで3時間洗い流しても、一旦結合した英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)における受容体結合ドメイン(RBD)からは全く解離していないことがわかり、英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)における受容体結合ドメイン(RBD)に対する優れた結合活性を長期にわたって持続できることが明らかとなった。この、英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)における受容体結合ドメイン(RBD)に対する優れた結合活性を長期にわたって持続することができるCe41の特性が、実施例5で示した英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)に対する著しく高い抗ウイルス活性を有するために極めて重要であると考えられた。なお、LCB1ペプチドは、英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)における受容体結合ドメイン(RBD)に対する結合活性を短い時間であっても持続することができない。
【0154】
〔実施例7〕
本実施例では、上述した実施例で開発されたCe41から更に優れた結合活性を示すペプチドの開発を行った。本実施例では、表10に示すように、Ce41の第2領域における18番目のアミノ酸残基(リシン残基)をアルギニン残基(表10において枠で囲った)としたCe59を設計した。なお、Ce59の全長アミノ酸配列を配列番号55に示した。
【0155】
【表10】
【0156】
Ce59について、野生型SARS-CoV-2、英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)、ブラジル変異型SARS-CoV-2(P.1)、南アフリカ変異型SARS-CoV-2(B.1.351)、インド変異型(δ型)SARS-CoV-2(B.1.617.2)及びインド変異型(κ型)SARS-CoV-2(B.1.617.1)における受容体結合ドメイン(RBD)に対するCe59の結合活性を測定した結果を、それぞれ図26、27、28、29、30及び31に示した。これらの実験結果から、Ce59は、供試した野生型SARS-CoV-2及び全ての変異型SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に対して優れた結合活性を有するペプチドであることが判った。また、特に、ブラジル変異型SARS-CoV-2(P.1)及び南アフリカ変異型SARS-CoV-2(B.1.351)における受容体結合ドメイン(RBD)に対しては、Ce41に比べて更に優れた結合活性を示すことが明らかとなった(図28及び29)。
【0157】
また、Ce59について、インド変異型(δ型)SARS-CoV-2(B.1.617.2)、英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)を用いて実施したプラーク減少アッセイによりウイルス感染力低減効果を測定し、その結果に基づいてIC50値を算出した。インド変異型(δ型)SARS-CoV-2(B.1.617.2)を用いて実施したプラーク減少アッセイの結果を図32に示した。また、各プレートに形成されたプラークの数に基づいて阻害率を算出した、ペプチド濃度と阻害率との関係を図33に示した。その結果、インド変異型(δ型)SARS-CoV-2(B.1.617.2)に対するCe59のIC50値は16nMであると算出された。このように、Ce59は、インド変異型(δ型)SARS-CoV-2(B.1.617.2)に対しても優れた抗ウイルス活性を有することが明らかとなった。
【0158】
同様に、英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)を用いて実施したプラーク減少アッセイの結果を図34に示した。また、各プレートに形成されたプラークの数に基づいて阻害率を算出した、ペプチド濃度と阻害率との関係を図35に示した。その結果、英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)に対するCe59のIC50値は0.2nMであると算出された。実施例5で示したように、英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)に対するCe41のIC50値が0.68nMであったことと比較すると、Ce59は、同IC50値が0.2nMという結果を示しており、英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)対してCe41よりも優れた抗ウイルス活性を有することが明らかとなった。
【0159】
さらに、Ce59について、英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)における受容体結合ドメイン(RBD)に対する結合活性を、結合開始から3時間2分測定した結果を図36に示した。この結果、Ce59は、バッファーで3時間洗い流しても、一旦結合した英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)における受容体結合ドメイン(RBD)からは全く解離していないことがわかり、英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)における受容体結合ドメイン(RBD)に対する優れた結合活性を長期にわたって持続できることが明らかとなった。
【0160】
〔実施例8〕
上述した実施例で開発されたCe41及びCe59について、オミクロン変異型(BA.1系統)SARS-CoV-2(B.1.1.529/BA.1)における受容体結合ドメイン(RBD)に対するCe41及びCe59の結合活性を測定した結果、Ce41及びCe59は、オミクロン変異型(BA.1系統)SARS-CoV-2(B.1.1.529/BA.1)における受容体結合ドメイン(RBD)に対して結合を維持することができないことが明らかになった。これらの実験結果を図77及び図78に示した。このため、本実施例では、上述した実施例で開発されたCe59から更に優れた結合活性を示すペプチドの開発を行った。Ce59の第1領域における14番目のアミノ酸残基(アルギニン残基)及び第2領域における7番目のアミノ酸残基(アルギニン残基)を、それぞれグルタミン残基及びメチオニン残基に置換したCe113を設計した。Ce113のアミノ酸配列を表11に示し、Ce59のアミノ酸配列から変更したアミノ酸残基を枠で囲った。なお、Ce113の全長アミノ酸配列を配列番号58に示した。
【0161】
【表11】
【0162】
Ce113について、英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)、インド変異型(δ型)SARS-CoV-2(B.1.617.2)、オミクロン変異型(BA.1系統)SARS-CoV-2(B.1.1.529/BA.1)及びオミクロン変異型(BA.2系統)SARS-CoV-2(B.1.1.529/BA.2)における受容体結合ドメイン(RBD)に対するCe113の結合活性を測定した結果を、それぞれ図37、38、39及び40に示した。これらの実験結果から、Ce113は、供試した全ての変異型SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に対して優れた結合活性を有するペプチドであることが判った。またCe113は、特に、オミクロン変異型(BA.1系統)SARS-CoV-2(B.1.1.529/BA.1)及びオミクロン変異型(BA.2系統)SARS-CoV-2(B.1.1.529/BA.2)における受容体結合ドメイン(RBD)に対して、Ce59に比べて顕著に高い結合活性を示すことが明らかとなった。
【0163】
〔実施例9〕
本実施例では、上述した実施例で開発されたCe59から更に優れた結合活性を示すペプチドの開発を行った。Ce59の第1領域における3番目のアミノ酸残基(グルタミン酸残基)、14番目のアミノ酸残基(アルギニン残基)及び第2領域における7番目のアミノ酸残基(アルギニン残基)を、それぞれロイシン残基、バリン残基及びメチオニン残基に置換したCe172を設計した。Ce172のアミノ酸配列を表12に示し、Ce59のアミノ酸配列から変更したアミノ酸残基を枠で囲った。なお、Ce172の全長アミノ酸配列を配列番号60に示した。
【0164】
【表12】
【0165】
Ce172について、英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)、インド変異型(δ型)SARS-CoV-2(B.1.617.2)、オミクロン変異型(BA.1系統)SARS-CoV-2(B.1.1.529/BA.1)及びオミクロン変異型(BA.2系統)SARS-CoV-2(B.1.1.529/BA.2)における受容体結合ドメイン(RBD)に対するCe172の結合活性を測定した結果を、それぞれ図41、42、43及び44に示した。これらの実験結果から、Ce172は、供試した全ての変異型SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に対して優れた結合活性を有するペプチドであることが判った。またCe172は、特に、オミクロン変異型(BA.1系統)SARS-CoV-2(B.1.1.529/BA.1)及びオミクロン変異型(BA.2系統)SARS-CoV-2(B.1.1.529/BA.2)における受容体結合ドメイン(RBD)に対して、Ce59に比べて顕著に高い結合活性を示すことが明らかとなった。
【0166】
また、Ce172について、英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)、インド変異型(δ型)SARS-CoV-2(B.1.617.2)及びオミクロン変異型(BA.1系統)SARS-CoV-2(B.1.1.529/BA.1)を用いて実施したプラーク減少アッセイによりウイルス感染力低減効果を測定し、その結果に基づいてIC50値を算出した。英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)を用いて実施したプラーク減少アッセイの結果を図45に示した。また、各プレートに形成されたプラークの数に基づいて阻害率を算出した、ペプチド濃度と阻害率との関係を図46に示した。その結果、英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)に対するCe172のIC50値は0.0022nMであると算出された。実施例5で示したように、英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)に対するCe41のIC50値が0.68nMであったこと、ならびに実施例7で示したように、英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)に対するCe59のIC50値が0.2nMであったことと比較すると、Ce172は、同IC50値が0.0022nMという結果を示しており、英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)対してCe41ならびにCe59よりも優れた抗ウイルス活性を有することが明らかとなった。
【0167】
同様に、インド変異型(δ型)SARS-CoV-2(B.1.617.2)を用いて実施したプラーク減少アッセイの結果を図47に示した。また、各プレートに形成されたプラークの数に基づいて阻害率を算出した、ペプチド濃度と阻害率との関係を図48に示した。その結果、インド変異型(δ型)SARS-CoV-2(B.1.617.2)に対するCe172のIC50値は0.53nMであると算出された。実施例7で示したように、インド変異型(δ型)SARS-CoV-2(B.1.617.2)に対するCe59のIC50値が16nMであったことと比較すると、Ce172は、同IC50値が0.53nMという結果を示しており、インド変異型(δ型)SARS-CoV-2(B.1.617.2)対してCe59よりも非常に優れた抗ウイルス活性を有することが明らかとなった。
【0168】
また同様に、オミクロン変異型(BA.1系統)SARS-CoV-2(B.1.1.529/BA.1)を用いて実施したプラーク減少アッセイの結果を図49に示した。また、各プレートに形成されたプラークの数に基づいて阻害率を算出した、ペプチド濃度と阻害率との関係を図50に示した。その結果、オミクロン変異型(BA.1系統)SARS-CoV-2(B.1.1.529/BA.1)に対するCe172のIC50値は0.038nMであると算出された。このように、Ce172は、オミクロン変異型(BA.1系統)SARS-CoV-2(B.1.1.529/BA.1)に対しても優れた抗ウイルス活性を有することが明らかとなった。
【0169】
〔実施例10〕
本実施例では、上述した実施例で開発されたCe59から更に優れた結合活性を示すペプチドの開発を行った。Ce59の第1領域における3番目のアミノ酸残基(グルタミン酸残基)、14番目のアミノ酸残基(アルギニン残基)及び第2領域における7番目のアミノ酸残基(アルギニン残基)を、それぞれロイシン残基、グルタミン残基及びメチオニン残基に置換したCe173を設計した。Ce173のアミノ酸配列を表13に示し、Ce59のアミノ酸配列から変更したアミノ酸残基を枠で囲った。なお、Ce173の全長アミノ酸配列を配列番号64に示した。
【0170】
【表13】
【0171】
Ce173について、英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)、インド変異型(δ型)SARS-CoV-2(B.1.617.2)、オミクロン変異型(BA.1系統)SARS-CoV-2(B.1.1.529/BA.1)及びオミクロン変異型(BA.2系統)SARS-CoV-2(B.1.1.529/BA.2)における受容体結合ドメイン(RBD)に対するCe173の結合活性を測定した結果を、それぞれ図51、52、53及び54に示した。これらの実験結果から、Ce173は、供試した全ての変異型SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に対して優れた結合活性を有するペプチドであることが判った。またCe173は、特に、オミクロン変異型(BA.1系統)SARS-CoV-2(B.1.1.529/BA.1)及びオミクロン変異型(BA.2系統)SARS-CoV-2(B.1.1.529/BA.2)における受容体結合ドメイン(RBD)に対して、Ce59に比べて顕著に高い結合活性を示すことが明らかとなった。
【0172】
また、Ce173について、英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)、インド変異型(δ型)SARS-CoV-2(B.1.617.2)及びオミクロン変異型(BA.1系統)SARS-CoV-2(B.1.1.529/BA.1)を用いて実施したプラーク減少アッセイによりウイルス感染力低減効果を測定し、その結果に基づいて阻害率を算出した。英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)を用いて実施したプラーク減少アッセイの結果及び各プレートに形成されたプラークの数に基づいて算出した阻害率を図55に示した。その結果、Ce173は英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)対して優れた抗ウイルス活性を有することが明らかとなった。
【0173】
同様に、インド変異型(δ型)SARS-CoV-2(B.1.617.2)を用いて実施したプラーク減少アッセイの結果及び各プレートに形成されたプラークの数に基づいて算出した阻害率を図56に示した。その結果、Ce173はインド変異型(δ型)SARS-CoV-2(B.1.617.2)対して優れた抗ウイルス活性を有することが明らかとなった。
【0174】
また同様に、オミクロン変異型(BA.1系統)SARS-CoV-2(B.1.1.529/BA.1)を用いて実施したプラーク減少アッセイの結果及び各プレートに形成されたプラークの数に基づいて算出した阻害率を図57に示した。その結果、Ce173はオミクロン変異型(BA.1系統)SARS-CoV-2(B.1.1.529/BA.1)対して優れた抗ウイルス活性を有することが明らかとなった。
【0175】
〔実施例11〕
本実施例では、上述した実施例で開発されたCe59から更に優れた結合活性を示すペプチドの開発を行った。Ce59の第1領域における7番目のアミノ酸残基(グルタミン残基)、第1領域における14番目のアミノ酸残基(アルギニン残基)及び第2領域における7番目のアミノ酸残基(アルギニン残基)を、それぞれチロシン残基、グルタミン残基及びメチオニン残基に置換したCe174を設計した。Ce174のアミノ酸配列を表14に示し、Ce59のアミノ酸配列から変更したアミノ酸残基を枠で囲った。なお、Ce174の全長アミノ酸配列を配列番号66に示した。
【0176】
【表14】
【0177】
Ce174について、英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)、インド変異型(δ型)SARS-CoV-2(B.1.617.2)、オミクロン変異型(BA.1系統)SARS-CoV-2(B.1.1.529/BA.1)及びオミクロン変異型(BA.2系統)SARS-CoV-2(B.1.1.529/BA.2)における受容体結合ドメイン(RBD)に対するCe174の結合活性を測定した結果を、それぞれ図58、59、60及び61に示した。これらの実験結果から、Ce174は、供試した全ての変異型SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に対して優れた結合活性を有するペプチドであることが判った。またCe174は、特に、オミクロン変異型(BA.1系統)SARS-CoV-2(B.1.1.529/BA.1)及びオミクロン変異型(BA.2系統)SARS-CoV-2(B.1.1.529/BA.2)における受容体結合ドメイン(RBD)に対して、Ce59に比べて顕著に高い結合活性を示すことが明らかとなった。
【0178】
また、Ce174について、英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)、インド変異型(δ型)SARS-CoV-2(B.1.617.2)及びオミクロン変異型(BA.1系統)SARS-CoV-2(B.1.1.529/BA.1)を用いて実施したプラーク減少アッセイによりウイルス感染力低減効果を測定し、その結果に基づいて阻害率を算出した。英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)を用いて実施したプラーク減少アッセイの結果及び各プレートに形成されたプラークの数に基づいて算出した阻害率を図62に示した。その結果、Ce174は英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)対して優れた抗ウイルス活性を有することが明らかとなった。
【0179】
同様に、インド変異型(δ型)SARS-CoV-2(B.1.617.2)を用いて実施したプラーク減少アッセイの結果及び各プレートに形成されたプラークの数に基づいて算出した阻害率を図63に示した。その結果、Ce174はインド変異型(δ型)SARS-CoV-2(B.1.617.2)対して優れた抗ウイルス活性を有することが明らかとなった。
【0180】
また同様に、オミクロン変異型(BA.1系統)SARS-CoV-2(B.1.1.529/BA.1)を用いて実施したプラーク減少アッセイの結果及び各プレートに形成されたプラークの数に基づいて算出した阻害率を図64に示した。その結果、Ce174はオミクロン変異型(BA.1系統)SARS-CoV-2(B.1.1.529/BA.1)対して優れた抗ウイルス活性を有することが明らかとなった。
【0181】
〔実施例12〕
本実施例では、上述した実施例で開発されたCe59から更に優れた結合活性を示すペプチドの開発を行った。Ce59の第1領域における7番目のアミノ酸残基(グルタミン残基)、第1領域における14番目のアミノ酸残基(アルギニン残基)及び第2領域における7番目のアミノ酸残基(アルギニン残基)を、それぞれチロシン残基、バリン残基及びメチオニン残基に置換したCe149を設計した。Ce149のアミノ酸配列を表15に示し、Ce59のアミノ酸配列から変更したアミノ酸残基を枠で囲った。なお、Ce149の全長アミノ酸配列を配列番号62に示した。
【0182】
【表15】
【0183】
Ce149について、英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)、インド変異型(δ型)SARS-CoV-2(B.1.617.2)、オミクロン変異型(BA.1系統)SARS-CoV-2(B.1.1.529/BA.1)及びオミクロン変異型(BA.2系統)SARS-CoV-2(B.1.1.529/BA.2)における受容体結合ドメイン(RBD)に対するCe149の結合活性を測定した結果を、それぞれ図65、66、67及び68に示した。これらの実験結果から、Ce149は、供試した全ての変異型SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に対して優れた結合活性を有するペプチドであることが判った。またCe149は、特に、オミクロン変異型(BA.1系統)SARS-CoV-2(B.1.1.529/BA.1)及びオミクロン変異型(BA.2系統)SARS-CoV-2(B.1.1.529/BA.2)における受容体結合ドメイン(RBD)に対して、Ce59に比べて極めて顕著に高い結合活性を示すことが明らかとなった。
【0184】
また、Ce149について、英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)、インド変異型(δ型)SARS-CoV-2(B.1.617.2)及びオミクロン変異型(BA.1系統)SARS-CoV-2(B.1.1.529/BA.1)を用いて実施したプラーク減少アッセイによりウイルス感染力低減効果を測定し、その結果に基づいてIC50値を算出した。英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)を用いて実施したプラーク減少アッセイの結果を図69に示した。また、各プレートに形成されたプラークの数に基づいて阻害率を算出した、ペプチド濃度と阻害率との関係を図70に示した。その結果、英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)に対するCe149のIC50値は0.0021nMであると算出された。実施例5で示したように、英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)に対するCe41のIC50値が0.68nMであったこと、ならびに実施例7で示したように、英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)に対するCe59のIC50値が0.2nMであったことと比較すると、Ce149は、同IC50値が0.0021nMという結果を示しており、英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)対してCe41ならびにCe59よりも優れた抗ウイルス活性を有することが明らかとなった。
【0185】
同様に、インド変異型(δ型)SARS-CoV-2(B.1.617.2)を用いて実施したプラーク減少アッセイの結果を図71に示した。また、各プレートに形成されたプラークの数に基づいて阻害率を算出した、ペプチド濃度と阻害率との関係を図72に示した。その結果、インド変異型(δ型)SARS-CoV-2(B.1.617.2)に対するCe149のIC50値は0.15nMであると算出された。実施例7で示したように、インド変異型(δ型)SARS-CoV-2(B.1.617.2)に対するCe59のIC50値が16nMであったことと比較すると、Ce149は、同IC50値が0.15nMという結果を示しており、インド変異型(δ型)SARS-CoV-2(B.1.617.2)対してCe59よりも非常に優れた抗ウイルス活性を有することが明らかとなった。
【0186】
また同様に、オミクロン変異型(BA.1系統)SARS-CoV-2(B.1.1.529/BA.1)を用いて実施したプラーク減少アッセイの結果を図73に示した。また、各プレートに形成されたプラークの数に基づいて阻害率を算出した、ペプチド濃度と阻害率との関係を図74に示した。その結果、オミクロン変異型(BA.1系統)SARS-CoV-2(B.1.1.529/BA.1)に対するCe149のIC50値は1nMであると算出された。このように、Ce149は、オミクロン変異型(BA.1系統)SARS-CoV-2(B.1.1.529/BA.1)に対しても優れた抗ウイルス活性を有することが明らかとなった。
【0187】
〔実施例13〕
本実施例では、上述した実施例で開発されたCe4、Ce9、Ce41、Ce59、Ce113、Ce149、Ce172、Ce173及びCe174について、CDスペクトルを測定し、その結果を図75に示した。図75から判るように、Ce4、Ce9、Ce41、Ce59、Ce113、Ce149、Ce172、Ce173及びCe174は全て、第1領域に含まれる第1のヘリックスと第2領域に含まれる第2のヘリックスとがヘリックスバンドル構造を形成していることが明らかとなり、安定な構造を獲得していることが判った。
【0188】
〔実施例14〕
本実施例では、上述した実施例で開発されたCe41と英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)における受容体結合ドメイン(RBD)の複合体の3次元立体構造解析を行った。Ce41と英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)における受容体結合ドメイン(RBD)の複合体の精製タンパク質溶液をMerckMillipore社製Amicon ultraを用いて濃縮した。得られた精製タンパク質溶液をSPT Labtech社製mosquito LCPにセッティングし、Violamo社製結晶化プレートを用いて結晶化ドロップを作製した。得られた3次元結晶を抗凍結処理し、液体窒素を用いて凍結した。X線回折実験を、大型放射光施設SPring-8(兵庫県佐用郡)の自動測定ビームラインにて実施し、波長1ÅのX線を用いて回折データを収集した。自動データ処理システムKAMOを用いて処理をしたデータセットに対して、Phaserを用いて初期位相を決定した。原子モデルはCOOTを用いて構築し、Refmac5及びPHENIXを用いて精密化を行い、Ce41と英国変異型SARS-CoV-2(B.1.1.7)における受容体結合ドメイン(RBD)の3次元立体構造を決定した。このCe41構造モデルをPyMOLを用いて表示し、第1領域における2番目のリシン残基と第2領域におけるC末端5残基の相互作用を解析し、その結果を図76に示した。解析の結果、第1領域における2番目のリシン残基と、第2領域における15番目のフェニルアラニン残基(Ce41全体としては35番目のアミノ酸残基)及び18番目のリシン残基(Ce41全体としては38番目のアミノ酸残基)はそれぞれ水素結合を形成していることがわかった。また、第1領域における2番目のリシン残基と、第2領域における19番目のアスパラギン酸残基(Ce41全体としては39番目のアミノ酸残基)は塩橋を形成していることがわかり、これらの相互作用はCe41のヘリックスバンドル構造の安定化に寄与することが明らかとなった。
【0189】
〔実施例15〕
本実施例では、上述した実施例で開発されたCe4、Ce9、Ce41及びCe59を超純水に溶解させ、超純水に対する溶解度を算出した。
【0190】
上述したアミノ酸配列を有するCe4、Ce9、Ce41及びCe59を化学的に合成し、超純水に溶解させた。具体的には、超純水250μLに対して、化学合成によって作製したペプチドを添加し、マイクロピペットを用いて十分な回数のピペッテイングを行い、室温で静置した。溶け残りが無い場合は、更にペプチドを添加して同様の操作を繰り返した。溶け残りが生じた場合、静置10分後に、再度マイクロピペットを用いて十分な回数のピペッテイングを行い、室温で静置した。この工程を更に2回行った後、IMPLEN社製微量分光光度計NanoPhotometer NP80を用いて濃度測定を行い、超純水に対する溶解度の評価を行った。得られた結果を表16に示した。
【0191】
【表16】
【0192】
これらの結果より、Ce4、Ce9、Ce41及びCe59は、超純水への極めて高い溶解度を獲得すると共に、SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に対する極めて高い結合活性を獲得することが判った。
【0193】
〔実施例16〕
本実施例では、上述した実施例で開発されたCe113、Ce149、Ce172、Ce173及びCe174を50mM HEPES緩衝溶液(pH 8.0)に溶解させ、50mM HEPES緩衝溶液(pH 8.0)に対する溶解度を算出した。
【0194】
上述したアミノ酸配列を有するCe113、Ce149、Ce172、Ce173及びCe174を化学的に合成し、50mM HEPES緩衝溶液(pH 8.0)に溶解させた。具体的には、50mM HEPES緩衝溶液(pH 8.0)250μLに対して、化学合成によって作製したペプチドを添加し、マイクロピペットを用いて十分な回数のピペッテイングを行い、室温で静置した。溶け残りが無い場合は、更にペプチドを添加して同様の操作を繰り返した。溶け残りが生じた場合、静置10分後に、再度マイクロピペットを用いて十分な回数のピペッテイングを行い、室温で静置した。この工程を更に2回行った後、IMPLEN社製微量分光光度計NanoPhotometer NP80を用いて濃度測定を行い、50mM HEPES緩衝溶液(pH 8.0)に対する溶解度の評価を行った。得られた結果を表17に示した。
【0195】
【表17】
【0196】
これらの結果より、Ce113、Ce149、Ce172、Ce173及びCe174は、50mM HEPES緩衝溶液(pH 8.0)への極めて高い溶解度を獲得すると共に、SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に対する極めて高い結合活性を獲得することが判った。
【0197】
〔実験プロトコル〕
<分子間相互作用解析プロトコル>
本プロトコルは、本実施例で設計し、化学合成した所定のペプチドについてSARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)に対する結合速度及び解離度を測定するものである。本実施例では、Cytiva社製Biacore S200及びCytiva社製Biotin CAPture Kit, Series S(内容物:Sensor Chip CAP、Biotin CAPture Reagent、Regeneration solution)を用い、SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)と目的のペプチドとの分子間相互作用解析を行った。測定データの記録にはCytiva社製Biacore S200 Control SoftwareのKinetics multi-cycle using Biotin CAPプログラムを使用した。
【0198】
先ず、Biacore S200にSensor Chip CAPを挿入し、Running Bufferを流速65mL/dayで12時間流した。Running BufferはCytiva社製HBS-EP+ buffer 10xを超純水で10倍希釈した溶液を使用した。次に、1分間のRegeneration solutionのインジェクションを3回行った。その後、Biotin CAPture Reagentを流速2μL/minで300秒間、1.0μg/mLに調製したビオチン化RBDを流速10μL/minで80秒間、Running Bufferを流速30μL/minで720秒間(長時間にわたり結合状態を検討する際は3時間2分)、Regeneration solutionを流速10μL/minで120秒間流し、この一連の4つの工程を3回繰り返した。
【0199】
次に、Biotin CAPture Reagentを流速2μL/minで300秒間、1.0μg/mLに調製したビオチン化RBDを流速10μL/minで80秒間、目的のペプチドを流速30μL/minで120秒間、Running Bufferを流速30μL/minで600秒間(長時間にわたり結合状態を検討する際は3時間)、Regeneration solutionを流速10μL/minで120秒間流した。この一連の5つの工程を、測定する目的のペプチドの数に応じて繰り返し、SARS-CoV-2における受容体結合ドメイン(RBD)と各ペプチドの分子間相互作用解析を行った。
【0200】
目的のペプチドはRunning Bufferに最終濃度0.1%(v/v)になるようにジメチルスルホキシドを加えた溶液(希釈Buffer)で希釈し、任意の濃度に調製した。目的のペプチドの0nM溶液は希釈Bufferを用いた。
【0201】
<CDスペクトル測定プロトコル>
本プロトコルは、本実施例で設計し、化学合成した所定のペプチドについて遠紫外円偏光二色性(CD)スペクトルを測定するものである。本プロトコルに従って測定したCDスペクトルに基づいて、測定したペプチドが目的のヘリックス構造及びヘリックスバンドル構造を形成しているかを評価することができる。
【0202】
目的のペプチド粉末をTBS(20mM Tris-HCl pH8.0, 150mM NaCl)に溶解し、20μMに調製した後、1 mmキュベットにペプチド溶液200μLを添加した。CDスペクトルの測定には、日本分光株式会社製円二色性分散計J-720を使用し、25℃において、0.5nm間隔で波長範囲250nmから195nmまでを、スキャン速度20nm/minで記録した。
【0203】
<プラーク減少アッセイプロトコル>
本プロトコルは、SARS-CoV-2が感染した細胞をカウントするものである。本プロトコルに従って測定した細胞数に基づいて、本実施例で作製したペプチドによるSARS-CoV-2の感染抑制効果を評価することができる。
【0204】
先ず、測定日の一日前にウイルス高感受性細胞VeroE6/TMPRSS2(Matsuyama et al., Proc Natl Acad Sci USA 117:7001-7003, 2020)を1x105cells/wellで24ウェルプレートに播種した。
【0205】
測定日には、SARS-CoV-2 NIID株を100TCID50/180μLとなるように血清・抗生物質を含まない培地で希釈した。次に、TBS(20mM Tris-HCl pH8.0, 150mM NaCl)を用いて、ペプチド溶液の原液から10倍希釈系列を作り、ウイルス溶液に20μL混合した(コントロールはTBSを20μL混合したものを使用した)。一例として、ペプチドの終濃度として、2μM、400nM、80nM、16nM、3.2nM、640pM及び128pMを作製した。コントロールは2% DMSOとした。
【0206】
次に、前日に播種したVeroE6/TMPRSS2細胞の培地を抜き取り、ウイルス/ペプチド溶液(200μL)を加え、37℃で1時間インキュベーションした。その後、上清を抜き取り、細胞をPBSで2回洗浄し、500μLのメチルセルロース粘性培地(1%メチルセルロースと2%ウシ血清を含むE-MEM培地)を加えた。そして、CO2インキュベーターにて2日間培養した。
【0207】
培養後、先ず、メチルセルロース粘性培地を抜き取り、細胞に3.7%ホルムアルデヒドを加えて2時間固定した。その後、ホルムアルデヒドを抜き取り、水道水でプレートを洗浄した。次に、1%クリスタルバイオレットで生細胞を染色し、プラーク(ウイルス感染によって引き起こされた死細胞の集団)の数をカウントした。そして、TBS処理のみのウイルス感染区と各濃度のペプチド処理区におけるプラーク数を算出し、50%阻害濃度(IC50値)を決定した。
【配列表フリーテキスト】
【0208】
配列番号1~66 合成ペプチド
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
図1
図2
図3
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図5
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図11
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図15
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図67
図68
図69
図70
図71
図72
図73
図74
図75
図76
図77
図78
【配列表】
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