(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-26
(45)【発行日】2025-06-03
(54)【発明の名称】引っ張り動作用アシストスーツ
(51)【国際特許分類】
A41D 13/00 20060101AFI20250527BHJP
A63B 71/02 20060101ALI20250527BHJP
【FI】
A41D13/00 112
A63B71/02 C
(21)【出願番号】P 2025011687
(22)【出願日】2025-01-27
【審査請求日】2025-01-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591196577
【氏名又は名称】海上保安庁長官
(73)【特許権者】
【識別番号】523141976
【氏名又は名称】ダイヤ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下矢 浩介
(72)【発明者】
【氏名】野宮 雅晴
(72)【発明者】
【氏名】堤 一尚
(72)【発明者】
【氏名】渡部 淑恵
(72)【発明者】
【氏名】松尾 浩紀
(72)【発明者】
【氏名】小川 和徳
(72)【発明者】
【氏名】川上 真幸
(72)【発明者】
【氏名】池田 智浩
(72)【発明者】
【氏名】門脇 章人
(72)【発明者】
【氏名】上原 奈津美
【審査官】岡澤 洋
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-2273826(KR,B1)
【文献】特開2021-094650(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D 13/00
A63B 71/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腰に巻き付ける腰ベルトと、
手に装着する一対の装着部と、
一対の前記装着部を連結する腕ベルトと、
を備え、
前記腰ベルトは、挿通部を有し、
前記腕ベルトは、前記挿通部に挿通され
、装着者の背側の腰回りに配置されることを特徴とする引っ張り動作用アシストスーツ。
【請求項2】
請求項1に記載の引っ張り動作用アシストスーツであって、
前記挿通部は、
前記腰ベルトに対する上下方向の位置を調整可能に構成されていることを特徴とする引っ張り動作用アシストスーツ。
【請求項3】
請求項2に記載の引っ張り動作用アシストスーツであって、
前記腰ベルトは、面ファスナーを有しており、
前記挿通部は、前記面ファスナーに着脱可能な部材に設けられていることを特徴とする引っ張り動作用アシストスーツ。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の引っ張り動作用アシストスーツであって、
前記腕ベルトには、長さを調整するための調整部が設けられていることを特徴とする引っ張り動作用アシストスーツ。
【請求項5】
請求項1~3のいずれかに記載の引っ張り動作用アシストスーツであって、
前記装着部は、前記腕ベルトに着脱可能に構成されていることを特徴とする引っ張り動作用アシストスーツ。
【請求項6】
請求項1~3のいずれかに記載の引っ張り動作用アシストスーツであって、
前記装着部はグローブで構成されていることを特徴とする引っ張り動作用アシストスーツ。
【請求項7】
請求項1~3のいずれかに記載の引っ張り動作用アシストスーツであって、
前記装着部の手の平の側の生地には、滑り止めが施されていることを特徴とする引っ張り動作用アシストスーツ。
【請求項8】
請求項1~3のいずれかに記載の引っ張り動作用アシストスーツであって、
前記腕ベルトは、前記装着部の手の平の側の生地に連結されていることを特徴とする引っ張り動作用アシストスーツ。
【請求項9】
請求項1~3のいずれかに記載の引っ張り動作用アシストスーツであって、
引っ張り動作時における前記腕ベルトの長さは一定であることを特徴とする引っ張り動作用アシストスーツ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引っ張り動作用アシストスーツに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1,2には、物体を持ち上げる動作をアシストする装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-149624号公報
【文献】特表2022-530572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1,2記載の装置は、物体を持ち上げる動作をアシストするためのものであり、ロープ等のような物を引っ張る動作(牽引動作)をアシストするようには構成されていない。
【0005】
本発明は、引っ張り動作をアシストすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための発明は、
腰に巻き付ける腰ベルトと、
手に装着する一対の装着部と、
一対の前記装着部を連結する腕ベルトと、
を備え、
前記腰ベルトは、挿通部を有し、
前記腕ベルトは、前記挿通部に挿通され、装着者の背側の腰回りに配置されることを特徴とする引っ張り動作用アシストスーツである。
【0007】
本発明の他の特徴については、後述する明細書及び図面の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、引っ張り動作をアシストすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、展開した状態のアシストスーツ100を外側から見た図である。
【
図2】
図2は、アシストスーツ100を装着した装着者が引っ張り動作を行う様子の説明図である。
【
図4】
図4Aは、仮締め時の腰ベルト1の説明図である。
図4Bは、本締め時の腰ベルト1の説明図である。
【
図5】
図5は、スライド部材3及び挿通部材20の説明図である。
【
図8】
図8Aは、アシストスーツ100を用いた場合の引っ張り動作時の身体負荷の説明図である。
図8Bは、アシストスーツ100を用いない場合の引っ張り動作時の身体負荷の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
===本実施形態===
<構成>
図1は、展開した状態のアシストスーツ100を外側から見た図である。
図2は、アシストスーツ100を装着した装着者が引っ張り動作を行う様子の説明図である。
【0011】
アシストスーツ100は、引っ張り動作(牽引動作)をアシストする装着具(引っ張り動作用アシストスーツ)である。引っ張り動作の対象となる物は、例えば、ロープ、紐、鎖などの長尺物である。但し、引っ張り動作の対象となる物は、長尺物に限られるものではなく、箱や袋などでも良い。アシストスーツ100は、腰ベルト1と、スライド部材3とを備えている。なお、本実施形態のアシストスーツ100には、挿通部2を有する挿通部材20が腰ベルト1に着脱可能に設けられている。
【0012】
以下の説明では、
図1及び
図2に示す方向に沿ってアシストスーツ100の各部を説明することがある。
図1に示すように、アシストスーツ100を装着する装着者の右手側を「右」とし、装着者の左手側を「左」として、「左右方向」を定めている。なお、左右方向の外側のことを「左右方向外側」と呼び、左右方向の内側のことを「左右方向内側」と呼ぶことがある。
図1及び
図2に示すように、アシストスーツ100を装着する装着者の上側を「上」とし、逆側を「下」として、「上下方向」を定めている。また、左右方向及び上下方向に垂直な方向(
図1の紙面に垂直な方向)を「厚さ方向」とし、装着時に装着者の肌側を「肌側」又は「内側」と呼び、逆側を「非肌側」又は「外側」と呼ぶことがある。また、肌側(内側)の表面のことを「肌側面」又は「内面」と呼び、非肌側(外側)の表面のことを「非肌側面」又は「外面」と呼ぶことがある。また、
図2に示すように、装着者の前側を「前」とし、逆側を「後」として、「前後方向」を定めている。
【0013】
図3A及び
図3Bは、展開した状態の腰ベルト1の図である。
図3Aは腰ベルト1を外側(非肌側)から見た図であり、
図3Bは腰ベルト1を内側(肌側)から見た図である。
図4Aは、仮締め時の腰ベルト1の説明図である。
図4Bは、本締め時の腰ベルト1の説明図である。なお、
図3A及び
図3Bや
図4A及び
図4Bでは、スライド部材3(及び挿通部材20)は不図示としている。
【0014】
腰ベルト1は、腰に巻き付ける部材である。腰ベルト1は、本体ベルト10と、一対の補助ベルト18(右補助ベルト18R及び左補助ベルト18L)とを有する。なお、腰ベルト1は、本体ベルト10のみで構成してもよく、腰ベルト1が補助ベルト18を備えていなくても良い。
【0015】
本体ベルト10は、腰ベルト1の本体を構成する部材である。本体ベルト10は、腰に巻き付けるベルト状(帯状)の部材である。本体ベルト10は、第1ベルトと呼ばれることもある。本体ベルト10は、ほぼ左右対称形状に構成されている。本体ベルト10は、中央部11と、一対の中間部12(右中間部12R及び左中間部12L)と、一対の端部13(右端部13R及び左端部13L)とにより構成されている。
【0016】
中央部11は、腰に装着される部位である。装着者が腰ベルト1を装着した時、中央部11は、装着者の背側に配置されることになる。中央部11は、本体ベルト10の左右方向の中央に配置されている。
図1に示すように、中央部11には挿通部2が設けられている。中央部11の外面(非肌側面)には、面ファスナー11Aが設けられている。面ファスナー11Aは、挿通部2を有する挿通部材20を取り外し可能に固定する部材である。中央部11は、非伸縮性の部材で構成されている。中央部11は、端部13(右端部13R及び左端部13L)よりも幅広に構成されている。
【0017】
中間部12は、中央部11よりも左右方向外側に配置される部位である。中央部11の右側には右中間部12Rが設けられており、中央部11の左側には左中間部12Lが設けられている。中間部12は、中央部11と端部13との間に配置されている。中間部12は、伸縮性の部材で構成されている。但し、中間部12が非伸縮性の部材で構成されても良い。中間部12が伸縮性の部材で構成されることにより、本体ベルト10を腰に装着しやすくなる。
【0018】
中間部12の上縁は、ほぼ左右方向に平行に構成されているのに対し、中間部12の下縁は、左右方向外側ほど上になるように傾斜して構成されている。このため、中間部12は、中央部11に近いほど幅(上下方向の寸法)が太く、端部13に近いほど幅が狭くなるように、構成されている。
【0019】
中央部11と中間部12との間には、第1つなぎ部15が設けられている。第1つなぎ部15は、中央部11と中間部12とを連結する部位(連結部)である。また、第1つなぎ部15は、補助ベルト18の端部を本体ベルト10に連結する機能も有する。第1つなぎ部15は、中央部11の面ファスナー11Aに対して左右方向外側に隣接して配置されている。
【0020】
端部13は、中間部12よりも左右方向外側に配置される部位である。本体ベルト10の右端には右端部13Rが設けられており、本体ベルト10の左端には左端部13Lが設けられている。右中間部12Rの右側には右端部13Rが設けられており、左中間部12Lの左側には左端部13Lが設けられている。端部13(右端部13R及び左端部13L)は、中央部11よりも幅狭な帯状に構成されている。端部13(右端部13R及び左端部13L)は、非伸縮性の部材で構成されている。
【0021】
右端部13Rの内面(肌側面)にはオス側の面ファスナー14Aが設けられており、左端部13Lの外面(非肌側面)にはメス側の面ファスナー14Bが設けられている。右端部13Rの面ファスナー14A(オス)と左端部13Lの面ファスナー14B(メス)とを係合させることによって、
図4Aに示すように、本体ベルト10を腰に装着することができる。
なお、右端部13Rの外面(非肌側面)にもメス側の面ファスナー14Bが設けられている。端部13(右端部13R及び左端部13L)の外面の面ファスナー14Bは、補助ベルト18の端部に設けられた面ファスナー19を固定する機能を有する。左端部13Lの面ファスナー14Bは、右端部13Rの内側に設けられた面ファスナー14Aを固定する機能と、補助ベルト18(左補助ベルト18L)の端部に設けられた面ファスナー19を固定する機能とを有している。
【0022】
端部13は、左右方向外側ほど上側になるように、傾斜して構成されている。このため、端部13の先端(右端部13Rの右端、左端部13Lの左端)は、中央部11よりも上側に設けられている。端部13が傾斜して構成されることによって、本体ベルト10が装着者の腰のくびれの形状に適合するように(骨盤から上の人体の形状に適合するように)構成され、本体ベルト10を装着者の身体に密着させ易い構造にすることができる。
【0023】
中間部12と端部13との間には、第2つなぎ部16が設けられている。第2つなぎ部16は、中間部12と端部13とを連結する部位(連結部)である。
【0024】
補助ベルト18(右補助ベルト18R及び左補助ベルト18L)は、本体ベルト10の腰への装着を補助する部材である。補助ベルト18は、本体ベルト10の外側(非肌側)に設けられたベルト状(帯状)の部材であり、本体ベルト10を腰に締め付ける機能を有する。補助ベルト18は、第2ベルトと呼ばれることもある。本体ベルト10の右側には右補助ベルト18Rが設けられており、本体ベルト10の左側には左補助ベルト18Lが設けられている。補助ベルト18の一端(基端;左右方向内側の端部)は第1つなぎ部15に連結されている。補助ベルト18の他端(自由端;左右方向外側の端部)の内面(肌側面)には面ファスナー19が設けられている。
図4Bに示すように、補助ベルト18の自由端を本体ベルト10の端部13(右端部13R及び左端部13L)の外面(非肌側面)の面ファスナー14Bに取り外し可能に固定できる。右補助ベルト18Rの面ファスナー19は、右端部13Rの外側の面ファスナー14Bに固定され、左補助ベルト18Lの面ファスナー19は、左端部13Lの外側の面ファスナー14Bに固定されることになる。なお、補助ベルト18が腰ベルト1に設けられていなくても良い。
【0025】
補助ベルト18は、左右方向外側ほど上側になるように、傾斜して構成されている。既に説明したように、端部が左右方向外側ほど上側になるように傾斜して構成されているため、補助ベルト18が左右方向外側ほど上側になるように傾斜して構成されることによって、補助ベルト18の面ファスナー19を端部13の面ファスナー14Bに固定し易い構造となる。
【0026】
図1に示すように、腰ベルト1は、挿通部2を有する。挿通部2は、腕ベルト40を挿通させる部位である。挿通部2は、環状に構成されている。挿通部2は、腰ベルト1の中央部11に設けられている。言い換えると、挿通部2は、腰ベルト1の左右方向の中央に設けられている。装着者が腰ベルト1を装着した時、挿通部2は、装着者の背側に配置されることになる。これにより、引っ張り動作時に引っ張り力を腰(骨盤)にかけることが可能となる。また、挿通部2は、腰ベルト1に対して腕ベルト40をスライド可能に保持する。これにより、右手又は左手のうちの装着者の好む方の手を前に伸ばすことが可能となる。また、左右の手を交互に前方に伸ばすことが可能となり、長尺物を手繰る動作(手繰り動作)を行うことが可能となる。本実施形態では、挿通部2は、挿通部材20に設けられている。挿通部材20については、後述する。
【0027】
図5は、スライド部材3及び挿通部材20の説明図である。
【0028】
スライド部材3は、腰ベルト1に対して左右方向にスライド可能な部材である。スライド部材3は、一対の装着部30(右装着部30R及び左装着部30L)と、腕ベルト40とを有する。
【0029】
装着部30は、手に装着する部材である。スライド部材3の右側には右装着部30Rが設けられており、スライド部材3の左側には左装着部30Lが設けられている。右装着部30Rは右手に装着し、左装着部30Lは左手に装着することになる。一対の装着部30(右装着部30R及び左装着部30L)は、腕ベルト40の両端に設けられている。
【0030】
図6A及び
図6Bは、装着部30(右装着部30R)の説明図である。
図6Aは、手の甲の側から見た装着部30の説明図である。
図6Bは、手の平の側から見た装着部30の説明図である。
【0031】
装着部30は、グローブで構成されている。装着部30がグローブで構成されることによって、装着者が対象物(例えばロープ)を掴み易くなるとともに、対象物が滑ることを抑制できる。図中の装着部30は、フィンガーレスタイプのグローブ(オープンフィンガーグローブ)で構成されている。但し、装着部30はフィンガーレスタイプのグローブでなくても良く、フルフィンガータイプのグローブでも良い。また、装着部30は、グローブでなくてもよく、親指と人差し指の間に引っ掛けられる環状の部材でも良い。
【0032】
装着部30は、ファスナー31を有する。装着部30にファスナー31を設けることにより、装着性を高めることができ、引っ張り動作時に装着部30が手から外れることを抑制できる。但し、装着部30がファスナー31を備えていなくても良い。
【0033】
装着部30は、腕ベルト40を取り付けるための取付部32を有する。ここでは、取付部32は、留め具41(バックル;
図5参照)を取り付けた生地で構成されている。取付部32は、装着部30の手の平の側に設けられている。具体的には、装着部30の手の平の側の生地に、取付部32を構成する生地が縫い合わせられている。これにより、腕ベルト40が装着部30の手の平の側の生地に連結した構造となる。取付部32が手の平の側に設けられることによって、腕ベルト40からの張力が装着部30の手の平の側の生地に伝わるため、取付部32が手の甲の側に設けられた場合と比べて、引っ張り動作時に対象物(例えばロープ)を掴み易い構造となる。
【0034】
装着部30の手の平の側の生地には、滑り止めが施されていることが望ましい。これにより、引っ張り動作時に対象物が滑ることを抑制できる。
【0035】
腕ベルト40は、一対の装着部30を連結するベルト状の部材である(
図5参照)。腕ベルト40の両端に装着部30が設けられている。腕ベルト40は、非伸縮性の部材で構成されている。腕ベルト40は、本体ベルト10に対して左右方向にスライド可能に設けられている。
【0036】
腕ベルト40には留め具41が設けられている。腕ベルト40と装着部30は、留め具41を介して取り外し可能に連結されている。留め具41が腕ベルト40と装着部30との間に設けられることによって、装着部30が腕ベルト40に着脱可能となり、装着部30を手に装着し易くなる。但し、腕ベルト40と装着部30とが直接連結されていても良い。例えば、装着部30の取付部32に腕ベルト40の端部が直接縫合されていても良い。なお、既に説明した通り、留め具41は、装着部30の手の平の側の取付部32に取り付けられている。これにより、腕ベルト40からの張力が装着部30の手の平の側の生地に伝わるため、引っ張り動作時に対象物(例えばロープ)を掴み易い構造となる。
【0037】
腕ベルト40は、調整部42を有する。調整部42は、腕ベルト40の長さを調整するための部材である。調整部42によって、腕ベルト40を装着者の体格に適した長さにすることができる。ここでは、腕ベルト40は、一対の調整部42を備えており、一方の調整部42は腕ベルト40の右側に設けられており、他方の調整部42は腕ベルト40の左側に設けられている。このように、腕ベルト40の左右それぞれに調整部42が設けられることによって、左右のそれぞれの腕に合わせて腕ベルト40の長さを調整し易い構造となる。但し、腕ベルト40に設けられた調整部42が1つでも良い。調整部42が1つの場合であっても、腕ベルト40を左右方向にスライドさせることによって、左右のそれぞれの腕に合わせて腕ベルト40の長さを調整することが可能となる。
【0038】
腕ベルト40は、腰ベルト1に設けられた挿通部2に挿通されている。腕ベルト40は、挿通部2に挿通されることによって、腰ベルト1に対して左右方向にスライド可能に保持されている。腕ベルト40が腰ベルト1の挿通部2に挿通されることによって、アシストスーツ100の装着時に腕ベルト40が装着者の背側の腰回りに配置されることになる(
図2参照)。これにより、引っ張り動作時に、腕ベルト40によって力が腰(骨盤)にかかるようになり、装着者の腰を滑車のように機能させることができる。挿通部2は、腰ベルト1に着脱可能な挿通部材20に設けられている。
【0039】
挿通部材20は、挿通部2が設けられた部材である。挿通部材20の内面(腰ベルト1側の面;肌側面)には、面ファスナー(不図示)が設けられている。挿通部材20の面ファスナーは、腰ベルト1の中央部11の面ファスナー11Aに取り外し可能に固定する部材である。つまり、挿通部材20は、腰ベルト1に着脱可能に構成されている。これにより、腰ベルト1に対する挿通部材20の上下方向の位置を変更可能である。
【0040】
【0041】
腰ベルト1に対する挿通部材20の上下方向の位置を変更することによって、挿通部2の上下方向の位置を変更可能となる。挿通部2は、引っ張り動作時に力が腰にかかる位置となるため、挿通部材20の上下方向の位置を変更することによって、引っ張り動作時に力がかかる位置を調整することができる。なお、腰ベルト1に対する挿通部材20の上下方向の位置を変更可能な構造にするために、挿通部材20の上下方向の寸法は、腰ベルト1の中央部11の面ファスナー11Aの上下方向の寸法よりも短い。
【0042】
なお、挿通部2は、挿通部材20に設けられていなくても良い。例えば、挿通部2は、腰ベルト1の中央部11に直接設けても良い。挿通部2が腰ベルト1に直接設けられる場合には、アシストスーツ100は挿通部材20を備えていなくても良い。但し、この場合、引っ張り動作時に力がかかる位置を調整できない構造となる。
【0043】
<アシストスーツ100の使用について>
・アシストスーツ100の装着
アシストスーツ100を装着する時、
図4Aに示すように、装着者は、本体ベルト10の中央部11を腰に当てつつ、本体ベルト10を腰に巻き付け、右端部13Rの面ファスナー14A(オス)と左端部13Lの面ファスナー14B(メス)とを係合させることによって、本体ベルト10を腰に装着する(仮締め)。本体ベルト10を腰に装着した後、
図4Bに示すように、装着者は、補助ベルト18の面ファスナー19を本体ベルト10の面ファスナー14Bに固定し、本体ベルト10を腰に締め付ける(本締め)。補助ベルト18を用いて本体ベルト10を腰に締め付けることによって、腰ベルト1の装着性を高めることができる。
【0044】
また、装着者は、装着部30を両手に装着する。装着部30と腕ベルト40が留め具41で連結される構造の場合、腕ベルト40から外した状態の装着部30を手に装着した後、装着部30と腕ベルト40を留め具41で連結することができるため、装着部30を手に装着し易くなる。但し、腕ベルト40に連結された状態の装着部30を手に装着しても良い。
【0045】
装着者は、挿通部2の上下方向の位置を調整しても良い。挿通部2の位置が高すぎる場合や低すぎる場合には、装着者は、腰ベルト1から挿通部材20を一旦外し、腰ベルト1に対する挿通部材20の上下方向の位置を調整する。なお、挿通部2の位置の調整は、腰ベルト1や装着部30を装着する前に行っても良いし、後に行っても良い。
【0046】
装着者は、腕ベルト40の長さを調整しても良い。腕ベルト40が長すぎると、引っ張り動作時に腕ベルト40に張力が働きにくくなり、引っ張り動作をアシストしにくくなる。一方、腕ベルト40が短すぎると、装着者が対象物(例えばロープ)を操作しにくくなる。このため、装着者は、調整部42を用いて、腕ベルト40の長さを引っ張り動作に適した長さに調整することが望ましい。腕ベルト40の長さの調整は、腰ベルト1や装着部30を装着する前に行っても良いし、後に行っても良い。
【0047】
・引っ張り動作
図2に示すように、アシストスーツ100を装着した装着者は、ロープのような対象物を引っ張ることになる。
アシストスーツ100を装着すると、挿通部2が装着者の背側に配置され、腕ベルト40が装着者の背側の腰回りに配置される。これにより、引っ張り動作時に、腕ベルト40によって力が腰(骨盤)にかかるようになり、装着者の腰を滑車のように機能させることができる。なお、
図2では、装着者が右手を前にして引っ張り動作を行っているが、腕ベルト40が腰ベルト1に対してスライド可能に構成されているので、左手を前にして引っ張り動作を行うことも可能である。
【0048】
図8Aは、アシストスーツ100を用いた場合の引っ張り動作時の身体負荷の説明図である。
図8Bは、アシストスーツ100を用いない場合の引っ張り動作時の身体負荷の説明図である。
【0049】
図8Bにおいて、Wubは、上半身(腰部よりも上側)の質量である。Wulは、腕(上肢;肩から先)の質量である。L1は、腰部回転中心から上半身の重心までの水平距離である。L2は、腰部回転中心から持ち手までの鉛直距離である。L3は、肩回転中心から腕の重心までの水平距離である。Lulは、腕の長さ(肩回転中心から持ち手までの距離)である。θは、鉛直線と腕のなす角度である。Fは、手がロープから受ける摩擦力(引っ張り力)である。Mlは、引っ張り動作時の腰回りの筋力による関節モーメントである。Msは、引っ張り動作時の肩周りの筋力による関節モーメントである。
【0050】
図8Bに示すように、腰回り関節モーメントMlと、肩周りの関節モーメントMsは、次のように表すことができる(なお、次式のgは、重力加速度である)。
Ml=Wub×g×L1+F×L2
Ms=F×Lul×cosθ-Wul×g×L3
【0051】
図8Aに示すように、アシストスーツ100を用いた場合、腕ベルト40によって、ロープから受ける力F(引っ張り力)は、腰(骨盤)にかかるようになる。このため、腰回り関節モーメントMlは、上半身の質量Wubによって発生する力(Wub×g×L1)のみとなる。なお、
図8Bに示すようにアシストスーツ100を用いない場合には「腕」でロープを引く状態になるのに対し、
図8Aに示すようにアシストスーツ100を用いた場合には「腰」でロープを引く状態になり、体全体を後方に傾けることによってロープを引くことができる。これにより、アシストスーツ100を用いることによって、アシストスーツ100を用いない場合と比べて、引っ張り動作時に腰にかかる負荷を軽減することができる。
【0052】
L1
また、
図8Aに示すように、腕ベルト40によって腰と手の間が固定されるため、腰から手までをほぼ剛体とみなすことができる。このため、アシストスーツ100を用いることによって、肩周りの関節モーメントMsを抑制することができ、引っ張り動作時に肩にかかる負荷を軽減することができる。
【0053】
・手繰り動作
図9A及び
図9Bは、腕ベルト40がスライドする様子の説明図である。
図9Aは、左手を右手よりも前に出した様子の説明図である。
図9Bは、右手を左手よりも前に出した様子の説明図である。
【0054】
ロープのような長尺物を引っ張る場合、引っ張り動作の前に長尺物を張る必要があるため、長尺物を手繰ることがある。本実施形態のアシストスーツ100では、腕ベルト40が腰ベルト1に対してスライド可能に構成されているため、左右の手を交互に前方に伸ばすことが可能であり、長尺物を手繰る動作(手繰り動作)を行うことが可能となる。なお、引っ張り動作前に、一方の手を伸ばして対象物を掴んだり拾い上げたりする場合にも、腕ベルト40が腰ベルト1に対してスライド可能に構成されているため、作業が容易になる。
【0055】
<小括>
上記の引っ張り動作用アシストスーツ100は、腰に巻き付ける腰ベルト1と、手に装着する一対の装着部30と、一対の装着部30を連結する腕ベルト40とを備えており、腰ベルト1は挿通部2を有しており、腕ベルト40は、挿通部2に挿通されている。腕ベルト40が腰ベルト1の挿通部2から左右に延びた構造であるため、
図2及び
図8Aに示すように、引っ張り動作時に引っ張り力が腕ベルト40によって腰(骨盤)にかかるようになり、装着者にかかる負荷を軽減することができ、引っ張り動作をアシストすることができる。また、腕ベルト40が挿通部2に挿通された構造であるため、右手又は左手のうちの装着者の好む方の手を前にして引っ張り動作を行うことが可能となる。また、腕ベルト40が挿通部2に挿通された構造であるため、
図9A及び
図9Bに示すように、腰ベルト1に対して腕ベルト40をスライド可能に構成することができ、手繰り動作が容易になる。
【0056】
図7A及び
図7Bに示すように、挿通部2は、上下方向の位置を調整可能に構成されている。これにより、引っ張り動作時に腰(骨盤)にかかる力の位置を調整することができる。
【0057】
また、
図7A及び
図7Bに示すように、腰ベルト1は面ファスナー11Aを有しており、挿通部2は、腰ベルト1の面ファスナー11Aに着脱可能な挿通部材20に設けられている。これにより、挿通部2を位置調整可能に構成することができる。但し、面ファスナー以外の構造によって、挿通部2が位置調整可能に構成されても良い。
【0058】
図1及び
図5に示すように、腕ベルト40には、長さを調整するための調整部42が設けられている。これにより、装着者の体格に適した長さに腕ベルト40の長さを調整することができる。
【0059】
装着部30は、腕ベルト40に着脱可能に構成されている。これにより、装着部30を手に装着し易くなる。但し、腕ベルト40と装着部30とが直接連結されており、装着部30が腕ベルト40に着脱できない構造であっても良い。
【0060】
図6A及び
図6Bに示すように、装着部30は、グローブで構成されている。これにより、装着者が対象物(例えばロープ)を掴み易い構造となる。但し、装着部30がグローブで構成されていなくても良い。
【0061】
装着部30の手の平の側の生地には、滑り止めが施されていることが望ましい。これにより、引っ張り動作時に対象物が滑ることを抑制できる。
【0062】
腕ベルト40の端部は、装着部30の手の平の側の生地に連結されている。これにより、引っ張り動作時に対象物(例えばロープ)を掴み易い構造となる。
【0063】
===その他===
上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0064】
1 腰ベルト、2 挿通部、3 スライド部材、
10 本体ベルト、11 中央部、11A 面ファスナー、
12 中間部、12R 右中間部、12L 左中間部、
13 端部、13R 右端部、13L 左端部、
14A 面ファスナー、14B 面ファスナー、
15 第1つなぎ部、16 第2つなぎ部、
18 補助ベルト、18R 右補助ベルト、18L 左補助ベルト、
19 面ファスナー、
20 挿通部材、
30 装着部、30R 右装着部、30L 左装着部、
31 ファスナー、32 取付部、
40 腕ベルト、41 留め具、42 調整部、
100 引っ張り動作用アシストスーツ
【要約】
【課題】引っ張り動作をアシストすること。
【解決手段】本開示に係る引っ張り動作用アシストスーツは、腰に巻き付ける腰ベルトと、手に装着する一対の装着部と、一対の前記装着部を連結する腕ベルトと、を備える。前記腰ベルトは、挿通部を有し、前記腕ベルトは、前記挿通部に挿通されている。
【選択図】
図1