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特許7687645杭抜き補助具、杭抜き装置及び杭抜き方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-26
(45)【発行日】2025-06-03
(54)【発明の名称】杭抜き補助具、杭抜き装置及び杭抜き方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 9/02 20060101AFI20250527BHJP
【FI】
E02D9/02
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2025034163
(22)【出願日】2025-03-05
【審査請求日】2025-03-05
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】525080394
【氏名又は名称】住吉運輸株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507000040
【氏名又は名称】有限会社マンダイクレーン
(74)【代理人】
【識別番号】100200333
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 真二
(72)【発明者】
【氏名】坂井 晃
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】実開平06-034046(JP,U)
【文献】実開昭61-206739(JP,U)
【文献】実開昭53-104003(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に埋設された杭の杭頭を第1挟持片及び第2挟持片により挟持して前記杭を引き抜く杭抜き装置を補助する杭抜き補助具であって、
前記杭頭を挟持するときに移動する前記第1挟持片に接合される把持圧部材と、
前記杭頭を挟持するときに静止している前記第2挟持片に接合される把持受部材と、を備え、
前記把持圧部材が、前記第1挟持片を超える長さとなっており、
前記把持受部材が、前記把持圧部材以上の長さで、側面に前記第1挟持片を挿入可能な大きさの開口部を有する筒状となっており、前記開口部の内側に前記把持圧部材が位置するように、前記第2挟持片に接合されることを特徴とする杭抜き補助具。
【請求項2】
前記把持受部材が、前記杭頭を把持するときに下となる下端部が周方向において閉じた形状となっている請求項1に記載の杭抜き補助具。
【請求項3】
前記把持受部材の下端部が、前記把持受部材の他の部分より厚くなっている請求項2に記載の杭抜き補助具。
【請求項4】
前記把持受部材に対して、前記杭頭を把持するときに前記把持圧部材の下方に位置する保護部材が内面に設けられている請求項2に記載の杭抜き補助具。
【請求項5】
前記把持圧部材及び前記把持受部材の少なくとも1つに対して、前記杭頭を把持するときに前記杭に接触する面に、周方向に延伸する突条部が突設されている請求項1に記載の杭抜き補助具。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の杭抜き補助具が接合されていることを特徴とする杭抜き装置。
【請求項7】
請求項6に記載の杭抜き装置を使用して前記杭を引き抜くことを特徴とする杭抜き方法。
【請求項8】
前記杭頭を把持するときに、前記杭抜き補助具の下部を地中に埋め込む請求項7に記載の杭抜き方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中に埋設された杭を引き抜く杭抜き装置を補助する杭抜き補助具、その杭抜き補助具を備えた杭抜き装置、及びその杭抜き装置を使用した杭抜き方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建設現場等では、軟弱な地盤の強度を上げ、その上に建築される建築物の傾斜や沈下等を防ぐために、棒状の構造物である杭が地中に打ち込まれることがある。地中に打ち込まれて埋設された杭は、多くの場合、その上に建築された建築物を解体するときに引き抜かれる。既存の杭を利用して新規の建築物を建築する場合もあるが、杭は、その用途がなくなると産業廃棄物として扱われるので、用途がなくなった時点で引き抜くのが望ましい。建築物の解体時以外でも、埋設された杭が既存杭として残っている土地を再利用する場合等で、杭の引抜き作業が行われる。
【0003】
杭には、松丸太を加工した松杭(木杭)、鋼製の鋼杭、コンクリート製のコンクリート杭等の種類がある。このうち、松杭は古くから使用されており、現在は鋼杭やコンクリート杭に比べると、使用されることが少なくなったが、既存杭として多くの松杭が残存しているので、松杭の引抜き作業も必要となっている。
【0004】
杭の引抜き作業で使用される工法は、直接引抜き工法、縁切り引抜き工法及び破砕撤去工法の3つに大別される。直接引抜き工法は、重機を使用して杭を直接引き抜く工法で、静的引抜き工法やバイブロハンマ引抜き工法等がある。縁切り引抜き工法は、ケーシング工法とも呼ばれており、杭の周囲にケーシングと呼ばれる円筒状の物を地盤内に挿入し、杭と地盤との間を切断してから杭を引き抜く工法で、輪投げ工法、チャッキング工法等がある。破砕撤去工法は、杭を引き抜くのではなく、切断又は砕いて粉々にした状態で取り除く工法で、オールケーシング破砕撤去工法等がある。各工法にはメリット及びデメリットがあり、作業現場の状況、コスト、作業期間等を考慮して、適切な工法が選択されている。
【0005】
直接引抜き工法では、通常、杭の頭部である杭頭をワイヤーやチャック等で掴んで、杭を引き抜く。チャックは、杭頭を掴むための爪のような機構である。直接引抜き工法の1つであるバイブロハンマ引抜き工法は、振動を利用して杭を引き抜く工法で、バイブロハンマと呼ばれる振動を発生させる機械を用いて、杭と地盤の摩擦抵抗を低減させることで杭を引き抜きやすくする。直接引抜き工法は、杭の周囲の削孔を抑制して直接杭を引き抜くので、周辺の地盤を乱す等の影響が少なく、工期の短縮化が図れる等のメリットを有しており、バイブロハンマ引抜き工法には、長い杭の引抜きも可能とのメリットがある。しかし、杭を直接引き抜くためには強い力が必要で、杭を振動させて摩擦抵抗を低減させても、相当な力が必要である。特に、松杭の引抜きをバイブロハンマ引抜き工法で行う場合、松杭の杭頭が腐食している等により、杭頭を堅固に掴むことが難しい場合がある。
【0006】
このような松杭等の杭の引抜きをバイブロハンマ引抜き工法で行う場合の課題を解決する方策が提案されている。
【0007】
例えば、実開昭56-206739号公報(特許文献1)では、解体した既存建物下の地中に残存する既存杭(松杭などの支持杭)を引抜き除去するための既存杭除去工法に使用される杭抜き装置が提案されている。特許文献1に記載の杭抜き装置は、加振機と油圧式チャッキング装置との組合せより構成された装置で、進退移動するプッシュプレートとケーシングパイプの内面とで杭頭を挟んで、松杭等を引き抜く。
【0008】
実開平6-34046号公報(特許文献2)では、生まつの丸太の杭(松杭)等を抜き取りの対象として、半筒状部と半筒状の挟圧部材の間に杭を挿入し、挿入された杭の外周を挟持部により挟圧部材側に押し付けて挟持する杭抜き装置が提案されている。特許文献2に記載の杭抜き装置は、杭頭付近を半筒状部及び挾圧部材間に挿入してる杭を半筒状部の内面に挾圧し、さらに、シューが半筒状部内の杭の外周に接触した後、これを挾圧部材の内周面へ押し付けることにより、杭を更に強力な挾持力で保持するようになっている。
【0009】
実開昭56-8635号公報(特許文献3)では、既存の木杭の頭部を、油圧の伸縮装置を用いて、左右同じ程度の力で掴むことができる引抜装置が提案されている。特許文献3に記載の引抜装置では、連結杆、腕杆及び挟持体が連結して構成される構造体を左右対称に伸縮装置に連結することにより、伸縮装置を用いて、木杭の頭部を左右同じ程度の力で確実に掴むことができるとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】実開昭56-206739号公報
【文献】実開平6-34046号公報
【文献】実開昭56-8635号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
バイブロハンマ引抜き工法で使用されるバイブロハンマは、通常、爪のような機構のチャックにより、杭頭を挟持する。それに対して、特許文献1及び2に記載の杭抜き装置は、杭を堅固に掴むために、通常とは異なる構造を採用している。すなわち、特許文献1に記載の杭抜き装置は、杭頭より大径であるケーシングパイプと進退移動自在なプッシュプレートで杭頭を挟持しており、特許文献2に記載の杭抜き装置は、半筒状部と挾圧部材で杭を挾圧し、さらにシューにより杭を挾圧部材の内周面へ押し付けている。このように、特許文献1及び2に記載の杭抜き装置は、通常のバイブロハンマとは異なる構造で作製することになるので、コスト等に影響を与える可能性がある。
【0012】
特許文献3に記載の引抜装置は、通常のバイブロハンマと類似の挟持体で杭頭を挟持しているが、左右の挟持体に同等な力が働くような構造となっており、やはり通常のバイブロハンマとは異なる構造での作製になる可能性があり、特許文献1及び2に記載の杭抜き装置と同様の課題を有する。また、特許文献3に記載の引抜装置の挟持体の構造で、杭を強力に挟持できるかは不明である
【0013】
本発明は上述のような事情よりなされたものであり、本発明の目的は、地中に埋設された杭の引抜きを、コスト等を抑制して効率的に実行可能とする杭抜き補助具及び杭抜き装置、並びにそれらを使用した杭抜き方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、地中に埋設された杭の杭頭を第1挟持片及び第2挟持片により挟持して前記杭を引き抜く杭抜き装置を補助する杭抜き補助具に関し、本発明の上記目的は、前記杭頭を挟持するときに移動する前記第1挟持片に接合される把持圧部材と、前記杭頭を挟持するときに静止している前記第2挟持片に接合される把持受部材と、を備え、前記把持圧部材が、前記第1挟持片を超える長さとなっており、前記把持受部材が、前記把持圧部材以上の長さで、側面に前記第1挟持片を挿入可能な大きさの開口部を有する筒状となっており、前記開口部の内側に前記把持圧部材が位置するように、前記第2挟持片に接合されることにより達成される。
【0015】
本発明の上記目的は、前記把持受部材が、前記杭頭を把持するときに下となる下端部が周方向において閉じた形状となっていることにより、或いは、前記把持受部材の下端部が、前記把持受部材の他の部分より厚くなっていることにより、或いは、前記把持受部材に対して、前記杭頭を把持するときに前記把持圧部材の下方に位置する保護部材が内面に設けられていることにより、或いは、前記把持圧部材及び前記把持受部材の少なくとも1つに対して、前記杭頭を把持するときに前記杭に接触する面に、周方向に延伸する突条部が突設されていることにより、より効果的に達成される。
【0016】
また、本発明は、杭抜き装置に関し、本発明の上記目的は、上記杭抜き補助具が接合されていることにより達成される。
【0017】
また、本発明は、杭抜き方法に関し、本発明の上記目的は、上記杭抜き装置を使用して前記杭を引き抜くことにより達成され、前記杭頭を把持するときに、前記杭抜き補助具の下部を地中に埋め込むことにより、より効果的に達成される。
【発明の効果】
【0018】
本発明の杭抜き補助具、杭抜き装置及び杭抜き方法によれば、既存のバイブロハンマ等の杭抜き装置を利用することができるので、コスト等を抑制することができる。また、把持圧部材及び把持受部材で杭を把持するので、堅固に杭を把持することができ、効率的な作業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る杭抜き補助具及びそれを備える杭抜き装置の例(第1実施形態)を示す斜視図である。
図2】バイブロハンマから杭抜き補助具を外した状態の杭抜き装置の例(第1実施形態)を示す分解斜視図である。
図3】把持圧部材の例(第1実施形態)を示す図であり、図3(A)は左側面図で、図3(B)は正面図である。
図4】把持受部材の例(第1実施形態)を示す図であり、図4(A)は正面図で、図4(B)は右側面図である。
図5】把持受部材の他の例(第1実施形態)を示す正面図である。
図6】バイブロハンマから杭抜き補助具を外した状態の杭抜き装置の例(第2実施形態)を示す分解斜視図である。
図7】把持受部材の例(第2実施形態)を示す図であり、図7(A)は正面図で、図7(B)は右側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る杭抜き補助具は、バイブロハンマ引抜き工法等により地中に埋設された杭を引き抜くときに使用されるバイブロハンマ等の杭抜き装置に装着され、杭抜き装置による杭の引抜き作業を補助する。バイブロハンマは、爪のような機構のチャックにより杭頭を挟持して杭を引き抜く構造となっており、本発明に係る杭抜き補助具は、チャックのように2つの部材が組となって杭頭を挟持する構造の当該部材に接合して、使用される。通常、バイブロハンマのチャックは、一方の部材が可動となっており、その部材が移動することにより杭頭を挟持する。本発明に係る杭抜き補助具は、杭頭を挟持するときに移動する部材(第1挟持片)に接合される把持圧部材と、杭頭を挟持するときに静止している部材(第2挟持片)に接合される把持受部材から構成される。
【0021】
把持圧部材は、杭頭を把持する状態における鉛直方向の長さが第1挟持片よりも長くなっている。把持受部材は、杭頭を把持する状態における鉛直方向の長さが把持圧部材の長さ以上となっており、側面に第1挟持片を挿入可能な大きさの開口部を有する筒状となっている。ここで、筒状とは、筒のように中が空洞となっている形状で、断面は円形に限られず、断面が多角形等となる形状も含む。また、開口部は、把持受部材の軸方向の両端まで延伸する形状、一方の端までだけ延伸する形状、両端まで延伸していない形状のいずれの形状でも良い。
【0022】
把持受部材は、開口部の内側に把持圧部材が位置するように、第2挟持片に接合される。これにより、把持圧部材が接合された状態でも、第1挟持片を移動させることができる。
【0023】
このような形状の把持圧部材及び把持受部材を第1挟持片及び第2挟持片それぞれに接合し、把持圧部材と把持受部材の間に杭頭を挿入し、第1挟持片を移動させて把持圧部材及び把持受部材で杭頭を把持することにより、第1挟持片及び第2挟持片のみで挟持する場合より堅固に杭頭を挟持することができる。
【0024】
本発明に係る杭抜き補助具は、把持受部材に対して、杭頭を把持するときに下となる端部である下端部を強化することが可能である。下端部を強化することにより、杭頭を把持する際に、杭抜き補助具の下部(下の部分)を地中に埋め込みやすくなり、より深い位置で杭を把持することができ、地上に露出している部分が短い場合でも長い範囲で杭を把持することが可能となり、より堅固に杭を把持することができる。下端部を強化するために、例えば、上記の開口部が下端部まで延伸せずに、下端部が周方向において閉じた形状とすることが可能である。閉じた形状とすることにより、一部が開いた形状とするよりも、下端部を強化することができる。また、下端部の厚さ(径方向の長さ)を、他の部分の厚さよりも厚くすることにより、下端部を強化することが可能である。下端部が周方向において閉じた形状でも一部が開いた形状でも、下端部の厚さを厚くすることが可能である。
【0025】
本発明に係る杭抜き補助具は、把持受部材の内面に、把持圧部材を保護するための保護部材を設けることが可能である。保護部材は、杭頭を把持するときに把持圧部材の下方となる位置に設けられ、杭抜き補助具の下部を地中に埋め込むときに、把持圧部材が地面に当接して破損する等の損害を抑制することができる。
【0026】
本発明に係る杭抜き補助具は、把持圧部材及び/又は把持受部材に対して、杭頭を把持するときに杭に接触する面に、周方向に延伸する突条部を突設することが可能である。突条部を突設することにより、より堅固に杭を把持することができる。
【0027】
本発明は、上述の杭抜き補助具として実現しても良いし、杭抜き補助具が接合されている杭抜き装置として実現しても良いし、当該杭抜き装置を使用して杭を引き抜く杭抜き方法として実現しても良い。杭抜き方法では、杭抜き補助具の下部を地中に埋め込み、杭頭を把持することが可能である。
【0028】
以下に、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。なお、各図において、同一構成要素には同一符号を付し、説明を省略することがある。また、以下の説明における数値や形状等は例示であり、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0029】
本発明に係る杭抜き補助具及びそれを備える杭抜き装置の例(第1実施形態)を図1図4に示す。
杭抜き装置1は、バイブロハンマ引抜き工法等により地中に埋設された杭を引き抜くバイブロハンマ20及び杭抜き補助具10から構成され、杭抜き補助具10は把持圧部材11及び把持受部材12から構成される。図1は杭抜き装置1の斜視図であり、図2はバイブロハンマ20から杭抜き補助具10を外した状態の杭抜き装置1の分解斜視図である。図3はバイブロハンマ20から外した状態での把持圧部材11の図であり、図3(A)は把持圧部材11の左側面図で、図3(B)は把持圧部材11の正面図である。図4はバイブロハンマ20から外した状態での把持受部材12の図であり、図4(A)は把持受部材12の正面図で、図4(B)は把持受部材12の右側面図である。なお、図1及び図2では、理解の容易化等から、装置の一部を簡略化して表現している箇所や、実際よりサイズを大きくしている箇所等がある。また、図1及び図2において、矢印で示すように、上側、下側、右側及び左側がそれぞれ杭抜き装置1の「上」、「下」、「右」及び「左」とし、前側及び後側がそれぞれ杭抜き装置1の「前」及び「後」とする。第2実施形態での杭抜き装置の例を示す図6でも同様である。
【0030】
バイブロハンマは、杭や鋼矢板等に振動を加えて、先端の抵抗及び摩擦抵抗を急速かつ一時的に低減させて、打込みや引抜きを行う装置である。バイブロハンマは、通常、電動式又は油圧式モータにより駆動する原動機、振動を発生させる起振機(振動発生装置)、杭や鋼矢板等を挟持する把持装置(チャック)、振動力をクレーンに伝えないための緩衝装置、動作を制御する制御装置等を備える。チャックは、挟持するものに応じて構造が異なっており、本実施形態でのバイブロハンマ20は、杭や鋼管を挟持するためのチャック21が装着されている。
【0031】
チャック21は、地中に埋設された杭の杭頭を挟持し、起振機による振動を杭に加える。杭頭を挟持するために、チャック21は、くの字形に屈曲した挟持片22及び23を備える。挟持片22及び23は、凹状となっている面を対向させるようにチャック21の本体に配設されており、挟持片23は移動しないようになっているが、挟持片22は左右方向に可動となっており、挟持片22が移動することにより、杭頭を挟持するようになっている。
【0032】
杭抜き補助具10は、杭頭を直接把持する把持圧部材11及び把持受部材12から構成される。把持圧部材11及び把持受部材12は、チャック21の挟持片22及び23にそれぞれ接合される。把持受部材12は円筒の形状となっており、把持圧部材11はその円筒と略同等な円周の一部である円弧の形状となっている。杭抜き装置1は、地中に埋設された杭を引き抜くときには、把持受部材12の内部に杭頭を挿入し、可動である挟持片22に接合されている把持圧部材11を杭に向かって移動させることにより、把持圧部材11と把持受部材12で杭頭を把持する。
【0033】
把持圧部材11は、上述のように円弧形となっており、チャック21の挟持片22及び23で杭を挟持するときより堅固に杭を把持できるような大きさになっている。すなわち、把持圧部材11の長さ(図2において前後方向の大きさ)は、挟持片22の長さよりも長く、例えば約80cmとなっている。把持圧部材11の幅(円弧の長さ)は、挟持片22の幅より大きいが、杭を把持する際に把持受部材12の内面に接触しないような大きさとなっており、例えば約30cmとなっている。把持圧部材11の厚さ(図2において左右方向の大きさ)は、杭を把持する際の強度等を考慮して、例えば約1cmとなっている。
【0034】
把持圧部材11は、凸状となっている面(図2において右側の面)において、把持圧部材11の長手方向(図2において前後方向)が杭を把持する際の鉛直方向と同じになるような向きで、溶接等によって、挟持片22に接合される。
【0035】
把持受部材12は、上述のように円筒形となっており、内部に杭頭が挿入され、移動する把持圧部材11の凹状となっている面(図2において左側の面、以下「凹面」とする)と把持受部材12の内面で杭頭を把持する。よって、把持受部材12の内径は、杭頭を挿入可能な大きさとなっており、例えば約40cmとなっている。把持受部材12は、上述のように杭頭を把持するので、把持受部材12の長さ(図2において前後方向の大きさ)は、把持圧部材11の長さ以上で、後述の保護部材13が端部に設けられているので、その分を考慮した長さとなっており、例えば約100cmとなっている。
【0036】
把持受部材12は、挟持片22を挿入可能な大きさの開口部16を側面に有する。杭抜き装置1は、把持圧部材11が把持受部材12の径方向(図1において左右方向)に移動して、把持受部材12の内部に挿入された杭頭を把持する。この際、把持圧部材11が接合された挟持片22は、把持受部材12の外部から内部に移動することになるので、その移動を可能とするために、把持受部材12の側面に開口部16が設けられている。把持受部材12では、開口部16は、杭頭を把持するときに上となる端部である上端部から軸方向(図2において前後方向)に延伸する形状で設けられており、挟持片22を挿入可能な長さ(軸方向の大きさ)及び幅(周方向の大きさ)を有する長方形の形状、例えば長さが約50cm、幅が約30cmの長方形の形状となっている。把持受部材12は、把持圧部材11が開口部16の内側(図2において開口部16の左側)に位置するように、挟持片23に接合される。
【0037】
杭抜き装置1は、地中に埋設された杭の杭頭を把持受部材12の内部に挿入するときに、より深い位置で杭を把持できるように、把持受部材12の下端部15を地中に埋め込む。地中への埋め込みを容易にするために、把持受部材12の下端部15は周方向において閉じた形状である円形となっており、さらに、下端部15の厚さ(径方向の大きさ)は、他の部分より厚くなっている。例えば、下端部15以外の部分の厚さは、把持圧部材11と同等の厚さ(例えば約1cm)となっているが、下端部15の厚さはそれよりも厚く(例えば約2cm)なっている。厚くする長さ、つまり下端部15の長さ(軸方向の大きさ)は、強度、重量等を考慮して設定されており、例えば約1cmとなっている。なお、高強度な素材で把持受部材12を作製する等で、下端部15の厚さを他の部分より厚くする必要がない場合は、把持受部材12全体を同じ厚さとしても良い。
【0038】
把持受部材12の下端部15を地中に埋め込む際に、把持受部材12の内面近くに位置する把持圧部材11を保護するために、把持受部材12は、内面に保護部材13が設けられている。把持圧部材11が地面に当接することを抑制するために、保護部材13は、杭頭を把持するときに把持圧部材11の下方となる位置で、下端部15の近辺に設けられる。保護部材13は、把持受部材12と同様に円弧形となっており、幅(円弧の長さ)は把持圧部材11と略同等の大きさ(例えば約30cm)となっている。保護部材13の厚さ(図2において左右方向の大きさ)は、把持圧部材11の厚さに後述の突条部14aの高さを加えた大きさ(例えば2~3cm)となっており、保護部材13の長さ(図2において前後方向の大きさ)は、強度等を考慮した大きさ(例えば約2cm)となっている。
【0039】
把持受部材12は、外面において、上述のように把持圧部材11が開口部16の内側に位置するように、溶接等によって、挟持片23に接合される。
【0040】
把持圧部材11及び把持受部材12には、把持受部材12の内部に挿入された杭頭をより堅固に把持できるように、把持するときに杭に接触する面に、周方向に延伸する突条部14が突設されている。把持圧部材11では、凹面に複数の突条部14aが突設されており、把持受部材12では、内面において少なくとも把持圧部材11の凹面と対向する位置に複数の突条部14bが突設されている。突条部14aと突条部14bの大きさ及び/又は数は同じでも異なっていても良い。例えば、把持圧部材11には、図3(A)に示されるように、5つの突条部14aが等間隔で突設されており、突条部14aの長さ(周方向の大きさ)は把持圧部材11の幅と略同等の大きさ(例えば約30cm)とし、突条部14aの高さ(径方向の大きさ)及び厚さ(軸方向の大きさ)は、杭を把持する際の強度等を考慮した大きさ(例えば、それぞれ1~2cm、2cm)となっている。把持受部材12には、突条部14aより多い数(例えば7つ)の突条部14bが等間隔で突設されており、突条部14bの長さは突条部14aと略同等の大きさ(例えば約30cm)とし、突条部14bの高さ及び厚さは、突条部14aより小さい大きさ(例えば、共に約1cm)となっている。
【0041】
杭抜き補助具10は、強度、硬度、耐久性等を考慮した素材で作製されており、例えば炭素鋼、ステンレス鋼、合金鋼等の鋼鉄で作製されている。なお、鋼鉄以外の素材で杭抜き補助具10を作製しても良く、把持圧部材11と把持受部材12で使用する素材を変えても良く、保護部材13等も異なる素材で作製しても良い。
【0042】
このような構成の杭抜き装置1を使用して、地中に埋設された杭を引き抜く方法について説明する。なお、杭抜き装置1は、クレーン等の吊り上げ装置に連結されているとする。
【0043】
まず、油圧ショベル等を使用して地盤を掘削して、地中に埋設された杭の杭頭を露出させる。この場合、より長く杭頭を露出させた方が把持し易くなるが、杭頭を長く露出させるためには、地盤を広く掘削する必要があり、住宅街等の広くない場所での作業では、広い範囲の掘削が難しいことがある。本実施形態での杭抜き装置1は、杭抜き補助具10の下部を地中に埋め込むことができるので、杭頭を長く露出させなくても、効率的に杭を引き抜くことができる。
【0044】
杭頭を露出させたら、吊り上げ装置により杭抜き装置1を杭頭の上方に移動させ、把持受部材12の下端部15から杭頭を把持受部材12の内部に挿入するように、杭抜き装置1を下降させる。そして、掘削された表面に下端部15が接触したら、バイブロハンマ20の起振機によりチャック21、更に杭抜き補助具10を振動させながら、杭抜き装置1を更に下降させ、下端部15から杭抜き補助具10の下部を地中に埋め込む。この場合、保護部材13により保護されているので、把持圧部材11の下部が地中に埋まっても良い。
【0045】
適度な位置まで杭抜き装置1を地中に埋め込んだら、把持圧部材11を杭に向かって移動させ、把持圧部材11と把持受部材12により杭頭を把持する。そして、通常のバイブロハンマと同様に、起振機によりチャック21及び杭抜き補助具10を振動させながら、杭全体が地中から露出するまで、吊り上げ装置により杭抜き装置1を上昇させる。
【0046】
最後に、杭抜き装置1により杭を把持した状態で、吊り上げ装置により、安全な場所まで杭を移動させる。そして、把持する場合と反対の向きに把持圧部材11を移動させて、杭抜き装置1から杭を外す。
【0047】
本実施形態において、把持受部材12は円筒形となっているが、内部に杭を挿入可能であれば、把持受部材12は角柱形等の他の形状でも良い。この場合、把持圧部材11は、把持受部材12と共に杭頭を把持可能であれば、把持受部材12の形状に合わせた形状としても良いし、円弧形のままでも良い。
【0048】
開口部16は、挟持片22が挿入可能であれば、長方形以外の形状でも良く、把持受部材12の上端部において開いた形状でなくても良い。
【0049】
保護部材13の形状は、把持圧部材11を保護可能であれば、円弧形ではなく、他の形状でも良く、例えば、図5に示されるように、複数の部材で構成される形状でも良い。図5は、図4(A)と同様に、バイブロハンマ20から外した状態での把持受部材17の正面図である。把持受部材17の内面に設けられている保護部材18は、保護部材13を周方向に複数に分割し、分割された部材のうちの4つの部材を周方向に等間隔に配置したような形状となっている。
【0050】
保護部材13は、把持圧部材11が強固に作製されており、保護する必要がない場合等では、設けなくても良い。保護部材13を設けない場合、把持圧部材11の長さと把持受部材12の長さは同じでも良い。突条部14も、突条部14を設けなくても杭頭を堅固に把持可能であれば、設けなくても良い。
【0051】
本発明の第2実施形態について説明する。
第1実施形態での杭抜き補助具10の把持受部材12では、開口部16は下端部まで延伸しておらず、下端部15は周方向において閉じた形状となっているが、開口部が下端部まで延伸し、下端部は、周方向において開口部の部分が開いた形状とすることも可能である。
【0052】
把持受部材が上述のような形状となっている杭抜き装置の例(第2実施形態)を図6及び図7に示す。杭抜き装置2は、バイブロハンマ20及び杭抜き補助具30から構成され、杭抜き補助具30は把持圧部材31及び把持受部材32から構成される。図6は、図2と同様に、バイブロハンマ20から杭抜き補助具30を外した状態の杭抜き装置2の分解斜視図である。図7は、図4と同様に、バイブロハンマ20から外した状態での把持受部材32の図であり、図7(A)は把持受部材32の正面図で、図7(B)は把持受部材32の右側面図である。
【0053】
把持受部材32は、把持受部材12と同様に円筒形となっているが、挟持片22を挿入可能とするために側面に設けられている開口部36は、軸方向に上端部から下端部まで延伸しており、下端部は、周方向において開口部36の部分が開いた形状となっている。把持受部材32の内径は、把持受部材12と同等の大きさ(例えば約40cm)となっている。把持受部材32には把持圧部材31を保護する保護部材が設けられていないので、把持受部材32の長さは、把持受部材12と比べて、保護部材の分だけ短い長さ(例えば約95cm)としても良いし、把持受部材12と同等の長さ(例えば約100cm)としても良い。開口部36の長さは把持受部材32と同じ長さとなり、開口部36の幅は、挟持片22が挿入可能であれば、開口部16と同じでも異なっても良い。また、開口部36は、挟持片22が挿入可能であれば、長方形以外の形状でも良く、把持受部材32の上端部において開いた形状でなくても良い。
【0054】
把持受部材32は、把持受部材12とは異なり、下端部が他の部分より厚くなっておらず、全体が同じ厚さとなっている。把持受部材32は、把持受部材12と同様に、杭頭を把持する際に下端部が地中に埋め込まれるので、把持受部材32の厚さは、下端部を地中に埋めることができるような厚さとなっているが、厚くなるに従って重量は重くなるので、重量も考慮した厚さ(例えば約1.5cm)となっている。なお、高強度な素材で把持受部材32を作製する等により把持受部材32の厚さを把持受部材12と同等の厚さとしても良いし、把持受部材12のように下端部を他の部分より厚くしても良い。
【0055】
把持受部材32の内面には、把持受部材12と同様に、把持受部材32の内部に挿入された杭頭をより堅固に把持できるように、周方向に延伸する複数の突条部34bが突設されている。突条部34bの大きさ及び/又は数は、把持受部材12に突設されている突条部14bと同じでも異なっていても良い。
【0056】
把持圧部材31は、把持圧部材11と同様の形状でも良いが、開口部36の長さに合わせて、把持圧部材11よりも長くしても良い。また、把持圧部材31の厚さは、把持受部材32に保護部材が設けられていないので、地中への埋め込みに耐えられるように、把持受部材32と同等な厚さにするのが好適である。
【0057】
上述の実施形態(第1及び第2実施形態)では、杭抜き補助具は、バイブロハンマ20のチャック21に対して接合されているが、本発明に係る杭抜き補助具は、杭頭を挟持可能であれば、バイブロハンマ以外の杭抜き装置に適用可能である。但し、杭頭を把持する際に杭抜き補助具の下部を地中に埋め込めるように、バイブロハンマのように杭抜き補助具を振動させる等、地中への埋め込みを容易化する機能を有する装置が好適である。
【0058】
本発明は、上述の実施形態での杭抜き補助具として実現するだけではなく、杭抜き補助具を備える杭抜き装置として実現することも、当該杭抜き装置を使用した杭抜き方法として実現することも可能である。
【0059】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。また、上記形態において明示的に開示されていない事項、例えば杭抜き補助具の重量等は、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用することができる。
【符号の説明】
【0060】
1、2 杭抜き装置
10、30 杭抜き補助具
11、31 把持圧部材
12、17、32 把持受部材
13、18 保護部材
14、14a、14b、34b 突条部
15 下端部
16、36 開口部
20 バイブロハンマ
21 チャック
22、23 挟持片
【要約】
【課題】地中に埋設された杭の引抜きを、コスト等を抑制して効率的に実行可能とする杭抜き補助具及び杭抜き装置、並びにそれらを使用した杭抜き方法を提供する。
【解決手段】地中に埋設された杭の杭頭を第1挟持片及び第2挟持片により挟持して杭を引き抜く杭抜き装置を補助する杭抜き補助具であって、杭頭を挟持するときに移動する第1挟持片に接合される把持圧部材と、杭頭を挟持するときに静止している第2挟持片に接合される把持受部材と、を備え、把持圧部材が、第1挟持片を超える長さとなっており、把持受部材が、把持圧部材以上の長さで、側面に第1挟持片を挿入可能な大きさの開口部を有する筒状となっており、開口部の内側に把持圧部材が位置するように、第2挟持片に接合される。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7