(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-26
(45)【発行日】2025-06-03
(54)【発明の名称】超電導ケーブル及び電力輸送システム
(51)【国際特許分類】
H01B 12/02 20060101AFI20250527BHJP
H01F 6/06 20060101ALI20250527BHJP
H02J 15/00 20060101ALN20250527BHJP
【FI】
H01B12/02
H01F6/06 110
H02J15/00 B
(21)【出願番号】P 2021120933
(22)【出願日】2021-07-21
【審査請求日】2024-02-09
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「エネルギー・環境新技術先導プログラム/未踏チャレンジ2050/革新的エネルギーネットワーク基盤技術の創製」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099634
【氏名又は名称】平井 安雄
(72)【発明者】
【氏名】東川 甲平
【審査官】鈴木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開平5-308726(JP,A)
【文献】国際公開第2015/033768(WO,A2)
【文献】特開平10-312718(JP,A)
【文献】特開2012-143018(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 12/00-12/16
H01F 6/06
H02J 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
出力が時間に応じて変化する一の電源と負荷との間で電力輸送を行う超伝導ケーブルであって、
前記一の電源の一端側と前記負荷との間で接続され、非磁性体の心材の長手方向に対して所定の角度で螺旋状に巻回される第1の超伝導線材と、
前記一の電源の他端側と前記負荷との間で接続され、前記第1の超伝導線材と絶縁された状態で前記心材に積層して巻回され、前記第1の超伝導線材に電流を通電した場合に生じる磁界と同方向の磁界を生じるように前記心材の長手方向に対して所定の角度で螺旋状に巻回される第2の超伝導線材と、
を有するエネルギー貯蔵手段を備えることを特徴とする超伝導ケーブル。
【請求項2】
請求項1に記載の超伝導ケーブルにおいて、
前記エネルギー貯蔵手段が、
出力が時間に応じて変化する他の電源の一端側と前記負荷との間で接続され、前記心材の長手方向に対して前記第1の超伝導線材に電流を通電した場合に生じる磁界と同方向の磁界を生じるように所定の角度で螺旋状に巻回される第3の超伝導線材を有し、
共通の前記心材に対して巻回される超伝導線材が、夫々絶縁された状態で積層して巻回されている超伝導ケーブル。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の超伝導ケーブルにおいて、
前記エネルギー貯蔵手段が、
出力が時間に応じて変化する他の電源の他端側と前記負荷との間で接続され、前記心材の長手方向に対して前記第1の超伝導線材に電流を通電した場合に生じる磁界と同方向の磁界を生じるように所定の角度で螺旋状に巻回される第4の超伝導線材を有し、
共通の前記心材に対して巻回される超伝導線材が、夫々絶縁された状態で積層して巻回されている超伝導ケーブル。
【請求項4】
出力が時間に応じて変化する電源と負荷との間で電力輸送を行う超伝導ケーブルであって、
一の電源の一端側と前記負荷との間で接続され、非磁性体の一の心材の長手方向に対して所定の角度で螺旋状に巻回される第1の超伝導線材と、
前記一の電源の他端側と前記負荷との間で接続され、非磁性体の他の心材の長手方向に対して所定の角度で螺旋状に巻回される第2の超伝導線材と、
他の電源の一端側と前記負荷との間で接続され、前記一の心材の長手方向に対して前記第1の超伝導線材に電流を通電した場合に生じる磁界と同方向の磁界を生じるように所定の角度で螺旋状に巻回されるか、又は、前記他の心材の長手方向に対して前記第2の超伝導線材に電流を通電した場合に生じる磁界と同方向の磁界を生じるように所定の角度で螺旋状に巻回される第3の超伝導線材と、
を有するエネルギー貯蔵手段を備え、
共通の心材に対して巻回される超伝導線材が、夫々絶縁された状態で積層して巻回されることを特徴とする超伝導ケーブル。
【請求項5】
請求項4に記載の超伝導ケーブルにおいて、
前記エネルギー貯蔵手段が、
他の電源の他端側と前記負荷との間で接続され、前記一の心材の長手方向に対して前記第1の超伝導線材に電流を通電した場合に生じる磁界と同方向の磁界を生じるように所定の角度で螺旋状に巻回されるか、又は、前記他の心材の長手方向に対して前記第2の超伝導線材に電流を通電した場合に生じる磁界と同方向の磁界を生じるように所定の角度で螺旋状に巻回される第4の超伝導線材を有する超伝導ケーブル。
【請求項6】
出力が時間に応じて変化する電源と負荷との間で電力輸送を行う超伝導ケーブルであって、
一の電源の一端側と前記負荷との間で接続され、非磁性体の一の心材の長手方向に対して所定の角度で螺旋状に巻回される第1の超伝導線材と、
前記一の電源の他端側と前記負荷との間で接続され、非磁性体の他の心材の長手方向に対して所定の角度で螺旋状に巻回される第2の超伝導線材と、
他の電源の他端側と前記負荷との間で接続され、前記一の心材の長手方向に対して前記第1の超伝導線材に電流を通電した場合に生じる磁界と同方向の磁界を生じるように所定の角度で螺旋状に巻回されるか、又は、前記他の心材の長手方向に対して前記第2の超伝導線材に電流を通電した場合に生じる磁界と同方向の磁界を生じるように所定の角度で螺旋状に巻回される第4の超伝導線材と、
を有するエネルギー貯蔵手段を備え、
共通の心材に対して巻回される超伝導線材が、夫々絶縁された状態で積層して巻回されることを特徴とする超伝導ケーブル。
【請求項7】
請求項2ないし6のいずれかに記載の超伝導ケーブルを用いた電力輸送システムであって、
前記エネルギー貯蔵手段が、
前記一の電源を含む一の系統と前記他の電源を含む他の系統との間でエネルギーの貯蔵及び放出を行う電力輸送システム。
【請求項8】
請求項1に記載の超伝導ケーブルを用いた電力輸送システム、又は請求項7に記載の電力輸送システムにおいて、
前記負荷の消費電力に応じて当該負荷の受電端の電圧を調整する調整手段を備える電力輸送システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時間的な変動が大きい電源から負荷に対して電力を送電する超伝導ケーブルに関し、特に電力貯蔵機能を有する超伝導ケーブル及びそれを用いた電力輸送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光発電などの再生可能エネルギーの活用が急速に増大している。
図9のグラフは太陽光発電において一日の時間経過に対する出力電力の一例を示す図である。
図9に示すように晴れの日は短時間での出力変動があまりなく安定的に増加、減少するように変化している。雨の日は短時間での出力変動があるものの、そもそも出力電力が小さいためその変動による影響はそれほど大きいものとなりにくい。一方、曇りの日の場合は出力電力が安定せず、状況によっては毎秒10%の速度でその出力が変化することもある。すなわち、再生可能エネルギーのように短時間で大きく出力変動が起こる場合において、高速且つ高出力での電力補償が必要不可欠である。現状では、この電力補償にキャパシタ、二次電池、電力貯蔵(SMES)等が活用されている。
【0003】
キャパシタの場合、秒以下の短時間で出力することが可能であるものの、その出力が小さくなってしまう。二次電池の場合は秒以下の短時間で最大出力を得るのが難しく、充放電の回数に限界があるため寿命が短くなってしまうといった問題もある。SMESのような超伝導を利用した電力貯蔵を利用する場合は、秒以下の短時間で比較的高出力を実現することが可能であるものの出力が十分とは言えず、装置構成が複雑で大型化してしまうといった課題がある。
【0004】
電力輸送に関して、例えば非特許文献1及び特許文献1、2に示す技術が開示されている。非特許文献1に示す技術は、超伝導ケーブルにより電力系統自体に磁気エネルギーによるエネルギー貯蔵機能を持たせることで、上記のような電力補償を可能とするものである。
【0005】
特許文献1に示す技術は、需要先と異なる遠隔地域にある炭田地域での石炭エネルギーをその炭田地域近傍での火力発電により電気エネルギーに変換する炭田近傍の火力発電手段と、需要先側の交流負荷と、交流送配電網と、前記炭田近傍の火力発電手段よりの電気エネルギーを電力輸送手段を介して前記送配電網に送電する電力輸送手段とからなる石炭エネルギー利用システムであって、前記電力輸送手段は、送電ロスの小さな直流電力において超電導の電力輸送ケーブルを利用して輸送を行う超電導送電系統と、常温における通常の送配電網の組み合わせであって、その接続端に設けた交直変換機構により需要先へ給電する送配電網への給電位置で交流に変換して該交流送配電網を介して需要先に電気エネルギーの輸送を行うものである。
【0006】
特許文献2に示す技術は、超伝導体を用いて電力を送電する超伝導ケーブルにおいて、超伝導ケーブルの長手方向を基準方向とし、基準方向に対して正、又は負のいずれか一の角度で螺旋状に配設される超伝導材からなる導電部を備え、導電部が複数の層からなり、最内層から最外層に向かって、螺旋の角度が基準方向に対して順次異なる角度であり、導電部に流れる電流により当該電流の流れと同方向に磁界を生じさせるものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Kohei Higashikawa and Takanobu Kiss “Novel Power System With Superconducting Cable With Energy Storage Function for Large-Scale Introduction of Renewable Energies”, IEEE TRANSACTIONS ON APPLIED SUPERCONDUCTIVITY, VOL. 29, NO. 5, AUGUST 2019
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2004/088815号
【文献】国際公開第2011/043376号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
非特許文献1に示す技術は、超伝導ケーブルを用いて電力系統自体にエネルギー貯蔵機能を持たせることで高速且つ高出力での電力補償が可能であり、充放電による寿命などもないが、エネルギー貯蔵の観点ではより大きなエネルギーを効率よく貯蔵することが望まれている。
【0010】
特許文献1には、余剰電流を貯蔵するために閉回路が形成された超伝導ケーブルが記載されているが、充放電のために電流バイパス回路により切り替え制御が必要となり動作が複雑化してしまうと共に、上記のような秒以下の短時間で高出力の電力補償を可能とする技術として開示されているものではない。
【0011】
特許文献2には、内側と外側とで往復の送電を可能となる超伝導ケーブルが記載されているが、あくまで臨界電流密度を上げて大電流を輸送するための技術であり、エネルギー貯蔵により電力補償を可能とするものではない。
【0012】
本発明は、出力が短時間で変動する電源と負荷との間で電力輸送を行いながら磁気エネルギーを貯蔵し、往路の超伝導線と復路の超伝導線とで相互インダクタンスを作用させることで貯蔵できるエネルギー量を大幅に増やすことができる超伝導ケーブル及び当該超伝導ケーブルを用いた電力輸送システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る超伝導ケーブルは、出力が時間に応じて変化する一の電源と負荷との間で電力輸送を行う超伝導ケーブルであって、前記一の電源の一端側と前記負荷との間で接続され、非磁性体の心材の長手方向に対して所定の角度で螺旋状に巻回される第1の超伝導線材と、前記一の電源の他端側と前記負荷との間で接続され、前記第1の超伝導線材と絶縁された状態で前記心材に積層して巻回され、前記第1の超伝導線材に電流を通電した場合に生じる磁界と同方向の磁界を生じるように前記心材の長手方向に対して所定の角度で螺旋状に巻回される第2の超伝導線材と、を有するエネルギー貯蔵手段を備えるものである。
【0014】
このように、本発明に係る超伝導ケーブルにおいては、出力が時間に応じて変化する電源から負荷に電力を輸送する場合に、非磁性体の心材の長手方向に対して所定の角度で螺旋状に巻回して電源の一端側と負荷との間を接続する第1の超伝導線材と、第1の超伝導線材と絶縁された状態で前記心材に積層して巻回され、第1の超伝導線材に電流を通電した場合に生じる磁界と同方向の磁界を生じるように前記心材の長手方向に対して所定の角度で螺旋状に巻回して一の電源の他端側と負荷との間を接続する第2の超伝導線材と、を有するエネルギー貯蔵手段を備えるため、第1の超伝導線材と第2の超伝導線材とが共巻されることで単位長さあたりのインダクタンスを最大4倍にすることができ、貯蔵できる総エネルギー量を最大で2倍にまで上げることができるという効果を奏する。
【0015】
また、第1の超伝導線材と第2の超伝導線材とが共通の心材に対して巻回されることで、超伝導ケーブルの総長を半減することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第1の実施形態に係る超伝導ケーブルを用いた電力輸送システムの構成を示す模式図である。
【
図2】第1の実施形態に係る超伝導ケーブルの構造の一例を示す図である。
【
図3】
図1における電力輸送システムの等価回路を示す図である。
【
図4】第2の実施形態に係る超伝導ケーブルを用いた電力輸送システムの構成を示す模式図である。
【
図5】
図4における電力輸送システムの等価回路を示す図である。
【
図6】第2の実施形態に係る超伝導ケーブルにおいて負荷側の電圧制御により系統間のエネルギーの受け渡しを行う場合のシミュレーション結果を示す図である。
【
図7】第2の実施形態に係る超伝導ケーブルを用いた電力輸送システムのシステム構成例を示す図である。
【
図8】その他の実施形態に係る電力輸送システムにおいて、負荷側の電圧が一定である場合と可変する場合との出力の比較例を示す図である。
【
図9】太陽光発電において一日の時間経過に対する出力電力の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(本発明の第1の実施形態)
本実施形態に係る超伝導ケーブルについて
図1ないし
図3を用いて説明する。本実施形態に係る超伝導ケーブルは、超伝導を利用してケーブル自体に高い磁気エネルギーを貯蔵することで短時間に大きく出力変動する電源の電力補償を可能とするものである。
【0018】
図1は、本実施形態に係る超伝導ケーブルを用いた電力輸送システムの構成を示す模式図である。
図1において、電力輸送システム1は、時間変化に応じて出力電力が不規則に変動する電源11と、電源11の出力電力を受電する負荷13と、電源11と負荷13との間を接続して電力輸送を行う超伝導ケーブル12とを備える。電源11は、
図9に示す太陽光発電のような再生可能エネルギーを用いたものであり、短時間に出力が大きく変動するものが想定される。負荷13は一般的な需要家であり高圧の大口・小口需要家や低圧需要家が想定される。
【0019】
超伝導ケーブル12は、電源11の正極側と負荷13とを接続する第1の超伝導線材12aと、電源11の負極側と負荷13とを接続する第2の超伝導線材12bとを有している。第1の超伝導線材12aは、非磁性体の心材14の長手方向に対して所定の角度で螺旋状に(ソレノイド状に)巻回されており、第2の超伝導線材12bも第1の超伝導線材に積層された状態で心材14の長手方向に対して所定の角度で螺旋状に(ソレノイド状に)巻回されるが、このとき第1の超伝導線材12aに電流が通電された場合に生じる磁界と同方向の磁界を生じるような角度で心材14の長手方向に対して螺旋状に巻回される。つまり、電源11から負荷に対して電力が供給され電流が通電される場合に、第1の超伝導線材12aで生じる長手方向の磁界と、第2の超伝導線材で生じる長手方向の磁界とが強め合うように巻回されている。
【0020】
図2は、本実施形態に係る超伝導ケーブルの構造の一例を示す図である。
図2において、第1の超伝導線材12aは心材14に螺旋状に巻回される。その外側には絶縁層15を介して第2の超伝導線材12bが積層されて巻回される。第2の超伝導線材12bの層のさらに外側には冷媒を流すための冷媒層16が形成され、最外層である保護層18との間には断熱層17が形成される。このとき、電源11から負荷13に向かって(以下、往路という)第1の超伝導線材12aに電流が通電された場合に、矢印Aの方向に磁界が生じるように第1の超伝導線材12aが心材14に巻回されているとすると、第2の超伝導線材12bには負荷13から電源11に向かって(以下、復路という)電流が通電され、このときに矢印Aの方向に磁界が生じるように第2の超伝導線材12bが巻回されている。
【0021】
すなわち、電源11と負荷13との間の往復送電を一本のケーブルで行うことでケーブルの総長を短くすることができると共に、それぞれの超伝導線材を流れる電流により相乗的な磁気エネルギーを生成することが可能となる。以下、エネルギー貯蔵量に関してより詳細に説明する。
【0022】
図3は、
図1における電力輸送システムの等価回路を示す図である。
図3の回路図においてPV1は電源11、LOAD1は負荷13、L
1は第1の超伝導線材12aによる自己インダクタンス、L
2は第2の超伝導線材12bによる自己インダクタンス、M
12はL
1とL
2との間に働く相互インダクタンス、v
xxはそれぞれの位置における電圧、i
xxはそれぞれの位置における電流、p
xxはそれぞれの位置における電力を示している。
【0023】
図3の回路図における超伝導ケーブル12のエネルギー貯蔵量の合計W
totalは、
【0024】
【0025】
となる。一方、往路である第1の超伝導線材12aと復路である第2の超伝導線材12bとをそれぞれ個別のケーブルとして運用する場合は、両者間に働く相互インダクタンスがゼロとなり、エネルギー貯蔵量の合計は
【0026】
【0027】
にとどまる。すなわち、本実施形態に係る超伝導ケーブル12によってエネルギー貯蔵量を大幅に増加されることが可能となり、例えば両者が理想的に磁気的な結合をした場合には、
【0028】
【0029】
となり、L1=L2,i1=i2とすると、本実施形態に係る超伝導ケーブル12によるエネルギー貯蔵量の合計は、それぞれの超伝導線材がそれぞれ個別に運用された場合の2倍となる。また、往路と復路のケーブルを一本のケーブルとして一つの真空断熱管に収めることができるため、冷却や敷設に係る手間やコストを大幅に低減することが可能となる。
【0030】
このように、本実施形態に係る超伝導ケーブル12においては、第1の超伝導線材12aと第2の超伝導線材12bとが共巻されることで単位長さあたりのインダクタンスを最大4倍にすることができ、貯蔵できる総エネルギー量を最大で2倍にまで上げることができ、大容量のエネルギー貯蔵を実現することができる。
【0031】
また、第1の超伝導線材12aと第2の超伝導線材12bとが共通の心材14に対して巻回されることで、超伝導ケーブル12の総長を半減し、冷却や敷設に係る手間やコストを大幅に低減することが可能となる。
【0032】
(本発明の第2の実施形態)
本実施形態に係る超伝導ケーブルについて、
図4ないし
図7を用いて説明する。本実施形態に係る超伝導ケーブルは、電源と負荷とを有する電力輸送システムの系統が複数ある場合に、それらの系統を構成する超伝導ケーブルを利用することで系統間のエネルギーのやり取りを行うものである。なお、本実施形態において前記第1の実施形態と重複する説明は省略する。
【0033】
図4は、本実施形態に係る超伝導ケーブルを用いた電力輸送システムの構成を示す模式図である。電力輸送システム1は、系統1の輸送システムと系統2の輸送システムとを有しており、系統1の輸送システムにおいては、時間変化に応じて出力電力が不規則に変動する第1の電源11aと、第1の電源11aの出力電力を受電する第1の負荷13aと、第1の電源11aと第1の負荷13aとの間を接続して電力輸送を行う超伝導ケーブル121とを備える。超伝導ケーブル121は、第1の電源11aの正極側と第1の負荷13aとを接続する第3の超伝導線材121aと、第1の電源11aの負極側と第1の負荷13aとを接続する第4の超伝導線材121bとを有している。第3の超伝導線材121aは、前記第1の超伝導線材12aと同様に非磁性体の心材14の長手方向に対して所定の角度で螺旋状に巻回されている。
【0034】
系統2の輸送システムにおいては、時間変化に応じて出力電力が不規則に変動する第2の電源11bと、第2の電源11bの出力電力を受電する第2の負荷13bと、第1の電源11bと第1の負荷13bとの間を接続して電力輸送を行う超伝導ケーブル122とを備える。超伝導ケーブル122は、第2の電源11bの正極側と第2の負荷13bとを接続する第5の超伝導線材122aと、第2の電源11bの負極側と第2の負荷13bとを接続する第6の超伝導線材122bとを有している。第5の超伝導線材122aは第3の超伝導線材121aに積層された状態で心材14の長手方向に対して所定の角度で螺旋状に巻回されるが、このとき第3の超伝導線材121aに電流が通電された場合に生じる磁界と同方向の磁界を生じるような角度で心材14の長手方向に対して螺旋状に巻回される。
【0035】
すなわち、第1の電源11a及び第2の電源11bから第1の負荷13a及び第2の負荷13bに対してそれぞれ電力が供給されて電流が通電される場合に、第3の超伝導線材121aで生じる長手方向の磁界と、第5の超伝導線材122aで生じる長手方向の磁界とが強め合うように巻回されている。
【0036】
このように、異なる系統間であっても、電力輸送を行う超伝導線材を一本のケーブルに共巻することでケーブルの総長を短くすることができると共に、それぞれの超伝導線材を流れる電流により相乗的な磁気エネルギーを生成することが可能となる。
【0037】
図5は、
図4における電力輸送システムの等価回路を示す図である。
図5の回路図においてPV1は第1の電源11a、PV2は第2の電源11b、LOAD1は第1の負荷13a、LOAD2は第2の負荷13b、L
1は第3の超伝導線材121aによる自己インダクタンス、L
2は第5の超伝導線材122aによる自己インダクタンス、M
12はL
1とL
2との間に働く相互インダクタンス、v
xxはそれぞれの位置における電圧、i
xxはそれぞれの位置における電流、p
xxはそれぞれの位置における電力を示している。
【0038】
図5の回路図に示す通り、エネルギー貯蔵量の合計W
totalについては前記第1の実施形態において説明した
図3の場合と同じである。つまり、本実施形態に係る超伝導ケーブル121、122によるエネルギー貯蔵量の合計を、それぞれの超伝導線材が個別に運用された場合の2倍とすることができる。
【0039】
上述したように、
図4及び
図5に示す電力輸送システムでは、異なる系統間であってもエネルギーの貯蔵量を増大させることが可能であるが、さらに本実施形態においては、系統間でエネルギーの受け渡しが可能となる。すなわち、本実施形態に係る超伝導ケーブルは、系統1の第3の超伝導線材121aと系統2の第5の超伝導線材122aとが磁気結合しているため、第3の超伝導線材121a(又は第5の超伝導線材122a)で蓄えられた磁気エネルギーを第5の超伝導線材122a(又は第3の超伝導線材121a)と共有することが可能となる。つまり、例えば第1の電源11aから出力された電力が第3の超伝導線材121aにより磁気エネルギーとして貯蔵され、磁気結合する第5の超伝導線材122aから第2の負荷13bにエネルギーを供給することが可能となる。このように、複数の系統間でエネルギーの授受が可能になることで、消費電力に応じた適正なエネルギー分配が可能となる。
【0040】
負荷側の電圧制御と系統間のエネルギーの受け渡しについてより詳細に説明する。
図5の回路図においてインダクタンスによる電圧降下は以下の式で与えられる。
【0041】
【0042】
これをそれぞれの系統に流れる電流i1、i2について解くと、以下の通りに求めることができる。
【0043】
【0044】
このとき、例えば系統1の第1の負荷13aの負荷電圧vL1を増加させて電位差(vP1-vL1)を負とした場合、i1が減少しi2は増加する。すなわち、系統1側のエネルギーを系統2に受け渡すことが可能となる。換言すれば、負荷側の電圧を制御することで系統間のエネルギーの受け渡しを制御することが可能となる。
【0045】
図6は、負荷側の電圧制御により系統間のエネルギーの受け渡しを行う場合のシミュレーション結果を示す図である。まず
図6(A)に示すように、初期条件(t=0 s)では系統1のみで発電(p
P1=5 MW)と電力の消費(p
L1=5 MW)が行われるものとし、系統1のみに電流(i=10 kA)が流れている。なお、それぞれの系統の超伝導ケーブルの自己インダクタンスはL
1=L
2=20 Hとし、現実的な両者の磁気結合(第3の超伝導線材121aと第5の超伝導線材122aの磁気結合)を結合係数k=0.9と想定し、相互インダクタンスはM
12=18 Hとする。
【0046】
ここで、上記で示したエネルギーの受け渡し動作を確認するために、
図6(B)に示すようにt=100 sから第1の負荷13aの負荷電圧v
L1を増加させていくと、
図6(A)及び(C)に示すようにi
1が減少し、i
2が増加することがわかる。さらに、系統1から系統2に受け渡されたエネルギーが系統2で消費できることを確認するため、
図6(D)に示すようにt=200 sから系統2側の第2の負荷13bの負荷電圧v
L2を調整すると、
図6(E)に示すように第2の負荷13bで電力(p
L2=1 MW)を受け取れていることがわかる。すなわち、系統1及び系統2の発電量の合計は5 MWであり、消費電力の合計は6 MWであることを考慮すると、不足分に相当する系統2での消費電力1 MWは、もともと系統1側に流れていた電流によって貯蔵されていた磁気エネルギーによって賄われたことになる。
【0047】
このシミュレーション結果からも明らかなように、本実施形態に係る超伝導ケーブルを用いることで、異なる系統間でのエネルギーの受け渡しが可能であり、特に負荷側の電圧を制御することによって系統間で受け渡すエネルギーを適正に調整することが可能となる。
【0048】
なお、
図4においては第3の超伝導線材121aと第5の超伝導線材122aとを共通の心材14に対して共巻きにする構成を示したが、例えば
図7に示すように、共巻にする超伝導線材の本数及び組み合わせは、使用状態に応じて任意に設計することが可能である。具体的には、
図7(A)の場合、系統1が第1の実施形態で説明した構成と同様に往路である第3の超伝導線材121aと復路である第4の超伝導線材121bとが共巻きにされており、更に系統2の第5の超伝導線材122aが共巻きにされている。
図7(B)の場合、第3の超伝導線材121a、第4の超伝導線材121b、第5の超伝導線材122a及び第6の超伝導線材122bが全て1つの心材14に共巻きにされている。このように共巻きにする線材を増やすことで
図5において説明した通り蓄積できる磁気エネルギー量を格段に増加することができる。
【0049】
また、例えば
図7(C)の場合、系統1の第4の超伝導線材121bと系統2の第5の超伝導線材122aとが共巻きにされている。このように超伝導ケーブルの使用態様に応じて共巻きにする超伝導線材を任意に組み合わせることが可能である。
図7で例示した以外にも、第3,第4及び第6の超伝導線材を共巻きにする場合、第3,第5及び第6の超伝導線材を共巻きにする場合、第4,第5及び第6の超伝導線材を共巻きにする場合、第3及び第6の超伝導線材を共巻きにする場合、第4及び第6の超伝導線材を共巻きにする場合等の組み合わせが可能である。さらに、第3及び第5の超伝導線材を共巻きにしつつ第4及び第6の超伝導線材も共巻きにするというように共巻きにされた超伝導線材を複数有する構成であってもよい。
【0050】
さらにまた、結合する系統数は2つに限定されるものではなく、3つ以上の系統であっても共巻きにすることで結合及びエネルギーの受け渡しが可能である。
【0051】
(本発明のその他の実施形態)
その他の実施形態について、以下に説明する。上記第2の実施形態においては負荷側の電圧を制御することで系統間のエネルギーが受け渡し可能であることについて説明したが、結合する系統数や共巻きの有無に関わらず負荷側の電圧を制御することで貯蔵/放出するエネルギーを調整して出力される電力を安定化することが可能である。
【0052】
図8は、本実施形態に係る電力輸送システムにおいて、負荷側の電圧が一定である場合と可変する場合との出力の比較例を示す図である。
図8(A)は負荷側の電圧が一定である場合の等価回路及び電力変動を示しており、
図8(B)は負荷側の電圧が可変である場合の等価回路及び電力変動を示している。
図8(A)に示すように、電力系統では負荷側の電圧が一定であるため、この決まった電圧での電力を受け取ることとなる。すなわち、
図8(A)の電力変動が示すように、電力P
Loadに時間的な変化が生じて供給されるエネルギーが安定しない。一方、
図8(B)に示すように、負荷側の電圧を可変にして制御した場合は、負荷側の需要に応じた所望の電力P
Loadを安定して受け取ることが可能となる。
【0053】
このように、本実施形態に係る電力輸送システムにおいては、負荷側の電圧を制御することで供給されるエネルギーを安定化することが可能となる。このとき、上述したように結合する系統の数や共巻きの有無は問わない。
【符号の説明】
【0054】
1 電力輸送システム
11 電源
12 超伝導ケーブル
12a 第1の超伝導線材
12b 第2の超伝導線材
13 負荷
14 心材
15 絶縁層
16 冷媒層
17 断熱層
18 保護層
121,122 超伝導ケーブル
121a 第3の超伝導線材
121b 第4の超伝導線材
122a 第5の超伝導線材
122b 第6の超伝導線材