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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-26
(45)【発行日】2025-06-03
(54)【発明の名称】切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/20 20060101AFI20250527BHJP
   B23B 27/14 20060101ALI20250527BHJP
   B23C 5/10 20060101ALI20250527BHJP
   B23C 5/16 20060101ALI20250527BHJP
【FI】
B23B27/20
B23B27/14 C
B23C5/10 B
B23C5/16
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2024543347
(86)(22)【出願日】2023-11-29
(86)【国際出願番号】 JP2023042719
【審査請求日】2024-07-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503212652
【氏名又は名称】住友電工ハードメタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 研人
(72)【発明者】
【氏名】三角 周平
(72)【発明者】
【氏名】東 泰助
(72)【発明者】
【氏名】平吹 優樹
(72)【発明者】
【氏名】久木野 暁
【審査官】山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/003272(WO,A1)
【文献】特開2018-103338(JP,A)
【文献】特開2002-370107(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/00-27/24;
B23C 5/10,5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材を被覆しているダイヤモンド層とを備える切削工具であって、
前記切削工具は、すくい面と、前記すくい面に連なる逃げ面とを備え、
前記すくい面と前記逃げ面との稜線は、切れ刃を構成しており、
前記ダイヤモンド層は、前記逃げ面を構成している逃げ面被覆部を有し、
前記逃げ面被覆部の厚みは、10μm以上25μm以下であり、
前記すくい面に垂直に見た場合における前記切れ刃の接線に垂直な断面において、前記切れ刃の曲率半径は、前記逃げ面被覆部の厚みに0.076を掛けた値以上且つ前記逃げ面被覆部の厚みに0.3を掛けた値未満であり、
前記すくい面は、前記逃げ面被覆部によって構成されており且つ前記逃げ面に連なっている第1部分を含み、
前記第1部分の最大高さ粗さは、2μm未満であ
前記すくい面と前記逃げ面とが成す角度は、53°以上130°以下である、切削工具。
【請求項2】
前記すくい面は、
前記逃げ面から離間している第1すくい面部と、
前記第1すくい面部と前記逃げ面との間に設けられており、且つ前記第1すくい面部および前記逃げ面の各々に連なっている第2すくい面部とを有し、
前記第2すくい面部は、前記第1すくい面部に対して前記第1すくい面部から前記逃げ面に向かう方向に傾斜している、請求項1に記載の切削工具。
【請求項3】
前記第1すくい面部に対する前記第2すくい面部の傾斜角は、3°以上50°以下である、請求項2に記載の切削工具。
【請求項4】
前記逃げ面被覆部の厚みは、15μm以上20μm以下である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の切削工具。
【請求項5】
前記切れ刃の接線に垂直な断面において、前記切れ刃の曲率半径は、前記逃げ面被覆部の厚みに0.1を掛けた値未満である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の切削工具。
【請求項6】
前記基材は、炭化タングステン粒子を含有する超硬合金によって構成されており、
前記炭化タングステン粒子の平均粒径は、2μm以下である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の切削工具。
【請求項7】
前記逃げ面の逃げ角は、15°以上35°以下である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の切削工具。
【請求項8】
前記第1部分の最大高さ粗さは、1.5μm未満である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2015-085462号公報(特許文献1)には、逃げ面とすくい面との交差稜線部に切れ刃が形成された工具本体にダイヤモンド皮膜が被覆されて成る硬質皮膜被覆切削工具が開示されている。当該硬質皮膜被覆切削工具において、逃げ面側のダイヤモンド皮膜の膜厚は、8μm以上30μm以下である。切れ刃の刃先の丸みを半径の円弧で近似したとき半径は、逃げ面側のダイヤモンド皮膜の膜厚の0.1倍以上0.8倍以下である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-085462号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示に係る切削工具は、基材と、基材を被覆しているダイヤモンド層とを備える切削工具である。切削工具は、すくい面と、逃げ面とを備える。逃げ面は、すくい面に連なっている。すくい面と逃げ面との稜線は、切れ刃を構成している。ダイヤモンド層は、逃げ面被覆部を有している。逃げ面被覆部は、逃げ面を構成している。逃げ面被覆部の厚みは、10μm以上25μm以下である。切れ刃の接線に垂直な断面において、切れ刃の曲率半径は、逃げ面被覆部の厚みに0.3を掛けた値未満である。すくい面は、第1部分を含む。第1部分は、逃げ面被覆部によって構成されている。第1部分は、逃げ面に連なっている。第1部分の最大高さ粗さは、2μm未満である。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1図1は、第1実施形態に係る切削工具を示す平面模式図である。
図2図2は、図1の領域IIを示す拡大平面模式図である。
図3図3は、第1実施形態に係る切削工具の構成を示す拡大側面模式図である。
図4図4は、図2のIV-IV線に沿った断面模式図である。
図5図5は、図4の領域Vを示す拡大断面模式図である。
図6図6は、第1実施形態に係る切削工具の製造方法を概略的に示すフロー図である。
図7図7は、すくい面をレーザー加工することによって切れ刃を尖らせる工程を示す断面模式図である。
図8図8は、第2実施形態に係る切削工具の構成を示す断面模式図である。
図9図9は、第2実施形態に係る切削工具の製造方法におけるすくい面をレーザー加工することによって切れ刃を尖らせる工程を示す断面模式図である。
図10図10は、本開示に係る切削工具の使用状態を示す部分断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
切削工具の切れ刃がダイヤモンド層に覆われている場合、ダイヤモンド層の厚みが厚くなるにつれて工具の耐摩耗性が向上する。切れ刃の曲率半径が小さくなるにつれて切れ刃の切れ味が向上する。これによって、切削工具の損傷を抑制できる。しかしながら、ダイヤモンド層の厚みが厚く且つ切れ刃の曲率半径が小さい場合であっても、ダイヤモンド層の表面状態に起因して、切れ刃における切屑の凝着が発生することがある。これによって、構成刃先が形成されることによって、工具の損傷が進みやすくなる。以上のように、ダイヤモンド層を有する切削工具において、工具寿命を向上することが困難であった。
【0007】
本開示の目的は、工具寿命を向上可能な切削工具を提供することである。
[本開示の効果]
本開示によれば、工具寿命を向上可能な切削工具を提供することができる。
【0008】
[実施形態の概要]
まず、本開示の実施形態の概要について説明する。
【0009】
(1)本開示に係る切削工具は、基材と、基材を被覆しているダイヤモンド層とを有する切削工具である。切削工具は、すくい面と、逃げ面とを有する。逃げ面は、すくい面に連なっている。すくい面と逃げ面との稜線は、切れ刃を構成している。ダイヤモンド層は、逃げ面被覆部を有している。逃げ面被覆部は、逃げ面を構成している。逃げ面被覆部の厚みは、10μm以上25μm以下である。切れ刃の接線に垂直な断面において、切れ刃の曲率半径は、逃げ面被覆部の厚みに0.3を掛けた値未満である。すくい面は、第1部分を有する。第1部分は、逃げ面被覆部によって構成されている。第1部分は、逃げ面に連なっている。第1部分の最大高さ粗さは、2μm未満である。
【0010】
本開示に係る切削工具によれば、第1部分の一部が過度に突出することが抑制されている。このため、過度に突出した部分を起点として切屑の凝着が発生することを抑制できる。結果として、工具寿命を向上できる。
【0011】
(2)上記(1)に係る切削工具によれば、すくい面は、第1すくい面部と、第2すくい面部とを有していてもよい。第1すくい面部は、逃げ面から離間していてもよい。第2すくい面部は、第1すくい面部と逃げ面との間に設けられていてもよい。第2すくい面部は、第1すくい面部および逃げ面の各々に連なっていてもよい。第2すくい面部は、第1すくい面部に対して第1すくい面部から逃げ面に向かう方向に傾斜していてもよい。これによって、すくい面と逃げ面が成す角度を大きくすることができる。このため、切れ刃の強度を向上できる。
【0012】
(3)上記(2)に係る切削工具によれば、第1すくい面部に対する第2すくい面部の傾斜角は、3°以上50°以下であってもよい。第2すくい面部の傾斜角が3°以上であることによって、切れ刃の強度が過度に低下することを抑制できる。第2角度θ2が50°以下であることによって、切れ刃の切れ味が過度に低下することを抑制できる。
【0013】
(4)上記(2)に係る切削工具によれば、逃げ面被覆部の厚みは、15μm以上20μm以下であってもよい。これによって、切削工具の耐摩耗性を向上できる。
【0014】
(5)上記(1)から(4)のいずれかに係る切削工具によれば、切れ刃の接線に垂直な断面において、切れ刃の曲率半径は、逃げ面被覆部の厚みに0.1を掛けた値未満であってもよい。これによって、切れ刃の切れ味を向上できる。
【0015】
(6)上記(1)から(5)のいずれかに係る切削工具によれば、基材は、炭化タングステン粒子を含有する超硬合金によって構成されていてもよい。炭化タングステン粒子の平均粒径は、2μm以下であってもよい。これによって、ダイヤモンド層が基材からはがれることを抑制できる。結果として、工具寿命をより向上できる。
【0016】
(7)上記(1)から(6)のいずれかに係る切削工具によれば、逃げ面の逃げ角は、15°以上35°以下であってもよい。
【0017】
(8)上記(1)から(7)のいずれかに係る切削工具によれば、第1部分の最大高さ粗さは、1.5μm未満であってもよい。
【0018】
[実施形態の詳細]
以下、図面に基づいて本開示の実施形態(以降、本実施形態とも称する)の詳細について説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。
【0019】
(第1実施形態)
<切削工具の構成>
まず、第1実施形態に係る切削工具の構成について説明する。
【0020】
図1は、第1実施形態に係る切削工具を示す平面模式図である。第1実施形態に係る切削工具100は、先端部6と、ボディ部7と、シャンク部8とを有している。切削工具100は、たとえばボールエンドミルである。切削工具100は、たとえば軸線Xを回転軸として回転する回転切削工具である。
【0021】
図2図1の領域IIを示す拡大平面模式図である。図3は、第1実施形態に係る切削工具100の構成を示す拡大側面模式図である。図3に示される拡大側面模式図は、図2の矢印Aに沿って見た拡大側面模式図である。
【0022】
図2および図3に示されるように、切削工具100は、すくい面1と、逃げ面2とを有している。すくい面1は、逃げ面2に連なっている。すくい面1と逃げ面2との稜線は、切れ刃3を構成している。図2に示されるように、すくい面1に垂直に見た場合において、切れ刃3の接線は、第1仮想直線91とされる。
【0023】
図4は、図2のIV-IV線に沿った断面模式図である。図4に示される断面は、第1仮想直線91(図2参照)に垂直な断面である。図4に示されるように、切削工具100は、基材4と、ダイヤモンド層5とを有している。
【0024】
基材4は、第1面41と、第2面42とを有している。第1面41は、たとえばすくい面1の一部を構成している。第2面42は、第1面41に連なっている。第2面42は、逃げ面2と実質的に平行である。
【0025】
ダイヤモンド層5は、基材4の少なくとも一部を被覆している。具体的には、ダイヤモンド層5は、第2面42を被覆している。ダイヤモンド層5は、逃げ面2を構成している。逃げ面2を構成しているダイヤモンド層5の部分は、逃げ面被覆部52とされる。第1面41は、たとえばダイヤモンド層5から露出している。
【0026】
ダイヤモンド層5は、たとえばダイヤモンド結晶を含有している。ダイヤモンド層5は、たとえば、ダイヤモンド多結晶によって構成されている。ダイヤモンド層5は、ダイヤモンド以外の成分(たとえば非晶質成分)を含有していてもよい。ダイヤモンド層5は、ダイヤモンド結晶を含有していなくてもよい。ダイヤモンド層5は、たとえばDLC(Diamond Like Carbon)によって構成されていてもよい。
【0027】
すくい面1は、たとえば平面状である。すくい面1は、逃げ面被覆部52と基材4とによって構成されている。逃げ面被覆部52によって構成されているすくい面1の部分は、第1部分16とされる。第1部分16は、逃げ面2に連なっている。別の観点から言えば、第1部分16と逃げ面2との稜線は、切れ刃3を構成している。基材4によって構成されているすくい面1の部分は、第2部分17とされる。言い換えれば、すくい面1は、第1部分16と、第2部分17とを有している。第2部分17は、第1部分16に実質的に平行である。
【0028】
逃げ面被覆部52の厚みHは、10μm以上25μm以下である。厚みHは、逃げ面2に垂直な方向における逃げ面被覆部52の厚みである。厚みHは、たとえば15μm以上20μm以下であってもよいし、15μm以上17μm以下であってもよい。厚みHは、たとえば12μm以上であってもよいし、14μm以上であってもよい。厚みHは、たとえば22μm以下であってもよいし、18μm以下であってもよい。
【0029】
<最大高さ粗さ>
表面粗さを定量化する指標として、Rzとして規定される最大高さ粗さ(以下、最大高さ粗さRzまたはRzとも称する)がある。最大高さ粗さRzは、JIS(Japanese Industrial Standards) B0601:2013に規定されている表面性状パラメータである。
【0030】
第1部分16のRzは、2μm未満である。第1部分16のRzは、たとえば1.8μm以下であってもよいし、1.5μm未満であってもよいし、1.2μm以下であってもよい。Rzは、たとえば0.01μm以上であってもよいし、0.5μm以上であってもよい。
【0031】
Rzは、たとえばレーザ顕微鏡(Lasertech社製「OPTELICS HYBRID」(商標))を用いて測定される。たとえば第1部分16内の異なる5箇所の測定領域が設定される。5箇所の測定領域の各々は、線状の領域である。5箇所の測定領域の各々の位置は、第1部分16内の任意の位置とされる。5箇所の測定領域の各々において測定されたRzの平均値が、第1部分16のRzとされる。言い換えれば、5箇所の測定領域のRzの合計値を5で割った値が第1部分16のRzとされる。測定ピッチは、たとえば0.1μmとされる。測定範囲は、たとえば10μmとされる。
【0032】
<曲率半径および第2傾斜角>
図5は、図4の領域Vを示す拡大断面模式図である。図5に示されるように、第1仮想直線91に垂直な断面において、切れ刃3の形状は、実質的に円弧状であってもよい。第1仮想直線91に垂直な断面において、切れ刃3の曲率半径Rは、逃げ面被覆部52の厚みH(図4参照)に0.3を掛けた値未満である。曲率半径Rは、たとえば厚みHに0.2を掛けた値未満であってもよいし、厚みHに0.1を掛けた値未満であってもよいし、厚みHに0.08を掛けた値未満であってもよい。曲率半径Rは、たとえば厚みHに0.001を掛けた値より大きい。曲率半径Rは、たとえば0.5μm以上7μm以下である。
【0033】
図4および図5に示されるように、第1仮想直線91に垂直な断面において、すくい面1に垂直であり且つ切れ刃3と接する直線は、第2仮想直線92とされる。第1仮想直線91に垂直な断面において、逃げ面2は、第2仮想直線92に対して、切れ刃3からすくい面1に向かう方向に傾斜している。別の観点から言えば、逃げ面2は、第2仮想直線92に対して前端58から後端59に向かう方向に傾斜している。第1仮想直線91に垂直な断面において、第2仮想直線92に対する逃げ面2の傾斜角(第1角度θ1)は、たとえば15°以上35°以下である。第1角度θ1は、たとえば17°以上であってもよいし、19°以上であってもよい。第1角度θ1は、たとえば33°以下であってもよいし、30°以下であってもよい。第1角度θ1は、逃げ面2の逃げ角である。
【0034】
曲率半径Rおよび第1角度θ1は、たとえば三鷹光器製の非接触表面性状測定装置「PF-60」を用いて測定される。たとえばすくい面1および逃げ面2において、異なる5箇所の測定領域が設定される。5箇所の測定領域の各々は、切れ刃3の接線(第1仮想直線91、図2参照)に実質的に垂直に延びており且つ切れ刃3と交差する線状の領域である。5箇所の測定領域の各々の位置は、第1部分16内の任意の位置とされる。測定ピッチは、たとえば0.1μmとされる。測定範囲は、たとえば200μmとされる。
【0035】
5箇所の測定領域の各々において、逃げ面2、切れ刃3、およびすくい面1の形状を示す曲線が取得される。取得された5本の曲線に基づいて、5箇所の測定領域の各々における切れ刃3の曲率半径が測定される。5箇所の測定領域における切れ刃3の曲率半径の平均値が、切削工具100における切れ刃3の曲率半径Rとされる。言い換えれば、5箇所の測定領域の切れ刃3の曲率半径の合計値を5で割った値が、切削工具100における切れ刃3の曲率半径Rとされる。
【0036】
同様に、取得された5本の曲線に基づいて、5箇所の測定領域の各々における第2仮想直線92に対する逃げ面2の傾斜角が測定される。5箇所の測定領域における第2仮想直線92に対する逃げ面2の傾斜角の平均値が、第1角度θ1とされる。言い換えれば、5箇所の測定領域の第2仮想直線92に対する逃げ面2の傾斜角の合計値を5で割った値が第1角度θ1とされる。
【0037】
<基材を構成する材料>
基材4は、たとえば炭化タングステン(WC)粒子を含有する超硬合金によって構成されている。基材4を構成している超硬合金は、たとえば炭化タングステン粒子と、コバルト等の結合剤とを含有している。
【0038】
基材4を構成している超硬合金に含まれているWC粒子の平均粒径は、たとえば2μm以下である。基材4を構成している超硬合金に含まれているWC粒子の平均粒径は、たとえば1.5μm以下であってもよいし、1μm以下であってもよい。基材4を構成している超硬合金に含まれているWC粒子の平均粒径は、たとえば0.01μm以上であってもよいし、0.1μm以上であってもよい。
【0039】
本明細書において、上記のWC粒子の平均粒径は、WC粒子の円相当径の平均値である。WC粒子の円相当径の平均値とは、超硬合金の表面または断面で測定されるWC粒子の円相当径の個数基準の算術平均を意味する。炭化タングステン粒子の円相当径の平均値は、下記の手順で測定される。
【0040】
具体的には、超硬合金の任意の表面または任意の断面を鏡面加工する。鏡面加工の方法としては、たとえば、ダイヤモンドペーストで研磨する方法、集束イオンビーム(Focused Ion Beam:FIB)装置を用いる方法、クロスセクションポリッシャー(Cross-section Polisher:CP)装置を用いる方法、およびこれらを組み合わせる方法等が挙げられる。
【0041】
超硬合金の加工面を走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製「S-3400N」)で撮影する。当該撮影画像を3枚準備する。3枚の画像の各々の撮影領域は異なる。撮影箇所は任意に設定することができる。撮影条件は反射電子像とする。観察倍率は5000倍とする。加速電圧は10kVとする。
【0042】
撮影された3枚の反射電子像を画像解析ソフトウェア(ImageJ、version 1.51j8:https://imagej.nih.gov/ij/)を用いてコンピュータに取り込む。撮影された3枚の反射電子像に対して、二値化処理を行う。二値化処理は、画像を取り込んだのちに、コンピュータ画面上の「Make Binary」との表示を押すことにより、上記画像解析ソフトウェアに予め設定された条件で実行される。二値化処理後の画像において、炭化タングステン粒子と炭化タングステン粒子以外の部分とは、色の濃淡で識別できる。たとえば、二値化処理後の画像において、炭化タングステン粒子は黒色領域で示され、炭化タングステン粒子以外の部分は白色領域で示される。
【0043】
取得された3枚の二値化処理後の各画像中に縦25.3μm×幅17.6μmの矩形の測定視野を設定する。上記画像解析ソフトウェアを用いて、3つの測定視野中の全ての炭化タングステン粒子(黒色領域)のそれぞれについて、円相当径(Heywood径:等面積円相当径)を測定する。3つの測定視野中の全ての炭化タングステン粒子の円相当径の個数基準の算術平均値を算出する。本明細書において、当該算術平均値が、WC粒子の円相当径の平均値に該当する。
【0044】
出願人が測定した限りでは、同一の試料において測定する限りにおいては、上記測定を、測定視野の選択個所を変更して複数回行っても、測定結果のばらつきは少なく、任意に測定視野を設定しても恣意的にはならないことが確認された。
【0045】
<切削工具の製造方法>
次に、第1実施形態に係る切削工具100の製造方法について説明する。
【0046】
図6は、第1実施形態に係る切削工具の製造方法を概略的に示すフロー図である。図6に示されるように、切削工具100の製造方法は、基材上にダイヤモンド層を成膜する工程(S10)と、すくい面をレーザー加工することによって切れ刃を尖らせる工程(S20)と、イオンエッチングを用いてすくい面を平滑化する工程(S30)とを有している。
【0047】
まず、基材上にダイヤモンド層を成膜する工程(S10)が実施される。具体的には、たとえばHFCVD(Hot Filament Chemical Vapor Deposition)等を用いて、基材4上にダイヤモンド層5が成膜される。これによって、基材4の第1面41および第2面42の各々は、ダイヤモンド層5に覆われる。
【0048】
次に、すくい面をレーザー加工することによって切れ刃を尖らせる工程(S20)が実施される。図7は、すくい面をレーザー加工することによって切れ刃を尖らせる工程(S20)を示す断面模式図である。図7に示されるように、レーザー加工を用いて、すくい面1を構成しているダイヤモンド層5の少なくとも一部が除去される。具体的には、レーザー81が切削工具100に向かって照射される。レーザー81の照射方向は、矢印Bに沿う方向である。レーザー81の照射方向は、たとえばすくい面1に実質的に平行である。別の観点から言えば、レーザー81の照射方向は、たとえば第1面41に実質的に平行である。
【0049】
レーザー81の焦点Fを中心に、レーザー加工領域82が形成される。レーザー加工領域82は、レーザー81のエネルギーが集中している領域である。レーザー加工領域82内にある切削工具100の部分は除去される。レーザー81が走査されることによって、所定の範囲において、すくい面1を構成しているダイヤモンド層5が除去される。これによって、切れ刃3を尖らせることができる。言い換えれば、切れ刃3の曲率半径Rを小さくすることができる。
【0050】
レーザー81の照射方向がすくい面1に垂直である場合、照射されたレーザー81の大部分が切削工具100に当たる。この場合、レーザー81の照射に起因して発熱するダイヤモンド層5の領域が大きくなる。従って、発熱に起因してダイヤモンド層5の面粗さが悪化しやすくなる。具体的には、たとえば発熱したダイヤモンド層5において酸化反応が生じることによってダイヤモンド層5の面粗さが悪化する。
【0051】
第1実施形態に係る切削工具100の製造方法によれば、レーザー81の照射方向は、すくい面1に実質的に平行である。このため、レーザー81の一部は、切削工具100に当たることなく焦点Fを通過する。これによって、レーザー81の照射に起因して発熱するダイヤモンド層5の領域を小さくできる。結果として、ダイヤモンド層5の面粗さの悪化を抑制できる。ダイヤモンド層5の面粗さの悪化を抑制することによって、後述のイオンエッチングを用いてすくい面を平滑化する工程(S30)における処理時間を短縮できる。
【0052】
次に、イオンエッチングを用いてすくい面を平滑化する工程(S30)が実施される。すくい面1および逃げ面2の各々がエッチングされるようにイオンエッチングが実施される。すくい面1が平滑化される。具体的には、第1部分16の最大高さ粗さが低減される。イオンエッチングにおける処理時間は、たとえば0.3時間とされる。イオンエッチングにおける処理時間を0.3時間程度とすることによって、逃げ面被覆部52の厚みH(図4参照)が過度に小さくなることを抑制できる。以上によって、図1から図4に示される第1実施形態に係る切削工具100が製造される。
【0053】
(第2実施形態)
<切削工具の構成>
次に、第2実施形態に係る切削工具100の構成について説明する。第2実施形態に係る切削工具100は、主に、すくい面1が第1すくい面部11と第2すくい面部12とを有している点において、第1実施形態に係る切削工具100と異なっており、その他の点については、第1実施形態に係る切削工具100と実質的に同一である。以下、第1実施形態に係る切削工具100と異なる点を中心に説明する。
【0054】
図8は、第2実施形態に係る切削工具100の構成を示す断面模式図である。図8に示される断面は、図4に示される断面に対応している。図8に示されるように、ダイヤモンド層5は、基材4の第1面41を被覆していてもよい。第1面41を被覆しているダイヤモンド層5の部分は、すくい面被覆部51とされる。別の観点から言えば、ダイヤモンド層5は、すくい面被覆部51と、逃げ面被覆部52とを有している。
【0055】
すくい面1は、第1すくい面部11と、第2すくい面部12とを有していてもよい。第1すくい面部11は、たとえばダイヤモンド層5によって構成されている。第1すくい面部11は、逃げ面2から離間している。第1すくい面部11は、第1面41に実質的に平行である。
【0056】
第2すくい面部12は、第1すくい面部11と逃げ面2との間に設けられている。第2すくい面部12は、第1すくい面部11および逃げ面2の各々に連なっている。第2すくい面部12と逃げ面2との稜線は、切れ刃3を構成している。
【0057】
第2すくい面部12は、第1すくい面部11に対して、第1すくい面部11から逃げ面2に向かう方向に傾斜している。具体的には、すくい面1に垂直な方向において、第2すくい面部12は、第1すくい面部11から逃げ面2に向かう方向に傾斜している。なお、すくい面1が第1すくい面部11と第2すくい面部12とを有している場合、すくい面1に垂直な方向は、第1すくい面部11に垂直な方向とされる。
【0058】
第1すくい面部11に対する第2すくい面部12の傾斜角は、第2角度θ2とされる。切れ刃3の接線に垂直な断面において、第2角度θ2は、第1すくい面部11の延長線93と、第2すくい面部12とが成す角度である。第2角度θ2は、たとえば3°以上50°以下である。第2角度θ2は、たとえば3°以上40°以下であってもよい。第2角度θ2は、たとえば5°以上であってもよいし、10°以上であってもよい。第2角度θ2は、たとえば35°以下であってもよいし、30°以下であってもよいし、20°以下であってもよい。
【0059】
第2すくい面部12は、第1部分16と、第2部分17と、第3部分18とによって構成されている。第1部分16は、逃げ面2と第2部分17との間に設けられている。第2部分17は、基材4によって構成されている第2すくい面部12の部分である。第2部分17は、第1部分16に連なっている。第2部分17は、逃げ面2から離間している。第2部分17は、第1部分16と第3部分18との間に設けられている。
【0060】
第3部分18は、すくい面被覆部51によって構成されている第2すくい面部12の部分である。第3部分18は、第2部分17と第1すくい面部11との間に設けられている。第3部分18は、第2部分17および第1すくい面部11の各々に連なっている。第3部分18は、第1部分16から離間している。
【0061】
図9に示されるように、切れ刃3(図2参照)の接線に垂直な方向における第2すくい面部12の幅Wは、たとえば0.01mm以上0.2mm以下である。基材4において、第2部分17は、第1面41および第2面42の各々に連なっている。第2部分17は、第1面41と第2面42との間に設けられている。第2部分17は、第1面41に対して第1すくい面部11から逃げ面2に向かう方向に傾斜している。第2面42は、第1面41から離間している。
【0062】
<切削工具の製造方法>
次に、第2実施形態に係る切削工具100の製造方法について説明する。図9は、第2実施形態に係る切削工具100の製造方法におけるすくい面をレーザー加工することによって切れ刃を尖らせる工程(S20)を示す断面模式図である。図9に示されるように、第2実施形態に係る切削工具100の製造方法において、レーザー81の照射方向(矢印B)は、すくい面1に対して傾斜している。別の観点から言えば、レーザー81の照射方向は、たとえば第1面41に実質的に対して傾斜している。レーザー81の照射方向のすくい面1に対する傾斜角は、第2角度θ2(図8参照)である。別の観点から言えば、レーザー81の照射方向は、第2すくい面部12(図8参照)と実質的に平行である。これによって、切れ刃3の曲率半径Rを低減しつつ、第2すくい面部12が形成される。
【0063】
<使用状態>
次に、本開示に係る切削工具100の使用状態について説明する。
【0064】
図10は、本開示に係る切削工具100の使用状態を示す部分断面模式図である。図10に示されるように、被削材90が準備される。被削材90は、たとえば超硬合金によって構成されている。具体的には、被削材90は、たとえば超硬合金によって構成されている。被削材90は、たとえばアルミナなどのセラミックス、炭化珪素、シリコンおよびCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)などによって構成されていてもよい。軸線Xを中心に切削工具100が回転しつつ、切れ刃3が被削材90に接触する。これによって、被削材90が切削される。
【0065】
次に、本開示に係る切削工具100の作用効果について説明する。
たとえば被削材が超硬合金などの硬脆材料によって構成されている場合、切削工具を用いて硬度が高いセラミックス粒子を切る必要がある。この場合、通常、硬度が高いダイヤモンド層を有する切削工具が用いられる。切削工具の切れ刃がダイヤモンド層に覆われている場合、ダイヤモンド層の厚みが厚くなるにつれて、切れ刃が丸みを帯びる。この場合、切れ刃の切れ味が低下することによって工具の損傷が進みやすくなる。一方で、ダイヤモンド層の厚みが過度に薄い場合、工具の耐摩耗性が過度に低くなる。ダイヤモンド層を加工することによって、十分なダイヤモンド層の厚みと切れ刃の高い切れ味とを両立した場合においても、ダイヤモンド層の表面状態に起因して、切れ刃における切屑の凝着が発生することがある。この場合、構成刃先が形成されることによって、工具の損傷が進みやすくなる。特に、被削材が超硬合金によって構成されている場合、超硬合金に含まれる炭化タングステン粒子が切れ刃に凝着しやすい。以上のように、ダイヤモンド層を有する切削工具において、工具寿命を向上することが困難であった。
【0066】
本開示に係る切削工具100によれば、ダイヤモンド層5は、逃げ面被覆部52を有している。逃げ面被覆部52は、逃げ面2を構成している。すくい面1は、第1部分16を有している。第1部分16は、逃げ面被覆部52によって構成されている。第1部分16の最大高さ粗さは、2μm未満である。このように、第1部分16の一部が過度に突出することが抑制されている。切削工具100を用いて被削材90を切削した場合、切屑は第1部分16に接触しやすい。このため、過度に突出した部分を起点として切屑の凝着が発生することを抑制できる。結果として、工具寿命を向上できる。
【0067】
本開示に係る切削工具100によれば、逃げ面被覆部52の厚みは、10μm以上25μm以下である。逃げ面被覆部52の厚みが10μm以上であることによって、切削工具100の耐摩耗性を十分に向上できる。
【0068】
本開示に係る切削工具100によれば、切れ刃3の接線に垂直な断面において、切れ刃3の曲率半径Rは、逃げ面被覆部52の厚みに0.3を掛けた値未満である。これによって、切れ刃3の切れ味を十分に向上できる。結果として、工具の損傷を進みにくくすることができる。
【0069】
第2実施形態に係る切削工具100によれば、すくい面1は、第1すくい面部11と、第2すくい面部12とを有している。第2すくい面部12は、第1すくい面部11に対して第1すくい面部11から逃げ面2に向かう方向に傾斜している。これによって、すくい面1と逃げ面2とが成す角度を大きくすることができる。このため、切れ刃3の強度を向上できる。
【0070】
第2実施形態に係る切削工具100によれば、第1すくい面部11に対する第2すくい面部12の傾斜角(第2角度θ2)は、3°以上50°以下である。第2角度θ2が3°以上であることによって、第2すくい面部12と逃げ面2とが成す角度が過度に小さくなることを抑制できる。これによって、切れ刃3の強度が過度に低下することを抑制できる。第2角度θ2が50°以下であることによって、第2すくい面部12と逃げ面2が成す角度が過度に大きくなることを抑制できる。これによって、切れ刃3の切れ味が過度に低下することを抑制できる。
【0071】
本開示に係る切削工具100によれば、基材4は、炭化タングステン粒子を含有する超硬合金によって構成されている。炭化タングステン粒子の平均粒径は、2μm以下である。炭化タングステン粒子の平均粒径が小さくなるにつれて、基材4とダイヤモンド層5との密着性が向上する。従って、炭化タングステン粒子の平均粒径が2μm以下であることによって、基材4とダイヤモンド層5との密着性を向上できる。これによって、ダイヤモンド層5が基材4からはがれることを抑制できる。結果として、工具寿命をより向上できる。
【0072】
なお、上記において、切削工具100がボールエンドミルである構成について説明したが、本開示に係る切削工具100は、ボールエンドミルに限定されない。たとえば、切削工具100は、ラジアスエンドミルなどであってもよい。切削工具100は、切削インサートなどの旋削工具であってもよい。
【実施例
【0073】
(サンプル準備)
まず、サンプル1から22に係る切削工具100が準備された。サンプル1、3、4、8から18および22は、実施例である。サンプル2、5から7および19から21は、比較例である。上述の本開示に係る切削工具100の製造方法に沿って、サンプル1から22に係る切削工具100が製造された。具体的には、下記の表1に示される条件を用いて切削工具100が製造された。
【0074】
【表1】
【0075】
表1は、サンプル1から22における切削工具100の製造条件および切削工具100のパラメータを示している。表1に示されるように、サンプル1から18、21および22において、すくい面をレーザー加工することによって切れ刃を尖らせる工程(S20)が実施された。サンプル1から7において、レーザー81の照射方向は、すくい面1に平行であった。サンプル8から18および22において、レーザー81の照射方向はすくい面1に対して傾斜していた。別の観点から言えば、サンプル8から18および22に係る切削工具100は、第2すくい面部12を有していた。サンプル21において、レーザー81の照射方向は、すくい面1に垂直であった。サンプル19および20において、すくい面をレーザー加工することによって切れ刃を尖らせる工程(S20)は実施されなかった。
【0076】
サンプル1から6、8から19、21および22において、イオンエッチングを用いてすくい面を平滑化する工程(S30)におけるイオンエッチングの処理時間は、0.3時間とされた。サンプル7および20において、イオンエッチングを用いてすくい面を平滑化する工程(S30)は実施されなかった。
【0077】
サンプル1から7、19から21において、第2角度θ2は0°であった。言い換えれば、サンプル1から7、19から21において、すくい面1は平面状であった(図4参照)。サンプル8から18および22において、第2角度θ2は、3°以上55°以下とされた。言い換えれば、サンプル8から18および22において、すくい面1は、第1すくい面部11と第2すくい面部12とを有していた(図7参照)。
【0078】
実施例に係るサンプル(サンプル1、3、4、8から18および22)において、厚みHは、10.1μm以上24.8μm以下であった。曲率半径Rを厚みHで割った値(R/H)は、0.076以上0.272以下であった。言い換えれば、曲率半径Rは、厚みHに0.076を掛けた値以上且つ厚みHに0.272を掛けた値以下であった。第1部分16のRzは、0.08μm以上1.92μm以下であった。
【0079】
サンプル2、19および20において、曲率半径Rを厚みHで割った値(R/H)は0.3以上であった。サンプル5において、逃げ面被覆部52の厚みHは10μm未満であった。サンプル6において、厚みHは25μmより大きかった。サンプル7および19から21において、第1部分16のRzは2μm以上であった。
【0080】
サンプル1から22において、基材4を構成する超硬合金が含有している炭化タングステン粒子の平均粒径は、0.5μm以下3μm以下であった。サンプル11から18において、炭化タングステン粒子の平均粒径は、0.5μm以上2μm以下であった。サンプル1から22において、第1角度θ1は15°以上40°以下であった。サンプル1から22において、先端部6の半径は0.5mmであった。
【0081】
(評価方法)
次に、サンプル1から22に係る切削工具100の工具寿命についての評価が実施された。具体的には、サンプル1から22に係る切削工具100を用いて、被削材90に直径10mm且つ深さ5mmの半球状の穴を開ける加工が実施された。被削材90は、超硬合金によって構成されていた。加工において、切削工具100の回転数は、30000rpmとされた。テーブル送り速度は、200m/分とされた。軸線Xに平行な方向における切り込み深さ(軸方向切り込み深さap)は、0.04mmとされた。軸線Xに垂直な方向における切り込み深さ(径方向切り込み深さae)は、0.2mmとされた。切削工具100が折損するまでに切削できた被削材90の体積(加工体積)が測定された。
【0082】
(評価結果)
【0083】
【表2】
【0084】
表2は、サンプル1から22における評価結果を示している。表2に示されるように、比較例に係るサンプル(サンプル2、5から7および19から21)において、加工体積は679.9mm以下であった。実施例に係るサンプル(サンプル1、3、4、8から18および22)において、加工体積は1046mm以上であった。
【0085】
以上の結果より、比較例に係る切削工具100と比較して、実施例に係る切削工具100は工具寿命が向上されていることが確認された。
【0086】
今回開示された実施形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0087】
1 すくい面、2 逃げ面、3 切れ刃、4 基材、5 ダイヤモンド層、6 先端部、7 ボディ部、8 シャンク部、11 第1すくい面部、12 第2すくい面部、16 第1部分、17 第2部分、18 第3部分、41 第1面、42 第2面、51 すくい面被覆部、52 逃げ面被覆部、58 前端、59 後端、81 レーザー、82 レーザー加工領域、90 被削材、91 第1仮想直線、92 第2仮想直線、100 切削工具、A,B 矢印、F 焦点、H 厚み、R 曲率半径、W 幅、X 軸線、θ1 第1角度、θ2 第2角度。
【要約】
切削工具は、基材と、基材を被覆しているダイヤモンド層とを備える切削工具である。切削工具は、すくい面と、逃げ面とを備える。逃げ面は、すくい面に連なっている。すくい面と逃げ面との稜線は、切れ刃を構成している。ダイヤモンド層は、逃げ面被覆部を有している。逃げ面被覆部は、逃げ面を構成している。逃げ面被覆部の厚みは、10μm以上25μm以下である。切れ刃の接線に垂直な断面において、切れ刃の曲率半径は、逃げ面被覆部の厚みに0.3を掛けた値未満である。すくい面は、第1部分を含む。第1部分は、逃げ面被覆部によって構成されている。第1部分は、逃げ面に連なっている。第1部分の最大高さ粗さは、2μm未満である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10