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特許7687830リチウムイオン電池用部材の製造方法及びリチウムイオン電池用部材の製造装置
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  • 特許-リチウムイオン電池用部材の製造方法及びリチウムイオン電池用部材の製造装置 図1
  • 特許-リチウムイオン電池用部材の製造方法及びリチウムイオン電池用部材の製造装置 図2
  • 特許-リチウムイオン電池用部材の製造方法及びリチウムイオン電池用部材の製造装置 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-26
(45)【発行日】2025-06-03
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用部材の製造方法及びリチウムイオン電池用部材の製造装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/66 20060101AFI20250527BHJP
   H01M 4/70 20060101ALI20250527BHJP
   H01M 4/139 20100101ALN20250527BHJP
   H01M 50/105 20210101ALN20250527BHJP
【FI】
H01M4/66 A
H01M4/70 Z
H01M4/139
H01M50/105
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021019923
(22)【出願日】2021-02-10
(65)【公開番号】P2022122585
(43)【公開日】2022-08-23
【審査請求日】2024-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】519100310
【氏名又は名称】APB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】草野 亮介
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 勇輔
(72)【発明者】
【氏名】田中 佑弥
(72)【発明者】
【氏名】堀江 英明
【審査官】式部 玲
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-041310(JP,A)
【文献】特開2018-055967(JP,A)
【文献】特開2005-190713(JP,A)
【文献】特開平08-064213(JP,A)
【文献】特開2020-107412(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/84
H01M 50/00-50/198
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックス樹脂を含む底面部材と、前記底面部材上に配置され、前記底面部材の外周に沿って環状に形成された枠状部材とを有するリチウムイオン電池用部材の製造方法であって、
前記底面部材と接し、その表面がSUSからなる第1圧着手段と、前記枠状部材と接し、その表面がゴムからなる第2圧着手段と、によって前記底面部材及び前記枠状部材を挟み込んで圧着する圧着工程を有し、
前記圧着工程は、前記底面部材を、前記マトリックス樹脂の融点より95℃低い温度以上かつ75℃低い温度以下に加熱する加熱工程を含む
ことを特徴とするリチウムイオン電池用部材の製造方法。
【請求項2】
前記底面部材及び前記枠状部材を準備する準備工程と、前記圧着工程とが連続的に行われる請求項1に記載のリチウムイオン電池用部材の製造方法。
【請求項3】
マトリックス樹脂を含む底面部材と、前記底面部材上に配置され、前記底面部材の外周に沿って環状に形成された枠状部材とを有するリチウムイオン電池用部材の製造装置であって、
前記底面部材と接する第1圧着手段と、前記枠状部材と接する第2圧着手段と、によって前記底面部材及び前記枠状部材を挟み込んで圧着する圧着機を有し、
前記第1圧着手段の表面がSUSからなり、前記第2圧着手段の表面がゴムからなる
ことを特徴とするリチウムイオン電池用部材の製造装置。
【請求項4】
さらに、前記第1圧着手段の表面を前記マトリックス樹脂の融点より95℃低い温度以上かつ75℃低い温度以下に加熱する加熱器を有する請求項3に記載のリチウムイオン電池用部材の製造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用部材の製造方法及びリチウムイオン電池用部材の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン(二次)電池は、高エネルギー密度、高出力密度が達成できる二次電池として、近年様々な用途に多用されており、より高性能のリチウムイオン電池を開発するために種々の材料が検討されている。
【0003】
リチウムイオン電池はその製造工程で、集電体、電極活物質層、セパレータ等を積層する。その際に、特に電極活物質層がバインダー等で固められていない場合、各部材の位置がずれることで効率良く電池が製造できないことがある。
【0004】
この問題を解決するために、平板状の正極集電体と平板状の負極集電体との間に、ポリオレフィン多孔質膜からなるシート状のセパレータ本体と、上記セパレータ本体の外周に沿って環状に枠状部材を設置する等の工夫がされてきた(特許文献1参照)。
【0005】
しかし、枠状部材を設置、固定する際に、リチウムイオン電池を構成する各部材(特に集電体)に反りが発生したり、固定が不十分で製造工程中に剥離したりすることがあった。特に、集電体に樹脂集電体を使用した場合に上記課題が顕著であり、更なる改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-053877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、リチウムイオン電池用部材に反りが生じることが抑制され、枠状部材が十分に固定されたリチウムイオン電池用部材の製造方法及び製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は、マトリックス樹脂を含む底面部材と、上記底面部材上に配置され、上記底面部材の外周に沿って環状に形成された枠状部材とを有するリチウムイオン電池用部材の製造方法であって、上記底面部材と接し、その表面がSUSからなる第1圧着手段と、上記枠状部材と接し、その表面がゴムからなる第2圧着手段と、によって上記底面部材及び上記枠状部材を挟み込んで圧着する圧着工程を有し、上記圧着工程は、上記底面部材を、上記マトリックス樹脂の融点より95℃低い温度以上かつ75℃低い温度以下に加熱する加熱工程を含むことを特徴とするリチウムイオン電池用部材の製造方法;マトリックス樹脂を含む底面部材と、上記底面部材上に配置され、上記底面部材の外周に沿って環状に形成された枠状部材とを有するリチウムイオン電池用部材の製造装置であって、上記底面部材と接する第1圧着手段と、上記枠状部材と接する第2圧着手段と、によって上記底面部材及び上記枠状部材を挟み込んで圧着する圧着機を有し、上記第1圧着手段の表面がSUSからなり、上記第2圧着手段の表面がゴムからなることを特徴とするリチウムイオン電池用部材の製造装置に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のリチウムイオン電池用部材の製造方法によれば、リチウムイオン電池用部材に反りが生じることが抑制され、枠状部材が十分に固定されたリチウムイオン電池用部材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明のリチウムイオン電池用部材の製造方法の一例を模式的に示す斜視図である。
図2】本発明のリチウムイオン電池用部材の製造方法により製造されたリチウムイオン電池用部材の一例を模式的に示す斜視図である。
図3】外観(反り)評価試験の評価基準を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のリチウムイオン電池用部材の製造方法について説明する。
なお、本明細書において、リチウムイオン電池と記載する場合、リチウムイオン二次電池も含む概念とする。
【0012】
<リチウムイオン電池用部材の製造方法>
本発明のリチウムイオン電池用部材の製造方法は、マトリックス樹脂を含む底面部材と、上記底面部材上に配置され、上記底面部材の外周に沿って環状に形成された枠状部材とを有するリチウムイオン電池用部材の製造方法であって、上記底面部材と接し、その表面がSUSからなる第1圧着手段と、上記枠状部材と接し、その表面がゴムからなる第2圧着手段と、によって上記底面部材及び上記枠状部材を挟み込んで圧着する圧着工程を有し、上記圧着工程は、上記底面部材を、上記マトリックス樹脂の融点より95℃低い温度以上かつ75℃低い温度以下に加熱する加熱工程を含むことを特徴とする。
【0013】
図1は、本発明のリチウムイオン電池用部材の製造方法の一例を模式的に示す斜視図である。
図1に示すように、圧着工程では、搬送手段40により搬送された底面部材1と枠状部材2とを、第1圧着手段10及び第2圧着手段20を備える圧着機30を用いて、底面部材1と接する第1圧着手段10及び枠状部材2と接する第2圧着手段20で挟み込んで圧着する。第1圧着手段10の表面はSUSからなり、第2圧着手段20の表面はゴムからなる。
圧着工程は、底面部材を、マトリックス樹脂の融点より95℃低い温度以上かつ75℃低い温度以下に加熱する加熱工程を含む。
【0014】
まずは、底面部材1及び枠状部材2について説明する。
【0015】
(底面部材)
底面部材1は、マトリックス樹脂を含む。
なお、底面部材1は、樹脂集電体として機能する部材である。
【0016】
マトリックス樹脂としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリシクロオレフィン(PCO)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ナイロン6又はこれらの混合物等が挙げられる。
電気的安定性の観点から、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリシクロオレフィン(PCO)及びナイロン6が好ましく、さらに好ましくはポリプロピレン(PP)及びナイロン6である。
【0017】
マトリックス樹脂は、融点が150~240℃であることが好ましく、165~225℃であることがより好ましい。
本明細書において融点とは、JIS K7121-1987に準拠して示差走査熱量測定によって測定することができる。
【0018】
底面部材1は、導電性フィラーを含むことが好ましい。
導電性フィラーは、導電性を有する材料から選択される。
具体的には、金属[ニッケル、アルミニウム、ステンレス(SUS)、銀、銅及びチタン等]、カーボン[グラファイト及びカーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルランプブラック等)等]、及びこれらの混合物等が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
これらの導電性フィラーは1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。また、これらの合金又は金属酸化物を用いてもよい。電気的安定性の観点から、好ましくはアルミニウム、ステンレス、カーボン、銀、銅、チタン及びこれらの混合物であり、より好ましくは銀、アルミニウム、ステンレス及びカーボンであり、さらに好ましくはカーボンである。またこれらの導電性フィラーとしては、粒子系セラミック材料や樹脂材料の周りに導電性材料(上記した導電性フィラーの材料のうち金属のもの)をめっき等でコーティングしたものでもよい。
【0019】
導電性フィラーの平均粒子径は、特に限定されるものではないが、電池の電気特性の観点から、0.01~10μmであることが好ましく、0.02~5μmであることがより好ましく、0.03~1μmであることがさらに好ましい。
なお、本明細書中において、「粒子径」とは、粒子の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離Lを意味する。「平均粒子径」の値としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)等の観察手段を用い、数~数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。
【0020】
導電性フィラーの形状(形態)は、粒子形態に限られず、粒子形態以外の形態であってもよく、カーボンナノチューブ等、いわゆるフィラー系導電性樹脂組成物として実用化されている形態であってもよい。
【0021】
導電性フィラーは、その形状が繊維状である導電性繊維であってもよい。
導電性繊維としては、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等の炭素繊維、合成繊維の中に導電性のよい金属や黒鉛を均一に分散させてなる導電性繊維、ステンレスのような金属を繊維化した金属繊維、有機物繊維の表面を金属で被覆した導電性繊維、有機物繊維の表面を導電性物質を含む樹脂で被覆した導電性繊維等が挙げられる。これらの導電性繊維の中では炭素繊維が好ましい。また、グラフェンを練りこんだポリプロピレン樹脂も好ましい。
導電性フィラーが導電性繊維である場合、その平均繊維径は0.1~20μmであることが好ましい。
【0022】
底面部材1中の導電性フィラーの重量割合は、5~90重量%であることが好ましく、20~80重量%であることがより好ましい。
特に、導電性フィラーがカーボンの場合、導電性フィラーの重量割合は、20~30重量%であることが好ましい。
【0023】
底面部材1は、マトリックス樹脂及び導電性フィラーのほかに、その他の成分(分散剤、架橋促進剤、架橋剤、着色剤、紫外線吸収剤、可塑剤等)を含んでいてもよい。
また、底面部材1は、単層であってもよく、複数の層を有するものであってもよい。
【0024】
底面部材1の形状としては、特に限定されず、三角形、四角形、五角形等の多角形や、円形、楕円形等が挙げられるが、四角形であることが好ましい。
【0025】
底面部材1の大きさ(外径)としては、製造しようとするリチウムイオン電池に応じて適宜設定すればよいが、例えば、四角形の場合、一片の長さが、30~2000mmであることが好ましく、70~1000mmであることがより好ましい。
底面部材1の厚さは特に限定されないが、5~150μmであることが好ましい。底面部材1が複数の層を有する場合には、積層後の底面部材1の全体の厚さが5~150μmであることが好ましい。
【0026】
底面部材1は、例えば、マトリックス樹脂、導電性フィラー及び必要により用いるフィラー用分散剤を溶融混練して得られる導電性樹脂組成物を公知の方法でフィルム状に成形することにより得ることができる。
導電性樹脂組成物をフィルム状に成形する方法としては、例えば、Tダイ法、インフレーション法及びカレンダー法等の公知のフィルム成形法が挙げられる。なお、底面部材1は、フィルム成形以外の成形方法によっても得ることができる。
【0027】
(枠状部材)
枠状部材2は、底面部材1上に配置され、底面部材1の外周に沿って環状に形成された部材である。
【0028】
枠状部材2としては、電解液に対して耐久性がある材料であることが好ましく、高分子材料がより好ましく、熱硬化性高分子材料がさらに好ましい。
熱硬化性高分子材料としては、例えば、エポキシ系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂及びエチレン-酢酸ビニル共重合体等が挙げられ、融点が低く、比較的低温で接着が可能であることからポリオレフィン系樹脂及びエチレン-酢酸ビニル共重合体が好ましい。
また、枠状部材2としては、両面テープ状のシール部材(平面状の基材の両面に上述の熱硬化性高分子材料等を塗布して形成したシール部材等)を好適に用いることができ、例えば、三層構造のシールフィルム(ポリエチレンナフタレートフィルムの上下に変性ポリプロピレンフィルムを積層したフィルム等)等の公知のものを用いることができる。
【0029】
熱硬化性高分子材料は、上述したマトリックス樹脂よりも融点が低いことが好ましく、融点が75~130℃であることがより好ましく、75~100℃であることが更に好ましい。
【0030】
枠状部材2の環の形状としては、特に限定されず、三角形、四角形、五角形等の多角形や、円形、楕円形等が挙げられるが、四角形であることが好ましい。
【0031】
枠状部材2の外径、内径、及び、高さについては特に限定されず、製造しようとするリチウムイオン電池に応じて適宜設定すればよい。
枠状部材2の外径としては、底面部材1の外径と同程度であり、例えば四角形の場合、一片の長さが、30~2000mmであることが好ましく、70~1000mmであることがより好ましい。
枠状部材2の内径としては、例えば四角形の場合、一片の長さが、10~1995mmであることが好ましく、60~980mmであることがより好ましい。
また、枠状部材2の高さとしては、例えば、150~1500mmであることが好ましく、250~1000mmであることがより好ましい。
【0032】
枠状部材2を得る方法としては、シート状の高分子材料に対して、所定の打ち抜き加工を施す打ち抜き工程を行う方法等が挙げられる。
【0033】
(圧着工程)
本発明のリチウムイオン電池用部材の製造方法は、底面部材1と接し、その表面がSUSからなる第1圧着手段10と、枠状部材2と接し、その表面がゴムからなる第2圧着手段20とを備える圧着機30を用いて、底面部材1及び枠状部材2を挟み込んで圧着する圧着工程を有する。
【0034】
第1圧着手段10及び第2圧着手段20を備える圧着機30としては、例えば、ロールプレス機、真空プレス機、水圧プレス機、油圧プレス機等を挙げることができるが、ロールプレス機であることが好ましい。
圧着機30がロールプレス機である場合、第1圧着手段10及び第2圧着手段20は、プレスロールとなる。
なお、圧着機が真空プレス機、水圧プレス機又は油圧プレス機である場合には、第1圧着手段が底面部材と接する盤(表面がSUS)であり、第2圧着手段が枠状部材と接する盤(表面がゴム)となる。
【0035】
圧着機30がロールプレス機の場合、プレスロール同士の間隔(第1圧着手段10と第2圧着手段20との間隔)は、特に限定されず、底面部材1や枠状部材2の厚み、形状等に応じて適宜設定することができ、例えば、100~1000μmであることが好ましい。
【0036】
圧着機30がロールプレス機の場合、圧着工程により圧縮する速度としては、特に限定されないが、底面部材1に反りが生じないような速度に適宜設定することができる。圧縮機がロールプレスの場合、圧着工程により圧縮する速度はプレスロールの回転速度で示され、当該回転速度としては、充分な圧縮保持時間を保つ観点から、1~20m/分であることが好ましい。
【0037】
圧着機30がロールプレス機の場合、圧着工程の際に加える線圧としては、35~3500N/cmであることが好ましい。
なお、圧着工程の際に加える線圧は、第1圧着手段10及び第2圧着手段20に付属されているロードセルによる得られる荷重と、圧着後のリチウムイオン電池用部材の厚みとにより計算した線圧を意味する。
【0038】
第1圧着手段10は、その表面がSUSからなる。
圧着工程では、第1圧着手段10の表面がSUSからなることにより、加熱工程時に段差等がない状態で底面部材1と枠状部材2とを圧着することができるので、底面部材1に反りやシワが生じることを抑制することができる。
【0039】
第1圧着手段10表面のSUSは、鏡面体であることが好ましい。加熱工程時により平滑な状態で底面部材1と枠状部材2とを圧着することができるので、底面部材1に反りやシワが生じることをより抑制することができる。
【0040】
第1圧着手段10は、表面がSUSであれば、芯材(圧着機30がロールプレス機の場合)や、盤の内部(圧着機30が真空プレス機等の場合)は、他の材料であってもよい。
他の材料としては、ロールプレス機の芯材や、真空プレス機等の盤として用いられる公知の材料を適宜選択して用いることができる。
【0041】
第1圧着手段10表面のSUSの厚みは、特に限定されないが、例えば、10~30mmである。
【0042】
第2圧着手段20は、その表面がゴムからなる。
枠状部材2は、枠の内部に空間があり、この空間があることが、底面部材1と枠状部材2とを圧着する際にズレが生じて、枠状部材2の固定が不十分となる原因となる。
ここで、第2圧着手段20の表面がゴムからなることにより、第2圧着手段20の表面が変形することが可能となり、枠の内部に空間があることに起因するズレを矯正することができるので、枠状部材2を十分に固定することができる。
【0043】
第2圧着手段20表面のゴムは、硬度が50~80度であることが好ましい。
第2圧着手段20表面のゴムの硬度が上記範囲であれば、第2圧着手段20の表面が好適に変形することができ、枠の内部に空間があることに起因するズレを矯正することができるので、枠状部材2をより好適に固定することができる。
なお、ゴムの硬度は、JIS K 6253に準拠し、デュロメータを計測器として用いて測定した値である。
【0044】
第2圧着手段20は、表面がゴムであれば、芯材(圧着機30がロールプレス機の場合)や、盤の内部(圧着機30が真空プレス機等の場合)は、他の材料であってもよい。
他の材料としては、ロールプレス機の芯材や、真空プレス機等の盤として用いられる公知の材料を適宜選択して用いることができる。
【0045】
第2圧着手段20表面のゴムの厚みは、上記硬度を付与できる厚みであれば特に限定されないが、例えば、5~30mmである。
【0046】
(加熱工程)
圧着工程は、底面部材を、マトリックス樹脂の融点より95℃低い温度以上かつ75℃低い温度以下に加熱する加熱工程を含む。
【0047】
加熱工程では、例えば、温風を吹き付ける方法、ハロゲンランプやニクロム線を具備したヒーターよって輻射熱を与える方法等、公知の加熱器を用いて加熱することができる。
なかでも、底面部材1の反りを好適に抑制する観点から、加熱器により表面が加熱された第1圧着手段10を用いて圧着工程を行うことが好ましい。
なお、底面部材1に対して加熱器により予備加熱を行った後に、圧着工程することで加熱工程を行ってもよい。この場合、圧着時においても、加熱器により表面が加熱された第1圧着手段10を用いる等により底面部材1を加熱してもよい。
【0048】
加熱工程では、底面部材1を、マトリックス樹脂の融点より95℃低い温度以上かつ75℃低い温度以下に加熱する。
マトリックス樹脂の融点より95℃低い温度未満で加熱工程を行った場合には、底面部材1に枠状部材2が十分に固定することができず、マトリックス樹脂の融点より75℃低い温度以上で加熱工程を行った場合には、マトリックス樹脂が収縮してしまい反りが顕著になる。
加熱工程では、底面部材1を、マトリックス樹脂の融点より85℃低い温度以上かつ75℃低い温度以下に加熱することが好ましい。
【0049】
(準備工程)
本発明のリチウムイオン電池用部材の製造方法では、底面部材1及び枠状部材2を準備する準備工程と、圧着工程とが連続的に行われることが好ましい。
なお、上記「連続的」とは、一連の製造ライン上で行うことを意味する。
【0050】
準備工程と、圧着工程とを連続的に行う方法としては、例えば、図1に記載のように、上述した底面部材1と、枠状部材2とを準備した後(準備工程)、底面部材1と、枠状部材2とを搬送手段40により搬送し、第1圧着手段10及び第2圧着手段20を備える圧着機30を用いて、底面部材1と接する第1圧着手段10及び枠状部材2と接する第2圧着手段20で挟み込んで圧着すればよい(圧着工程)。
なお、準備工程と、圧着工程とを連続的に行う場合、圧着機30は、ロールプレス機であることが好ましい。
【0051】
(リチウムイオン電池用部材)
圧着工程により底面部材1と、枠状部材2とを圧着した後、底面部材1と枠状部材2とによって囲われた空間が形成されるように底面部材1と枠状部材2の圧着体を切断することで、リチウムイオン電池用部材を製造することができる。
切断方法としては特に限定されず、ロータリーカッター等の公知の切断方法を用いることができる。
【0052】
図2は、本発明のリチウムイオン電池用部材の製造方法により製造されたリチウムイオン電池用部材の一例を模式的に示す斜視図である。
図2に示すように、本発明のリチウムイオン電池用部材の製造方法により製造されたリチウムイオン電池用部材3は、底面部材1と、底面部材1上に配置され、底面部材1の外周に沿って環状に形成される枠状部材2とを有する。
【0053】
本発明のリチウムイオン電池用部材の製造方法により製造されたリチウムイオン電池用部材3は、各部材に反りが生じることが抑制され、枠状部材2が底面部材1に十分に固定されたものである。
【0054】
リチウムイオン電池用部材3は、JIS Z 0237:2009「粘着テープの180°剥離試験」に準拠する方法により測定した底面部材1と枠状部材2との剥離力が、0.04N/cm以上であることが好ましく、0.10N/cm以上であることがより好ましく、0.25N/cm以上であることが更に好ましい。
このような剥離力を有するものであれば、底面部材1と枠状部材2とが十分に固定されたものであると言うことができる。
なお、具体的な測定方法としては、実施例に記載の方法を用いることができる。
【0055】
リチウムイオン電池用部材3は、底面部材1と枠状部材2とによって囲われた空間に、電極活物質粒子と電解液とを供給することにより、リチウムイオン電池用電極として用いることができる。
リチウムイオン電池用部材3は、リチウムイオン電池用正極、リチウムイオン電池用負極のいずれにも用いることができる。
【0056】
このようにして得られるリチウムイオン電池用電極は、対となるリチウムイオン電池用電極とセパレータを介して重ね合わせることにより、リチウムイオン電池とすることができる。
なお、電極活物質粒子、セパレータ等としては特に限定されず、公知のものを適宜選択して用いることができる。
【0057】
<リチウムイオン電池用部材の製造装置>
本発明のリチウムイオン電池用部材の製造装置は、マトリックス樹脂を含む底面部材と、上記底面部材上に配置され、上記底面部材の外周に沿って環状に形成された枠状部材とを有するリチウムイオン電池用部材の製造装置であって、上記底面部材と接する第1圧着手段と、上記枠状部材と接する第2圧着手段と、によって上記底面部材及び上記枠状部材を挟み込んで圧着する圧着機を有し、上記第1圧着手段の表面がSUSからなり、上記第2圧着手段の表面がゴムからなることを特徴とする。
【0058】
本発明のリチウムイオン電池用部材の製造装置は、底面部材と枠状部材とを底面部材と接する第1圧着手段及び枠状部材と接する第2圧着手段で挟み込んで圧着する圧着機を有する。
第1圧着手段及び第2圧着手段を備える圧着機としては、本発明のリチウムイオン電池用部材の製造方法の圧着工程にて記載したものを適宜選択して用いることができる。
また、圧着機により圧縮する速度、圧着する際の線圧等についても、本発明のリチウムイオン電池用部材の製造方法の圧着工程にて記載したものを適宜選択して用いることができる。
【0059】
本発明のリチウムイオン電池用部材の製造装置において、第1圧着手段の表面がSUSからなり、第2圧着手段の表面がゴムからなる。
第1圧着手段の表面のSUS、第2圧着手段の表面のゴムについても、本発明のリチウムイオン電池用部材の製造方法にて記載したものを適宜選択して用いることができる。
【0060】
本発明のリチウムイオン電池用部材の製造装置は、さらに、第1圧着手段の表面を上記マトリックス樹脂の融点より95℃低い温度以上かつ75℃低い温度以下に加熱する加熱器を有することが好ましい。
加熱器としては特に限定されず、本発明のリチウムイオン電池用部材の製造方法の加熱工程にて記載したものを適宜選択して用いることができる。
【実施例
【0061】
次に本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明の主旨を逸脱しない限り本発明は実施例に限定されるものではない。なお、特記しない限り部は重量部、%は重量%を意味する。
【0062】
底面部材用のマトリックス樹脂として以下の材料を準備した。
マトリックス樹脂A:ポリプロピレン樹脂(商品名「サンアロマーPC630S」、サンアロマー(株)製、融点155℃)
マトリックス樹脂B:ポリプロピレン樹脂(商品名「サンアロマーPC684S」、サンアロマー(株)製、融点165℃)
マトリックス樹脂C:ナイロン6(製品名「アミラン(登録商標)CM1007」 東レ社製、融点225℃)
なお、融点については、明細書に記載の方法で測定した。
【0063】
枠状部材用の熱硬化性高分子材料として以下の材料を準備した。
熱硬化性高分子材料D:エチレン-酢酸ビニル共重合体(製品名「メルセンG 7055」 東ソー社製)
熱硬化性高分子材料E:ポリオレフィン系樹脂(製品名「アドマーVE300」 三井化学社製)
熱硬化性高分子材料F:ポリオレフィン系樹脂(製品名「EXCELINK 1300B」 JSR社製)
【0064】
<実施例1>
(底面部材の準備)
2軸押出機にて、マトリックス樹脂A65部、導電性フィラーとして、カーボンブラック[商品名「#3030」、三菱化学(株)製]30部、分散剤[商品名「ユーメックス1001」、三洋化成(株)製]5部を、180℃、100rpm、滞留時間5分の条件で溶融混錬して導電性樹脂組成物を得た。得られた導電性樹脂組成物を、ペレット化した後に押出成型してフィルム状の底面部材(87mm×70mm、厚さ50μm)を作製した。
【0065】
(枠状部材の準備)
シート状の熱硬化性高分子材料Dに対して打ち抜き加工を施して、枠状部材(内径が67mm×50mmの長方形、外径が87mm×70mmの長方形)を作製した。
【0066】
(圧着工程)
底面部材と接する側に、表面がSUSからなる第1の圧着手段(ローラー)を有し、枠状部材と接する側に、表面がゴムからなる第2の圧着手段(ローラー)を備えた圧着機によりロールプレスして底面部材と枠状部材とを圧着し、リチウムイオン電池用部材を作製した。
底面部材と枠状部材とを圧着する際に第1の圧着手段(ローラー)をヒーターにより加熱しており、圧着時の底面部材の温度は60℃であった。
なお、ロールの回転速度は、50mm/sとした。一対のローラーの間隔は、320μmとした。
【0067】
<実施例2~7>
表1に記載のように、底面部材のマトリックス樹脂、枠状部材の熱硬化性高分子材料、及び、底面部材と枠状部材とを圧着する際の底面部材の温度を変更したこと以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン電池用部材を作製した。
【0068】
<実施例8>
底面部材と枠状部材とを圧着する前に底面部材をヒーターにより予備加熱した。
上記以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン電池用部材を作製した。
なお、圧着時の底面部材の温度は70℃であった。
【0069】
<比較例1>
底面部材と接する側に、表面がSUSからなる第1の圧着手段(ローラー)を有し、枠状部材と接する側に、表面がSUSからなる第2の圧着手段(ローラー)を備えた圧着機を用いたこと以外は実施例2と同様にして、リチウムイオン電池用部材を作製した。
【0070】
<比較例2>
底面部材と接する側に、表面がゴムからなる第1の圧着手段(ローラー)を有し、枠状部材と接する側に、表面がゴムからなる第2の圧着手段(ローラー)を備えた圧着機を用いたこと以外は実施例2と同様にして、リチウムイオン電池用部材を作製した。
【0071】
<比較例3>
底面部材と接する側に、表面がゴムからなる第1の圧着手段(ローラー)を有し、枠状部材と接する側に、表面がSUSからなる第2の圧着手段(ローラー)を備えた圧着機を用いたこと以外は実施例2と同様にして、リチウムイオン電池用部材を作製した。
【0072】
<比較例4~7>
表1に記載のように、底面部材のマトリックス樹脂、枠状部材の熱硬化性高分子材料、及び、底面部材と枠状部材とを圧着時の底面部材の温度を変更したこと以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン電池用部材を作製した。
【0073】
<実施例9>
実施例1と同様にして、底面部材及び枠状部材を準備した。
第1の圧着手段(SUS盤)を備えた手動油圧加熱プレス機を用い、底面部材を第1の圧着手段と接するように設置し、枠状部材とプレス盤との間にゴム板を設置(ゴム板が第2の圧着手段)してプレスを行い底面部材と枠状部材とを圧着し、リチウムイオン電池用部材を作製した。
底面部材と枠状部材とを圧着する際に第1の圧着手段(SUS盤)をヒーターにより加熱しており、圧着時の底面部材の温度は60℃であった。
なお、圧着する際の面圧は、10MPaとした。
【0074】
<比較例8>
圧着時の底面部材の温度を85℃としたこと以外は実施例9と同様にして、リチウムイオン電池用部材を作製した。
【0075】
<外観(反り)評価試験>
実施例及び比較例で作製したリチウムイオン電池用部材を目視にて確認した。
図3は、外観(反り)評価試験の評価基準を示す説明図である。
図3に示すように、リチウムイオン電池用部材の全体に反りの発生が確認されなかったものを「〇」評価、リチウムイオン電池用部材の一部に反りの発生が確認されたものを「△」評価、リチウムイオン電池用部材の全体にわたって反りが確認されたものを「×」評価とした。
【0076】
<剥離力評価>
実施例及び比較例で作製したリチウムイオン電池用部材について、JIS Z 0237:2009「粘着テープの180°剥離試験」に準拠する方法により底面部材と枠状部材との剥離力を測定した。その結果を表1に示した。
具体的には、幅10mm、長さ60mmに切断したリチウムイオン電池用部材を試験片とし、試験板としてSUS304鋼板を用意し、枠状部材が試験板に接するようにセットした。
試験片をはがす際には試験片の背面が重なるように試験片の端を把持して180°に折り返して試験板から25mmはがした後、測定装置に設置した下側の治具にはがした部分の試験板の片端を固定し、上側の治具に粘着テープを固定した。
測定装置としては、オートグラフ精密万能試験機AGX-V(SHIMAZU社製)を用いた。
【0077】
【表1】
【0078】
本発明のリチウムイオン電池用部材の製造方法により製造した、各実施例のリチウムイオン電池用部材では、反りが確認されず、枠状部材が底面部材に十分に固定されたものであることが確認された。
一方で、比較例1~3より、底面部材と接する側の第1の圧着手段の表面がゴムである場合や、枠状部材と接する側の第2の圧着手段の表面がSUSである場合には、反りを抑制することができなかった。
また、比較例4より、圧着時の底面部材の温度とマトリックス樹脂の融点との差が95℃を超える場合には、枠状部材を底面部材に十分に固定することができなかった。
また、比較例5~8より、圧着時の底面部材の温度とマトリックス樹脂の融点との差が75℃未満である場合には、反りを抑制することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明のリチウムイオン電池用部材の製造方法は、特に、携帯電話、パーソナルコンピューター、ハイブリッド自動車及び電気自動車用に用いられるリチウムイオン電池用部材の製造方法として有用である。
【符号の説明】
【0080】
1 底面部材
2 枠状部材
3 リチウムイオン電池用部材
10 第1圧着手段
20 第2圧着手段
30 圧着機
40 搬送手段
図1
図2
図3