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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-26
(45)【発行日】2025-06-03
(54)【発明の名称】チェーンテンショナ
(51)【国際特許分類】
   F16H 7/08 20060101AFI20250527BHJP
【FI】
F16H7/08 B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021105390
(22)【出願日】2021-06-25
(65)【公開番号】P2023003976
(43)【公開日】2023-01-17
【審査請求日】2024-05-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100127340
【弁理士】
【氏名又は名称】飛永 充啓
(72)【発明者】
【氏名】小西 一平
(72)【発明者】
【氏名】高野 武博
(72)【発明者】
【氏名】北野 聡
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-333095(JP,A)
【文献】特開2008-057451(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと、前記シリンダ内に摺動可能に挿入されたプランジャと、前記プランジャを前記シリンダから突出する方向に付勢するリターンスプリングと、前記シリンダ内に配置されたチェックバルブと、前記チェックバルブと前記プランジャとの間に形成された圧力室に作動油を導入する給油通路と、前記圧力室から前記作動油を前記シリンダの外へ逃がす排油通路と、前記排油通路を開閉するリリーフバルブと、を備え、
前記リリーフバルブが、弁体と、前記弁体を閉弁方向に付勢するバルブスプリングと、前記付勢された弁体を受けるバルブシートとを有し、
前記シリンダが、前記リリーフバルブを収容する段付き孔を有し、前記段付き孔が、雌ねじ部と、当該雌ねじ部のねじ軸線方向に前記バルブシートと対向する段部とを有し、
前記排油通路が、前記圧力室から前記段付き孔を経由して前記シリンダの外まで連通しており、
前記リリーフバルブが、前記シリンダの外から雄ねじ部材の雄ねじ部を前記雌ねじ部にねじ込むことによって固定されているチェーンテンショナにおいて、
前記雄ねじ部及び前記雌ねじ部よりもねじ軸線方向に前記バルブシート側に寄った位置で前記雄ねじ部材と前記段付き孔との間を密封する弾性体をさらに備え、
前記リリーフバルブが、前記雄ねじ部材に接触する端面と、当該端面からねじ軸線方向に前記雄ねじ部材から遠ざかるに連れて外径を大きくした外周端部とを有し、
前記雄ねじ部材が、前記リリーフバルブの端面に接触する締め付け面と、当該締め付け面よりもねじ軸線方向に前記雄ねじ部側に寄った位置で前記弾性体に接触するシール面とを有し、
前記雄ねじ部材のシール面が、ねじ軸線に対して直角な方向に沿った平坦面状になっており、
前記雄ねじ部材のシール面から押圧された前記弾性体が、当該シール面と、前記リリーフバルブの外周端部と、前記段付き孔とに密着していることを特徴とするチェーンテンショナ。
【請求項2】
シリンダと、前記シリンダ内に摺動可能に挿入されたプランジャと、前記プランジャを前記シリンダから突出する方向に付勢するリターンスプリングと、前記シリンダ内に配置されたチェックバルブと、前記チェックバルブと前記プランジャとの間に形成された圧力室に作動油を導入する給油通路と、前記圧力室から前記作動油を前記シリンダの外へ逃がす排油通路と、前記排油通路を開閉するリリーフバルブと、を備え、
前記リリーフバルブが、弁体と、前記弁体を閉弁方向に付勢するバルブスプリングと、前記付勢された弁体を受けるバルブシートとを有し、
前記シリンダが、前記リリーフバルブを収容する段付き孔を有し、前記段付き孔が、雌ねじ部と、当該雌ねじ部のねじ軸線方向に前記バルブシートと対向する段部とを有し、
前記排油通路が、前記圧力室から前記段付き孔を経由して前記シリンダの外まで連通しており、
前記リリーフバルブが、前記シリンダの外から雄ねじ部材の雄ねじ部を前記雌ねじ部にねじ込むことによって固定されているチェーンテンショナにおいて、
前記雄ねじ部及び前記雌ねじ部よりもねじ軸線方向に前記バルブシート側に寄った位置で前記雄ねじ部材と前記段付き孔との間を密封する弾性体をさらに備え、
前記段付き孔が、前記雌ねじ部よりもねじ軸線方向に前記段部側に寄った位置で前記雄ねじ部材の端面とねじ線方向に対向する段状に形成されたシール座部を有し、
前記雄ねじ部材の端面に押圧された前記弾性体が、当該端面と、前記段付き孔のシール座部とに密着していることを特徴とするチェーンテンショナ。
【請求項3】
シリンダと、前記シリンダ内に摺動可能に挿入されたプランジャと、前記プランジャを前記シリンダから突出する方向に付勢するリターンスプリングと、前記シリンダ内に配置されたチェックバルブと、前記チェックバルブと前記プランジャとの間に形成された圧力室に作動油を導入する給油通路と、前記圧力室から前記作動油を前記シリンダの外へ逃がす排油通路と、前記排油通路を開閉するリリーフバルブと、を備え、
前記リリーフバルブが、弁体と、前記弁体を閉弁方向に付勢するバルブスプリングと、前記付勢された弁体を受けるバルブシートとを有し、
前記シリンダが、前記リリーフバルブを収容する段付き孔を有し、前記段付き孔が、雌ねじ部と、当該雌ねじ部のねじ軸線方向に前記バルブシートと対向する段部とを有し、
前記排油通路が、前記圧力室から前記段付き孔を経由して前記シリンダの外まで連通しており、
前記リリーフバルブが、前記シリンダの外から雄ねじ部材の雄ねじ部を前記雌ねじ部にねじ込むことによって固定されているチェーンテンショナにおいて、
前記雄ねじ部及び前記雌ねじ部よりもねじ軸線方向に前記バルブシート側に寄った位置で前記雄ねじ部材と前記段付き孔との間を密封する弾性体をさらに備え、
前記リリーフバルブが、前記雄ねじ部材に接触する端面と、当該端面からねじ軸線方向に前記雄ねじ部材から遠ざかるに連れて外径を大きくした外周端部とを有し、
前記雄ねじ部材が、前記リリーフバルブの端面に接触する締め付け面と、当該締め付け面からねじ軸線方向に前記雄ねじ部側に向かうに連れて直径を大きくしたテーパ状に形成されたシール面を有し、
前記雄ねじ部材のシール面から押圧された前記弾性体が、当該シール面と、前記リリーフバルブの外周端部と、前記段付き孔とに密着していることを特徴とするチェーンテンショナ。
【請求項4】
シリンダと、前記シリンダ内に摺動可能に挿入されたプランジャと、前記プランジャを前記シリンダから突出する方向に付勢するリターンスプリングと、前記シリンダ内に配置されたチェックバルブと、前記チェックバルブと前記プランジャとの間に形成された圧力室に作動油を導入する給油通路と、前記圧力室から前記作動油を前記シリンダの外へ逃がす排油通路と、前記排油通路を開閉するリリーフバルブと、を備え、
前記リリーフバルブが、弁体と、前記弁体を閉弁方向に付勢するバルブスプリングと、前記付勢された弁体を受けるバルブシートとを有し、
前記シリンダが、前記リリーフバルブを収容する段付き孔を有し、前記段付き孔が、雌ねじ部と、当該雌ねじ部のねじ軸線方向に前記バルブシートと対向する段部とを有し、
前記排油通路が、前記圧力室から前記段付き孔を経由して前記シリンダの外まで連通しており、
前記リリーフバルブが、前記シリンダの外から雄ねじ部材の雄ねじ部を前記雌ねじ部にねじ込むことによって固定されているチェーンテンショナにおいて、
前記雄ねじ部及び前記雌ねじ部よりもねじ軸線方向に前記バルブシート側に寄った位置で前記雄ねじ部材と前記段付き孔との間を密封する弾性体と、
前記雄ねじ部材と前記リリーフバルブとで挟まれたシールリテーナとをさらに備え、
前記リリーフバルブが、前記シールリテーナに接触する端面を有し、
前記雄ねじ部材が、前記シールリテーナに接触する締め付け面と、当該締め付け面よりもねじ軸線方向に前記雄ねじ部側に寄った位置で前記弾性体に接触するシール面とを有し、
前記シールリテーナが、前記リリーフバルブと前記段付き孔の内周との間のすき間とねじ軸線方向に対向し、かつ前記雄ねじ部材のシール面ともねじ軸線方向に対向するように当該段付き孔の内周に向かって突き出ており、
前記雄ねじ部材のシール面から押圧された前記弾性体が、当該シール面と、前記シールリテーナと、前記段付き孔とに密着していることを特徴とするチェーンテンショナ。
【請求項5】
前記弾性体がOリングからなる請求項1からのいずれか1項に記載のチェーンテンショナ。
【請求項6】
前記雄ねじ部材の雄ねじ部にシール接着剤が塗布されている請求項1からのいずれか1項に記載のチェーンテンショナ。
【請求項7】
前記シリンダの外側にフランジ部が形成されており、前記段付き孔が前記フランジ部から前記シリンダ内に向かって形成されており、前記シリンダが、エンジンカバーのテンショナ取り付け孔に挿入されており、前記フランジ部が、前記エンジンカバーの外側にボルト止めされている請求項1からのいずれか1項に記載のチェーンテンショナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エンジンのカムシャフト駆動用チェーンなどの張力を一定に保持するチェーンテンショナ、詳しくは、チェーンの張力変動を油圧ダンパで吸収する構造のチェーンテンショナに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のエンジンは、一般に、クランクシャフトの回転をタイミングチェーン(以下「チェーン」という)を介してカムシャフトに伝達し、そのカムシャフトの回転により燃焼室のバルブの開閉を行なう。そのチェーンの張力を適正範囲に保つために、支点軸を中心として揺動可能に設けたチェーンガイドと、そのチェーンガイドを介してチェーンを押圧するチェーンテンショナとからなる張力調整装置が用いられる。
【0003】
その張力調整装置に備わるチェーンテンショナとして、シリンダと、シリンダの内側に摺動可能に挿入されたプランジャと、プランジャをシリンダから突出する方向に付勢するリターンスプリングと、シリンダ内のプランジャの背後に形成された圧力室と、圧力室に作動油を導入する給油通路とを備え、給油通路側から圧力室側への作動油の流れのみを許容するチェックバルブが給油通路に配置された油圧式のものが知られている。
【0004】
この種の油圧式チェーンテンショナの場合、エンジン作動中にチェーンの張力が大きくなると、そのチェーンの張力によって、プランジャがシリンダ内に押し込まれる方向(以下、「押し込み方向」という)に移動し、チェーンの緊張を吸収する。このとき、圧力室内の作動油が、プランジャとシリンダの摺動面間のリーク隙間を通って圧力室外側へ流出し、その作動油の粘性抵抗によってダンパ作用が生じるので、プランジャはゆっくりと移動する。ここで、圧力室内の圧力が給油通路内の圧力よりも高くなったとき、チェックバルブが閉じ、圧力室を閉鎖することでダンパ作用が確保される。一方、エンジン作動中にチェーンの張力が小さくなると、リターンスプリングの付勢力によって、プランジャがシリンダから突出する方向(以下、「突出方向」という)に移動し、チェーンの弛みを吸収する。このとき、チェックバルブが開いて、給油通路から圧力室内に作動油が流入するので、プランジャは速やかに移動する。作動油は、エンジンから供給される。このため、エンジン停止時においては作動油供給が止まり、油圧ダンパを発生させることができず、チェーンテンショナが押し込まれてしまう。これを防止するため、プランジャが一定量を超えて押し込まれないような機構(ノーバック機構)が採用されている。また、チェーンが急激に緊張したときにチェーンが過張力になるのを防止するため、リリーフバルブが設けられている。リリーフバルブは、弁体と、弁体を閉弁方向に付勢するバルブスプリングと、付勢された弁体を受けるバルブシートとを有する。圧力室内の圧力がリリーフバルブの設定圧力を越えた際に、そのリリーフバルブが開弁状態になり、圧力室からシリンダの外へ圧力が逃げるようになっている。
【0005】
この種の油圧式チェーンテンショナとしては、シリンダがエンジンブロックにボルト止めされる内装タイプのものと、シリンダのフランジ部がエンジンカバーの外側にボルト止めされる外装タイプのものとが存在する。
【0006】
従来、外装タイプのチェーンテンショナでは、そのシリンダが、エンジンカバーのテンショナ取り付け孔に挿入されている。フランジ部からシリンダ内に向かって段付き孔が形成されており、この段付き孔にリリーフバルブが収容されている。段付き孔の雌ねじ部に雄ねじ部材をねじ込むことにより、リリーフバルブが雄ねじ部材と、段付き孔の段部とに締め付けられている。リリーフバルブが開いたとき、リリーフバルブから流出した作動油は、エンジンカバー側の油路に戻る。エンンジンカバーとフランジ部との間にガスケットが挟まれていることにより、この間からの作動油の漏洩が防止されている。また、雄ねじ部材の雄ねじ部にシール接着剤が塗布されている。このシール接着剤は、段付き孔の雌ねじ部と雄ねじ部材の雄ねじ部との間のねじすき間から作動油が漏洩しないようにするためのものである(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2007-333095号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、雄ねじ部材の雄ねじ部に塗布されたシール接着剤は前述のねじすき間より大きくなるので、段付き孔へのねじ込み時、ねじすき間にすべて入ることができず、溢れたシール接着剤はフランジ部側に溜まってしまう。そのとき、ねじすき間にシール接着剤で埋まらない部分があると微小なすきまができてしまい、リリーフバルブが開いたときの圧力により、ねじすき間から外部へ作動油が漏れてしまう懸念がある。
【0009】
そこで、この発明が解決しようとする課題は、リリーフバルブを収容した段付き孔と雄ねじ部材との間からチェーンテンショナの作動油が漏れないようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を達成するため、この発明は、シリンダと、前記シリンダ内に摺動可能に挿入されたプランジャと、前記プランジャを前記シリンダから突出する方向に付勢するリターンスプリングと、前記シリンダ内に配置されたチェックバルブと、前記チェックバルブと前記プランジャとの間に形成された圧力室に作動油を導入する給油通路と、前記圧力室から前記作動油を前記シリンダの外へ逃がす排油通路と、前記排油通路を開閉するリリーフバルブと、を備え、前記リリーフバルブが、弁体と、前記弁体を閉弁方向に付勢するバルブスプリングと、前記付勢された弁体を受けるバルブシートとを有し、前記シリンダが、前記リリーフバルブを収容する段付き孔を有し、前記段付き孔が、雌ねじ部と、当該雌ねじ部のねじ軸線方向に前記バルブシートと対向する段部とを有し、前記排油通路が、前記圧力室から前記段付き孔を経由して前記シリンダの外まで連通しており、前記リリーフバルブが、前記シリンダの外から雄ねじ部材の雄ねじ部を前記雌ねじ部にねじ込むことによって固定されているチェーンテンショナにおいて、前記雄ねじ部及び前記雌ねじ部よりもねじ軸線方向に前記バルブシート側に寄った位置で前記雄ねじ部材と前記段付き孔との間を密封する弾性体をさらに備える構成を採用したものである。
【0011】
上記構成によれば、リリーフバルブが開弁状態になると、作動油がバルブシートの弁孔を経由してシリンダの外側へ向かう。このとき、リリーフバルブから流出した作動油の一部は、リリーフバルブと段付き孔間を通って雄ねじ部材側へ向かうが、雄ねじ部及び雌ねじ部よりもねじ軸線方向に前記バルブシート側に寄った位置で雄ねじ部材と段付き孔との間を密封する弾性体があるため、段付き孔と雄ねじ部材との間から作動油が漏れないようにすることができる。これは、雄ねじ部材のねじ込み時、その弾性体と雄ねじ部材と段付き孔の接触状態が雄ねじ部材からの押圧によって面での安定した接着状態に確保されるためである。このように、リリーフバルブを収容した段付き孔と雄ねじ部材間のねじすき間からチェーンテンショナの作動油が漏れないようにすることができる。
【0012】
具体的には、前記リリーフバルブが、前記雄ねじ部材に接触する端面と、当該端面からねじ軸線方向に前記雄ねじ部材から遠ざかるに連れて外径を大きくした外周端部とを有し、前記雄ねじ部材が、前記リリーフバルブの端面に接触する締め付け面と、当該締め付け面よりもねじ軸線方向に前記雄ねじ部側に寄った位置で前記弾性体に接触するシール面とを有し、前記雄ねじ部材のシール面が、ねじ軸線に対して直角な方向に沿った平坦面状になっており、前記雄ねじ部材のシール面から押圧された前記弾性体が、当該シール面と、前記リリーフバルブの外周端部と、前記段付き孔とに密着しているとよい。このようにすると、雄ねじ部材のねじ込みにより、その締め付け面でリリーフバルブを段付き孔の段部に向かって押して固定すると共に、そのシール面で弾性体を押し、リリーフバルブの外周端部で弾性体の内径側を案内しつつ当該外周端部と段付き孔との間に押し込んで弾性体に加圧することができる。これにより、押圧された弾性体が、雄ねじ部材のシール面、リリーフバルブの外周端部及び段付き孔と安定して密着している状態になる。また、雄ねじ部材のシール面がねじ軸線に対して直角な方向に沿った平坦面状であるため、雄ねじ部材のシール面で弾性体をリリーフバルブの外周端部に強く押し付けて当該外周端部と段付き孔に密着させることができる。また、雄ねじ部材の締め付け面よりも雄ねじ部側に寄った位置で弾性体に接触するシール面の採用により、シール面をリリーフバルブから遠ざけ、弾性体を配置するための空間を形成することができる。
【0013】
また、前記段付き孔が、前記雌ねじ部よりもねじ軸線方向に前記段部側に寄った位置で前記雄ねじ部材の端面とねじ線方向に対向する段状に形成されたシール座部を有し、前記雄ねじ部材の端面に押圧された前記弾性体が、当該端面と、前記段付き孔のシール座部とに密着しているとよい。このようにすると、弾性体を段付き孔のシール座部と雄ねじ部材の端面とでねじ軸線方向に押しつぶすだけで雄ねじ部材と段付き孔との間を密封することができ、弾性体をリリーフバルブに密着させることは不要になる。
【0014】
また、前記リリーフバルブが、前記雄ねじ部材に接触する端面と、当該端面からねじ軸線方向に前記雄ねじ部材から遠ざかるに連れて外径を大きくした外周端部とを有し、前記雄ねじ部材が、前記リリーフバルブの端面に接触する締め付け面と、当該締め付け面からねじ軸線方向に前記雄ねじ部側に向かうに連れて直径を大きくしたテーパ状に形成されたシール面を有し、前記雄ねじ部材のシール面から押圧された前記弾性体が、当該シール面と、前記リリーフバルブの外周端部と、前記段付き孔とに密着しているとよい。このようにすると、雄ねじ部材のねじ込みにより、その締め付け面でリリーフバルブを段付き孔の段部に向かって押して固定すると共に、そのシール面で弾性体を押し、さらにリリーフバルブの外周端部で弾性体の内径側を案内しつつ当該外周端部と段付き孔との間に押し込んで弾性体に加圧することができる。これにより、押圧された弾性体が、雄ねじ部材のシール面、リリーフバルブの外周端部及び段付き孔と安定して密着している状態になる。また、雄ねじ部材のシール面が前述のテーパ状であるため、雄ねじ部材のシール面で弾性体の内径を拡げながらリリーフバルブの外周端部と段付き孔との間に弾性体を押し込むことが容易になる。また、雄ねじ部材のシール面が締め付け面から雄ねじ部側に向かうに連れて直径を大きくしたテーパ状であるので、シール面をリリーフバルブから遠ざけ、弾性体を配置するための空間を形成することができる。
【0015】
また、前記雄ねじ部材と前記リリーフバルブとで挟まれたシールリテーナをさらに備え、前記リリーフバルブが、前記シールリテーナに接触する端面を有し、前記雄ねじ部材が、前記シールリテーナに接触する締め付け面と、当該締め付け面よりもねじ軸線方向に前記雄ねじ部側に寄った位置で前記弾性体に接触するシール面とを有し、前記シールリテーナが、前記リリーフバルブと前記段付き孔の内周との間のすき間とねじ軸線方向に対向し、かつ前記雄ねじ部材のシール面ともねじ軸線方向に対向するように当該段付き孔の内周に向かって突き出ており、前記雄ねじ部材のシール面から押圧された前記弾性体が、当該シール面と、前記シールリテーナと、前記段付き孔とに密着しているとよい。このようにすると、雄ねじ部材のねじ込みにより、その締め付け面でシールリテーナをリリーフバルブとの間に挟み、そのリリーフバルブを段付き孔の段部に向かって押して固定すると共に、そのシール面で弾性体をシールリテーナに押し付けて弾性体に加圧することができる。これにより、押圧された弾性体が、雄ねじ部材のシール面、シールリテーナ及び段付き孔と安定して密着している状態になる。また、シールリテーナが、リリーフバルブと段付き孔の内周との間のすき間とねじ軸線方向に対向し、かつ雄ねじ部材のシール面ともねじ軸線方向に対向するように当該段付き孔の内周に向かって突き出ているので、弾性体に強く加圧してシール面、段付き孔、シールリテーナと弾性体の接触面積を大きくし、シール性を高めることができる。また、雄ねじ部材の締め付け面よりも雄ねじ部側に寄った位置で弾性体に接触するシール面の採用により、シール面をリリーフバルブから遠ざけ、弾性体を配置するための空間を形成することができる。
【0016】
前記弾性体がOリングからなるとよい。弾性体としてOリングを採用すると、雄ねじ部材のシール面から押圧された弾性体は、いずれの接触相手に対しても当該接触相手の表面形状に倣って容易に圧縮されるため、どの接触相手とも接触面積を確保し易くなる。
【0017】
また、前記雄ねじ部材の雄ねじ部にシール接着剤が塗布されているとよい。このようにすると、シール接着剤で雄ねじ部材の緩みを防止することができる。なお、弾性体により作動油が前述のねじすき間よりも上流側で密封されるので、シール接着剤が不完全であっても作動油がシリンダの外へ漏れる懸念はなく、シール接着剤によるシール性能は問われない。この発明において、シール接着剤の採否は任意に選択することができる。
【0018】
前記シリンダの外側にフランジ部が形成されており、前記段付き孔が前記フランジ部から前記シリンダ内に向かって形成されており、前記シリンダが、エンジンカバーのテンショナ取り付け孔に挿入されており、前記フランジ部が、前記エンジンカバーの外側にボルト止めされているとよい。このようにすると、フランジ部でエンジンカバーにボルト止めされたチェーンテンショナの作動油が雄ねじ部材とフランジ部間から漏れないため、漏れ検査工程を省いても、エンジンカバーの油汚れを防止することができる。
【発明の効果】
【0019】
上述のように、この発明は、上記構成の採用により、リリーフバルブを収容した段付き孔と雄ねじ部材との間からチェーンテンショナの作動油が漏れないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】この発明の第一実施形態に係るチェーンテンショナを示す断面図
図2図1のチェーンテンショナを備えるチェーン伝動装置を示す正面図
図3図1のリリーフバルブ付近の拡大図
図4図1の段付き孔と雄ねじ部材のねじ係合部の拡大図
図5】この発明の第二実施形態に係るリリーフバルブ付近を示す断面図
図6】この発明の第三実施形態に係るリリーフバルブ付近を示す断面図
図7】この発明の第四実施形態に係るリリーフバルブ付近を示す断面図
図8図7の弾性体付近の拡大図
【発明を実施するための形態】
【0021】
この発明の一例としての第一実施形態を図1図4に基づいて説明する。
【0022】
図1に示す実施形態に係るチェーンテンショナ1は、図2に示すチェーン伝動装置に備わっている。このチェーン伝動装置は、エンジンのクランクシャフト2に固定されたスプロケット3と、カムシャフト4に固定されたスプロケット5とがチェーン6を介して連結されており、そのチェーン6がクランクシャフト2の回転をカムシャフト4に伝達する。そのカムシャフト4の回転により燃焼室のバルブ(図示せず)の開閉が行われるようになっている。
【0023】
チェーン6には、支点軸7を中心として揺動可能に支持されたチェーンガイド8が接触している。チェーンテンショナ1は、そのチェーンガイド8を介してチェーン6を押圧している。
【0024】
図1に示すように、チェーンテンショナ1は、一端を閉塞し他端を開放した筒状のシリンダ9と、シリンダ9内に軸方向に摺動可能に挿入されたプランジャ10とを備える。シリンダ9は、仮想円筒面に沿う内壁面11を有する。ここで、「軸方向」とは、その仮想円筒面の中心線に沿った方向のことをいう。
【0025】
シリンダ9の外側にフランジ部12が形成されている。フランジ部12は、軸方向に対して直角な方向に延びる衝合面13を有する。シリンダ9は、図2に示すように、エンジンカバー14内に開放端を向けた姿勢でエンジンカバー14のテンショナ取り付け孔15に挿入されている。フランジ部12は、エンジンカバー14の外側(外面)にボルト16で固定されている。フランジ部12の衝合面13とエンジンカバー14の外面との間には、作動油の漏洩を防止するためのガスケット17が挟まれている。
【0026】
図1に示すように、シリンダ9内にはチェックバルブ18が組み込まれ、このチェックバルブ18とプランジャ10との間に圧力室19が形成されている。また、シリンダ9には、チェックバルブ18を介して圧力室19に作動油を導入する給油通路20が形成されている。
【0027】
給油通路20は、シリンダ9の外から作動油を導入する油導入孔21と、油導入孔21の下流側に接続され、チェックバルブ18の上流側に隣接して形成されたリザーバ室22とからなる。リザーバ室22は、チェックバルブ18とシリンダ9の閉塞端との間に形成されている。リザーバ室22に油導入孔21が開口している。油導入孔21の入口(図示せず)は、フランジ部12の衝合面13に開口しており、エンジンカバー14(図2参照)側の油路に連通している。オイルポンプ(図示せず)から供給される作動油は、図1に示す油導入孔21、リザーバ室22、チェックバルブ18の順に経由して圧力室19に導入される。
【0028】
チェックバルブ18は、シート23と、ボール24と、リテーナ25とを有する。シート23は、給油通路20と圧力室19との間を連通する弁孔を中心に有する筒状になっている。シート23は、シリンダ9内に圧入して固定されている。シート23は、弁孔の圧力室19側の端部にテーパ状のシート面を有する。ボール24は、シート23のシート面に接触する閉弁位置と、シート面から離反する開弁位置との間で移動可能に設けられている。給油通路20側から圧力室19側への作動油の流れは許容するが、圧力室19側から給油通路20側への作動油の流れは禁止する。
【0029】
プランジャ10は、シリンダ9内への挿入端が開放した有底筒状に形成されている。プランジャ10の外周面とシリンダ9の内壁面11の嵌合面間には微小なリーク隙間26が形成されている。プランジャ10がシリンダ9内に押し込まれる方向に移動するときに圧力室19内の作動油がリーク隙間26を通ってシリンダ9の開放端からシリンダ9の外に流出するようになっている。
【0030】
プランジャ10のシリンダ9内への挿入部分の内周には、雌ねじ27が形成されている。プランジャ10内には、雌ねじ27に対応した雄ねじ28を外周に有するスクリュロッド29が組み込まれている。スクリュロッド29は、一端がプランジャ10から突出しており、その突出端が、シート23に当接している。雄ねじ28と雌ねじ27は、プランジャ10をシリンダ9内に押し込む方向の荷重が負荷されたときに圧力を受ける圧力側フランクのフランク角が、遊び側フランクのフランク角よりも大きい鋸歯状に形成されている。このような雄ねじ28と雌ねじ27は、例えば、圧力側フランクのフランク角を65°とし、遊び側フランクのフランク角を7°としたものや、圧力側フランクのフランク角を75°とし、遊び側フランクのフランク角を15°としたものを採用することができる。また、雄ねじ28と雌ねじ27の間には1mm程度或いはそれ以下の軸方向の遊びが設けられている。
【0031】
プランジャ10とスクリュロッド29との間には、リターンスプリング30が組み込まれている。リターンスプリング30は、一端がスクリュロッド29で支持され、他端がスプリングシート31を介してプランジャ10を押圧している。その押圧によって、プランジャ10は、シリンダ9から突出する方向に付勢されている。プランジャ10のシリンダ9からの突出端は、図2に示すようにチェーンガイド8に当接し、チェーンガイド8を介してチェーン6を押圧する。
【0032】
チェーンテンショナ1は、図1図3に示すように、圧力室19から作動油をシリンダ9の外へ逃がす排油通路32と、排油通路32を開閉するリリーフバルブ33と、を備える。
【0033】
排油通路32は、フランジ部12からシリンダ9内に向かって形成された段付き孔34と、段付き孔34から分岐した出口路35とで構成されている。出口路35は、エンジンカバー14側の油路に連通している。
【0034】
リリーフバルブ33は、弁体36と、弁体36を閉弁方向に付勢するバルブスプリング37と、バルブスプリング37を受けるバルブリテーナ38と、付勢された弁体36を受けるバルブシート39とを有する。バルブシート39は、弁孔と、弁体36が着座するシート面とを有する。バルブシート39とバルブリテーナ38が嵌合されて弁体36とバルブスプリング37とを収容するバルブケースに組み立てられている。弁体37は、バルブシート39のシート面に接触する閉弁位置(図示の位置)と、バルブシート39のシート面から離反する開弁位置との間で移動可能に設けられている。バルブシート39のシート面から凹んだエア抜き用の溝部を形成してもよい。
【0035】
段付き孔34は、フランジ部12の外周面と圧力室19間に連通しており、フランジ部12の外周面側で孔径を大きくし、圧力室19側で孔径を小さくした形状になっている。その段付き孔34の大径孔部にリリーフバルブ33が収容されている。
【0036】
段付き孔34の小径孔部は、バルブシート39の弁孔と連通し、圧力室19に開口している。出口路35は、段付き孔34の大径孔部の内周から衝合面13まで連通している。リリーフバルブ33の流出口40は、バルブリテーナ38に複数形成されている。流出口40と出口路35との間は、すき間41になっている。
【0037】
排油通路32は、圧力室19から段付き孔34の小径孔部、リリーフバルブ33内、すき間41、出口路35の順に経由してシリンダ9の外に連通している。圧力室19の圧力が予め設定された圧力よりも大きくなったときに弁体36がバルブシート39のシート面から離反して、リリーフバルブ33が排油通路32を開いた開弁状態となり、作動油を圧力室19からシリンダ9の外へ逃がす。
【0038】
段付き孔34は、その大径孔部に形成された雌ねじ部42と、雌ねじ部42のねじ軸線方向にバルブシート39と対向する段部43とを有する。段付き孔34の雌ねじ部42に雄ねじ部材44の雄ねじ部45をねじ込むことによって、リリーフバルブ33が固定されている。
【0039】
図4に示すように、雄ねじ部45と雌ねじ部42との間のねじすき間には、シール接着剤46が介在している。シール接着剤46は、雄ねじ部材44の緩み止めを主目的とし、ねじすき間を塞ぐことを補助的な目的とするものである。シール接着剤46としては、アクリル系樹脂等、適宜のものを採用すればよい。
【0040】
雄ねじ部材44の雄ねじ部45にシール接着剤46が塗布された状態で、雄ねじ部材44の六角穴47にねじ回し具(図示せず)を接続して雄ねじ部45を雌ねじ部42にねじ込むと、図4に示すように雄ねじ部45と雌ねじ部42との間にシール接着剤46が送り込まれる。このとき、粘性をもったシール接着剤46は、前述のねじすき間より大きく盛って塗布されているので、ねじすき間に全て入らず、溢れてフランジ部12の外周に溜まってしまい、微小なすきまが残った不完全な充填になることがある。シール接着剤46だけで段付き孔34と雄ねじ部材44間を密封する場合、不完全な充填を許容することはできない。これは、図3に示すリリーフバルブ33と出口路35との間のすき間41を作動油が流れるとき、ねじすき間から作動油が漏れると、エンジンカバー14の目立つ油汚れになるためである。特に、二輪車のエンジンカバーの場合、漏れた作動油が路面に落下することは、タイヤのスリップ原因になるので、確実に防止することが求められる。漏れ検査を行えば、シール接着剤が適切に充填されたかを確認することは可能であるが、その工程に手間がかかる。
【0041】
そこで、このチェーンテンショナ1では、図1図3に示すように、雄ねじ部45及び雌ねじ部42よりもねじ軸線方向にバルブシート39側に寄った位置で雄ねじ部材44と段付き孔34との間を密封する弾性体48が設けられている。
【0042】
弾性体48は、Oリングからなる。また、弾性体はOリングに限らず、ワッシャ形状の弾性体等でもよく、液状ガスケットでも良い。
【0043】
リリーフバルブ33は、雄ねじ部材44に接触する端面49と、端面49からねじ軸線方向に雄ねじ部材44から遠ざかるに連れて外径を大きくした外周端部50とを有する。
【0044】
リリーフバルブ33の端面49は、バルブリテーナ38に形成されている。この端面49は、ねじ軸線方向に対して直角な方向に沿った平坦面状になっている。リリーフバルブ33の外周端部50は、バルブリテーナ38の外周にR面取り状に形成されている。リリーフバルブ33に外周端部50を形成する目的は、弾性体48の内径側を押し付けてリリーフバルブ33と段付き孔34との間に弾性体48を案内することである。バルブリテーナ38に外周端部50を形成する目的は、バルブリテーナ38をプレス加工で有底筒状に成形する際の応力集中を緩和することである。
【0045】
雄ねじ部材44は、リリーフバルブ33の端面49に接触する締め付け面51と、締め付け面51よりもねじ軸線方向に雄ねじ部45側に寄った位置で弾性体48に接触するシール面52とを有する。
【0046】
雄ねじ部材44の締め付け面51は、リリーフバルブ33の端面49をねじ軸線方向に押す部位となっている。この締め付け面51は、ねじ軸線方向に対して直角な方向に沿った平坦面状であって、リリーフバルブ33の端面49よりも小径に設けられている。雄ねじ部材44のシール面52は、ねじ軸線に対して直角な方向に沿った平坦面状であって、リリーフバルブ33の外周端部50よりも大径に設けられている。
【0047】
段付き孔34へのリリーフバルブ33の収容及び弾性体48の配置は、同一工程で実施することができる。すなわち、段付き孔34の段部43にリリーフバルブ33のバルブシート39を載せ、そのリリーフバルブ33の外周端部50に弾性体48の内径側が接触し、段付き孔34の内周に当該弾性体48の外径側が接触するように弾性体48を外周端部50と段付き孔34との間に配置し(図3中の一点鎖線参照)、この状態で雄ねじ部材44の雄ねじ部45を雌ねじ部42にねじ込む。ねじ込まれる雄ねじ部材44の締め付け面51でリリーフバルブ33の端面49をねじ軸線方向に押して、リリーフバルブ33を段付き孔34の段部43にねじ軸線方向に押し付けることができる。このとき、ねじ込まれる雄ねじ部材44のシール面52で弾性体48を押してリリーフバルブ33の外周端部50と、段付き孔34の雌ねじ部42と出口路35との間の円筒面状部53との間に押し込み、シール面52と外周端部50と円筒面状部53とに密着するように弾性体48を押しつぶすことができる。雄ねじ部材44をねじ込む際の締め付けトルクが所定値になったとき、弾性体48が図3中に実線で描くように所定のシール性能を発揮する接触状態にすること、すなわち雄ねじ部材44のシール面52から押圧された弾性体48と、シール面52と、リリーフバルブ33の外周端部50と、段付き孔34の円筒面状部53とが面での安定した接触状態にすることができると共に、リリーフバルブ33を固定することができる。
【0048】
なお、締め付け面51とシール面52間のねじ軸線方向の高低差及び直径差は、段付き孔34の孔径を雌ねじ部42のねじ山内径から拡大することなく、弾性体48を図3中に実線で描いた圧縮状態に配置することができるように設定されている。
【0049】
また、弾性体48は、雄ねじ部材44のねじ込みによって対応の接触相手(シール面52、外周端部50、円筒面状部53)と密着する接触領域を安定した面接触状態にさせることが可能な弾性を少なくとも接触部において有するものであればよく、前述のOリングに限定されない。
【0050】
チェーンテンショナ1の動作例を説明する(図1図2参照)。
【0051】
エンジン作動中にチェーン6の張力が大きくなると、チェーン6の張力によって、プランジャ10が押し込み方向に移動し、チェーン6の緊張を吸収する。このとき、リーク隙間26を通って圧力室19から流出する作動油の粘性抵抗によってダンパ力が発生し、また、スクリュロッド29は、チェーン6の振動により、雌ねじ27と雄ねじ28の間の軸方向隙間の範囲内で前進と後退を繰り返しながら、プランジャ10に対して回転するため、プランジャ10はゆっくりと移動する。
【0052】
一方、エンジン作動中にチェーン6の張力が小さくなると、リターンスプリング30の付勢力によって、プランジャ10が突出方向に移動し、チェーン6の弛みを吸収する。このとき、チェックバルブ18が開き、給油通路20から圧力室19に作動油が流入するので、プランジャ10は速やかに移動する。
【0053】
エンジン停止時に、カムシャフト4の停止位置によってチェーン6の張力が大きくなる場合があるが、この場合、チェーン6が振動しないので、プランジャ10の雌ねじ27がスクリュロッド29の雄ねじ28で受け止められ、プランジャ10の位置が固定される。このため、エンジンを再始動するときに、チェーン6の弛みを生じにくく、円滑なエンジン始動が可能である。
【0054】
また、エンジンが停止すると、給油通路20に作動油を供給するオイルポンプも停止する。このとき、チェックバルブ18によりリザーバ室22の作動油が保持され、リザーバ室22の作動油が圧力室19に流出するのを防止することができる。このため、エンジンが再始動したときに、リザーバ室22の作動油が圧力室19に流入し、圧力室19が速やかに作動油で満たされる。この結果、エンジンを再始動した直後のダンパ作用の低下を抑えることができる。
【0055】
また、エンジンが共振してチェーン6の張力が急激に大きくなると、リリーフバルブ33が開いて圧力室19内の圧力を逃がし、チェーン6の過張力が防止される。
【0056】
チェーンテンショナ1は、上述のようなものであり(図1図3参照)、リリーフバルブ33が開弁状態になると、作動油がバルブシート39の弁孔からリリーフバルブ33内に入り、流出口40、すき間41、出口路35を経由してシリンダ9の外に流出する。このとき、リリーフバルブ33の流出口40からすき間41に流出した作動油の一部は、すき間41から雄ねじ部材44側へ向かうが、雄ねじ部45及び雌ねじ部42よりもねじ軸線方向にバルブシート39側に寄った位置で雄ねじ部材44と段付き孔34との間を密封する弾性体48がある。ここで、雄ねじ部材44のねじ込み時、弾性体48とシール面52との接触状態、弾性体48とリリーフバルブ33の外周端部50との接触状態、弾性体48と段付き孔34との接触状態は、それぞれ雄ねじ部材44からの押圧によって面での安定した接触状態に確保されている。したがって、このチェーンテンショナ1は、リリーフバルブ33を収容した段付き孔34と雄ねじ部材44間のねじすき間から作動油が漏れないようにすることができる。
【0057】
また、このチェーンテンショナ1は(図3参照)、リリーフバルブ33が雄ねじ部材44に接触する端面49と、端面49からねじ軸線方向に雄ねじ部材44から遠ざかるに連れて外径を大きくした外周端部50とを有し、雄ねじ部材44がリリーフバルブ33の端面49に接触する締め付け面51と、締め付け面51よりもねじ軸線方向に雄ねじ部45側に寄った位置で弾性体48に接触するシール面52とを有し、雄ねじ部材44のシール面52から押圧された弾性体48がシール面52と、リリーフバルブ33の外周端部50と、段付き孔34とに密着しているので、その雄ねじ部材44のねじ込みにより、その締め付け面51でリリーフバルブ33を段付き孔34の段部43に向かって押して固定すると共に、そのシール面52で弾性体48を押し、リリーフバルブ33の外径を前述のように変化させた外周端部50で弾性体48の内径側を案内しつつ外周端部50と段付き孔34との間に押し込んで弾性体48に加圧することができる。これにより、押圧された弾性体48が、雄ねじ部材44のシール面52、リリーフバルブ33の外周端部50及び段付き孔34と安定して密着している状態になる。
【0058】
加えて、このチェーンテンショナ1は、雄ねじ部材44のシール面52がねじ軸線に対して直角な方向に沿った平坦面状であるため、雄ねじ部材44のシール面52で弾性体48をリリーフバルブ33の外周端部50に強く押し付けて、外周端部50と段付き孔34に密着させることができる。
【0059】
加えて、このチェーンテンショナ1は、雄ねじ部材44の締め付け面51よりも雄ねじ部45側に寄った位置で弾性体48に接触するシール面52の採用により、シール面52をリリーフバルブ33から遠ざけ、弾性体48を配置するための空間を形成することができる。
【0060】
また、このチェーンテンショナ1は、弾性体48がOリングからなるので、雄ねじ部材44のシール面52から押圧された弾性体48は、いずれの接触相手(シール面52、外周端部50、段付き孔34)に対しても当該接触相手の表面形状に倣って容易に圧縮されるため、どの接触相手とも接触面積を確保し易くなる。
【0061】
また、このチェーンテンショナ1は、雄ねじ部材44の雄ねじ部45にシール接着剤46が塗布されているので(図3図4参照)、シール接着剤46で雄ねじ部材44の緩みを防止することができる。シール接着剤46の充填が不完全であっても、弾性体48があるため、作動油が段付き孔34と雄ねじ部材44との間からシリンダ9の外へ漏れる懸念はない。このため、シール接着剤46によるシール性は問われず、このシール性を検査する漏れ検査工程は不要である。
【0062】
また、このチェーンテンショナ1は、シリンダ9の外側にフランジ部12が形成されており(図1図3参照)、段付き孔34がフランジ部12からシリンダ9内に向かって形成されており、シリンダ9がエンジンカバー14のテンショナ取り付け孔15に挿入されており、フランジ部12がエンジンカバー14の外側にボルト止めされている外装タイプのものでありながら、作動油が雄ねじ部材44とフランジ部12間から漏れないため、漏れ検査工程を省いても、エンジンカバー14の油汚れを防止することができる。
【0063】
この発明の第二実施形態を図5に示す。なお、以下では、第一実施形態との相違点を述べるに留める。
【0064】
図5に示す段付き孔60は、雌ねじ部42よりもねじ軸線方向に段部43側に寄った位置にシール座部61を有する。シール座部61は、出口路35と雌ねじ部42との間の位置で段付き孔60の孔径を拡大し、雄ねじ部材62の端面63とねじ線方向に対向する段状に形成されている。シール座部61と、雄ねじ部材62の端面63は、それぞれねじ軸線方向に対して直角な方向に沿った平坦面状になっている。弾性体64をシール座部61上に配置し、雄ねじ部材62をねじ込む際、雄ねじ部材62の端面63にねじ軸線方向に押圧されて、段付き孔60のシール座部61に押し付けられる。このため、雄ねじ部材62の端面63に押圧された弾性体64は、端面63と、シール座部61とに密着している。
【0065】
第二実施形態によれば、弾性体64を段付き孔60のシール座部61と雄ねじ部材62の端面63とでねじ軸線方向に押しつぶすだけで雄ねじ部材62と段付き孔60との間を密封することができ、弾性体64をリリーフバルブ33に密着させることは不要になる。
【0066】
弾性体64は、ねじ軸線方向に対して直角な方向に沿ったガスケットからなる。このような弾性体64は、正対する端面63とシール座部61間で押しつぶす単純な圧縮変形で面接触状態にすることができる点で好ましいが、ガスケットに代えてOリング、樹脂等を採用することも可能である。
【0067】
そのガスケットとしては、ゴムシート、ジョイントシート等のシートを環状に打ち抜いたものが好ましい。このような弾性体64は、Oリングに比してねじ軸線方向に縮みにくいため、雄ねじ部材62の締め付けトルクが不安定になりにくい利点がある。なお、ジョイントシートは、ゴム、ポリアミド繊維、ガラス繊維、膨張黒鉛などを均一に混合させた後加熱ロールで加圧圧延したものである。このようなガスケットは、単一素材からなる軟質ガスケットに限定されず、ジョイントシート、金属薄板といった中芯材をポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の樹脂で被覆したガスケットシートを打ち抜いたものでもよい。
【0068】
この発明に係る第三実施形態を図6に示す。
【0069】
第三実施形態に係る雄ねじ部材70は、締め付け面71と、締め付け面71からねじ軸線方向に雄ねじ部45側に向かうに連れて直径を大きくしたテーパ状に形成されたシール面72とを有する。雄ねじ部材70のシール面72から押圧された弾性体73は、シール面72と、リリーフバルブ33の外周端部50と、段付き孔34の内周とに密着している。
【0070】
第三実施形態によれば、弾性体73をリリーフバルブ33の外周端部50と段付き孔34との間に配置し(図中一点鎖線参照)、雄ねじ部材70をねじ込む際、雄ねじ部材70のシール面72が締め付け面71からねじ軸線方向に雄ねじ部45側に向かうに連れて直径を大きくしたテーパ状であるため、シール面72で弾性体73の内径を拡げながら、リリーフバルブ33の外周端部50と段付き孔34との間に弾性体73を押し込むことが容易になる。
【0071】
また、第三実施形態によれば、雄ねじ部材70のシール面72が締め付け面71から雄ねじ部45側に向かうに連れて直径を大きくしたテーパ状であるので、シール面72をリリーフバルブから遠ざけ、弾性体73を配置するための空間を形成することができる。
【0072】
この発明に係る第四実施形態を図7図8に示す。
【0073】
第四実施形態は、雄ねじ部材80とリリーフバルブ33とで挟まれたシールリテーナ81を備える。シールリテーナ81は、ねじ軸線に対して直角な方向に沿った円板状になっている。リリーフバルブ33の端面49は、シールリテーナ81に接触する。雄ねじ部材80の締め付け面82は、シールリテーナ81に接触する。
【0074】
雄ねじ部材80は、締め付け面82よりもねじ軸線方向に雄ねじ部85側に寄った位置で弾性体83に接触するように、締め付け面82からねじ軸線方向に雄ねじ部85側に向かうに連れて直径を大きくしたテーパ状に形成されたシール面84を有する。このため、シール面84をリリーフバルブ33から遠ざけ、弾性体83を配置するための空間を形成することができる。なお、シール面84の形成部位は、第三実施形態に比して、シールリテーナ81の厚さの分だけ、雄ねじ部85側に寄っており、これに伴い、雄ねじ部85が短縮されている。
【0075】
シールリテーナ81は、リリーフバルブ33と段付き孔34の内周との間のすき間41とねじ軸線方向に対向し、かつ雄ねじ部材80のシール面84ともねじ軸線方向に対向するように段付き孔34の内周に向かって突き出ている。シールリテーナ81の直径は、リリーフバルブ33の外径と同等に設定されている。このため、シールリテーナ81の周縁は、嵌め合い隙間をもって段付き孔34の円筒面状部53に対向している。
【0076】
弾性体83をシールリテーナ81と段付き孔34との間に配置し、雄ねじ部材80をねじ込むと、その締め付け面82でシールリテーナ81をリリーフバルブ33の端面49との間に挟み、そのリリーフバルブ33を段付き孔34の段部43に向かって押して固定すると共に、そのシール面84で弾性体83をシールリテーナ81に押し付けて弾性体に加圧することができる。これにより、雄ねじ部材80のシール面84から押圧された弾性体83は、図8に示すように、シール面84と、シールリテーナ81と、段付き孔34の内周とに密着している。ここで、雄ねじ部材80のシール面84がテーパ状で弾性体83の内径を拡げながら弾性体83を押す点は、第三実施形態と同様である。
【0077】
第四実施形態によれば、シールリテーナ81が、リリーフバルブ33と段付き孔34の内周との間のすき間41とねじ軸線方向に対向し、かつ雄ねじ部材80のシール面84ともねじ軸線方向に対向するように当該段付き孔34の内周に向かって突き出ているので、弾性体83をリリーフバルブ33の外周端部50に押し付ける場合に比して、弾性体83に強く加圧してシール面84、段付き孔34、シールリテーナ81と弾性体83の接触面積を大きくし、シール性を高めることができる。
【0078】
上述の各実施形態では、ノーバック機構としてスクリュロッドを用いた鋸歯方式のものを例示したが、レジスタリング方式等の他の方式のものを採用してもよいし、ノーバック機構を省略してもよい。
【0079】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。したがって、本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0080】
1 チェーンテンショナ
9 シリンダ
10 プランジャ
12 フランジ部
14 エンジンカバー
15 テンショナ取り付け孔
18 チェックバルブ
19 圧力室
20 給油通路
30 リターンスプリング
32 排油通路
33 リリーフバルブ
34,60 段付き孔
36 弁体
37 バルブスプリング
38 バルブリテーナ
39 バルブシート
42 雌ねじ部
43 段部
44,62,70,80 雄ねじ部材
45,85 雄ねじ部
46 シール接着剤
48,64,73,83 弾性体
49 リリーフバルブの端面
50 リリーフバルブの外周端部
51,71,82 締め付け面
52,72,84 シール面
61 シール座部
63 雄ねじ部材の端面
81 シールリテーナ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8