(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-26
(45)【発行日】2025-06-03
(54)【発明の名称】トンネル切羽安全監視システムおよびトンネル切羽安全監視方法
(51)【国際特許分類】
E21D 9/00 20060101AFI20250527BHJP
E21D 9/093 20060101ALI20250527BHJP
【FI】
E21D9/00 Z
E21D9/093 F
(21)【出願番号】P 2021114265
(22)【出願日】2021-07-09
【審査請求日】2024-06-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】多田 浩幸
【審査官】高橋 雅明
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-042971(JP,A)
【文献】特開2011-202354(JP,A)
【文献】特開2012-197559(JP,A)
【文献】特開2000-064762(JP,A)
【文献】特開2019-219333(JP,A)
【文献】特開平07-146232(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 9/00
E21D 9/093
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルの切羽を監視するトンネル切羽安全監視システムであって、
前記トンネル内を移動する移動体と、
前記移動体に備えられ、方向自在に移動可能な可動部を備えるアーム部と、
前記アーム部の先端に備えられ、前記切羽の変位と振動とを計測するレーダー部と、
前記移動体に備えられ、前記レーダー部と電気的に接続されて前記レーダー部を駆動させ、前記レーダー部から前記切羽の変位と振動とのデータを検出し、外部情報端末に前記データを提供可能に備えられる、制御部と、
を備え、
前記レーダー部は、前記トンネル内において前記移動体および前記アーム部の移動により前記切羽の全面の変位と振動とを計測可能な位置に備えられ
、
前記アーム部は、前記レーダー部の座標と略一致する位置に備えられ、前記トンネル内に備えられる光波測量器から照射される光波が照射され、前記光波測量器に前記光波を反射する反射材を備え、
前記光波測量器は、前記反射材に前記光波を照射し、前記反射材に反射された前記光波から前記光波測量器と前記反射材との間の距離を測定する距離測定部と、前記光波測量器が備えられている位置と前記反射材が備えられている位置との間の鉛直角度および水平角度を測定する角度測定部と、を備え、
前記レーダー部は、前記光波測量器による測定結果から位置および姿勢を自動更新する、トンネル切羽安全監視システム。
【請求項2】
前記反射材は、前記光波測量器から照射された前記光波を反射可能であり、前記レーダー部の座標と略一致する位置に複数備えられる、
請求項
1に記載のトンネル切羽安全監視システム。
【請求項3】
前記アーム部の先端に作業床を備え、
前記レーダー部と前記制御部とは、前記作業床の上面に設けられる、
請求項
1または
2に記載のトンネル切羽安全監視システム。
【請求項4】
前記反射材は、前記作業床の下面に備えられる、
請求項
3に記載のトンネル切羽安全監視システム。
【請求項5】
前記反射材は、プリズム材により形成され、
前記プリズム材は、前記作業床の上部に備えられる前記レーダー部の座標と略一致する位置で、前記作業床の下面に3枚設けられている、
請求項4に記載のトンネル切羽安全監視システム。
【請求項6】
前記移動体は、前記アーム部を複数備え、それぞれの前記アーム部に前記レーダー部と前記制御部が備えられる、
請求項1から5のいずれか一項に記載のトンネル切羽安全監視システム。
【請求項7】
トンネルの切羽の状態を監視するトンネル切羽安全監視方法であり、
前記トンネル内を移動する移動体と、前記移動体に備えられ方向自在に移動可能な可動部を備えるアーム部と、の移動により、前記アーム部の先端に備えられ前記切羽の変位と振動とを計測するレーダー部を前記トンネル内において前記切羽の全面の変位と振動とを計測可能な位置に移動させる工程と、
前記レーダー部により前記切羽の全面の変位と振動とを計測する工程と、
前記移動体に備えられ、前記レーダー部と電気的に接続されて前記レーダー部を駆動させ、前記レーダー部から前記切羽の変位と振動とのデータを検出し、外部情報端末に前記データを提供可能に備えられる、制御部により、前記レーダー部から前記データを取得し、前記外部情報端末に前記データを提供する工程と、
を備え
、
前記アーム部は、前記レーダー部の座標と略一致する位置に備えられ、前記トンネル内に備えられる光波測量器から照射される光波が照射され、前記光波測量器に前記光波を反射する反射材を備え、
前記光波測量器は、前記反射材に前記光波を照射し、前記反射材に反射された前記光波から前記光波測量器と前記反射材との間の距離を測定する距離測定部と、前記光波測量器が備えられている位置と前記反射材が備えられている位置との間の鉛直角度および水平角度を測定する角度測定部と、を備え、
前記光波測量器による測定結果から前記レーダー部の位置および姿勢を自動更新する工程を備える、トンネル切羽安全監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル切羽安全監視システムおよびトンネル切羽安全監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネルを掘削する工法として吹付けコンクリートとロックボルトで地山を支保するNATM(New Austrian Tunneling Method)工法が知られている。NATM工法によれば掘削中の切羽を観察することで先進ボーリング等の調査と併せてある程度の前方の地質が予測できる。
一方で、NATM工法による山岳トンネルの施工時においては、発破や機械掘削による地山の掘削の直後からコンクリートの二次吹付けまでの間、掘削された領域の地山(切羽)がほぼ露出された状態となる。
【0003】
山岳トンネルの施工時においては、上記の露出した状態の切羽から岩石等が落下する肌落ち等を防ぐ必要がある。切羽の状態をモニタリングし、肌落ちの発生を予測する方法としては、切羽から所定の距離だけ後方に離れた位置に施工されたトンネル支保工に備えられた設置架台にレーダーを設け、切羽の微小変位と振動を同時にリアルタイムで計測する方法がある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方で、上記で挙げた切羽の微小変位と振動を計測する方法において、トンネルの掘削による切羽の進行に伴ってレーダーと切羽との間の距離がレーダーの計測可能範囲を超えた場合にレーダーを切羽側に移動させる必要が生じる。この際、レーダーを設置架台から取り外した後、設置架台を前方の支保工に付け替え、移動させた設置架台の上に再度レーダーを設置し直す作業が生じるため、労力と時間を要するという課題がある。
【0006】
また、山岳トンネルの施工における装薬後の発破時や吹付けコンクリートの打設時には、発破により飛散した岩石片や吹付けにより跳ね返った砕石がレーダーに直撃しないように、レーダーを保護する、あるいはその工程時には一旦レーダーを退避させるなどの作業を要するという課題がある。また、レーダーはトンネル支保工に設けられるため、トンネル側壁の底部付近に配置される。そのため、トンネル施工に使用される施工機械や運搬機械等が移動の際にレーダーに接触してレーダーを破損させる可能性があるという課題もある。
【0007】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたもので、トンネルの切羽の変位や振動を計測するレーダーを労力や時間を要することなく所定の位置に配置でき、トンネルの施工作業等によるレーダーの破損を防ぐことができるトンネル切羽安全監視システムおよびトンネル切羽安全監視方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係るトンネル切羽安全監視システムは、トンネルの切羽を監視するトンネル切羽安全監視システムであって、前記トンネル内を移動する移動体と、前記移動体に備えられ、方向自在に移動可能な可動部を備えるアーム部と、前記アーム部の先端に備えられ、前記切羽の変位と振動とを計測するレーダー部と、前記移動体に備えられ、前記レーダー部と電気的に接続されて前記レーダー部を駆動させ、前記レーダー部から前記切羽の変位と振動とのデータを検出し、外部情報端末に前記データを提供可能に備えられる、制御部と、を備え、前記レーダー部は、前記トンネル内において前記移動体および前記アーム部の移動により前記切羽の全面の変位と振動とを計測可能な位置に備えられる。
【0009】
上記の構成とすることで、移動体のアーム部を駆動させることにより、レーダー部を所定の測定位置に迅速に移動させて配置することができる。そのため、レーダー部の移動および配置等に要する時間や労働力を削減できトンネル施工の工期の短縮を図ることができる。
また、移動体およびアーム部は移動可能であるため、アーム部に備えられるレーダー部や制御部をトンネル施工に使用される施工機械や運搬機械等の作業範囲から容易に遠ざけることが可能となる。そのため、施工機械や運搬機械等の接触によるレーダー部や制御部の破損を防ぐことができる。
また、移動体を移動させることにより、トンネル施工における発破時および吹付けコンクリートの吹付け時においてもレーダー部や制御部を切羽から容易に遠ざけることが可能となる。そのため、発破により飛散した岩石片や吹付けコンクリートの吹付けにより跳ね返った砕石の直撃によるレーダー部や制御部の破損を防ぐことができる。
また、レーダー部で計測した切羽の変位と振動とのデータを外部情報端末で取得することにより、切羽から離れた安全な位置でトンネル切羽の監視を行うことができる。
【0010】
また、本発明に係るトンネル切羽安全監視システムにおいて、前記アーム部は、前記レーダー部の座標と略一致する位置に備えられ、前記トンネル内に備えられる光波測量器から照射される光波が照射され、前記光波測量器に前記光波を反射する反射材を備え、前記光波測量器は、前記反射材に前記光波を照射し、前記反射材に反射された前記光波から前記光波測量器と前記反射材との間の距離を測定する距離測定部と、前記光波測量器が備えられている位置と前記反射材が備えられている位置との間の鉛直角度および水平角度を測定する角度測定部と、を備え、前記レーダー部は、前記光波測量器による測定結果から位置および姿勢を自動更新してもよい。
【0011】
上記の構成により、光波測量器による測定結果からレーダー部の推定位置および姿勢が自動更新されるため、レーダー部の長時間の設置や移動体の移動等に対するレーダー部の姿勢や位置等のずれの補正や再推定を容易に行うことができる。そのため、再推定結果に基づいて切羽の変位および振動の計測値や計測位置の補正を容易に行うことができ、より正確な切羽の変位および振動の計測を実現することができる。
【0012】
また、本発明に係るトンネル切羽安全監視システムにおいて、前記反射材は、前記光波測量器から照射された前記光波を反射可能であり、前記レーダー部の座標と略一致する位置に複数備えられてもよい。
【0013】
上記の構成とすることにより、光波測量器は複数の反射板の位置を測定することでレーダー部の位置や姿勢の情報を複数取得することができるため、レーダー部の位置や姿勢をより正確に推定することができる。
【0014】
また、本発明に係るトンネル切羽安全監視システムにおいて、前記アーム部の先端に作業床を備え、前記レーダー部と前記制御部とは、前記作業床の上面に設けられてもよい。
【0015】
上記の構成とすることにより、レーダー部と制御部とを安定配置することができるため、レーダー部による切羽の変位および振動の計測をより精度よく行うことができる。
【0016】
また、本発明に係るトンネル切羽安全監視システムにおいて、前記反射材は、前記作業床の下面に備えられてもよい。
【0017】
レーダー部や制御部等のその他の機器は作業床の上面に備えられている。そのため、反射板を作業床の下面に設けることで光波測量器による光波の照射方向から隠れることを抑制することができ、光波測量器から照射された光波を反射板に容易に照射させ、反射させることができる。
【0018】
また、本発明に係るトンネル切羽安全監視システムにおいて、前記移動体は、前記アーム部を複数備え、それぞれの前記アーム部に前記レーダー部と前記制御部が備えられてもよい。
【0019】
上記の構成とすることで、レーダー部は複数の方向自在に移動可能なアーム部に複数備えられるため、施工機械等の左右の側方等の複数の方向から切羽の計測を容易に行うことができる。そのため、レーダー部は切羽の全面に対して計測を容易に行うことができる。
【0020】
また、本発明に係るトンネル切羽安全監視方法は、トンネルの切羽の状態を監視するトンネル切羽安全監視方法であり、前記トンネル内を移動する移動体と、前記移動体に備えられ方向自在に移動可能な可動部を備えるアーム部と、の移動により、前記アーム部の先端に備えられ前記切羽の変位と振動とを計測するレーダー部を前記トンネル内において前記切羽の全面の変位と振動とを計測可能な位置に移動させる工程と、前記レーダー部により前記切羽の全面の変位と振動とを計測する工程と、前記移動体に備えられ、前記レーダー部と電気的に接続されて前記レーダー部を駆動させ、前記レーダー部から前記切羽の変位と振動とのデータを検出し、外部情報端末に前記データを提供可能に備えられる、制御部により、前記レーダー部から前記データを取得し、前記外部情報端末に前記データを提供する工程と、を備える。
【0021】
上記の構成とすることで、移動体のアーム部を駆動させることにより、レーダー部を所定の測定位置に迅速に移動させて配置することができるトンネル切羽安全監視方法とすることができる。
また、トンネル施工に使用される施工機械や運搬機械等との接触および発破により飛散した岩石片や吹付けコンクリートの吹付けにより跳ね返った砕石の直撃によるレーダー部や制御部の破損を防ぐトンネル切羽安全監視方法とすることができる。
また、レーダー部で計測した切羽の変位と振動とのデータを外部情報端末で取得することで切羽から離れた安全な位置でトンネル切羽の監視を行うことができるトンネル切羽安全監視方法とすることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、トンネルの切羽の変位や振動を計測するレーダーを労力や時間を要することなく所定の位置に配置でき、トンネルの施工作業等によるレーダーの破損を防ぐことができるトンネル切羽安全監視システムおよびトンネル切羽安全監視方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施形態によるトンネル切羽安全監視システムの構成を説明する図である。(a)はトンネル掘削時におけるトンネル切羽安全監視システムの概念図である。(b)は(a)の平面視図である。
【
図2】本発明の実施形態によるトンネル切羽安全監視システムの構成を説明する図である。(a)は吹付けコンクリートの吹付け時におけるトンネル切羽安全監視システムの概念図である。(b)は(a)の平面視図である。
【
図3】本発明の実施形態によるトンネル切羽安全監視システムのレーダー部および制御部の構成を説明する説明図である。
【
図4】本発明の実施形態によるトンネル切羽安全監視システムの変形例の構成を説明する図である。(a)はトンネル掘削時におけるトンネル切羽安全監視システムの概念図である。(b)は(a)の平面視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態によるトンネル切羽安全監視システムおよびトンネル切羽安全監視方法について、
図1乃至
図4に基づいて説明する。本実施形態では、NATM工法でトンネル掘削を行う場合について説明する。なお、本発明によってトンネル切羽の状態の監視が可能であれば、本発明が適用されるトンネルの施工工法はNATM工法に限定されない。
【0025】
図1および
図2に示すように、本実施形態によるトンネル切羽安全監視システム1は、トンネルT内において切羽2の状態の監視するために設けられ、トンネルT内を移動する移動体10に可動部11を備えるアーム部12と、アーム部12の先端12aに備えられる作業床13とを備える。また、レーダー部14と制御部15とを近接させて作業床13の上面に備え、作業床13の下面に3枚の反射板16を備える。また、反射板16の位置を測定し、測定結果からレーダー部14の設置位置や姿勢を推定する光波測量器17をトンネルT内に備える。
【0026】
一般に、NATM工法によるトンネルTの施工は、火薬を入れる孔をドリルジャンボ等の施工機械3aで削孔する「発破削孔」、削孔孔への「装薬」、発生したずりを坑外に搬出する「ずり出し」、掘削面の地山が緩んで崩落しそうな浮き石を鉄棒などで落とす「こそく」、切羽の状態を観察する「切羽観察」、地山の緩みの抑制等のためにコンクリート吹付け機3bにより吹付けコンクリートを施工する「一次吹付けコンクリート」、トンネルTの内面に鋼製支保工を施工する「鋼製支保工建込み」、鋼製支保工背面に金網を設置し、コンクリート吹付け機3bにより2回目の吹付けコンクリートの施工を行う「二次吹付けコンクリート」、トンネルTの内面からロックボルトを放射状に打設する「ロックボルト打設」などの一連の工程を繰り返して行う。本実施形態においては、上述した各工程を繰り返す掘削サイクルにおいて、掘削サイクルにおける工程の各々に対して継続的に、切羽2の全面の監視を行う。
【0027】
移動体10は、本実施形態において公知の高所作業車等の工事用車両である。可動部11は、高所作業車等に備えられる昇降・伸縮・旋回等の方向自在に移動が可能な複数の継手部である。アーム部12は上記の継手部が接続されたブーム機構である。アーム部12の先端12aには作業床13が備えられる。
【0028】
作業床13は、公知の高所作業車等に備えられるバスケットであり、上面にレーダー部14および制御部15を安定して設置可能な平滑な表面形状と床面積とを有する。また、作業床13は下面におけるレーダー部14の座標と略一致する位置に光波測量器17の測定対象である3枚の反射板16が設けられる。また、作業床13はレーダー部14および制御部15の設置作業や維持管理作業を行う作業員等が乗ることが可能な床面積を有している。
【0029】
図1に示すように、移動体10はトンネルTの掘削時においては、レーダー部14を備えた作業床13を切羽2から15m程度の離隔L1を取って施工機械3aの後方の側方(壁際)に接近させて固定し、レーダー部14を配置させる。
また、
図2に示すように、吹付けコンクリートの吹付け作業時において、移動体10はレーダー部14を備えた作業床13を離隔L1よりもさらに大きい離隔L2を取ってトンネルTの坑口側にさらに移動し、コンクリート吹付け機3bの後方の側方(壁際)に接近させて固定し、レーダー部14を配置させる。なお、上記のいずれの作業時においてもレーダー部14は切羽2に対して所望の計測機能を発揮できるものとする。
【0030】
レーダー部14は、本実施形態において幅30cm×高さ20cm×奥行き25cm程度の小型軽量の箱型の計測機器である。レーダー部14は切羽2の全面に対して所定の周波数の電波を計測ビーム(レーザー)として放射し、切羽2から反射される反射ビームを照射する。制御部15は、得られたビームの反射時間等の諸データを取得することにより、切羽2の全面における微小な変位や振動の振動特性を計測する。
【0031】
図3に示すように、制御部15は、レーダー部14と電気的に接続されることでレーダー部14を駆動させる電源部15aと、レーダー部14に切羽2から反射された反射ビームを照射して得られたデータをレーダー部14から取得し、切羽2の変位と振動とのデータを検出する検出部15bと、検出したデータを検出部15bから授受しトンネルTの施工現場の作業員4aやトンネルT外にいる作業員4bが所有する外部情報端末5に無線通信により送信するデータ通信部15cとを備える。外部情報端末5は、例えば公知のタブレット端末等が挙げられる。
【0032】
上記の構成を有するトンネル切羽安全監視システム1によってトンネルTの施工時における切羽2の変位および振動の変化がリアルタイムで監視される。また、トンネル切羽安全監視システム1は、トンネルT内やトンネルT外の現場事務所等にデータ通信部15cと無線通信可能な警告通知装置6を設け、切羽2に所定以上(変位閾値または振動閾値以上)の動きが計測され、外部情報端末5に計測データが送信された際に、データ通信部15cとの無線通信により警告通知装置6に該計測データを共有させ、警告通知装置6を作動させてトンネルT内やトンネルT外の現場事務所等に警告を通知する。
【0033】
警告通知装置6は、例えば避難等の指示を促す音声とともに赤色灯を点滅させて、作業員4a等のトンネルT内の作業員に対して作業の中止や切羽2から遠ざかることを通知し、トンネルT外にいる作業員4bに対してトンネルT内で不測の事態が発生した旨を通知する警告灯が挙げられる。また、例えば作業員が所有する外部情報端末5に作業の中止や避難を促す音声あるいはアラームを起動させ、作業員4aに対して切羽2から遠ざかることを通知し、作業員4bに対して切羽2で所定以上の動きが計測された旨を通知するアプリケーションを搭載した構成が挙げられる。
【0034】
なお、アーム部12は、可動部11の運動によりレーダー部14を切羽2の全面の変位および振動を計測可能な位置に配置させることが可能な移動可能範囲を備える。
また、本実施形態において可動部11の運動機構やレーダー部14の計測ビーム(レーザ)の照射等の動作は、無線による遠隔操作によって動作および計測の制御が行われるものとする。また、制御部15は作業床13上にレーダー部14と近接して備えられるが、制御部15が所望の性能を有していれば、箱型のレーダー部14の中に備えてもよい。
【0035】
反射板16は、プリズム材により形成される(以下、「プリズム材16」とする)。プリズム材16は、作業床13の下面に3枚設けられ、3枚のプリズム材16はいずれも作業床13の上部に備えられるレーダー部14の座標と略一致する位置に備えられる。例えば、本実施形態においてレーダー部14は箱型形状であるため、3枚のプリズム材16は平面視で略矩形形状のレーダー部14の中に位置する。
【0036】
光波測量器17は切羽2および移動体10の後方に備えられ、公知のトータルステーションである。光波測量器17は、プリズム材16に光波を照射し、プリズム材16に反射された光波が照射されることで光波測量器17とプリズム材16との間の距離を測定する距離測定部17aと、光波測量器17が備えられている位置とプリズム材16が備えられている位置との間の鉛直角度および水平角度を測定する角度測定部17bと、を備える。距離測定部17aと角度測定部17bとから得られた結果から3枚のプリズム材16のそれぞれの位置が測定され、レーダー部14の位置および姿勢が推定される。
【0037】
トンネル切羽安全監視システム1において、移動体10として高所作業車等を用いる場合、油圧シリンダー特有の圧力低下によってアーム部12は一定時間同じ位置で固定すると時間の経過に伴い徐々に降下する現象を示す。つまり、作業床13に備えられたレーダー部14も時間の経過に伴い徐々に降下する。そのため、光波測量器17は3枚のプリズム材16の位置を一定時間間隔で自動測量し、レーダー部14の位置および姿勢の再推定(レーダー部14の位置および姿勢の自動更新)を行う。また、再推定の結果に基づいて切羽2の変位および振動の計測値や計測位置の補正を行うものとする。
【0038】
次に、本実施形態によるトンネル切羽安全監視システムおよびトンネル切羽安全監視方法の作用・効果について
図1乃至
図3を用いて説明する。
図1乃至
図3に示すように、トンネル切羽安全監視システム1は、先ず、可動部11を備えるアーム部12と、切羽2の変位と振動とを計測するレーダー部14と、電源部15aと検出部15bとデータ通信部15cとを備えた制御部15と、アーム部12の先端12aに備えられレーダー部14と制御部15を上部に備える作業床13と、を備える移動体10をトンネルT内で移動させる。移動体10はトンネルTの掘削時においてアーム部12の駆動によりレーダー部14を切羽2から離隔L1を取って施工機械3aの後方の側方(壁際)に接近させて固定し、レーダー部14を配置させる。
【0039】
また、吹付けコンクリートの吹付け作業時において、移動体10はレーダー部14を備えた作業床13を離隔L1よりもさらに大きい離隔L2を取ってトンネルTの坑口側にさらに移動し、コンクリート吹付け機3bの後方の側方(壁際)に接近させて固定し、レーダー部14を配置させる。
【0040】
検出部15bで検出した切羽2の変位と振動とのデータを無線通信によりトンネルTの施工現場の作業員4aやトンネルT外にいる作業員4bが所有する外部情報端末5に送信する。
【0041】
以上の機構により、トンネルT内の所定の位置でレーダー部14と制御部15とを安定配置した状態で切羽2の変位と振動とを計測し、切羽2の状態を監視することが可能となる。また、検出部15bで検出した切羽2の変位と振動とのデータを外部情報端末5で取得することにより、切羽2から離れた安全な位置で切羽2の状態の監視を行うことができる。
【0042】
移動体10のアーム部12を駆動させることにより、レーダー部14を所定の測定位置に迅速に移動させて配置させることができる。そのため、レーダー部14やその他の計測機構の計測位置への移動および配置等に要する時間や労働力を削減できる。
【0043】
移動体10およびアーム部12は移動可能であるため、レーダー部14や制御部15をトンネルTの施工に使用される施工機械や運搬機械等の大型の作業機械の作業範囲から容易に遠ざけることができる。そのため、作業機械との接触等によるレーダー部14や制御部15の破損を防ぐことができる。
【0044】
レーダー部14は、トンネルT内で移動させトンネルTの掘削時において切羽2から離隔L1を取って施工機械3aの後方の側方に配置され、吹付けコンクリートの吹付け時において移動体10はレーダー部14を備えた作業床13を離隔L1よりもさらに大きい離隔L2を取ってトンネルTの坑口側にさらに移動して配置される。そのため、上記の作業時においてレーダー部14や制御部15を切羽2から容易に遠ざけられるため、発破により飛散した岩石片や吹付けコンクリートの吹付けにより跳ね返った砕石の直撃によるレーダー部14や制御部15の破損を防ぐことができる。
【0045】
作業床13は、下面にレーダー部14の座標と略一致する位置に備えられる3枚のプリズム材16を備え、レーダー部14は、距離測定部17aと角度測定部17bとを備えた光波測量器17により各プリズム材16の位置を測定することで、レーダー部14の位置および姿勢が推定される。
【0046】
光波測量器17は、3枚のプリズム材16の位置を一定時間間隔で自動測量し、レーダー部14の位置および姿勢の再推定(自動更新)を行う。また、再推定の結果に基づいて切羽2の変位、振動の計測値について計測位置の補正を行う。
【0047】
上記の機構により、光波測量器17は3枚のプリズム材16の位置を一定時間間隔で自動測量し、レーダー部14の位置および姿勢が自動更新されるため、移動体10の長時間の設置等によるレーダー部14の姿勢や位置等のずれに対するレーダー部14の位置および姿勢の補正や再推定を容易に行うことができる。そのため、再推定結果に基づいて切羽2の変位および振動の計測値や計測位置の補正を容易に行うことができ、より正確な切羽2の変位および振動の計測を実現することができる。
【0048】
光波測量器17は、3枚のプリズム材16によりレーダー部14の位置や姿勢の情報を複数取得することができるため、レーダー部14の位置や姿勢の推定をより正確に行うことができる。
【0049】
レーダー部14や制御部15等のその他の機器が作業床13の上面に設けられているのに対し、プリズム材16が作業床13の下面に備えられる構成により、光波測量器17による光波の照射方向からプリズム材16が隠れることを抑制することができるため、光波測量器17から照射された光波をプリズム材16に容易に照射させ、反射させることができる。
【0050】
以上、本発明によるトンネル切羽安全監視システムおよびトンネル切羽安全監視方法について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記の実施形態では切羽2に対して1基のレーダー部14により変位および振動の計測を実施したが、
図4に示すように、2台のレーダー部14を施工機械後方のトンネルTの進行方向左右両側に備えた構成としてもよい。上記の構成により、切羽2においてレーダー部14による測定ビームに対する切羽2からの反射波が観測されない部分を最小限に抑えることが可能である。
【0051】
上記の効果が得られるのであればトンネル切羽安全監視システム1の構成に限定されない。例えば、1台の移動体10に複数のアーム部12が備えられてもよいし、複数台の移動体10を施工機械後方のトンネルTの進行方向左右両側に備えてもよい。また、複数のレーダー部14の駆動を1基の制御部15により制御してもよいし、1基のレーダー部14の駆動を1基の制御部15が制御してもよい。
【符号の説明】
【0052】
1 トンネル切羽安全監視システム
2 切羽
5 外部情報端末
10 移動体
11 可動部
12 アーム部
13 作業床
14 レーダー部
15 制御部
16 反射板
17 光波測量器
17a 距離測定部
17b 角度測定部
T トンネル