(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-26
(45)【発行日】2025-06-03
(54)【発明の名称】ポリビニルアルコールフィルム、それから成る光学フィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20250527BHJP
B29C 41/26 20060101ALI20250527BHJP
B29C 41/46 20060101ALI20250527BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20250527BHJP
B29K 29/00 20060101ALN20250527BHJP
【FI】
C08J5/18 CEX
B29C41/26
B29C41/46
G02B5/30
B29K29:00
(21)【出願番号】P 2023198621
(22)【出願日】2023-11-22
【審査請求日】2023-11-22
(32)【優先日】2023-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591057290
【氏名又は名称】長春石油化學股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】チェン、チア-イン
【審査官】芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-238834(JP,A)
【文献】特開平06-138319(JP,A)
【文献】国際公開第2008/002015(WO,A1)
【文献】特開2002-028939(JP,A)
【文献】特開2002-028938(JP,A)
【文献】国際公開第2022/004341(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/18
B29C 41/00-41/36;41/46-41/52
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
純水に浸漬して乾燥させた後の示差走査熱量測定法(DSC)による分析において、結晶化温度のピーク値範囲が0.1~3℃であり、且つその熱流の相対温度変化曲線の一次微分を経たピーク部の差値が2~7℃である、ポリビニルアルコールフィルム
であって、
前記結晶化温度のピーク値範囲および前記熱流の相対温度変化曲線の一次微分を経たピーク部の差値の測定方法が、
ポリビニルアルコールフィルムを幅方向(TD)に3等分し、それぞれのポリビニルアルコールフィルムの中央部をカットして、機械方向(MD)に沿って10cm×横方向に沿って10cmの面積を有するポリビニルアルコールフィルムを取得し、10cm×10cmのポリビニルアルコールフィルムを30℃の純水2000mlに浸し、磁石で5分間攪拌して、合計3枚の湿潤ポリビニルアルコールフィルムを取得し、前の工程を1回繰り返し、次に、湿潤ポリビニルアルコールフィルム3枚を105℃のオーブンに入れて1時間乾燥させ、測定するポリビニルアルコールフィルム3枚を得る、前処理を含む、
ポリビニルアルコールフィルム。
【請求項2】
前記結晶化温度のピーク値が206℃以上である、請求項1に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項3】
水中に30秒間浸漬した後の幅(TD)方向の膨潤度が10~19%である、請求項1に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項4】
水中に15分間浸漬した後の幅(TD)方向の膨潤度が22%より大きい、請求項1に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項5】
23℃/50%RHの条件下で24時間静止した後の小角X線散乱(SAXS)分析において、散乱ベクトル(q)が0.3~0.7nm
-1の間における散乱強度(I(q))のピーク値範囲が0.06nm
-1未満である、ポリビニルアルコールフィルム
であって、
前記散乱強度(I(q))のピーク値範囲の測定方法が、
ポリビニルアルコールフィルムを幅方向(TD)に3等分し、それぞれのポリビニルアルコールフィルムの中央部をカットして、1cm×1cmの面積を有するポリビニルアルコールフィルムを取得し、次に、この1cm×1cmのポリビニルアルコールフィルムを23℃/50%RHの条件下で24時間静置して、測定するポリビニルアルコールフィルム3枚を得る、試料調製方法を含む、
ポリビニルアルコールフィルム。
【請求項6】
前記ポリビニルアルコールフィルムは重合度が1800~3000の間である、請求項1~5のいずれか1項に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項7】
前記ポリビニルアルコールフィルムは含水率が1.0~5.0wt%の間である、請求項1~5のいずれか1項に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項8】
請求項1又は5に記載のポリビニルアルコールフィルムにより製造されたものである、光学フィルム。
【請求項9】
偏光フィルムである、請求項8に記載の光学フィルム。
【請求項10】
前記偏光フィルムは、複数の位置で測定した偏光度の標準偏差が0.006未満である、請求項9に記載の光学フィルム。
【請求項11】
請求項1又は5に記載のポリビニルアルコールフィルムの製造方法であって、
ポリビニルアルコール系樹脂を乾燥して水洗浄する工程(a)と、
前記ポリビニルアルコール系樹脂、界面活性剤、可塑剤及び水を溶解に至るまで攪拌し加温して、ポリビニルアルコール鋳造溶液を形成する工程(b)と、
前記ポリビニルアルコール鋳造溶液を鋳造ドラムに鋳込み、乾燥して予備成形フィルムを作る工程(c)と、
前記予備成形フィルムを高温から低温へと温度が徐々に下がる複数本の加熱ローラに接触させた後、複数のセクションを備えた乾燥器に進入させて熱処理を行う工程(d)と、を含む、ポリビニルアルコールフィルムの製造方法。
【請求項12】
前記工程(a)中、前記ポリビニルアルコール系樹脂の乾燥温度は115~125℃である、請求項11に記載のポリビニルアルコールフィルムの製造方法。
【請求項13】
前記工程(a)中、水洗浄の水と前記ポリビニルアルコール系樹脂との重量比は9以上である、請求項11に記載のポリビニルアルコールフィルムの製造方法。
【請求項14】
前記工程(c)中、前記鋳造ドラムの乾燥時における幅(TD)方向の風速差は2.5m/s以下である、請求項11に記載のポリビニルアルコールフィルムの製造方法。
【請求項15】
前記工程(d)中、前記予備成形フィルムと温度が85℃超の前記加熱ローラとの総接触時間は6~20秒である、請求項11に記載のポリビニルアルコールフィルムの製造方法。
【請求項16】
前記工程(d)中、前記乾燥器の幅(TD)方向における温度の標準偏差は2.6未満である、請求項11に記載のポリビニルアルコールフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルムとして、特に偏光フィルムとして用い得る、ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol,PVA)フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol,PVA)フィルムは一種の親水性ポリマーであり、透明性、機械的強度、水溶性、良好な加工性などの性能を有し、包装材料又は電子製品の光学フィルム、特に偏光フィルムに広く用いられている。
【0003】
ポリビニルアルコール樹脂から光学フィルムを製造する製造方法は、塗布法とブロー成形法に分けられる。塗布法は、製膜原液を消泡、塗布、乾燥などの工程を通して製品を製造するものであり、ブロー成型法は、製膜原液を消泡、インフレーション、双方向引っ張り、乾燥などの工程を通して製品を製造するものである。ブロー成型法により調製されたポリビニルアルコールフィルムはしばしば表面にスクラッチや条痕の問題が発生するが、塗布法により製造されたポリビニルアルコールフィルムは優れた性能(例えば表面平滑性)を有するため、現在は一般的に塗布法を用いてポリビニルアルコールフィルムを製造することが多い。
【0004】
偏光フィルムの製造時に微細構造の分布が不均一である場合、偏光フィルムに線が発生してしまい、偏光度の均一性に影響が出るため、光学性に優れたポリビニルアルコールフィルムを得るために、調製過程では表面の線をできる限り低減させている。
【0005】
良好な偏光フィルムは条痕の欠陥がなく、偏光度が均一であるという特性を有しており、優れた光学性質を提供することができる。偏光フィルムの光学性質を向上させるために、従来技術では設備技術の改善や関係する構成要素の材質選択によって光学性質の向上を図っている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術におけるポリビニルアルコールフィルムを使用して製造された光学フィルムの場合、偏光度が不均一になる現象がよく発生していた。本願の発明者は、恐らくポリビニルアルコールフィルムが偏光フィルムに調製される前の元の膜中の微細構造の分布が不均一であることで、最終的に調製される偏光フィルムの表面に条痕の欠陥が出現し、偏光度が不均一になる現象が発生するということに気が付いた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の問題を解決するために、本発明はポリビニルアルコールフィルムを提供するが、それは微細構造の分布が均一であり、それによって当該ポリビニルアルコールフィルムから製造した偏光フィルムに条痕の欠陥がなく且つ偏光度が均一であるという特性を持たせることができる。
【0008】
本発明の1つの目的はポリビニルアルコールフィルムを提供することであり、それは純水に浸漬して乾燥させた後の示差走査熱量測定法(DSC)による分析において、結晶化温度のピーク値範囲が0.1~3℃であり、且つその熱流の相対温度変化曲線グラフの一次微分を経たピーク部の差値が2~7℃である。
【0009】
好ましい実施形態において、当該ポリビニルアルコールフィルムは、結晶化温度のピーク値が206℃以上である。
【0010】
好ましい実施形態において、当該ポリビニルアルコールフィルムは、水中に30秒間浸漬した後の幅(TD)方向の膨潤度が10~19%である。
【0011】
好ましい実施形態において、当該ポリビニルアルコールフィルムは、水中に15分間浸漬した後の幅(TD)方向の膨潤度が22%より大きい。
【0012】
本発明のもう1つの目的はポリビニルアルコールフィルムを提供することであり、それは23℃/50%RHの条件下で24時間静止した後の小角X線散乱(SAXS)分析において、散乱ベクトル(q)が0.3~0.7nm-1の間における散乱強度(I(q))のピーク値範囲が0.06nm-1未満である。
【0013】
好ましい実施形態において、ポリビニルアルコールフィルムは重合度が1800~3000の間である。
【0014】
本発明のもう1つの目的は光学フィルムを提供することであり、それは本発明のポリビニルアルコールフィルムで製造されたものである。
【0015】
好ましい実施形態において、当該光学フィルムは偏光フィルムである。
【0016】
好ましい実施形態において、当該偏光フィルムは、複数の位置で測定した偏光度の標準偏差が0.006未満である。
【0017】
本発明のさらに別の目的はポリビニルアルコールフィルムの製造方法を提供することであり、それは、(a)ポリビニルアルコール系樹脂を乾燥して水洗浄する工程と、(b)当該ポリビニルアルコール系樹脂、界面活性剤、可塑剤及び水を溶解に至るまで攪拌し加温して、ポリビニルアルコール鋳造溶液を形成する工程と、(c)当該ポリビニルアルコール鋳造溶液を鋳造ドラムに鋳込み、乾燥して予備成形フィルムを作る工程と、(d)当該予備成形フィルムを高温から低温へと温度が徐々に下がる複数本の加熱ローラに接触させた後、複数のセクションを備えた乾燥器に進入させて熱処理を行う工程と、を含む。
【0018】
好ましい実施形態において、当該ポリビニルアルコールフィルムの製造方法の工程(a)において、当該ポリビニルアルコール系樹脂の乾燥温度は115~125℃である。
【0019】
好ましい実施形態において、当該ポリビニルアルコールフィルムの製造方法の工程(a)において、水洗浄の水と当該ポリビニルアルコール系樹脂との重量比は9以上である。
【0020】
好ましい実施形態において、当該ポリビニルアルコールフィルムの製造方法の工程(c)において、当該鋳造ドラムの乾燥時における幅(TD)方向の風速差は2.5m/s以下である。
【0021】
好ましい実施形態において、当該ポリビニルアルコールフィルムの製造方法の工程(d)において、当該予備成形フィルムと温度が85℃超の当該加熱ローラとの総接触時間は6~20秒である。
【0022】
好ましい実施形態において、当該ポリビニルアルコールフィルムの製造方法の工程(d)において、当該乾燥器の幅(TD)方向における温度の標準偏差は2.6未満である。
【発明の効果】
【0023】
本発明の効果として、本発明が提供する当該ポリビニルアルコールフィルムは、その微細構造の分布が均一であり、後に光学フィルムの製造に使用したとき、高い偏光度の均一性を有することができ、条痕の欠陥がない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の1つの実施例に基づくポリビニルアルコールフィルムのDSC分析方法による降温曲線グラフであって、Originのデータ解析用ソフトを用いて微分を行っている。
【
図2】本発明の1つの実施例に基づくポリビニルアルコールフィルムのSAXS散乱図である。
【
図3】本発明の1つの実施例に基づくポリビニルアルコールフィルムのヨウ化物イオンが染色時にポリビニルアルコールの非晶質(amouphous)領域と反応する概念図である。
【
図4】本発明の1つの実施例に基づくポリビニルアルコールフィルムの10cm×10cmの面積に切り出した試料片の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下の実施形態は、本発明を過度に限定するものではない。本発明が属する技術分野の当業者は、本発明の精神又は範囲から逸脱せずに本明細書中で検討する実施例に対して修正や変更を行うことができ、いずれも本発明の範囲に即する。
【0026】
本明細書中の「1」及び「一種」という用語は、本明細書において文法の対象が1つ以上(即ち少なくとも1つ)存在することを指す。
【0027】
本発明が提供するポリビニルアルコールフィルムは、純水に浸漬して乾燥させた後の示差走査熱量測定法(DSC)による分析において、結晶化温度のピーク値範囲が0.1~3℃であり、且つその熱流の相対温度変化曲線の一次微分を経たピーク部の差値が2~7℃である。
【0028】
本明細書に記載の「結晶化温度」とは、物質が液体から結晶体へ転移するのに必要な温度をいい、「結晶化温度のピーク値」とは、Tc,p(peak of crystallization temperature)値をいい、それは試料上の複数(限定しないが例えば3箇所)の位置の結晶化温度を測定して平均を求めた値である。1つの好ましい実施例中、当該結晶化温度のピーク値は206℃以上であり、例えば、206℃以上、206.5℃以上、207℃以上、207.5℃以上である。
【0029】
前述の「範囲」とは、1組のデータ中の最大数と最小数の差が即ちそのデータの範囲であり、「示差走査熱量測定法(DSC)による分析中の結晶化温度のピーク値範囲」はTc,p偏差であり、示差走査熱量測定(DSC)法による分析中の試料上の複数(限定しないが例えば3箇所)の位置の結晶化温度を測定した後、最大値から最小値を引いて得た値をいう。好ましい実施例中、当該ポリビニルアルコールフィルムは結晶化温度のピーク値範囲が0.1~3℃であり、例えば、0.1~3℃、0.1~2.5℃、0.1~2℃、0.1~1.5℃、0.1~1℃、0.1~0.5℃、0.5~3.℃、0.5~2.5℃、0.5~2℃、0.5~1.5℃、0.5~1℃、1~3℃、1~2.5℃、1~2℃、1~1.5℃、1.5~3℃、1.5~2.5℃、1.5~2℃、2~3℃、2~2.5℃、2.5~3℃である。
【0030】
前述の「その熱流の相対温度変化曲線の一次微分を経たピーク部の差値」とは、示差走査熱量測定法(DSC)による分析を利用して熱流の相対温度変化曲線グラフをプロットし、その測定概念図は
図1に示す通りであり、ソフト(Originのデータ解析ソフトなど)を利用して微分を行い、微分線を得て、結晶化ピーク付近における最高値をTc,2と定義し、最低値をTc,1と定義して、Tc,1-Tc,2を計算し、且つ複数(限定しないが例えば3箇所)の位置のTc,1-Tc,2の平均値を求めて得た値をいう。好ましい実施例中、当該ポリビニルアルコールフィルムは熱流の相対温度変化曲線の一次微分を経たピーク部の差値が2~7℃であり、例えば、2~7℃、2~6.5℃、2~6℃、2~5.5℃、2~5℃、2~4.5℃、2~4℃、2~3.5℃、2~3℃、2~2.5℃、2.5~7℃、2.5~6.5℃、2.5~6℃、2.5~5.5℃、2.5~5℃、2.5~4.5℃、2.5~4℃、2.5~3.5℃、2.5~3℃、3~7℃、3~6.5℃、3~6℃、3~5.5℃、3~5℃、3~4.5℃、3~4℃、3~3.5℃、3.5~7℃、3.5~6.5℃、3.5~6℃、3.5~5.5℃、3.5~5℃、3.5~4.5℃、3.5~4℃、4~7℃、4~6.5℃、4~6℃、4~5.5℃、4~5℃、4~4.5℃、5~7℃、5~6.5℃、5~6℃、5~5.5℃、6~7℃、6~6.5℃、6.5~7℃である。
【0031】
本発明は、結晶化のピーク値範囲(Tc,p偏差)及び熱流の相対温度変化曲線の一次微分を経たピーク部の差値(Tc,1-Tc,2)を結晶化温度分布の指標として利用しており、その数値が大きければ大きいほど結晶化温度の偏差が過大であるか又は分布の幅が過大であり、微細構造の分布がより不均一であることを表し、ポリビニルアルコールフィルムが後に形成する偏光板の表面に線が一層発生しやすいことを意味している。
【0032】
本発明の1つの好ましい態様において、本発明のポリビニルアルコールフィルムは、水中に30秒間浸漬した後の幅(TD)方向の膨潤度が10~19%である。本発明のもう1つの好ましい態様において、本発明のポリビニルアルコールフィルムは、水中に15分間浸漬した後の幅(TD)方向の膨潤度が22%より大きい。
【0033】
本明細書に記載の「膨潤度」とは、高分子物質が溶媒中で膨張する前後の長さの変化を測定したものをいい、即ち、下記式で定義されるものである。
【数1】
架橋結合状の高分子物質は溶媒中で溶解されず、溶媒は高分子の網状構造中に浸透して進入することしかできず、膨張を生じさせるが、高分子物質の網状密度が高ければ高いほど、溶媒が網状構造中に進入しにくくなり、膨潤度がより小さくなる。温度と溶媒は高分子物質の膨潤度に影響を与え、溶媒と高分子の作用力が大きければ大きいほど膨潤度も大きくなる。「水中に30秒間浸漬した後」とは、幅(TD)方向の固定長さ(例えば10cmでよい)の試験片を30℃の恒温タンクに入れて、30秒間浸漬した後に膨潤後の幅(TD)方向の長さを測定することをいう。特定の理論に限定されるものではないが、発明者は、ポリビニルアルコールフィルムを水中に30秒間浸漬した後の幅(TD)方向の膨潤度(以下は30秒間TD膨潤度と呼ぶ)が高すぎるか又は低すぎると、最終的な偏光板の表面に線を発生させてしまうことに気付いた。1つの好ましい実施例中、当該ポリビニルアルコールフィルムは、水中に30秒間浸漬した後の幅(TD)方向の膨潤度が10~19%である。
【0034】
本明細書に記載の「水中に15分間浸漬した後」とは、幅(TD)方向の固定長さ(例えば10cmでよい)の試験片を30℃の恒温タンクに入れて、15分間浸漬した後に膨潤後の幅(TD)方向の長さを測定することをいう。1つの好ましい実施例中、当該ポリビニルアルコールフィルムは、水中に15分間浸漬した後の幅(TD)方向の膨潤度(以下は15分間TD膨潤度と呼ぶ)が22%より大きい。
【0035】
本発明がさらに提供するポリビニルアルコールフィルムは、23℃/50%RHの条件下で24時間静止した後の小角X線散乱(SAXS)分析において、散乱ベクトル(q)が0.3~0.7nm-1の間における散乱強度(I(q))のピーク値範囲が0.06nm-1未満である。
【0036】
前述の「小角X線散乱(SAXS)」は、非破壊で物質の微細構造を調べる方法の1つであり、X線と電子の散乱現象を利用するものである。SAXSは材料のナノ粒子やナノ空隙のサイズ及び粒度分布、形状並びに方向性などの微細構造を精確に観察・測定することができ、そのうちの散乱ベクトル(q)は4πλ
-1sinθ(2θを散乱角度とする)と定義され、さらにベヘン酸銀によって校正ルーチンが行われる。「散乱ベクトル(q)が0.3~0.7nm
-1の間における散乱強度(I(q))のピーク値範囲(以下は散乱強度ピーク値範囲と呼ぶ)」とは、23℃/50%RH(相対湿度)の条件下で24時間静置した後にSAXS分析を行い、
図2に示す通り、散乱強度(I(q))を縦軸、散乱ベクトル(q)を横軸としてプロットして、散乱ベクトル(q)の0.3~0.7nm
-1のデータ区間内(ポリビニルアルコールの板状結晶構造の散乱の多くがこの区間内にあるため)に対応する散乱強度(I(q))の最高点の位置を取得し、複数個(限定しないが例えば3個)の固定面積(例えば1cm*1cm)の試料の最高点データの最大値から最小値を引けばその範囲が得られる。好ましい実施例中、その範囲は0.06nm
-1未満であり、具体的には例えば、0.06nm
-1未満、0.055nm
-1未満、0.05nm
-1未満、0.045nm
-1未満、0.04nm
-1未満、0.035nm
-1未満、0.03nm
-1未満、0.025nm
-1未満、0.02nm
-1未満、0.015nm
-1未満、0.01nm
-1未満、0.005nm
-1未満である。
【0037】
前述の散乱ベクトル(q)が0.3~0.7nm-1の間における散乱強度(I(q))のピーク値範囲が小さければ小さいほど、当該ポリビニルアルコールフィルムの微細構造の分布がより均一であり、当該ポリビニルアルコールフィルムによって製造される偏光板の偏光度の標準偏差がより小さくなることを表している。
【0038】
本明細書に記載の「重合度」は、ポリマーの分子サイズを評価する指標であり、ポリマー分子中の繰り返し単位の数のことである。好ましい実施例中、当該ポリビニルアルコールフィルムは重合度が1800~3000である。
【0039】
本明細書に記載の「含水率」とは、物質中の水の含有量をいい、それは下記式で定義される。
【数2】
好ましい実施態様において、当該ポリビニルアルコールフィルムの含水率は0.1~5.0wt%である。
【0040】
本発明は、本発明のポリビニルアルコールフィルムから成る光学フィルムをさらに提供する。
【0041】
本明細書に記載の「光学フィルム」とは、偏光フィルム、ブルーライトカットフィルム、フィルターフィルムなどを指し得るが、本発明はこれらに限定されない。好適には、本発明のポリビニルアルコールフィルムは偏光フィルムとされる。
【0042】
本明細書に記載の「偏光度」とは、偏光部分の光強度と全体の光強度の割合をいい、それは下記式で定義される。
【数3】
ここで、H
0は、2枚の偏光フィルムを配向方向が同じ状態で重ねて測定した光透過率である、H
90は、2枚の偏光フィルムを配向方向が垂直な状態で重ねて測定した光透過率である。本発明の測定条件は、例えばポリビニルアルコールフィルムに偏光板の製造工程を行い、Perkin Elmer Lambda 365を測定機器とし、2009年JIS Z 8722の標準方法に基づき、C光源を用いて2°の可視光領域の視感度補正を行うという条件下で測定される。
【0043】
本明細書に記載の「複数の位置で測定した偏光度」とは、1つの試料上の複数(限定しないが例えば3箇所)の位置において、前述の偏光度測定方法を用いて測定した複数の偏光度データをいう。好ましい実施例中、当該偏光フィルムは、複数の位置で測定した偏光度の標準偏差が0.006未満であり、例えば、0.006未満、0.005未満、0.004未満、0.003未満、0.002未満、0.001未満である。
【0044】
標準偏差は、1組のデータの平均値に対する分散度を示すものであり、標準偏差が大きくなれば、ほとんどの数値とその平均値との間の差異が大きいことを意味し、標準偏差が小さくなれば、それらの数値とその平均値との間の差異が小さいことを意味する。本発明は、偏光度の標準偏差を利用して偏光フィルムの偏光度の均一度を評価しており、標準偏差が大きければ大きいほど偏光度がより不均一であることを表し、標準偏差が小さければ小さいほど偏光度がより均一であることを表している。
【0045】
別の態様として、本発明は当該ポリビニルアルコールフィルムの製造方法も提供するが、その工程は、ポリビニルアルコール系樹脂を乾燥して水洗浄する工程と、当該ポリビニルアルコール系樹脂、界面活性剤、可塑剤及び水を溶解に至るまで攪拌し加温して、ポリビニルアルコール鋳造溶液を形成する工程と、当該ポリビニルアルコール鋳造溶液を鋳造ドラムに鋳込み、乾燥して予備成形フィルムを作る工程と、当該予備成形フィルムを高温から低温へと温度が徐々に下がる複数本の加熱ローラに接触させた後、複数のセクションを備えた乾燥器に進入させて熱処理を行う工程と、を含む。
【0046】
上述のポリビニルアルコール系樹脂は、ビニルエステル系樹脂単量体の重合によりポリビニルエステル系樹脂を形成した後、鹸化反応を行って得たものである。そのうち、ビニルエステル系樹脂単量体は、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ペンタン酸ビニル、オクタン酸ビニルなどのビニルエステル類を含むが、本発明はこれらに限定されず、好適には酢酸ビニルである。また、オレフィン類化合物又はアクリレート誘導体と上述のビニルエステル系樹脂単量体とを共重合して形成した共重合体も使用可能である。当該オレフィン類化合物は、エチレン、プロピレン又はブチレンなどを含むが、本発明はこれらに限定されない。当該アクリレート誘導体はアクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル又はアクリル酸n-ブチルなどを含むが、本発明はこれらに限定されない。
【0047】
ポリビニルアルコール系樹脂を乾燥するが、その最高温度は115~125℃にコントロールするのが好ましい。少なくとも1つの実施例によれば、ポリビニルアルコール系樹脂は115~125℃で乾燥し、具体的には例えば、115℃、120℃又は125℃などである。温度が125℃より大きいと、局部的な脱水又は架橋結合が生じやすくなり、フィルムの結晶化温度が不均一になり、Tc,1-Tc,2が大きくなり、Tc,pの偏差も大きくなってしまい、温度が115℃より低いと、樹脂の乾燥が不足し、生産性に影響が出てしまう。
【0048】
乾燥後のポリビニルアルコール系樹脂を水で洗浄し、樹脂中の不純物(メタノール、酢酸ナトリウムなど)を除去するが、その水と当該ポリビニルアルコール系樹脂との重量比は9以上であるのが好ましい。少なくとも1つの実施例によれば、乾燥後のポリビニルアルコール系樹脂を水で洗浄する際の水と当該ポリビニルアルコール系樹脂との重量比は9以上であり、具体的には例えば、>9、又は>10などである。水と当該ポリビニルアルコール系樹脂との重量比が低すぎると、不純物をきれいに除去できず、フィルム乾燥時の脱水反応がさらに生じやすくなり、Tc,1-Tc,2が大きくなり、Tc,pの偏差も大きくなってしまい、水と当該ポリビニルアルコール系樹脂との重量比が高すぎると、ポリビニルアルコールフィルムの生産性に影響が出てしまう。
【0049】
ポリビニルアルコール鋳造溶液の調製では、ポリビニルアルコール系樹脂、界面活性剤、可塑剤及び水を溶解に至るまで攪拌し昇温する。当該界面活性剤は、限定しないが例えば、陽イオン性、陰イオン性又は非イオン性の界面活性剤であり、当該界面活性剤は例えば、ラウリン酸カリウムなどのカルボン酸塩型、ラウレス硫酸ナトリウムなどの硫酸エステル塩型、ドデシルベンゼンスルホン酸塩などのスルホン酸塩型、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルなどのアルキルフェニルエーテル型、ポリエチレングリコールモノオクチルフェニルエーテルなどのアルコール系のフェニルエーテル型、ポリオキシエチレンラウレートなどのアルキルエステル型、ポリオキシエチレンラウリルアミンなどのアルキルアミン型、ポリオキシエチレンラウリン酸アミドなどのアルキルアミド型、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテルなどのポリプロピレングリコールエーテル型、ラウリン酸ジエタノールアミド、オレイルジエタノールアミドなどのアルカノールアミド型、ポリオキシエチレンアリルフェニルエーテルなどのアリルフェニルエーテル型などを含むがこれらに限定されない。
【0050】
ポリビニルアルコール鋳造溶液の調製において、可塑剤はフィルムの加工性を高めることができ、使用可能な可塑剤は、限定しないが例えば、フタル酸エステル(Phthalate)、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(DEHP)、グリセリン、フタル酸ジブチル(DBP)、フタル酸ジイソノニル(DINP)、フタル酸ジイソデシル(DIDP)、フタル酸ブチルベンジル(BBP)、フタル酸ジオクチル(DOP)、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジグリセリン、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール又はトリメチロールプロパンなどであるが、これらに限らない。好適には、可塑剤はグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジグリセリン、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール又はトリメチロールプロパンなどである。
【0051】
予備成形フィルムの調製は、ポリビニルアルコール鋳造溶液を鋳造ドラムに鋳込んだ後、乾燥して得るものである。当該鋳造溶液を二軸スクリュー押出機で消泡した後、T型スリットダイリップから吐出し、回転する高温の鋳造ドラムにカーテンコーティングして乾燥を行い、フィルムを調製する。そのうち、二軸スクリュー押出機は、良好な原料供給性能、混練・可塑化性能、排気性能及び押し出しの安定性を備えており、鋳造溶液に十分な分散、攪拌、圧縮、混練を得させてフィルム製造の生産能力を高めることができ、T型スリットダイリップを通して押出物のサイズを適当な厚さと良好な均一度にコントロールする。また、より優れた実施形態では、鋳造ドラムの空気側における幅(TD)方向の風速差が2.5m/s以下であり、好適には1m/sであり、例えば2.5m/s、2.0m/s、1.5m/s、1.0m/sである。ここで、「風速差」とは、幅(TD)方向の複数(限定しないが例えば3個)の位置で測定した風速の範囲をいう。発明者は、鋳造ドラムの空気側における幅(TD)方向の風速差が大きければ大きいほど、最終的なポリビニルアルコールフィルムにおける長周期の分布がより不均一になり、偏光度もより不均一になるという現象が生じることを発見した。そのうち、長周期はSAXSデータ中のピークの位置によって求められ、ポリビニルアルコールフィルムを偏光板に調製する工程において、
図3に示す通り、ヨウ化物イオンが染色時にポリビニルアルコールの非晶質(amouphous)領域と反応するため、長周期が幅方向で不均一である場合には、偏光度が不均一になる現象が生じてしまう。
【0052】
予備成形フィルムの熱処理は、当該予備成形フィルムを高温から低温へと温度が徐々に下がる複数本の加熱ローラに接触させた後、複数のセクションを備えた乾燥器に進入させて熱処理を行うものである。当該予備成形フィルムを鋳造ドラムから剥離した後、複数の加熱ローラとの接触を経てフィルムの上下両面を乾燥するが、加熱ローラの数量は特に限定されず、必要に応じて調整することができる。少なくとも1つの好ましい実施例によれば、当該予備成形フィルムと温度が85℃超の加熱ローラとの総接触時間は6~20秒であり、好適には10秒であり、例えば、6~20秒、6~18秒、6~16秒、6~14秒、6~12秒、6~10秒、6~8秒、8~20秒、8~18秒、8~16秒、8~14秒、8~12秒、8~10秒、10~20秒、10~18秒、10~16秒、10~14秒、10~12秒、12~20秒、12~18秒、12~16秒、12~14秒、14~20秒、14~18秒、14~16秒、16~20秒、16~18秒、18~20秒である。総接触時間が6秒未満で短すぎる場合には、PVAフィルムの表面結晶度が不足し、幅(TD)方向の膨潤度が過大になり、偏光板に加工した際に深い線が生じてしまう。また、何度も研究・試験を繰り返した結果、加熱ローラの総接触時間が20秒超で長すぎる場合には、ポリビニルアルコールフィルムの表面結晶度が高くなりすぎて、幅(TD)方向の膨潤度が不足し、偏光板に加工した際にやはり線が生じてしまうという結論に至った。
【0053】
また、当該成形フィルムを複数のセクションを備えたフローティング型ドライヤー(FD)に進入させて熱処理を行う部分については、乾燥器の数量は特に限定されず、必要に応じて調整することができる。少なくとも1つの好ましい実施例中、当該乾燥器の幅(TD)方向における温度の標準偏差は2.6未満であり、例えば、2.6未満、2.4未満、2.2未満、2.0未満、1.8未満、1.6未満、1.4未満、1.2未満、1.0未満、0.8未満、0.6未満、0.4未満、0.2未満である。発明者は、乾燥器の幅(TD)方向における温度の標準偏差が2.6以上である場合、PVAフィルムの長周期の幅(TD)方向における分布が不均一になり、偏光板に加工した際に偏光度が不均一になる現象が生じてしまうことを発見した。
【実施例】
【0054】
以下では、実施例と合わせて本発明についてより詳しく説明する。但し、それらの実施例は本発明をより容易に理解できるよう助けるためのものであり、本発明の範囲を限定するものではないことを理解されたい。
【0055】
以下、ポリビニルアルコールフィルムの非限定的な調製方法を提供する。以下に開示する方法と同様の方法に基づき、非限定的な実施例であるポリビニルアルコールフィルムを8種類(実施例1~8)、及び比較例であるポリビニルアルコールフィルムを5種類(比較例1~5)調製した。但し、実施例1~8及び比較例1~5を調製する具体的な方法は、通常、1つ以上の面で以下に開示する方法と異なっている。
【0056】
具体的には、当該ポリビニルアルコールフィルムの製造方法は以下工程を含む。ポリビニルアルコール樹脂ペレットを下記表に示す温度のプロセスにより乾燥し、原料を得る。ポリビニルアルコール原料、可塑剤、水などを均一に溶解する前において、先に原料のポリビニルアルコールを水で洗浄し、不純物(酢酸ナトリウムなど)を除去したうえで、可塑剤、水などと均一に溶解し、製膜原液を得る。当該製膜原液を二軸スクリュー押出機で消泡した後、T型スリットダイリップから吐出し、回転する高温の鋳造ドラムにカーテンコーティングして乾燥を行い、フィルムを調製する。鋳造ドラムの空気側における幅(TD)方向の風速差をコントロールし、予備成形フィルムを鋳造ドラムから剥離した後、複数の加熱ローラとの接触を経てフィルムの上下両面を乾燥し、且つフィルムと加熱ローラとの総接触時間をコントロールし、次にフローティング型ドライヤー(FD)を用いて熱処理を行い、乾燥器の幅(TD)方向における温度の標準偏差をコントロールすることにより、最終的にポリビニルアルコールフィルムの完成品を得る。
【0057】
実施例1~8及び比較例1~5の評価を行い、これらのポリビニルアルコールフィルムの性質を判断した。表1及び表2では実施例1~8と比較例1~5それぞれのプロセス、ポリビニルアルコールフィルムの属性についての概要、及びポリビニルアルコールフィルムの偏光度均一性の状態を提供している。
【0058】
【0059】
【0060】
上記表の鋳造ドラム空気側風速差(TD方向)は、幅(TD,Transverse Direction)方向における風速範囲であり、3つの位置で測定した風速の最大値から最小値を引いて得た値である。
【0061】
上記表の結晶化温度ピーク値(Tc,p値)は、DSC測定方法中の分析により得たものであり、当該DSC測定方法は、前処理と結晶化温度の分析を含む。そのうち、前処理は、ポリビニルアルコールフィルムを幅方向に3等分し、且つ等分したポリビニルアルコールフィルムの中央部をカットした。各片のカット面積は、図4の通り、(機械方向(MD,Machine Direction)10cm×幅方向(TD,Transverse Direction)10cm)とし、10cm×10cmの試験片を2000mL、30℃の純水に浸漬し、磁石を用いて5分間攪拌してから取り出し、上述の工程をもう1回繰り返して、添加剤がしっかりと洗浄されるようにしてから、湿ったフィルムを105℃の乾燥器に入れて1時間乾燥し、取り出したフィルムを試験試料として得た。結晶化温度の分析は、3~5ミリグラムの試料を取ってDSC分析を行うものであり、その方法は、試料を40℃下において1分間等温で維持し、次に10℃/分の速度で250℃まで昇温し、250℃下において1分間等温で維持し、次に10℃/分の速度で30℃まで降温して、結晶化温度を記録した。上述のTc,p値は、3つの位置で結晶化温度を得て平均値を求めれば得ることができる。
【0062】
上記表の結晶化温度ピーク値範囲(Tc,p偏差)は、DSC測定方法中の分析により得たものであり、3つの位置で得た結晶化温度の最大値から最小値を引いて、Tc,p偏差を得る。
【0063】
上記表の熱流相対温度変化曲線の一次微分を経たピーク部差値(Tc,1-Tc,2値)は、DSC測定方法中の分析により得たものであり、Originのデータ解析ソフトを用い、降温曲線を微分して微分線(
図1に示す通り)を得て、結晶化ピーク付近における線の最低値をTc,1と定義し、最高値をTc,2と定義して、Tc,1-Tc,2を計算し、且つ3つの位置のTc,1-Tc,2の平均値を求めれば上述のTc,1-Tc,2値を得ることができ、これを結晶化温度の分布指標とする。
【0064】
上記表の30秒間TD膨潤度の分析の具体的な方法には、試料調製方法、試験方法が含まれる。そのうち、試料調製方法は、ポリビニルアルコールフィルムを幅(TD)方向に3等分し、且つ等分したポリビニルアルコールフィルムの中央部をカットし、各片のカット面積は(MD 10cm×TD 10cm)として、試験試料を得るというものである。試験方法は、試験試料を30℃の恒温タンクに入れると同時に時間計測を開始し、30秒間浸漬してその膨潤後のTD方向の長さを測定し、下記式で表されるTD膨潤度を計算するというものである。
【数4】
【0065】
上記表の15分間TD膨潤度の分析の具体的な方法には、試料調製方法、試験方法が含まれる。そのうち、試料調製方法は、ポリビニルアルコールフィルムを幅(TD)方向に3等分し、且つ等分したポリビニルアルコールフィルムの中央部をカットし、各片のカット面積は(MD 10cm×TD 10cm)として、試験試料を得るというものである。試験方法は、試験試料を30℃の恒温タンクに入れると同時に時間計測を開始し、15分間浸漬してその膨潤後のTD方向の長さを測定し、下記式で表されるTD膨潤度を計算するというものである。
【数5】
【0066】
上記表のSAXS peak位置偏差は、SAXSによる分析方法中で得たものであり、その具体的な分析方法には、試料調製方法、試験方法が含まれる。そのうち、試料調製方法は、ポリビニルアルコールフィルムを幅方向に3等分し、等分したポリビニルアルコールフィルムの中央部を面積が(1cm*1cm)の試験片にカットして、試料を23℃/50%RH(相対湿度)の条件下で24時間静置した後、SAXS分析を行うというものである。試験方法は、台湾の国立加速器放射線研究センターのBL23A小角X線散乱ビームラインを用いてSAXS分析を行うものであり、0.3~0.7nm-1のデータ区間内において高い点に対応する強度の位置を取得する。当該散乱ベクトル(q)は4πλ-1sinθ(2θを散乱角度とする)と定義し、さらにベヘン酸銀によって校正ルーチンを行い、且つ試料の伝送、バックグラウンド及び検出器の感度を含むすべてのデータをさらに校正する。
【0067】
上記表の線の評価方法は、偏光板の製造プロセスにおいて、フィルム表面に線が発生しているか否かを目視で観察するものである。
【0068】
上記表の偏光度は、偏光度の測定方法中で取得したものであり、その具体的な分析方法には、試料調製方法、試験方法が含まれる。そのうち、試料調製方法は、ポリビニルアルコールフィルムに偏光板の製造プロセスを実行するというものである。試験方法は、Perkin Elmer Lambda 365を測定機器として使用し、2009年JIS Z 8722の標準方法に基づき、C光源を用いて2°の可視光領域の視感度補正を行い、次に2枚の偏光フィルムを配向方向が同じ状態で重ね、波長下における光透過率(H
0)を測定し、別に2枚の偏光フィルムを配向方向が垂直な状態で重ね、波長下における光透過率(H
90)を測定し、下記式で表される偏光度を計算するというものである。
【数6】
【0069】
上記表の偏光度標準偏差は、偏光度の測定方法中で取得したものであり、3つの位置の偏光度の標準偏差を求めれば取得することができる。
【0070】
表1の実施例によれば、本発明に適合するポリビニルアルコールフィルムの製造プロセスで偏光フィルムを調製した場合、得られる当該偏光フィルムは表面に条痕がなく、良好且つ均一な偏光度を有することが分かる。
【0071】
特定の理論に限定されるものではないが、発明者は、ポリビニルアルコールフィルムのプロセスパラメータ中、ポリビニルアルコール樹脂乾燥器の最高温度が主に影響を与える指標はTc,p値及びTc,1-Tc,2値であることを発見した。例えば比較例1~5の結果では、温度が高すぎた場合、Tc,p値、Tc,1-Tc,2値が大きくなり、局部的な脱水又は架橋結合が生じやすくなり、フィルムの結晶化温度が不均一になり、偏光フィルムの表面に線が生じている。
【0072】
ポリビニルアルコールフィルムのプロセスパラメータ中の水洗浄における水とポリビニルアルコール系樹脂との重量比は、主にTc,p値及びTc,1-Tc,2値に影響を与える。例えば比較例4、5の結果では、水洗浄の水とポリビニルアルコール系樹脂との重量比が小さすぎた場合、脱水反応が一層生じやすくなり、Tc,p値、Tc,1-Tc,2値が大きくなり、偏光フィルムの表面に線が生じやすくなっている。
【0073】
ポリビニルアルコールフィルムのプロセスパラメータ中、85℃超の加熱ローラとの総接触時間が主に影響を与える指標は30秒間TD膨潤度である。例えば比較例2~4の結果では、総接触時間が短すぎた場合、表面結晶度が不足し、TD膨潤度が過大になり、調製した偏光板に深い線が発生し、総接触時間が長すぎた場合、表面結晶度が低くなりすぎ、TD膨潤度が不足し、やはり調製した偏光板に線が発生している。
【0074】
ポリビニルアルコールフィルムのプロセスパラメータ中、乾燥器温度標準偏差(TD方向)及び鋳造ドラム空気側風速差(TD方向)が主に影響を与える指標はSAXS peak位置偏差である。例えば比較例2と3の結果では、乾燥器温度標準偏差(TD方向)が過大であり、鋳造ドラム空気側風速差(TD方向)が過大であった場合、ポリビニルアルコールフィルムの長周期がTD方向において不均一になりやすく、調製した偏光板の偏光度が不均一になっている。
【0075】
本明細書において提供する全ての範囲は、割り当て範囲内における各特定の範囲及び割り当て範囲の間の二次範囲の組み合わせを含むという意味である。また、別段の説明がない限り、本明細書が提供する全ての範囲は、いずれも範囲のエンドポイントを含む。従って、範囲1~5は、具体的には1、2、3、4及び5、並びに2~5、3~5、2~3、2~4、1~4などの二次範囲を含む。
【0076】
本明細書において引用される全ての刊行物及び特許出願はいずれも引用により本明細書に組み込まれ、且つありとあらゆる目的から、各刊行物又は特許出願はいずれも各々引用により本明細書に組み込まれることを明確且つ個々に示している。本明細書と引用により本明細書に組み込まれるあらゆる刊行物又は特許出願との間に不一致が存在する場合には、本明細書に準ずる。
【0077】
本明細書で使用する「含む」、「有する」及び「包含する」という用語は、開放的、非限定的な意味を有する。「1」及び「当該」という用語は、複数及び単数を含むと理解されるべきである。「1つ以上」という用語は、「少なくとも1つ」を指し、従って単一の特性又は混合物/組み合わせた特性を含むことができる。
【0078】
操作の実施例中又は他の指示する場所を除き、成分及び/又は反応条件の量を示す全ての数字は、全ての場合においていずれも「約」という用語を用いて修飾することができ、示した数字の±5%以内であるという意味である。本明細書で使用する「基本的に含まない」又は「実質的に含まない」という用語は、特定の特性が約2%未満であることを意味する。本明細書中に明確に記載されている全ての要素又は特性は、特許請求の範囲から否定的に除外することができる。