(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-26
(45)【発行日】2025-06-03
(54)【発明の名称】耐水素脆性及び耐衝突性に優れた熱間成形用めっき鋼板、熱間成形部材及びそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20250527BHJP
C21D 1/18 20060101ALI20250527BHJP
C21D 9/00 20060101ALI20250527BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20250527BHJP
B22D 11/128 20060101ALI20250527BHJP
B22D 11/20 20060101ALI20250527BHJP
C22C 21/02 20060101ALN20250527BHJP
【FI】
C22C38/00 301T
C21D1/18 C
C21D9/00 A
C21D9/46 J
C22C38/00 301Z
B22D11/128 350A
B22D11/20 C
C22C21/02
(21)【出願番号】P 2023507453
(86)(22)【出願日】2021-10-19
(86)【国際出願番号】 KR2021014586
(87)【国際公開番号】W WO2022097965
(87)【国際公開日】2022-05-12
【審査請求日】2023-02-02
(31)【優先権主張番号】10-2020-0148753
(32)【優先日】2020-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】キム、 サン-ホン
(72)【発明者】
【氏名】オー、 ジン-クン
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ソン-ウ
(72)【発明者】
【氏名】ハン、 サン-ビン
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/111931(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0062899(KR,A)
【文献】特開2012-041610(JP,A)
【文献】特開2012-112010(JP,A)
【文献】特開2020-122202(JP,A)
【文献】特表2019-506523(JP,A)
【文献】国際公開第2020/011911(WO,A1)
【文献】特開2012-177190(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00
C21D 1/18
C21D 9/00
C21D 9/46
B22D 11/128
B22D 11/20
C22C 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.14~0.5%、Si:0.001~1%、Mn:0.3~4%、P:0.001~0.015%、S:0.0001~0.02%、Al:0.001~0.1%、Cr:0.001~1%、N:0.001~0.02%、Ti:0.1%以下、B:0.01%以下、
及びSb:0.005~0.1%
を含み、残部Fe及びその他の不可避不純物
からなる素地鋼板と、
前記素地鋼板の少なくとも一面に備えられたアルミニウム又はアルミニウム合金めっき層と、
前記素地鋼板及び前記めっき層の間に備えられたSb濃化層と、を含み、
下記関係式1-1及び1-2を満たす、熱間成形用めっき鋼板。
【数1】
[前記関係式1-1及び1-2において、前記Sb
coatは前記めっき層内の平均Sb含量を示し、単位は
質量%である。前記Sb
maxは前記Sb濃化層におけるSb含量の最大値を示し、単位は
質量%である。前記Δtは、前記めっき層とSb濃化層との間の境界から前記Sb
maxを測定した地点間の直線距離を示し、単位はμmである。]
【請求項2】
前記Sb濃化層の厚さは1μm以上20μm以下である、請求項1に記載の熱間成形用めっき鋼板。
【請求項3】
前記素地鋼板はMn偏析帯を含み、
前記Mn偏析帯のうち、Sb平均含量が素地鋼板におけるSb平均含量に対して1.015倍以上である部分の面積が60%以上で
あり、
前記部分は、EPMAを用いたSbの成分マッピング結果による強度(intensity)を活用して測定された素地鋼板のSb平均含量(Sb1)に対する前記Mn偏析帯のSb平均含量(Sb2)の比率(Sb2/Sb1)が1.015倍以上の部分である、請求項1又は請求項2に記載の熱間成形用めっき鋼板。
【請求項4】
前記Mn偏析帯の厚さは20μm以下である、請求項3に記載の熱間成形用めっき鋼板。
【請求項5】
質量%で、C:0.14~0.5%、Si:0.001~1%、Mn:0.3~4%、P:0.001~0.015%、S:0.0001~0.02%、Al:0.001~0.1%、Cr:0.001~1%、N:0.001~0.02%、Ti:0.1%以下、B:0.01%以下、
及びSb:0.005~0.1%
を含み、残部Fe及びその他の不可避不純物
からなる鋼スラブを1050~1300℃に再加熱する段階と、
加熱された鋼スラブを800~950℃で仕上げ圧延して熱延鋼板を得る段階と、
前記熱延鋼板を500~700℃で巻き取る段階と、
巻き取られた熱延鋼板を酸濃度及び酸洗時間の積が800~10,000g/L*sとなるように酸洗処理する段階と、
酸洗処理された鋼板を焼鈍炉内の-75~+20℃の露点温度条件で700~900℃に焼鈍する段階と、
焼鈍後、前記鋼板をアルミニウム又はアルミニウム合金からなるめっき浴に通過させてめっきして熱間成形用めっき鋼板を得る段階と、を含み、
前記熱間成形用めっき鋼板は、
素地鋼板、
前記素地鋼板の少なくとも一面に備えられたアルミニウム又はアルミニウム合金めっき層と、
前記素地鋼板及び前記めっき層の間に備えられたSb濃化層と、を含み、
下記関係式1-1及び1-2を満たす、熱間成形用めっき鋼板の製造方法。
【数2】
【請求項6】
前記酸の濃度は40~500g/Lである、請求項5に記載の熱間成形用めっき鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記酸洗時間は5~60秒である、請求項5又は請求項6に記載の熱間成形用めっき鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記酸洗温度は40~120℃である、請求項5から請求項7のいずれか一項に記載の熱間成形用めっき鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記再加熱する段階の前に、0.5~5%の圧下率で軽圧下して連続鋳造する段階をさらに含む、請求項5から請求項8のいずれか一項に記載の熱間成形用めっき鋼板の製造方法。
【請求項10】
質量%で、C:0.14~0.5%、Si:0.001~1%、Mn:0.3~4%、P:0.001~0.015%、S:0.0001~0.02%、Al:0.001~0.1%、Cr:0.001~1%、N:0.001~0.02%、Ti:0.1%以下、B:0.01%以下、
及びSb:0.005~0.1%
を含み、残部Fe及びその他の不可避不純物
からなる素地鋼板と、
前記素地鋼板の少なくとも一面に備えられたアルミニウム又はアルミニウム合金めっき層と、
前記素地鋼板及び前記めっき層の間に備えられたSb濃化層と、を含み、
下記関係式2-1及び2-2を満たす、熱間成形部材。
【数3】
[前記関係式2-1及び2-2において、前記Sb
coatは前記めっき層内の平均Sb含量を示し、単位は
質量%である。前記Sb
maxは前記Sb濃化層におけるSb含量の最大値を示し、単位は
質量%である。また、前記Δtは、前記めっき層とSb濃化層との間の境界から前記Sb
maxを測定した地点間の直線距離を示し、単位はμmである。]
【請求項11】
前記素地鋼板は、面積分率で、フェライトを5%以下含む、請求項10に記載の熱間成形部材。
【請求項12】
前記Sb濃化層の厚さは2~30μmである、請求項10又は請求項11に記載の熱間成形部材。
【請求項13】
下記関係式2-3を満たす、請求項10から請求項12のいずれか一項に記載の熱間成形部材。
【数4】
【請求項14】
拡散性水素量は0.2ppm以下である、請求項10から請求項13のいずれか一項に記載の熱間成形部材。
【請求項15】
前記素地鋼板はMn偏析帯を含み、
前記Mn偏析帯のうち、Sb平均含量が素地鋼板におけるSb平均含量に対して1.015倍以上である部分の面積が60%以上で
あり、
前記部分は、EPMAを用いたSbの成分マッピング結果による強度(intensity)を活用して測定された素地鋼板のSb平均含量(Sb1)に対する前記Mn偏析帯のSb平均含量(Sb2)の比率(Sb2/Sb1)が1.015倍以上の部分である、請求項10から請求項14のいずれか一項に記載の熱間成形部材。
【請求項16】
前記Mn偏析帯の厚さは15μm以下である、請求項15に記載の熱間成形部材。
【請求項17】
請求項5から請求項9のいずれか一項により製造された熱間成形用めっき鋼板をAc3~950℃の温度範囲で1~1000秒間熱処理した後、熱間プレス成形する、熱間成形部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐水素脆性及び耐衝突性に優れた熱間成形用めっき鋼板、熱間成形部材及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱間成形部材は、近年、自動車の軽量化による燃費の向上及び乗客の保護などの目的で自動車の構造部材に多く適用されている。特に、超高強度又はエネルギー吸収能が大きく要求されるバンパー、ドア、ピラー補強材などに活用することができ、このような熱間成形技術としては、代表的に米国登録公報6296805号(以下、特許文献1)がある。
【0003】
特許文献1は、Al-Si系めっき鋼板を850℃以上加熱した後、プレスによる熱間成形及び急冷により部材の組織をマルテンサイトとして形成させることにより、引張強度の高い超高強度を確保することができる。このような熱間成形用超高強度鋼を適用する場合、高温で成形するため、複雑な形状も容易に成形可能であり、金型内の急冷による強度の上昇により軽量化の効果が期待できる。但し、マルテンサイト組織は水素脆性に対して低い抵抗性を有することで知られており、特に、熱間成形部材には加熱後の急冷による残留応力が存在する。したがって、鋼中の拡散性水素量が増加すると、水素脆性による遅延破壊が懸念されるため、部材の適用が制限されるという欠点がある。
【0004】
また、工程パラメータの変化は、シート内での全体的又は局所的な機械的特性の変化をもたらし得る。したがって、良好な機械的特性と均質性を有するめっき鋼板及び熱間成形部材を製造するための製造パラメータの変化に対して敏感性の少ない鋼組成が求められ、水素脆性に伴う遅延破壊の防止が必要な実情であるが、依然としてこのような需要を全て満たすことができる技術は開発されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような問題点を解決するためのものであって、耐水素脆性及び耐衝突性に優れた熱間成形用めっき鋼板、熱間成形部材及びそれらの製造方法を提供する。
【0007】
本発明の課題は、前述の内容に限定されない。本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、誰でも本発明の明細書全体にわたる内容から本発明の更なる課題を理解する上で困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、
重量%で、C:0.14~0.5%、Si:0.001~1%、Mn:0.3~4%、P:0.001~0.015%、S:0.0001~0.02%、Al:0.001~0.1%、Cr:0.001~1%、N:0.001~0.02%、Ti:0.1%以下、B:0.01%以下、Sb:0.005~0.1%、残部Fe及びその他の不可避不純物を含む素地鋼板と、
上記素地鋼板の少なくとも一面に備えられたアルミニウム又はアルミニウム合金めっき層と、
上記素地鋼板及び上記めっき層の間に備えられたSb濃化層と、を含み、
下記関係式1-1及び1-2を満たす、熱間成形用めっき鋼板を提供する。
【0009】
【数1】
[上記関係式1-1及び1-2において、上記Sb
coatは上記めっき層内の平均Sb含量を示し、単位は重量%である。上記Sb
maxは上記Sb濃化層におけるSb含量の最大値を示し、単位は重量%である。上記Δtは、上記めっき層とSb濃化層との間の境界から上記Sb
maxを測定した地点間の直線距離を示し、単位はμmである。]
【0010】
本発明のさらに他の一態様は、
重量%で、C:0.14~0.5%、Si:0.001~1%、Mn:0.3~4%、P:0.001~0.015%、S:0.0001~0.02%、Al:0.001~0.1%、Cr:0.001~1%、N:0.001~0.02%、Ti:0.1%以下、B:0.01%以下、Sb:0.005~0.1%、残部Fe及びその他の不可避不純物を含む鋼スラブを1050~1300℃に再加熱する段階と、
加熱された鋼スラブを800~950℃で仕上げ圧延して熱延鋼板を得る段階と、
上記熱延鋼板を500~700℃で巻き取る段階と、
巻き取られた熱延鋼板を酸濃度及び酸洗時間の積が800~10,000g/L*sとなるように酸洗処理する段階と、
酸洗処理された鋼板を焼鈍炉内の-75~+20℃の露点温度条件で700~900℃に焼鈍する段階と、
焼鈍後、上記鋼板をアルミニウム又はアルミニウム合金からなるめっき浴に通過させてめっきする段階と、
を含む、熱間成形用めっき鋼板の製造方法を提供する。
【0011】
本発明のさらに他の一態様は、
重量%で、C:0.14~0.5%、Si:0.001~1%、Mn:0.3~4%、P:0.001~0.015%、S:0.0001~0.02%、Al:0.001~0.1%、Cr:0.001~1%、N:0.001~0.02%、Ti:0.1%以下、B:0.01%以下、Sb:0.005~0.1%、残部Fe及びその他の不可避不純物を含む素地鋼板と、
上記素地鋼板の少なくとも一面に備えられたアルミニウム又はアルミニウム合金めっき層と、
上記素地鋼板及び上記めっき層の間に備えられたSb濃化層と、を含み、
下記関係式2-1及び2-2を満たす、熱間成形部材を提供する。
【0012】
【数2】
[上記関係式2-1及び2-2において、上記Sb
coatは上記めっき層内の平均Sb含量を示し、単位は重量%である。上記Sb
maxは上記Sb濃化層におけるSb含量の最大値を示し、単位は重量%である。また、上記Δtは、上記めっき層とSb濃化層との間の境界から上記Sb
maxを測定した地点間の直線距離を示し、単位はμmである。]
【0013】
本発明のさらに他の一態様は、
前述した熱間成形用めっき鋼板の製造方法により製造された熱間成形用めっき鋼板をAc3~950℃の温度範囲で1~1000秒間熱処理した後、熱間プレス成形する、熱間成形部材の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様によると、素地鋼板とめっき層との間にSb濃化層が保存されためっき鋼板を製造することにより、鋼中の拡散性水素量を低減させて耐水素脆性及び耐衝突性に優れた熱間成形用めっき鋼板、熱間成形部材及びそれらの製造方法を提供することができる。
【0015】
本発明の多様かつ有益な利点及び効果は、上述の内容に限定されず、本発明の具体的な実施形態を説明する過程でより容易に理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】素地鋼板とめっき層との界面におけるSb濃化層の勾配濃度グラフを模式的に示したものである。
【
図2】3点曲げ試験時の荷重-変位曲線と耐衝突性を示すためのCIEを模式的に示したものである。
【
図3】本願の実施例及び比較例に対するグロー放電分光法(GDS;Glow Discharge Optical Emission Spectrometry)に従って測定されためっき層から素地鋼板側の厚さ方向にSb含量に対する濃度勾配グラフを示したものである。
【
図4】本発明の例示的な熱間成形部材に対する(Sb
max-Sb
coat)/2×Δtパラメータによる拡散性水素量の変化グラフである。
【
図5】本発明の熱間成形部材に対する(Sb
max-Sb
coat)/2×ΔtパラメータによるCIE分布グラフである。
【
図6】本願の実施例14の熱間成形部材に対するMn偏析帯(
図6a)と、Mn偏析帯内のSb濃化量(
図6b)を確認するためのEPMA成分マッピング結果を示したものである。
【
図7】本発明の例示的なGDSによるSb濃度勾配グラフを模式的に示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明する。しかし、本発明の実施形態は様々な他の形態に変形することができ、本発明の範囲は以下で説明する実施形態に限定されるものではない。また、本発明の実施形態は、当技術分野において平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0018】
結晶粒界にある拡散性水素は、応力発生時に結晶粒界クラックの発生を促進する原因となるため、ホットスタンプ後に鋼中の拡散性水素量を減少させることができる方案が必要である。
【0019】
そこで、本発明者らは、熱間成形用鋼材において、耐水素脆性効果を明確に示す指標である、鋼中の拡散性水素量分析と、耐衝突性を示すことができる指標の一つである3点曲げ試験(VDA238-100)時に、最大荷重に達するまでの面積(CIE:Crack initiation Energy)計算により、Sb添加を含む様々な成分、製造条件、組織などの影響を分析した。これにより、Sb濃化層の形成により拡散性水素量を減少させることができることを見出し、耐水素脆性に加えて耐衝突性に優れた熱間成形用めっき鋼板、熱間成形部材、及びそれらの製造方法を考案するに至った。
【0020】
以下では、まず、本発明の一態様による熱間成形用めっき鋼板及び熱間成形部材について詳細に説明する。
【0021】
本発明の一態様によるめっき鋼板は、重量%で、C:0.14~0.5%、Si:0.001~1%、Mn:0.3~4%、P:0.001~0.015%、S:0.0001~0.02%、Al:0.001~0.1%、Cr:0.001~1%、N:0.001~0.02%、Ti:0.1%以下、B:0.01%以下、Sb:0.005~0.1%、残部Fe及びその他の不可避不純物を含む素地鋼板と、上記素地鋼板の少なくとも一面に備えられたアルミニウム又はアルミニウム合金めっき層と、上記素地鋼板及び上記めっき層の間に備えられたSb濃化層と、を含む。
【0022】
まず、本発明の素地鋼板の合金組成について詳細に説明する。本発明において各元素を含量で表すとき、特に断らない限り、重量%を意味することに留意する必要がある。
【0023】
炭素(C):0.14~0.5%
上記Cは、熱処理部材の強度を上昇させ、硬化能を向上させる元素であって、強度調節のための必須元素として適宜添加されるべきである。C含量が0.14%未満であると、硬化能が低く、冷却速度が減少すると、十分なマルテンサイトを確保できず、フェライトの生成により耐衝突性に劣るため、0.14%以上添加されるべきである。一方、C含量が0.5%を超えると、強度が過度に上昇し脆性を誘発する可能性があり、溶接性に劣るため、その上限は0.5%以下が好ましい。あるいは、より好ましく、上記C含量の下限は0.147%であってもよく、より好ましく、上記C含量の上限は0.335%であってもよい。
【0024】
シリコン(Si):0.001~1%
上記Siは、製鋼において脱酸剤として添加されるべきであるだけでなく、固溶強化元素であるとともに、炭化物生成の抑制元素である。したがって、Siは内部組織の均一化に効果的な元素であるだけでなく、熱間成形部材の強度上昇に寄与し、材質の均一化に効果的な元素として添加される。但し、Si含量が0.001%未満では、上記効果が期待できず、さらにSi含量の制御のための製造コスト及び工程費用が増加するため適切ではない。一方、Si含量が1%を超えると、焼鈍中に鋼板の表面に生成される過度なSi酸化物によりめっき性が大きく低下するため、1%以下を添加する。あるいは、より好ましく、上記Si含量の下限は0.11%であってもよく、より好ましく、上記Si含量の上限は0.81%であってもよい。
【0025】
マンガン(Mn):0.3~4%
上記Mnは、固溶強化の効果により所望の強度を確保することができるだけでなく、硬化能の向上によって熱間成形時にフェライトの形成を抑制するために添加される必要がある。Mn含量が0.3%未満では、十分な硬化能の効果が得られ難く、不足した硬化能のために他の高価な合金元素が過剰に必要となるため、製造コストが大幅に増加するという問題が発生する。Mn含量が4%を超えると、微細組織相の圧延方向に配列されたバンド(band)性組織が深化して内部組織の不均一性を誘発し、これによる耐衝突性を低下させることがあるため、4%以下を添加する。あるいは、より好ましく、上記Mn含量の下限は0.5%であってもよく、より好ましく、上記Mn含量の上限は3.7%であってもよい。
【0026】
リン(P):0.001~0.015%
上記Pは鋼中に不純物として存在し、その最小含量が0.001%未満となるためには、高い製造コストが要求されるため好ましくない。但し、P含量が0.015%を超えると、熱間成形部材の溶接性及び高温粒界偏析による材質物性が低下するため、その上限を0.015%とする。あるいは、より好ましく、上記P含量の下限は0.003%であってもよく、より好ましく、上記P含量の上限は0.013%であってもよい。
【0027】
硫黄(S):0.0001~0.02%
上記Sは不純物であって、部材の延性、衝撃特性及び溶接性を阻害する元素であるため、最大含量を0.02%に限定する。また、その最小含量が0.0001%未満では、製造コストを大幅に上昇させるため好ましくない。あるいは、上記S含量の下限は0.001%であってもよく、より好ましく、上記S含量の上限は0.007%であってもよい。
【0028】
アルミニウム(Al):0.001~0.1%
上記AlはSiと共に、製鋼において脱酸作用をして鋼の清浄度を高める元素である。Al含量が0.001%未満では、上記効果が得られ難く、その含量が0.1%を超えると、連鋳工程中に形成される過剰なAlN析出物による高温延性が低下し、スラブクラックが発生して製造上の問題を誘発する可能性があるため、その上限を0.1%とする。あるいは、より好ましく、上記Al含量の下限は0.011%であってもよく、より好ましく、上記Al含量の上限は0.071%であってもよい。
【0029】
Cr:0.001~1%
上記Crは、Mnのように鋼の硬化能を確保して、熱間成形後にフェライトの生成を抑制するための元素として添加される。Cr含量が0.001%未満では上記効果を確保することが難しい。一方、Cr含量が1%を超えると、添加量に比べて硬化能の向上効果が僅かであるだけでなく、粗大な鉄炭化物が過剰に形成されて応力作用時にクラックが誘発されることがあり、材質を劣らせるため、その上限を1%とする。あるいは、より好ましく、上記Cr含量の下限は0.011%であってもよく、より好ましく、上記Cr含量の上限は0.50%であってもよい。
【0030】
窒素(N):0.001~0.02%
上記Nは鋼中に不純物として含まれる。N含量が0.001%未満となるためには、そのための過度な製造コストが伴われ、その含量が0.02%を超えると、添加されたAlのようにAlNの形成によるスラブクラックが発生しやすくなるため、その上限を0.02%とする。あるいは、より好ましく、上記N含量の下限は0.0026%であってもよく、より好ましく、上記N含量の上限は0.0077%であってもよい。
【0031】
Ti:0.1%以下(0を含む)
上記Tiは、本発明において選択的に添加される元素であって、鋼に不純物として残存する窒素と結合してTiNを生成させることにより、硬化能の確保のためのBが化合物にならないように保護する役割を果たすことができる。また、TiC析出物の形成によって析出強化及び結晶粒微細化の効果が期待できる。但し、その含量が0.1%を超えると、むしろ粗大なTiNが多量形成され、鋼の材質を劣らせるため、その上限は0.1%とする。一方、上記Tiは選択的元素であり、添加されない場合を含むため、上記Ti含量の下限は0%であってもよい。
【0032】
B:0.01%以下(0を含む)
上記Bは、本発明において選択的に添加される元素であって、硬化能を効果的に向上させることができる元素である。上記Bが添加されると、旧オーステナイト結晶粒界に偏析して不純物であるP又は/及びSの粒界偏析による熱間成形部材の脆性を抑制することができる。しかし、0.01%を超えると、Fe23CB6複合化合物の形成により熱間圧延で脆性を引き起こす可能性があるため、その上限を0.01%とする。一方、上記Bは選択的元素であり、添加されない場合を含むため、上記B含量の下限は0%であってもよい。
【0033】
Sb:0.005~0.1%
Sbは、本熱間成形部材を製造する上で核心となる元素であり、素地鋼板とめっき層の界面にSb濃化層を形成し、熱処理時に吸蔵される水素含量を減少させ、水素遅延破壊敏感性を減少させる役割を果たす。Sb含量が0.005%未満であると、めっき層と素地鉄との界面に十分な濃化層が形成されず、前述の効果が期待できない。一方、Sb含量が0.1%を超えると、粒界にSbが過剰に析出して応力発生時に粒界破壊を誘発して材質が劣化するため、その上限は0.1%とすることが好ましい。あるいは、より好ましく、上記Sb含量の下限は0.006%であってもよく、より好ましく、上記Sb含量の上限は0.095%であってもよい。
【0034】
上述の成分以外の残部は鉄(Fe)であり、熱間プレス成形用鋼板に含まれ得る成分であれば、特に追加の添加を制限しない。また、通常の製造過程において原料又は周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入し得るため、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の製造過程における技術者であれば、誰でも分かるものであるため、本明細書では、その全ての内容を特に言及しない。
【0035】
また、上記めっき層は、素地鋼板の少なくとも一面に備えられたアルミニウム又はアルミニウム合金めっき層を含む。上記めっき層は最終熱間成形部材において耐食性を付与する。
【0036】
本発明において、上記めっき層の種類は特に限定されず、従来の熱間成形用めっき鋼板に適用されるめっき層であれば、本発明においても制限なく適用することができる。一例として、上記めっき層はアルミニウム又はアルミニウム合金めっき層であってもよく、好ましくは、上記めっき層はSi:6~12%、Fe:1~4%、残部Al及びその他の不可避不純物を含むことができる。
【0037】
本発明の一態様によると、上記めっき鋼板は、素地鋼板とめっき層との間に備えられたSb濃化層を含むことができる。このとき、上記Sb濃化層は、素地鋼板とめっき層との間に備えられ、Sbが濃化してSb含量として区分される領域である。
【0038】
特に限定するものではないが、本発明の一実現例によると、このようなSb濃化層とめっき層は、グロー放電分光法(GDS)を活用してめっき層のいずれか一地点から素地鋼板側の厚さ方向にSb含量の変化を分析することにより、区分可能である。
【0039】
具体的に、本発明の一実現例によると、特に限定するものではないが、
図7に示すように、x軸は、めっき層1の内部の任意の位置から素地鋼板3側の厚さ方向への直線距離を示し、y軸は、上記GDSを活用して測定されたSb含量を示すグラフを基準に判断する。
【0040】
例えば、前述したGDS測定結果を模式的に示した
図7を基準に、上記めっき層1と素地鋼板3との間2に備えられるx軸(+)方向へのSb含量の上昇区間21のうち、上記めっき層のSb平均含量線10と上記GDSを活用して測定されたSb含量線100の上記x軸(+)方向への最後接触地点11からを(素地鋼板3側の厚さ方向に)Sb濃化層2と見なす。
【0041】
このとき、上記めっき層1のSb平均含量線10は、Sb濃化層2においてSb含量が最大値である地点200(Sbmaxの地点)より、めっき層1側に15μm離れた地点から20μm離れた地点までの区間に対するSb平均含量線の延長線を意味することができる。
【0042】
同様に、Sb濃化層2と素地鋼板3も前述の方法と同様に、上記GDSを活用して測定された上記素地鋼板3とめっき層1との間2に備えられるx軸(-)方向へのSb含量の上昇区間22のうち、上記素地鋼板のSb平均含量線30と上記GDSを活用して測定されたSb含量線100のx軸(-)方向への最後接触地点31からを(めっき層1側の厚さ方向に)Sb濃化層2と見なす。
【0043】
このとき、上記素地鋼板3のSb平均含量線30は、Sb濃化層2においてSb含量が最大値である地点200(Sbmaxの地点)より、素地鋼板3側に15μm離れた地点から20μm離れた地点までの区間に対するSb平均含量線の延長線を意味することができる。
【0044】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、熱間成形の熱処理時に、吸蔵される拡散性水素量を減らすことが水素遅延破壊による欠陥誘発を抑制できることが分かった。具体的に、熱間成形時にアルミニウム又はアルミニウム合金からなるめっき層を有するブランクを加熱する段階中に、熱処理炉内に存在する水蒸気がブランクの表面に吸着される。次いで、水が解離して発生する水素は、高温で水素溶解度の高いオーステナイト相を有する間に鋼中に吸蔵される。ところが、熱間成形による急激な冷却が発生してマルテンサイト相に変化すると、水素の溶解度は急激に低下し、めっき層が合金化して形成された合金めっき層は水素を放出し難くなるように妨げる妨害物の役割を果たすことになる。したがって、かなりの量の拡散性水素の含量が鋼中に残り、それによって水素遅延破壊によるクラック生成の可能性が高くなる。よって、熱処理時に吸蔵される拡散性水素量を減らすことが欠陥抑制のために重要な要素となる。
【0045】
さらに、発明者らは、いくつかの検討を行った結果、鋼中の水素含量が減少するにつれて耐衝突性が増加する傾向を示すことを確認した。これは、熱処理時に鋼中に吸蔵された拡散性水素、特に、結晶粒界に存在する拡散性水素は、曲げ加工時に応力を受けて結晶粒界のクラックの誘発及び伝播しやすいように作用する。したがって、鋼中の拡散性水素の含量を低減させることで、曲げ性、耐衝突性などの特性を改善することができる。
【0046】
特に、本発明者らは、素地鋼板とめっき層との間に適正な濃度及び厚さを有するSb濃化層が形成されることにより、このような効果を達成可能にすることを見出した。これは、Sb濃化層が鋼中に吸蔵される拡散性水素量を相対的に減少させる効果的な防御膜の役割を果たすためである。
【0047】
具体的に、鋼中の水素含量を効果的に減少させて耐水素脆性を改善するとともに、優れた耐衝突性も確保するためには、上記熱間成形用めっき鋼板は、下記関係式1-1及び1-2を満たすことが好ましい。このとき、上記関係式1-1及び1-2は経験的に得られる値であるため、特に単位を定めなくてもよく、以下に定義した各変数の単位を満足すればよい。
【0048】
【数3】
[上記関係式1-1及び1-2において、上記Sb
coatは上記めっき層内の平均Sb含量を示し、単位は重量%である。上記Sb
maxは上記Sb濃化層におけるSb含量の最大値を示し、単位は重量%である。上記Δtは、上記めっき層とSb濃化層との間の境界から上記Sb
maxを測定した地点間の直線距離を示し、単位はμmである。]
【0049】
すなわち、本発明の目的とする効果を発揮するためには、素地鋼板とめっき層との間に備えられるSb濃化層のSb濃度及び厚さが一定レベル以上で、前述の関係式1-1及び1-2の両方を満たすように形成されなければならない。このとき、上記Sb
coat、Sb
max及びΔtは、前述したグロー放電分光法(GDS)を活用してめっき層内のいずれか一地点で素地鋼板の厚さ方向にSb含量の変化を分析したとき、得られるデータから測定することができる。言い換えれば、上記Sb
coatは、本願の
図7の方法で測定されるGDSプロファイルグラフにおいて、Sb濃化層2中、Sb含量が最大値である地点200(Sb
maxの地点)より、めっき層1側に15μm離れた地点から20μm離れた地点までの区間に対するSb平均含量線の延長線を意味することができる。
【0050】
上記関係式1-1において、Sb
max/Sb
coatの値が1.2未満であるか、上記関係式1-2において、(Sb
max-Sb
coat)/2×Δtの値が0.008未満であると、Sb濃化層におけるSb濃度ないし形成厚さが十分でないため、鋼中に吸蔵される拡散性水素量を相対的に低減させる防御膜としての役割が期待できない。一方、
図1には、上記関係式1-2に該当する面積を櫛歯部分で示しており、前述した櫛歯部分の面積は、Sb
coatを測定した地点とSb
maxを測定した地点との間の距離を示すΔtによるSb濃度勾配を示す。
【0051】
あるいは、本発明の一実現例によると、より好ましく、上記関係式1-1から定義されるSbmax/Sbcoat値の下限は1.20であってもよく、より好ましく、上記関係式1-1から定義されるSbmax/Sbcoat値の上限は5.11であってもよい。
【0052】
また、本発明の一実現例によると、より好ましく、上記関係式1-2から定義される(Sbmax/Sbcoat)/2×Δt値の下限は0.0080であってもよく、より好ましく、上記関係式1-2から定義される(Sbmax/Sbcoat)/2×Δt値の上限は0.1438であってもよい。
【0053】
一方、特に限定するものではないが、本発明の一実現例によると、特に限定するものではないが、上記めっき鋼板において、上記Sb濃化層の厚さは1μm以上20μmの範囲であってもよい。めっき鋼板中に、Sb濃化層の厚さが1μm未満であると、以後に熱間成形のための熱処理を行っても十分なSb濃化層が生成されず、耐水素脆性及び耐衝突特性の改善という目的とする効果を期待し難くなる可能性がある。また、上記Sb濃化層の厚さが15μmを超えると、熱間成形後にSbが結晶粒界に過度に析出し、応力発生時にクラックサイト(crack site)として作用して耐衝突性に劣る可能性がある。
【0054】
前述の効果をより極大化する観点から、より好ましくは、上記めっき鋼板において、Sb濃化層の厚さの下限は3μmであってもよく、Sb濃化層の厚さの上限は15μmの範囲であってもよい。あるいは、上記めっき鋼板において、Sb濃化層の厚さは3~15μmの範囲であってもよい。
【0055】
一方、本発明者らは、さらにめっき鋼板及び部材の物性をより改善するために鋭意検討を行った結果、めっき鋼板の素地鋼板内に存在するマンガン偏析帯(band)にSbが適正量濃化することで性能が改善されることが分かった。すなわち、本発明者らは、種々の条件を検討した結果、偏析帯内のSb濃化量が一定レベル以上を満足するか、あるいは、これに加えてMn偏析帯の厚さが一定レベル以下を満たすとき、このような効果がより向上することを確認した。
【0056】
具体的に、本発明の一実現例によると、特に限定するものではないが、上記めっき鋼板において、上記素地鋼板はMn偏析帯を含み、上記Mn偏析帯のうち、Sb平均含量が素地鋼板におけるSb平均含量に対して1.015倍以上の領域は、面積分率で、60%以上であってもよい(あるいは、より好ましくは70%以上であってもよい)。これを満たすことにより、Mn偏析帯で主に発生するMnS等の介在物の生成を低減させ、応力発生時にクラックの発生及び伝播サイト(site)を抑制する役割を果たし、優れた耐衝突性を全て確保することができる。また、MnSが過度に生成されると、脆性破面が過度に発達するという問題が生じることがあるため、Sb濃化時に前述の構成を満たすことによりMnSを低減させることができ、これにより脆性破面が減少して曲げ性をより改善させることができる。
【0057】
このとき、上記Mn偏析帯におけるSb平均含量の上限は特に限定するものではないが、一例として、上記Mn偏析帯以外の素地鋼板の領域におけるSb平均含量に対して5倍以下であってもよい。また、特に限定するものではないが、上記Mn偏析帯のうち、Sb平均含量が素地鋼板におけるSb平均含量に対して1.015倍以上である部分の面積の上限は90%であってもよい。
【0058】
上記Mn偏析帯は、
図6aのように、Mnに対するEPMA成分マッピング結果を活用して区分可能である。具体的に、めっき鋼板を1200℃以上の温度で数時間熱処理した後、急冷してMn偏析帯を除去してから測定したEPMAによるMn強度(intensity)の平均値をMn
0とする。以後、EPMAで測定された点のうち、特定の点を中心に上下左右に面積が0.4μm
2である正方形を描いたとき、上記正方形内に位置する点のうち、Mnの強度がMn
0に対して1.015倍以上の領域が50%以上であると、その特定の点をMn偏析点と定義し、50%未満であると、Mn偏析点でないと定義する。このようなMn偏析点を集めて、最外郭に位置するMn偏析点を直線で連結して描かれる領域をMn偏析帯とする。
【0059】
また、上記素地鋼板のSb平均含量(Sb1)に対する上記Mn偏析帯のSb平均含量(Sb2)の比率(Sb2/Sb1)は、EPMAを用いたSbの成分マッピング結果による強度(intensity)の比率を活用して測定可能である。
【0060】
また、本発明の一実現例によると、特に限定するものではないが、上記熱間成形用めっき鋼板において、上記Mn偏析帯の厚さは20μm以下であってもよく、これを満たすことで耐衝突性及び曲げ性をより改善することができる。耐衝突性及び曲げ性は、Mn偏析帯の厚さが薄いほど向上できるため、Mn偏析帯の厚さの下限は別途限定しなくてもよい。但し、一例として、Mn偏析帯の厚さの下限は0μm超過、あるいは1μm以上とすることができる。このとき、上記Mn偏析帯の厚さは、前述した方法で定められるMn偏析帯のイメージから、厚さ方向(鋼板の圧延方向と垂直な方向)への平均厚さを測定した値をMn偏析帯の厚さと定義することができる。一方、上記熱間成形用めっき鋼板において、前述の効果を極大化する観点から、より好ましくは、上記Mn偏析帯の厚さの上限は18.9μmであってもよく、あるいは上記Mn偏析帯の厚さの下限は6.9μmであってもよい。
【0061】
一方、前述の構成を有する熱間成形用めっき鋼板を、後述する熱間プレス成形方法によって、優れた耐水素脆性及び耐衝突性を有する熱間成形部材を製造することができる。
【0062】
本発明の一態様による熱間成形部材は、前述のめっき鋼板の素地鋼板と同じ合金組成を有する素地鋼板と、上記素地鋼板の少なくとも一面に備えられたアルミニウム又はアルミニウム合金めっき層と、上記焼成鋼板及び上記めっき層の間に備えられたSb濃化層と、を含み、上記熱間成形部材は、下記関係式2-1及び2-2を満たす。このとき、素地鋼板、めっき層及びSb濃化層に対する説明は、前述の内容を同様に適用することができる。このとき、上記関係式2-1及び2-2は経験的に得られる値であるため、特に単位を定めなくてもよく、各変数の単位を満足すればよい。
【0063】
【数4】
[上記関係式2-1及び2-2において、上記Sb
coatは上記めっき層内の平均Sb含量を示し、単位は重量%である。上記Sb
maxは上記Sb濃化層におけるSb含量の最大値を示し、単位は重量%である。上記Δtは、上記めっき層とSb濃化層との間の境界から上記Sb
maxを測定した地点間の直線距離を示し、単位はμmである。]
【0064】
本発明において、熱間成形のためにめっき鋼板を加熱すると、Sb濃化層のSb濃化度合いがより深化する。したがって、本発明による熱間成形部材においては、上記関係式2-1及び2-2を満たすことにより、鋼中の水素含量を効果的に減少させることで耐水素脆性及び耐衝突性を改善することができる。このとき、熱間成形部材において、上記めっき層とSb濃化層との境界及び上記素地鋼板とSb濃化層との境界に対する区分方法は、前述しためっき鋼板における区分方法を同様に適用することができる。
【0065】
あるいは、本発明の一実現例によると、より好ましく、上記関係式2-1から定義されるSbmax/Sbcoat値の下限は1.57であってもよく、より好ましく、上記関係式2-1から定義されるSbmax/Sbcoat値の上限は7.39であってもよい。
【0066】
また、本発明の一実現例によると、より好ましく、上記関係式2-2から定義される(Sbmax/Sbcoat)/2×Δt値の下限は0.0148であってもよく、より好ましく、上記関係式2-2から定義される(Sbmax/Sbcoat)/2×Δt値の上限は0.1940であってもよい。
【0067】
あるいは、特に限定するものではないが、本発明の一実現例によると、より好ましくは、下記関係式2-3を満たすことができ、これにより耐水素脆性及び耐衝突性をより改善することができる。
【0068】
【0069】
特に限定するものではないが、本発明の一実現例によると、上記熱間成形部材において、上記素地鋼板の微細組織はフェライト5%以下、及び残部マルテンサイトを含むことができる。さらに、1%以下の上部ベイナイト、残留オーステナイト、セメンタイト及びパーライトなどのその他の相をさらに含むことができる。
【0070】
本発明の一実現例によると、上記素地鋼板は、面積分率で、フェライトを5%以下含むことができ、これは熱間成形において、鋼の成分調節による硬化能の確保及び十分な冷却速度を確保することでフェライト分率を5%以下に管理することができる。一方、熱間成形部材において、上記素地鋼板のフェライト分率が5%を超えると、強度の低下が発生するだけでなく、相対的に、軟質であるフェライトに局所的な応力が集中し、クラックの伝播を促進させて耐衝突性を大きく劣化させる可能性がある。
【0071】
また、本発明の一実現例によると、特に限定するものではないが、上記熱間成形部材において、上記Sb濃化層の厚さは2~30μmであってもよい。上記熱間成形部材中にSb濃化層の厚さが2μm未満であると、熱間成形中、鋼内に浸透する水素を効果的に抑制できず、耐水素脆性及び耐衝突特性の改善という目的とする効果を十分に発揮できなくなる可能性がある。また、上記熱間成形部材中にSb濃化層の厚さが30μmを超えると、Sbが濃化層を構成するだけでなく、素地鉄の表層部の粒界に過度に析出することがあり、これにより曲げ時にクラックの発生及び伝播を促進させて耐衝突特性が低下することがある。
【0072】
前述の効果をより極大化する観点から、より好ましくは、上記熱間成形部材において、上記Sb濃化層の厚さの下限は3μmであってもよく、あるいは、上記Sb濃化層の厚さの上限は25μmであってもよい。あるいは、上記熱間成形部材において、Sb濃化層の厚さは3~25μmの範囲であってもよい。
【0073】
また、特に限定するものではないが、本発明の一実現例によると、上記熱間成形部材の拡散性水素量は0.2ppm以下であってもよく、これにより、優れた耐水素脆性を確保することができる。このような0.2ppm以下の拡散性水素量は、120時間の間、材料の同一の降伏応力下で屈曲により試験片が応力を受けても、部品の割れを発生させないためである。
【0074】
また、特に限定するものではないが、本発明の一実現例によると、上記熱間成形部材において、上記素地鋼板はMn偏析帯を含み、上記Mn偏析帯のうち、Sb平均含量が素地鋼板におけるSb平均含量に対して1.015倍以上の領域は、面積分率で、60%以上であってもよい(あるいは、より好ましくは70%以上であってもよい)。これを満たすことにより、Mn偏析帯で主に発生するMnS等の介在物の生成を低減させ、応力発生時にクラックの発生及び伝播サイト(site)を抑制する役割を果たし、優れた耐衝突性を全て確保することができる。また、MnSが過度に生成されると、脆性破面が過度に発達するという問題が生じることがあるため、Sb濃化時に前述の構成を満たすことによりMnSを低減させることができ、これにより脆性破面が減少して曲げ性をより改善させることができる。
【0075】
このとき、上記Mn偏析帯におけるSb平均含量の上限は特に限定するものではないが、一例として、上記Mn偏析帯以外の素地鋼板の領域におけるSb平均含量に対して5倍以下であってもよい。なお、特に限定するものではないが、上記Mn偏析帯のうち、Sb平均含量が素地鋼板におけるSb平均含量に対して1.015倍以上である部分の面積の上限は95%であってもよい。
【0076】
また、特に限定するものではないが、本発明の一実現例によると、上記熱間成形部材において、上記Mn偏析帯の厚さは15μm(あるいは、15.0μm)以下であってもよく、これを満たすことにより耐衝突性及び曲げ性をより改善することができる。耐衝突性及び曲げ性は、Mn偏析帯の厚さが薄いほど向上することができるため、Mn偏析帯の厚さの下限は別途限定しなくてもよい。但し、一例として、Mn偏析帯の厚さの下限は0μm超過、あるいは1.5μmであってもよい。一方、前述の効果を極大化する観点から、より好ましくは、上記Mn偏析帯の厚さの上限は12.0μmであってもよく、あるいは上記Mn偏析帯の厚さの下限は6.0μmであってもよい。
【0077】
このとき、熱間成形部材において、Mn偏析帯の定義、素地鋼板におけるSb平均含量に対するMn偏析帯中のSb平均含量の比率、及びMn偏析帯の厚さの測定は、前述しためっき鋼板における測定方法及び測定基準を同様に適用することができる。
【0078】
次に、本発明のさらに他の一態様である熱間成形用めっき鋼板の製造方法について説明する。
【0079】
本発明の一態様による熱間成形用めっき鋼板は、重量%で、前述した合金組成を有する鋼スラブを1050~1300℃に再加熱する段階と、加熱された鋼スラブを800~950℃で仕上げ圧延して熱延鋼板を得る段階と、上記熱延鋼板を500~700℃で巻き取る段階と、巻き取られた熱延鋼板を酸濃度及び酸洗時間の積が800~10,000g/L*sとなるように酸洗処理する段階と、酸洗処理された熱延鋼板を焼鈍炉内の-75~-20℃の露点温度条件で700~860℃に焼鈍する段階と、焼鈍後、上記熱延鋼板をアルミニウム又はアルミニウム合金からなるめっき浴に通過させてめっきする段階と、を含むことができる。
【0080】
スラブ再加熱段階
まず、前述した合金組成を有するスラブを1050~1300℃に再加熱する。上記再加熱温度が1050℃未満であると、スラブ組織が十分に均質化されないため、析出元素を活用する場合、再固溶させにくい。一方、再加熱温度が1300℃を超えると、過剰な酸化層が形成され、酸化層を除去するための製造コストの増加を招き、仕上げ圧延後に表面欠陥が発生する可能性が高くなる。
【0081】
仕上げ圧延段階
仕上げ圧延は800~950℃で行うべきである。仕上げ圧延温度が800℃未満では、二相域圧延が進行し、鋼板の表層部にフェライトが導入され、板形状の制御が難しい。一方、仕上げ圧延温度が950℃を超えると、熱延結晶粒の粗大化が発生することがある。
【0082】
巻取り段階
仕上げ圧延終了の後、上記熱延鋼板を500~700℃で巻き取ってから冷却して熱延コイルを製造する。巻取り温度が500℃未満であると、鋼板の全体又は部分的にマルテンサイトが形成され、コイルの形状制御が難しいだけでなく、熱延鋼板の過度な強度上昇により以後の冷間圧延性が低下するという問題がある。一方、巻取り温度が700℃を超えると、粗大な炭化物が過剰に形成され、熱間成形部材の応力発生時にクラックの発生が促進されるため、耐衝突性が低下するという問題がある。
【0083】
酸洗処理する段階
巻き取られた熱延鋼板を酸濃度及び酸洗時間の積が800~10,000g/L*sとなるように酸洗処理する。前述した再加熱、仕上げ圧延及び巻取り段階を経た鋼板にはSb濃化層が形成されるが、酸洗処理工程において酸の濃度及び酸洗時間の積が800~10,000g/L*sの範囲内で適用されるとき、本発明の核心であるSb濃化層が効果的に保護され、鋼中の拡散性水素量の低減効果を発揮することができる。
【0084】
具体的に、酸の濃度及び酸洗時間の積が800g/L*s未満である場合、仕上げ圧延中に発生したスケールが十分に除去されず、製品の品質問題を誘発することがある。これに対し、酸の濃度及び酸洗時間の積が10,000g/L*sを超える場合、Sb濃化層の全部又は一部が酸洗中に流失して期待する効果を発揮できないだけでなく、製造コストの上昇をもたらす可能性があるため、その上限を10,000g/L*sとする。但し、酸洗タンクが1つ以上であり、それに応じる酸の濃度及び酸洗時間が異なる場合、タンク別の酸の濃度と酸洗時間の積をそれぞれ加算することで、上記の値を表すことができる。
【0085】
一方、前述の効果をより極大化する観点から、より好ましくは、上記酸濃度及び酸洗時間の積の下限は3,000g/L*sであってもよく、あるいは上記酸濃度及び酸洗時間の積の上限は5,000g/L*sであってもよい。
【0086】
特に限定するものではないが、本発明の一実現例によると、上記酸洗処理段階で使用できる酸としては、当該技術分野において通常使用できるものを適用することができる。代表的には、塩酸(HCl)、硫酸(H2SO4)等があり、特に本発明では、塩酸(HCl)を使用することが、他の酸を使用する場合に比べて、酸洗能に優れ、工程費用が経済的であり、酸洗後に表面異物が発生する可能性が少なく、表面品質の確保が容易である。
【0087】
一方、特に限定するものではないが、本発明の一実現例によると、上記酸の濃度は40~500g/Lの範囲であってもよい。酸の濃度が40g/L未満であると、限られた酸洗時間の間、熱間圧延中に発生した表層スケールが十分に除去されず、鋼板の表層部において欠陥が発生することがある。これに対し、酸の濃度が500g/Lを超えると、Sb濃化層の流失により、最終熱間成形部材において発明の目的とする効果を発揮しにくくなる可能性があり、過酸洗による表層部の欠陥が誘発されることがある。一方、前述の効果をより極大化する観点から、より好ましくは、上記酸の濃度の下限は180g/Lであってもよく、あるいは上記酸の濃度の上限は230g/Lであってもよい。
【0088】
また、特に限定するものではないが、本発明の一実現例によると、上記酸洗時間は5~60秒(s)であってもよい。上記酸洗時間が5秒未満であると、鋼板の表層スケールが十分に除去されず、表層部での欠陥を誘発することがあり、上記酸洗時間が60秒を超えると、Sb濃化層が流失することにより、生産性を低下させて工程費用を増加させる可能性がある。前述の効果を極大化する観点から、より好ましくは、上記酸洗時間の下限は18秒(s)であってもよく、あるいは上記酸洗時間の上限は50秒(s)であってもよい。
【0089】
また、特に限定するものではないが、本発明の一実現例によると、上記酸洗温度は40~120℃であってもよい。上記酸洗温度が40℃未満であると、酸洗力が十分でなく、製品の品質に悪影響を及ぼすことがある。これに対し、上記酸洗温度が120℃を超えると、高い温度に保持するために固定コストが増加するだけでなく、高い温度による酸洗液の気化量が増加し、流失した酸洗液の補充のためのコスト増加の問題があり得る。前述の効果を極大化する観点から、より好ましくは、上記酸洗温度の下限は50℃であってもよく、あるいは上記酸洗温度の上限は100℃であってもよい。あるいは、上記酸洗温度は50~100℃の範囲であってもよい。
【0090】
焼鈍する段階
前述の酸洗処理された熱延鋼板を焼鈍炉内の-75~+20℃の露点温度条件で700~900℃に焼鈍することができる。焼鈍温度が700℃未満の場合には、冷間圧延された組織の再結晶が十分に完了しないため、板形状が不良になる可能性があり、めっき後に強度が高すぎるため、ブランキング工程中に金型摩耗を誘発することがある。これに対し、焼鈍温度が900℃を超えると、焼鈍工程中に表面酸化物の形成が促進され、Al-Siめっき表面に欠陥を誘発する。あるいは、ブランキング工程中の金型摩耗及びめっき表面欠陥の抑制という観点から、上記焼鈍温度の下限は、より好ましくは750℃であってもよく、最も好ましくは800℃であってもよい。同様に、上記焼鈍温度の上限は、より好ましくは860℃であってもよい。
【0091】
また、焼鈍時の雰囲気は非酸化性雰囲気とすることが好ましく、水素-窒素混合ガス等を使用することができる。このとき、前述した雰囲気ガスの露点温度(Dew point)は-75℃以上+20℃以下で行う。露点温度が-75℃未満であると、露点を制御するための付加的な設備が必要となるため製造コストが上昇するという問題がある。これに対し、露点温度が+20℃を超えると、焼鈍中に鋼板の表面に焼鈍酸化物が形成され、未めっき等の表面品質の不良を引き起こすことがある。一方、前述の効果を極大化する観点から、上記焼鈍時の露点温度の下限は、より好ましくは-70℃であってもよく、最も好ましくは-40℃であってもよい。あるいは、上記焼鈍時の露点温度の上限は、より好ましくは+15℃であってもよく、最も好ましくは-20℃であってもよい。
【0092】
めっき段階
焼鈍工程の後、直ちにAl-Siめっきを行う。具体的に、焼鈍後、上記熱延鋼板をアルミニウム又はアルミニウム合金からなるめっき浴に鋼板を通過させてめっき鋼板を製造することができる。このとき、めっき条件は、熱間プレス成形用鋼板に通常適用されるめっき条件であれば、本発明に制限なく適用することができるが、一例として、上記めっき浴の組成はSi:6~12%、Fe:1~4%、残りのAl及びその他の不可避不純物を含むことができる。
【0093】
このとき、特に限定されるものではないが、めっき段階において、めっき量は通常製造される片面基準20~140g/m2とすることが好ましい。片面基準20g/m2未満では、所望の熱間成形部材の耐食性を確保し難く、140g/m2超過では、過度なめっき付着量により製造コストが上昇するだけでなく、めっき量を均一にコイル全幅及び長さ方向にめっきすることが容易ではない。
【0094】
冷間圧延段階
本発明の一態様による熱間成形用めっき鋼板の製造方法は、前述した酸洗処理する段階の後に、熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板を製造する段階をさらに含むことができる。
【0095】
連続鋳造段階
本発明による熱間成形用めっき鋼板の製造方法は、スラブ加熱段階の前に、軽圧下して連続鋳造する段階をさらに含むことができるが、特にこれに限定されるものではない。本発明は、連続鋳造時に軽圧下を適用してスラブを製造することで、偏析を低減して耐衝突性を改善することができる。スラブ偏析が過度に発生すると、最終熱間成形部材まで偏析帯が厚く濃化して形成され、このような偏析帯とMn偏析帯以外の素地鋼板領域との間で発生する硬度差及び偏析帯内の介在物の形成により耐衝突性が低減することがあるためである。
【0096】
したがって、本スラブを生産するためには、連続鋳造時にスラブの最終凝固位置以前に軽圧下を実施しなければならず、連続鋳造による軽圧下時の総圧下率は0.5~5%に制御することが好ましい。連続鋳造時の総圧下率を0.5%未満とすると、圧下が殆どなされず、中心偏析が十分に除去されないため、熱間成形部材内での耐衝突性に劣ることがある。これに対し、連続鋳造時の総圧下率が5%を超えると、圧下ロール設備に無理が生じる可能性があり、設備の故障及び老朽化を促進させることがある。一方、前述の効果を極大化する観点から、より好ましくは、上記連続鋳造による軽圧下時の総圧下率の下限は0.52%であってもよく、あるいは上記連続鋳造による軽圧下時の総圧下率の上限は4.10%であってもよい。
【0097】
前述の製造方法により製造された熱間成形用めっき鋼板に対して熱間プレス成形し、耐水素脆性及び耐衝突性に優れた熱間成形部材を製造することができる。具体的に、前述の方法により製造されためっき鋼板を用いて熱間成形及びダイ焼入れによって耐水素脆性及び耐衝突性に優れた最終部材を製造する方法について説明する。前述の鋼組成及び製造方法によって製造されためっき鋼板を用いて熱間成形のためのブランクを製造する。上記ブランクでオーステナイト単相域温度以上、より詳しくは、Ac3温度以上及び975℃以下の温度範囲内で加熱する。このとき、加熱温度がAc3温度未満であると、二相域区間に伴う未変態フェライトの存在により強度及び耐衝突性の確保が難しくなる。一方、加熱温度が975℃を超えると、部材表面に過剰な酸化物が生成され、スポット溶接性の確保が難しく、高い温度を保持するための製造コストが上昇する。
【0098】
その後、加熱されたブランクは、上記温度範囲で1~1000秒間保持することが好ましい。上記保持時間が1秒未満であると、ブランク温度全体における均一な温度分布が困難となり、位置別の材質ばらつきを誘発する可能性がある。一方、上記保持時間が1000秒を超えると、加熱温度の超過時と同様に、部材表面の過度な酸化物の生成によりスポット溶接性の確保が難しいだけでなく、部材の製造コストの増加を誘発する。
【0099】
このように加熱されたブランクをプレスに移送し、-20℃/s以上の冷却速度で熱間成形及びダイ焼入れを行って最終部材を製造する。このとき、-20℃/s未満の冷却速度では、冷却中にフェライト相が導入されて結晶粒界に生成され、強度及び耐衝突性を低下させることがある。上述されたブランクの移送、熱間成形及び冷却段階については特に限定せず、通常活用される熱間成形工法をそのまま適用することができる。
【0100】
このようにして製造された熱間成形部材は、素地鋼板とめっき層との間にSbが濃化したSb濃化層が形成され、これにより、鋼中の拡散性水素量の減少による耐水素脆性及び耐衝突性に優れた熱間成形部材を製造することができる。
【実施例】
【0101】
以下、実施例を挙げて本発明についてより具体的に説明する。但し、下記の実施例は、本発明を例示して具体化するためのものであるだけで、本発明の権利範囲を制限するためのものではないことに留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項及びこれにより合理的に類推される事項によって決定されるものである。
【0102】
(実験例1)
本発明のために使用された鋼の組成は、以下の表1に示され(残部Fe及びその他の不純物に該当)、それぞれの組成を有するスラブを厚さ40mmで真空溶解によって製造した。このようなスラブを1200℃で1時間温度を保持した後、900℃の熱間圧延終了温度に熱間圧延し、600℃のコイリング温度で巻き取った。その後、酸洗して冷間圧延した後、下記表2の条件で焼鈍を行い、Al-9%Si-2%Fe及び残部は微量の不純物からなるめっき浴に浸漬してめっきを行った。このとき、酸洗工程は200g/LのHCl濃度及び20秒の酸洗時間で行い、HCl濃度及び酸洗時間の積が本発明の範囲内である4,000g/L・sで一括適用した。
【0103】
本実施例では、様々な温度での熱間成形を行い、加熱時間は6分、金型までの移送時間は10秒を適用した後、ダイ焼入れを適用した。
【0104】
上記のように製造された試験片でフェライト観察のための組織分析を行い、表面付近のSb濃化層を確認するために、GDS850A(モデル名、LECO社製)、DC及びFR装備を使用して、グロー放電分光法(GDS、Glow Discharge Optical Emission Spectrometry)により、
図3のように、素地鉄、めっき層の界面にあるSb濃化層を検出した。この結果に基づいて、
図1に示すように、パラメータSb
max、Sb
coat、Δtを測定し、これを用いて下記表に記載の濃化層パラメータP1値を計算し、それによる拡散性水素量を確認するためにTDA(Thermal Desorption Analysis)装備(Bruker G8;モデル名)を活用して測定した。このとき、400℃まで20℃/分で昇温し、拡散性水素ピーク(peak)が十分に出るように時間を保持して拡散水素カーブ(Curve)を測定し、鋼中、総拡散性水素量は、このようなカーブを積分して求めた。
【0105】
また、耐衝突性を確認するために、熱間成形熱処理後1週間が経過した後の曲げ性を評価し、
図2のような3点曲げ試験で得られた荷重-変位曲線から最大荷重に達するまでの面積(CIE:Crack initiation Energy)指標を用いて評価した。優れた耐衝突性の有無を判断するために測定されたCIE値が35,000N・m以上の場合を「良好」、35,000N・m未満の場合を「不良」と表した。その結果を表2、3に示した。
【0106】
【0107】
【0108】
【0109】
上記表1~3に示すように、比較例1~5の場合、鋼中のSb含量が本発明の範囲に達せず、Sbmax/Sbcoatの比率及びP1値が本発明の範囲を満たしていない。したがって、鋼中の拡散性水素の浸透を効果的に抑制できず、耐衝突性が不良であった。
【0110】
これに対し、実施例1~8の場合、関係式1-1、1-2、2-1及び2-2の値が本発明の範囲を満たすことにより、鋼中の拡散性水素量が減少すると共に、耐衝突性の指標であるCIE値が増加し、耐衝突性に優れることを確認した。
【0111】
一方、フェライト組織が本発明の範囲から外れた一部の結果を除くと、
図4に示すように、P1値が増加するほど、拡散性水素量が次第に減少することが分かり、Sb濃化層が鋼中の拡散性水素量を減らすのに効果的な防御膜の役割を果たすことが理解できる。このような効果により、
図5に示すように、Sb濃化層が発現すると、CIE値が大きく増加しつつ優れた耐衝突性も同時に確保できることが分かる。
【0112】
(実験例2)
酸洗濃度及び酸洗時間を下記表4のように変更し、熱間成形温度を表4の条件で適用した以外は、前述の実験例1と同様の方法により試験片を製造した。このとき、酸洗温度は80℃で一括適用した。
【0113】
下記表4の各実施例及び比較例について、前述の実験例1と同様の方法により関係式1-1、1-2、2-1及び2-2の値を測定して下記表5に示した。また、各実施例及び比較例に対するめっき鋼板(あるいは、熱間成形部材)について、めっき層表面のある10個の地点に対して、素地鋼板の厚さ方向にSb含量の変化をGDSで分析して得られるデータに基づき、明細書にて説明した方法を同様に適用し、Sb濃化層の厚さを測定した(すなわち、模式図である
図7のめっき層のSb平均含量線とGDSによるSb含量線のx軸(+)方向への最後接触地点11から、素地鋼板のSb平均含量線とGDSによるSb含量線のx軸(-)方向への最後接触地点31までの厚さ方向への直線距離を測定した)。上記10個の地点に対するSb濃化層の平均厚さを測定し、これを下記表5に示した。
【0114】
各実施例及び比較例を評価するために、前述した実験例1と同様の方法により耐衝突性を評価し、さらに表面特性(すなわち、表面欠陥の有無)を評価するために、酸洗後に熱間スケール(scale)の残存の有無を評価した。酸洗後に熱間スケールの残存の有無を確認するために、酸洗後に各鋼種についてテープを用いて試験片の表面に貼り付けて剥がし、ここに付いた酸化物を白い紙に貼り付けた後、色差分析による白色度を測定した。このとき、上記白色度が95%以上の場合を「良好」、95%未満の場合を「不良」と表した。
【0115】
【0116】
【0117】
【0118】
上記表4~6に示すように、本発明のSb含量を満たさず、酸濃度及び酸洗時間の積が800g/L*s未満である比較例6は、関係式1-1、1-2、2-1及び2-2を満たさないだけでなく、熱間スケールが完全に除去されず、後工程の際に表面欠陥を起こす可能性が高いことを確認した。
【0119】
また、酸濃度及び酸洗時間の積が10,000g/L*sを超える比較例7及び8は、関係式1-1、1-2、2-1及び2-2のいずれも満たさず、これにより、鋼中の拡散性水素量が高くなって耐水素脆性に劣ると共に、耐衝突性の指標であるCIE値も低く、耐衝突特性にも劣っていた。
【0120】
一方、本願の実施例9~12は、本発明の鋼組成と、酸濃度及び酸洗時間の積が800~10,000g/L*sの範囲であるため、関係式1-1、1-2、2-1及び2-2が本発明の範囲を満たしている。これにより、表面特性に優れるだけでなく、鋼中の拡散性水素量が減少して耐水素脆性に優れている。また、同時に耐衝突性の指標であるCIE値が増加し、耐衝突特性に優れている。
【0121】
(実験例3)
スラブを再加熱する前に、下記表7に記載の総圧下量で軽圧してスラブを製造し、下記表7の条件を適用した以外は、実験例1と同様の方法で試験片を製造した。このような試験片について、各特性を上記実験例1と同様の方法で評価し、さらにめっき鋼板及び熱間成形部材に対する鋼板内のMn偏析帯の厚さ及びMn偏析帯内のSb含量を測定し、下記表7に示した。
【0122】
特に、Mn偏析帯の厚さとMn偏析帯のうち、Sb平均含量が素地鋼板におけるSb平均含量に対して1.015倍以上である部分の面積は、明細書で前述した方法を適用してEPMA(Electron Probe X-ray Micro Analyzer)方法を活用して測定し、このような各Mn及びSbに対する成分マッピング(Element mapping)結果を
図6a及び6bに示した。
【0123】
このとき、表面特性、拡散性水素量及び耐衝突性は、前述の方法と同様に測定した。
【0124】
また、さらに曲げ性を評価するために、下記表7の各実施例及び比較例から製造される部材について曲げ試験を行った。具体的に、表面から100μm下までSEMで測定して破面の比率を観察すると、延性破面(Ductile fracture)と脆性破面(Cleavage fracture)が生成される。このとき、総測定面積に対する延性破面の面積比率が70%以上を満たすと「○」で表し、それ未満であると「×」で表した。
【0125】
【0126】
【0127】
【0128】
【0129】
上記表7~10に示すように、比較例9は添加されたSb含量が本発明の範囲未満であり、かつMn偏析帯内にSbが十分に濃化しなかったため、耐衝突性の不良が発生した。
【0130】
比較例10の場合、連続鋳造時の総圧下率が5%を超え、連鋳圧下時に障害が発生して連鋳が不可能となり、これによる実験的評価が不可能であった。
【0131】
一方、実施例13~16は、本願の関係式1-1、1-2、2-1及び2-2の範囲を満たすことで、表面特性に優れ、拡散性水素量が少なく耐水素脆性に優れている。
【0132】
特に、前述の実施例のうち、めっき鋼板において、Mn偏析帯の厚さが20μm以下(あるいは、熱間成形部材において、Mn偏析帯の厚さが15μm以下)を満たすか、又はめっき鋼板と熱間成形部材において、素地鋼板のSb平均含量に対するMn偏析帯のSb平均含量の比率が60%以上を満たす実施例14~16の場合、前述の条件のうち一つ以上を満たさない実施例13及び前述の条件を全て満たさない比較例9に比べて、曲げ性がより改善されることを確認した。
【0133】
前述の実験例から、本発明によると、鋼中への少量のSb添加にもかかわらず、拡散性水素量の低減による水素遅延破壊に対する抵抗性だけでなく、優れた耐衝突性を同時に有する熱間成形製品を製造することができる。このような部品は、構造材料又は強化用部品として自動車製造分野を含む様々な分野に適用及び活用することができる。
【符号の説明】
【0134】
1:めっき層
2:Sb濃化層
21:Sb濃化層において、x軸(+)方向へのSb含量の上昇区間
22:Sb濃化層において、x軸(-)方向へのSb含量の上昇区間
3:素地鋼板
10:めっき層のSb平均含量線
11:めっき層のSb平均含量線と、GDSによるSb含量線のx軸(+)方向への最後接触地点
30:素地鋼板のSb平均含量線
31:素地鋼板のSb平均含量線と、GDSによるSb含量線のx軸(-)方向への最後接触地点
100:GDSによるSb含量線
200:Sb濃化層において、Sb含量が最大値である地点