(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-27
(45)【発行日】2025-06-04
(54)【発明の名称】レーザ加工方法及びレーザ加工装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20250528BHJP
B23K 26/354 20140101ALI20250528BHJP
B23K 26/53 20140101ALI20250528BHJP
B23K 26/067 20060101ALI20250528BHJP
B23K 26/073 20060101ALI20250528BHJP
【FI】
H01L21/78 B
B23K26/354
B23K26/53
B23K26/067
B23K26/073
(21)【出願番号】P 2021065721
(22)【出願日】2021-04-08
【審査請求日】2024-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100183438
【氏名又は名称】内藤 泰史
(72)【発明者】
【氏名】坂本 剛志
(72)【発明者】
【氏名】杉本 陽
【審査官】山口 祐一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-156168(JP,A)
【文献】特開2017-208445(JP,A)
【文献】特開2013-130835(JP,A)
【文献】国際公開第2020/090893(WO,A1)
【文献】特開2017-183401(JP,A)
【文献】特開2019-175976(JP,A)
【文献】特表2016-525018(JP,A)
【文献】特開2004-361481(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
B23K 26/354
B23K 26/53
B23K 26/067
B23K 26/073
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面側に機能素子層を有する対象物の表面又は裏面に第1レーザ光を照射し、レーザアニールにより照射面の平坦化を行う第1工程と、
前記第1工程において平坦化された前記照射面に第2レーザ光を照射し、前記対象物の内部に改質層を形成する第2工程と、を含み、
前記第1レーザ光のパルスピッチは、前記第2レーザ光のパルスピッチよりも短い、レーザ加工方法。
【請求項2】
前記第1レーザ光及び前記第2レーザ光は、共通の光源から出射されている、請求項1記載のレーザ加工方法。
【請求項3】
前記第1レーザ光の周波数は、前記第2レーザ光の周波数よりも高い、請求項1又は2記載のレーザ加工方法。
【請求項4】
前記第1レーザ光の加工進行方向における分岐数は、前記第2レーザ光の前記加工進行方向における分岐数よりも多い、請求項1~3のいずれか一項記載のレーザ加工方法。
【請求項5】
前記第1レーザ光の、加工進行方向に交差する方向であって前記照射面に平行な方向における分岐数は、前記第2レーザ光の、前記加工進行方向に交差する方向であって前記照射面に平行な方向における分岐数よりも多い、請求項1~4のいずれか一項記載のレーザ加工方法。
【請求項6】
前記第1レーザ光の分岐した各ビームは、前記照射面において互いに照射範囲の一部が重なっている、請求項4又は5記載のレーザ加工方法。
【請求項7】
前記第1レーザ光は、トップハット形状のレーザ光である、請求項1~6のいずれか一項記載のレーザ加工方法。
【請求項8】
前記第1工程では、前記照射面を平坦化すると共に前記対象物の内部に改質層が形成されるように、前記照射面に前記第1レーザ光を照射する、請求項1~7のいずれか一項記載のレーザ加工方法。
【請求項9】
前記第1工程では、前記対象物の内部に改質層が形成されないように、前記照射面に前記第1レーザ光を照射する、請求項1~7のいずれか一項記載のレーザ加工方法。
【請求項10】
前記第1工程では、前記第1レーザ光の集光点を前記対象物の外部の位置とする、請求項9記載のレーザ加工方法。
【請求項11】
前記第1工程では、前記裏面を前記照射面として前記第1レーザ光を照射し、前記裏面の平坦化を行う、請求項1~10のいずれか一項記載のレーザ加工方法。
【請求項12】
前記第2工程前において、前記対象物の前記裏面から第3レーザ光を照射することにより、前記表面に弱化領域を形成する第1グルービング工程を更に備え、
前記第1工程では、前記第1グルービング工程前の前記裏面を前記照射面として前記第1レーザ光を照射し、前記裏面の平坦化を行う、請求項11記載のレーザ加工方法。
【請求項13】
前記対象物の前記表面に第4レーザ光を照射することにより、前記表面の表層を除去する第2グルービング工程を更に備え、
前記第1工程では、前記第2グルービング工程によって前記表面に形成された溝の底面を前記照射面として前記第1レーザ光を照射し、前記溝の底面の平坦化を行う、請求項1~10のいずれか一項記載のレーザ加工方法。
【請求項14】
表面側に機能素子層を有する対象物を支持する支持部と、
前記対象物にレーザ光を照射する照射部と、
前記対象物の前記表面又は裏面に第1レーザ光が照射されてレーザアニールにより照射面が平坦化されるように前記照射部を制御する第1制御と、平坦化された前記照射面に前記第1レーザ光よりもパルスピッチが長い第2レーザ光が照射されて前記対象物の内部に改質層が形成されるように前記照射部を制御する第2制御と、を実施するように構成された制御部と、を備えるレーザ加工装置。
【請求項15】
前記制御部は、前記第1制御において、前記裏面を前記照射面として前記第1レーザ光が照射され前記裏面が平坦化されるように前記照射部を制御する、請求項14記載のレーザ加工装置。
【請求項16】
前記制御部は、
前記第2制御実施前において、前記対象物の前記裏面から第3レーザ光が照射されることにより前記表面に弱化領域が形成されるように前記照射部を制御する第1グルービング制御を更に実施し、
前記第1制御において、前記第1グルービング制御実施前の前記裏面を前記照射面として前記第1レーザ光が照射され前記裏面が平坦化されるように前記照射部を制御する、請求項15記載のレーザ加工装置。
【請求項17】
前記制御部は、
前記対象物の前記表面に第4レーザ光が照射されることにより前記表面の表層が除去されるように前記照射部を制御する第2グルービング制御を更に実施し、
前記第1制御において、前記第2グルービング制御によって前記表面に形成された溝の底面を前記照射面として前記第1レーザ光が照射され前記溝の底面が平坦化されるように前記照射部を制御する、請求項14記載のレーザ加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一態様は、レーザ加工方法及びレーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体基板と、半導体基板の一方の面に形成された機能素子層と、を備えるウエハを複数のラインのそれぞれに沿って切断するために、半導体基板の他方の面側からウエハにレーザ光を照射することにより、複数のラインのそれぞれに沿って半導体基板の内部に複数列の改質層を形成するレーザ加工装置が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、改質層を形成する対象物におけるレーザ光の照射面が平坦ではなく荒れている場合には、当該照射面においてレーザ光を吸収もしくは散乱させてしまうことがあり、この場合、対象物の内部に適切に改質層を形成することができないおそれがある。
【0005】
本発明の一態様は上記実情に鑑みてなされたものであり、対象物の照射面を適切に平坦化して対象物の内部に適切に改質層を形成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係るレーザ加工方法は、表面側に機能素子層を有する対象物の表面又は裏面に第1レーザ光を照射し、レーザアニールにより照射面の平坦化を行う第1工程と、第1工程において平坦化された照射面に第2レーザ光を照射し、対象物の内部に改質層を形成する第2工程と、を含み、第1レーザ光のパルスピッチは、第2レーザ光のパルスピッチよりも短い。
【0007】
本発明の一態様に係るレーザ加工方法では、対象物の内部に改質層を形成するために第2レーザ光が照射される前段階において、該第2レーザ光の照射面に、レーザアニールにより該照射面の平坦化を行うための第1レーザ光が照射される。改質層を形成する際のレーザ光の照射面が荒れており平坦でない場合には、レーザ光の照射によって改質層を適切に形成できない場合がある。この点、本発明のレーザ加工方法のように、改質層を形成する際の照射面に対して、事前に、該照射面の平坦化を行う第1レーザ光が照射される(レーザアニールが実施される)ことにより、平坦化された照射面に第2レーザ光を照射することが可能となり、対象物の内部に適切に改質層を形成することができる。また、本発明の一態様に係るレーザ加工方法では、レーザアニールに係る第1レーザ光のパルスピッチが、改質層の形成に係る第2レーザ光のパルスピッチよりも短くされている。このように、レーザアニールに係るレーザ光のパルスピッチが短く(改質層の形成に係るレーザ光のパルスピッチよりも短く)されることにより、溶融後に再結晶化されて平坦化される領域を連続的に形成することができ、レーザアニールによる照射面の平坦化をより適切に実現することができる。以上のように、本発明のレーザ加工方法によれば、対象物の照射面を適切に平坦化して対象物の内部に適切に改質層を形成することができる。
【0008】
上記レーザ加工方法において、第1レーザ光及び第2レーザ光は、共通の光源から出射されていてもよい。このような構成によれば、レーザ加工に係る構成をシンプルにすることができ、装置構成の小型化を実現することができる。
【0009】
上記レーザ加工方法において、第1レーザ光の周波数は、第2レーザ光の周波数よりも高くてもよい。レーザアニールでは、レーザ光の照射後、照射領域が冷える前に次のレーザ光が照射されることにより、熱を蓄積して適切に再結晶を行い、照射面の平坦化を実現することができる。この点、第1レーザ光が高周波数化される(第2レーザ光の周波数よりも高くされる)ことにより、レーザアニールによる照射面の平坦化をより適切に実現することができる。
【0010】
上記レーザ加工方法において、第1レーザ光の加工進行方向における分岐数は、第2レーザ光の加工進行方向における分岐数よりも多くてもよい。第1レーザ光について加工進行方向における分岐数が多い(第2レーザ光の分岐数よりも多い)ことにより、レーザアニール処理に要する時間を短縮することができる。
【0011】
上記レーザ加工方法において、第1レーザ光の、加工進行方向に交差する方向であって照射面に平行な方向における分岐数は、第2レーザ光の、加工進行方向に交差する方向であって照射面に平行な方向における分岐数よりも多くてもよい。これにより、レーザアニール処理によって平坦化される幅を大きくすることができる。
【0012】
上記レーザ加工方法において、第1レーザ光の分岐した各ビームは、照射面において互いに照射範囲の一部が重なっていてもよい。これにより、1点あたりのエネルギーが低くても、平坦化を行うことができる。また、レーザ光ではビーム中心とビーム中心から離れた箇所とで凹凸が生じてしまうところ、照射範囲が重なるように分岐した各ビームが照射されることにより、上述した凹凸を抑制でき、より適切に照射面を平坦化することができる。
【0013】
上記レーザ加工方法において、第1レーザ光は、トップハット形状のレーザ光であってもよい。これにより、照射面においてレーザアニール領域を広くとることができる。また、照射面をより平坦化することができる。
【0014】
上記レーザ加工方法において、第1工程では、照射面を平坦化すると共に対象物の内部に改質層が形成されるように、照射面に第1レーザ光を照射してもよい。このように、平坦化のためのレーザアニールに係る第1レーザ光を改質層の形成にも利用することにより、例えば改質層の形成に係る第2レーザ光のパス数を削減して、改質層の形成に要する時間を短縮することができる。
【0015】
上記レーザ加工方法において、第1工程では、対象物の内部に改質層が形成されないように、照射面に第1レーザ光を照射してもよい。これにより、レーザアニールに係るレーザ光によって意図せず改質層が形成されて、所望の改質層形成ができなくなることを回避することができる。
【0016】
上記レーザ加工方法において、第1工程では、第1レーザ光の集光点を対象物の外部の位置としてもよい。これにより、レーザアニールに係るレーザ光によって対象物の内部に改質層が形成されることを適切に回避することができる。
【0017】
上記レーザ加工方法において、第1工程では、裏面を照射面として第1レーザ光を照射し、裏面の平坦化を行ってもよい。対象物の裏面は、例えば梨地とされていたり、荒れている場合がある。このような対象物の裏面に対して改質層形成のためのレーザ光が照射されると、裏面においてレーザ光の吸収もしくは散乱が生じ、対象物の内部に適切に改質層を形成することができない場合がある。この点、裏面を照射面としてレーザアニールに係るレーザ光が照射されることにより、荒れている裏面を適切に平坦化して、対象物の内部に適切に改質層を形成することができる。
【0018】
上記レーザ加工方法は、第2工程前において、対象物の裏面から第3レーザ光を照射することにより、表面に弱化領域を形成する第1グルービング工程を更に備え、第1工程では、第1グルービング工程前の裏面を照射面として第1レーザ光を照射し、裏面の平坦化を行ってもよい。第1グルービング工程において機能素子層を有する表面に弱化領域が形成された後に、第2工程において改質層の形成に係る第2レーザ光が裏面に照射されることにより、弱化領域を利用して、機能素子層が形成された表面側に達する亀裂を適切に形成することができる。ここで、第1グルービング工程の実施時において、第3レーザ光が入射する裏面にダメージがあると、表面側のグルービング(IRグルービング)を適切に実施することが難しく、グルービングに係る第3レーザ光のエネルギーに制限がかかってしまう。この点、第1グルービング工程前において、裏面を照射面としてレーザアニールに係る第1工程が実施されることにより、裏面を平坦化した状態で第1グルービング工程が実施されることとなるため、第1グルービング工程において第3レーザ光に投入可能なエネルギーが増え、対応可能な対象物(デバイス)の種類が増えることとなる。これにより、表面側のグルービング(IRグルービング)をより簡易且つ適切に実施することができる。
【0019】
上記レーザ加工方法は、対象物の表面に第4レーザ光を照射することにより、表面の表層を除去する第2グルービング工程を更に備え、第1工程では、第2グルービング工程によって表面に形成された溝の底面を照射面として第1レーザ光を照射し、溝の底面の平坦化を行ってもよい。第2グルービング工程において表面の表層が除去された後に、第2工程において改質層の形成に係る第2レーザ光が表面に照射されることにより、加工スループットを向上させると共に膜剥離等の加工品質の低減を抑制することができる。ここで、第2グルービング工程後においてはグルービングによって表面に形成された溝の底面が荒れている。このため、通常、グルービング後においては表面からステルスダイシング加工を行うことができず、裏面側に転写して裏面側から改質層の形成に係る第2レーザ光を照射している。この場合、転写コストがかかることが問題となる。この点、第2グルービング工程後において、表面に形成された溝の底面を照射面としてレーザアニールに係る第1工程が実施されることにより、表面に形成された溝の底面が平坦化されるため、グルービング面側である表面からステルスダイシング加工を行うことができ、上述した転写工程が不要となる。このことにより、加工の迅速化及びコストの低減を実現することができる。
【0020】
本発明の一態様に係るレーザ加工装置は、表面側に機能素子層を有する対象物を支持する支持部と、対象物にレーザ光を照射する照射部と、対象物の表面又は裏面に第1レーザ光が照射されてレーザアニールにより照射面が平坦化されるように照射部を制御する第1制御と、平坦化された照射面に第1レーザ光よりもパルスピッチが長い第2レーザ光が照射されて対象物の内部に改質層が形成されるように照射部を制御する第2制御と、を実施するように構成された制御部と、を備える。
【0021】
上記レーザ加工装置では、制御部は、第1制御において、裏面を照射面として第1レーザ光が照射され裏面が平坦化されるように照射部を制御してもよい。
【0022】
上記レーザ加工装置では、制御部は、第2制御実施前において、対象物の裏面から第3レーザ光が照射されることにより表面に弱化領域が形成されるように照射部を制御する第1グルービング制御を更に実施し、第1制御において、第1グルービング制御実施前の裏面を照射面として第1レーザ光が照射され裏面が平坦化されるように照射部を制御してもよい。
【0023】
上記レーザ加工装置では、制御部は、対象物の表面に第4レーザ光が照射されることにより表面の表層が除去されるように照射部を制御する第2グルービング制御を更に実施し、第1制御において、第2グルービング制御によって表面に形成された溝の底面を照射面として第1レーザ光が照射され溝の底面が平坦化されるように照射部を制御してもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明の一態様によれば、対象物の照射面を適切に平坦化して対象物の内部に適切に改質層を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】一実施形態のレーザ加工装置の斜視図である。
【
図2】
図1に示されるレーザ加工装置の一部分の正面図である。
【
図3】
図1に示されるレーザ加工装置のレーザ加工ヘッドの正面図である。
【
図4】
図3に示されるレーザ加工ヘッドの側面図である。
【
図5】
図3に示されるレーザ加工ヘッドの光学系の構成図である。
【
図6】ステルスダイシング加工時の課題を説明する図である。
【
図7】ステルスダイシング加工時の課題を説明する図である。
【
図8】平坦化処理及び平坦化処理後の改質層形成処理を説明する図である。
【
図9】レーザ光の条件に係る実験結果を示す図である。
【
図10】
図9に示されるレーザ光の条件毎のレーザアニール結果を示す図である。
【
図11】横分岐による平坦性向上を説明する図である。
【
図12】横分岐によるタクトアップ及び平坦化幅の拡大について説明する図である。
【
図13】加工進行方向に交差する方向における分岐の効果を説明する図である。
【
図14】集光位置毎のレーザアニール及び改質層形成の一例を示す図である。
【
図17】平坦化処理及び改質層形成処理を含むレーザ加工方法を示すフローチャートである。
【
図18】平坦化処理、並びに、平坦化処理後のIRグルービング及び改質層形成処理を説明する図である。
【
図19】平坦化処理、IRグルービング、及び改質層形成処理を含むレーザ加工方法を示すフローチャートである。
【
図20】平坦化処理、並びに、平坦化処理後のIRグルービング及び改質層形成処理の一例を模式的に示す図である。
【
図21】レーザグルービング、並びに、レーザグルービング後の平坦化処理及び改質層形成処理を説明する図である。
【
図22】レーザグルービング、平坦化処理、及び改質層形成処理を含むレーザ加工方法を示すフローチャートである。
【
図23】レーザグルービング、並びに、レーザグルービング後の平坦化処理及び改質層形成処理の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
[レーザ加工装置の構成]
【0027】
図1に示されるように、レーザ加工装置1は、実施形態に係るレーザ加工方法を実施する。レーザ加工装置1は、複数の移動機構5,6と、支持部7と、1対のレーザ加工ヘッド10A,10Bと、光源ユニット8と、制御部9と、を備えている。以下、第1方向をX方向、第1方向に垂直な第2方向をY方向、第1方向及び第2方向に垂直な第3方向をZ方向という。本実施形態では、X方向及びY方向は水平方向であり、Z方向は鉛直方向である。
【0028】
移動機構5は、固定部51と、移動部53と、取付部55と、を有している。固定部51は、装置フレーム1aに取り付けられている。移動部53は、固定部51に設けられたレールに取り付けられており、Y方向に沿って移動することができる。取付部55は、移動部53に設けられたレールに取り付けられており、X方向に沿って移動することができる。
【0029】
移動機構6は、固定部61と、1対の移動部63,64と、1対の取付部65,66と、を有している。固定部61は、装置フレーム1aに取り付けられている。1対の移動部63,64のそれぞれは、固定部61に設けられたレールに取り付けられており、それぞれが独立して、Y方向に沿って移動することができる。取付部65は、移動部63に設けられたレールに取り付けられており、Z方向に沿って移動することができる。取付部66は、移動部64に設けられたレールに取り付けられており、Z方向に沿って移動することができる。つまり、装置フレーム1aに対しては、1対の取付部65,66のそれぞれが、Y方向及びZ方向のそれぞれに沿って移動することができる。
【0030】
支持部7は、移動機構5の取付部55に設けられた回転軸に取り付けられており、Z方向に平行な軸線を中心線として回転することができる。つまり、支持部7は、X方向及びY方向のそれぞれに沿って移動することができ、Z方向に平行な軸線を中心線として回転することができる。支持部7は、対象物100を支持する。対象物100は、ウエハである。対象物100は、半導体基板と複数の機能素子(機能素子層)とを含んでいる。半導体基板は例えばシリコン基板である。各機能素子は、例えば半導体基板の表面に沿って二次元的に配置されている。各機能素子は、例えば、フォトダイオード等の受光素子、レーザダイオード等の発光素子、メモリ等の回路素子等である。各機能素子は、複数の層がスタックされて3次元的に構成される場合もある。
【0031】
図1及び
図2に示されるように、レーザ加工ヘッド10Aは、移動機構6の取付部65に取り付けられている。レーザ加工ヘッド10Aは、Z方向において支持部7と対向した状態で、支持部7に支持された対象物100にレーザ光L1(第1レーザ光)を照射する。レーザ加工ヘッド10Bは、移動機構6の取付部66に取り付けられている。レーザ加工ヘッド10Bは、Z方向において支持部7と対向した状態で、支持部7に支持された対象物100にレーザ光L2(第2レーザ光)を照射する。
【0032】
光源ユニット8は、1対の光源81,82を有している。光源81は、レーザ光L1を出力する。レーザ光L1は、光源81の出射部81aから出射され、光ファイバ2によってレーザ加工ヘッド10Aに導光される。光源82は、レーザ光L2を出力する。レーザ光L2は、光源82の出射部82aから出射され、別の光ファイバ2によってレーザ加工ヘッド10Bに導光される。
【0033】
制御部9は、レーザ加工装置1の各部(複数の移動機構5,6、1対のレーザ加工ヘッド10A,10B、及び光源ユニット8等)を制御する。制御部9は、プロセッサ、メモリ、ストレージ及び通信デバイス等を含むコンピュータ装置として構成されている。制御部9では、メモリ等に読み込まれたソフトウェア(プログラム)が、プロセッサによって実行され、メモリ及びストレージにおけるデータの読み出し及び書き込み、並びに、通信デバイスによる通信が、プロセッサによって制御される。これにより、制御部9は、各種機能を実現する。
[レーザ加工ヘッドの構成]
【0034】
図3及び
図4に示されるように、レーザ加工ヘッド10Aは、筐体11と、入射部12と、調整部13と、集光部14と、を備えている。
【0035】
筐体11は、第1壁部21及び第2壁部22、第3壁部23及び第4壁部24、並びに、第5壁部25及び第6壁部26を有している。第1壁部21及び第2壁部22は、X方向において互いに対向している。第3壁部23及び第4壁部24は、Y方向において互いに対向している。第5壁部25及び第6壁部26は、Z方向において互いに対向している。
【0036】
第3壁部23と第4壁部24との距離は、第1壁部21と第2壁部22との距離よりも小さい。第1壁部21と第2壁部22との距離は、第5壁部25と第6壁部26との距離よりも小さい。なお、第1壁部21と第2壁部22との距離は、第5壁部25と第6壁部26との距離と等しくてもよいし、或いは、第5壁部25と第6壁部26との距離よりも大きくてもよい。
【0037】
レーザ加工ヘッド10Aでは、第1壁部21は、移動機構6の固定部61側に位置しており、第2壁部22は、固定部61とは反対側に位置している。第3壁部23は、移動機構6の取付部65側に位置しており、第4壁部24は、取付部65とは反対側であってレーザ加工ヘッド10B側に位置している(
図2参照)。第5壁部25は、支持部7とは反対側に位置しており、第6壁部26は、支持部7側に位置している。
【0038】
筐体11は、第3壁部23が移動機構6の取付部65側に配置された状態で筐体11が取付部65に取り付けられるように、構成されている。具体的には、次のとおりである。取付部65は、ベースプレート65aと、取付プレート65bと、を有している。ベースプレート65aは、移動部63に設けられたレールに取り付けられている(
図2参照)。取付プレート65bは、ベースプレート65aにおけるレーザ加工ヘッド10B側の端部に立設されている(
図2参照)。筐体11は、第3壁部23が取付プレート65bに接触した状態で、台座27を介してボルト28が取付プレート65bに螺合されることで、取付部65に取り付けられている。台座27は、第1壁部21及び第2壁部22のそれぞれに設けられている。筐体11は、取付部65に対して着脱可能である。
【0039】
入射部12は、第5壁部25に取り付けられている。入射部12は、筐体11内にレーザ光L1を入射させる。入射部12は、X方向においては第2壁部22側(一方の壁部側)に片寄っており、Y方向においては第4壁部24側に片寄っている。つまり、X方向における入射部12と第2壁部22との距離は、X方向における入射部12と第1壁部21との距離よりも小さく、Y方向における入射部12と第4壁部24との距離は、X方向における入射部12と第3壁部23との距離よりも小さい。
【0040】
入射部12は、光ファイバ2の接続端部2aが接続可能となるように構成されている。光ファイバ2の接続端部2aには、ファイバの出射端から出射されたレーザ光L1をコリメートするコリメータレンズが設けられており、戻り光を抑制するアイソレータが設けられていない。当該アイソレータは、接続端部2aよりも光源81側であるファイバの途中に設けられている。これにより、接続端部2aの小型化、延いては、入射部12の小型化が図られている。なお、光ファイバ2の接続端部2aにアイソレータが設けられていてもよい。
【0041】
調整部13は、筐体11内に配置されている。調整部13は、入射部12から入射したレーザ光L1を調整する。調整部13が有する各構成は、筐体11内に設けられた光学ベース29に取り付けられている。光学ベース29は、筐体11内の領域を第3壁部23側の領域と第4壁部24側の領域とに仕切るように、筐体11に取り付けられている。光学ベース29は、筐体11と一体となっている。調整部13が有する各構成は、第4壁部24側において光学ベース29に取り付けられている調整部13が有する各構成の詳細については後述する。
【0042】
集光部14は、第6壁部26に配置されている。具体的には、集光部14は、第6壁部26に形成された孔26aに挿通された状態で、第6壁部26に配置されている。集光部14は、調整部13によって調整されたレーザ光L1を集光しつつ筐体11外に出射させる。集光部14は、X方向においては第2壁部22側(一方の壁部側)に片寄っており、Y方向においては第4壁部24側に片寄っている。つまり、X方向における集光部14と第2壁部22との距離は、X方向における集光部14と第1壁部21との距離よりも小さく、Y方向における集光部14と第4壁部24との距離は、X方向における集光部14と第3壁部23との距離よりも小さい。
【0043】
図5に示されるように、調整部13は、アッテネータ31と、ビームエキスパンダ32と、ミラー33と、を有している。入射部12、並びに、調整部13のアッテネータ31、ビームエキスパンダ32及びミラー33は、Z方向に沿って延在する直線(第1直線)A1上に配置されている。アッテネータ31及びビームエキスパンダ32は、直線A1上において、入射部12とミラー33との間に配置されている。アッテネータ31は、入射部12から入射したレーザ光L1の出力を調整する。ビームエキスパンダ32は、アッテネータ31で出力が調整されたレーザ光L1の径を拡大する。ミラー33は、ビームエキスパンダ32で径が拡大されたレーザ光L1を反射する。
【0044】
調整部13は、反射型空間光変調器34と、結像光学系35と、を更に有している。調整部13の反射型空間光変調器34及び結像光学系35、並びに、集光部14は、Z方向に沿って延在する直線(第2直線)A2上に配置されている。反射型空間光変調器34は、ミラー33で反射されたレーザ光L1を変調する。反射型空間光変調器34は、例えば、反射型液晶(LCOS:Liquid Crystal on Silicon)の空間光変調器(SLM:Spatial Light Modulator)である。結像光学系35は、反射型空間光変調器34の反射面34aと集光部14の入射瞳面14aとが結像関係にある両側テレセントリック光学系を構成している。結像光学系35は、3つ以上のレンズによって構成されている。
【0045】
直線A1及び直線A2は、Y方向に垂直な平面上に位置している。直線A1は、直線A2に対して第2壁部22側(一方の壁部側)に位置している。レーザ加工ヘッド10Aでは、レーザ光L1は、入射部12から筐体11内に入射して直線A1上を進行し、ミラー33及び反射型空間光変調器34で順次に反射された後、直線A2上を進行して集光部14から筐体11外に出射する。なお、アッテネータ31及びビームエキスパンダ32の配列の順序は、逆であってもよい。また、アッテネータ31は、ミラー33と反射型空間光変調器34との間に配置されていてもよい。また、調整部13は、他の光学部品(例えば、ビームエキスパンダ32の前に配置されるステアリングミラー等)を有していてもよい。
【0046】
レーザ加工ヘッド10Aは、ダイクロイックミラー15と、測定部16と、観察部17と、駆動部18と、回路部19と、を更に備えている。
【0047】
ダイクロイックミラー15は、直線A2上において、結像光学系35と集光部14との間に配置されている。つまり、ダイクロイックミラー15は、筐体11内において、調整部13と集光部14との間に配置されている。ダイクロイックミラー15は、第4壁部24側において光学ベース29に取り付けられている。ダイクロイックミラー15は、レーザ光L1を透過させる。ダイクロイックミラー15は、非点収差を抑制する観点では、例えば、キューブ型、又は、ねじれの関係を有するように配置された2枚のプレート型が好ましい。
【0048】
測定部16は、筐体11内において、調整部13に対して第1壁部21側(一方の壁部側とは反対側)に配置されている。測定部16は、第4壁部24側において光学ベース29に取り付けられている。測定部16は、対象物100の表面(例えば、レーザ光L1が入射する側の表面)と集光部14との距離を測定するための測定光L10を出力し、集光部14を介して、対象物100の表面で反射された測定光L10を検出する。つまり、測定部16から出力された測定光L10は、集光部14を介して対象物100の表面に照射され、対象物100の表面で反射された測定光L10は、集光部14を介して測定部16で検出される。
【0049】
より具体的には、測定部16から出力された測定光L10は、第4壁部24側において光学ベース29に取り付けられたビームスプリッタ20及びダイクロイックミラー15で順次に反射され、集光部14から筐体11外に出射する。対象物100の表面で反射された測定光L10は、集光部14から筐体11内に入射してダイクロイックミラー15及びビームスプリッタ20で順次に反射され、測定部16に入射し、測定部16で検出される。
【0050】
観察部17は、筐体11内において、調整部13に対して第1壁部21側(一方の壁部側とは反対側)に配置されている。観察部17は、第4壁部24側において光学ベース29に取り付けられている。観察部17は、対象物100の表面(例えば、レーザ光L1が入射する側の表面)を観察するための観察光L20を出力し、集光部14を介して、対象物100の表面で反射された観察光L20を検出する。つまり、観察部17から出力された観察光L20は、集光部14を介して対象物100の表面に照射され、対象物100の表面で反射された観察光L20は、集光部14を介して観察部17で検出される。
【0051】
より具体的には、観察部17から出力された観察光L20は、ビームスプリッタ20を透過してダイクロイックミラー15で反射され、集光部14から筐体11外に出射する。対象物100の表面で反射された観察光L20は、集光部14から筐体11内に入射してダイクロイックミラー15で反射され、ビームスプリッタ20を透過して観察部17に入射し、観察部17で検出される。なお、レーザ光L1、測定光L10及び観察光L20のそれぞれの波長は、互いに異なっている(少なくともそれぞれの中心波長が互いにずれている)。
【0052】
駆動部18は、第4壁部24側において光学ベース29に取り付けられている。筐体11の第6壁部26に取り付けられている。駆動部18は、例えば圧電素子の駆動力によって、第6壁部26に配置された集光部14をZ方向に沿って移動させる。
【0053】
回路部19は、筐体11内において、光学ベース29に対して第3壁部23側に配置されている。つまり、回路部19は、筐体11内において、調整部13、測定部16及び観察部17に対して第3壁部23側に配置されている。回路部19は、例えば、複数の回路基板である。回路部19は、測定部16から出力された信号、及び反射型空間光変調器34に入力する信号を処理する。回路部19は、測定部16から出力された信号に基づいて駆動部18を制御する。一例として、回路部19は、測定部16から出力された信号に基づいて、対象物100の表面と集光部14との距離が一定に維持されるように(すなわち、対象物100の表面とレーザ光L1の集光点との距離が一定に維持されるように)、駆動部18を制御する。なお、筐体11には、回路部19を制御部9(
図1参照)等に電気的に接続するための配線が接続されるコネクタ(図示省略)が設けられている。
【0054】
レーザ加工ヘッド10Bは、レーザ加工ヘッド10Aと同様に、筐体11と、入射部12と、調整部13と、集光部14と、ダイクロイックミラー15と、測定部16と、観察部17と、駆動部18と、回路部19と、を備えている。ただし、レーザ加工ヘッド10Bの各構成は、
図2に示されるように、1対の取付部65,66間の中点を通り且つY方向に垂直な仮想平面に関して、レーザ加工ヘッド10Aの各構成と面対称の関係を有するように、配置されている。
【0055】
例えば、レーザ加工ヘッド10Aの筐体(第1筐体)11は、第4壁部24が第3壁部23に対してレーザ加工ヘッド10B側に位置し且つ第6壁部26が第5壁部25に対して支持部7側に位置するように、取付部65に取り付けられている。これに対し、レーザ加工ヘッド10Bの筐体(第2筐体)11は、第4壁部24が第3壁部23に対してレーザ加工ヘッド10A側に位置し且つ第6壁部26が第5壁部25に対して支持部7側に位置するように、取付部66に取り付けられている。
【0056】
レーザ加工ヘッド10Bの筐体11は、第3壁部23が取付部66側に配置された状態で筐体11が取付部66に取り付けられるように、構成されている。具体的には、次のとおりである。取付部66は、ベースプレート66aと、取付プレート66bと、を有している。ベースプレート66aは、移動部63に設けられたレールに取り付けられている。取付プレート66bは、ベースプレート66aにおけるレーザ加工ヘッド10A側の端部に立設されている。レーザ加工ヘッド10Bの筐体11は、第3壁部23が取付プレート66bに接触した状態で、取付部66に取り付けられている。レーザ加工ヘッド10Bの筐体11は、取付部66に対して着脱可能である。
[レーザ加工装置による加工の一例(ステルスダイシング)]
【0057】
次に、レーザ加工装置1による対象物100の加工の一例について説明する。ここでは、レーザ加工装置1が対象物100についてステルスダイシング加工を行う例を説明する。
【0058】
最初に、ステルスダイシング加工時における課題について説明する。
図6及び
図7は、ステルスダイシング加工時における課題を説明する図である。
図6(a)は、ミラー面を有する対象物1000に対してレーザ光Lを照射して対象物1000の内部に改質層を形成する態様を模式的に示している。
図6(b)は、レーザ光Lの入射面(照射面)である裏面1000bを示している。
図6(c)は、対象物1000の断面を示している。対象物1000は、ウエハであり、レーザ光Lの入射面となる裏面1000bと、機能素子が形成された表面1000aとを有している。
図6(a)に示される例では、対象物1000におけるレーザ光Lの入射面である裏面1000bがミラー面とされている(
図6(b)参照)。このような対象物1000に対してレーザ光Lが照射されると、
図6(c)に示されるように、対象物1000の内部に適切に改質層1050(SD層)が形成される。
【0059】
図7(a)は、裏面100bが荒れている対象物100に対してレーザ光Lを照射して対象物100の内部に改質層を形成する態様を模式的に示している。
図7(b)は、レーザ光Lの入射面(照射面)である裏面100bを示している。
図7(c)は、対象物100の断面を示している。対象物100は、ウエハであり、レーザ光Lの入射面となる裏面100bと、機能素子が形成された表面100aとを有している。
図7(a)に示される例では、対象物100におけるレーザ光Lの入射面である裏面100bが凹凸のある荒れた面(粗面)とされている(
図7(b)参照)。荒れた裏面100bとは、例えば算術平均粗さRa>0.02μmの裏面100bをいう。このような荒れた裏面100bを有する対象物100としては、例えば裏面100bが梨地であるウエハ(例えば8インチ等所定のサイズ以下のウエハ)、又は、十分に研削されていないウエハ等が挙げられる。このような対象物100に対してレーザ光Lが照射されると、
図7(a)に示されるように、入射面(照射面)においてレーザ光Lの意図しない散乱等が生じ、対象物100の内部に適切に改質層を形成することができないおそれがある。例えば、
図7(c)に示されるように、対象物100の内部において改質層150の領域を十分に形成することができないおそれがある。このような事態を回避するために、例えばウエハを十分に研削することが考えられるが、研削に要するコストが大きくなることが問題となる。
【0060】
このような課題に対して、本実施形態に係るレーザ加工装置1が実施するレーザ加工方法では、裏面100bに対してレーザ光Lを照射して対象物100の内部に改質層を形成する改質層形成処理の前において、レーザ光Lの入射面である裏面100bについてレーザアニールによる平坦化処理を行う。レーザアニールとは、レーザ光を照射することにより、照射面について溶融及び再結晶化等の材料改質を行う技術である。本実施形態に係るレーザ加工方法では、レーザアニールによって照射面について再結晶化し平坦化する。これにより、平坦化された裏面100bに改質層形成のためのレーザ光Lが照射されることとなるため、上述した課題が解決され、対象物100の内部に適切に改質層が形成される。すなわち、平坦化処理後に改質層形成処理が実施されることにより、対象物100の内部に適切に改質層を形成することができる。
【0061】
図8は、平坦化処理及び平坦化処理後の改質層形成処理を説明する図である。改質層を形成するステルスダイシング加工は、ウエハである対象物100を複数のチップに切断するために実施される。ここでは、光源81がレーザアニールに係るレーザ光L1を出力してレーザ加工ヘッド10Aが対象物100にレーザ光L1を照射するとする。また、光源82が改質層の形成に係るレーザ光L2を出力してレーザ加工ヘッド10Bが対象物100にレーザ光L2を照射するとする。光源81は、例えば超短パルスレーザを出射する光源である。光源82は、例えばナノ秒パルスレーザを出射する光源である。光源81から出射されるレーザアニールに係るレーザ光L1のパルスピッチは、少なくとも、光源82から出射される改質層の形成に係るレーザ光L2のパルスピッチよりも短い(詳細は後述)。このように、平坦化処理用のレーザ光L1の光源81及びレーザ加工ヘッド10Aと、改質層形成処理用のレーザ光L2の光源82及びレーザ加工ヘッド10Bとが、それぞれ別に搭載されることにより、平坦化処理の後に改質層形成処理のレーザが後追い加工を行うことが可能となる。さらに、平坦化処理用のレーザダイサと改質層形成処理用のレーザダイサとが、2台分けて別々の装置で設けられていてもよい。この場合、2台の装置で並列して処理を行うことができるため、タクトアップ図ることができる。なお、本態様において、レーザ光L1及びレーザ光L2は、共通の光源82から出射されていてもよい。すなわち、レーザ光L1及びレーザ光L2は、互いに同種類のレーザ(例えばナノ秒パルスレーザを出射する光源82から出射される透過性のレーザ)であってもよい。また、本態様において、レーザ光L1及びレーザ光L2は、共通のレーザ加工ヘッドから照射されてもよい。
【0062】
まず、
図8(a)に示されるように、対象物100が準備され、支持部7(
図1参照)によって対象物100が支持される。
図8(a)に示されるように、対象物100は、レーザ光Lの入射面となる裏面100bと、機能素子が形成された表面100aとを有している。つづいて、
図8(b)に示されるように、制御部9によって制御された移動機構6が、裏面100bにおける一方向に延在する一のラインに沿ってレーザ光L1の集光点が位置するようにレーザ加工ヘッド10Aを移動させ、制御部9によって制御された光源81がレーザアニールに係るレーザ光L1を出力する。すなわち、制御部9は、対象物100の裏面100bにレーザ光L1が照射されてレーザアニールにより照射面である裏面100bが平坦化されるように、光源81及び移動機構6を制御する第1制御を実施する。当該第1制御は、裏面100bにレーザ光L1を照射しレーザアニールにより裏面100bの平坦化を行う第1工程(平坦化処理)に係る制御である。第1工程では、裏面100bを照射面としてレーザ光L1を照射し裏面100bの平坦化を行う。これにより、上述した一のラインは、レーザアニールが実施されたレーザアニールライン100xとなる。レーザアニールライン100xには、後述する改質層の形成に係るレーザ光L2が照射されるダイシングラインが少なくとも含まれている。なお、平坦化処理は、デバイス面側である表面100aの荒れた領域(例えばエッチングで荒れたダイシングストリート)に対して実施されてもよい。
【0063】
つづいて、
図8(c)に示されるように、制御部9によって制御された移動機構6が、上述したレーザアニールライン100xに沿ってレーザ光L2の集光点が位置するようにレーザ加工ヘッド10Bを移動させ、制御部9によって制御された光源82が改質層の形成に係るレーザ光L2を出力する。すなわち、制御部9は、平坦化された裏面100b(照射面)にレーザ光L2が照射されて対象物100の内部に改質層が形成されるように、光源82及び移動機構6を制御する第2制御を実施する。当該第2制御は、第1工程において平坦化された裏面100bにレーザ光L2を照射し対象物100の内部に改質層を形成する第2工程(改質層形成処理)に係る制御である。このようにして改質層が形成された後、分割工程にてエキスパンド処理(
図8(d))が実施され、対象物100が複数のチップに切断される。なお、改質層が形成された後においては、研削処理(
図8(e)参照)が実施された後にエキスパンド処理(
図8(f))が実施されてもよい。
【0064】
ここで、平坦化処理に係るレーザ光L1及び改質層形成処理に係るレーザ光L2の条件について、
図9に示される実験結果を参照しながら説明する。上述したように、レーザ光L1及びレーザ光L2は、共通の光源から出射される同種類のレーザであってもよい。
図9は、共通の光源(例えば光源82)から出射される同種類のレーザ光L1及びレーザ光L2について、レーザ光L1の条件を変えながら、レーザアニールによる平坦化処理が適切に実施されているか否かを判定した結果である。
【0065】
上記実験は、ウエハ厚さが300μmのシリコンウエハ(結晶方位<100>)であって研削番手が2000番の対象物100に対して実施された。レーザ光L1及びレーザ光L2の波長は1099nm、パルス幅は700nsec、エネルギーは90μJで共通とされた。また、
図9に示されるように、レーザ光L2の加工進行方向の分岐数は1、周波数は120kHz、加工速度は800mm/sec、パルスピッチは6.7μmとされた。このようなレーザ光L2の加工条件は、対象物100に対して所望の改質層を形成するための条件である。そして、
図9に示されるように、レーザ光L1の加工進行方向の分岐数、周波数、加工速度、及びパルスピッチの各条件を変更しながら、レーザ光L1によって平坦化処理が適切に行われているか否かを判定した。本実験では、レーザアニール後の対象物100の裏面100bについて鏡面(ミラー)化判定が行われ、鏡面化されている場合には平坦化処理が適切に行われており、鏡面化されていない場合には平坦化処理が適切に行われていないと判定した。
【0066】
図9に示されるように、レーザ光L1について、加工進行方向の分岐数1、周波数80kHzとして、加工速度を変えながらパルスピッチを10μm、5μm、2.5μm、1μm、0.2μmとすると、パルスピッチが10μm、5μm、及び2.5μmのレーザ光L1では鏡面化判定で不合格となった。一方で、パルスピッチが1μm及び0.2μmのレーザ光L1では鏡面化判定で合格となった。
図10は、上述した各レーザ光L1のレーザアニール結果を示す図である。
図10に示されるように、パルスピッチが10μm、5μm、及び2.5μmのレーザ光L1では、レーザアニールライン100xに波紋形状が発生しており、鏡面化できておらず適切に平坦化処理が行われていない。一方で、
図10に示されるように、パルスピッチが1μm及び0.2μmのレーザ光L1では、レーザアニールライン100xに波紋形状が発生しておらず、鏡面化できており適切に平坦化処理が行われている。このように、エネルギー等が共通である条件下においては、パルスピッチが短いほど、平坦化処理が適切に実施される。これは、パルスピッチが短いほど、レーザアニールによって溶融し再結晶化して平坦化される領域が連続的に形成されるためである。レーザ光L1のパルスピッチは、少なくともレーザ光L2のパルスピッチよりも短く設定される。
【0067】
さらに、
図9に示されるように、レーザ光L1の周波数を150kHzとし、レーザ光L2の周波数120kHzよりも高くすることにより、レーザ光L1の鏡面化判定が合格となった。レーザアニールでは、レーザ光の照射後、照射領域が冷える前に次のパルスが打たれることにより、熱が蓄積され適切に再結晶化が行われて、照射面の平坦化を実現することができる。この点、レーザ光L1の周波数を高く(例えばレーザ光L2の周波数よりも高く)することにより、平坦化処理を適切に実施することができる。
【0068】
また、
図9に示されるように、レーザ光L1の加工進行方向の分岐数を多くする(ここでは2分岐又は4分岐とする)ことにより、短いパルスピッチ(ここでは1μm)を実現しながら、加工速度を向上させることができる。レーザ光L1の加工進行方向における分岐数は、例えばレーザ光L2の加工進行方向における分岐数よりも多くなるように設定される。
【0069】
レーザ光L1の分岐について
図11~
図13を参照して説明する。ここでのレーザ光L1の分岐とは、Z方向の分岐(縦分岐)ではなく、X方向及びY方向の分岐(横分岐)を指している。レーザ光L1の横分岐には、加工進行方向における分岐と、加工進行方向に交差する方向(且つレーザ光L1の照射面に平行な方向)における分岐とがある。以下では、当該横分岐の2つの例について、単に、加工進行方向における分岐、及び、加工進行方向に交差する方向における分岐という場合がある。
【0070】
図11は、横分岐による平坦性向上を説明する図である。レーザ光L1を横分岐した各ビームは、レーザアニールによる平坦化効果を向上させるべく、照射面である裏面100bにおいて、互いに照射範囲の一部が重なっていてもよい。
図11には、レーザ光L1の条件を変えながらレーザアニールライン100xの平坦性を検証した結果が示されている。
図11においては、上段において横分岐無しの36μJのレーザ光L1を互いにオーバーラップしないように裏面100bに2回照射した場合の平坦化可否及び平坦性が示されており、中段において横分岐無しの72μJのレーザ光L1を裏面100bに1回照射した場合の平坦化可否及び平坦性が示されており、下段において横分岐有り(36μJ×2分岐。分岐間隔8μm)のレーザ光L1を各ビームが互いにオーバーラップするように裏面100bに1回照射した場合の平坦化可否及び平坦性が示されている。ここでの平坦化可否とは、レーザアニールライン100xの形成の有無を示すものであり、
図11における「〇」はレーザアニールライン100xが形成されていることを示しており、「×」はレーザアニールライン100xが形成されていないことを示している。また、ここでの平坦性とは平坦化領域(レーザアニールライン100x)における平坦さ(凹凸の少なさ)を示すものであり、
図11における「〇」はレーザアニールライン100xが十分に平坦であることを示しており、「△」はレーザアニールライン100xにおいて平坦ではない領域が含まれていることを示しており、「×」は平坦化領域が存在しない程度に平坦でないことを示している。なお、
図11における平坦性を示す領域には、照射面の凹凸が波形で示されている。上述したように、レーザ光L1のエネルギーの合計は、各例において同じとされている。
【0071】
図11の上段に示されるように、横分岐無しの36μJのレーザ光L1が互いにオーバーラップしないように裏面100bに2回照射された場合には、1点当たりのエネルギーが低いことから、レーザアニールライン100xが適切に形成されず(平坦化ができておらず)、平坦化可否「×」、平坦性「×」となっている。
図11の中段に示されるように、横分岐無しの72μJのレーザ光L1が裏面100bに1回照射された場合には、上述したケースよりも1点当たりのエネルギーが高いことから、レーザアニールライン100xが形成されている(平坦化可否「〇」)。しかしながら、レーザ光L1については、ビーム中心の平坦性が凸に、ビーム中心から離れた箇所が凹になる特徴があるため、
図11の中段に示されるように、横分岐無しの72μJのレーザ光L1では平坦性が十分とはいえない(平坦性「△」)。この点、
図11の下段に示されるように、横分岐有り(36μJ×2分岐。分岐間隔8μm)のレーザ光L1の各ビームが互いにオーバーラップするように裏面100bに照射された場合には、1点当たりのエネルギーが低くても2分岐されたビームによってレーザアニールライン100xが適切に形成されている(平坦化可否「〇」)。また、各ビームが互いにオーバーラップするように(照射範囲が重なるように)照射されているため、ビーム中心とビーム中心から離れた箇所とで平坦性に凹凸があっても、互いにオーバーラップしたビームによって当該凹凸が抑制されるため、平坦性も「〇」となっている。このように、レーザ光L1の分岐した各ビームが裏面100bにおいて互いに照射範囲の一部が重なることにより、平坦化処理における平坦性を向上させることができる。
【0072】
図12は、横分岐によるタクトアップ及び平坦化幅の拡大について説明する図である。
図12(a)は、加工進行方向における4分岐の例を示している。
図12(a)に示される例では、上述した平坦性向上のための2分岐(8μm間隔の2分岐)が実施された状態で、さらに1μm間隔の2分岐が実施されている。すなわち、
図12(a)に示されるように、レーザ光L1について集光点L111,L113の間隔が8μmとなるように2分岐されており、さらに、集光点L111,L112の間隔、及び、集光点L113,L114の間隔が1μmとなるように、それぞれ2分岐されている。このように合計4分岐されるレーザ光L1を照射すると、上述したように8μm間隔のビームがオーバーラップすることによって平坦化処理における平坦性を向上させつつ、さらに、1μm間隔のビームが照射されることによってパルスピッチを長くでき、加工速度を早くすることができる。すなわち、例えば、加工進行方向における分岐数が1である場合にビームの間隔を1μmとするためにはパルスピッチを1μmとする必要があるところ、
図12(a)に示されるように加工進行方向において1μmの分岐されたビームが照射される場合には、ビームの間隔を1μmとするためにはパルスピッチを2μmとすればよいことになる。このように、パルスピッチが長くなることによって、加工速度を早くすることが可能になる。すなわち、加工進行方向における分岐によって、タクトアップを実現することができる。
【0073】
図12(b)は、加工進行方向に交差する方向における分岐の例を示している。より詳細には、
図12(b)は、加工進行方向において2分岐されると共に、加工進行方向に交差する方向において2分岐されて、合計4分岐された例を示している。
図12(b)には、レーザ光L1について4分岐された各ビームの集光点L115,L116,L117,L118が示されている。
図12(b)に示された例では、加工進行方向において互いに対向する集光点L115及び集光点L116の間隔、並びに、加工進行方向において互いに対向する集光点L117及び集光点L118の間隔が8μmとなり、加工進行方向に交差する方向において互いに対向する集光点L115及び集光点L117の間隔、並びに、加工進行方向に交差する方向において互いに対向する集光点L116及び集光点L118の間隔が15μmとなるように、レーザ光L1が分岐されている。このように、加工進行方向に交差する方向においてレーザ光L1が分岐されることにより、レーザ光L1によるレーザアニールによって平坦化されるレーザアニールライン100xの幅(加工進行方向に交差する方向の長さ)を大きくすることができる。このため、レーザアニールに係るレーザ光L1の加工進行方向に交差する方向における分岐数は、改質層形成に係るレーザ光L2の加工進行方向に交差する方向における分岐数よりも多くされてもよい。そして、同様にレーザアニール領域(アニール幅)を広くとるという観点から、レーザ光L1は、ガウシアン形状よりもトップハット形状とされてもよい。また、集光点位置を調整することによりアニール幅を調整してもよい。すなわち、アニール幅を広く取りたい場合には集光点位置を深く、アニール幅を狭くしたい場合には集光点位置を浅くしてもよい。
【0074】
図13は、加工進行方向に交差する方向におけるレーザ光L1の分岐の効果を説明する図である。
図13(a)は、所定の幅を有するレーザアニールライン100xを形成するために加工進行方向に交差する方向においてレーザ光L1を分岐した後(平坦化処理を実施した後)に、レーザ光L2によって改質層形成処理を行う例を示している。
図13(b)は、所定の幅を有するレーザアニールライン100xを形成するために加工進行方向に交差する方向において2度レーザ光L1を照射した後(平坦化処理を実施した後)に、レーザ光L2によって改質層形成処理を行う例を示している。どちらの加工によってもレーザ光L1によって所定の幅を有するレーザアニールライン100xを形成することができるが、
図13(b)に示される例では2度レーザ光L1を照射する(2パス必要になる)のに対して、
図13(a)に示される例では、加工進行方向に交差する方向においてレーザ光L1を分岐することによって1度のレーザ光L1照射により所定の幅を有するレーザアニールライン100xを形成することができている。このように、レーザアニールライン100xの幅がある程度大きい場合には、加工進行方向に交差する方向においてレーザ光L1を分岐することによって、レーザ光L1を照射するパス数を低減することができ、平坦化処理に要する時間を短縮することができる。
【0075】
ここで、例えばレーザ光L1が透過性のレーザである場合には、平坦化処理に係るレーザ光L1によっても、対象物100の内部に改質層が形成される場合がある。
図14は、集光位置毎のレーザアニール及び改質層形成の一例を示す図である。
図14(a)は、対象物100の内部にレーザ光L1の集光点が位置するようにレーザアニールが実施される場合を示している。この場合、
図14(b)に示されるようにレーザ光L1によって裏面100bにレーザアニールライン100xが形成されることに加えて、
図14(c)に示されるように、対象物100の内部に改質層150が形成され得る。レーザアニールに係るレーザ光L1は、改質層の形成に係るレーザ光L2と比べてパルスピッチが短いため、改質層150を形成した場合であっても改質層150から亀裂を伸ばすことが難しい。そのため、通常は、レーザ光L1によって形成された改質層自体が分割の起点になることはないが、その後、レーザ光L2によってパルスピッチが長い改質層が形成された場合には、レーザ光L2によって形成された改質層から発生した亀裂が、上述したレーザ光L1によって形成された改質層の亀裂に繋がり、当該レーザ光L1によって形成された改質層の亀裂が分割の補助となる。この場合には、改質層の形成に係るレーザ光L2のパス数を削減することができる。このような効果を期待する場合には、第1工程(レーザアニールにより照射面の平坦化を行う工程)において、照射面を平坦化すると共に、対象物100の内部に改質層が形成されるように、照射面にレーザ光L1を照射する。
【0076】
一方で、レーザアニールに係るレーザ光L1を平坦化処理にのみ用いたい場合には、第1工程において、対象物100の内部に改質層が形成されないように、照射面にレーザ光L1を照射してもよい。具体的には、第1工程では、
図14(d)に示されるように、レーザ光L1の集光点を対象物100の外部の位置(例えば対象物100の上方の位置)としてもよい。この場合、
図14(e)に示されるようにレーザ光L1によって裏面100bにレーザアニールライン100xを形成しつつ、
図14(f)に示されるようにレーザ光L1によっては対象物100の内部に改質層が形成されないようにすることができる。この場合のレーザアニールライン100xの形成については、対象物100の内部に集光する場合と照射面積を同程度にすることによって、対象物100の内部に集光する場合と同様の平坦化処理が可能である。なお、レーザ光L1の集光点を対象物100の外部の位置としても、その他の条件によっては照射面近傍に改質層が形成される場合がある。
【0077】
次に、加工条件の一例について説明する。いま、ウエハ厚さが300μmのシリコンウエハ(結晶方位<100>)に対して平坦化処理及び改質層形成処理を行う場合を例に説明する。レーザ光L1及びレーザ光L2が共通の光源から出射される同種類のレーザである場合においては、例えば、レーザアニールに係るレーザ光L1の波長を1099nm、パルス幅を700nsec、周波数を150kHz、加工速度を150mm/sec、パルスピッチを1μm、加工進行方向に横分岐有り(分岐距離8μm)、集光点を対象物100の外部(上方)に設定、合計出力を14Wに設定することが考えられる。また、例えば、改質層形成に係るレーザ光L2の波長を1099nm、パルス幅を700nsec、周波数を120kHz、加工速度を800mm/sec、パルスピッチを6.67μm、互いに深さの異なる改質層の形成に係る出力を2.78W及び1.85Wに設定することが考えられる。レーザ光L1及びレーザ光L2がそれぞれ別の光源から出射される場合においては、例えば、レーザアニールに係るレーザ光L1の波長を1064nm、パルス幅を9psec、周波数を1MHz、加工速度を1000mm/sec、パルスピッチを1μm、合計出力を30W、バーストパルスのバースト数を2に設定することが考えられる。ここでのバーストとは、各パルスを分割するものであり、上述したレーザ光の分岐と同様の効果が得られる。また、例えば、改質層形成に係るレーザ光L2の波長を1099nm、パルス幅を700nsec、周波数を120kHz、加工速度を800mm/sec、パルスピッチを6.67μm、互いに深さの異なる改質層の形成に係る出力を2.78W及び1.85Wに設定することが考えられる。
【0078】
次に、
図15及び
図16を参照して、上述した平坦化処理に係る第1工程及び改質層形成処理に係る第2工程を実施するためのGUI111の設定画面について説明する。
図15及び
図16において、(a)~(d)は実施される工程を模式的に示しており、(e)はGUI111の設定画面を示している。いま、
図15(a)~
図15(d)に示されるように、対象物100が準備され(
図15(a)参照)、レーザアニールライン100xが全ダイシングライン上に形成されるように平坦化処理が実施され(
図15(b)及び
図15(c)参照)、全てのレーザアニールライン100xが形成された後に、各レーザアニールライン100xに沿ってそれぞれステルスダイシング加工が実施されて改質層112が形成される(
図15(d)参照)とする。この場合のGUI111の設定画面では、
図15(e)に示されるように、平坦化処理に係るレシピ1と、改質層形成処理に係るレシピ2とが設定される。レシピ1では、1パス分のZハイトと、出力と、加工速度と、レーザ条件と、横分岐の有無とが設定される。Zハイトとはレーザ加工を行う際の加工深さを示す用語である。例えば、レーザアニールに係るレーザ光L1によっては改質層を形成したくない場合には、レーザ光L1の集光点が対象物100の上方の位置に設定される。この場合、Zハイトは例えばマイナスの値となる。いま、レシピ1では、Zハイトが「-30」、出力が「14μJ」、加工速度が「150mm/sec」、レーザ条件が「A」、横分岐が「有-8μm」とされている。レーザ条件の「A」とは、予め選択可能に設定されたレーザ光L1の条件であり、例えば、パルス幅700nsec、周波数150kHz等の条件である。横分岐の「有-8μm」とは、横分岐が有りで分岐間隔が8μmであることを示している。また、改質層形成処理に係るレシピ2では、互いに深さが異なる2つの改質層112に係る2パス分のZハイトと、出力と、速度と、レーザ条件と、横分岐の有無とが設定される。いま、レシピ2では、1パス目のZハイトが「64」、出力が「2.78μJ」、加工速度が「800mm/sec」、レーザ条件が「B」、横分岐が「無し」とされている。また、2パス目のZハイトが「24」、出力が「1.85μJ」、加工速度が「800mm/sec」、レーザ条件が「B」、横分岐が「無し」とされている。レーザ条件の「B」とは、予め選択可能に設定されたレーザ光L2の条件であり、例えば、パルス幅700nsec、周波数120kHz等の条件である。なお、パルスピッチは加工速度/周波数で計算可能であるが、
図15(e)に示される例ではGUI111の設定画面に表示されていない。GUI111の設定画面では、2つのレシピの加工順番(レシピ1が先、レシピ2が後)が表示されている。
【0079】
いま、
図16(a)~
図16(d)に示されるように、対象物100が準備され(
図16(a)参照)、1つのレーザアニールライン100xが1つのダイシングライン上に形成されるように平坦化処理が実施され(
図16(b)参照)、形成された1つのレーザアニールライン100xに沿ってステルスダイシング加工が実施されて改質層112が形成され(
図16(c)参照)、
図16(b)及び
図16(c)に示される処理が全ダイシングラインついて実施されて全ダイシングラインについて改質層112が形成される(
図16(d)参照)とする。すなわち、ダイシングライン毎に平坦化処理のスキャン及び改質層形成処理のスキャンが繰り返し実施されるとする。この場合のGUI111の設定画面では、
図16(e)に示されるように、1パス目が平坦化処理、2パス目及び3パス目が改質層形成処理として、各パスについて、Zハイトと、出力と、加工速度と、レーザ条件と、横分岐の有無とが設定される。いま、
図16(e)に示されるレシピでは、1パス目のZハイトが「-30」、出力が「14μJ」、加工速度が「150mm/sec」、レーザ条件が「A」、横分岐が「有-8μm」とされている。また、2パス目のZハイトが「64」、出力が「2.78μJ」、加工速度が「800mm/sec」、レーザ条件が「B」、横分岐が「無し」とされている。また、3パス目のZハイトが「24」、出力が「1.85μJ」、加工速度が「800mm/sec」、レーザ条件が「B」、横分岐が「無し」とされている。
【0080】
次に、
図17を参照して、本実施形態に係るレーザ加工装置1が実施する、平坦化処理及び改質層形成処理を含むレーザ加工方法について説明する。
図17は、平坦化処理及び改質層形成処理を含むレーザ加工方法を示すフローチャートである。
【0081】
図17に示されるように、本レーザ加工方法では、まず、レーザ加工装置1にウエハである対象物100が投入され、支持部7によって対象物100が支持される(ステップS1)。そして、レーザ光の照射位置のアライメントが実施される(ステップS2)。つづいて、設定されたレシピに基づいてZハイトがセットされる(ステップS3)。
【0082】
つづいて、平坦化処理が実施される(ステップS4)。具体的には、制御部9によって、対象物100の裏面100bにレーザ光L1が照射されてレーザアニールにより照射面である裏面100bが平坦化されるように、光源81及び移動機構6が制御される。
【0083】
つづいて、対象物100を分割するための改質層を形成する改質層形成処理が実施される(ステップS5)。具体的には、制御部9によって、平坦化された裏面100b(照射面)にレーザ光L2が照射された対象物100の内部に改質層が形成されるように、光源82及び移動機構6が制御される。最後に、ウエハである対象物100がレーザ加工装置1から取り出される(ステップS6)。
[レーザ加工装置による加工の他の例(IRグルービング+ステルスダイシング)]
【0084】
次に、レーザ加工装置1による対象物100の加工の他の例について説明する。ここでは、レーザ加工装置1が対象物100についてIRグルービング後にステルスダイシング加工を行う例を説明する。
【0085】
ここでのIRグルービングとは、対象物100の表面100aに形成された機能素子に裏面100b側からレーザ光を照射し、該機能素子に弱化領域を形成する処理である。弱化領域とは、機能素子を弱化させた領域である。弱化させることは、脆くさせることを含む。弱化領域は、レーザ照射による痕跡が生じた領域とも言え、非処理領域と比較して切断又は破壊がしやすい状態になっている領域である。なお、弱化領域は、機能素子の少なくとも一部の領域において、ライン状に連続的に形成されていてもよいし、レーザ照射のパルスピッチに応じて断続的に形成されていてもよい。
【0086】
ここで、IRグルービングにおいてレーザ光が照射される裏面100bにダメージがある場合には、裏面100bから入射するレーザ光によって表面100a(デバイス面)の機能素子に対して適切にIRグルービングを行えないおそれがあり、使用できるエネルギーに制限がかかってしまうという問題がある。そこで、本態様では、IRグルービングを実施する前において、対象物100の裏面100bに対してレーザアニールによる平坦化処理を実施する。
【0087】
図18は、平坦化処理、並びに、平坦化処理後のIRグルービング及び改質層形成処理を説明する図である。
図18(a)に示されるように、最初に、対象物100が準備され、支持部7(
図1参照)によって対象物100が支持される。つづいて、
図18(b)に示されるように、制御部9によって制御された移動機構6が、裏面100bにおける一方向に延在する一のラインに沿ってレーザ光L1の集光点が位置するようにレーザ加工ヘッド10Aを移動させ、制御部9によって制御された光源81がレーザアニールに係るレーザ光L1を出力する。ここでの光源81は、例えば超短パルスレーザを出射する光源である。すなわち、制御部9は、対象物100の裏面100bにレーザ光L1が照射されてレーザアニールにより照射面である裏面100bが平坦化されるように、光源81及び移動機構6を制御する第1制御を実施する。当該第1制御は、裏面100bにレーザ光L1を照射しレーザアニールにより裏面100bの平坦化を行う第1工程(平坦化処理)に係る制御である。第1工程では、IRグルービング(第1グルービング)工程前の裏面100bを照射面としてレーザ光L1を照射する。これにより、上述した一のラインは、レーザアニールが実施されたレーザアニールライン100xとなる。レーザアニールライン100xには、IRグルービングにおいてレーザ光が照射されるライン(すなわち、ダイシングライン)が少なくとも含まれている。
【0088】
つづいて、
図18(c)に示されるように、制御部9によって制御された移動機構6が、上述したレーザアニールライン100xに沿って、IRグルービングに係るレーザ光L3の集光点が位置するようにレーザ加工ヘッド10Aを移動させ、制御部9によって制御された光源81(例えば超短パルスレーザを出射する光源)がIRグルービングに係るレーザ光L3を出力する。すなわち、制御部9は、対象物100の裏面100bからレーザ光L3が照射されることにより表面100aの機能素子層に弱化領域100yが形成されるように、光源81及び移動機構6を制御する第1グルービング制御を実施する。当該第1グルービング制御は、改質層形成処理に係る第2工程前において、対象物100の裏面100bからレーザ光L3を照射することにより表面100aに弱化領域100yを形成する第1グルービング工程(IRグルービング)に係る制御である。これにより、表面100aの機能素子に対してIRグルービングが行われ、機能素子に弱化領域100yが形成される。
【0089】
そして、
図18(d)に示されるように、制御部9によって制御された移動機構6が、上述したレーザアニールライン100xに沿ってレーザ光L2の集光点が位置するようにレーザ加工ヘッド10Bを移動させ、制御部9によって制御された光源82が改質層の形成に係るレーザ光L2を出力する。ここでの光源82は、例えばナノ秒パルスレーザを出射する光源である。制御部9は、平坦化された裏面100b(照射面)にレーザ光L2が照射された対象物100の内部に改質層が形成されるように、光源82及び移動機構6を制御する第2制御を実施する。当該第2制御は、第1工程において平坦化された裏面100bにレーザ光L2を照射し対象物100の内部に改質層を形成する第2工程(改質層形成処理)に係る制御である。このようにして改質層が形成された後、分割工程にてエキスパンド処理(
図18(e))が実施され、対象物100が複数のチップに切断される。なお、改質層が形成された後においては、研削処理(
図18(f)参照)が実施された後にエキスパンド処理(
図18(g))が実施されてもよい。
【0090】
なお、IRグルービングの加工条件の一例については、以下のとおりである。例えば、ウエハ厚さが300μmのシリコンウエハ(結晶方位<100>)のパターンの膜に対してIRグルービングを行う場合においては、1パスで、バーストパルスのバースト数を15、出力を5.6μJ×15=合計84μJ、加工速度を500mm/sec、パルスピッチを5μmとすることが考えられる。また、例えばパターンの金属パッド及び膜に対してIRグルービングを行う場合においては、2パスとし、1パス目のバースト数を2、出力を8.5μJ×2=合計17μJ、加工速度を300mm/sec、パルスピッチを3μmとし、2パス目のバースト数を15、出力を5.6μJ×15=合計84μJ、加工速度を500mm/sec、パルスピッチを5μmとすることが考えられる。
【0091】
上述した例では、平坦化処理に係る光源81とIRグルービングに係る光源81とを共通にする(例えば、透過性の超短パルスレーザを出射する光源とする)として説明したがこれに限定されず、平坦化処理を行う光源と、IRグルービングを行う光源とを分けてもよい。その場合、例えば平坦化処理に係る光源は、532nsecのような吸収性の波長の光を出射する光源であってもよい。またIRグルービングに係る光源は、改質層形成処理に係る光源と共通の光源(例えば、ナノ秒パルスレーザを出射する光源)であってもよい。また、例えば平坦化処理に係る光源とIRグルービングに係る光源とを共通にする場合において、平坦化処理及びIRグルービングのレーザダイサと改質層形成処理用のレーザダイサとが、共通であってもよいし、別々の装置として設けられてもよい。
【0092】
次に、
図19及び
図20を参照して、本実施形態に係るレーザ加工装置1が実施する、平坦化処理、IRグルービング、及び改質層形成を含むレーザ加工方法について説明する。
図19は、平坦化処理、IRグルービング、及び改質層形成を含むレーザ加工方法を示すフローチャートである。
図20は、平坦化処理、並びに、平坦化処理後のIRグルービング及び改質層形成処理の一例を模式的に示す図である。以下では、平坦化処理及びIRグルービングに係る装置と、改質層形成処理に係る装置とが別々の装置である場合の処理の一例を説明する。なお、平坦化処理及びIRグルービングに係る光源は、超短パルスレーザを出射する共通の光源であり、上述した「光源81」であるとして説明する。また、改質層形成処理に係る光源は、ここでは、平坦化処理及びIRグルービングに係る装置とは別装置の光源であるが、説明の便宜上、「光源82」と記載する。
【0093】
図19に示されるように、本レーザ加工方法では、まず、レーザ加工装置1における平坦化処理及びIRグルービングに係る装置に、ウエハである対象物100が投入される(ステップS11)。対象物100は、裏面100bにレーザ光が照射可能なようにセットされる(
図20(a)参照)。そして、レーザ光の照射位置のアライメントが実施される(ステップS12)。つづいて、設定されたレシピに基づいてZハイトがセットされる(ステップS13)。
【0094】
つづいて、平坦化処理が実施される(ステップS14)。具体的には、制御部9によって、対象物100の裏面100bにレーザ光L1が照射されてレーザアニールにより照射面である裏面100bが平坦化されるように、光源81及び移動機構6が制御される。平坦化処理については、1ラインずつ、全てのレーザアニールライン100xが順次形成される(
図20(b)及び
図20(c)参照)。
【0095】
つづいて、全てのレーザアニールライン100xが形成された後において、IRグルービングが実施される(ステップS15)。具体的には、制御部9によって、対象物100の裏面100bにおける各レーザアニールライン100xからレーザ光L3が照射され表面100aの機能素子層に弱化領域100yが形成されるように、光源81及び移動機構6が制御される(
図20(d)参照)。そして、ウエハである対象物100が、レーザ加工装置1における平坦化処理及びIRグルービングに係る装置から取り出される(ステップS16)。
【0096】
なお、平坦化処理及びIRグルービングについては、全てのレーザアニールライン100xが形成された後に、裏面100bにおける各レーザアニールライン100xからレーザ光L3が照射されて各弱化領域100yが形成されるとして説明したが、これに限定されない。すなわち、平坦化処理及びIRグルービングは、ライン毎に、レーザアニールライン100xが形成(
図20(f)参照)された後に、該レーザアニールライン100xからレーザ光L3が照射され表面100aの機能素子層に弱化領域100yが形成され(
図20(g)参照)る処理が繰り返し実施されて、全ての弱化領域100yが形成(
図20(h)参照)されてもよい。
【0097】
ステップS16につづいて、レーザ加工装置1における改質層形成処理に係る装置に、ステップS16までの処理が完了しているウエハである対象物100が投入される(ステップS17)。そして、レーザ光の照射位置のアライメントが実施される(ステップS18)。つづいて、設定されたレシピに基づいてZハイトがセットされる(ステップS19)。
【0098】
つづいて、対象物100を分割するための改質層を形成する改質層形成処理が実施される(ステップS20)。具体的には、制御部9によって、平坦化された裏面100b(照射面)にレーザ光L2が照射された対象物100の内部に改質層112が形成されるように、光源82及び移動機構6が制御される(
図20(e)参照)。最後に、ウエハである対象物100がレーザ加工装置1から取り出される(ステップS21)。
[レーザ加工装置による加工の他の例(表面レーザグルービング+ステルスダイシング)]
【0099】
次に、レーザ加工装置1による対象物100の加工の他の例について説明する。ここでは、レーザ加工装置1が対象物100について表面レーザグルービング後にステルスダイシング加工を行う例を説明する。
【0100】
ここでの表面レーザグルービングとは、改質層形成処理の前において、表面100aにおけるダイシングストリートの表層を除去する処理である。表層とは、ダイシングストリート上のTEGや膜である。このような表面レーザグルービングが行われることにより、対象物100を機能素子毎にチップ化する際に膜剥がれ等が生じることを抑制できる。
【0101】
ここで、表面レーザグルービング後においては、表面レーザグルービングによって表面100aに形成される溝の底面が荒れてしまう場合がある。この場合、表面レーザグルービング後において表面100aからステルスダイシング加工を行うことができず、一度、裏面100bに転写を行って、裏面100bから改質層形成に係るレーザ光を照射する必要がある。この場合、転写コストが増大することが問題となる。そこで、本態様では、表面レーザグルービング後且つ改質層形成処理前において、対象物100の表面100aに対してレーザアニールによる平坦化処理を実施する。
【0102】
図21は、レーザグルービング、並びに、レーザグルービング後の平坦化処理及び改質層形成処理を説明する図である。
図21(a)に示されるように、最初に、対象物100が準備され、支持部7(
図1参照)によって対象物100が支持される。つづいて、
図21(b)に示されるように、制御部9によって制御された移動機構6が、表面100aにおける一方向に延在する一のラインに沿って、表面レーザグルービングに係るレーザ光L4の集光点が位置するようにレーザ加工ヘッド10Aを移動させ、制御部9によって制御された光源81(例えば超短パルスレーザを出射する光源)が表面レーザグルービングに係るレーザ光L4を出力する。すなわち、制御部9は、対象物100の表面100aにレーザ光L4が照射されることにより表面100aの表層が除去されるように光源81及び移動機構6を制御する第2グルービング制御を実施する。当該第2グルービング制御は、対象物100の表面にレーザ光L4を照射することにより表面100aの表層を除去する第2グルービング工程(表面レーザグルービング)に係る制御である。表面レーザグルービングが実施された溝の底面100zは、粗面となる。
【0103】
つづいて、
図21(c)に示されるように、制御部9によって制御された移動機構6が、上述した溝の底面100zに沿ってレーザ光L1の集光点が位置するようにレーザ加工ヘッド10Bを移動させ、制御部9によって制御された光源82がレーザアニールに係るレーザ光L1を出力する。ここでの光源82は、例えばナノ秒パルスレーザを出射する光源である。すなわち、制御部9は、対象物100の表面100aの溝の底面100zにレーザ光L1が照射されて、レーザアニールにより底面100zが平坦化されたレーザアニールライン100xになるように、光源82及び移動機構6を制御する第1制御を実施する。当該第1制御は、表面100aにレーザ光L1を照射しレーザアニールにより表面100aの平坦化を行う第1工程(平坦化処理)に係る制御である。第1工程では、表面レーザグルービング(第2グルービング)工程によって表面100aに形成された溝の底面100zを照射面としてレーザ光L1を照射し、溝の底面100zの平坦化(レーザアニールライン100x化)を行う。
【0104】
つづいて、
図21(d)に示されるように、制御部9によって制御された移動機構6が、レーザアニールライン100xに沿ってレーザ光L2の集光点が位置するようにレーザ加工ヘッド10Bを移動させ、制御部9によって制御された光源82が改質層の形成に係るレーザ光L2を出力する。ここでの光源82は、例えばナノ秒パルスレーザを出射する光源である。制御部9は、平坦化された底面100z(すなわちレーザアニールライン100x)にレーザ光L2が照射された対象物100の内部に改質層が形成されるように、光源82及び移動機構6を制御する第2制御を実施する。当該第2制御は、第1工程において平坦化された底面100z(すなわちレーザアニールライン100x)に光L2を照射し対象物100の内部に改質層を形成する第2工程(改質層形成処理)に係る制御である。このようにして改質層が形成された後、分割工程にてエキスパンド処理(
図21(e))が実施され、対象物100が複数のチップに切断される。
【0105】
上述した例では、表面レーザグルービングに係る光源81と平坦化処理に係る光源82とを別にするとして説明したがこれに限定されず、表面レーザグルービングに係る光源と平坦化処理に係る光源とが共通(例えば、超短パルスレーザを出射する光源)であってもよい。また、例えば表面レーザグルービングに係る光源と平坦化処理に係る光源とを別にする場合において、表面レーザグルービング用のレーザダイサと、平坦化処理及び改質層形成処理用のレーザダイサとが、共通であってもよいし、別々の装置として設けられてもよい。
【0106】
次に、
図22及び
図23を参照して、本実施形態に係るレーザ加工装置1が実施する、レーザグルービング、平坦化処理、及び改質層形成処理を含むレーザ加工方法について説明する。
図22は、レーザグルービング、平坦化処理、及び改質層形成処理を含むレーザ加工方法を示すフローチャートである。
図23は、レーザグルービング、並びに、レーザグルービング後の平坦化処理及び改質層形成処理の一例を模式的に示す図である。以下では、表面レーザグルービングに係る装置と、平坦化処理及び改質層形成処理に係る装置とが別々の装置である場合の処理の一例を説明する。なお、表面レーザグルービングに係る光源は、超短パルスレーザを出射する共通の光源であり、上述した「光源81」であるとして説明する。また、平坦化処理及び改質層形成処理に係る光源は、ここでは、表面レーザグルービングに係る装置とは別装置の光源であるが、説明の便宜上、「光源82」と記載する。
【0107】
図22に示されるように、本レーザ加工方法では、まず、レーザ加工装置1における表面レーザグルービングに係る装置に、ウエハである対象物100が投入される(ステップS101)。対象物100は、裏面100bにレーザ光が照射可能なようにセットされる(
図23(a)参照)。そして、レーザ光の照射位置のアライメントが実施される(ステップS102)。つづいて、表面100aの配線及び金属膜等の表層を除去する表面レーザグルービングが実施される(ステップS103)。具体的には、制御部9によって、対象物100の表面100aにレーザ光L4が照射されることにより表面100aの表層が除去されるように光源81及び移動機構6が制御される。表面レーザグルービングについては、1ラインずつ、全てのラインについて実施される(
図23(b)参照)。これにより、全てのラインにおいて、表面レーザグルービングが実施された溝の底面100zが粗面となる。そして、ウエハである対象物100が、レーザ加工装置1における表面レーザグルービングに係る装置から取り出される(ステップS104)。
【0108】
つづいて、レーザ加工装置1における平坦化処理及び改質層形成処理に係る装置に、ステップS104までの処理が完了しているウエハである対象物100が投入される(ステップS105)。そして、レーザ光の照射位置のアライメントが実施される(ステップS106)。つづいて、設定されたレシピに基づいてZハイトがセットされる(ステップS107)。
【0109】
つづいて、平坦化処理が実施される(ステップS108)。具体的には、制御部9によって、対象物100の表面100aの溝の底面100zにレーザ光L1が照射されて、レーザアニールにより底面100zが平坦化されたレーザアニールライン100xになるように、光源82及び移動機構6が制御される。平坦化処理については、1ラインずつ、全てのレーザアニールライン100xが順次形成される(
図23(c)参照)。
【0110】
つづいて、対象物100を分割するための改質層を形成する改質層形成処理が実施される(ステップS109)。具体的には、制御部9によって、平坦化された底面100z(すなわちレーザアニールライン100x)にレーザ光L2が照射された対象物100の内部に改質層112が形成されるように、光源82及び移動機構6が制御される(
図23(d)参照)。最後に、ウエハである対象物100がレーザ加工装置1から取り出される(ステップS110)。
【0111】
なお、表面レーザグルービング及び平坦化処理については、全てのラインについて表面レーザグルービングを行った後に、各ラインについて平坦化処理を行うとして説明したがこれに限定されない。すなわち、表面レーザグルービング及び平坦化処理は、ライン毎に、表面レーザグルービングが実施されて表層が除去され底面100zが粗面とされた(
図23(e)後に、該底面100zが平坦化されてレーザアニールライン100xとなる(
図23(f)参照)処理が繰り返し実施されて、全てのラインについて表面レーザグルービング後の平坦化処理が実施(
図23(g)参照)されてもよい。この場合には、表面レーザグルービング及び平坦化処理を同一装置で実施し、平坦化まで完了した対象物を改質層形成処理に係る別の装置で実施することが考えられる。或いは、全ての処理を同一の装置で実施してもよい。
【0112】
次に、本実施形態に係るレーザ加工方法の作用効果について説明する。
【0113】
本実施形態に係るレーザ加工装置1が実施するレーザ加工方法は、表面100a側に機能素子層を有する対象物100の表面100a又は裏面100bにレーザ光L1を照射し、レーザアニールにより照射面の平坦化を行う第1工程と、第1工程において平坦化された照射面にレーザ光L2を照射し、対象物100の内部に改質層を形成する第2工程と、を含み、レーザ光L1のパルスピッチは、レーザ光L2のパルスピッチよりも短い。
【0114】
本実施形態に係るレーザ加工方法では、対象物100の内部に改質層を形成するためにレーザ光L2が照射される前段階において、レーザ光L2の照射面に、レーザアニールにより該照射面の平坦化を行うためのレーザ光L1が照射される。改質層を形成する際のレーザ光L2の照射面が荒れており平坦でない場合には、レーザ光L2の照射によって改質層を適切に形成できない場合がある。この点、本実施形態に係るレーザ加工方法のように、改質層を形成する際の照射面に対して、事前に、該照射面の平坦化を行うレーザ光L1が照射される(レーザアニールが実施される)ことにより、平坦化された照射面にレーザ光L2を照射することが可能となり、対象物100の内部に適切に改質層を形成することができる。また、本実施形態に係るレーザ加工方法では、レーザアニールに係るレーザ光L1のパルスピッチが、改質層の形成に係るレーザ光L2のパルスピッチよりも短くされている。このように、レーザアニールに係るレーザ光L1のパルスピッチが短く(改質層の形成に係るレーザ光L2のパルスピッチよりも短く)されることにより、溶融後に再結晶化されて平坦化される領域を連続的に形成することができ、レーザアニールによる照射面の平坦化をより適切に実現することができる。以上のように、本実施形態に係るレーザ加工方法によれば、対象物100の照射面を適切に平坦化して対象物100の内部に適切に改質層を形成することができる。
【0115】
上記レーザ加工方法において、レーザ光L1及びレーザ光L2は、共通の光源から出射されていてもよい。このような構成によれば、レーザ加工に係る構成をシンプルにすることができ、装置構成の小型化を実現することができる。
【0116】
上記レーザ加工方法において、レーザ光L1の周波数は、レーザ光L2の周波数よりも高くてもよい。レーザアニールでは、レーザ光L1の照射後、照射領域が冷える前に次のレーザ光L1が照射されることにより、熱を蓄積して適切に再結晶を行い、照射面の平坦化を実現することができる。この点、レーザ光L1が高周波数化される(例えばレーザ光L2の周波数よりも高くされる)ことにより、レーザアニールによる照射面の平坦化をより適切に実現することができる。
【0117】
上記レーザ加工方法において、レーザ光L1の加工進行方向における分岐数は、レーザ光L2の加工進行方向における分岐数よりも多くてもよい。レーザ光L1について加工進行方向における分岐数が多い(例えばレーザ光L2の分岐数よりも多い)ことにより、レーザアニール処理に要する時間を短縮することができる。
【0118】
上記レーザ加工方法において、レーザ光L1の、加工進行方向に交差する方向であって照射面に平行な方向における分岐数は、レーザ光L2の、加工進行方向に交差する方向であって照射面に平行な方向における分岐数よりも多くてもよい。これにより、レーザアニール処理によって平坦化される幅を大きくすることができる。
【0119】
上記レーザ加工方法において、レーザ光L1の分岐した各ビームは、照射面において互いに照射範囲の一部が重なっていてもよい。これにより、1点あたりのエネルギーが低くても、平坦化を行うことができる。また、レーザ光ではビーム中心とビーム中心から離れた箇所とで凹凸が生じてしまうところ、照射範囲が重なるように分岐した各ビームが照射されることにより、上述した凹凸を抑制でき、より適切に照射面を平坦化することができる。
【0120】
上記レーザ加工方法において、レーザ光L1は、トップハット形状のレーザ光であってもよい。これにより、照射面においてレーザアニール領域を広くとることができる。また、照射面をより平坦化することができる。
【0121】
上記レーザ加工方法において、第1工程では、照射面を平坦化すると共に対象物100の内部に改質層が形成されるように、照射面にレーザ光L1を照射してもよい。このように、平坦化のためのレーザアニールに係るレーザ光L1を改質層の形成にも利用することにより、例えば改質層の形成に係るレーザ光L2のパス数を削減して、改質層の形成に要する時間を短縮することができる。
【0122】
上記レーザ加工方法において、第1工程では、対象物100の内部に改質層が形成されないように、照射面にレーザ光L1を照射してもよい。これにより、レーザアニールに係るレーザ光L1によって意図せず改質層が形成されて、所望の改質層形成ができなくなることを回避することができる。
【0123】
上記レーザ加工方法において、第1工程では、レーザ光L1の集光点を対象物100の外部の位置としてもよい。これにより、レーザアニールに係るレーザ光L1によって対象物100の内部に改質層が形成されることを適切に回避することができる。
【0124】
上記レーザ加工方法において、第1工程では、裏面100bを照射面としてレーザ光L1を照射し、裏面100bの平坦化を行ってもよい。対象物100の裏面100bは、例えば梨地とされていたり、荒れている場合がある。このような対象物100の裏面100bに対して改質層形成のためのレーザ光L2が照射されると、裏面100bにおいてレーザ光L2の吸収もしくは散乱が生じ、対象物100の内部に適切に改質層を形成することができない場合がある。この点、裏面100bを照射面としてレーザアニールに係るレーザ光L1が照射されることにより、荒れている裏面100bを適切に平坦化して、対象物100の内部に適切に改質層を形成することができる。
【0125】
上記レーザ加工方法は、第2工程前において、対象物100の裏面100bからレーザ光L3を照射することにより、表面100aに弱化領域100yを形成する第1グルービング工程を更に備え、第1工程では、第1グルービング工程前の裏面100bを照射面としてレーザ光L1を照射し、裏面100bの平坦化を行ってもよい。第1グルービング工程において機能素子層を有する表面100aに弱化領域100yが形成された後に、第2工程において改質層の形成に係るレーザ光L2が裏面100bに照射されることにより、弱化領域100yを利用して、機能素子層が形成された表面100a側に達する亀裂を適切に形成することができる。ここで、第1グルービング工程の実施時において、レーザ光L3が入射する裏面100bにダメージがあると、表面100a側のグルービング(IRグルービング)を適切に実施することが難しく、グルービングに係るレーザ光L3のエネルギーに制限がかかってしまう。この点、第1グルービング工程前において、裏面100bを照射面としてレーザアニールに係る第1工程が実施されることにより、裏面100bを平坦化した状態で第1グルービング工程が実施されることとなるため、第1グルービング工程においてレーザ光L3に投入可能なエネルギーが増え、対応可能な対象物100(デバイス)の種類が増えることとなる。これにより、表面100a側のグルービング(IRグルービング)をより簡易且つ適切に実施することができる。
【0126】
上記レーザ加工方法は、対象物100の表面100aにレーザ光L4を照射することにより、表面100aの表層を除去する第2グルービング工程を更に備え、第1工程では、第2グルービング工程によって表面100aに形成された溝の底面100zを照射面としてレーザ光L1を照射し、溝の底面100zの平坦化を行ってもよい。第2グルービング工程において表面100aの表層が除去された後に、第2工程において改質層の形成に係るレーザ光L2が表面100aに照射されることにより、加工スループットを向上させると共に膜剥離等の加工品質の低減を抑制することができる。ここで、第2グルービング工程後においてはグルービングによって表面100aに形成された溝の底面100zが荒れている。このため、通常、グルービング後においては表面100aからステルスダイシング加工を行うことができず、裏面100b側に転写して裏面100b側から改質層の形成に係るレーザ光L2を照射している。この場合、転写コストがかかることが問題となる。この点、第2グルービング工程後において、表面100aに形成された溝の底面100zを照射面としてレーザアニールに係る第1工程が実施されることにより、表面100aに形成された溝の底面100zが平坦化されるため、グルービング面側である表面100aからステルスダイシング加工を行うことができ、上述した転写工程が不要となる。このことにより、加工の迅速化及びコストの低減を実現することができる。
【符号の説明】
【0127】
1…レーザ加工装置、7…支持部、9…制御部、81,82…光源、100…対象物、100a…表面、100b…裏面、100y…弱化領域、100z…底面、L1…レーザ光、L2…レーザ光。