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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-27
(45)【発行日】2025-06-04
(54)【発明の名称】ポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04D 29/16 20060101AFI20250528BHJP
【FI】
F04D29/16
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021212180
(22)【出願日】2021-12-27
(65)【公開番号】P2023096419
(43)【公開日】2023-07-07
【審査請求日】2023-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】作田 実
(72)【発明者】
【氏名】橋本 靖志
(72)【発明者】
【氏名】野口 真
(72)【発明者】
【氏名】細見 弘樹
【審査官】所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-284881(JP,A)
【文献】特開2014-231827(JP,A)
【文献】特開平09-014191(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1板と第2板との間に複数の羽根を有するクローズ型の羽根車と、該羽根車が回転可能に結合される回転軸と、前記羽根車及び前記回転軸を収容するケーシングとを備え、液体を送出可能なポンプにおいて、
前記羽根車は、その本体部分の外径よりも大きな径を有するシール部分を、該本体部分の一端に備え、前記シール部分のシール面と前記ケーシングとの間の摺動隙間が、前記回転軸の径方向に延びており縦断面において一端から他端まで一直線的な形状となるポンプ。
【請求項2】
前記シール面が、前記回転軸の軸心と直交する方向に沿う請求項1に記載のポンプ。
【請求項3】
第1板と第2板との間に複数の羽根を有するクローズ型の羽根車と、該羽根車が回転可能に結合される回転軸と、前記羽根車及び前記回転軸を収容するケーシングとを備えるポンプにおいて、
前記羽根車は、その本体部分の外径よりも大きな径を有するシール部分を、該本体部分の一端に備え、前記シール部分のシール面と前記ケーシングとの間の摺動隙間が、前記回転軸の径方向に延びており、
前記シール部分における、前記本体部分の径方向外方にはみ出している拡張部分が凹凸面を備えるポンプ。
【請求項4】
第1板と第2板との間に複数の羽根を有するクローズ型の羽根車と、該羽根車が回転可能に結合される回転軸と、前記羽根車及び前記回転軸を収容するケーシングとを備えるポンプにおいて、
前記羽根車は、その本体部分の外径よりも大きな径を有するシール部分を、該本体部分の一端に備え、前記シール部分のシール面と前記ケーシングとの間の摺動隙間が、前記回転軸の径方向に延びており、
前記シール部分における、前記本体部分の径方向外方にはみ出している拡張部分が、前記羽根車の本体部分の外側面に沿って延びる部分を有するポンプ。
【請求項5】
前記シール面が凹凸面を備える請求項3又は4に記載のポンプ。
【請求項6】
前記シール部分が、前記羽根車の本体部分とは別体で構成されている請求項1~5のいずれか一項に記載のポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1板と第2板との間に複数の羽根を有するクローズ型の羽根車と、該羽根車が回転可能に結合される回転軸と、前記羽根車及び前記回転軸を収容するケーシングとを備えるポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
ポンプ等のケーシングに対するクローズ型羽根車の摺動部の流体の漏れ量を低減することは従来からの課題であり、これまで様々な形態が検討されている。
【0003】
一般的には、例えば以下の特許文献1や非特許文献1に示されるように、軸方向の環状部に摺動隙間を設けることが一般的である。漏れ量を抑制するためには、摺動部の入口-出口間の圧力差によって生じる圧力損失を大きくする必要があり、環状に形成される摺動隙間を軸方向に長くしたり、ラビリンス構造を採用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実開昭56-156999号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】日本産業規格JIS B8327:2013(図C.1 環状隙間形状例)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1や非特許文献1などに示される従来のポンプの摺動部では、ラビリンス形状を採用しているため形状が複雑なものとなる。
【0007】
また、渦巻ポンプでは、その径方向に不均一な荷重がかかりやすく、荷重が大きくなると、羽根車が摺動隙間以上に触れ回り易くなる。摺動隙間を狭くすると漏れ量を抑制することができるが、相反して、摺動部が接触して振動を生じたり、軸動力が上昇することがあり、特にラビリンス形状を採用した場合に、そのような傾向が強くなることがある。
【0008】
また、ラビリンス形状のように漏れ流路の経路が複雑なものになると、送り出す流体の性質、例えば、流体に異物が混入している場合など、異物の噛み込みが生じて、摺動部における摩耗や腐食が生じ易くなり、摺動隙間が大きくなって漏れ量が増加することがある。
【0009】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、ポンプの摺動部の形状を複雑化せずとも漏れ量を低減することができるポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るポンプの特徴は、第1板と第2板との間に複数の羽根を有するクローズ型の羽根車と、該羽根車が回転可能に結合される回転軸と、前記羽根車及び前記回転軸を収容するケーシングとを備え、液体を送出可能なポンプにおいて、
前記羽根車は、その本体部分の外径よりも大きな径を有するシール部分を、該本体部分の一端に備え、前記シール部分のシール面と前記ケーシングとの間の摺動隙間が、前記回転軸の径方向に延びており縦断面において一端から他端まで一直線的な形状となる点にある。
【0011】
本構成によれば、羽根車は、その本体部分の外径よりも大きな径を有するシール部分を該本体部分の一端に備え、シール部分のシール面とケーシングとの間の摺動隙間が回転軸の径方向に延びる。このため、漏れ流れ方向が遠心力に抗した方向と相まって、摺動隙間を十分に確保しつつも、流体の漏れ流れを効果的に防止することができる。
【0012】
さらに、摺動隙間は径方向に延びる直線的な形状となるため、ラビリンス形状を採用する従来の構成と比べて形状が単純で複雑化しない。また、漏れ流れ方向が遠心力に抗した方向となり、漏れ量の抑制効果が高まるため、十分な摺動隙間を設けることが可能であり、たとえ羽根車の触れ回りが生じても、羽根車の接触による振動や軸動力の上昇を回避することができる。
【0013】
また、摺動隙間の形状が単純であるため、送り出す流体の性質が例えば異物を含むスラリー性のものであったとしても、異物の噛み込みが生じ難くなる。その結果、摺動部における摩耗や腐食が生じ難くなるため、摺動隙間が大きくなって漏れ量が増加する虞もない。万一摩耗しても回転軸をずらすことによって、摺動隙間を適切に設定し直すこともできる。
【0014】
本発明に係るポンプにおいては、前記シール面が、前記回転軸の軸心と直交する方向に沿うと好適である。
【0015】
本構成によれば、シール部分が、回転軸の軸心と直交する方向に沿うシール面を備えるため、例えば、回転軸の軸心と直交する方向に羽根車が多少ぶれて回転するような場合が生じたとしても、従来のラビリンス形状の摺動隙間とは異なり、漏れ量の抑制効果を維持したまま摺動隙間を広くすることができるため、径方向における羽根車の触れ回りに対して接触する虞をより確実に低減することができる。
【0016】
本発明に係るポンプにおいては、前記シール部分における、前記本体部分の径方向外方にはみ出している拡張部分が凹凸面を備えると好適である。
【0017】
本構成によれば、シール部分の拡張部分が凹凸面であることによって、シール部分の凹凸面に沿う流体の流れを生じ難くなる。その結果、流体の循環流が生じ難くなり、流体の送出効率を高めることができる。
【0018】
本発明に係るポンプにおいては、前記シール部分における、前記本体部分の径方向外方にはみ出している拡張部分が、前記羽根車の本体部分の外側面に沿って延びる部分を有すると好適である。
【0019】
本構成によれば、シール部分の拡張部分が、羽根車の本体部分の外側面に沿って延びる部分を有するため、流体の循環流が生じ難くなり、流体の送出効率を高めることができる。
【0020】
本発明に係るポンプにおいては、前記シール面が凹凸面を備えると好適である。
【0021】
本構成によれば、シール部分のシール面が凹凸面を備えることにより流体が摺動隙間(漏れ流路)を通過し難くなるため、流体の漏れ流れをより確実に防ぐことができる。
【0022】
本発明に係るポンプにおいては、前記シール部分が、前記羽根車の本体部分とは別体で構成されていると好適である。
【0023】
本構成によれば、シール部分が、羽根車の本体部分とは別体で構成されているため、シール部分を交換するなどのメンテナンス作業を実施し易くなる。さらに、厚みの異なる複数のシール部分を用意しておくことで、摺動隙間の大きさも調整し易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明を適用した渦巻ポンプの一部断面図である。
図2図1の要部拡大図である。
図3】その他の実施形態に係る渦巻ポンプの一部断面図である。
図4】その他の実施形態に係る渦巻ポンプの一部断面図である。
図5】その他の実施形態に係る渦巻ポンプの一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明に係るポンプの実施形態について、図面を参照しながら説明をする。
【0026】
尚、本実施形態においては、本発明に係るポンプを渦巻ポンプに採用した場合について説明されているが、本発明に係るポンプは当該渦巻ポンプに限らず、他のポンプ構造に対して採用することもできる。
【0027】
図1に示すように、本実施形態における渦巻ポンプ1は、クローズ型の羽根車2と、該羽根車2が回転可能に結合される上下方向に沿う回転軸3と、羽根車2及び回転軸3を収容するケーシング4とを備える。
【0028】
回転軸3は、ケーシング4に対して回転自在に軸支されており、この回転軸3に対して羽根車2が一体にキー結合されている。
【0029】
回転軸3には、図示しない電動モータなどの原動機が係合されており、この原動機の駆動力により羽根車2が回転するように構成されている。本実施形態のポンプでは、回転軸3が上下方向に沿って設けられているため、羽根車2は回転軸3を横切る水平面に沿って回転する。尚、本実施形態における回転軸3は、上下方向に沿って設けられているが、この構成に限定されるものではなく、回転軸3が横方向に沿って設けられているような構成としても良い。
【0030】
本実施形態の羽根車2は、本体部分と、円環状のシール部分5とを備えて構成される。
【0031】
本体部分は、軸方向での上側に位置する円盤状の上側板20(第1板の一例)と、軸方向での下側に位置する円盤状の下側板21(第2板の一例)と、上側板20と下側板21との間に相互を繋ぐように設けられた複数の羽根22とを有する。図示しないが、複数の羽根22は、中央から径方向に向けて放射状に広がるようにそれぞれ形成される。
【0032】
本体部分の下面25の側には、円筒状内面を有する吸込口23が形成されており、本体部分の軸方向の上方には吐出口24が設けられている。吸込口23と吐出口24との間に、流体が移流する流路が形成されている。
【0033】
シール部分5は、羽根車2の径方向において、羽根車2の本体部分の下面25よりも大きな外径を有しており、本体部分の横外方(径方向外方)にはみ出している部分を拡張部分50と称する。
【0034】
図2に示すように、本実施形態におけるシール部分5は、羽根車2の本体部分とは別体で構成されており、ボルト等によって本体部分の下面25に固定されている。尚、この構成に限らず、シール部分5については、羽根車2の本体部分と一体に構成されていても良い。いずれにしても、シール部分5は、羽根車2の本体部分の下端に設けられている構成となる。
【0035】
羽根車2のシール部分5が、ケーシング4に対する羽根車2の摺動部を構成するものであり、シール部分5の底面がシール面51となる。
【0036】
即ち、羽根車2は、その本体部分の外径よりも大きな径を有するシール部分5を、該本体部分の下端に備え、シール部分5のシール面51とケーシング4との間の摺動隙間S1が、回転軸3の径方向に延びている。
【0037】
尚、本実施形態においては、シール面51は、回転軸3の軸心と直交する方向に沿って設けられているが、必ずしもこの構成に限定されるものではない。
【0038】
ケーシング4には、シール部分5と同程度の外径を有する円環状のライナー部材40が設けられている。ライナー部材40は、シール部分5の下側に対向配置されており、シール部分5とライナー部材40との間に摺動隙間S1が設けられている。
【0039】
ケーシング4と、羽根車2の下側板21との間には、円環状の空間S2が形成されている。
【0040】
回転軸3の駆動により羽根車2が回転することによって、図2の矢印に示されるように、送り出す流体が吸込口23から吸い込まれて吐出口24から吐出される。
【0041】
このとき、羽根車2の回転エネルギーが、内部を流れる流体に対して遠心力として付与され、羽根車2の回転エネルギーが圧力エネルギーと運動エネルギーに変換されるため、吐出口24側の流体の圧力は、相対的に吸込口23側の流体の圧力より高い圧力となる。
【0042】
そのため、吐出口24から吐出された流体の一部が、円環状の空間S2を通って摺動隙間S1に向かい、当該摺動隙間S1(漏れ流路)を介して吸込口23のある流路に漏れ出るということが発生し得る。
【0043】
しかしながら、本実施形態のポンプでは、羽根車2のシール部分5によって、径方向に延びるシール面51が形成されているため、漏れ流路が長くなり、これにより流体の漏れ流れを防止することができる。
【0044】
さらに、摺動隙間S1は径方向に延びる直線的な形状となるため、ラビリンス形状を採用する従来の構成と比べて形状が単純で複雑化しない。そのため、摺動隙間S1における羽根車2の触れ回りが生じ難くなり、羽根車2の接触による振動や軸動力の上昇も抑えられる。
【0045】
また、摺動隙間S1の形状が単純であるため、送り出す流体の性質が例えば異物を含むスラリー性のものであったとしても、異物の噛み込みが生じ難くなる。その結果、摺動部における摩耗や腐食が生じ難くなるため、摺動隙間S1が大きくなって漏れ量が増加する虞もない。
【0046】
〔その他の実施形態〕
ポンプの大きさや構造により、ケーシング4の内部の羽根車2の近傍に十分な空間を確保できない場合、シール部分5の拡張部分50と漏れ流れる流体との接触によって循環流や撹拌が生じて、その結果、ポンプの軸動力が上昇することがある。この場合、例えば以下のように、軸動力の上昇を抑制するような構造をシール部分に追加するようにしても良い。
【0047】
(1)図3に示すように、円環状の空間S2におけるシール部分5に沿う流体の流れを生じ難くするために、シール部分5の拡張部分50が凹凸面を備える構成としても良い。
【0048】
(2)図4に示すように、円環状の空間S2における流体の循環流の発生を抑えるために、シール部分5の拡張部分50が、羽根車2の下側板21(本体部分の外側面)に沿って延びる部分を有するように構成しても良い。
【0049】
(3)図示しないが、シール部分5の拡張部分50が、円環状の空間S2において上向流を生じさせるように構成されていても良い。本構成によれば、シール部分5の拡張部分50が上向流を生じさせるように構成されているため、シール部分5の上方における流体の循環流が生じ難くなり、流体の送出効率を高めることができる。
【0050】
また、図5に示すように、流体が漏れ流路を通過し難くなるように、シール部分5のシール面51が凹凸面を備える構成であっても良い。
【0051】
尚、上述のように図面を参照しつつ本発明を説明したが、本発明は当該図面の構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において様々な態様で実施することができることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明に係るポンプは、例えば渦巻ポンプなどに好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 渦巻ポンプ
2 羽根車
20 上側板(第1板)
21 下側板(第2板)
22 羽根
23 吸込口
24 吐出口
25 下面
3 回転軸
4 ケーシング
40 ライナー部材
5 シール部分
50 拡張部分
51 シール面
S1 摺動隙間
S2 円環状の空間


図1
図2
図3
図4
図5