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▶ ゲバウアー―クロポテック パテント フェアヴァルトゥングス―ウーゲーの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-27
(45)【発行日】2025-06-04
(54)【発明の名称】コラーゲン足場の安定処理
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/14 20060101AFI20250528BHJP
   A61F 9/01 20060101ALI20250528BHJP
   A61L 27/36 20060101ALI20250528BHJP
   A61L 27/24 20060101ALI20250528BHJP
【FI】
A61F2/14
A61F9/01
A61L27/36 400
A61L27/36 300
A61L27/36 410
A61L27/24
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2022539417
(86)(22)【出願日】2020-12-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-14
(86)【国際出願番号】 EP2020087710
(87)【国際公開番号】W WO2021130276
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-12-21
(31)【優先権主張番号】16/728,941
(32)【優先日】2019-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520474657
【氏名又は名称】ゲバウアー―クロポテック パテント フェアヴァルトゥングス―ウーゲー
【氏名又は名称原語表記】GEBAUER-KLOPOTEK PATENT VERWALTUNGS-UG
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】クロポテック, ピーター ジェイ.
【審査官】松山 雛子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/178586(WO,A2)
【文献】国際公開第2018/219045(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/14
A61F 9/01
A61L 27/36
A61L 27/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドナー角膜実質からレンチクルを形成する方法であって、
前記レンチクルが角膜内移植に適合されており
前記方法が、
ドナー角膜実質から組織の一部を摘出するステップ、
前記組織の一部を成形して、第1の所望の形状の足場を形成するステップ、
前記足場を脱細胞化するステップ、
前記足場を締め固めて前記足場から水分を除去するステップ及び
前記足場の少なくとも一部を架橋するステップ
を含む、方法。
【請求項2】
前記方法が、閉じ込められた空間で前記足場を再水和するステップをさらに含み
前記方法が、前記レンチクルの少なくとも一部の向上したコラーゲン密度、又は向上した剛直性を付与する、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記レンチクルの前記一部が、前記ドナー角膜実質の当初のコラーゲン濃度よりも、少なくとも15%超、又は少なくとも20%超、又は少なくとも30%超、又は少なくとも45%超、又は少なくとも60%超である、向上したコラーゲン密度を呈する、請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記レンチクルの前記一部が、係数剛直性μ、1.2×10Pa超、又は1.4×10Pa超、又は1.6×10Pa超、1.8×10Pa超、又は2×10Pa超、又は3×10Pa超、又は5×10Pa超、又は8×10Pa超、又は1×10Pa超、又は2×10Pa超、又は2.6×10Pa超、又は3×10Pa超、又は4×10Pa超を呈する、請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記足場を締め固めて前記足場から水分を除去するステップが、圧力、加速度又は真空を前記足場に適用することによって、又は前記足場を凍結乾燥することによって、前記足場から流体を除去するステップを含む、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記加速度が遠心力である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記脱細胞化するステップが、前記足場を化学的脱細胞化剤で処理することを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記脱細胞化するステップが、前記水分を除去するステップの前若しくは後、又は前記架橋するステップの前若しくは後に行われる、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
脱細胞化されたレンチクルが、残留DNA又はRNAの含有量によって評価して、当初のDNA又はRNAの含有量の1重量パーセント未満、又は0.1重量パーセント未満、又は0.01重量パーセント未満である細胞物質の残留量を呈する、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記架橋するステップが、前記足場の少なくとも一部を架橋促進剤又は活性放射線に曝露することを含む、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記活性放射線が、紫外放射線、X線、ガンマ放射線又は電子ビームである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記架橋するステップが、前記レンチクルの表面部分が足場のバルク領域よりも大きな程度の架橋形成及び高いコラーゲン密度を呈するように、前記レンチクルの前記表面部分を放射線に選択的に曝露することを含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記架橋するステップが、直接曝露によって、若しくは微小入射角度での曝露によって、又は足場の表面に接続されたエバネセント導波管を介して、圧縮された足場の少なくとも一部を紫外放射線に曝露することを含む、
請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記架橋するステップが、任意の微生物因子を不活性化及び/又は前記足場を滅菌するのに十分な放射線を適用することを含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
脱細胞化コラーゲンレンチクルであって、
前記脱細胞化コラーゲンレンチクルに所望の形状を提供する、前面及び後面を有する、角膜ドナー組織に由来するレンチクル本体を含み、
前記レンチクル本体は、コラーゲン15パーセント超である組成を得るように脱細胞化及び圧縮/締固めされたコラーゲンの層を含み、
前記レンチクル本体中のコラーゲンが、少なくとも部分的に架橋されて軸方向の膨張を防止し、
透明であるために、コラーゲン原繊維の層は、層どうしの間の間隔がほぼ理想的に分布した面内整合を呈する、
脱細胞化コラーゲンレンチクル
【請求項16】
前記脱細胞化コラーゲンレンチクルに残留する細胞物質の量が、残留DNA又はRNAの含有量によって評価されて、当初のDNA又はRNAの含有量の1重量パーセント未満、又は0.1重量パーセント未満、又は0.01重量パーセント未満であるように、脱細胞化されている、請求項15に記載の脱細胞化コラーゲンレンチクル。
【請求項17】
円板状の平面又は非平面の形状及び約0.5ミリメートル~約10ミリメートルの直径、及び約600マイクロメートル未満、約400マイクロメートル未満、又は約200マイクロメートル未満又は約100マイクロメートル未満、又は50マイクロメートル未満の最大の厚さを有することによって、角膜内移植に適合されている、請求項15又は16に記載の脱細胞化コラーゲンレンチクル。
【請求項18】
角膜内インプラントとしての使用向けに十分な光学的透明度を有する、請求項1517のいずれか一項に記載の脱細胞化コラーゲンレンチクル。
【請求項19】
3分角未満、又は2分角未満、又は1分角未満の散乱角度、シータを呈する、請求項15~18のいずれか一項に記載の脱細胞化コラーゲンレンチクル。
【請求項20】
射線によって滅菌されている、請求項1519のいずれか一項に記載の脱細胞化コラーゲンレンチクル。
【請求項21】
前記放射線が、UV放射線又は電子ビームである、請求項20に記載の脱細胞化コラーゲンレンチクル。
【請求項22】
保管及び/又は運送向けに前記脱細胞化コラーゲンレンチクルを囲んでいる容器をさらに含む、請求項1521のいずれか一項に記載の脱細胞化コラーゲンレンチクル。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
[001]異常な屈折状態、例えば屈折異常によって引き起こされる視覚障害は、あらゆる年齢の患者にとって深刻な問題となる可能性があり、常にとはかぎらないが、サブトラクティブレーザー処置で治療することができる場合が多い。近年フラップを切離し折り返して角膜の実質内領域を露出させた後に、患者の角膜へのレンチクルの移植を伴う相加的な技法が開発された。レンチクルの形状が、角膜の湾曲を変えることによって患者の角膜の屈折力を修正する。次いで、フラップをレンチクルの上部に戻して置くことができる。円錐角膜などの他の状況では、移植レンチクルは、異常な実質を機械的に安定化又は定常化し、疾患の進行を遅延させることができる。円錐角膜の症例では、フラップよりもむしろ実質ポケットがより頻繁に形成される。
【0002】
[002]しかし、いくつかの問題が、相加的(レンチクル)技法のより広い受入れを制限している。第一に、レンチクルを形成するためのドナーヒト角膜の利用可能性がまったく限られている。加えて、レンチクルが非ヒトの給源から得られる場合、免疫反応を最小限に抑えるためにレンチクルを脱細胞化する必要がある。さらに、レンチクル(コラーゲンの構造化した層)の性質に起因して、それらは脆弱であり、特別な取扱いを必要とする。一般に、脱細胞化は、構造をさらにもろくし及び/又は浸透性の特性を改変し、その結果、脱細胞化レンチクルは、術後の膨潤を起こしやすくなり、その結果、手術時の適切な屈折矯正がそのまま保たれない可能性がある。したがって、移植可能なレンチクル及び他のコラーゲンベースの足場を安定化するためのより良好な方法が求められている。
【0003】
[003]コラーゲンは人体に広く存在する。例えば、コラーゲンは、腸、静脈、関節、皮膚、内膜、心室弁、並びに角膜に存在する。
【0004】
[004]しかし、角膜の実質コラーゲンは多くの点で独特である。水分以外では、コラーゲンが角膜実質の主成分を構成する。実質の他の成分としては、グリコアミノグリカン(GAG)及びプロテオグリカンが挙げられる。生細胞は、角膜実質のわずか約1~4パーセントを構成する。ヒト実質はおよそ100~150のラメラからなり、それぞれが平行なコラーゲン原線維を含有する。透明であるために、コラーゲン原線維の層は、層又はラメラどうしの間の間隔がほぼ理想的に分布した面内整合を呈する。このように構成されたコラーゲン原線維を含有する器官は他にない。
【0005】
[005]実質コラーゲンは、面内方向で高い引張強度を呈するが、それに比べ、面に垂直な方向ではかなりもろい。脱細胞化された実質はさらにもろさを呈する。そのような脱細胞化された実質コラーゲンを足場として使用する場合、その機械的強度を増大するより良い方法が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
[006]コラーゲン足場を安定化する方法が開示されており、本発明の方法によって、水分抽出及び/又は圧縮(又は乾燥及び制御された再水和)、並びに架橋形成を用いて、コラーゲン足場を成形し、コラーゲン足場を機械的に強化し、水性環境で膨潤するコラーゲン足場の傾向を防止することができる。本発明の方法は、相加的屈折矯正手術の一部として、実質内又は角膜内移植用のレンチクルとしてコラーゲン足場を調製するのに特に有用であり得る。
【0007】
[007]コラーゲン性の組織から形成された足場は、角膜に機械的利点をもたらすことができる。しかし、足場は、脱細胞化処理によって通常は機械的にもろくなっているので、実質へと又は実質の上に配置する前に強化し方向付ける必要がある。本発明の一態様では、ドナーのコラーゲン性の組織から足場を形成及び強化する方法であって、ドナーのコラーゲン性の組織源(例えば、ドナー角膜実質)の中央領域から組織の一部を摘出するステップ;組織部分を成形して、第1の所望の形状の足場を形成するステップ;足場を脱細胞化するステップ;足場を締固めて(例えば、足場のラメラ構造に一般には垂直な方向に)、足場に存在する過剰な流体を除去するステップ及びコラーゲン密度を増強するステップ;並びに足場の少なくとも一部を架橋して、機械的に強化するステップ及び足場が水性環境に曝露されている場合、その後の膨潤を防止するステップを含む方法が開示されている。
【0008】
[008]或いは、本発明の方法は、ドナーのコラーゲン性の組織源(例えば、ドナー角膜実質)の中央領域から組織部分を摘出するステップ;任意選択で、組織部分を成形して、第1の所望の形状の足場を形成するステップ;足場を脱細胞化するステップ;足場から水分の一部又は全部を除去することによって、足場を締固めるステップ、及び足場が所望の締固められた形状を取るように制御された方法で(例えば、モールド又はその他の閉じ込め空間で)足場を再水和するステップ;並びに、次いで、また、足場の少なくとも一部を架橋して、機械的に強化するステップ及び足場が水性環境に曝露されている場合、その後の膨潤を防止するステップによって、実践することができる。
【0009】
[009]重要なことに、本発明の方法は、コラーゲン足場の機械的強度及び化学的安定性を増強することができる。足場が角膜内移植可能なレンチクルとしての使用向けである場合、架橋形成を用いて、足場の光学的透明度(例えば、透明性)を回復及び/又は確保することができる。
【0010】
[0010]ある特定の実施形態では、摘出するステップ及び最初の成形するステップは、同時に実行することができる。足場を脱細胞化するステップは、細胞を溶解すること、洗浄剤又は界面活性剤でレンチクルから細胞破片を除去することをさらに含むことができるとともに、任意選択で、レンチクルから少なくとも1つの免疫原性エピトープを酵素的に除去することをさらに含むことができる。足場を脱細胞化する際に有用な一溶液は、水、エチルアルコール及びグリセロールを含むことができる。特に制御された再水和ステップが用いられる場合、脱細胞化溶液を使用して、足場を締固めることもできる。或いは、脱細胞化とそれに続く乾燥を行うことができる。足場の配向も操作することができる。本明細書に記載の方法ステップは、実現可能であれば、任意の順序で実行することができる。
【0011】
[0011]特定の任意の操作理論に拘束されるものではないが、コラーゲン足場の機械的強化は、架橋形成の結果であるだけではなく、コラーゲン原線維のより硬く締まった束への締固め(又は封じ込め)の結果でもある。高密度化された原線維束の架橋形成は、架橋形成単独によって達成可能な改善を超える材料強度をもたらすことができる。
【0012】
[0012]本発明の方法では、架橋するステップは、圧縮された足場の少なくとも一部を架橋剤若しくはエネルギー媒介剤に曝露すること、又は圧縮された(又は閉じ込められた)足場の少なくとも一部を放射線に曝露して、エネルギー媒介剤の補助の有無にかかわらず、コラーゲン原線維間のペプチド結合形成による架橋形成を誘導することをさらに含むことができる。化学的架橋形成及び光架橋形成の組み合わせも開示されており、この組み合わせによって、化学薬剤は、異なる化学結合を誘導し、コラーゲン原線維間にメカニカルブリッジを物理的に形成することができる。
【0013】
[0013]架橋するステップは、直接曝露によって、若しくは見通し角度でのそのような放射線への曝露によって又は足場の表面に接続されたエバネセント導波管を介して、圧縮された(又はそうでなければ締固められた)足場の少なくとも一部を放射線に曝露することによって、行うことができる。架橋するステップは圧縮された足場の表面部分を放射線に曝露することをさらに含むことができ、その結果、表面部分が足場のバルク領域よりも大きな程度の架橋形成及びより高いコラーゲン密度を呈する。
【0014】
[0014]好ましくは、圧縮するステップ/締固めるステップ及び架橋するステップは、最初の脱細胞化された足場セグメントよりも大きいコラーゲンの組成又は密度を有する足場の少なくとも一部をもたらす。例えば、圧縮及び架橋された足場の少なくとも一部は、コラーゲン少なくとも20パーセント、好ましくはコラーゲン35パーセント超の組成を有することができる。
【0015】
[0015]本発明の方法は、足場が、レンチクル本体、配向された前面及び後面を有する移植可能な角膜内レンチクルとしての使用向けに構成されるように、実践することができ、本発明の方法は、架橋剤を用いて又はパターニング放射線の選択的適用によってレンチクルの後面の少なくとも一部を処理して、実質床へのレンチクルの付着を促進することをさらに含む。ある特定の実施形態では、本発明の方法は、ドナー実質からレンチクルを形成するステップ、レンチクル抽出よってドナー実質の中央領域から組織の一部を除去するステップ、除去された組織部分を第1の所望の形状のレンチクルに成形するステップであって、レンチクルが、レンチクル本体、前面及び後面を有する、成形するステップ、レンチクルから細胞物質を除去するステップ;レンチクルに存在する過剰な流体(例えば、実質に当初存在していた水分、及び脱細胞化中にレンチクルに導入された可能性のある任意のその他の流体)を除去するステップ;並びにレンチクルの少なくとも一部を架橋して、最終的な所望の形状を画定し、レンチクルが水性in vivo環境に曝露されている場合その後の膨潤を防止するステップを含むことができる。レンチクルの形成は、角膜切開刀又はフェムト秒レーザー又はエキシマレーザー又はウォータージェットを用いて実行されるレンチクルの摘出又は抽出によって行うことができる。
【0016】
[0016]本明細書に開示及び特許請求されたレンチクル製造方法は、外科手術又は治療による人体又は動物の体の処置方法ではない。代わりに、本明細書に開示の方法は、ヒト又は動物の給源からすでに摘出されたドナー角膜実質組織で実施される。同様に、開示の方法によって形成されたレンチクルは角膜内インプラントとして使用することができるが、本明細書で特許請求された製造方法を実践するのに実際の移植は必ずしも必要ではない。
【0017】
[0017]レンチクルの架橋形成は、圧縮された足場の少なくとも一部を架橋剤若しくはエネルギー媒介剤に曝露することによって、又は圧縮された足場の少なくとも一部を放射線に曝露して、エネルギー媒介剤の補助の有無にかかわらず、コラーゲン原線維間のペプチド結合形成による架橋形成を誘導することによって、行うことができる。例えば、レンチクルの架橋形成は、直接曝露によって、若しくは見通し角度での曝露によって又は足場の表面に接続されたエバネセント導波管を介して、圧縮された足場の少なくとも一部を放射線に曝露することを含むことができる。ある特定の適用では、紫外放射線が好ましいエネルギー源である。
【0018】
[0018]コラーゲンの架橋形成に関して化学的方法も用いることができる。これらの化学的方法は、化学薬剤(例えば、ゲニピン)又は光化学薬剤の使用を含むことができる。例えば、米国特許出願公開第2017/0119928号は、心膜組織を脱細胞化することによって人工心臓弁を形成して、グルタルアルデヒド含有溶液で架橋し、移植用に所望の構造に成形することができるコラーゲン性のマトリックス材料を得る方法を開示している。
【0019】
[0019]放射線架橋形成は化学的架橋形成よりも有利であり得、その理由は、生じるレンチクルは頻繁により透明であり、結果としてレシピエントの角膜への移植の後により良好な視力がもたらされるからである。
【0020】
[0020]締固めされた足場の放射線架橋形成は、締固めされていない(流体を多く含んだ)足場に必要なエネルギーよりも実質的に少ないエネルギーで行うことができる。例えば、締固めの後の典型的なレンチクルの場合、架橋形成は、約15ジュール/cm未満、又は一部の場合では約2500ジュール/cm未満のフルエンスでの紫外放射線によって行うことができる。より一般的には、所望のフルエンスは、約15ジュール/cm~約600ジュール/cmまでの範囲となる。コラーゲン性の足場を架橋するのに有用な波長の一特定の範囲は、「UV-C」波長帯の一部、例えば、約185nm~約280nmまでに一般に相応する。その他のUV波長帯(約280nm~約315nm(又は320nm)までの範囲のUV-B帯、又は約315nm(又は320nm)~約400nmまでのUV-A帯)も、一部の場合では、X線、ガンマ放射線又は電子ビームと同様に用いて、足場の少なくとも部分的な架橋形成及び/又は滅菌を誘導することができる。
【0021】
[0021]脱細胞化コラーゲン足場は、ある程度の「形状記憶」又は「応力ヒステリシス」を呈するので、脱細胞化コラーゲン足場を別途圧縮し、その後に、脱細胞化コラーゲン足場を架橋することが可能であるが、脱細胞化コラーゲン足場は圧縮モールドによってもはや拘束されてはいない。このような分離していることは(連続的に)代替の製造プロセスである。しかし、好ましい方法は、ほとんどの場合、足場がモールド内で圧縮されている/締固めされている間に架橋形成を誘導することである。いずれの場合も、締固められたコラーゲン束の架橋形成は、分散したコラーゲン原線維構成の架橋形成よりも大きい強度をもたらす。
【0022】
[0022]本発明の方法の別の態様では、架橋するステップは、表面部分が足場のバルク領域よりも大きな程度の架橋形成及び高いコラーゲン密度を呈するように、圧縮された足場の表面部分を放射線に曝露するステップをさらに含むことができる。さらに、架橋するステップはまた、任意の微生物因子を不活性化し、レンチクルを滅菌するのに十分な放射線を適用することも含むことができる。ある特定の実施形態では、足場を脱細胞化するステップは、洗浄剤又は界面活性剤を用いてレンチクルから細胞破片を除去することを包含することができるとともに;任意選択で、レンチクルから少なくとも1つの免疫原性エピトープを酵素的に除去することをさらに含む。
【0023】
[0023]さらに、圧縮するステップ及び架橋するステップは、最初のコラーゲン性の組織セグメントよりも大きいコラーゲン密度を有する足場の少なくとも一部をもたらすことができる。架橋するステップは、前面領域がレンチクル本体のバルク領域よりも大きな程度の架橋形成又は大きいコラーゲン密度を呈するように、前面に放射線を選択的に適用することをさらに含むことができる。
【0024】
[0024]本発明の別の態様では、架橋形成はまた、本教示によって形成されるレンチクル及び足場の「剛直性」を効果的に改変することができる。哺乳動物の角膜組織では、ほとんどのコラーゲン原線維が「水平に」整合している(又は代替的に表現して、角膜表面に接線方向に)。原線維は、一次、二次、及び/又は三次コイルに巻いている非常に長いコラーゲン分子でできている。
【0025】
[0025]本教示によれば、異なるいくつかのタイプの架橋形成を誘導することができる。例えば、架橋形成を、コラーゲン-コラーゲンブリッジの一種として、コラーゲンの三次コイル内に誘導することができる。この架橋形成は、個々のコイルを互いにさらに丈夫により強く付着させることによって、縦方向の弾性コラーゲン原線維を減少させる(例えば、硬化させる)ことができる。コイルは「水平に」に配向されており、圧縮は個々の原線維の締固めに大きく影響しないので、この架橋形成の速度は足場の圧縮に対して感受性がより低くなる。この種の架橋形成の量は、累積放射線量に一般に比例し、圧縮/締固めの状態はそれほど重要ではない。この第1のタイプの架橋形成によって、眼内液のIOPによる実質の伸展の場合のように、角膜組織が、表面への「平行/接線」方向での伸展に対してより弾力的なものとなる。
【0026】
[0026]第2の種類の架橋形成は、異なる(隣接しているが)コラーゲン鎖又は原線維の一部であるコラーゲン間で行うことができる。この橋は通常、直接的なコラーゲン-コラーゲン結合を含まないが、それよりも、接続はGAG又はプロテオグリカンなどの他の分子によって媒介される(架橋される)。第1のタイプとは対照的に、この第2のタイプの架橋形成は、足場の圧縮/締固めに対して非常に感受性が高く、足場に対する機械的特性/挙動に特徴的な3つの変化を誘導することができる。
【0027】
[0027]二次架橋形成(原線維間のブリッジ分子によって媒介される)は、膨潤抵抗性を高める。この抵抗性は、レンチクル又は足場の「垂直」(半径方向)硬化の直接的な発現である。垂直の橋は、隣接する原線維間の距離の変化に抗する。二次架橋形成はまた、ヒト実質に移植された場合、足場の浸透圧崩壊に対する抵抗性を誘導する。この抵抗性は、締固め並びに結果として生じるGAG及びプロテオグリカンのより高い濃度(単位体積あたり)に起因し、このことは、レシピエントの天然の実質よりも高い(又は少なくとも等しい)浸透圧を働かせることになる。さらに、二次架橋形成は、コラーゲン原線維の層間の横滑りを抑制することになる。この拘束によって、天然のヒト実質に比べて曲げ力に対して足場が強化される。
【0028】
[0028]ドナー組織の脱細胞化は、それ自体で組織のGAG及びプロテオグリカンを部分的に除去(分解)し、その結果、脱細胞化組織は、天然のヒト実質(約50~60mmHg)よりも低い浸透圧を呈し、移植時の足場の崩壊を引き起こすおそれがある。圧縮(又は締固め)は、一方、ドナーのレンチクルの当初の厚さ(脱細胞化前)よりも低い厚さではあるが、足場の完全な浸透圧を回復することができる。疎水性材料としてのコラーゲンは、浸透圧特性にはごく僅かしか寄与していない。しかし、GAG及びプロテオグリカンの濃度上昇によって(より小さな空間で)、浸透圧へのGAG及びプロテオグリカンの寄与が増強される。換言すると、圧縮/締固めは、GAG及びプロテオグリカンの脱細胞化損失を補償し、GAG及びプロテオグリカンの濃度をより小さい体積ではあるが回復する。
【0029】
[0029]したがって、架橋形成によって、締固められたレンチクルの増強された浸透圧特性をロックして、形成中の膨潤を妨げ、一方、浸透圧相互作用が作用し始める移植後のin vivoでのレンチクルの崩壊も妨げることが、可能となる。換言すると:本教示による架橋形成によれば、移植前及び移植後の両方の方法で浸透圧的にレンチクルが安定化する。
【0030】
[0030]本発明の別の態様では、剛直性が向上したレンチクル及び足場を、本発明の教示によって得ることができる。架橋コラーゲンの剛直性は、例えば、係数と呼ばれるパラメータμ、によって定量化することができる。天然のヒト角膜コラーゲンの係数μ、の公称標準値は、母集団全体にわたって変化してもよい。例えば、若いヒトの目の場合、角膜コラーゲンの平均係数μ、は、約5×10パスカル(Pa)とすることができる。高齢者の場合、係数μ、は1.2×10Pa程度の高さとすることができる。さらに、ブタの眼(移植可能なレンチクル及び足場のコラーゲンの重要な給源とすることができる)の場合、角膜コラーゲンの平均係数μ、は約2×10パスカル(Pa)程度の低さであってもよい。
【0031】
[0031]本教示による締固め及び架橋形成の結果として、コラーゲン性レンチクル及び足場は、係数剛直性μ、2×10Pa超、又は8×10Pa超、又は1.6×10Pa超、又は2×10Pa超、又は3×10Pa超、又は5×10Pa超、又は8×10Pa超、又は1×10Pa超、又は3×10Pa超、又は5×10Pa超、又は1×10Pa超、を呈することができる。
【0032】
[0032]例えば、本教示によるレンチクル(足場を含めて)は、係数値μ、1×10Pa~1×10Paまで、又は2×10Pa~8×10Paまで、又は1×10Pa~5×10Paまで、又は3×10Pa~5×10Paまで、又は1×10Pa~2.6×10までの範囲、を呈することができる。
【0033】
[0033]本発明のさらに別の態様では、レンチクルに所望の形状及び配向を提供するように形成された前面及び後面を有する、ドナー組織に由来するレンチクル本体を有する脱細胞化コラーゲンレンチクルが開示されている。例えば、レンチクルは、常にとは限らないが、レンチクルの前面及び後面と頻繁に一致する、凸面及び凹面を有することができる。レンチクル本体は、コラーゲン15又は25パーセント超である組成を得るように脱細胞化及び圧縮された/締固めされたコラーゲンの層を含むことができるとともに、さらに少なくとも部分的に架橋されて軸方向の膨潤を防止することができる。バルク架橋レンチクルの場合、組成はコラーゲン30パーセント超であり得る。さらに、局所的に高密度化の層が望ましい場合(例えば、ボーマン膜などの角膜構造に近似するために)、局所的なコラーゲン濃度はさらにより高くすることができる(例えば、コラーゲン35パーセント超又は40パーセント超又は60パーセントさらに超)。
【0034】
[0034]レンチクルは、ある特定の実施形態では、放射線の適用によって架橋されているコラーゲンの層によって特徴付けることができ、レンチクルはまた、コラーゲン原線維間の誘導されたペプチド結合によってさらに特徴付けることができる。レンチクルは、細胞物質を90パーセント~100パーセントまで、又は好ましくは95パーセント~99.99パーセントまで除去されていてもよく、脱細胞化、圧縮及び架橋形成に続いて、レンチクルを患者の眼に移植して角膜の屈折力を変化させ、実質の損傷又は病変の領域を補充又は強化することができるように所望の形状で形成することができる。
【0035】
[0035]本発明によるレンチクルは、湾曲した円板状の形状及び約0.5mm~約10mmまでの直径を典型的には有する。レンチクルはまた、約600~約50マイクロメートルまで、より好ましくは約400~約100マイクロメートルまでの範囲とすることができる最大の厚さを典型的には有する。レンチクルは典型的には均一の厚さではなく、最小の厚さは、約50マイクロメートル未満、より好ましくは約30マイクロメートル未満又は約15マイクロメートル未満とすることができる。
【0036】
[0036]レンチクルは、免疫原性エピトープの分解に起因して低い免疫反応性を呈する必要がある。ある特定の実施形態では、レンチクルの少なくとも1つの表面は、患者の実質床に実質内移植された場合、実質床へのレンチクルの付着を促進するように可変架橋形成のパターンをさらに含む。レンチクルはまた、レンチクル本体のバルク領域よりも大きいコラーゲン密度を有する前面領域を備えた前面を有することができる。例えば、前面領域のコラーゲン密度は、コラーゲン少なくとも約35パーセント又は40パーセント又は60パーセントとすることができる。
【0037】
[0037]したがって、本発明は、コラーゲンレンチクル及び足場の形状を安定化する方法を開示する。コラーゲン性の組織は、ヒト由来又は動物由来の任意のコラーゲン性の給源から採取することができる。ある特定の好ましい実施形態では、組織は、ヒト又はブタの実質から採取することができる。給源組織は、摘出中又は摘出後に別のステップで成形することができる。組織は、種々の技法によって成形、脱細胞化、及び安定化することができ、この技法のいくつかを下でより詳細に説明する。成形及び脱細胞化に続いて、摘出されたコラーゲン性の組織セグメントを圧縮/締固めに供して流体含有量を低減し、照射されてコラーゲン鎖又はコラーゲン原線維の架橋形成を誘導する。架橋形成は、化学的仲介物、例えば、架橋剤の有無にかかわらず誘導することができる。ある特定の好ましい実施形態では、架橋形成は、十分に高いエネルギー放射線への曝露によるコラーゲン原線維間のペプチド結合の形成によって得られる。コラーゲン鎖間のペプチド結合の創製は通常吸熱反応であるので、このエネルギー放射線は望ましいものである。ペプチド結合の架橋形成を誘導するための種々のエネルギー源を用いることができる。ある特定の好ましい実施形態では、エネルギーは、紫外(UV)放射線によって送達される。
【0038】
[0038]本発明は、一般に、層状コラーゲン性の組織、特に、角膜実質から採取されたコラーゲン足場の空間的安定処理に特に適用可能である。給源組織の層状コラーゲン構成は、光学的透明性のために自然界で進化してきた可能性があるが、水性環境に曝露されると、機械的もろさ及び/又は膨潤しやすい浸透性の傾向をもたらすおそれがある。したがって、本発明の一目的は、そのような膨潤を防止すること、及び/又は最終的な足場により大きい軸方向の機械的強度を提供することである。本発明はまた、非層状の(又は無秩序な)摘出されたコラーゲン性の組織セグメントに適用することができる。
【0039】
[0039]本発明の別の態様では、足場が角膜移植用のレンチクルである場合、足場の少なくとも1つの表面の、例えば前面のコラーゲン密度又は平滑さを改変する方法が開示されている。そのような表面の改変は、例えば、上にあるフラップを再切開してインプラントにアクセスする必要がある場合、移植後に足場を操作しやすくすることができる。表面の改変は、照射及び/又は化学薬剤の適用によって行うことができる。
【0040】
[0040]同種移植片及び/又は異種移植片の給源からの脱細胞化及び形状化された角膜組織レンチクル、並びにそのようなレンチクルを得る方法が開示されている。レンチクルは、角膜移植術における実質内又は角膜内のレンチクルインプラントとして特に有用であり、この場合、ヒンジ状フラップを患者の角膜内に形成し、このヒンジに沿って折り返して、角膜の実質床を露出させる。次いで、形状化レンチクルが実質床に適用され、フラップがその当初の位置に戻され、その結果、角膜に新しい湾曲を付与し、所望の屈折矯正がもたらされる。新しい屈折力の微調整は、移植と同時に、又は退行若しくは緊張変化が発生する場合では後の時点にいずれかで、レーザーアブレーションによって行うことができる。
【0041】
[0041]本発明の一態様では、脱細胞化された角膜レンチクル及び角膜組織を脱細胞化する方法が、移植レンチキクルに対する患者の側の潜在的な免疫原性反応を低減するために開示されている。通常の角膜のうちのわずか約1~4パーセントが細胞から構成されている。その他の96~99パーセントは、ほぼ細胞外マトリックス(ECM)、つまり、主としてコラーゲン、グリコアミノグリカン(GAG)及びプロテオグリカン並びに水分である。好ましい一実施形態では、レンチクルの細胞成分は、例えば、テトラデシル硫酸ナトリウム(STS)などの界面活性剤での処理によって、又は酵素的可溶化によって、除去される。所望の場合、特に給源が非ヒト(異種)のドナーである場合、さらなるステップを行って、レンチクルの免疫原性をさらに低下させることができる。例えば、異種組織に存在することができる2つの非ヒトエピトープは、neu5GC及びアルファ-Galである。これらの望ましくないエピトープは、実質細胞の内部だけでなはなく又は表面に存在することができる;一部分のエピトープは、ECMコラーゲン原線維を取り囲む、ムコ多糖類としても知られるGAGの内部に埋まっている場合がある。そのような場合、そのようなエピトープは、キナーゼ処理とさらなる洗浄によって、少なくとも部分的に、選択的に除去することができる。
【0042】
[0042]本発明の脱細胞化レンチクルは、細胞物質のうちの95%~100%が典型的には除去されている。好ましくは、レンチクルは、95%~99.99%、細胞が除去されている。95%~100%の間のあらゆる可能な部分範囲を詳述せずとも、そのような全ての部分範囲が本発明の一部として企図及び考慮されることは明白である。例えば、レンチクルは、細胞物質が95%~97%、97%~99%、又は98%~99.9%除去されていてもよい。
【0043】
[0043]本発明の別の態様では、本発明による円板状のレンチクルは、ドナー角膜から円板状の組織セグメントを切離することによって得られる。組織セグメントは、スライシング処置中に所望の形状が得られるように、スライス及び/又はさらに成形又は切離することができる。切離は、例えば、マイクロ角膜切開刀等を用いて、レーザー加工によって、例えば、又はフェムト秒レーザーを用いた光切断によって若しくはエキシマレーザーによって、又はウォータージェットによって、機械的に実行することができる。非対称性の可能性を低減するために、組織セグメントは、例えば、ドナー角膜の光学軸又は幾何学的軸がレンチクルの中心に確保されている状態で、ドナー角膜の中央部分から取られるのが好ましい。組織セグメントの形状は、患者の屈折異常を矯正するのに必要なジオプトリー度数(dioptric power)の変化によって決定されることになる。例えば、遠視(hyperopia)(遠視眼(hypermetropia))及び/又は老眼の矯正の場合、目標は通常、角膜の湾曲を高めることであり、所望のレンチクル形状は、少なくとも片側でやや凸状になる。通常、レンチクルの最大の厚さは400マイクロメートル未満、又は多くの場合200マイクロメートル未満、又は100マイクロメートル未満、又は50マイクロメートル未満となる。ほとんど全ての適用に対して最大の厚さは600マイクロメートル未満である。一部の状況では、黄斑変性症に罹患している患者の視覚改善は、前記円板状レンチクルが、網膜の異なる部分に光を向け直すプリズムとして形成される場合に行うことができる。
【0044】
[0044]円錐角膜の治療は、視覚収差の低減のみではなくて、病的実質の機械的強化のみを含むことができる。この目的には、円板の周縁に移行傾斜(くさび様)帯を有する、厚さが50~300マイクロメートルの間の、共平面の円板(co-planar disk)が好ましいことがある。或いは、円錐角膜の治療用のレンチクルは、ドナー角膜から引き継いだ自然の湾曲の利点を利用することができ、又は、湾曲したモールドの使用によって、圧縮/締固め及び/又は架橋形成中にさらなる湾曲の度合いを導入することができる。一部の場合では、円錐角膜を治療する上で、例えば、レンチクルの湾曲がレシピエントの角膜の反対であるように、レンチクルを「逆さま」に移植することが有利な場合がある。
【0045】
[0045]一部の場合では、湾曲したモールドが望ましいが、圧縮/締固めのステップ及び架橋するステップはまた、平坦なモールドでも実行することができる。(平坦な成形は、保管及び輸送、又は製造の効率にとって有利であり得る。)本発明の別の態様では、密封されているモールドを圧縮/締固めと保管の両方に用いることができる。
【0046】
[0046]足場の1つの表面に適用する圧力を使用して、表面の湾曲を変更すること、及び/又はコラーゲン原線維を新たに整合させる(又はコラーゲン原線維の整合を維持する)こともできる。例えば、足場をチャンバの開口部に固定することができ、次いで、チャンバを加圧流体で満たして、足場の片側で圧力を加え、その結果、足場に水平力/接線力を付与する。流体の圧力は、足場を拡張させることになる(風船のように)。圧縮性プレートを反対側の面に任意選択で適用することができる。例えば、湾曲した(準凹面の)圧縮プレートを使用して、足場を伸展させること又は再形成することができる程度を制限することができる。所望の湾曲が得られると、架橋形成を用いて、所望の形状を維持すること、及び/又は実質内又は角膜内の移植の際のそのように操作された足場の膨潤する傾向を防止することができる。
【0047】
[0047]一部の実施形態では、レンチクルの前面がその他の(後)面とは異なるテクスチャーを呈することになるように、上部実質面、すなわち、いわゆる「ボーマン膜」を確保することが有利であり得るが、その理由は、実質組織の最外層の自然な圧縮に起因して角膜の上部実質面の自然な前部セグメントがより密及びより平滑であるからである。或いは、摘出されたセグメントを実質の中央領域から取ることができ、下により詳細に記載するように選択的架橋形成によって、成形及び摘出に続いて、前面を高密度化することができる。後面(前面又はボーマン膜の反対側)は、実質組織のより低い密度と組織の機械的カット又はレーザーカットによって形成されているという事実とに起因して、より粗くなる。レンチクルが実質内又は角膜内移植用に使用される場合、粗さのこの違いは特に有利であり得るが、その理由は、レンチクルが実質床に丈夫に付着することが高度に望ましいことがあるからである。処置後に最善ではない屈折の結果が観察される場合、フラップを再び折り返して、レーザーアブレーション等によるさらなる角膜移植(レンチクルの再切削(re-sculpting))を可能とする必要があるかもしれない。実質床においてのレンチクルの当初の位置からのレンチクルのどんな移動でも、このような角膜移植の効果を損なうおそれがある。さらに、レンチクルの前面の平滑さはまた、フラップを再切開することがレンチクルを脱落させてしまうことになる、可能性を小さくする。
【0048】
[0048]本発明のさらに別の態様では、摘出、成形、及び脱細胞化の後に後面を処理して、後面を実質床により付着させることができる。例えば、滅菌及び包装の前に、架橋剤を適用することができる。或いは、付着増強剤を、移植前の処置中に臨床医によって適用することができる。前面を処理して、フラップへ付着しにくくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1A】摘出された実質組織セグメントの概略断面図である。
図1B】脱細胞化の後の摘出された実質組織セグメントの概略断面図であり、組織の膨潤及びコラーゲン原線維の結果として生じる間隔を示す、図である。
図1C】本発明による脱細胞化、圧縮/締固め及び架橋形成の後の摘出された実質組織セグメントの概略断面図である。
図2】前面領域の脱細胞化、圧縮/締固め及び選択的架橋形成の後の摘出された実質組織セグメントの概略断面図である。
図3】後面領域の脱細胞化、圧縮/締固め及び選択的パターニングの後の摘出された実質組織セグメントの概略断面図である。
図4A】製造及び/又は輸送中の典型的な形状である、平坦な形状にある、本開示によるレンチクルを例示する図である。
図4B】角膜内移植用に調製された最終的な湾曲状態のレンチクルを例示する図である。
図5A】遠視状態を矯正するために角膜内移植用に設計されたレンチクルを例示する図である。
図5B】近視状態を矯正するために角膜内移植用に設計されたレンチクルを例示する図である。
図5C】老眼状態を矯正するために角膜内移植用に設計されたレンチクルを例示する図である。
図5D】円錐角膜として知られる状態を矯正するために角膜内移植用に設計されたレンチクルを例示する図である。
図6A】強い架橋形成の局所的なスポットとともに製造されているレンチクルの別の実施形態を例示する図である。
図6B】中度の架橋形成を有する中央の光学活性ゾーンと、強い架橋形成を有する外側ゾーン又は周辺ゾーンとを含むレンチクルのさらに別の実施形態を例示する図である。
図7A】深層層状角膜移植(DALK)用のレンチクルの使用を例示する図である。
図7B】患者のインタクトのボーマン膜の上に配置するように構成されたレンチクルの使用を例示する図である。
図7C】全層角膜移植(PK)術用のレンチクルのさらに別の実施形態を例示する図である。
図8A図8A及び図8Bは厚いレンチクルの周辺部用の2つの代替設計を例示する図である。図8Aは単純な、例えば、円筒形又は円錐形の周縁を有するレンチクルを示す図である。
図8B図8A及び図8Bは厚いレンチクルの周辺部用の2つの代替設計を例示する図である。図8Bはレンチクルの周辺部にジグザグ又は階段状の縁を有するレンチクルを示す図である。
図8C】レンチクル周辺部に「関鍵」の縁を有するレンチクルを示す図である。
図9】本発明によるコラーゲン足場を圧縮するステップ及び架橋するステップにおいて使用するためのプレス装置の概略斜視図である。
図10A図10A及び図10Bは本発明による2パーツの密封圧縮及び保管モールドを例示する図である。図10Aは足場の圧縮前のモールドが示されていることを示す図である。
図10B図10A及び図10Bは本発明による2パーツの密封圧縮及び保管モールドを例示する図である。図10Bは圧縮後のモールドを例示する図である。
図10C】足場の圧縮/締固め用の代替モールドの分解組立図を例示する図である。
図10D】組み立て形態での図10Cのモールドを示す図である。
図10E図10Dのモールドの上面図である。
図10F図10C~10Eのモールドの断面図である。
図11】足場を伸展させるための本発明によるさらなる装置を例示する図である。
図12図11の装置と同様であるが、同時である足場の伸展及び足場圧縮のための、並びに架橋放射線への曝露を容易にするための、圧縮を加えるプレート要素の付加を伴う、さらに別の代替装置を示す図である。
図13】本開示に従って作製されたレンチクルの透明度を測定するための装置を例示する図である。
図14】光学的透明度を定量化するための、図13の装置等で得られる輝度分布曲線のグラフである。
図15A】その最初の非応力状態下での本開示に従う、平面の圧縮/締固め及び架橋レンチクルの剛直性(係数μ)を測定するための機器の概略断面図である。
図15B】試験荷重の適用時の図15Aの機器の概略断面図である。
図16A】その最初の非応力状態下での本開示に従う、非平面の圧縮/締固め及び架橋レンチクルの剛直性(係数μ)を測定するための機器の概略断面図である。
図16B】試験荷重の適用時の図16Aの機器の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
[0085]プロセス、組成物、又は方法論は変動し得るので、本発明は記載された特定のプロセス、組成物、又は方法論に限定されるものではない。本明細書で使用される用語は、本発明の特定のバージョン又は実施形態を説明する目的のためだけのものであり、本発明の範囲を限定することを意図するものではいない。特に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、当業者によって通常に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記述のあらゆる刊行物は、参照によりその全体が組み込まれる。本発明が、先行発明を理由としてかかる開示に先行する権利がないことを認めるものと解釈されるものは本明細書にはない。
【0051】
[0086]「切離(する)」という用語は、例えば、機械的ブレード、紫外(UV)レーザー、フェムト秒レーザー、又はウォータージェットの作用による、生物学的材料の切開、アブレーション又は除去に関する既知の方法のいずれも包含する。
【0052】
[0087]「圧縮」、「圧縮された」、及び「圧縮する」という用語は、圧力の適用による若しくは真空などの他の技法による締め固め又は遠心力駆動の水分抽出を包含する。「圧縮」という用語はまた、脱水、及び、足場又はレンチクルが所望の密度を有するように閉じ込められた空間での制御された再水和、を説明するのに一般に使用される。「閉じ込められた」及び「復元された」という用語はまた、拘束しているチャンバにおいて組織部分を脱水して(又は乾燥させて)、再水和を制御して(又は膨潤させて)、所望の形状及び密度のレンチクル又は足場を得るプロセスを説明するのに使用される。
【0053】
[0088]「放射線」という用語は、赤外放射線、可視光放射線、及び紫外放射線(例えば、約400nmから下っておよそ193nmまで又はそれより下)、X線、ガンマ線、及び電子ビームを包含する。
【0054】
[0089]「生物学的試料」という用語は、組織、細胞、細胞抽出物、均質化された組織抽出物、又は1つ又は複数の細胞産物の混合物を指す。生物学的試料は、適切な生理学的に許容される担体で使用又は存在することができる。
【0055】
[0090]本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用する場合、他に文脈で明示しない限り、単数の形態「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その(the)」は、複数形の言及を含む。したがって、例えば、「細胞」への言及は、1つ又は複数の細胞及び当業者に知られているその均等物等への言及である。
【0056】
[0091]本明細書で使用される場合、「約」という用語は「約」とともに使用されている数の数値のプラス又はマイナス10%を意味する。したがって、約100μmとは90μm~110μmの範囲を意味する。本開示全体を通して与えられたあらゆる最大の数値限定は、代替案としてそれぞれの及びあらゆるより低い数値限定を、あたかもかかるより低い数値限定が明らかに本明細書に記載されているかのように、含むものとすることを理解されたい。本開示全体を通して与えられたあらゆる最少の数値限定は、代替案としてそれぞれの及びあらゆるより高い数値限定を、あたかもかかるより高い数値限定が明らかに本明細書に記載されているかのように、含むものとする。本開示全体を通して与えられたあらゆる数値範囲は、かかるより広い数値範囲に包含されるそれぞれの及びあらゆるより狭い数値範囲を、あたかもかかるより狭い数値範囲がすべて明らかに本明細書に記載されているかのように、含むものとする。
【0057】
[0092]本明細書で使用される「動物」、「患者」、又は「対象」という用語は、それらに限定されないが、ヒト並びに野生動物、家畜動物及び飼育動物などの非ヒト脊椎動物を含む。「動物」、「患者」、又は「対象」という用語はまた、角膜レンチクル移植のレシピエントを指す。「異種移植片」という用語は、ブタ(pig)(ブタ(porcine))、ウシ、類人猿、サル、ヒヒ、その他の霊長類、及び他の任意の非ヒト動物を含めて、提供用の動物から収集された組織を指す。「同種移植片」とは、レシピエントと同じ種であるドナーから取られた組織を指す。
【0058】
[0093]一般に、「組織」という用語は、特定の機能の実行において統合されている、類似的に特殊化されている細胞の任意の集合体を指す。角膜実質は、ほぼ非細胞性(約1~5%が細胞性である)であるが、「組織」の一例である。
【0059】
[0094]「乾燥する」、「乾燥された」等の用語は、組織部分の水分の一部又は全部の除去を指す。例えば、「乾燥」は、組織に存在する水分の50%~100%の間、好ましくは一部の場合では、水分の60%~95%の間を除去することができる。通常、締め固めの所望の程度を得るために、「乾燥」は、組織部分の水分の、少なくとも30%、又は少なくとも40%、又は少なくとも50%、又は少なくとも60%、又は少なくとも70%、又は少なくとも80%、又は少なくとも90%、又は少なくとも95%、又は少なくとも98%、又は少なくとも99%を除去することによって、実践することができる。乾燥は、エタノール流体交換などの化学的プロセスを通して、又は真空乾燥若しくは凍結乾燥(例えば、ドライアイス含有チャンバで、又は別の凍結乾燥装置で)などの物理的手段によって得ることができる。
【0060】
[0095]「レンチクル」という用語は、レシピエントの角膜内に又は角膜上に移植の用意ができた脱細胞化され、加工されたドナー角膜組織を指す。特に明記しない限り、「レンチクル」及び「足場」という用語は、本明細書では同義に使用される。使用の場合、それぞれの用語は他方を包含することを意図する。「コラーゲン濃度」及び「コラーゲンパーセンテージ」という用語は、本明細書では同義に使用され、レンチクル又は足場に存在するコラーゲンの量を指す。この濃度又はパーセンテージは、乾燥前のレンチクルの重量(水分と完全な平衡状態にある)に対して、完全に乾燥したレンチクル、例えば、真空乾燥レンチクルの分率の重量として測定することができる。一部の場合では、エタノールを使用して乾燥を改善することができる。
【0061】
[0096]レンチクル移植に関連して「角膜内」という用語は、レンチクルが角膜の中に又は上に配置される任意の処置を指す。角膜内移植の一タイプは、「実質内」移植であり、前部ボーマン膜又は上皮を摘出することなく、例えば、前部組織のフラップの折り返しによって又は側方アプローチを介する直接挿入によって、レンチクルを眼の実質内に配置する処置である。レンチクルのその他のタイプの角膜内使用としては、深層層状角膜移植(DALK)及び全層角膜移植(PK)が挙げられ、この場合、下でより詳細に論議するように、レンチクルが眼の前部セグメントに完全に取って代わる。さらに別の適用可能な「角膜内」処置は、いわゆる「表層角膜移植術」であり、下でより詳細にまた論議する。
【0062】
[0097]「軸方向」という用語は、レンチクル又は足場の配向に対する方向を指す。通常、形状化レンチクルは回転楕円体又は楕円体の円板状の形状で湾曲し、軸方向又は「軸」は円板の中心に一般には垂直となる。特に明記しない限り、「軸方向」はまた、組織セグメントが摘出される眼又はレンチクルが移植されるように設計されているレシピエントの眼、の視覚軸又は光軸と一般にほとんど平行又は同軸である。(自然の目では、光軸は通常、正確にではないが、ほとんど角膜の中心を通過する。)
【0063】
[0098]惑星物理学(球面幾何学)は、実質におけるコラーゲン原線維の空間的構成を説明するのに便宜的な専門語を提供することができる。コラーゲン原線維の大部分は高緯度~中緯度の軌道上にあり、ごく一部のみが極軌道に存在する。このため、実質は通常、中央(真ん中)の領域/場所で最も薄い。圧縮の軸方向は、極冠圧縮又はラジアル圧縮と呼ぶことができる。ドナー実質の中央領域は、原線維整合において強い回転対称性を呈する。インプラントが圧縮においてだけではなく引張応力下でも機能するように指定されている場合、中央の実質の位置から抽出されたレンチクルは、回転対称の引張特性をインプラントに付与するのが好ましい。
【0064】
[0099]本開示はまた、同種移植片及び/又は異種移植片の給源からの脱細胞化角膜レンチクル並びにドナー実質からのレンチクルを形成する方法、に関する。本開示の脱細胞化角膜レンチクルは、近視、遠視、老眼、及び乱視などの異常な屈折状態、並びにその他の眼科の病状を矯正するのに使用することができる。
【0065】
[00100]角膜は、前部から後部までの5つの層で構成されると一般に考慮することができる:角膜上皮、薄いが密である上部実質層(通常、ヒトの眼ではボーマン膜と呼ばれる)、角膜実質、デスメ膜、及び角膜内皮である。角膜上皮は、非角化重層扁平上皮細胞の約6つの層から構成されており、この細胞は、急成長であり、容易に再生する。前実質層(例えば、ボーマン膜)は、大部分がランダムに組織化され、しっかりと交織したコラーゲンタイプI原線維から構成される頑丈な層である。角膜実質は、平行な層で構成されたコラーゲンタイプI繊維からなる厚くて透明な層である。デスメ膜は、角膜内皮の基底膜として機能する薄い非細胞性の層であり、低剛性のコラーゲンタイプIV原線維から構成される。最後に、角膜内皮細胞は、ミトコンドリアリッチ細胞の単一の扁平な又は低立方の単層から構成されている。
【0066】
[00101]本明細書で使用される場合、「ボーマン膜」という用語は、ヒト又はドナー動物の角膜のいずれかからの任意の角膜の前実質領域を説明するのに使用される。ヒトの角膜の高密度化の層はより著しいことがあるが(したがって、ヒトの角膜ではボーマン膜として知られている)、全ての角膜は、動物の種及び年齢に応じてある程度までいくらかより高い前方の高密度化と平滑さ(実質床組織に対して)を呈する。したがって、「ボーマン膜」とは、こういった前部セグメントを説明するのに本出願全体で使用される用語である。
【0067】
[00102]したがって、ドナー角膜の採取及び加工、並びにレンチクルの作製は、視力の屈折異常の矯正にとって非常に重要な要素である。レンチクルは、角膜移植術におけるレンチクルインプラントとして特に有用であり、この場合、ヒンジ状フラップを患者の角膜内に形成し、このヒンジに沿って折り返して、角膜の実質床を露出させる。次いで、形状化レンチクルが実質床に適用され、フラップがその当初の位置に戻され、その結果、角膜に新しい湾曲が生じ、所望の屈折矯正がもたらされる。新しい屈折力の微調整は、移植と同時に、又は退行若しくは緊張変化が発生する場合では後の時点のいずれかで、レーザーアブレーションによって行うことができる。
【0068】
[00103]本発明のある特定の実施形態では、脱細胞化角膜レンチクルは、ドナー実質からの最上層の少なくとも一部を含む前面と、所望の形状を有するレンチクルを提供するために形成されている後面とを有する、ドナー実質に由来するレンチクル本体を含むことができ;ここで、ドナー実質は脱細胞化されている。他の実施形態では、レンチクルは、ボーマン膜及びドナー実質の任意の上部の確保を顧慮せずに成形されている。例えば、レンチクルは、実質組織セグメントの実質内摘出によって、例えば、フェムト秒レーザーパルスによる摘出によって形成することができる。
【0069】
[00104]ある特定の実施形態では、ドナー実質を、採取し、脱細胞化し、その結果、患者の側で潜在的な任意の免疫原性反応の低減を有するレンチクルを作製する。通常の角膜のうちわずか約1~約4パーセントが細胞から構成されている。その他の96~99パーセントは、ほぼ細胞外マトリックス(ECM)、主としてコラーゲン、並びに水分、グリコアミノグリカン及びプロテオグリカンである。上記のように、本発明の脱細胞化レンチクルは、細胞物質のうちの95%~100%を典型的には除去されている。好ましくは、レンチクルは、95%~99.99%、細胞が除去されている。95%~100%の間のあらゆる可能な部分範囲を詳述せずとも、そのような全ての部分範囲が本発明の一部として企図及び考慮されることは明白である。例えば、レンチクルは、細胞物質が95%~97%、97%~99%、又は98%~99.9%除去されていてもよい。レンチクルに残留する細胞物質の量は、例えば、残留DNA又はRNAの含有量によって評価することができる。好ましくは、DNA又はRNAの含有量は、当初のDNA又はRNAの含有量の1重量パーセント未満、又は0.1重量パーセント未満、又は0.01重量パーセント未満である。
【0070】
[00105]脱細胞化、すなわちドナー実質からの細胞物質の除去は、様々な技法を使用して行うことができる。好ましい一実施形態では、角膜の細胞物質は、化学処理によって除去される。角膜から細胞を溶解及び除去するのに使用される化学物質としては、テトラデシル硫酸ナトリウム(STS)などの界面活性剤、酸、アルカリ処理剤、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)などのイオン性洗浄剤、Triton X-100などの非イオン性洗浄剤及び両性イオン洗浄剤が挙げられる。一部の実施形態では、角膜の細胞物質は、酵素処理を使用して除去される。リパーゼ、サーモリシン、ガラクトシダーゼ、ヌクレアーゼ、トリプシン、エンドヌクレアーゼ、及びエキソヌクレアーゼを使用して、角膜から細胞物質を除去する。一部の実施形態では、角膜の細胞物質は、物理的技法を使用して除去される。これらの物理的技法は、温度、力、及び圧力、並びに電気的破壊の使用を通して、組織のマトリックスから細胞を溶解、殺滅、及び除去するのに使用される方法を含む。温度法は、急速凍結解凍メカニズムで使用されることが多い。温度法は、ECM足場の物理的構造を保存する。圧力脱細胞化は、足場を損傷するおそれのある非監視の氷晶形成を回避するのに、高温での静水圧の制御使用を含む。原形質膜の電気的破壊は、角膜の細胞物質を溶解するための別のオプションである。
【0071】
[00106]本明細書に記載の実施形態では、レンチクルは、免疫原性エピトープの分解に起因して、さらにより低い免疫反応性を呈することができる。このことは、異種の提供を使用する場合の重要なステップであり得る。例えば、異種組織で存在することができる2つの非ヒトエピトープは、N-グリコリルノイラミン酸(Neu5GC)及びガラクトース-アルファ-1,3-ガラクトース(アルファ-Gal)である。これらの望ましくないエピトープは、実質細胞の内部だけでなはなく又は表面に存在することができる;少部分のエピトープは、ECMコラーゲン原線維を取り囲む、ムコ多糖類としても知られるグリコアミノグリカン(GAG)に埋まっている場合がある。ある特定の実施形態では、エピトープは、ガラクトシダーゼ処理によるなどの酵素処理、及びさらなる洗浄によって選択的に除去することができる。或いは、角膜組織は、いかなる免疫原性エピトープも欠いているノックアウトトランスジェニック動物(例えば、トランスジェニックブタ)から採取することができ、したがって、エピトープ分解ステップを必要とせずに非免疫原性レンチクルを作製することができる。
【0072】
[00107]本明細書に記載の実施形態では、脱細胞化レンチクルは、包装及び密閉と併せてさらに滅菌することができる。滅菌は、ウエットな薬剤(wet agent)、放射線、又は電子ビームを使用して行うことができる。好ましい一実施形態では、コラーゲン足場への損傷が生じる可能性が低いので、脱細胞化レンチクルの滅菌はUV放射線を使用して実行される。UV放射線の用法は、レンチクルの光学的透明性を改善するのに有利であり得る。
【0073】
[00108]本発明の別の態様では、レンチクルの形状及び配向は、最善の結果に向けて設計されている。一部の実施形態では、レンチクルの直径は、約0.5ミリメートル(mm)~約10mmまで、又は約3mm~約9mmまで、又は約4mm~約8mmまで、又は約5mm~約7mmまで、である。ここでも、0.5mm~10mmの間のあらゆる可能な部分範囲を詳述せずとも、そのような全ての部分範囲が本発明の一部として企図及び考慮されることは明白である。
【0074】
[00109]ドナー角膜実質はスライス及び/又はさらに成形して、所望の形状を得ることができる。切離は、例えば、マイクロ角膜切開刀等を用いて、又はレーザー加工によって、例えば、エキシマレーザーを用いたフォトアブレーション又はフェムト秒レーザーを用いた光切断によって、機械的に実行することができる。非対称性の可能性を低減するために、角膜組織セグメントは、例えば、ドナー角膜の光学軸又は幾何学的軸がレンチクルの中心に確保されている状態で、ドナー角膜の中央部分から取られるのが好ましい。角膜組織セグメントの形状は、患者の屈折異常を矯正するのに必要なジオプトリー度数の変化によって決定されることになる。例えば、遠視(遠視眼)及び/又は老眼の矯正の場合、目標は通常、角膜の湾曲を高めることであり、所望のレンチクル形状は、少なくとも片側でやや凸状になる。一部の実施形態では、レンチクルの最大の厚さは、600マイクロメートル未満、400マイクロメートル未満、200マイクロメートル未満、100マイクロメートル未満、又は50マイクロメートル未満となる。直径が小さいほど、レンチクルが薄いほど、より速くレンチクルは患者の実質床へ一体化することになる。
【0075】
[00110]実質コラーゲン原線維は、長いポリマー(ポリペプチド)ストリングである。実質コラーゲン原線維は三重にねじれたタンパク質である。単一のコラーゲン原線維の長さはほぼ巨視的であり、したがって、原線維それぞれが個々に光の強力な散乱体であり得る。実質が軸方向で透明であるという事実は、こういった強力に散乱するという寄与全ての負の合計の結果である。すなわち、コラーゲン原線維は、その個々の散乱にもかかわらず、全体において集合的でほぼゼロの散乱に、集合的に寄与している。この集合的な透明性は、原線維が1つの平面に平行に構成されている場合に得られる。角膜実質では、構成面は光軸に垂直である。この独特の構成は角膜に存在するが、その他の器官では観察されない。腸や心筋膜、心室弁などの他の器官では、原線維は精密に整合されておらず、したがって、光が散乱する。目の角膜輪部コラーゲンについても同じことが言える。
【0076】
[00111]透明性に加えて、自然淘汰は、強度についても同様に角膜の構造を最適化してきた。コラーゲン原線維の長さと整合が、実質の面内(接線)引張(引っ張り)強度に実質的に寄与している。自然な目の形状は、実質上で接線方向の引張(引っ張り)応力を加える静水眼内圧によって維持されている。コラーゲン原線維の面内配向は、角膜の透明性に役立ち、著しい機械的引張(引っ張り)強度をもたらす。しかし、この強度は面内で加えられる力にほぼ限定されている。それに比べ、光軸方向の角膜実質の強度は実質的にもろい。この軸方向の強度不足の一顕現は、水、例えば、緩衝生理食塩溶液(BSS)に浸漬した場合の足場の膨潤である。膨潤は、光軸の方向で、ほぼ例外なく一方向性である。面内方向の膨潤は無視できる。
【0077】
[00112]光学活性レンチクルの形状適合度は、好結果の相加的屈折矯正手術にとって極めて重要であるので、足場に関するこのもろさは懸念の源である。軸方向での足場の膨潤は、屈折異常を誘導するおそれがある。
【0078】
[00113]膨潤の量は浸液と相関している場合が多い。界面活性剤及び/又は洗浄剤をその水に加えると、すなわち足場の公称厚さのおよそ250~400%の最も高い度合いの膨潤が観察される。BSSは公称厚さのおよそ150~250%の膨潤を通常は誘導する。アルコール(軽質と重質の両方)の膨潤は、通常は少ない。(公称厚さとは、例えば、組織標本が非常に新鮮な場合、脱細胞化ステップ前の、例えば、約60秒未満又はしたがって摘出後の、当初の摘出された実質セグメント(ラメラ)の軸方向の厚さとして定義することでき、或いは標本が上皮細胞及び/又は内皮細胞を保持している場合、より長いことがある)。
【0079】
[00114]厚いレンチクルの場合、実質床にフラップを置き戻すことが困難となるほどに、膨潤はレンチクルを非常に厚くしてしまうおそれがある。フラップはまた、付加された材料を覆うには短すぎる可能性があるとともに(上皮の劣成長の危険を高める)、実質床へのフラップの機械的伸展及び/又は縫合のさらなる処置を必要とする場合がある。
【0080】
[00115]浸透性の特性及び/又は足場の水親和性の変化(脱細胞化前の実質と比較して)と一緒に、コラーゲン足場の一方向性の機械的もろさは、足場の厚さの方向(すなわち、軸方向)で著明な一方向性の膨潤を引き起こすおそれがある。
【0081】
[00116]遊離水が、コラーゲン性の組織の内部に存在する。インタクトの天然角膜では、実質の含水量は、角膜の全体的な構造、例えば、角膜の境界を形成する上皮膜及び内皮膜によって制御されている。しかし、相加的屈折矯正手術中に外因性実質組織が移植される場合、このバランスがかき乱されることがしばしばであり、移植されたレンチクルの含水量は、増加し、公称厚さを超えて術後膨潤を引き起こす傾向を有する。
【0082】
[00117]本発明によれば、平坦な(円筒形の)コラーゲン性の組織標本を、定常圧力を加える2つのプレートの間に配置すると、流体含有量を低減することができる(或いは同じことであるが、コラーゲン濃度を増加させることができる)。同じことが、脱細胞化を受けた形状化レンチクルにも当てはまる。プレスは、過剰な遊離流体が組織から横に抜かれることになるように、ドレナージを用意する必要がある。形状化レンチクルの場合、プレスのプレートのうちの少なくとも1つは湾曲して、レンチクルの厚さの半径方向の変化に順応する必要がある。好ましくは、圧力は、所望の時間、穏やかに適用される。圧縮の所望の程度に応じて、圧力を、数秒から数時間まで、例えば、30秒~1時間まで、又は一部の場合では5分~30分までの範囲の所定の期間、コラーゲン足場に加えることができる。
【0083】
[00118]プレスのプレートによって移動した距離は、おおよそのコラーゲン濃度の計算を可能にする。例えば、平坦な摘出組織セグメントの公称厚さが100マイクロメートルであり、脱細胞化プロセス後にそのセグメントが膨潤して200マイクロメートルになる場合、組成物のコラーゲン含有量は約15%とすることができる。次いで、そのセグメントを100マイクロメートルの厚さに再圧縮するとした場合、公称コラーゲン濃度はおよそ30%のレベルに回復するであろう。足場を50マイクロメートルの厚さにさらに圧縮すると、コラーゲン濃度はおよそ60%となる。足場を40マイクロメートルの厚さにさらに圧縮すると、コラーゲン濃度はおよそ75%となる。(コラーゲン含有パーセンテージは、レンチクルが水分と完全な平衡状態にある場合の乾燥前のレンチクルの重量に対する真空乾燥レンチクルの重量分率として測定できる。)この値は、長時間の圧力の後にはじめて得られ、合理的に達成可能なコラーゲン濃度の上限に近い。この時点での残留水は、例えばファンデルワールス力によってタンパク質にしっかりと結合しており、さらなる圧力はコラーゲン原線維の完全性が損なう可能性がある。
【0084】
[00119]コラーゲン性の組織を圧縮するプロセスは、足場をプレスから除去し、流体に再び浸漬する場合、ほぼ可逆的である。足場は再膨潤して、足場の圧縮前の厚さに近似する。しかし、本発明の別の態様では、最も注目すべきは、プレス加工中のコラーゲン足場の架橋形成を介した、軸方向のひずみ方向でのコラーゲン足場の強化によって、再膨潤を妨げる方法が開示されている。足場の圧縮、及び/又は過剰な流体の除去はまた、足場を加速度に曝露することによって、例えば遠心分離で、行うことができる。例えば、10G~100G(981m/s)まで又はそれ超の範囲の加速度を用いることができる。過剰な流体の除去はまた、足場を真空又は減圧に曝露することによって行うこと又は補助することができる。
【0085】
[00120]ある特定の実施形態では、架橋形成は、化学薬剤によって行うことができる。外部化学分子を、十分な濃度、期間、及び温度で(主に水溶液又はその他の流体で)加えることができる。分子を、一方の端で1つのコラーゲン原線維と、他方の端で別のコラーゲン原線維と、結合するように構築することができる。結合のタイプは、薬剤に特異的とすることができ、又はペプチドタイプの結合である必要はない。化学分子は、強力な付着として化学結合(共有結合)で物理的な橋を創り出す。そのような橋の十分に密度が高い集団は、軸方向のコラーゲン足場に新しい強度及び/又は剛直性を付与する。コラーゲン分子は互いに接触する必要はないが、ほぼ当該薬剤の分子サイズの距離に位置する必要がある。この穏やかな作動要件は、架橋形成プロセスを容易とする。化学架橋剤の例は、グルタルアルデヒド、ゲニピン、及び単糖である。
【0086】
[00121]コラーゲン原線維は、それ自体が強力な光散乱体であるが、コラーゲン原線維の配向及び統計的構成は、集合的に散乱を解消する。架橋剤及びエネルギー媒介分子の潜在的な欠点は、屈折矯正手術で移植可能なレンチクルとしてコラーゲン足場を使用する場合に、光散乱体として作用するとともにコラーゲン足場の光学的透明性に悪影響を与えるおそれのある外因性物質を、架橋剤及びエネルギー媒介分子がコラーゲン足場に導入すること、である。
【0087】
[00122]他の実施形態では、コラーゲン原線維はまた、原線維間に直接確立された安定な化学結合によって強化することができる。このことは、原線維が互いに接触している場合に起こるが、自然には起こらない。いわゆるペプチド結合は吸熱性であり、原線維が接触する場所に外部エネルギーを局所的かつタイムリーに送達することを必要とする。一部の実施形態では、光量子からエネルギーを受け取る特殊化した媒介分子を用いることができる。次いで、媒介分子は、これ自身リンクの構造に関与することなく、結合エネルギーを提供すること、又は架橋形成プロセスの触媒となることができる。したがって、光は安定した結合を構築するための間接的なエネルギー源である。媒介分子の一例は、例えば、発光ダイオード(LED)等からの光に曝露された場合のリボフラビンである。
【0088】
[00123]さらに別の変形方法では、足場のコラーゲン原線維は、原線維が互いに接触している場所で局所的に吸収される放射線によって互いに直接結合することができる。外因性の媒介分子がエネルギーの量子を捕捉する必要はない(コラーゲン性の組織に存在するグリコアミノグリカン(GAG)などの内因性分子が同様の機能を提供する可能性はあるが)。量子は、接触事象の接合点で直接かつタイムリーに吸収される。この方法は、種々の形態の直接照射、例えば、可視光、青色、又はUVの放射線、ガンマ線、さらには電子ビームを利用することができる。好ましい一エネルギー源は、少なくとも100ジュール毎1平方センチメートル、又は少なくとも200ジュール毎1平方センチメートル、又は少なくとも300ジュール毎1平方センチメートルのエネルギー密度を有するUV光である。例えば、活性放射線の望ましいエネルギー密度は、約100~約5000ジュール毎1平方センチメートルまで、又は約200~約1000ジュール毎1平方センチメートルの間、又は約300~約600ジュール毎1平方センチメートルの間の範囲とすることができる。
【0089】
[00124]コラーゲン足場の密度(圧縮/締固め)は、架橋形成の速度においてある役割を果たすことができる。コラーゲン濃度がより高い場合(すなわち、コラーゲン足場がより圧縮されている、又はそうでなければ締固めされている場合)、架橋形成のプロセスはより速く進行することができる。
【0090】
[00125]純粋な放射線誘導架橋形成に必要な臨界(閾値)線量が単独で(リボフラビンのような任意の媒介剤なしで)、脱細胞化プロセスと相関している可能性がある。非脱細胞化実質の閾値線量は、脱細胞化コラーゲン足場の閾値線量よりも3~300倍も大きいことがある。(この比率はまた、適用される放射線の波長と相関していることがある。)本発明の別の態様では、脱細胞化が実質に存在する細胞外物質(GAGのような)のうちのより多くを除去する場合、コラーゲン架橋形成の閾値が低下することが発見された。閾値の差は、適用される脱細胞化プロトコル及び放射線の波長に応じて、1桁も異なる場合がある。こういった架橋形成閾値が低下することは、脱細胞化プロトコルの強度と相関していると思われる。
【0091】
[00126]架橋形成は、専用のUV放射線源を介して(或いは、環境UV放射線、例えば、太陽光によって)、圧縮/締固めと同時に又は後続のステップで、実行することができる。
【0092】
[00127]光エネルギーを使用して架橋形成を誘導する場合、光の吸収は、ビールの法則によって決定される可能性がある。すなわち、より多い光が、光が衝突する材料の表面層で吸収されることになり、材料のより深い層でより少ない量が吸収されることになる。架橋形成を誘導するのに利用可能な光の量は指数関数的に、本質的に減衰する。足場内の光散乱分子の量に差がある場合、このことはまた、エネルギーの分布に影響を与える可能性があり、その理由は、照射された材料の下にある領域へと通過することができる光の量を散乱剤が低減することになるからである。本発明では、このような効果を、段階的度合いの架橋形成を生み出すのに及び/又は活性放射線に曝露される足場の表面領域に様々な特性を付与するのに、効果的に使用することができる。
【0093】
[00128]したがって、光エネルギー単独の、又は光散乱剤の導入(例えば、表面コーティングとして)と一体の、自然吸収プロファイルは、選択的な表面架橋形成のオプション及び/又はコラーゲン足場の表面下のより少ない架橋形成度を提供する。レンチクルの表面の選択的架橋形成は、表面に異なる接着性、透過性、又は平滑さを付与するのに、又は移植後のレシピエントの細胞によるより大きな又は小さい浸透を容易にするのに、利点を有し得る。例えば、足場が、コラーゲン密度約60%に圧縮され、深さ約5~10マイクロメートルのまでの表面で選択的に架橋される場合、表面は高密度を保持することになるが、一方、足場の残りの部分は、脱細胞化プロセスの後のその足場の拡張状態から依然として変わらないことになる。このような高密度化表面が擬ボーマン膜を形成することができる。
【0094】
[00129]さらに、表面架橋形成を用いて、光散乱体で表面の一部を選択的に処理すること、又はパターン化されたマスクを介して足場を曝露させることによって、前面、後面、又は両面にパターン化された効果を付与することができる。表面のパターニングは、表面の一部の摩擦又は接着性を選択的に改変することができる。
【0095】
[00130]足場の表面を選択的に架橋する3つの方法が存在する。第1に、足場において強い吸収を有する短波長UV放射線を使用することによって、浸透の深さを制限することができる。このアプローチでは、好ましい波長は、約230~約150ナノメートルまでの範囲となり、より好ましくは、約215~約193ナノメートル(例えば、193nm)までの範囲となる。放射線の衝突角度は通常、表面の法線であるが、面法線に対して0~60度の間で変化してもよい。
【0096】
[00131]或いは、より長い波長のUV放射線を使用することができるが、例えば、その結果、約400ナノメートルまで及び、60度より大きい、好ましくは75度より大きい又はより高い、例えば、約80度~約89.9度までの範囲で、微小入射角度で足場に侵入する。この方法の一利点は、そういった放射線源が工業的用途であるので、約280ナノメートル以上の波長で信頼できる強力なUV放射線源が容易に利用可能なことである。レーザー光の空間干渉性が良好な微小入射角度の画定を可能にするので、光源としてのレーザー放射線の用法もまた好ましいことがある。
【0097】
[00132]さらに別の代替法では、エバネッセント波スラブ導波管を使用することができる。この導波管は、非常に浅い架橋形成深度(入射光の波長程度)を可能にする。例えば、380ナノメートルのUV放射線を使用する場合、架橋形成はマイクロメートル以下の表面層に留めることができる。
【0098】
[00133]重要なことに、レンチクルの前面を高密度化する(又はより力強く選択的に架橋形成する)ことによって、レンチクルの前面は後面とは異なるテクスチャーを呈することになるが、その理由は、ボーマン膜は、しっかりと交織したコラーゲンタイプI原線維に起因してより密及びより平滑であるからである。後面(前面の反対側)は、レンチクルのこの部分の組成のより低い密度(及び組織の機械的カット又はレーザーカットによって形成されるという事実)に起因して、より粗くなる。レンチクルが実質内又は角膜内移植用に使用される場合、粗さのこの違いは特に有利であり得、その理由は、レンチクルが実質床に丈夫に付着することが高度に望ましいことがあるからである。処置後に最善ではない屈折の結果が観察される場合、フラップを再び折り返して、レーザーアブレーション等によるさらなる角膜移植(レンチクルの再切削)を可能とする必要があるかもしれない。実質床においてのレンチクルの当初の位置からのレンチクルのどんな移動でも、このような角膜移植の効果を損なうおそれがある。さらに、レンチクルの前面の平滑さはまた、フラップを再切開することがレンチクルを脱落させてしまうことになる可能性を小さくする。
【0099】
[00134]本発明のさらに別の態様では、摘出、成形、及び脱細胞化の後に後面を処理して、後面を実質床により付着させることができる。例えば、滅菌及び包装の前に、架橋剤又は付着増強剤を適用することができる。或いは、架橋剤又は付着増強剤を、移植前の処置中に臨床医によって適用することができる。
【0100】
[00135]一部の実施形態では、採取、形状化及び脱細胞化されたレンチクルは、臨床医がフラップの再切開及びレーザーによる再切削調整中にレンチクルの適切な配向を維持できるような形でマーキングされる。マーキングは、さまざまな方法で行うことができるが、実質床にレンチクルが設置されると、全ての場合において患者にとって不可視となる。一部の実施形態では、マーキングは、レンチクルの上部前方部分又は底部前方部分の顕微鏡下の切痕とすることができる。一部の実施形態では、マーキングは、レンチクルの上部前方又は底部前方に配置された染料でなされた線又は点とすることができる。
【0101】
[00136]ドナー実質からレンチクルを形成する方法も本明細書で開示されている。一部の実施形態では、ドナー実質からレンチクルを形成する方法は、ドナー角膜の中央領域から実質の一部を除去するステップ、及び前記ドナー実質の後面を成形して、所望の形状のレンチクル本体を形成するステップを含む。非対称性の可能性を低減するために、組織セグメントは、例えば、ドナー角膜の光学軸又は幾何学的軸がレンチクルの中心に確保されている状態で、ドナー角膜の中央部分から取られるのが好ましい。組織セグメントの形状は、患者の屈折異常を矯正するのに必要なジオプトリー度数の変化によって決定されることになる。例えば、遠視(遠視眼)及び/又は老眼の矯正の場合、目標は通常、角膜の湾曲を高めることであり、所望のレンチクル形状は、少なくとも片側でやや凸状になる。レンチクルはまた、レンチクルの前面及び後面を確認するのに、レンチクルの周縁上に1つ又は複数の非対称マーカー(文字「L」のような)を含むことができる。
【0102】
[00137]本発明の足場は、足場を天然の実質組織よりも高い屈折率を有するように設計することができるという点において、屈折(例えば、相加的)レンチクルとしての利点をさらに提供することができる。現在、角膜の湾曲を改変する移植レンチクルの使用は、上皮の不安定性又は許容できない上皮糜爛が発生する前に、約50D未満(頂点の近傍で測定して)の総ジオプトリー度数(例えば、自然の角膜と相加的レンチクルのジオプトリー値の合計)に通常は制限されている。より高い屈折率を有する移植可能な足場は、より高い遠視矯正の可能性を与える。実質組織の標準的な屈折率は、通常は約1.376である。本発明の圧縮/締固め技法は、1.377より大きい、1.378より大きい、1.379より大きい、1.38より大きい又はより高い、屈折率を有する足場を提供することができる。レンチクルの屈折率の勾配は、制御された架橋形成によっても得ることができる。(このような勾配は、高次の屈折異常の矯正にも利用でき、この用語は、ヒトの目に関する高次ゼルニケ多項式によって説明することができる)。
【0103】
[00138]本明細書に記載の実施形態では、本発明の方法は、最善の結果に向けて設計されている形状及び密度を有するレンチクルを作製する。レンチクルは、ボーマン膜を前面として確保するように、ドナー実質から円板状の組織セグメントを最初に切離することによって得られる。一部の実施形態では、レンチクルの直径は、約0.5mm~約10mmまで、又は約3mm~約9mmまで、又は約4mm~約8mmまで及び約5mm~約7mmまで、である。組織セグメントは、スライスする処置中に所望の形状が得られるように、スライス及び/又はさらに成形又は切離することができる。切離は、例えば、マイクロ角膜切開刀等を用いて、レーザー加工によって、例えば、又はフェムト秒レーザーを用いた光切断によって、機械的に実行することができる。切離は、例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、「Surgical Apparatus and Blade Elements for slicing Lamellar Segments From Biological Tissue」と題する国際特許出願第PCT/IB2016/054793号に開示のものなどの機器を用いて実施することができる。
【0104】
[00139]レンチクルはまた、フェムト秒レーザーアブレーション、エキシマレーザーアブレーションによって、又はウォータージェットで切離することによって得ることができる。前部セグメントの確保が必要でない場合、レンチクルは、例えば、また参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、「Method For Corneal Laser Surgery」と題する、米国特許第6,110,166号に開示の小切開レンチクル抽出(Small incision Lenticule Extraction)(SMILE)技法によっても得ることができる。
【0105】
[00140]本明細書に記載の実施形態では、レンチクルの最大の厚さは、600マイクロメートル未満、400マイクロメートル未満、200マイクロメートル未満、又は100マイクロメートル未満、又は50マイクロメートル未満となる。直径が小さいほど、レンチクルが薄いほど、より速くレンチクルは患者の実質床へ一体化することができる。
[00141]ある特定の実施形態では、ドナー実質を脱細胞化して、細胞由来の免疫原に対する患者の側の有害反応の可能性が低減した状態のレンチクルを作製する。本発明の方法を使用して作製された脱細胞化レンチクルは、90パーセント~100パーセント、又は好ましくは95パーセント~99.99パーセント、又は98~99.9パーセント、細胞及び/又は細胞残遺が除去されている。典型的な角膜のうちのわずか約2パーセントが細胞から構成されている。残りの98パーセントは、ほぼ細胞外マトリックス(ECM)、主としてコラーゲン、水分、GAG及びプロテオグリカンである。脱細胞化プロセス後の細胞残遺の量を特徴付ける好ましい、主に実践されている方法は、DNA残留物又は代替的にRNA残留物の検出に基づいている。これらの方法は非常に感度が高く、高特異性である。これらの測定値は、脱細胞化ステップの前にレンチクルに存在するDNA/RNAの量に典型的には標準化されている。90%~99.99%の間のあらゆる可能な部分範囲を詳述せずとも、そのような全ての部分範囲が本発明の一部として企図及び考慮されることは明白である。例えば、作製されたレンチクルは、90%、95%、99%~99.7%、99.7%~99.9%又はより良好に、天然の細胞物質が除去されている(DNA/RNA残留含有量で評価して)。言い換えると、レンチクルに残留する細胞物質の量は、残留DNA又はRNAの含有量によって評価して、当初のDNA又はRNAの含有量の1重量パーセント未満、又は0.1重量パーセント未満、又は0.01重量パーセント未満とすることができる。(レンチクル抽出自体のおかげで、かなりの量の脱細胞化を行うことができる。角膜細胞の総含有量のうちの95%もが上皮と内皮に存在し、上皮と内皮は機械的に処分することができ、その結果、さらなる脱細胞化に向けて角膜実質のみを残留する。)
【0106】
[00142]ドナー実質からの細胞物質の除去(脱細胞化)は、様々な技法を使用して行うことができる。好ましい一実施形態では、角膜の細胞物質は、化学処理によって除去される。角膜から細胞を溶解及び除去するのに使用される化学物質としては、酸、塩基、界面活性剤(例えば、テトラデシル硫酸ナトリウム(STS))、イオン性洗浄剤(例えば、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS))、非イオン性洗浄剤(例えば、Triton X-100)及び両性イオン洗浄剤を挙げることができる。
【0107】
[00143]或いは又は加えて、角膜の細胞物質は、酵素処理を使用して除去される。リパーゼ、サーモリシン、ガラクトシダーゼ、ヌクレアーゼ、トリプシン、エンドヌクレアーゼ、及びエキソヌクレアーゼを使用して、角膜から細胞物質を除去することができる。一部の実施形態では、角膜の細胞物質は、物理的技法を使用して除去される。これらの物理的技法は、温度、圧力、及び/又は電気的破壊の使用を通して、組織のマトリックスから細胞を溶解、殺滅、及び除去するのに使用される方法を含む。温度ベースの脱細胞化法は、急速凍結プロトコルを含むことができる。このような温度ベースの方法は、ECM足場の物理的構造を保存する。圧力脱細胞化は、足場を損傷するおそれのある非監視の氷晶形成を回避するのに、高温での静水圧の制御使用を含む。原形質膜の電気的破壊は、角膜の細胞物質を溶解するための別のオプションである。
【0108】
[00144]一部の実施形態では、レンチクルはさらに処理されて、免疫原性エピトープの分解に起因してさらにより低い免疫反応性を呈することができる。これは、異種の提供を使用する場合、重要なステップである。例えば、異種組織で存在することができる2つの非ヒトエピトープは、N-グリコリルノイラミン酸(Neu5GC)及びガラクトース-アルファ-1,3-ガラクトース(アルファ-Gal)である。これらの望ましくないエピトープは、実質細胞の内部だけでなはなく又は表面に存在する;少部分のエピトープは、ECMコラーゲン原線維を取り囲む、ムコ多糖類としても知られるグリコアミノグリカン(GAG)に埋まっている場合がある。ある特定の実施形態では、そのようなエピトープは、キナーゼ又はガラクトシダーゼ処理などの酵素処理、及びさらなる洗浄によって除去する又はそのコンフォメーションを改変(免疫原を中和するため)することができる。或いは、角膜組織は、エピトープを欠いているノックアウトトランスジェニックブタから採取することができ、したがって、分解ステップを必要とせずに非免疫原性レンチクルを作製することができる。一部の場合では、エピトープ中和の前に、上皮細胞層及び/若しくは内皮細胞層又は残留物をレンチクルから除去することも好ましいことがある。このようなことは、例えば外科用メスでの掻爬によって、又は例えば適切な粗さの研磨材でのこすり落とし(rubbing)によって行うことができる。
【0109】
[00145]本明細書に記載の実施形態では、脱細胞化レンチクルを作製する方法は滅菌ステップをさらに含むことができ、このステップは包装及び密封と併せてもよい。滅菌は、ウエットな薬剤、ガンマ放射線、又は電子ビームを使用して行うことができる。一実施形態では、コラーゲン足場への損傷が生じる可能性が低いので、脱細胞化レンチクルの滅菌は電子ビームを使用して実行される。或いは、架橋形成を誘導するのに利用される放射線はまた、レンチクルの滅菌に十分なエネルギーを提供することができる。
【0110】
[00146]一部の実施形態では、採取、形状化及び脱細胞化されたレンチクルの調製は、臨床医がフラップの再切開及びレーザー調整中にレンチクルの適切な配向を維持できるような形で、レンチクルをマーキングするステップを含むことになる。マーキングは、さまざまな方法で行うことができるが、レンチクルが設置されると、全ての場合において患者にとって不可視となる。一部の実施形態では、マーキングは、レンチクルの上部前方部分又は底部前方部分の顕微鏡下の切痕とすることができる。一部の実施形態では、マーキングは、レンチクルの上部前方又は底部前方に配置された染料でなされた線又は点とすることができる。これらの方法はまた、レンチクルの前面及び後面を確認するのに、レンチクルの周縁上に1つ又は複数の非対称マーカー(文字「L」のような)を刻み込むステップを含むことができる。
【0111】
[00147]使用される方法及び材料を例示する本発明及び実施形態は、以下の例示的なプロトコルを参照することによってさらに理解されよう。角膜組織は、ブタのドナーから採取することができる。レンチクルは、レンチクルの前面及び密度がより低い後面にて高密度のコラーゲンタイプI原線維又はボーマン膜を維持するように、ドナー実質内の領域から取ることができる。或いは、角膜組織は、自然に高密度化した面の下の実質領域から取ることができる。
【0112】
[00148]図1Aに示すように、ドナー角膜の標的領域を、前面12、後面14、及びコラーゲン原線維16の組織化された層を有する円板状のレンチクル10Aに切離することができる。この段階で、レンチクルは直径約0.5~10ミリメートルまで、及び厚さ250マイクロメートル未満を、典型的に有することになる。
【0113】
[00149]図1Bは、細胞物質が95~99.99%除去されているレンチクルを作製するための、例えば、化学的処理、酵素処理、又は物理的技法による脱細胞化の後の、レンチクルを示す。所望の場合、脱細胞化、形状化レンチクルをさらに処理して、免疫原性エピトープを分解することができる。レンチクルはさらに洗浄及び滅菌することができ、所望の場合、架橋剤をレンチクルの前面及び/又は後面に適用することができる。脱細胞化レンチクル(洗浄剤、界面活性剤及び/又は洗浄液の適用により典型的には膨潤している)は、原線維層16のより大きい間隔を呈する。一部の実施形態では、レンチクルの上部前面はまた、切痕でマーキングして、患者の実質床におけるレンチクル配向を補助することができる。
【0114】
[00150]図1Cでは、脱細胞化(かつ潜在的に膨潤した)レンチクルは、レンチクル本体から過剰な流体を追い出すとともにコラーゲン密度を上昇させるために、次いで圧縮に供される。コラーゲン原線維層を一緒に圧縮し、次いで、少なくとも部分的に架橋して、その後の膨潤を防止する。
【0115】
[00151]図2では、コラーゲン原線維層が圧縮/締固め及び架橋されている前面領域22を有するレンチクル20が示されている。レンチクル20のバルク領域24も架橋して、膨潤を防止することができるが、前面領域22と同程度ではない。
【0116】
[00152]図3では、一方の表面(例えば、後面14)をパターン32と共に形成して、術後の一体化を促進しているレンチクル30が示されている。パターン32は、薬剤の選択的適用、選択的照射、又はこれらの技法の組み合わせによって形成することができる。(パターンは、前面12、後面14、又は両面に適用できることは明白である。)
【0117】
[00153]図4Aは、製造及び/又は輸送中、多くの場合では典型的な形状である、平坦な形状にある、本開示によるレンチクル40Aを例示する。
【0118】
[00154]図4Bは、角膜内移植用の例示的な最終湾曲状態にあるレンチクル40Bを例示している。レンチクルは、さまざまな屈折異常又は眼の状態を矯正するのに種々の形状を取ることができる(下でさらに論議する)。レンチクルは球体又は回転楕円体の形状として一般に例示されているが、同様に楕円体又は任意の望ましい形状(例えば、部分的に環状体)であってもよいことは明白である。このような形状は、患者の視力における乱視又は高次収差を矯正するのに有用であり得る。このような非球面形状は、患者の角膜(cornel)又は角膜輪部の形状とマッチする上で有用であり得る。
【0119】
[00155]図5Aは、遠視状態を矯正するために角膜内移植用に設計されたレンチクル50Aを例示する。図5Bは、近視状態を矯正するために角膜内移植用に設計されたレンチクル50Bを例示する。図5Cは、老眼状態を矯正するために角膜内移植用に設計されたレンチクル50Cを例示する。図5Dは、円錐角膜として知られる状態を矯正するために角膜内移植用に設計されたレンチクル50Dを例示するが、この場合、角膜の自然なコラーゲン性構造は、損傷、遺伝、又は他の眼の状態、例えば、角膜内の酵素活性又はシグナル伝達活性のインバランスに起因してもろくなっている。レンチクル50A、50B、50C及び50Dは、角膜内の実質内(自然の実質の層間)移植用に典型的には設計されている。実質組織2内にレンチクルを配置することによって、上皮領域4と内皮領域6が確保される。
【0120】
[00156]図6Aは、レンチクルの別の実施形態を例示するが、この場合、下でより詳細に論議するように、例えば、全層角膜移植(PK)又は深層層状角膜移植(DALK)中に外科的縫合の付着のために、さらなる機械的強度の領域を形成するように強い架橋形成の局所スポット61とともに、レンチクル60Aが製造されている。
【0121】
[00157]図6Bは、レンチクルのさらに別の実施形態を例示する。この実施形態では、レンチクル60Bは、中程度の架橋形成を有する中央の光学活性ゾーン65(例えば、約3~6.5ミリメートルの主直径寸法を有する)と、強い架橋形成を有する外周ゾーン又は周辺部ゾーン63とを含んで、ここでもまた、例えば、外科的縫合の付着のために、又は視覚ゾーンの外側の角膜的にもろくなった実質のサポートにおいて、さらなる機械的強度の領域を形成する。ゾーン63と65は同心円である必要はないことに留意されたく、例えば、円錐角膜の治療のような場合、光学活性ゾーンをレンチクルの中心からずらすことが望ましいことがある。
【0122】
[00158]図7Aは、異なるタイプの角膜内移植、すなわち、深層層状角膜移植(DALK)用の、本開示によるレンチクル70Aの使用を例示する。この処置では、眼の前部セグメントが最初に除去され、レンチクル70が眼内に配置されて、天然のボーマン膜3及び実質2の一部と置き換わる。レンチクル70Aは、縫合7によって所定の位置に最初に固定することができる。任意選択で、レンチクル70Aは、レンチクル形成の脱細胞化ステップ及び圧縮ステップを通して確保されるインタクトのボーマン膜を有する天然のドナー組織から形成することができる。或いは、レンチクルの前面は、例えば、浅い放射性架橋形成によって選択的に処理して、ボーマン膜様構造を形成することができる。いずれの場合も、角膜内移植に続いて、患者の周辺上皮は移植されたレンチクルの前面にわたって成長することができる。
【0123】
[00159]図7Bはレンチクル70Bの使用を例示するが、このレンチクル70Bは、図7Aに示したDALKレンチクルに類似するが、典型的にはより薄く(例えば、200マイクロメートル未満)、患者のインタクトのボーマン膜3の上であるが上皮4の下の配置向けに構成されている。この処置では、「表層角膜移植術」と呼ばれることもあるが、レンチクル70Bをここでも縫合7で所定の位置に固定することができる。
【0124】
[00160]図7Cは、本開示によるレンチクル70Cのさらに別の実施形態を例示し、この場合、全層角膜移植(PK)術用に設計されている。レンチクル70Cは、図7Aに示したDALKレンチクルに類似しているが、中央の角膜組織の全深さ、すなわち角膜後部の内皮6、実質2及びボーマン膜3と完全に置き換わるように構成されている。レンチクル70Cは、ここでも縫合7によって所定の位置に固定することができる。レンチクル70Cの角膜内移植に続いて、患者の周辺上皮は、移植されたレンチクルの前面にわたって成長することができる。
【0125】
[00161]図8A図8B及び図8Cは、例えば、DALK術及びPK術で有用なものなどの、厚いレンチクルの周辺部用の2つの代替設計を例示する。図8Aに、単純な、例えば、円筒形又は円錐形の周縁を有するレンチクル80Aが示されている。図8Bに、レンチクルの周辺部にジグザグ又は階段状の縁を有するレンチクル80Bが示されている。形状化された縁は、天然の角膜に形成されている相補的な構造と対合するように設計されて、レンチクル80Bの残留している天然の角膜組織への接合をさらに補助することができる。階段状の変形形態(例えば、逆のジグザグ)も用いることができる。図8Cに示すように、周縁のさらにより高度化した形状を用いて、天然の角膜への機械的なラッチイン又はロックインを可能にすることができる。ロックイン機能は、一部の場合では、ラッチインエッジに沿った外科的縫合の必要性を低減又は排除することができる。そのようなレンチクルの周辺部は、中央部分よりも強く架橋することができる。
【0126】
[00162]一部の場合では、これらの厚いレンチクルの厚さは、中央から縁まで変化することができる。例えば、レンチクルの厚さは中央での約400マイクロメートルから周縁での550マイクロメートルまで変化することができる。このことは、ほとんどの角膜に見られる自然な厚さの変化と一致しているが、この場合、典型的なインタクトの角膜は中央角膜の厚さ約500マイクロメートルを呈し、一方、角膜の周辺セグメントは550~約650マイクロメートル程度の厚さを呈することができる。
【0127】
[00163]図9は、本発明によるコラーゲン足場を圧縮するのに使用するためのプレス90を概略的に例示する。プレス90は、フレーム92及び可動ステージ94を含むことができる。フレームは、上部プレス要素96を保持し、ステージは、底部プレス要素98を保持する。これらの要素のうちの少なくとも1つは、非平面であり、足場の所望の最終形状に一致するように成形されている。要素96及び98は、推進力の適用(ウォームスクリュー91によって概略的に例示されている)によって圧縮に至ることができる。ある特定の実施形態では、プレス要素96と98の間での圧縮に保持されている足場を、足場が成型されているのと同時に、例えば、UV放射線源93によって照射することができるように、プレス要素96、98のうちの少なくとも1つは透明とすることができる。
【0128】
[00164]図10A及び図10Bは、本発明による2パーツの密封圧縮及び保管容器又はモールド101を例示する。容器/モールド101はモールドベース102とモールド上部104を備えることができ、モールドベース102とモールド上部104の間にチャンバ105を画定する。モールド101の目的は、足場100A、例えば、脱細胞化された実質のコラーゲン性(細胞外マトリックス)足場を圧縮すること、及び同時に足場から流体を除去することである。図10Aは、足場の圧縮前の状態のモールド101を例示する。シール106、例えば、Oリング又はフラットガスケットシールは、モールド上部104とモールド底部102を最初のうちは分けている。一部の場合では、足場100Aによって占められていないチャンバ105の残りを流体107で満たして、圧縮中に足場でのガスの巻込みを回避することが望ましい場合もある。シール106は、足場から追い出された流体、並びにチャンバ101の足場を最初のうちは囲んでいる任意の流体を収容するように構成されている。図5Aに、圧縮前であるが、シール106が周囲環境からの隔離を生み出すその最初の瞬間にある、モールドが示されている。
【0129】
[00165]モールドの上部分104は、足場を架橋するために活性放射線が足場を通過することを可能とするように、少なくとも部分的に透明又は半透過性とすることができる。或いは、又は加えて、モールド底部102を、活性放射線に対して透明とすることができる。モールドの透明部分は、モールドが放射線透過を可能にするのに十分に透明又は半透過性である限り、プラスチック、ガラス、セラミック若しくは金属、又はこのような材料の任意の組み合わせで作製することができる。
【0130】
[00166]図10Bは、足場100Bの圧縮後のモールド101を例示する。シール、例えば、Oリング106は溝(grove)103内を移動することができ、その結果、溝は追い出された流体を収容する。(他の種々の排水機構も用いることができる。)この状態で、モールド101を、架橋形成及び滅菌に使用することができる。放射線の適切な波長とフルエンスが選択されている場合、このような滅菌を架橋と同時に行うことができる。(多くの場合、ウイルスの活力喪失に必要な放射線量は、架橋形成に必要な線量よりもはるかに少なくなる)圧縮され、滅菌されたモールドは、運送又は長期保管にさらに使用することができる。活性架橋放射線、例えば、UV放射線の場合、滅菌の目的についても効果的とするために、放射線はこのプロセス中にレンチクルの全ての表面に到達する必要がある。したがって、シール(例えば、選択した活性放射線に透過性であるOリング又はフラットガスケット)を用いることが望ましいことがある。例えば、成型中にレンチクルを架橋も滅菌も両方するようにUV光を使用する場合、シールは、フルオロポリマーなどの、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素化エチレンプロピレン(FEP)、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)又はパーフルオロアルコキシ(PFA)の組成物であるが、UV透過性又は半透過性材料から作製することができる。
【0131】
[00167]圧縮前の足場又はレンチクルの形状とモールドのマッチング形状は、圧縮後もレンチクルの密度が依然として均一のままであることを、典型的には確実にする。例えば、圧縮は、垂直寸法を半減し、密度を2倍に均一に高めることができる。
【0132】
[00168]図10C~10Fは、圧縮/締固め用の代替のプロセス及び装置を例示するが、この場合、レンチクルは、水分を除去するようにまず処理され、次いで、制御された再水和によって成形される。摘出組織部分は、上記の方法のいずれかによって最初に成形及び脱細胞化することができる。次いで、生じる足場は少なくとも部分的に乾燥される。乾燥は、エタノール流体交換のように化学的プロセス、又は乾燥、真空凍結乾燥、若しくは凍結乾燥のように、例えば、乾燥装置で昇華する固体COに曝露することによって、物理的プロセスを通していずれかで得ることができる。レンチクルの厚さは、例示のモールド201などのモールドにはめ込むことができるように十分に薄くされている限り、乾燥は部分的であってもよい。
【0133】
[00169]図10Cはモールド201の分解組立図を例示するが、モールド201は、ベース部分202及び上部分204を備えることができ、ベース部分202及び上部分204は、お互いに対合するように設計され、ベース部分202及び上部分204の間にチャンバ216を画定する。モールドのベース部分及び上部分が架橋放射線に対して透明でない場合、放射線透過性の窓210もモールド201の一部として含ませることができ、チャンバ216の一部を形成する。チャンバ216は、チャンバ216の内に配置されることになる乾燥レンチクルよりも大きい。チャンバ216の形状は、再水和に続いて、レンチクル又は足場の所望の形状を画定する。チャンバは、レンチクルに湾曲した形状(例えば、凹面の、凸面の、平凹面の、平凸面の、乱視の又は他の複雑な構成)を付与することができる。チャンバ216の適切な設計によって、乱視矯正の有無にかかわらず近視、遠視、又は老眼の屈折治療向けに、レンチクルは成形することができる。特注のチャンバ形状を、例えば、円錐角膜又はLASIK後拡張症などのより複雑な病状を処置するために考案することができる。或いは、所望の結果が平坦な又はプレート状のレンチクルである場合、チャンバは厚さが実質的に均一とすることができる。
【0134】
[00170]図10C~10Fに示すように、上部分及びベース部分は、例えば、ねじ206によって一緒に固定することができるが、ねじ206は、上部分204の孔208を通過し、ベース部分202のねじ山状のねじ受け部212によって受けられる。他の種々のメカニズムを使用して、ベース部分202と上部分204(及び任意選択のウィンドウ210)を一緒に接合することができることは、明白である。例えば、モールドは、ベース部分及びねじ山状の上部分又はヒンジ状の上部分によって形成することができる。モールドの一方の部分を「ベース」部分として、別の部分を「上」部分として指定することは、単に説明の簡便さのためであり、なんら必要な配向を表すものではない。
【0135】
[00171]図10Dは、その閉鎖構成のモールド201を例示する。図10Eは、閉鎖モールド201の上面図であり、また、活性放射線が通過してレンチクルの架橋形成を誘導することができる窓210を示す。
【0136】
[00172]図10Fの断面図に示すように、乾燥レンチクル200は、チャンバ216モールド201へとロードすることができる。次いで、モールド201を、密閉して、膨潤中にレンチクルの形状を閉じ込める。モールドに拘束されている一方で、レンチクルは、流体注入チャネル212を介して流体(例えば、水、アルコール、水とアルコール若しくは重アルコールの混合物、又はその他の流体)によって溢れ、その結果、レンチクル200は膨潤し、固定式モールド201の形状を取ることができる。モールドはまた、1つ又は複数の出口チャネル214を有して、モールドが満たされ、レンチクルが膨潤してチャンバの形状を帯びる際に、チャンバから過剰の流体又はベントガスを除去することができる。
【0137】
[00173]レンチクルの再水和は、緩徐に(例えば、数分又は数日にもわたって)起こる場合もあり、モールドの断続的又は一定の物理的振とうによって、又は音響エネルギーの適用によって(例えば、超音波によって)補助することができ、その結果、内部張力を全体的に最小化にしつつ、レンチクルがその望ましい形状を帯びることが可能となる。
【0138】
[00174]再水和すると、レンチクルは、上記の技法のいずれかによって架橋することができる。例示の実施形態では、モールドは、架橋形成ステップのために1つの放射線透過性窓(例えば、サファイア又はUV放射線が使用される場合は他の適切な材料から形成される)を有する。或いは、モールドの両側の窓を用いて、いずれかの方向又は両方向からの放射性アクセスを提供することができる。
【0139】
[00175]図11は、足場161を伸展させるための本発明によるさらなる装置110を例示するが、この足場は、天然の脱細胞化実質摘出物であっても、脱細胞化され最初の圧縮処理を受けた足場であってもよい。この実施形態では、足場161は、例えば、平坦な2つフランジの間で足場161の周縁を圧着することによって、密閉機構167によって、チャンバ163の開口部に付着されている。(圧着の代わりに、又は圧着に加えて、他の種々の密閉機構を用いて、足場とチャンバの開口部との間の液密接続を形成することができる。)次いで、流体166を、制御された圧力導管165を介してチャンバ163に導入して、チャンバの内部を満たし、足場161に圧力を加える。例えば、水平方向及び/又は接線方向の伸展は、チャンバ内で十分な静水圧、例えば、約30~約500mbarまで、好ましくは約50~約200mbarまで(又は約22.5~約375Torrまで、好ましくは約37.5~約150Torrまで)の圧力を維持することによって得ることができる。
【0140】
[00176]足場に機械的応力を適用する流体が純水又は平衡塩類溶液(BSS)である場合でも、この流体圧力の適用はまた、足場を解膨潤(遊離水を放出)させることができる。流体は、足場から任意の方向に流出することができる(例えば、加圧流体チャンバへの移動若しくは足場の外面からの滲出による移動、又はその両方の移動)。高張液又は低張液をチャンバ163で用いて、この効果を増強又は制限することもできる。
【0141】
[00177]ECM足場をこのタイプの伸展に曝露することによって、コラーゲン原線維を整合させて湾曲した形状を構築することができる。所望の湾曲が得られる場合、示されるように、架橋形成によって、例えば、活性放射線168によって、形状を確保(又は固定)することができる。
【0142】
[00178]図12では、図6の装置と同様であるが、足場の同時である伸展及び圧縮のための、並びに架橋放射線への曝露を容易にするための、圧縮を加えるプレート要素171の付加を伴う、さらに別の代替装置120が示されている。水平方向及び/又は接線方向の伸展は、チャンバ内で約30~約500mbar、好ましくは約50~約200mbarの十分な静水圧を維持することによって、ここでももたらされる。垂直圧縮/ラジアル圧縮は、上部プレート171によって同時に適用することができる。好ましくは、上部プレート171は、足場を架橋するために活性放射線が上部プレートを通して足場へと通過することを可能とするように、少なくとも部分的に、透明である、例えば、清明又は半透過性である。
【0143】
[00179]上部プレート171は平坦なプレートとして例示されているが、この圧縮性要素のトポグラフィは、コラーゲン原線維の構成が適切に固定されて所望の形状のレンチクルを構築することを確実にするように、所望の任意の形状及び/又は湾曲をとることができる。このような所望の任意の形状及び/又は湾曲は、放射線誘導架橋形成によって、ここでも確保又は固定することができる。
【0144】
[00180]図13は、本開示に従って作製されたレンチクルの透明度を測定するための装置130を例示する装置130は、光源132、キュベット134(レンチクル135を置くことができる)、レンズ136、及び検出器138を含む。光源、例えば、導波管/ファイバ及びビームコリメータ(図示せず)を備えた発光ダイオード(LED)は、好ましくは、コリメート光線133のビームを発生する。ビームは、そのビーム幅D(例えば、約5~7mm)にわたって平坦な(非ガウス)強度プロファイルの状態で空間的に干渉性である必要がある。例えば、光源132は、中央波長約500ナノメートル及び帯域幅約5~10ナノメートルを有する緑色光を発生することができる。
【0145】
[00181]光源132からの光は、レンチクル135が屈折率整合流体137(例えば、約1.376の屈折率nを有する、水と非混和性であり化学的に不活性であるシリコーンオイル又は他の流体)に懸濁されている、キュベット134に向けられる。(n=1.376の値は、天然の角膜組織の名目又は平均屈折率を表す。)一部の場合では、異なる屈折率のレンチクルを有することが有利であり得る。このような場合、キュベットの流体は、試験中のレンチクルの特定のn値にマッチするように選択されるであろう。次いで、キュベット134(及びレンチクル135)を通過する光は、選択されたビーム波長での球面収差が無い高品質レンズであるレンズ136に向けられる。レンズ136は、焦点距離fを有し、レンズ136の焦点面に位置する検出器138へと合焦された光を向ける働きをする。レンチクルの透明度が完全である場合(光源132からの光が検出器138に通過する光学要素に対して理想的な光学的透明度を仮定して)、検出器(焦点面に位置する)の間に衝突するビームのサイズは、均一強度の回折限界スポットであることになる。実際には、レンチクルは完全に透明であることはなく、検出器でのビーム強度画像は、足場内の光の前方散乱に起因してある程度のかすみを呈することになる。(レンズの焦点距離は、ビーム直径とともに、回折限界の角度の望ましい分解能を課すように選択する必要がある。)
【0146】
[00182]したがって、レンチクルの透明度は、検出されたビームの強度プロファイルを測定することによって評価することができる。強度又は輝度プロファイルを測定するための適切な光検出器としては、例えば、写真乾板、CCDアレイ又は走査ピンホール検出器を挙げることができる。
【0147】
[00183]図14は、レンチクルの散乱角度(本明細書では「θ」又は「シータ」と呼ばれる)を測定することによって透明度を定量化するそのような方法の例示である。図14は、レンズの焦点面で測定した輝度分布曲線を例示する。このガウス的分布は、散乱波面の全ての寄与の合計を表す。レンチクルでの散乱が多いほど、検出されるビームの幅が大きくなる。散乱(光学的透明度の低下)の一尺度は、図14に示すように、垂直半値の全幅(FWHV)である。(図14のガウス的曲線は理想化されたものであり、実際の輝度曲線はノイズ又はその他の偽信号によって歪む場合があることを理解されたい。)複数の測定と平均化(又は既知の他のノイズ低減信号処理技法)を使用して、レンチクルによる散乱の最良のデータ表現を得ることができる。焦点距離fで割ったFWHV値は、ビームの角発散(ラジアン表示で)の測定値をもたらす。
θ=FWHV/f[rad]
【0148】
[00184]シータは、散乱の量にのみ従属し、変換式:1arcmin=291microradを使用して分角で表現することもできる。本明細書に開示の方法によって製造されたレンチクルは、角度θが4分角未満、好ましくは3又は2分角未満、より好ましくは一部の場合では1分角未満である場合、満足な透明性を呈する(例えば、角膜内移植の場合)。
【0149】
[00185]先述のように、架橋形成はまた、レンチクル及び足場の「剛直性」を改変するのに、効果的に使用することができる。剛直性が向上したレンチクル及び足場は、本教示によって得ることができる。架橋コラーゲンの剛直性は、例えば、係数と呼ばれるパラメータμ、によって定量化することができる。年齢に応じた天然のヒト角膜コラーゲンの係数μ、の公称標準値は、約4×10パスカル(Pa)~約1.2×10Paである。さらに、ブタの眼(移植可能なレンチクル及び足場のコラーゲンの重要な給源とすることができる)の場合、角膜コラーゲンの平均係数μ、は約2×10パスカル(Pa)程度の低さであってもよい。
【0150】
[00186]本教示による締固め及び架橋形成の結果として、コラーゲン性レンチクル及び足場は、係数剛直性μ、2×10Pa超、又は8×10Pa超、又は1.6×10Pa超、又は2×10Pa超、又は3×10Pa超、又は5×10Pa超、又は8×10Pa超、又は1×10Pa超、又は3×10Pa超、又は5×10Pa超、又は1×10Pa超、を呈することができる。
【0151】
[00187]例えば、本教示によるレンチクル(足場を含めて)は、係数値μ、1×10Pa~1×10Paまで、又は2×10Pa~8×10Paまで、又は1×10Pa~5×10Paまで、又は3×10Pa~5×10Paまで、又は1×10Pa~2.6×10までの範囲、を呈することができる。
【0152】
[00188]架橋コラーゲンの向上した剛直性(より高い係数μ)を測定するための種々の技法は、当業者であれば明らかであろう。例えば、図15A~15B及び図16A~16Bの機器が例示的である。
【0153】
[00189]図15A~15Bに、円形の縁306を備えた内孔304を有するペデスタル302を備える、平坦な架橋レンチクル300の剛直性を測定するための装置301が示されている。試験されるレンチクル300は、ペデスタル上に配置され、縁306にまたがる。定められた重量及び幾何学のプランジャ320は、レンチクル300ときっかり接触して最初の距離Dにセットされる。レンチクル300は通常、約6~約9ミリメートルの直径、約0.1ミリメートル(100マイクロメートル)の厚さを有する。円形の縁(孔サイズ)306の直径は約5ミリメートルとすることができ、縁自体の曲率半径は、例えば、約0.2ミリメートル(200マイクロメートル)とすることができる。プランジャ320の直径は、例えば、約4ミリメートルとすることができる。一部の態様では、例えば、もろくなったレンチクルの剛直性を測定する場合、非限定的な例として、円形の縁(孔サイズ)306の直径は約2ミリメートルとすることができ、プランジャ320の直径は約1ミリメートルとすることができる。
【0154】
[00190]レンチクルと接触して最初に配置される場合、プランジャによって加えられている力はゼロである。好ましくは、ペデスタルの縁及びプランジャは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)又はポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などの低摩擦係数を有する材料から形成される。定められた力をプランジャ320によってレンチクル300に加えて、レンチクル300を下向きに伸展させることができ、プランジャによって移動した距離(D)を測定することができる。この距離D1から、係数μ、を導き出すことができる。或いは、プランジャ300を定められた距離D動かし、プランジャが受ける反対の力を測定して、係数μ、を導き出すことができる。
【0155】
[00191]図16A~16Bに、非平面形状を有する架橋レンチクル300A(例えば、湾曲した前面又は湾曲した後面のいずれか(又は両方)を有するレンチクル)の剛直性を測定するための類似の装置310が示されている。機器310はここでも、同様の寸法の円形の縁306を備えた内孔304を有するペデスタル302を備える。試験されるレンチクル300Aは、ペデスタル上に同様に配置され、縁306にまたがる。プランジャ320はここでも、レンチクル300Aときっかり接触して最初の距離Dにセットされる。プランジャ320によって最初に加えられる力はここでもゼロである。図15A~15Bに関連して上記の様式と同様の様式で、定められた力がプランジャ320に加えられるか、又はプランジャ300を定められた距離D動かして、レンチクル300を下向きに伸展させる。プランジャによって移動した距離(D)又はプランジャが受ける反対の力の測定から、レンチクル300Aの係数μ、を同様に導き出すことができる。
【0156】
[00192]本明細書で引用されるすべての特許文献又は刊行物は、参照によりその全体が組み込まれる。出願人の教示は様々な実施形態と併せて説明されるが、出願人の教示がそのような実施形態に限定されることは意図されていない。それどころか、当業者によって理解されるように、出願人の教示は、様々な代案、改変、及び均等物を包含する。一実施形態に関連して示される任意の要素又は特徴は、他の任意の実施形態に示される任意の要素又は特徴と交換可能に組み合わせて、又はそれに加えて使用することができ、要素及び特徴に関するかかる入替え全てが、本開示によって包含されると理解されるべきである。したがって、本発明は、本明細書に開示の実施形態に限定されるべきものではなく、法の下で認められる限り幅広く解釈されるべきである以下の特許請求の範囲から理解されるべきものであることが理解されよう。
さらなる実施形態は以下のとおりである。
[実施形態1]
ドナー角膜実質からレンチクルを形成する方法であって、前記レンチクルが角膜内移植に適合されており、且つ
前記ドナー角膜実質から水分を除去するステップ及び
前記ドナー角膜実質を閉じ込め空間で再水和して、レンチクルを得るステップ
によってさらに特徴付けられる方法。
[実施形態2]
前記実質の少なくとも一部を架橋して、一方で、閉じ込められた空間でその後の膨潤を防止するステップをさらに含む、実施形態1に記載の方法。
[実施形態3]
閉じ込められた空間で前記ドナー角膜実質を再水和する前記ステップが、前記レンチクルの少なくとも一部の向上したコラーゲン密度、又は向上した剛直性を付与する、
実施形態1又は2に記載の方法。
[実施形態4]
前記レンチクルの前記一部が、前記ドナー角膜実質の当初のコラーゲン濃度よりも、少なくとも15%超、又は少なくとも20%超、又は少なくとも30%超、又は少なくとも45%超、又は少なくとも60%超である、向上したコラーゲン密度を呈する、実施形態3に記載の方法。
[実施形態5]
前記レンチクルの前記一部が、係数剛直性μ、1.2×10 Pa超、又は1.4×10 Pa超、又は1.6×10 Pa超、1.8×10 Pa超、又は2×10 Pa超、又は3×10 Pa超、又は5×10 Pa超、又は8×10 Pa超、又は1×10 Pa超、又は2×10 Pa超、又は2.6×10 Pa超、又は3×10 Pa超、又は4×10 Pa超を呈する、実施形態3に記載の方法。
[実施形態6]
圧力、加速度(例えば、遠心力)、真空を足場に適用することによって、又は前記実質を凍結乾燥することによって、前記ドナー角膜実質から流体を除去するステップをさらに含む、実施形態1~5のいずれか1つに記載の方法。
[実施形態7]
前記実質を化学的脱細胞化剤で処理することをさらに含み、任意選択で、脱細胞化するステップが、水分を除去するステップの前若しくは後、又は架橋するステップの前若しくは後に行われ、さらに任意選択で、脱細胞化レンチクルが、残留DNA又はRNAの含有量によって評価して、当初のDNA又はRNAの含有量の1重量パーセント未満、又は0.1重量パーセント未満、又は0.01重量パーセント未満である細胞物質の残留量を呈する、実施形態1~6のいずれか1つに記載の方法。
[実施形態8]
架橋する前記ステップが、前記実質の少なくとも一部を架橋促進剤又は紫外放射線、X線、ガンマ放射線又は電子ビームなどの活性放射線に曝露することをさらに含み、任意選択で、架橋する前記ステップが、前記レンチクルの表面部分が足場のバルク領域よりも大きな程度の架橋形成及び高いコラーゲン密度を呈するように、前記レンチクルの前記表面部分を放射線に選択的に曝露することをさらに含む、実施形態1~7のいずれか1つに記載の方法。
[実施形態9]
架橋する前記ステップが、直接曝露によって、若しくは微小入射角度での曝露によって、又は足場の表面に接続されたエバネセント導波管を介して、圧縮された足場の少なくとも一部を紫外放射線に曝露すること、及び、任意選択で、任意の微生物因子を不活性化及び/又は前記足場を滅菌するのに十分な放射線を適用することをさらに含む、
実施形態1~8のいずれか1つに記載の方法。
[実施形態10]
コラーゲン性のレンチクルであって、
前記コラーゲン性のレンチクルに所望の形状を提供する、前面及び後面を有する、角膜ドナー組織に由来するレンチクル本体を含み、
前記コラーゲン性のレンチクルは、
前記角膜ドナー組織であり、流体が低減しており、且つ、少なくとも一部がドナー角膜実質の当初のコラーゲン濃度よりも、少なくとも15%超、又は少なくとも20%超、又は少なくとも30%超、又は少なくとも45%超、又はなくとも60%超であるコラーゲン濃度を呈するように、制御された方法で再水和されている、前記角膜ドナー組織から形成されていること、
前記レンチクル本体は、前記レンチクル本体が、係数剛直性μ、2×10 Pa超、又は8×10 Pa超、又は1.6×10 Pa超、又は2×10 Pa超、又は3×10 Pa超、又は5×10 Pa超、又は8×10 Pa超、又は1×10 Pa超、又は2×10 Pa超、又は3×10 Pa超、又は4×10 Pa超、又は5×10 Pa超、又は1×10 Pa超を呈するように、少なくとも部分的に架橋されているコラーゲンをさらに含むこと、
によってさらに特徴付けられる、コラーゲン性のレンチクル。
[実施形態11]
前記コラーゲン性のレンチクルに残留する細胞物質の量が、残留DNA又はRNAの含有量によって評価されて、当初のDNA又はRNAの含有量の1重量パーセント未満、又は0.1重量パーセント未満、又は0.01重量パーセント未満であるように、脱細胞化されている、実施形態10に記載のコラーゲン性のレンチクル。
[実施形態12]
円板状の平面又は非平面の形状及び約0.5ミリメートル~約10ミリメートルの直径、及び約600マイクロメートル未満、約400マイクロメートル未満、又は約200マイクロメートル未満又は約100マイクロメートル未満、又は50マイクロメートル未満の最大の厚さを有することによって、角膜内移植に適合されている、実施形態10又は11に記載のコラーゲン性のレンチクル。
[実施形態13]
角膜内インプラントとしての使用向けに十分な光学的透明度を有し、任意選択で、3分角未満、又は2分角未満、又は1分角未満の散乱角度、シータを呈する、実施形態10~12のいずれか1つに記載のコラーゲン性のレンチクル。
[実施形態14]
UV放射線又は電子ビームなどの放射線によって滅菌されている、実施形態10~13のいずれか1つに記載のコラーゲン性のレンチクル。
[実施形態15]
保管及び/又は運送向けに前記コラーゲン性のレンチクルを囲んでいる容器をさらに含む、実施形態10~14のいずれか1つに記載のコラーゲン性のレンチクル。
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図8C
図9
図10A
図10B
図10C
図10D
図10E
図10F
図11
図12
図13
図14
図15A
図15B
図16A
図16B