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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-27
(45)【発行日】2025-06-04
(54)【発明の名称】太陽光集熱システム
(51)【国際特許分類】
   F24S 50/80 20180101AFI20250528BHJP
   F24H 1/18 20220101ALI20250528BHJP
   F24H 15/215 20220101ALI20250528BHJP
   F24H 15/219 20220101ALI20250528BHJP
   F24H 15/258 20220101ALI20250528BHJP
   F24H 15/335 20220101ALI20250528BHJP
   F24H 15/31 20220101ALI20250528BHJP
   F24H 1/00 20220101ALI20250528BHJP
   F24S 90/00 20180101ALI20250528BHJP
【FI】
F24S50/80
F24H1/18 G
F24H15/215
F24H15/219
F24H15/258
F24H15/335
F24H15/31
F24H1/00 621C
F24S90/00 100
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023188416
(22)【出願日】2023-11-02
(65)【公開番号】P2025076665
(43)【公開日】2025-05-16
【審査請求日】2025-02-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100218132
【弁理士】
【氏名又は名称】近田 暢朗
(72)【発明者】
【氏名】杉本 明男
(72)【発明者】
【氏名】上松 康二
(72)【発明者】
【氏名】小林 学
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 亮
【審査官】奈須 リサ
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-43359(JP,A)
【文献】特開平8-94190(JP,A)
【文献】特開2017-166783(JP,A)
【文献】特開2008-111650(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24H 1/00-15/493
F24S 10/00-90/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱媒を流通させるための中空部、太陽光を受光する受光部、及び周囲空気との間で対流伝熱を行わせる非断熱部を有し、前記太陽光からの輻射熱及び前記周囲空気からの対流熱を前記熱媒に伝達する太陽光集熱パネルと、
前記熱媒を貯留する熱媒タンクと、
前記熱媒タンクから前記太陽光集熱パネルに前記熱媒を送り、前記太陽光集熱パネルから前記熱媒タンクに前記熱媒を送る熱媒循環ラインと、
前記熱媒循環ラインに沿った前記熱媒の流通可否の切換、及び前記熱媒の流量の調整の少なくともいずれかを行う熱媒流通制御機構と、
制御装置と、を備え、
前記太陽光集熱パネルが、光透過性を有する材料で成形された外皮で躯体の全体を覆ってなる農業ハウスの内部に設置され、
前記制御装置が、
前記太陽光集熱パネルへの輻射入熱量を測定し、
前記太陽光集熱パネルと前記周囲空気との間の対流伝熱量を測定し、
前記輻射入熱量及び前記対流伝熱量に基づいて、前記熱媒流通制御機構を制御する、
太陽光集熱システム。
【請求項2】
前記対流熱が前記太陽光集熱パネルから前記周囲空気に伝達されるときに、前記対流伝熱量が負となり、
前記制御装置は、前記対流伝熱量が負であり、且つ前記輻射入熱量が前記対流伝熱量の絶対値未満である場合に、前記熱媒の前記太陽光集熱パネルへの供給を停止するように、前記熱媒流通制御機構を制御する、
請求項1に記載の太陽光集熱システム。
【請求項3】
前記制御装置は、前記輻射入熱量と前記対流伝熱量との和を獲得熱量として算出し、前記獲得熱量が正である場合に、前記熱媒が前記太陽光集熱パネルに供給されるように、前記熱媒流通制御機構を制御する、
請求項2に記載の太陽光集熱システム。
【請求項4】
前記制御装置は、前記対流伝熱量が正である場合に、前記熱媒が前記太陽光集熱パネルに供給されるように、前記熱媒流通制御機構を制御する、
請求項2に記載の太陽光集熱システム。
【請求項5】
全天日射量を測定する日射計を更に備え、
前記制御装置は、前記日射計で測定された前記全天日射量と、前記受光部の表面積とに基づいて、前記輻射入熱量を単位時間当たり熱量として測定する、
請求項1から4のいずれか1項に記載の太陽光集熱システム。
【請求項6】
前記太陽光集熱パネルの前記周囲空気の温度を測定する外気温度センサと、
前記太陽光集熱パネル側の温度を測定するパネル温度センサと、を更に備え、
前記制御装置は、前記外気温度センサ及び前記パネル温度センサそれぞれで測定された前記温度の差と、前記非断熱部の外表面積と、前記非断熱部の対流熱伝達率とに基づいて、前記対流伝熱量を単位時間当たり熱量として測定する、
請求項1から4のいずれか1項に記載の太陽光集熱システム。
【請求項7】
前記パネル温度センサは、前記非断熱部の表面温度を測定する表面温度センサ、前記中空部の入口近傍の温度を測定する入口温度センサ、及び前記中空部の出口近傍の温度を測定する出口温度センサの少なくとも1つによって構成される、
請求項6に記載の太陽光集熱システム。
【請求項8】
前記熱媒タンクが、第1熱媒タンクと、前記第1熱媒タンクとは別体の第2熱媒タンクとを含み、
前記熱媒循環ラインが、前記第1熱媒タンクから前記中空部に前記熱媒を送る流入ラインと、前記中空部から前記第2熱媒タンクに前記熱媒を送る流出ラインとを含む、
請求項1から4のいずれか1項に記載の太陽光集熱システム。
【請求項9】
前記熱媒循環ラインが、前記流出ラインから分岐して前記熱媒を前記第1熱媒タンクに戻す戻りラインを更に含み、
前記熱媒流通制御機構が、前記流出ラインを介して前記第2熱媒タンクに前記熱媒を送る状態と、前記戻りラインを介して前記第1熱媒タンクに前記熱媒を戻す状態とを切り換える方向切換機構を含む、
請求項8に記載の太陽光集熱システム。
【請求項10】
前記熱媒タンクが、底部に設けられた出口、及び上部に設けられた入口を有した成層型であり、
前記熱媒循環ラインが、前記熱媒タンクの前記出口を前記中空部に接続する流入ラインと、前記中空部を前記熱媒タンクの前記入口に接続する流出ラインとを含む、
請求項1から4のいずれか1項に記載の太陽光集熱システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光集熱システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、貯熱槽部から集熱部に熱媒を供給し、集熱部において太陽熱で熱媒を温め、集熱部から貯熱槽部に熱媒を戻す太陽集熱制御装置を開示している。集熱部及び貯熱槽部のような装置内部の温度条件に従って、熱媒を循環させるポンプの作動可否が切り換えられる。例えば、集熱部の温度が貯熱槽部の温度よりも所定温度以上高い場合、及び熱媒戻り配管部の温度が貯熱槽部の温度よりも所定温度以上高い場合には、ポンプが作動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭58-102062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような従来の太陽光集熱システムにおいては、パネル状の集熱部において、太陽光からの輻射熱を熱媒に伝達することに重きが置かれており、集熱部で獲得される熱量に関し、改善の余地があると考えられる。
【0005】
本発明は、太陽光集熱パネルで獲得される熱量の改善を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、熱媒を流通させるための中空部、太陽光を受光する受光部、及び周囲空気との間で対流伝熱を行わせる非断熱部を有し、前記太陽光からの輻射熱及び前記周囲空気からの対流熱を前記熱媒に伝達する太陽光集熱パネルと、前記熱媒を貯留する熱媒タンクと、前記熱媒タンクから前記太陽光集熱パネルに前記熱媒を送り、前記太陽光集熱パネルから前記熱媒タンクに前記熱媒を送る熱媒循環ラインと、前記熱媒循環ラインに沿った前記熱媒の流通可否の切換、及び前記熱媒の流量の調整の少なくともいずれかを行う熱媒流通制御機構と、制御装置と、を備え、前記制御装置が、前記太陽光集熱パネルへの輻射入熱量を測定し、前記太陽光集熱パネルと前記周囲空気との間の対流伝熱量を測定し、前記輻射入熱量及び前記対流伝熱量に基づいて、前記熱媒流通制御機構を制御する、太陽光集熱システムを提供する。
【0007】
ここで、一般に、太陽光集熱パネルには、周囲空気との間の対流伝熱を阻止すべく、断熱構造が採用されてきた。これに対し、上記構成によれば、太陽光集熱パネルが、周囲空気との間で対流伝熱を生じさせることを期待された非断熱部を積極的に有している。そのため、太陽光集熱パネルにおいて、太陽光からの輻射熱のみならず、周囲空気からの対流熱を熱媒に伝達でき、太陽光集熱パネルにおける獲得熱量が大きくなる。更に、熱媒の流通可否の切換又は熱媒の流通量の調整が、輻射入熱量及び対流伝熱量に基づいて行われる。そのため、熱媒による熱回収の最適化が図られる。
【0008】
前記対流熱が前記太陽光集熱パネルから前記周囲空気に伝達されるときに、前記対流伝熱量が負となり、前記制御装置は、前記対流伝熱量が負であり、且つ前記輻射入熱量が前記対流伝熱量の絶対値未満である場合に、前記熱媒の前記太陽光集熱パネルへの供給を停止するように、前記熱媒流通制御機構を制御してもよい。
【0009】
ここで、周囲空気からの対流熱を獲得すべく太陽光集熱パネルに非断熱部を設けた場合には、状況によっては、対流熱が太陽光集熱パネルから周囲空気へと逃げていくことも考えられる。これに対し、上記構成によれば、太陽光集熱パネルから周囲空気へと出ていく対流伝熱量が、太陽光集熱パネルで受ける輻射入熱量を上回る場合に、熱媒の供給が停止する。したがって、熱媒の降温を防止でき、熱媒による熱回収の最適化が図られる。
【0010】
前記制御装置は、前記対流伝熱量が負であり、且つ前記輻射入熱量が前記対流伝熱量の絶対値以上である場合に、前記熱媒が前記太陽光集熱パネルに供給されるように、前記熱媒流通制御機構を制御してもよい。
【0011】
上記構成によれば、太陽光集熱パネルから周囲空気へと出ていく対流伝熱量が、太陽光集熱パネルで受ける輻射入熱量を下回る場合に、熱媒が循環する。したがって、太陽光集熱パネルで獲得されている熱量で熱媒を昇温できる。
【0012】
前記制御装置は、前記対流伝熱量が正である場合に、前記熱媒が前記太陽光集熱パネルに供給されるように、前記熱媒流通制御機構を制御してもよい。
【0013】
上記構成によれば、対流熱が周囲空気から太陽光集熱パネルに入っている場合に、熱媒が循環する。したがって、太陽光集熱パネルで獲得されている熱量で熱媒を昇温できる。
【0014】
前記太陽光集熱システムが、全天日射量を測定する日射計を更に備え、前記制御装置は、前記日射計で測定された前記全天日射量と、前記受光部の表面積とに基づいて、前記輻射入熱量を単位時間当たり熱量として測定してもよい。
【0015】
上記構成によれば、時々刻々と変化し得る全天日射量の測定結果に基づき、輻射入熱量を単位時間当たりの熱量として逐次測定できる。このような輻射入熱量に基づいて、熱媒の流通可否の切換又は熱媒の流通量の調整が行われるので、雲量の変動等の環境変化に対する制御の追従性が向上し、熱媒による熱回収を最適化しやすい。
【0016】
前記太陽光集熱システムが、前記太陽光集熱パネルの前記周囲空気の温度を測定する外気温度センサと、前記太陽光集熱パネル側の温度を測定するパネル温度センサと、を更に備え、前記制御装置は、前記外気温度センサ及び前記パネル温度センサそれぞれで測定された前記温度の差と、前記非断熱部の外表面積と、前記非断熱部の対流熱伝達率とに基づいて、前記対流伝熱量を単位時間当たり熱量として測定してもよい。
【0017】
上記構成によれば、時々刻々と変化し得る温度差の測定結果に基づき、対流伝熱量を単位時間当たりの熱量として逐次測定できる。このような対流伝熱量に基づいて、熱媒の流通可否の切換又は熱媒の流通量の調整が行われるので、温度の変動等の環境変化に対する環境変化に対する制御の追従性が向上し、熱媒による熱回収を最適化しやすい。
【0018】
前記パネル温度センサは、前記非断熱部の表面温度を測定する表面温度センサ、前記中空部の入口近傍の温度を測定する入口温度センサ、及び前記中空部の出口近傍の温度を測定する出口温度センサの少なくとも1つによって構成されてもよい。
【0019】
上記構成によれば、パネル温度を精度よく測定できる。
【0020】
前記熱媒タンクが、第1熱媒タンクと、前記第1熱媒タンクとは別体の第2熱媒タンクとを含み、前記熱媒循環ラインが、前記第1熱媒タンクから前記中空部に前記熱媒を送る流入ラインと、前記中空部から前記第2熱媒タンクに前記熱媒を送る流出ラインとを含んでもよい。
【0021】
上記構成によれば、集熱する時間内で太陽光集熱パネルに供給される熱媒の温度を太陽光集熱パネルの温度より低く、温度差を大きく維持できるので、太陽光集熱パネルから熱媒への伝熱量を高く維持でき、結果として、太陽光集熱パネルで獲得した第2タンクにおける蓄熱量を増やすことができる。
【0022】
前記熱媒循環ラインが、前記流出ラインから分岐して前記熱媒を前記第1熱媒タンクに戻す戻りラインを更に含み、前記熱媒流通制御機構が、前記流出ラインを介して前記第2熱媒タンクに前記熱媒を送る状態と、前記戻りラインを介して前記第1熱媒タンクに前記熱媒を戻す状態とを切り換える方向切換機構を含んでもよい。
【0023】
上記構成において、熱媒が第1熱媒タンクから太陽光集熱パネルを経て第1熱媒タンクに戻る場合には、第1熱媒タンクの熱媒温度を上昇させることができ、高温の熱媒を得ることができる。また、熱媒を第1熱媒タンクから太陽光集熱パネルを経て第2熱媒タンクに送る場合には、熱媒温度を第1熱媒タンクに戻す場合に比べて高くできないが、集熱量を最大化することができる。
【0024】
前記熱媒タンクが、底部に設けられた出口、及び上部に設けられた入口を有した成層型であり、前記熱媒循環ラインが、前記熱媒タンクの前記出口を前記中空部に接続する流入ラインと、前記中空部を前記熱媒タンクの前記入口に接続する流出ラインとを含んでもよい。
【0025】
上記構成によれば、熱媒タンクの数を増やすことなく、集熱量を高く維持できる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、太陽光集熱パネルで獲得される熱量を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】第1実施形態に係る太陽光集熱システムの全体構成を示す概要図。
図2A】太陽光集熱パネルの斜視図。
図2B】太陽光集熱パネルの分解斜視図。
図2C】太陽光集熱パネルの断面図。
図3】第1実施形態に係る太陽光集熱システムの要部を示す概要図。
図4】制御装置によって実行される処理を示すフローチャート。
図5】輻射入熱量、外気温度、及びパネル温度の時間変化を示すグラフ。
図6】第2実施形態に係る太陽光集熱システムの概要図。
図7】第3実施形態に係る太陽光集熱システムの概要図。
図8】第4実施形態に係る太陽光集熱システムの概要図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して実施形態について説明する。なお、同一の又は対応する要素には全図を通じて同一の符号を付し、詳細な説明の重複を省略する。
【0029】
(第1実施形態)
図1を参照して、第1実施形態に係る太陽光集熱システム1は、太陽光集熱パネル2、熱媒タンク3、熱媒循環ライン4、及び熱媒流通制御機構5を備える。
【0030】
太陽光集熱パネル2は、平坦な板状であり、液相の熱媒Mを流通させる流路を形成する。熱媒タンク3は、熱媒Mを貯留する。熱媒Mは、例えば水である。ただし、エチレングリコールを主成分とした不凍液のように、水以外の液体が熱媒Mとして使用されてもよい。
【0031】
本実施形態では、熱媒タンク3が単体である。熱媒循環ライン4には、熱媒タンク3から太陽光集熱パネル2に熱媒Mを送る流入ライン4aと、太陽光集熱パネル2から熱媒タンク3に熱媒Mを送る流出ライン4bとが含まれる。
【0032】
熱媒タンク3は、断熱構造を有し、熱媒タンク3の熱媒Mの温度を周囲温度に関わらず必要とされる温度に管理可能である。流入ライン4a及び流出ライン4bは、金属や樹脂製のパイプ等の配管部材によって構成されている。配管部材も、断熱構造を有していてもよい。
【0033】
熱媒流通制御機構5は、熱媒循環ライン4に沿った熱媒Mの流通可否の切換、及び熱媒循環ライン4に沿った熱媒Mの流量の調整の少なくともいずれかを行う。本実施形態では、熱媒流通制御機構5が、切換及び調整の両方を行い得るように構成されている。
【0034】
熱媒流通制御機構5には、熱媒Mを熱媒循環ライン4に沿って圧送するポンプ5aと、熱媒循環ライン4上に介在するバルブ5bとが含まれ得る。図示の例では、ポンプ5a及びバルブ5bが流入ライン4a上に介在しているが、ポンプ5aは、熱媒タンク3内に設けられていてもよいし、バルブ5bは、流出ライン4b上に介在していてもよい。
【0035】
本実施形態では、一例として、ポンプ5aが定容量形であり、バルブ5bが流量調整弁である。熱媒Mの流通可否の切換が、ポンプ5aの作動状態と停止状態との切換によって実現される。熱媒Mの流量の調整が、バルブ5bの開度の調整によって実現される。ただし、これは一例であり、バルブ5bが開閉弁である場合、バルブ5bの開状態と閉状態とを切り換えることで、熱媒Mの流通可否を切換可能である。ポンプ5aが可変容量形である場合、ポンプ5aの容量を調整することで、熱媒Mの吐出量ひいては流量を調整可能である。
【0036】
熱媒Mは、ポンプ5aにより、熱媒タンク3から流入ライン4aを介して太陽光集熱パネル2に圧送される。熱媒Mは、太陽光集熱パネル2の内部を流通する過程で、太陽光集熱パネル2において集熱された熱により温められる。熱媒Mは、太陽光集熱パネル2から流出すると、流出ライン4bを介して熱媒タンク3に送られる。これにより、温水が熱媒タンク3に貯留される。
【0037】
次に、図2A図2Cを参照して、太陽光集熱パネル2の構造について説明する。太陽光集熱パネル2は、パネル本体11、第1ヘッダ12、第2ヘッダ13、入口14、及び出口15を有する。
【0038】
パネル本体11は、アルミニウム合金の押出材によって構成されている。アルミニウム合金としては、熱伝導性に優れた1000系、あるいは熱伝導性にも強度にも優れた6000系が好適である。
【0039】
パネル本体11は、第1主壁11a、第2主壁11b、及び一対の側壁11cを有する。第1主壁11a、第2主壁11b、及び一対の側壁11cは、長尺で幅広で低背の角筒を形成し、角筒の長手方向の両端が開口している。この長手方向が押出方向である。第1主壁11aは、矩形状の平板である。長辺がパネル本体11の長手方向に延在し、短辺がパネル本体11の幅方向に延在し、板厚方向がパネル本体11の高さ方向と対応する。一対の側壁11cは、第1主壁11aの両側縁部それぞれから立設される。第2主壁11bは、第1主壁11aと同形状の平板であり、第1主壁11aと平行に配置され、板厚方向に見たときに第1主壁11aと完全に重なり、一対の側壁11cの端部同士を接続する。これら4つの壁が、長手方向の両端で、幅広且つ低背の矩形状の開口を画定する。
【0040】
パネル本体11は、複数の隔壁11dを有する。複数の隔壁11dは、一対の側壁11cの間で側壁11cと平行に延在し、第1主壁11a及び第2主壁11bの内面同士を接続する。隔壁11dにより、前述した4つの壁で囲まれた空間が、幅方向に並ぶ複数の中空部2aに区画される。
【0041】
図示例では、隔壁11dが6個であり、中空部2aがそれより1つ多い7個であるが、中空部2aの個数は適宜変更可能である。各中空部2aは、矩形状の断面を有する。押出成形を使用することで、このように複数の閉断面あるいは複数の中空部2aを有する構造を一体で連続して製造できる。図示例では、第1主壁11a、第2主壁11b、及び一対の側壁11cは平坦であるが、内部に中空部を有していれば、平坦でなく、凹凸を有していても良いし、第1主壁11a、第2主壁11b、及び一対の側壁11cの少なくとも一面に複数の突起(フィン)を設けてもよい。凸凹やフィンを設けることにより、受光面積や空気との接触面積が増え、輻射入熱量や対流伝熱量を増やすことができる。
【0042】
各中空部2aは、長手方向の両端で開口している。第1ヘッダ12は、中空部2aの一端側の開口を閉塞する。第2ヘッダ13は、中空部2aの他端側の開口を閉塞する。第1ヘッダ12も第2ヘッダ13も、複数の中空部2aの開口をまとめて閉塞する。
【0043】
第1ヘッダ12は、蓋板12a、蓋板12aの周縁部から立設された周壁12b、及び蓋板12aと周壁12bとで囲まれた内部空間12cを有する。内部空間12cは、蓋板12aと反対側で開放される。内部空間12cの断面(周壁12bの内周面の断面)は、パネル本体11の外周面の断面と同じ形状(本実施形態では長方形状)を有する。第1ヘッダ12は、パネル本体11の一端部に当接され、パネル本体11に液密に接合される。
【0044】
長手方向の他端部についても、これと同様である。第2ヘッダ13は、第1ヘッダ12と同様にして蓋板13a、周壁13b、及び内部空間13cを有し、第1ヘッダ12と同様にしてパネル本体11の長手方向の他端部に装着される。
【0045】
入口14及び出口15は、第1ヘッダ12又は第2ヘッダ13に設けられる。入口14は、流入ライン4a(図1及び図3を参照)と接続され、出口15は、流出ライン4b(図1及び図3を参照)と接続される。入口14は、筒状又はニップル状であり、配管部材としての流入ライン4aが入口14に液密に装着される。出口15及び流出ライン4bについても、これと同様である。
【0046】
本実施形態では、単一の入口14が第1ヘッダ12に設けられており、単一の出口15が第2ヘッダ13に設けられている。入口14及び出口15は、対応する蓋板12a,13aを貫通している。熱媒Mは、入口14を介して、第1ヘッダ12の内部空間12cに流入し、更に、内部空間12cから複数の中空部2aそれぞれに分流する。熱媒Mは、複数の中空部2aそれぞれから第2ヘッダ13の内部空間13cで合流し、更に、内部空間13cから出口15を介して流出する。
【0047】
このように、太陽光集熱パネル2を通して、熱媒Mは、長手方向の一方側から他方側に向かう一方向に流れる。熱媒Mは、中空部2aを充満する状態、すなわち中空部2aを画定しているパネル本体11の壁及びその内面と接触する状態で、中空部2aを流通する。
【0048】
図3を参照して、太陽光集熱パネル2は、太陽光を受光する受光部2bを有する。太陽光集熱パネル2は、太陽光からの輻射熱を熱媒Mに伝達する。また、太陽光集熱パネル2は、周囲空気との間で対流伝熱を行わせることを期待された非断熱部2cを積極的に有する。対流熱が周囲空気から太陽光集熱パネル2に伝達されているとき、太陽光集熱パネル2は、その対流熱を熱媒Mに伝達する。輻射熱及び対流熱は、パネル本体11における固体伝熱により、熱媒Mに伝達され、それにより熱媒Mが温められる。
【0049】
単位時間当たりの太陽光集熱パネル2の獲得熱量Qは、輻射入熱量Q1と対流伝熱量Q2との和として定義され得る(Q=Q1+Q2)。熱媒Mは、この獲得熱量Qと熱媒Mの流量とに応じた温度上昇量で、入口14から出口15に至るまでの間に昇温する。
【0050】
「輻射入熱量Q1」は、単位時間当たりに、太陽光によって太陽光集熱パネル2(特に、その受光部2b)に入熱される輻射熱の量(W)として定義され得る。輻射入熱量Q1は、次式(1)で表される。
【0051】
Q1=αWsunAsun ……(1)
ここで、αは、太陽光集熱パネル2の表面の輻射率(無次元)、より具体的には、受光部2bの輻射率である。Wsunは、全天日射量(W/m2)である。Asunは、太陽光集熱パネル2の受光面積(m2)、より具体的には、受光部2bの表面積である(以下、単に受光面積Asunと称する)。
【0052】
受光部2bは、第1主壁11a、第2主壁11b、一対の側壁11c、第1ヘッダ12、及び第2ヘッダ13の外面のすべてもしくは一部である。受光部2bの表面は、黒色に塗装される。これにより、受光部2bの輻射率αが1に近い値となり、太陽光集熱パネル2の集熱比が向上する。アルミニウム合金の輻射率は、10-2から10-1オーダーの数値であるため、パネル本体11がアルミニウム合金製である場合には、塗装による効果が顕著に得られる。なお、集熱比とは、日照により獲得された単位面積あたりの熱エネルギーを全天日射量Wsunで除算して得られる無次元の数値であり、1に近いほど集熱効率が高いことを示す。
【0053】
「対流伝熱量Q2」は、単位時間当たりに、周囲空気と太陽光集熱パネル2(特に、その非断熱部2c)との間で交換される対流熱の量(W)として定義され得る。対流伝熱量Q2は、次式(2)で表される。
【0054】
Q2=μ(Tair-Tp)Ap ……(2)
ここで、μは、太陽光集熱パネル2の対流熱伝達率(W/K・m2)、より具体的には、非断熱部2cの対流熱伝達率である。Tairは、太陽光集熱パネル2の周囲空気の温度(K)である(以下、外気温度Tairと称する)。Tpは、太陽光集熱パネル2側の温度(K)である(以下、パネル温度Tpと称する)。Apは、太陽光集熱パネル2の外表面積(m2)、より具体的には、非断熱部2cの外表面積である(以下、単に外表面積Apと称する)。
【0055】
熱媒Mは、中空部2aを画定する壁の内面に接触する。第1主壁11a、第2主壁11b、一対の側壁11c、第1ヘッダ12、及び第2ヘッダ13の内面の略全体が、熱媒Mと接触し、且つこれらの外面の略全体が、周囲空気と接する。本実施形態では、これらの内面にはもちろん、外面にも、断熱材が設けられていない。よって、パネル本体11を構成する4つの壁及びヘッダ12,13の略全体が、非断熱部2cとしての役割を果たし得る。
【0056】
上式(2)に表されるとおり、対流伝熱量Q2は、外気温度Tairとパネル温度Tpとの温度差に比例する。外気温度Tairがパネル温度Tpを上回るときには、対流伝熱量Q2が正となる。対流熱が、周囲空気から太陽光集熱パネル2(特に、その非断熱部2c)に伝達される。逆に、パネル温度Tpが外気温度Tairを上回るときには、対流伝熱量Q2が負となる。対流熱は、太陽光集熱パネル2(特に、その非断熱部2c)から周囲空気に伝達される。
【0057】
輻射率α、受光面積Asun、対流熱伝達率μ、及び外表面積Apは、太陽光集熱パネル2の設計仕様に応じて決定される。太陽光集熱パネル2の設計段階及び実用段階において、これらのパラメータは定数として取り扱われ得る。一方、全天日射量Wsun、外気温度Tair、及びパネル温度Tpは、時々刻々と変化する。輻射入熱量Q1及び対流伝熱量Q2の算出に際しては、これらパラメータの実時測定を必要とする。
【0058】
図1に戻り、太陽光集熱システム1は、日射計6、外気温度センサ7、及びパネル温度センサ8を更に備える。日射計6は、受光部2bの近傍に設置され、全天日射量Wsunを測定する。外気温度センサ7は、太陽光集熱パネル2の外部であって太陽光集熱パネル2の近傍に設けられ、外気温度Tairを測定又は検出する。パネル温度センサ8は、太陽光集熱パネル2の表面上又は内部に設けられ、パネル温度Tpを測定又は検出する。
【0059】
パネル温度センサ8は、表面温度センサ8a、入口温度センサ8b、及び出口温度センサ8cの少なくともいずれか1つによって構成される。表面温度センサ8aは、太陽光集熱パネル2の表面温度(以下、表面温度Tsfと称する)、特に非断熱部2cの外表面の温度を測定する。入口温度センサ8bは、太陽光集熱パネル2の熱媒Mの入口14の近傍における温度(以下、入口温度Tinと称する)を測定する。出口温度センサ8cは、太陽光集熱パネル2の熱媒Mの出口15の近傍における温度(以下、出口温度Toutと称する)を測定する。入口温度Tinは、入口14付近における太陽光集熱パネル2の内面の温度であってもよく、入口14付近を流れる熱媒Mの温度であってもよい。出口温度Toutについても、これと同様である。
【0060】
表面温度Tsf、入口温度Tin、及び出口温度Toutのいずれか1つが、パネル温度Tpとして取り扱われてもよい。パネル温度Tpは、表面温度Tsf、入口温度Tin、及び出口温度Toutのうちの2つ以上の温度の平均値であってもよい。表面温度Tsfは、1つの太陽光集熱パネル2における複数の測定点で測定されてもよい。その場合、複数の表面温度Tsfの測定結果の平均値が、表面温度Tsfの単一の測定結果として取り扱われてもよい。
【0061】
太陽光集熱システム1は、制御装置9を更に備える。制御装置9は、日射計6、外気温度センサ7、及びパネル温度センサ8と接続され、これら測定要素の測定結果を所定のサンプリング周期で逐次取得する。制御装置9は、熱媒流通制御機構5と接続され、測定結果に基づいて熱媒流通制御機構5を制御する。換言すれば、制御装置9は、測定結果に基づいて、熱媒循環ライン4に沿った熱媒Mの流通可否を制御し、又は熱媒循環ライン4に沿った熱媒Mの流量を制御する。
【0062】
制御装置9は、例えば、ソフトウェアと協働して所定の機能を実現するCPU(Central Processing Unit)またはMPU(Micro Processing Unit)を含む。制御装置9は、所定の機能を実現するように設計された専用の電子回路または再構成可能な電子回路等のハードウェア回路で構成されてもよいし、種々の半導体集積回路で構成されてもよい。種々の半導体集積回路としては、例えば、CPU、MPUの他に、マイクロコンピュータ、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、及びASIC(Application Specific Integrated Circuit)等が挙げられる。また、制御装置9は、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)等の記憶装置を含んでもよい。具体的には、制御装置9は、例えば、デスクトップパソコン、ノートパソコン、ワークステーション、又はタブレット端末のような情報処理装置又は同等の機能を有するプリント基板等で構成され得る。
【0063】
制御装置9の記憶装置は、以下に説明する処理を実行するためのプログラム及び情報を記憶する。記憶装置に予め記憶される情報としては、輻射率α、受光面積Asun、対流熱伝達率μ、及び外表面積Apの数値を例示できる。
【0064】
図4は、制御装置9により実行される処理のフローを示す。制御装置9は、図示されるフローに沿った処理を所定の制御周期おきに繰り返し実行する。
【0065】
制御装置9は、日射計6から出力される全天日射量Wsun、外気温度センサ7から出力される外気温度Tair、及びパネル温度センサ8から出力されるパネル温度Tpの測定結果をそれぞれ取得する(ステップS1)。パネル温度Tpは、上記のように、表面温度Tsfそのものでもよく、入口温度Tinそのものでもよく、出口温度Toutそのものでもよく、これら複数の温度に基づいて算出されてもよい。制御装置9は、取得された測定結果をパネル温度Tpとして設定し、又は取得された複数種の測定結果からパネル温度Tpを算術的に測定結果として用いても良い。
【0066】
次に、制御装置9は、上式(1)に従って、輻射入熱量Q1を計算する(ステップS2)。式(1)中の因子としての輻射率α及び受光面積Asunは、記憶装置から読み出され得る。
【0067】
また、制御装置9は、測定された外気温度Tairとパネル温度Tpとの温度差に基づいて、上式(2)に従って、対流伝熱量Q2を計算する(ステップS2)。式(2)中の因子としての対流熱伝達率μ及び外表面積Apは、記憶装置から読み出され得る。
【0068】
次に、制御装置9は、測定された対流伝熱量Q2が0又は正であるか判定する(ステップS3a)。対流伝熱量Q2が負である場合(S3a:NO)、輻射入熱量Q1の絶対値が、対流伝熱量Q2の絶対値以上であるか判定する(ステップS3b)。
【0069】
対流伝熱量Q2が0又は正である場合(S3a:YES)には、制御装置9は、熱媒Mの流通を継続するように、熱媒流通制御機構5を制御する(ステップS4)。対流伝熱量Q2が負であり(S3a:NO)、且つ輻射入熱量Q1の絶対値が対流伝熱量Q2の絶対値以上である(S3b:YES)場合にも、ステップS4に進む。熱媒Mの流通の継続のため、制御装置9は、例えば、ポンプ5aの作動を継続させ、バルブ5bの開度を所定開度以上に保つ。
【0070】
対流伝熱量Q2が負であり(S3a:NO)、且つ輻射入熱量Q1の絶対値が対流伝熱量Q2の絶対値未満である場合(S3b:NO)には、制御装置9は、熱媒Mの流通を停止するように、熱媒流通制御機構5を制御する(ステップS5)。熱媒Mの流通の停止のため、制御装置9は、例えば、ポンプ5aを停止させ、バルブ5bの開度を全閉にする。
【0071】
ここで、輻射入熱量Q1は全天日射量Wsunに比例する。全天日射量Wsunは負になり得ないため、輻射入熱量Q1もゼロ又は正である。対流伝熱量Q2が0又は正であれば(S3a:YES)、獲得熱量Qはゼロ又は正である。対流伝熱量Q2が負であったとしても、対流伝熱量Q2の絶対値が、輻射入熱量Q1(又はその絶対値)を下回っていれば(S3b:YES)、獲得熱量Qは正である。このように、獲得熱量Qがゼロ又は正であれば、熱媒Mの流通が継続する(ステップS4)。
【0072】
これに対し、対流伝熱量Q2が負であり、対流伝熱量Q2の絶対値が輻射入熱量Q1(又はその絶対値)を上回っていれば(S3b:NO)、獲得熱量Qは負である。このとき、熱媒Mが太陽光集熱パネル2を通過すれば、熱媒Mが降温するおそれがある。獲得熱量Qが負であれば、熱媒Mの流通が停止し(ステップS5)、それにより、熱媒Mの降温が未然に防止される。
【0073】
図5は、終日快晴のある1日において、日の出よりも前の時点から日の入りよりも後の時点までの、輻射入熱量Q1、外気温度Tair、及びパネル温度Tpの時間変化を示す。横軸が時間を示す。縦軸は、任意目盛で単位時間の熱量(W)又は温度(K)を示す。
【0074】
輻射入熱量Q1は、全天日射量Wsunと比例する。そのため、全天日射量Wsunは、図示を省略するものの、時間の経過に伴って輻射入熱量Q1と同様に変化している。対流伝熱量Q2は、外気温度Tairとパネル温度Tpとの温度差に依存する。そのため、温度差(同一時刻における外気温度Tairとパネル温度Tpとの縦軸座標差)が大きいほど、対流伝熱量Q2の絶対値は大きい。外気温度Tairがパネル温度Tpを上回るときには(右下がりハッチング領域を参照)、対流伝熱量Q2が正である。外気温度Tairがパネル温度Tpを下回るときには(右上がりハッチング領域を参照)、対流伝熱量Q2が負である。
【0075】
輻射入熱量Q1及び全天日射量Wsunは、南中時刻で極大値をとり、南中時刻を基準として線対称に推移する。これは終日快晴の日を例示しているためであり、輻射入熱量Q1及び全天日射量Wsunは、雲量に応じて複雑に変化し得る。
【0076】
外気温度Tairも、全天日射量Wsunと同様に推移し、南中時刻付近で極大値をとる。これに対し、パネル温度Tpは、南中時刻よりも遅れた時刻で極大値をとる。日の出後、パネル温度Tpは、極大値に向かって上昇していくものの、外気温度Tairよりも低い温度で推移し続ける。パネル温度Tpは、極大値への上昇過程における時刻t1で外気温度Tairを上回る。時刻t1は、南中時刻前後である。パネル温度Tpは、極大値に達した後、外気温度Tairよりも高い温度を保ちつつ下降していく。
【0077】
時刻t1以前の時間帯においては、対流伝熱量Q2が正であるため、熱媒Mが流通し、熱媒タンク3内の熱媒Mの温度が上昇していく。時刻t1にて、対流伝熱量Q2は正から負に転じる。時刻t1を過ぎた直後においては、温度差が小さく、対流伝熱量Q2の絶対値が小さい。一方、時刻t1は南中時刻付近であるため、十分な日射が得られている。輻射入熱量Q1は対流伝熱量Q2の絶対値を大きく上回り、獲得熱量Qが正となる。よって、対流伝熱量Q2が負に転じても、熱媒Mの流通は継続し、獲得熱量Qが熱媒Mで回収され続ける。
【0078】
その後、パネル温度Tpが極大値に到達する時刻の付近まで、温度差は広がり続ける。日の入りに近づくにつれ、一旦広がった温度差が縮まらないまま、全天日射量Wsunひいては輻射入熱量Q1が大きく減少していく。輻射入熱量Q1が対流伝熱量Q2の絶対値に到達した時刻t2で、獲得熱量Qが正から負に転じる。時刻t2にて、熱媒Mの流通が停止し、時刻t2以降の時間帯における熱媒Mの降温が未然に防止される。
【0079】
本実施形態に係る太陽光集熱システム1によれば、太陽光集熱パネル2が、周囲空気との間で対流伝熱を生じさせることを期待された非断熱部2cを積極的に有している。そのため、太陽光集熱パネル2において、太陽光からの輻射熱のみならず、周囲空気からの対流熱を熱媒Mに伝達でき、太陽光集熱パネル2における獲得熱量Qが大きくなる。更に、熱媒Mの流通可否の切換又は熱媒Mの流通量の調整が、輻射入熱量Q1及び対流伝熱量Q2に基づいて行われる。そのため、熱媒Mによる熱回収の最適化が図られる。
【0080】
具体的には、制御装置9は、対流伝熱量Q2が負であり、且つ輻射入熱量Q1が対流伝熱量Q2の絶対値未満である場合に、熱媒Mの太陽光集熱パネル2への供給を停止するように、熱媒流通制御機構5を制御する。これにより、太陽光集熱パネル2から周囲空気へと出ていく対流伝熱量Q2が、太陽光集熱パネル2で受ける輻射入熱量Q1を上回る場合に、熱媒の供給が停止する。すなわち、獲得熱量Qが負である場合に、熱媒Mの供給が停止するため、熱媒Mが太陽光集熱パネル2で降温することを防止できる。
【0081】
逆に、制御装置9は、対流伝熱量Q2が負であっても、輻射入熱量Q1が対流伝熱量Q2の絶対値以上である場合には、熱媒Mが太陽光集熱パネル2に供給されるように、熱媒流通制御機構5を制御する。これにより、獲得熱量Qが正であれば、その獲得熱量を熱媒Mで回収できる。
【0082】
輻射入熱量Q1は、時々刻々と変化し得る全天日射量Wsunの測定結果に基づき、単位時間当たりの熱量として逐次測定される。対流伝熱量Q2も、時々刻々と変化し得る外気温度Tairとパネル温度Tpとの温度差の測定結果に基づき、単位時間当たりの熱量として逐次測定される。このような輻射入熱量Q1及び対流伝熱量Q2に基づき、獲得熱量Qも単位時間当たりの熱量として評価される。そのため、環境変化に対する制御の追従性を向上させることができ、熱媒Mによる熱回収を最適化できる。例えば、急な雲量増加や外気温上昇に応答してポンプ5aを即座に止め、熱媒Mからの熱損失を防止することもできる。
【0083】
図1に戻り、このように熱媒Mによって回収された熱は、農業ハウス90において利用されてもよい。農業ハウス90は、本実施形態に係る太陽光集熱システム1の好適な適用例である。
【0084】
農業ハウス90は、略水平な長方形状の敷地に建設される。農業ハウス90は、鋼材あるいはアルミ押出材で成形される躯体91を有する。躯体91の全体が、光透過性を有する材料(例えば、ポリ塩化ビニル)で成形された外皮(図示せず)で覆われる。それにより、農業ハウス90の内部は、風雨から防護される。躯体91は、敷地の四隅およびその中間に立設された柱91a、柱91aの上端部に横架された桁及び梁91b、及び桁及び梁91b上に設けられた屋根91cを含む。屋根形状は、特に限定されず、例えば切妻形あるいはアーチ形である。農業ハウス90内では、植物99が培地98に植栽されている。植物99は、好ましくは、農作物である。培地98は、植物99の生育媒体であり、栽培される植物99との相性を考慮して、土壌、ロックウール、及び培養液などから適宜選択される。
【0085】
太陽光集熱システム1は、植物99の生育の補助に利用される。熱媒Mによって回収された熱で、培地98及び植物99の温度が調整されてもよい。その場合、太陽光集熱パネル2は、受光部2bが南に向くようにして、農業ハウス90の屋根91cの直下(農業ハウス90内)に設置するのが好ましい。屋根は透明であり、農業ハウス90内の空気は太陽光によって加温されるので、太陽光集熱パネル2は透明な屋根を透過してくる太陽光による輻射入熱に加え、農業ハウス90内の加温された空気による対流伝熱も集熱できる。熱媒タンク3は、農業ハウス90内に配置されることにより、農業ハウス90内の空気による断熱効果が期待できる。なお、農業ハウス90外に配置されてもよいが、その場合のタンク構造には農業ハウス90内に設置するよりも高い断熱性が求められる。同様の効果は太陽光集熱パネル2をビルなどの建物の屋上や壁面に設置しても得られ、太陽光により加熱された建物構造からの輻射熱や対流伝熱の集熱が期待できる。
【0086】
(第2実施形態)
次に、図6を参照して、第1実施形態との相違を中心に、第2実施形態に係る太陽光集熱システム1について説明する。
【0087】
本実施形態においては、熱媒タンク3が、第1熱媒タンク3aと、第1熱媒タンク3aとは別体の第2熱媒タンク3bとを含む。流入ライン4aは、第1熱媒タンク3aを太陽光集熱パネル2の入口に接続しており、熱媒Mを第1熱媒タンク3aから中空部2aに送る。流出ライン4bは、太陽光集熱パネル2の出口を第2熱媒タンク3bに接続しており、熱媒Mを中空部2aから第2熱媒タンク3bに送る。
【0088】
この場合、熱回収後の熱媒Mは、第2熱媒タンク3bに溜められていくため、第1熱媒タンク3a内の熱媒Mは、低温で維持される。すると、パネル温度Tpを低温に維持でき、対流伝熱量Q2を正の高い値に維持できる。したがって、太陽光集熱パネル2での獲得熱量Qを増やすことができる。
【0089】
(第3実施形態)
次に、図7を参照して、第2実施形態との相違を中心に、第3実施形態に係る太陽光集熱システム1について説明する。
【0090】
本実施形態においても、熱媒タンク3が、第1熱媒タンク3aと、第1熱媒タンク3aとは別体の第2熱媒タンク3bとを含む。熱媒循環ライン4が、第2実施形態と同様にして流入ライン4a及び流出ライン4bを含む。熱媒循環ライン4は、流出ライン4bから分岐して熱媒Mを第1熱媒タンク3aに戻す戻りライン4cを更に含む。
【0091】
熱媒流通制御機構5は、流出ライン4bからの戻りライン4cの分岐点上に設けられた三方弁5cを含む。三方弁5cは、熱媒Mを送る方向を切り換える方向切換機構の一例である。三方弁5cは、太陽光集熱パネル2から流出した熱媒Mを流出ライン4bを介して第2熱媒タンク3bに送る状態と、太陽光集熱パネル2から流出した熱媒Mを戻りライン4cを介して第1熱媒タンク3aに戻す状態とを切り換える。三方弁5cは、電磁弁であり、制御装置9と接続される。三方弁5cの状態の切換は、制御装置9によって制御される。ここで、制御装置9で計算される獲得熱量Q(=Q1+Q2)の値がユーザーが任意に設定する基準値より大きければ、熱媒Mを第1熱媒タンク3aに戻して高温の熱媒とし、基準値より小さければ、熱媒Mを第2熱媒タンク3bに送って集熱量を最大化するよう、制御装置9によって三方弁5cの切り替え制御が行われる。
【0092】
本実施形態によれば、状況に応じて、太陽光集熱パネル2に供給される熱媒Mの温度を低く維持する状態と、当該熱媒Mを温めておく状態とを切り換えることができる。
【0093】
(第4実施形態)
次に、図8を参照して、第1実施形態との相違を中心に、第4実施形態に係る太陽光集熱システム1について説明する。
【0094】
本実施形態においては、熱媒タンク3が、第1実施形態と同様にして単一である。ただし、熱媒タンク3は、成層型である。すなわち、熱媒タンク3は、底部に設けられた出口と、上部に設けられた入口とを有する。底部には、比較的に低温の熱媒Mが貯留され、上部には、熱回収後の比較的に高温の熱媒が貯留される。熱媒タンク3内では積極的な対流が行われず、そのため、温度が異なる同一の熱媒Mが2層に分かれて貯留される。流入ライン4aは、熱媒タンク3の出口を太陽光集熱パネルの入口に接続している。流出ライン4bは、太陽光集熱パネル2の出口を熱媒タンク3の入口に接続している。
【0095】
本実施形態によれば、タンク数を増やすことなく、第2実施形態と同様にして対流伝熱量Q2を正の高い値に維持でき、太陽光集熱パネル2の獲得熱量Qを増やすことができる。
【0096】
(変形例)
これまで実施形態について説明したが、上記構成は本発明の趣旨の範囲内で適宜変更可能である。
【0097】
太陽光集熱パネル2のパネル本体11は、アルミニウム合金の押出材に限定されず、その他の材料及び製造方法によって製造されてもよい。例えば、2枚のアルミ板材を重ね合わせることによって、パネル本体11が構成されてもよい。この場合、少なくとも一方の板材に溝が形成される。溝が他方の板材で閉塞されることで、中空部を形成できる。アルミ以外の材料として、鋼や銅が使用されてもよい。
【0098】
太陽光集熱パネル2が複数設けられていてもよい。この場合、流入ライン4aは、熱媒タンク3を複数の入口に並列接続し、流出ライン4bは、熱媒タンク3を複数の出口に並列接続する。
【0099】
制御装置80は、獲得熱量Qに基づいて熱媒Mの流量を調整するように熱媒流通制御機構5を制御してもよい。
【0100】
太陽光集熱システム1は、農業ハウス90以外の用途に適用可能である。例えば、ビルあるいは家屋等の建造物に設置され、建造物で使用される温水の生成に活用されてもよい。
【0101】
本開示は、以下の態様を含み得る。
(態様1)
熱媒を流通させるための中空部、太陽光を受光する受光部、及び周囲空気との間で対流伝熱を行わせる非断熱部を有し、前記太陽光からの輻射熱及び前記周囲空気からの対流熱を前記熱媒に伝達する太陽光集熱パネルと、
前記熱媒を貯留する熱媒タンクと、
前記熱媒タンクから前記太陽光集熱パネルに前記熱媒を送り、前記太陽光集熱パネルから前記熱媒タンクに前記熱媒を送る熱媒循環ラインと、
前記熱媒循環ラインに沿った前記熱媒の流通可否の切換、及び前記熱媒の流量の調整の少なくともいずれかを行う熱媒流通制御機構と、
制御装置と、を備え、
前記制御装置が、
前記太陽光集熱パネルへの輻射入熱量を測定し、
前記太陽光集熱パネルと前記周囲空気との間の対流伝熱量を測定し、
前記輻射入熱量及び前記対流伝熱量に基づいて、前記熱媒流通制御機構を制御する、
太陽光集熱システム。
(態様2)
前記対流熱が前記太陽光集熱パネルから前記周囲空気に伝達されるときに、前記対流伝熱量が負となり、
前記制御装置は、前記対流伝熱量が負であり、且つ前記輻射入熱量が前記対流伝熱量の絶対値未満である場合に、前記熱媒の前記太陽光集熱パネルへの供給を停止するように、前記熱媒流通制御機構を制御する、
態様1に記載の太陽光集熱システム。
(態様3)
前記制御装置は、前記対流伝熱量が負であり、且つ前記輻射入熱量が前記対流伝熱量の絶対値以上である場合に、前記熱媒が前記太陽光集熱パネルに供給されるように、前記熱媒流通制御機構を制御する、
態様1又は2に記載の太陽光集熱システム。
(態様4)
前記制御装置は、前記対流伝熱量が正である場合に、前記熱媒が前記太陽光集熱パネルに供給されるように、前記熱媒流通制御機構を制御する、
態様1から3のいずれかに記載の太陽光集熱システム。
(態様5)
全天日射量を測定する日射計を更に備え、
前記制御装置は、前記日射計で測定された前記全天日射量と、前記受光部の表面積とに基づいて、前記輻射入熱量を単位時間当たり熱量として測定する、
態様1から4のいずれかに記載の太陽光集熱システム。
(態様6)
前記太陽光集熱パネルの前記周囲空気の温度を測定する外気温度センサと、
前記太陽光集熱パネル側の温度を測定するパネル温度センサと、を更に備え、
前記制御装置は、前記外気温度センサ及び前記パネル温度センサそれぞれで測定された前記温度の差と、前記非断熱部の外表面積と、前記非断熱部の対流熱伝達率とに基づいて、前記対流伝熱量を単位時間当たり熱量として測定する、
態様1から5のいずれかに記載の太陽光集熱システム。
(態様7)
前記パネル温度センサは、前記非断熱部の表面温度を測定する表面温度センサ、前記中空部の入口近傍の温度を測定する入口温度センサ、及び前記中空部の出口近傍の温度を測定する出口温度センサの少なくとも1つによって構成される、
態様6に記載の太陽光集熱システム。
(態様8)
前記熱媒タンクが、第1熱媒タンクと、前記第1熱媒タンクとは別体の第2熱媒タンクとを含み、
前記熱媒循環ラインが、前記第1熱媒タンクから前記中空部に前記熱媒を送る流入ラインと、前記中空部から前記第2熱媒タンクに前記熱媒を送る流出ラインとを含む、
態様1から7のいずれかに記載の太陽光集熱システム。
(態様9)
前記熱媒循環ラインが、前記流出ラインから分岐して前記熱媒を前記第1熱媒タンクに戻す戻りラインを更に含み、
前記熱媒流通制御機構が、前記流出ラインを介して前記第2熱媒タンクに前記熱媒を送る状態と、前記戻りラインを介して前記第1熱媒タンクに前記熱媒を戻す状態とを切り換える方向切換機構を含む、
態様8に記載の太陽光集熱システム。
(態様10)
前記熱媒タンクが、底部に設けられた出口、及び上部に設けられた入口を有した成層型であり、
前記熱媒循環ラインが、前記熱媒タンクの前記出口を前記中空部に接続する流入ラインと、前記中空部を前記熱媒タンクの前記入口に接続する流出ラインとを含む、
態様1から7のいずれかに記載の太陽光集熱システム。
【符号の説明】
【0102】
1 太陽光集熱システム
2 太陽光集熱パネル
2a 中空部
2b 受光部
2c 非断熱部
3 熱媒タンク
3a 第1熱媒タンク
3b 第2熱媒タンク
4 熱媒循環ライン
4a 流入ライン
4b 流出ライン
4c 戻りライン
5 熱媒流通制御機構
5a ポンプ
5b バルブ
5c 三方弁
6 日射計
7 外気温度センサ
8 パネル温度センサ
8a 表面温度センサ
8b 入口温度センサ
8c 出口温度センサ
9 制御装置
11 パネル本体
11a 第1主壁
11b 第2主壁
11c 側壁
11d 隔壁
12 第1ヘッダ
13 第2ヘッダ
12a,13a 蓋板
12b,13b 周壁
12c,13c 内部空間
14 入口
15 出口
90 農業ハウス
91 躯体
91a 柱
91b 梁
91c 屋根
98 培地
99 植物
Ap 外表面積
Asun 受光面積
M 熱媒
Q1 輻射入熱量
Q2 対流伝熱量
Tair 外気温度
Tp パネル温度
Tin 入口温度
Tout 出口温度
Tsf 表面温度
Wsun 全天日射量
α 輻射率
μ 対流熱伝達率
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6
図7
図8