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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-28
(45)【発行日】2025-06-05
(54)【発明の名称】ペプチド
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/06 20060101AFI20250529BHJP
   A23L 33/18 20160101ALI20250529BHJP
   A61K 38/08 20190101ALI20250529BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20250529BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20250529BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250529BHJP
【FI】
C07K7/06 ZNA
A23L33/18
A61K38/08
A61P3/00
A61P3/10
A61P43/00 111
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021005525
(22)【出願日】2021-01-18
(65)【公開番号】P2022110247
(43)【公開日】2022-07-29
【審査請求日】2023-12-25
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本多 裕之
(72)【発明者】
【氏名】清水 一憲
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 慶太郎
【審査官】團野 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-222601(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0110823(US,A1)
【文献】国際公開第2019/183577(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/054423(WO,A1)
【文献】特表2013-533849(JP,A)
【文献】ELEAZU Chinedum et al.,“Free fatty acid receptor 1 as a novel therapeutic target for type 2 diabetes mellitus-current status”,Chemico-Biological Interactions,2018年06月,Vol. 289,p.32-39,DOI:10.1016/j.cbi.2018.04.026
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C07K
DB名 JSTPlus/JMEDPlus
/JST7580(JDreamIII),
BIOSIS/MEDLINE/CAplus
/EMBASE(STN)
GenSeq/UniProt
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号3~14のいずれかに示されるアミノ酸配列からなる、ペプチド。
【請求項2】
列番号3~5のいずれかに示されるアミノ酸配列からなる、ペプチド。
【請求項3】
列番号1、2、16、18、19、23~25、40、41、49~53、57、60、67~69、71、72、75~77、81、85~89、91、93~95、97、124、132、136、138、140、142~147、及び152のいずれかに示されるアミノ酸配列かなる、ペプチド。
【請求項4】
請求項1~のいずれかに記載のペプチドを含有する、組成物。
【請求項5】
FFAR1活性化、インスリン分泌促進、GLP-1分泌促進、糖代謝改善、及び糖尿病の予防又は改善からなる群より選択される少なくとも1種に用いるための、請求項に記載の組成物。
【請求項6】
医薬、食品組成物、又は食品添加剤である、請求項又はに記載の組成物。
【請求項7】
経口製剤形態である、請求項のいずれかに記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチド等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二型糖尿病に対する新たな治療ターゲットとしてFFAR1というGPCRが注目されている。FFAR1は膵臓や腸に多く発現している。リガンドである中・長鎖脂肪酸によりFFAR1が活性化されると、インスリン分泌を促進する。FFAR1は体内のグルコース濃度が高い時にのみ、インスリン分泌を促進するため、低血糖のリスクなく血糖値のコントロールが可能となる。しかし、既存の小分子アゴニストの問題点として、脂肪酸の骨格を模倣しているため親油性が高く、高親油性による副作用や毒性が問題となっている。副作用や毒性から臨床試験を突破できていないアゴニストが多く存在しており、毒性の低いアゴニストの開発が求められている。
【0003】
特許文献1には、特定の微生物によりFFAR1等の遊離脂肪酸受容体の活性を調節する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2020-532515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、毒性の少ない化合物としてペプチドに着目した。例えば、腸管内に発現しているFFAR1を刺激できるペプチドは、新たな健康食品や健康増進サプリメントとして期待できる。
【0006】
本発明は、FFAR1活性化能を有するペプチドを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意研究を進めた結果、(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列a、(b)前記アミノ酸配列aに対して1~4個のアミノ酸が置換されたアミノ酸配列b、又は(c)前記アミノ酸配列a又は前記アミノ酸配列bに対して、末端の1~2個のアミノ酸が欠失された、或いは末端に1~2個のアミノ酸が付加されたアミノ酸配列cからなる、ペプチド、がFFAR1活性化能を有することを見出した。本発明者は、これらの知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明を完成させた。即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0008】
項1. (a)配列番号1で示されるアミノ酸配列a、
(b)前記アミノ酸配列aに対して1~4個のアミノ酸が置換されたアミノ酸配列b、又は
(c)前記アミノ酸配列a又は前記アミノ酸配列bに対して、末端の1~2個のアミノ酸が欠失された、或いは末端に1~2個のアミノ酸が付加されたアミノ酸配列c
からなる、ペプチド。
【0009】
項2. (d)配列番号2で示されるアミノ酸配列d、
(e)前記アミノ酸配列dに対して1~2個のアミノ酸が置換されたアミノ酸配列e、又は
(f)前記アミノ酸配列d又は前記アミノ酸配列eに対して、末端の1~2個のアミノ酸が欠失された、或いは末端に1~2個のアミノ酸が付加されたアミノ酸配列f
からなる、項1に記載のペプチド。
【0010】
項3. 可食性タンパク質中の部分アミノ酸配列からなる、項2に記載のペプチド。
【0011】
項4. (g)配列番号2~14のいずれかに示されるアミノ酸配列g、又は
(h)前記アミノ酸配列gに対して、末端の1~2個のアミノ酸が欠失された、或いは末端に1~2個のアミノ酸が付加されたアミノ酸配列h
からなる、項2又は3に記載のペプチド。
【0012】
項5. 前記アミノ酸配列gからなる、項4に記載のペプチド。
【0013】
項6. 前記アミノ酸配列gが配列番号2~5のいずれかに示されるアミノ酸配列である、項5に記載のペプチド。
【0014】
項7. 前記アミノ酸配列bが、前記アミノ酸配列aに対して1~2個のアミノ酸が置換されたアミノ酸配列である、項1に記載のペプチド。
【0015】
項8. 前記アミノ酸配列bが、式(1):
X1X2X3GX5X6 (1)
(式中、X1は、S、F、V、P、又はIであり、X2は、T、又はVであり、X3は、T、V、K、I、Y、又はFであり、X5は、T、V、I、Y、K、又はFであり、X6は、Q、F、I、V、又はLである。)
で表されるアミノ酸配列、又は配列番号39~152のいずれかに示されるアミノ酸配列である、項1又は7に記載のペプチド。
【0016】
項9. 前記アミノ酸配列bが配列番号2及び15~33のいずれかに示されるアミノ酸配列、又は配列番号39~152のいずれかに示されるアミノ酸配列である、項8に記載のペプチド。
【0017】
項10. 項1~9のいずれかに記載のペプチドを含有する、組成物。
【0018】
項11. FFAR1活性化、インスリン分泌促進、GLP-1分泌促進、糖代謝改善、及び糖尿病の予防又は改善からなる群より選択される少なくとも1種に用いるための、項10に記載の組成物。
【0019】
項12. 医薬、食品組成物、又は食品添加剤である、項10又は11に記載の組成物。
【0020】
項13. 経口製剤形態である、項10~12のいずれかに記載の組成物。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、FFAR1活性化能を有するペプチドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】試験例3のTGFα切断アッセイの結果を示す。横軸中、Paはパルミチン酸を示し、アミノ酸配列(1文字表記)は被検ペプチドの配列を示す。横軸に、Paについては試験濃度、STTGTQYペプチドについては希釈倍率を示す。
図2】試験例4のTGFα切断アッセイの結果を示す。横軸中、Paはパルミチン酸を示し、アミノ酸配列(1文字表記)は被検ペプチドの配列を示す。横軸に、Paについては試験濃度を示す。
図3】試験例5で特徴量の算出に使用した、24種類のアミノ酸の物理化学的性質のリストを示す。
図4】試験例5で特徴量の算出に使用した、各アミノ酸の物理化学的特徴について算出した5つの総合値、及びその計算例を示す。
図5】試験例5で高活性と予測された上位30種の配列における、各ポジションのアミノ酸を示す。横軸に示されるアミノ酸ポジションは、STTGTQペプチドのN末端側から順に1、2、3・・・である。
図6】試験例5のTGFα切断アッセイの結果を示す。横軸に被検ペプチドの配列を示す。
図7】試験例6のインスリン濃度測定結果を示す。横軸に、被検物質の使用濃度を示す。**は、バーで示される2群間で、Student t-testにより算出されたP値が0.01未満であることを示す。
図8】試験例7のTGFα切断アッセイの結果を示す。横軸に被検ペプチドの配列を示す。
図9】試験例8のGLP-1濃度測定結果を示す。横軸に、横軸に被検ペプチドの配列、及びその使用濃度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0024】
本明細書中において、保存的置換とは、アミノ酸残基が類似の性質の側鎖を有するアミノ酸残基に置換されることを意味する。例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジンといった塩基性側鎖を有するアミノ酸残基同士で置換されることが、保存的な置換技術にあたる。その他、アスパラギン酸、グルタミン酸といった酸性側鎖を有するアミノ酸残基;グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システインといった非帯電性極性側鎖を有するアミノ酸残基;アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファンといった非極性側鎖を有するアミノ酸残基;スレオニン、バリン、イソロイシンといったβ-分枝側鎖を有するアミノ酸残基、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジンといった芳香族側鎖を有するアミノ酸残基同士での置換も同様に、保存的な置換にあたる。
【0025】
FFAR1(Free fatty acid receptor 1)は、GPR40とも呼ばれ、クラスAのGタンパク質共役型受容体で、膵臓や腸に多く発現している。各種生物種における遺伝子が公知であり、ヒトのFFAR1のアミノ酸配列は、例えばNCBI Reference Sequence: NP_005294.1であり、マウスのFFAR1のアミノ酸配列は、例えばNCBI Reference Sequence: NP_918946.2である。
【0026】
1.ペプチド
本発明は、その一態様において、(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列a、(b)前記アミノ酸配列aに対して1~4個のアミノ酸が置換されたアミノ酸配列b、又は(c)前記アミノ酸配列a又は前記アミノ酸配列bに対して、末端の1~2個のアミノ酸が欠失された、或いは末端に1~2個のアミノ酸が付加されたアミノ酸配列cからなる、ペプチド(本明細書において、「本発明のペプチド」と示すこともある。)、に関する。以下に、これについて説明する。
【0027】
アミノ酸配列aはSTTGTQで表されるアミノ酸配列である。
【0028】
アミノ酸配列bにおいて、置換後のアミノ酸は、ペプチドを構成できるアミノ酸である限り特に制限されず、天然アミノ酸及び人工アミノ酸のいずれも採用することができる。置換後のアミノ酸としては、例えば疎水性アミノ酸、親水性アミノ酸、塩基性アミノ酸、酸性アミノ酸、分岐鎖アミノ酸、芳香族アミノ酸、含硫アミノ酸等が挙げられる。置換後のアミノ酸として、より具体的には、例えばバリン、ロイシン、イソロイシン、アラニン、アルギニン、グルタミン、リシン(リジン)、アスパラギン酸、グルタミン酸、プロリン、システイン、トレオニン(スレオニン)、メチオニン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、アスパラギン、グリシン、セリン等が挙げられる。
【0029】
アミノ酸配列bにおいて、置換されたアミノ酸の数は、本発明の一態様において、好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個又は1個である。当該数は、本発明の別の一態様において、好ましくは2~4個、より好ましくは3~4個又は4個である。
【0030】
アミノ酸配列bにおける置換の態様は、本発明のペプチドが、FFAR1活性化能を有する限りにおいて、特に制限されない。本は発明の一態様において、置換は保存的置換であることができる。FFAR1活性化能は、後述の試験例2のTGFα切断アッセイによって測定される。
【0031】
アミノ酸配列bとしては、本発明の一態様において、好ましくは式(1):X1X2X3GX5X6 (1)(式中、X1は、S、F、V、P、又はIであり、X2は、T、又はVであり、X3は、T、V、K、I、Y、又はFであり、X5は、T、V、I、Y、K、又はFであり、X6は、Q、F、I、V、又はLである(全て、アミノ酸一文字表記)。)で表されるアミノ酸配列(アミノ酸配列b1)が挙げられる。
【0032】
アミノ酸配列b1は、アミノ酸配列aに対して、好ましくは1~3個のアミノ酸が置換されたアミノ酸配列、より好ましくは2個のアミノ酸が置換されたアミノ酸配列である。
【0033】
X1は、好ましくはS、F、P、又はIであり、より好ましくはS、F、又はIであり、さらに好ましくはSである。
【0034】
X2は、好ましくはTである。
【0035】
X3は、好ましくはT、K、又はIであり、より好ましくはT又はKであり、さらに好ましくはKである。
【0036】
X5は、好ましくはT、V、又はIであり、より好ましくはTである。
【0037】
X6は、好ましくはF、又はIであり、より好ましくはFである。
【0038】
X1、X2、X3、X5、及びX6の組合せとしては、任意の組合せを採用することができる。
【0039】
アミノ酸配列b1として、具体的には、例えば配列番号2及び15~33のいずれかに示されるアミノ酸配列が挙げられる。これらの中でも、好ましくは配列番号2、15、16、18、19、20、23~27、及び30のいずれかに示されるアミノ酸配列が挙げられ、より好ましくは配列番号2、16、18、19、23~26、及び30のいずれかに示されるアミノ酸配列が挙げられる。
【0040】
アミノ酸配列bとしては、本発明の別の一態様において、好ましくは配列番号39~152のいずれかに示されるアミノ酸配列(アミノ酸配列b2)が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、後述の表3の数値が1.1以上であるアミノ酸配列が挙げられ、より好ましくは、後述の表3の数値が1.2以上であるアミノ酸配列が挙げられ、さらに好ましくは、後述の表3の数値が1.3以上であるアミノ酸配列が挙げられ、よりさらに好ましくは、後述の表3の数値が1.4以上であるアミノ酸配列が挙げられ、とりわけ好ましくは、後述の表3の数値が1.5以上であるアミノ酸配列が挙げられ、とりわけより好ましくは、後述の表3の数値が1.6以上であるアミノ酸配列が挙げられ、とりわけさらに好ましくは、後述の表3の数値が1.7以上であるアミノ酸配列が挙げられ、とりわけよりさらに好ましくは、後述の表3の数値が1.8以上であるアミノ酸配列が挙げられ、特に好ましくは、後述の表3の数値が1.9以上であるアミノ酸配列が挙げられる。
【0041】
アミノ酸配列cにおいて「末端の1~2個のアミノ酸が欠失された」とは、N末端及び/又はC末端の1残基又は2残基、計1~2残基のアミノ酸が欠失されたことを意味する。具体的には、N末端の1残基、N末端の2残基、C末端の1残基、C末端の2残基、或いはN末端の1残基とC末端の1残基が欠失されたことを意味する。欠失アミノ酸の数は、好ましくは1個である。
【0042】
アミノ酸配列cにおいて「末端に1~2個のアミノ酸が付加された」とは、N末端及び/又はC末端に1残基又は2残基、計1~2残基のアミノ酸が付加されたことを意味する。具体的には、N末端に1残基、N末端に2残基、C末端に1残基、C末端に2残基、或いはN末端に1残基とC末端に1残基が付加されたことを意味する。付加アミノ酸の数は、好ましくは1個である。
【0043】
アミノ酸配列cにおいて、付加アミノ酸は、ペプチドを構成できるアミノ酸である限り特に制限されず、天然アミノ酸及び人工アミノ酸のいずれも採用することができる。置換後のアミノ酸としては、例えば疎水性アミノ酸、親水性アミノ酸、塩基性アミノ酸、酸性アミノ酸、分岐鎖アミノ酸、芳香族アミノ酸、含硫アミノ酸等が挙げられる。置換後のアミノ酸として、より具体的には、例えばバリン、ロイシン、イソロイシン、アラニン、アルギニン、グルタミン、リシン(リジン)、アスパラギン酸、グルタミン酸、プロリン、システイン、トレオニン(スレオニン)、メチオニン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、アスパラギン、グリシン、セリン等が挙げられる。
【0044】
アミノ酸配列cにおける欠失及び付加の態様は、本発明のペプチドが、FFAR1活性化能を有する限りにおいて、特に制限されない。FFAR1活性化能は、後述の試験例2のTGFα切断アッセイによって測定される。
【0045】
本発明のペプチド(アミノ酸配列b又はc)の好ましい一態様としては、(d)配列番号2で示されるアミノ酸配列d、(e)前記アミノ酸配列dに対して1~2個のアミノ酸が置換されたアミノ酸配列e、又は(f)前記アミノ酸配列d又は前記アミノ酸配列eに対して、末端の1~2個のアミノ酸が欠失された、或いは末端に1~2個のアミノ酸が付加されたアミノ酸配列fからなる、ペプチド(本発明のペプチドA)、が挙げられる。
【0046】
アミノ酸配列dはSTKGTFで表されるアミノ酸配列である。
【0047】
アミノ酸配列eにおいて、置換後のアミノ酸及び置換の態様は、アミノ酸配列bと同様である。
【0048】
アミノ酸配列fの定義、付加アミノ酸、並びに欠失及び付加の態様については、アミノ酸配列cと同様である。
【0049】
本発明のペプチドAとして、好ましくは、(g)配列番号2~14のいずれかに示されるアミノ酸配列g、又は(h)前記アミノ酸配列gに対して、末端の1~2個のアミノ酸が欠失された、或いは末端に1~2個のアミノ酸が付加されたアミノ酸配列hからなる、ペプチド(本発明のペプチドA1)、が挙げられる。
【0050】
アミノ酸配列gとして、好ましくは配列番号2~5のいずれかに示されるアミノ酸配列が挙げられる。
【0051】
アミノ酸配列hの定義、付加アミノ酸、並びに欠失及び付加の態様については、アミノ酸配列cと同様である。
【0052】
本発明のペプチドA1は、好ましくはアミノ酸配列gからなるペプチドである。
【0053】
本発明のペプチド(特に、本発明のペプチドA)は、好ましくは、可食性タンパク質中の部分アミノ酸配列からなるペプチドである。可食性タンパク質としては、食品素材に豊富に含まれるタンパク質である限り特に制限されず、具体的には、例えば乳タンパク質(例えばカゼイン、カゼインナトリウム、MPC(Milk Protein Concentrate)、α-カゼイン、β-カゼイン、κ-カゼイン、ラクトアルブミン等、これらの分解物等)、豆タンパク質(例えばグリシニン、βコングリシニン、コンビシリン、ヒストン等)、穀類(例えば、米、小麦等)タンパク質(例えばグルテン、グルアジン、グルテリン、グルテニン貯蔵タンパク質等)、畜肉タンパク質(例えば筋肉構造タンパク、ミオシン、アクチン等)、魚肉タンパク質(例えば筋繊維タンパク、アクトミオシン、ミオシン、アクチン等)、鶏卵タンパク質(例えば卵白アルブミン、卵黄リポタンパク等)、豚皮タンパク質(例えばゼラチン等)等が挙げられる。
【0054】
本発明のペプチドのFFAR1活性化能は、アミノ酸配列aからなる非化学修飾ペプチドのFFAR1活性化能を1とした場合、例えば0.1以上、好ましくは0.2以上、より好ましくは0.5以上、さらに好ましくは0.7以上、よりさらに好ましくは1.0以上、とりわけ好ましくは1.5以上、とりわけより好ましくは2.0以上、とりわけさらに好ましくは3.0以上である。当該活性化能の上限は特に制限されず、例えば20、10、8、7、6、又は5である。
【0055】
本発明のペプチドは、好ましくは、単離、濃縮、又は精製されたペプチドである。
【0056】
本発明のペプチドは、FFAR1活性化能が著しく低下しない限りにおいて、末端のアミノ酸残基が化学修飾されたものも包含する。
【0057】
本発明のペプチドは、C末端がカルボキシル基(-COOH)、カルボキシレート(-COO)、アミド(-CONH2)またはエステル(-COOR)であるもの、等も包含する。
【0058】
ここでエステルにおけるRとしては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチルなどのC1-6アルキル基;例えば、シクロペンチル、シクロヘキシルなどのC3-8シクロアルキル基;例えば、フェニル、α-ナフチルなどのC6-12アリール基;例えば、ベンジル、フェネチルなどのフェニル-C1-2アルキル基;α-ナフチルメチルなどのα-ナフチル-C1-2アルキル基などのC7-14アラルキル基;ピバロイルオキシメチル基などが用いられる。
【0059】
さらに、本発明のペプチドは、N末端のアミノ酸残基の主鎖上のアミノ基が保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アルカノイルなどのC1-6アシル基など)で保護されているもの、ミリストイル化 、ピログルタミル化、メチル化等も包含する。
【0060】
本発明のペプチドは、FFAR1活性化能が著しく低下しない限りにおいて、末端以外のアミノ酸残基が、化学修飾されたものも包含するが、好ましくは、本発明のペプチドは末端以外のアミノ酸残基が化学修飾されたものを包含しない。この場合の化学修飾としては、例えばカルボキシル基のアミド化、エステル化等; 保護基によるアミノ基の保護等が挙げられる。エステル化、保護基については、上記した末端の化学修飾と同様である。
【0061】
本発明のペプチドは、酸または塩基との塩の形態も包含する。塩は、特に限定されず、酸性塩、塩基性塩のいずれも採用することができる。例えば酸性塩の例としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩; 酢酸塩、プロピオン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩等の有機酸塩; アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩等のアミノ酸塩等が挙げられる。また、塩基性塩の例として、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩; カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。
【0062】
本発明のペプチドは、溶媒和物の形態も包含する。溶媒は、特に限定されず、例えば水、エタノール、グリセロール、酢酸等が挙げられる。
【0063】
本発明のペプチドは、様々な方法で製造することができる。本発明のペプチドは、例えば固相合成法により製造することができる。また、本発明のペプチドが可食性タンパク質中の部分アミノ酸配列からなるペプチドである場合は、タンパク質の酵素分解により得ることができる。
【0064】
酵素は、タンパク質分解活性を有するものである限り特に限定されないが、例えばアスパラギン酸プロテアーゼ、セリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、メタロプロテアーゼ、スレオニンプロテアーゼ等が挙げられる。
【0065】
アスパラギン酸プロテアーゼとしては、例えばペプシン、レニン、カテプシンD、カテプシンE、ナプシン、βセクレターゼ、γセクレターゼ、シグナルペプチドペプチダーゼ、HIVプロテアーゼ、HTLVプロテアーゼ、NS3Aプロテアーゼ、プラスメプシン、サスパーゼ、キモシン等が挙げられる。
【0066】
セリンプロテアーゼとしては、例えばジペプチジルペプチダーゼ4、トリプシン、キモトリプシン、プラスミン、トロンビン、Xa因子などの血液凝固・線溶系および補体系やその制御系の各因子、好中球エラスターゼ、スブチリシン、フューリン、PACE4、PC2、PC7、ケキシン、ククミシン、ランチビオティックペプチダーゼ、テルミターゼ、アクロシン、カリクレイン、ウロキナーゼ、グランチーム、トリプターゼ、キマーゼ、カテプシンA、プロリルアミノペプチダーゼ、P型シグナルペプチダーゼ、前立腺特異抗原、HCMVプロテアーゼ、V8プロテアーゼ、プロテアーゼK等が挙げられる。
【0067】
システインプロテアーゼとしては、例えばカテプシンB、カテプシンH、カテプシンL、カテプシンS、カテプシンKなどのカテプシン類、レグメイン、アンジオテンシン変換酵素、ブレオマイシン加水分解酵素、カルパイン、カスパーゼ、ER-60、パパイン、コロナウイルス3CLプロテアーゼ、ファルシパイン、TEVプロテアーゼ、HRV3Cプロテアーゼ等が挙げられる。
【0068】
メタロプロテアーゼとしては、例えばADAM、マトリックスメタロプロテアーゼ、サーモリシン、ネプリライシン、カルボキシペプチダーゼ、エンドセリン変換酵素、KELL抗原、骨形成因子-1、メプリン、セラリシン、PAPP、ミトコンドリアプロセッシングプロテアーゼ、インスリン分解酵素、アミノペプチダーゼ、プレニルプロテアーゼ等が挙げられる。
【0069】
スレオニンプロテアーゼとしては、例えばプロテアソーム、γグルタミルトランスフェラーゼ等が挙げられる。
【0070】
酵素としては、1種単独を採用することもできるし、2種以上を組合わせて採用することもできる。
【0071】
可食性タンパク質及び酵素の組合せは、例えば、次のようにして決定することができる。すなわち、可食性タンパク質のアミノ酸配列から、酵素で分解した場合に生成される、本発明のペプチドのアミノ酸配列を探索する方法により、決定することができる。これにより、本発明のペプチドのアミノ酸配列が得られる可食性タンパク質/酵素の組合せを得ることが可能である。可食性タンパク質のアミノ酸配列及び酵素の切断特異性は、公知の情報に従って容易に決定することが可能である。
【0072】
酵素でタンパク質を分解する工程を含む方法により、タンパク質の酵素分解物を得ることができる。分解は、具体的には、例えばタンパク質及び酵素を含有する反応液をインキュベートすることにより、行うことができる。反応液の組成、反応温度、反応時間、タンパク質濃度、酵素濃度、添加剤の有無及びその種類等は、タンパク質及び酵素の種類に応じて、適宜設定することができる。
【0073】
酵素でタンパク質を分解する工程の後は、さらに、本発明のペプチドを精製する工程を行うことが好ましい。
【0074】
精製方法は、本発明のペプチドを濃縮できる(すなわち、ペプチド全体における本発明のペプチドの濃度を高めることができる)方法である限り、特に制限されない。精製方法としては、例えば、シリカゲルによる精製、合成吸着樹脂による精製、順相分配クロマトグラフィー、逆相分配クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、電気透析等による脱塩、限外ろ過膜等による分子量分画、サイズ排除クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を用いて精製することができる。また、本発明のペプチドを、FFAR1結合性を利用して(例えば、FFAR1を担持させた担体や、FFAR1を発現する細胞を利用して)、精製することもできる。精製方法として、1種単独を採用することもできるし、2種以上を組み合わせて採用することもできる。
【0075】
2.用途
本発明は、その一態様において、本発明のペプチドを含有する、組成物(本明細書において、「本発明の組成物」と示すこともある。)、に関する。
【0076】
本発明の組成物は、FFAR1活性化、インスリン分泌促進、GLP-1分泌促進、糖代謝改善、及び糖尿病の予防又は改善からなる群より選択される少なくとも1種に用いることができる。本発明は、その一態様において、本発明のペプチドを含有する、FFAR1活性化剤、インスリン分泌促進剤、GLP-1分泌促進剤、糖代謝改善剤、及び糖尿病の予防又は改善剤に関する。
【0077】
本発明のペプチドとしては、1種単独を採用することもできるし、2種以上を組合わせて採用することもできる。
【0078】
本発明の組成物は、ペプチドとして、本発明のペプチド以外のペプチドを含む場合も包含する。本発明の組成物における本発明のペプチドの含有量は、ペプチド100質量%に対して、例えば10質量%以上、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、よりさらに好ましくは80質量%以上、とりわけさらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上である。
【0079】
本発明の組成物は、各種分野において、例えば食品添加剤、食品組成物(健康増進剤、栄養補助剤(サプリメントなど)を包含する)、医薬などとして用いることができる。
【0080】
本発明の組成物の投与(或いは摂取)形態は、所望の効果が得られる限り特に制限されず、経口投与、及び非経口投与(例えば静脈注射、筋肉注射、皮下投与、直腸投与、経皮投与、局所投与)のいずれかの投与経路でヒトを含む哺乳類に投与することができる。好ましい投与形態は経口投与である。経口投与および非経口投与のための剤形およびその製造方法は当業者に周知であり、有効成分(本発明のペプチド)を、薬学的に許容される坦体などと混合などすることにより、常法に従って製造することができる。
【0081】
本発明の組成物の形態は、特に限定されず、用途に応じて、各用途において通常使用される形態をとることができる。
【0082】
本発明の組成物の形態としては、用途が食品添加剤、医薬、健康増進剤、栄養補助剤(サプリメントなど)などである場合は、例えば錠剤(口腔内側崩壊錠、咀嚼可能錠、発泡錠、トローチ剤、ゼリー状ドロップ剤などを含む)、丸剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、ドライシロップ剤、液剤(ドリンク剤、懸濁剤、シロップ剤を含む)、ゼリー剤などが挙げられる。特に医薬の場合であれば、これら以外にも、例えば注射用製剤(例えば、点滴注射剤、静脈注射剤、筋肉注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤)、外用剤(例えば、軟膏剤、パップ剤、ローション剤、クリーム、ゲル剤)、坐剤、吸入剤、眼剤、眼軟膏剤、点鼻剤、点耳剤、リポソーム剤などが挙げられる。
【0083】
本発明の組成物の形態としては、用途が食品組成物の場合は、液状、ゲル状あるいは固形状の食品、例えばラーメン、ハンバーガー、揚げ物、ジュース、清涼飲料、茶、スープ、豆乳などの飲料、サラダ油、バターなどの食用油脂、ドレッシング、ヨーグルト、ゼリー、プリン、ふりかけ、育児用粉乳、ケーキミックス、粉末状または液状の乳製品、パン、クッキーなどが挙げられる。
【0084】
本発明の組成物は、必要に応じてさらに他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、食品添加剤、食品組成物、医薬、健康増進剤、栄養補助剤(サプリメントなど)などに配合され得る成分である限り特に限定されるものではないが、例えば基剤、担体、溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、増粘剤、着色料、香料、キレート剤などが挙げられる。
【0085】
本発明の組成物における有効成分の含有量は、用途、使用態様、適用対象の状態などに左右されるものであり、限定はされないが、例えば0.0001~100質量%、好ましくは0.001~50質量%とすることができる。当該含有量の下限は、例えば0.01質量%、0.1質量%、1質量%、5質量%、10質量%、20質量%、30質量%、40質量%、50質量%、60質量%、70質量%、80質量%、又は90質量%である。
【0086】
本発明の組成物の適用(例えば、投与、摂取、接種など)量は、その効果を発現する有効量であれば特に限定されず、通常は、本発明のペプチドの乾燥重量として、一般に一日あたり0.01~1000mg/kg体重である。適用量の下限は、例えば0.1 mg/kg体重、1 mg/kg体重、5 mg/kg体重、10 mg/kg体重、20 mg/kg体重、50 mg/kg体重、100 mg/kg体重、200 mg/kg体重、又は500 mg/kg体重である。上記適用量は1日1回以上(例えば1~3回)適用するのが好ましく、年齢、病態、症状により適宜増減することもできる。
【実施例
【0087】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0088】
試験例1.ペプチドアレイの合成
後述の試験例で使用するペプチドアレイは、以下のようにして合成した。
【0089】
<試験例1-1.活性化メンブレンの作製>
セルロースろ紙 FILTER PAPER 542 HARDENED ASHLESS 24.0 cm (1542-185、Whatman、England) (以下メンブレン)21枚を10 cm×15 cmに裁断し、ポリプロピレン製のタッパーに入れ、DMF(N,N-Dimethylformamide) (A00185、関東化学株式会社、東京)150 mLに浸し、一日振とうさせた。次に、Fmoc-β-Ala-OH (K00410、渡辺化学工業株式会社、広島)、1-Methylimidazole,redistilled,99+% (336092-100ML、SIGMA-ALDRICH 、 USA)、DIPCI (N,N`-Diisopropylcarbodiimide) (A00011、渡辺化学株式会社、広島)を用い、活性化溶液(0.5Mβ-Ala 32 mL, 1-Methylimidazole 1.6 ml, DIPCI 2 mL, DMF 150 mL)を作製した。この溶液に21枚のメンブレンを浸し、一日振とうさせた後、1-Methylimidazole 1.6 ml, DIPCI 2 mLを加え、さらに一日振とうさせた。メンブレンに活性化溶液がよく浸るように一日2,3 回ピンセットを用いてメンブレンを1枚ずつ、表裏ともに浸した。1 枚のメンブレンを用いて合成反応の確認を行った。1%BPB (ブロモフェノールブルー) (021-02911、和光純薬株式会社、大阪)/DMF溶液を用い、メンブレンを浸したメタノール溶液中に1%BPB/DMF溶液100 μl と酢酸 (017-00256、和光純薬株式会社、大阪)100 μlを加え、NH2基を青色に呈色した。青色に呈色することを確認し、残りの20 枚はDMF 50 mL、メタノール(139-01827、和光純薬株式会社、大阪) 50 mLでそれぞれ3回洗浄し、自然乾燥させたのち、真空パックに入れて 4℃で保存した。
【0090】
<試験例1-2.ペプチド合成>
ペプチドアレイの作製は、Fmoc固相合成法を用いて行った。Fmoc-アミノ酸(全て渡辺化学工業株式会社)をNMP(N-メチル-2-ピロリドン) (133-15115、和光純薬株式会社、大阪)に溶解させた 0.5 M アミノ酸溶液に、DIPCI(N,N`-Diisoprppylcarbodiimide)、HOBt (1-hydrozybenzotriazole) (A00015、渡辺化学工業株式会社、広島)を終濃度が1:2:2になるように混合した。このアミノ酸をpeptide synthesizer (ASP222、IntavisAG、Koln、Germany)を用いて活性化メンブレン上にスポッティングした (1 spot=1.1 μl × 3 回で 1 残基目のみ 0.8 μl × 3 回)。1 残基目にはリンカーとしてFmoc-photo-linker (sc-294977A、SANTA CRUZ、 USA)を合成した。1 残基合成後は、メンブレンをDMFで3回洗浄し未反応の活性化アミノ酸を取り除いた。そして、未反応のアミノ基をブロッキングするために、5%無水酢酸(011-00276、和光純薬株式会社、大阪)/DMF 50 ml を15 min × 2回反応させ、活性化メンブレン上の未反応アミノ基をアセチル化した。その後、メンブレンをDMFで3回洗浄し、20%piperidine/DMFに1 h 浸し、Fmoc基を脱保護した。以上の操作を繰り返してペプチド伸長反応を行うことで任意のペプチドを合成した。合成反応の確認は、1%BPB (ブロモフェノールブルー) (021-02911、和光純薬株式会社、大阪)/DMF溶液を用い、メンブレンを浸したメタノール溶液中に1%BPB/DMF溶液100 μl と酢酸 (017-00256、和光純薬株式会社、大阪)100 μlを加え、NH2基を青色に呈色することにより行った。
【0091】
任意のペプチドをメンブレン上に合成したのち、ペプチド伸長反応終濃後のメンブレンを20%piperidine/DMF に1 h 浸し、Fmoc基を脱保護した。次に、各アミノ酸側鎖に結合している保護基を除去するため、脱保護試薬をTFA(trifluoroacetic acid) (A00025、渡辺化学工業株式会社、広島)、m-クレゾール(034-04646、渡辺化学工業株式会社、大阪)、EDT(1,2-Ethanedithiol)(A00057、渡辺化学工業株式会社、広島)、チオアニソール(T0191、東京化成工業株式会社、東京)を40:1:3:6の割合で混合して50 ml 作成し、メンブレンを2.5 h 浸した。脱保護後、ジエチルエーテル(051-01157、和光純薬株式会社、大阪)とメタノールそれぞれで3回ずつ洗浄し、臭いが無くなるまで、ジエチルエーテルとメタノールで複数回洗浄した。その後、ドライヤーで乾燥させ、実験に使用した。
【0092】
<試験例1-3.ペプチド溶液の作製>
試験例1-2の操作で合成したペプチドアレイに、トランスイルミネーター(DT-20LCP、Atto、東京)を用いて365 nm のUVを3 h 照射した。UV照射によりフォトリンカーを切断してペプチドを遊離させた。ペプチドアレイ上の各スポットを2スポットずつ96well 用ろ過フィルター(MSRLN0410、Multiscreen HTS Vacuum Manifold、Merck Millipore、Germany)にパンチアウトした。ペプチドを溶解させるために実験ごとに適当なHBSS(14025076、バイオテクノロジー、東京)バッファーを加え、37℃、1h ペプチドを溶出した。その後、各ペプチド溶液を減圧濾過で96wellプレートに回収した。
【0093】
試験例2.TGFα切断アッセイ
後述の試験例で行うTGFα切断アッセイは、以下のようにして行った。
【0094】
<試験例2-1.細胞培養>
HEK293細胞を37℃、5% CO2、95%Air下のCO2インキュベータ内で、細胞培養用T75フラスコ(658170、Greiner Bio One、AT)で培養した。培地に10% FBS (biosera、NUAILLE、France)、1% Penicillin-Streptomycin (PS) (15140122、和光純薬工業、大阪)を含むDMEMを用いた。継代操作はサブコンフルエント状態(80%~90%)になった細胞の培地を除き、PBSで二回洗浄後、トリプシン処理により細胞をはがして再播種した。血球計算盤を用いて細胞数を測定し、初期細胞数が1.0×106 cells/wellとなるように再播種した。アッセイに用いる細胞はアッセイ開始時にサブコンフルエントになるように適当な細胞濃度で100 mm dish(664160、Greiner Bio One、AT)に播種した。
【0095】
<試験例2-2.プラスミド溶解バッファーの作製>
プラスミドとして、pCAGGS/AP-TGFα、pCAGGS/FFAR1を使用した。プラスミドを溶解するバッファーとしてトリスEDTA緩衝液(TEバッファー:10 mM トリス塩酸バッファー, 1 mM EDTA)を用いた。トリス塩酸バッファーは60.55 g のトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(207-06275、和光純薬株式会社、大阪)を400 mL の水に溶かし、塩酸(080-01066、和光純薬株式会社、大阪)でpH8.0に調整、500 mL にメスアップして作製した。EDTA溶液はエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム二水和物(345-01865、同仁化学研究所、熊本)90.06 g を400 mL の純水に溶解し、NaOH (193-13775、和光純薬株式会社、大阪)でpH8.0に調整、500 mL にメスアップして作製した。
【0096】
<試験例2-3.pNPP溶液と溶解バッファーの作製>
p-ニトロフェニルリン酸二ナトリウム塩六水和物(pNPP;4264-83-9、ライフテクノロジーズ、東京) 1 g を2.692 mLの純水に溶解した(1 M溶液)。pNPP溶液の溶解バッファーとして2×APバッファー(2 M トリス塩酸バッファー 60 mL, 4 M NaCl (191-01665、和光純薬株式会社、大阪) 10 mL, 1 M MgCl2・6H2O (132-00175、和光純薬株式会社、大阪) 10mL, 純水920 mL)を作製した。2×APバッファーで100倍希釈した10 mM溶液をpNPP溶液とした。
【0097】
<試験例2-4.リガンドの調製>
ネガティブコントロールとしてHBSSバッファー、HBSS(2%DMSO)を調製した。ポジティブコントロールとして既存のFFAR1アゴニストであるパルミチン酸(165-00102、和光純薬株式会社、大阪)をHBSS(2%DMSO)に溶解して調製した。ペプチド溶液は72 μL ずつのHBSSバッファー(5mM HEPES)で溶出することで作製した。
【0098】
<試験例2-5.ペプチドアレイを用いた細胞アッセイ>
試験例2-1の手法で培養したHEK293細胞を初期細胞数が1.0×105 cells となるように24wellプレートの12well に播種し、37℃、5% CO2、95% Air下のCO2インキュベータ内で24 h インキュベートした。
【0099】
次に試験例2-2で作製したpCAGGS/AP-TGFα、pCAGGS/FFAR1のプラスミド溶液と、トランスフェクション試薬PEI (49553-93-7、Polyscience,Inc、USA)、Opti-MEM(31985-070、Life Technologies、東京)を以下の表に示すようにA、Bのエッペンに混合した(表1)。混合したエッペンをタッピング、フラッシュしたのち5 min 静置した。その後、AとBのエッペンを1:1で混合し、タッピング、フラッシュ後20 min 静置した。そしてHEK293細胞を播種した24wellプレートに50 μL/well でFFAR1プラスミド溶液を添加した。その後24 h 37℃、5% CO2、95% Air下のCO2インキュベータ内でインキュベートした。
【0100】
次にトランスフェクションしたHEK293細胞を2回PBSで洗浄し、トリプシン処理で細胞をはがしてDMEM入り遠沈管にプラスミドの種類ごとに回収した。1000 rpm で5 min 遠心後、HBSSを添加し、10 min 静置した。その後再び1000 rpm で5 min 遠心し、HBSSを除去することでトリプシン処理により切断されたAP-TGFαを除去した。HBSSで80 μL/wellで96wellプレートに播種できるようにHBSSでHEK293細胞を希釈し、96wellプレートにHEK293細胞を再播種した。その後1 h 37℃、5% CO2、95% Air下のCO2インキュベータ内でインキュベートし、細胞を接着させた。試験例2-4で調製したリガンドとペプチド溶液を20 μLずつ添加し、1 h 37℃、5% CO2、95 %Air下のCO2インキュベータ内でインキュベートした。その後、切断され遊離したAP-TGFαを含む上清を80 μLずつ新しい96wellプレートに移した。そして残った各ウェルの20 μL分の溶液は除去したのち、それぞれの96wellプレートに試験例2-3で作製したpNPP溶液を80 μL/wellで全ウェルに添加した。添加直後と添加30 min 後に吸光度計を用いて405 nmの吸光度を測定した。TGFαの切断率は以下の式で算出した。
【0101】
ΔOD405=(反応30 min 後のOD405)-(pNPP添加直後のOD405)
AP-TGFαの切断率=((培地上清中のΔOD405))/((培地上清中のΔOD405)+(細胞プレート中のΔOD405))。
【0102】
【表1】
【0103】
試験例3.FFAR1結合ペプチドのスクリーニング
7merのペプチドライブラリー(ファージライブラリー、ライブラリーサイズ:109)を用いて、ファージディスプレイ法により、FFAR1活性化ペプチドのスクリーニングを行った。概要としては、ネガティブパニングとポジティブパニングとを組合わせることにより、HEK293細胞には結合せず、且つFFAR1を強制発現させたHEK293細胞に特異的に結合するファージペプチドを取得した。具体的には、ファージを液相でHEK293細胞(1×107cells/1 mL PBS(1%BSA))とともにインキュベートし、HEK293細胞に結合しなかったファージの上清を回収した(ネガティブパニング)。続いて、回収したファージを、FFAR1を強制発現させたHEK293細胞とともにインキュベートし、FFAR1発現HEK293細胞に結合したファージを回収した(ポジティブパニング)。ネガティブパニング2回、ポジティブパニング1回を1ラウンドとし、パニングを3ラウンド及び4ラウンド行った後、シーケンス解析を行い、FFAR1に高結合なペプチドを取得した。
【0104】
その結果、ラウンド3後のシーケンス解析とラウンド4後のシーケンス解析の両方の解析で得られたペプチドとして、STTGTQY(配列番号34)からなるペプチド(STTGTQYペプチド)が得られた。
【0105】
続いて、STTGTQYペプチドを樹脂合成し、高濃度でTGFα切断アッセイを行い、当該ペプチドのFFAR1活性化能を測定した。具体的には、試験例1-2及び試験例2に準じて行った。TGFα切断アッセイの被検物質としては、上記ペプチド以外に、FFAR1のリガンドであるパルミチン酸(Pa)も使用した。
【0106】
結果を図1に示す。STTGTQYペプチドは濃度依存的にFFAR1を活性化することが分かった。
【0107】
試験例4.STTGTQYペプチドの短残基化の検討
STTGTQYペプチドの末端の1~2個のアミノ酸(N末端及び/又はC末端の1残基又は2残基、計1~2残基のアミノ酸)が欠失されたペプチド(STTGTQ(配列番号1)、TTGTQY(配列番号35)、STTGT(配列番号36)、TGTQY(配列番号37)、TTGTQ(配列番号38))のペプチドアレイを、試験例1に従って合成し、これを用いて試験例2に従ってTGFα切断アッセイを行った。TGFα切断アッセイの被検物質としては、上記ペプチド以外に、FFAR1のリガンドであるパルミチン酸(Pa)も使用した。
【0108】
結果を図2に示す。STTGTQペプチドは、STTGTQYペプチドよりも高いFFAR1活性化能を示した。また、他の短残基化ペプチドも一定程度のFFAR1活性化能を示した。
【0109】
試験例5.機械学習による高活性ペプチドの予測
STTGTQペプチドの1アミノ酸を他の19種の天然アミノ酸に置換した114のペプチド(表2:配列番号39~152)からなる1アミノ酸置換網羅ペプチドアレイを試験例1に従って作製し、各ペプチドのFFAR1活性化能を試験例2に従ったTGFα切断アッセイにより評価した。TGFα切断率をPaの検量線を用いることで、Pa濃度に換算し、それぞれのペプチドのPa換算濃度を元配列(STTGTQペプチド)のPa換算濃度で割った値を活性値とした。結果を表3に示す。
【0110】
【表2】
【0111】
【表3】
【0112】
次に、全120の特徴量を用いて判別分析を行い、ペプチドの活性と特徴量を関連付けた。特徴量は、24種類のアミノ酸の物理化学的性質(図3)と、各アミノ酸の物理化学的特徴について算出した5つの総合値(図4)を掛け合わせて算出した、120の値を用いた。
【0113】
得られた教師データ(表3)と上記120の特徴量を用いて、ロジスティック回帰分析を行い、STTGTQペプチドの2残基置換のペプチドの中から、高活性配列を予測した。予測においては、LogP、Hydropathy index等の疎水性の指標や、pK2などの電荷の指標が大きく用いられていた。高活性と予測された上位30種の配列における、各ポジションのアミノ酸を、図5に示す。図5より、式(1):X1X2X3GX5X6 (1) (式中、X1は、S、F、V、P、又はIであり、X2は、T、又はVであり、X3は、T、V、K、I、Y、又はFであり、X5は、T、V、I、Y、K、又はFであり、X6は、Q、F、I、V、又はLである。)で表されるアミノ酸配列が一定以上の活性を有するコンセンサス配列であることが分かる。
【0114】
当該コンセンサス配列を満たす20種のペプチド(表4:配列番号2及び15~33)について試験例1に従って作製し、各ペプチドのFFAR1活性化能を試験例2に従ったTGFα切断アッセイにより評価した。TGFα切断率をPaの検量線を用いることで、Pa濃度に換算し、それぞれのペプチドのPa換算濃度を元配列(STTGTQペプチド)のPa換算濃度で割った値を活性値とした。
【0115】
【表4】
【0116】
代表的な結果を図6に示す。コンセンサス配列を満たすことにより、高いFFAR1活性化能を示すことが分かった。
【0117】
試験例6.インスリン分泌促進能の評価
MIN6細胞に被検物質を添加し、1時間経過後、上清を回収し、上清中のインスリン濃度をELISAで定量した。被検物質は以下の通りである。
・ネガティブコントロール: Krebs-Ringer-bicarbonate-HEPES (KRBH) 緩衝液(0.2% fatty acid-free BSA, 25mM Glucose)
・ポジティブコントロール : 50μM GW9508 (0.2% fatty acid-free BSA, 25mM Glucose)
・被検ペプチド : STKGTFペプチド。
【0118】
具体的には、参考文献1(Chen et al., Br. J. Pharmacol., 2020)に従って行った。ポジティブコントロール及び被検ペプチドそれぞれを使用した場合のインスリン濃度を、ネガティブコントロールを使用した場合のインスリン濃度で除して、活性比(Activity ratio)を算出した。
【0119】
結果を図7に示す。STKGTFペプチドは、インスリン分泌促進能を有することが確認された。
【0120】
試験例7.可食性タンパク質由来ペプチドの探索及び評価
可食性タンパク質データベース(URL:http://www.uwm.edu.pl/biochemia/index.php/en/biopep)の710種のタンパク質のアミノ酸配列の中から、残基を1残基ずつずらしながら6merのアミノ酸配列を抽出し(計98387種)、その中から、STKGTFペプチドから2残基置換配列を抽出した(表5:計12種(配列番号3~14))。これら12種のアミノ酸配列のペプチドについて、試験例1に従ってペプチドアレイを合成し、これを用いて試験例2に従ってTGFα切断アッセイを行った。
【0121】
【表5】
【0122】
結果を図8に示す。可食性タンパク質由来である、STKGTFペプチドから2残基置換配列のペプチドも、一定以上のFFAR1活性化能を示した。
【0123】
試験例8.GLP-1分泌促進能の評価
STKGTFペプチドと、試験例7より当該ペプチドよりもFFAR1活性化能が高いことが示された2種のペプチド(VQKGTF、SILGTF)について、腸内分泌細胞が発現するFFAR1を介して、GLP-1分泌を促進するか否かについて、検証した。具体的には、GLUTag細胞(腸内分泌細胞株)に被検ペプチドを添加して、2時間経過後、上清を回収し、上清中のGLP-1濃度をELISAで定量した。被検ペプチドそれぞれを使用した場合のGLP-1濃度を、ネガティブコントロール(試験例6と同じ)を使用した場合のGLP-1濃度で除して、活性比(Activity ratio)を算出した。
【0124】
結果を図9に示す。被検ペプチドのいずれも、GLP-1分泌促進能を有することが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
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