(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-28
(45)【発行日】2025-06-05
(54)【発明の名称】フレキシブルプリント配線板用フィルム
(51)【国際特許分類】
H05K 1/03 20060101AFI20250529BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20250529BHJP
C08G 63/60 20060101ALI20250529BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20250529BHJP
【FI】
H05K1/03 610H
C08J5/18 CFD
C08G63/60
B32B15/08 J
(21)【出願番号】P 2021193367
(22)【出願日】2021-11-29
【審査請求日】2024-05-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000189659
【氏名又は名称】上野製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】石津 忍
(72)【発明者】
【氏名】木原 正博
(72)【発明者】
【氏名】北林 賢一
【審査官】内田 勝久
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-164593(JP,A)
【文献】特開2019-135301(JP,A)
【文献】特開2021-038350(JP,A)
【文献】特開平11-263829(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 1/03
H05K 3/46
C08J 5/18
C08G 63/60
B32B 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶融解温度が260℃以下であり、かつ空洞共振器摂動法により測定される10GHzにおける誘電正接が0.0015以下である液晶ポリマーから構成される、フレキシブルプリント配線板用フィルム。
【請求項2】
液晶ポリマーは、式(I)~(IV)
【化1】
[式中、
Ar
1およびAr
2は、それぞれ1種または2種以上の2価の芳香族基を表し、p、q、rおよびsは、それぞれ、液晶ポリマー中での各繰返し単位の組成比(モル%)であり、以下の条件を満たす:
0.5≦p/q≦2.5
0.1≦r≦25、および
0.1≦s≦25]
で表される繰返し単位を含む全芳香族液晶ポリエステルである、請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
式(III)および/または式(IV)は、Ar
1およびAr
2が、互いに独立して、式(1)~(4)
【化2】
からなる群から選択される芳香族基である繰返し単位の1種または2種以上を含む全芳香族液晶ポリエステルである、請求項2に記載のフィルム。
【請求項4】
フレキシブルプリント配線板のボンディングシートである、請求項1~3のいずれかに記載のフィルム。
【請求項5】
フレキシブルプリント配線板のカバーレイである、請求項1~3のいずれかに記載のフィルム。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載のフィルムと金属層を含む、積層体。
【請求項7】
請求項1~5のいずれかに記載のフィルムと樹脂層を含む、積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電特性に優れ、かつ層間接着性に優れるフレキシブルプリント配線板用フィルムおよびこれを含む積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
情報処理機器、通信機器等の電子機器は、一般に回路基板を内蔵している。回路基板は通常、絶縁性の材料で形成された基板と、基板上に形成された導電材料からなる層(以下、導体層と記載する)を有し、この導体層により回路が形成されている。各種の電子部品は、はんだ付け等の処理によって、回路基板に設置される。
【0003】
携帯電話などの小型電子機器に使用される回路基板においては、小型化、薄型化の要求から、フレキシブルな樹脂フィルムを絶縁性基板とする回路基板(フレキシブルプリント配線板)の開発が進められている。樹脂フィルムは、導体回路基板の絶縁基材、基材表面に導体回路が形成された基板同士を接合するボンディングシート、回路層の表面に形成されるカバーレイフィルム等に使用される。
【0004】
近年では、伝送信号の高速化に伴い、信号の高周波化が拡大すると共に、複数の導体層を有する多層回路基板も広く用いられている。
【0005】
したがって、フレキシブルプリント配線板に対しては、高周波領域における伝送ロスを抑えるために低い誘電正接を有し、かつ複数の導体層同士を多層化させるための層間接着性に優れる樹脂フィルムが求められている。
【0006】
特許文献1には、ウレタン樹脂とエポキシ樹脂とフィラーからなるフレキシブルプリント配線板用樹脂組成物とそのシートやフィルムが記載されている。また特許文献2には、液晶ポリマーフィルムからなるフレキシブルプリント配線板が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開2016/129565号公報
【文献】特開2016-10967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の樹脂組成物およびそのシートやフィルムは、誘電正接が高く、高周波領域での使用に適さないものであった。また、熱硬化時間が長いため、製造工程に長時間を要するという問題があった。
【0009】
特許文献2に記載の液晶ポリマーフィルムからなるフレキシブルプリント配線板は、ボンディングシートを溶融させるために高温での積層処理が必要であり、その際にフレキシブルプリント配線板にソリやボイド、熱膨張等の形状不具合が生じるという問題があった。また、比較的低誘電正接ではあるものの、高周波領域での使用には不十分であり、更なる低誘電正接材料が求められている。
【0010】
本発明の目的は、低誘電正接かつ低温での積層加工が可能なフレキシブルプリント配線板用フィルムを提供することにある。本発明の他の目的は、該フレキシブルプリント配線板用フィルムから構成される積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意検討した結果、特定の条件を満たした液晶ポリマーを用いることにより、誘電正接が低く、かつ低温での積層加工が可能なフレキシブルプリント配線板用フィルムが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の好適な態様を包含する。
〔1〕結晶融解温度が260℃以下であり、かつ空洞共振器摂動法により測定される10GHzにおける誘電正接が0.0015以下である液晶ポリマーから構成される、フレキシブルプリント配線板用フィルム。
〔2〕液晶ポリマーが、式(I)~(IV)
【化1】
[式中、
Ar
1およびAr
2は、それぞれ1種または2種以上の2価の芳香族基を表し、p、q、rおよびsは、それぞれ、液晶ポリマー中での各繰返し単位の組成比(モル%)であり、以下の条件を満たす:
0.5≦p/q≦2.5
0.1≦r≦25、および
0.1≦s≦25]
で表される繰返し単位を含む全芳香族液晶ポリエステルである、〔1〕に記載のフィルム。
〔3〕 式(III)および/または式(IV)は、Ar
1およびAr
2が、互いに独立して、式(1)~(4)
【化2】
からなる群から選択される芳香族基である繰返し単位の1種または2種以上を含む全芳香族液晶ポリエステルである、〔2〕に記載のフィルム。
〔4〕フレキシブルプリント配線板のボンディングシートである、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のフィルム。
〔5〕フレキシブルプリント配線板のカバーレイである、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のフィルム。
〔6〕〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のフィルムおよび金属層を含む、積層体。
〔7〕〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のフィルムおよび樹脂層を含む、積層体。
【発明の効果】
【0013】
本発明のフレキシブルプリント配線板用フィルムは、低誘電正接かつ低温での積層加工が可能であり、また、層間接着性に優れるため、フレキシブルプリント配線板材料として好適に使用される。本発明のフレキシブルプリント配線板用フィルムは、特にボンディングシートやカバーレイとして好適に使用される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のフレキシブルプリント配線板用フィルムに使用する液晶ポリマーとは、当業者にサーモトロピック液晶ポリマーと呼ばれる、異方性溶融相を形成する液晶ポリエステルまたは液晶ポリエステルアミドである。
【0015】
液晶ポリマーの異方性溶融相の性質は直交偏向子を利用した通常の偏向検査法、すなわち、ホットステージに載せた試料を窒素雰囲気下で観察することにより確認できる。
本発明に使用する液晶ポリマーを構成する繰返し単位としては、芳香族オキシカルボニル繰返し単位、芳香族ジカルボニル繰返し単位、芳香族ジオキシ繰返し単位、脂肪族ジカルボニル繰返し単位、脂肪族ジオキシ繰返し単位、芳香族アミノオキシ繰返し単位、芳香族ジアミノ繰返し単位、芳香族アミノカルボニル繰返し単位およびこれらの組合せなどが挙げられる。
【0016】
芳香族オキシカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、芳香族ヒドロキシカルボン酸である、4-ヒドロキシ安息香酸、3-ヒドロキシ安息香酸、2-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、5-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4’-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、3’-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、4’-ヒドロキシフェニル-3-安息香酸など、およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中では4-ヒドロキシ安息香酸および6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸が、得られる液晶ポリマーの機械物性、耐熱性、結晶融解温度、成形性を適度なレベルに調整しやすいことから好ましい。
【0017】
芳香族ジカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、芳香族ジカルボン酸であるテレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジカルボキシビフェニルなど、およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのエステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中ではテレフタル酸および2,6-ナフタレンジカルボン酸が、得られる液晶ポリマーの機械物性、耐熱性、結晶融解温度、成形性を適度なレベルに調整しやすいことから好ましい。
【0018】
芳香族ジオキシ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、芳香族ジオールであるハイドロキノン、レゾルシン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、1,4-ジヒドロキシナフタレン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、3,3’-ジヒドロキシビフェニル、3,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシビフェニルエーテルなど、およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中ではハイドロキノンおよび4,4’-ジヒドロキシビフェニルが、重合時の反応性、得られる液晶ポリマーの機械物性、耐熱性、結晶融解温度、成形性を適度なレベルに調整しやすいことから好ましい。
【0019】
脂肪族ジカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、フマル酸、マレイン酸、シクロヘキサンジカルボン酸およびヘキサヒドロテレフタル酸が挙げられる。
【0020】
脂肪族ジオキシ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ならびにそれらのアシル化物が挙げられる。
【0021】
芳香族アミノオキシ繰返し単位、芳香族ジアミノ繰返し単位および芳香族アミノカルボニル繰返し単位を与える単量体としては、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミンおよび芳香族アミノカルボン酸などが挙げられる。
【0022】
本発明に使用する液晶ポリマーは本発明の目的を損なわない範囲で、芳香族オキシジカルボニル繰返し単位やチオエステル結合を含むものであってもよい。チオエステル結合を与える単量体としては、メルカプト芳香族カルボン酸、および芳香族ジチオールおよびヒドロキシ芳香族チオールなどが挙げられる。これらの単量体の使用量は、芳香族オキシカルボニル繰返し単位、芳香族ジカルボニル繰返し単位、芳香族ジオキシ繰返し単位、芳香族アミノオキシ繰返し単位、芳香族ジアミノ繰返し単位および芳香族アミノカルボニル繰返し単位を与える単量体などの合計量を含む全体に対して10モル%以下であるのが好ましい。
【0023】
これらの繰り返し単位を組み合わせた共重合体には、単量体の構成や組成比、共重合体中での各繰り返し単位のシークエンス分布によっては、異方性溶融相を形成するものとしないものが存在するが、本発明に使用する液晶ポリマーは異方性溶融相を形成する共重合体に限られる。
【0024】
本発明に使用する液晶ポリマーは、2種以上の液晶ポリマーをブレンドしたものであってもよい。
【0025】
本発明に使用する液晶ポリマーの示差走査熱量計により測定される結晶融解温度は260℃以下であり、好ましくは150~250℃であり、より好ましくは170~240℃であり、さらに好ましくは190~230℃である。
【0026】
液晶ポリマーの結晶融解温度が260℃以下であることにより、フレキシブルプリント配線板を製造する際の低温積層加工性が向上し、フレキシブルプリント配線板のソリやボイド、熱膨張等の形状不具合の発生を抑制しやすくなる。
【0027】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、「結晶融解温度」とは、示差走査熱量計(Differential Scanning Calorimeter、以下DSCと略す)によって、昇温速度20℃/分で測定した際の結晶融解ピーク温度から求めたものである。より具体的には、液晶ポリマーの試料を、室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1より20~50℃高い温度で10分間保持し、次いで、20℃/分の降温条件で室温まで試料を冷却した後に、再度20℃/分の昇温条件で測定した際の吸熱ピークを観測し、そのピークトップを示す温度を液晶ポリマーの結晶融解温度とする。測定用機器としては、例えば、セイコーインスツルメンツ(株)製Exstar6000等を使用することができる。
【0028】
本発明に使用する液晶ポリマーは、空洞共振器摂動法により測定される10GHzにおける誘電正接が0.0015以下であり、好ましくは0.0013以下であり、より好ましくは0.0010以下である。
【0029】
10GHzにおける誘電正接が0.0015以下であることにより、高周波領域における伝送損失が抑制され、高速通信に好適なフレキシブルプリント配線板用フィルムとなる。
【0030】
本発明に使用する液晶ポリマーとしては全芳香族液晶ポリエステルが好適に使用され、式(I)~(IV)で表される繰返し単位を含む全芳香族液晶ポリエステルがより好適に使用される。
【化3】
[式中、
Ar
1およびAr
2は、それぞれ1種または2種以上の2価の芳香族基を表し、p、q、rおよびsは、それぞれ、全芳香族液晶ポリエステル中での各繰返し単位の組成比(モル%)であり、以下の条件を満たすものである:
0.5≦p/q≦2.5
0.1≦r≦25、および
0.1≦s≦25]
【0031】
上記式(I)に係る組成比p(モル%)と式(II)に係る組成比q(モル%)のモル比(p/q)は、0.5~2.5が好ましく、0.6~1.8がより好ましく、0.8~1.6がさらに好ましい。
【0032】
上記の好適に使用される全芳香族液晶ポリエステルについて、pとqの合計の組成比は、50~99.8モル%が好ましく、60~96モル%が好ましく、70~90モル%がより好ましい。
【0033】
上記の好適に使用される全芳香族液晶ポリエステルについて、式(I)に係る組成比pと式(II)に係る組成比qは、それぞれ、20~60モル%が好ましく、30~55モル%がより好ましい。
【0034】
本発明に好適に使用される全芳香族液晶ポリエステルにおいて、式(I)および式(II)で表される繰り返し単位を、少なくとも上記のモル比(p/q)、および場合により上記のpとqの合計の組成比および/またはpとqのそれぞれの組成比(モル%)で含むことにより、260℃以下の結晶融解温度を示す全芳香族液晶ポリエステルを好適に得ることができる。
【0035】
また、本発明に好適に使用される全芳香族液晶ポリエステルについて、式(III)に係る組成比rと式(IV)に係る組成比sは、それぞれ、0.1~25モル%が好ましく、2~20モル%がより好ましく、5~15モル%がさらに好ましい。rとsは、等モル量であるのが好ましい。
【0036】
上記の繰返し単位において、例えばAr1(またはAr2)が2種以上の2価の芳香族基を表すとは、式(III)(または(IV))で表される繰返し単位が全芳香族液晶ポリエステル中に2価の芳香族基の種類に応じて2種以上含まれることを意味する。この場合、式(III)に係る組成比r(または式(IV)に係る組成比s)は、2種以上の繰返し単位を合計した組成比を表す。
【0037】
式(I)で表される繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、4-ヒドロキシ安息香酸およびこのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0038】
式(II)で表される繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸およびこのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0039】
式(III)で表される繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、芳香族ジカルボン酸であるテレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジカルボキシビフェニルなど、およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのエステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0040】
式(IV)で表される繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、芳香族ジオールであるハイドロキノン、レゾルシン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、1,4-ジヒドロキシナフタレン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、3,3’-ジヒドロキシビフェニル、3,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシビフェニルエーテルなど、およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0041】
また、本発明に好適に使用される全芳香族液晶ポリエステルのなかでも、式(III)および式(IV)で表される繰返し単位に係るAr
1およびAr
2が、互いに独立して、式(1)~(4)で表される芳香族基からなる群から選択される1種または2種以上を含む全芳香族液晶ポリエステルが、さらに好適に使用される。
【化4】
【0042】
これらの中でも、式(III)で表される繰返し単位としては、式(1)、式(2)および式(4)で表される芳香族基が、すなわち、これら繰返し単位を与える単量体として、テレフタル酸、イソフタル酸および2,6-ナフタレンジカルボン酸ならびにこれらのエステル形成性誘導体を用いることが、得られる全芳香族液晶ポリエステルの機械物性、耐熱性、結晶融解温度および成形加工性を適度なレベルに調整しやすいことから特に好ましい。
【0043】
また、式(IV)で表される繰返し単位としては、式(1)および式(3)で表される芳香族基が、すなわち、これら繰返し単位を与える単量体として、ハイドロキノンおよび4,4’-ジヒドロキシビフェニルならびにこれらのエステル形成性誘導体を用いることが、重合時の反応性および得られる全芳香族液晶ポリエステルの機械物性、耐熱性、結晶融解温度および成形加工性を適度なレベルに調整しやすいことから特に好ましい。
【0044】
上記の繰返し単位において、例えばAr1(またはAr2)が2種以上の芳香族基を含むとは、式(III)(または(IV))で表される繰返し単位が全芳香族液晶ポリエステル中に2価の芳香族基の種類に応じて2種以上含まれることを意味する。すなわち、式(III)および/または式(IV)は、Ar1およびAr2が、互いに独立して、式(1)~(4)からなる群から選択される芳香族基である繰返し単位の1種または2種以上を含む全芳香族液晶ポリエステルが好ましい。この場合、式(III)に係る組成比r(または式(IV)に係る組成比s)は、2種以上の繰返し単位を合計した組成比を表す。
【0045】
本発明に好適に使用される全芳香族液晶ポリエステルにおいて繰返し単位の組成比の合計[p+q+r+s]が100モル%であることが好ましいが、本発明の目的を損なわない範囲において、他の繰返し単位をさらに含有してもよい。
【0046】
本発明に好適に使用される全芳香族液晶ポリエステルを構成する他の繰返し単位を与える単量体としては、他の芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、芳香族アミノカルボン酸、芳香族ヒドロキシジカルボン酸、芳香族メルカプトカルボン酸、芳香族ジチオール、芳香族メルカプトフェノールおよびこれらの組合せなどが挙げられる。
【0047】
他の芳香族ヒドロキシカルボン酸の具体例としては、例えば、3-ヒドロキシ安息香酸、2-ヒドロキシ安息香酸、5-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4’-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、3’-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、4’-ヒドロキシフェニル-3-安息香酸およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0048】
これらの他の単量体成分から与えられる繰返し単位の組成比の合計は、繰返し単位全体において、10モル%以下であるのが好ましい。
【0049】
以下、本発明に使用する液晶ポリマーの製造方法について説明する。
【0050】
本発明に使用する液晶ポリマーの製造方法に特に制限はなく、前記の単量体の組合せからなるエステル結合やアミド結合などを形成させる公知の重縮合方法、例えば溶融アシドリシス法、スラリー重合法などを使用することができる。
【0051】
溶融アシドリシス法とは、本発明で使用する液晶ポリマーの製造方法に使用するのに好ましい方法であり、この方法は、最初に単量体を加熱して反応物質の溶融液を形成し、続いて反応を続けて溶融ポリマーを得るものである。なお、縮合の最終段階で副生する揮発物(例えば、酢酸、水など)の除去を容易にするために真空を適用してもよい。
【0052】
スラリー重合法とは、熱交換流体の存在下で反応させる方法であって、固体生成物は熱交換媒質中に懸濁した状態で得られる。
【0053】
溶融アシドリシス法およびスラリー重合法の何れの場合においても、液晶ポリマーを製造する際に使用する重合性単量体成分は、常温において、ヒドロキシル基および/またはアミノ基をアシル化した変性形態、すなわち低級アシル化物として反応に供することもできる。低級アシル基は炭素原子数2~5のものが好ましく、炭素原子数2または3のものがより好ましい。特に好ましくは前記単量体のアセチル化物を反応に使用する方法が挙げられる。
【0054】
単量体のアシル化物は、別途アシル化して予め合成したものを用いてもよいし、液晶ポリマーの製造時に単量体に無水酢酸等のアシル化剤を加えて反応系内で生成せしめることもできる。
【0055】
溶融アシドリシス法またはスラリー重合法の何れの場合においても反応時、必要に応じて触媒を用いてもよい。
【0056】
触媒の具体例としては、例えば、有機スズ化合物(ジブチルスズオキシドなどのジアルキルスズオキシド、ジアリールスズオキシドなど)、二酸化チタン、三酸化アンチモン、有機チタン化合物(アルコキシチタンシリケート、チタンアルコキシドなど)、カルボン酸のアルカリおよびアルカリ土類金属塩(酢酸カリウム、酢酸ナトリウムなど)、ルイス酸(BF3など)、ハロゲン化水素などの気体状酸触媒(HClなど)などが挙げられる。
【0057】
触媒の使用割合は、単量体全量に対して通常1~1000ppm、好ましくは2~100ppmである。
【0058】
このようにして重縮合反応されて得られた液晶ポリマーは、溶融状態で重合反応槽より抜き出された後に、ペレット状、フレーク状、または粉末状に加工される。
【0059】
本発明に使用される液晶ポリマーには、必要により、無機充填材および/または有機充填材を配合してもよい。
【0060】
無機充填材および/または有機充填材としては、たとえばタルク、マイカ、グラファイト、シリカ、ウォラストナイト、ドロマイト、クレイ、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ガラスバルーン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、ガラス繊維、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、およびアラミド繊維等からなる群から選択される1種以上が挙げられる。これらの中では、タルク、マイカおよびシリカが物性とコストのバランスが優れている点で好ましい。
【0061】
無機充填材および/または有機充填材を用いる場合、該充填材の配合量は、液晶ポリマー100質量部に対して、0.01~100質量部であることが好ましく、より好ましくは0.05~50質量部、さらに好ましくは0.1~30質量部である。
【0062】
本発明に使用される液晶ポリマーは、本発明の目的を損なわない範囲で、さらに他の樹脂成分や添加剤を配合してもよい。他の樹脂成分としては、たとえばポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィン、非晶性ポリアリレート、ポリカーボネート、ポリアミド、他のポリエステル、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミドなどの熱可塑性樹脂やその変性物、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられる。添加剤としては、酸化防止剤、塩酸吸収剤、耐熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、帯電防止剤、難燃剤、核剤、顔料、染料、分散剤、銅害防止剤、中和剤、発泡剤、可塑剤、気泡防止剤、架橋剤、過酸化物などの流れ性改良剤、アンチブロッキング剤などが挙げられる。
【0063】
他の樹脂成分および添加剤はそれぞれ、単独で、あるいは2種以上を組み合わせて配合することができる。
【0064】
他の樹脂成分を配合する場合、該樹脂成分の配合量は、液晶ポリマー100質量部に対して0.1~100質量部であることが好ましく、5~80質量部であることがより好ましい。
【0065】
添加剤を配合する場合、該添加剤の配合量は、液晶ポリマー100質量部に対して0.001~5質量部であることが好ましく、0.01~3質量部であることがより好ましい。
【0066】
本発明のフレキシブルプリント配線板用フィルムは、上述のようにして得られた液晶ポリマーを押出成形やプレス成形、射出成形等の公知の成形法により得ることができ、なかでも押出成形が好ましい。押出成形法としては任意の方法が適用できるが、周知のTダイ法、ラミネート延伸法、インフレーション法などが工業的に有利である。特にインフレーション法やラミネート延伸法は、フィルムの機械軸方向(または機械加工方向:以下、MD方向と略す)だけでなく、これと直交する方向(以下、TD方向と略す)にも応力が加えられ、MD方向とTD方向における分子配向性、誘電特性などを制御したフィルムを得ることができる。
【0067】
押出成形では、配向を制御するために、延伸処理を伴うのが好ましく、例えば、Tダイ法による押出成形では、Tダイから押出した溶融体シートを、フィルムのMD方向だけでなく、これとTD方向の双方に対して同時に延伸してもよいし、またはTダイから押出した溶融体シートを一旦MD方向に延伸し、ついでTD方向に延伸してもよい。
【0068】
また、インフレーション法による押出成形では、リングダイから溶融押出された円筒状シートに対して、所定のドロー比(MD方向の延伸倍率に相当する:ドローダウン比ともいう)およびブロー比(TD方向の延伸倍率に相当する:ブローアップ比ともいう)で延伸してもよい。
【0069】
このような押出成形の延伸倍率は、MD方向の延伸倍率(またはドロー比)として、例えば、1.0~10程度であってもよく、好ましくは1.2~8程度、さらに好ましくは1.3~7程度であってもよい。また、TD方向の延伸倍率(またはブロー比)として、例えば、1.5~20程度であってもよく、好ましくは2~15程度、さらに好ましくは2.5~14程度であってもよい。
【0070】
MD方向とTD方向とのそれぞれの延伸倍率の比(TD方向/MD方向)は、例えば、2.6以下、好ましくは0.4~2.5程度であってもよい。
【0071】
また、液晶ポリマーフィルムには、押出成形した後に、必要に応じて延伸を行ってもよい。延伸方法自体は公知であり、二軸延伸、一軸延伸のいずれを採用してもよいが、分子配向度を制御することがより容易であることから、二軸延伸が好ましい。また、延伸は、公知の一軸延伸機、同時二軸延伸機、逐次二軸延伸機などが使用できる。
【0072】
また、必要に応じて、公知または慣用の熱処理を行い、液晶ポリマーフィルムの融点および/または熱膨張係数を調整してもよい。熱処理条件は目的に応じて適宜設定でき、例えば、液晶ポリマーの融点(Tm0)-10℃以上(例えば、Tm0-10~Tm0+30℃程度、好ましくはTm0~Tm0+20℃程度)で数時間加熱することにより、液晶ポリマーフィルムの融点(Tm)を上昇させてもよい。
【0073】
本発明のフレキシブルプリント配線板用フィルムは、任意の厚みであってもよい。電気絶縁層として液晶ポリマーフィルムを用いる場合、そのフィルムの膜厚は、1~1000μmの範囲内にあることが好ましく、より好ましくは5~500μm、さらに好ましくは10~300μmの範囲内であることがより好ましい。フィルムの厚さが薄過ぎる場合には、フィルムの剛性や強度が小さくなることから、膜厚10~300μmの範囲のフィルムを積層させて任意の厚みを得る方法を採用してもよい。
【0074】
このようにして得られた本発明のフレキシブルプリント配線板用フィルムは、誘電正接が低く、ガスバリア性および低吸湿性に優れるという特性を有している。また、低温での積層加工が可能であり、層間接着性に優れているため、回路基板材料として好適に用いることができる。
【0075】
回路基板材料の具体例としては、導体回路基板の絶縁基材、基材表面に導体回路が形成された基板同士を接合するボンディングシート、回路層の表面に形成されるカバーレイ等が挙げられる。
【0076】
ボンディングシートは、導体層を有するユニット回路基板を2以上積層する場合にユニット回路基板の間に積層して用いる。また、カバーレイは、積層体の最上層および/または最下層に配置する。
【0077】
本発明のフレキシブルプリント配線板用フィルムは層間接着性に優れるため、金属や樹脂との積層体として好適に使用することができる。
本発明のフィルムと積層体を構成する金属としては、銅、金、銀、ニッケル、アルミニウムなどがあげられるが、この中でも銅が好ましい。金属は金属箔として積層体を構成するのが好ましく、銅箔が特に好ましい。
【0078】
また、本発明のフィルムと積層体を構成する樹脂フィルムとしては、ポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィン、液晶ポリマー、非晶性ポリアリレート、ポリカーボネート、ポリアミド、他のポリエステル、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂などの樹脂フィルムが挙げられる。この中でも液晶ポリマーフィルム、ポリイミドフィルム、ポリテトラフルオロエチレンフィルムおよびポリエーテルエーテルケトンからなる群から選択される樹脂フィルムとの積層体が好ましく、液晶ポリマーフィルムまたはポリイミドフィルムとの積層体がより好ましく、液晶ポリマーフィルムとの積層体がさらに好ましい。
【0079】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0080】
実施例中の結晶融解温度および誘電正接は以下に記載の方法で測定した。
【0081】
〈結晶融解温度の測定〉
セイコーインスツルメンツ(株)製の示差走査熱量計(DSC)Exstar6000を用いて測定を行った。液晶ポリマーの試料を、室温から20℃/分の昇温条件下で測定し、吸熱ピーク温度(Tm1)を観測した後、Tm1より20~50℃高い温度で10分間保持する。次いで20℃/分の降温条件で室温まで試料を冷却した後に、再度20℃/分の昇温条件で測定した際の吸熱ピークを観測し、そのピークトップを示す温度を液晶ポリマーの結晶融解温度とする。
【0082】
〈誘電正接の測定〉
液晶ポリマーの試料を、射出成形機(日精樹脂工業株式会社製NEX-15-1E)を用いて、長さ方向の端点に1点ゲートがある金型により、長さ85mm、幅1.70mm、厚さ1.70mmのスティック状試験片に成形した。得られたスティック状試験片を用い、誘電率測定用空洞共振器(株式会社関東電子応用開発製)とネットワークアナライザーにより、10GHzにおける誘電正接を空洞共振器摂動法により測定した。
【0083】
実施例および比較例において下記の略号は以下の化合物を表す。
LCP:液晶ポリマー
POB:4-ヒドロキシ安息香酸
BON6:6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸
HQ:ハイドロキノン
BP:4,4'-ジヒドロキシビフェニル
TPA:テレフタル酸
NDA:2,6-ナフタレンジカルボン酸
IPA:イソフタル酸
【0084】
[合成例1(LCP-1の合成)]
トルクメーター付き攪拌装置および留出管を備えた反応容器に、POB、BON6、HQおよびTPAを表1に示す組成比にて、総量6.5モルとなるように仕込み、さらに全モノマーの水酸基量(モル)に対して1.03倍モルの無水酢酸を仕込み、次の条件で脱酢酸重合を行った。
【0085】
窒素ガス雰囲気下に室温~145℃まで1時間で昇温し、同温度にて30分間保持した。次いで、副生する酢酸を留去させつつ330℃まで7時間かけ昇温した後、80分間かけて10mmHgにまで減圧した。所定のトルクを示した時点で重合反応を終了し、反応容器内容物を取り出し、粉砕機によりLCP-1のペレットを得た。重合時の留出酢酸量は、ほぼ理論値どおりであった。
【0086】
得られたLCP-1のDSCにより測定された結晶融解温度は218℃であった。また、成形温度250℃、金型温度70℃で成形したスティック状試験片を用い、空洞共振器摂動法により測定される10GHzにおける誘電正接は0.0008であった。
【0087】
【0088】
[合成例2(LCP-2の合成)]
トルクメーター付き攪拌装置および留出管を備えた反応容器に、POB、BON6、BP、NDAおよびIPAを表2に示す組成比にて、総量6.5モルとなるように仕込み、さらに全モノマーの水酸基量(モル)に対して1.03倍モルの無水酢酸を仕込み、次の条件で脱酢酸重合を行った。
【0089】
窒素ガス雰囲気下に室温から150℃まで1時間で昇温し、同温度にて30分間保持した。次いで、副生する酢酸を留去させつつ210℃まで速やかに昇温し、同温度にて30分間保持した。その後、340℃まで4時間かけ昇温した後、80分かけ10mmHgにまで減圧を行なった。所定のトルクを示した時点で重合反応を終了し、反応容器内容物を取り出し、粉砕機によりLCP-2のペレットを得た。重合時の留出酢酸量は、ほぼ理論値どおりであった。
【0090】
得られたLCP-2のDSCにより測定された結晶融解温度は183℃であった。また、成形温度250℃、金型温度70℃で成形したスティック状試験片を用い、空洞共振器摂動法により測定される10GHzにおける誘電正接は0.0006であった。
【0091】
【0092】
[合成例3(LCP-3の合成)]
トルクメーター付き攪拌装置および留出管を備えた反応容器に、POBおよびBON6を表3に示す組成比にて、総量6.5モルとなるように仕込み、さらに全モノマーの水酸基量(モル)に対して1.03倍モルの無水酢酸を仕込み、次の条件で脱酢酸重合を行った。
【0093】
窒素ガス雰囲気下に室温から150℃まで1時間で昇温し、同温度にて30分間保持した。次いで、副生する酢酸を留去させつつ210℃まで速やかに昇温し、同温度にて30分間保持した。その後、325℃まで5時間かけ昇温した後、90分かけ20mmHgにまで減圧を行なった。所定のトルクを示した時点で重合反応を終了し、反応容器内容物を取り出し、粉砕機によりLCP-3のペレットを得た。重合時の留出酢酸量は、ほぼ理論値どおりであった。
【0094】
得られたLCP-3のDSCにより測定された結晶融解温度は280℃であった。また、成形温度300℃、金型温度70℃で成形したスティック状試験片を用い、空洞共振器摂動法により測定される10GHzにおける誘電正接は0.0021であった。
【0095】
【0096】
[合成例4(LCP-4の合成)]
トルクメーター付き攪拌装置および留出管を備えた反応容器に、BON6、BP、HQ、およびTPAを表4に示す組成比にて、総量6.5モルとなるように仕込み、さらに全モノマーの水酸基量(モル)に対して1.03倍モルの無水酢酸を仕込み、次の条件で脱酢酸重合を行った。
【0097】
窒素ガス雰囲気下に室温から150℃まで1時間で昇温し、同温度にて60分間保持した。次いで、副生する酢酸を留去させつつ350℃まで7時間かけ昇温した後、90分かけ10mmHgにまで減圧を行なった。所定のトルクを示した時点で重合反応を終了し、反応容器内容物を取り出し、粉砕機によりLCP-4のペレットを得た。重合時の留出酢酸量は、ほぼ理論値どおりであった。
【0098】
得られたLCP-4のDSCにより測定された結晶融解温度は338℃であった。また、成形温度350℃、金型温度70℃で成形したスティック状試験片を用い、空洞共振器摂動法により測定される10GHzにおける誘電正接は0.0006であった。なお、LCP-4は、LCP-1~LCP-3との接着強度を測定するために作製したものである。
【0099】
【0100】
〈接着強度の測定〉
LCP-4との接着強度(接着強度1、2)
LCP-1~LCP-4について、射出成形機(日精樹脂工業(株)製UH1000-110)を用いて、以下の成形条件で、それぞれフィルム状試験片(長さ150mm×幅13mm×厚さ0.8mm)を作製した。
LCP-1およびLCP-2:成形温度250℃、金型温度70℃
LCP-3:成形温度300℃、金型温度70℃
LCP-4:成形温度350℃、金型温度70℃
【0101】
LCP-1~LCP-3のフィルム状試験片をそれぞれ、LCP-4のフィルム状試験片と、長さ70mm×幅13mmの面積で重なるようにして250℃のオーブンヒーターに60秒間入れ、フィルム状試験片同士を接着させた。島津製作所製AUTOGRAPH AG-Xplusを用いて、JIS-K-7162に準拠して、それぞれの接着強度(引張せん断強度)を測定した(接着強度1)。また、オーブンヒーターの温度を300℃に変更した以外は同様にして接着強度を測定した(接着強度2)。
【0102】
銅箔との接着強度(接着強度3、4)
真空プレス機と、厚さ0.7mmの金属板に長さ160mm×幅50mmの穴を設けた金属製のスペーサーを用いて、LCP-1およびLCP-2の場合は250℃、LCP-3の場合は300℃の温度条件で、10torrで2分30秒静置してLCPを熱溶融させた後、50MPaで3分間プレスし、長さ160mm×幅50mm×厚さ0.7mmのLCP1~LCP-3のフィルム状成形片を作製した。
【0103】
金属製のスペーサーと一体となったLCPのフィルム状成形片に銅箔(長さ200mm×幅70mm×厚さ0.05mm)を銅箔のマット面がLCPに接着するように重ねたものを250℃の真空プレス機に入れ、10torrで2分30秒静置した後、50MPaで3分間プレスし、LCPと銅箔を接着させ、金属製のスペーサーを取り外し、LCPと銅箔の積層フィルムを作製した。
【0104】
この積層フィルムを長さが半分になるように切断し、銅箔側に10mm幅の切れ込みを入れた。島津製作所製AUTOGRAPH AG-Xplusを用いて、引き剥がし幅10mm、引き剥がし速度25mm/分、引き剥がし角度90度の条件で、LCPフィルムから銅箔を引き剥がす際のピール強度を測定した(接着強度3)。また、真空プレス機の温度を300℃に変更した以外は同様にしてピール強度を測定した(接着強度4)。
【0105】
【0106】
実施例1および2の液晶ポリマーを用いた場合、銅箔および液晶ポリマーフィルムとの接着強度が高く、また誘電正接が0.001以下であり、誘電特性に優れていることが理解される。
【0107】
一方、比較例1の液晶ポリマーを用いた場合、低温(250℃)での銅箔との接着強度(接着強度3)に劣り、また、250℃および300℃のいずれの条件でも液晶ポリマーフィルムとは接着しなかった。さらに誘電正接も0.002を上回り、誘電特性に劣るものであった。