(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-28
(45)【発行日】2025-06-05
(54)【発明の名称】合成繊維用処理剤および合成繊維
(51)【国際特許分類】
D06M 13/256 20060101AFI20250529BHJP
D06M 13/165 20060101ALI20250529BHJP
D06M 13/224 20060101ALI20250529BHJP
D06M 15/53 20060101ALI20250529BHJP
D06M 101/28 20060101ALN20250529BHJP
【FI】
D06M13/256
D06M13/165
D06M13/224
D06M15/53
D06M101:28
(21)【出願番号】P 2025021417
(22)【出願日】2025-02-13
【審査請求日】2025-02-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】本田 浩気
(72)【発明者】
【氏名】石間 駿一
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特表平08-500647(JP,A)
【文献】特開2003-247166(JP,A)
【文献】特開2021-011653(JP,A)
【文献】国際公開第2021/250994(WO,A1)
【文献】国際公開第2023/243682(WO,A1)
【文献】国際公開第03/072873(WO,A1)
【文献】特開2005-281953(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 13/00 - 15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数3以上18以下の脂肪族アルコールに対して炭素数2以上4以下の一種類または複数種類のアルキレンオキサイドがモル比1:1~1:15で付加した付加体であるポリオキシアルキレンエーテルとスルホコハク酸とのエステルであるスルホコハク酸エステル、前記スルホコハク酸エステルのアルカリ金属塩、および、前記スルホコハク酸エステルのアンモニウム塩、からなる群から選択される少なくとも一つの化合物であるスルホコハク酸エステル化合物(A)と、
非イオン界面活性剤(B)と、を含み、
不揮発分に占める前記スルホコハク酸エステル化合物(A)の割合が0質量%を超えて10質量%未満であることを特徴とする合成繊維用処理剤。
【請求項2】
前記非イオン界面活性剤(B)が、炭素数4以上18以下の第二級アルコールに対してエチレンオキサイドがモル比1:1~1:30で付加した付加体である第二級アルコール非イオン界面活性剤(B1)を含む請求項1に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項3】
前記非イオン界面活性剤(B)が、炭素数4以上18以下のアルコールに対して、プロピレンオキサイド、または、プロピレンオキサイドを1モル%以上含む炭素数2以上4以下の二種類以上のアルキレンオキサイドの混合物、がモル比1:1~1:100で付加した付加体であるオキシプロピレン系非イオン界面活性剤(B2)を含む請求項1に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項4】
アミノ変性シリコーン化合物(C)をさらに含む請求項1に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項5】
不揮発分に占める前記スルホコハク酸エステル化合物(A)、前記非イオン界面活性剤(B)、および前記アミノ変性シリコーン化合物(C)、の割合の合計を100質量%として、
前記スルホコハク酸エステル化合物(A)の割合が0.001質量%以上10質量%未満であり、
前記非イオン界面活性剤(B)の割合が8質量%以上35質量%以下であり、かつ、
前記アミノ変性シリコーン化合物(C)の割合が65質量%以上92質量%以下である請求項4に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤が繊維材料に付着していることを特徴とする合成繊維。
【請求項7】
前記繊維材料が炭素繊維前駆体である請求項6に記載の合成繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成繊維用処理剤および合成繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維の製造方法として、繊維状の材料を紡糸した後に当該材料を焼成する、という手法が汎用されており、この繊維状の材料を炭素繊維前駆体という。炭素繊維前駆体としては、高分子等の繊維材料の表面に炭素繊維前駆体用処理剤が付着したものが使用される場合がある。かかる処理剤は、炭素繊維を製造する際の諸工程における炭素繊維前駆体の取扱性を向上する等の目的で用いられる。この例のように、合成繊維の取扱いにおいては、合成繊維の取扱性を向上できる種々の合成繊維用処理剤が用いられる場合がある。
【0003】
たとえば特開2019-7097号公報(特許文献1)には、アミノ変性シリコーンおよびエーテルカルボン酸化合物を含むアクリル繊維処理剤が開示されている。特許文献1に記載された発明によれば、炭素繊維製造用アクリル繊維の製造工程において発生する静電気およびガムアップを抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された発明では、炭素繊維製造用アクリル繊維の製造工程において発生するタールを抑制することも考慮されているが、そのタール抑制効果は十分だとはいえなかった。また、得られるアクリル繊維の集束性についても、改善の余地があった。
【0006】
そこで、従来技術に比べてタールの発生を抑制できるとともに、得られる合成繊維の集束性を向上できる合成繊維用処理剤、および、当該合成繊維用処理剤によって処理された合成繊維の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る合成繊維用処理剤は、炭素数3以上18以下の脂肪族アルコールに対して炭素数2以上4以下の一種類または複数種類のアルキレンオキサイドがモル比1:1~1:15で付加した付加体であるポリオキシアルキレンエーテルとスルホコハク酸とのエステルであるスルホコハク酸エステル、前記スルホコハク酸エステルのアルカリ金属塩、および、前記スルホコハク酸エステルのアンモニウム塩、からなる群から選択される少なくとも一つの化合物であるスルホコハク酸エステル化合物(A)と、非イオン界面活性剤(B)と、を含み、不揮発分に占める前記スルホコハク酸エステル化合物(A)の割合が0質量%を超えて10質量%未満であることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、従来技術に比べてタールの発生を抑制できるとともに、得られる合成繊維の集束性を向上できる。
【0009】
本発明に係る合成繊維用処理剤は、一態様として、前記非イオン界面活性剤(B)が、炭素数4以上18以下の第二級アルコールに対してエチレンオキサイドがモル比1:1~1:30で付加した付加体である第二級アルコール非イオン界面活性剤(B1)を含むことが好ましい。
【0010】
この構成によれば、得られる合成繊維の集束性が特に高くなりやすい。
【0011】
本発明に係る合成繊維用処理剤は、一態様として、前記非イオン界面活性剤(B)が、炭素数4以上18以下のアルコールに対して、プロピレンオキサイド、または、プロピレンオキサイドを1モル%以上含む炭素数2以上4以下の二種類以上のアルキレンオキサイドの混合物、がモル比1:1~1:100で付加した付加体であるオキシプロピレン系非イオン界面活性剤(B2)を含むことが好ましい。
【0012】
この構成によれば、タールの抑制および集束性の向上の両面において、特に高い効果が得られやすい。
【0013】
本発明に係る合成繊維用処理剤は、一態様として、アミノ変性シリコーン化合物(C)をさらに含むことが好ましい。
【0014】
この構成によれば、得られる合成繊維の強度が高くなりやすい。
【0015】
本発明に係る合成繊維用処理剤は、一態様として、不揮発分に占める前記スルホコハク酸エステル化合物(A)、前記非イオン界面活性剤(B)、および前記アミノ変性シリコーン化合物(C)、の割合の合計を100質量%として、前記スルホコハク酸エステル化合物(A)の割合が0.001質量%以上10質量%未満であり、前記非イオン界面活性剤(B)の割合が8質量%以上35質量%以下であり、かつ、前記アミノ変性シリコーン化合物(C)の割合が65質量%以上92質量%以下であることが好ましい。
【0016】
この構成によれば、得られる合成繊維の強度が特に高くなりやすい。
【0017】
本発明に係る合成繊維は、上記の合成繊維用処理剤が繊維材料に付着していることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、従来技術に比べてタールの発生を抑制できるとともに、得られる合成繊維の集束性を向上できる。
【0019】
本発明に係る合成繊維は、前記繊維材料が炭素繊維前駆体であることが好ましい。
【0020】
この構成によれば、耐炎化工程における取扱性がよい炭素繊維前駆体が得られる。
【0021】
本発明のさらなる特徴と利点は、以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下では、本発明に係る合成繊維用処理剤および合成繊維の実施形態について説明する。
【0023】
〔合成繊維用処理剤の構成〕
本実施形態に係る合成繊維用処理剤(以下、単に「処理剤」と称する。)は、スルホコハク酸エステル化合物(A)と、非イオン界面活性剤(B)と、を含む。また、本実施形態に係る処理剤は、アミノ変性シリコーン化合物(C)をさらに含むことが好ましい。
【0024】
(スルホコハク酸エステル)
スルホコハク酸エステル化合物(A)は、スルホコハク酸エステル、当該スルホコハク酸エステルのアルカリ金属塩、および、当該スルホコハク酸エステルのアンモニウム塩、からなる群から選択される少なくとも一つの化合物である。
【0025】
スルホコハク酸エステルは、炭素数3以上18以下の脂肪族アルコールに対して炭素数2以上4以下の一種類または複数種類のアルキレンオキサイドがモル比1:1~1:15で付加した付加体であるポリオキシアルキレンエーテルと、スルホコハク酸と、のエステルであり、以下の一般式(1)で表されるモノエステル、以下の一般式(2)で表されるジエステル、またはこれらのモノエステルとジエステルとの混合物でありうる。いずれの場合も、スルホコハク酸エステルに含まれるモノエステルおよびジエステルの種類数は問わない。R
1、R
11、およびR
12は、炭素数3以上18以下の脂肪族炭化水素基である。AOは炭素数2以上4以下の一種類または複数種類のオキシアルキレン基であり、nおよびmは、いずれも1以上15以下である。オキシアルキレン基AOが複数種類である場合について、その付加態様はブロック状であってもよいし、ランダムであってもよい。一般式(2)で表されるジエステルは、ポリオキシアルキレンエーテルに由来する基を二つ有するが、これらの二つの基は同一の基であっても異なる基であってもよい。すなわち、R
11とR
12とは同一の基であっても異なる基であってもよく、nとmとは同一であっても異なっていてもよい。
【化1】
【0026】
スルホコハク酸エステルのアルカリ金属塩は、スルホコハク酸エステルのナトリウム塩やカリウム塩などでありうる。スルホコハク酸エステル化合物(A)は、スルホコハク酸エステルのアルカリ金属塩を含むことが好ましく、スルホコハク酸エステルのアルカリ金属塩のみからなることがより好ましい。
【0027】
スルホコハク酸エステルは、たとえば、上記の付加体を得る段階と、当該付加体とスルホコハク酸とのエステルを得る段階と、を経て得られうる。付加体を得る段階は、たとえば、脂肪族アルコールとアルキレンオキサイドとを所定のモル比で混合した後に塩基性触媒の存在下で反応させる方法で実施されうる。付加体とスルホコハク酸とのエステルを得る段階は、たとえば、当該付加体とスルホコハク酸とを所定のモル比で混合した後に酸性触媒下で反応させる方法で実施されうる。スルホコハク酸エステルのアルカリ金属塩は、たとえば、上記の方法で得られたスルホコハク酸エステルを所定のアルカリ金属の水酸化物の水溶液で中和する方法で得られる。スルホコハク酸エステルのアンモニウム塩は、たとえば、上記の方法で得られたスルホコハク酸エステルをアンモニア水で中和する方法で得られる。
【0028】
(非イオン界面活性剤)
非イオン界面活性剤(B)として、公知の合成繊維用処理剤に含まれうる非イオン界面活性剤を用いることができる。ただし、非イオン界面活性剤(B)は、以下に示す第二級アルコール非イオン界面活性剤(B1)およびオキシプロピレン系非イオン界面活性剤(B2)の少なくとも一方を含むことが好ましく、これらの双方を含むことがより好ましい。
【0029】
第二級アルコール非イオン界面活性剤(B1)は、炭素数4以上18以下の第二級アルコールに対してエチレンオキサイドがモル比1:1~1:30で付加した付加体である。第二級アルコール非イオン界面活性剤(B1)の非限定的な例は、以下の一般式(3)で表される。R
2およびR
3は炭化水素基であり、R
2とR
3の炭素数の合計は3以上17以下である。pは1以上30以下である。
【化2】
【0030】
非イオン界面活性剤(B)が第二級アルコール非イオン界面活性剤(B1)を含むと、本実施形態に係る処理剤によって処理された合成繊維の集束性が高くなりやすい点で有利である。
【0031】
オキシプロピレン系非イオン界面活性剤(B2)は、アルコールに対してアルキレンオキサイドが付加した付加体であり、オキシアルキレン基としてオキシプロピレン基を必須に含む化合物である。具体的には、オキシプロピレン系非イオン界面活性剤(B2)は、炭素数4以上18以下のアルコールに対してプロピレンオキサイドがモル比1:1~1:100で付加した付加体、または、炭素数4以上18以下のアルコールに対してプロピレンオキサイドを1モル%以上含む炭素数2以上4以下の二種類以上のアルキレンオキサイドの混合物がモル比1:1~1:100で付加した付加体である。後者の場合について、付加体中のプロピレンオキサイドに由来する部分の量は、炭素数4以上18以下のアルコールに対してモル比1倍以上30倍以下であることが好ましい。前者の非限定的な例は以下の一般式(4)で表され、後者の非限定的な例は以下の一般式(5)で表される。POはオキシプロピレン基であり、EOはオキシエチレン基であり、BOはオキシブチレン基である。qは、1以上100以下である。r、s、およびtは、合計が1より大きく100以下であり、rは1以上であり、sおよびtは同時に0ではない。rは、30以下であることが好ましい。なお、一般式(5)において便宜的に各オキシアルキレン基がブロック状に付加した態様を示しているが、オキシアルキレン基の付加態様はブロック状であってもよいし、ランダムであってもよい。
【化3】
【0032】
非イオン界面活性剤(B)がオキシプロピレン系非イオン界面活性剤(B2)を含むと、本実施形態に係る処理剤によって処理された合成繊維の集束性が高くなりやすい点で有利である。
【0033】
(アミノ変性シリコーン)
アミノ変性シリコーン化合物(C)は、公知の合成繊維用処理剤に含まれうるアミノ変性シリコーン化合物を用いることができる。アミノ変性シリコーン化合物(C)は、25℃における動粘度が、たとえば100mm2/s以上60000mm2/s以下のものでありうる。アミノ変性シリコーン化合物(C)の動粘度は、キャノンフェンスケ粘度計で測定されうる。また、アミノ変性シリコーン化合物(C)は、アミノ当量が800g/mol以上40000g/mol以下のものでありうる。アミノ変性シリコーン化合物(C)のアミノ当量は、アセトン60mL、ノルマルヘキサン20mLの混合溶液に対して1g精秤後、濃度既知の過塩素酸溶液で滴定することで測定される全アミン価の値(KOH-mg/g)から計算されうる。ただし、ここに述べたアミノ変性シリコーン化合物(C)の動粘度およびアミノ当量の数値は例示に過ぎない。
【0034】
本実施形態に係る処理剤がアミノ変性シリコーン化合物(C)をさらに含むものであると、処理剤によって処理された合成繊維の強度が高くなりやすい点で有利である。
【0035】
(その他の成分)
本実施形態に係る処理剤は、スルホコハク酸エステル化合物(A)、非イオン界面活性剤(B)、およびアミノ変性シリコーン化合物(C)以外の成分(以下「その他の成分」と称する。)を含んでいてもよい。かかるその他の成分としては、溶媒、防腐剤、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤、界面活性剤などが例示されるが、これらに限定されない。
【0036】
(各成分の含有量)
本実施形態に係る処理剤における各成分の含有量は、不揮発分に占める割合によって特定される。処理剤の不揮発分とは、処理剤を105℃で2時間熱風乾燥機にて加熱した後に揮発せずに残る成分をいう。
【0037】
本実施形態に係る処理剤において、不揮発分に占めるスルホコハク酸エステル化合物(A)の割合は、0質量%を超えて10質量%未満である。本発明者らは、スルホコハク酸エステル化合物(A)の割合が上記の範囲にある処理剤によって処理された合成繊維が、焼成時にタールを生じにくいことを発見し、本発明を完成した。スルホコハク酸エステル化合物(A)の割合は、0.001質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましい。スルホコハク酸エステル化合物(A)の割合は、5質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましい。
【0038】
本実施形態に係る処理剤において、不揮発分に占めるスルホコハク酸エステル化合物(A)、非イオン界面活性剤(B)、およびアミノ変性シリコーン化合物(C)、の割合の合計を100質量%として、スルホコハク酸エステル化合物(A)の割合が0.001質量%以上10質量%未満であり、非イオン界面活性剤(B)の割合が8質量%以上35質量%以下であり、かつ、アミノ変性シリコーン化合物(C)の割合が65質量%以上92質量%以下である、ことが好ましい。各成分の含有量が上記の条件を満たすと、処理剤によって処理された合成繊維の強度が高くなりやすい点で有利である。
【0039】
〔合成繊維用処理剤の製造方法〕
本実施形態に係る処理剤は、たとえば、スルホコハク酸エステル化合物(A)および非イオン界面活性剤(B)、ならびに任意に加えられるアミノ変性シリコーン化合物(C)およびその他の成分を、溶媒に溶解させることによって得られうる。溶媒は、たとえば水でありうる。スルホコハク酸エステル化合物(A)などの成分を溶媒に溶解させる際の装置、条件、方法等は任意である。一例として、10℃以上90℃以下の温度で、あらかじめ秤量したスルホコハク酸エステル化合物(A)などの成分を撹拌しながら5時間かけて水を添加して均一な水溶液を得る方法で、本実施形態に係る処理剤を得ることができる。
【0040】
〔合成繊維〕
本実施形態に係る合成繊維は、上記の処理剤が繊維材料に付着していることを特徴とする。繊維材料は任意の繊維材料であってよいが、たとえば炭素繊維前駆体である。この場合は、本実施形態に係る合成繊維を焼成することで炭素繊維を製造することができる。また、本実施形態に係る処理剤が付着した炭素繊維前駆体を用いて炭素繊維を製造すると、製造中に生じるタールを抑制しやすくなるとともに、工程中の炭素繊維前駆体および炭素繊維が集束しやすくなるため、炭素繊維の生産性が向上しやすい。
【0041】
繊維材料に処理剤を付着させる方法としては、当分野において繊維材料にこの種の処理剤を付着させる際に通常用いられる方法を適用できる。すなわち、浸漬給油法、スプレー給油法、ローラー給油法、およびガイド給油法などが採用されうる。なお、それぞれの方法を適用するにあたり、処理剤が水等の溶媒で適宜希釈されうる。
【0042】
本実施形態に係る合成繊維において、処理剤の付着量は特に限定されない。たとえば、処理剤が付着した合成繊維全体に対して処理剤が0.3質量%以上3質量%以下付着していることが好ましい。
【0043】
〔その他の実施形態〕
その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の範囲はそれらによって限定されることはないと理解されるべきである。当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜改変が可能であることを容易に理解できるであろう。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変された別の実施形態も、当然、本発明の範囲に含まれる。
【実施例】
【0044】
以下では、実施例を示して本発明をさらに説明する。ただし、以下の実施例は本発明を限定しない。
【0045】
〔合成繊維用処理剤の調製〕
以下の方法で、後掲する表2~表4に示す実施例1~27および比較例1~6の処理剤を得た。
【0046】
(1)試薬
(1-1)スルホコハク酸エステル化合物
実施例および比較例において用いたスルホコハク酸エステル化合物A-1~A-18およびra-1について、順に説明する。このうち、スルホコハク酸エステル化合物A-1~A-18は上記の実施形態に係るスルホコハク酸エステル化合物(A)に該当する。なお、以下では各化合物について製造方法の例を示すが、各製造方法はいずれも一例であり、以下に例示する方法と異なる方法で当該化合物が製造された場合であっても、実施例および比較例の結果は変化しない。
【0047】
スルホコハク酸エステル化合物A-1は、トリデカノールに対してエチレンオキサイドがモル比1:3で付加した付加体とスルホコハク酸とのエステルのナトリウム塩である。トリデカノールとエチレンオキサイドとをモル比1:3で反応させて付加体を得たのちに、当該付加体とスルホコハク酸とを反応させてスルホコハク酸エステルを得た。続いて、当該スルホコハク酸エステルを水酸化ナトリウム水溶液で中和して、スルホコハク酸エステル化合物A-1を得た。
【0048】
スルホコハク酸エステル化合物A-2~A-9は、それぞれ、スルホコハク酸エステル化合物A-1との比較において、アルコール部分、および、アルコール部分とエチレンオキサイドとのモル比、が異なる化合物である。これらの各化合物のアルコール部分およびアルコール部分とエチレンオキサイドとのモル比を表1に示す。これらの各化合物の製造方法は、使用するアルコールの種類およびアルコールとエチレンオキサイドとのモル比の他は、スルホコハク酸エステル化合物A-1の製造方法と実質的に同様である。
【0049】
スルホコハク酸エステル化合物A-10は、オクチルアルコールに対してエチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドが付加した付加体とスルホコハク酸とのエステルのナトリウム塩である。スルホコハク酸エステル化合物A-10におけるエチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドの付加態様はブロック状であり、オクチルアルコール、エチレンオキサイド、およびプロピレンオキサイドのモル比は1:2:8である。オクチルアルコールとエチレンオキサイドとをモル比1:2で反応させた後に、続いてオクチルアルコールに対してモル比8倍のプロピレンオキサイドを加えて反応させて付加体を得て、当該付加体とスルホコハク酸とを反応させてスルホコハク酸エステルを得た。続いて、当該スルホコハク酸エステルを水酸化ナトリウム水溶液で中和して、スルホコハク酸エステル化合物A-10を得た。
【0050】
スルホコハク酸エステル化合物A-11は、ヘキサデカノールに対してエチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドが付加した付加体とスルホコハク酸とのエステルのナトリウム塩である。スルホコハク酸エステル化合物A-11におけるエチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドの付加態様はブロック状であり、ヘキサデカノール、エチレンオキサイド、およびプロピレンオキサイドのモル比は1:8:2である。ヘキサデカノールとエチレンオキサイドとをモル比1:8で反応させた後に、続いてヘキサデカノールに対してモル比2倍のプロピレンオキサイドを加えて反応させて付加体を得て、当該付加体とスルホコハク酸とを反応させてスルホコハク酸エステルを得た。続いて、当該スルホコハク酸エステルを水酸化ナトリウム水溶液で中和して、スルホコハク酸エステル化合物A-11を得た。
【0051】
スルホコハク酸エステル化合物A-12は、オクタデカノールに対してエチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドが付加した付加体とスルホコハク酸とのエステルのカリウム塩である。スルホコハク酸エステル化合物A-12におけるエチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドの付加態様はランダムであり、オクタデカノール、エチレンオキサイド、およびプロピレンオキサイドのモル比は1:10:10である。ヘキサデカノール、エチレンオキサイド、およびプロピレンオキサイドをモル比1:10:10で反応させて付加体を得て、当該付加体とスルホコハク酸とを反応させてスルホコハク酸エステルを得た。続いて、当該スルホコハク酸エステルを水酸化カリウム水溶液で中和して、スルホコハク酸エステル化合物A-12を得た。
【0052】
スルホコハク酸エステル化合物A-13は、ドデカノールに対してエチレンオキサイドがモル比1:3で付加した付加体とスルホコハク酸とのエステルのアンモニウム塩である。スルホコハク酸エステル化合物A-1の製造方法と同様の方法で得たスルホコハク酸エステルをアンモニア水で中和して、スルホコハク酸エステル化合物A-13を得た。
【0053】
スルホコハク酸エステル化合物A-14は、ドデカノールに対してエチレンオキサイドがモル比1:3で付加した付加体とスルホコハク酸とのエステルである。当該エステルは、スルホコハク酸エステル化合物A-1の前駆体エステルとして得たものであり、製造方法はスルホコハク酸エステル化合物A-1の項に記載の通りである。
【0054】
スルホコハク酸エステル化合物A-15~A-18は、それぞれ、スルホコハク酸エステル化合物A-14との比較において、アルコール部分、および、アルコール部分とエチレンオキサイドとのモル比、が異なる化合物である。これらの各化合物のアルコール部分およびアルコール部分とエチレンオキサイドとのモル比を表1に示す。これらの各化合物の製造方法は、使用するアルコールの種類およびアルコールとエチレンオキサイドとのモル比の他は、スルホコハク酸エステル化合物A-14の製造方法(スルホコハク酸エステル化合物A-1の前駆体エステルの製造方法)と実質的に同様である。
【0055】
スルホコハク酸エステル化合物A-1~A-18のアルコール部分、アルキレンオキサイド部分、アルコール部分とアルキレンオキサイド部分とのモル比、ならびに、エステル、アルカリ金属塩、およびアンモニウム塩の区別を表1に示す。なお、スルホコハク酸エステル化合物A-1~A-18のいずれも、モノエステル体とジエステル体との混合物である。
【0056】
【0057】
また、上記の実施形態に係るスルホコハク酸エステル化合物(A)に該当しない例として、スルホコハク酸エステル化合物ra-1を用いた。スルホコハク酸エステル化合物ra-1は、試薬として市販されているスルホコハク酸ジオクチルナトリウムである。
【0058】
(1-2)非イオン界面活性剤
実施例および比較例において用いた非イオン界面活性剤B1-1~B1-11、B2-1~B2-7、およびB-1~B-18について、順に説明する。このうち、非イオン界面活性剤B1-1~B1-11は上記の実施形態に係る第二級アルコール非イオン界面活性剤(B1)に該当し、非イオン界面活性剤B2-1~B2-7は上記の実施形態に係るオキシプロピレン系非イオン界面活性剤(B2)に該当する。なお、以下では各化合物について製造方法の例を示すが、各製造方法はいずれも一例であり、以下に例示する方法と異なる方法で当該化合物が製造された場合であっても、実施例および比較例の結果は変化しない。
【0059】
非イオン界面活性剤B1-1は、2-ドデカノールに対してエチレンオキサイドがモル比1:5で付加した付加体である。2-ドデカノールとエチレンオキサイドとをモル比1:5で反応させて、非イオン界面活性剤B1-1を得た。
【0060】
非イオン界面活性剤B1-2は、2-ドデカノールに対してエチレンオキサイドがモル比1:10で付加した付加体である。2-ドデカノールとエチレンオキサイドとをモル比1:10で反応させて、非イオン界面活性剤B1-2を得た。
【0061】
非イオン界面活性剤B1-3は、2-ドデカノールに対してエチレンオキサイドがモル比1:15で付加した付加体である。2-ドデカノールとエチレンオキサイドとをモル比1:15で反応させて、非イオン界面活性剤B1-3を得た。
【0062】
非イオン界面活性剤B1-4は、2-トリデカノールに対してエチレンオキサイドがモル比1:5で付加した付加体である。2-トリデカノールとエチレンオキサイドとをモル比1:5で反応させて、非イオン界面活性剤B1-4を得た。
【0063】
非イオン界面活性剤B1-5は、2-テトラデカノールに対してエチレンオキサイドがモル比1:5で付加した付加体である。2-テトラデカノールとエチレンオキサイドとをモル比1:5で反応させて、非イオン界面活性剤B1-5を得た。
【0064】
非イオン界面活性剤B1-6は、2-ドデカノールに対してエチレンオキサイドがモル比1:1で付加した付加体である。2-ドデカノールとエチレンオキサイドとをモル比1:1で反応させて、非イオン界面活性剤B1-6を得た。
【0065】
非イオン界面活性剤B1-7は、2-ドデカノールに対してエチレンオキサイドがモル比1:13で付加した付加体である。2-ドデカノールとエチレンオキサイドとをモル比1:13で反応させて、非イオン界面活性剤B1-7を得た。
【0066】
非イオン界面活性剤B1-8は、2-ドデカノールに対してエチレンオキサイドがモル比1:30で付加した付加体である。2-ドデカノールとエチレンオキサイドとをモル比1:30で反応させて、非イオン界面活性剤B1-8を得た。
【0067】
非イオン界面活性剤B1-9は、2-オクタノールに対してエチレンオキサイドがモル比1:4で付加した付加体である。2-オクタノールとエチレンオキサイドとをモル比1:4で反応させて、非イオン界面活性剤B1-9を得た。
【0068】
非イオン界面活性剤B1-10は、2-ヘキサデカノールに対してエチレンオキサイドがモル比1:8で付加した付加体である。2-ヘキサデカノールとエチレンオキサイドとをモル比1:8で反応させて、非イオン界面活性剤B1-10を得た。
【0069】
非イオン界面活性剤B1-11は、2-オクタデカノールに対してエチレンオキサイドがモル比1:10で付加した化合物である。2-オクタデカノールにエチレンオキサイドをモル比1:10で反応させて、非イオン界面活性剤B1-11を得た。
【0070】
非イオン界面活性剤B2-1は、2-ドデカノールに対してエチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドが付加した付加体である。エチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドの付加態様はブロック状であり、2-ドデカノール、エチレンオキサイド、およびプロピレンオキサイドのモル比は1:40:18である。2-ドデカノールとエチレンオキサイドとをモル比1:40で反応させた後に、続いて2-ドデカノールに対してモル比18倍のプロピレンオキサイドを反応させて、非イオン界面活性剤B2-1を得た。
【0071】
非イオン界面活性剤B2-2は、2-ドデカノールに対してエチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドが付加した付加体である。エチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドの付加態様はランダムであり、2-ドデカノール、エチレンオキサイド、およびプロピレンオキサイドのモル比は1:40:18である。2-ドデカノール、エチレンオキサイド、およびプロピレンオキサイドをモル比1:40:18で反応させて、非イオン界面活性剤B2-2を得た。
【0072】
非イオン界面活性剤B2-3は、2-ドデカノールに対してエチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドが付加した付加体である。エチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドの付加態様はランダムであり、2-ドデカノール、エチレンオキサイド、およびプロピレンオキサイドのモル比は1:3:1である。2-ドデカノール、エチレンオキサイド、およびプロピレンオキサイドをモル比1:3:1で反応させて、非イオン界面活性剤B2-3を得た。
【0073】
非イオン界面活性剤B2-4は、1-ドデカノールに対してエチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドが付加した付加体である。エチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドの付加態様はブロック状であり、1-ドデカノール、エチレンオキサイド、およびプロピレンオキサイドのモル比は1:2:6である。1-ドデカノールとエチレンオキサイドとをモル比1:2で反応させた後に、続いて1-ドデカノールに対してモル比6倍のプロピレンオキサイドを反応させて、非イオン界面活性剤B2-4を得た。
【0074】
非イオン界面活性剤B2-5は、1-ドデカノールに対してエチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドが付加した付加体である。エチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドの付加態様はブロック状であり、1-ドデカノール、エチレンオキサイド、およびプロピレンオキサイドのモル比は1:8:6である。1-ドデカノールとエチレンオキサイドとをモル比1:8で反応させた後に、続いて1-ドデカノールに対してモル比6倍のプロピレンオキサイドを反応させて、非イオン界面活性剤B2-5を得た。
【0075】
非イオン界面活性剤B2-6は、1-ドデカノールに対してエチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドが付加した付加体である。エチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドの付加態様はブロック状であり、1-ドデカノール、エチレンオキサイド、およびプロピレンオキサイドのモル比は1:6:2である。1-ドデカノールとエチレンオキサイドとをモル比1:6で反応させた後に、続いて1-ドデカノールに対してモル比2倍のプロピレンオキサイドを反応させて、非イオン界面活性剤B2-6を得た。
【0076】
非イオン界面活性剤B2-7は、1-ドデカノールに対してエチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドが付加した付加体である。エチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドの付加態様はランダムであり、1-ドデカノール、エチレンオキサイド、およびプロピレンオキサイドのモル比は1:5:5である。1-ドデカノール、エチレンオキサイド、およびプロピレンオキサイドをモル比1:5:5で反応させて、非イオン界面活性剤B2-7を得た。
【0077】
非イオン界面活性剤B-1は、1-ドデカノールに対してエチレンオキサイドがモル比1:5で付加した付加体である。1-ドデカノールとエチレンオキサイドとをモル比1:5で反応させて、非イオン界面活性剤B-1を得た。
【0078】
非イオン界面活性剤B-2は、1-ドデカノールに対してエチレンオキサイドがモル比1:10で付加した付加体である。1-ドデカノールとエチレンオキサイドとをモル比1:10で反応させて、非イオン界面活性剤B-2を得た。
【0079】
非イオン界面活性剤B-3は、1-ドデカノールに対してエチレンオキサイドがモル比1:15で付加した付加体である。1-ドデカノールとエチレンオキサイドとをモル比1:15で反応させて、非イオン界面活性剤B-3を得た。
【0080】
非イオン界面活性剤B-4は、1-トリデカノールに対してエチレンオキサイドがモル比1:5で付加した付加体である。1-トリデカノールとエチレンオキサイドとをモル比1:5で反応させて、非イオン界面活性剤B-4を得た。
【0081】
非イオン界面活性剤B-5は、1-テトラデカノールに対してエチレンオキサイドがモル比1:5で付加した付加体である。1-テトラデカノールとエチレンオキサイドとをモル比1:5で反応させて、非イオン界面活性剤B-5を得た。
【0082】
非イオン界面活性剤B-6は、1-ドデカノールに対してエチレンオキサイドがモル比1:1で付加した付加体である。1-ドデカノールとエチレンオキサイドとをモル比1:1で反応させて、非イオン界面活性剤B-6を得た。
【0083】
非イオン界面活性剤B-7は、1-ドデカノールに対してエチレンオキサイドがモル比1:13で付加した付加体である。1-ドデカノールとエチレンオキサイドとをモル比1:13で反応させて、非イオン界面活性剤B-7を得た。
【0084】
非イオン界面活性剤B-8は、1-ドデカノールに対してエチレンオキサイドがモル比1:30で付加した付加体である。1-ドデカノールとエチレンオキサイドとをモル比1:30で反応させて、非イオン界面活性剤B-8を得た。
【0085】
非イオン界面活性剤B-9は、1-オクタノールに対してエチレンオキサイドがモル比1:4で付加した付加体である。1-オクタノールとエチレンオキサイドとをモル比1:4で反応させて、非イオン界面活性剤B-9を得た。
【0086】
非イオン界面活性剤B-10は、1-ヘキサデカノールに対してエチレンオキサイドがモル比1:8で付加した付加体である。1-ヘキサデカノールとエチレンオキサイドとをモル比1:8で反応させて、非イオン界面活性剤B-10を得た。
【0087】
非イオン界面活性剤B-11は、1-オクタデカノールに対してエチレンオキサイドがモル比1:10で付加した付加体である。1-オクタデカノールとエチレンオキサイドとをモル比1:10で反応させて、非イオン界面活性剤B-11を得た。
【0088】
非イオン界面活性剤B-12は、オレイン酸に対してエチレンオキサイドがモル比1:5モルで付加した付加体である。オレイン酸とエチレンオキサイドとをモル比1:5で反応させて、非イオン界面活性剤B-12を得た。
【0089】
非イオン界面活性剤B-13は、リノール酸に対してエチレンオキサイドがモル比1:1で付加した付加体である。リノール酸とエチレンオキサイドとをモル比1:1で反応させて、非イオン界面活性剤B-13を得た。
【0090】
非イオン界面活性剤B-14は、リノール酸に対してエチレンオキサイドがモル比1:15で付加した付加体である。リノール酸とエチレンオキサイドとをモル比1:15で反応させて、非イオン界面活性剤B-14を得た。
【0091】
非イオン界面活性剤B-15は、リノレン酸に対してエチレンオキサイドがモル比1:1で付加した付加体である。リノレン酸とエチレンオキサイドとをモル比1:1で反応させて、非イオン界面活性剤B-15を得た。
【0092】
非イオン界面活性剤B-16は、リノレン酸に対してエチレンオキサイドがモル比1:15で付加した付加体である。リノレン酸とエチレンオキサイドとをモル比1:15で反応させて、非イオン界面活性剤B-16を得た。
【0093】
非イオン界面活性剤B-17は、ラウリルアルコールに対してエチレンオキサイドがモル比1:10で付加した付加体である。ラウリルアルコールとエチレンオキサイドとをモル比1:10で反応させて、非イオン界面活性剤B-17を得た。
【0094】
非イオン界面活性剤B-18は、ドデシル酢酸に対してエチレンオキサイドがモル比1:10で付加した付加体である。ドデシル酢酸とエチレンオキサイドとをモル比1:10で反応させて、非イオン界面活性剤B-18を得た。
【0095】
(1-3)シリコーン化合物
実施例および比較例において用いたシリコーン化合物C-1~C-4ならびにrc-1およびrc-2について、順に説明する。このうちシリコーン化合物C-1~C-4は、上記の実施形態に係るアミノ変性シリコーン化合物(C)に該当する。なお、各シリコーン化合物の動粘度は、いずれも25℃における値である。
【0096】
シリコーン化合物C-1は、動粘度が1200mm2/sでありアミノ当量が4000g/molであるアミノ変性シリコーンである。シリコーン化合物C-2は、動粘度が500mm2/sでありアミノ当量が1600g/molであるアミノ変性シリコーンである。シリコーン化合物C-3は、動粘度が40000mm2/sでありアミノ当量が20000g/molであるアミノ変性シリコーンである。シリコーン化合物C-4は、動粘度が250mm2/sでありアミノ当量7600g/molであるアミノ変性シリコーンである。
【0097】
シリコーン化合物rc-1は、動粘度が500mm2/sであるポリエーテル変性シリコーンである。シリコーン化合物rc-1において、シリコーン鎖とポリエーテル鎖との質量比は1:1であり、ポリエーテル鎖はオキシエチレン基とオキシプロピレン基をモル比1:1で含む。
【0098】
シリコーン化合物rc-2は、動粘度が100mm2/sであるジメチルシリコーンである。
【0099】
(1-4)その他の成分
その他の成分として、以下を用いた。
D-1:パーマケム(登録商標)OM-17(株式会社パーマケムアジア製)
D-2:パーマケム(登録商標)OM-17(株式会社パーマケムアジア製)
D-3:ACTITUDE LA(ソー・ジャパン株式会社製)
D-4:ACTITUDE LA2011(ソー・ジャパン株式会社製)
D-5:PROXEL GXL(ロンザジャパン株式会社製)
【0100】
(2)処理剤の調製
(実施例1の調製)
各成分を以下に示す質量比で秤量した。
スルホコハク酸エステル化合物A-1 1 質量%
非イオン界面活性剤B1-1 3 質量%
非イオン界面活性剤B2-3 5 質量%
非イオン界面活性剤B2-7 3 質量%
シリコーン化合物C-1 77.9質量%
シリコーン化合物rc―1 10 質量%
秤量した各成分をビーカーに投入してよく混合した後、これを撹拌しながらイオン交換水を徐々に添加して不揮発分濃度30質量%とし、実施例1の処理剤を調製した。
【0101】
(他の実施例および比較例の調製)
混合対象とする試薬の種類および割合を変更した他は、実施例1と同様の方法で各例の処理剤を調製した。実施例1を含む全ての例の調製条件を、後掲の表2~表4に示す。
【0102】
〔合成繊維用処理剤の評価〕
(1)炭素繊維前駆体および炭素繊維の製造
実施例および比較例の各例の処理剤を用いて、炭素繊維前駆体および炭素繊維の製造を行った。製造中の製造設備の各部の状態、ならびに、得られた炭素繊維前駆体および炭素繊維の物性に基づいて、実施例および比較例の各例の処理剤を評価した。
【0103】
(第一工程)
アクリロニトリル95質量%、アクリル酸メチル3.5質量%、メタクリル酸1.5質量%からなる極限粘度1.80の共重合体を、ジメチルアセトアミド(DMAC)に溶解し、ポリマー濃度が21.0質量%であり、60℃における粘度が500ポイズである紡糸原液を作成した。紡糸原液を、紡浴温度35℃に保たれたDMACの70質量%水溶液の凝固浴中に孔径(内径)0.075mm、ホール数12,000の紡糸口金よりドラフト比0.8で吐出した。凝固糸を水洗槽の中で脱溶媒と同時に5倍に延伸して水膨潤状態のアクリル繊維ストランドを作成した。
【0104】
(第二工程)
作成したアクリル繊維ストランドに対して、実施例および比較例の各例の処理剤の3%イオン交換水溶液を、浸漬法にて、処理剤の付着量が1質量%(溶媒を含まない。)となるように給油した。その後、処理剤が付着したアクリル繊維ストランドに対して150℃の加熱ローラーで乾燥緻密化処理を行い、さらに170℃の加熱ローラー間で1.7倍の延伸を施した後に、糸管に巻き取って炭素繊維前駆体を得た。
【0105】
(第三工程)
実施例および比較例の各例の炭素繊維前駆体から糸を解舒し、230~270℃の温度勾配を有する耐炎化炉において、空気雰囲気下で1時間耐炎化処理した後に、糸管に巻き取って耐炎化糸を得た。さらに、この耐炎化糸から糸を解舒し、300~1300℃の温度勾配を有する炭素化炉において窒素雰囲気下で焼成して炭素繊維に転換し、糸管に巻き取ることで炭素繊維を得た。
【0106】
(2)タール洗浄性
上記の第三工程において、耐炎化炉の出口にタールの付着が生じる。このタールの付着量が耐炎化炉の操業に支障をきたす水準に達する前(具体的には、断糸を引き起こす前)に、タールを除去する作業を行う必要がある。本評価では、タールが付着していない耐炎化炉を用いて連続操業を開始し、断糸が生じるまでの期間に基づいて以下の四水準で評価した。
A:操業開始から3週間以上にわたって断糸が生じなかった。
B:操業開始から2週間以上3週間未満で断糸が生じた。
C:操業開始から1週間以上2週間未満で断糸が生じた。
D:操業開始から1週間未満で断糸が生じた。
【0107】
(3)集束性
上記の第二工程において処理剤が付着したアクリル繊維ストランドが加熱ローラーを通過する際の集束状態を目視で観察し、以下の四水準で評価した。
A:ストランドが十分に集束しており、加熱ローラーに巻き付かない。
B:ごくわずかにストランドがばらける場合があるが、断糸は生じず、操業上の問題は生じない。
C:ストランドがばらける場合があるが、断糸は生じず、操業上の問題は生じない。
D:ストランドのばらけが多く生じ、断糸が生じて操業上の支障がある。
【0108】
(4)強度
得られた炭素繊維の引張強度を、JIS R 7606:2000に従って測定した。引張強度の測定値に応じて、下記の四水準に区分した。
A:引張強度が4.5GPa以上である。
B:引張強度が4.0GPa以上4.5GPa未満である。
C:引張強度が3.5GPa以上4.0GPa未満である。
D:引張強度が3.5GPa未満である。
【0109】
(5)制電性
上記の第二工程において処理剤が付着したアクリル繊維ストランドが加熱ローラーを通過する際の発生電気を、集電式電位測定器を用いて測定した。測定値に基づいて以下の二水準に区分した。
A:発生電気が0.5kV以下である。
D:発生電気が0.5kVより大きい。
【0110】
〔結果〕
実施例および比較例に係る各処理剤の組成および評価結果を表2~表4に示す。なお、各表では、スルホコハク酸エステル化合物を「A成分」、非イオン界面活性剤を「B成分」、シリコーン化合物を「C成分」と、それぞれ略記する。
【0111】
【0112】
【0113】
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明は、炭素繊維前駆体などの合成繊維の製造に利用できる。
【要約】
【課題】従来技術に比べてタールの発生を抑制するとともに、得られる合成繊維の集束性を向上する。
【解決手段】炭素数3以上18以下の脂肪族アルコールに対して炭素数2以上4以下の一種類または複数種類のアルキレンオキサイドがモル比1:1~1:15で付加した付加体であるポリオキシアルキレンエーテルとスルホコハク酸とのエステルであるスルホコハク酸エステル、スルホコハク酸エステルのアルカリ金属塩、および、スルホコハク酸エステルのアンモニウム塩、からなる群から選択される少なくとも一つの化合物であるスルホコハク酸エステル化合物(A)と、非イオン界面活性剤(B)と、を含み、不揮発分に占めるスルホコハク酸エステル化合物(A)の割合が0質量%を超えて10質量%未満である。
【選択図】なし