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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-28
(45)【発行日】2025-06-05
(54)【発明の名称】発電用掘削方法および発電用掘削装置
(51)【国際特許分類】
   E21D 1/06 20060101AFI20250529BHJP
   F24T 50/00 20180101ALI20250529BHJP
   F03G 4/00 20060101ALI20250529BHJP
【FI】
E21D1/06
F24T50/00
F03G4/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023080617
(22)【出願日】2023-05-16
(65)【公開番号】P2024164901
(43)【公開日】2024-11-28
【審査請求日】2024-12-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523154714
【氏名又は名称】清田 憲正
(73)【特許権者】
【識別番号】523145837
【氏名又は名称】清田 昌弘
(73)【特許権者】
【識別番号】523154725
【氏名又は名称】藤田 芳博
(74)【代理人】
【識別番号】100090538
【弁理士】
【氏名又は名称】西山 恵三
(72)【発明者】
【氏名】清田 憲正
(72)【発明者】
【氏名】清田 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】藤田 芳博
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-150787(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0137349(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0116044(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0120090(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0031652(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 1/06
F24T 50/00
F03G 4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
深層地殻熱を発電に用いるための立坑を掘削するとき、上下方向位置が変更可能となるように懸架部材で支持可能な縦型掘削機を用いて前記立坑を掘削する発電用掘削方法であって、
前記縦型掘削機と前記懸架部材の間に、横方向に地殻を掘削する伸縮可能なカッターアームを備える接続ボックスを一体的に接続し、
前記カッターアームが縮み、前記懸架部材で前記接続ボックスを介した前記縦型掘削機を支える第1のステップと、
前記カッターアームが伸び、前記カッターアームの先端側が地殻に保持された前記接続ボックスで前記縦型掘削機を支えて前記立坑を掘削する第2のステップと、
を有することを特徴とする発電用掘削方法。
【請求項2】
上記第2のステップの後、前記カッターアームを縮ませ、前記懸架部材で前記接続ボックスを介した前記縦型掘削機を降下させる第3のステップと、
前記カッターアームが伸び、前記カッターアームの先端側が地殻に保持された前記接続ボックスで前記縦型掘削機を支えて前記立坑を掘削する第4のステップを有することを特徴とする請求項1に記載の発電用掘削方法。
【請求項3】
前記第1のステップにおいて、前記懸架部材で前記接続ボックスを介した前記縦型掘削機を支えて前記立坑を掘削することを特徴とする請求項1または2に記載の発電用掘削方法。
【請求項4】
前記深層地殻熱が熱媒と共に流れる熱媒管を中継する蓄熱室、および液体空気を気化することで冷却する設備を備える作業員室および作業設備室の少なくとも一方を各階に形成するための横坑を掘削するステップを更に有することを特徴とする請求項1または2に記載の発電用掘削方法。
【請求項5】
前記作業員室および作業設備室の少なくとも一方をドーム形状に沿った屋根膜を備えるドーム室とし、
前記ドーム形状に対応するように、前記横坑の一部上面をドーム形状に無人掘削機を用いて掘削することを特徴とする請求項4に記載の発電用掘削方法。
【請求項6】
前記屋根膜を支えるため前記ドーム室の内部を正圧に保つよう前記ドーム室の内部に新鮮空気を取り入れると共に、前記屋根膜から空気を漏出させて前記ドーム形状に沿った前記ドーム室の外側の空気を冷却するために用いられる、新鮮空気を搬入するための第1の立坑と、空気を排出するための第2の立坑とを掘削するステップを更に有することを特徴とする請求項5に記載の発電用掘削方法。
【請求項7】
前記第1の立坑と前記第2の立坑とが、掘削される排土を搬出するためのエレベータを昇降させるエレベータ立坑として兼用されることを特徴とする請求項6に記載の発電用掘削方法。
【請求項8】
前記懸架部材はチェーンであることを特徴とする請求項1または2に記載の発電用掘削方法。
【請求項9】
深層地殻熱を発電に用いるための立坑を掘削するとき、上下方向位置が変更可能となるように懸架部材で支持可能な縦型掘削機と前記懸架部材の間に一体的に接続する発電用掘削装置であって、
横方向に地殻を掘削可能な伸縮自在のカッターアームを備え、
前記カッターアームが縮んだとき、前記縦型掘削機が前記懸架部材で支えられる第1の状態と、
前記カッターアームが伸びたとき、前記カッターアームの先端側が地殻に保持されて前記縦型掘削機が前記カッターアームおよび前記地殻で支えられて前記立坑を掘削する第2の状態と、
を設定可能としたことを特徴とする発電用掘削装置。
【請求項10】
請求項9に記載される前記発電用掘削装置であって、前記縦型掘削機と接続し一体化したことを特徴とする発電用掘削装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非火山性地域の地熱資源を利用した発電に用いられる立坑を掘削するのに好都合な、改良された掘削方法および掘削装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な地熱発電は、タービンで電力を得るものとして知られており(特許文献1)、火山系の溶岩マグマが水と接触して発生する高温蒸気を発電所に導き、タービンで電力を得る。このマグマ水蒸気による発電も貴重な自然エネルギーに拠るものであるが、規模が小さく、大規模な電力事業に対して基幹技術とはなり難い。また、マグマが移動することもあるため、長期安定的な発電事業は期待し難い。
【0003】
これに対し、非火山性地域の地熱資源として深層地殻熱を利用し、温度差発電方式またはタービン発電方式で発電することが提案され、深層地殻熱を発電に用いるための立坑を掘削する必要がある。このような立坑は、一般に上下方向位置が変更可能となるように懸架部材(チェーン、ワイヤ、ロープ等)で支持可能な縦型掘削機を用いて掘削する(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6587118号公報
【文献】特開平05‐010085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、深い立坑を掘削するとき、懸架部材が長くなることで懸架部材に過度な力がかかり、懸架部材の劣化・切断といった問題が生ずる。
【0006】
本発明の目的は、火山性マグマに依存せず、非火山性地域の地熱資源を発電に利用するにあたり、上下方向位置が変更可能となるように懸架部材で支持可能な縦型掘削機を用いて、懸架部材の劣化・切断といった問題を回避しつつ、立坑を掘削することができる発電用掘削方法および発電用掘削装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る発電用掘削方法は、深層地殻熱を発電に用いるための立坑を掘削するとき、上下方向位置が変更可能となるように懸架部材で支持可能な縦型掘削機を用いて前記立坑を掘削する発電用掘削方法であって、前記縦型掘削機と前記懸架部材の間に、横方向に地殻を掘削する伸縮可能なカッターアームを備える接続ボックスを一体的に接続し、前記カッターアームが縮み、前記懸架部材で前記接続ボックスを介した前記縦型掘削機を支える第1のステップと、前記カッターアームが伸び、前記カッターアームの先端側が地殻に保持された前記接続ボックスで前記縦型掘削機を支えて前記立坑を掘削する第2のステップと、を有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る発電用掘削装置は、深層地殻熱を発電に用いるための立坑を掘削するとき、上下方向位置が変更可能となるように懸架部材で支持可能な縦型掘削機と前記懸架部材の間に一体的に接続する発電用掘削装置であって、横方向に地殻を掘削可能な伸縮自在のカッターアームを備え、前記カッターアームが縮んだとき、前記縦型掘削機が前記懸架部材で支えられる第1の状態と、前記カッターアームが伸びたとき、前記カッターアームの先端側が地殻に保持されて前記縦型掘削機が前記カッターアームおよび前記地殻で支えられて前記立坑を掘削する第2の状態と、を設定可能としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、火山性マグマに依存せず、非火山性地域の地熱資源を発電に利用するにあたり、上下方向位置が変更可能となるように懸架部材で支持可能な縦型掘削機を用いて、懸架部材の劣化・切断といった問題を回避しつつ、立坑を掘削することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る発電用掘削装置を用いた発電用掘削方法の説明図
図2】本発明の実施形態に係る発電用掘削装置を用いる場合の懸架部材としての鎖の保持に関する説明図
図3】本発明の実施形態に係る発電用掘削方法を用いた発電システムにおける海洋地殻内に設けられる発電所を示す説明図
図4】立坑および横坑の掘削に関する概略図
図5】サテライト立坑がセンター立坑の両側に対称的に掘削される場合の説明図
図6】(a)は熱媒管のサテライト立坑を介した蓄熱室への引き込みと配管ユニットを介した熱媒管の連結を説明する図、(b)は蓄熱室とサテライト立坑の関係図
図7】(a)はセンター立坑とサテライト立坑を連結する連結立坑の説明図、(b)は連結立坑のA-A視図
図8】立坑掘削による排土の排出の説明図
図9】(a)は作業床面に蓄熱室および作業用のドーム室を設けるための横坑の掘削に関する説明図、(b)はドーム室の説明図、(c)はドーム形状に掘削するための無人掘削機の説明図
図10】ドーム室への新鮮空気の取り入れ用の第1の立坑と、ドーム室からの空気排出用の第2の立坑とをエレベータ立坑で兼用する場合の説明図
図11】(a)は発電所階における折り畳んだ熱媒管を蓄熱室へ設置する説明図、(b)は蓄熱室と熱媒管の関係図、(c)は蓄熱室の構造図
図12】熱媒を気体状態で使用する最下層の熱媒管の説明図
図13】(a)は熱媒管の断面構成並びに最下層の構成を示す説明図、(b)は深さ方向で隣り合う階の間における熱媒の流れを示す図
図14】蓄熱室における温度の高い熱媒αと温度の低い熱媒βとの熱の授受を示す図
図15】(a)は発電所階における長い熱媒管の組立場のイメージ図、(b)は熱媒管を束ねる小フランジを用いた熱媒管の地下への搬入を示す図、(c)は小フランジのサイズを示す図
図16】(a)、(b)、(c)はそれぞれ熱媒管、熱媒管ユニット、熱媒管グループのサテライト立坑内配置に関する説明図
図17】(a)、(b)、(c)はそれぞれ配管ユニットの平面図、縦断面図、斜視図
図18】熱電発電素子ユニットをトロッコ上に積載してトンネルに格納するイメージ図
図19】(a)はそれぞれのトンネル内に複数熱電発電素子ユニットを設けたものを積層した巨大発電所のイメージ図、(b)は各階床面における側線の役割を説明する図
図20】(a)は熱電発電素子が2次元状に配置される説図、(b)は素子盤、熱媒管、冷水管の交差状態イメージ図
図21】非火山性の深層地殻熱域からの地殻熱をタービン方式により発電するブロック図
図22】深層地殻熱を用いた発電により水素を生成(製造)するブロック図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。
【0012】
(第1の実施形態)
(発電所)
図3に、本発明の実施形態に係る発電用掘削方法を用いた発電システムにおける海洋地殻内に設けられる発電所を示す。発電所9は海底の下側にある海洋地殻内(より好ましくは沿岸地域の海洋地殻内)の発電所階10に設けられる。
【0013】
大陸地殻が30~50Kmであるのに対し、海洋地殻は5~10kmしかない。より具体的には、海の中は堆積層と安山岩層と上部マントルが一体となり、大陸プレートとしてゆっくりと動いている。安山岩層は厚さが5~10kmしかなく、その下にはもう上部マントルがある。上部マントルはかんらん岩からできている。
【0014】
下部マントルは地殻熱のため柔らかくなり、固体であるがゆっくり対流を起こし動いている一方、上部マントルはすぐ上の安山岩層と固く結びついており、極めて安定的な部分(アセノスフェア)である。
【0015】
安山岩層もかんらん岩層も密度が高く、頑丈で、熱伝導率も高い。従って、掘削深さが小さくても、求める高温帯(400~500℃)に早く到達できる。つまり、垂直方向の熱勾配が高く、少し掘ればどんどん地熱が高くなるということで、陸地側(陸地部)を掘るよりずっと浅い深度で高い温度域に達することができる。すなわち、発電所9を海底の下側にある海洋地殻内に設ける場合、発電所を陸地(例えば山の中)に設ける場合に比べ、深層地殻高温帯1に対し掘削開始面の高さ位置を低くできる。これにより、掘削のコストダウンが期待できる。
【0016】
また本実施形態では、発電所階10の発電所をドーム70で覆われるドーム型とし、発電所階10を海底から0.1~0.2Kmに設置したものである。
【0017】
玄武岩やかんらん岩などの固い岩盤をドーム型に掘削する必要があるが、巨大なリフターに専用の掘削機を搭載し、コンピューターからの指示に従い無人で掘削できるロボットシステムを開発、使用することにより、きれいに、早く掘削でき、コストも大幅に削減できる。
【0018】
ドーム70の効用は、以下の通りである。ドーム内に山の新鮮空気をふんだんに送り込み、内部を正圧に保つことにより、ドームを形造る帆布(屋根膜)の隙間からどんどん空気が漏れ、内部の空気が常に新鮮な状態に保てる。漏れた空気を外部に排出することで、掘削されたドームと内部空気により膨らんだ帆布との間にある空気がドーム建屋から排出される。これにより、ドーム外壁から受ける輻射熱が移動する空気によりドーム内から排出され、ドーム外壁とドームの帆布との間の空気温度が下がる。
【0019】
更にドーム帆布の外面を反射性の高いものにすることで、外壁が放つ輻射熱を跳ね返し、ドーム内への伝達熱を大幅に減じることができる。
【0020】
ドーム内の地面からくる輻射熱を遮断する方法としては、先ずドーム内の地面に形の大きい掘削の結果できた大粒の砕石を分厚く(2~5m)敷き詰め、その上に不織布を2層被せ、その上に中程度の大きさの砕石を分厚く(2~5m)敷き詰める。そして、その上に不織布を2層被せ、その上に小粒の砕石を敷き詰める。そして、その上に山の排土用埋め立て地で得られる表土(戻りのダンプカーで運搬される)を分厚く敷き詰める(10~15m)。これにより、空気を多く含んだ土壌となり、空気による断熱効果が大きい。
【0021】
このようなドームの地面に掘削で出る排土を分厚く敷き詰め、表面には山の表土を分厚く覆い、ここに植樹をし、木や草が茂るように、人口太陽光を発する照明灯を設けたり、ビオトープを設けて、自然に近い環境を創り出すこともできる。これにより、緑陰を設け、木やビオロープの持つ空気冷却効果が期待できる。
【0022】
ドームの円周縦面の断熱対策としては、岩綿を中心とした断熱材を分厚く(2~5m)壁面に張り付け、鉄骨で仕切られた壁面をALC板など断熱効果の高い建築材でカバーする。
【0023】
なお、発電所には熱媒を使って沸かした温泉設備を設けたり、宿泊所を設けるて 見学者等が泊まれる旅館を設けたりすることもできる。
【0024】
そして、発電所9の位置として都市に近い場所にできれば、送電ロスを大幅に抑えることができる。更に、発電所から最寄りの変電所までトンネルを掘り、送電設備を設けることで送電ロスを最小限に抑えることもできる。例えば、発電所の下方側であって、地下200~400mの深さ位置に変電所を設けると、送電ロスが大きく抑えられる。
【0025】
このように需要地至近の沿岸海底下に発電所を設ける場合、現在のように需要地から遠く離れた場所に発電所が設けられる場合に比べ、送電ロスを抑えられる。また、送電網の維持、メンテナンスに多大の出費がかかることが回避される。更に、雷や台風、塩害などにより突然停電が発生するのを防ぐための過大な設備仕様を余儀なくされることも回避できる。そして、地上では大きなスペースを必要とする場合、土地代が膨大なものとなるが、地下では土地代がかからないといった利点がある。
【0026】
ここで、本実施形態では、図3に示すように、発電所9は陸地側から所定角度で斜め下向きに傾斜するトンネルTを介して陸地側と接続する。すなわち、発電所に至る方法として、海岸近くの山からトンネルTを掘削して道路が形成される。
【0027】
そして、本実施形態では、トンネルTを介して陸地側と発電所建設現場が陸路で接続することで、排土搬出にはトンネルTを通過する大型のダンプカーやトラックでの搬送(更には無人運搬)が可能となる。すなわち、大量に出る排土を無人で運搬し、山中に設ける埋め立て地までピストン輸送させることができる。
【0028】
また排土を近くの山中に新設する排土保存施設に埋め立てることで、排土搬出に係る運搬費用を大幅に節減できる。
【0029】
より具体的に説明すれば、海岸に近い山中から掘り始め、ロータリーを介して発電所9手前の資材工場へ陸地側から斜め下向きに1度程度の傾斜で10Km程のトンネルTを掘り、発電所階(海洋地殻内)10に発電所9を設ける。資材工場では、この事業で用いる資材を、加工工場を含めて、全てを備蓄する。
【0030】
なお、図3では、資材工場と発電所9を同じ高さ位置(水平)としているが、陸地側から資材工場までの傾斜と同じ傾斜で資材工場と発電所9を結ぶトンネルTとすることもできる。
【0031】
そして、図3で1は深層地殻高温帯、3は蓄熱室、4は熱電発電素子ユニットである。また、20は熱媒管で、資材工場で所定の長さに切り出される。
【0032】
ここで、このような非火山性地域においては、1Km深くなるごとに約30℃温度が上昇すると考えられ、海洋の底が10℃、発電所階(海洋地殻内)10を海洋の底から0.1km(100m)~0.2Km(200m)の位置とすると、発電所階(海洋地殻内)10の温度は13℃~16℃程度と考えられる。
【0033】
(立坑および横坑の掘削)
図4に示すように、発電所階10から立坑および横坑が掘削される。立坑は、図4に示す直径8m又は9mのセンター立坑11、直径9mのサテライト立坑12、直径8m又は9mのエレベータ立坑13と、図7に示す連結立坑33(センター立坑11とサテライト立坑12を連結)が掘削される。
【0034】
また、横坑は、立坑の深さ方向200~500m毎の各階で掘削され、各階に蓄熱室3が設けられる(図6(b))。蓄熱室3が各階に設けられる理由は、深層地殻熱は熱媒と共に立坑内(具体的にはサテライト立坑12内)に配置固定される、後述の熱媒管を通して発電所階へ持ち上げられるが、熱媒管の長さが所定値以上に長くなると、熱媒管の内部の熱媒の圧力が高まって熱媒管が破裂してしまうため、熱媒管を所定の長さに制限し、各蓄熱室3で中継させる必要があるからである。
【0035】
センター立坑11が発電所階10から深層地殻熱域の近くまで一直線に貫く一方、サテライト立坑12、連結立坑33は上下に隣り合う各階の間に設けられる。この理由は、サテライト立坑12内の熱媒管の設置工程に関し、発電所階10から熱媒管を下端部が各階の深さとなる位置までセンター立坑11の内部を降下させ、熱媒管を連結立坑33を介してサテライト立坑12へ横移動させるためである。なお、エレベータ立坑13も上下に隣り合う各階の間に設けられる。
【0036】
図4図6では、便宜的にセンター立坑11の片側に、サテライト立坑12、エレベータ立坑13が示されているが、実際には図5に示すように、サテライト立坑12,エレベータ立坑13がセンター立坑11に対し対称的に設けられる。これにより、各階の蓄熱室3は複数(2個)設けられる。
【0037】
なお、図5においては、便宜上センター立坑11とサテライト立坑12が隣接し、またエレベータ立坑13とサテライト立坑12が隣接するように描かれているが、実際にはセンター立坑11とサテライト立坑12は離間し、またエレベータ立坑13とサテライト立坑12も離間している(図4図6)。
【0038】
図5をより具体的に示せば、上述したようにセンター立坑11に対しサテライト立坑12-1-aとサテライト立坑12-1-bが線対称の関係で形成され、90度位相が備わるようにサテライト立坑12-2-aとサテライト立坑12-2-bが線対称の関係で形成される。そして、センター立坑11に対し、サテライト立坑12-3-aとサテライト立坑12-3-bが線対称の関係で、サテライト立坑12-1-aとサテライト立坑12-1-bと同様の配置で形成される。
【0039】
そして、サテライト立坑12-1の下端部と、サテライト立坑12-2の上端部とは、余裕分として深さ方向で重なりを持つように掘削される(図5)。
【0040】
ここで、図7に示す連結立坑33は、上述したように熱媒管を発電所階10から蓄熱室3に引き込むとき、センター立坑11からサテライト立坑12へ熱媒管を横方向へ変位させことができるようにするためのものである。そして、深さ方向に関し、図7(b)に示すように、A-A矢視で中間部が幅3000mm(後述する図15(c)の小フランジ132の直径2000mmより大きい)、最上部側と最下部側でそれぞれ幅9500mmの横坑となっている。
【0041】
最上部側で幅9500mmの横坑となっている理由は、立坑(縦坑)用掘削装置Y1(図4)をセンター立坑11からサテライト立坑12へ移動させるために必要であるからである。また、最下部側で幅9500mmの横坑となっている理由は、立坑(縦坑)用掘削装置(図4)をサテライト立坑12からセンター立坑11へ移動させるために必要であるからである。
【0042】
なお、連結立坑33に関し、最上部、通関部、最下部を全て幅9500mmで統一することもできる。
【0043】
図4で、Y1は立坑(縦坑)用掘削装置、Y2は横坑用掘削装置であり、Y3は土砂等回収装置で、図8に示すようにエレベータ立坑の内部に設けられるエレベータケージ14へ排土などを作業床面16上で運搬する排土運搬車15を含む。
【0044】
なお、エレベータ立坑13の位置は、サテライト立坑12に対しセンター立坑11と反対側に示されているが、これに限られず、サテライト立坑12の位置と共にセンター立坑の周りに設けられれば良い。
【0045】
サテライト立坑12は、発電所階(海洋地殻内)10で組み立てた長大な熱媒管を連絡立坑33を通して蓄熱室3に引き込むための開放空間として重要である。
【0046】
蓄熱室3に持ち込む物は主にエレベータ立坑13に設けられるエレベータで運び込むが、長尺の熱媒管はセンター立坑11、連絡立坑33、サテライト立坑12を通して蓄熱室3に引き込むこととなる。
【0047】
蓄熱室3に引き込んだ後の熱媒管に関しては、最下階から下側の部分(図7(a))を除き、図6(a)に示すようにセンター立坑11に存在せず、サテライト立坑12に存在することとなる。
【0048】
ここで、センター立坑11の意義に関しては、上述したように発電所階から蓄熱室が設けられる各階へ熱媒管を降下させることの他、深層地殻熱を熱媒管を介して最下階へ引き上げること(図12図13)、最下階から上方部分においてサテライト立坑12や蓄熱室3などのメンテナンスに必要なものである。特に長尺物の配管類、ポンプ、吸収式冷凍機(液体空気生産用)、大型送風機など、大型設備の搬出、搬入に無くてはならないものである。また、新鮮空気を下階へ送り込む風洞を設置するスペースとなる。
【0049】
(陸地側からの全体的な掘削方法)
ここで、陸地側からの全体的な掘削方法を以下に説明する。先ず陸地側から所定角度で斜め下向きに傾斜するトンネルTを介して発電所階(海洋地殻内)と接続するようにする(第1の掘削ステップ)。次に、発電所階(海洋地殻内)10から所定の深さまで、センター立坑と共にサテライト立坑と、サテライト立坑とセンター立坑を連結する連結立坑と、エレベータ立坑をセンター立坑の周りに掘削する(図4(a)に示す第2の掘削ステップ)。
【0050】
そして、これら立坑のいずれかから搬入された、もしくは搬入され組み立てられた掘削装置を用いて、第2の掘削ステップで形成されたセンター立坑に交差する第1の横坑を掘削する(第3の掘削ステップ)。
【0051】
そして、第3の掘削ステップで掘削された排土をエレベータ立坑より発電所階(海洋地殻内)10へ排出すると共に、第1の横坑に作業員室および作業設備室の少なくとも一方、並びに蓄熱室(250℃乃至500℃の深層地殻熱をポンプにより移動される熱媒を介して発電所階(海洋地殻内)10に向け伝搬するための熱媒管を連結立坑を介してサテライト立坑に引き込んで中継する)を設置可能なスペースを備える第1の作業床面16aを形成する(図4(b)に示す第4の掘削ステップ)。
【0052】
そして、発電所階(海洋地殻内)10の作業床面を第1の作業床面に置き換えて、センター立坑の位置をずらさないようにして、第2の横坑に第2の作業床面16bを形成するように(図4(c)、(d))、第2乃至第4のステップを深層地殻熱域に近づくまで順次行い、発電所階(海洋地殻内)10から最も離れた作業床面からセンター立坑を深層地殻熱域に近づく位置まで掘削する(第5の掘削ステップ)。
【0053】
ここで、それぞれの作業床面に形成される蓄熱室3のサイズは、図11(a)に示すように縦方向、横方向、高さ方向にそれぞれ2mである。また、それぞれの作業床面に形成される作業員室、作業設備室のそれぞれのサイズは、縦横が10m、高さが10mである。
【0054】
このようにして、それぞれの作業床面における図4に示すスペースX1、X2の大きさは、それぞれ少なくとも縦横が30m以上、高さが20m以上となる。
【0055】
横坑を掘削する第2のステップにおいては、固い岩盤の場合はドリリング装置で穴を開け、ダイナマイトを差し込んで爆破し、ショベルローダーで砕石を運び出す。なお、より大きなスペースを確保する場合、シールドマシンを用いることもできる。
【0056】
また、特表2022-542910号公報に記載される低温破砕ドリルヘッドを用いることもできる。すなわち、高温岩体に冷水など低温流体を噴射して亀裂を形成し、次いでドリルヘッドの回転運動または打撃力を使用して亀裂の入った岩体を破壊することができる。
【0057】
(縦型掘削機を用いた立坑の掘削)
ここで、図1図2を用いて、本発明の実施形態に係る縦型掘削機を用いた立坑の掘削について説明する。深層地殻熱を発電に用いるための立坑を掘削するとき、上下方向位置が変更可能となるように鎖(チェーン)等の懸架部材で支持可能な縦型掘削機(縦型シーリングマシン)を用いるが、本実施形態においては、図1に示すように縦型掘削機と懸架部材の間に、横方向に地殻を掘削する伸縮可能なカッターアームを備える接続ボックスを一体的に接続する。
【0058】
図1(a)に示すように、接続ボックスには複数のカッターアームが備わり、送り出し装置のON、OFFで夫々のカッターアームが横方向に伸びたり、縮んだりできる。すなわち、送り出し装置がOFFの場合はカッターアームが縮んだ状態で、懸架部材(具体的には鎖(チェーン))で縦型掘削機を接続ボックスと共に支える。一方、送り出し装置がONの場合はカッターアームが横方向に伸び、カッターアームの先端側に設けられるカッターヘッドが安山岩、かんらん岩を削りながら進む。そのとき、切削屑は圧縮エアで吹き飛ばし、真空掃除機に吸込み捕捉する。このようにして、安山岩、かんらん岩にカッターヘッドが食い込んだ状態(カッターアームが伸びた状態)で、鎖(チェーン)ではなく、接続ボックスで縦型掘削機が支持される。安山岩、かんらん岩は緻密で固く、超重量を支えることができる。
【0059】
このような本実施形態に係る発電用掘削方法は、以下のようにまとめられる。
【0060】
深層地殻熱を発電に用いるための立坑を掘削するとき、上下方向位置が変更可能となるように懸架部材で支持可能な縦型掘削機を用いて立坑を掘削する発電用掘削方法であって、縦型掘削機と懸架部材の間に、横方向に地殻を掘削する伸縮可能なカッターアームを備える接続ボックスを一体的に接続し、カッターアームが縮み、懸架部材で接続ボックスを介した縦型掘削機を支える第1のステップと、カッターアームが伸び、カッターアームの先端側が地殻に保持された接続ボックスで縦型掘削機を支えて立坑を掘削する第2のステップと、を有する。
【0061】
ここで、第2のステップにおいて、縦型掘削機で立坑を掘削することになるが、第1のステップにおいては、縦型掘削機で立坑を掘削する前提であっても良いし、縦型掘削機で立坑を掘削しない前提であっても良い。
【0062】
また、本実施形態に係る発電用掘削装置は、以下のようにまとめられる。
【0063】
深層地殻熱を発電に用いるための立坑を掘削するとき、上下方向位置が変更可能となるように懸架部材で支持可能な縦型掘削機と前記懸架部材の間に一体的に接続する発電用掘削装置であって、横方向に地殻を掘削可能な伸縮自在のカッターアームを備え、前記カッターアームが縮んだとき、前記縦型掘削機が前記懸架部材で支えられる第1の状態と、
前記カッターアームが伸びたとき、前記カッターアームの先端側が地殻に保持されて前記縦型掘削機が前記カッターアームおよび前記地殻で支えられて前記立坑を掘削する第2の状態と、を設定可能である。そして、上記発電用掘削装置としての接続ボックスと縦型掘削機とを一体化した発電用掘削装置とすることもできる。
【0064】
このような本実施形態によれば、懸架部材としての鎖(チェーン)の張力を緩め、懸架部材としての鎖(チェーン)の寿命を延ばすことができる。また、縦型掘削機の切削の反力として生ずるトルクもカッターアームが支えることができる。
【0065】
懸架部材である鎖(チェーン)の先端側は、上述した接続ボックスに取り付けられるが、懸架部材である鎖(チェーン)の後端側に関しては、先ず中間部において鎖駆動滑車に設けられた凹み溝に嵌り込むので、鎖(チェーン)が円周角で90度程度巻き込むことで、鎖(チェーン)の位置が固定される鎖駆動滑車を介し、後端部では鎖(チェーン)が自重で降りてきて、鎖駆動滑車の真下のドラム缶の半割容器に緩んだ状態で入れられる。なお、鎖駆動滑車は減速機を介して小さなモータに接続し、小さなモータで鎖駆動滑車が回動可能である。
【0066】
そして、鎖駆動滑車を正回転あるいは逆回転させることで、接続ボックスに取り付けた鎖を、巻き上げたり、巻き降ろしたりして、縦型掘削機を上げたり、下げたり出来る。
【0067】
鎖駆動滑車の位置としては、センター立坑を掘る場合は、図2(a)に示すように、センター立坑に隣り合う一方のサテライト立坑との間にある連結立坑33の床の上方と、反対側のサテライト立坑の床の上方に設けられる。
【0068】
また、サテライト立坑を掘る場合は、図2(b)に示すように、センター立坑と反対側のサテライト立坑との間にある連結立坑33の床の上方と、センター立坑の床の上方に設けられる。
【0069】
なお、連結立坑に関しては、センター立坑を掘ったら連結立坑もつかず離れずの高さで、掘削されるものである。また、鎖は希望する長さで納入され、必要があれば専用の接続リンクで繋ぎ長くすることが出来るものである。
【0070】
ここで、発電用掘削方法に関し、上記第2のステップの後、カッターアームを縮ませ、懸架部材で接続ボックスを介した縦型掘削機を降下させ(第3のステップ)、カッターアームが再び伸び、カッターアームの先端側が地殻に保持された接続ボックスで縦型掘削機を支えて立坑を掘削する(第4のステップ)ようにすることもできる。
【0071】
これにより、深い立坑を掘り下げていくことができると共に、懸架部材としての鎖(チェーン)の張力を緩め、鎖(チェーン)の寿命を延ばすことができる。また、縦型掘削機の切削の反力として生ずるトルクもカッターアームが支えることができる。
【0072】
(無人掘削機を用いたドーム形状含む横坑の掘削)
図9(a)に示すように、各階の作業床面には蓄熱室と共にドーム室が設けられる。ドーム室は作業員室および作業設備室の少なくとも一方を構成する。このドーム室は、図3のドーム70と同様で、図9(b)に示すようにドーム内に山の新鮮空気をふんだんに送り込み、内部を正圧に保つことにより、ドームを形造る帆布(屋根膜)の隙間からどんどん空気が漏れ、内部の空気が常に新鮮な状態に保てる。そして、漏れた空気を外部に排出することで、掘削されたドーム形状の地殻と、内部空気により膨らんだ帆布(屋根膜)との間にある空気がドーム建屋から排出される。これにより、ドーム外壁から受ける輻射熱が移動する空気により排出され、ドーム外壁とドームの帆布(屋根膜)との間の空気温度が下がる。
【0073】
更にドーム帆布(屋根膜)の外面を反射性の高いものにすることで、外壁が放つ輻射熱を跳ね返し、ドーム内への伝達熱を大幅に減じることができる。
【0074】
ドーム内の地面からくる輻射熱を遮断する方法としては、先ずドーム内の地面に形の大きい掘削の結果できた大粒の砕石を分厚く(2~5m)敷き詰め、その上に不織布を2層被せ、その上に中程度の大きさの砕石を分厚く(2~5m)敷き詰める。そして、その上に不織布を2層被せ、その上に小粒の砕石を敷き詰める。そして、その上に山の排土用埋め立て地で得られる表土(戻りのダンプカーで運搬される)を分厚く敷き詰める(10~15m)。これにより、空気を多く含んだ土壌となり、空気による断熱効果が大きい。
【0075】
ドームの円周縦面の断熱対策としては、岩綿を中心とした断熱材を分厚く(2~5m)壁面に張り付け、鉄骨で仕切られた壁面をALC板など断熱効果の高い建築材でカバーする。
【0076】
本実施形態において、横坑の一部上面をドーム形状に掘削する必要があるが、図9(c)に示すように無人掘削機を用いて掘削することができる。この無人掘削機は、キャタピラ台車で移動可能であり、掘削機にはカメラが備わり、AI(人工知能)を活用してカメラ映像に応じた3次元位置へ掘削機を設置できる。
【0077】
ここで、図9(a)に関し、ドーム室の内部を正圧に保つようドーム室の内部に新鮮空気を取り入れるための第1の立坑と、ドーム室の帆布(屋根膜)から空気を漏出させてドーム室の外側の空気を冷却するための第2の立坑が必要となる。このような第1の立坑と第2の立坑とを別々に設けることができ、例えば第1の立坑にエレベータ立坑を用い、第2の立坑をドーム室の近く、あるいはドーム室の上方に設けることができる。
【0078】
また、第1の立坑と第2の立坑とを別々に設けるのでなく、第1の立坑と第2の立坑を同じエレベータ立坑で兼用することもできる。すなわち、図10にエレベータ立坑を風洞用立坑として用いる場合の水平断面構造を示すが、エレベータケージサポートレールで保持されるエレベータケージの外周部に、ALC板保持鋼で保持されるALC板外筒とALC板内筒を設ける。そして、3つの空間(ALC板外筒の外側、ALC板外筒とALC板内筒の間、ALC板内筒の内側)を適宜第1の立坑と第2の立坑とに区分けする。
【0079】
すなわち、ドーム室の内部に新鮮空気を取り入れるための第1の立坑としては、図10のスペースS0、S1が該当し、空気を排出するための第2の立坑としては、図10の中間スペースS2を介したスペースS3が該当する。エレベータは各階に止まっていることが多く、スペースS0はスペースS1と共に新鮮空気を取り入れるための第1の立坑として機能し得る。中間スペースS2では、ALC板内筒から漏れた空気が圧力差でALC板外筒に流れ、ALC板外筒から漏れる空気がスペースS3から排風ファンを用いて外部へ排出される。
【0080】
このような軽量気泡コンクリートであるALCを材質に用いた風洞とすることで、エレベータケージ内の冷房冷却がなされ得る。そして、このような風洞を用いることは、エレベータケージ内の冷房冷却に対し図9(b)に関して後述する液体空気を用いる代わりとなることで、液体空気の節約が可能となる。
【0081】
図10では、中間スペースS2を設けるようにALC板内筒およびALC板外筒を用いるが、中間スペースS2を設けずALC板内筒およびALC板外筒を兼用した単一のALC板筒を用いることもできる。また、階に応じて中間スペースS2を設けるか設けないかを決めるようにすることもできる。例えば、地中深さが浅い階の間では中間スペースS2を設けず、地中深さが深い階の間では中間スペースS2を設ける構造とすることもできる。
【0082】
ここで、図9(b)に示すドーム室に関しては、作業員室の場合には冷房設備を備え、作業設備室の場合には冷却設備を備える。このような冷房もしくは冷却に関しては、電気で自家生産できる液体空気(空気を低温にして得られる液体)が気化器に送られ、気体の空気(気体空気)と混合すると、液体空気が気化し蒸発熱を奪い、気体空気の温度を下げることができる。
【0083】
この原理を用い、図9(b)に示すものは、液体空気の替わりに人工液体空気を用いる。すなわち、酸素ボンベ44と窒素タンク45を設置し、人工空気として酸素と窒素をそれぞれ79%、21%の割合で混合する。液体酸素ボンベ44は液体酸素供給弁を介して混合気化器46に連結し、液体窒素タンク45は液体窒素供給弁を介して混合気化器46に連絡している。そして、混合気化器46は外気吸入調整弁などを通して常温空気(気体空気)を取り入れることが可能である。液体が気体となって蒸発熱を奪うことにより、温度が下がった低温空気(冷却空気)47は、混合気化器46から供給される。
【0084】
図9(b)で、低温空気47により冷房が効き、またヒートパイプシステム51で更なる冷房や暖房も効き、作業員が休息できる作業員室として、ゆっくり休息室50が設置される。また、掘削機52、AIロボットおよび地中服48、搬送装置としてのエアベアリング等49等が冷却保管される作業設備室が配置されている。
【0085】
地中服48に関しては、耐熱服(耐火服)として1000度までの放射熱に耐えれる服(JUTEC/ユーテック社製)や、耐熱温度が500℃~600℃の消防士着用の防火
服を利用できる。さらに、少し長い時間作業する場合には、3層構造の服を着て、中央層に、液化空気を注入し、その気化した空気が内層に入り、最後に外層に移っていくような特殊作業服を用いる。これにより、外層に入り込んだ空気により、人体が高温空気にさらされることなく、安心してして作業が出来る。
【0086】
(熱媒管を用いた深層地殻熱の利用)
1)熱媒管
熱媒管とは、深層地殻熱域からの地殻熱を熱媒を介して発電所階(海洋地殻内)10に向け伝搬するための管をいう。
【0087】
図3において、熱源としては、火山性のマグマでなく、深層地殻熱域を用い、地球の外核に含まれる放射性同位元素が崩壊する際に発する熱が、マントル、地殻を通じて流れる伝導熱を利用して発電(より好ましくは温度差発電(ゼーペック効果を利用)を行うものである。
【0088】
深層地殻高温帯1の近くにまで位置する熱媒管20の内部を移動する(ポンプによって引き上げられる)流体としての熱媒を介して、深層地殻高温帯1の熱が発電所へ引き上げられ、発電に利用される。具体的な発電として、好ましくは温度差発電が考えられ、深層地殻高温帯1の熱は温度差発電における高温部側に供される。
【0089】
2)深さが異なる各作業床面に設置される蓄熱室
ここで、熱媒管20は、200~500mの深さ毎に設けられる蓄熱室3を中継する(図6(b))。熱媒管20を各蓄熱室3で中継させる理由は、熱媒管20の長さが所定値以上に長くなると、熱媒管20の内部の熱媒の圧力が高まって熱媒管20が破裂してしまうからであり、これを回避するため200~500mの深さ毎に設けられる蓄熱室3を中継するように、熱媒管30の長さが設定されている。
【0090】
そして、熱媒管20を発電所階(海洋地殻内)10からセンター立坑11内を降下させ、発電所階(海洋地殻内)10から最も近い深さの蓄熱室3の階に合わせる。そして、図7(b)に示すように、センター立坑11から連結立坑33を介してサテライト立坑12へ熱媒管20を横移動させる(引き込む)ことで、発電所階(海洋地殻内)10に最も近い深さの蓄熱室3から発電所階側への深層地殻熱の引き上げが可能となる。
【0091】
同様に、発電所階(海洋地殻内)10から、更に下の階の蓄熱室3へ熱媒管20を引き込んでおくことで、下の階の蓄熱室3から上の階の蓄熱室(発電所階(海洋地殻内)10に最も近い深さの蓄熱室)を介した深層地殻熱の引き上げが可能となる。
【0092】
このようにして、各階の蓄熱室3(図6(b)))へ熱媒管20を引き込んでおくことで、各階の蓄熱室3を介して発電所階(海洋地殻内)10への深層地殻熱の引き上げが可能となる。
【0093】
そして、発電所階(海洋地殻内)10から最も深い位置に設けられる蓄熱室3からの熱媒管20は、深層地殻域近くにまで伸びて、深層地殻熱が発電所階(海洋地殻内)10から最も深い位置に設けられる蓄熱室3への深層地殻熱の引き上げが可能となる。このようにして、深層地殻熱はそれぞれの蓄熱室3を中継して発電所に引き上げられる。
【0094】
そして、それぞれの蓄熱室3の内部では、図14に示すように温度の高い熱媒α(図の左側のポンプPにより移動)と、温度の低い(温度が低下した)熱媒β(図の右側のポンプPにより移動)との効率的な熱の授受が行われ、熱損失を抑える。
【0095】
図11(a)は、発電所階10の資材工場(図3)で、折り畳んだ熱媒管38を横長の穴39から蓄熱室へ設置する説明図である。蓄熱室3の内部には、水平面内で縦方向に配置される熱媒A配管が40本、水平面内で横方向に配置される熱媒B配管が40本、計80本が配管される。
【0096】
図14と同様であるが、図11(b)は、蓄熱室3の内部を示すと共に、それぞれの熱媒管20の内部において熱媒がポンプPによって上の階の蓄熱室3へ引き上げられることを示している。ポンプPを作動させる駆動源としては、例えばスターリングエンジンを用いることができる。
【0097】
図11(c)に示す蓄熱室3は、蓄熱煉瓦(耐熱煉瓦として比熱を高める素材を混入)のブロックで下層、中間層、上層として複数層が積み上げられ、下層および上層に断熱材を設け、中間層においてブロックに設けられる穴部を介して第1群の熱媒管(熱媒A配管28)と第2群の熱媒管(熱媒B配管29)が互いに交差(直交)するように交互に積層配置されている。
【0098】
各階の蓄熱室3は、発電所階(海洋地殻内)10において組み立てられ、エレベータ立坑13から各階に降下され、各階の作業床面に設置される。そして、各階において蓄熱室3が後述する配管ユニット100(図6(a))と接続される。
【0099】
蓄熱室3のより具体的な組立に関しては、発電所階(海洋地殻内)10において、縦、横、高さがそれぞれ2mの立方体状の蓄熱煉瓦で造ったブロックを大量に造り、それらブロックの横壁に熱媒管が入る横長の穴を開けておく。そして、ブロックをフォークリフトで横持ちし、積み上げる。
【0100】
ブロックの低層階(例えば1階、2階)には断熱材を詰め込み、中層階(例えば3階~6階)には、図11(a)に示すように複数回折り畳んだ熱媒管38として上述した横長の穴39から横方向、その上の階では縦方向、更にその上の階では横方向と交互に差し込む。
【0101】
そして、高層階(例えば7階)のブロックにも断熱材を詰め込む。そして、蓄熱室の周りと上部にも断熱材で分厚く覆い、断熱効果を高めるとより好ましい。
【0102】
図11(c)の左側に示す半円状の小窓からは、一番下に差し込まれた熱媒管が見える。
【0103】
なお、図11(c)において、25は蓄熱材壁部、26は蓄熱材梁部、27は蓄熱材仕切り壁部を示す。蓄熱材仕切り壁部27は、熱媒A配管28、熱媒B配管29を貫通する壁となっている。
【0104】
ここで、図12に発電所階(海洋地殻内)10から最も深い蓄熱室3の様子を示す。図12において、発電所階(海洋地殻内)10から最も深い蓄熱室(最下段の蓄熱室)3が設置される作業床面より下側に掘削されるセンター立坑の内部にある熱媒管20が深層地殻熱域の近くまで伸びており、深層地殻熱が当該蓄熱室並びにその上方の蓄熱室を経由して発電所階(海洋地殻内)10に持ち上げられる。
【0105】
図12では、冷水塔18に備わる液体の熱媒2を気体(蒸気)17とし、熱媒を液体でなく気体として使用する場合を示している。高温のため液体であった熱媒2が忽ち気体(蒸気)17となり、比重が小さくなることで熱媒管を長く設定しても内部にかかる圧力を小さく抑えられ、熱媒管20の破裂を回避できる。最下段の作業床面では、高熱に晒され作業が困難となることが考えられるため、最下段の作業床面を深層地殻熱域から離す(より長い熱媒管を用いる)というこの方法を採用するメリットがある。
【0106】
発電所階(海洋地殻内)10から深層地殻帯近くに至る熱媒管の断面構成は、図13(a)に示すように、中央の熱回収管22(管の内部を熱媒がポンプPの作用で移動)の周りに熱媒で集熱する集熱管21(高圧に耐える特殊配管材料を使わなくても安価なSUS一般鋼管を使用可能)を円周状に複数設け、その外側に全体を保護する保護管23を設ける。
【0107】
このような3層構造で、高温になった熱媒の温度が下がらないように、熱回収管の周りを集熱管が取り囲み、周りの地殻に熱を放熱し難いよう保温の役割を担わせることができる。
【0108】
そして、このような熱媒管の長手方向の構成として、最下層においては200~500m程度の集中集熱管を付けるようにし、集中集熱管の内部に集熱効果を上げるため多重螺旋管を内蔵させる(図13(a))。
【0109】
そして、最下層においては、図12に関して上述した構成(高温のため液体であった熱媒2が忽ち気体(蒸気)17となり、比重が小さくなることで熱媒管を長く設定しても内部にかかる圧力を小さく抑えられ、熱媒管の破裂を回避できる)を用いるが、その液体熱媒としては、水または水銀を用いる。
【0110】
ここで、図13(b)は、深さ方向で隣り合う階の間における熱媒の流れを示す。深さ方向で下側から上がってくる温度の高い熱媒αと、上側から降りてくる温度が下がった熱媒βが、同じ熱媒管の内部で熱の授受が行われ発電の効率化に供するようにできる。すなわち、熱媒αと熱媒βは、蓄熱室の内部において、また蓄熱室の外部において熱の授受が行われる。図13(b)では、蓄熱室の外部において、熱媒管を構成する熱回収管22とその周りの集熱管21との間で熱の授受が行われることを示す。
【0111】
(熱媒管の組立と各階への横移動による引き込み)
先ず、図15(a)に示すように、発電所階(海洋地殻内)10においてセンター立坑
11の上に櫓(ヤグラ)を組み、素管を熔接しながら地下1階用含め各階用の熱媒管を組立て、地下1階用の熱媒管に関しては、センター立坑11から降ろして第1のサテライト立坑12-1(図6)へ横移動させて地下1階用の作業床面に形成される地下1階用の蓄熱室へ引き込む。
【0112】
同様に、地下2階用の熱媒管に関しては、センター立坑11から降ろして第2のサテライト立坑12-2(図4)へ横移動させて地下2階用の作業床面に形成される地下1階用の蓄熱室へ引き込む。
【0113】
そして、最下層用の熱媒管に関しては、センター立坑11から降ろして第nのサテライト立坑12-nへ横移動させて最下層用の作業床面に形成される最下層用の蓄熱室へ引き込む。
【0114】
そして、それぞれの作業床面に配管ユニット100(図6(a)が設けられ、配管ユニット100を介して下階からの熱媒管と上階への熱媒管と蓄熱室が連結される。ここで、蓄熱室を大きな熱水プールに例えるならば、配管ユニットは小さな熱水プールに例えられる。深層地殻熱は下側から上側に向かうが、下階からの熱媒管と上階への熱媒管の間の中間スペースでは、小さな熱水プールとしての配管ユニットと、大きな熱水プールとしての蓄熱室にプールされる。
【0115】
この中間スペースにある配管ユニットおよび蓄熱室においても、図13(b)で説明した熱媒管の構成上の工夫がされている(熱媒管を構成する熱回収管22とその周りの集熱管21)ことで、深層地殻熱の冷却が進まないこととなる。すなわち、深さ方向で下側から上がってくる温度の高い熱媒αと、上側から降りてくる温度が下がった熱媒βが、同じ熱媒管の内部で熱の授受が行われる。
【0116】
ここで、蓄熱室を設ける意義については、上述した熱媒管の内部環境による熱の授受だけでは不十分なためである。すなわち、熱媒管の外部環境による熱の授受(熱媒管の周辺環境を暖気とすると共に、隣接する異なる熱媒管からの熱を受ける)のため、蓄熱室を設ける意義がある。
【0117】
このような熱媒管20は、図15(b)に示すように小フランジ132で束ねられ、熱媒管20を10本程の回転する鎖(チェーン)63に支持された円盤に載せて、回転する滑車62を介して徐々に下していき、目的階に達したらセンター立坑11からサテライト立坑12に横移動させて蓄熱室3と連結(接続)する。
【0118】
(熱媒管のユニット化)
上述したように小フランジ132(図15(c)、更には後述の図16(b)に相当)で束ねられ、サテライト立坑に横移動される熱媒管(断面中央部が熱回収管、断面周辺部が複数の集熱管、断面外側部が保護管を備える)を熱媒管ユニットとしてユニット化し、サテライト立坑内の熱媒管の本数を増やすと共に、横移動ための連結立坑33の幅を小さく抑えることができる。
【0119】
具体的には、サテライト立坑内に横移動される熱媒管の本数を90本とすることができる。なお、センター立坑の直径は8000φ(8m)(又は9000φ(9m))であるが、サテライト立坑の直径は9000φ(9m)である。
【0120】
サテライト立坑の内部に配置される熱媒管に関しては、小フランジ132で規制された複数の熱媒管を時系列的に順次サテライト立坑12に横移動させる。
【0121】
すなわち、図16(a)に示すように構成した直径が415mmの熱媒管a(断面中央部が直径216.3mmの熱回収管22、断面周辺部が直径89.1mmの複数の集熱管21、断面外側部が保護管23を備える)をa1乃至a8として用い、図16(b)に示すように直径が2000mmの熱媒管ユニットAとしてユニット化する。ユニット化することで、溶接ロボットを使った自動溶接方式で大量生産が可能となり大幅なコストダウンとなる。
【0122】
そして、図16(c)に示す直径が9000mmの熱媒管グループとして、サテライト立坑12内に熱媒管ユニットAを9個(A1乃至A9)配置する。より具体的には、図16(c)に示す板厚10mmで直径2000mmの小フランジ132(熱媒管ユニットa1乃至a8に対応した開口を備える)で規制しながら、図17(c)に示すサテライト立坑12内の配置となるようにそれぞれの熱媒管ユニットA1乃至A10の位置へ時系列的に順次配置する。すなわち、最初に熱媒管ユニットA1を図17(c)の位置に配置し、次に熱媒管ユニットA2を図17(c)の位置に配置し、同様に熱媒管ユニットA3乃至A8を順次図17(c)の位置に配置し、最後に熱媒管ユニットA9を図17(c)の位置に配置する。
【0123】
このような構成により、本実施形態では図7(b)に示すように、連結立坑33の幅を3000mm程度(小フランジ132の直径2000mmより大)と小さくできる。本実施形態では、サテライト立坑の直径を9000φ(9m)とする前提で、図7(b)における上下の立坑掘削機長さ+5000mmの領域は幅が9500mmと大きくなるが、幅が9500mmとなる領域に比べ、幅が3000mmとなる領域の上下方向長さが長いことで、掘削工程のコストダウンとなる。
【0124】
(配管ユニット)
ここで、図17において、本実施形態における配管ユニットを示す、図17(a)、(b)、(c)は、それぞれ本実施形態における配管ユニットの平面図、縦断面図、斜視図である。
【0125】
図17(a)は、サテライト立坑内に配置される配管ユニットの平面図で、図16(c)の熱媒管グループ(熱媒管ユニットA1~A9)に対応する。中心部には集合チャンバーが設けられ、放射状にそれぞれの熱媒管ユニットと、太い黒線で示すフランジにより配管接続される。
【0126】
この配管ユニットは、図17(b)に示すように上部チャンバーと下部チャンバーが接合面に対し対称配置となるような構造で接合されている。そして、上部チャンバーと下部チャンバーは、周辺部がリング状に形成される周辺土手部と、中心位置が最も高い中心土手部と、その間の窪み部を備える。
【0127】
上部チャンバーの周辺土手部には熱媒管ユニットA1~A9がそれぞれ接続し、熱回収管22は上部チャンバーから接合面を越えて下部チャンバーに達する一方、集熱管21は上部チャンバーに留まる。
【0128】
そして、集合チャンバーの内部と当該階の蓄熱室の内部とは、下部チャンバーの周辺土手部の下側を潜るように配管接続される。具体的には、下部チャンバーにおける集合チャンバー部の位置Pと当該階の蓄熱室が、下部チャンバーの周辺土手部の下側を潜るように配管接続される。
【0129】
また、上部チャンバーにおける集合チャンバー部の位置Qと当該階の蓄熱室が以下のように配管接続される。すなわち、位置Qと窪み部の位置Rが配管接続の一部として結ばれ、位置Rから真下に折り曲げられて降下し、更に折り曲げられて下部チャンバーの周辺土手部の下側を潜るようにして配管接続される。これにより、熱媒管ユニットとの物理的干渉を回避することができる。
【0130】
階下の蓄熱室および階下からの熱媒管を経由した熱媒αは、当該階の蓄熱室に向かう配管の内部および下部チャンバーの周辺土手部の内部を満たす。また、階上の蓄熱室および階上からの熱媒管を経由した熱媒βは、当該階の蓄熱室に向かう配管の内部および上部チャンバーの周辺土手部の内部を満たす。
【0131】
このような本実施形態の構造によれば、深さ方向で下側から上がってくる温度の高い熱媒αと、上側から降りてくる温度が下がった熱媒βが、当該階の蓄熱室の内部だけでなく、配管ユニットである集合チャンバーにおいても熱の授受が行われ、発電の効率化に供するようにできる。
【0132】
(深層地殻熱の温度差発電への利用のためのトンネル横坑の掘削)
本実施形態では、発電所9は、例えば図19に示すように底面が3500m四方で高さが30mといったサイズのユニットをXY面内で10個程互いに接続させる。
【0133】
そして、発電部として深層地殻熱を利用した温度差発電を行う熱電発電素子ユニットを多数用いた巨大発電所を形成するため、多数のトンネル横坑を更に掘削する。なお、既存のトンネルが利用できる場合は、それを利用する。
【0134】
図18に示すトンネル42に関して、より具体的には、図19(a)に示すように、それぞれの直径が8mで、第1の方向(X方向)に互いに所定の間隔(例えば16m)を空けて複数形成するステップと、第1トンネル横坑に対し深さ方向(Z方向)で所定の間隔(例えば16m)を空けた第2トンネル横坑を第1の方向に交差する第2の方向(Y方向)に互いに所定の間隔(例えば16m)を空けて形成するステップと、を順に備える。
【0135】
このようにして、第1群のトンネルと第2群のトンネルが互いに交差(直交)するように配置される(図19(a))。
【0136】
図18図19(b)に示す側線53は、各トンネル横坑の内部で移動車両が移動できるように敷かれる線路(レール)とは別に設けられる各トンネル横坑への引き込み線路もしくは操車用の線路をいう。図19(b)の下床面では、トンネル横坑に引き込まれた後の状態を示し、図19(b)の上床面では、保守交換用の車両により熱電素子ユニット4が新たにトンネル横坑に引き込まれる前の状態を示す。
【0137】
そして、それぞれのトンネル42の全体配置スペースとしては、X方向、Y方向がそれぞれ3500m、Z方向が30mのユニットをXY平面内で10個程互いに接続するようにする。
【0138】
それぞれのトンネル42内においては、互いに間隔が16mの複数の熱電発電素子ユニット4が互いに接続された状態で、図18に示すトロッコなど移動車両72で搬入設置される。そして、異なるトンネル42の熱電発電素子が互いに側線53で接続される。
【0139】
(熱電発電素子ユニット)
一般に熱電発電素子(温度差発電素子)としては、以下の文献に知られている。
【0140】
・ 2021年1月13日号Journal of physics
D; Applied physics pp.115503
Mixed-Phase effect of the high Seebeck coefficient and low electrical resistivity in the Ag2S
2)2019年8月21日 日本経済新聞 NEDO、アイシン精機、茨城大学は、ありふれた材料のみで構成し、体温などわずかな温度差を使って発電する技術の開発に成功したと発表した。鉄とアルミニウム、シリコンから構成し、従来のような希少元素や毒性のある元素は含まず、材料コストは5分の1以下に削減可能。
【0141】
このような熱電発電素子は、今後更なる研究開発が進められるものとして期待される。本実施形態では、ゼーペック効果を用いた熱電発電素子を熱電発電素子ユニット(素子ユニット)としてユニット化し、熱媒管によって発電所階(海洋地殻内)10に伝搬される地殻熱を高温部側に流す一方、低温部側に冷水を流して両者の温度差で発電させ、この素子ユニットを多数用いることで数百万KWのレベルの巨大発電所を構成する。
【0142】
また、図20(a)では、素子盤37は2次元状に配置され、熱媒流路と冷水流路とは直交して配置される。図20(a)、(b)の38は温度の高い熱媒αの流れ、39は冷水の流れ、40は排水、41は温度の下がった熱媒βの蓄熱室への戻りを示す。
【0143】
このような熱電発電素子を多数(温度差が100℃では、例えば1000億個)設け、図18図19に示した巨大発電所において高い電力(例えば200万kW)を出力することができる。
【0144】
(水素の生成)
以上、深層地殻熱を用いた発電について説明したが、発電により電力を得ることに限らず、発電を用い水素(グリーン水素)を生成(製造)することも含む。図22は、電解槽に深層地殻熱を用いた発電と水が加わることで、水素(グリーン水素)が生成(製造)されることを示す。
【0145】
水素の用途は、燃料電池、船舶等用のエンジン、工業炉等における熱利用、還元製鉄(コークス代替)、化学品合成など多様であり、CO削減に大きく貢献できる。
【0146】
そして重要なことは、石炭や石油に依存することなく深層地殻熱を用いる(燃料費がタダ)ことで、低コストな水素生成が可能となる。そして、温度差発電方式により発電することを用いる場合には、COを全く排出することが無くなり、地球環境にとって最も好ましい形態となる。
【0147】
以上、述べた本発明の実施形態によれば、マグマが移動することもあって不安定となるマグマ水蒸気を利用する発電と異なり、超長期安定的な発電、更には大規模発電が期待できる。
【0148】
そして、本実施形態に係る掘削方法を用いることにより、石炭や天然ガスなどの化石燃料を用いない無燃料発電が可能となるため、燃料輸入が不要(自前のエメルギー源)となる。そして、郊外の発電所から首都圏の需要を満たすことができるため、送電距離が近くなることで送電ロスが少なくなる。また、殆どの設備において可動部が無く、長寿命でメンテナンス費用も抑えられる。
【0149】
更に、火山地帯や地殻変動の起き易い場所を除けば、世界中の殆どの場所で利用でき、
砂漠においても発電を行い、大河や湖から水を引き込んで緑化し、大規模な発電でオアシス都市を建設することもできる。そして、砂漠を耕地に加えることで、世界の食料不足を解消するように食料の増産にもつなげられる。
【0150】
(変形例)
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【0151】
上述した実施形態では、図5に示したようなサテライト立坑がセンター立坑に対し両側に対称的に設けられる場合を前提にしたが、本発明はこれに限定されず、サテライト立坑がセンター立坑に対し片側に設けられる場合であっても良い。懸架部材である鎖(チェーン)が所定の本数あれば、接続ボックスと一体化した縦坑掘削機を支えることができるからである。
【0152】
上述した実施形態では、センター立坑は発電所階(海洋地殻内)10から深層地殻熱域に近づく位置まで貫通して設けられるものとして説明したが、熱媒管が深層地殻熱域に近づく位置から複数の蓄熱室を中継して発電所階(海洋地殻内)10に至る連続した軌跡に適宜沿うようにセンター立坑が設けられれば良い。例えば、蓄熱室の数を多くして、深さ方向で隣り合う蓄熱室をつなぐ熱媒管を短くして、作業床面の高さをもたせることで、作業床面に熱媒管を立てるようにして、センター立坑11が異なる作業床面の間で平行にずれて設けられるものであっても良い。
【0153】
また、上述した各立坑は発電所階(海洋地殻内)10から同時に掘削されるものであっても良いし、非同時に掘削されるものであっても良い。
【0154】
また、サテライト立坑12がセンター立坑11とエレベータ立坑13の間に形成される(図5)ものに限られず、センター立坑11がサテライト立坑12とエレベータ立坑13の間に形成されるものであっても良い。
【0155】
また、上述した実施形態では、非火山性の深層地殻熱域からの地殻熱を温度差発電方式により発電することを説明したが、非火山性の深層地殻熱域からの地殻熱を図21に示す公知のタービン方式により発電するようにしても良い。また、非火山性の深層地殻熱域からの地殻熱を温度差発電方式とタービン方式とに分担し、例えば主として温度差発電方式により発電する一方、従として残りをタービン方式により発電するようにしても良い。
【0156】
また、上述した実施形態では、陸地側から発電所に向かうトンネルとして、陸地側から斜め下向きに傾斜する領域を備えるものであったが、発電所の設置面まで垂直のトンネルと発電所の設置面内での水平のトンネルをつなげたものであっても良い(直角三角形の斜辺の替わりに直角を形成する二つの辺を用いる)。
【0157】
なお、発電所に関し、海洋地殻の内部(海底の下方)の発電所階に設けることを説明したが、発電所を地上階(例えば山の内部)に設けるものであっても良い。
【符号の説明】
【0158】
1・・深層地殻高温帯、3・・蓄熱室、4・・熱電発電素子ユニット、9・・発電所(海洋地殻内)、10・・発電所階(海洋地殻内)、11・・センター立坑、12・・サテライト立坑、13‥エレベータ立坑、16‥作業床面、20・・熱媒管、28・・熱媒A配管、29・・熱媒B配管、33・・連結立坑、50・・ゆっくり休息室、P・・ポンプ、
T・・トンネル
図1
図2
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