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特許7689080リチウム金属リン酸塩、その調製及び使用
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  • 特許-リチウム金属リン酸塩、その調製及び使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-28
(45)【発行日】2025-06-05
(54)【発明の名称】リチウム金属リン酸塩、その調製及び使用
(51)【国際特許分類】
   C01B 25/45 20060101AFI20250529BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20250529BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20250529BHJP
【FI】
C01B25/45 Z
H01M4/58
H01M4/36 C
H01M4/36 D
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021559322
(86)(22)【出願日】2020-02-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-13
(86)【国際出願番号】 GB2020050351
(87)【国際公開番号】W WO2020208331
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2023-02-14
(31)【優先権主張番号】1905177.0
(32)【優先日】2019-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】522306561
【氏名又は名称】イーブイ・メタルズ・ユーケイ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】EV Metals UK Limited
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(72)【発明者】
【氏名】ブリューニッヒ、クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】カベロ、ノエリア
(72)【発明者】
【氏名】クックソン、ジェームズ
(72)【発明者】
【氏名】コプリー、マーク
(72)【発明者】
【氏名】ローマン、アンドレアス
【審査官】大西 美和
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103165882(CN,A)
【文献】特表2016-517383(JP,A)
【文献】特開2006-261060(JP,A)
【文献】特開2009-263222(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0091772(US,A1)
【文献】特表2015-506897(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0319413(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第102299327(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 25/45
H01M 4/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも部分的に、一次粒子の凝集によって形成された二次粒子の形態の炭素被覆リチウム金属リン酸塩であって、
(i)前記リチウム金属リン酸塩が、以下の式を有し、
Li(Fe1-x)PO
式中、0.8≦a≦1.2、0≦x≦0.1であり、Mは、Mn、Ni、Co、Mg、及びBから選択される1つ以上であり、前記リチウム金属リン酸塩は、前記炭素被覆リチウム金属リン酸塩が300~5000ppmのアルミニウム含有量を有するように、アルミニウムがドープされ、
(ii)前記炭素被覆リチウム金属リン酸塩が、15m/g以下のBET表面積を有する、という要件を満たす、炭素被覆リチウム金属リン酸塩であって、
前記リチウム金属リン酸塩が、少なくとも100nmのリートベルト分析によって決定される結晶子サイズを有する、前記炭素被覆リチウム金属リン酸塩
【請求項2】
前記アルミニウム含有量が、900~3500ppmである、請求項1に記載の炭素被覆リチウム金属リン酸塩。
【請求項3】
0≦x≦0.05である、請求項1又は2に記載の炭素被覆リチウム金属リン酸塩
【請求項4】
前記炭素被覆リチウム金属リン酸塩の総重量に基づいて、0.25~3.5重量%の量のリン酸リチウムを含む、請求項1~のいずれか一項に記載の炭素被覆リチウム金属リン酸塩
【請求項5】
50が、8μm以上である、請求項1~のいずれか一項に記載の炭素被覆リチウム金属リン酸塩。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項に記載の炭素被覆リチウム金属リン酸塩を調製するためのプロセスであって、
(i)鉄(II)源を少なくとも1つのリチウム源、少なくとも1つのリン酸塩源、少なくとも1つのアルミニウム源、及び任意選択的に少なくとも1つのM源と組み合わせて前駆体混合物を形成する工程と、
(ii)水熱条件下で、前記前駆体混合物からリチウム金属リン酸塩を得る工程と、
(iii)前記リチウム金属リン酸塩を炭素源と混合し、前記混合物を噴霧乾燥する工程と、
(iv)前記リチウム金属リン酸塩及び炭素源を加熱して前記炭素被覆リチウム金属リン酸塩を形成する工程と、を含む、プロセス。
【請求項7】
前記アルミニウム源が、Al(OH)又はAl(SO xHOである、請求項に記載のプロセス。
【請求項8】
二次リチウムイオン電池用の電極の調製における、請求項1~のいずれか一項に記載の炭素被覆リチウム金属リン酸塩の使用。
【請求項9】
請求項1~のいずれか一項に記載の炭素被覆リチウム金属リン酸塩を含む、二次リチウムイオン電池用の電極。
【請求項10】
請求項に記載の電極を備える、二次リチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム金属リン酸塩材料、その調製及び二次リチウムイオン電池におけるカソード材料としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
リン酸鉄リチウム(lithium iron phosphate、LFP)などのリチウム金属リン酸塩材料は、二次リチウムイオン電池におけるカソード材料として広く使用されていることが見出されている。このことは、高い電力密度及び良好な安全性プロファイルを含む、このような材料などを組み込んだ電池の有利な特性による。このような電池で使用されるリチウム金属リン酸塩材料は、主に電気伝導性炭素で被覆された粒子の形態であり、典型的には、溶融プロセス、水熱プロセス、又は固体プロセスによって生成される。
【0003】
リチウム金属リン酸塩材料を組み込んだ電池の電気化学的性能は、内部抵抗の増加を含む複数の要因により、低温で著しく低下する。これは、スタータモータ、例えば、12/48Vスタータ電池に電力を供給するために使用される電池などの、特定の電池用途に対する重大な問題となり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
低温における改善された電気化学的性能を呈する、強化されたリチウム金属リン酸塩材料が依然として必要とされている。
【0005】
本発明者らは、低温におけるリチウム金属リン酸塩の電気化学的性能が、低い表面積を有する少なくとも部分的に凝集した炭素被覆リチウム金属リン酸塩を提供することによって著しく改善することができ、ドーパントとしてアルミニウムを含むことを見出した。
【0006】
したがって、第1の好ましい態様では、本発明は、少なくとも部分的に、一次粒子の凝集によって形成された二次粒子の形態の炭素被覆リチウム金属リン酸塩を提供し、この炭素被覆リチウム金属リン酸塩は、以下の要件を満たす:
(i)リチウム金属リン酸塩は、以下の式を有し、:
Li(Fe1-x)PO
式中、0.8≦a≦1.2、0≦x≦0.1であり、Mは、Mn、Ni、Co、Mg、及びBから選択される1つ以上であり、リチウム金属リン酸塩は、炭素被覆リチウム金属リン酸塩が、300~5000ppmのアルミニウム含有量を有するように、アルミニウムがドープされ、
(ii)炭素被覆リチウム金属リン酸塩は、15m/g以下のBET表面積を有する。
【0007】
本発明者らは、このような材料が電気化学セルに組み込まれたとき、低温における内部抵抗は、現況技術の材料と比較して著しく低下することを見出した。
【0008】
このような材料は、有利には、水熱法によって生成され得る。したがって、第2の好ましい態様では、本明細書に記載の炭素被膜リチウム金属リン酸塩を調製するためのプロセスが提供され、このプロセスは、
(i)鉄(II)源を少なくとも1つのリチウム源、少なくとも1つのリン酸塩源、少なくとも1つのアルミニウム源、及び任意選択的に少なくとも1つのM源と組み合わせて前駆体混合物を形成する工程と、
(ii)水熱条件下で、前駆体混合物からリチウム金属リン酸塩を得る工程と、
(iii)リチウム金属リン酸塩を炭素源と混合し、この混合物を噴霧乾燥する工程と、
(iv)リチウム金属リン酸塩及び炭素源を加熱して炭素被覆リチウム金属リン酸塩を形成する工程と、を含む。
【0009】
本発明は、第2の態様のプロセスによって得られたか、又は得ることができる炭素被覆リチウム金属リン酸塩を更に提供する。
【0010】
更に好ましい態様では、本発明は、二次リチウムイオン電池のカソードの調製のための、本発明の炭素被覆リチウム金属リン酸塩の使用を提供する。更に好ましい態様では、本発明は、本発明の炭素被覆リチウム金属リン酸塩を含むカソードを提供する。更に好ましい態様では、本発明は、本発明の炭素被覆リチウム金属リン酸塩を含むカソードを含む、二次リチウムイオン電池を提供する。電池は、典型的には、アノード及び電解質を更に含む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施例2の材料の粒径分布を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
ここで、本発明の好ましい及び/又は任意選択的な特徴が、記載される。本発明のいずれの態様も、文脈による別途の要求がない限り、本発明のいずれの他の態様とも組み合わせることができる。いずれの態様の好ましい及び/又は任意選択的な特徴のいずれも、文脈による別途の要求がない限り、本発明のいずれの態様とも、単一又は組み合わせのいずれかで、組み合わせることができる。
【0013】
本発明は、少なくとも部分的に、一次粒子の凝集によって形成された二次粒子の形態の炭素被覆リチウム金属リン酸塩を提供する。リチウム金属リン酸塩は、以下の式を有し、
Li(Fe1-x)PO
式中、0.8≦a≦1.2、0≦x≦0.1であり、Mは、Mn、Ni、Co、Mg、及びBから選択される1つ以上であり、リチウム金属リン酸塩は、炭素被覆リチウム金属リン酸塩が、300~5000ppmのアルミニウム含有量を有するように、アルミニウムがドープされる。
【0014】
aの値は、0.8以上である。これは、0.9以上、又は0.95以上の場合がある。aの値は、1.2以下である。これは、1.1以下、又は1.05以下の場合がある。典型的には、0.9≦a≦1.1、又は0.95≦a≦1.05である。aの値は、1、又は約1の場合がある。
【0015】
xの値は、0以上であり、これは、0.01以上、又は0.02以上の場合がある。xの値は、0.1以下である。これは、0.075以下、又は0.05以下の場合がある。これは、0≦x≦0.05が好ましい場合がある。
【0016】
更に、xの値は0が好ましい場合があり、リチウム金属リン酸塩は、式LiFePOを有し、式中、0.8≦a≦1.2、又はLiFePOである。
【0017】
Mは、Mn、Ni、Co、Mg、及びBから選択される1つ以上である。Mは、Mnであるか、又はMは、Ni、Co、Mg、及びBから選択される1つ以上であるか、又はMは、Ni及びCoから選択される1つ以上であることが好ましい場合がある。
【0018】
リチウム金属リン酸塩は、炭素被覆リチウム金属リン酸塩が300~5000ppmのアルミニウム含有量を有するように、アルミニウムがドープされる。アルミニウム含有量は、300ppm以上である。驚くべきことに、本発明者らは、300ppm以上の量のアルミニウムを含めることにより、電気化学セルに組み込んだときに内部抵抗が低下したリチウム金属リン酸塩を提供することを見出した。アルミニウム含有量は、5000ppm以下である。5000ppmを超えるアルミニウムの濃度は、比容量の低下をもたらすことが見出された。
【0019】
アルミニウム含有量は、500~5000ppm、例えば、500~4500ppm、600~4000ppm、700~3500ppm、800~3500ppm、900~3500ppm、1000~3500ppm、1200~3500ppm、又は1400~3500ppmであることが好ましい場合がある。
【0020】
炭素被覆リチウム金属リン酸塩のアルミニウム含有量は、例えば、誘導結合プラズマ発光分光法(inductively coupled plasma optical emission spectroscopy、ICP-OES)によって測定され得る。本明細書に記載のプロセスを使用するとき、アルミニウムドーパントの少なくとも一部が、リチウム金属リン酸塩のホスホ-オリビン結晶格子に組み込まれることが見出された。
【0021】
炭素被覆リチウム金属リン酸塩は、少なくとも部分的に、一次粒子の凝集によって形成された二次粒子の形態である。好ましくは、炭素被覆リチウム金属リン酸塩の大部分又は実質的に全ては、一次粒子の凝集によって形成された二次粒子の形態である。炭素被覆リチウム金属リン酸塩の大部分は、二次粒子が組成物の50体積%を超える量で存在することを意味する。本発明者らは、アルミニウムの存在と組み合わせた凝集粒子の形成が、炭素被覆リチウム金属リン酸塩の内部抵抗特性の強化をもたらすことを見出した。
【0022】
炭素被覆リチウム金属リン酸塩は、15m/g以下のBET表面積を有する。本発明の材料は、驚くべきことに、低いBET表面積と組み合わせて低抵抗率を達成することができる。本発明者らは、15m/g以下の表面積を備えた少なくとも部分的に凝集した炭素被覆リチウム金属リン酸塩の抵抗が、同様のAl-含有量を有するが、より高いBET表面積を備えた非凝集材料の抵抗よりも低いことを見出した。また、15m/g以下の表面積は、リチウム金属リン酸塩を使用して電極を形成するときに、好適な電極スラリーを形成するために必要な結合剤及び溶媒の量が低下するため、有益である。BET表面積の下限値は、本発明において特に限定されないが、典型的には、BET表面積は7m/gを超える。したがって、炭素被覆リチウム金属リン酸塩は、8~14m/gなどの7~15m/g、又は7~13m/g、又は8~12m/gのBET表面積を有し得る。
【0023】
リチウム金属リン酸塩は、X線回折(X-ray Diffraction、XRD)データのリートベルト分析によって決定されるとき、少なくとも100nmの結晶子サイズを有し得る。結晶子サイズの上限値は、特に限定されないが、500nm以下、250nm以下、200nm以下、又は150nm以下であってもよい。観察された結晶子サイズが大きいほど、結晶化度が高く、結晶欠陥が少ないことを示し、このことにより、リチウム金属リン酸塩材料内のリチウムイオン伝導を強化し、ひいては電気化学的性能を強化することができる。
【0024】
典型的には、炭素被覆リチウム金属リン酸塩は、炭素被覆リチウム金属リン酸塩の総重量に基づいて、0.25~3.5重量%の量のリン酸リチウムを含む。これは、炭素被覆リチウム金属リン酸塩がリチウム欠損にならないことを確実にするのに役立つ。リン酸リチウムの存在は、X線回折(XRD)によって決定され得、リン酸リチウムの量は、緩衝液からのICP-OESによって決定される。
【0025】
典型的には、炭素被覆リチウム金属リン酸塩の粒径分布は、D50が8μm超、9μm超、又は10μm超であるようなものである。D50は、8~20μm、又は8~15μmであってもよい。D50という用語は、特定のサンプル中の総粒子の50体積%が存在する、以下の粒径値に対応する。D50は、レーザ回折法を使用して(例えば、Malvern Mastersizer2000を使用して)、決定することができる。
【0026】
炭素被覆リチウム金属リン酸塩は、4~80μmの範囲の第1の集団(粗粒子)及び0.1~4μmの範囲の第2の集団(微粒子)の2つの粒径集団の混合物として提供されることが好ましい場合がある。このような粒径分布を備えた材料の提供は、二次粒子のより近い充填を可能にすることができ、改善された電極密度をもたらすことができる。典型的には、微粒子:粗粒子の体積比は、3:97~50:50、又は好ましくは、約30:70などの20:80~40:60である。
【0027】
炭素被覆リチウム金属リン酸塩は、典型的には、水熱プロセスによって調製される。
このような方法は、鉄(II)源を少なくとも1つのリチウム源、少なくとも1つのリン酸塩源、少なくとも1つのアルミニウム源、及び任意選択的に少なくとも1つのM源と組み合わせることと、水熱条件下で粒子状リチウム金属リン酸塩を得ることと、を含む。
【0028】
好適な鉄(II)源としては、典型的には水和物の形態の硫酸鉄(FeSO)、及びシュウ酸鉄が挙げられる。
【0029】
好適なリチウム源としては、炭酸リチウム(LiCO)、リン酸水素リチウム(LiHPO)、水酸化リチウム(LiOH)、フッ化リチウム(LiF)、塩化リチウム(LiCl)、臭化リチウム(LiBr)、ヨウ化リチウム(Lil)、リン酸リチウム(LiPO)、又はこれらの混合物が挙げられる。水酸化リチウムが好ましい場合がある。
【0030】
好適なリン酸塩源としては、リン酸、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸、リン酸水素塩若しくはリン酸二水素塩、例えばリン酸アンモニウム若しくはリン酸二水素アンモニウム、リン酸リチウム若しくはリン酸鉄、又はこれらの任意の所望の混合物が挙げられる。リン酸が特に好ましい。
【0031】
好適なM源としては、該当する場合、Mの硫酸塩及び/又は酸化物、若しくはこれらの混合物が挙げられる。当業者であれば、Mは、鉄(II)源、リチウム源、リン酸塩源、又はアルミニウム源(典型的には鉄(II)源)中にも存在する可能性があり、したがって、リチウム金属リン酸塩中の所望の濃度のMを達成するために、追加のM源を添加する必要がないことを理解するであろう。
【0032】
好適なアルミニウム源としては、水酸化アルミニウム(Al(OH))、塩化アルミニウム(AlCl)、硫酸アルミニウム(Al(SO xHO(典型的には0≦x≦18))、及び酸化アルミニウム(Al)が挙げられる。水酸化アルミニウム又は硫酸アルミニウムが特に好ましい場合がある。
【0033】
本発明の文脈において、水熱条件下で前駆体混合物から粒子状リチウム金属リン酸塩を得ること、という用語は、室温を超える温度及び1バールを超える蒸気圧での前駆体混合物の処理として理解されるべきである。水熱処理は、例えば、国際公開第2005/051840号に記載されているように、当業者に既知の方法で実施することができ、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。水熱処理は、100~250℃、特に100~180℃の温度、及び1バール~40バールの蒸気圧、特に1バール~10バールの蒸気圧で実施することが好ましい。前駆体混合物は、典型的には、密閉容器又は耐圧容器内で反応する。反応は、好ましくは、不活性又は保護ガス雰囲気中で行われる。好適な不活性ガスの例としては、窒素、アルゴン、二酸化炭素、一酸化炭素、又はこれらの混合物が挙げられる。水熱処理は、例えば、0.5~15時間、特に6~11時間実施することができる。全く非限定的な例として、以下の特定条件を選択することができる:50℃(前駆体混合物の温度)~160℃までの1.5時間の加熱時間、160℃での10時間の水熱処理、160℃~30℃までの3時間の冷却リチウム金属リン酸塩は、炭素被覆されている。炭素被覆を形成するために、水熱プロセスによって形成される粒子状リチウム金属リン酸塩は、典型的には、炭素源と混合され、次いで、加熱又は焼成工程の前に噴霧乾燥される。
【0034】
炭素源の種類は、本発明において特に限定されない。炭素源は、典型的には、焼成工程にさらされると分解して炭素質残留物になる炭素含有化合物である。例えば、炭素源は、デンプン、マルトデキストリン、ゼラチン、ポリオール、糖(マンノース、フルクトース、スクロース、ラクトース、グルコース、ガラクトースなど)、並びにポリアクリレート、ポリビニルアセテート(polyvinyl acetate、PVA)、グルコノデルタラクトン(glucono delta-lactone、GDL)及びポリビニルブチレート(polyvinyl butyrate、PVB)などの炭素系ポリマーのうちの1つ以上であってもよい。あるいは、炭素源は、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ及び炭素繊維(気相成長炭素繊維、vapour grown carbon fibre、VGCFなど)のうちの1つ以上などの単体炭素であってもよい。ラクトース及びマルトデキストリンが特に好ましい場合がある。
【0035】
添加される炭素源の量は、本発明において特に限定されない。例えば、添加される炭素源の量は、炭素含有量が1~5重量%、例えば、1.5~3.5重量%の炭素被覆リチウム金属リン酸塩が得られるように選択することができる。添加される炭素源の量は、炭素前駆体の性質及びその炭素化収率に応じて、粒子状リチウム金属リン酸塩の重量に基づいて、7~22重量%、例えば、10~18重量%の範囲であり得る。
【0036】
当業者であれば、炭素源が、多数の手段によって粒子状リチウム金属リン酸塩と組み合わされてもよいことを理解するであろう。例えば、リチウム金属リン酸塩は、水などの溶媒の存在下で炭素源と混合され、次いで混合物が噴霧乾燥されてもよい。場合によっては、水熱処理の前に、炭素源を前駆体混合物に添加することが好ましい場合があることも、当業者には理解されよう。このような場合、プロセスの工程(iii)における炭素源の添加は、もはや必要とされないことが理解されるであろう。
【0037】
加熱工程(iv)では、粒子状リチウム金属リン酸塩及び炭素源を加熱して、粒子状炭素被覆リチウム金属リン酸塩を提供する。加熱工程(v)は、2つの役割を果たす。第1に、炭素源が熱分解され、リチウム金属リン酸塩粒子上に伝導性炭素被覆を形成する。第2に、結晶化度を改善し、かつ/又はリチウム金属リン酸塩結晶の潜在的欠陥を治癒する。典型的には、加熱は、不活性雰囲気、例えばアルゴンなどの不活性ガス中で実施される。あるいは、還元雰囲気中で実施されてもよい。これは、典型的には、550℃~800℃、例えば、630℃~780℃、又は650℃若しくは700℃~780℃の範囲の温度で実施される。750℃が特に好適である。典型的には、焼成は、0.4~10時間実施される。加熱時間は、製造の規模に依存する(すなわち、より多くの量が調製される場合、より長い加熱時間が好ましい場合がある)。商業規模では、例えば、0.5~3時間が好適であり得る。
【0038】
熱分解工程に続いて、炭素被覆リチウム金属リン酸塩は、所望の粒径分布を備えた材料を提供するために、ふるい分け、又は粉砕及び/又は選別工程にかけてもよい。選別は、500~10000rpmの選別機の速度範囲、及び/又は0.25~5バールの圧力で実行されることが好ましい場合がある。
【0039】
本発明のプロセスは、炭素被覆リチウム金属リン酸塩を含む電極(典型的にはカソード)を形成する工程を更に含んでもよい。典型的には、これは、粒子状炭素被覆リチウム金属リン酸塩のスラリーを形成し、スラリーを集電体(例えば、アルミニウム集電体)の表面に塗布し、所望により加工(例えば、カレンダー加工)して電極の密度を高めることによって実施される。スラリーは、溶媒、結合剤、及び追加の炭素材料のうちの1つ以上を含んでもよい。
【0040】
本発明のプロセスは、炭素被覆リチウム金属リン酸塩を含む、電極を含む電池又は電気化学セルを構築すること、を更に含んでもよい。電池又はセルは、典型的には、アノード及び電解質を更に含む。電池又はセルは、典型的には、二次(再充電式)リチウムイオン電池であってもよい。
【0041】
ここで、本発明の理解を助けるために提供され、その範囲を限定することを意図しない以下の実施例を参照し、本発明を説明する。
【実施例
【0042】
実施例1及び2及び比較例1~5は、以下の水熱調製の一般的方法に従って生成された。
【0043】
一般的方法
国際公開第2005/051840号に記載されているように、蒸留水中のFeSO(22kg)、LiOH.HO(10kg)、及びHPO(76%、9kg)の混合物を、160℃で10時間水熱処理にかけた。得られた沈殿物を濾過し、濾過ケーキを水で洗浄した。得られた固体をラクトース(10.5重量%)及び水と混合し、次いで混合物を噴霧乾燥させた。噴霧乾燥した材料を、回転炉で窒素雰囲気下、750℃で焼成した。
【0044】
比較例1
炭素被覆リチウム金属リン酸塩を、上記の一般的方法に従って生成した。焼成後、形成された材料を粉砕して、未凝集粉末を得た。
【0045】
比較例2
炭素被覆リチウム金属リン酸塩を、上記の一般的方法に従って生成した。焼成後、形成された材料を、ジェット粉砕機で1バール及び2100rpmで選別して、部分的に凝集した材料を得た。
【0046】
比較例3
水熱処理前にAl(OH)(0.23kg)を添加して、比較例1の方法を繰り返して、非凝集粉末の形態のアルミニウムドープ材料を得た。
【0047】
比較例4
水熱処理前にAl(SO.xHO(0.16kg)を添加して、比較例1の方法を繰り返して、非凝集粉末の形態のアルミニウムドープ材料を得た。
【0048】
比較例5
炭酸リチウム、リン酸鉄、ポリビニルブチラール(polyvinyl butyral、PVB)、及びアルミニウム源(Disperal(登録商標)OS-1(p-トルエンスルホン酸で改質したベーマイト、Sasol社製))を所望の割合で混合し、次にイソプロパノール中で8時間の高エネルギー粉砕にかけた(イットリア安定化ジルコニア)(0.3mm)を粉砕機内部で75%の電荷比で充電された再循環高エネルギー粉砕機)。粉砕スラリーを噴霧乾燥し、炉内で焼成した(最高温度710℃)。
【0049】
実施例1
水熱処理前にAl(OH)(0.23kg)を添加して、比較例2の方法を繰り返して、部分的に凝集した材料の形態のアルミニウムドープ材料を得た。
【0050】
実施例2
水熱処理前にAl(SO.xHO(0.16kg)を添加して、比較例2の方法を繰り返して、部分的に凝集した材料の形態のアルミニウムドープ材料を得た。
【0051】
分析方法
BET表面積
炭素被覆リチウム金属リン酸塩の比表面積を、Gemini 2360表面積分析機(Micromeritics)を使用して、Brunauer、Emmett及び Teller(BET)法を使用して決定した。
【0052】
炭素含有量
炭素被覆リチウム金属リン酸塩の炭素含有量を、炭素/硫黄分析器(Eltra CS2000)を使用して測定した。
【0053】
アルミニウム含有量
アルミニウム含有量をICP-OESによって測定した。0.1gの炭素被覆リチウム金属リン酸塩を10mlのHCl(18.5%、水溶液)に溶解し、80~90℃まで2時間加熱した。溶解した炭素は2時間後、真空システムによってテフロン濾過器(1μm)を介して濾過する。この濾過液に純水を100mLの総体積まで添加する。次いで、溶液を、308.215、394.401及び396.152の波長におけるICP-OESによるアルミニウム含有量について分析する(異なるAl濃度で一連の標準溶液と比較する)。アルミニウム含有量は、各波長の分析によって得られたアルミニウム含有量の平均として計算される。
【0054】
リン酸リチウム含有量
リン酸リチウム含有量を、リチウム金属リン酸塩の緩衝液中のリチウム及びリン酸塩のICP-OES測定値に基づいて、以下のように計算した。
【0055】
緩衝液は、酢酸ナトリウム(49.3g)及び酢酸(0.74g)を水(950mL)に溶解することによって調製される。50mgのリチウム金属リン酸塩を、20mLの緩衝液と組み合わせた。続いて、この溶液を、50℃で15分間水浴中に保持する。次いで、サンプルを超音波浴で1時間処理する。サンプルをシリンジ濾過器を介して濾過する。0.2mLの濾過材料を1mLのHCl(18.5%)及び純粋なHOで10mLまで満たす。溶液をICP-OES(波長670.784nm(Li)及び213.618(P))によって分析した。
【0056】
得られた値を使用して、リチウム金属リン酸塩のサンプル中のリン酸リチウムの重量パーセントを計算した。
【0057】
粒径分析
炭素被覆リチウム金属リン酸塩の体積粒径分布(particle size distribution、PSD)を、MALVERN Mastersizer 2000を使用してレーザ回折によって分析した。
【0058】
非凝集材料(比較例1、3及び4)について、炭素被覆リチウム金属リン酸塩のサンプル(おおよそ50mg)を、エチルアルコール(おおよそ20mL)に添加し、PSD分析前に5分間超音波処理にかけた。
【0059】
部分的に凝集した材料(比較例2並びに実施例1及び2)について、サンプルを振動板上に置き、空気圧0.2barで吸引した。
【0060】
結晶子サイズ
結晶子サイズを、以下のパラメータを使用して、Bruker D8 advance diffractometer(Davinci design、放射線=Cu Kα、(λ=1.5406+1.54439Å))を使用したX線粉末回折分析によって決定した:
走査範囲10~130°2θ、工程サイズ=0.022°、走査モード=θ/θ結合、管電圧、電流=40kV、40mA、温度=周囲値、検出器Lynxeye XE PSD、0.0125°Ni濾過器、
結晶子サイズ及び格子パラメータ測定値、
ソフトウェア:Bruker-AXS TOPAS 5(1999~2014)
リートベルト分析:完全な構造モデルを使用した完全粉末回折パターンフィッティング技術。LVol-IB法を使用して計算した結晶子サイズ。
【0061】
分析結果
リチウム金属リン酸塩材料を分析して、BET表面積、炭素含有量、及びアルミニウム含有量を決定した。結果を表1に示す。このデータは、部分的に凝集した材料(比較例2並びに実施例1及び2)が、粉末材料よりも低いBET表面積を有しており、各サンプルの炭素含有量が、2~3重量%の範囲内であることを示している。アルミニウム源を水熱プロセスに含めることにより、炭素被覆リチウム金属リン酸塩のアルミニウム含有量は、300~5000ppmの範囲内に増加している。
【0062】
湿式粉砕法によって生成された比較例5の材料は、試験された他の材料よりも著しく高いBET表面積及び低い結晶子サイズを有する。
【0063】
【表1】
【0064】
実施例1及び実施例2の方法によって生成されたサンプルの更なるXRPD分析は、アルミニウムドーパントの少なくとも一部が、リチウム金属リン酸塩のホスホ-オリビン結晶格子内に存在することを示している。
【0065】
PSD分布
比較例3及び4、並びに実施例1及び2を分析して、これらの粒径分布を決定した。この分析の結果は以下の通りであった:
比較例3-D50が0.4μmの粒径分布
比較例4-D50が0.5μmの粒径分布
実施例1-D50が11μmの二モード分布
実施例2-D50が12μmの二モード分布。粒径分布を、図1に示す。
【0066】
電気化学的評価
(1)ハーフセル測定値
炭素被覆リチウム金属リン酸塩材料の電気化学的特性を以下のように評価した:
(1)活性材料、結合剤(Solef 5130)及びカーボンブラック(Super P Li)をNMP中に重量比90:5:5で組み合わせることによって、電極スラリーを調製した。
(2)電極スラリーを、医師ナイフテーブルに適合するアルミニウムキャリア箔上に被覆して、11~12mg/cmに及ぶ活性材料の充電を達成し、その後乾燥させた。
(3)形成された電極を、周囲温度(25℃)でBasytecシステムを使用してリチウム金属アノードに対して試験した。電解質は、EC:DMCが1:1であった。
【0067】
半電池試験データを表2に提供する。このデータは、部分的に凝集した材料(実施例1及び2)が、非凝集材料(比較例3及び4)と比較して、改善された分極及び速度性能を有することを示している。
【0068】
【表2】
【0069】
(2)フルセル測定値
炭素被覆リチウム金属リン酸塩材料のフルセル特性を、ハーフセルで説明したように評価したが、Li金属の代わりに、アノードとして黒鉛を使用した。
【0070】
DC抵抗(DC resistance、DCR)を次のように測定した:
最初に、フルセルを、Basytec電池試験システムを使用して形成サイクルにかけた。
形成後のセルは、1Cサイクルが実行され、SOC(state of charge、充電状態)が50%に調整されるParstat MC 1000(Ametek)ポテンシオスタットに接続される。セルは、チャンバ内の温度を適切に調整することにより、室温(25℃)に維持される。
セルを20分間静置した後、SOC50%で10s 1Cの放電パルスが印加される。セルの電圧は、数ミリ秒でV0~V1まで降下する。この電圧降下(1ms後)ΔV0を電流ΔIで割ったものは、セルのオーム抵抗(Ohmic resistance、RO)を表す。
更に、充電移動反応により、数百ミリ秒~数秒後、電圧は、ΔV1によって表されるV1~V2まで減衰する。我々の実験では、10秒後に電圧(V2)が記録される。この抵抗(ΔV0+ΔV1)/ΔIは、DCR値である。
【0071】
低温でDCRを測定するために、セル付きチャンバを-20℃まで一晩冷却する。
別の1C放電パルスが印加される。OCR値は、1ms(Ro)及び10秒(DCR)後の電圧降下及び印加電流から計算される。
【0072】
【表3】
【0073】
フルセル電気化学データ(表3)は、比較例3及び4におけるアルミニウムの量が増加することを示し、実施例1及び2は、低温DCR値の改善をもたらすことを示している。更に、アルミニウムドープ材料(実施例1及び2)の凝集体の形成は、アルミニウムドープした非凝集材料(比較例3及び4)と比較して、低温DCR値を更に改善する。データはまた、実施例1及び2が、比較例5よりも低温DCRが著しく優れていることを示している(粉砕法によって生成された高い表面積の凝集体)。

図1