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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-29
(45)【発行日】2025-06-06
(54)【発明の名称】仮固定組成物の使用方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20250530BHJP
【FI】
H01L21/78 M
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2022002709
(22)【出願日】2022-01-12
(62)【分割の表示】P 2021111471の分割
【原出願日】2021-07-05
(65)【公開番号】P2022112001
(43)【公開日】2022-08-01
【審査請求日】2024-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2021007424
(32)【優先日】2021-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】521030467
【氏名又は名称】小豆畑 知広
(73)【特許権者】
【識別番号】521030478
【氏名又は名称】イーケム エンタープライズ コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】E-Chem Enterprise Corporation
【住所又は居所原語表記】No.22, Fongcheng Street, Bade District, Taoyuan City, Taiwan
(74)【代理人】
【識別番号】100173679
【弁理士】
【氏名又は名称】備後 元晴
(72)【発明者】
【氏名】小豆畑 知広
(72)【発明者】
【氏名】ツン-ウー ワン
【審査官】小池 英敏
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-66666(JP,A)
【文献】特開2006-140311(JP,A)
【文献】特開2004-339609(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
H01L 21/02
H01L 21/304
H01L 21/683
H01L 21/50
C09D 4/02
C23C 14/04
C09J 129/02
H05K 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
仮固定組成物を台座上に塗布し、前記仮固定組成物を介して前記台座上に被加工物を仮固定する仮固定工程と、
前記台座上に仮固定された前記被加工物を平面研磨及び/又は金属研削に供する加工工程と、
少なくとも前記被加工物と前記台座との間の仮固定面を80℃以上の水系材料に供し、前記被加工物を前記台座から剥離する剥離工程とを含み、
前記仮固定組成物は、酢酸ビニルと(メタ)アクリル系単量体とを共重合して得られた酢酸ビニル系共重合体をけん化してなるビニルアルコール系共重合体を含有し、
硬化後におけるJIS K 6850に準拠した方法により測定される23.5℃におけるSUS304に対する引張せん断接着強さが2N/mm以上であり、
前記仮固定組成物を100℃で60分間加熱し、30℃まで自然冷却した後、常圧の窒素ガス雰囲気下で30℃から300℃まで10℃/minの昇温速度で熱重量分析する場合、300℃での前記仮固定組成物の重量損失が30℃での前記仮固定組成物の重量に対し3.0%以下である、仮固定組成物の使用方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、仮固定組成物の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基材(例えば、ガラス、半導体ウェーハ、樹脂成形品など)に対して加工を行う際に、基材表面に保護膜を形成させて非加工箇所を保護した状態で加工を行い、加工後に保護膜を除去する方法が知られている。
【0003】
このような方法は、例えば、半導体ウェーハの加工において使用されている。半導体ウェーハは、シリコンなどの半導体基板の表面に絶縁膜と機能膜が積層された積層体であるが、この半導体ウェーハに、レーザー光を照射して溝を作製した後、溝に添った切断を行うことによって、半導体チップが製造される。
【0004】
しかしながら、半導体ウェーハにレーザー光を照射すると、レーザー光が半導体基板に吸収されてしまうため、半導体基板の溶融物や熱分解物が発生し、これら溶融物や熱分解物が、付着物(デブリ)として半導体ウェーハや半導体チップ表面に付着してしまう。
【0005】
このような中、半導体ウェーハ表面に、水洗による除去が可能な保護膜を形成させ、レーザー光を照射して加工を行う方法(レーザーダイシング)が提案されている。保護膜を介してレーザー光を照射することにより、デブリを保護膜表面上に付着させ、水洗によって保護膜と共にデブリを除去することができる。
【0006】
このような保護膜形成剤として、例えば、水溶性樹脂と、水溶性のレーザー光吸収剤とが溶解した溶液を含有する保護膜形成剤が提案されている(特許文献1)。特許文献1に記載の保護膜形成剤によると、レーザー光による基板熱分解物の蒸気等の圧力によって生じる保護膜の剥がれを有効に防止できる。
【0007】
また、水溶性高分子及び溶媒を含み、溶媒が、水とプロピレングリコール誘導体を質量比9:1~0:10で含む、保護膜形成用組成物が提案されている(特許文献2)。特許文献2に記載の保護膜形成剤によると、基材への塗布性や、形成された保護膜の加工性に優れるため、基材への加工を効率よく行うことができる。また、特許文献2に記載の保護膜形成剤は、保管安定性に優れるため、長期保管後も基材への加工を効率よく行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2006-140311号公報
【文献】特開2020-066666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、被加工物の加工面への付着物の付着防止という課題は、レーザー加工に限らず、微細穴加工や、プリント配線の平坦加工等においても起こり得る。
【0010】
加えて、蒸着処理においても、蒸着反応の反応生成物によってデポ膜と呼ばれる被膜が形成される。蒸着装置のチャンバーにデポ膜が堆積すると、真空蒸着技術であれば、真空性に対して悪影響を及ぼし、また、薄膜製品への汚染源となり、薄膜製品の純度にも影響し得る。加えて、デポ膜を除去することが困難となる。そこで、チャンバー自体にデポ膜が堆積するのを防ぐため、蒸着装置には防着板(シールド)が設けられ、デポ膜が防着板の表面に堆積するようにしている。しかしながら、蒸着処理を繰り返すことで防着板に付着したデポ膜が応力により防着版から剥離し、薄膜製品への汚染源等となり得る。そこで、防着板に付着したデポ膜を簡便に除去できる仕組みを提供することが求められる。
【0011】
レーザー加工を行う際の材料表面の保護に限らず、微細穴加工や、プリント配線の平坦加工、蒸着処理といった他の加工での表面保護を好適に実現する場合、保護膜には、高温状態の下でも保護膜が基体から剥がれないだけの耐熱性が求められる。その点で、特許文献1及び2に記載の保護膜形成用組成物には、なおいっそうの改良の余地がある。
【0012】
また、保護膜形成用組成物には、耐熱性だけでなく、膜形成の容易性、表面保護を終えた後の膜の洗浄容易性等も求められる。
【0013】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、耐熱性、膜形成の容易性、及び表面保護を終えた後の膜の洗浄容易性のいずれにも優れる材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記の課題を達成するために鋭意研究を重ねた結果、酢酸ビニルと(メタ)アクリル系単量体とを共重合して得られた酢酸ビニル系共重合体をけん化してなるビニルアルコール系共重合体を用いることで上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明では、以下のようなものを提供する。
【0015】
第1の特徴に係る発明は、保護膜形成用組成物であって、前記保護膜形成用組成物は、酢酸ビニルと(メタ)アクリル系単量体とを共重合して得られた酢酸ビニル系共重合体をけん化してなるビニルアルコール系共重合体を含有し、硬化後におけるJIS K 6850に準拠した方法により測定される23.5℃におけるSUS304に対する引張せん断接着強さが2N/mm以上であり、前記保護膜形成用組成物を100℃で60分間加熱し、30℃まで自然冷却した後、常圧の窒素ガス雰囲気下で30℃から300℃まで10℃/minの昇温速度で熱重量分析する場合、300℃での前記保護膜形成用組成物の重量損失が30℃での前記保護膜形成用組成物の重量に対し3.0%以下である、保護膜形成用組成物を提供する。
【0016】
第1の特徴に係る発明によると、保護膜形成用組成物に含まれるビニルアルコール系共重合体は、酢酸ビニルと(メタ)アクリル系単量体とを共重合して得られた酢酸ビニル系共重合体をけん化してなる。これにより、保護膜形成用組成物を対象物に塗布することで、対象物の表面に保護膜を容易に形成できる。
【0017】
また、硬化後におけるJIS K 6850に準拠した方法により測定される23.5℃におけるSUS304に対する引張せん断接着強さが2N/mm以上である。これにより、保護膜は、半導体基板に対する十分な粘着力を有する。
【0018】
また、保護膜形成用組成物は、300℃での重量損失が3.0%以下であるという、従来から知られる保護膜形成用組成物に比べて高い耐熱性を有する。
【0019】
また、保護膜形成用組成物は、ビニルアルコール系共重合体を含有することから、保護膜に対して温水をかけるだけで表面保護を終えた後の保護膜を対象物の表面から容易に剥離できる。
【0020】
よって、第1の特徴に係る発明によると、保護膜形成用組成物に求められる性能、すなわち、膜の高い耐熱性、膜形成の容易性、及び表面保護を終えた後の膜の洗浄容易性のいずれにも優れる組成物を提供することができる。
【0021】
第2の特徴に係る発明は、第1の特徴に係る発明において、レーザー加工、微細穴加工、及びプリント配線の平坦加工から選択されるいずれか1種以上の加工がなされる被加工物、及び/又は蒸着装置の防着板に用いられる、保護膜形成用組成物を提供する。
【0022】
上述したとおり、組成物の硬化物である保護膜は、従来から知られる水溶性の保護膜形成用組成物に比べて高い耐熱性を有する。よって、第2の特徴に係る発明によると、レーザー加工がなされる被加工物に限らず、微細穴加工やプリント配線の平坦加工がなされる被加工物や、蒸着装置の防着板に対しても適切に保護可能な保護膜形成用組成物を提供できる。
【0023】
第3の特徴に係る発明は、レーザー加工、微細穴加工、及びプリント配線の平坦加工から選択されるいずれか1種以上の加工がなされる被加工物の加工面に、第1又は第2の特徴に係る発明における保護膜形成用組成物をコーティングし、前記加工面に保護膜を形成する保護膜形成工程と、前記保護膜を介して前記加工面に前記加工を施す加工工程と、前記加工が施された前記被加工物を80℃以上の洗浄液で洗浄し、前記加工面から前記保護膜を除去する洗浄工程とを含む、保護膜形成用組成物の使用方法を提供する。
【0024】
第4の特徴に係る発明は、第1又は第2の特徴に係る発明における保護膜形成用組成物を蒸着装置の防着板にコーティングし、前記防着板の表面に保護膜を形成する保護膜形成工程と、蒸着反応の反応生成物が堆積することによって形成されるデポ膜及び前記保護膜が表面に形成された前記防着板を80℃以上の洗浄液で洗浄し、前記防着板の表面から前記デポ膜及び前記保護膜を除去する洗浄工程とを含む、保護膜形成用組成物の使用方法を提供する。
【0025】
第3及び第4の特徴に係る発明によると、レーザー加工がなされる被加工物に限らず、微細穴加工やプリント配線の平坦加工がなされる被加工物や、蒸着装置の防着板に対しても適切に保護可能な方法を提供できる。
【0026】
第5の特徴に係る発明は、第3又は第4の特徴に係る発明において、前記洗浄工程は、80℃以上の前記洗浄液で満たされた洗浄槽に洗浄対象物を収容し、前記洗浄槽の内部に高周波電力を供給することにより、前記洗浄液中に発生する音響流、又は前記洗浄液と前記洗浄液中に伝わる前記超音波振動を振動子に発生させる超音波洗浄である、使用方法を提供する
【0027】
第5の特徴に係る発明によると、表面保護を終えた後の保護膜をより簡便かつきれいに洗浄できる。
【0028】
第6の特徴に係る発明は、仮固定組成物であって、前記仮固定組成物は、酢酸ビニルと(メタ)アクリル系単量体とを共重合して得られた酢酸ビニル系共重合体をけん化してなるビニルアルコール系共重合体を含有し、硬化後におけるJIS K 6850に準拠した方法により測定される23.5℃におけるSUS304に対する引張せん断接着強さが2N/mm以上であり、前記仮固定組成物を100℃で60分間加熱し、30℃まで自然冷却した後、常圧の窒素ガス雰囲気下で30℃から300℃まで10℃/minの昇温速度で熱重量分析する場合、300℃での前記仮固定組成物の重量損失が30℃での前記仮固定組成物の重量に対し3.0%以下である、仮固定組成物を提供する。
【0029】
シリコンウェーハ、サファイアガラス、セラミックス材料、光学用ガラス、水晶、磁性材料等の非金属材料や、金属材料は、表面加工されて使用される。非金属材料の表面加工としては平面研磨加工が、金属材料の表面加工としては研削加工が挙げられる。これらの表面加工は、非金属材料や金属材料による被加工物をいったん仮固定組成物により台座上に仮固定してから行われる。仮固定を行うことにより、剪断方向の力に対して非金属材料や金属材料を固定できるため、効率的に表面加工を行うことができる。
【0030】
第6の特徴に係る発明によると、仮固定組成物に含まれるビニルアルコール系共重合体は、酢酸ビニルと(メタ)アクリル系単量体とを共重合して得られた酢酸ビニル系共重合体をけん化してなる。これにより、仮固定組成物を台座上に塗布し、仮固定組成物を介して台座上に被加工物を載せることで、被加工物を台座上に容易に仮固定できる。そして、仮固定組成物は、300℃での重量損失が3.0%以下であるという、従来から知られる仮固定組成物に比べて高い耐熱性を有する。
【0031】
また、保護膜形成用組成物は、ビニルアルコール系共重合体を含有することから、仮固定を終えた後には、仮固定組成物の硬化物である粘着剤層に対して温水をかけるだけで仮固定を終えた後の粘着剤層を容易に洗浄できる。
【0032】
よって、第6の特徴に係る発明によると、レーザー加工等における対象物表面の保護だけでなく、非金属材料や金属材料による被加工物の仮固定にも利用可能な組成物を提供することができる。
【0033】
第7の特徴に係る発明は、第6の特徴に係る発明において、平面研磨及び/又は金属研削に用いられる、仮固定組成物を提供する。
【0034】
第7の特徴に係る発明によると、適切な仮固定がなされているため、被加工物である非金属材料や金属材料を剪断方向の力に対して固定でき、より効率的に表面加工を行うことができる。
【0035】
第8の特徴に係る発明は、第6又は第7の特徴に係る発明における仮固定組成物を台座上に塗布し、前記仮固定組成物を介して前記台座上に被加工物を仮固定する仮固定工程と、前記台座上に仮固定された前記被加工物を平面研磨及び/又は金属研削に供する加工工程と、少なくとも前記被加工物と前記台座との間の仮固定面を80℃以上の水系材料に供し、前記被加工物を前記台座から剥離する剥離工程とを含む、仮固定組成物の使用方法を提供する。
【0036】
第8の特徴に係る発明によると、適切な仮固定がなされているため、被加工物である非金属材料や金属材料を剪断方向の力に対して固定でき、より効率的に表面加工を行うことができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明によると、耐熱性、膜形成の容易性、及び表面保護を終えた後の膜の洗浄容易性のいずれにも優れる材料を提供することができる。この材料は、レーザー加工等における対象物表面の保護のほか、非金属材料の平面研磨や金属材料の研削加工を行う際における被加工物の台座への仮固定にも利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1図1は、第1被加工物1の第1加工面1Aに第1保護膜2が形成された状態で被加工物1にレーザー加工を施したときの模式図である。
図2図2は、下穴Hが開けられた第2被加工物11の第2加工面11Aから第2加工面11Aに対向する対向面11Bに向けてドリル50を用いて第2被加工物11の下穴Hの箇所を切削し、第2被加工物11に微細穴加工を施すときの模式図である。
図3図3は、第2被加工物11の第2加工面11Aに第2保護膜12が形成されていない状態でドリル50を用いた微細穴加工を施したときの模式図である。
図4図4は、図1で説明したレーザー加工が施された後の第1被加工物1を超音波洗浄するときの模式図である。
図5図5は、本実施形態の半導体ウェーハを仮固定して半導体製品を製造する手順における仮固定工程の一例を示すフローチャートである。
図6図6は、本実施形態の半導体ウェーハを仮固定して半導体製品を製造する手順における加工工程の一例を示すフローチャートである。
図7図7は、本実施形態の半導体ウェーハを仮固定して半導体製品を製造する手順における剥離工程の一例を示すフローチャートである。
図8図8は、試験例で用いた物理蒸着装置(PVD装置)の防着板を示す模式図である。
図9図9は、試験例で得た硬化膜を熱重量分析(TGA)に付したときの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0040】
<組成物>
本実施形態に記載の組成物は、レーザー加工等における対象物表面への保護膜形成用組成物や、非金属材料の平面研磨や金属材料の研削加工を行う際における被加工物の台座への仮固定組成物等として好適に利用される。組成物は、酢酸ビニルと(メタ)アクリル系単量体とを共重合して得られた酢酸ビニル系共重合体をけん化してなるビニルアルコール系共重合体を含有する。
【0041】
〔ビニルアルコール系共重合体〕
ビニルアルコール系共重合体は、酢酸ビニルと(メタ)アクリル系単量体とを共重合して得られた酢酸ビニル系共重合体をけん化してなる。
【0042】
[酢酸ビニル単量体]
酢酸ビニル単量体は、組成物を対象物に塗布し、対象物の表面に硬化膜を形成したときに、硬化膜に粘着性を発現させるために用いられる。また、酢酸ビニル単量体は、硬化膜の使用後において、温水をかけるだけで硬化膜を対象物の表面から容易に剥離できるようにするために用いられる。
【0043】
酢酸ビニルを重合する際に、本発明の主旨が損なわれない範囲で、他の単量体を共重合してもよい。当該他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレンなどのα-オレフィン類;(メタ)アクリル酸およびその塩;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸i-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸i-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシルなどの(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリルアミド;N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、(メタ)アクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその塩またはその4級塩、N-メチロール(メタ)アクリルアミドおよびその誘導体などの(メタ)アクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、i-プロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、i-ブチルビニルエーテル、t-ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのニトリル類;塩化ビニル、フッ化ビニルなどのハロゲン化ビニル類;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどのハロゲン化ビニリデン類;酢酸アリル、塩化アリルなどのアリル化合物;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などの不飽和ジカルボン酸および
その塩またはそのエステル;ビニルトリメトキシシランなどのビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニルなどが挙げられる。このような他の単量体の共重合量は、通常、5モル%以下である。
【0044】
[(メタ)アクリル系単量体]
(メタ)アクリル系単量体は、保護膜に耐熱性を付与するために用いられる。
【0045】
(メタ)アクリル系単量体とは、アクリル酸、メタクリル酸又はこれらの誘導体をいう。具体的には、アクリル酸、メタクリル酸の他、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、i-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-ペンチル(メタ)アクリレート、i-ペンチル(メタ)アクリレート、n-へキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルへキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリル酸アンモニウム、(メタ)アクリル酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸カリウム等の(メタ)アクリル酸塩類;(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類;(メタ)アクリロニトリル等の(メタ)アクリロニトリル類等が挙げられる。
【0046】
[けん化度]
本実施形態において、ビニルアルコール系共重合体のけん化度の下限は、60モル%以上であることが好ましく、65モル%以上であることがより好ましく、70モル%以上であることがさらに好ましい。けん化度が低すぎると、ビニルアルコール系重合体の温水への溶解性が不十分であり、組成物の硬化膜に温水をかけても、硬化膜を対象物の表面から除去できない可能性があるため、好ましくない。
【0047】
本実施形態において、ビニルアルコール系共重合体のけん化度の上限は、99.9モル%以下であることが好ましい。けん化度が99.9モル%を超えると、ビニルアルコール系共重合体の工業的製造が難しくなる。また、組成物の保管安定性の観点から、けん化度の上限は、95モル%以下であることがより好ましく、90モル%以下であることがさらに好ましい。
【0048】
本実施形態において、けん化度は、JIS-K6726(1994)に記載されているけん化度の測定方法により測定した値とする。このとき、ビニルアルコール単位、酢酸ビニル単位及び多官能単量体単位以外の単位については、仮に含まれているとしても少量であるので、通常無視することができる。
【0049】
[重量平均分子量]
ビニルアルコール系共重合体の重量平均分子量の下限は、10,000以上であることが好ましく、13,000以上であることがより好ましく、15,000以上であることがさらに好ましい。重量平均分子量が小さすぎると、硬化物が十分な引張強度を有しない可能性があるため、好ましくない。
【0050】
本実施形態において、重量平均分子量の測定は、GPC法(Gel Permeation Chromatography;ゲル浸透クロマトグラフィー)によりポリスチレン換算して求めるものとする。
【0051】
[ビニルアルコール系共重合体の製造方法]
ビニルアルコール系重合体の製造方法は、特に限定されるものではない。例えば、当該製造方法は、酢酸ビニルと複数のエチレン性二重結合を有する多官能単量体とを共重合させてビニルエステル系共重合体を得る共重合工程と、当該ビニルエステル系共重合体をけん化するけん化工程とを含む。
【0052】
(共重合工程)
重合の方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などが挙げられる。重合は、無溶媒又はアルコール系溶媒の存在下で行うことができる。中でも、無溶媒の塊状重合法又はアルコール系溶媒を用いた溶液重合法が好適である。アルコール系溶媒は特に限定されず、メタノール、エタノール、プロパノールなど用いることができる。これらは単独又は2種類以上を組み合わせて用いてもかまわない。重合の方式は特に限定されず、回分重合、半回分重合、連続重合、半連続重合のいずれでもよい。
【0053】
重合温度は特に限定されないが、0~200℃が好ましく、30~140℃がより好ましい。重合温度が0℃より低い場合、十分な重合速度が得られないことがある。重合温度が200℃より高い場合、酢酸ビニルや他の単量体の分解が懸念される。
【0054】
温度の制御方法としては、重合により生成する熱と、重合容器表面からの放熱とのバランスをとる方法が挙げられる。また、適当な熱媒を用いた外部ジャケットにより制御する方法も挙げられる。安全性の面からは、後者の方法が好ましい。
【0055】
重合開始剤は、重合方法に応じて公知の開始剤(例えばアゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、レドックス系開始剤など)から選択すればよい。アゾ系開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)などが挙げられる。過酸化物系開始剤としては、例えば、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネートなどのパーカーボネート化合物;t-ブチルパーオキシネオデカネート、α-クミルパーオキシネオデカネート、t-ブチルパーオキシデカネートなどのパーエステル化合物;アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシド;2,4,4-トリメチルペンチル-2-パーオキシフェノキシアセテートなどが挙げられる。これらの開始剤に、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素などを組み合わせて開始剤としてもよい。レドックス系開始剤としては、例えば、上記過酸化物と、亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酒石酸、L-アスコルビン酸、ロンガリットなどの還元剤とを組み合わせた開始剤が挙げられる。重合を高温で行った場合に、酢酸ビニルの分解に起因する着色が見られることがある。その場合、着色の防止を目的として、酒石酸のような酸化防止剤を、酢酸ビニルに対して1~100ppm程度、重合系に添加することはなんら差し支えない。
【0056】
酢酸ビニルの重合に際して、得られるビニルアルコール系重合体の重合度を調節することなどを目的として、連鎖移動剤を共存させても差し支えない。連鎖移動剤としては、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒドなどのアルデヒド類;アセトン、メチルエチルケトン、ヘキサノン、シクロヘキサノンなどのケトン類;2-ヒドロキシエタンチオールなどのメルカプタン類;トリクロロエチレン、パークロロエチレンなどのハロゲン化炭化水素類が挙げられ、中でもアルデヒド類およびケトン類が好適に用いられる。連鎖移動剤の添加量は、添加する連鎖移動剤の連鎖移動定数および目的とするビニルアルコール系重合体の重合度に応じて決定されるが、一般に酢酸ビニルに対して0.1~10質量%であることが望ましい。
【0057】
(けん化工程)
ビニルアルコール系共重合体のけん化方法としては、従来から公知のアルカリ触媒又は酸触媒を用いたけん化方法を使用することができる。中でも、ビニルアルコール系共重合体のメタノール溶液又はビニルアルコール系共重合体のメタノール、水、酢酸メチルなどの混合溶液に水酸化ナトリウムなどのアルカリを加えて、撹拌して混合しながら、加アルコール分解する方法が、工業的に好ましい。
【0058】
その後、得られた塊状物、ゲル状物あるいは粒状物を粉砕し、必要に応じて添加したアルカリを中和した後、固形物と液体成分を分離し、固形物を乾燥することによりビニルアルコール系共重合体を得てもよい。
【0059】
〔水系溶媒〕
必要に応じて、未硬化状態の組成物は、ビニルアルコール系共重合体が水系溶媒に溶かされた状態にあってもよい。水系溶媒とは、水、水に可溶な有機溶媒、又はこれらの混合溶媒をいう。水に可溶な有機溶媒として、アルコール、エステル類、多価アルコール誘導体等が挙げられる。
【0060】
アルコールのうち、1価アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等が挙げられる。また、多価アルコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられる。
【0061】
エステル類としては、メチル-3-メトキシプロピオネート、エチル-3-エトキシプロピオネートなどのカルボン酸アルキルエステルが挙げられる。
【0062】
多価アルコール誘導体としては、エチレングリコール誘導体、プロピレングリコール誘導体等が挙げられる。
【0063】
組成物を塗布する基体の損傷を防ぐため、水系溶媒は、中性域であることが好ましい。
【0064】
〔他の成分〕
組成物は、ビニルアルコール系共重合体及び水系溶媒のほか、他の成分を含んでいてもよい。
【0065】
他の成分としては、特に限定されず、例えば、レーザー光吸収剤、可塑剤、界面活性剤などが挙げられる。
【0066】
[レーザー光吸収剤]
レーザー光吸収剤は、硬化膜にレーザーが照射されたときに硬化膜が熱分解されるのを防ぐために用いられる。レーザー光吸収剤としては、特に限定されず、例えば、紫外線吸収剤、色素、染料等が挙げられ、水系溶媒に溶解可能であることが好ましい。
【0067】
水系溶媒に溶解可能な紫外線吸収剤としては、例えば、4,4’-ジカルボキシベンゾフェノン、ベンゾフェノン-4-カルボン酸、2-カルボキシアントラキノン、1,2-ナフタリンジカルボン酸、1,8-ナフタリンジカルボン酸、2,3-ナフタリンジカルボン酸、2,6-ナフタリンジカルボン酸、2,7-ナフタリンジカルボン酸等及びこれらのソーダ塩、カリウム塩、アンモニウム塩、第4級アンモニウム塩等、2,6-アントラキノンジスルホン酸ソーダ、2,7-アントラキノンジスルホン酸ソーダ、フェルラ酸などを挙げることができ、中でもフェルラ酸が好適である。
【0068】
水系溶媒に溶解可能な色素としては、環境負荷などの点から食品添加用色素、例えば食用赤色2号、食用赤色40号、食用赤色102号、食用赤色104号、食用赤色105号、食用赤色106号、食用黄色NY、食用黄色4号タートラジン、食用黄色5号、食用黄色5号サンセットエローFCF、食用オレンジ色AM、食用朱色No.1、食用朱色No.4、食用朱色No.101、食用青色1号、食用青色2号、食用緑色3号、食用メロン色B、食用タマゴ色No.3等が好適である。
【0069】
水系溶媒に溶解可能な染料としては、アゾ染料(モノアゾおよびポリアゾ染料、金属錯塩アゾ染料、ピラゾロンアゾ染料、スチルベンアゾ染料、チアゾールアゾ染料)、アントラキノン染料(アントラキノン誘導体、アントロン誘導体)、インジゴイド染料(インジゴイド誘導体、チオインジゴイド誘導体)、フタロシアニン染料、カルボニウム染料(ジワェニルメタン染料、トリフェニルメタン染料、キサンテン染料、アクリジン染料)、キノンイミン染料(アジン染料、オキサジン染料、チアジン染料)、メチン染料(シアニン染料、アゾメチン染料)、キノリン染料、ニトロソ染料、ベンゾキノン及びナフトキノン染料、ナフタルイミド染料、ペリノン染料その他の染料等の中より、水溶性のものが選択される。
【0070】
[可塑剤]
可塑剤は、硬化膜の水洗性を高めるために使用される。また、可塑剤の使用により、レーザー光照射等によるビニルアルコール系共重合体の炭化を抑制できるという利点もある。
【0071】
このような可塑剤としては、水溶性の低分子量化合物が好ましく、例えば、エチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、エタノールアミン、グリセリン等を例示することができ、一種もしくは二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0072】
可塑剤は、塗布乾燥した後に水溶性樹脂と相分離を起さない程度の量で使用され、例えば、ビニルアルコール系共重合体100質量部あたり75質量部以下、特に20質量部以上75質量部以下の範囲とするのがよい。
【0073】
[界面活性剤]
界面活性剤は、塗布性を高め、さらには組成物の未硬化状態での保存安定性を高めるために使用される。界面活性剤は、水溶性であれば、ノニオン系、カチオン系、アニオン系、両性系の任意の界面活性剤を使用することができる。
【0074】
ノニオン系の界面活性剤としては、ノニルフェノール系、高級アルコール系、多価アルコール系、ポリオキシアルキレングリコール系、ポリオキシエチレンアルキルエステル系、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル系、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル系のものを例示することができ、また、カチオン系の界面活性剤としては、第4級アンモニウム塩、アミン塩があり、アニオン系の界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸及びその塩、アルキル硫酸エステル塩、メチルタウリン酸塩、エーテルスルホン酸塩等々があり、両性系の界面活性剤としてはイミダゾリニウムベタイン系、アミドプロピルベタイン系、アミノジプロピオン酸塩系等があり、これらから一種もしくは二種以上が選択されれば良い。このような界面活性剤の使用量は溶液に対して数十ppmから数百ppmの量で良い。
【0075】
〔組成物の物性〕
[固形分量]
未硬化の組成物に含まれる固形分量は、溶液が適度な塗布性を有する範囲であれば、特に限定されない。
【0076】
対象物表面に組成物を塗布したときに、垂れ等が生じるのを防止し、乾燥後の膜厚(保護膜の厚み)調整を容易にする観点から、固形分量の下限は、未硬化の組成物100質量部に対して3質量部以上であることが好ましい。また、硬化膜の強度を適度なものとし、レーザー加工等を施した際の対象物への異物付着を防止する観点から、固形分量の下限は、未硬化の組成物100質量部に対して5質量部以上であることがより好ましく、10質量部以上であることがさらに好ましい。
【0077】
固形分量の上限は、組成物の用途によって好適な範囲が異なる。例えば、レーザー加工等を施す際の対象物保護を用途とする場合、対象物表面への組成物の塗布を容易にし、厚みムラや気泡の巻き込みなどが生じるのを防ぐ観点から、固形分量の上限は、未硬化の組成物100質量部に対して50質量部以下であることが好ましく、40質量部以下であることがより好ましく、30質量部以下であることがさらに好ましい。
【0078】
また、電子回路基板への微細穴加工を施す際の対象物保護を用途とする場合、固形分量の上限は、未硬化の組成物100質量部に対して90質量部以下であることが好ましく、80質量部以下であることがより好ましく、70質量部以下であることがさらに好ましい。
【0079】
また、プリント配線の平坦加工を施す際の対象物保護を用途とする場合、固形分量は、100質量部(すなわち、組成物が水系溶媒を含まない状態)であってもよい。
【0080】
[pH]
組成物のpHは、特に限定されないが、組成物を塗布する基体の損傷を防ぐため、pHの下限は、5以上であることが好ましく、6以上であることがより好ましく、6.5以上であることがさらに好ましい。また、pHの上限は、9以下であることが好ましく、8以下であることがより好ましく、7.5以下であることがさらに好ましい。
【0081】
[粘度]
組成物の粘度は、組成物の用途等に応じて適宜選択でき、特に限定されない。対象物表面に組成物を塗布したときに、垂れ等が生じるのを防止し、乾燥後の膜厚(保護膜の厚み)調整を容易にする観点から、粘度の下限は、10mPa・s以上であることが好ましく、20mPa・s以上であることがより好ましく、30mPa・s以上であることがさらに好ましい。
【0082】
また、基体表面への均一な塗工をスムーズに行う観点から、粘度の上限は、800mPa・s以下であることが好ましく、500mPa・s以下であることがより好ましく、300mPa・s以下であることがさらに好ましい。
【0083】
本実施形態において、組成物の粘度は、B型回転粘度計を用いて測定した25℃における未硬化状態での粘度によって定められるものとする。
【0084】
[K値]
本実施形態において、K値とは、分子量と相関する粘性特性値をいい、B型回転粘度計により測定される相対粘度値(25℃)を以下のFikentscherの式に適用して算出するものとする。
K=(1.5logη-1)/(0.15+0.003c)+(300clogη+(c+1.5clogη)1/2/(0.15c+0.003c
【0085】
式中、ηは、組成物の水に対する相対粘度を、cは、組成物中のビニルアルコール系共重合体濃度(%)を表している。
【0086】
本実施形態において、組成物のK値は、特に限定されないが、形成した保護膜を効率良く除去できるなどの観点から、K12~120であることが好ましく、K20~K100であることがより好ましく、K30~K90がさらに好ましい。
【0087】
[組成物の粘着力]
組成物の粘着力は、JIS K 6850に準拠した方法により測定される引張せん断接着強さによって評価できる。
【0088】
硬化後におけるJIS K 6850に準拠した方法により測定される23.5℃におけるSUS304に対する引張せん断接着強さは、2N/mm以上であり、2.5N/mm以上であることがより好ましい。これにより、硬化膜は、対象物に対する十分な粘着力を有する。
【0089】
[組成物の耐熱性]
本実施形態において、組成物の耐熱性を重量損失によって数値化するものとする。本実施形態に記載の組成物を100℃で60分間静置し、30℃まで自然冷却した後、常圧の窒素ガス雰囲気下で30℃から300℃まで10℃/minの昇温速度で熱重量分析すると、300℃での組成物の重量損失が30℃での組成物の重量に対し3.0%以下である。
【0090】
熱重量分析は、熱重量測定装置(TGA,Thermal Gravimetric Analysis)を用いることで実施できる。
【0091】
〔組成物の製造方法〕
組成物の製造方法は、特に限定されない。例えば、ビニルアルコール系共重合体、水系溶媒、及び必要に応じて他の成分を混合することによって組成物が得られる。混合は、常温で行ってもよいし、加熱しながら行ってもよい。また、混合は、撹拌しながら行ってもよい。なお、組成物中の各成分の添加順序は、特に限定されない。
【0092】
<組成物の使用方法>
以下、本実施形態の組成物の使用方法について説明する。
【0093】
〔レーザー加工、微細穴加工、及びプリント配線の平坦加工が行われる被加工物の加工面への使用〕
使用方法の一例として、レーザー加工、微細穴加工、及びプリント配線の平坦加工が行われる被加工物の加工面に保護膜を形成し、被加工物を適切に保護することが挙げられる。本使用方法は、被加工物の加工面に保護膜を形成する保護膜形成工程と、保護膜を介して加工面に加工を施す加工工程と、加工が施された被加工物を80℃以上の洗浄液で洗浄する洗浄工程とを含む。
【0094】
[保護膜形成工程]
保護膜形成工程は、被加工物の加工面に、上述した組成物をコーティングし、加工面に保護膜を形成する工程である。
【0095】
被加工物の材質は、表面に保護膜が形成されたときに、被加工物と保護膜との間に十分な粘着性を保持できるものであれば、特に限定されない。被加工物の材質の例として、ガラス、合成石英、樹脂成形品、半導体(例えば、半導体ウェーハ)等が挙げられる。
【0096】
また、被加工物の形状も特に限定されない。組成物は、未硬化状態では液状であるため、被加工物が凹凸を有していたとしても、被加工物の表面に未硬化状態の組成物を略均一に塗布可能である。
【0097】
組成物のコーティングの手法も特に限定されない。例えば、スピンコーター法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、コンマコーター法、バーコーター法、ダイコーター法、グラビアコーター法、スリットコーター法、ディップコート法等が挙げられる。
【0098】
被加工物の加工面に未硬化状態(液状)の組成物を塗布し、その後、組成物を乾燥させることで、組成物が硬化し、被加工物の加工面上に保護膜を形成できる。組成物は、常温で硬化可能であるが、より短時間で乾燥させるために適度に加熱してもよく、組成物に紫外線等の電磁線を照射してもよい。電磁線照射を行うときは、組成物に紫外線吸収剤が含まれていることが好ましい。
【0099】
保護膜の厚さは、特に限定されるものでなく、被加工物の材質、形状、及び組成物の用途等に応じて適宜選択できる。
【0100】
厚さの下限は、保護膜が保護膜としての機能(被加工物との粘着性、保護膜の表面に半導体基板の溶融物や熱分解物を付着できるだけのタック性、耐熱性)を発揮できる程度であれば、特に限定されない。
【0101】
厚さの上限は、組成物が無駄に消費されることを防ぎ、また、洗浄工程での洗浄を容易にできる程度であれば、特に限定されない。
【0102】
[加工工程]
加工工程は、保護膜を介して加工面に加工を施す工程である。
【0103】
加工の態様として、レーザー加工、微細穴加工、及びプリント配線の平坦加工等が挙げられる。
【0104】
(レーザー加工)
図1は、第1被加工物1の第1加工面1Aに第1保護膜2が形成された状態で被加工物1にレーザー加工を施したときの模式図である。
【0105】
図1(A)は、第1被加工物1の加工したい箇所に、レーザー光Lの集光点Fを一致させ、第1被加工物1にレーザー加工を施したときの様子を示す。レーザー光Lが照射された第1保護膜2は、レーザー光Lを吸収して高温となり、溶融される。
【0106】
図1(B)は、第1保護膜2が溶融されることによって、第1保護膜2によって保護されていた第1加工面1Aが表面に露出するときの様子を示す。
【0107】
図1(C)は、露出した第1加工面1Aにレーザー光Lが照射されたときの様子を示す。第1被加工物1は、レーザー光Lを吸収し、第1加工面1Aの側から溶融される。
【0108】
ここで、第1被加工物1にレーザー光Lを照射すると、第1被加工物1の溶融物や熱分解物が発生する。これら溶融物や熱分解物は、デブリD1と呼ばれる。本実施形態では、第1保護膜2が粘着性を有するため、デブリD1は、第1保護膜2の表面に付着し、保持される。したがって、デブリD1が第1被加工物1の第1加工面1Aに直接付着し、第1被加工物1を傷つけることがない。
【0109】
(微細穴加工)
図2は、下穴Hが開けられた第2被加工物11の第2加工面11Aから第2加工面11Aに対向する対向面11Bに向けてドリル50を用いて第2被加工物11の下穴Hの箇所を切削し、第2被加工物11に微細穴加工を施すときの模式図である。
【0110】
第2被加工物11の第2加工面11Aには、第2保護膜12が形成されている。ここで、組成物は、未硬化状態では液状であるため、第2加工面11Aに組成物を塗布する際、組成物は、第2加工面11Aだけでなく、被加工物1の下穴Hの内部にも充填される。そのため、下穴Hの箇所にも第2保護膜12が形成されている。
【0111】
ドリル50が被加工物1の下穴Hの箇所を切削すると、加工屑や切削の際に生じる粉体等のスラッジが生じる。本実施形態では、第2保護膜12が粘着性を有するため、スラッジとしてのデブリD2は、ドリル50による加工穴の底部にある第2保護膜12の表面に付着し、保持される。したがって、デブリD2が下穴Hの側面に残留し、微細穴加工が施された第2被加工物11の製品としての品質が損なわれるのを防ぐことができる。
【0112】
図3は、第2被加工物11の第2加工面11Aに第2保護膜12が形成されていない状態でドリル50を用いた微細穴加工を施したときの様子である。デブリD2は、下穴Hの内部に付着する。デブリが下穴Hの内部にいったん付着すると、デブリD2を取り除くのは非常に困難であり、微細穴加工が施された被加工物1の製品としての品質を損なう。
【0113】
(プリント配線の平坦加工がなされる被加工物の加工面への使用)
本実施形態に記載の組成物を、プリント配線の平坦加工技術に応用することができる。第3被加工物は、配線基板と、配線基板の表面に施された配線部とを備える。第3被加工物は、配線部の厚さの分だけ凹凸がある状態であるが、配線部の厚さは、できるだけ薄い方が好ましい。
【0114】
まず、上述の保護膜形成工程にて、配線基板の表面に上述した組成物をコーティングし、配線基板の表面に第3保護膜を形成する。第3保護膜の厚さは、配線部の厚さよりも厚く、保護膜形成後の第3被加工物の表面を平坦にすることができる程度の厚さであれば、特に限定されない。
【0115】
続いて、第3被加工物の表面(配線部及び保護膜が施されている面)に配線平坦化装置(研磨装置等)を当て、配線部を平坦化する。研磨により、配線部の一部が加工屑になるが、第3保護膜が粘着性を有するため、加工屑は、デブリとして保護膜の表面に付着する。したがって、デブリが配線基板の表面や配線部に直接付着して、プリント配線基板の品質が劣化するのを防ぐことができる。
【0116】
[洗浄工程]
洗浄工程は、加工が施された被加工物を60℃以上の洗浄液で洗浄し、加工面から保護膜を除去する工程である。この工程を経ることで、保護膜を、デブリとともに容易に洗浄でき、レーザー加工、微細穴加工、及びプリント配線の平坦加工が施された被加工物を、デブリがない状態で供給することができる。
【0117】
洗浄液は、水系材料であれば、特に限定されない。水系材料とは、水、水に可溶な有機材料、又はこれらの混合材料をいう。水に可溶な有機材料として、アルコール、エステル類、多価アルコール誘導体等が挙げられる。
【0118】
アルコールのうち、1価アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等が挙げられる。また、多価アルコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられる。
【0119】
エステル類としては、メチル-3-メトキシプロピオネート、エチル-3-エトキシプロピオネートなどのカルボン酸アルキルエステルが挙げられる。
【0120】
多価アルコール誘導体としては、エチレングリコール誘導体、プロピレングリコール誘導体等が挙げられる。
【0121】
洗浄後の被加工物の損傷を防ぐため、水系材料は、中性域であることが好ましい。
【0122】
洗浄液の温度は、保護膜を、デブリとともに容易に洗浄でき、洗浄後の被加工物に変形等の損傷が生じない程度であれば、特に限定されない。洗浄液は、60℃以上であり、80℃以上であることが好ましく、90℃以上であることがより好ましい。
【0123】
保護膜及びデブリの除去をより簡便かつきれいに行うため、洗浄は、超音波洗浄で行うことが好ましい。より詳しくは、洗浄工程は、80℃以上の洗浄液で満たされた洗浄槽に洗浄対象物を収容し、洗浄槽の内部に高周波電力を供給することにより、洗浄液中に発生する音響流、又は洗浄液と洗浄液中に伝わる超音波振動を振動子に発生させる超音波洗浄であることが好ましい。
【0124】
図4は、図1で説明したレーザー加工が施された後の第1被加工物1を超音波洗浄するときの模式図である。洗浄装置60は、洗浄液Wで満たされた洗浄槽61と、高周波電力を供給可能な高周波電力供給装置62と、高周波電力供給装置62と接続された振動子63とを備える。
【0125】
振動子63は、高周波電力の供給に応じて超音波を発生可能な振動子であれば特に限定されない。振動子63として、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の圧電セラミックを用いた圧電素子を含む振動子等が挙げられる。
【0126】
まず、洗浄槽61の内部にレーザー加工が施された後の第1被加工物1を収容する。そして、作業者は、高周波電力供給装置62から振動子63への高周波電力の供給を指示する。そうすると、振動子63の表面に超音波Sが発生し、超音波Sは、洗浄槽61を満たす洗浄液Wに伝わり、あるいは、洗浄液Wに音響流(図示せず)を生じさせ、第1被加工物1の表面から、デブリDが付着された保護膜12を除去する。超音波洗浄を施すことで、保護膜及びデブリの除去をより簡便かつきれいに行うことができる。
【0127】
〔蒸着処理における防着板への使用〕
使用方法の他の一例として、蒸着処理における防着板の表面に保護膜を形成し、防着板の表面に蒸着反応の反応生成物が堆積するのを防ぐことが挙げられる。
【0128】
蒸着反応を行うと、蒸着反応の反応生成物によってデポ膜と呼ばれる被膜が形成される。蒸着装置のチャンバーにデポ膜が堆積すると、真空蒸着技術であれば、真空性に対して悪影響を及ぼし、また、薄膜製品への汚染源となり、薄膜製品の純度にも影響し得る。加えて、デポ膜を除去することが困難となる。そこで、チャンバー自体にデポ膜が堆積するのを防ぐため、蒸着装置には防着板(シールド)が設けられ、デポ膜が防着板の表面に堆積するようにしている。しかしながら、蒸着処理を繰り返すことで防着板に付着したデポ膜が応力により防着版から剥離し、薄膜製品への汚染源等となり得る。そこで、防着板に付着したデポ膜を簡便に除去できる仕組みを提供することが求められる。
【0129】
本使用方法は、本実施形態に記載の組成物を蒸着装置の防着板にコーティングし、防着板の表面に保護膜を形成する保護膜形成工程と、防着板の表面に形成されるデポ膜及び保護膜を防着板の表面から除去する洗浄工程とを含む。
【0130】
[保護膜形成工程]
保護膜形成工程は、本実施形態に記載の組成物を蒸着装置の防着板にコーティングし、防着板の表面に保護膜を形成する工程である。
【0131】
蒸着の種類は特に限定されず、物理的反応を利用した物理蒸着(PVD)であってもよいし、化学的反応を利用した化学蒸着(CVD)であってもよい。
【0132】
防着板の材質は、表面に保護膜が形成されたときに、防着板と保護膜との間に十分な粘着性を保持できるものであれば、特に限定されない。防着板の材質の例として、金属、半導体、非金属材料等が挙げられる。
【0133】
また、防着板の形状も特に限定されない。組成物は、未硬化状態では液状であるため、防着板が曲面や凹凸を有していたとしても、防着板の表面に未硬化状態の組成物を略均一に塗布可能である。
【0134】
組成物のコーティングの手法も特に限定されない。例えば、スピンコーター法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、コンマコーター法、バーコーター法、ダイコーター法、グラビアコーター法、スリットコーター法、ディップコート法等が挙げられる。
【0135】
防着板の表面に未硬化状態(液状)の組成物を塗布し、その後、組成物を乾燥させることで、組成物が硬化し、防着板の表面上に保護膜を形成できる。組成物は、常温で硬化可能であるが、より短時間で乾燥させるために適度に加熱してもよく、組成物に紫外線等の電磁線を照射してもよい。電磁線照射を行うときは、組成物に紫外線吸収剤が含まれていることが好ましい。
【0136】
保護膜の厚さは、特に限定されるものでなく、防着板の材質及び形状等に応じて適宜選択できる。
【0137】
厚さの下限は、保護膜が保護膜としての機能(防着板との粘着性、保護膜の表面にデポ膜を付着できるだけのタック性、耐熱性)を発揮できる程度であれば、特に限定されない。
【0138】
厚さの上限は、組成物が無駄に消費されることを防ぎ、また、洗浄工程での洗浄を容易にできる程度であれば、特に限定されない。
【0139】
[洗浄工程]
洗浄工程は、蒸着反応の反応生成物が堆積することによって形成されるデポ膜及び保護膜が表面に形成された防着板を60℃以上の洗浄液で洗浄し、防着板の表面からデポ膜及び保護膜を除去する工程である。この工程を経ることで、保護膜を洗浄液に溶解させて保護膜を除去できるとともに、デポ膜を膜の状態のまま防着板から剥離することができる。そして、剥離されたデポ膜は、蒸着反応の原料として再利用可能であるため、リサイクル金属の高品質化と回収率向上に寄与し得る。
【0140】
上述したとおり、洗浄液は、水系材料であれば、特に限定されないが、洗浄後に回収されるデポ膜の品質及び防着板の損傷防止を考慮すると、水系材料は、中性域であることが好ましい。
【0141】
洗浄液の温度は、保護膜を容易に溶かすことができ、回収されるデポ膜の品質に影響を及ぼさず、防着板に変形等の損傷が生じない程度であれば、特に限定されない。洗浄液は、60℃以上であり、80℃以上であることが好ましく、90℃以上であることがより好ましい。
【0142】
保護膜の除去及びデポ膜の回収をより簡便かつきれいに行うため、洗浄は、超音波洗浄で行うことが好ましい。超音波洗浄は、先に図4を参照しながら説明した手法と同じ手法でよい。
【0143】
〔被加工材料の台座上への仮固定〕
非金属材料への平面研磨加工や、金属材料への研削加工を行う際、非金属材料や金属材料による被加工物は、台座上にいったん仮固定される。本実施形態に記載の組成物は、当該仮固定の用途に使用することもできる。仮固定の方法は、上述した組成物を台座上に塗布し、台座上に被加工物を仮固定する仮固定工程と、台座上に仮固定された被加工物を平面研磨及び/又は金属研削に供する加工工程と、被加工物と台座との間の仮固定面を80℃以上の温水に供し、被加工物を台座から剥離する剥離工程とを含む。
【0144】
被加工物を台座上に固定することに関し、例えば、集積回路等に利用される薄型半導体ウェーハを被加工物とする加工がある。薄型半導体ウェーハをよりいっそう薄くすることにより、半導体の小型化、高集積化、高性能化、低消費電力化等を実現し得る。しかし、よりいっそう薄い薄型半導体ウェーハは、より厚い半導体ウェーハより脆弱であり、研削加工、貫通ビア(Through Silicon Via、TSVとも称する。)の形成、2.5次元/3次元積層パッケージの製造に関する加工、パワーデバイスの製造に関する加工、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems、メムスとも称する。)の製造に関する加工、及びLEDの製造に関する加工等によって例示される各種の加工において破損するリスクが懸念される。薄型半導体ウェーハを台座上に仮固定することにより、各種の加工において薄型半導体ウェーハが破損するリスクを軽減し得る。
【0145】
台座は、被加工物を台座上に固定したときに被加工物を支持可能な台座であれば特に限定されず、例えば、シリコン、ガラス、及び/又はサファイア等を用いた台座でよい。
【0146】
[仮固定工程]
仮固定工程は、本実施形態に記載の仮固定組成物を台座上に塗布し、仮固定組成物を介して台座上に被加工物を仮固定する工程である。
【0147】
台座の材質は、台座上に被加工物を仮固定したときに仮固定組成物が両者を仮固定できるだけの機能を発揮できるものであれば、特に限定されるものでなく、台座は、非金属材料であってもよいし、金属材料であってもよいし、有機材料であってもよい。
【0148】
被加工物の材質もまた、台座上に被加工物を仮固定したときに仮固定組成物が両者を仮固定できるだけの機能を発揮できるものであれば、特に限定されるものでない。被加工物は、非金属材料であってもよいし、金属材料であってもよい。一般に、被加工物が非金属材料であれば、平面研磨加工に供され、金属材料であれば、研削加工に供されるが、これらに限られるものでもない。
【0149】
組成物を塗布する手法も特に限定されない。台座の表面に未硬化状態(液状)の組成物を公知の手法で塗布し、台座上に仮固定層を形成したら、被加工物の加工面に対向する非加工面(図示せず)を仮固定層に接触させることで、台座上に被加工物を仮固定できる。
【0150】
仮固定層の厚さは、特に限定されるものでなく、台座及び被加工物の材質及び形状等に応じて適宜選択できる。
【0151】
厚さの下限は、仮固定層が台座と被加工物とを仮固定する機能を発揮できる程度であれば、特に限定されない。
【0152】
厚さの上限は、組成物が無駄に消費されることを防ぎ、また、洗浄工程での洗浄を容易にできる程度であれば、特に限定されない。
【0153】
(仮接合装置)
必須の態様ではないが、仮固定の方法は、台座上に被加工物を仮固定可能な仮接合装置(Temporary Bonder、TBとも称する。)を用いる方法であることが好ましい。仮接合装置は、本実施形態に記載の仮固定組成物を台座上に塗布し、仮固定組成物を介して台座上に被加工物を仮固定する工程を実施可能であれば特に限定されず、従来技術の仮接合装置及び/又は仮接合システム(Temporary Bonding System)でよい。
【0154】
必須の態様ではないが、仮接合装置は、被加工物と台座との位置関係を所定の位置関係にする位置合わせ工程を行い、位置合わせ工程によって所定の位置関係で配置された被加工物と台座について、仮固定組成物を介して台座上に被加工物を仮固定する工程を実施可能であることが好ましい。これにより、被加工物と台座とを所定の位置関係で仮固定することができる。したがって、例えば、台座が被加工物を変形及び/又は破損から保護し得る所定の位置関係で被加工物と台座とを仮固定し、被加工物を保護し得る。
【0155】
[加工工程]
加工工程は、台座上に仮固定された被加工物を平面研磨及び/又は金属研削に供する工程である。
【0156】
平面研磨及び金属研削の手法は特に限定されず、公知の手法であればよい。本実施形態によると、適切な仮固定がなされているため、被加工物である非金属材料や金属材料を剪断方向の力に対して固定でき、より効率的に表面加工を行うことができる。
【0157】
[剥離工程]
剥離工程は、少なくとも被加工物と台座との間に形成される仮固定層を80℃以上の水系材料に供し、被加工物を台座から剥離する工程である。
【0158】
水系材料の種類は特に限定されないが、台座及び被加工物の損傷防止を考慮すると、水系材料は、中性域であることが好ましい。
【0159】
水系材料の温度は、保護膜を容易に溶かすことができ、台座及び被加工物に変形等の損傷が生じない程度であれば、特に限定されない。水系材料は、60℃以上であり、80℃以上であることが好ましく、90℃以上であることがより好ましい。
【0160】
(剥離装置)
必須の態様ではないが、仮固定の方法は、台座上に仮固定された被加工物を台座から剥離可能な剥離装置(Debonder、DBとも称する。)を用いて剥離工程を行う方法であることが好ましい。剥離装置は、剥離工程を実施可能であれば特に限定されず、従来技術の剥離装置及び/又は剥離システム(Debonding System)でよい。
【0161】
[半導体製品の製造]
以下、本実施形態の組成物を用いた仮固定の方法に関する具体的態様の一例として、台座上に半導体ウェーハ(被加工物)を仮固定して半導体製品を製造する手順を示す。台座は、半導体ウェーハを支持可能であれば特に限定されず、例えば、シリコン、ガラス、及び/又はサファイア等でよい。組成物が紫外線照射により硬化する紫外線硬化組成物である場合、台座は、ガラス及びサファイア等によって例示される紫外線を透過可能な台座であることが好ましい。
【0162】
台座上に半導体ウェーハを仮固定して半導体製品を製造する手順は、仮固定工程、加工工程、及び洗浄工程を含む。
【0163】
図5は、本実施形態の半導体ウェーハを仮固定して半導体製品を製造する手順における仮固定工程の一例を示すフローチャートである。図6は、本実施形態の半導体ウェーハを仮固定して半導体製品を製造する手順における加工工程の一例を示すフローチャートである。図7は、本実施形態の半導体ウェーハを仮固定して半導体製品を製造する手順における剥離工程の一例を示すフローチャートである。以下、図5-7を用いて仮固定工程の好ましい流れの一例を説明する。
【0164】
まず、必要に応じてステップS1の前処理を施した半導体ウェーハ21と台座Bとを仮固定する仮固定工程(図5のステップS2-S4)を行う。
【0165】
(ステップS1:半導体ウェーハに前処理を実施)
必須の態様ではないが、半導体ウェーハ21に前処理を施す前処理工程(図5のステップS1)を行うことが好ましい。前処理は、半導体ウェーハに施す処理であれば特に限定されない。
【0166】
前処理は、例えば、半導体ウェーハ21に感光性物質を塗布し、パターン露光を行うことで半導体ウェーハ21の仮固定する面21a上に感光性物質層R(図5の符号R11-R14等)及び/又は半導体酸化膜O(図5の符号O11-O14等)を含む第1の回路パターンC1を形成するリソグラフィ処理を含んでもよい。前処理がリソグラフィ処理を含むことにより、半導体ウェーハ21上に第1の回路パターンC1を形成できる。
【0167】
前処理は、例えば、半導体ウェーハ21から余分な半導体酸化膜Oを除去するエッチング処理を含んでもよい。エッチング処理は、特に限定されず、例えば、化学溶液を用いるウェットエッチング、化学ガス及び/又はプラズマを用いるドライエッチング等でよい。
【0168】
前処理がエッチング処理を含むことにより、半導体ウェーハ21上に形成された回路パターンCから余分な半導体酸化膜Oを除去できる。これにより、半導体ウェーハ21のうち、半導体酸化膜Oによって被覆されていない部分にソース及び/又はドレイン(図示せず)を形成できる。これにより、ソース及びドレインを有する電界効果トランジスタT(Field effect transistor、FETとも称する。)を半導体ウェーハ21上に形成できる。
【0169】
(ステップS2:台座に樹脂組成物による仮固定層を形成)
台座Bの少なくとも仮固定層22を形成する一方の面に本実施形態の樹脂組成物による仮固定層22を形成する仮固定層形成工程(図5のステップS2)を行う。仮固定層形成工程を行うことにより、台座B上に粘着性を有する仮固定層22が形成される。
【0170】
仮固定層形成工程は、台座Bの少なくとも仮固定層22を形成する一方の面に未硬化状態(液状)の組成物を塗布し、塗布した組成物を硬化させる手順を含むことが好ましい。台座Bの少なくとも仮固定層22を形成する一方の面に未硬化状態(液状)の組成物を塗布する方法は、特に限定されず、例えば、スピンコーター法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、コンマコーター法、バーコーター法、ダイコーター法、グラビアコーター法、スリットコーター法、ディップコート法等が挙げられる。
【0171】
台座Bの少なくとも仮固定層22を形成する一方の面に未硬化状態(液状)の組成物を塗布し、その後、組成物を乾燥させることで、組成物が硬化し、台座Bの少なくとも一方の面に粘着性を有する仮固定層22を形成できる。組成物は、常温で硬化可能であるが、より短時間で乾燥させるために適度に加熱してもよく、組成物に紫外線等の電磁線を照射してもよい。電磁線照射を行うときは、組成物に紫外線吸収剤が含まれていることが好ましい。
【0172】
仮固定層22の厚さは、特に限定されるものでなく、半導体ウェーハ21の材質、形状、用途、台座Bの材質、形状、及び半導体製品の用途等の1以上に応じて適宜選択できる。
【0173】
厚さの下限は、仮固定層22が仮固定層22としての機能(半導体ウェーハ21及び/又は台座Bとの粘着性、耐熱性)を発揮できる程度であれば、特に限定されない。
【0174】
厚さの上限は、組成物が無駄に消費されることを防ぎ、また、洗浄工程での洗浄を容易にできる程度であれば、特に限定されない。
【0175】
(ステップS3:台座上に半導体ウェーハを配置)
台座Bの仮固定層22がある面と半導体ウェーハ21の仮固定する面21aとが対向するよう、台座B上に半導体ウェーハ21を配置する位置合わせ工程(図5のステップS3)を行う。位置合わせ工程により、台座Bと半導体ウェーハ21とが、台座Bの仮固定層22がある面と半導体ウェーハ21の仮固定する面21aとが対向する仮固定に適した所定の位置関係で配置される。位置合わせ工程を行う方法は、特に限定されず、例えば、上述の仮接合装置を用いる方法等でよい。
【0176】
(ステップS4:台座と半導体ウェーハとを仮固定)
台座Bの仮固定層22がある面と半導体ウェーハ21の仮固定する面21aとを重ね合わせて台座Bと半導体ウェーハ21とを仮固定層22を介して仮固定する仮接合工程(図5のステップS4)を行う。仮接合工程により、半導体ウェーハ21が台座B上に仮固定される。これにより、各種の加工において半導体ウェーハ21が破損するリスクを軽減し得る。仮接合工程を行う方法は、特に限定されず、例えば、上述の仮接合装置を用いる方法等でよい。
【0177】
仮固定工程によって台座Bと半導体ウェーハ21とを仮固定した後に、仮固定された半導体ウェーハ21を加工する加工工程(図6のステップS5-S6)を行う。加工工程は、平面研磨工程(ステップS5)及び/又は回路形成工程(ステップS6)を含む。
【0178】
(ステップS5:半導体ウェーハを平面研磨)
仮固定された半導体ウェーハ21について、半導体ウェーハ21の仮固定層22を形成する面21aに対して反対側にある他方の面21bを平面研磨する平面研磨工程(図6のステップS5)を行うことが好ましい。平面研磨工程を行うことにより、より薄型の半導体製品を製造できる。より薄型の半導体製品を2.5次元積層パッケージ技術、3次元積層パッケージ技術等を用いて積層することにより、半導体製品の集積度をよりいっそう高め得る。
【0179】
平面研磨を行う方法は、特に限定されず、研磨装置Gを用いる方法等によって例示される従来技術の半導体ウェーハを平面研磨する方法でよい。
【0180】
平面研磨後における半導体ウェーハ21の厚さの下限は、半導体ウェーハ21が半導体ウェーハとしての機能(用途等に応じた強度、用途等に応じた回路パターンを実現可能な電気的特性等)を発揮できる程度であれば、特に限定されない。
【0181】
平面研磨後における半導体ウェーハ21の厚さの上限は、半導体ウェーハ21が半導体ウェーハとしての機能(用途等に応じた回路パターンを実現可能な電気的特性等)を発揮できる程度であれば、特に限定されない。
【0182】
(ステップS6:半導体ウェーハ上に回路を形成)
仮固定された半導体ウェーハ21について、半導体ウェーハ21の面21b上に感光性物質層R(図6の符号R21-R24等)及び/又は半導体酸化膜O(図6の符号O21-O24等)を含む第2の回路パターンC2を形成する回路形成工程(図6のステップS6)を行うことが好ましい。回路形成工程を行うことにより、面21b上に第2の回路パターンC2を有する半導体製品を製造できる。
【0183】
面Ba上に第1の回路パターンC1が形成されている場合、回路形成工程により、半導体ウェーハ21の2つの面に回路パターンC1及びC2がそれぞれ形成された、集積度がより高い半導体製品を提供できる。
【0184】
回路形成工程は、半導体ウェーハ21上に第2の回路パターンC2を形成する工程であれば特に限定されず、例えば、リソグラフィ処理及び/又はエッチング処理を含む工程でよい。
【0185】
回路形成工程がリソグラフィ処理を含む場合、回路形成工程は、感光性物質Rを溶解可能な溶解剤を用いて余分な感光性物質Rを除去する現像処理を含むことが好ましい。これにより、余分な感光性物質Rが除去され、半導体ウェーハ21上に第2の回路パターンC2が現れる。
【0186】
回路形成工程が現像処理を含む場合、回路形成工程は、半導体ウェーハ21を加熱するベーク処理を含むことが好ましい。これにより、余分な溶解剤が除去され、半導体ウェーハ21とフィルムフレーム及び/又は他の半導体製品等との密着性を高め得る。
【0187】
(その他の加工工程)
加工工程が含む工程として、平面研磨工程及び回路形成工程を例示したが、加工工程が含む工程はこれらの工程に限定されず、貫通ビア(Through Silicon Via、TSVとも称する。)を形成する貫通ビア形成工程、半導体ウェーハ21上にパワーデバイス(電源デバイスとも称する。)を形成するパワーデバイス形成工程、半導体ウェーハ21上に機械要素部品、センサ、及び/又はアクチュエータ等を形成する機械要素形成工程、半導体ウェーハ21上に発光ダイオード(light emitting diode、LEDとも称する。)を形成する発光ダイオード形成工程等の半導体製品製造に関する各種工程の1以上を含んでもよい。
【0188】
加工工程が貫通ビア形成工程を含むことにより、貫通ビアを用いた2.5次元積層パッケージ、3次元積層パッケージ等を容易に除去可能な組成物で仮固定して製造し、半導体製品の集積度をよりいっそう高めることと製造工程を効率化することとを両立し得る。
【0189】
加工工程がパワーデバイス形成工程を含むことにより、半導体ウェーハによって実現されたより高性能なパワーデバイスを含む半導体製品を容易に除去可能な組成物で仮固定して製造し、これらの半導体製品に関する製造工程を効率化し得る。
【0190】
加工工程が機械要素形成工程を含むことにより、機械要素部品、センサ、及び/又はアクチュエータと、半導体回路とを微細加工技術によって集積化したデバイスであるMEMS(Micro Electro Mechanical Systems、メムスとも称する。)を提供し得る。これにより、高周波スイッチ、共振器、電子ペーパ、マイクロバルブ、生化学分野で利用可能な分析チップ、各種のマイクロセンサ(例えば、圧力センサ、慣性センサ、マイクロフォン等)等によって例示される各種の微小サイズのデバイスを容易に除去可能な組成物で仮固定して製造し、これらのデバイスに関する製造工程を効率化提供し得る。
【0191】
加工工程が発光ダイオード形成工程を含むことにより、発光ダイオードを含む半導体製品を容易に除去可能な組成物で仮固定して製造し、これらの半導体製品に関する製造工程を効率化し得る。
【0192】
加工工程によって半導体ウェーハ21を加工した後に、加工された半導体ウェーハ21から台座Bを剥離する剥離工程(図7のステップS7)を行う。
【0193】
(ステップS7:半導体ウェーハを台座から剥離)
半導体ウェーハ21と台座Bとの間に形成される仮固定層22を80℃以上の水系材料(「洗浄液」とも称する。)Wに供し、半導体ウェーハ21を台座Bから剥離する剥離工程(図7のステップS7)を行う。剥離工程を行うことにより、台座Bから剥離した半導体ウェーハ21を半導体製品に加工し、提供し得る。
【0194】
洗浄液Wの種類は特に限定されないが、台座B及び半導体ウェーハ21の損傷防止を考慮すると、洗浄液Wは、中性域であることが好ましい。
【0195】
洗浄液Wの温度は、仮固定層22を容易に溶かすことができ、台座B及び半導体ウェーハ21に変形等の損傷が生じない程度であれば、特に限定されない。洗浄液Wは、60℃以上であり、80℃以上であることが好ましく、90℃以上であることがより好ましい。
【0196】
UV硬化樹脂及び/又は熱硬化樹脂等の従来技術の仮固定組成物を用いて半導体ウェーハを台座上に仮固定し、加工する方法では、仮固定した半導体ウェーハを加工後に台座から剥離する。仮固定した半導体ウェーハを台座から剥離する方法として、例えば、半導体ウェーハ及び/又は台座に力を加えて機械的に剥離する方法、仮固定組成物を加熱して剥離する方法、仮固定組成物にエネルギー線(例えば、紫外線、レーザ等)を照射して剥離する方法、仮固定組成物を除去可能な化学薬品を用いて剥離する方法等が知られている。
【0197】
機械的に剥離する方法では、加えられた力によって薄型半導体ウェーハが損傷するリスク、半導体ウェーハを損傷させずに剥離可能な力を加え得る装置に関するコスト増大等が懸念される。
【0198】
加熱して剥離する方法では、仮固定組成物の粘着性が失われる温度まで加熱するためのエネルギー消費、熱によって薄型半導体ウェーハが損傷するリスク、半導体ウェーハを損傷させずに加熱し得る装置に関するコスト増大等が懸念される。
【0199】
エネルギー線を照射して剥離する方法では、エネルギー線を照射する装置に関するコスト増大等が懸念される。また、エネルギー線を照射して剥離する方法では、台座がエネルギー線を透過可能な(半)透明の台座に限られるため、台座に関するコスト増大も懸念される。
【0200】
化学薬品を用いて剥離する方法では、化学薬品に関するコスト増大等が懸念される。特に、剥離に用いた後の化学薬品を安全に処理し、廃棄することによるコスト増大が大いに懸念される。
【0201】
本実施形態の方法により台座Bに仮固定された半導体ウェーハ21は、80℃以上の洗浄液Wに供することで台座Bから剥離可能であるため、半導体ウェーハ21を台座Bから容易に剥離することを可能とするのみならず、機械的に剥離する方法、加熱して剥離する方法、エネルギー線を照射して剥離する方法、及び化学薬品を用いて剥離する方法における半導体ウェーハが損傷するリスク及び/又はコスト増大等を防ぎ得る。本実施形態の方法では、化学薬品を用いることなく剥離できるため、化学薬品による環境汚染を防ぎ、環境問題の解決に貢献することも見込み得る。
【0202】
(ステップS8:半導体ウェーハを洗浄)
剥離した半導体ウェーハ21の少なくとも一方の面21aを80℃以上の洗浄液Wで洗浄する洗浄工程(図7のステップS8)を行うことが好ましい。洗浄工程を行うことにより、半導体ウェーハ21から仮固定層22を除去できる。本実施形態の組成物は、80℃以上の洗浄液Wで洗浄可能であるため、半導体ウェーハ21から仮固定層22を容易に除去できる。
【0203】
洗浄工程における洗浄液Wの種類及び温度は特に限定されず、剥離工程の洗浄液Wと同じでよい。
【実施例
【0204】
以下、本実施形態での試験例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0205】
<試験例>
〔試料の調製〕
[組成物の調製]
表1に記載の組成物を調製した。
【表1】
ビニルアルコール系共重合体:酢酸ビニルと(メタ)アクリル系単量体とを共重合して得られた酢酸ビニル系共重合体をけん化してなる共重合体。重量平均分子量:13,200超
【0206】
組成物の物性は、表2のとおりであった。
【表2】
【0207】
[硬化膜の形成]
物理蒸着装置(PVD装置;Physical Vapor Deposition)に用いる防着板の表面全体に組成物を塗布し、乾燥させることで、防着板の表面に硬化膜を形成させた。防着板の形状は、図8のとおりであり、表面全体が凹凸形状であるとともに、略中央の一側方に穴が設けられていた。また、防着板の材質は、SUS304であった。
【0208】
〔デポ膜の形成〕
表面全体に硬化膜が形成された防着板を物理蒸着装置(PVD装置)の所定位置に装着し、蒸着処理を行った。蒸着は、酸化インジウムスズ(ITO)、銅、白金の3種類で行った。防着板の表面には、蒸着反応の反応生成物が堆積する。これによって、防着板の表面にデポ膜が形成された。デポ膜形成後の防着板全体を、それぞれ実施例1~3に係る各試料とした。実施例1~3の詳細を表3に示す。
【表3】
【0209】
〔評価〕
[硬化膜の粘着力]
硬化膜の粘着力は、硬化後におけるJIS K 6850に準拠した方法により測定される23.5℃におけるSUS304に対する引張せん断接着強さによって評価した。評価は、埼玉県産業技術総合センターにて行った。
【0210】
試験機として、万能材料試験機AG-1 100kN(島津製作所製)を使用した。試験片を設置し、試験片に引張荷重を加えた。つかみ具間距離は、112.5mm、試験速度は、1mm/minとした。試験片は、JIS K 6850に準ずる。
【0211】
5サンプルについて試験した結果、引張せん断接着強さの平均値は、3.0N/mmであり、最大値は、3.6N/mmであり、最小値は、2.8N/mmであった。
【0212】
[硬化膜の耐熱性]
硬化膜の耐熱性は、熱重量分析(TGA;Thermal Gravimetric Analysis)によって評価した。試験例で得た組成物を100℃で60分加熱して、硬化物を得た。得られた硬化物を30℃まで自然冷却した後、示差熱熱重量同時測定装置(装置名:TGA Q500,ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社社製)を用いて、常圧の4N5 N2ガス、流量60ml/minの雰囲気下で、温度範囲30℃から800℃、昇温速度10℃/分の条件で測定することにより、組成物の重量損失を測定した。結果を図9に示す。
【0213】
図9の横軸は温度であり、左側の縦軸は重量(単位:%)であり、右側の縦軸は微分重量(単位:%/℃)である。図9において、実線は、温度と重量との関係を示し、破線は、温度と微分重量との関係を示す。
【0214】
図9より、303.1℃での組成物の重量損失が30℃での組成物の重量に対して1.000%であり、350.65℃での組成物の重量損失が30℃での組成物の重量に対して3.000%であることが確認された。図9から、本試験例で使用した硬化膜は、レーザー加工、微細穴加工、プリント配線の平坦加工、及び蒸着処理等での表面保護に求められるだけの十分な耐熱性を有するといえる。
【0215】
[温水をかけたときの剥離容易性]
図4に示した洗浄槽61の内部に80℃の温水を入れ、実施例1~3に係る試料をそれぞれ温水に浸した。そして、高周波電力供給装置62から振動子63に高周波電力を供給した。実施例1~3のいずれについても、高周波電力を供給してから5分後には、デポ膜が防着板から剥がれ、また、デポ膜は膜の状態を保っていた。また、デポ膜、防着板のいずれについても糊残りがなかった。
【符号の説明】
【0216】
1 第1被加工物
1A 第1加工面
2 第1保護膜
11 第2被加工物
11A 第2加工面
11B 対向面
12 第2保護膜
21 半導体ウェーハ
21a 仮固定する面
21b 他方の面
22 仮固定層
50 ドリル
60 洗浄装置
61 洗浄槽
62 高周波電力供給装置
63 振動子
B 台座
C1 第1の回路パターン
C2 第1の回路パターン
D1 デブリ
D2 デブリ
F 集光点
G 研磨装置
H 下穴
L レーザー光
O 半導体酸化膜
R 感光性物質層
S 超音波
W 洗浄液

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9