(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-30
(45)【発行日】2025-06-09
(54)【発明の名称】ヒト化抗DNAM-1抗体
(51)【国際特許分類】
C07K 16/28 20060101AFI20250602BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20250602BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20250602BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20250602BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20250602BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20250602BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20250602BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20250602BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20250602BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20250602BHJP
【FI】
C07K16/28
C07K16/46
C12N15/13 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/21
C12N1/15
C12N1/19
C12N5/10
A61K39/395 H
A61P37/06
(21)【出願番号】P 2023567486
(86)(22)【出願日】2021-12-17
(86)【国際出願番号】 JP2021046786
(87)【国際公開番号】W WO2023112317
(87)【国際公開日】2023-06-22
【審査請求日】2024-09-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(73)【特許権者】
【識別番号】518096021
【氏名又は名称】TNAX Biopharma株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 彰
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 和子
(72)【発明者】
【氏名】金丸 由美
(72)【発明者】
【氏名】阿部 史枝
【審査官】白井 美香保
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/183665(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/140787(WO,A1)
【文献】YAMASHITA-KANEMARU Y. et al.,MONOCLONAL ANTIBODIES IN IMMUNODIAGNOSIS AND IMMUNOTHERAPY,2021年04月,Vol.40, No.2,pp.52-59
【文献】Immunity,2020年,Vol.52,pp.96-108
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAPLUS/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記アミノ酸配列を含む重鎖可変領域;
HCDR1として配列番号1のアミノ酸配列、HCDR2として配列番号2のアミノ酸配列、およびHCDR3として配列番号3のアミノ酸配列、ならびに
下記アミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
LCDR1として配列番号4のアミノ酸配列、LCDR2として配列番号5のアミノ酸配列、およびLCDR3として配列番号6のアミノ酸配列、
を有する、ヒト化抗DNAM-1抗体またはその抗原結合断片であって、
前記重鎖可変領域が配列番号10と
95%以上同一のアミノ酸配列を有し、かつ、
前記軽鎖可変領域が配列番号11と
95%以上同一のアミノ酸配列を有
し、
前記重鎖可変領域の配列番号10の配列に対応するアミノ酸位置49番目、72番目のアミノ酸残基がそれぞれM、Rであり、前記軽鎖可変領域の配列番号11の配列に対応するアミノ酸位置67番目のアミノ酸残基がYである、ヒト化抗DNAM-1抗体またはその抗原結合断片。
【請求項2】
前記重鎖可変領域が配列番号10と99%以上同一のアミノ酸配列を有し、
前記軽鎖可変領域が配列番号11と99%以上同一のアミノ酸配列を有する、請求項1に記載のヒト化抗DNAM-1抗体またはその抗原結合断片。
【請求項3】
前記軽鎖可変領域が配列番号11のアミノ酸配列を有する、請求項1
または2に記載のヒト化抗DNAM-1抗体またはその抗原結合断片。
【請求項4】
前記重鎖可変領域が配列番号10のアミノ酸配列を有し、かつ、
前記軽鎖可変領域が配列番号11のアミノ酸配列を有する、請求項
3に記載のヒト化抗DNAM-1抗体またはその抗原結合断片。
【請求項5】
前記重鎖可変領域が配列番号9のアミノ酸配列を有し、かつ、
前記軽鎖可変領域が配列番号11のアミノ酸配列を有する、請求項
3に記載のヒト化抗DNAM-1抗体またはその抗原結合断片。
【請求項6】
前記抗体が、IgG、IgM、IgA、IgD、及びIgEからなる群から選ばれるクラスの重鎖定常領域を含む、請求項1~
5のいずれか1項に記載のヒト化抗DNAM-1抗体またはその抗原結合断片。
【請求項7】
前記重鎖定常領域がヒトIgG1定常領域である、請求項
6に記載のヒト化抗DNAM-1抗体またはその抗原結合断片。
【請求項8】
前記ヒトIgG1定常領域が、エフェクター機能を消失させる1以上の変異を有する、請求項
7に記載のヒト化抗DNAM-1抗体またはその抗原結合断片。
【請求項9】
前記1以上の変異が、配列番号14の配列に対応するアミノ酸位置238番目および239番目のそれぞれにアミノ酸A又はFを含む、請求項
8に記載のヒト化抗DNAM-1抗体またはその抗原結合断片。
【請求項10】
前記1以上の変異が、配列番号14の配列に対応するアミノ酸位置238番目および239番目のそれぞれにアミノ酸Aを含む、請求項
8に記載のヒト化抗DNAM-1抗体またはその抗原結合断片。
【請求項11】
配列番号14と95%以上同一のアミノ酸配列を有する重鎖および配列番号15と95%以上同一のアミノ酸配列を有する軽鎖を有する、請求項1~
10のいずれか1項に記載のヒト化抗DNAM-1抗体またはその抗原結合断片。
【請求項12】
前記重鎖が配列番号14のアミノ酸配列を有し、かつ、
前記軽鎖が配列番号15のアミノ酸配列を有する、請求項
11に記載のヒト化抗DNAM-1抗体。
【請求項13】
請求項1~
12のいずれか一項に記載のヒト化抗DNAM-1抗体またはその抗原結合断片をコードする核酸。
【請求項14】
請求項
13に記載の核酸を含有するベクター。
【請求項15】
請求項
14に記載のベクターをトランスフェクションされた宿主細胞。
【請求項16】
請求項1~
12のいずれか一項に記載のヒト化抗DNAM-1抗体またはその抗原結合断片を含む、自然リンパ球細胞の活性化を抑制する方法に使用するための組成物。
【請求項17】
請求項1~
12のいずれか一項に記載のヒト化抗DNAM-1抗体またはその抗原結合断片を含む、炎症性腸疾患、移植片対宿主病、臓器移植拒絶、自己免疫疾患、線維化疾患、炎症性腸炎、またはアレルギーの治療または予防に使用するための組成物。
【請求項18】
請求項1~
12のいずれか一項に記載のヒト化抗DNAM-1抗体またはその抗原結合断片を含む、炎症性腸疾患の治療に使用するための組成物。
【請求項19】
前記炎症性腸疾患が、潰瘍性大腸炎である、請求項
18に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト化抗DNAM-1抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
DNAM-1は、CD226とも呼ばれる分子量65kDaの免疫グロブリンスーパーファミリーに属する接着分子であり、CD4+T細胞、CD8+T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、血小板などの造血系細胞に発現する活性化免疫受容体として同定された。
DNAM-1は、そのリガンドであるCD155またはCD112と結合すると、細胞傷害性のための活性化シグナルを媒介する。DNAM-1は、ヒトやマウスモデルにおいて、様々な炎症性疾患や癌の病態に関与していることが示されている。そして、抗マウスDNAM-1モノクローナル抗体は、マウスにおける実験的自己免疫脳炎および急性移植片対宿主病(GVHD)の発症を抑制すること、制御性T(Treg)細胞集団を増加させ、その結果、マウスの皮膚移植片の生存期間を延長させること等が報告されている。これらの報告から、抗DNAM-1モノクローナル抗体はこれらの疾患に有用であると考えられている。
本発明者らは、以前にマウス抗ヒトDNAM-1モノクローナル抗体を樹立した(特許文献1)。また、ヒト化抗DNAM-1抗体についても報告している(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Yumi Yamashita-Kanemaru et.al., Suppression of Th1 and Th17 Proinflammatory Cytokines and Upregulation of FOXP3 Expression by a Humanized Anti-DNAM-1 Monoclonal Antibody, MONOCLONAL ANTIBODIES IN IMMUNODIAGNOSIS AND IMMUNOTHERAPY, Volume 40, Number 2, 2021
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のマウス抗ヒトDNAM-1モノクローナル抗体は、制御性T細胞を活性化して免疫反応を抑制することから、移植片対宿主病、臓器移植拒絶、自己免疫疾患、線維化疾患、炎症性腸炎、アレルギー等の予防または治療に使用できるとされている。しかし、特許文献1で樹立されたのはマウス抗体に過ぎず、ヒトにおける治療的価値の点等で、改善の余地が残されていた。
また、ヒト化抗体は、一般的に、その親マウス抗体に比べて標的とする抗原への結合性が低下する、抗原への結合性を維持すると免疫原性が上がりやすい点等で改善の余地があった。
そこで、本発明者らは、新規なマウス抗ヒトDNAM-1モノクローナル抗体を取得し、ヒトにおける治療的価値の高いヒト化抗DNAM-1抗体を作製しようと考えた。
本発明は、ヒトDNAM-1に特異的に結合するヒト化抗DNAM-1抗体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、以下の構成を有することにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、例えば以下の〔1〕~〔10〕に関する。
〔1〕 下記アミノ酸配列を含む重鎖可変領域;
HCDR1として配列番号1のアミノ酸配列、HCDR2として配列番号2のアミノ酸配列、およびHCDR3として配列番号3のアミノ酸配列、ならびに
下記アミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
LCDR1として配列番号4のアミノ酸配列、LCDR2として配列番号5のアミノ酸配列、およびLCDR3として配列番号6のアミノ酸配列、
を有する、ヒト化抗DNAM-1抗体またはその抗原結合断片。
〔2〕 配列番号10と95%以上同一のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域および配列番号11と95%以上同一のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を有する、〔1〕に記載のヒト化抗DNAM-1抗体またはその抗原結合断片。
〔3〕 配列番号10のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域および配列番号11のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、または
配列番号9のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域および配列番号11のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、
を有する、〔1〕または〔2〕に記載のヒト化抗DNAM-1抗体またはその抗原結合断片。
〔4〕 重鎖の238番目および239番目のアミノ酸残基がAである、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のヒト化抗DNAM-1抗体またはその抗原結合断片。
〔5〕 配列番号14と95%以上同一のアミノ酸配列を有する重鎖および配列番号15と95%以上同一のアミノ酸配列を有する軽鎖を有する、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のヒト化抗DNAM-1抗体またはその抗原結合断片。
〔6〕 配列番号14のアミノ酸配列を有する重鎖および配列番号15のアミノ酸配列を有する軽鎖、または
配列番号13のアミノ酸配列を有する重鎖および配列番号15のアミノ酸配列を有する軽鎖
を有する、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のヒト化抗DNAM-1抗体。
〔7〕 〔1〕~〔6〕のいずれかに記載のヒト化抗DNAM-1抗体またはその抗原結合断片をコードする核酸。
〔8〕 〔7〕に記載の核酸を含有するベクター。
〔9〕 〔8〕に記載のベクターを含有する形質転換体。
〔10〕 〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載のヒト化抗DNAM-1抗体またはその抗原結合断片を含む、自然リンパ球(ILC)の活性化抑制剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ヒト化抗DNAM-1抗体を提供することができる。また、自然リンパ球(ILC)の活性化抑制剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、mAKB1のヒトDNAM-1との結合性を解析した結果を示す。
【
図2】
図2は、mAKB1とそのヒト化抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列を示す。復帰変異したアミノ酸残基を太字で、CDRを下線で示す。
【
図3】
図3は、mAKB1とそのヒト化抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列を示す。復帰変異したアミノ酸残基を太字で、CDRを下線で示す。
【
図4】
図4は、hAKB1-A、hAKB1-B、hAKB1-C、およびhAKB1-DのヒトDNAM-1との結合性を解析した結果を示す。
【
図5】
図5は、hAKB1-AおよびhAKB1-BのヒトDNAM-1との結合性を解析した結果を示す。
【
図6】
図6は、hAKB1-Aの重鎖コーディング領域の塩基配列を示す。
【
図7】
図7は、hAKB1-Bの重鎖コーディング領域の塩基配列を示す。
【
図8】
図8は、hAKB1-AおよびhAKB1-Bの軽鎖コーディング領域の塩基配列を示す。
【
図9】
図9は、hAKB1-Aの重鎖、hAKB1-Bの重鎖、ならびにhAKB1-AおよびhAKB1-Bの軽鎖のアミノ酸配列を示す。
【
図10】
図10は、hTKB1重鎖コーディング領域の塩基配列を示す。
【
図11】
図11は、hTKB1軽鎖コーディング領域の塩基配列を示す。
【
図12】
図12は、hTKB1の重鎖および軽鎖のアミノ酸配列を示す。
【
図13A】
図13Aは、肺の自然リンパ球(ILC)におけるDNAM-1の発現を検討した結果を示す。
【
図13B】
図13Bは、小腸の自然リンパ球(ILC)におけるDNAM-1の発現を検討した結果を示す。
【
図14】
図14は、野生型マウスおよびDNAM-1遺伝子欠損マウスを用いて、ILCにおけるサイトカインの発現量を解析した結果を示す。
【
図15】
図15は、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)の自然リンパ球(ILC)におけるDNAM-1の発現を検討した結果を示す図である。
【
図16】
図16は、自然リンパ球(ILC)におけるサイトカイン産生にmAKB1、hAKB1-A、hAKB1-B、およびhTKB1が与える影響を検討した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に本発明について具体的に説明する。
[ヒト化抗DNAM-1抗体]
ヒト化抗DNAM-1抗体とは、ヒトDNAM-1を特異的に認識する、ヒト化抗体の意味で用いる。特異的に認識するとは、ヒトDNAM-1タンパク質には結合するが、ヒトDNAM-1タンパク質以外には結合しないことを意味する。前記結合活性は、公知の方法、例えば免疫沈降法、ウェスタンブロッティング、EIA(enzyme immunoassay)、ELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)、フローサイトメトリー、プルダウンアッセイ等の方法により測定することができる。
【0010】
ヒト化抗体とは、可変領域が原則、ヒト以外の抗体由来の相補決定領域(CDR)とヒト抗体由来のフレームワーク領域(FR)とからなり、定常領域がヒト抗体由来の定常領域からなる抗体である。
【0011】
本発明の一態様であるヒト化抗DNAM-1抗体は、
下記アミノ酸配列を含む重鎖可変領域;HCDR1として配列番号1のアミノ酸配列、HCDR2として配列番号2のアミノ酸配列、およびHCDR3として配列番号3のアミノ酸配列、ならびに
下記アミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;LCDR1として配列番号4のアミノ酸配列、LCDR2として配列番号5のアミノ酸配列、およびLCDR3として配列番号6のアミノ酸配列を有する。前記ヒト化抗DNAM-1抗体をヒト化抗DNAM-1抗体(A)と称する。
HCDRとは重鎖のCDRであり、LCDRとは軽鎖のCDRである。
【0012】
ヒト化抗DNAM-1抗体(A)は、ヒトDNAM-1とそのリガンドとの結合を阻害する抗体でも、ヒトDNAM-1とそのリガンドとの結合を阻害しない抗体であってもよいが、ヒトDNAM-1とそのリガンドとの結合を阻害する抗体が好ましい。また、ヒト化抗DNAM-1抗体(A)は、ヒトDNAM-1のシグナル伝達を阻害または低減する抗体(中和抗体)でも、ヒトDNAM-1のシグナル伝達を変化させない抗体でも、ヒトDNAM-1のシグナル伝達を促進する抗体(アゴニスティック抗体)であってもよいが、ヒトDNAM-1のシグナル伝達を阻害または低減する抗体(中和抗体)が好ましい。
【0013】
ヒト化抗DNAM-1抗体(A)のクラスおよびサブクラスは、本発明の効果が発揮される限り特に制限されず、IgG、IgM、IgA、IgD、IgEのいずれであってもよいが、好ましくはIgGであり、より好ましくはIgG1である。ヒト化抗DNAM-1抗体(A)の重鎖は、γ、μ、α、δ、およびεのいずれであってもよいが、好ましくはγ、より好ましくはγ1である。ヒト化抗DNAM-1抗体(A)の軽鎖は、κおよびλのいずれであってもよいが、好ましくはκである。
【0014】
ヒト化抗DNAM-1抗体(A)は、形質転換体が産生した抗体または形質転換体の培養上清等をそのまま用いてもよいし、精製してから用いてもよい。精製は、例えば、飽和硫酸アンモニウム、イオン交換クロマトグラフィー(DEAEまたはDE52等)、抗イムノグロブリンカラムあるいはプロテインAカラム、プロテインGカラム等のアフィニティカラムクロマトグラフィーに供することにより行うことができる。
【0015】
ヒト化抗DNAM-1抗体(A)は、マルチスペシフィック抗体、リサイクリング抗体、スイーピング抗体、コンジュゲート抗体等であってもよい。また、ヒト化抗DNAM-1抗体は、ポリエチレングリコール(PEG)等の非ペプチド性ポリマー、放射性物質、毒素、低分子化合物、サイトカイン、成長因子、アルブミン、酵素、他の抗体などの機能分子を化学的または遺伝子工学的に結合していてもよい。これらは、公知の方法により製造することができる。
【0016】
ヒト化抗DNAM-1抗体(A)の製造方法は特に制限されず、公知の方法で製造することができる。例えば、ヒト化抗DNAM-1抗体(A)は、ヒト化抗DNAM-1抗(A)体をコードする核酸を含有するベクターを宿主細胞にトランスフェクションして形質転換体を作製し、その形質転換体にヒト化抗DNAM-1抗体(A)を産生させることにより得ることができる。
【0017】
ヒト化抗DNAM-1抗体(A)のアミノ酸配列は、HCDR1~HCDR3以外の領域およびLCDR1~LCDR3以外の領域においては、ヒトDNAM-1を特異的に認識する限り、特に制限されない。
【0018】
ヒト化抗DNAM-1抗体(A)は、好ましくは、重鎖可変領域のHCDR1~HCDR3以外の領域において、および/または、軽鎖可変領域のLCDR1~LCDR3以外の領域において、アミノ酸残基の復帰変異を有してもよい。
アミノ酸残基の復帰変異とは、マウス抗体のフレームワークに見られる対応するアミノ酸残基へのヒト抗体フレームワークに見られる単一アミノ酸残基の置換を指す。適切なアミノ酸残基の復帰変異により、低い免疫原性と抗原への高い結合性とを両立することができる。
【0019】
重鎖可変領域におけるアミノ酸残基の復帰変異は、好ましくは1~6個、より好ましくは1~3個である。軽鎖可変領域におけるアミノ酸残基の復帰変異は、好ましくは、1~5個、より好ましくは1~2個である。
ヒト化抗DNAM-1抗体(A)は、好ましくは、重鎖可変領域のHCDR1~HCDR3以外の領域において、1~3個のアミノ酸残基の復帰変異を有し、軽鎖可変領域のLCDR1~LCDR3以外の領域において、アミノ酸残基の復帰変異を有さない。
【0020】
復帰変異させるアミノ酸残基は、可変領域内において、非共有結合的に直接抗原と結合するアミノ酸残基、CDR領域と隣接しているアミノ酸残基、CDR領域と相互作用するアミノ酸残基、又はVL-VHインターフェースに関与しているアミノ酸残基から選ぶことができる。
重鎖可変領域におけるアミノ酸残基の復帰変異は、好ましくは、HCDR1、HCDR2、またはHCDR3の前後5アミノ酸、より好ましくは2アミノ酸の範囲内において行われる。
【0021】
重鎖可変領域におけるアミノ酸残基の復帰変異は、好ましくは、重鎖可変領域の49番目および72番目から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸残基において行われる。軽鎖可変領域におけるアミノ酸残基の復帰変異は、好ましくは、軽鎖可変領域の67番目のアミノ酸残基において行われる。
ヒト化抗DNAM-1抗体(A)は、より好ましくは、重鎖可変領域の49番目および72番目のアミノ酸残基、並びに軽鎖可変領域の67番目のアミノ酸残基において復帰変異を有する。
なお、本明細書において、X番目のアミノ酸残基とは、シグナルペプチドを含めずに、タンパク質のN末端から数えてX番目を意味する。
【0022】
重鎖可変領域におけるアミノ酸残基の復帰変異は、好ましくは、重鎖可変領域の49番目のアミノ酸残基をM、72番目のアミノ酸残基をRとするものである。軽鎖可変領域におけるアミノ酸残基の復帰変異は、好ましくは、軽鎖可変領域の67番目のアミノ酸残基をYとするものである。
ヒト化抗DNAM-1抗体(A)は、より好ましくは、重鎖可変領域において、I49M、およびV72R、並びに軽鎖可変領域において、S67Yの復帰変異を有する。
【0023】
ヒト化抗DNAM-1抗体(A)は、好ましくは、配列番号10と90%以上、93%以上、95%以上、97%以上、98%以上、99%以上同一のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および配列番号11と90%以上、93%以上、95%以上、97%以上、98%以上、99%以上同一のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を有する。
【0024】
配列同一性のパーセンテージは、Kabat番号付け規則によって最大限に整列配置した抗体の配列によって決定される。アライメントの後、対象の抗体領域(例えば軽鎖可変領域)と、対照抗体の同じ領域とを比較する場合、対象の抗体領域と対照抗体領域との間における配列同一性のパーセントは、対象の抗体領域と対照抗体領域の両方において同じアミノ酸によって占められる位置の数を、2つの領域においてアライメントされた位置の総数(ギャップは数に入れない)で割り、100を掛けることでパーセントを算出する。
【0025】
ヒト化抗DNAM-1抗体(A)は、配列番号10のアミノ酸配列のうち、HCDR1~HCDR3以外の領域において、1~6個のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列であって、配列番号10と少なくとも95%以上同一であるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および配列番号11のアミノ酸配列のうち、LCDR1~LCDR3以外の領域において、1~5個のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列であって、配列番号11と少なくとも95%以上同一であるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を有する抗体であってもよい。アミノ酸残基の変異とは、単一アミノ酸残基の置換、挿入、または欠失を意味する。
【0026】
ヒト化抗DNAM-1抗体(A)は、配列番号10のアミノ酸配列のうち、HCDR1~HCDR3以外の領域において、1~3個のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列であって、配列番号10と少なくとも97%以上同一であるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および配列番号11のアミノ酸配列のうち、LCDR1~LCDR3以外の領域において、1~3個のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列であって、配列番号11と少なくとも97%以上同一であるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を有する抗体であってもよい。
【0027】
アミノ酸残基の変異は、置換、挿入、欠失のうち、置換が好ましく、保存的置換がより好ましい。「保存的置換」とは、ペプチドの活性を実質的に改変しないように、アミノ酸残基を、別の化学的に類似したアミノ酸残基で置換えることである。例えば、ある疎水性残基を別の疎水性残基によって置換する場合、ある極性残基を同じ電荷を有する別の極性残基によって置換する場合等が挙げられる。このような置換を行うことができる、化学的に類似したアミノ酸の例として、非極性(疎水性)アミノ酸としては、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、プロリン、トリプトファン、フェニルアラニン、メチオニン等が挙げられる。極性(中性)アミノ酸としては、グリシン、セリン、スレオニン、チロシン、グルタミン、アスパラギン、システイン等が挙げられる。陽電荷をもつ(塩基性)アミノ酸としては、アルギニン、ヒスチジン、リジン等が挙げられる。また、負電荷をもつ(酸性)アミノ酸としては、アスパラギン酸、グルタミン酸等が挙げられる。
【0028】
ヒト化抗DNAM-1抗体(A)は、好ましくは、配列番号10と95%以上同一のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域および配列番号11と95%以上同一のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を有し、前記重鎖可変領域の49番目、72番目のアミノ酸残基がそれぞれM、Rであり、前記軽鎖可変領域の67番目のアミノ酸残基がYである。
【0029】
ヒト化抗DNAM-1抗体(A)は、好ましくは、配列番号10のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域および配列番号11のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、または配列番号9のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域および配列番号11のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、を有する。
【0030】
ヒト化抗DNAM-1抗体(A)は、好ましくは、IgG抗体のエフェクター機能を消失させるためのアミノ酸残基の変異を有する。
IgG抗体のエフェクター機能を消失させるためのアミノ酸残基の変異としては、例えば、重鎖の定常領域において、V(バリン)、L(ロイシン)、I(イソロイシン)等の分枝鎖アミノ酸;P(プロリン)、M(メチオニン)、W(トリプトファン)等の疎水性アミノ酸;またはY(チロシン)、S(セリン)、T(スレオニン)等のリン酸化されてシグナル伝達に関与するアミノ酸;をA(アラニン)またはF(フェニルアラニン)に置換する変異が挙げられるが、好ましくは、LをAまたはFに置換する変異であり、より好ましくは、2つ連続するLをAA、FF、AF、又はFAに置換する変異である。
ヒト化抗DNAM-1抗体(A)は、重鎖の238番目および239番目のアミノ酸残基が好ましくはAまたはFであり、より好ましくはどちらもAである。このようなヒト化抗DNAM-1抗体(A)は、IgG抗体のエフェクター機能を消失させ、血小板を凝集させにくいため、ヒト疾患の治療に有用である。
【0031】
ヒト化抗DNAM-1抗体(A)は、好ましくは、配列番号14と90%以上、93%以上、95%以上、97%以上、98%以上、99%以上同一のアミノ酸配列を有する重鎖および配列番号15と90%以上、93%以上、95%以上、97%以上、98%以上、99%以上同一のアミノ酸配列を有する軽鎖を有する。
【0032】
ヒト化抗DNAM-1抗体(A)は、好ましくは配列番号14のアミノ酸配列のうち、HCDR1~HCDR3以外の領域において、1~22個のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列であって、配列番号14と少なくとも95%以上同一であるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および配列番号15のアミノ酸配列のうち、LCDR1~LCDR3以外の領域において、1~10個のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列であって、配列番号15と少なくとも95%以上同一であるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を有する抗体である。
【0033】
ヒト化抗DNAM-1抗体(A)は、好ましくは、配列番号14のアミノ酸配列のうち、HCDR1~HCDR3以外の領域において、1~13個のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列であって、配列番号14と少なくとも97%以上同一であるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および配列番号15のアミノ酸配列のうち、LCDR1~LCDR3以外の領域において、1~6個のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列であって、配列番号15と少なくとも97%以上同一であるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を有する抗体である。
【0034】
ヒト化抗DNAM-1抗体(A)は、好ましくは、配列番号14と95%以上同一のアミノ酸配列を有する重鎖および配列番号15と95%以上同一のアミノ酸配列を有する軽鎖を有し、前記重鎖の可変領域の49番目、72番目のアミノ酸残基がそれぞれM、Rであり、前記軽鎖の可変領域の67番目のアミノ酸残基がYである。
【0035】
ヒト化抗DNAM-1抗体(A)は、好ましくは、配列番号14のアミノ酸配列を有する重鎖および配列番号15のアミノ酸配列を有する軽鎖、または、配列番号13のアミノ酸配列を有する重鎖および配列番号15のアミノ酸配列を有する軽鎖を有する。
【0036】
[ヒト化抗DNAM-1抗体の抗原結合断片]
ヒト化抗DNAM-1抗体の抗原結合断片とは、ヒト化抗DNAM-1抗体(A)の一部分を含むタンパク質であり、抗原に結合できるものをいう。抗原結合断片としては、例えば、F(ab’)2、Fab’、Fab、ジスルフィド結合安定化Fv(dsFv)、一本鎖抗体(scFv)、diabodyおよびこれらの重合体等が挙げられる。
【0037】
Fabは、IgGをパパイン(タンパク質分解酵素)で処理して得られる断片のうち、分子量約5万の抗原結合活性を有する抗体断片である。ヒト化抗DNAM-1抗体のFabは、ヒト化抗DNAM-1抗体をパパインで処理するか、前記抗体のFabをコードするDNAを発現ベクターに挿入し、このベクターを原核生物あるいは真核生物へ導入して発現させることで、作製することができる。
【0038】
F(ab')2は、IgGをペプシン(タンパク質分解酵素)で処理して得られる断片のうち、分子量約10万の抗原結合活性を有する抗体断片である。ヒト化抗DNAM-1抗体のF(ab')2は、ヒト化抗DNAM-1抗体をペプシンで処理するか、Fab'(後述)をチオエーテル結合またはジスルフィド結合で結合させることで、作製することができる。
【0039】
Fab'は、F(ab')2のヒンジ領域のジスルフィド結合を切断した分子量約5万の抗原結合活性を有する抗体断片である。ヒト化抗DNAM-1抗体のFab'は、ヒト化抗DNAM-1抗体のF(ab')2をジチオスレイトールで処理するか、前記抗体のFab'をコードするDNAを発現ベクターに挿入し、このベクターを原核生物または真核生物へ導入して発現させることで、作製することができる。
【0040】
scFvは、1本のVHと1本のVLとを適当なペプチドリンカーを用いて連結した抗原結合活性を有する抗体断片である。ヒト化抗DNAM-1抗体のscFvは、ヒト化抗DNAM-1抗体のVHおよびVLをコードするcDNAを取得し、scFvをコードするDNAを構築し、このDNAを発現ベクターに挿入し、この発現ベクターを原核生物または真核生物へ導入して発現させることで、作製することができる。
【0041】
diabodyは、scFvが二量体化した抗体断片で、二価の抗原結合活性を有する抗体断片である。ヒト化抗DNAM-1抗体のdiabodyは、ヒト化抗DNAM-1抗体のVHおよびVLをコードするcDNAを取得し、diabodyをコードするDNAを構築し、このDNAを発現ベクターに挿入し、この発現ベクターを原核生物または真核生物へ導入して発現させることで、作製することができる。
【0042】
dsFvは、VHおよびVL中のそれぞれ1アミノ酸残基をシステイン残基に置換したポリペプチドを、システイン残基間のジスルフィド結合を介して結合させた抗体断片である。ヒト化抗DNAM-1抗体のdsFvは、ヒト化抗DNAM-1抗体のVHおよびVLをコードするcDNAを取得し、dsFvをコードするDNAを構築し、このDNAを発現ベクターに挿入し、この発現ベクターを原核生物または真核生物へ導入して発現させることで、作製することができる。
【0043】
抗原結合断片は、ポリエチレングリコール(PEG)等の非ペプチド性ポリマー、放射性物質、毒素、低分子化合物、サイトカイン、成長因子、アルブミン、酵素、他の抗体などの機能分子を化学的または遺伝子工学的に結合していてもよい。
抗原結合断片は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、ヒト化抗DNAM-1抗体とその抗原結合断片を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
[ヒト化抗DNAM-1抗体またはその抗原結合断片をコードする核酸]
本発明の一態様は、ヒト化抗DNAM-1抗体(A)またはその抗原結合断片をコードする核酸である。
このような核酸としては、例えば、ヒト化抗DNAM-1抗体(A)の重鎖可変領域をコードする核酸、ヒト化抗DNAM-1抗体(A)の軽鎖可変領域をコードする核酸、ヒト化抗DNAM-1抗体(A)の重鎖可変領域および定常領域の一部をコードする核酸、ヒト化抗DNAM-1抗体(A)の軽鎖可変領域および定常領域の一部をコードする核酸、ヒト化抗DNAM-1抗体(A)の重鎖全長をコードする核酸、ヒト化抗DNAM-1抗体(A)の軽鎖全長をコードする核酸、ヒト化抗DNAM-1抗体(A)の重鎖可変領域と軽鎖可変領域とを適切なリンカーで連結したscFvをコードする核酸等が挙げられる。
前記核酸は、公知の遺伝子工学的手法を用いて製造することができる。
【0045】
ヒト化抗DNAM-1抗体(A)またはその抗原結合断片をコードする核酸には、シグナルペプチドをコードする核酸を付加することが好ましい。適切なアミノ酸配列のシグナルペプチドを付加することにより、ヒト化抗DNAM-1抗体(A)またはその抗原結合断片の細胞における発現量または培養上清に分泌される抗体または抗原結合断片の量を増やすことができる。
【0046】
シグナルペプチドのアミノ酸配列は、特に制限されないが、重鎖においては、好ましくは配列番号28、配列番号29、配列番号31に記載のアミノ酸配列であり、より好ましくは配列番号31に記載のアミノ酸配列である。シグナルペプチドのアミノ酸配列は、軽鎖においては、好ましくは配列番号30、配列番号32に記載のアミノ酸配列であり、より好ましくは配列番号32に記載のアミノ酸配列である。
【0047】
シグナルペプチドが付加された重鎖全長をコードする核酸は、好ましくは配列番号16、配列番号17、配列番号24に記載のアミノ酸配列をコードする核酸、より好ましくは配列番号24に記載のアミノ酸配列をコードする核酸、さらに好ましくは、配列番号19または配列番号20、配列番号26に記載の塩基配列からなる核酸、特に好ましくは配列番号26に記載の塩基配列からなる核酸である。
シグナルペプチドが付加された軽鎖全長をコードする核酸は、好ましくは配列番号18、配列番号25に記載のアミノ酸配列をコードする核酸、より好ましくは配列番号25に記載のアミノ酸配列をコードする核酸、さらに好ましくは、配列番号21または配列番号27に記載の塩基配列からなる核酸であり、特に好ましくは配列番号27に記載の塩基配列からなる核酸である。
【0048】
[核酸を含有するベクター]
本発明の一態様は、ヒト化抗DNAM-1抗体(A)またはその抗原結合断片をコードする核酸を含有するベクターである。換言すると、ヒト化抗DNAM-1抗体(A)またはその抗原結合断片をコードする核酸を組み込んだ、組み換えベクターである。
ベクターは、特に制限されず、プラスミドベクター、ウイルスベクターを挙げることができる。ベクターは、哺乳動物、細菌、昆虫、酵母および真菌等において発現可能なベクターであってもよいが、真核細胞において発現可能なベクターが好ましく、哺乳動物由来の細胞において発現可能なベクターがより好ましい。哺乳動物由来の細胞において発現可能なベクターとしては、例えば、pUCシリーズ、pCAG、pEBMulti、pEGFP-C1、pEGFP-C1、pEF-BOS、pTRE-Myc、pMSCVpuro、pCEP4が挙げられるが、好ましくはpUC19である。
【0049】
ベクターの製造方法は特に制限されず、公知の遺伝子組み換え技術により製造することができる。
ベクターは、ヒト化抗DNAM-1抗体(A)またはその抗原結合断片をコードする核酸に加えて、宿主における複製および発現、および/または宿主からの分泌を制御することが可能な調節制御配列を含んでもよい。調節制御配列としては、例えば、CMVプロモーター等のプロモーター配列が挙げられる。
【0050】
[ベクターを含有する形質転換体]
本発明の一態様は、ヒト化抗DNAM-1抗体(A)またはその抗原結合断片をコードする核酸を含有するベクターを含有する形質転換体である。形質転換体またはその培養上清等から、ヒト化抗DNAM-1抗体(A)またはその抗原結合断片を得ることができる。
【0051】
形質転換体は、上述した組み換えベクターを宿主に導入することにより得ることができる。宿主としては、例えば、大腸菌、酵母、植物細胞、昆虫細胞、動物細胞等の培養細胞;カイコ等の昆虫生体;タバコ等の植物体等が挙げられるが、好ましくは動物細胞である。
動物細胞としては、NS0、Sp2/0、CHO、COS、HEK、線維芽細胞、および骨髄腫細胞等の哺乳動物細胞が挙げられるが、好ましくはCHOである。
【0052】
組換えベクターの宿主への導入(形質転換)は公知の方法を用いて行うことができる。このような方法としては、例えば、カルシウム処理された菌体を用いるコンピテント細胞法や、エレクトロポレーション法等が挙げられる。また、プラスミドベクター以外にも、ファージベクター、ウイルスベクター等を宿主に感染させて形質転換する方法を利用してもよい。
【0053】
[自然リンパ球(ILC)の活性化抑制剤]
本発明の一態様は、ヒト化抗DNAM-1抗体(A)またはその抗原結合断片を含む、自然リンパ球(ILC)の活性化抑制剤である。
本発明の一態様は、自然リンパ球(ILC)の活性化抑制における使用のための、ヒト化抗DNAM-1抗体(A)またはその抗原結合断片である。
本発明の一態様は、ヒト化抗DNAM-1抗体(A)またはその抗原結合断片の有効量を、対象に投与することを含む、自然リンパ球(ILC)の活性化を抑制する方法である。
【0054】
自然リンパ球(ILC;Innate lymphoid cell)とは、リンパ系前駆細胞(CLP)に由来する自然免疫系の細胞である。ILCは、T細胞受容体もB細胞受容体も持たないことから、抗原特異的には活性化されないが、抗原非依存的な刺激によって迅速に活性化して,多量のサイトカインを産生することが知られている。
ILCは、T-bet依存的に分化し、IFN-γを産生するILC1;GATA-3依存的に分化し、IL-5、IL-9およびIL-13を産生するILC2;およびRORγtを発現し、IL-22あるいはIL-17を産生するILC3の3つのサブセットに分類することができる。
【0055】
ILCは、組織常在性の細胞であり、免疫細胞だけでなく、非免疫細胞とも相互作用して、組織恒常性の維持に寄与している。組織に局在し、抗原非特異的な刺激に応じて多量のサイトカインを産生するというILCの性質から、その不適切な活性化が病態形成につながると考えられている。しかし、ILCがどのような分子を介して活性化するか等の活性化のメカニズム等はわかっていないことが多い。
【0056】
ILCは、喘息、COPD(chronic obstructive pulmonary disease)、肺線維症等の肺疾患;潰瘍性大腸炎、クローン病等の炎症性腸疾患;多発性硬化症、関節リウマチ、乾癬等の自己免疫性疾患;ウイルス感染症、細菌感染症、寄生虫感染症、原虫感染症等の感染症;急性および慢性肝障害等と関係があると考えられている。
【0057】
ILCの活性化は、ILCの細胞数の増加、ILCが産生するIFN-γ、IL-5、IL-9、IL-13、IL-22、IL-17、GM-CSF、TNF-α等のサイトカインの増加等を指標とすることができる。
ILCの活性化抑制剤は、ILCの活性化に関する上記の指標のうち、いずれかを減少させればよい。ILCの活性化抑制剤は、好ましくはサイトカイン産生抑制剤であり、より好ましくはIFN-γ産生抑制剤、TNF-α産生抑制剤である。
【0058】
実施例において後述するように、ヒト化抗DNAM-1抗体(A)またはその抗原結合断片は、自然リンパ球の活性化、特にサイトカイン産生を抑制することができる。
したがって、ヒト化抗DNAM-1抗体(A)またはその抗原結合断片は、自然リンパ球の活性化が関与する疾病、例えば、喘息、COPD(chronic obstructive pulmonary disease)、肺線維症等の肺疾患;潰瘍性大腸炎、クローン病等の炎症性腸疾患;多発性硬化症、関節リウマチ、乾癬等の自己免疫性疾患;ウイルス感染症、細菌感染症、寄生虫感染症、原虫感染症等の感染症、急性および慢性肝障害の予防および治療に効果を示すことが予測される。
【0059】
特許文献1には、抗DNAM-1抗体は、制御性T細胞を活性化して免疫反応を抑制するので、移植片対宿主病、臓器移植拒絶、自己免疫疾患、線維化疾患、炎症性腸炎、アレルギー等の予防または治療に使用できることが記載されている。本発明者らは、実施例で後述するように、肺、小腸、PBMCのILCにDNAM-1が発現していることを見出した。さらに、ILCの活性化、特にサイトカイン産生にDNAM-1が関与していること、さらに、ヒト化抗DNAM-1抗体は、ILCの活性化を抑制できることを見出した。抗DNAM-1抗体を予防または治療に用いることができるとされてきた疾患のうち、特に、喘息、COPD、肺線維症等の肺疾患;潰瘍性大腸炎、クローン病等の炎症性腸疾患;多発性硬化症、関節リウマチ、乾癬等の自己免疫性疾患;ウイルス感染症、細菌感染症、寄生虫感染症、原虫感染症等の感染症;急性および慢性肝障害の患者においては、ILCが活性化している患者もいればしていない患者もいると考えられる。本明細書に記載した新たな知見により、ILCが活性化している患者に対して選択的にヒト化抗DNAM-1抗体(A)を投与できるようになったので、治療成績が上がることが予測される。また、ILCの活性化を指標として、ヒト化抗DNAM-1抗体(A)の投与量、投与のタイミング、およびスケジュールを決定することができるようになった。
【実施例】
【0060】
次に本発明について実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
すべての実験は、筑波大学実験動物資源センターの動物倫理委員会のガイドラインに従って行った。
【0061】
[実験例1]抗ヒトDNAM-1ヒト化抗体の作製
[抗ヒトDNAM-1モノクローナル抗体(mAKB1)の作製]
マウスリンパ球細胞であるBW5147細胞株にヒトDMAM-1遺伝子を導入し、ヒトDMAM-1タンパク質を発現させた。この細胞を抗原としてマウスを免疫し、マウスから脾臓細胞を採取し、常法によりSP2/0骨髄腫細胞と融合させてハイブリドーマを得た。ヒトDNAM-1タンパク質に対する反応性を指標としてハイブリドーマをスクリーニングし、選ばれたクローンをクローンmAKB1とした。mAKB1が産生する抗体を抗ヒトDNAM-1モノクローナル抗体mAKB1(単にmAKB1ともいう)と称す。クローンmAKB1の培養上清をプロテインAセファロースカラムで精製したmAKB1を用いてヒトDNAM-1との結合性を解析した。
【0062】
[ヒトDNAM-1との結合性の解析]
マウスリンパ芽細胞BW5147細胞株(以下、「BW」という場合がある。)、およびヒトhDNAM-1を安定的に発現するBW5147(以下、「hDNAM-1/BW」という場合がある。)を用いて、フローサイトメトリーによりヒトDNAM-1への結合を調べた。0.5%BSAと0.05%NaN3を含むPBS(FACSバッファー)中で、様々な濃度のテスト抗体を約105個のhDNAM-1/BW細胞と4℃で1時間インキュベートした。その後、氷冷したFACS Bufferで細胞を洗浄し、PE標識ヤギ抗ヒトIgG抗体(SouthernBiotech社製)を用いて4℃で30分間インキュベートした。FACSバッファーで洗浄後、染色された細胞をFACScanフローサイトメーター(BD Biosciences社製)を用いて解析した。
【0063】
mAKB1のヒトDNAM-1との結合性を解析した結果を
図1に示す。mAKB1は、ヒトDNAM-1と特異的に結合し、EC
50は6μg/mLであった。
【0064】
[mAKB1の配列決定]
クローンmAKB1から常法により、抗ヒトDNAM-1モノクローナル抗体mAKB1の重鎖可変領域および軽鎖可変領域の遺伝子をクローニングし、mAKB1の重鎖可変領域および軽鎖可変領域の塩基配列を同定した。その塩基配列からアミノ酸配列を推定し、さらにabYsisを用いてKabatの方法により、CDRを決定した。
【0065】
[ヒト化抗体hAKB1のVHおよびVL遺伝子の設計]
mAKB1を元にして、以下のようにして、ヒト化抗体のVH(重鎖可変領域)およびVL(軽鎖可変領域)のアミノ酸配列を設計した。まず、mAKB1可変領域の3次元分子モデルを構築した。この分子モデルを用いて、CDRの3次元構造の形成に重要なフレームワークアミノ酸残基を同定した。
【0066】
mAKB1 VHのフレームワークと相同性のあるヒトVH配列をGenBankデータベース内で検索し、ヒトFJ039783 cDNA(FJ039783 VH)にコードされているVH配列をヒト化のアクセプターとして選択した。
mAKB1のHCDR配列を、FJ039783 VHの対応する位置にグラフトした。CDR構造の形成に重要であると考えられたことから、重鎖可変領域の30番目、49番目、および72番目のアミノ酸残基を、FJ039783 VHのアミノ酸残基からmAKB1 VHの対応する残基に置換した。得られたヒト化抗体のVHをhAKB1-VH1とした。さらに、免疫原性を下げるために、30番目のアミノ酸残基をマウスのアミノ酸残基に復帰変異させないhAKB1-VH2を追加で設計した。mAKB1のVH(配列番号7)、hAKB1-VH1(配列番号9)、hAKB1-VH2(配列番号10)、およびFJ039783 VHのアミノ酸配列を
図2に示す。
【0067】
mAKB1 VLのフレームワークと相同性のあるヒトVL配列をGenBankデータベース内で検索し、KU760971 cDNA (KU760971 VL)にコードされているヒトVκ領域をヒト化のアクセプターとして選択した。
mAKB1のLCDR配列を、KU760971 VLの対応する位置にグラフトした。CDR構造の形成に重要であると考えられたことから、軽鎖可変領域の67番目のアミノ酸残基を、KU760971 VLのアミノ酸残基からmAKB1 VLの対応する残基に置換した。得られたヒト化抗体のVLをhAKB1-VL1とした。さらに、免疫原性を下げるために、67番目のアミノ酸残基をマウスのアミノ酸残基に復帰変異させないhAKB1-VL2を追加で設計した。mAKB1のVL(配列番号8)、hAKB1-VL1(配列番号11)、hAKB1-VL2(配列番号12)、およびKU760971 VLのアミノ酸配列を
図3に示す。
【0068】
[ヒト化抗体のVHおよびVL遺伝子の構築]
hAKB1-VH1、hAKB1-VH2、hAKB1-VL1、およびhAKB1-VL2をコードする遺伝子を、シグナルペプチド、スプライスドナーシグナル、5’末および3’末の制限酵素サイトを含めて合成した。合成した遺伝子を以下の組み合わせでプラスミドに組み込み、発現ベクターを作製した。
【0069】
【0070】
ポリエチレンイミンを用いて、4つの発現ベクター(phAKB1-A、phAKB1-B、phAKB1-C、phAKB1-D4)をそれぞれヒト胚性腎細胞株HEK293にトランスフェクションした。HEK293細胞は、10%FBS(HyClone社製)を含むDMEM培地を用いて、7.5%CO2インキュベーター内で37℃で培養した。
【0071】
一過性にトランスフェクトしたHEK293細胞の培養上清における抗体の発現をELISAで確認した。ELISAプレートに、PBSで1/2000に希釈したヤギ抗ヒトIgG、Fcγ特異的ポリクローナル抗体(Sigma-Aldrich社製)を100μl/wellで4℃で一晩コーティングし、Washing Buffer(0.05%Tween20を含むPBS)で洗浄し、ELISA Buffer(2%スキムミルクと0.05%Tween20を含むPBS)300μl/wellでブロッキングした。Washing Bufferで洗浄した後、ELISA Bufferで適切に希釈した100μl/wellの被験抗体をELISAプレートに塗布した。標準品として、ヒト化IgG1/kappa抗体を用いた。ELISAプレートを室温で1時間インキュベートし、Washing Bufferで洗浄した後、結合した抗体を、1/2000希釈したHRP結合ヤギ抗ヒトκ鎖ポリクローナル抗体(Bethyl Laboratories社製)100μl/wellを用いて検出した。室温で0.5時間インキュベートし、Washing Bufferで洗浄した後、100μl/wellのABTS基質(Sigma-Aldrich社製)を添加して発色を開始し、100μl/wellの2%シュウ酸で停止させた。405nmの吸光度を読み取った。
【0072】
[ヒト化抗体の抗原への結合性]
phAKB1-A、phAKB1-B、phAKB1-C、またはphAKB1-Dをトランスフェクトされた細胞が産生する抗体をそれぞれhAKB1-A、hAKB1-B、hAKB1-C、hAKB1-Dとした。これらの抗体のヒトDNAM-1との結合性を、上述の「ヒトDNAM-1との結合性の解析」の通りに解析した。結果を
図4に示す。
hAKB1-AおよびhAKB1-Bは、hAKB1-C、hAKB1-DよりもヒトDNAM-1との結合性が高かった。hAKB1-VL1を含む抗体(hAKB1-A、hAKB1-B)とhAKB1-VL2を含む抗体(hAKB1-C、hAKB1-D)では、抗原への結合性に差が見られ、hAKB1-VL1の67番目のアミノ酸残基がTyrからSerに変更されたことで、結合性が低下した。hAKB1-AとhAKB1-Bとでは、抗原への結合性に差は見られなかった。
【0073】
[安定的に抗体を産生する細胞株の樹立]
ヒトDNAM-1との結合性が高い、hAKB1-AまたはhAKB1-Bを安定的に産生する細胞株を得るために、以下の方法により、発現ベクターphAKB1-AおよびphAKB1-Bをそれぞれチャイニーズハムスター卵巣細胞株CHO-K1(ATCCより入手)の染色体に導入した。
CHO-K1細胞は、SFM4CHO培地(HyClone社製)を用いて、7.5%CO2インキュベーター内で37℃で培養した。CHO-K1へのトランスフェクションは、エレクトロポレーションによって行った。トランスフェクションの前に、各発現ベクターをFspIを用いて直線化した。約2.5×106個の細胞に20μgの線状化したプラスミドをトランスフェクションし、SFM4CHO培地に懸濁し、細胞を適切に希釈した後、複数の96ウェルプレートにプレーティングした。48時間後、10μg/mlのピューロマイシンを加え、安定したトランスフェクタントを分離した。選択開始から約10日後、96ウェルプレートに入れたトランスフェクタントの培養上清について、上述の方法によりサンドイッチELISAで抗体産生を測定した。hAKB1-AまたはhAKB1-Bを高レベルで産生するCHO-K1 stable transfectantを選択し、次の培養に供した。
【0074】
CHO-K1 stable transfectantを450mlのSFM4CHOで約3×106cells/mlの密度になるようにローラーボトルで培養し、35mg/mlのCell Boost 4(HyClone社製)を50ml添加し、細胞生存率が50%以下になるまでさらに培養した。遠心分離とろ過を行った後、培養上清をプロテインAセファロースカラム(HiTrap MabSelect SuRe、GE Healthcare社製)にロードした。カラムをPBSで洗浄した後、0.1M NaClを含む0.1Mグリシン-HCl緩衝液(pH3.0)で抗体を溶出した。1M Tris-HCl(pH8.0)で中和した後、溶出した抗体のバッファーを透析によってPBSに交換した。
【0075】
精製したhAKB1-AおよびhAKB1-Bは、標準的な手順に従ってSDS-PAGEで特性を調べた。還元条件で分析した結果、これらの抗体はそれぞれ、分子量約50kDaの重鎖と分子量約25kDaの軽鎖から構成されていることがわかった。また、各抗体の純度は95%以上であることがわかった。
【0076】
精製したhAKB1-AおよびhAKB1-Bについて、ヒトDNAM-1とのEC
5を上述の「ヒトDNAM-1との結合性の解析」の方法により決定した。結果を
図5に示す。
hAKB1-A、hAKB1-BのEC
50はそれぞれ、5μg/mL、5μg/mLであり、ヒトDNAM-1との結合性はヒト化の基礎としたmAKB1と比較して、同等またはそれ以上であった。
【0077】
CHO-K1/hAKB1-AおよびCHO-K1/hAKB1-BからRNAを抽出して、PCRを行い、CHO-K1/hAKB1-AおよびCHO-K1/hAKB1-Bが産生する、hAKB1-AおよびhAKB1-Bの重鎖および軽鎖の塩基配列を確認した。
得られたhAKB1-AおよびhAKB1-Bの重鎖、および軽鎖のそれぞれのコーディング領域の塩基配列は、phAKB1-A、phAKB1-Bベクターの対応する塩基配列と完全に一致していた。hAKB1-AおよびhAKB1-Bの重鎖、および軽鎖のコーディング領域の塩基配列(配列番号19、配列番号20、配列番号21)を、それぞれ
図6~
図8に示す。また、塩基配列からアミノ酸配列を推定し、さらに可変領域を決定し、abYsisを用いてKabatの方法により、CDRを決定した。結果を
図9に示す。シグナルペプチドは白抜き文字、可変領域は太字、CDRは下線で示す。
【0078】
配列番号16のhAKB1-Aの重鎖のアミノ酸配列(シグナルペプチドあり)は、hAKB1-Aの重鎖のシグナルペプチドのアミノ酸配列(配列番号28)とhAKB1-Aの重鎖のアミノ酸配列(シグナルペプチドなし:配列番号13)とから構成される。
配列番号17のhAKB1-Bの重鎖のアミノ酸配列(シグナルペプチドあり)は、hAKB1-B重鎖のシグナルペプチドのアミノ酸配列(配列番号29)とhAKB1-Bの重鎖のアミノ酸配列(シグナルペプチドなし:配列番号14)とから構成される。
配列番号18のhAKB1-AおよびhAKB1-Bの軽鎖のアミノ酸配列(シグナルペプチドあり)は、hAKB1-A、およびhAKB1-B軽鎖のシグナルペプチドのアミノ酸配列(配列番号30)とhAKB1-AおよびhAKB1-Bの軽鎖のアミノ酸配列(シグナルペプチドなし:配列番号15)とから構成される。
【0079】
hAKB1-AおよびhAKB1-BのHCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2、およびLCDR3のアミノ酸配列は共通であり、それぞれ配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6とした。
【0080】
[hTKB1の樹立]
永続的に安定してhAKB1-Bを効率良く産生し、細胞外に充分に分泌する細胞株を樹立するため、hAKB1-Bの重鎖および軽鎖のシグナルペプチド配列を改変した。
hAKB1-Bの重鎖、および軽鎖のコーディング領域の塩基配列の上流に、改変型シグナルペプチドをコードする塩基配列を結合させた配列からなる核酸断片を発現ベクターpWX068およびpWX069にそれぞれタンデムに組み込んだ。これをコンピテント大腸菌TOP10(TIANGEN社製、CB104-2)に導入し、抗体遺伝子を組み込んだ発現ベクターを増幅し回収した。これをFspI(NEB社製、R0135L)で直線化したのち、CHO-K1の染色体に導入した。「安定的に抗体を産生する細胞株の樹立」で前述した方法に準じて、hAKB1-Bを高レベルで産生し、高効率で分泌するpWX069の発現ベクターを導入したCHO-K1 stable transfectantを選択した。得られた細胞株をCHO-K1/hTKB1、この細胞株により産生される抗体をhTKB1とした。
【0081】
hTKB1の重鎖、および軽鎖のコーディング領域の塩基配列(配列番号26、配列番号27)を、それぞれ
図10、
図11に示す。シグナルペプチドは白抜き文字、可変領域は太字で示す。
また、塩基配列からアミノ酸配列を推定し、さらに可変領域を決定し、abYsisを用いてKabatの方法により、CDRを決定した。結果を
図12に示す。シグナルペプチドは白抜き文字、可変領域は太字、CDRは下線で示す。
【0082】
hTKB1の重鎖および軽鎖のアミノ酸配列は、シグナルペプチド以外では、hAKB1-Bの重鎖および軽鎖のアミノ酸配列とそれぞれ同じであった。すなわち、配列番号22のアミノ酸配列と配列番号14のアミノ酸配列、配列番号23のアミノ酸配列と配列番号15のアミノ酸配列は同じである。
hTKB1のHCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2、およびLCDR3のアミノ酸配列は、hAKB1-AおよびhAKB1-BのHCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2、およびLCDR3のアミノ酸配列とそれぞれ同じであった。
【0083】
配列番号24のhTKB1の重鎖のアミノ酸配列(シグナルペプチドあり)は、hTKB1の重鎖のシグナルペプチドのアミノ酸配列(配列番号31)とhTKB1の重鎖のアミノ酸配列(シグナルペプチドなし:配列番号22)とから構成される。
配列番号25のhTKB1の軽鎖のアミノ酸配列(シグナルペプチドあり)は、hTKB1の軽鎖のシグナルペプチドのアミノ酸配列(配列番号32)とhTKB1の軽鎖のアミノ酸配列(シグナルペプチドなし:配列番号23)とから構成される。
【0084】
[ILCにおけるDNAM-1の発現解析]
(方法)
マウス(C57BL/6J、8-10週齢、雌)の肺は、PBSで灌流した後、単離し、コラゲナーゼIV(5mg/ml;Sigma社製)で37℃において1時間処理した後、gentleMACS Dissociator(Miltenyi Biotec社製)を用いてホモジナイズした。
マウスの大腸は、取り出した後、切開し、0.5%BSA(Wako社製)と2mM EDTA(Junsei社製)を含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回洗浄し、5%BSA、5mM EDTA、10mM dithiothreitol(Sigma Aldrich社製)を含むRPMI1640(Invitrogen社製)中で30分間インキュベートして上皮層を除去した。上皮層を除去された大腸組織は、0.5%BSA、2mM EDTAを含むPBSと、10mM HEPES(Sigma Aldrich社製)を含むRPMI1640で2回洗浄し、3~5mmの大きさに切断した。切断された大腸片を、lamina propria dissociation kit(Miltenyi Biotec社製)とgentleMACS Dissociator(Miltenyi Biotec社製)を用いて消化した。消化により得られた細胞標本は70μmのナイロンメッシュでろ過し、単細胞の懸濁液を得た。
【0085】
肺と腸から分離した細胞は、FcγRとの結合を避けるために抗CD16/32mAb(2.4G2;トンボ・バイオサイエンス社製)で氷上で10分間処理した後、CD45.2、CD11b、CD3ε、NK1.1、DX5、B220、CD44、CD90.2、Sca-1、RORγtに対するモノクローナル抗体と抗マウスDNAM-1モノクローナル抗体(クローンTX42、BioLegend社製)の組み合わせで10分間インキュベートし、フローサイトメトリーで分析した。抗マウスDNAM-1モノクローナル抗体の代わりに、ラットIgG2a(BioLegend社製)を用いたものをIsotype controlとした。
自然リンパ球(ILC)サブセット1(ILC1)は、CD45.2+、CD11b-、CD3ε-、NK1.1+、DX5-である細胞として、自然リンパ球(ILC)サブセット2(ILC2)は、CD45.2+、CD11b-、B220-、NK1.1-、CD3ε-、CD44+、CD90.2+、Sca-1+である細胞として、自然リンパ球(ILC)サブセット3(ILC3)はCD45.2+、CD11b-、B220-、NK1.1-、CD3ε-、CD44+、CD90.2+、RORγt+、Sca-1-である細胞として同定した。
【0086】
抗体は以下のものを用いた。
抗CD11b(M1/70)モノクローナル抗体:BD Biosciences社
抗TCRβモノクローナル抗体(H57-597)、抗Thy1.2モノクローナル抗体(53-2.1):BD PharMingen社
CD45.2モノクローナル抗体(104)、抗CD4モノクローナル抗体(RM4-5)、抗CD8モノクローナル抗体(53-6.7)、抗CD127モノクローナル抗体(A7R34):BioLegend社
抗CD11cモノクローナル抗体(N418):Tonbo biosciences社
抗CD3εモノクローナル抗体(17A2):BioLegend社
抗NK1.1モノクローナル抗体(S17016D):BioLegend社
抗DX5モノクローナル抗体(DX5):BioLegend社
抗B220モノクローナル抗体(RA3-6B2):BioLegend社
抗CD44モノクローナル抗体(3/23):BioLegend社
抗CD90.2モノクローナル抗体(30-H12):BioLegend社
抗Sca-1モノクローナル抗体(E13-161.7):BioLegend社
抗RORγtモノクローナル抗体(RORg2):BioLegend社
【0087】
(結果)
結果を
図13Aおよび
図13Bに示す。点線はIsotype control、実線は抗マウスDNAM-1モノクローナル抗体を用いた場合を示す。
図13Aおよび
図13Bより、DNAM-1は、肺(lung)および小腸(intestine)のILC1、ILC2、およびILC3に発現していることが明らかになった。
【0088】
[ILCにおけるサイトカインの発現量の解析]
(方法)
野生型(WT)マウス(C57BL/6J)およびDNAM-1遺伝子欠損マウス(以下、「DNAM-1KO」ともいう。)に、生理食塩水に溶解した塩酸ブレオマイシン(BLM、日本化薬社製)を6.5mg/kgの用量で、気管内噴霧器(夏目製作所社製)を用いて1匹あたり50μLの容量で単回気管内投与することにより、肺線維症を発症させた。BLM投与前後の肺に存在するILC(CD45.2+、CD11b-、CD11c-、TCRβ-、CD127+、Thy1.2+)をBD FACSAria III(BD Biosciences社製)を用いて選別し、Isogen reagent(ニッポンジーン社製)中でホモジナイズした。その後、トータルRNAを単離し、High-Capacity cDNA Reverse Transcription Kit(Thermo Fisher Scientific社製)を用いてfirst-strand DNAを合成した。定量的RT-PCRは、ABI 7500 Fast real-time PCRシステムとABI Power SYBR Green PCR Master Mix(いずれもThermo Fisher Scientific社製)を用いて行った。遺伝子の転写産物の相対的な量とコピー数は、Actbの転写産物に対する値として正規化した。
【0089】
(結果)
結果を
図14に示す。
図14より、BLM投与後3日、5日、および/または14日後のDNAM-1KOのILCでは、IL17a、IL15、IL13のmRNAの発現がWTマウスに比べて低下していた。
これらの結果から、ILCにおけるサイトカイン産生にはDNAM-1が関与していることが明らかになった。
【0090】
[ヒト末梢血ILCにおけるDNAM-1の発現]
(方法)
健康なボランティアから採血し、LymphoprepTM(STEMCELL Technologies社製)を用い、製造元の指示に従って末梢血単核細胞(PBMC)を採取した。PBMCは、従来の系統マーカー(CD3、CD4、CD8、CD19、CD14、CD16、CD11b、CD11c、CD56、FcεRIに対する抗体)、抗CD127抗体、CD45抗体、ヒト化抗DNAM-1抗体(hTKB1)で染色した。DNAM-1の発現は、総ILC(Lin-、CD45+、CD127+)としてゲートされた細胞上でフローサイトメトリーにより分析した。ヒト化抗DNAM-1抗体(hTKB1)の代わりに、ヒトIgG1(BioLegend社製)を用いたものをIsotype controlとした。
【0091】
(結果)
結果を
図15に示す。点線はIsotype control、実線はヒト化抗DNAM-1抗体(hTKB1)を用いた場合を示す。
図15より、DNAM-1は、ヒトPBMCのILCに発現していることが明らかになった。また、hTKB1は、ILC上のDNAM-1を検出できることが確認された。
【0092】
[抗DNAM-1ヒト化抗体によるILCからのIFN-γ、TNF-αの産生抑制]
(方法)
健康なボランティアから採血し、LymphoprepTM(STEMCELL Technologies社製)を用い、製造元の指示に従って末梢血単核細胞(PBMC)を採取した。MACs LSカラム(Miltenyi社製)を用いて、PBMCから、CD4+T細胞、CD8+T細胞、およびCD56+NK細胞を除去した。このT/NK細胞を除去したPBMC2~3×106個を、ヒトIL-2(5ng/mL)、ヒトIL-12(10ng/mL)、およびヒトIL-15(50ng/mL)の存在下で、10μg/mLのマウスIgG1、hAKB1-A、hAKB1-B、またはhTKB1とともに36時間培養した。その後、細胞を系統マーカー(Lin:CD3、CD4、CD8、CD19、CD14、CD16、CD11b、CD11c、FcεRI)に対する抗体、抗CD127抗体、および抗CD45抗体で染色した。ILC(Lin-、CD127+、CD45+細胞)は、FACS Aria III(BD Biosciences社製)を用いて選別した。選別されたILCから、メーカーのプロトコール(ニッポンジーン社製)に従い、Isogen試薬を用いてトータルRNAを単離した。逆転写には,High-Capacity cDNA Reverse-Translcription Kit(Applied Biosystems社製)を用いた。Ifngの定量的PCR解析は、ABI7500 sequence detector(Applied Biosystems社製)、Power SYBR Green PCRマスターミックス(Applied Biosystems社製)、および下に示すプライマーを用いて行った。データを正規化するために、内部標準としてGapdhの発現レベルを測定した。
【0093】
Gapdh forward;5'-CTT CAC CAC CAT GGA GAA GGC-3'(配列番号33)
Gapdh reverse;5'-GGC ATG GAC TGT GGT CAT GAG-3'(配列番号34)
Ifng forward;5'-ACC AGA GCA TCC AAA AGA GTG T-3'(配列番号35)
Ifng reverse;5'-TTA GCT GCT GGC GAC AGT TC-3'(配列番号36)
Tnfa forward;5'-CAG CCT CTT CTC CTT CCT GAT-3'(配列番号37)
Tnfa reverse;5'-GCC AGA GGG CTG ATT AGA GA-3'(配列番号38)
【0094】
(結果)
結果を
図16に示す。
マウスモノクローナル抗体であるmAKB1はIFN-γおよびTNF-αのmRNAの発現に影響を与えなかったが、ヒト化抗DNAM-1抗体である、hAKB1-A、hAKB1-B、およびhTKB1は、IFN-γおよびTNF-αのmRNAの発現を抑制した(
図16)。
【0095】
配列番号1:hTKB1、hAKB1-AおよびhAKB1-BのHCDR1のアミノ酸配列
配列番号2:hTKB1、hAKB1-AおよびhAKB1-BのHCDR2のアミノ酸配列
配列番号3:hTKB1、hAKB1-AおよびhAKB1-BのHCDR3のアミノ酸配列
配列番号4:hTKB1、hAKB1-AおよびhAKB1-BのLCDR1のアミノ酸配列
配列番号5:hTKB1、hAKB1-AおよびhAKB1-BのLCDR2のアミノ酸配列
配列番号6:hTKB1、hAKB1-AおよびhAKB1-BのLCDR3のアミノ酸配列
配列番号7:mAKB1の重鎖可変領域のアミノ酸配列
配列番号8:mAKB1の軽鎖可変領域のアミノ酸配列
配列番号9:hAKB1のVH1の可変領域のアミノ酸配列
配列番号10:hAKB1のVH2の可変領域のアミノ酸配列
配列番号11:hAKB1のVL1の可変領域のアミノ酸配列
配列番号12:hAKB1のVL2の可変領域のアミノ酸配列
配列番号13:hAKB1-Aの重鎖のアミノ酸配列(シグナルペプチドなし)
配列番号14:hAKB1-Bの重鎖のアミノ酸配列(シグナルペプチドなし)
配列番号15:hAKB1-AおよびhAKB1-Bの軽鎖のアミノ酸配列(シグナルペプチドなし)
配列番号16:hAKB1-Aの重鎖のアミノ酸配列(シグナルペプチドあり)
配列番号17:hAKB1-Bの重鎖のアミノ酸配列(シグナルペプチドあり)
配列番号18:hAKB1-AおよびhAKB1-Bの軽鎖のアミノ酸配列(シグナルペプチドあり)
配列番号19:hAKB1-Aの重鎖コーディング領域の塩基配列
配列番号20:hAKB1-Bの重鎖コーディング領域の塩基配列
配列番号21:hAKB1-AおよびhAKB1-Bの軽鎖コーディング領域の塩基配列
配列番号22:hTKB1の重鎖のアミノ酸配列(シグナルペプチドなし)
配列番号23:hTKB1の軽鎖のアミノ酸配列(シグナルペプチドなし)
配列番号24:hTKB1の重鎖のアミノ酸配列(シグナルペプチドあり)
配列番号25:hTKB1の軽鎖のアミノ酸配列(シグナルペプチドあり)
配列番号26:hTKB1の重鎖コーディング領域の塩基配列
配列番号27:hTKB1の軽鎖コーディング領域の塩基配列
配列番号28:hAKB1-A重鎖のシグナルペプチドのアミノ酸配列
配列番号29:hAKB1-B重鎖のシグナルペプチドのアミノ酸配列
配列番号30:hAKB1-A、およびhAKB1-B軽鎖のシグナルペプチドのアミノ酸配列
配列番号31:hTKB1の重鎖のシグナルペプチドのアミノ酸配列
配列番号32:hTKB1の軽鎖のシグナルペプチドのアミノ酸配列
配列番号33:Gapdhフォワードプライマーの塩基配列
配列番号34:Gapdhリバースプライマーの塩基配列
配列番号35:Ifngフォワードプライマーの塩基配列
配列番号36:Ifngリバースプライマーの塩基配列
配列番号37:Tnfaフォワードプライマーの塩基配列
配列番号38:Tnfaリバースプライマーの塩基配列
【配列表】