(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-30
(45)【発行日】2025-06-09
(54)【発明の名称】地盤の静止土圧係数の測定方法及び多段式コーン
(51)【国際特許分類】
G01N 3/40 20060101AFI20250602BHJP
E02D 1/02 20060101ALI20250602BHJP
【FI】
G01N3/40 B
E02D1/02
(21)【出願番号】P 2021206227
(22)【出願日】2021-12-20
【審査請求日】2024-03-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井澤 淳
(72)【発明者】
【氏名】伊吹 竜一
(72)【発明者】
【氏名】小島 謙一
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-149066(JP,A)
【文献】特開2014-190041(JP,A)
【文献】特開2010-196352(JP,A)
【文献】特開2021-169704(JP,A)
【文献】特開2000-055755(JP,A)
【文献】特開昭62-264207(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0107772(US,A1)
【文献】上杉 守道 他,四成分コーンの原位置摩擦試験への応用,土と基礎,1989年07月,37-7,pp.23-28
【文献】高田 徹 他,三成分コーン貫入試験による宅盤の評価手法に関する考察,地盤工学ジャーナル,2009年,Vol.4,No.2,pp.157-170
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/40
E02D 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤の計測対象深度における静止土圧係数を測定する地盤の静止土圧係数の測定方法であって、
先端から拡幅するように3段以上の直径の異なる円柱状の計測部が設けられた多段式コーンを準備するステップと、
前記多段式コーンの最先端の計測部を前記計測対象深度の地盤に押し込むステップと、
続いて前記計測対象深度に先端から2段目以降の計測部を順次、押し込むステップと、
前記多段式コーンを押し込んだ際に得られた計測結果に基づいて、前記計測対象深度の静止土圧係数を算定するステップとを備え、
前記計測部を押し込む際には、各計測部に設けられたセンサによって周面せん断力が計測されるとともに、
前記計測対象深度の静止土圧係数は、3段以上の前記計測部の計測結果から推定された有効土圧に基づいて算定されることを特徴とする地盤の静止土圧係数の測定方法。
【請求項2】
前記有効土圧のうちの有効受働土圧は、前記周面せん断力を前記計測対象深度の土質の種別に応じて設定された摩擦係数で除することによって求められることを特徴とする請求項1に記載の地盤の静止土圧係数の測定方法。
【請求項3】
前記計測対象深度の静止土圧係数は、変位が0となるときの前記有効土圧を、有効上載圧で除することによって算定されることを特徴とする請求項1又は2に記載の地盤の静止土圧係数の測定方法。
【請求項4】
前記多段式コーンの先端部では、先端抵抗が計測されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の地盤の静止土圧係数の測定方法。
【請求項5】
前記多段式コーンでは、間隙水圧が計測されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の地盤の静止土圧係数の測定方法。
【請求項6】
前記多段式コーンの前記計測部を3段以上押し込んだ後に、引き抜きながら各計測部による前記計測対象深度の周面せん断力の計測を行うステップを備えたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の地盤の静止土圧係数の測定方法。
【請求項7】
地盤調査のために地盤に押し込まれる多段式コーンであって、
先端から拡幅するように設けられる3段以上の直径の異なる円柱状の計測部と、
円錐状の先端部に設けられて先端抵抗を計測する先端抵抗測定部と、
間隙水圧を計測する水圧測定部とを備え、
前記計測部
には、周方向に2対以上のひずみゲージが貼り付けられるとともに、
上下方向にも間隔を置いて設けられた前記ひずみゲージの上下の計測結果の差分に基づいて、周囲の地盤との周面せん断力が
算定されることを特徴とする多段式コーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤の計測対象深度における静止土圧係数を測定する地盤の静止土圧係数の測定方法及び多段式コーンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1に示されている孔内載荷試験は、現在、標準的に用いられる手法で、削孔した地盤内に挿入したプレッシャメーターに水を供給して膨らませ、その圧力を計測して土圧を計測するものである。
【0003】
一方、特許文献1に開示されている地盤の静止土圧係数の計測方法では、非特許文献1と同様の手法を実施する際に、間隙水圧の変化も計測することで、上載圧も同時に算定可能としている。地盤内の土圧の精緻な算定は、その地点の状況を鑑みた杭の設計や地盤改良効果の確認に大きく寄与することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】地盤工学会 地盤調査規格・基準委員会、「地盤調査の方法と解説」、地盤工学会、p.663-675、2013.3
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1に示されている従来の孔内載荷試験では、削孔後にプレッシャメーターを挿入するため、孔壁が乱れて精度の高い計測ができないことに問題があった。この問題を解決するために、セルフボーリング型の孔内載荷試験装置も開発されているが、反力装置の設置などに大きな労力とコストが必要となる点に課題があり、多数の地点で実施することが困難な場合が多い。
【0007】
また、非特許文献1の手法を応用した特許文献1にも、先端にコーン形状の掘削部を備えた直接試験孔を掘削する計測装置が開示されているが、装置が大掛かりになることが想定される。
【0008】
そこで、本発明は、簡便かつ低コストで、精度の高い静止土圧係数を測定することが可能になる地盤の静止土圧係数の測定方法及び多段式コーンを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明の地盤の静止土圧係数の測定方法は、地盤の計測対象深度における静止土圧係数を測定する地盤の静止土圧係数の測定方法であって、先端から拡幅するように3段以上の直径の異なる円柱状の計測部が設けられた多段式コーンを準備するステップと、前記多段式コーンの最先端の計測部を前記計測対象深度の地盤に押し込むステップと、続いて前記計測対象深度に先端から2段目以降の計測部を順次、押し込むステップと、前記多段式コーンを押し込んだ際に得られた計測結果に基づいて、前記計測対象深度の静止土圧係数を算定するステップとを備え、前記計測部を押し込む際には、各計測部に設けられたセンサによって周面せん断力が計測されるとともに、前記計測対象深度の静止土圧係数は、3段以上の前記計測部の計測結果から推定された有効土圧に基づいて算定されることを特徴とする。
【0010】
ここで、前記有効土圧のうちの有効受働土圧は、前記周面せん断力を前記計測対象深度の土質の種別に応じて設定された摩擦係数で除することによって求めることができる。また、前記計測対象深度の静止土圧係数は、変位が0となるときの前記有効土圧を、有効上載圧で除することによって算定することができる。
【0011】
さらに、前記多段式コーンの先端部では、先端抵抗が計測されることが好ましい。また、前記多段式コーンでは、間隙水圧が計測されることが好ましい。一方、前記多段式コーンの前記計測部を3段以上押し込んだ後に、引き抜きながら各計測部による前記計測対象深度の周面せん断力の計測を行うステップを備えた構成とすることもできる。
【0012】
また、多段式コーンの発明は、地盤調査のために地盤に押し込まれる多段式コーンであって、先端から拡幅するように設けられる3段以上の直径の異なる円柱状の計測部と、円錐状の先端部に設けられて先端抵抗を計測する先端抵抗測定部と、間隙水圧を計測する水圧測定部とを備え、前記計測部では、周囲の地盤との周面せん断力が計測されることを特徴とする。
【0013】
ここで、前記計測部には、上下方向に間隔を置いてひずみゲージが設けられていて、上下の計測結果の差分に基づいて前記周面せん断力が算定される構成とすることができる。
【発明の効果】
【0014】
このように構成された本発明の地盤の静止土圧係数の測定方法は、先端から拡幅するように3段以上の直径の異なる円柱状の計測部が設けられた多段式コーンを、地盤の計測対象深度まで押し込み、各計測部の計測結果に基づいて静止土圧係数の算定を行う。
【0015】
要するに、コーン貫入試験機の機構を改良した多段式コーンを地盤に押し込むだけなので、簡便かつ低コストで実施することができる。さらに、孔壁を乱すことがないので、精度の高い静止土圧係数を測定することが可能になる。
【0016】
また、多段式コーンの発明は、先端から拡幅するように設けられる3段以上の直径の異なる円柱状の計測部と、先端抵抗を計測する先端抵抗測定部と、間隙水圧を計測する水圧測定部とを備えている。このため、計測部によって、周囲の地盤との間に生じる周面せん断力を計測できるうえに、先端抵抗と間隙水圧とを、まとめて計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施の形態の地盤の静止土圧係数の測定方法の処理の流れを説明するフローチャートである。
【
図2】本実施の形態の多段式コーンの構成を示した説明図である。
【
図3】三成分コーン貫入試験で得られる計測結果の概要を示した説明図である。
【
図4】地盤変位と水平土圧との関係の概要を示した説明図である。
【
図5】有効静止土圧と有効受働土圧と有効主働土圧との関係を示した説明図である。
【
図6】本実施の形態の地盤の静止土圧係数の測定方法における押し込み時の各ステップを示した説明図である。
【
図7】多段式コーンの計測結果から有効静止土圧を推定する方法を示した説明図である。
【
図8】本実施の形態の地盤の静止土圧係数の測定方法における引き抜き時の各ステップを示した説明図である。
【
図9】多段式コーンの計測結果から、有効受働土圧と有効主働土圧を求めて有効静止土圧を推定する方法を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は、本実施の形態の地盤の静止土圧係数の測定方法の処理の流れを説明するフローチャートである。また、
図2は、本実施の形態の多段式コーン1の構成を示した説明図である。
【0019】
地盤の静止土圧係数が簡便かつ低コストで得られるようになれば、大規模な建設現場だけでなく、中規模又は小規模の建設現場においても、地盤調査結果に基づく液状化判定などが行えるようになる。また、精度の高い地盤の静止土圧係数が得られれば、地盤の液状化判定の精度も向上させることができる。
【0020】
さらに、出願人らが開発した「脈状地盤改良工法」の改良品質を確認する際には、地盤の静止土圧係数K0の増加を確認することが望ましいが(「細井外7名、脈状改良地盤の現場試験施工と品質確認手法に関する検討、土木学会第70回年次学術講演会、2015」、「荒木外7名、脈状改良による液状化対策効果の持続性に関する検討、土木学会第71回年次学術講演会、2016」など参照)、その際にも、本実施の形態の地盤の静止土圧係数の測定方法によって得られた値を利用することができる。また、杭の設計など地盤内の土圧の正確な把握が求められる場合にも、精度の高い静止土圧係数の測定結果が利用できる。
【0021】
本実施の形態の地盤の静止土圧係数の測定方法で使用する多段式コーン1は、
図3に示すような三成分コーン貫入試験(CPT:Cone Penetration Test:地盤工学会基準JGS 1435-2012「電気式コーン貫入試験方法」)で使用される電気式コーンを改良したものである。
【0022】
三成分コーン貫入試験の電気式コーンでは、先端抵抗、間隙水圧及び周面せん断力の3つの成分の計測が行われる。先端抵抗は、電気式コーンの先端の円錐部分によって、地盤への押し込み時に計測される。一方、間隙水圧は、電気式コーンに取り付けられた水圧計によって計測される。
【0023】
そして、電気式コーンの周面せん断力は、上下方向に間隔を置いて貼り付けられたひずみゲージの計測結果から算定することができる。すなわち、電気式コーンの周方向には1対又は2対のひずみゲージが貼り付けられ、それらの計測結果の平均値からその位置の軸力が算定される。
図3では、ひずみゲージを上下に2点設置した場合の上部軸力N
uと下部軸力N
Lとが算定された例示となっている。
【0024】
電気式コーンの周面せん断力fsは、この上部軸力Nuと下部軸力NLとの差分を、ひずみゲージの上下方向の間隔Lに対する電気式コーンの外周面積2πdLで除することで算定することができる。すなわち、周面せん断力fsは、ひずみゲージの計測結果から得られる。
【0025】
ここで、電気式コーンの外周面と、その周囲の地盤との摩擦係数をμとすると、周面せん断力fsは、電気式コーンの周囲に水平方向に作用する有効土圧σ’hとの関係で、fs=μσ’hと表すことができる。本実施の形態の多段式コーン1では、この関係を利用することで、周面せん断力fsから有効土圧σ’hを求める。
【0026】
本実施の形態の多段式コーン1は、
図2に示すように、先端から拡幅するように設けられる3段以上の直径の異なる円柱状の計測部を備えている。本実施の形態では、3段の計測部が設けられる多段式コーン1について説明することとし、先端側から第1計測部11、第2計測部12、第3計測部13とする。
【0027】
第1計測部11と第2計測部12と第3計測部13は、いずれも円柱形や円筒形などの太さが上下方向で一定となる円柱状に形成されている。ここで、第1計測部11の半径をd1とし、第2計測部12の半径をd2とし、第3計測部13の半径をd3とする。半径の大小関係は、d1<d2<d3となる。例えば、d1は、15mm程度に設定される。
【0028】
第1計測部11、第2計測部12及び第3計測部13には、それぞれ上下方向に間隔を置いてひずみゲージ2が取り付けられる。各計測部(11,12,13)のひずみゲージの上下方向の数は、上下の2段に限定されるものではなく、3段以上を設けることもできる。また、
図2では、周方向に間隔を置いた対峙する位置に1対のひずみゲージ2,2が貼り付けられた形態を図示しているが、これに限定されるものではなく、周方向に等間隔に任意の数のひずみゲージ2を設けることができる。
【0029】
ここで、第1計測部11のひずみゲージ2,2の上下方向の間隔をL1とし、第2計測部12のひずみゲージ2,2の上下方向の間隔をL2とし、第3計測部13のひずみゲージ2,2の上下方向の間隔をL3とする。
【0030】
各計測部(11,12,13)のひずみゲージ2,2の上下方向の間隔L1,L2,L3は、一定でもよいし、計測部(11,12,13)毎に異なる間隔に設定することもできる。例えば、間隔L1,L2,L3は、500mm程度に設定することができる。
【0031】
また、多段式コーン1の先端部14は、円錐状に形成されて、先端抵抗を計測する先端抵抗測定部が設けられる。この先端部14及び先端抵抗測定部は、上述した三成分コーン貫入試験の電気式コーンの先端と同様の構成にすることができる。
【0032】
この先端部14に設けられた先端抵抗測定部により計測される先端抵抗によって、先端部14が押し込まれた地盤の土質の種別を判定することができる。例えば、三成分コーン貫入試験では、電気式コーンで測定された先端抵抗と周面せん断力を、土質分類判別図(Robertson,P.K. : Soil classification using the cone penetration test Canadian Geotechnical Journal,Vol.27,No.1, pp.151-158,1990)にプロットすることによって、有機質土、粘土、シルト質粘土、砂質シルト、砂、礫混じり砂、硬質な細粒土などの土質判別を行う。
【0033】
本実施の形態の多段式コーン1でも、先端部14で先端抵抗を計測することで、土質判別が行えるようになる。また、多段式コーン1の先端部14の上方には、間隙水圧を計測する水圧測定部15が設けられる。
【0034】
先端抵抗測定部で計測された先端抵抗は、水圧測定部15で計測された間隙水圧の値によって補正して、土質判別に使用することもできる。すなわち、先端部14を貫入する際には、水圧の影響を受けた値が先端抵抗として計測されるので、土質判別の精度を向上させるために、計測された先端抵抗の値を補正して使用することもできる。また、水圧測定部15は、先端部14の上方(第1計測部11の下端)だけでなく、第2計測部12の下端や第3計測部13の下端にも設けることができる。
【0035】
一般的に、砂質土や礫質土に貫入したときの先端抵抗は、粘性土に貫入したときと比較して大きくなる傾向がある。また、周面せん断力についても、砂質土や礫質土に貫入したときの方が大きくなる。
【0036】
一方、多段式コーン1の先端部14を地盤に貫入する際には、原位置にあった土粒子と間隙水を先端部によって周囲に押し出しながら推進するので、原位置の静水圧よりも大きな過剰間隙水圧が作用することになる。この際、保水性が高い土質であれば、そのまま過剰間隙水圧が測定され、排水性の高い土質であれば静水圧と同程度の間隙水圧が測定されることになる。このように、水圧測定部15で計測される間隙水圧は、液状化判定を行う際の地下水位の推定や、土質判別の推定などに利用することができる。
【0037】
図4は、地盤変位と水平土圧(静止土圧、受働土圧、主働土圧)との関係の概要を模式的に示した説明図である。また、
図5は、有効静止土圧と有効受働土圧と有効主働土圧との関係を、関係式を加えて示した説明図である。上述したように、従来から行われている孔内載荷試験では、プレッシャメーターを膨らませることで、この関係を求めて静止土圧係数K
0を測定している。
【0038】
本実施の形態の静止土圧係数の測定方法では、多段式コーン1を地盤に押し込むことで、プレッシャメーターを膨らませるような孔内載荷試験を行わなくても、静止土圧係数K0を測定することができる。
【0039】
さらに、多段式コーン1を押し込む際には、水平方向に地盤を圧縮する(締め固める)ので受働土圧側の計測ができるうえに、多段式コーン1を引き抜く際には、水平方向に地盤が膨張する(緩む)ので、主働土圧側の計測もできるようになる。この点の詳細については後述するが、受働土圧側と主働土圧側の両方の算定ができれば、より精緻な静止土圧係数の計測が可能となる。
【0040】
以下では、
図1のフローチャートに示した手順に従って、本実施の形態の静止土圧係数の測定方法の具体例について説明する。
まず、ステップS1では、
図2に示すような構成の多段式コーン1を準備する。
【0041】
多段式コーン1は、
図6に示すように、建設現場などの地盤の地表面から、計測対象深度に向けて挿入される(ステップS2)。
図6では、計測対象深度と示した1つの深度に位置する地盤の静止土圧係数を測定する場合について説明するが、計測対象深度は深さ方向に何箇所あってもよく、例えば地表面から50cm間隔で計測対象深度を設けることができる。
【0042】
ステップS3では、該当する計測対象深度の地盤に対して、多段式コーン1の先端部14及び第1計測部11を押し込み、先端抵抗、間隙水圧及び周面せん断力の計測を行う。先端抵抗は、先端部14の先端抵抗測定部で計測され、間隙水圧は水圧測定部15で計測される。
【0043】
第1計測部11では、
図6(a)に示すように、直径2d
1の円柱によって計測対象深度の地盤が押し広げられて、上下方向の間隔L
1で配置されたひずみゲージ2,2が通過する際に、周面せん断力f
sp1が計測される。この周面せん断力f
sp1は、計測対象深度の地盤の土質の種別によって求められる摩擦係数μと、有効受働土圧σ’
hp1との積である。
【0044】
続いてステップS4では、該当する計測対象深度の地盤に対して、多段式コーン1の第2計測部12を押し込み、周面せん断力の計測を行う。第2計測部12では、
図6(b)に示すように、直径2d
2の円柱によって計測対象深度の地盤が押し広げられて、上下方向の間隔L
2で配置されたひずみゲージ2,2が通過する際に、周面せん断力f
sp2が計測される。この周面せん断力f
sp2は、計測対象深度の地盤の土質の種別によって求められる摩擦係数μと、有効受働土圧σ’
hp2との積である。
【0045】
そして、ステップS5では、該当する計測対象深度の地盤に対して、多段式コーン1の第3計測部13を押し込み、周面せん断力の計測を行う。第3計測部13では、
図6(c)に示すように、直径2d
3の円柱によって計測対象深度の地盤が押し広げられて、上下方向の間隔L
3で配置されたひずみゲージ2,2が通過する際に、周面せん断力f
sp3が計測される。この周面せん断力f
sp3は、計測対象深度の地盤の土質の種別によって求められる摩擦係数μと、有効受働土圧σ’
hp3との積である。
【0046】
ステップS6では、続けて引き抜き時の計測を行うか否かを判定する。押し込み時の測定しか行わない場合は、ステップS9に移行して、計測対象深度の地盤の土質の種別を判定する。
【0047】
土質の種別の判定は、三成分コーン貫入試験の説明で上述した土質分類判別図を使って行うことができる。また、予め本実施の形態の多段式コーン1を使って、様々な土質に対して貫入試験を行い、土質分類ごとの標準値を設定しておくこともできる。要するに、先端部14及び第1計測部11を貫入した際に得られる、先端抵抗、間隙水圧及び周面せん断力の計測結果から、土質の種別を判別するためのデータベース又は土質分類判別図を、予め作成しておく。
【0048】
さらに、土質の種別と第1計測部11の外周面との間の摩擦係数μについても、予め標準値を設定しておく。こうすることによって、先端抵抗、間隙水圧及び周面せん断力の計測結果から土質の種別が判別されれば、摩擦係数μを設定することができる。
【0049】
ステップS10では、計測対象深度の静止土圧係数を算定する。周面せん断力(fsp1,fsp2,fsp3)と摩擦係数μが判明すれば、計測対象深度の有効受働土圧(σ’hp1,σ’hp2,σ’hp3)が算定できることになる。
【0050】
図7は、多段式コーン1の計測結果から有効静止土圧σ’
h0を推定する方法を示した説明図である。第1計測部11と第2計測部12と第3計測部13とをそれぞれ地盤に押し込んだ際に生じる変位は、d
1、d
2、d
3でそれぞれ表すことができる。
【0051】
一方、第1計測部11と第2計測部12と第3計測部13をそれぞれ地盤に押し込んだ際に計測される周面せん断力(fsp1,fsp2,fsp3)からは、計測対象深度の摩擦係数μを設定することで、それぞれ有効受働土圧(σ’hp1,σ’hp2,σ’hp3)を算定することができる。
【0052】
そして、横軸を変位、縦軸を有効土圧としたグラフに、第1計測部11、第2計測部12及び第3計測部13の計測結果をプロットし、3点のプロットから求められる近似直線又は近似曲線などの近似線を作成する。この近似線が、変位0と交わる切片が、静止土圧状態の有効静止土圧σ’h0となる。
【0053】
図5を参照しながら説明すると、有効静止土圧σ’
h0は、静止土圧係数K
0と有効上載圧σ’
vの積となるので、有効静止土圧σ’
h0を有効上載圧σ’
vで除することによって、静止土圧係数K
0を算定することができる。ここで、有効上載圧σ’
vは、計測対象深度などから求めることができる。なお、K
pは受働土圧係数、K
aは主働土圧係数を示す。
【0054】
ここで、有効静止土圧を求めるために3点以上のプロットを使用する理由について説明する。
図4に示すように、受働土圧の曲線は、地盤変位の増加に伴って一定の割合で増加していくのではなく、ある変位以上になると受働土圧も収束に向かう。このため、プロットが2点以下では、正確に有効静止土圧が求められない可能性がある。そこで、3点以上のプロットを使用して、有効静止土圧を算定する。
【0055】
ステップS6で引き抜き時の計測も行うと決定された場合は、ステップS7に移行する。引き抜き時の計測が行える地盤は、粘着力が小さく、地盤の自立性が低い土質の場合である。
図8は、引き抜き時の各ステップを説明する図である。
【0056】
計測対象深度に対して、多段式コーン1の第3計測部13までの押し込みが行われると、
図8(a)に破線で示した直径まで、地盤は押し広げられる。ここで、計測対象深度の地盤の自立性が低いと、多段式コーン1を引き上げた際に孔壁が崩れ、計測対象深度に移動した第2計測部12の周囲は、崩壊した地盤で満たされた状態になる。
【0057】
そこでステップS7では、計測対象深度の地盤に移動した第2計測部12を上方に引き抜き、その際の周面せん断力の計測をひずみゲージ2によって行う。第2計測部12では、
図8(a)に示すように、直径2d
2の円柱が計測対象深度の地盤から引き上げられて、上下方向の間隔L
2で配置されたひずみゲージ2,2が通過する際に、周面せん断力f
sa2が計測される。
【0058】
さらにステップS8では、計測対象深度の地盤に移動した第1計測部11を上方に引き抜き、その際の周面せん断力の計測をひずみゲージ2によって行う。第1計測部11では、
図8(b)に示すように、直径2d
1の円柱が計測対象深度の地盤から引き上げられて、上下方向の間隔L
1で配置されたひずみゲージ2,2が通過する際に、周面せん断力f
sa1が計測される。
【0059】
図9は、多段式コーン1の計測結果から、有効受働土圧と有効主働土圧を求めて有効静止土圧を推定する方法を示した説明図である。ここで、有効受働土圧側の算定については、上記ステップS10において
図7を参照しながら説明したのと同様に、周面せん断力の計測結果から有効受働土圧(σ’
hp1,σ’
hp2,σ’
hp3)を求めることができる(
図5参照)。
【0060】
一方、有効主働土圧側についても、有効受働土圧側と同様の算定を行うことができる。すなわち、第2計測部12と第1計測部11とをそれぞれ計測対象深度の地盤から引き抜いた際に生じる変位は、d2-d3、d1-d3でそれぞれ表すことができる。
【0061】
また、第2計測部12と第1計測部11とをそれぞれ引き抜いた際に計測される周面せん断力の計測結果からは、それぞれ有効主働土圧(σ’
ha2,σ’
ha1)を求めることができる。そこで、
図9に示すように、5点のプロットから求められる近似線を作成し、変位0と交わる切片を有効静止土圧σ’
h0と算定して、その値を有効上載圧σ’
vで除することで静止土圧係数K
0を算定する(ステップS10)。
【0062】
次に、本実施の形態の地盤の静止土圧係数の測定方法及び多段式コーン1の作用について説明する。
このように構成された本実施の形態の静止土圧係数の測定方法は、先端から拡幅するように3段以上の直径の異なる円柱状の計測部(11,12,13)が設けられた多段式コーン1を、地盤の計測対象深度まで押し込み、各計測部(11,12,13)の計測結果に基づいて静止土圧係数K0の算定を行う。
【0063】
要するに、コーン貫入試験機の機構を改良した多段式コーン1を地盤に押し込むだけなので、簡便かつ低コストで実施することができる。さらに、測定の際に孔壁を乱すことがないので、精度の高い静止土圧係数K0を測定することができる。また、簡便かつ低コストで実施できる測定方法であれば、多数の地点で実施することができるようになり、綿密な地盤調査が可能になる。
【0064】
ここで、有効受働土圧と有効主働土圧は、周面せん断力を計測対象深度の土質の種別に応じて設定された摩擦係数μで除することによって求めることができる。摩擦係数μについては、予め多段式コーン1を使った予備試験によって、様々な土質の種別に対してデータを収集しておくことで、精度の高い摩擦係数μの設定を行うことができるようになる。そして、計測対象深度の静止土圧係数K0は、変位が0となるときの有効土圧を、有効上載圧で除するだけで、簡単に算定することができる。
【0065】
また、多段式コーン1の先端部14で先端抵抗が計測されていれば、多段式コーン1を計測対象深度の地盤に押し込むだけで、土質の種別を判定することができるようになる。さらに、多段式コーン1で間隙水圧が計測されれば、土質の種別の判定、地下水位の推定、液状化判定などに利用することができる。
【0066】
要するに、本実施の形態の多段式コーン1であれば、先端から拡幅するように設けられる3段以上の直径の異なる円柱状の計測部(11,12,13)と、先端部14において先端抵抗を計測する先端抵抗測定部と、間隙水圧を計測する水圧測定部15とを備えている。このため、計測部(11,12,13)によって、周囲の地盤との間に生じる周面せん断力を計測できるうえに、先端抵抗と間隙水圧とを、多段式コーン1を地盤に押し込むだけで、一度にまとめて計測することができる。
【0067】
さらに、多段式コーン1の計測部(11,12,13)を3段以上押し込んだ後に、引き抜きながら各計測部(11,12)による計測対象深度の周面せん断力の計測を行うのであれば、より精緻に静止土圧係数K0を算定することができるようになる。
【0068】
こうした各計測部(11,12,13)による周面せん断力の算定は、上下方向に間隔を置いて設けられたひずみゲージ2,2の上下の計測結果の差分を求めることで、容易に行うことができる。
【0069】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0070】
例えば前記実施の形態では、3段の計測部(11,12,13)が設けられた多段式コーン1について説明したが、これに限定されるものではなく、4段以上の計測部を備えた多段式コーンを使用することもできる。
【符号の説明】
【0071】
1 :多段式コーン
11 :第1計測部(計測部)
12 :第2計測部(計測部)
13 :第3計測部(計測部)
14 :先端部
15 :水圧測定部
2 :ひずみゲージ