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特許7689977イオン注入によって加速キャビティの表面を処理するための方法及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-30
(45)【発行日】2025-06-09
(54)【発明の名称】イオン注入によって加速キャビティの表面を処理するための方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   H05H 7/20 20060101AFI20250602BHJP
   H01J 37/317 20060101ALI20250602BHJP
   H01J 37/147 20060101ALI20250602BHJP
【FI】
H05H7/20
H01J37/317 A
H01J37/317 Z
H01J37/147 D
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022553633
(86)(22)【出願日】2021-02-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-20
(86)【国際出願番号】 EP2021053014
(87)【国際公開番号】W WO2021175539
(87)【国際公開日】2021-09-10
【審査請求日】2024-02-09
(31)【優先権主張番号】2002213
(32)【優先日】2020-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】522352801
【氏名又は名称】カヴァリエ,マテュー
【氏名又は名称原語表記】CAVELLIER, Matthieu
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(72)【発明者】
【氏名】カヴァリエ,マテュー
【審査官】後藤 慎平
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-251742(JP,A)
【文献】特開2011-086450(JP,A)
【文献】梅森 健成,超伝導加速空洞の性能向上に向けた技術開発,低温工学,日本,公益社団法人 低温工学・超電導学会,2019年,54巻4号,p.267-274,<URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcsj/54/4/54_267/_pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 3/00-15/00
H01J 37/317
H01J 37/147
C23C 14/00-14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加速器モジュール(M)の少なくとも1つの素粒子加速キャビティ(C)の表面を処理するための方法であって、粒子ビームを前記少なくとも1つの素粒子加速キャビティの内面(S)に対して移動させることによって、又は、前記内面(S)を前記粒子ビームに対して移動させることによって前記内面(S)を走査する走査ステップ(400)を含み、
前記走査ステップ(400)は、
前記粒子ビームを電気及び磁気の少なくとも一方により前記内面に向けて偏向可能な走査ヘッド(30)を、前記加速器モジュールのオリフィスを介して前記少なくとも1つの素粒子加速キャビティに導入するステップ(100)と、
前記少なくとも1つの素粒子加速キャビティに導入された前記走査ヘッド(30)に向かう粒子ビームを真空生成するステップ(200,300)と、
によって先行され、
前記走査ステップ(400)は、前記走査ヘッド(30)を作動させる(400a)ことで実施される、方法。
【請求項2】
前記走査ステップは、前記少なくとも1つの素粒子加速キャビティ(C)を前記走査ヘッド(30)に対して、又は、前記走査ヘッド(30)を前記少なくとも1つの素粒子加速キャビティ(C)に対して回転させるステップ(400b)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記走査ステップは、前記走査ヘッド(30)を前記少なくとも1つの素粒子加速キャビティ(C)に対して、又は、前記少なくとも1つの素粒子加速キャビティを前記走査ヘッド(30)に対して並進移動させるステップ(400c)を含む、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つの素粒子加速キャビティの前記内面がニオブ(Nb)から形成され、前記粒子ビーム生成ステップが、単一又は複数の電荷を有する窒素イオンのビームを選択するステップを含む、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
通信ネットワークからダウンロード可能なコンピュータプログラム製品、コンピュータ可読媒体によって格納可能なコンピュータプログラム製品、及び、マイクロプロセッサによって実行可能なコンピュータプログラム製品のうち少なくとも1つのコンピュータプログラム製品であって、コンピュータで実行されるときに請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の処理方法を実行するためのプログラムコード命令を含むことを特徴とするコンピュータプログラム製品。
【請求項6】
請求項5に記載のコンピュータプログラム製品を記憶する、コンピュータによって読み取り可能な持続性記憶手段。
【請求項7】
加速器モジュール(M)の少なくとも1つの素粒子加速キャビティ(C)の表面を処理するための装置であって、粒子ビームを前記少なくとも1つの素粒子加速キャビティの内面に対して移動させることによって、又は、前記内面を前記粒子ビームに対して移動させることによって前記内面を走査するための走査手段と、
前記粒子ビームを電気及び磁気の少なくとも一方により前記内面に向けて偏向可能な走査ヘッド(30)を、前記少なくとも1つの素粒子加速キャビティに導入するための手段(20)であって、前記導入するための手段及び前記走査ヘッドが前記加速器モジュールのオリフィスを介して前記少なくとも1つの素粒子加速キャビティに挿入可能であるように構成される、手段(20)と、
前記走査ヘッド(30)に向かう粒子ビームを真空中で生成するための手段(10)と、
を備える、装置。
【請求項8】
前記走査ヘッド(30)は、生成された前記ビームを前記内面に向けて偏向させることができるビーム偏向器(30a)と、前記偏向されたビームを前記内面に向けさせるように前記ビーム偏向器に対して配置されたビーム出口開口(30b)と、を備える、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記走査手段は、前記少なくとも1つの素粒子加速キャビティ(C)を前記走査ヘッド(30)に対して、又は、前記走査ヘッド(30)を前記少なくとも1つの素粒子加速キャビティ(C)に対して回転させるための手段(R1,R2)を備える、請求項7又は請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記走査手段は、前記少なくとも1つの素粒子加速キャビティ(C)を前記走査ヘッド(30)に対して、又は、前記走査ヘッド(30)を前記少なくとも1つの素粒子加速キャビティ(C)に対して並進移動させるための手段(T)を備える、請求項7~請求項9のいずれか1項に記載の装置。
【請求項11】
前記加速器モジュールが連続する複数の素粒子加速キャビティ(C~C10)を備え、前記並進移動させるための手段は、前記複数の素粒子加速キャビティのそれぞれの前記内面の走査を行なうために前記走査ヘッド(30)を連続的に導入するように構成される、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記加速器モジュールが連続する複数の素粒子加速キャビティ(C~C10)を備え、前記導入するための手段は、前記導入するための手段に沿って連続的に配置される複数の走査ヘッド(30~3010)を備え、各走査ヘッドは、前記複数の素粒子加速キャビティの互いに異なるものの前記内面の走査を実行するように構成される、請求項7~請求項11のいずれか1項に記載の装置。
【請求項13】
前記少なくとも1つの素粒子加速キャビティであって、第1のフランジ及び第2のフランジを有する前記素粒子加速キャビティと、
前記真空中で生成するための手段(10)を前記第1のフランジに接続する接続・真空ガイドと、
前記第2のフランジに結合される吸収閉鎖部材と、
を備え、
前記少なくとも1つの素粒子加速キャビティ、前記接続・真空ガイド、前記真空中で生成するための手段(10)、及び、前記吸収閉鎖部材は、真空まで降圧可能な、前記少なくとも1つの素粒子加速キャビティの処理筐体を形成する、請求項7~請求項12のいずれか1項に記載の装置。
【請求項14】
加速器モジュールの少なくとも1つの素粒子加速キャビティを製造する方法であって、
少なくとも1つの素粒子加速キャビティを準備する準備ステップと、
前記少なくとも1つの素粒子加速キャビティの内面(S)を、粒子ビームを前記内面に対して移動させることによって、又は、前記内面を前記粒子ビームに対して移動させることによって、走査するステップであって、前記粒子ビームの流量および走査速度が、1×1011から1×1014に含まれる品質係数を有する前記少なくとも1つの素粒子加速キャビティを製造するように制御される、走査ステップと、
を含み、
前記走査ステップは、
前記粒子ビームを電気及び磁気の少なくとも一方により前記内面に向けて偏向可能な走査ヘッド(30)を、前記加速器モジュールのオリフィスを介して前記少なくとも1つの素粒子加速キャビティに導入するステップ(100)と、
前記少なくとも1つの素粒子加速キャビティに導入された前記走査ヘッド(30)に向かう粒子ビームを真空生成するステップ(200,300)と、
によって先行され、
前記走査ステップ(400)は、前記走査ヘッド(30)を作動させる(400a)ことで実施される、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理の分野にある。より詳細には、本発明は、一般に加速キャビティ又は共鳴キャビティと呼ばれる、例えば粒子加速器で使用されるようなキャビティの内面を処理する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
以下の記載は、本願の発明者らが直面した超伝導粒子加速器の分野に存在する問題に特に関係している。勿論、本発明は、この特定の適用分野に限定されるものではなく、密接な問題又は同様の問題に対処しなければならない任意の表面処理技術にとって重要である。
【0003】
粒子加速器は、素粒子を高エネルギーで加速することを目的とした装置である。様々な既存の装置の中には、一連の(RF)無線周波数加速キャビティの形態を成す1つ以上の加速器モジュールが装備されるものがあり、加速キャビティ内のそれぞれにおいて、粒子がそれに印加された電磁場によって加速される。加速キャビティの形状及び寸法は、加速器ごとに異なり、様々な要因に依存する。これらのRF加速キャビティを様々な金属材料又は合金から形成することができ、最も一般的に使用されるのは銅及びニオブ(化学記号Nb)である。ニオブは、非常に低い温度(一般に2°K未満)で優れた性能を発揮する超伝導材料である。そのようなキャビティでは、超電導により、その内壁の表面抵抗を低減することが可能になる。したがって、この現象は、ニオブの最初のナノメートル層のレベルに局在する現象である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
加速キャビティの共振性能を向上させるべく、特にこれらのキャビティの品質係数を増大させるために、ニオブ壁の窒素ドーピングによる表面処理が可能であることが実証されてきた。それにもかかわらず、そのような処理は、特に加速キャビティの形状及び寸法、並びに、これらの特定の内部領域への困難なアクセスに起因して、実施するのに繊細な操作のままである。
【0005】
既知の処理方法は、ニオブキャビティの窒素注入によるドーピングの技術に基づいている。このプロセスは、窒素ガスで飽和した処理チャンバ内でのニオブキャビティの高温熱処理(通常は600~1000℃)を含む。そのような方法により、キャビティの表面及び内部構造の物理化学的特性を変更して、品質係数を改善することが可能になる。しかしながら、これは時間とエネルギーとを大量に消費するプロセスである。更に、このタイプのプロセスでは、キャビティの壁に注入される窒素の深さだけでなく、窒素濃度も制御するのが難しいままである。そして、加速キャビティの寸法と特定の形状とに応じて、比較的大きなサイズの処理チャンバを使用する必要がある。また、このプロセスでは、キャビティ内で電気化学研磨ステップを実行して、表面に形成された窒化ニオブの層を厚さ数ミクロン(5~10μm程度)にわたって除去する必要がある。実際に、高温処理は、超伝導特性を劣化させ、キャビティの表面抵抗を大幅に増大させる効果を有する窒化ニオブの層の形成をもたらす。また、この電気化学的研磨処理は、所望の特性を得るために許容できる粗さを見つけることを可能にする。
【0006】
したがって、キャビティを加速するのに技術的により適しており、特に処理効率を高めるためにドーピングパラメータをより適切に制御できる表面処理技術を有することは特に興味深いと考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の特定の実施形態では、加速器モジュールの少なくとも1つの加速キャビティの表面を処理するための方法が提案され、この方法は、粒子ビームを使用して、粒子の注入によって、上記少なくとも1つのキャビティの内面を処理するステップを含む。
【0008】
「内面」とは、上記少なくとも1つのキャビティの内面の全部又は一部を意味する。換言すれば、本発明に係る粒子ビームの使用は、上記少なくともキャビティの内面を少なくとも部分的に処理するために実施される。
【0009】
したがって、本発明は、粒子の注入によって表面処理を実行するために、1つ以上の加速キャビティの内面を粒子ビームに晒すことを含む、従来技術の技法に対する代替案を提案する。この新たなアプローチは、加速キャビティの表面処理を低温(すなわち、周囲温度程度)で実行する可能性を与え、そのような処理について、選択的に実行することも、あるいは、実行しないこともできる。また、この新たなアプローチは、前述の従来技術(注入ドーピング)の方法とは異なり、注入パラメータのより良い制御、特に注入の深さ及び濃度のより良い制御も可能にする。
【0010】
本発明の特定の態様によれば、使用ステップは、粒子ビームを上記内面に対して移動させることで、あるいは、上記内面を粒子ビームに対して移動させることで、上記内面を走査するステップを含む。これにより、効果的で質の高い表面処理を行なうことができる。粒子ビームの走査の実施により、特に、アクセスが困難なキャビティの特定の内側部分へのより容易なアクセスが可能になる。したがって、従来技術とは異なり、本発明は、処理対象の加速キャビティの寸法及び形状に、より容易に適合する方法を提供する。更に、粒子ビームを使用することにより、従来技術に係る注入によるドーピングの場合よりも粒子の使用量を少なくすることが可能になる。更に、低温処理の利点により、キャビティの特性に有害な化合物の表面形成を回避又は少なくとも低減することが可能になる。これにより、従来技術の方法の場合のように、電気化学的研磨ステップを省略することが可能になる。実際に、本発明は、実装が簡単で安価な処理ソリューションを提供する。
【0011】
特定の特性によれば、走査ステップは、以下のステップ、すなわち、
-加速器モジュールのオリフィスを介して、電気及び磁気の少なくとも一方による内面の走査ヘッドを、上記少なくとも1つのキャビティに導入するステップと、
-上記少なくとも1つのキャビティに導入された走査ヘッドの方向で粒子ビームを真空生成するステップと、
によって先行され、
上記走査ステップは走査ヘッドを駆動することによって実施される。
【0012】
したがって、本発明は、キャビティ内に予め導入された走査ヘッドの単純な駆動によって、内面の電気的、磁気的又は電磁的走査を実行する可能性をもたらす。走査は、第1の走査軸の周りで実行される。
【0013】
本発明の補足的な態様によれば、走査ステップは、上記少なくとも1つのキャビティを走査ヘッドに対して回転駆動させる、あるいは、走査ヘッドを上記少なくとも1つのキャビティに対して回転駆動させるステップを含む。回転駆動は、第2の走査軸の周りで実行される。したがって、本発明は、走査ヘッドに対するキャビティの、あるいは、キャビティに対する走査ヘッドの単純な回転によって、内面の機械的スキャニングを更に実行する可能性を与える。
【0014】
これに代えて、又は、これに加えて、走査ステップは、走査ヘッドを上記少なくとも1つのキャビティに対して、あるいは、上記少なくとも1つのキャビティを走査ヘッドに対して並進駆動させるステップを含む。並進駆動は、前述の第2の走査軸に沿って実行される。したがって、本発明は、キャビティの内面を機械的に掃引する別の方法を提供する。回転ステップ及び並進駆動ステップは、所望の走査形態に応じて連続的に又は同時に実行することができる。
【0015】
本発明の特定の態様によれば、ビームの粒子は、原子種、分子種、イオン種、分子及びイオン種、少なくとも1つの素粒子に基づく種を含むグループに属する種から選択される粒子である。したがって、本発明に係る方法は、注入される異なるタイプの粒子に適合し、その選択は、処理されるキャビティの内壁の材料並びに所望の表面処理の性質に依存する。
【0016】
本発明の特定の態様によれば、ビームの粒子は、窒素(N)、ヘリウム(He)、チタン(Ti)、アルゴン(Ar)、酸素(O)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、ネオン(Ne)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)、ホウ素(B)、炭素(C)、フッ素(F)、シリコン(Si)、リン(P)、硫黄(S)を含むグループに属する元素から選択されたイオンである。したがって、本発明に係るプロセスは、異なる性質のイオンに適合する。この項目のリストは、必ずしも全てを網羅しているわけではない。選択は、処理されるキャビティの材料と、所望の表面処理の性質とに依存する。
【0017】
特に有利な特徴によれば、上記少なくとも1つのキャビティの内面はニオブ(Nb)から形成され、使用される粒子ビームは、単一の電荷又は複数の電荷を伴う窒素イオンのビームである。そのようなビームの使用は、このように処理されたニオブキャビティの共振品質係数を改善することを可能にする。
【0018】
また、本発明は、このプロセスから直接得られる生成物、及び、特に粒子加速器における生成物のその後の使用にも関する。したがって、他の特定の実施形態によれば、様々な実施形態のいずれか1つにおける前述の処理方法によって得られる加速器モジュールの加速キャビティが提案される。この点に関して、このような処理プロセスは、通常、粒子加速器用の加速キャビティ製造というより包括的なプロセスで行なわれることに留意すべきである。このような加速キャビティは、粒子ビームを内面に対して、又は、内面を粒子ビームに対して移動させることによって、キャビティの内面を走査するステップにより特徴付けられる、前述の方法によって実施される表面処理により得られる。処理後、加速キャビティは1×1011~1×1014の品質係数を有する。
【0019】
本発明の他の実施形態では、コンピュータプログラム製品が提供され、このコンピュータプログラム製品は、プログラムがコンピュータ上で実行されるときに、前述の方法を(その様々な実施形態のいずれかにおいて)実施するためのプログラムコード命令を含む。
【0020】
本発明の他の実施形態では、前述の方法を(その様々な実施形態のいずれかにおいて)実行するためのコンピュータ実行可能命令のセットを含むコンピュータプログラムを記憶するコンピュータ可読持続性記憶媒体が提供される。
【0021】
本発明の他の実施形態では、加速器モジュールの少なくとも1つの加速キャビティのための表面処理装置が提案され、この装置は、粒子ビームによって上記少なくとも1つのキャビティの内面を走査するための手段を備える。
【0022】
したがって、本発明は、従来技術の表面処理装置に代わる、より効率的で実施がより簡単な代替案を提案する。この実施形態における本発明の一般原理は、1つ以上の加速キャビティの内面を粒子ビーム走査に晒して、粒子の注入による表面処理を加速キャビティ内で実行することにある。この新たなアプローチにより低温処理を実行することが可能になり、これは、(例えば、キャビティの内面の一部を走査することによって)選択的であるか、又は、(例えば、内面全体を走査することによって)非選択的であるかのいずれかが可能である。そして、前述の従来技術と比較して、粒子ビームの使用は、注入パラメータ、特に注入粒子の深さ及び濃度のより良い制御をもたらす。
【0023】
補足的に、装置は更に、
-電気及び磁気の少なくとも一方による内面の走査ヘッドを上記少なくとも1つのキャビティに導入するための手段であって、この導入するための手段及び走査ヘッドが上記少なくとも1つのキャビティに挿入可能であるように構成される、手段と、
-走査ヘッドの方向で粒子ビームを真空下で生成するための手段と、
を備え、上記走査手段が走査ヘッドを備える。
【0024】
より詳細には、走査ヘッドは、生成されたビームを内面に向けて偏向させることができるビーム偏向器と、偏向されたビームを内面の方向へ通過させるようにビーム偏向器に対して配置されたビーム出口開口とを備える。この方法では、単純な電気力及び磁力の少なくとも一方を印加することによって、粒子ビームは、表面処理の目的で、キャビティ自体の中でその軌道から偏向される。本発明は、実際に、キャビティの内面を処理するために、第1の走査軸の周りで純粋に電気的、磁気的、又は電磁的走査を実行する可能性を与える。
【0025】
補足的に、走査手段は、上記少なくとも1つのキャビティを走査ヘッドに対して、又は、走査ヘッドを上記少なくとも1つのキャビティに対して回転駆動させるための手段を備える。したがって、巧妙な方法で、純粋に機械的又は電気機械的又は磁気機械的タイプのハイブリッド走査を実行して、キャビティの内面を処理することができる。
【0026】
補足的又は代替的に、前記走査手段は、走査ヘッドを上記少なくとも1つのキャビティに対して、又は、上記少なくとも1つのキャビティを走査ヘッドに対して並進駆動させるための手段を備える。したがって、本発明は、走査を単独で又は前述の回転駆動手段と組み合わせて実行する可能性も与える。
【0027】
特定の形態によれば、加速器モジュールは複数の連続する加速キャビティを備え、並進駆動手段は、前記複数のキャビティのそれぞれの内面を走査するため、走査ヘッドを連続的に導入するように構成される。したがって、幾つかのキャビティの内面を単一の走査ヘッドで経時的に連続して処理することが可能である。
【0028】
変形実施形態によれば、加速器モジュールは複数の連続する加速キャビティを備え、導入手段は、前記導入手段に沿って連続的に配置された複数の別個の走査ヘッドを備え、各走査ヘッドは、互いに異なるキャビティの内面を走査するように動作すべく構成される。この変形例は、マルチキャビティ処理中に走査ヘッドの並進を実行する必要なく、幾つかのキャビティの処理を実行できるため、特に興味深い。したがって、そのような形態は、実装がより簡単であり、処理時間を短縮することが可能になる。更に、前述の特定の形態と比較すると、同じ長さの加速器モジュールに関して、長さを半分に短縮する導入手段に頼ることが可能になる。本発明に係る並進駆動手段の二重の機能、すなわち、少なくとも1つの加速キャビティ内での走査ヘッドの位置決め、及び、必要に応じて、第1の走査軸に係る加速キャビティの内面の走査への関与に留意されたい。
【0029】
特定の特徴によれば、装置は、真空下に置くことができる筐体を加速器モジュールと共に形成するように構成される。このようにして、装置及び加速器モジュールは、制御された雰囲気下に置くことができる処理筐体を備えるシステムを形成する。したがって、加速器モジュールが専用の処理筐体に配置される前述の従来技術とは異なり、本発明に係る装置は、(キャビティの数に関係なく)加速器モジュールをうまく利用して処理筐体を形成し、したがって、寸法が減少された装置を提供する。この場合、処理筐体は、上記少なくとも1つの加速キャビティ、真空下で粒子ビームを生成するための手段を上記少なくとも1つのキャビティの第1のオリフィスに接続する接続・真空ガイド、及び、上記少なくとも1つのキャビティの第2のポートに結合された吸収閉鎖部材によって形成される。格納容器を真空下に置くと、生成手段によって生成された粒子ビームの使用が容易になる。
【0030】
より一般的には、本発明に係る処理装置は、その様々な実施形態のいずれにおいても、前述の処理方法で実行するステップを実施するための手段を備える。本発明の更なる特徴及び利点は、例示的且つ非限定的な例として与えられる以下の説明、及び、添付の図面から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の特定の実施形態に係る処理装置の簡略化された概観を示す図である。
図2】本発明に係る方法の特定の実施形態の一般的なチャートである。
図3】マルチキャビティ処理に対する図1に示す装置の動作を示す図である。
図4】本発明に係る図3に示される装置の実施の変形を示す図である。
図5A】本発明に係る走査ヘッドの第1の例の概略図である。
図5B】本発明に係る走査ヘッドの第1の例の概略図である。
図6A】本発明に係る走査ヘッドの第2の例の概略図である。
図6B】本発明に係る走査ヘッドの第2の例の概略図である。
図7】本発明の特定の実施形態に係る方法を実施する制御ユニットの構造の簡略図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本明細書に添付された図面では、同じ要素は同じ参照番号で示される。本発明の一般的な原理は、粒子ビームを使用して加速器モジュールの1つ以上の加速キャビティの内面を処理することに基づく。そのようなアプローチは、効果的な表面処理を実行することを可能にし、特にこのタイプのキャビティに適している。
【0033】
この文書の残りの部分では、線形超伝導加速構造の場合の本発明の説明に特に注意が払われている。勿論、これは、本発明の範囲から逸脱することなく他の多くの用途に容易に適応可能な特定の適用例である。
【0034】
〔単一キャビティ処理〕
図1は、本発明の特定の実施形態に係る処理装置D1の動作原理を概略的に示す。
【0035】
この特定の実施形態において、装置D1は、イオン注入によって加速キャビティCの内面Sを処理するように構成される。この表面処理は、加速キャビティの共振性能を高めることを目的としている。
【0036】
例としてこの図に示される加速器モジュールMは、ただ1つの加速キャビティを備える。加速キャビティCの内面Sは、加速器モジュールの製造に頻繁に使用される超伝導材料であるニオブ(記号Nb)から形成される。ここで使用する粒子ビームは窒素系のイオンビームである。装置D1及び加速器モジュールMは、ここでは座標系X、Y、Zで表わされる本発明に係る処理システムを形成する。
【0037】
キャビティCは、縦軸Xを中心とした回転対称性を有する。この軸は、図の点線Xで示される。この縦軸Xと直交して、キャビティCは、YZ平面内で径方向に延在するが、縦軸Xに沿って漸進的に延在し、実質的に円環状の全体形状を画定する。キャビティCは、円形断面の入口オリフィスO1及び出口オリフィスO2を備え、これらのオリフィスはいずれも縦軸Xを中心とする。
【0038】
特にエネルギーに関して、表面処理をより効率的及び低コストにするために、本発明に係る装置は、イオンビームによってキャビティCの内面Sの制御された走査を実行するように構成される走査手段を有する。走査は、内面Sに対するイオンビームの移動によって、又は、逆に、イオンビームに対する内面Sの変位によって、実行される。以下に提示される走査手段は異なるタイプのものである。これらは、目的の走査形態に応じて、単独で又は組み合わせて、順次又は同時に動作され得る。イオンビームの使用原理は、図2に関連して後で詳しく説明する。
【0039】
この特定の実施形態において、装置D1は、
-イオンのビームを生成するための手段10、例えば一価窒素イオン(記号N+)のビームを生成するように構成される電子サイクロトロン共鳴源(又はECR源)と、
-このビームに印加される磁力によってイオンビームを内面Sに向けて偏向させることにより内面Sを走査することができる磁気走査ヘッド30と、
-走査ヘッド30をキャビティCに導入するための手段20と、
-接続・真空ガイド40と、
-キャビティ出口に配置された吸収閉鎖部材50と、
-上記の手段10、20、30及び40を制御するように構成される制御ユニット80と、
を備える。
【0040】
ここに示される例において、走査手段は、導入手段20に含まれる走査ヘッド30によって磁気的に確保される。そのような走査ヘッドは、図5A及び図5Bに示されるように、例えば、ビームの出口開口と、この開口の近傍に配置された磁気双極子とから構成される。
【0041】
導入手段20は、ここでは、縦軸Xを中心とし縦軸Xに沿って延びる長尺なロッドの形態で存在する。ロッド20は、機械的変形を受けることなく走査ヘッド30をキャビティCの中心に運ぶことを可能にするのに十分な剛性を有するように設計される。更に、ロッド20は、オリフィスO1-O2を介してキャビティC内にロッド20及び走査ヘッド30を挿入できるように寸法が決められる。特定の態様によれば、ロッド20は、イオン源10によって放出される入射イオンビームFiと干渉しないように成形されなければならない。例えば、縦軸Xを中心とし縦軸Xに沿って延びる管状のロッドは、イオンビームが縦軸Xに沿ってその中心を通過するのに適している。磁気走査ヘッド30の実装に関する更なる詳細は、図5A及び図5Bに関連して後述する。
【0042】
接続ガイド40は、縦軸Xを中心とし縦軸Xに沿って延在する管状の要素である。接続ガイドは、一方ではイオン源10に対して、他方では環状接続フランジR1によりキャビティCの入口オリフィスO1に対してシール接続される。また、ガイド40には、ガイドの内壁に固定装着され、挿入ロッド20を縦軸Xに配列して支持するように配置される支持部材Tが備えられる。補足的に、ガイド40に設けられる支持部材Tは、導入ロッド20を縦軸Xに沿って並進させる役割を果たすことができる。そして、システムを制御された雰囲気下に置くために、真空ポンプ(図示せず)がシール部材(これも図示せず)によってガイド40に接続される。
【0043】
吸収閉鎖部材50は、吸収底部によって一端が閉鎖されたチューブの形態であり、他端が環状接続フランジR2によってO2出口オリフィスにシール接続されるようになっている。吸収底部は、処理中おける残留イオン又は未使用イオンの阻止を目的として、電離放射線の吸収特性のために選択された材料(言い換えると、この場合、窒素イオンに対する阻止能のために選択された材料)の少なくとも1つの層を備える。したがって、部材50は、イオン吸収機能を発揮するが、O2出口オリフィスをシールする機能も果たす。
【0044】
特に有利な形態によれば、10、40、O1、C、O2及び50で参照される要素は、真空下に置くことができる密閉処理筐体を形成するように構成されたモジュール要素である。実際に、イオン注入の性能を向上させるために、処理チャンバを制御された真空下で有することが好ましい。この真空は、残留ガスによるイオンビームの遮断を防止し、注入プロセス中に処理対象の内面のこれらの同じガスによる汚染を回避することを可能にする。このようにして生成されたイオンビームはより安定し、それによって注入精度が向上する。筐体は、ガイド40に接続された真空ポンプによって従来通りに真空引きされる。したがって、従来技術とは異なり、加速器モジュールを収容するサイズの本格的な処理筐体を提供する必要はもはやない。これは、本発明に係る装置が加速器モジュールM自体をうまく利用して制御された雰囲気の筐体を形成できるようにするからである。したがって、本発明のおかげで、縮小されたサイズの処理装置を有することが可能である。
【0045】
以上から分かるように、図1に示す例では、走査手段は、磁気走査ヘッド30(以下、「第1の走査手段」という)によって確保される。
【0046】
補足的に、本発明に係る走査手段は、磁気走査ヘッド30に対してキャビティCを縦軸Xの周りで回転駆動する手段によっても確保される。これらの駆動手段は、本質的に機械的であり、以下、「第2の走査手段」という。回転駆動手段は、ここでは、入口オリフィスO1及び出口オリフィスO2の出口にそれぞれ配置された回転環状フランジR1及びR2によって表わされる。これらのフランジは、より詳細には、(回転フランジR1によって与えられる)一方では接続ガイド40に対して、(回転フランジR2によって与えられる)他方では閉鎖部材50に対して、キャビティCを回転させることができるように設計される。キャビティCの回転軸は縦軸Xと一致する。各回転フランジR1~R2には例えば環状のシールの一部も設けられ、それが接続される各要素との真空気密接続を保証することができる。
【0047】
ここで、図2に関連して、本発明の特定の実施形態に係る方法の主なステップを提示する。この方法は制御ユニットによって部分的に実施され、その原理は図7に関連して後に詳述する。この制御ユニットは、イオン源10、第1の走査手段(30)及び第2の走査手段(R1,R2)、並びに、真空ポンプを制御するように構成される。制御ユニットによるこれらの様々な要素の制御は、制御コマンドによって実行される。
【0048】
先ず、装置D1は、以下のモジュール要素を組み立てることによって、すなわち、接続ガイド40をイオン源10に組み付けて、フランジR1を介して接続ガイド40を入口オリフィスO1に組み付けて、フランジR2を介して閉鎖吸収部材50を出口ポートに組み付けて、固定される。磁気ヘッド30を支持する挿入ロッド20は、図1に示すように磁気ヘッドがキャビティCの中心に配置されるように、オリフィスO1を介してキャビティC内に導入される。この挿入ステップは、図2において100の参照符号が付され、様々なモジュール要素の組み立て時に手動で実行される。少なくとも1つのモジュール要素支持構造を使用して、前記モジュール要素を可動にし、モジュール要素の組み立てを容易にすることができる。
【0049】
補足的に又は代替的に、磁気ヘッド30は、プログラム可能なオートマトンの助けを借りて、又は、ロッド20を縦軸Xに沿って電動並進駆動するための手段を用いて、自動的にキャビティCに導入することができる。この機能は、本例において、並進器Tによって果たされる。この場合、制御ユニットは並進器Tも制御するように構成されなければならない。勿論、代わりに、出口オリフィスを介して、ロッドの導入ひいては走査ヘッドの導入を進めることも可能であり、上記の原理は同じ態様で適用される。
【0050】
次に、ステップ200において、接続ガイド40に接続される真空ポンプを作動させることによって処理筐体が真空下に置かれる。処理筐体内の圧力が10-5~10-8mbar程度になると、筐体内が真空に達したと見なされ、次のステップが実行される。
【0051】
本発明に係るイオン注入条件を改善するために処理筐体を真空下に置くことが好ましいが、処理筐体が真空から外れている(すなわち、大気圧にある)「真空度の低い」実施形態を十分に考慮することができる。
【0052】
ステップ300では、真空下で接続ガイド40を介してガイドヘッド30の方向に一価又は多価の窒素系イオンのビームを生成するように、イオン源10が作動される。イオンビームは、通常、円形断面を有し、一般的に0.5mm~200mmの所定の直径を有する。ビームの直径は、特に、処理対象のキャビティのサイズ及び所望の走査速度にしたがって選択される。イオンビームは加速電圧1kV~500MVで照射される。イオンビームの流量は、所定の厚さの注入イオンの層を形成するように適合される。注入イオンの表面濃度に関して、それは主にキャビティ表面でのビームの走査速度に依存する。ビーム照射時間が長いほど、1平方センチメートルあたりに注入されるイオンの数が多くなる。特定の実施によれば、制御ユニットは、処理されたキャビティに最終的に付与される品質係数が少なくとも3.1010を超えるように、キャビティの内面で得られるべきフルエンス(イオン数/cmで表わされる)を考慮することができる。より詳細には、窒素イオンビームによる処理にしたがって処理されたニオブキャビティに関しては、1×1011~1×1014の品質係数を得ることができる。
【0053】
イオンビームに関連するこれらのパラメータを取得するために、制御ユニットは、記憶メモリから、キャビティCの内面の走査を実行するために事前に規定された走査パターンをロードする。この走査パターンは、一般に、放出されるビームのパラメータと、処理対象の内面に対するイオンビーム又はイオンビームに対する処理対象の内面の相対移動のパラメータと、を規定可能な一連の命令を含む。したがって、ユニット制御によって実行されるようになっているこの一連の命令は、ユニット制御によって実行される走査手順に関連する多数のデータを含む。例えば、イオンビームの加速電圧、イオンビームの強度、ビームの直径、放出されるイオンの性質、作動される走査手段による走査シーケンス、走査速度、走査ステップなどについて言及することもできるが、このリストは網羅的ではない。
【0054】
ステップ400は、イオン源10によって生成されたイオンビームを使用して、その特性を改善する目的でキャビティCの内面の走査を実行することに基づいている。制御ユニットによって調整される走査は、実行中の走査パターンによって異なる。
【0055】
特定の実施形態によれば、制御ユニットは、内面Sの磁気機械ハイブリッド走査を実行する。次いで、制御ユニットは、走査パターンに含まれる命令に応じて、第1及び第2の走査手段を作動させることを可能にする一連のコマンドを送る。
【0056】
したがって、磁気ヘッド30が作動されると(第1の走査手段)、第1の走査軸(キャビティの軸Yと一致する回転軸)の周りで内面Sを掃引するために、第1の走査軸の周りでキャビティCに対して移動するのはイオンビームである。このステップは、図1の矢印A及び図2のボックス400aによって具体化される。
【0057】
一対の回転フランジR1,R2が作動されると(第2の走査手段)、第2の走査軸(キャビティのX軸と一致する回転軸)の周りで内面Sを走査するために、第2の走査軸の周りでイオンビームに対して移動するのはキャビティCである。このステップは、図1の矢印B及び図2のボックス400bによって具体化される。
【0058】
第1の走査手段及び第2の走査手段は、方法のステップ400中で順次に又は同時に作動可能であることに留意されたい。
【0059】
これに代えて又は加えて、モジュールMに対する挿入ロッド20の並進を確保する並進器Tも、第3の走査手段として、キャビティCの内面の走査に関与するように作動させることができる。この場合、第3の走査軸(縦軸Xと一致する並進軸)に沿ってキャビティCに対して移動されるのはイオンビームである。この任意選択的なステップは、図1の矢印Dによって及び図2のボックス400cによって具体化される。これらの第3の走査手段は、方法のステップ400中に走査する、第1の走査手段及び第2の走査手段の少なくとも一方と順次に又は同時に実施することができる。
【0060】
ここで説明する走査方式は、キャビティCの内面全体をイオン注入によって処理するようになっている走査サイクルを含む(後に、包括的な処理について述べる)。勿論、これは特定の実施形態であり、ユーザによって規定されたニーズにしたがって他の多くの走査方式を考慮することができる。
【0061】
処理の均一性を保証するために、例えば、幾つかの走査サイクルを伴う走査方式が想定され得る。
【0062】
キャビティの局所処理を実行するために、上記の原理に従うが内面の一部又は複数の別個の部分のみを対象とする走査サイクルも想定することができる(後に、選択的処理について述べる)。
【0063】
そして、本発明に係るイオンビームの使用は、必要に応じて処理表面の任意のポイントで一定又は可変であり得る深さ及び濃度でのイオン注入の可能性を与える。実際に、これら2つの注入パラメータは、イオンビームの注入エネルギーに依存することが実証されている。しかしながら、注入エネルギー自体は、特に2つの要因に依存する。すなわち、一方では、イオン源から内面への衝突ポイントまでのイオンビームの移動距離に依存し、他方では、内面上のビームの衝突ポイントでの内面に対するイオンビームの入射角に依存する。これらの2つの要因は処理中に変化する可能性があるため、前述の注入パラメータが影響を受ける可能性がある。この欠陥を補償するために、前述の2つの要因の少なくとも1つを考慮して、モジュールM又はビームのいずれが移動しようとも、内面Sのレベルに注入されるイオンの量を変更するために、処理中のこれら2つの要素の移動の相対速度を調整することができる。
【0064】
したがって、特定の実施によれば、走査パターンは、一定の走査速度を規定する。或いは、走査方式は、処理対象のキャビティの形状を考慮するべく可変の走査速度を規定する。これは、処理対象の内面全体にわたってイオンの注入を均質化する効果がある。
【0065】
他の代替案によれば、走査方式は、所定のキャビティに関する所定の濃度又は注入深さプロファイルの関数である走査速度を規定する。この実施は、従来技術のドーピング技術では得ることが困難であった正確なイオン注入プロファイルをもたらすことができるようにするという点で特に有利である。
【0066】
ステップ400の終わりに、筐体を大気圧下に戻すために、真空ポンプが停止される。このようにして、品質係数が向上した加速キャビティが得られる。
【0067】
想定される用途、特に処理対象の加速キャビティの形状及び寸法に応じて、本発明に係る装置の構成要素の形状及び寸法は、前記の実施例に限定されないことに留意すべきである。例えば、導入ロッド、接続ガイド、環状フランジ、及び、吸収体などの要素は、異なる形状をとることができ、処理対象の加速器モジュールに適合した寸法を有することができる。
【0068】
イオンビームは、ここでは、電子サイクロトロン共鳴源によって放出され、このタイプのイオン源は、一価又は多価のイオン、すなわち、1つ以上の電子が除去された特定の化学種の原子を生成するために一般に使用されるが、この例に限定するものではない。網羅的ではないが、例えば、放電、イオン化、熱イオン化源、又はプラズマなど、高エネルギー粒子ビームを生成できる他のタイプのイオン源を、本発明の範囲内で使用することができる。所望の形状の粒子ビームの形成を保証するために、イオン源を高真空又は更には超高真空に晒されるように装備することも好ましい(プラズマイオン源を除く)。
【0069】
上記の例に示すような表面処理専用のイオン源ではなく、キャビティを処理するようになっている粒子加速器の本来のイオン源を使用する可能性にも留意されたい。この本来のイオン源は、実際に、加速モジュールの縦軸に沿って高エネルギーで粒子を生成するように当初より構成されることから、このモジュールのキャビティの内面を処理するために本発明に係るビームを生成するための手段として、この本来のイオン源を使用することが有利であり得る。
【0070】
なお、上記に示した加速器モジュールMには加速キャビティが1つしかないことに留意されたい。上記に示されている加速キャビティの数は、純粋に教育的な説明として、最初は自発的に制限される。勿論、図3及び図4に関連して以下に示すように、より多数の加速キャビティを用いて本発明に係る表面処理を実行することが可能である。
【0071】
〔マルチキャビティ処理〕
マルチキャビティ処理装置の動作原理は、本発明の特定の実施形態に係る図3に関連して以下に説明される。図1とは異なり、加速器モジュールM’は、C~C10の参照符号が付された10個の連続した加速キャビティのセットから成る。これらのキャビティのそれぞれは、上記のキャビティCと同様に、ニオブを主成分とする。加速器モジュールM’は、X軸を中心とする入口オリフィスO1’及び出口オリフィスO2’を備える。処理装置に関しては、導入ロッド20'と、マルチキャビティモジュールM'の寸法に適合した寸法の接続ガイド40'と、を備える。これらの2つの要素はそれぞれ、実際に、走査ヘッド30をモジュールM'の各キャビティ内にキャビティCからキャビティC10まで導入ロッド20'の縦軸Xに沿う並進によって導入できるように、適切な長さを有していなければならない。
【0072】
この特定の形態において、接続ガイド40’に固定される支持部材Tは、縦軸Xに沿う挿入ロッド20’の並進器として機能し、それにより、挿入ロッド20’を加速器モジュールM’に対して並進移動可能にする。したがって、本発明にしたがってイオンビームを使用してモジュールM'のキャビティC~C10のそれぞれの内面を走査するために、支持部材Tは、モジュールM’のキャビティC~C10のそれぞれに走査ヘッド30を連続的に導入するように構成される。ロッド20’ひいては走査ヘッド30の縦軸Xに沿った並進移動は、図の矢印Dによって具体化される。
【0073】
これらのキャビティ1~10の番号順にしたがって連続的に処理されるキャビティC~C10の例を取り上げる。制御ユニットは、先ず、モジュールM'のキャビティCを処理するために、(キャビティCに適用された上記の原理にしたがって)前述のステップ100~400を実行に移す。したがって、制御ユニットは、走査ヘッド30をキャビティCの中心に導入した後、イオン源10によって放出された窒素イオンのビームによって、このキャビティC1の内面を走査する。そして、キャビティCに関して走査段階が終了すると、制御ユニットは、モジュールM'のキャビティCを処理するために、前述のステップ100~400を繰り返す。したがって、制御ユニットは、走査ヘッド30をキャビティCの中心に導入した後、イオン源10によって放出された窒素イオンのビームによって、このキャビティCの内面を走査する。以下同様にモジュールM’のキャビティC10まで行なう。図3では、キャビティC10が処理されている。
【0074】
この特定の形態のおかげで、幾つかのキャビティの内面を単一の走査ヘッドで経時的に連続して処理することが可能である。この形態は、処理対象のキャビティの数が限られている場合に特に有利であり得る。
【0075】
図4は、本発明に係る図3に示される処理装置の変形を示す。図3とは異なり、装置には20インチのマルチスキャンヘッド導入ロッドがある。より正確には、この導入ロッド20''は、ロッド20''がモジュールM'に導入されるときに、各走査ヘッドがモジュールM'の異なるキャビティの中心に配置されて、このキャビティの内面をイオン源10によって放出されたイオンビームによって処理するように、走査ロッドに沿って連続的に配置される、30~3010の参照符号が付された10個の走査ヘッドのセットを備える。したがって、走査ヘッド30~3010はそれぞれ、モジュールM'のキャビティC~C10の処理のそれぞれに専用のものである。
【0076】
更に、図3とは異なり、第2の走査手段は、導入ロッドに対する縦軸X周りのモジュールM'の回転駆動を確保する一対の回転フランジR1及びR2によってもはや確保されないが、モジュールM'に対して縦軸X周りで導入ロッド20''を回転駆動させるように導入ロッド20''と協働するステッピング位置決めモータPによって確保される。この代替案は、加速器モジュールを構成する処理対象の部品が嵩張る場合の実施に特に有利であり、それにより、モジュールを回転駆動するための重くて、嵩張る及び高価な手段の必要性を回避する。
【0077】
図5A及び図5Bは、本発明に係る磁気走査ヘッドの動作原理を示す。これらの2つの図は、導入ロッド20の一部の拡大詳細図を表わす。
【0078】
走査ヘッド30は、磁気ビーム偏向器30a及びビーム通過開口30bを含む。ここに示される偏向器は、所定の電流を受けることができる一対の電気配線30a1,30a2の巻線(一般に「コイル」とも呼ばれる)から形成される磁気双極子である。この一対のコイル30a1,30a2はロッド20の外面に配置される。配線30a1の第1の巻線は磁気双極子のN極を構成し、配線30a2の第2の巻線は磁気双極子のS極を構成する。開口30bは、偏向器30aによって偏向されたイオンビームが処理対象のキャビティの内面に向かって通過できるようにするべく、一対の巻線30a1~30a2の貫通軸に対して垂直に、導入ロッド200に形成された貫通開口である。磁気偏向器30a及び通過開口30bは、磁気偏向器30aに流れる電流に応じて、イオン源10から来る入射ビームFiがその最初の軌道から偏向されて(偏向ビームFd)開口30bを介して偏向角αにしたがってキャビティの内面へと方向付けられるように構成される。この偏向角は、入射ビームFiの軸(縦軸Xと一致する軸)及び偏向ビームFdの軸によって規定され、偏向器30aによってイオンビームに加えられる磁力に依存する。偏向器を通過する電流の強度が大きいほど、イオンビームは初期の軌道から大きく偏向される。一対の巻線を通過する電流の強度は、制御ユニットが実行する走査パターンに応じて制御ユニットによって制御される。
【0079】
走査ヘッド30の動作の効果的で及び信頼できる制御を保証するために、各コイル30a1~30a2の占有面積が開口30bの占有面積よりも大きいことが好ましい。
【0080】
ここに示される磁気偏向器は純粋に説明のための例であり、本発明の範囲から逸脱することなく他のタイプの磁気デフレクタを考慮することができる。例えば、1つ以上の永久磁石若しくは電磁石に基づく偏向器、又は、前述の機能を果たすことができるより複雑な磁気回路でさえ、非常に適切であり得る。
【0081】
図6A及び図6Bは、本発明に係る電気走査ヘッドの動作原理を示す。図6Bは、図6Aに示される軸A-Aに沿う断面図である。図6Aは、本発明に係る導入ロッド300の一部の拡大図である。
【0082】
前述の図5A及び図5Bとは異なり、ここに示される走査ヘッド30'は本質的に電気的である。走査ヘッド30'は、電子ビーム偏向器30a'及びビーム通過開口30b'を含む。電気偏向器30a'は、縦軸Xに沿って延在してイオンビームが所定の電圧に晒されるときにイオンビームを偏向させることができる導電性プレートからなる。このプレートは、少なくとも1つの電気絶縁支持手段を介してロッド30の内面に装着固定される。開口30b'は、偏向器30b'によって偏向されたイオンビームを処理されるべきキャビティの内面の方向で通過させるように、前記プレートに面して配置された導入ロッド300に形成される非貫通開口である。電気プレート30a'及び通過開口30b'は、プレート30a'に印加される電圧に応じて、イオン源10から来る入射ビームFiがその最初の軌道から偏向されて(偏向ビームFd)開口30b’を介して偏向角βにしたがってキャビティの内面へと方向付けられるように構成される。したがって、前の形態とは異なり、入射ビームにおける電場の存在により、注入対象の内面の方向へビームを偏向させることができる。偏向角βの可変性の原理は、電場に関するものを除けば、偏向角α(図5A及び図5Bに関連して)について前述した原理と同じである。導電プレートに印加される電圧のレベルは、実行中の走査パターンに応じて制御ユニットによって制御される。
【0083】
前述のように、走査ヘッド30'の動作の効果的で及び信頼できる制御を保証するために、電気プレートが占める表面は開口が占める表面よりも大きいことが好ましい。
【0084】
ここに示される電気偏向器は純粋に例示的な例であり、本発明の範囲から逸脱することなく、他のタイプの電気的性質を有する偏向器を想定することができる。例えば、単純な一対の金属電極、静電素子、又は前述の機能を果たすことができるより複雑な電気回路でさえ、非常に適切であり得る。
【0085】
したがって、上記の説明を考慮すると、イオンビーム(及びより一般的には荷電粒子ビーム)をその最初の軌道から偏向させる又は偏向させる機能を有する様々な要素が想定され得る。
【0086】
上記の説明は、一価窒素イオンのビームの使用に基づいて本発明を説明しようとしてきた。しかしながら、この例は限定的ではなく、本発明は、キャビティ内面への粒子の注入を可能にする粒子ビームを使用できる全ての場合に適用することができる。
【0087】
より一般的には、ビームの粒子は、原子種、分子種、イオン種(前述のとおり)、分子及びイオン種、少なくとも1つの素粒子に基づく種、又は、これらの種のうちの少なくとも2つの組み合わせから選択できる粒子である。したがって、本発明は、注入される粒子の異なるタイプに適合する。使用される粒子の選択は、キャビティの内面における処理対象の材料及び所望の処理の性質に依存する。
【0088】
最後に、本発明の特定の態様によれば、ビームの粒子は、以下の元素、すなわち、窒素(上記のように記号Nを伴う)、ヘリウム(He)、チタン(Ti)、アルゴン(Ar)、酸素(O)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、ネオン(Ne)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)、ホウ素(B)、炭素(C)、フッ素(F)、シリコン(Si)、リン(P)、硫黄(S)、又は、これらの元素のうちの少なくとも2つの組み合わせから選択されるイオンである。これらの元素の中からの選択は、キャビティの内面における処理対象の材料と、決定される表面処理の性質とに依存する。装置のイオン源が複数のイオン源である場合、目的のタイプのイオンを生成するべく、抽出フィルタ(例えば、上記のリストからの幾つかのタイプの中から少なくとも1つの特定のタイプのイオンを抽出できる)を、イオン源10に、又は、イオン源10内に結合することができる。この場合、制御ユニットは、抽出フィルタによって、走査パターンに含まれる命令にしたがって使用されるイオンの性質を事前に選択するように構成されなければならない。
【0089】
図7は、本発明に係る処理方法(例えば、図1及び図2に関連して前述した特定の実施形態)を実施する制御ユニット70の簡略化された構造を示す。この装置は、ランダムアクセスメモリ73(例えばRAMメモリ)と、例えばプロセッサを備えるとともにリードオンリーメモリ72(例えばROMメモリ又はハードディスク)に記憶されるコンピュータプログラムによって制御される処理ユニット71と、を備える。初期化時に、コンピュータプログラムのコード命令は、例えば、処理ユニット71のプロセッサによって実行される前にRAM73にロードされる。処理ユニット71は、走査パターン70Eを入力として受ける。処理ユニット71のプロセッサは、走査パターン70Eを処理し、メモリ72に記憶されたプログラムの命令にしたがって、出力する駆動コマンド(矢印70Sによって表わされる)を生成する。したがって、処理ユニット71は、加速キャビティ又は処理対象のキャビティの内面の走査手段を(様々な実施形態のいずれかにおいて、前述のように)制御するために必要な制御コマンドを出力として送出する。
【0090】
この図7は、図1に関連して上記で詳述したアルゴリズムを実行する幾つかの可能な方法のうちの1つの特定の方法のみを示していることに留意すべきである。実際に、本発明の技術は、差別することなく、
-一連の命令を含むプログラムを実行する再プログラム可能な計算機(PCコンピュータ、DSPプロセッサ、又はマイクロコントローラ)で、又は、
-専用の計算機(例えば、FPGA若しくはASICなどの一連の論理ゲート、又はその他のハードウェアモジュール)で、
実行される。
【0091】
本発明が再プログラム可能な計算機で実施される場合、対応するプログラム(すなわち、命令のシーケンス)が取り外し可能な記憶媒体(例えば、ディスケット、CD-ROM又はDVDなど)に記憶できるかどうかに関係なく、この記憶媒体は、コンピュータ又はプロセッサによって部分的又は完全に読み取り可能である。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7