(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-30
(45)【発行日】2025-06-09
(54)【発明の名称】CDK阻害剤
(51)【国際特許分類】
C07D 471/04 20060101AFI20250602BHJP
A61K 31/506 20060101ALI20250602BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20250602BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20250602BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20250602BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20250602BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20250602BHJP
【FI】
C07D471/04 107E
C07D471/04 CSP
A61K31/506
A61K45/00
A61P35/00
A61P35/02
A61P35/04
A61P43/00 111
A61P43/00 121
(21)【出願番号】P 2022567388
(86)(22)【出願日】2021-05-04
(86)【国際出願番号】 US2021030728
(87)【国際公開番号】W WO2021226140
(87)【国際公開日】2021-11-11
【審査請求日】2024-05-02
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2020/088585
(32)【優先日】2020-05-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】507147345
【氏名又は名称】ジェネンテック,インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(72)【発明者】
【氏名】フー,チロン
(72)【発明者】
【氏名】ヘー,フー
(72)【発明者】
【氏名】チャン,フェイ
(72)【発明者】
【氏名】チョン,ウェンジ
(72)【発明者】
【氏名】チュー,シャオティアン
【審査官】▲来▼田 優来
(56)【参考文献】
【文献】特表2022-531687(JP,A)
【文献】特表2018-507883(JP,A)
【文献】特表2017-522390(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D,A61K,A61P
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構造式によって表される化合物:
【化1】
又はその薬学的に許容される塩、若しくは立体異性体。
【請求項2】
有効量の請求項1に記載の化合物、又はその薬学的に許容される塩と、薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物。
【請求項3】
がんを治療するための請求項2に記載の医薬組成物であって、前記がんが、膀胱、乳房、結腸、腎臓、表皮、肝臓、肺、食道、胆嚢、卵巣、膵臓、胃、子宮頸部、甲状腺、鼻、頭頸部、前立腺、若しくは皮膚のがん、リンパ系の造血器腫瘍、骨髄系の造血器腫瘍、甲状腺濾胞がん、間葉起源の腫瘍、中枢神経系若しくは末梢神経系の腫瘍、黒色腫、セミノーマ、奇形がん、骨肉腫、色素性乾皮症、角膜腫、甲状腺濾胞がん、又はカポジ肉腫である、医薬組成物。
【請求項4】
対象におけるサイクリン依存性キナーゼ(CDK)の活性を阻害するための、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記対象が、がんを有する、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
がんが、膀胱、乳房、結腸、腎臓、表皮、肝臓、肺、食道、胆嚢、卵巣、膵臓、胃、子宮頸部、甲状腺、鼻、頭頸部、前立腺、若しくは皮膚のがん、リンパ系の造血器腫瘍、骨髄系の造血器腫瘍、甲状腺濾胞がん、間葉起源の腫瘍、中枢神経系若しくは末梢神経系の腫瘍、黒色腫、セミノーマ、奇形がん、骨肉腫、色素性乾皮症、ケラトアカントーマ、又はカポジ肉腫を含む、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記リンパ系の造血器腫瘍が、白血病、急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病、B細胞リンパ腫、T細胞リンパ腫、多発性骨髄腫、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、有毛細胞リンパ腫、又はバーキットリンパ腫である、請求項4~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記がんが、pRb
+乳がん、又はホルモン受容体(HR)陽性、HER2/neu陰性乳がんである、請求項4~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記がんが、エストロゲン受容体陽性(ER
+)、プロゲステロン受容体陽性(PR
+)、又はER
+PR
+である、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記がんが、進行性又は転移性又は再発性乳がんである、請求項8または9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記乳がんが、成人女性又は閉経後の女性に存在する、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
アロマターゼ阻害剤、選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)、エストロゲンアゴニスト活性を有していない純粋な抗エストロゲン、卵巣機能を一時的に抑制する化合物、CYP3A4を阻害する化合物、又はIGF-1/IGF-2に対するモノクローナル抗体若しくはその抗原結合断片から選択される第2の薬剤とともに使用されるための、請求項5~11のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記第2の薬剤が、エストロゲン及び/又はプロゲステロン産生を一時的に抑制する化合物を含む、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記第2の薬剤が、ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)アゴニストまたは黄体形成ホルモン放出ホルモン(LH-RH)アゴニストを含む、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
免疫チェックポイント阻害剤、受容体Tyrキナーゼ阻害剤、及び/又はホルモン受容体のアンタゴニストとともに使用するための、請求項3~14のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記免疫チェックポイント阻害剤がPD-1阻害剤、PD-L1阻害剤、又はCTLA-4阻害剤を含み、またはホルモン受容体のアンタゴニストがエストロゲン受容体のアンタゴニストを含む、請求項15に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年5月5日に出願された国際特許出願第PCT/CN2020/088585号に対する優先権の利益を主張する。前述の出願の内容全体が、参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
サイクリン依存性キナーゼ(CDK)は、細胞周期の調節におけるそれらの役割について最初に発見されたプロテインキナーゼ群である。それ以来、それらは、転写、mRNAプロセシング、及び神経細胞の分化などのいくつかの他の生物学的機能の調節において役割を果たすことが識別されている。
【0003】
CDKは、分子量が約34~40 kDaの比較的小さなタンパク質である。それらは、ほぼキナーゼドメインのみを含み、サイクリンと称されるあるクラスの調節タンパク質と複合体を形成していないときは本質的に不活性である。CDKのレベルは、細胞周期の全体を通して比較的一定のままであり、ほとんどの調節は、翻訳後であり、最も顕著にはサイクリンへの結合によるものである。
【0004】
全てのキナーゼと同様に、CDKの活性部位又はATP結合部位は、小さなアミノ末端ローブとより大きなカルボキシ末端ローブとの間の裂け目である。ヒトCDK2の構造から、CDKが、サイクリン結合によって調節され得る修飾ATP結合部位を有することが明らかになった。Tループ上のThr161におけるCDK活性化キナーゼ(CAK)によるリン酸化は、複雑な活性を増加させる。サイクリンがないと、活性化ループ又はTループと称される柔軟なループが裂け目を塞ぎ、いくつかの重要なアミノ酸残基の位置がATP結合にとって最適ではなくなる。サイクリンがあると、2つのαヘリックスが位置を変更してATP結合を可能にする。それらのうちの1つである、一次配列内のTループの直前にあるL12ヘリックスが、βストランドになってTループの再配置を助けるため、Tループはもはや活性部位を塞がなくなる。PSTAIREヘリックスと称される他のαヘリックスは、再配置し、活性部位において重要なアミノ酸残基の位置を変更するのに役立つ。
【0005】
したがって、サイクリン-CDK複合体のみが、活性なキナーゼ活性を有し、既知のサイクリン-CDK複合体のほとんどは、細胞周期を通して進行を調節する。CDKは、全ての既知の真核生物に遍在しており、細胞周期におけるそれらの調節機能は、進化的に保存されている。例えば、酵母細胞は、それらのCDK遺伝子が相同ヒト遺伝子で置き換えられたときに、正常に増殖することができる。CDKは、ある特定のセリン及びスレオニン残基、並びに[S/T]PX[K/R]のコンセンサス配列(S/Tはリン酸化のための標的Ser又はThrであり、Pはプロリンであり、Xは任意のアミノ酸であり、Kはリジンであり、Rアルギニンである)上のそれらの基質をリン酸化することによって、それらの調節機能を発揮する。
【0006】
動物細胞では、少なくとも9つの異なるCDKがあり、それらのうちの4つ(CDK1、2、3、及び4)が、細胞周期の調節に直接関与している。哺乳動物細胞では、CDK1が、その結合パートナーであるサイクリンA2及びB1とともに、単独で細胞周期を駆動することができる。初期の細胞周期段階のサイクリン-CDK複合体は、後の段階でサイクリン-CDK複合体を活性化するのに役立ち得る。
【0007】
同じCDKが、異なるサイクリンと複合体を形成して、細胞周期の異なる段階を調節し得る。例えば、CDK2は、サイクリンD又はEと複合体を形成してG1期を調節し、サイクリンA又はEと複合体を形成してS期を調節し、サイクリンAと複合体を形成してG2期を調節し得る。その一方で、CDK4及びCDK6は、サイクリンD1、D2、及びD3と複合体を形成することができる。
【0008】
サイクリンDと組み合わせた高度に相同なサイクリン依存性キナーゼ(CDK)CDK4及びCDK6は、細胞周期のG1(成長)期とS(DNA複製)期との間の制限点Rを通した移行の重要な調節因子である。CDK4/6は、網膜芽細胞腫タンパク質(pRb)のリン酸化を介してその効果を発揮する。一旦リン酸化されると、pRbは、S期への移行を促進する遺伝子の転写に対するその阻害効果を失う。
【0009】
対照的に、内因性タンパク質モジュレーターp16INK4による、又は小分子阻害剤によるCDK4/6キナーゼ活性の特異的阻害は、低リン酸化pRb、及びG1制限点における細胞の停止をもたらす。G1制限点を調節する主要な機構として、これらのキナーゼによって調節される経路は、広範囲のヒト腫瘍で変化し、したがって、これらの腫瘍におけるCDK4/CDK6の阻害は、細胞分裂を防止することによって治療的利益を有する。
【0010】
がんなどの細胞増殖性疾患の治療に使用され得るCDK4/6阻害剤を提供する必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【0011】
本明細書には、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)、例えば、CDK2、CDK4、及び/又はCDK6の活性を阻害する化合物、並びにその薬学的に許容される塩又は立体異性体が記載される。
【0012】
一態様では、本発明は、以下の構造式によって表される化合物:
【化1】
又はその薬学的に許容される塩を提供する。化合物Aは、CDK2、CDK4及びCDK6を積極的に阻害するだけでなく、強力な抗増殖活性も示すことが発見されている。
【0013】
別の態様では、本発明は、以下の構造式によって表される化合物:
【化2】
又はその薬学的に許容される塩を提供する。化合物Bは、CDK4を選択的に阻害するだけでなく、優れた脳浸透性も有することが発見されている。
【0014】
また、本明細書に開示される化合物、又はその薬学的に許容される塩、若しくは立体異性体と、薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物も提供される。
【0015】
本開示は更に、有効量の(1)本明細書に開示される化合物、又はその薬学的に許容される塩、若しくは立体異性体、又は(2)本明細書に開示される化合物、又はその薬学的に許容される塩、若しくは立体異性体と、薬学的に許容される担体とを含む、薬学的に許容される組成物を、対象に投与することを含む、治療を必要とする対象においてがんを治療する方法を提供する。特定の実施形態では、がんは、結腸直腸がん、乳がん(閉経後の女性におけるホルモン受容体陽性、HER2/neu陰性の進行性又は転移性乳がんなど)、肺がん、前立腺がん、神経膠芽腫、マントル細胞リンパ腫、慢性骨髄性白血病及び急性骨髄性白血病からなる群から選択される。
【0016】
本発明の方法の特定の実施形態では、がんは、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)、例えば、CDK2、CDK4、及び/又はCDK6の活性を阻害することによって治療することができる。
【0017】
本発明の方法の特定の実施形態では、がんは、膀胱、乳房、結腸、腎臓、表皮、肝臓、肺、食道、胆嚢、卵巣、膵臓、胃、子宮頸部、甲状腺、鼻、頭頸部、前立腺、若しくは皮膚のがん、リンパ系の造血器腫瘍、骨髄系の造血器腫瘍、甲状腺濾胞がん、間葉起源の腫瘍、中枢神経系若しくは末梢神経系の腫瘍、黒色腫、セミノーマ、奇形がん、骨肉腫、色素性乾皮症、角膜腫、甲状腺濾胞がん、又はカポジ肉腫である。
【0018】
本発明の方法の特定の実施形態では、本明細書に開示される化合物は、同様に同じがんを治療する、本明細書に記載される第2の治療薬のうちのいずれか1つとともに投与される。
【0019】
本開示はまた、上記の本発明の方法のうちのいずれかにおける、本明細書に開示される化合物、又はその薬学的に許容される塩、若しくは立体異性体、又はそれらを含む医薬組成物の使用も提供する。一実施形態では、上記の本発明の方法のうちのいずれかにおいて使用するための、本明細書に開示される化合物、又はその薬学的に許容される塩、若しくは立体異性体、又はそれらを含む医薬組成物が提供される。別の実施形態では、記載される本発明の方法のうちのいずれかのための薬物を製造するための、本明細書に開示される化合物、又はその薬学的に許容される塩、若しくは立体異性体、又はそれらを含む医薬組成物の使用が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
1.概要
本発明は、がん治療法などの治療法に使用するための本発明の化合物又はその薬学的に許容される塩を提供する。
【0021】
本発明はまた、本発明の化合物、又はその薬学的に許容される塩と、薬学的に許容される担体、希釈剤、又は賦形剤とを含む、医薬製剤を提供する。
【0022】
本発明は、がんの治療に使用するための本発明の化合物又はその薬学的に許容される塩を提供する。特に、これらのがんは、本明細書の以下に記載されるがんのうちのいずれか、例えば、結腸直腸がん、乳がん(成人女性又は閉経後の女性におけるER+HER2-進行性又は転移性又は再発性乳がんを含む)、肺がん、特に非小細胞肺がん(NSCLC)、前立腺がん、神経膠芽腫、マントル細胞リンパ腫(MCL)、慢性骨髄性白血病(CML)及び急性骨髄性白血病(AML)であり得る。
【0023】
本発明は更に、哺乳動物における結腸直腸がん、乳がん(成人女性又は閉経後の女性におけるER+HER2-進行性又は転移性又は再発性乳がんを含む)、肺がん、特に非小細胞肺がん(NSCLC)、前立腺がん、神経膠芽腫、マントル細胞リンパ腫、慢性骨髄性白血病及び急性骨髄性白血病からなる群から選択されるがんを治療する方法であって、そのような治療を必要とする哺乳動物に、有効量の本発明の化合物又はその薬学的に許容される塩を投与することを含む、方法を提供する。
【0024】
加えて、本発明は、がんの治療のための薬物を製造するための本発明の化合物又はその薬学的に許容される塩の使用を提供する。特に、これらのがんは、結腸直腸がん、乳がん(成人女性又は閉経後の女性におけるER+HER2-進行性又は転移性又は再発性乳がんを含む)、肺がん、特に非小細胞肺がん(NSCLC)、前立腺がん、神経膠芽腫、マントル細胞リンパ腫、慢性骨髄性白血病及び急性骨髄性白血病からなる群から選択される。
【0025】
更に、本発明は、本発明の化合物又はその薬学的に許容される塩と、薬学的に許容される担体、希釈剤、又は賦形剤とを含む、治療法に使用するための医薬製剤を提供する。本発明はまた、本発明の化合物又はその薬学的に許容される塩と、薬学的に許容される担体、希釈剤、又は賦形剤とを含む、結腸直腸がん、乳がん(成人女性又は閉経後の女性におけるER+HER2-進行性又は転移性又は再発性乳がんを含む)、肺がん、特に非小細胞肺がん(NSCLC)、前立腺がん、神経膠芽腫、マントル細胞リンパ腫、慢性骨髄性白血病及び急性骨髄性白血病を治療するための医薬製剤も提供する。
【0026】
治療可能な疾患の適応症及び併用療法に有用である潜在的な第2の治療薬が、以下のセクションで更に詳細に説明されている。
【0027】
以下のセクションのうちの1つのみ又は実施例のみに記載されるものを含む、本明細書に記載される任意の実施形態は、明示的に否認されるか、又は別様に不適切/適用不可能である場合を除いて、本発明のいずれか1つ以上の追加の実施形態と組み合わせられ得ることを理解されたい。
【0028】
2.定義
本明細書に記載の化合物は、1つ以上の不斉中心を含むことができ、したがって、様々な立体異性体、例えば、エナンチオマー及び/又はジアステレオマーで存在することができる。例えば、本明細書に記載の化合物は、個々のエナンチオマー、ジアステレオマー若しくは幾何異性体の形態であり得るか、又はラセミ混合物及び1つ以上の立体異性体に富む混合物を含む、立体異性体の混合物の形態であり得る。
【0029】
エナンチオマー及びジアステレオマー混合物は、キラル相ガスクロマトグラフィー、キラル相高速液体クロマトグラフィー、化合物をキラル塩錯体として結晶化すること、又は化合物をキラル溶媒中で結晶化することなどの周知の方法によって、それらの成分エナンチオマー又は立体異性体に分解することができる。エナンチオマー及びジアステレオマーはまた、周知の不斉合成法によって、ジアステレオマー的に又はエナンチオマー的に純粋な中間体、試薬、及び触媒から得ることもできる。例えば、Jacques et al.,Enantiomers,Racemates and Resolutions(Wiley Interscience,New York,1981)、Wilen et al.,Tetrahedron 33:2725(1977)、Eliel,E.L.Stereochemistry of Carbon Compounds(McGraw-Hill,NY,1962)、及びWilen,S.H.Tables of Resolving Agents and Optical Resolutions p.268(E.L.Eliel,Ed.,Univ.of Notre Dame Press,Notre Dame,IN 1972)を参照されたい。
【0030】
化合物が単一のエナンチオマーを示す名称又は構造によって指定される場合、別段の指定のない限り、化合物は、少なくとも60%、70%、80%、90%、99%又は99.9%光学的に純粋である(「エナンチオマー的に純粋」とも称される)。光学純度は、命名又は描写されたエナンチオマーの混合物の重量を、両方のエナンチオマーの混合物の総重量で割ったものである。
【0031】
開示される化合物の立体化学が構造によって命名又は描写され、命名又は描写された構造が(例えば、ジアステレオマー対の場合のように)1つより多くの立体異性体を包含する場合、包含される立体異性体のうちの1つ又は包含される立体異性体の任意の混合物が含まれることを理解されたい。命名又は描写された立体異性体の立体異性体純度は、少なくとも60重量%、70重量%、80重量%、90重量%、99重量%、又は99.9重量%であることを更に理解されたい。この場合の立体異性体純度は、名称又は構造に包含される立体異性体の混合物の総重量を、全ての立体異性体の混合物の総重量で割ることによって決定される。
【0032】
幾何異性体が名称又は構造によって描写される場合、命名又は描写された異性体の幾何異性体純度は、少なくとも60重量%、70重量%、80重量%、90重量%、99重量%、又は99.9重量%純粋であることを理解されたい。幾何異性体純度は、混合物中の命名又は描写された幾何異性体の重量を、混合物中の両方の幾何異性体の総重量で割ることによって決定される。
【0033】
ラセミ混合物は、50%の1つのエナンチオマー及び50%のその対応するエナンチオマーを意味する。本発明は、本発明の化合物の全てのエナンチオマー的に純粋な、エナンチオマー的に濃縮された、ジアステレオマー的に純粋な、ジアステレオマー的に濃縮された、及びラセミ混合物、並びにジアステレオマー混合物を包含する。
【0034】
本明細書に記載の化合物はまた、中間体又は最終化合物中に生じる原子の全ての同位体を含み得る。同位体は、同じ原子番号を有するが、異なる質量数を有する原子を含む。例えば、水素の同位体は、トリチウム及び重水素を含む。
【0035】
合成に使用される化学物質の起源に応じて、天然同位体存在比のいくらかの変動が合成された化合物に生じることが認識されるであろう。したがって、本明細書に開示される化合物の調製物は、少量の重水素化アイソトポログを本質的に含むであろう。この変動にもかかわらず、天然に豊富で安定な水素及び炭素同位体の濃度は、本発明の化合物の安定な同位体置換の程度と比較すると低く、重要ではない。例えば、Wada,E et al.,Seikagaku,1994,66:15、Gannes,LZ et al.,Comp Biochem Physiol Mol Integr Physiol,1998,119:725を参照されたい。
【0036】
本明細書に記載の化合物は、様々な互変異性形態で存在し得る。「互変異性体」又は「互変異性の」という用語は、水素原子の少なくとも1つの形式的移動及び原子価の少なくとも1つの変化(例えば、単結合から二重結合へ、三重結合から単結合へ、又はその逆)から生じる2つ以上の相互変換可能な化合物/置換基を指す。例示的な互変異性化としては、ケトからエノール、アミドからイミド、ラクタムからラクチム、エナミンからイミン、及びエナミンから(異なるエナミン)への互変異性化が挙げられる。本教示は、構造的に描写されていない形態を含む、互変異性体の形態の化合物を包含する。そのような化合物のそのような全ての異性体形態が明示的に含まれる。化合物の互変異性体が芳香族である場合、この化合物は芳香族である。同様に、化合物の互変異性体がヘテロアリールである場合、この化合物はヘテロアリールである。
【0037】
特定の事例では、以下に示される互変異性構造などの開示される化合物の互変異性形態が存在する。
【化3】
【0038】
本明細書の化合物が構造式によって表されるか、又は本明細書中の化学名によって指定される場合、その化合物について存在し得る他の全ての互変異性形態が構造式によって包含されることを理解されたい。
【0039】
本発明の化合物は、治療のために遊離形態で、又は適切な場合には薬学的に許容される塩形態として存在することができる。
【0040】
「薬学的に許容される塩」という用語は、健全な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー反応などを起こさずに、ヒト及び下等動物の組織と接触した使用に好適であり、合理的な利益/リスク比に見合った塩を指す。薬学的に許容される塩は、当該技術分野で周知であり、例えば、Bergeらは、参照により本明細書に組み込まれる、J.Pharmaceutical Sciences,1977,66,1-19に、薬学的に許容される塩について詳細に記載している。本発明の化合物の薬学的に許容される塩には、好適な無機及び有機酸及び塩基に由来するものが含まれる。薬学的に許容される酸付加塩の例は、塩酸、臭化水素酸、リン酸、硫酸、及び過塩素酸などの無機酸と、又は酢酸、シュウ酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸、コハク酸、若しくはマロン酸などの有機酸と、又はイオン交換などの当該技術分野で既知の他の方法を使用することによって形成される、アミノ基の塩である。他の薬学的に許容される塩には、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスコルビン酸塩、アスパラギン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、重硫酸塩、ホウ酸塩、酪酸塩、樟脳酸塩、樟脳スルホン酸塩、クエン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸、ドデシル硫酸塩、エタンスルホン酸塩、ギ酸塩、フマル酸塩、グルコヘプトン酸塩、グリセロ酸塩、グルコン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、ヨウ化水素酸塩、2-ヒドロキシエタンスルホン酸塩、ラクトビオン酸塩、乳酸塩、ラウリン酸塩、ラウリル硫酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、メタンスルホン酸塩、2-ナフタレンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、オレイン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パモ酸塩、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3-フェニルプロピオン酸塩、リン酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、プロピオン酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、ウンデカン酸、吉草酸塩、及び同等物が含まれる。適切な塩基に由来する塩には、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、及びN+(C1~4アルキル)4
-塩が含まれる。代表的なアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩には、ナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、及び同等物が含まれる。更なる薬学的に許容される塩には、適切な場合、ハロゲン化物、水酸化物、カルボン酸塩、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、低級アルキルスルホン酸塩、及びアリールスルホン酸塩などの対イオンを使用して形成される、アンモニウム、四級アンモニウム、及びアミンカチオンが含まれる。
【0041】
そのような薬学的に許容される酸付加塩及びそれらを調製するための一般的な方法論は、当該技術分野で周知である。例えば、Stahl et al.,HANDBOOK OF PHARMACEUTICAL SALTS:PROPERTIES,SELECTION AND USE,(VCHA/Wiley-VCH,2002)、Bighley et al.,in“Encyclopedia of Pharmaceutical Technology.”Eds.Swarbrick and Boylan,Vol.13,Marcel Dekker,Inc.,New York,Basel,Hong Kong 1995,pp.453-499、Berge et al.,“Pharmaceutical Salts,”Journal of Pharmaceutical Sciences,66(1):1977を参照されたい。
【0042】
「組成物」及び「製剤」という用語は、同義的に使用される。
【0043】
「対象」は、哺乳動物、好ましくは、ヒトであるが、また、獣医学的治療を必要とする動物、例えば、ペット(例えば、イヌ、ネコ、および同等物)、家畜(例えば、ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマ、及び同等物)、並びに実験動物(例えば、ラット、マウス、モルモット、及び同等物)であり得る。
【0044】
「投与する」、「投与すること」、又は「投与」という用語は、本発明の化合物又はその組成物を、対象内又は対象上に導入する方法を指す。これらの方法には、関節内(関節中)、静脈内、筋肉内、腫瘍内、皮内、腹腔内、皮下、経口、局所、髄腔内、吸入、経皮、直腸、および同等物が含まれるが、これらに限定されない。本明細書に記載の薬剤及び方法とともに採用され得る投与技法は、例えば、Goodman and Gilman,The Pharmacological Basis of Therapeutics,current ed.;Pergamon、及びRemington’s,Pharmaceutical Sciences(current edition),Mack Publishing Co.,Easton,Pa.に見出される。
【0045】
「治療」、「治療する」、及び「治療すること」という用語は、本明細書に記載の疾患の進行を逆転させる、緩和する、又は阻害することを指す。いくつかの実施形態では、治療は、疾患の1つ以上の徴候若しくは症状が発生したか、又は観察された後に施され得る(すなわち、療法的治療)。他の実施形態では、治療は、疾患の徴候又は症状の非存在下で施され得る。例えば、治療は、(例えば、症状歴を考慮して、かつ/又は病原体への曝露を考慮して)症状の発症前に感受性の高い対象に施され得る(すなわち、予防的治療)。治療はまた、症状が消散した後に、例えば、再発を遅延させるか、又は防止するために、継続され得る。
【0046】
「状態」、「疾患」、及び「障害」という用語は、同義的に使用される。
【0047】
一般に、本明細書で教示される化合物の有効量は、所与の薬物又は化合物、医薬製剤、投与経路、疾患又は障害の種類、治療される対象又は宿主の同一性、及び同等物などの様々な要因に応じて異なるが、それにもかかわらず、当業者によって日常的に決定され得る。本教示の化合物の有効量は、当該技術分野で既知の日常的な方法を用いて当業者によって容易に決定され得る。
【0048】
「有効量」という用語は、対象に投与されたときに、例えば、臨床結果を含む有益な結果又は所望の結果をもたらす、例えば、対照と比較して、対象において治療されている状態の症状を阻害、抑制、又は軽減する量を意味する。例えば、有効量は、単位剤形(例えば、1日当たり1mg~約50g、例えば、1日当たり1mg~約5グラム)で投与され得る。
【0049】
「治療的有効量」は、がん細胞の増殖若しくは拡散、腫瘍のサイズ若しくは数、又はがんのレベル、病期、進行若しくは重症度の他の尺度の検出可能な殺傷又は阻害に有効な量である。必要とされる正確な量は、対象の種、年齢、及び全身状態、疾患の重症度、特定の抗がん剤、その投与様式、他の治療法との併用治療、並びに同等物に応じて、対象ごとに異なるであろう。
【0050】
上記の式に使用される一般的な化学用語は、それらの通常の意味を有する。
【0051】
本明細書で使用される場合、「h」は、1時間又は数時間を指し、「min」は、数分又は数分を指し、「Cdk」又は「CDK」は、サイクリン依存性キナーゼを指し、「pRb」は、網膜芽細胞腫タンパク質を指し、「MCL」は、マントル細胞リンパ腫を指し、「AML」は、急性骨髄性白血病を指し、「CML」は、慢性骨髄性白血病を指し、「Boc」はN-tert-ブトキシカルボニルを指し、「EA」は、酢酸エチルを指し、「DCM」は、ジクロロメタンを指し、「DMSO」は、ジメチルスルホキシドを指し、「DMA」は、ジメチルアセトアミドを指し、「THF」は、テトラヒドロフランを指し、「MtBE」は、メチルtert-ブチルエーテルを指し、「TEA」は、トリエチルアミンを指し、「FBS」は、ウシ胎児血清を指し、「PBS」は、リン酸緩衝生理食塩水を指し、「BSA」は、ウシ血清アルブミンを指し、「RT」は、室温を指し、「mpk」は、1キログラム当たりのミリグラムを意味し、「po」は、経口的(経口)を指し、「qd」は、1日1回の投与を意味し、「HPLC」は、高圧液体クロマトグラフィーを意味し、「q2d」は、2日ごとの単回投与を意味し、「q2dx10」は、2日ごとの単回投与×10回を意味し、「VSMC」は、血管平滑筋細胞を意味し、「XRD」は、X線回折を指す。
【0052】
3.化合物
本開示の別の態様は、画像化技法だけでなく、インビトロ及びインビボの両方で、ヒトを含む組織試料中のCDKを局在化及び定量化するため、並びに標識化合物の結合の阻害によってCDKリガンドを識別するためのアッセイでも有用であろう、本発明の標識化合物(放射性標識、蛍光標識など)に関する。したがって、本開示は、そのような標識化合物を含む。
【0053】
本開示は、本発明の同位体標識化合物を更に含む。「同位体」又は「放射性標識」化合物は、1つ以上の原子が、自然界で典型的に見出される(すなわち、自然に存在する)原子量又は質量数とは異なる原子量又は質量数を有する原子によって置き換えられるか、又は置換される、本発明の化合物である。本発明の化合物に組み込まれ得る好適な放射性核種は、2H(重水素の場合はDとも表記)、3H(トリチウムの場合はTとも表記)、11C、13C、14C、13N、15N、15O、17O、18O、18F、35S、36Cl、82Br、75Br、76Br、77Br、123I、124I、125I及び131Iを含むが、これらに限定されない。本放射性標識化合物に組み込まれる放射性核種は、その放射性標識化合物の特定の用途に依存するであろう。
【0054】
本発明は、放射性同位体を本発明の化合物に組み込むための合成方法を更に含むことができる。放射性同位体を有機化合物に組み込むための合成方法は、当該技術分野で周知であり、当業者は、本発明の化合物に適用可能な方法を容易に認識するであろう。
【0055】
本発明の標識化合物は、化合物を識別/評価するためのスクリーニングアッセイに使用することができる。例えば、標識される新たに合成又は識別された化合物(すなわち、試験化合物)は、標識の追跡を通して、CDKと接触するときのその濃度変動を監視することによって、CDKに結合するその能力について評価することができる。例えば、試験化合物(標識された)は、CDKに結合することが知られている別の化合物(すなわち、標準化合物)の結合を低減するその能力について評価することができる。したがって、CDKへの結合について標準化合物と競合する試験化合物の能力は、その結合親和性と直接相関する。逆に、他のいくつかのスクリーニングアッセイでは、標準化合物が標識され、試験化合物は標識されない。故に、標識された標準化合物の濃度が、標準化合物と試験化合物との間の競合を評価するため監視され、したがって、試験化合物の相対的結合親和性が確認される。
【0056】
一実施形態では、1つ以上の水素原子が重水素によって置き換えられている、化合物、又はその薬学的に許容される塩、若しくは立体異性体である。
【0057】
4.治療可能な疾患及び治療の方法
本発明の特定の化合物は、CDK2、CDK4、及び/又はCDK6の選択的阻害剤であり、したがって、CDK2、CDK4、及び/又はCDK6を包含するCDK-サイクリン複合体の活性の低下によって阻害され得る異常な細胞増殖を特徴とする疾患又は障害の治療に有用である。
【0058】
特定の実施形態では、本発明の化合物は、CDK2よりもCDK4/6を選択的に阻害し、前者(CDK4/6)に対する後者(CDK2)のIC50値の比は、少なくとも約10、20、50、100、200、300、400、500、800、1,000、2,000又はそれ以上である。
【0059】
特定の実施形態では、本発明の化合物は、CDK6よりもCDK4を選択的に阻害し、前者(CDK4)に対する後者(CDK6)のIC50値の比は、少なくとも約2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、50又はそれ以上である。
【0060】
特定の実施形態では、本発明の化合物は、CDK4よりもCDK2を選択的に阻害し、前者(CDK2)に対する後者(CDK4)のIC50値の比は、少なくとも約2、5、10、15、20、40、50、60、80、100又はそれ以上である。
【0061】
特定の実施形態では、本発明の化合物は、同様のIC50値、例えば、10倍、5倍、3倍、又は2倍以内のIC50値でCDK2/4/6を阻害する。本発明のそのような化合物は、サイクリンD1又はE1若しくはE2の増幅又は増強された発現を伴うがんを治療するために有用である。
【0062】
CDK2は、その活性が細胞周期のG1-S期に限定されたCDK-サイクリン複合体の触媒サブユニットであり、細胞が有糸分裂に必要なタンパク質を作り、それらのDNAを複製する。CDK2は、サイクリンE又はAと複合体を形成する。サイクリンEは、G1期のCDK2に結合するが、これは、G1期からS期への移行に必要である。一方で、サイクリンAと結合するCDK2は、S期を経て進行するために必要である。
【0063】
CDK2は、正常に機能している細胞の細胞周期ではほぼ不要であるが、がん細胞の異常な増殖過程には重要である。サイクリンEの過剰発現は、多くの腫瘍細胞で生じ、細胞がCDK2及びサイクリンEに依存する原因となる。異常なサイクリンE活性は、乳がん、肺がん、結腸直腸がん、胃がん、及び骨がん、並びに白血病及びリンパ腫で観察される。同様に、サイクリンA2の異常な発現は、染色体不安定性及び腫瘍増殖に関連するが、阻害は、腫瘍増殖の低下につながる。したがって、CDK2及びそのサイクリン結合パートナーは、新たながん治療薬の可能な治療標的を表す。前臨床モデルは、腫瘍増殖を制限する上で予備的な成功を示しており、また、現在の化学療法薬の副作用を軽減することも観察されている。
【0064】
例えば、Caldonら(Mol Cancer Ther 11(7):1488-1499,2012)は、サイクリンE2が、タモキシフェン耐性又は転移性乳がんのいずれかにおける疾患の進行を予測するいくつかの遺伝子シグネチャーに含まれており、CycE2の高発現が、乳がんのルミナルB及びHER2サブタイプに特徴的であり、内分泌療法後の遠隔転移のない生存期間の短縮を強く予測することを報告した。更に、タモキシフェン耐性(MCF-7 TAMR)乳がん細胞は、サイクリンE2を過剰発現し、T-47D乳がん細胞におけるサイクリンE1又はE2のいずれかの発現は、急性抗エストロゲン耐性を付与したことから、サイクリンEの過剰発現がタモキシフェン耐性細胞の抗エストロゲン耐性に寄与することが示唆される。タモキシフェン耐性細胞の増殖は、サイクリンE1、サイクリンE2、又はCDK2のRNAi媒介性ノックダウンによって阻害された。その上、サイクリンE1又はE2の異所性発現も、CDK2ではなくCDK4の阻害に対する感受性を低下させた。更に、E-サイクリン過剰発現細胞及びタモキシフェン耐性細胞のCDK2阻害は、タモキシフェン又はCDK4阻害に対する感受性を回復させた。
【0065】
これらのデータは、サイクリンE2の過剰発現が、内分泌療法及びCDK4阻害の両方に対する耐性の潜在的な機構であり、CDK2阻害剤が、サイクリンE1及びE2過剰発現細胞を効果的に阻害し、他の治療薬の有効性を高めるため、そのような耐性を克服し得、内分泌抵抗性疾患における併用療法の構成要素として有益であり得ることを実証する。同様に、CDK2及びCDK4の両方に対して強力な阻害活性を有する主題の化合物は、内分泌療法又はCDK4阻害に対して非耐性及び耐性の両方である、がん細胞に対して効果的であることが期待される。
【0066】
したがって、特定の実施形態では、本発明の化合物は、CDK2及びCDK4の両方に対して強力な阻害効果を有し得(例えば、独立して、<10nM、<5nM、<1nMレベルのIC50値)、したがって、CycE過剰発現を伴うタモキシフェン耐性又は転移性乳がんなどのタモキシフェン耐性又は転移性乳がんなどを治療するために効果的である。
【0067】
CDK2/4/6に対する本発明の化合物のIC50値は、例えば、(参照により本明細書に組み込まれる)実施例1~3に記載の方法を使用して測定することができる。
【0068】
特に、本発明の化合物は、がんの治療に有用である。他の実施形態では、本発明の化合物は、関節炎及び嚢胞性線維症などの慢性炎症性疾患の治療に有用である。
【0069】
したがって、一態様では、本発明は、哺乳動物において、がん、特に本明細書に記載のがんを治療する方法であって、そのような治療を必要とする哺乳動物に、有効量の本発明の化合物を投与することを含む、方法を提供する。
【0070】
関連態様では、本発明は、がん、特に、本明細書に記載のがんを治療するための薬物の製造における本発明の化合物の使用を対象とする。
【0071】
別の関連態様では、本発明の化合物は、がん、特に本明細書に記載のがんの治療のための薬物の製造に使用することができる。
【0072】
別の関連態様では、本発明は、がん、特に本明細書に記載のがんの治療に使用するための本発明の化合物を提供する。
【0073】
本発明の上記の関連態様のうちのいずれかによると、CDK4及びCDK6は、部分的にpRbリン酸化を通して細胞周期に対するそれらの効果を調節し得る。したがって、本発明の特定の化合物は、細胞が増殖しており、pRbをコードする機能的で無傷のRb1遺伝子を含む、任意のがん型において、CDK4/6活性を阻害することを通してpRbリン酸化を阻害し、したがって、細胞増殖及び/又は腫瘍増殖を阻害し得る。
【0074】
したがって、特定の実施形態では、本発明の化合物は、哺乳動物におけるpRb+がん、例えば、結腸直腸がん、乳がん、肺がん、前立腺がん、慢性骨髄性白血病、急性骨髄性白血病(Fry et al.,Mol.Cancer Ther.3(11):1427,2004)、マントル細胞リンパ腫(Marzec et al.,Blood 108(5):1744,2006)、卵巣がん((Kim et al.,Cancer Research 54:605,1994)、膵臓がん(Schutte et al.,Cancer Research 57:3126,1997)、悪性黒色腫及び転移性悪性黒色腫(Maelandsmo et al.,British Journal of Cancer 73:909,1996)の治療に有用である。本発明の化合物はまた、哺乳動物(例えば、ヒト)における横紋筋肉腫(Saab et al.,Mol.Cancer.Ther.5(5):1299,2006)、及び再発性難治性多発性骨髄腫を含む多発性骨髄腫(Baughn et al.,Cancer Res.66(15):7661,2006)の治療に有用であることも期待される。
【0075】
その一方で、Zhangら(Nature dx.doi.org/10.1038/nature25015,2017)は、インビボでのCDK4/6の阻害が、リン酸化の減少、したがって、(APC/CCdh1による)Cullin 3SPOP E3リガーゼの分解の増加につながり得、これがひいては、マウス腫瘍及び原発性ヒト前立腺がん検体において腫瘍細胞表面上のPD-L1レベルの増加、及び腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の数の低減につながることを報告した。換言すると、インビボでのCDK4/6の阻害は、PD-L1タンパク質レベルを上昇させ、PD-1(プログラム細胞死タンパク質1)及びPD-L1(PD-1のリガンド)を標的とする免疫チェックポイント療法に対する耐性の増加に寄与する。一方で、CDK4/6阻害剤治療を抗PD-1免疫療法と組み合わせることは、腫瘍の退縮を増強し、マウス腫瘍モデルにおける全生存率を劇的に向上させる。
【0076】
したがって、特定の実施形態では、本発明の化合物は、PD-1/PD-L1免疫チェックポイント阻害剤と組み合わせて使用され、ヒトがんの治療効果を高めることができる。
【0077】
本発明の化合物とともに使用され得るPD-1及びPD-L1阻害剤は、当該技術分野で既知である。PD-1阻害剤は、PD-1に特異的なモノクローナル抗体又はその抗原結合断片を含む。例示的なPD-1阻害剤としては、ペムブロリズマブ(Keytruda)、ニボルマブ(Opdivo)、及びセミプリマブ(Libtayo)が挙げられる。PD-L1阻害剤は、PD-L1に特異的なモノクローナル抗体又はその抗原結合断片を含む。例示的なPD-L1阻害剤としては、アテゾリズマブ(Tecentriq)、アベルマブ(Bavencio)、及びデュルバルマブ(Imfinzi)が挙げられる。
【0078】
ヒトがんの治療効果を高めるために本発明の化合物とともに使用され得る追加の免疫チェックポイント阻害剤は、イピリムマブ(Yervoy)などのCTLA-4に特異的なモノクローナル抗体又はその抗原結合断片を含む。
【0079】
ヒトがんの治療効果を高めるために本発明の化合物とともに使用され得る更なる免疫チェックポイント阻害剤は、PD-1及びPD-L1に特異的な二重特異性モノクローナル抗体若しくはその抗原結合断片、又はPD-1及びPD-L1、若しくはPD-1及びCTLA-4などに特異的なモノクローナル抗体若しくはその抗原結合断片の組み合わせを含む。
【0080】
特定の実施形態では、本発明の化合物は、Tyrキナーゼ阻害剤、例えば、受容体Tyrキナーゼ(RTK)阻害剤と組み合わせて使用され、ヒトがんの治療効果を高めることができる。例示的なTyrキナーゼ阻害剤としては、ALK阻害剤(クリゾチニブ、セリチニブ、アレクチニブ、ブリガチニブなど)、Bcr-Abl阻害剤(ボスチニブ、ダサチニブ、イマチニブ、ニロチニブ、ポナチニブなど)、BTK阻害剤(イブルチニブ等)、c-Met阻害剤(クリゾチニブ、カボザンチニブなど)、EGFR阻害剤(ゲフィチニブ、エルロチニブ、ラパチニブ、バンデタニブ、アファチニブ、オシメルチニブなど)、JAK阻害剤(ルキソリチニブ、トファシチニブ等)、MEK1/2阻害剤(トラメチニブなど)、PDGFR阻害剤(アキシチニブ、ゲフィチニブ、イマチニブ、レンバチニブ、ニンテダニブ、パゾパニブ、レゴラフェニブ、ソラフェニブ、スニチニブなど)、RET阻害剤(バンデタニブなど)、Srcファミリーキナーゼ阻害剤(ボスチニブ、ダサチニブ、ポナチニブ、バンデタニブなど)、及びVEGFRファミリー阻害剤(アキシチニブ、レンバチニブ、ニンテダニブ、レゴラフェニブ、パゾパニブ、ソラフェニブ、スニチニブなど)が挙げられる。
【0081】
主題の化合物と組み合わせて使用され得る追加の好適なキナーゼ阻害剤、並びに治療可能ながんの適応症は、Bhullar et al.,Molecular Cancer 17:48,2018(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に記載されている。
【0082】
更なる追加のRTK阻害剤は、セツキシマブ(例えば、肺がん、結腸直腸がん、及び頭頸部がんの治療に効果的)などの抗EGFR mAB、及びトラスツズマブ(例えば、乳がんの治療に効果的)などの抗HER2 mAbを含む、モノクローナル抗体及びその抗原結合断片を含む。
【0083】
特定の実施形態では、本発明の化合物は、乳がん治療について以前に記載されたものなどのホルモン受容体シグナル伝達のアンタゴニストと組み合わせて使用することができる。
【0084】
本発明の化合物で治療可能ながんは、非ホジキンリンパ腫、悪性中皮腫、非小細胞肺がん、胆管がん、軟組織肉腫、神経膠芽腫、(再発性)脳腫瘍、ホルモン受容体陽性乳がん、非小細胞肺がん、黒色腫(サイクリンD1発現陽性の黒色腫を含む)に続発する脳転移、(再発性又は持続性)子宮内膜がん、(再発性又は転移性)頭頸部扁平上皮がん(HNSCC)、肝細胞がん、食道扁平上皮がん(SCC)、食道腺がん(ADC)、腎細胞がん、及び尿路上皮がんを含む。
【0085】
特定の実施形態では、治療可能ながんは、膀胱、乳房、結腸、腎臓、表皮、肝臓、肺(SCLC及びNSCLCを含む)、食道、胆嚢、卵巣、膵臓、胃、子宮頸部、甲状腺、鼻、頭頸部、前立腺、若しくは皮膚のがん、リンパ系の造血器腫瘍、骨髄系の造血器腫瘍、甲状腺濾胞がん、間葉起源の腫瘍、中枢神経系若しくは末梢神経系の腫瘍、黒色腫、家族性黒色腫、セミノーマ、奇形がん、骨肉腫、色素性乾皮症、角膜腫、甲状腺濾胞がん、カポジ肉腫、扁平上皮がん、肉腫、又は間葉起源の腫瘍を含む。
【0086】
特定の実施形態では、リンパ系の造血器腫瘍は、白血病、急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病、B細胞リンパ腫、T細胞リンパ腫、多発性骨髄腫、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、有毛細胞リンパ腫、又はバーキットリンパ腫である。
【0087】
特定の実施形態では、中枢神経系又は末梢神経系の腫瘍は、星状細胞腫、神経芽細胞腫、神経膠腫又はシュワン腫である。
【0088】
特定の実施形態では、がんは、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、膵臓がん、乳がん、多形神経膠芽腫、T細胞ALL及びマントル細胞リンパ腫である。
【0089】
特定の実施形態では、がんは、結腸直腸がん、マントル細胞リンパ腫、乳がん(進行性又は転移性又は再発性乳がんを含む)、膵臓がん、卵巣がん、神経膠芽腫、急性骨髄性白血病、及び肺がん、特にNSCLCからなる群から選択される。
【0090】
特定の実施形態では、がんは、NSCLC、膵臓がん、卵巣がん又は転移性乳がんであり、治療は、本発明の化合物及びゲムシタビンHClの治療的に有効な組み合わせを、それを必要とする哺乳動物に投与することを含む。
【0091】
特定の実施形態では、がんは、NSCLC、膵臓がん、卵巣がん又は転移性乳がんであり、本発明の化合物を含む薬物はまた、ゲムシタビンHClを含むか、又はゲムシタビンHClと同時に、別個に、若しくは連続的に投与されるものである。
【0092】
特定の実施形態では、本発明の化合物は、NSCLC、膵臓がん、卵巣がん及び転移性乳がんの治療のために他の薬剤と組み合わせて使用することができる。例えば、本発明の化合物は、NSCLC、膵臓がん、卵巣がん又は転移性乳がんの治療において、ゲムシタビンHClと同時の、別個の、又は連続的な組み合わせで使用され得る。
【0093】
特定の実施形態では、がんは、結腸直腸がん、神経膠芽腫、急性骨髄性白血病及び肺がんからなる群から選択される。
【0094】
特定の実施形態では、がんは、神経膠芽腫又は星状細胞腫であり、治療は、本発明の化合物及びテモゾロミドの治療的に有効な組み合わせを利用する。本発明の化合物は、テモゾロミドと同時に、別個に、又は連続的に投与され得る。
【0095】
乳がんの治療
特定の実施形態では、本発明の化合物は、乳がんを治療するために使用することができる。
【0096】
乳がんは、世界中で重大な健康上の負担となっており、それだけで2016年の米国のがん関連の全死亡の約7%を占めている。全ての乳がんのうち、約75%がホルモン受容体陽性(HR+)乳がんと診断されており、これはエストロゲン受容体(ER)及び/又はプロゲステロン受容体(PgR)を発現し、典型的には、増殖及び生存のためにERシグナル伝達経路に依存する。すなわち、HR+乳がんは、ER経路の生物学的機能を利用して、乳がんの増殖、発達、進行を促進する。その一方で、HR+乳がんがERシグナル伝達に依拠しているため、そのような乳がんは、アロマターゼ阻害剤(AI;レトロゾール、アナストロゾール、及びエキセメスタンを含む)、選択的ERモジュレーター(タモキシフェン)、及び選択的ERダウンレギュレーター(フルベストラント)などのエストロゲンシグナル伝達経路を標的とする内分泌療法剤の治療標的となる。
【0097】
内分泌療法は、HR+乳がんの治療バックボーンを構成するが、内分泌療法の有効性は、代替的な生存又は「逃避」経路の存在に起因して、既存の新規耐性及び治療中に獲得された耐性の両方の高い割合によって制限される。ER経路及び既知の逃避経路の多くは、CDK4(INK4)-網膜芽細胞腫(Rb)経路のサイクリンD-CDK4/6-阻害剤を通して作用し、腫瘍の増殖を促進する。したがって、ER経路及びサイクリンD-CDK4/6-INK4-Rb経路の両方を組み合わせて標的化することは、通常、腫瘍増殖のより広範な阻害につながり、逃避経路の活性化を防止し、内分泌療法耐性の発現を妨げる。Sammons et al.,Current Cancer Drug Targets 17:637-649,2017を参照されたい。
【0098】
したがって、特定の実施形態では、乳がんは、pRb+乳がんである。特定の実施形態では、乳がんは、ホルモン受容体(HR)陽性(例えば、エストロゲン受容体陽性(ER+)、プロゲステロン受容体陽性(PR+)、又はER+PR+)、HR+HER2-若しくはER+HER2-進行性又は転移性又は再発性乳がんを含む、HER2/neu陰性がん、である。特定の実施形態では、HR+HER2-若しくはER+HER2-進行性又は転移性又は再発乳がんは、成人女性、又は閉経後の女性に存在する。
【0099】
特定の実施形態では、本発明の化合物は、HR陽性、HER2陰性の進行性又は転移性又は再発性乳がんを治療するために、単独で使用されるか、又はアロマターゼ阻害剤(エストロゲン産生を阻害する)とともに使用されるかのいずれかである。特定の実施形態では、アロマターゼ阻害剤は、アロマターゼを一時的に不活性化する(アナストロゾール(ARIMIDEX(登録商標))及びレトロゾール(FEMARA(登録商標))など)。特定の実施形態では、アロマターゼ阻害剤は、アロマターゼを恒久的に不活性化する(エキセメスタン(AROMASIN(登録商標))など)。
【0100】
特定の実施形態では、本発明の化合物は、乳がん細胞の増殖を刺激するエストロゲンの能力を妨害する化合物、例えば、エストロゲン受容体に結合してエストロゲン結合を防止する選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)、例えば、タモキシフェン(NOLVADEX(登録商標))及びトレミフェン(FARESTON(登録商標))とともに使用される。タモキシフェンは、HR+乳がんを治療するために30年以上使用されている。
【0101】
特定の実施形態では、本発明の化合物は、フルベストラント(FASLODEX(登録商標))などのエストロゲンアゴニスト活性を有していない純粋な抗エストロゲンとともに使用される。
【0102】
特定の実施形態では、HR陽性、HER2陰性の進行性又は転移性又は再発性乳がんは、閉経後の女性に存在する。特定の実施形態では、HR陽性、HER2陰性の進行性又は転移性又は再発性乳がんは、患者のホルモン(例えば、エストロゲン及び/又はプロゲステロン)を変化させる治療を受けた後に進行しているか、又は別のホルモン療法による治療後に悪化している。
【0103】
特定の実施形態では、本発明の化合物は、卵巣切除を受けている、又は卵巣切除を受けた患者に使用される。特定の実施形態では、卵巣切除は、卵巣摘出術又は放射線治療を通したものである。
【0104】
特定の実施形態では、本発明の化合物は、卵巣機能(例えば、エストロゲン及び/又はプロゲステロン産生)を一時的に抑制する化合物とともに使用される。そのような化合物は、ゴセレリン(ZOLADEX(登録商標))及びリュープロリド(LUPRON(登録商標))を含む、ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)アゴニスト又は黄体形成ホルモン放出ホルモン(LH-RH)アゴニストを含む。
【0105】
特定の実施形態では、本発明の化合物は、CYP3A4を阻害する化合物、例えば、リトナビル、インジナビル、ネルフィナビル、サキナビル、クラリスロマイシン、テリスロマイシン、クロランフェニコール、ケトコナゾール、イトラコナゾール、ポサコナゾール、ボリコナゾール、ネファゾドン、コビシスタット、アミオダロン、アプレピタント、ベラパミル、ジルチアゼム、エリスロマイシン、フルコナゾール、ミコナゾール、ベルガモチン、シメチジン、シプロフロキサシン、シクロスポリン、ドネダロン、フルボキサミン、イマチニブ、バレリアン、ブプレノルフィン、カフェストール、シロスタゾール、フォサプレピタント、ガバペンチン、ロミタピド、オルフェナドリン、ラニチジン、ラノラジン、タクロリムス、チカグレロル、バルプロン酸、アムロジピン、カンナビジオール、ジチオカルバメート、ミフェプリストン、ノルフロキサシン、デラビルジン、ゲストデン、ミベフラジル、スターフルーツ、オオアザミ、ナイアシンアミド、イチョウ、ピペリン、イソニアジド、及びケルセチンとともに使用される。
【0106】
特定の実施形態では、本発明の化合物は、IGF-1/IGF-2に対するモノクローナル抗体又はその抗原結合断片などのIGF-1/IGF-2の阻害剤とともに使用される。例示的な抗体としては、ヒト化IgG1 mAbであるキセンツズマブが挙げられる。
【0107】
特定の実施形態では、本発明の化合物は、PI3Kを阻害する化合物とともに使用される。PI3Kの阻害は、サイクリンD1及びその他のG1-Sサイクリンのレベルを低下させ、pRbリン酸化を無効にし、S期転写プログラムの活性化を阻害すると考えられる。本発明の化合物とともに使用するための代表的なPI3K阻害剤としては、イデラリシブ、コパンリシブ、デュベリシブ、タセリシブ、ペリホシン、ブパルリシブ、アルペリシブ、ウンブラリシブ、コパンリシブ、ダクトリシブ、及びボクスタリシブが含まれる。
【0108】
特定の実施形態では、治療される哺乳動物は、乳がんを有する成人女性(例えば、患者のホルモンを変化させる治療を受けた後に進行した、ホルモン受容体(HR)陽性、ヒト表皮成長因子受容体2(HER2)陰性の進行性又は転移性又は再発性乳がんを有する閉経後の女性又は成人女性)などのヒトである。
【0109】
加えて、本発明の特定の化合物は、それらが血液脳関門を通過することができるという有利な特性を示す。したがって、そのような化合物は、脳に浸透することができ、したがって、細胞が増殖しており、機能的で無傷のRb1遺伝子を含む、原発性及び転移性脳腫瘍の治療に有用である。そのようなpRb+脳腫瘍の例としては、神経膠芽腫、並びに髄芽腫及び星状細胞腫が挙げられる(Lee et al.,Science 235:1394,1987)。
【0110】
テモゾロミドは、黒色腫、乳がん、及びNSCLCからの脳転移(Siena et al.,Annals of Oncology,doi:10.1093/annonc/mdp343,2009)を含む、神経膠芽腫及び星状細胞腫を含む脳腫瘍(Friedman et al.,Clin.Cancer Res.6(7):2585-2597,2000)の治療に使用される細胞毒性のDNAアルキル化剤である。テモゾロミドは、DNAと相互作用し、化学修飾/損傷を引き起こす(Marchesi et al.,Pharmacol.Res.56(4):275-287,2007)。したがって、いくつかの実施形態では、本発明の化合物は、神経膠芽腫及び星細胞腫などの原発性及び転移性pRb+脳腫瘍の治療のために、例えば、そのような転移が、黒色腫、乳がん、又はNSCLCに由来する場合、テモゾロミドと組み合わせて使用することができる。
【0111】
5.医薬組成物
本発明は、本明細書に記載の化合物のうちのいずれか1つ、又はその薬学的に許容される塩と、1つ以上の薬学的に許容される担体又は賦形剤とを含む、医薬組成物を提供する。
【0112】
「薬学的に許容される賦形剤」及び「薬学的に許容される担体」は、対象への活性剤の処方及び/若しくは投与並びに/又は対象による吸収を補助し、対象に有意な有害毒性効果を引き起こすことなく本開示の組成物に含まれ得る物質を意味する。薬学的に許容される担体及び賦形剤の非限定的な例としては、水、NaCl、生理食塩水、乳酸リンゲル液、通常スクロース、通常グルコース、結合剤、充填剤、崩壊剤、潤滑剤、コーティング、甘味剤、香味剤、塩溶液(リンゲル溶液など)、アルコール、油、ゼラチン、ラクトース、アミロース又はデンプンなどの炭水化物、脂肪酸エステル、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルピロリジン、着色剤、及び同等物が挙げられる。そのような調製物は、滅菌し、所望される場合、本明細書で提供される化合物と有害に反応しないか、又はその活性を妨害しない、潤滑剤、防腐剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧に影響を与えるための塩、緩衝剤、着色剤、及び/又は芳香物質、並びに同等物などの補助剤と混合することができる。当業者は、他の医薬担体及び賦形剤が、開示される化合物とともに使用するために好適であることを認識するであろう。
【0113】
これらの組成物は、任意選択的に、1つ以上の追加の治療薬を更に含む。代替的に、本発明の化合物は、1つ以上の他の治療レジメン(例えば、Gleevec又は他のキナーゼ阻害剤、インターフェロン、骨髄移植、ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤、ビスホスホネート、サリドマイド、がんワクチン、ホルモン療法、抗体、放射線など)の投与と組み合わせて、それを必要とする患者に投与され得る。例えば、本発明の化合物との医薬組成物における併用投与又は包含のための追加の治療薬は、別の1つ以上の抗がん剤であり得る。
【0114】
本明細書に記載されるように、本発明の組成物は、本明細書で使用される場合、所望される特定の剤形に適した、ありとあらゆる溶媒、希釈剤、又は他のビヒクル、分散若しくは懸濁補助剤、界面活性剤、等張剤、増粘剤若しくは乳化剤、防腐剤、固体結合剤、潤滑剤、及び同等物を含む、薬学的に許容される担体とともに本発明の化合物を含む。Remington’s Pharmaceutical Sciences,Fifteenth Edition,E.W.Martin(Mack Publishing Co.,Easton,Pa.,1975)は、医薬組成物の製剤化に使用される様々な担体及びその調製のための既知の技法を開示している。任意の望ましくない生物学的効果を生じること、又は別様に医薬組成物の任意の他の成分と有害な様式で相互作用することなどによって、任意の従来の担体媒体が本発明の化合物と適合しない場合を除いて、その使用は、本発明の範囲内であることが企図される。薬学的に許容される担体としての役割を果たし得る材料のいくつかの例としては、ラクトース、グルコース及びスクロースなどの糖、トウモロコシデンプン及びジャガイモデンプンなどのデンプン、セルロース及びその誘導体、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース及び酢酸セルロース、粉末トラガカント、麦芽、ゼラチン、タルク、カカオバター及び坐剤ワックスなどの賦形剤、落花生油、綿実油、ベニバナ油、胡麻油、オリーブ油、トウモロコシ油及び大豆油などの油、プロピレングリコールなどのグリコール、オレイン酸エチル及びラウリン酸エチルなどのエステル、寒天、水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウムなどの緩衝剤、アルギン酸、発熱物質を含まない水、等張食塩水、リンゲル溶液、エチルアルコール、及びリン酸緩衝液、並びにラウリル硫酸ナトリウム及びステアリン酸マグネシウムなどの他の非毒性適合性潤滑剤が挙げられ、同様に、着色剤、放出剤、コーティング剤、甘味剤、香味剤及び芳香剤、防腐剤及び抗酸化剤もまた、組成物中に存在し得る。
【0115】
6.製剤
本発明はまた、1つ以上の薬学的に許容される担体及び/又は希釈剤並びに/若しくはアジュバント(本明細書では集合的に「担体」材料と称される)、及び所望される場合、他の活性成分と関連して、本発明の活性化合物を含む組成物のクラスも包含する。
【0116】
特定の実施形態では、本発明は、薬学的に許容される担体とともに本発明の化合物又はその薬学的に許容される塩を含む、がん、特に本明細書に記載のがんを治療するための医薬製剤を提供する。
【0117】
特定の実施形態では、本発明は、薬学的に許容される担体とともに本発明の化合物又はその薬学的に許容される塩を含む、結腸直腸がん、マントル細胞リンパ腫、乳がん(成人女性又は閉経後の女性におけるER+HER2-進行性又は転移性又は再発性乳がんを含む)、神経膠芽腫、急性骨髄性白血病及び肺がん、特にNSCLCからなる群から選択されるがんを治療するための医薬製剤を提供する。
【0118】
特定の実施形態では、本発明は、薬学的に許容される担体とともに、本発明の化合物と、テモゾロミドとを含む、神経膠芽腫又は星状細胞腫を治療するための医薬製剤を提供する。
【0119】
特定の実施形態では、本発明はまた、薬学的に許容される担体、希釈剤、又は賦形剤とともに、本発明の化合物又はその薬学的に許容される塩と、テモゾロミドとを含む、医薬製剤を提供する。
【0120】
特定の実施形態では、本発明は、薬学的に許容される担体とともに、本発明の化合物と、ゲムシタビンHClとを含む、NSCLC、膵臓がん、卵巣がん又は転移性乳がん(成人女性又は閉経後の女性におけるER+HER2-進行性又は転移性又は再発性乳がんを含む)を治療するための医薬製剤を提供する。
【0121】
特定の実施形態では、本発明はまた、薬学的に許容される担体、希釈剤、又は賦形剤とともに、本発明の化合物又はその薬学的に許容される塩と、ゲムシタビンHClとを含む、医薬製剤も提供する。
【0122】
本発明の活性化合物は、好ましくは、任意の好適な経路に適合された医薬組成物の形態で、かつ意図される治療に有効な用量で、そのような経路によって投与され得る。本発明の化合物及び組成物は、従来の薬学的に許容される担体、アジュバント、及びビヒクルを含む投与単位製剤で、例えば、経口で、粘膜に、局所的に、直腸に、吸入スプレーなどによって肺に、又は血管内、静脈内、腹腔内、皮下、筋肉内、胸骨内及び注入技術を含む非経口で、投与され得る。
【0123】
本発明の薬学的に活性な化合物は、従来の調剤方法に従って処理されて、ヒト及び他の哺乳動物を含む患者に投与するための薬剤を生産することができる。
【0124】
経口投与については、医薬組成物は、例えば、錠剤、カプセル、懸濁液又は液体の形態であり得る。医薬組成物は、好ましくは、特定の量の活性成分を含む投薬単位の形態で作製される。
【0125】
そのような投薬単位の例は、錠剤又はカプセルである。例えば、ヒト又は他の哺乳動物のための好適な1日用量は、患者の状態及び他の要因に応じて異なり得るが、この場合も同様に、日常的な方法を用いて決定することができる。
【0126】
本発明の化合物及び/又は組成物で疾患状態を治療するための投与される化合物の量及び投薬計画は、対象の年齢、体重、性別及び病状、疾患の種類、疾患の重症度、投与の経路及び頻度、並びに採用される特定の化合物を含む、様々な要因に依存する。したがって、投薬計画は、大きく異なり得るが、標準的な方法を使用して日常的に決定することができる。前述のように、1日用量は、1回の投与で投与することができるか、又は2、3、4回、若しくはそれ以上の投与に分割され得る。
【0127】
治療目的のために、本発明の活性化合物は、通常、指示された投与経路に適切な1つ以上のアジュバント、賦形剤又は担体と組み合わせられる。経口投与される場合、化合物は、ラクトース、スクロース、デンプン粉末、アルカン酸のセルロースエステル、セルロースアルキルエステル、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、酸化マグネシウム、リン酸及び硫酸のナトリウム及びカルシウム塩、ゼラチン、アカシアガム、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、並びに/又はポリビニルアルコールと混合され、次いで、便宜的な投与のために錠剤化又はカプセル化され得る。そのようなカプセル又は錠剤は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース中の活性化合物の分散液で提供され得るような放出制御型製剤を含み得る。
【0128】
皮膚状態の場合、本発明の化合物の局所調製物を患部に1日2~4回適用することが好ましくあり得る。局所投与に好適な製剤は、皮膚を通した浸透に好適な液体又は半液体調製物(例えば、塗布剤、ローション、軟膏、クリーム、又はペースト)、及び目、耳、又は鼻への投与に好適な点滴剤を含む。局所投与については、活性成分は、製剤の0.001%~10%w/w、例えば、1重量%~2重量%を含み得るにもかかわらず、製剤の10%w/wもの量であるが、好ましくは5%w/w以下、より好ましくは0.1%~1%を含み得る。
【0129】
本発明の化合物はまた、経皮デバイスによって投与することもできる。好ましくは、経皮投与は、リザーバ及び多孔質膜タイプ又は固体マトリックスの種類のいずれかのパッチを使用して達成されるであろう。いずれの場合も、活性剤は、リザーバ又はマイクロカプセルから膜を通して、レシピエントの皮膚又は粘膜と接触している活性剤浸透性接着部の中に連続的に送達される。活性剤が皮膚を通して吸収される場合、制御された所定の流量の活性剤がレシピエントに投与される。マイクロカプセルの場合、封入剤もまた、膜として機能し得る。本発明のエマルションの油相は、既知の様式で既知の成分から構成され得る。
【0130】
相は、乳化剤のみを含み得るが、少なくとも1つの乳化剤と脂肪若しくは油との混合物、又は脂肪及び油の両方との混合物を含み得る。好ましくは、親水性乳化剤は、安定剤として作用する親油性乳化剤とともに含まれる。油及び脂肪の両方を含むことも好ましい。ともに、安定剤の有無にかかわらず、乳化剤は、いわゆる乳化ワックスを構成し、ワックスは、油及び脂肪とともに、クリーム製剤の油性分散相を形成するいわゆる乳化軟膏基剤を構成する。本発明の製剤で使用するために好適な乳化剤及びエマルション安定剤は、Tween 60、Span 80、セトステアリルアルコール、ミリスチルアルコール、モノステアリン酸グリセリル、ラウリル硫酸ナトリウム、単独の若しくはワックスを含むジステアリン酸グリセリル、又は当該技術分野で周知の他の材料を含む。
【0131】
医薬エマルション製剤に使用される可能性が高いほとんどの油における活性化合物の溶解度が非常に低いため、製剤のための好適な油又は脂肪の選択は、所望の審美的特性を達成することに基づいている。したがって、クリームは、好ましくは、チューブ又は他の容器からの漏出を回避するために好適な粘稠度を備えた、べたつかず、しみにならず、洗浄可能な製品であるべきである。ジイソアジピン酸塩、ステアリン酸イソセチル、ココナッツ脂肪酸のプロピレングリコールジエステル、ミリスチン酸イソプロピル、オレイン酸デシル、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、パルミチン酸2-エチルヘキシル、又は分岐鎖エステルのブレンドなどの直鎖又は分岐鎖の一塩基又は二塩基性アルキルエステルが、使用され得る。これらは、必要とされる特性に応じて、単独で、又は組み合わせて使用され得る。
【0132】
代替として、白色軟パラフィン及び/若しくは流動パラフィン又は他の鉱油などの高融点脂質を使用することができる。
【0133】
目への局所投与に好適な製剤には、活性成分が、好適な担体、特に活性成分のための水性溶媒中に溶解又は懸濁される、点眼薬も含まれる。
【0134】
活性成分は、好ましくは、0.5~20%、有利には0.5~10%、特に約1.5%w/wの濃度で、そのような製剤中に存在する。
【0135】
非経口投与用の製剤は、水性又は非水性等張性滅菌注射溶液又は懸濁液の形態であり得る。これらの溶液及び懸濁液は、経口投与用の製剤で使用するために言及される担体若しくは希釈剤のうちの1つ以上を使用して、又は他の好適な分散剤若しくは湿潤剤及び懸濁化剤を使用することによって、滅菌粉末又は顆粒から調製され得る。これらの化合物は、水、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、エタノール、トウモロコシ油、綿実油、落花生油、ゴマ油、ベンジルアルコール、塩化ナトリウム、トラガカントガム、及び/又は様々な緩衝液中に溶解され得る。他のアジュバント及び投与様式が、製薬分野で十分にかつ広く知られている。活性成分はまた、生理食塩水、デキストロース、若しくは水を含む好適な担体、又はシクロデキストリン(すなわち、Captisol)、共溶媒可溶化(すなわち、プロピレングリコール)若しくはミセル可溶化(すなわち、Tween80)を含む組成物として、注射によって投与され得る。
【0136】
滅菌注射用調製物はまた、例えば、1,3-ブタンジオール中の溶液として、非毒性の非経口的に許容される希釈剤又は溶媒中の滅菌注射溶液又は懸濁液であり得る。採用され得る許容されるビヒクル及び溶媒の中には、水、リンゲル溶液、及び等張塩化ナトリウム溶液がある。加えて、滅菌不揮発性油が、従来、溶媒又は懸濁媒体として採用されている。この目的のために、合成モノグリセリド又はジグリセリドを含む、任意の刺激の少ない不揮発性油が採用され得る。加えて、オレイン酸などの脂肪酸が、注射剤の調製に使用されている。
【0137】
経肺投与については、医薬組成物は、エアロゾルの形態で、又は乾燥粉末エアロゾルを含む吸入器を用いて、投与され得る。
【0138】
薬物の直腸投与用の坐剤は、常温では固体であるが直腸温度では液体であるため、直腸内で溶融して薬物を放出する、カカオバター及びポリエチレングリコールなどの好適な非刺激性賦形剤と薬物を混合することによって、調製することができる。
【0139】
医薬組成物は、滅菌などの従来の製薬工程に供され得、かつ/又は防腐剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、緩衝液などの従来のアジュバントを含み得る。錠剤及び丸剤を、腸溶コーティングで更に調製することができる。そのような組成物はまた、湿潤剤、甘味剤、香味剤、及び芳香剤などの補助剤を含み得る。本発明の医薬組成物は、本明細書に記載の式の化合物又はその薬学的に許容される塩と、キナーゼ阻害剤(小分子、ポリペプチド、抗体等)、免疫抑制剤、抗がん剤、抗ウイルス剤、抗炎症剤、抗真菌剤、抗生物質、又は抗血管過剰増殖化合物から選択される追加の薬剤と、任意の薬学的に許容される担体、アジュバント又はビヒクルとを含む。
【0140】
本発明の代替的組成物は、本明細書に記載の式の化合物又はその薬学的に許容される塩と、薬学的に許容される担体、アジュバント又はビヒクルとを含む。そのような組成物は、例えば、キナーゼ阻害剤(小分子、ポリペプチド、抗体等)、免疫抑制剤、抗がん剤、抗ウイルス剤、抗炎症剤、抗真菌剤、抗生物質、又は抗血管過剰増殖化合物を含む、1つ以上の追加の治療薬を任意選択的に含み得る。
【0141】
「薬学的に許容される担体又はアジュバント」という用語は、本発明の化合物とともに患者に投与され得、その薬理学的活性を破壊せず、治療量の化合物を送達するために十分な用量で投与されたときに非毒性である、担体又はアジュバントを指す。本発明の医薬組成物に使用され得る薬学的に許容される担体、アジュバント、又はビヒクルとしては、イオン交換剤、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、D-α-トコフェロールポリエチレングリコール1000コハク酸などの自己乳化型薬物送達システム(SEDDS)、Tween又は他の類似ポリマー送達マトリックスなどの医薬剤形に使用される界面活性剤、ヒト血清アルブミンなどの血清アルブミン、緩衝物質、例えば、リン酸塩、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、飽和植物性脂肪酸の部分的グリセリド混合物、水、塩又は電解質、例えば、プロタミン硫酸塩、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩、コロイドシリカ、三ケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、セルロース系物質、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸塩、ワックス、ポリエチレン-ポリオキシプロピレン-ブロックポリマー、ポリエチレングリコール、及び羊毛脂が挙げられるが、これらに限定されない。u-、P-、及びy-シクロデキストリンなどのシクロデキストリン、又は2及び3-ヒドロキシプロピル-シクロデキストリンを含むヒドロキシアルキルシクロデキストリンなどの化学修飾誘導体、若しくは他の可溶化誘導体もまた、本明細書に記載の式の化合物の送達を増強するために有利に使用され得る。
【0142】
医薬組成物は、カプセル、錠剤、エマルション及び水性懸濁液、分散液及び溶液を含むがこれらに限定されない、任意の経口的に許容される剤形で経口投与され得る。経口使用のための錠剤の場合、一般的に使用される担体は、ラクトース及びトウモロコシデンプンを含む。ステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤もまた、典型的には添加される。カプセル形態での経口投与については、有用な希釈剤は、ラクトース及び乾燥トウモロコシデンプンを含む。水性懸濁液及び/又はエマルションが経口投与されると、活性成分は、油相に懸濁又は溶解され得、乳化剤及び/又は懸濁剤と組み合わせられる。
【0143】
所望される場合、特定の甘味剤、香味剤及び/又は着色剤が、添加され得る。医薬組成物は、リポソーム又はマイクロカプセル化技法を利用する製剤を含み得、その様々な例が当該技術分野で既知である。
【0144】
医薬組成物は、鼻エアロゾル又は吸入によって投与され得る。そのような組成物は、医薬製剤の技術分野で周知の技法に従って調製され、ベンジルアルコール若しくは他の好適な防腐剤、生物学的利用能を高めるための吸収促進剤、フルオロカーボン、及び/又は他の可溶化剤若しくは分散剤を採用して、生理食塩水中の溶液として調製され得、その例もまた、当該技術で周知である。
【0145】
7.治療キット
本発明の一態様は、本発明による方法又は使用を便宜的かつ効果的に実行するためのキットに関する。一般に、医薬パック又はキットは、本発明の医薬組成物の成分のうちの1つ以上で満たされた1つ以上の容器を含む。そのようなキットは、錠剤又はカプセルなどの固形経口剤形の送達に特に適している。そのようなキットは、好ましくは、いくつかの単位剤形を含み、また、それらの意図された使用の順序に配向された投与量を有するカードを含み得る。所望される場合、例えば、数字、文字、若しくは他のマーキングの形態で、又は投与量が投与され得る治療スケジュールの日にちを指定するカレンダー挿入物とともに、記憶補助を提供することができる。任意選択的にそのような容器と関連するものは、医薬品の製造、使用、又は販売を規制する政府機関によって規定された形式の通知であり得、該通知は、ヒトへの投与のための製造、使用、又は販売の該機関による認可を反映する。
【0146】
以下の代表的な実施例は、その様々な実施形態及びその等価物において本発明の実践に適合され得る、重要な追加の情報、例示及び指針を含む。以下の実施例は、本発明を例示するのを助けることを意図しており、本発明の範囲を限定することは意図しておらず、また限定すると解釈されるべきではない。実際、本明細書に示され、記載されるものに加えて、本発明の様々な修正例、及びその多くの更なる実施形態が、以下の実施例、並びに本明細書に引用される科学文献及び特許文献への参照を含めて、本文書を検討することにより、当業者に明白となるであろう。
【0147】
引用された参考文献の内容は、最新技術を例示することを助けるように、参照により本明細書に組み込まれる。
【0148】
加えて、本発明の目的のために、化学元素は、Periodic Table of the Elements,CAS version,Handbook of Chemistry and Physics,75th Ed.の表紙裏の元素の周期表に従って識別される。加えて、有機化学の一般原則、並びに特定の機能部分及び反応性は、“Organic Chemistry,”Thomas Sorrell,University Science Books,Sausalito:1999、及び“Organic Chemistry,”Morrison & Boyd (3d Ed)に記載されており、その両方の内容全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0149】
8.合成スキーム
式Iの化合物は、当該技術分野において認識されている技法及び手順に従って、当業者によって調製され得る。より具体的には、式Iの化合物は、以下に記載されるスキーム、方法、及び実施例に記載されるように調製され得る。以下のスキームにおける個々のステップは、式Iの化合物を提供するために変更され得ることが当業者によって認識されるであろう。試薬及び出発物質は、当業者に容易に利用可能である。別段の規定がない限り、全ての置換基は、以前に定義されたとおりである。
【実施例】
【0150】
合成例
機器の説明
1H NMRスペクトルを、Bruker Ascend 400分光計上で記録した。化学シフトは、100万分の1(ppm、δ単位)で表される。結合定数は、ヘルツ(Hz)の単位である。分割パターンは、見かけの多重度を表し、s(一重線)、d(二重線)、t(三重線)、q(四重線)、quint(五重線)、m(多重線)、br(ブロード)として表される。
【0151】
分析用低分解能質量スペクトル(MS)を、勾配溶出法を使用して、Waters社製CORTECS C18+、2.7μm 4.6×30mmを使用したSQ Detectorを備えたWaters社製ACQUITY UPLC上で記録した。
【0152】
溶媒A:水中の0.1%ギ酸(FA)
溶媒B:アセトニトリル中の0.1%FA
1.0分で5%ACNから95%ACN、1.0分保持、
合計2.5分、流量:1.8mL/分、カラム温度40度。
【0153】
中間体
中間体1
【化4】
ステップ1
DCM(10mL)中の4-ベンジルオキシピリジン(185mg、998μmol)の溶液に、アミノ2,4,6-トリメチルベンゼンスルホネート(236mg、1.1mmol)を25℃で添加した。反応混合物を25℃で14時間撹拌した。混合物を減圧下で濃縮して、所望の粗生成物(400mg)を無色の油として得た。LC-MS:m/z 202[M+H]
+。
【0154】
ステップ2
DMF(10mL)中の上記の生成物(187mg、487μmol)の溶液に、Cs2CO3(192mg、1.4mmol)及びブタ-3-イン-2-オン(94mg、1.4mmol)を添加した。反応混合物を25℃で12時間撹拌した。反応混合物を水(50mL)でクエンチし、DCM(2×25mL)で抽出した。有機層をブライン(20mL)で洗浄し、無水Na2SO4上で乾燥させ、減圧下で濃縮した。残留物をカラムクロマトグラフィー(PE/EA=10/1で溶出)により精製して、所望の生成物(90mg、35%収率)を黄色の固体として得た。LC-MS:m/z 267[M+H]+。
【0155】
ステップ3
THF(10ml)中のメチル(トリフェニル)ホスホニウムブロミド(241mg、675μmol)の溶液に、ブチルリチウム(43.3mg、675μmol)をN2下にて-20℃で滴加した。反応物を-20℃で1時間撹拌した。次いで、THF(15ml)中の1-(5-ベンジルオキシピラゾロ[1,5-a]ピリジン-3-イル)エタノン(90mg、338μmol)の溶液を、-20℃で滴加した。反応混合物を10℃で3時間撹拌した。反応混合物をMeOH(3ml)でクエンチし、減圧下で濃縮した。残留物を分取HPLC(PE:EA=1/1で溶出)により精製して、所望の粗生成物(41mg)を黄色の固体として得た。LC-MS:m/z 265[M+H]+。
【0156】
ステップ4
メタノール(50mL)中の5-ベンジルオキシ-3-イソプロペニル-ピラゾロ[1,5-a]ピリジン(600mg、2.3mmol)の溶液に、Pd/C(60mg)を添加した。反応混合物をH2下にて30℃で48時間撹拌した。反応混合物を濾過し、減圧下で濃縮して、所望の生成物(380mg)を黄色の固体として得た。LC-MS:m/z 177[M+H]+。
【0157】
ステップ5
DCM(15mL)中の3-イソプロピルピラゾロ[1,5-a]ピリジン-5-オール(650mg、3.7mmol)及びDIPEA(410mg、4.1mmol)の溶液に、Tf2O(1.1g、4.1mmol)をN2下にて0℃で添加した。反応混合物を0℃で2時間撹拌した。反応混合物をブライン(15mL)で洗浄し、Na2SO4上で乾燥させた。有機層を濾過し、濾液を濃縮して、所望の生成物(1.1g)を無色の油として得た。LC-MS:m/z 309[M+H]+。
【0158】
ステップ6
ジオキサン(10mL)中の(3-イソプロピルピラゾロ[1,5-a]ピリジン-5-イル)トリフルオロメタンスルホネート(1.1g、3.4mmol)及び4,4,5,5-テトラメチル-2-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-1,3,2-ジオキサボロラン(1.3g、5.1mmol)の溶液に、Pd(dppf)Cl2(249mg、340μmol)及びKOAc(1.0g、10.2mmol)を添加した。反応混合物をN2下にて110℃で2時間撹拌した。混合物を濾過し、濾液を減圧下で濃縮して、所望の粗生成物(950mg)を暗色の固体として得た。LC-MS:m/z 287[M+H]+。
【0159】
ステップ7
H2O(1mL)及び1,4-ジオキサン(15mL)中の3-イソプロピル-5-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン2-イル)ピラゾロ[1,5-a]ピリジン(950mg、3.3mmol)及び2,4-ジクロロ-5-フルオロ-ピリミジン(665mg、4.0mmol)の溶液に、Na2CO3(1.2g、10mmol)及びPd(dppf)Cl2(242mg、332μmol)を添加した。混合物をN2下にて110℃で6時間撹拌した。混合物を減圧下で濃縮し、残留物をフラッシュカラムクロマトグラフィー(EA0~50%を含むPE/EA)により精製して、所望の生成物(650mg、67%収率)を黄色の固体として得た。LC-MS:m/z 291[M+H]+。
【0160】
中間体2
【化5】
水(3mL)及び1,4-ジオキサン(60mL)中の3-イソプロピル-5-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン2-イル)ピラゾロ[1,5-a]ピリジン(3.5g、12.2mmol)及び2,4-ジクロロピリミジン(2.7g、18.4mmol)の溶液に、Pd(dppf)Cl
2(0.9g、1.2mmol)及びNa
2CO
3(1.52g、14mmol)を添加した。反応混合物をN
2下にて110℃で6時間撹拌した。混合物を減圧下で濃縮し、残留物をフラッシュカラムクロマトグラフィー(EA0~50%を含むPE)により精製して、所望の生成物(2.1g、62%収率)を黄色の固体として得た。LC-MS:m/z 273[M+H]
+。
【0161】
中間体3
【化6】
ステップ1
エチルアルコール(45L)及び水(3L)中の2,6-ジクロロ-3-ニトロピリジン-4-アミン(1500g、7.2mol)及び鉄粉(1933g、34.6mmol)の混合物に、水(6.5L)中のHCl(1.5L、H
2O中12M)を0℃で1時間かけて滴加し、結果として生じた混合物を95℃で16時間攪拌した。混合物を室温まで冷却し、次いで、炭酸水素ナトリウム(固体)でpH=9に中和した。混合物を濾過し、酢酸エチル(500mL)で洗浄した。濾液を濃縮して溶媒を除去した。次いで、溶液を酢酸エチル(9L)で抽出した。組み合わせた有機層をブライン(1L)で洗浄し、無水硫酸ナトリウム上で乾燥させ、濾過した。濾液を濃縮して、2,6-ジクロロピリジン-3,4-ジアミン(1200g)を黄色の固体として生じた。
【0162】
ステップ2
トリエトキシメタン(3L)中の2,6-ジクロロピリジン-3,4-ジアミン(1200g、6.74mol)の溶液を、窒素雰囲気下にて140℃で28時間撹拌した。反応物を濃縮した。ギ酸(1.5L)を添加した。結果として生じた混合物を120℃で2時間撹拌した。溶液を濃縮して残留物を生じ、これを石油エーテル/酢酸エチル(1/1、400mL)で粉砕して、4,6-ジクロロ-1H-イミダゾ[4,5-c]ピリジン(1360g)を黄色の固体として生じた。
【0163】
ステップ3
4,6-ジクロロ-1H-イミダゾ[4,5-c]ピリジン(1360g、5.8mol)、K2CO3(5680g、17.4mol)及び2-ヨードプロパン(3951g、23.2mol)の混合物を、DMF(5L)中に溶解させ、窒素雰囲気下にて20℃で24時間攪拌した。酢酸エチル(40L)を反応物に添加し、混合物を濾過した。濾液を濃縮して残留物を生じ、これをシリカゲルカラム(3:1~1:1の石油エーテル/酢酸エチル)で精製して、所望の生成物(710g)を黄色の固体として生じた。
【0164】
ステップ4
DMSO(10mL)中の4,6-ジクロロ-1-イソプロピル-イミダゾ[4,5-c]ピリジン(250mg、1.1mmol)の混合物に、CsF(510mg、3.4mmol)を添加し、次いで、混合物を140℃で1.5時間撹拌した。結果として生じた混合物を水(100mL)に注ぎ入れ、EA(3×30mL)で抽出した。組み合わせた有機層をNa2SO4上で乾燥させ、濾過した。濾液を濃縮した。残留物をフラッシュカラム(80gの200~300メッシュシリカゲル、PE/EA=5/1~2/1)により精製して、所望の生成物(210mg、75%収率)を乳白色の固体として得た。LC-MS:m/z 214.1[M+H]+。
【0165】
ステップ5
ジオキサン(5mL)中の6-クロロ-4-フルオロ-1-イソプロピル-イミダゾ[4,5-c]ピリジン(30mg、140μmol)及び4,4,5,5-テトラメチル-2-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-1,3,2-ジオキサボロラン(35.6mg、140μmol)の溶液に、酢酸カリウム(41.3mg、421μmol)及びシクロペンチル(ジフェニル)ホスファンジクロロパラジウム鉄(15.4mg、21.1μmol)を添加した。混合物をN2で脱気し、110℃で16時間撹拌した。セライトパッドを通して混合物を濾過した。濾液を、黒色の油としての所望の粗生成物(50mg)になるまで減圧下で濃縮し、これを次のステップで直接使用した。LC-MS:m/z 224.2[M+H]+。
【0166】
ステップ6
ジオキサン(3mL)中の(4-フルオロ-1-イソプロピル-イミダゾ[4,5-c]ピリジン-6-イル)ボロン酸(50mg、224μmol)及び2-クロロ-4-ヨード-ピリミジン(53.9mg、224μmol)の溶液に、Pd(dppf)Cl2(24.6mg、33.6μmol)及びKOAc(66mg、672μmol)を添加した。混合物をN2で脱気し、110℃で16時間撹拌した。混合物を減圧下で濃縮した。残留物を、0~60%の石油エーテル中の酢酸エチルで溶出するフラッシュクロマトグラフィーにより精製して、所望の生成物(30mg、46%収率)を白色の固体として生じた。LC-MS:m/z)292.1[M+H]+。
【0167】
中間体4
【化7】
ステップ1
ジオキサン(40mL)中の5-ブロモ-2-ニトロ-ピリジン(1g、4.9mmol)及び1-イソプロピルピペラジン(631.6mg、4.9mmol)の溶液に、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(451.1mg、492μmol)、(5-ジフェニルホスファニル-9,9-ジメチル-キサンテン-4-イル)-ジフェニルホスファン(570mg、985μmol)及び炭酸セシウム(4.8g、14.8mmol)を添加した。次いで、反応混合物をN
2下にて110℃で3時間撹拌した。反応混合物を減圧下で濃縮し、1~100%の石油エーテル中の酢酸エチルで溶出するシリカゲルクロマトグラフィーにより精製して、所望の生成物(850mg、68%収率)を黄色の固体として得た。LC-MS:m/z 251.1[M+H]
+。
【0168】
ステップ2
メタノール(30mL)中の1-イソプロピル-4-(6-ニトロ-3-ピリジル)ピペラジン(850mg、3.4mmol)の溶液に、Pd/C(412mg、10%)を添加した。次いで、反応混合物をH2で3回脱気し、25℃で3時間撹拌した。反応混合物を濾過し、次いで、メタノール(20mL)で洗浄した。組み合わせた溶媒を減圧下で濃縮して、所望の生成物(620mg、82%収率)を褐色の固体として生じた。LC-MS:m/z 221.2[M+H]+。
【0169】
中間体5
【化8】
ステップ1
DCM(36mL)及びTHF(18mL)中のピペリジン-2,4-ジオン(2.1g、18.5mmol)及びN-メチルメタンアミン(3.4g、74.2mmol)の混合物に、CH
3COOH(10mL)を添加し、結果として生じた混合物を窒素雰囲気下にて25℃で3時間撹拌した。トリアセトキシ水素化ホウ素ナトリウム(7.8g、37.1mmol)をこの混合物に添加し、結果として生じた混合物を窒素雰囲気下にて25℃で12時間撹拌した。反応物を水(50mL)でクエンチし、真空で濃縮して、DCM及びTHFを除去した。混合物をDCM(3×100mL)で抽出した。有機溶液をブライン(20mL)で洗浄した。有機相をNa
2SO
4上で乾燥させ、濾過し、減圧下で濃縮して、所望の生成物(2.6g)を得、これを精製することなく次のステップで使用した。LC-MS:m/z 141.2[M+H]
+。
【0170】
ステップ2
メタノール(15mL)中の4-(ジメチルアミノ)-2,3-ジヒドロ-1H-ピリジン-6-オン(1.0g、7.1mmol)の混合物に、水素化ホウ素ナトリウム(539mg、14.2mmol)を添加し、結果として生じた混合物を窒素雰囲気下にて25℃で12時間撹拌した。反応物を、飽和NH4Cl水溶液(10mL)でクエンチし、次いで、真空で濃縮してMeOHを除去した。水溶液を(MeCN/水(0.1%NH4OH)=1/10)で溶出する逆相カラム(C18、40g)により精製して、所望の生成物(0.3g、32%収率)を淡黄色の固体として生じた。LC-MS:m/z 143.2[M+H]+。
【0171】
ステップ3
ジオキサン(26mL)中の4-(ジメチルアミノ)ピペリジン-2-オン(270mg、1.9mmol)、5-ヨードピリジン-2-アミン(1.0g、4.7mmol)及びリン酸カリウム(1.2g、5.7mmol)の混合物に、(1S,2S)-N1,N2-ジメチルシクロヘキサン-1,2-ジアミン(162mg、1.1mmol)及びCuI(108mg、569μmol)を添加し、結果として生じた混合物を窒素雰囲気下にて110℃で12時間撹拌した。反応物を濾過した。濾液を真空で濃縮して残留物を生じ、これを(MeCN/水(0.1%NH4OH)=1/10)で溶出する逆相カラム(C18、20g)により精製して、所望の生成物(272mg、61%収率)を淡黄色の固体として生じた。LC-MS:m/z 235.2[M+H]+。
【0172】
合成例1
【化9】
ジオキサン(5mL)中の1-(6-アミノ-3-ピリジル)-4-(ジメチルアミノ)ピペリジン-2-オン(30mg、128μmol)及び5-(2-クロロピリミジン-4-イル)-3-イソプロピル-ピラゾロ[1,5-a]ピリジン(38.4mg、140.8μmol)の混合物に、炭酸セシウム(125.1mg、384.1μmol)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(11.7mg、12.8μmol)及びRuPhos(11.9mg、25.6μmol)を添加した。結果として生じた混合物を窒素雰囲気下にて110℃で4時間撹拌した。反応混合物をEA(20mL)で抽出した。有機相を水(3×20mL)、ブライン(3×20mL)で洗浄し、Na
2SO
4上で乾燥させた。混合物を減圧下で濃縮し、フラッシュカラムクロマトグラフィー(DCM/MeOH=10:1)により精製して、所望の生成物(23.8mg、39%収率)を黄色の固体として得た。LC-MS:m/z 471.2[M+H]
+。
【0173】
合成例2及び3
【化10】
N-[5-[4-(ジメチルアミノ)-1-ピペリジル]-2-ピリジル]-4-(3-イソプロピルピラゾロ[1,5-a]ピリジン-5-イル)ピリミジン-2-アミン(210mg、459.9μmol)を、移動相を用いたSFC(ヘキサン/EtOH/DEA=60/40/0.1)(波長:UV214nm、カラム:CHIRALCEL OD-H 内径5.0cm×長さ25cm、流量:60mL/分)によってキラル分離して、合成例2(44.2mg、21%収率)を黄色の固体として生じ(LC-MS:m/z 471.2[M+H]
+、ee値>99%)、合成例3(41mg、19%収率)を黄色の固体として生じた(LC-MS:m/z 471.2[M+H]
+、ee値=97%)。
【0174】
合成例4
【化11】
ジオキサン(15mL)中の5-(4-イソプロピルピペラジン-1-イル)ピリジン-2-アミン(124.6mg、565μmol)及び6-(2-クロロピリミジン-4-イル)-4-フルオロ-1-イソプロピル-イミダゾ[4,5-c]ピリジン(150mg、514μmol)の溶液に、Pd
2(dba)
3(47.1mg、51μmol)、RuPhos(47.9mg、102μmol)及びCs
2CO
3(502.6mg、1.5mmol)を添加した。混合物をN
2下にて110℃で3時間撹拌した。反応混合物を減圧下で濃縮した。残留物を、0~10%のDCM中のMeOHで溶出するシリカゲルクロマトグラフィーにより精製して、所望の生成物(107.2mg、43%収率)を黄色の固体として得た。LC-MS:m/z 476.2[M+H]
+。
【0175】
生物学的実施例1.CDK4/サイクリンD1の阻害についてのアッセイ
IC50決定のためのCDK4酵素アッセイを以下のように実施した。マイクロ流体キナーゼ検出技術(Caliper)を使用して、CDK4/サイクリンD1によるペプチド基質のリン酸化を監視した。総反応物体積は、緩衝液A(100mMのHEPES(pH7.5)、0.1%BSA、0.01%トリトンX-100、1mMのDTT、10mMのMgCl2、10μMのオルトバナジン酸ナトリウム、10μMのベータグリセロホスフェート)、200μMのATP、1nMのCDK4/サイクリンD1(Thermofisher、PR8064A)、1μMのFL-34(5-FAM-RRRFRPASPLRGPPK)、及びDMSO中の適切な希釈における試験化合物を含む、15μLであった。全ての成分を384ウェルプレート(Corning、4514)に添加し、室温で3時間インキュベートした。15μLの停止緩衝液(180mMのHEPES(pH7.5)、20mMのEDTA、Coating-3試薬(PerkinElmer、760050))の添加により反応を停止した。次いで、プレートをCaliper EZ Reader(EZ Reader II、PerkinElmer、HD-4HYSG2772)上に装填し、基質及び生成物を含む反応混合物を、分離及び検出のためにマイクロ流体チップに導入した。Xlfit5/GraphPad Prism 5ソフトウェアを使用して、4パラメータシグモイド用量反応モデルにより阻害曲線を適合させることによって、試験化合物のIC50値を決定した。
【0176】
生物学的実施例2.CDK6/サイクリンD3の阻害についてのアッセイ
IC50決定のためのCDK6酵素アッセイを以下のように実施した。マイクロ流体キナーゼ検出技術(Caliper)を使用して、CDK6/サイクリンD3によるペプチド基質のリン酸化を監視した。総反応物体積は、緩衝液A(100mMのHEPES(pH7.5)、0.1%BSA、0.01%トリトンX-100、1mMのDTT、10mMのMgCl2、10μMのオルトバナジン酸ナトリウム、10μMのベータグリセロホスフェート)、300μMのATP、2nMのCDK6/サイクリンD3(Carna、04-107)、1μMのFL-34(5-FAM-RRRFRPASPLRGPPK)、及びDMSO中の適切な希釈における試験化合物を含む、15μLである。全ての成分を384ウェルプレート(Corning、4514)に添加し、室温で3時間インキュベートした。15μLの停止緩衝液(180mMのHEPES(pH7.5)、20mMのEDTA、Coating-3試薬(PerkinElmer、760050))の添加により反応を停止した。次いで、プレートをCaliper EZ Reader(EZ Reader II、PerkinElmer、HD-4HYSG2772)上に装填し、基質及び生成物を含む反応混合物を、分離及び検出のためにマイクロ流体チップに導入した。Xlfit5/GraphPad Prism 5ソフトウェアを使用して、4パラメータシグモイド用量反応モデルにより阻害曲線を適合させることによって、試験化合物のIC50値を決定した。
【0177】
生物学的実施例3.CDK2/サイクリンE1の阻害についてのアッセイ
IC50決定のためのCDK2酵素アッセイを以下のように実施した。マイクロ流体キナーゼ検出技術(Caliper)を使用して、CDK2/サイクリンE1によるペプチド基質のリン酸化を監視した。総反応物体積は、緩衝液A(100mMのHEPES(pH7.5)、0.1%BSA、0.01%トリトンX-100、1mMのDTT、10mMのMgCl2、10μMのオルトバナジン酸ナトリウム、10μMのベータグリセロホスフェート)、100μMのATP、5nMのCDK2/サイクリンE1(SignalChem、C29-18G)、5μMのFL-18(5-FAM-QSPKKG-NH2)、及びDMSO中の適切な希釈における試験化合物を含む、15μLであった。全ての成分を384ウェルプレート(Corning、4514)に添加し、室温で3時間インキュベートした。15μLの停止緩衝液(180mMのHEPES(pH7.5)、20mMのEDTA、Coating-3試薬(PerkinElmer、760050))の添加により反応を停止した。プレートをCaliper EZ Reader(EZ Reader II、PerkinElmer、HD-4HYSG2772)上に装填し、基質及び生成物を含む反応混合物を、分離及び検出のためにマイクロ流体チップに導入した。Xlfit5/GraphPad Prism 5ソフトウェアを使用して、4パラメータシグモイド用量反応モデルにより阻害曲線を適合させることによって、試験化合物のIC50値を決定した。
【0178】
CDK2、CDK4、及びCDK6に対する各例示化合物のIC50値は、下記の合成例で提供される。IC50値は、それぞれ、10nM以下、100nM以下、1μM以下、及び1μM超の値について、「A」、「B」、「C」、及び「D」として示される。
【0179】
生物学的実施例4.T47D細胞における抗増殖アッセイ
T47Dは、がん細胞のホルモン発現を伴う生物医学研究で一般的に使用されるヒト乳がん細胞株である。T47D細胞は、それらのプロゲステロン受容体(PR)が、細胞自体内に豊富に存在するホルモンであるエストラジオールによって調節されていないという点で、他のヒト乳がん細胞とは異なる。T47D細胞は、乳がんに対するプロゲステロンの効果、及び導入された薬物によって引き起こされる対応する転写調節の研究に採用されてきた。該細胞は、エストロゲン及び抗エストロゲンに対して非常に耐性が高いことが分かっている。
【0180】
American Type Culture CollectionからのT47D乳がん細胞(ATCC、HTB-133)を、96ウェルプレートに3000細胞/ウェルで播種し、10%ウシ胎児血清(FBS、Biowest、FB-1058)を含むRPMI1640培地(Gibco、31800105)中、37℃、5%CO2でインキュベートした。一晩のインキュベーション後、製造業者の推奨に従ってCyquant試薬(Invitrogen、C35011)を使用して、1つのプレートからの試料のベースライン値を測定した。細胞を検出試薬とともに37℃で1時間インキュベートし、次いで、Spectra Max M5(Molecular Devices、HD-4HYSG3196)を使用して、485nmでの励起及び535nmでの発光で蛍光を測定した。他のプレートには、3倍希釈スキームにおいて10μMから0.51nMまでの10点用量濃度で化合物を投入した。化合物添加後の6日目に、Cyquant試薬を添加し、Spectra Max M5を使用して蛍光を測定した。Xlfit5/GraphPad Prism 5ソフトウェアを使用して、試験化合物の抗増殖活性のIC50値を、ベースラインを差し引いた生存率の読み取り曲線から決定した。
【0181】
生物学的実施例5.T47D細胞における網膜芽細胞腫タンパク質(pRb)のリン酸化の阻害
American Type Culture CollectionからのT47D乳がん細胞(ATCC、HTB-133)を、96ウェルプレートに40,000細胞/ウェルで播種し、10%ウシ胎児血清(FBS、Biowest、FB-1058)を含むRPMI1640培地(Gibco、31800105)中でインキュベートした。次いで、細胞を37℃、5%CO2で一晩接着させた。翌日、化合物を3倍希釈スキームで滴定し、試験された最高化合物濃度は10μMであった。化合物との24時間のインキュベーション後、ホスファターゼ阻害剤カクテル及び1mMのPMSFを含む氷冷溶解緩衝液中で細胞を溶解させた。次いで、細胞溶解物(50μL/ウェル)をELISAプレート(pRb Ser807/811 ELISAキット、Cell Signaling、13152又はpRb Ser780 ELISAキット、Cell Signaling、13016)に移した。プレートを一定の低速で振とうしながら4℃で一晩インキュベートした。インキュベーション後、製造業者の推奨に従ってプレートを洗浄し、次いで、100μLの再構成検出抗体を各ウェルに添加し、37℃で1時間インキュベートした。インキュベーション後、プレートを洗浄し、次いで、100μLの再構成HRP結合二次抗体を各ウェルに添加し、37℃で30分間インキュベートした。インキュベーション後、プレートを洗浄した。次いで、100μLのTMB基質を各ウェルに添加し、37℃で10分間又は25℃で30分間インキュベートした。最後に、100μLの停止溶液を各ウェルに添加し、数秒間穏やかに混合した。96ウェル発光モードを使用して、Envisionプレートリーダー(PerkinElmer、2104-0010)上でプレートを読み取った。Xlfit5/GraphPad Prism 5ソフトウェアの4パラメータシグモイド用量反応モデルを使用して、IC50値を計算した。
【0182】
生物学的実施例4及び5から得られた細胞データは、下記の表Aに列挙される。IC50値は、それぞれ、100nM以下の値については「++++」、500nM以下の値については「+++」、1μM以下の値については「++」、及び1μMを超える値については「+」として示される。
【0183】