(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-30
(45)【発行日】2025-06-09
(54)【発明の名称】サポータ
(51)【国際特許分類】
A41D 13/08 20060101AFI20250602BHJP
A44B 18/00 20060101ALI20250602BHJP
D04B 21/04 20060101ALI20250602BHJP
D04B 21/20 20060101ALI20250602BHJP
【FI】
A41D13/08 107
A44B18/00
D04B21/04
D04B21/20 Z
(21)【出願番号】P 2023171886
(22)【出願日】2023-10-03
【審査請求日】2024-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】501270287
【氏名又は名称】帝人フロンティア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】伊東 誠二郎
【審査官】▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-180838(JP,A)
【文献】特開2009-288835(JP,A)
【文献】国際公開第2015/133480(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D 13/08
A44B 18/00
D04B 21/04
D04B 21/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者に巻き付けられて用いられるサポータであって、
前記サポータは、第1面と前記第1面とは反対側の第2面とを備え、前記使用者に巻き付けられたときに前記第1面と前記第2面との重なり合いによって筒状部分を形成し、前記筒状部分の形成を維持する面ファスナを備え、
前記面ファスナは、フック面を形成する第1の糸と、前記フック面に係合するループ面を形成する第2の糸とを含み、
前記第1面及び前記第2面の一方が前記フック面を有し、他方が前記ループ面を有し、
前記第1の糸を形成する繊維及び前記第2の糸を形成する繊維の繊維径が30μm以下であ
り、
前記ループ面は、第3の糸に前記第2の糸が撚り合わせられた合撚糸によって形成され、
前記第2の糸を形成する繊維の繊維径が8μm以下であり、
前記第3の糸を形成する繊維の繊維径が10μm以上30μm以下であり、
前記面ファスナは、前記ループ面を有するループ層を備え、
前記ループ層は、前記合撚糸が挿入編みされた地組織を含み、
前記地組織は、アトラス編みされた第1の地糸で編成された第1の組織と、前記第1の地糸と交差するようにアトラス編みされた第2の地糸で編成された第2の組織とを有するダブルアトラス編構造を備え、
前記合撚糸は、前記第1の組織及び前記第2の組織のそれぞれの一部にニードルループを形成するように挿入編みされてパイルを形成している、サポータ。
【請求項2】
前記ループ面では、前記第2の糸がループ状の起伏を形成するとともに、一部の前記第2の糸がコイル状となって起立している、請求項
1に記載のサポータ。
【請求項3】
前記使用者に巻き付けられる複数の巻付け部と、前記複数の巻付け部を連結する本体部とを備え、
前記複数の巻付け部は、互いに離間した状態で前記本体部に連結されている、請求項1に記載のサポータ。
【請求項4】
前記面ファスナの前記フック面及び前記ループ面の一方が前記本体部及び前記巻付け部の裏面を形成している、請求項
3に記載のサポータ。
【請求項5】
前記面ファスナは、前記フック面を有
し且つ前記ループ層に積層されたフック層を備え、
前記本体部は、接着剤によって接着された前記フック層と前記ループ層とを有する、請求項
4に記載のサポータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サポータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、サポータは、関節を安定させる等の目的で使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、手指の関節を安定させるためのサポータが提案されている。特許文献1のサポータは、手指の腹側を覆う帯状の本体部と、前記本体部から手指の周方向に沿って突き出す第1の突出部と、前記第1の突出部とは反対側に前記本体部から突き出す第2の突出部とを備えている。そして、前記第1の突出部の表面及び前記第2の突出部の裏面の一方に面ファスナのフック面が形成され、且つ、他方に面ファスナのループ面が形成されている。かかる構成により、特許文献1のサポータは、第1の突出部と第2の突出部とが重ね合わせられると、これら突出部及び本体部が手指の関節周りを安定化させるための筒状部分を形成することができる。また、面ファスナによって、この筒状部分を形成した状態を維持することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のような筒状部分の形成を維持するためには、ある程度の面積を有するフック面及びループ面が必要となる。このような要求に対して一般的な面ファスナを用いると、フック面及びループ面を形成する糸が太いことに起因して、サポータの柔軟性が損なわれるおそれがある。そして、柔軟性に乏しいサポータは、患部の形状に沿わせ難く、装着を困難にするおそれがある。
【0006】
また、面ファスナのフック面及びループ面は、使用者の皮膚に接触し得る面となり得るため、これらの面を構成する糸が太いものである場合、皮膚を刺激する等して使用感を損なわせるおそれがある。特に、サポータがヘバーデン結節等の関節痛をともなう使用者に適用される場合には、上記のような皮膚の刺激が問題となる。
【0007】
上記事情に鑑み、本発明は、柔軟性及び使用感に優れるサポータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るサポータは、
使用者に巻き付けられて用いられるサポータであって、
前記サポータは、第1面と前記第1面とは反対側の第2面とを備え、前記使用者に巻き付けられたときに前記第1面と前記第2面との重なり合いによって筒状部分を形成し、前記筒状部分の形成を維持する面ファスナを備え、
前記面ファスナは、フック面を形成する第1の糸と、前記フック面に係合するループ面を形成する第2の糸とを含み、
前記第1面及び前記第2面は、それぞれの重なり合う部分の一方に前記フック面を有し、他方に前記ループ面を有し、
前記第1の糸を形成する繊維及び前記第2の糸を形成する繊維の繊維径が30μm以下である。
【0009】
かかる構成によれば、面ファスナのフック面及びループ面を構成する糸の繊維の繊維径が30μm以下であることによって、面ファスナ形成部分における柔軟性に優れるものとなる。また、フック面及びループ面を構成する糸の繊維が細いため、皮膚への刺激が抑えられ、使用感に優れるものとなる。
【0010】
本発明の一態様に係るサポータは、
前記ループ面は、第3の糸に前記第2の糸が撚り合わせられた合撚糸によって形成され、
前記第2の糸を形成する繊維の繊維径が8μm以下であり、
前記第3の糸を形成する繊維の繊維径が10μm以上30μm以下である。
【0011】
かかる構成によれば、繊維の繊維径が細い第2の糸がこれよりも繊維の繊維径が太い第3の糸に撚り合わせられていることによって、フック面の係合に主として機能する第2の糸の抜けが抑制される。また、第3の糸に撚り合わせられた第2の糸は、フック面の第1の糸と係合し得るように、十分に表出した状態を維持し易くなる。そして、これらのことによって、上記態様のサポータは、耐久性に優れるものとなり、具体的には、繰り返し洗濯された場合であっても、フック面とループ面との係合性を維持することができる。
【0012】
本発明の一態様に係るサポータは、
前記ループ面では、前記第2の糸がループ状の起伏を形成するとともに、一部の前記第2の糸がコイル状となって起立している。
【0013】
かかる構成のサポータは、ループ面において、第2の糸がループ状の起伏を形成するだけでなくコイル状に起立した部分を形成していることによって、各糸の繊維径が小さい割には、面ファスナが係合性に優れるものとなる。すなわち、上記態様のサポータは、柔軟性を発揮すべく細い繊維の糸で構成されている割には、筒状部分の形成状態を維持し易いものとなる。
【0014】
本発明の一態様に係るサポータは、
前記面ファスナは、前記ループ面を有するループ層を備え、
前記ループ層は、前記合撚糸が挿入編みされた地組織を含み、
前記地組織は、アトラス編みされた第1の地糸で編成された第1の組織と、前記第1の地糸と交差するようにアトラス編みされた第2の地糸で編成された第2の組織とを有するダブルアトラス編構造を備え、
前記合撚糸は、前記第1の組織及び前記第2の組織のそれぞれの一部にニードルループを形成するように挿入編みされてパイルを形成している。
【0015】
かかる構成によれば、合撚糸がダブルアトラス編構造の一部にニードルループを形成するように挿入編みされてパイルを形成していることによって、第2の糸がループ層の地組織に保持され易くなる。よって、上記態様は、さらに洗濯等に対する耐久性や繰り返し脱着による形態安定性に優れるものとなる。
【0016】
本発明の一態様に係るサポータは、
前記使用者に巻き付けられる複数の巻付け部と、前記複数の巻付け部を連結する本体部とを備え、
前記複数の巻付け部は、互いに離間した状態で前記本体部に連結されている。
【0017】
かかる構成によれば、複数の巻付け部が離間しているため、痛みをともなう関節部を避けて巻き付けることができる。また、一部の巻付け部によって患部に仮止めした状態で他の巻付け部を巻き付けることができるため、巻き付けが容易となる。
【0018】
本発明の一態様に係るサポータは、
前記面ファスナの前記フック面及び前記ループ面の一方が前記本体部及び前記巻付け部の裏面を形成している。
【0019】
かかる構成のサポータは、患部に接触し得る本体部の裏面及び患部に接触し得る巻付け部の裏面が、繊維径の小さい糸で形成されたフック面又はループ面であることによって、皮膚に対する刺激を軽減できる等の使用感に優れるものとなる。かかる使用感の改善は、ヘバーデン結節等の痛みをともなう症状の患者に有意である。
【0020】
本発明の一態様に係るサポータは、
前記面ファスナは、前記フック面を有するフック層と、前記ループ面を有し前記フック層に積層されたループ層とを備え、
前記本体部は、接着剤によって接着された前記フック層と前記ループ層とを有する。
【0021】
かかる構成によれば、接着剤の介在によって、本体部が患部を固定するのに適した剛性を有するものとなる。
【発明の効果】
【0022】
以上のとおり、本発明によれば、柔軟性及び使用感に優れるサポータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図3】
図1のサポータが備える面ファスナのループ層を編成するための組織図である。
【
図4】
図1のサポータが手指に巻き付けられた状態を示す図である。
【
図5】実施例のフック層の表面の電子顕微鏡写真である。
【
図6】実施例のループ層の断面の電子顕微鏡写真である。
【
図7】実施例の乾燥性試験の評価結果を示すグラフである。
【
図8】実施例の吸水性試験の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態として、手指用に係るサポータについて説明する。
【0025】
本実施形態のサポータ1は、適用される患部たる関節部を安定させるために用いられる。前記患部(関節部)は、関節と、該関節の両側に延びる骨の一部分とを含む部分である。より具体的には、本実施形態のサポータ1は、手指の関節部を安定させるために用いられるものである。なお、以下では、本実施形態のサポータに画定される各方向について、手指の延びる方向に対応する方向を第1方向D1と称し、第1方向D1と直交する方向を第2方向D2と称する。
【0026】
図1に示すように、本実施形態のサポータ1は、全体的に平坦なシート状に形成されており、手指に巻き付け可能な長さを有する。サポータ1は、装着時の表面となる第1面1sと、装着時に手指表面を向く裏面たる第2面2sとを備えている。
図4に示すように、サポータ1は、手指に巻き付けられたときに、第1面1sに第2面2sが部分的に重なり合って筒状部分を形成するようになっている。また、サポータ1は、この筒状部分の形成を維持するための面ファスナを備えている。そして、前記面ファスナは、互いに重なり合うこととなる第1面1sの領域及び第2面2sの領域のうちの一方の領域に形成されたフック面11と、他方の領域に形成されたループ面21であってフック面11と係合可能なループ面21とを有する(
図2)。
【0027】
図1に示すように、本実施形態のサポータ1は、第1方向D1に沿って延びる本体部40と、本体部40から第2方向D2に沿って延びる帯状の複数の巻付け部50とを備えている。サポータ1は、一体的に形成された本体部40及び巻付け部50を備えている。
【0028】
本体部40は、装着時には、手指の第1関節等の一関節及び該関節の両側の骨に沿わせるようにして配される部分である。本実施形態の本体部40は、目安として手指の半周前後を被覆し得る幅(第2方向D2の長さ)を有する。また、本体部40は、手指の一関節及び該関節の両側の骨の一部に沿う長さ(第1方向D1の長さ)を有する。本実施形態のように、手指関節に適用されるサポータの場合、本体部40の幅(第2方向D2の長さ)は2cm以上6cm以下が好ましい。また、本体部40の長さ(第1方向D1の長さ)は、2cm以上6cm以下が好ましい。本実施形態の本体部40は、第2方向D2よりも第1方向D1に長くなるように形成されている。
【0029】
本実施形態の複数の巻付け部50は、本体部40から第2方向D2の一方側(
図1の右側)に延びる一対の巻付け部50を含む。一対の巻付け部50は、本体部40の第2方向D2における一端縁部から同一方向(第2方向D2)に沿って並行している。各巻付け部50は、手指の関節への接触を避けるように第1方向D1に隙間を空けて形成されている。前記隙間の大きさは、使用者の手指の太さや関節の状態を考慮して設計され、具体的には0.2cm以上2cm以下が好ましく、0.5cm以上1cm以下がさらに好ましい。
【0030】
各巻付け部50は、本体部40と共働して第1方向D1に沿って延びる筒状部分を形成するように構成されている。かかる筒状部分の形成のために、本体部40と一つの巻付け部50との第2方向D2における総長さは、4cm以上10cm以下であることが好ましい。筒状部分の形成状態においては、巻付け部50の第2面2sが本体部40の第1面1sに重なり、場合によっては当該巻付け部50の第1面1sにまで重なり合うこととなる。すなわち、筒状部分の形成状態において、第1面1sは第2面2sとの部分的な重複領域を形成し、且つ、第2面2sは第1面1sとの部分的な重複領域を形成することとなる。
【0031】
そして、サポータ1は、少なくとも、第1面1s及び第2面2sの前記重複領域の一方に形成されたフック面11と、他方の重複領域に形成されたループ面21とを有する面ファスナを備えている。簡潔には、前記面ファスナは、第1面1s及び第2面2sのそれぞれの前記重複領域の一方にフック面11を有し、他方にループ面21を有する。本実施形態のサポータ1は、第1面1s及び第2面2sの第2方向D2にわたってフック面11及びループ面21が形成され、第1面1s及び第2面2sの第1方向D1にわたってフック面11及びループ面21が形成されている。これによって、本実施形態のサポータ1は、前記重複領域の大きさを調整し易く、筒状部分による手指の締め付け量を調節し易いものとなっている。
【0032】
図1及び
図2に示すように、本実施形態のサポータ1では、装着時の表面となる第1面1sにフック面11が形成され、装着時の裏面となる第2面2sにループ面21が形成されている。より具体的には、本実施形態のサポータ1では、本体部40及び巻付け部50のそれぞれの装着時の表面がフック面11となっており、裏面がループ面21となっている。
【0033】
図2に示すように、本実施形態のサポータ1は、複数の層構造を有しており、フック面11をなすフック層10と、ループ面21をなすループ層20と、フック層10とループ層20とを接合する接合層30とを備えている。
【0034】
フック層10は、カットパイルを有する生地からなり、地糸が天竺編み等で編成された地組織12と、フック面11を形成するための第1の糸131で形成されたカットパイル層13とを含む。第1の糸131は、シンカーパイルを形成するように地組織12に編み込まれており、地組織12の地糸によって支持されている。第1の糸131は、シャーリング加工がなされてカットパイルを形成している。カットパイル層13において、第1の糸131を構成する繊維の大部分は、交絡しながら地組織12から延びており、先端部分がカットパイル層13の厚み方向に対して湾曲したフック状となっている。かかるフック状を顕出させるために、本実施形態の第1の糸131には、捲縮糸が採用されている。
【0035】
第1の糸131を構成する繊維の繊維径は、30μm以下である。これによって、サポータ1の柔軟性及び使用感が向上し得る。一方、第1の糸131を構成する繊維の繊維径は、10μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましい。これによって、面ファスナの係合性が十分なものとなる。第1の糸131を構成する繊維の繊維径は、電子顕微鏡によってフック面11を拡大観察し、50本の繊維の幅を測定し、これらを平均することによって求められる平均繊維径である。なお、
図5の電子顕微鏡写真に示されるように、第1の糸131の繊維の先端部は、シャーリング加工によって繊維どうしで異なっており一様でない形状を有する。このため、繊維の幅の測定は、該先端部よりも基端側で行うこととする。
【0036】
フック層10の目付は、200~300g/m2であることが好ましい。フック層10の目付は、前記生地の目付を意味し、JIS L 1096:2020 8.3に規定の測定方法によって測定されるものとする。
【0037】
ループ層20は、パイルを有する生地からなり、地糸で編成された地組織22と、ループ面21を形成するための合撚糸231で形成されたパイル層23とを含む。
【0038】
合撚糸231は、繊維径の細い繊維で構成された第2の糸が繊維径の太い繊維で構成された第3の糸に撚り合わせられることによって形成されている。これによって、第2の糸は、地組織22に支持されるだけでなく、第3の糸にも支持されるため、第2の糸の繊維の脱落が抑制される。
【0039】
本実施形態の第2の糸は極細糸であって、海島型断面の複合繊維から海成分を分解または溶解し、除去することにより島成分を抽出して作製された極細繊維からなる。この他、第2の糸としては、異なる高分子組成のポリマーが交互に配置されたセグメントパイ型断面の複合繊維を機械分割又はアルカリ減量等による溶剤分割から作製された割繊糸などが例示される。第2の糸を形成する繊維の繊維径は、8μm以下である。第2の糸の繊維径は、5μm以下が好ましく、3μm以下がより好ましい。これによって、サポータ1の柔軟性を向上させ、また、皮膚への刺激を抑制してサポータ1の使用感を向上させ得る。一方、第2の糸の繊維径は、0.1μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましく、1μm以上がさらに好ましい。これによって、面ファスナの係合性が十分なものとなる。第2の糸を構成する繊維の繊維径は、
図6のように電子顕微鏡によってサポータ1の断面を拡大観察し、正面を向いた50本の繊維の外接円の直径を測定し、これらを平均することによって求めることができる。
【0040】
パイルを形成した第2の糸の繊維は、主として、フック面11における第1の糸131の繊維と係合する繊維である。かかる係合性を高めるために、本実施形態の第2の糸の繊維の繊維長は、第3の糸の繊維長よりも長くされている。これによって、第2の糸は、ループ面21にループ状の起伏を形成するだけでなく、コイル状に起立した多くの(複数の)先端部を形成するものとなっている。
【0041】
図6に示すように、本実施形態の第2の糸及び第3の糸の繊維は、円形状の断面を有する。なお、本発明の繊維の断面形状は、円形状に限定されず、十字型や星形等の異形断面を有する繊維であってもよい。
【0042】
本実施形態の第2の糸は、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル系樹脂を含む。具体的には、第2の糸を形成する繊維は、90質量%以上のポリエステル系樹脂を含む。
【0043】
本実施形態の合撚糸231において、第2の糸の繊維長を第3の糸の繊維長より長くする目的として、第2の糸の海減量処理前又は割繊処理前の複合繊維と第3の糸を撚り合せる際、撚糸又はインターレース加工における糸の供給速度を第2の糸>第3の糸と設定する物理的手段、熱収縮率が第2の糸<第3の糸となるように異なる組合せで撚糸機へ供給し、撚糸後に熱処理を施すことで第3の糸が第2の糸より大きく熱収縮し、第2の糸が第3の糸の周囲にループ状又はコイル状を形成する手段、及びこれらの組合せの手段が挙げられる。第3の糸に用いることができる熱収縮率の大きい繊維としては、ポリエチレンテレフタレートの低温(常温)延伸糸や部分配向糸(POY)、イソフタル酸が10mol%以上及び/又は5-スルホイソフタル酸塩が1mol%以上共重合されたポリエステル系樹脂からなる共重合ポリエステル系の高収縮糸が例示できる。第3の糸が高収縮糸であることによって、ループ面21を形成した際に収縮しようとする第3の糸によって第2の糸が大きなパイルを形成できる。そして、かかる第2の糸は、フック面11の第1の糸131と係合し易いものとなる。なお、インターレース加工が施された第2の糸のみを用いても、上記の合撚糸による効果と類似の効果を得ることができる。具体的に、インターレース加工が施された第2の糸は、部分的に交絡した複数の交絡部と、各交絡部の間の非交絡部を有する。第2の糸は、複数の交絡部によって、これを形成する繊維が互いに支持し合うため、繊維の脱落が抑制されたものとなる。また、第2の糸の非交絡部では、繊維が糸の長さ方向に直交する方向に広がった状態となる。すなわち、前記非交絡部は、第1の糸131の繊維が入り込み得る隙間を有し、これによって、第2の糸が第1の糸131に係合し易くなる。
【0044】
第3の糸を形成する繊維の繊維径は、10μm以上30μm以下である。第3の糸を構成する繊維の繊維径は、第2の糸の繊維と同様にして測定されるものとする。
【0045】
図3に示すように、本実施形態の地組織22は、アトラス編みされた第1の地糸221で編成された第1の組織と、第1の地糸221と交差するようにアトラス編みされた第2の地糸222で編成された第2の組織とを有するダブルアトラス編構造を備えている。そして、合撚糸231は、前記第1の組織及び前記第2の組織のそれぞれの一部にニードルループを形成するように挿入編みされてパイルを形成している。前記第1の組織は第1の筬たるフロント筬LFで形成された組織であり、前記第2の組織は第2の筬たるミドル筬LMで形成された組織であり、前記挿入編みは第3の筬たるバック筬LBで形成された組織である。
【0046】
本実施形態の第1の組織は、10/12/23/21で表記される繰り返し単位からなるアトラス編組織である。本実施形態の第2の組織は、23/21/10/12で表記される繰り返し単位からなるアトラス編組織である。本実施形態の挿入編みは、00/12/33/21で表記される繰り返し単位からなる組織である。このように、本実施形態の各組織は、4コースを繰り返し単位とし、3ウェールの範囲で各糸が振られている。前記第1の組織たるアトラス編組織の開き目223と前記第2の組織たるアトラス編組織の開き目223は同じニードルで編成されており、合撚糸231は、その同じニードルでニードルループ(開き目)232を形成すように挿入編されている。このようにして挿入編みされた合撚糸231は、地組織22に保持され易くなる。よって、サポータ1が数十回にわたって繰り返し洗濯される等しても、面ファスナの係合性が維持され得る。かかる効果は、地組織22の地糸と同じニードルにおいて合撚糸231のニードルループが形成されることによって奏される。よって、地組織22としては、アトラス編組織以外の組織であってもよく、地糸と同じニードルにおいて合撚糸231のニードルループを形成可能な組織であればよい。かかる地組織22としては、ダブルデンビ編、ダブルコード編等が挙げられる。
【0047】
上記のような極細繊維で形成された合撚糸231は水分を保持し易いものであり、このことは、ループ層20における速乾性を低下させる方向に働く。これに対して、本実施形態のサポータ1では、第2面2sにおける使用者の皮膚に接触し得る領域(本体部40の裏面及び巻付け部50における本体部40近傍の裏面)にループ面21が形成されているため、第2面2sと皮膚との間に比較的多くの空気を含んだ層を形成することができ、通気性を向上させることができる。また、本実施形態のループ層20は、合撚糸231が極細繊維からなる第2の糸と高収縮糸たる第3の糸とで構成されているため、熱処理が施されると高収縮糸たる第3の糸が大きく収縮し極細繊維からなる第2の糸がループ構造となり各繊維間に曲率差が生じるために繊維間の隙間が比較的大きいルーズな状態となっている。よって、ループ層20は、水分を吸収し易い極細繊維で形成された合撚糸231を含む割には、優れた速乾性を示し得る。そして、本実施形態のサポータ1は、合撚糸231(第2の糸及び第3の糸)がポリエステル系樹脂を含む繊維で形成されていることによって、上記速乾性能がさらに高められたものとなっている。
【0048】
ループ層20の目付は、100~200g/m2であることが好ましい。ループ層20の目付は、前記生地の目付を意味し、JIS L 1096:2020 8.3に規定の測定方法によって測定されるものとする。
【0049】
本実施形態の接合層30は、フック層10の地組織12とループ層20の地組織22とを接着する接着剤を含む層である。接合層30は、湿気硬化性のウレタン系接着剤や熱融着性のホットメルト接着剤によって構成されている。接合層30の目付は、20~40g/m2であることが好ましい。これによって、サポータ1の柔軟性を損なわせないようにしつつ患部を安定化するための適度な腰を付与することができる。
【0050】
図4に示すように、本実施形態のサポータ1の装着方法としては、指の第1関節(第2関節でもよい)及び第1関節の両側に延びる骨に沿って本体部40を沿わせ且つ一対の巻付け部50の隙間を第1関節に位置させた状態で各巻付け部50を指に巻き付ければよい。本実施形態のサポータ1は、面ファスナのフック面11が第1面1sの全面に形成され、且つ、ループ面21が第2面2sの全面に形成されているため、フック面11及びループ面21のそれぞれの形成位置を把握する必要がなく、上記のように巻き付けるだけで、自ずと筒状部分が形成されることとなる。
【0051】
以上のように、例示として一実施形態を示したが、本発明に係るサポータは、上記実施形態の構成に限定されるものではない。また、本発明に係るサポータは、上記作用効果により限定されるものでもない。本発明に係るサポータは、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0052】
例えば、本発明は、手指の関節への適用に限定されるものではなく、手首や足首の関節、肘関節、膝関節等にも適用され得る。
【実施例】
【0053】
以下、実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0054】
[製造例]
111dtex/48フィラメントの捲縮糸(捲縮率5%、PET製)を地糸として天竺編みすることによって地組織を形成するとともに、167dtex/48フィラメントの捲縮糸(捲縮率5%、PET製)を第1の糸として用いてシンカーパイルを形成するように地組織に編み込み丸編地を作製した。得られた丸編地をシャーリング加工及び通常の染色加工を行い、面方向の全体にわたってフック層を有する第1の生地(目付:260g/m
2)を作製した。次に、
図3に示す組織図に従って、83dtex/36フィラメントの非捲縮糸を第1の地糸としてフロント筬によってアトラス編みし、また、83dtex/36フィラメントの非捲縮糸を第2の地糸としてミドル筬によってアトラス編みし、さらに、合撚糸をバック筬によって挿入編みし経編地を作製した。合撚糸としては、第2の糸として84dtex/24フィラメントの25島の海島型複合繊維(島成分がPET、海成分が5-スルホイソフタル酸ナトリウムとポリエチレングリコールを共重合したエチレンテレフタレート)と第3の糸として33dtex/12フィラメントの高収縮糸(イソフタル酸が共重合されたポリエチレンテレフタレート)を撚り合わせたものを用いた。得られた経編地を水酸化ナトリウム水溶液にてアルカリ減量を行って、第2の糸部分として63dtex/888フィラメントのPET製極細糸として得て通常の染色加工を行い、面方向の全体にわたってループ層を有する第2の生地(目付:170g/m
2)を作製した。第1の生地と第2の生地とを湿式硬化性のポリウレタン系樹脂を含む接着剤(目付:30g/m
2)によって接着し、積層体を作製した。この積層体を
図1に示す形状にカットして、指の関節を安定化させるためのサポータとした(本体部:長さ40mm、幅25mm、各巻付け部:長さ60mm、幅16.5mm、巻付け部の隙間の大きさ:7mm)。
【0055】
[各糸の繊維径の測定]
上記で作成した第1の生地(フック層)の表面及び第2の生地(ループ層)の断面の電子顕微鏡を用いて拡大観察した。
図5に第1の生地(フック層)の表面の電子顕微鏡写真を示し、
図6に第2の生地(ループ層)の断面の電子顕微鏡写真を示した。第1の糸を形成する繊維の平均繊維径は18μmであった。また、第2の糸を形成する繊維の平均繊維径は2.1μmであり、第3の糸を形成する繊維の平均繊維径は14μmであった。
【0056】
[面ファスナの係合性及び洗濯耐性]
JIS L 3416:2020 7.4に規定の評価方法に準拠して、洗濯前後の引張せん断強さ及びはく離強さを評価した。結果は、下記表1に示したとおりである。このように、作製したサポータは、20回洗濯後も面ファスナの係合性が十分に維持されており、耐久性に優れるものであることが認められた。繊維径の細い繊維で形成された糸を用いて作製されたサポータがこのような耐久性を示すことは、予測を上回る効果と考えられる。
【0057】
【0058】
[サポータの速乾性]
積層体の試験片を300mm×300mmとしたこと、及び、乾燥時間測定装置に取り付ける前に二層式洗濯機(HITACHI PS-50AS)で3分間脱水を行って3分経過後に測定を開始する以外はJIS L 1096:2020 8.25に規定の乾燥性の評価方法に準拠して、20℃、湿度65%の条件下にて試験を行い、180分以内で乾燥することを評価基準として、上記で作製した積層体の拡散性残留水分率が0%となる時間(単位は分)を測定して、速乾性を評価した。また、ISO 17617:2014 A1法に準拠して、20℃、湿度65%の条件下で0.3gの水を滴下して、60分後の拡散性残留水分率が20%未満であることを評価基準として、積層体の吸水速乾性を評価した。速乾性の結果を
図7に示し、吸水速乾性試験の結果を
図8に示した。かかる積層体から作製されたサポータは、水を吸収した場合、自然乾燥による十分な速乾性を示し、乾いたタオルを当てれば直ちに乾燥させることができる。
【符号の説明】
【0059】
1:サポータ、1s:第1面、2s:第2面、10:フック層、11:フック面、12:地組織、13:カットパイル層、131:第1の糸、20:ループ層、21:ループ面、22:地組織、221:第1の地糸、222:第2の地糸、223:開き目、23:パイル層、231:合撚糸、232:ニードルループ、30:接合層、40:本体部、50:巻付け部、LF:第1の筬(フロント筬)、LM:第2の筬(ミドル筬)、LB:第3の筬(バック筬)、D1:第1方向、D2:第2方向