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特許7690458優先的にIL-2Rアルファに結合するIL-2融合タンパク質
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-02
(45)【発行日】2025-06-10
(54)【発明の名称】優先的にIL-2Rアルファに結合するIL-2融合タンパク質
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20250603BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20250603BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20250603BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20250603BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20250603BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20250603BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20250603BHJP
   A61K 38/20 20060101ALI20250603BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20250603BHJP
   A61K 47/62 20170101ALI20250603BHJP
   A61K 47/65 20170101ALI20250603BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20250603BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20250603BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20250603BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20250603BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20250603BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20250603BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20250603BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20250603BHJP
   C12N 15/26 20060101ALN20250603BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20250603BHJP
   C07K 16/00 20060101ALN20250603BHJP
   C07K 14/715 20060101ALN20250603BHJP
   C07K 14/55 20060101ALN20250603BHJP
【FI】
C07K19/00 ZNA
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K38/20
A61K47/68
A61K47/62
A61K47/65
A61P37/06
A61P29/00
A61P11/06
A61P3/10
A61P19/02
A61P29/00 101
A61P37/08
A61P25/00
C12N15/13
C12N15/26
C12N15/12
C07K16/00
C07K14/715
C07K14/55
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2022508874
(86)(22)【出願日】2020-08-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-21
(86)【国際出願番号】 US2020046000
(87)【国際公開番号】W WO2021030483
(87)【国際公開日】2021-02-18
【審査請求日】2023-07-12
(31)【優先権主張番号】62/885,471
(32)【優先日】2019-08-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/015,644
(32)【優先日】2020-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/019,319
(32)【優先日】2020-05-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/044,294
(32)【優先日】2020-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520347328
【氏名又は名称】アスクジーン・ファーマ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】AskGene Pharma, Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】ヤオ,チェン
(72)【発明者】
【氏名】ユィ,チュンシャオ
(72)【発明者】
【氏名】ルゥ.ユエフォン
(72)【発明者】
【氏名】リウ,リーチン
(72)【発明者】
【氏名】シェインベック,カート
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,シーウェン
【審査官】平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-527272(JP,A)
【文献】特表2019-519215(JP,A)
【文献】特表2014-506793(JP,A)
【文献】特表2016-514161(JP,A)
【文献】特表2016-518823(JP,A)
【文献】Immunology,2011年,Vol.133,pp.206-220
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 1/00- 7/08
C07K 1/00-19/00
A61K 38/00-38/58
A61K 47/00-47/69
CAPLUS/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離IL-2融合分子であって、担体部分、サイトカイン部分および1以上のマスキング部分を含み、ここで
サイトカイン部分は担体部分に融合され、
1以上のマスキング部分が担体部分に融合され、
該サイトカイン部分は(i)C125AもしくはC125Sの置換または(ii)T3A、C125S、V69AおよびQ74P置換を含むIL-2アミノ酸配列を含むIL-2ポリペプチドを含み、ここで、ナンバリングは配列番号1に従うものであり
担体部分は抗体または抗体Fcドメインであり、
1以上のマスキング部分はIL-2Rβおよび/またはIL-2Rγの細胞外ドメイン(ECD)またはその機能的アナログを含み、
1以上のマスキング部分サイトカイン部分に結合し、免疫細胞上のIL-2Rαではなく、IL-2Rβおよび/またはIL-2Rγへのサイトカイン部分の結合を阻害する、
単離IL-2融合分子。
【請求項2】
IL-2融合分子が以下の特性:
(a)α、βおよびγサブユニットを有する高親和性のIL-2受容体(IL-2Rαβγ)に、βおよびγサブユニットを有する中間型のIL-2受容体(IL-2Rβγ)の100倍以上の親和性で結合する、
(b)37℃の表面プラズモン共鳴アッセイで測定されたKが約5nM以上または10nM以上でIL-2Rβγに結合する、
(c)CTLL-2細胞増殖アッセイにおいて、約1nM未満、0.01nM、0.25nMまたは0.05nM以上のEC50値を有する、
(d)NK92細胞の増殖アッセイにおいて、約0.05nM、0.1nM、0.25nMまたは0.5nMよりも大きいEC50値を有する、
(e)中和CD25抗体の存在下でのNK92細胞の増殖アッセイにおいて、中和CD25抗体の非存在下と比較して、Emax値が少なくとも5倍または少なくとも10倍低い、
(f)Tエフェクター細胞やNK細胞に比べて、FOXP3 T制御細胞を優先的に刺激する、
(g)FOXP3制御T細胞の成長または生存を促進する、および
(h)FOXP3 T細胞において、STAT5のリン酸化を誘導するがFOXP3 T細胞においてはその誘導能力が低下する、
の1つ以上を有する、請求項1のIL-2融合分子。
【請求項3】
1以上のマスキング部分がペプチドリンカーを用いてまたは用いずに担体部分に融合される、請求項1または2のIL-2融合分子。
【請求項4】
IL-2融合分子が以下の部分:
IL-2RβもしくはIL-2Rγの細胞外ドメイン(ECD)またはその機能的アナログを含む第1マスキング部分であって、ペプチドリンカーを用いてまたは用いずに担体部分に融合される第1マスキング部分、および
IL-2RγもしくはIL-2RβのECDまたはその機能的アナログを含む第2マスキング部分であって、ペプチドリンカーを用いてまたは用いずに、第1マスキング部分に融合される第2マスキング部分
を含む、請求項1~3の何れかのIL-2融合分子。
【請求項5】
IL-2Rβ ECDまたはその機能的アナログが配列番号3と少なくとも95%同一のアミノ酸配列を有する、請求項3または4のIL-2融合分子。
【請求項6】
IL-2Rγ ECDまたはその機能的アナログが配列番号6と少なくとも95%同一のアミノ酸配列を有する、請求項3~5の何れかのIL-2融合分子。
【請求項7】
IL-2ポリペプチドが配列番号1と少なくとも95%同一のアミノ酸配列を含み、所望により、アミノ酸配列が配列番号2である、請求項1~6の何れかのIL-2融合分子。
【請求項8】
サイトカイン部分が開裂不可能なペプチドリンカーを介して担体部分に融合され、マスキング部分が開裂不可能なペプチドリンカーを介して担体部分に融合される、請求項1~の何れかのIL-2融合分子。
【請求項9】
マスキング部分が少なくとも16個のアミノ酸、少なくとも18個のアミノ酸、少なくとも20個のアミノ酸、少なくとも22個のアミノ酸、少なくとも25個のアミノ酸、少なくとも30個のアミノ酸または最大44個のアミノ酸を含むペプチドリンカーを介して、担体部分に融合される、請求項のIL-2融合分子。
【請求項10】
担体部分が抗体Fcドメインであり、融合分子が:
N末端からC末端方向で、F1-L1-E1、F1-L1-E1-L2-E2およびF1-L1-E2-L2-E1から選択される分子式で構成される第1ポリペプチド鎖および
N末端からC末端方向で、分子式F2-L3-Cで構成される第2ポリペプチド鎖
を含むヘテロ二量体であり、ここで、
F1およびF2はFcドメインのサブユニットであり、
L1、L2およびL3はペプチドリンカーであり、
E1はIL-2Rβ ECDまたはその機能的アナログであり、E2はIL-2Rγ ECDまたはその機能的アナログであり、
Cはサイトカイン部分である、
請求項1~の何れかのIL2融合分子。
【請求項11】
担体部分が抗体Fcドメインであり、融合分子が:
N末端からC末端方向で、E1-L1-F1、E1-L1-E2-L2-F1およびE2-L1-E1-L2-F1から選択される分子式で構成される第1ポリペプチド鎖および
N末端からC末端方向で、分子式C-L3-F2で構成される第2ポリペプチド鎖
を含むヘテロ二量体であり、ここで
F1およびF2はFcドメインのサブユニットであり、
L1、L2およびL3はペプチドリンカーであり、
E1はIL-2Rβ ECDまたはその機能的アナログであり、E2はIL-2Rγ ECDまたはその機能的アナログであり、
Cはサイトカイン部分である、
請求項1~の何れかのIL-2融合分子。
【請求項12】
担体部分が抗体Fcドメインであり、融合分子が、それぞれN末端からC末端方向で、次のペア:
F1-L1-E1およびF2-L2-C-L3-E2、
F1-L1-E1およびF2-L2-E2-L3-C、
F1-L1-E2およびF2-L2-C-L3-E1、
F1-L1-E2およびF2-L2-E1-L3-C、
E1-L1-F1およびE2-L2-C-L3-F2、
E1-L1-F1およびC-L2-E2-L3-F2、
E2-L1-F1およびE2-L2-C-L3-F2ならびに
E2-L1-F1およびC-L2-E1-L3-F2
から選択される分子式で構成される第1ポリペプチド鎖および第2ポリペプチド鎖を含むヘテロ二量体であり、ここで、
F1およびF2はFcドメインのサブユニットであり、
L1、L2およびL3はペプチドリンカーであり、
E1はIL-2Rβ ECDまたはその機能的アナログであり、E2はIL-2Rγ ECDまたはその機能的アナログであり、
Cはサイトカイン部分である、
請求項1~11の何れかのIL-2融合分子。
【請求項13】
ペプチドリンカーL1、L2およびL3が開裂可能ではない、請求項1012の何れかのIL-2融合分子。
【請求項14】
L1、L2およびL3がそれぞれ独立して、配列番号40~46、55~57および59から選択されるアミノ酸配列を有する、請求項1013の何れかのIL-2融合分子。
【請求項15】
L1、L2およびL3の少なくとも1つが20~44個のアミノ酸を含むアミノ酸配列を有する、請求項1014の何れかのIL-2融合分子。
【請求項16】
IL-2融合分子が:
配列番号50、51または52と少なくとも99%同一のアミノ酸配列を含む第1ポリペプチド鎖および
配列番号53または54と少なくとも99%同一のアミノ酸配列を含む第2ポリペプチド鎖
を含む、請求項1015の何れかのIL-2融合分子。
【請求項17】
IL-2融合分子が:
(a)配列番号50と99%以上同一のアミノ酸配列を含む第1ポリペプチド鎖および配列番号53と99%以上同一のアミノ酸配列を含む第2ポリペプチド鎖または
(b)配列番号50を含む第1ポリペプチド鎖および配列番号53を含む第2ポリペプチド鎖
を含む、請求項16のIL-2融合分子。
【請求項18】
請求項1~17の何れかのIL-2融合分子をコードするポリヌクレオチド。
【請求項19】
請求項18のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項20】
請求項19の発現ベクターを含む、宿主細胞。
【請求項21】
請求項1~17の何れかのIL-2融合分子および薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項22】
炎症状態または自己免疫疾患を治療するための、請求項21の医薬組成物。
【請求項23】
炎症状態または自己免疫疾患が喘息、I型糖尿病、関節リウマチ、アレルギー、全身性エリテマトーデス、多発性硬化症、臓器移植片拒絶反応および移植片対宿主病からなる群から選択される、請求項22の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は2019年8月12日に出願された米国仮出願第62/885,471号、2020年4月26日に出願された米国仮出願第63/015,644号、2020年5月2日に出願された米国仮出願第63/019,319号および2020年6月25日に出願された米国仮出願第63/044,294号に基づく優先権を主張する。優先権主張出願の内容は引用によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
配列表
本出願はASCII形式で電子的に提出された配列表を含み、その全体を引用することにより、本明細書に組み込む。2020年8月12日に作成された当該ASCIIコピーは025471_WO005_SL.txtなる名称であり、163,708バイトサイズである。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
インターロイキン2(IL-2)はリンパ球の生成、生存、ホメオスタシスに中心的な役割を果たしている。133個のアミノ酸を有し、機能に不可欠な四次構造を形成する4個の逆平行、両親媒性α-ヘリックスからなる(Smith, Science (1988) 240:1169-76; Bazan, Science (1992) 257:410-13)。IL-2は最大で3個の独立したサブユニットからなるIL-2受容体(IL-2R)に結合することで、その活性を発揮する。α(CD25またはTac抗原)、β(CD122)、γ(γ、共通γ鎖またはCD132)のサブユニットの結合はIL-2に対する三量体、高親和性受容体をもたらす(K約0.01nM)。βサブユニットとγサブユニットからなる二量体IL-2受容体は中親和性IL-2R(K約1nM)と呼ばれている。αサブユニットは単独で単量体低親和性IL-2受容体を形成する(K約10nM)。例えば、Kim et al., Cytokine Growth Factor Rev. (2006) 17:349-66参照。二量体中間親和性IL-2受容体は三量体の高親和性受容体よりも約100倍低い親和性でIL-2を結合するが、二量体および三量体のIL-2受容体の両者ともIL-2の結合によりシグナルを伝達できる(Minami et al., Annu Rev Immunol. (1993) 11:245-68)。このように、αサブユニットは受容体のIL-2への高親和性結合を助けるものの、IL-2シグナル伝達には必須ではないと考えられる。しかしながら、βおよびγサブユニットはIL-2シグナル伝達に必須である(Krieg et al., Proc Natl Acad Sci. (2010) 107:11906-11)。三量体IL-2受容体はCD4FOXP3制御T(Treg)細胞に発現する。Treg細胞はインビボで一貫して最高レベルのIL-2Rαを発現する(Fontenot et al., Nature Immunol. (2005) 6:1142-51)。また、慣用の活性化T細胞では三量体IL-2受容体が一過性に誘導されるが、休止状態ではこれら細胞は二量体のIL-2受容体しか発現していない。
【0004】
公開されたIL-2/IL-2R複合体の結晶構造(Wang et al., Science (2005) 310:1159-63)に基づいて、研究者たちはCD25、CD122および/またはCD132との相互作用を調節するためにIL-2に変異をしている。一例として、ヒトIL-2のD20、N88またはQ126の変異はT細胞を活性化する効力対NK細胞を活性化する効力の改変を示したことが報告される(米国特許第6,955,807号)。別の例では69位および74位に変異があるIL-2はCD25と強固に結合するが、88位または91位の変異はCD122との相互作用を阻害し、126位の変異はCD132との相互作用を阻害することが示された(PCT公開WO2009/061853)。
【0005】
Treg細胞は自己免疫を抑制し、炎症を制御するのに必須である。FOXP3CD25 Tエフェクター細胞(Teff)はCD4またはCD8細胞であり得て、何れも炎症、自己免疫、臓器移植片の拒絶または移植片対宿主病(GVHD)の原因となる。IL-2刺激STAT5シグナルは正常なTreg細胞増殖および生存ならびに高FOXP3発現に不可欠である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
Tregの活性におけるIL-2の役割にもかかわらず、Treg活性を制御するための安全かつ効果的なIL-2ベースの治療法は臨床的に証明されていない。したがって、炎症性疾患や自己免疫疾患の処置のために、Treg細胞を優先的に拡大または刺激するIL-2ベースの治療を開発する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の概要
本発明は担体部分、サイトカイン部分および1以上のマスキング部分を含む、単離IL-2融合分子を提供し、ここで、サイトカイン部分は担体部分またはマスキング部分に融合され、1以上のマスキング部分は担体部分またはサイトカイン部分に融合される。サイトカイン部分は(i)C125AまたはC125Sの置換または(ii)T3A、C125S、V69AおよびQ74Pから選択される1以上の置換(ナンバリングは配列番号1に従う)を含むIL-2アミノ酸配列を含むIL-2ポリペプチドであり、1以上のマスキング部分はサイトカイン部分に結合し、免疫細胞(例えば、T細胞およびNK細胞)上のIL-2Rαではなく、IL-2Rβおよび/またはIL-2Rγへのサイトカイン部分の結合を阻害する。ある実施態様において、IL-2ポリペプチドは野生型IL-2と同等またはそれ以上の親和性でIL-2Rαに結合する。
【0008】
本発明はまた、炎症状態または自己免疫疾患を処置する方法であって、それを必要とする対象に、担体部分、サイトカイン部分および1以上のマスキング部分を含む治療量の単離IL-2融合分子を投与することを含み、ここで、サイトカイン部分が担体部分にまたはマスキング部分に融合されており、1以上のマスキング部分が担体部分またはサイトカイン部分に融合しており、サイトカイン部分がIL-2ポリペプチドを含み、1以上のマスキング部分はサイトカイン部分に結合し、免疫細胞(例えば、T細胞およびNK細胞)上のIL-2Rαではなく、IL-2Rβおよび/またはIL-2Rγへのサイトカイン部分の結合を阻害する、方法も提供する。ある実施態様において、炎症状態または自己免疫疾患は喘息、I型糖尿病、関節リウマチ、アレルギー、全身性エリテマトーデス、多発性硬化症、臓器移植片拒絶反応および移植片対宿主病からなる群から選択される。
【0009】
ある実施態様において、IL-2ポリペプチドは野生型IL-2と同等またはそれ以上の親和性でIL-2Rαに結合する。
【0010】
ある実施態様において、IL-2Rβ ECDまたはその機能的アナログは配列番号3と少なくとも95%(例えば、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%)同一のアミノ酸配列を有する。ある実施態様において、IL-2Rγ ECDまたはその機能的アナログは配列番号6と少なくとも95%(例えば、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%)同一のアミノ酸配列を有する。ある実施態様において、IL-2ポリペプチドは配列番号1と少なくとも95%同一のアミノ酸配列を含み、所望により、アミノ酸配列は配列番号2である。
【0011】
ある実施態様において、IL-2融合分子はIL-2RβまたはIL-2Rγの細胞外ドメイン(ECD)またはその機能的アナログを含むマスキング部分を含み、マスキング部分はペプチドリンカーを用いてまたは用いずに、担体部分に融合される。他の実施態様において、IL-2融合分子はIL-2RβもしくはIL-2Rγの細胞外ドメイン(ECD)またはその機能的アナログを含む第1マスキング部分(ここで、第1マスキング部分はペプチドリンカーを用いてまたは用いずに、担体部分に融合される)およびIL-2RγもしくはIL-2RβのECDまたはその機能的アナログを含む第2マスキング部分(ここで、第2マスキング部分はペプチドリンカーを用いてまたは用いずに、サイトカイン部分または第1マスキング部分に融合される)を含む。ある実施態様において、本発明のIL-2融合分子は少なくとも2個のマスキング部分を含み、その一方はIL-2RαのECDまたはその機能的アナログであり、IL-2RαのECDマスキング部分は開裂可能なペプチドリンカーを介して、サイトカイン部分、担体部分または別のマスキング部分に融合される。特定の実施態様において、IL-2Rα ECD部分は配列番号7と少なくとも95%同一のアミノ酸配列を含む。
【0012】
ある実施態様において、サイトカイン部分は開裂不可能なペプチドリンカーを介して担体部分またはマスキング部分に融合され、マスキング部分は開裂不可能なペプチドリンカーを介して担体部分またはサイトカイン部分に融合される。特定の実施態様において、マスキング部分は少なくとも16個のアミノ酸、少なくとも18個のアミノ酸、少なくとも20個のアミノ酸、少なくとも22個のアミノ酸、少なくとも25個のアミノ酸、少なくとも30個のアミノ酸または最大44個のアミノ酸を含むペプチドリンカーを介して、担体部分またはサイトカイン部分に融合される。
【0013】
ある実施態様において、担体部分はPEG分子、アルブミン、アルブミンフラグメント、抗体のFcドメイン、抗体またはその抗原結合フラグメントから選択される。ある実施態様において、担体部分は抗体Fcドメインであり、融合分子はN末端からC末端方向で、F1-L1-E1、F1-L1-E1-L2-E2およびF1-L1-E2-L2-E1から選択される分子式を含む第1ポリペプチド鎖と、N末端からC末端方向で、分子式F2-L3-Cを含む第2ポリペプチド鎖を含むヘテロ二量体であり、ここでF1およびF2はFcドメインのサブユニットであり、L1、L2およびL3はペプチドリンカーであり、E1はIL-2Rβ ECDまたはその機能的アナログであり、E2はIL-2Rγ ECDまたはその機能的アナログであり、Cはサイトカイン部分である。他の実施態様において、担体部分は抗体Fcドメインであり、融合分子はN末端からC末端方向で、E1-L1-F1、E1-L1-E2-L2-F1およびE2-L1-E1-L2-F1から選択される分子式を含む第1ポリペプチド鎖と、N末端からC末端方向で、分子式C-L3-F2を含む第2ポリペプチド鎖を含むヘテロ二量体であり、ここで、F1およびF2はFcドメインのサブユニットであり、L1、L2およびL3はペプチドリンカーであり、E1はIL-2Rβ ECDまたはその機能的アナログであり、E2はIL-2Rγ ECDまたはその機能的アナログであり、Cはサイトカイン部分である。他の実施態様において、担体部分は抗体Fcドメインであり、融合分子は、N末端からC末端方向で、次の
F1-L1-E1およびF2-L2-C-L3-E2、
F1-L1-E1およびF2-L2-E2-L3-C、
F1-L1-E2およびF2-L2-C-L3-E1、
F1-L1-E2およびF2-L2-E1-L3-C、
E1-L1-F1およびE2-L2-C-L3-F2、
E1-L1-F1およびC-L2-E2-L3-F2、
E2-L1-F1およびE2-L2-C-L3-F2および
E2-L1-F1およびC-L2-E1-L3-F2
の組から選択される分子式で構成される第1ポリペプチド鎖と第2ポリペプチド鎖を含むヘテロ二量体であり、ここで、F1およびF2はFcドメインのサブユニットであり、L1、L2およびL3はペプチドリンカーであり、E1はIL-2Rβ ECDまたはその機能的アナログであり、E2はIL-2Rγ ECDまたはその機能的アナログであり、Cはサイトカイン部分である。ある実施態様において、ペプチドリンカーL1、L2およびL3は開裂可能ではない。特定の実施態様において、L1、L2およびL3は独立して、配列番号40~46、55~57および59から選択されるアミノ酸配列を有する。他の特定の実施態様において、L1、L2およびL3の少なくとも1つは20~44個のアミノ酸を含むアミノ酸配列を有する。
【0014】
特定の実施態様において、本発明のIL-2融合分子は配列番号50、51または52と少なくとも99%同一のアミノ酸配列を含む第1ポリペプチド鎖と、配列番号53または54と少なくとも99%同一のアミノ酸配列を含む第2ポリペプチド鎖を含む。特定の実施態様において、本発明のIL-2融合分子は配列番号50と少なくとも99%同一のアミノ酸配列を含む第1ポリペプチド鎖と、配列番号53と少なくとも99%同一のアミノ酸配列を含む第2ポリペプチド鎖を含む。
【0015】
ある実施態様において、本発明のIL-2融合分子は以下の特性:
(a)α、βおよびγサブユニットを有する高親和性のIL-2受容体(IL-2Rαβγ)に、βおよびγサブユニットを有する中間型IL-2受容体(IL-2Rβγ)の100倍以上の親和性で結合する、
(b)37℃の表面プラズモン共鳴アッセイで測定して、約5nM以上または10nM以上のKでIL-2Rβγに結合する、
(c)CTLL-2細胞増殖アッセイにおいて、約1nM未満かつ0.01nM、0.25nMまたは0.05nM以上のEC50値を有する、
(d)NK92細胞の増殖アッセイにおいて、約0.05nM、0.1nM、0.25nMまたは0.5nMよりも大きいEC50値を有する、
(e)中和CD25抗体の存在下でのNK92細胞の増殖アッセイにおいて、中和CD25抗体の非存在下と比較して、Emax値が少なくとも5倍または少なくとも10倍低い、
(f)Tエフェクター細胞やNK細胞よりも、FOXP3+ T制御細胞を優先的に刺激する、
(g)FOXP3+制御性T細胞の成長または生存を促進する、および
(h)FOXP3+ T細胞においてSTAT5のリン酸化を誘導するが、FOXP3- T細胞においてはSTAT5のリン酸化を誘導する能力が低下する、
の1つ以上を有する。
【0016】
他の態様において、本発明は、本発明のIL-2融合分子および薬学的に許容される賦形剤;IL-2融合分子をコードする1以上のポリヌクレオチド、1以上のポリヌクレオチドを含む1以上の発現ベクター;およびベクターを含む宿主細胞を含む医薬組成物であって、宿主細胞は原核細胞または哺乳類細胞などの真核細胞であり得る、医薬組成物も提供する。ある実施態様において、哺乳類宿主細胞はuPA、MMP-2および/またはMMP-9をコードする遺伝子または遺伝子がノックアウトされる(例えば、これらの遺伝子の1以上のヌル変異を含む)。したがって、本発明はまた、IL-2融合分子を製造する方法であって、IL-2融合分子の発現を可能にする条件下で哺乳類細胞である宿主細胞を培養し、IL-2融合分子を単離することを含む、方法を提供する。
【0017】
本発明の他の特徴、目的および利点は以下の詳細な説明で明らかになる。しかし、詳細な説明は本発明の実施態様および態様を示すものの、限定するものではなく、例示のために示されることを理解すべきである。本発明の範囲内での様々な変更および修正は詳細な説明から当業者には明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1Aおよび1BはFcドメインのC末端にIL-2Rβ細胞外ドメイン(ECD)とIL-2ポリペプチドが融合したIL-2融合分子の模式図である。IL-2ポリペプチドは開裂不可能なリンカーを介して一方のFcポリペプチドのC末端に融合される。IL-2Rβ ECDは開裂不可能なリンカー(図1A)または開裂可能なリンカー(図1B)を介して、他方のFcポリペプチドのC末端に融合される。「ノブ・イントゥ・ホール」はFcポリペプチドのノブ・イントゥ・ホール変異を示す。
【0019】
図2図2Aおよび2Bは、FcドメインのC末端にIL-2Rβ ECDとIL-2ポリペプチドが融合したIL-2融合分子と、IL-2Rβ ECDのC末端にIL-2Rγ ECDが融合したIL-2融合分子の模式図である。IL-2ポリペプチドは開裂不可能なリンカーを介して一方のFcポリペプチドのC末端に融合される。IL-2Rβ ECDはもう一方のFcポリペプチドのC末端に、開裂不可能なリンカーを介して融合する。IL-2Rγ ECDは開裂不可能なリンカー(図2A)または開裂可能なリンカー(図2B)を介して、IL-2Rβ ECDのC末端に融合される。
【0020】
図3図3Aおよび3BはFcドメインのC末端にIL-2Rγ ECDとIL-2ポリペプチドが融合したIL-2融合分子と、IL-2Rγ ECDのC末端にIL-2Rβ ECDが融合したIL-2融合分子の模式図である。IL-2ポリペプチドは開裂不可能なリンカーを介して一方のFcポリペプチドのC末端に融合される。IL-2Rγ ECDはもう一方のFcポリペプチドのC末端に、開裂不可能なリンカーを介して融合する。IL-2Rβ ECDは開裂不可能なリンカー(図3A)または開裂可能なリンカー(図3B)を介して、IL-2Rγ ECDのC末端に融合される。
【0021】
図4図4Aおよび4Bは、FcドメインのC末端にIL-2Rβ ECDとIL-2ポリペプチドが融合したIL-2融合分子およびIL-2ポリペプチドのC末端にIL-2Rγ ECDが融合したIL-2融合分子の模式図である。IL-2ポリペプチドは開裂不可能なリンカーを介して一方のFcポリペプチドのC末端に融合される。IL-2Rγ ECDは開裂可能なリンカーを介してIL-2ポリペプチドのC末端と融合される。IL-2Rβ ECDは開裂不可能なリンカー(図4A)または開裂可能なリンカー(図4B)を介して、他方のFcポリペプチドのC末端に融合される。
【0022】
図5図5Aおよび5BはFcドメインのC末端にIL-2Rγ ECDとIL-2ポリペプチドが融合したIL-2融合分子およびIL-2ポリペプチドのC末端にIL-2Rβ ECDが融合したIL-2融合分子の模式図である。IL-2ポリペプチドは開裂不可能なリンカーを介して一方のFcポリペプチドのC末端に融合される。IL-2Rβは開裂可能なリンカーを介して、IL-2ポリペプチドのC末端に融合される。IL-2Rγ ECDは開裂不可能なリンカー(図5A)または開裂可能なリンカー(図5B)を介して、他方のFcポリペプチドのC末端に融合される。
【0023】
図6図6Aおよび6Bは、FcドメインのC末端にIL-2Rβ ECDおよびIL-2Rγ ECDが融合し、IL-2Rβ ECDまたはIL-2Rγ ECDのC末端にIL-2ポリペプチドが融合したIL-2融合分子の模式図である。図6AではIL-2Rγ ECDは開裂可能なリンカーを介して一方のFcポリペプチドのC末端に融合され、IL-2Rβ ECDは開裂不可能なリンカーを介して他方のFcポリペプチドのC末端に融合され、IL-2ポリペプチドは開裂不可能なリンカーを介してIL-2Rβ ECDのC末端に融合される。図6BではIL-2Rβ ECDは開裂可能なリンカーを介して一方のFcポリペプチドのC末端に融合され、IL-2Rγ ECDは開裂不可能なリンカーを介して他方のFcポリペプチドのC末端に融合され、IL-2ポリペプチドは開裂不可能なリンカーを介してIL-2Rγ ECDのC末端に融合される。
【0024】
図7図7Aおよび7Bは、FcドメインのN末端にIL-2Rβ ECDとIL-2ポリペプチドを融合させたIL-2融合分子の模式図である。IL-2ポリペプチドは1つのFcポリペプチドのN末端に融合される。IL-2Rβ ECDは開裂不可能なリンカー(図7A)または開裂可能なリンカー(図7B)を介して、他のFcポリペプチドのN末端に融合される。
【0025】
図8図8は、図1Bに示される概略構造を有する、配列番号12および23にそれぞれ示されるアミノ酸配列を有する2個のポリペプチド鎖から構成されるIL-2融合分子JR3.116.5のSDS-PAGE分析を示す。
【0026】
図9図9はプロテアーゼ処理による活性化の前と後のIL-2融合分子JR3.116.5のCTLL2ベースの生物活性アッセイの結果を示す。
【0027】
図10図10Aおよび10BはIL-2融合分子982 C1、982 C2、982 D1および982 D2の模式図である。982 C1および982 C2はIL-2Rβ ECDとIL-2Rγ ECDの2個のマスキング部分を持ち、IL-2のムテインがIgGのFcドメインのC末端に融合される。図10Aは(GS)AA(GS)(配列番号59)の開裂不可能なリンカーを介して、1個のIgG FcポリペプチドのC末端に融合したIL-2Rγ ECDを示す。IL-2Rβ ECDは配列番号46に示すとおり、43アミノ酸長の開裂不可能なリンカーを介して、IL-2Rγ ECDのC末端に融合される。IL-2ムテインは開裂不可能なリンカーを介して他のIgGポリペプチドのC末端に融合される。IL-2のムテインはC125Aの置換(982 C1)またはT3A/C125S/V69A/Q74Pの置換(982 C2)を有する。図10Bは(GS)AA(GS)(配列番号59)の開裂不可能なリンカーを介して、1個のIgG FcポリペプチドのC末端に融合したIL-2Rβ ECDを示す。IL-2ムテインは開裂不可能なリンカーを介して他のIgGポリペプチドのC末端に融合される。IL-2のムテインはC125Aの置換(982 D1)またはT3A/C125S/V69A/Q74Pの置換(982 D2)を有する。
【0028】
図11図11は、CD25に対する中和抗体の存在下または非存在下で、982 D1、982 D2、IL-2および対照分子を用いたNK92細胞の増殖アッセイを示す。対照分子(982 Ref)はV91KとC125Aの変異を持つIL-2を持つFc-IL-2融合分子である。982-Refは各鎖が配列番号58のアミノ酸配列を含むホモ二量体Fc-融合-IL-2ムテイン分子である。
【0029】
図12図12はIL-2融合分子982 D1および982 D2のラットCD4 T細胞への結合を示す。N.C.は緩衝液対照である。
【0030】
図13図13Aおよび13BはIL-2融合分子982 D1、982 C1および982 D2、982 RefのCD4CD25 T細胞およびCD4CD25 T細胞への結合を示す。N.C.は緩衝液対照である。
【0031】
図14図14は982 D1、982 C1、982 D2、982 Ref IL-2融合分子によって誘導されたCD4CD25 T細胞およびCD4CD25 T細胞の濃度依存的増殖を示す。また、IL-2単独も試験した。
【0032】
図15図15はラットPK試験における982 C1、982 D1、982 Ref IL-2融合分子の血清濃度の経時変化を示す。ラットに分子を皮下注射した。
【0033】
図16図16は2回目のラットPK試験からの982 C1、982 D1および982 Ref IL-2融合分子の経時的な血清濃度を示す。
【0034】
図17図17Aおよび17Bは、982 C1、982 D1および982 Ref IL-2融合分子で誘導したラットのCD4T細胞におけるCD4FOXP3細胞およびCD4FOXP3細胞の割合の経時変化を示す。
【0035】
図18図18Aおよび18Bは、初回PK試験のラットにおいて、982 C1、982 D1、982 Refにより誘発されたCD4CD25およびCD4CD25細胞の増殖状態(増殖マーカーKi67で示される)の経時変化を示す。
【0036】
図19図19Aおよび19Bは、ラットのCD4FOXP3および982 IL-2融合分子によって誘導されたCD4T細胞におけるCD4FOXP3細胞の割合の経時変化を示す。
【0037】
図20図20Aおよび20Bは、ラットの982 IL-2融合分子によって誘導されたCD4CD25およびCD4CD25細胞の増殖状態の経時変化を示す。
【0038】
図21図21は982 D1、982 D2および982 Refを単回皮下投与した後の各処置群の体重を示す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
発明の詳細な説明
本明細書および添付の特許請求の範囲における単数表現は、文脈から明らかに他のことが指示されない限り、複数表現を含む。本明細書ではある値またはパラメータにおける「約」の言及は、その値またはパラメータ自体に対する偏差を含む(そして意味する)。例えば、「約X」なる記載は、数値「X」を含む。さらに、一連の数字の前への「約」の使用は、その一連の引用された数字のそれぞれの「約」を含む。例えば、「約X、YまたはZ」なる記載は、「約X、約Yまたは約Z」を記載することを意図する。
【0040】
用語「抗原結合部分」は、抗原に特異的に結合するポリペプチドまたは相互作用するポリペプチドのセットをいい、抗体(例えば、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多特異性抗体、二重特異性または二特異性抗体、抗イディオタイプ抗体または二官能性ハイブリッド抗体)またはその抗原結合フラグメント(例えば、Fab、Fab’、F(ab’)、Fv、ジスルフィド結合Fv、scFv、シングルドメイン抗体(dAb)またはダイアボディ)、一本鎖抗体およびイムノアドヘシンなどのFc含有ポリペプチドを含むが、これらに限定されない。ある実施態様において、抗体は何れの重鎖アイソタイプ(例えば、IgG、IgA、IgM、IgEまたはIgD)またはサブタイプ(例えば、IgG、IgG、IgGまたはIgG)であってもよい。ある実施態様において、抗体は何れの軽鎖アイソタイプ(例えば、カッパまたはラムダ)であってもよい。抗体はヒト、非ヒト(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヤギまたは他の非ヒト動物由来)、キメラ(例えば、非ヒト可変領域とヒト定領域を有する)またはヒト化(例えば、非ヒトCDRとヒトフレームワークおよび定領域を有する)であってもよい。ある実施態様において、抗体は誘導体化抗体である。
【0041】
用語「サイトカインアゴニストポリペプチド」は、野生型サイトカインまたはその類似体をいう。野生型サイトカインのアナログは野生型サイトカインと同じ生物学的特異性(例えば、同じ受容体に結合し、同じ標的細胞を活性化する)を有するが、アナログの活性レベルは野生型サイトカインとは異なり得る。アナログは、例えば、野生型サイトカインのムテイン(すなわち、変異したポリペプチド)であってもよく、野生型サイトカインに対して、少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも9個または少なくとも10個の変異を含み得る。
【0042】
用語「サイトカインアンタゴニスト」または「サイトカインマスク」は、サイトカインに結合し、それによりサイトカインが標的細胞の表面上の受容体に結合することを阻害しおよび/またはアンタゴニストまたはマスクによって結合される間にその生物学的機能を発揮することを阻害する、部分(例えば、ポリペプチド)をいう。サイトカインのアンタゴニストまたはマスクの例は、サイトカインと接触するサイトカインの天然の受容体の細胞外ドメインに由来するポリペプチドを含むが、これに限定されない。
【0043】
用語「有効量」または「治療有効量」は、特定の障害、状態または疾患を処置、例えば、その症状の1つ以上を改善、緩和、軽減および/または遅延させるのに十分な、化合物または組成物の量をいう。
【0044】
用語「機能的アナログ」は、対照分子と同じ生物学的特異性(例えば、同じリガンドに結合)および/または活性(例えば、標的細胞を活性化または阻害)を有する分子をいう。
【0045】
2個のポリペプチド配列に関連する「融合された」または「融合」なる用語は、2個のポリペプチド配列がバックボーンのペプチド結合を介して結合することをいう。2個のポリペプチドは直接または1以上のアミノ酸長を持つペプチドリンカーを介して融合され得る。融合ポリペプチドは2個の融合パートナーのそれぞれのコード配列を含むコード配列から、間のペプチドリンカーのコード配列を伴いまたは伴わずに、組換え技術により製造され得る。ある実施態様において、融合は化学的なコンジュゲーションを包含する。
【0046】
用語「薬学的に許容される賦形剤」は、組成物に含まれる成分をいうために使用するとき、賦形剤が、ヒトを含む処置対象への投与に適しており、対象に過度の有害な副作用がなく、かつ医薬品有効成分(API)の生物学的活性に影響を与えないことを意味する。
【0047】
用語「対象」は、哺乳類をいい、ヒト、ペット(イヌ、ネコなど)、農場動物(ウシ、ウマなど)、齧歯類、霊長類を含むが、これらに限定されない。
【0048】
本明細書使用する「処置」または「処置する」は、有益なまたは望ましい臨床結果を得るためのアプローチである。有益で望ましい臨床結果には以下の1つ以上が含まれるが、これらに限定されるものではない:疾患に起因する1以上の症状の緩和、疾患の程度の低減、疾患の状態の改善、疾患の安定化(例えば、疾患の悪化または進行の阻止または遅延)、疾患の拡散(例えば、転移)の阻止または遅延、疾患の再発の阻止または遅延、疾患の部分的または完全な寛解、疾患の安定化(例えば、疾患の悪化または進行の阻止または遅延)、疾患の拡大(例えば、転移)の阻止または遅延、疾患の再発の阻止または遅延、疾患の部分的または完全な寛解、疾患の処置に必要な1以上の他の薬剤の投与量の減少、患者の生活の質の向上および/または生存期間の延長。本発明の方法はこれらの処置の態様の何れか1つ以上を意図する。
【0049】
本明細書に記載される様々な実施態様の特性の1つ、いくつかまたはすべてを組み合わせて、本発明の他の実施態様を形成できることは理解される。本書で使用されるセクションの見出しは整理を目的としたものであり、その下に記載される主題を限定するものとは解釈されるべきではない。
【0050】
単離IL-2融合分子
本発明は炎症性疾患および自己免疫疾患の処置に有用なIL-2融合分子を提供する。本発明者らはマスキング部分の開裂や除去を必要とせずに、所望のインビボ活性が達成されることに驚かされた。開裂不可能なペプチドリンカーを有するマスクドIL-2融合分子は開裂可能にマスクされたIL-2融合分子と比較して、多くの重要な利点を有する。例えば、開裂可能にマスクされたIL-2分子は活性化されるためにプロテアーゼによるリンカーの開裂とマスキング部分の除去が必要である。疾患部位におけるプロテアーゼの分布が不均一であるため、サイトカインの活性化レベルが変動し、治療効果をさらに変動させ得る。さらに、循環中および/または製造中に非特異的な活性化が起こる可能性もあり、開裂可能にマスクされた分子に安全性の懸念と製造の複雑さが加わる。
【0051】
ある実施態様において、本発明のIL-2融合分子は中間親和性IL-2Rβγに対して減少した親和性(例えば、1nMよりも高い、5nMよりも高い、10nMよりも高い、100nMよりも高いまたは1μMよりも高いKを有する)を有する一方で、IL-2Rα(CD25)に対して野生型の親和性(例えば、Kが約10nM)を維持し、またはIL-2Rαに対して、野生型親和性に類似する(例えば、Kが約1~20nM)または高い(例えば、Kが10nMよりも低い、5nMよりも低いまたは1nMよりも低い)親和性を有する。単離IL-2融合分子はIL-2ポリペプチド(サイトカイン部分)、担体(担体部分)およびIL-2アンタゴニスト(マスキング部分またはサイトカインアンタゴニスト)を含み得て、ここで、IL-2ポリペプチドは直接または開裂可能または開裂不可能なペプチドリンカーを介して担体に融合されており、IL-2アンタゴニストは開裂不可能または開裂可能なペプチドリンカーを介してIL-2ポリペプチドまたは担体に連結される。ある実施態様において、サイトカイン部分はマスキング部分と融合され得て、このマスキング部分は直接または開裂可能または非開裂可能なリンカーを介して担体部分に融合され得る。
【0052】
好ましい実施態様において、IL-2ポリペプチドは開裂不可能なペプチドリンカーを介して担体に融合され、IL-2アンタゴニストは開裂不可能なペプチドリンカーを介して担体またはIL-2ポリペプチドに結合される。例えば、IL-2アンタゴニストは配列番号59の開裂不可能なペプチドリンカーを介して担体に融合されてもよい。また、IL-2ポリペプチドは野生型のIL-2ポリペプチドであるかまたはCD25に対するポリペプチドの結合親和性を低下させるような変異を含んでいないものである。
【0053】
本発明のIL-2融合分子は、担体部分に結合され、サイトカインアンタゴニスト(マスキング部分)によってマスキング(結合)された、IL-2ポリペプチド(サイトカイン部分)を含み得る。サイトカインアンタゴニストは、IL-2Rβ(CD122)の細胞外ドメイン(ECD)、IL-2Rβ ECDの機能的アナログ、IL-2Rγ ECD(CD132)、IL-2Rγ ECDの機能的アナログおよびIL-2Rβ ECDとIL-2Rγ ECDの組み合わせから選択される。ある実施態様において、サイトカインアンタゴニストは、それを必要とする患者において、サイトカイン部分のT細胞上のIL-2Rγおよび/またはIL-2Rβへの結合を阻害し、一方で、IL-2Rα(CD25)に結合するためのサイトカイン部分はインタクトのままである。IL-2Rα(CD25)はTreg細胞に優先的に発現するため、本発明のIL-2融合分子は、非Treg細胞への影響を最小限としながら、Treg細胞の増殖を優先的に刺激することができる。
【0054】
ある実施態様において、担体部分はFcドメインである。ある実施態様において、本IL-2融合分子はN末端からC末端方向で、F1-L1-E1、F1-L1-E2-E2およびF1-L1-E2-L2-E1から選択される分子式を含む第1ポリペプチド鎖と、N末端からC末端方向で、F1-L1-E1、F1-L1-E2-E2およびF1-L1-E2-L2-E1から選択される分子式を含む第2ポリペプチド鎖を含むヘテロ二量体であって、ここで、F1およびF2はヘテロ二量体Fcドメインのサブユニットであり、L1、L2およびL3はペプチドリンカーであり、E1はIL-2Rβ ECDまたはその機能的アナログであり、E2はIL-2Rγ ECDまたはその機能的アナログであり、CはIL-2ポリペプチド(例えば、野生型ヒトIL-2またはそのムテイン)を含むサイトカイン部分である。
【0055】
ある実施態様において、本IL-2融合分子はN末端からC末端方向で、E1-L1-F1、E1-L1-E2-L2-F1およびE2-L1-E1-L2-F1から選択される分子式を含む第1ポリペプチド鎖と、N末端からC末端方向で、E1-L1-E2-F1およびE2-L1-E1-L2-F1を含む第2ポリペプチド鎖を含むヘテロ二量体であって、ここで、F1およびF2はヘテロ二量体Fcドメインのサブユニットであり、L1、L2およびL3はペプチドリンカーであり、E1はIL-2Rβ ECDまたはその機能的アナログであり、E2はIL-2Rγ ECDまたはその機能的アナログであり、CはIL-2ポリペプチド(例えば、野生型ヒトIL-2またはそのムテイン)を含むサイトカイン部分である。
【0056】
ある実施態様において、本IL-2融合分子は、N末端からC末端方向で、次の
a. F1-L1-E1およびF2-L2-C-L3-E2、
b. F1-L1-E1およびF2-L2-E2-L3-C、
c. F1-L1-E2およびF2-L2-C-L3-E1、
d. F1-L1-E2およびF2-L2-E1-L3-C、
e. E1-L1-F1およびE2-L2-C-L3-F2、
f. E1-L1-F1およびC-L2-E2-L3-F2、
g. E2-L1-F1およびE2-L2-C-L3-F2、および
h. E2-L1-F1およびC-L2-E1-L3-F2
の組から選択される分子式を含む第1ポリペプチド鎖と第2ポリペプチド鎖を含むヘテロ二量体であり、ここで、F1およびF2はヘテロ二量体のFcドメインのサブユニットであり、L1、L2およびL3はペプチドリンカーであり、E1はIL-2Rβ ECDまたはその機能的アナログであり、E2はIL-2Rγ ECDまたはその機能的アナログであり、Cはサイトカイン部分である。
【0057】
ある実施態様において、ペプチドリンカーL1、L2およびL3は独立して、配列番号40~49および55~57から選択されるアミノ酸配列を有する。
【0058】
ある実施態様において、ペプチドリンカーL1、L2およびL3の少なくとも1つは少なくとも20~44個のアミノ酸(例えば、少なくとも20個、少なくとも25個、少なくとも30個、少なくとも35個、少なくとも40個、少なくとも45個または少なくとも55個)を含むアミノ酸配列を有する。ある実施態様において、ペプチドリンカーの少なくとも1つは少なくとも16個、18個、20個、22個、24個、26個、27個、28個、29個、31個、32個、33個、34個、36個、37個、38個、39個、41個または42個のアミノ酸を有する。
【0059】
ある実施態様において、本IL-2融合分子は図1A、1B、2A、2B、3A、3B、4A、4B、5A、5B、6A、6B、7Aまたは7Bに例示される構造を有する。特定の実施態様において、IL-2融合分子は図10Aまたは10Bに示される構造を有する。
【0060】
ある実施態様において、単離融合分子は配列番号50、51および52から選択されたものと少なくとも99%同一のアミノ酸配列を有する第1ポリペプチド鎖と、配列番号53および54から選択されたものと少なくとも99%同一のアミノ酸配列を有する第2ポリペプチド鎖を含む。
【0061】
単離IL-2融合分子982 C1、C2、D1、D2および982 Refは表1に示すアミノ酸配列を有する2個のポリペプチド鎖を含む。982 C1と982 C2の両分子はIL-2Rγ ECDおよびIL-2Rβ ECDである2個のマスキング部分を含む。982 D1と982 D2の両方は、それぞれ、IL-2Rβ ECDである1個のマスキング部分を含む。982 C2および982 D2の両方のIL-2部分は変異T3A、V69A、P74QおよびC125S(ナンバリングは配列番号1に従う)を含む。
【0062】
【表1】

【0063】
A. IL-2ポリペプチドまたはムテイン
本発明のIL-2融合分子において、IL-2ポリペプチドは野生型ヒトIL-2ポリペプチド(配列番号1)などの野生型IL-2ポリペプチドまたはヒトIL-2に由来するIL-2ムテインなどのIL-2ムテインであり得る。IL-2ムテインは、IL-2の生物学的活性の少なくとも1以上の態様を保持するIL-2誘導体である。ある実施態様において、IL-2ムテインは配列番号1と少なくとも95%同一のアミノ酸の配列を含む。特定の実施態様において、IL-2ムテインは配列番号1と同じ長さを有するが、7個以下(例えば、6個以下、5個以下、4個以下、3個以下または2個以下)のアミノ酸残基が異なる。IL-2ムテインはCD122および/またはCD132に対する親和性が低下していてもよく、L12G、L12K、L12Q、L12S、Q13G、E15A、E15G、E15S、H16A、H16D、H16G、H16K、H16M、H16N、H16R、H16S、H16T、H16V、H16Y、L19A、L19D、L19E、L19G、L19N、L19R、L19S、L19T、L19V、D20A、D20E、D20F、d20g、d20t、d20w、m23r、r81a、r81g、r81s、r81t、d84a、d84e、d84g、d84i、d84m、d84q d84r、d84s、d84t、s87r、n88a、n88d、n88e、n88f、n88g、n88m、n88r、n88s、N88V、N88W、N90T、N90S、V91D、V91E、V91G、V91S、I92K、I92R、I92T、I92S、E95G、Q126E、Q126F、Q126G、Q126I、Q126L、Q126M、Q126N、Q126R、Q126VおよびQ126Yから選択される1以上の変異を含み得る。特に断らない限り、IL-2のすべての残基番号は配列番号1のナンバリングに従っている。ある実施態様において、IL-2のムテインはCD25に対する親和性を高める結果となる変異を有し得る。このような変異は69位と74位の変異から選択できる。ある実施態様において、IL-2ムテインはT3A、C125A、C125SおよびC125Gから選択される1以上の変異を含み得る。
は誘導体化抗体である。
【0064】
B. 単離IL-2融合分子のマスキング部分
本発明の単離IL-2融合分子におけるサイトカインアンタゴニスト、すなわちマスキング部分はヒトIL-2RβまたはIL-2Rγに由来するもの(例えば、配列番号3~6の何れか)などのIL-2RβまたはIL-2Rγ細胞外ドメインまたはその機能的アナログである。ある実施態様において、IL-2融合分子は少なくとも1個のマスキング部分を含む。例えば、融合分子はIL-2Rβ ECDとIL-2Rγ ECDの両方またはこれらのECDの一方のみを含み得る。ECDはヒトIL-2RβまたはIL-2Rγの細胞外ドメイン全体または、その部分がIL-2部分に結合できる状態を維持するかまたは他の方法でIL-2部分がT細胞上のIL-2RβまたはIL-2Rγに結合するのを阻害する限り、その一部のみを含み得る。
【0065】
ある実施態様において、IL-2融合分子はIL-2RαのECD(例えば、配列番号7)またはその機能的アナログであるさらなるマスキング部分を含み、ここで、IL-2RαのECDマスキング部分は開裂可能なペプチドリンカーを介して融合分子内のサイトカイン部分、担体部分または別のマスキング部分に融合される。融合分子に開裂可能なリンカーを介して結合したIL-2Rαマスキング部分の存在により、融合分子は非標的部位の細胞に結合することなく標的部位にホーミングでき、標的部位に到達すると、開裂可能なリンカーが標的部位に高濃度で存在するプロテアーゼにより開裂され、活性化された融合分子が標的部位の細胞(例えばTreg細胞)上のIL-2Rαと結合し、結合した細胞を刺激できる。
【0066】
IL-2Rサブユニット(α、β、γ)のECDの機能的アナログは、IL-2に対して野生型ECDと同様の親和性を有するポリペプチドをいう。例えば、機能的アナログは野生型ECDのコアIL-2結合領域を含み、アナログの全長にわたって野生型ECD(例えば、配列番号3~7、上記)と少なくとも95%(例えば、少なくとも96%、97%、98%または99%)同一である配列を有し得る。
【0067】
C. 単離IL-2融合分子の担体部分
本発明のIL-2融合分子の担体部分は抗原結合部分または抗原結合部分ではない部位であり得る。担体部分はサイトカインアゴニストポリペプチドの血清半減期などのPKプロファイルを改善し、また、サイトカインアゴニストポリペプチドを腫瘍部位などの体内の標的部位にターゲティングできる。
【0068】
1. 抗原結合担体部分
担体部分は抗体またはその抗原結合フラグメント、あるいはイムノアドヘシンであり得る。ある実施態様において、抗原結合部分は2個の重鎖と2個の軽鎖を有する完全長の抗体、Fabフラグメント、Fab’フラグメント、F(ab’)フラグメント、Fvフラグメント、ジスルフィド結合Fvフラグメント、単一ドメイン抗体、ナノボディまたは一本鎖可変フラグメント(scFv)である。ある実施態様において、抗原結合部分は二特異的抗原結合部分であり、2個の異なる抗原または同じ抗原上の2個の異なるエピトープに結合できる。抗原結合部分は、サイトカインアゴニストポリペプチドにさらなる治療効果または相乗的な治療効果をもたらし得る。
【0069】
IL-2ポリペプチドおよびそのマスクは抗原結合部分の軽鎖および/または重鎖のN末端またはC末端に融合し得る。例として、IL-2ポリペプチドおよびそのマスクは抗体重鎖またはその抗原結合フラグメントあるいは抗体軽鎖またはその抗原結合フラグメントと融合し得る。ある実施態様において、IL-2ポリペプチドは抗体の重鎖の一方または両方のC末端に融合され、サイトカインのマスクは開裂不可能なまたは開裂可能なペプチドリンカーを介してサイトカイン部分の他方の末端に融合される。ある実施態様において、IL-2ポリペプチドが抗体の一方の重鎖のC末端に融合しており、サイトカイン’マスクが開裂不可能なまたは開裂可能なペプチドリンカーを介して抗体の他方の重鎖のC末端に融合しており、2個の重鎖は、2個の異なる重鎖の特異的な対合を可能にする変異を含む。
【0070】
ヘテロ二量体を形成する戦略はよく知られる(例えば、Spies et al., Mol Imm. (2015) 67(2)(A):95-106参照)。例えば、単離IL-2融合分子の2個の重鎖ポリペプチドは「ノブ・イントゥ・ホール」変異によって安定したヘテロ二量体を形成し得る。「ノブ・イントゥ・ホール」変異は抗体重鎖のヘテロ二量体の形成を促進するために行われ、一般的に二特異的抗体を作るために使用される(例えば、米国特許第8,642,745号参照)。例えば、抗体のFcドメインは、「ノブ鎖」のCH3ドメインにおけるT366Wの変異と、「ホール鎖」のCH3ドメインにおけるT366S、L368Aおよび/またはY407Vの変異から構成され得る。CH3ドメイン間に追加の鎖間ジスルフィドブリッジを使用することもでき、例えば、「ノブ鎖」のCH3ドメインにY349C変異を導入し、「ホール鎖」のCH3ドメインにE356CまたはS354C変異を導入できる(例えば、Merchant et al., Nature Biotech (1998) 16:677-81参照)。他の実施態様において、抗体部分は2個のCH3ドメインのうち一方のCH3ドメインにY349Cおよび/またはT366Wの変異があり、他方のCH3ドメインにE356C、T366S、L368Aおよび/またはY407Vの変異があってもよい。特定の実施態様において、抗体部分は2個のCH3ドメインのうち一方のCH3ドメインにY349Cおよび/またはT366Wの変異があり、他方のCH3ドメインにS354C(またはE356C)、T366S、L368Aおよび/またはY407Vの変異があり、一方のCH3ドメインにさらなるY349Cの変異があり、他方のCH3ドメインにさらなるE356CまたはS354Cの変異があり、鎖間ジスルフィドブリッジを形成し得る(ナンバリングは常にKabatのEU indexに従う;Kabat; Kabat et al., “Sequences of Proteins of Immunological Interest,” 5th ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1991))。EP1870459A1に記載されるもののような他のノブ・イントゥ・ホール技術をこれに代えてまたはこれに加えて使用できる。このように、抗体部位のノブ・イントゥ・ホール変異の別の例は、「ノブ鎖」のCH3ドメインにR409D/K370E変異、「ホール鎖」のCH3ドメインにD399K/E357K変異を有することである(EUナンバリング)。
【0071】
ある実施態様において、単離IL-2融合分子の抗体部分はそのFcドメインにL234AおよびL235A(「LALA」)変異を含む。LALA変異は補体の結合および固定ならびにFcγ依存性のADCCを排除する(例えば、Hezareh et al. J. Virol.(2001) 75(24):12161-8)。さらに、LALA変異はノブ・イントゥ・ホール変異に加えて、抗体部分にも存在する。
【0072】
ある実施態様において、抗体部分はFcドメインのM252Y/S254T/T256E(「YTE」)変異を含む。YTEの変異により、IgGの血清半減期、組織分布、活性を同時に調節できる(Dall’Acqua et al., J Biol Chem. (2006) 281(33): 23514-24; and Robbie et al., Antimicrob Agents Chemother. (2013) 57(12):6147-53参照)。さらなる実施態様において、YTE変異はノブ・イントゥ・ホール変異に加えて、抗体部分に存在する。特定の実施態様において、抗体部位はYTE、LALA、ノブ・イン・トゥ・ホール変異またはそれらの組み合わせを有する。
【0073】
ある実施態様において、抗原結合部分はIL-1β、IL-1β受容体、IL-4、IL-4受容体、IL-6、IL-6受容体、IL-13、IL-13受容体、IL-17、IL-17受容体、IL-23、IL-23受容体、TNFαまたはTNFα受容体に結合する。
【0074】
2. その他の担体部分
本発明の単離IL-2融合分子には他の非抗原結合担体部分を使用できる。例えば、抗体のFcドメイン(例えば、ヒトIgG、IgG、IgG、IgGのFc)、ポリマー(例えば、PEG)、アルブミン(例えば、ヒトアルブミン)またはそのフラグメントまたはナノ粒子を使用できる。
【0075】
例として、IL-2ポリペプチドとそのアンタゴニストを抗体のFcドメインに融合させ、Fc融合タンパク質を形成させ得る。ある実施態様において、IL-2ポリペプチドはFcドメインポリペプチド鎖の一方のC末端またはN末端に(直接またはペプチドリンカーを介して)融合しており、サイトカインマスクは開裂不可能なまたは開裂可能なペプチドリンカーを介して他方のFcドメインポリペプチド鎖のC末端またはN末端に融合しており、2個のFcドメインポリペプチド鎖は2個の異なるFc鎖の特異的な対合を可能にする変異を含む。ある実施態様において、Fcドメインは上記ノブ・イントゥ・ホール変異を含む。さらなる実施態様において、Fcドメインは上記YTEおよび/またはLALA変異も含み得る。ある実施態様において、FcドメインはN297(EUナンバリング)での変異を含む。
【0076】
単離IL-2融合分子の担体部分はアルブミン(例えば、ヒト血清アルブミン)またはそのフラグメントから構成され得る。ある実施態様において、アルブミンまたはアルブミンフラグメントは、ヒト血清アルブミンまたはそのフラグメントと約85%以上、約90%以上、約91%以上、約92%以上、約93%以上、約94%以上、約95%以上、約96%以上、約97%以上、約98%以上、約99%以上である。約93%以上、約94%以上、約95%以上、約96%以上、約97%以上、約98%以上、約99%以上、約99.5%以上または99.8%以上同一である。
【0077】
ある実施態様において、担体部分は約10個以上、20個以上、30個以上40個以上、50個以上、60個以上、70個以上、80個以上、90個以上、100個以上、120個以上、140個以上、160個以上、180個以上、200個以上、250個以上、300個以上、350個以上、400個以上、450個以上、500個以上、550個以上のアミノ酸長を有するアルブミンフラグメント(例えば、ヒト血清アルブミンフラグメント)から構成される。ある実施態様において、アルブミンフラグメントは長さが約10アミノ酸から約584アミノ酸の間(長さが約10から約20、約20から約40、約40から約80、約80から約160、約160から約250、約250から約350、約350から約450または約450から約550アミノ酸の間など)である。ある実施態様において、アルブミンフラグメントはSudlow IドメインもしくはそのフラグメントまたはSudlow IIドメインもしくはそのフラグメントを含む。
【0078】
D. 単離融合分子のリンカー成分
IL-2ポリペプチドはペプチドリンカーを使用してまたは使用せずに、担体部分に融合され得る。ペプチドリンカーは開裂可能または開裂不可能であり得る。ある実施態様において、サイトカイン部分はペプチドリンカーを介して担体に融合しており、該ペプチドリンカーは配列番号40~46および55~57から選択される。特定の実施態様において、ペプチドリンカーは配列番号42、44、45、46、55、56または57のアミノ酸配列を含む。マスキング部分は開裂不可能なまたは開裂可能なリンカーを介してまたはペプチドリンカーなしで、サイトカイン部分または担体に融合されてもよい。開裂可能なリンカーは1個以上(例えば、2個または3個)の開裂可能な部位(CM)を含み得る。各CMはレグメイン、プラスミン、TMPRSS-3/4、MMP-2、MMP-9、MT1-MMP、カテプシン、カスパーゼ、ヒト好中球エラスターゼ、β-セクレターゼ、uPA、PSAから選択される酵素またはプロテアーゼの基質となり得る。ある実施態様において、マスキング部分はペプチドリンカーを介して担体に融合されており、該ペプチドリンカーは配列番号40~46、55、56および57から選択される。特定の実施態様において、ペプチドリンカーは配列番号42、44、45、46、55、56または67のアミノ酸配列を含む。ある実施態様において、該ペプチドリンカーは少なくとも10個のアミノ酸、12個のアミノ酸、14個のアミノ酸、16個のアミノ酸、17個のアミノ酸、18個のアミノ酸、19個のアミノ酸、20個のアミノ酸、21個のアミノ酸、22個のアミノ酸、25個のアミノ酸、27個のアミノ酸または30個のアミノ酸を含む。
【0079】
IL-2ポリペプチド、サイトカインマスク、担体、ペプチドリンカーおよび単離IL-2融合分子の具体的な非限定的な例は以下の配列のセクションに示される。さらに、本発明の単離融合分子は周知の組換え技術により産生され得る。例えば、単離融合分子のポリペプチド鎖のコード化配列を含む1以上の発現ベクターを哺乳類宿主細胞(例えば、CHO細胞)にトランスフェクトし、コード化配列の発現および発現されたポリペプチドの単離IL-2融合分子複合体への組み立てを可能にする条件で細胞を培養し得る。
【0080】
医薬組成物
本発明の単離IL-2融合分子(すなわち、医薬品有効成分(API))を含む医薬組成物は所望の純度を有するAPIを、1以上の任意の薬学的に許容される賦形剤(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences, 16th Edition., Osol, A. Ed.(1980)参照)と混合し、凍結乾燥製剤または水溶液の形で調製する。薬学的に許容される賦形剤(または担体)は採用される用量および濃度において、一般的に対象に無害であり、例えば、リン酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、ヒスチジン、酢酸塩などの無機または有機酸またはその塩を含む緩衝液、アスコルビン酸またはメチオニンなどの酸化防止剤、防腐剤(例えば、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、ヘキサメトニウムクロリド、ベンザルコニウムクロリド、塩化ヘキサメトニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、フェノール、ブチルまたはベンジルアルコール、メチルまたはプロピルパラベンなどのアルキルパラベン、カテコール、レゾルシノール、シクロヘキサノール、3-ペンタノール、m-クレゾールなど、低分子量(約10残基以下)のポリペプチド、血清アルブミン、ゼラチン、免疫グロブリンなどのタンパク質、ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、リジンなどのアミノ酸、スクロース、グルコース、マンノース、デキストリンなどの単糖類、二糖類および他の炭水化物、EDTAなどのキレート剤、スクロース、マンニトール、トレハロース、ソルビトールなどの糖類、ナトリウムなどの塩形成対イオン、金属錯体(例えば、Zn-タンパク質錯体)および/またはポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤を含むが、これらに限定されない。
【0081】
緩衝液は特に安定性がpHに依存する場合、治療効果を最適化する範囲でpHを制御するために使用される。緩衝液は約50mM~約250mMの範囲の濃度で存在することが好ましい。本発明で使用するのに適した緩衝液にはクエン酸塩、リン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、グルコン酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、酢酸塩など、有機および無機の酸およびその塩がある。さらに、緩衝液はトリスのようなヒスチジンとトリメチルアミンの塩から構成され得る。
【0082】
防腐剤は微生物の繁殖を抑えるために添加され、通常0.2%~1.0%(w/v)の範囲で存在する。本発明で使用するのに適した防腐剤は、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、ヘキサメトニウムクロリド、ベンザルコニウムハライド(塩化物、臭化物、ヨウ化物など)、ベンゼトニウムクロリド、チメロサール、フェノール、ブチルアルコールまたはベンジルアルコール、メチルパラベンまたはプロピルパラベンなどのアルキルパラベン、カテコール、レゾルシン、シクロヘキサノール、3-ペンタノールおよびm-クレゾールを含む。
【0083】
「安定剤」と呼ばれることもある等張化剤は、組成物中の液体の張性を調整または維持するために存在する。タンパク質や抗体のような大型の帯電生体分子に使用する場合、アミノ酸の側鎖の帯電基と相互作用して、分子間および分子内の相互作用の可能性を減少させることができるため、しばしば「安定剤」と呼ばれる。等張化剤は他の成分との相対的な量を考慮して、0.1%~25%、より好ましくは1%~5%の範囲で含有できる。好ましい等張化剤は、グリセリン、エリスリトール、アラビトール、キシリトール、ソルビトールおよびマンニトールなどの多価の糖アルコール、好ましくは3価以上の糖アルコールを含む。
【0084】
非イオン性界面活性剤または洗剤(「湿潤剤」としても知られる)は、治療剤の可溶化を助けるだけでなく、製剤がせん断面ストレスに曝される撹拌での凝集によって生じる活性治療用タンパク質や抗体の変性から保護するためにも使用する。非イオン性界面活性剤は約0.05mg/ml~約1.0mg/ml、好ましくは約0.07mg/ml~約0.2mg/mlの範囲で使用する。
【0085】
適切な非イオン性界面活性剤は、ポリソルベート(20、40、60、65、80など)が挙げられる。ポリオキサマー(184、188など)、プルロニック(登録商標)ポリオール、トリトン(登録商標)、ポリオキシエチレンソルビタンモノエーテル(トゥイーン(登録商標)-20、トゥイーン(登録商標)-80など)、ラウロマクロゴール400、ステアリン酸ポリオキシル40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油10、50および60、モノステアリン酸グリセロール、ショ糖脂肪酸エステル、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース。使用できるアニオン性洗剤は、ラウリル硫酸ナトリウム、スルホコハク酸ジオクチルナトリウムおよびスルホン酸ジオクチルナトリウムを含む。カチオン系洗浄剤は、塩化ベンザルコニウムまたは塩化ベンゼトニウムを含む。
【0086】
医薬担体、賦形剤、希釈剤は、意図された投与経路および標準的な製薬慣行を考慮して選択し得る。医薬組成物は、さらに、あらゆる適切な結合剤、滑沢剤、懸濁剤、コーティング剤、可溶化剤を含み得る。
【0087】
種々の送達系に応じて、種々の組成/製剤化要素が存在し得る。例えば、本発明で有用な医薬組成物はミニポンプを使用して投与されるように製剤化でき、粘膜経路、例えば、吸入用の鼻腔スプレーやエアロゾル、摂取可能溶液として投与されるように製剤化できり、非経口、例えば、静脈内、筋肉内、皮下などの経路で送達するために、注射剤の形で製剤化される。
【0088】
ある実施態様において、本発明の医薬組成物は凍結乾燥されたタンパク質製剤である。他の実施態様において、医薬組成物は水性液体製剤であり得る。
【0089】
処置方法
IL-2融合分子は炎症性疾患や自己免疫疾患の処置に用い得る。ある実施態様において、対象における疾患(自己免疫疾患など)を処置する方法は、ここに開示する単離IL-2融合分子の有効量を対象に投与することを含む。ある実施態様において、炎症性または自己免疫性疾患は喘息、糖尿病(例えば、I型糖尿病または潜在性自己免疫性糖尿病)、ループス(例えば、全身性エリテマトーデス)、関節炎(例えば、リウマチ性関節炎)、アレルギー、臓器移植片拒絶反応、GVHD、アジソン病、強直性脊椎炎、抗糸球体基底膜病、自己免疫性肝炎、皮膚炎、グッドパスチャー症候群グッドパスチャー症候群、多発性血管炎を伴う肉芽腫症、バセドウ病、ギラン・バレー症候群、橋本甲状腺炎、溶血性貧血、ヘノッホ・シェーンライン紫斑病(HSP)、若年性筋炎、川崎病、炎症性腸疾患(例えばクローン病、潰瘍性大腸炎)、多発性硬化症、重症筋無力症、視神経脊髄炎、PANDAS、乾癬、乾癬性関節炎、シェーグレン症候群、全身性強皮症、全身性硬化症、血小板減少性紫斑病、ぶどう膜炎、血管炎、白斑、フォークト・小柳・原田病からなる群から選択される。
【0090】
一般的に、本発明の医薬組成物の投与量および投与経路は標準的な薬学実施要領に従って、対象の体格および状態に応じて決定される。ある実施態様において、医薬組成物は経口、経皮、吸入、静脈内、動脈内、筋肉内、創傷部位への直接塗布、手術部位への塗布、腹腔内、座薬、皮下、皮膚内、経皮、噴霧、胸腔内、心室内、関節内、眼内、頭蓋内または鼻腔内を含む何れかの経路で対象に投与される。ある実施態様において、本組成物は対象に静脈内投与される。
【0091】
ある実施態様において、医薬組成物の投与形態は単回投与または反復投与である。ある実施態様において、投与は1日1回、1日2回、1日3回または1日4回以上、対象に行われる。ある実施態様において、約1回以上(約2回、3回、4回、5回、6回または7回以上など)の投与を1週間で行う。ある実施態様において、医薬組成物は毎週、2週間に1回、3週間に1回、4週間に1回、3週間のうち2週間は毎週または4週間のうち3週間は毎週投与される。ある実施態様において、数日、数週間、数ヶ月または数年にわたって複数回投与される。ある実施態様において、投与回数は1回以上(約2回、3回、4回、5回、7回、10回、15回または20回以上など)である。
【0092】
本明細書で特に定義されていなければ、本発明に関連して使用される科学技術用語は、当業者が一般的に理解する意味を持つものとする。例示的な方法および材料を以下に説明するが、本明細書に記載されたものと同様のまたは同等の方法および材料も、本発明の実施または試験に使用できる。矛盾が生じるなら、本明細書の記載(定義を含めて)が優先する。一般的に、本明細書に記載される細胞および組織培養、分子生物学、免疫学、微生物学、遺伝学、分析化学、有機合成化学、医学および薬化学、タンパク質および核酸化学、ハイブリダイゼーションなどの技術に関連して使用される命名は当技術分野で周知のものであり、一般的に使用されるものである。酵素反応および精製法は製造者の仕様に従って、当技術分野で一般的に行われている方法またはここに記載される方法で実施される。さらに、文脈上特段の要請がなければ、単数形の用語は複数形を含み、複数形の用語は単数形を含むものとする。本明細書および実施態様を通じて、「有する」および「含む」という表現および「有し」、「有して」、「包含する」または「含んで」などの変形は、記載された整数または整数群を含むが、他の整数または整数群を除外しないと理解される。本明細書に記載される本発明の態様およびバリエーションには「からなる」および/または「本質的にからなる」の態様およびバリエーションが含まれることが理解されるべきである。ここに記載されるすべての出版物およびその他の文献は、引用によりその全体がここに組み込まれる。ここでは多数の文書を引用するが、この引用はこれらの文書が当技術分野における一般的な知識の一部を形成することを認めるものではない。
【0093】
例示的な実施態様
本発明のさらなる特定の実施態様を以下に説明する。これらの実施態様は本発明に記載される組成物および方法を説明することを意図しており、本発明の範囲を限定することを意図していない。
1. 1以上の点変異を含むIL-2Rβ-ECDの変異体であって、該IL-2Rβ-ECDの変異体が野生型のものに比べて熱安定性が向上する、IL-2Rβ-ECDの変異体。
2. Δ1~5(最初の5個のアミノ酸の欠失)、F11、V21、L28、W38、L51、P52、V53、I63、P67、I77、V88、V92、M93、I95、M107、I110、V115、P156、L157、Q162、Q164、W166、P174、L187、F191、P196、P200、P207、W90、H150、W152、W166、W194およびW197(ナンバリングは配列番号3に従う)から選択される位置に1以上の変異を有する、実施態様1のIL-2Rβ-ECD変異体。
3. 以下の:
a. F11およびF191、
b. L51、P52およびV53、
c. V92、M93、I95、
d. M107、P196、I110および
e. P156およびL157
の群(ナンバリングは配列番号3に従う)から選択された位置の変異を含む、実施態様1のIL-2Rβ-ECD変異体。
4. 該疎水性アミノ酸またはアミノ酸がS、G、N、TおよびQから選択される親水性アミノ酸またはアミノ酸に変異する、実施態様2または3に記載のIL-2Rβ-ECD変異体。
5. 以下の:
a. F11SおよびF191G、
b. L51S、P52GおよびV53S、
c. V92S、M93G、I95G、
d. M107G、P196S、I110G、および
e. P156SおよびL157G、
f. W166N、
g. Q164E. W166N、V115S
i. W152N、
j. W152N、W166N
k. V92S
l. W166N、V92S
m. L157S、
n. W165N、W157S
の群(ナンバリングは配列番号3に従う)から選択される変異を含む、実施態様3のIL-2Rβ-ECD変異体。
6. 配列番号47、48および49から選択されるアミノ酸配列を含む、実施態様1のIL-2Rβ-ECD変異体。
7. 炎症性疾患および自己免疫疾患の処置に有用な単離IL-2融合分子であって、サイトカイン部分およびマスキング部分を含み、該サイトカイン部分がIL-2ポリペプチドまたはIL-2ムテインを含み、該マスキング部分がIL-2Rβの細胞外ドメイン(ECD)またはその機能的アナログもしくは変異体を含み;そして該融合分子がインビトロアッセイにおいて、他のT細胞またはNK細胞と比較してT調節細胞を優先的に刺激する、単離IL-2融合分子。
8. 該融合分子がCTLL-2細胞増殖アッセイにおいて約1nM未満のEC50値を有する、実施態様7に記載の単離IL-2融合分子。
9. 該融合分子がCTLL-2細胞増殖アッセイにおいて約0.1nM未満のEC50値を有する、実施態様7に記載の単離IL-2融合分子。
10. 該マスキング部分が実施態様1~6の何れかに記載のIL-2Rβ-ECDの変異体を含む、実施態様7~9の何れかに記載の単離融合分子。
11. IL-2Rγの細胞外ドメイン(ECD)またはその機能的アナログをさらに含む、実施態様7~10の何れかに記載の単離融合分子。
12. 担体をさらに含む、実施態様7~11の何れかに記載の単離融合分子。
13. 該マスキング部分が開裂可能または非開裂可能なペプチドリンカーを介して担体部分に連結される、実施態様12に記載の単離融合分子。
14. 該IL-2ポリペプチドまたはIL-2ムテインが配列番号1と少なくとも95%同一のアミノ酸配列を有し、該IL-2Rβ ECDまたはその機能的アナログもしくは変異体が配列番号3と少なくとも95%同一のアミノ酸配列を有する、実施態様7~13の何れかに記載の単離融合分子。
15. 該IL-2ムテインが配列番号2に示されるアミノ酸配列を有する、実施態様7~13の何れかに記載の単離融合分子。
16. 該IL-2ムテインがL12G、L12K、L12Q、L12S、Q13G、E15A、E15G、E15S、H16A、H16D、H16G、H16K、H16M、H16N、H16R、H16S、H16T、H16V、H16Y、L19A、L19D、L19E、L19G、L19N、L19R、L19S、L19T、L19V、D20A、D20E、D20F、D20G、D20T、D20W、M23R、R81A、R81G、R81S、R81T、D84A、D84E、D84G、D84I、D84M、D84Q D84R,D84S、D84T、S87R、N88A、N88D、N88E、N88F、N88G、N88M、N88R、N88S、N88V、N88W、N90T、N90S、V91D、V91E、V91G、V91S、I92K、I92R,I92T、I92S、E95G、Q126E、Q126F、Q126G、Q126I、Q126L、Q126M、Q126N、Q126R、Q126VおよびQ126Y(ナンバリングは配列番号1に従う)から選択される少なくとも1つの変異を有する、実施態様7~13の何れかに記載の単離融合分子。
17. 該担体部分がPEG分子、アルブミン、アルブミンフラグメント、抗体Fcドメインまたは抗体もしくはその抗原結合フラグメントから選択される、実施態様7~16の何れかに記載の単離融合分子。
18. 担体部分がN297での変異および/または変異L234AおよびL235A(「LALA」)(EUナンバリング)を有する抗体Fcドメインを含む、実施態様17に記載の単離融合分子。
19. 担体部分がノブ・イントゥ・ホール変異を含む抗体Fcドメインを含み、サイトカイン部分およびマスキング部分が抗体Fcドメインの異なるポリペプチド鎖に融合する、実施態様17または18に記載の単離融合分子。
20. サイトカイン部分およびマスキング部分がFcドメインの2個の異なるポリペプチド鎖のC末端または抗体の2個の異なる重鎖のC末端に融合される、実施態様19の単離融合分子。
21. 担体が抗体のFcドメインであり、サイトカイン部分とマスキング部分がFcドメインの2個の異なるポリペプチド鎖のN末端に融合する、請求項19に記載の単離融合分子。
22. 担体部分が抗体のFcドメインであり、F1-L1-E1、F1-L1-E1-L2-E2およびF1-L1-E2-L2-E1から選択される分子式を含む第1ポリペプチド鎖および分子式F2-L3-Cを含む第2ポリペプチド鎖を含み、ここで、該F1およびF2はヘテロ二量体を形成するFcドメインのサブユニットであり、L1、L2およびL3はペプチドリンカーであり、E1はIL-2Rβ ECDまたはその機能的アナログであり、E2はIL-2Rγ ECDまたはその機能的アナログであり、Cはサイトカイン部分である、実施態様12に記載の単離融合分子。
23. 担体部分が抗体のFcドメインであり、E1-L1-F1、E1-L1-E2-L2-F1およびE2-L1-E1-L2-F1から選択される分子式を含む第1ポリペプチド鎖および分子式C-L3-F2を含む第2ポリペプチド鎖を含み、ここで、該F1およびF2はヘテロ二量体を形成するFcドメインのサブユニットであり、L1、L2およびL3はペプチドリンカーであり、E1はIL-2Rβ ECDまたはその機能的アナログであり、E2はIL-2Rγ ECDまたはその機能的アナログであり、Cはサイトカイン部分である、実施態様12に記載の単離融合分子。
24. 担体部分が抗体Fcドメインであり、以下の:
a. F1-L1-E1およびF2-L2-C-L3-E2、
b. F1-L1-E1およびF2-L2-E2-L3-C、
c. F1-L1-E2およびF2-L2-C-L3-E1、
d. F1-L1-E2およびF2-L2-E1-L3-C、
e. E1-L1-F1およびE2-L2-C-L3-F2、
f. E1-L1-F1およびC-L2-E2-L3-F2、
g. E2-L1-F1およびE2-L2-C-L3-F2、および
h. E2-L1-F1およびC-L2-E1-L3-F2;
組から選択される分子式を含む第1ポリペプチド鎖および第2ポリペプチド鎖を含み、ここで、該F1およびF2はヘテロ二量体を形成するFcドメインのサブユニットであり、L1、L2およびL3はペプチドリンカーであり、E1はIL-2Rβ ECDまたはその機能的アナログであり、E2はIL-2Rγ ECDまたはその機能的アナログであり、Cはサイトカイン部分である、実施態様12に記載の単離融合分子。
25. 該IL-2Rβ ECDが配列番号3のアミノ酸配列と少なくとも95%同一のアミノ酸配列を有し、該IL-2Rγ ECDが配列番号6に示すアミノ酸配列を有し、該サイトカイン部分が配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも95%同一のアミノ酸配列を有するIL-2ムテインを含む、実施態様22~24の何れかに記載の単離融合分子。
26. 実施態様21~25の何れかに記載の単離融合分子であって、Fcドメインがノブインホール変異を含むことを特徴とする単離融合分子。
27. ノブ・イントゥ・ホール変異がFcドメインのポリペプチド鎖上のT366Y「ノブ」変異およびFcドメインの他方のポリペプチドにおけるY407T「ホール」変異(EUナンバリング)を含む、実施態様18~26の何れかの単離融合分子。
28. ノブ・イントゥ・ホール変異が「ノブ鎖」のCH3ドメインにおけるY349Cおよび/またはT366Wの変異および「ホール鎖」のCH3ドメインにおけるE356C、T366S、L368Aおよび/またはY407V(EUナンバリング)の変異を含む、実施態様18~21および26の何れかの単離融合分子。
29. 担体部分が抗体のFcドメインであり、融合分子が配列番号8~11、28、29および30から選択されたものと少なくとも99%同一のアミノ酸配列を有する第1ポリペプチド鎖および配列番号16~21から選択されたものと少なくとも99%同一のアミノ酸配列を有する第2ポリペプチド鎖を含む、実施態様12に記載の単離融合分子。
30. 担体部分が抗体Fcドメインであり、融合分子が配列番号12~15、31、32および33から選択されたものと少なくとも99%同一のアミノ酸配列を有する第1ポリペプチド鎖と、配列番号22~27から選択されたものと少なくとも99%同一のアミノ酸配列を有する第2ポリペプチド鎖を含む、実施態様12に記載の単離融合分子。
31. 該FcドメインがN297AまたはN297G(EUナンバリング)の変異をさらに含む、実施態様29または30に記載の単離融合分子。
32. 該担体がIgG4 Fcであり、ノブ・イントゥ・ホール変異も含む、実施態様12に記載の単離融合分子である。
33. 配列番号50、51および52から選択されるものとして少なくとも99%同一または100%同一のアミノ酸配列を有する第1ポリペプチド鎖および配列番号53および54から選択されるものとして少なくとも99%同一または100%同一のアミノ酸配列を有する第2ポリペプチド鎖を含む、実施態様32に記載の単離融合分子。
34. 該ペプチドリンカーL1、L2およびL3が独立して、配列番号40~46、55~57、59および60から選択されるアミノ酸配列を有する、実施態様22~24の何れかに記載の単離融合分子。
35. 該ペプチドリンカーL1、L2およびL3の少なくとも1つが20~44個のアミノ酸を含むアミノ酸配列を有する、実施態様22~24の何れかに記載の単離融合分子。
36. 該融合分子がα、βおよびγサブユニットを有する高親和性IL-2受容体(IL-2Rαβγ)に、βおよびγサブユニットで形成される中親和性IL-2受容体(IL-2Rβγ)に結合するよりも、少なくとも100倍強い親和性で結合する、実施態様7~11の何れかに記載の単離融合分子。
37. 37℃の表面プラズモン共鳴アッセイで測定された約5nM以上の結合解離平衡定数(K)でIL-2Rβγに結合する、実施態様7~11の何れかに記載の単離融合分子。
38. FOXP3陽性の制御T細胞の成長または生存をインビトロで促進する、実施態様7~37の何れかに記載の単離融合分子。
39. 機能的なIL-2受容体複合体を構成するエクスビボFOXP3陽性T細胞においてSTAT5のリン酸化を誘導するが、FOXP3陰性T細胞においてSTAT5のリン酸化を誘導する能力が低下する、実施態様7~37の何れかに記載の単離融合分子。
40. IL-2Rαまたはその機能的アナログの細胞外ドメイン(ECD)をさらに含み;該IL-2RαECDまたはその機能的アナログが開裂可能なペプチドリンカーを介して融合分子に連結される、実施態様7~11の何れかに記載の融合分子。
41. 該IL-2RαECDまたはその機能的アナログが配列番号7に示されるものと少なくとも95%同一のアミノ酸配列を含む、実施態様40に記載の融合分子。
42. 実施態様7~41の何れかに記載の融合分子または実施態様1~6の何れかに記載のIL-2Rβ-ECD変異体をコードする1以上のポリヌクレオチド。
43. 実施態様42の1以上のポリヌクレオチドを含む、1以上の発現ベクター。
44. 実施態様43のベクターを含む宿主細胞。
45. 請求項44に記載の宿主細胞を、融合分子の発現を可能にする条件下で培養し、融合分子を単離することを含む、実施態様7~41の何れかの単離融合分子の製造方法。
46. 実施態様7~41の何れかに記載のキメラ分子および薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物。
47. 対象の炎症性疾患または自己免疫疾患を治療する方法であって、それを必要とする対象に、治療有効量の実施態様7~41の何れかに記載のキメラ分子を投与することを含む、方法。
48. 対象の炎症性疾患または自己免疫疾患を治療する方法であって、その治療を必要とする対象に、治療有効量の実施態様46の医薬組成物を投与することを含む、方法。
49. 炎症性疾患または自己免疫疾患が喘息、糖尿病、関節炎、アレルギー、臓器移植片拒絶および移植片対宿主病からなる群から選択される、実施態様48に記載の方法。
【実施例
【0094】
一過性トランスフェクション
HEK293細胞を用いた一過性トランスフェクションではPEI(ポリエチレンイミン)を用いて3×10細胞/mLのフリースタイルHEK293細胞に発現プラスミドを2.5~3μg/mLで共導入した。Fcベースの単離IL-2融合分子について、Fc-IL-2ムテイン融合ポリペプチドとFcマスキング部分融合ポリペプチドの比率は1:2比であった。抗体ベースの単離IL-2融合分子の場合、ノブ重鎖(IL-2アゴニストポリペプチドを含む)およびホール重鎖(マスキング部分を含む)と軽鎖DNAの比率は2:1:2モル比であった。トランスフェクション後6日目に、9,000rpmで45分間遠心分離後、0.22μM濾過により細胞培養物を回収した。
【0095】
ExpiCHO細胞を用いた一過性のトランスフェクションについて、Expifectamine CHO Reagentを用いて、6×10細胞/mL ExpiCHO-S細胞に発現プラスミドを1~2μg/mLで共トランスフェクトした。982 D1についてはノブ重鎖のIL-2ムテイン融合ポリペプチドとホール重鎖(βマスキング部分ポリペプチドを含む)の比率は1:4であった。同様に、982 D2については、ノブ重鎖のIL-2Eムテインポリペプチドとホール重鎖(βマスキング部分ポリペプチドを含む)の比率が1:4であった。12,000rpmで40分間遠心分離した後、0.2μMまたは0.45μM濾過を行い、トランスフェクションから約7日後に細胞培養物を採取した。
【0096】
タンパク質の精製
タンパク質IL-2融合分子(タンパク質)の精製はプロテインAアフィニティークロマトグラフィーCaptivA(登録商標)樹脂(Repligen, Waltham, MA)を用いて行った。982 Ref、982 C1および982 C2のサンプルについてはSepharose(登録商標) Q FF樹脂またはSepharose(登録商標) Q HP樹脂を用いた陰イオン交換クロマトグラフィーをフロースルーモードで実施し、続いてCaptoTM MMC ImpRes樹脂を用いた第3のカラムステップで、さらなる精製を行った。982 D1および982 D2のサンプルではSepharose(登録商標) Q HP樹脂を用いた陰イオン交換クロマトグラフィーをフロースルーモードで実施し、続いてCaptoTM SP ImpRes樹脂を用いた3回目のカラムステップで、さらなる精製を行った。Sepharose(登録商標)およびCaptoTM樹脂はすべてGE Healthcare Life Sciences(現Cytiva, Marlborough, MA)から取り寄せた。このサンプルはインビボ試験に先立ち、SEC-HPLC分析により98%以上の純度に精製された。サンプルは20mMヒスチジン、7%スクロース、0.03%ポリソルベート-20で製剤化された。サンプルは使用するまで-80℃のフリーザーで保存した。
プロテアーゼ処理
【0097】
0.1μg/μLのHuman MMP2(Sino Biological #10082-HNAH)を1mMの酢酸p-アミノフェニル水銀(APMA, Sigma #A-9563)で活性化した。200μgのIL-2融合分子を、2mMのCaClおよび10μMのZnClを含むHBS緩衝液(20mM HEPES、150mM NaCl、pH7.4)中で、0.5μgのヒトMMP2と37℃で16時間(オーバーナイト)インキュベートした。
【0098】
SDS-PAGE分析
10μLの培養上清または20μgの精製タンパク質サンプルを、還元試薬を含むまたは含まないBoltTM LDS Sample Buffer(Novex)と混合した。70℃で3分間加熱した後、NuPAGETM 4~12%BisTris Gel(Invitrogen)に負荷した。このゲルをNuPAGETM MOPS SDS Running buffer(Invitrogen)で200V、40分間流した後、クーマシーブルーで染色した。
【0099】
図8は単離IL-2融合分子JR3.116.5の活性化前(非還元および還元)および上記プロテアーゼ処理による活性化後のSDS-PAGE分析の結果を示す。JR3.116.5は配列番号12および23にそれぞれ示されるアミノ酸配列を持つ2個のポリペプチド鎖を含み、図1Bに示される構造を有する。データは、プロテインAカラムのプールの大部分はJR3.116.5の意図したヘテロ二量体分子であることを示した。ホール鎖のホモ二量体(配列番号23)の小さなバンドがあるように見えた。驚くべきことに、不対鎖またはあらゆるノブ鎖のホモ二量体の明らかなバンドはなかった。サイトカイン部分とマスク部位の相互作用が、ノブ鎖(配列番号12)とホール鎖(配列番号23)の正しいヘテロ二量化を促進した可能性がある。
【0100】
CTLL-2アッセイ
CTLL-2細胞はL-グルタミン、10%ウシ胎児血清、10%非必須アミノ酸、10%ピルビン酸ナトリウム、55μMのβ-メルカプトエタノールを添加したRPMI1640培地で培養した。CTLL-2細胞は非接着性で、100ng/mLのIL-2を添加した培地で5×10~1×10細胞/mLに維持した。一般的に、細胞を週2回分割した。バイオアッセイでは継代後48時間以上の細胞を使用するのが最良であった。
【0101】
サンプルは96ウェルプレートで50μL/ウェルで2倍濃度に希釈した。IL-2標準液は20ng/mL(2倍濃度)から3倍の連続希釈で12ウェル力価測定した。サンプルの力価を適宜試験した。CTLL-2細胞を5回洗浄してIL-2を除去した後、5000細胞/ウェルを50μLに分注し、サンプルを用いて一夜または少なくとも18時間培養した。その後、100μL/ウェルのCell Titer Glo試薬(Promega)を加え、発光を測定した。図9にCTLL-2の分析結果を示す。このデータはマスキング部分がJR3.116.5の活性を約20倍も低下させたことを示す。さらに、このマスキング効果は可逆的で、プロテアーゼでマスキング部分を開裂して活性化すると、融合分子の活性が回復する。
【0102】
NK92細胞増殖アッセイ
NK92細胞株は成長と生存にIL-2を必要とする因子依存性の細胞株である。アッセイの前に、NK92細胞を洗浄してIL-2を除去し、成長因子なしで一夜培養した。細胞を回収し、再度洗浄して残留する成長因子を除去した。細胞を4000,000細胞/mLに再懸濁した。その後、細胞(20,000/ウェル)を96ウェルプレートに加えた。抗CD25抗体であるバシリキシマブを10μg/mLでプレートの半分(48ウェル)に添加した。細胞を15分間インキュベートした。IL-2融合分子の連続滴定を50μL/ウェルで各ウェルに加えた。プレートを一夜インキュベートし、発光を測定する前にCell Titer Glo(Promega)を加えた。これにより、細胞の生存率の指標となるATPレベルを測定できた。図11は抗CD25中和抗体の存在下および非存在下での982 D1、982 D1および982 RefのNK92増殖アッセイを示す。対照分子(982 Ref)は置換変異V91KおよびC125Aを有するIL-2を備えたIL-2融合分子である(IL-2部分のナンバリングは配列番号1に従う)。抗CD25抗体を用いたアッセイでは抗CD25抗体を10μg/mLで細胞に添加した。
【0103】
このデータから、982 Refは982 D1および982 D2よりも強いNK92細胞の増殖を促す活性があることが分った。試験したすべての融合分子は中和抗CD25抗体をアッセイに加えたときに最小の活性を示した。
【0104】
結合アッセイ:ラットCD4 T細胞
Sprague-Dawley系雄性ラットから頸静脈カニューレで採取した血液を溶血し、赤血球を除去した。残りの細胞は様々な濃度の試験品982 D1または982 D2と氷上で約60分間インキュベートした。検出抗体であるヤギ抗ヒトIgG Fcγ-APC(Jackson ImmunoResearch Lab. Cat#109-135-170)を各ウェルに加えた。インキュベーションとその後の洗浄の後、ラットCD4T細胞を染色するために、抗ラットCD4抗体(BD Bioscience, cat#554866)を加えた。染色したサンプルを再度洗浄した後、フローサイトメトリーでラットCD4 T細胞に結合するIL-2融合分子を検出した。
【0105】
図12は982 D1および982 D2のラットCD4 T細胞に対する結合活性を示す。N.C.は無関係なAb対照を表す。驚くべきことに、982 D1は982 D2に比べてラットCD4T細胞との結合がわずかに強かったが、その差は有意ではなかった。
【0106】
結合アッセイ:ヒトCD4CD25 T細胞
ヒト末梢血単核細胞(hPBMC)はバフィーコート血液(BioIVTおよびRBC)から分離し、10%FBS(Life Technologies, cat# 10099141)を含む完全培地RPMI1640(Life Technologies, cat# 12633-020)で一夜培養した。翌日、ヒトPBMCを抗ヒトCD3抗体(Biolegend cat#317302)で2日間処理し、完全培地RPMI1640で3回洗浄した後、3日間静置した。洗浄緩衝液で4~5×10細胞/mLの濃度に調整した後、50μLの細胞(200~250K細胞/ウェル)、次いで50μLのIL-2融合分子982 C1、982 D1、982 D2、982 Refを様々な濃度で96ウェルプレートの対応するウェルに充填した。陰性対照として、無関係なAbを同じ様々な濃度範囲で加えた。氷上で約60分間インキュベートした後、細胞を洗浄し、検出抗体であるヤギ抗ヒトIgG Fcγ-APC(Jackson ImmunoResearch Lab.Cat#109-135-170)を加えた。広範囲の洗浄で遊離のIgG Fcγ-APCを除去した後、FITC標識マウス抗ヒトCD4 Ab(BD bioscience, cat#555346)およびPE標識マウス抗ヒトCD25 Ab(BD bioscience, cat#555432)を細胞染色用のウェルに加えた。最後に、Treg(CD4CD25)およびTeff(CD4CD25)細胞へのIL-2融合分子の結合を検出するために、染色したサンプルをフローサイトメトリーで分析した。
【0107】
図13Aおよび13Bは982 C1、982 D1、982 RefのヒトCD4/CD25 T細胞およびCD4/CD25 T細胞への結合を示す。結果は、982 Refは982 D2、982 D1、982 C1に比べて、CD4/CD25 T細胞に対する強い結合親和性を示した。このアッセイではPBMCを抗CD3抗体で2日間処理し、3日間休ませた後、さまざまな濃度のIL-2融合分子982 C1、982 D1、982 Refおよび緩衝液対照(N.C.)と室温で約40分間インキュベートした。抗hFc二次抗体を加え、続いて抗CD4抗体と抗CD25抗体で染色した。染色したサンプルをフローサイトメトリーで分析し、Treg(CD4CD25)およびTeff(CD4CD25)細胞へのIL-2融合分子の結合をそれぞれ検出した。その後、982 C1、982 D1および982 D2を比較したところ、982 D2>982 D1>982 C1の順で結合力が高いことが示された。982 D2のIL-2部分にはCD25との結合を高める2個の点変異がある。これらの結果から、IL-2Rβ-ECDでマスキングすると982 D1の結合が減少し、IL-2Rβ-ECDとIL-2Rγ-ECDのダブルマスキングではマスキングされたIL-2融合分子982 C1の結合がさらに減少することが示唆された。CD4CD25 T細胞でも同じような結合活性の順位が見られたが、982 Ref、982 D1、982 Ref、82 D2および982 C1のMFIはCD4CD25 T細胞に比べて低く、IL-2融合分子がCD4CD25 T細胞に優先的に結合することが示された。
【0108】
T細胞増殖アッセイ
バフィーコート血液から分離したヒトPBMC(BioIVTとRBC)を抗CD3抗体(Biolegend cat#317302)で2日間処理した後、3日間静置した。示された様々な濃度のIL-2融合分子982 C1、982 D1、982 D2、982 RefまたはIL-2と37℃、5%COインキュベーターで3日間インキュベートした。その後、細胞を溶解/固定/透過処理し、マウス抗ヒトCD4-FITC(BD bioscience, cat#555346)、マウス抗ヒトCD25PE(BD bioscience, cat#555432)、マウス抗ヒトKi67 Alex-647(BD bioscience, cat#558615)で抗体染色を行った。洗浄後、染色した細胞をフローサイトメトリーで分析し、Treg(CD4CD25)とTeff(CD4CD25)のKi67+(増殖マーカー)細胞をそれぞれ確認した。
【0109】
図14は982 D1、982 C1、982 D2および982 Ref IL-2融合分子によって誘導されたCD4CD25 T細胞およびCD4CD25 T細胞の濃度依存的な増殖を示す。このアッセイではPBMCを抗CD3抗体で2日間処理し、3日間休ませた。その後、PBMCは37℃, 5%COインキュベーターで3日間、様々な濃度のIL-2融合分子982 C1、982 D1、982 D2および982 Refとインキュベートした。その後、細胞を溶解/固定/透過処理し、抗CD4、CD25およびKi67抗体で染色した。洗浄後、染色した細胞をフローサイトメトリーで分析し、Treg(CD4CD25)細胞とTeff(CD4CD25)細胞のKi67(増殖マーカー)細胞をそれぞれ確認した。
【0110】
IL-2融合分子のインビトロでの活性は強いものから弱いものへと、以下の順序であった。982 Ref、982 D2、982 D1、982 C1の順で、CD4CD25 T細胞の方がCD4CD25 T細胞よりも全体的にはるかに大きな増殖が観察された。その結果、3つのインビトロアッセイの全てにおいて、982 Refが最も強い活性を示し、次いで982 D2、982 D1および982 C1の順であった。これらの結果は図13に示した結合活性の結果と一致する。
【0111】
ラットPKおよびPD試験
頸静脈カニューレを装着した雄のSprague-Dawleyラットに、IL-2融合分子を1mg/kgまたは3mg/kg皮下投与した。血液は0~144時間の様々な時点で採取された。
【0112】
PK分析のために、血清サンプルはELISAによって試験品を測定した。簡潔には、ELISAプレートは、PBS中、2μg/mLの100μL/ウェルのF(ab’)ヤギ抗ヒトIgG Fcγ(Jackson ImmunoResearch, Cat.# 109-006-170)で被覆した。プレートは4℃で一夜インキュベートした。プレートを、10%ヤギ血清を含む100μL/ウェルのPBSで遮断した。1時間のインキュベーションとその後の洗浄(純水で4回)の後、PBS/10%ヤギ血清または標準液で希釈した血清サンプル100μLを各ウェルに加えた。インキュベーション(1時間)と洗浄(純水で6回)の後、第二抗体(抗IL2-ビオチン(RandD Systems BAF202))をPBS/10%ヤギ血清に0.5μg/mLで100μLずつ各ウェルに加えた。インキュベーション(1時間)と洗浄(純水で6回)の後、100μLのStreptavidin-HRP(Jackson ImmunoResearch, Cat.#016-30-84, 1:1000)をPBS/10%ヤギ血清に溶解したものを各ウェルに加えた。インキュベーション(1時間)、ウォッシュ(DI水で8回)後、各ウェルに100μLのTMB基質を加えて発色反応を開始した。1N HSO溶液を100μL/ウェル加えて反応を停止させた。その後、OD450を測定した。
【0113】
図15はラットPK試験における982 C1、982 D1および982 Ref IL-2融合分子の血清血漿濃度の経時変化を示したものである。このアッセイでは頸静脈カニューレを装着した雄のSprague-Dawleyラットに、IL-2融合分子982 C1、982 D1および982 Refを1mg/kgで皮下投与した。血液は0時間、1時間、3時間、6時間、10時間、24時間、48時間、72時間、96時間、120時間および144時間後に採取された。血清サンプルはヤギ抗ヒトIgG Fcγキャプチャーと抗ヒトIL-2ビオチンを検出試薬として用いたELISAにより、IL-2融合分子を測定した。982 C1は982 D1よりもAUC(0-t)(最後に測定可能な濃度までの濃度時間曲線下面積)が大きく、一方、両者とも、982 RefよりAUC(0-t)が有意に大きかった。
【0114】
図16は2回目のラット試験における、982 D1、982 Refおよび982 D2 IL-2融合分子の血清血漿濃度の経時変化を示したものである。このアッセイでは頸静脈カニューレを装着した雄のSprague-Dawleyラットに、IL-2融合分子982 D1、982 D2および982 Refを1mg/kg、982 D1を3mg/kg、それぞれ示す通りに皮下投与した。血液は0時間、1時間、3時間、6時間、10時間、24時間、48時間、72時間、96時間、120時間および144時間後に採取された。血清検体はヤギ抗ヒトIgG Fcγキャプチャーと抗ヒトIL-2ビオチンを検出試薬として用いたELISA法により、試験品を測定した。982 D2は982 D1よりもAUC(0-t)が大きく、982 Refよりも両者ともAUC(0-t)が有意に大きかった。また、経時的な血漿中濃度の測定は、IL-2部分にV91Kの変異がある982 Refよりも、マスクされたIL-2融合分子のPKプロファイルが良好であることを示した。
【0115】
PD分析では982分子を皮下注射した後、0~144時間の間の様々な時点で血液を採取した。982 IL-2融合分子を投与したラットのK2 EDTA採血管に採取した血液サンプルはメーカーの推奨に従い、各血液サンプルの1容量を、あらかじめ温めておいたBD PhosflowTM lyse/fix buffer(1×, BD Biosciences cat# 558049)と混合して溶解および固定した。血液サンプルを2%FBSを含むPBSで2回洗浄した後、メーカーの指示に従い、低温の透過性処理緩衝液II(BD Biosciences cat#558052, -20℃)を用いて氷上で30分間透過性処理を行った。その後、2%FBSを含むPBSで4回広範囲に洗浄し、細胞ペレットを4℃で保存するか、染色用緩衝液に再懸濁した。
【0116】
FOXP3およびKi67の測定には各サンプリングから上記固定/透過処理したラット血球細胞(300k-400K細胞/ウェル)を50μL/ウェルのアリコートで96ウェルワーキングプレートに加えた。次に、マウス抗ラットCD4-FITC(Biolegend, cat#201505)、マウス抗ラットCD25PE(BD Bioscience, cat#554866)、マウス抗ラットFOXP3-APC(Biolegend, cat#320014);またはマウス抗Ki67-APC(Biolegend, cat#320514)を含むAb混合液50μLを各ウェルに加え、プレート内の細胞を室温で1時間インキュベートした。プレートをFACS緩衝液で2回洗浄した後、経時的にTreg(CD4FOXP3)細胞とTeff(CD4FOXP3)細胞をそれぞれ%変化させるフローサイトメトリー分析を行った。また、フローサイトメトリーを用いて、Ki67(増殖マーカー)細胞の経時変化を調べた。
【0117】
図17Aおよび17Bは982 C1、982 D1および982 Ref IL-2融合分子によってCD4/FOXP3およびCD4/FOXP3細胞(ラット)に誘発される変化を示す。図18Aおよび図18Bは第1回目の試験のラットにおいて、982 C1、982 D1および982 Ref IL-2融合分子によって誘導されたCD4CD25およびCD4CD25細胞の増殖を示す。頸静脈カニューレを装着した雄のSprague-Dawleyラットに、IL-2融合分子982 C1、982 D1、982 Refを1mg/kg皮下投与した。0、24、48、96、144時間後に血液を採取し、血液サンプルの溶解/固定/透過性処理後にAb染色を行った。続いて、フローサイトメトリーによるTreg(CD4FOXP3)およびTeff(CD4FOXP3)細胞の%変化をそれぞれ分析した。また、Treg(CD4CD25)とTeff(CD4CD25)の経時変化をそれぞれ測定した(図17A、17B)またはKi67+(増殖マーカー)細胞の経時変化を測定した(図18A、18B)。図19Aおよび19Bはラットにおいて、982 IL-2融合分子によって誘発されたCD4/FOXP3およびCD4/FOXP3細胞の変化を示した結果である。図20Aおよび20Bは982-IL-2融合分子がラットのCD4/CD25およびCD4/CD25細胞の増殖を誘導した結果を示す。頸静脈カニューレを装着した雄のSprague-Dawleyラットに、IL-2融合分子982 D1を1mg/kgおよび3mg/kg、982 D2を1mg/kg、982 Refを1mg/kg皮下投与した。0時間、24時間、48時間、72時間、96時間、120時間および144時間後に血液を採取し、血液サンプルの溶解/固定/透過性処理後にAb染色を行った。続いて、フローサイトメトリーによるTreg(CD4FOXP3)とTeff(CD4FOXP3)細胞の経時変化をそれぞれ分析した。また、フローサイトメトリーを用いて、Ki67+(増殖マーカー)細胞の経時変化を調べたところ、ゲートされたTreg(CD4CD25)細胞とTeff(CD4CD25)細胞の経時変化がそれぞれ見られた(図20Aおよび20B)。
【0118】
結果は、982 D1は982 Refに比べて、CD4FOXP3 T細胞およびCD4CD25 T細胞に対して、より大きく、より長い効果を示した。これは982 Refのインビトロでの活性が有意に高かったことを考えると、驚くべきことである。2回目のラットインビボ試験でも同様の結果が得られた(図19A、19B、20A、20B)。驚くべきことに、982 D1は982 D2(図19A、19B、20A、20B)と比較して、ラットのCD4/FOXP3 T細胞、CD4/CD25およびCD4/CD25細胞の増殖を刺激することで、より高い効果を発揮した。これはラットCD4T細胞に対する結合アッセイにおいて、982 D1が982 D2よりもわずかに高い結合活性を示したこととよく一致する(図12)。しかし、982 D1と982 D2の間で観察された活性の違いはインビトロよりもインビボの方が明らかだった(図19Aおよび20A)。
【0119】
982 D1と982 RefはTeff細胞よりもTreg細胞を優先的に刺激する選択性を示したが、982 D1によるTeff細胞の刺激活性が982 Refに比べてほとんど見られなかったことから、982 D1が982 Refよりも優れた選択性を有することが明らかになった(図18Bおよび20B)。
【0120】
体重
また、IL-2融合分子の安全性を評価するために、6日間の試験期間中に動物の体重を測定した。動物はIL-2融合分子982 D1を1mg/kgおよび3mg/kg、982 D2を1mg/kgおよび982 Refを1mg/kg、それぞれ単回皮下投与された。体重(BW)は各動物について、0日目(投与)から6日目まで毎日測定した。その結果を図21に示す。982 D1を1mg/kgおよび3mg/kgで単回投与したラットは982 Refを1mg/kgで投与したラットに比べて体重が増加した。
【0121】
以上のように、インビトロおよびインビボ試験において、マスキングされたIL-2融合分子982 D1はIL-2部分に変異V91KおよびC125Aを含むホモ二量体IL-2融合分子である982 Refよりも驚くほど優れたPKプロファイルを有することが明らかになった。驚くべきことに、982 D1は982 Refに比べ、ラットのCD4CD25 T細胞およびCD4FOXP3 T細胞の増殖を刺激する強力なインビボ活性を有していた(図17A、17B、18A、18B、19A、19B、20A、20B)。さらに、3つのマスクされたIL-2融合分子(982 C1、982 D1、982 D2)は何れも982 RefのPKよりも長かった(図15および16)。また、982 D1が982 D2よりもラットでのインビボ活性が強かったことも驚きである。982 D1は982 D2や982 Ref.に比べてインビトロでの活性が比較的低いにもかかわらず、同じラット試験でテストされた他の分子に比べてインビボでの活性が優れていた。さらに、体重データ(図21)から、982 D1は982 Refよりも安全である可能性が示唆された。また、マスキングされたIL-2融合分子982 D1の強力で選択的なインビボ活性は982 D1がいかなる開裂可能なペプチドリンカーからも構成されていないため、プロテアーゼ依存的な開裂やマスキング部分の除去を必要とせずに達成できることも驚きであった。このような新規の作用機序は疾患部位におけるプロテアーゼ(複数可)の分布が均一でない可能性があり、マスキング部分の非特異的な開裂および除去(または「漏出」)が、循環または他の正常な組織および疾患部位の外側で行われる可能性があるため、望ましい。
【0122】
理論には拘束されないが、982 Refと比較して982 D1の優れたインビボ活性を説明するにはPKプロファイルの違いが部分的に影響する可能性がある。また、982 D1とD2の間で観察された生体内での活性の違いは化学種間の交差反応性によっても説明できる可能性がある。理論には拘束されないが、融合分子のCD25への結合時に、982 D1のマスキング部分と担体の間の長いリンカーが、内因性のIL-2RαとIL-2Rγの両方が存在する場合に、内因性のIL-2Rβ ECDとマスキング部分との競合を促進することも可能である。982 D1がTreg細胞の増殖を促すためには内因性のIL-2RβとIL-2Rγの両方にサイトカイン部分が結合することが必要である。マスキング部分であるIL-2Rβ-ECDと担体の間の長いリンカーはサイトカイン部分が内因性のIL-2Rα、IL-2RβおよびIL-2Rγと4量体の複合体を形成するために必要な柔軟性を提供すると考えられる。マスキング部分であるIL-2Rβ-ECDと担体の間のリンカーが短く、特にサイトカイン部分と担体の間のリンカーも短ければ、マスキング部分が4分子複合体形成のための特別な制約となる可能性がある。図11は982 D2が982 D1よりも強いヒトT細胞とのインビトロ活性を持っているにもかかわらず、982 D2はD1よりもラットCD4 T細胞との結合力がわずかに弱いことを示す。しかし、ラットのCD4細胞への結合力の差は比較的小さく、D1とD2のインビボでの活性の有意差を説明できないかもしれない(19A、19B、20A、20B)。
本発明はさらに以下の態様を包含する。
1. 単離IL-2融合分子であって、担体部分、サイトカイン部分および1以上のマスキング部分を含み、ここで
サイトカイン部分は担体部分またはマスキング部分に融合され、
1以上のマスキング部分が担体部分またはサイトカイン部分に融合され、
該サイトカイン部分は(i)C125AもしくはC125Sの置換または(ii)T3A、C125S、V69AおよびQ74Pから選択される1以上の置換を含むIL-2アミノ酸配列を含むIL-2ポリペプチドを含み(ナンバリングは配列番号1に従う)、
1以上のマスキング部分がサイトカイン部分に結合し、免疫細胞上のIL-2Rαではなく、IL-2Rβおよび/またはIL-2Rγへのサイトカイン部分の結合を阻害する、
単離IL-2融合分子。
2. 炎症状態または自己免疫疾患を治療する方法であって、それを必要とする対象に、担体部分、サイトカイン部分および1以上のマスキング部分を含む治療量の単離IL-2融合分子を投与することを含み、ここで
サイトカイン部分は担体部分またはマスキング部分に融合され、
1以上のマスキング部分が担体部分またはサイトカイン部分に融合され、
該サイトカイン部分はIL-2ポリペプチドを含み、そして
1以上のマスキング部分がサイトカイン部分に結合し、免疫細胞上のIL-2Rβおよび/またはIL-2Rγへのサイトカイン部分の結合を阻害するが、IL-2Rαへの結合は阻害しないものである、
方法。
3. 炎症状態または自己免疫疾患が喘息、I型糖尿病、関節リウマチ、アレルギー、全身性エリテマトーデス、多発性硬化症、臓器移植片拒絶反応および移植片対宿主病からなる群から選択される、項2の方法。
4. IL-2融合分子が以下の特性:
(a)α、βおよびγサブユニットを有する高親和性のIL-2受容体(IL-2Rαβγ)に、βおよびγサブユニットを有する中間型のIL-2受容体(IL-2Rβγ)の100倍以上の親和性で結合する、
(b)37℃の表面プラズモン共鳴アッセイで測定されたK が約5nM以上または10nM以上でIL-2Rβγに結合する、
(c)CTLL-2細胞増殖アッセイにおいて、約1nM未満、0.01nM、0.25nMまたは0.05nM以上のEC 50 値を有する、
(d)NK92細胞の増殖アッセイにおいて、約0.05nM、0.1nM、0.25nMまたは0.5nMよりも大きいEC 50 値を有する、
(e)中和CD25抗体の存在下でのNK92細胞の増殖アッセイにおいて、中和CD25抗体の非存在下と比較して、Emax値が少なくとも5倍または少なくとも10倍低い、
(f)Tエフェクター細胞やNK細胞に比べて、FOXP3 T制御細胞を優先的に刺激する、
(g)FOXP3 制御T細胞の成長または生存を促進する、および
(h)はFOXP3 T細胞において、STAT5のリン酸化を誘導するがFOXP3 T細胞においてはその誘導能力が低下する、
の1つ以上を有する、項1のIL-2融合分子または項2もしくは3の方法。
5. IL-2融合分子がIL-2RβもしくはIL-2Rγの細胞外ドメイン(ECD)またはその機能的アナログを含むマスキング部分を含み、マスキング部分がペプチドリンカーを用いてまたは用いずに担体部分に融合される、項1~4の何れかのIL-2融合分子または方法。
6. IL-2融合分子が以下の部分:
IL-2RβもしくはIL-2Rγの細胞外ドメイン(ECD)またはその機能的アナログを含む第1マスキング部分であって、ペプチドリンカーを用いてまたは用いずに担体部分に融合される第1マスキング部分、および
IL-2RγもしくはIL-2RβのECDまたはその機能的アナログを含む第2マスキング部分であって、ペプチドリンカーを用いてまたは用いずに、サイトカイン部分または第1マスキング部分に融合される第2マスキング部分
を含む、項1~4の何れかのIL-2融合分子または方法。
7. IL-2Rβ ECDまたはその機能的アナログが配列番号3と少なくとも95%同一のアミノ酸配列を有する、項5または6のIL-2融合分子または方法。
8. IL-2Rγ ECDまたはその機能的アナログが配列番号6と少なくとも95%同一のアミノ酸配列を有する、項5~7の何れかのIL-2融合分子または方法。
9. IL-2ポリペプチドが配列番号1と少なくとも95%同一のアミノ酸配列を含み、所望により、アミノ酸配列が配列番号2である、項1~8の何れかのIL-2融合分子または方法。
10. 担体部分がPEG分子、アルブミン、アルブミンフラグメント、抗体Fcドメイン、抗体またはその抗原結合フラグメントから選択される、項1~9の何れかのIL-2融合分子または方法。
11. サイトカイン部分が開裂不可能なペプチドリンカーを介して担体部分またはマスキング部分に融合され、マスキング部分が開裂不可能なペプチドリンカーを介して担体部分またはサイトカイン部分に融合される、項1~10の何れかのIL-2融合分子または方法。
12. マスキング部分が少なくとも16個のアミノ酸、少なくとも18個のアミノ酸、少なくとも20個のアミノ酸、少なくとも22個のアミノ酸、少なくとも25個のアミノ酸、少なくとも30個のアミノ酸または最大44個のアミノ酸を含むペプチドリンカーを介して、担体部分またはサイトカイン部分に融合される、項11のIL-2融合分子または方法。
13. 担体部分が抗体Fcドメインであり、融合分子が:
N末端からC末端方向で、F1-L1-E1、F1-L1-E1-L2-E2およびF1-L1-E2-L2-E1から選択される分子式で構成される第1ポリペプチド鎖および
N末端からC末端方向で、分子式F2-L3-Cで構成される第2ポリペプチド鎖
を含むヘテロ二量体であり、ここで、
F1およびF2はFcドメインのサブユニットであり、
L1、L2およびL3はペプチドリンカーであり、
E1はIL-2Rβ ECDまたはその機能的アナログであり、E2はIL-2Rγ ECDまたはその機能的アナログであり、
Cはサイトカイン部分である、
項1~12の何れかのIL2融合分子または方法。
14. 担体部分が抗体Fcドメインであり、融合分子が:
N末端からC末端方向で、E1-L1-F1、E1-L1-E2-L2-F1およびE2-L1-E1-L2-F1から選択される分子式で構成される第1ポリペプチド鎖および
N末端からC末端方向で、分子式C-L3-F2で構成される第2ポリペプチド鎖
を含むヘテロ二量体であり、ここで
F1およびF2はFcドメインのサブユニットであり、
L1、L2およびL3はペプチドリンカーであり、
E1はIL-2Rβ ECDまたはその機能的アナログであり、E2はIL-2Rγ ECDまたはその機能的アナログであり、
Cはサイトカイン部分である、
項1~12の何れかのIL-2融合分子または方法。
15. 担体部分が抗体Fcドメインであり、融合分子が、それぞれN末端からC末端方向で、次のペア:
F1-L1-E1およびF2-L2-C-L3-E2、
F1-L1-E1およびF2-L2-E2-L3-C、
F1-L1-E2およびF2-L2-C-L3-E1、
F1-L1-E2およびF2-L2-E1-L3-C、
E1-L1-F1およびE2-L2-C-L3-F2、
E1-L1-F1およびC-L2-E2-L3-F2、
E2-L1-F1およびE2-L2-C-L3-F2ならびに
E2-L1-F1およびC-L2-E1-L3-F2
から選択される分子式で構成される第1ポリペプチド鎖および第2ポリペプチド鎖を含むヘテロ二量体であり、ここで、
F1およびF2はFcドメインのサブユニットであり、
L1、L2およびL3はペプチドリンカーであり、
E1はIL-2Rβ ECDまたはその機能的アナログであり、E2はIL-2Rγ ECDまたはその機能的アナログであり、
Cはサイトカイン部分である、
項1~12の何れかのIL-2融合分子または方法。
16. ペプチドリンカーL1、L2およびL3が開裂可能ではない、項13~15の何れかのIL-2融合分子または方法。
17. L1、L2およびL3がそれぞれ独立して、配列番号40~46、55~57および59から選択されるアミノ酸配列を有する、項13~16の何れかのIL-2融合分子または方法。
18. L1、L2およびL3の少なくとも1つが20~44個のアミノ酸を含むアミノ酸配列を有する、項13~17の何れかのIL-2融合分子または方法。
19. IL-2融合分子が:
配列番号50、51または52と少なくとも99%同一のアミノ酸配列を含む第1ポリペプチド鎖および
配列番号53または54と少なくとも99%同一のアミノ酸配列を含む第2ポリペプチド鎖
を含む、項13~18の何れかのIL-2融合分子または方法。
20. IL-2融合分子が:
(a)配列番号50と99%以上同一のアミノ酸配列を含む第1ポリペプチド鎖および配列番号53と99%以上同一のアミノ酸配列を含む第2ポリペプチド鎖または
(b)配列番号50を含む第1ポリペプチド鎖および配列番号53を含む第2ポリペプチド鎖
を含む、項19のIL-2融合分子または方法。
21. 融合分子が少なくとも2個のマスキング部分を含み、そのうちの一方がIL-2RαのECDまたはその機能的アナログであり、IL-2RαのECDマスキング部分が開裂可能なペプチドリンカーを介してサイトカイン部分、担体部分または別のマスキング部分に融合される、項1~20の何れかのIL-2融合分子または方法。
22. IL-2Rα ECD部分が配列番号7と少なくとも95%同一のアミノ酸配列を含む、項21のIL-2融合分子または方法。
23. 項1および4~22の何れかのIL-2融合分子をコードするポリヌクレオチド。
24. 項23のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
25. 項24の発現ベクターを含む、宿主細胞。
26. 項1および4~22の何れかのIL-2融合分子および薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物。
27. 項2または3の方法で対象を処置する際に使用するための、項1および4~22の何れかのIL-2融合分子または項26の医薬組成物。
28. 項2または3の方法における、対象を処置するための医薬品の製造のための、項1および4~22の何れかのIL-2融合分子の使用。
【0123】
配列
以下の配列において、ボックス内の残基は変異を示す。開裂可能なリンカーの下線はプロテアーゼ基質配列を示す。
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【表7】
【表8】
【表9】
【表10】
【表11】
【表12】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
【配列表】
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