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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-03
(45)【発行日】2025-06-11
(54)【発明の名称】サンドイッチ構造体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/24 20060101AFI20250604BHJP
   B32B 5/28 20060101ALI20250604BHJP
   B29C 43/20 20060101ALI20250604BHJP
   B29C 43/34 20060101ALI20250604BHJP
   B29C 70/16 20060101ALI20250604BHJP
   B29C 70/42 20060101ALI20250604BHJP
   B29C 70/68 20060101ALI20250604BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20250604BHJP
   B29L 9/00 20060101ALN20250604BHJP
【FI】
B32B5/24 101
B32B5/28 Z
B29C43/20
B29C43/34
B29C70/16
B29C70/42
B29C70/68
B29K105:08
B29L9:00
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020564288
(86)(22)【出願日】2020-11-11
(86)【国際出願番号】 JP2020042007
(87)【国際公開番号】W WO2021106561
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2023-10-16
(31)【優先権主張番号】P 2019216114
(32)【優先日】2019-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 貴文
(72)【発明者】
【氏名】本田 拓望
(72)【発明者】
【氏名】本間 雅登
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-022685(JP,A)
【文献】特開2010-064391(JP,A)
【文献】国際公開第2015/119064(WO,A1)
【文献】特開2008-230237(JP,A)
【文献】国際公開第2019/212051(WO,A1)
【文献】特開2002-038033(JP,A)
【文献】特開2016-028880(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102014006751(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B29C 43/18
B29C 70/18
B29C 70/68
H01L 23/36
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯材(I)と、前記芯材(I)の両面に配置された繊維強化材(II)とを有するサンドイッチ構造体であって、前記芯材(I)が、多孔質体、および面内熱伝導率が300W/m・K以上のシート状の熱伝導材(III)を含むサンドイッチ構造体。
【請求項2】
前記芯材(I)が前記熱伝導材(III)の少なくとも一つの表面及び少なくともつの端面を覆っている、請求項1に記載のサンドイッチ構造体。
【請求項3】
前記芯材(I)が前記熱伝導材(III)の両面および全ての端面を覆っている、請求項2に記載のサンドイッチ構造体。
【請求項4】
前記熱伝導材(III)が、グラファイトシート、金属シートおよびセラミックスシートからなる群より選択される熱伝導シートを含む、請求項1~3のいずれかに記載のサンドイッチ構造体。
【請求項5】
前記熱伝導材(III)が複数の前記熱伝導シートの積層構造体を含む、請求項4に記載のサンドイッチ構造体。
【請求項6】
前記熱伝導材(III)が前記芯材(I)と接着されていない、請求項1~5のいずれかに記載のサンドイッチ構造体。
【請求項7】
前記多孔質体が繊維強化樹脂からなる、請求項1~6のいずれかに記載のサンドイッチ構造体。
【請求項8】
前記繊維強化材(II)が炭素繊維強化樹脂を含む、請求項1~のいずれかに記載のサンドイッチ構造体。
【請求項9】
単位幅あたりの曲げ剛性が0.5N・m以上である、請求項1~のいずれかに記載のサンドイッチ構造体。
【請求項10】
最大厚みが0.3mm以上3.0mm以下である、請求項1~のいずれかに記載のサンドイッチ構造体。
【請求項11】
請求項1~10のいずれかに記載のサンドイッチ構造体を用いてなる筐体。
【請求項12】
請求項1~10のいずれかに記載のサンドイッチ構造体を製造する方法であって、前記熱伝導材(III)の少なくとも一つの表面及び少なくとも一つの端面に芯材(I)の前駆体を配置して熱プレスする工程、および前記芯材(I)の両面に前記繊維強化材(II)を接合する工程をこの順に含む、サンドイッチ構造体の製造方法。
【請求項13】
請求項1~10のいずれかに記載のサンドイッチ構造体を製造する方法であって、前記熱伝導材(III)の少なくとも一つの表面及び少なくとも一つの端面に芯材(I)の前駆体を配置する工程、前記芯材(I)の前駆体の両面に繊維強化材(II)の前駆体を配置する工程、および熱プレスする工程をこの順に含む、サンドイッチ構造体の製造方法。
【請求項14】
請求項1~10のいずれかに記載のサンドイッチ構造体を製造する方法であって、前記熱伝導材(III)の少なくとも一つの表面及び少なくとも一つの端面に芯材(I)の前駆体を配置して熱プレスする工程、および芯材(I)の両面に繊維強化材(II)の前駆体を配置する工程、および熱プレスする工程をこの順に含む、サンドイッチ構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンドイッチ構造体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車、航空機、電子機器等の産業用製品について、放熱性に対する市場要求が年々高まっている。このような要求に応えるべく、高い熱伝導率を有する成形品が、各種産業用途に幅広く利用されている。中でも、高い熱伝導率を有する熱伝導材を含んだサンドイッチ構造体は、優れた放熱性に加えて、優れた機械特性を有するため、各製品での活用が期待されている。特に、熱伝導材と高強度材とのサンドイッチ構造体が広く検討されている。
【0003】
特許文献1には、熱伝導材と剛性保持材を積層したサンドイッチ構造体の発明が記載されている。熱伝導材と剛性保持材を積層することで、優れた熱伝導性と優れた剛性を両立させたサンドイッチ構造体を得ることができるとされている。
【0004】
特許文献2には、優れた熱伝導性を有するグラファイトシートと、該グラファイトシートの両面に支持シートとを積層し、該グラファイトシートの少なくとも一端面に該グラファイトシートと略等厚の封止スペーサを添設したサンドイッチ構造体の発明が記載されている。封止スペーサをグラファイトシートの周囲に添設することで、熱伝導性と機械的強度に優れ、端面からのグラファイト粉末の脱離を防止し、ナイフ状のエッジがなく取扱性に優れ、剥離を抑制する効果を奏するとされている。
【0005】
特許文献3には、グラファイトシートの積層体を樹脂層で被覆する、高熱伝導性筐体の発明が記載されている。グラファイトシートの端部まで樹脂で被覆することにより、グラファイトフィルム間の剥がれを防止することが可能となるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2016/002457号
【文献】特開2007-44994号公報
【文献】特開2006-95935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1におけるサンドイッチ構造体は、熱伝導材のすべての端部が露出しているため、熱伝導材の強度が不十分である。また、熱伝導材と剛性保持材の接合強度が不十分な場合、サンドイッチ構造体の端部から剥離する可能性がある。
【0008】
特許文献2におけるサンドイッチ構造体は、グラファイトシートの端部を封止スペーサで保護しているものの、封止スペーサの厚みの調整や封止スペーサの位置調整が煩雑であり、プロセス性が低い。また、封止スペーサと支持シートの接合強度が不十分な場合、サンドイッチ構造体の端部から剥離する可能性がある。
【0009】
特許文献3における高熱伝導性筐体は、グラファイトシートの表面及び端部を樹脂で被覆することにより、グラファイトシートを保護しているが、樹脂での保護のため、剛性・強度が低い。
【0010】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであって、その目的は、優れた放熱性と優れた機械特性を両立するサンドイッチ構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明のサンドイッチ構造体は以下の構成を有する。
【0012】
芯材(I)と、前記芯材(I)の両面に配置された繊維強化材(II)とを有するサンドイッチ構造体であって、前記芯材(I)が、面内熱伝導率が300W/m・K以上のシート状の熱伝導材(III)を含むサンドイッチ構造体。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、熱伝導材の強度が不十分な場合、あるいは、熱伝導材と熱伝導材を保護する材料の接合が不十分な場合でも、優れた放熱性と優れた機械特性を両立するサンドイッチ構造体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明のサンドイッチ構造体の一実施形態を示す模式図
図2】本発明のサンドイッチ構造体の別の実施形態を示す模式図
図3】放熱性評価の様子を示す模式図
図4】実施例1で作製したサンドイッチ構造体の断面模式図
図5】実施例2で作製したサンドイッチ構造体の断面模式図
図6】比較例1で作製したサンドイッチ構造体の断面模式図
図7】比較例2で作製したサンドイッチ構造体の断面模式図
図8】比較例3で作製したサンドイッチ構造体の断面模式図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0016】
<サンドイッチ構造体>
本明細書におけるサンドイッチ構造体とは、芯材の両面に、当該芯材よりも高い弾性率を有する表皮材を配置した構造体である。本発明のサンドイッチ構造体においては、芯材は、シート状の熱伝導材(III)を含む芯材(I)であり、表皮材は、繊維強化材(II)である。また、シート状とは、厚みが薄くて幅が広いものを指し、厚みが0.01μm以上10mm以下であり、幅と厚みのアスペクト比が10以上のものを意味するものとする。
【0017】
芯材(I)はシート状の熱伝導材(III)(以下、単に熱伝導材(III)という場合がある)を含む。ここでいう「含む」とは、サンドイッチ構造体の積層構造における芯材(I)の層の一部として熱伝導材(III)が存在していることを意味する。
【0018】
例えば、図1のような、芯材(I)2が熱伝導材(III)4の一の端面(図1における右側の端面)および一方の表面(図1における上側の表面)を覆う態様や、図2のような、芯材(I)2が熱伝導材(III)4の両面(両方の表面)および全ての端面を覆う、すなわち芯材(I)が熱伝導材(III)を内包している態様は、芯材(I)が熱伝導材(III)を含んでいると言える。一方、図6のような、熱伝導材(III)(グラファイトシート9)の全ての端面が露出している、すなわち熱伝導材(III)のみが独立した層をなしているとみなせる態様は、上記の「含む」の概念から除外される。このように、熱伝導材(III)が芯材(I)に含まれていることで、サンドイッチ構造体に加えられた応力を芯材(I)が負担し、熱伝導材(III)への応力の伝達が抑制され、熱伝導材(III)の破壊を抑えることができる。
【0019】
芯材(I)は、熱伝導材(III)の少なくとも二つの端面を覆っていることが好ましく、さらに熱伝導材(III)の両面を覆っていることがより好ましく、熱伝導材(III)の両面および全ての端面を覆っている、すなわち熱伝導材(III)を内包していることがさらに好ましい。
【0020】
なお、本発明においては、芯材(I)が熱伝導材(III)を接着剤や緩衝材などの他部材を介して覆っていてもよい。また、芯材(I)と熱伝導材(III)の間に隙間があってもよい。
【0021】
しかしながら、本発明においては、熱伝導材(III)の少なくとも一つの端面が、芯材(I)に他部材を介さずに直接接していることが好ましい。また、熱伝導材(III)の少なくとも一方の表面が芯材(I)に接していることが好ましい。このように熱伝導材(III)が芯材(I)と直接接していることで、サンドイッチ構造体表面から伝わった熱が、芯材(I)から熱伝導材(III)へと速やかに伝わることができる。
【0022】
さらに、本発明においては、熱伝導材(III)は芯材(I)と接着されていないことが好ましい。熱伝導材(III)と芯材(I)とを接着させるためには、一般的に、それらの間に接着剤を介在させる必要があるが、接着剤の分サンドイッチ構造体に占める熱伝導材(III)の割合が減少してしまい、サンドイッチ構造体の放熱性が低下する。また、熱伝導材(III)が芯材(I)と接着されていないことにより、サンドイッチ構造体に加えられた応力を芯材(I)が負担する割合が大きくなり、従って熱伝導材(III)への応力の伝達が抑制され、熱伝導材(III)の破壊を抑えることができる。
【0023】
本発明のサンドイッチ構造体は、単位幅あたりの曲げ剛性が0.5N・m以上であることが好ましく、1.0N・m以上であることがより好ましく、1.5N・m以上であることがさらに好ましい。サンドイッチ構造体の単位幅あたりの曲げ剛性は高ければ高いほど好ましいため、単位幅あたりの曲げ剛性の上限については特に制限はないが、通常は1000N・m程度である。単位幅あたりの曲げ剛性を上述の範囲とすることにより、サンドイッチ構造体が、剛性の構造体となり、筐体等に好適に用いることができる。単位幅あたりの曲げ剛性は、サンドイッチ構造体の弾性率E(Pa)、断面二次モーメントI(m)、サンドイッチ構造体の幅b(m)から、次式により算出できる。
・単位幅あたりの曲げ剛性(N・m)=E(Pa)×I(m)/b(m)
また、サンドイッチ構造体の断面が矩形断面である場合は、矩形断面の断面二次モーメントIは、bh/12(m)であるため、次式により算出できる。
・単位幅あたりの曲げ剛性(N・m)=E(Pa)×h(m)/12
単位幅当たりの曲げ剛性を上述の範囲とするための手段としては、例えば、本発明のサンドイッチ構造体のように、表皮材として繊維強化材(II)を用いる方法が挙げられる。また、例えば、サンドイッチ構造体の厚みを厚肉とする方法が挙げられる。
【0024】
また、本発明のサンドイッチ構造体は、最大厚みが0.3mm以上3.0mm以下であることが好ましく、0.5mm以上1.5mm以下であることがより好ましい。サンドイッチ構造体の厚みを薄肉とすることで軽量化の効果があるが、0.3mmよりも薄いサンドイッチ構造体は剛性が不足する場合がある。
【0025】
[熱伝導材(III)]
本発明において、熱伝導材(III)はシート状であり、その面内熱伝導率は、300W/m・K以上である。熱伝導材(III)の面内熱伝導率は、500w/m・K以上が好ましく、1000w/m・K以上がさらに好ましい。面内熱伝導率は高ければ高いほど好ましいため、面内熱伝導率の上限については特に制限はないが、2000W/m・K程度の面内熱伝導率を有する熱伝導材が知られている。熱伝導材(III)の面内熱伝導率が300W/m・K以上であれば、サンドイッチ構造体の面内方向への熱の拡散が優れ、サンドイッチ構造体の放熱性は優れるものとなる。熱伝導材(III)の面内熱伝導率はレーザーフラッシュ法によりインプレーン測定用のサンプルホルダーにサンプルをセットし、サンプルの大きさを直径20~30mm程度、厚みを1.0mm以下とすることで測定することができる。また、レーザー光を吸収しにくい材料に対しては、サンプル表面に黒化膜を薄く均一に製膜する。赤外線検出素子の測温波長における放射率が低い材料に対しては、サンプル裏面に同様の処理を行う。
【0026】
熱伝導材(III)の材質は、面内熱伝導率が300w/m・K以上となる限り特に限定されず、例えば、セラミックス、金属、グラファイト、樹脂に高熱伝導性フィラーを添加することで熱伝導率を高めた高熱伝導性樹脂などを用いることができる。
【0027】
さらに、熱伝導材(III)は、グラファイトシート、金属シートおよびセラミックスシートからなる群より選択される熱伝導シートを含むことが好ましく、グラファイトシート、金属シートおよびセラミックスシートからなる群より選択される熱伝導シートからなることがより好ましい。セラミックスシートとしては、シリカ、ジルコニア、アルミナ、窒化ホウ素、シリコンカーバイド、シリコンナイトライドなどのシートを挙げることができる。金属シートとしては、チタン、アルミニウム、マグネシウム、鉄、銀、金、白金、銅、ニッケル、またはこれらの金属を主成分とする合金からなるシートを挙げることができる。
【0028】
金属シートは比較的安価であり、なかでも銅シートが安価であり熱伝導率にも優れるため、原料コストの観点からは好ましい。グラファイトシートは比重が小さく、かつ熱伝導率が優れるため、サンドイッチ構造体の軽量性、放熱性を向上させる観点から、本発明において特に好ましい。
【0029】
グラファイトシートとしては、黒鉛粉末をバインダー樹脂と混合成形したシート、あるいは膨張黒鉛を圧延したシート、炭化水素系ガスを用いCVD法によって炭素原子を基板上に積層させてからアニーリングしたシート、高分子化合物のフィルムをグラファイト化したシートなどを挙げることができる。中でも、高分子化合物のフィルムをグラファイト化したシートは熱伝導性が非常に高いため、好ましい。
【0030】
本発明において、熱伝導材(III)は、複数の熱伝導シートの積層構造体を含むことが好ましく、複数の熱伝導シートの積層構造体であることがより好ましい。特に、グラファイトシートは、シート内のグラフェン構造の配向が熱伝導率に影響し、一般的に、薄いグラファイトシートのほうが熱伝導率は高い。従って、熱伝導シートとしてグラファイトシートを用いる場合、複数枚の積層構造体を熱伝導材(III)とすることで、サンドイッチ構造体の放熱性を向上させることができる。この場合、熱伝導材(III)を構成する複数の熱伝導シートは、接着剤などを介さず、互いに直接接触していることが好ましい。熱伝導シートが互いに直接接触することで、サンドイッチ構造体に占める熱伝導材(III)の割合を増加させることができ、サンドイッチ構造体の放熱性が向上する。また、熱伝導シート同士が直接接触することで、面外方向への熱の拡散にも優れるものとなる。熱伝導シートの積層枚数は、2枚以上10枚以下が好ましく、3枚以上5枚以下がより好ましい。積層枚数を増加させると、サンドイッチ構造体の放熱性が向上する。一方、積層枚数を増加させすぎると、プロセス性が低くなる。
【0031】
熱伝導材(III)の平均厚みは、0.01μm以上2.0mm以下であることが好ましく、5μm以上1.0mm以下であることがより好ましく、15μm以上0.5mm以下であることがさらに好ましい。熱伝導材(III)の平均厚みが小さすぎると、サンドイッチ構造体の放熱性は低下し、熱伝導材(III)の平均厚みが大きすぎると、サンドイッチ構造体の重量が重くなる。熱伝導材(III)の平均厚みの測定方法は、マイクロメーターを用いて熱伝導材(III)の9点の厚みを小数点1桁まで測定し、その平均値を平均厚みとする。測定する点についてはそれぞれ各測定点と隣の点またはサンプル端部の間隔が縦方向と横方向において、均等な間隔となるように縦及び横方向で3点ずつの計9点で測定を行う。
【0032】
[芯材(I)]
本発明においては、芯材(I)が多孔質体を含むことが好ましく、芯材(I)が多孔質体であることがより好ましい。芯材(I)が多孔質体を含むことにより、サンドイッチ構造体の軽量性の観点で有利である。また、芯材(I)に熱伝導材(III)を含ませる際、多孔質体である芯材(I)が、面外方向に潰れる、あるいは膨れることで、熱伝導材(III)の位置ずれなく、芯材(I)が熱伝導材(III)を含むことができる。芯材(I)が多孔質体である場合、芯材(I)中における空隙の体積含有率は、芯材(I)の見掛け体積に対して10%以上85%以下であることが好ましく、20%以上85%以下がより好ましく、軽量性と機械特性の両立の観点から50%以上80%以下であることがさらに好ましい。
【0033】
芯材(I)の材質は、特に制限されないが、例えば、連続繊維または不連続繊維で強化された繊維強化樹脂が好ましく用いられる。なお、連続した強化繊維とは、少なくとも一方向に15mm以上、好ましくは100mm以上の長さにわたり連続した強化繊維を意味するものとする。連続繊維で強化された繊維強化樹脂としては、一方向繊維強化樹脂または織物繊維強化樹脂を用いることができる。不連続繊維で強化された繊維強化樹脂としては、短繊維強化樹脂または長繊維強化樹脂のいずれも用いることができる。また、非繊維強化樹脂としては、樹脂シートや樹脂発泡体なども用いることができる。
【0034】
繊維強化樹脂であるにせよ非繊維強化樹脂であるにせよ、芯材(I)が樹脂を含む場合、当該樹脂には、特に制限はなく、熱硬化樹脂でも熱可塑性樹脂でもよい。熱可塑性樹脂は、例えば、「ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、液晶ポリエステル等のポリエステルや、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレン等のポリオレフィンや、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(PA)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)などのポリアリーレンスルフィド、ポリケトン(PK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂」などの結晶性樹脂、「スチレン系樹脂の他、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリサルホン(PSU)、ポリエーテルサルホン、ポリアリレート(PAR)」などの非晶性樹脂、その他、フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂、更にポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、ポリイソプレン系、フッ素系樹脂、およびアクリロニトリル系等の熱可塑エラストマーなどや、これらの共重合体および変性体等から選ばれる熱可塑性樹脂が挙げられる。中でも、得られるサンドイッチ構造体の軽量性の観点からはポリオレフィンが好まししい。特に、芯材(I)が多孔質体を含む場合、軽量効果を相乗させるため、ポリオレフィンが好ましい。また、強度の観点からはポリアミドが好ましい。特に、芯材(I)が繊維強化樹脂からなる場合、強化繊維と樹脂の界面接合強度の観点からポリアミドが好ましい。また、熱硬化性樹脂は、例えば、不飽和ポレステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール(レゾール)樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ポリイミド樹脂、マレイミド樹脂、ベンゾオキサジン樹脂などや、これらの2種類以上をブレンドした樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられる。中でも、特に、芯材(I)が繊維強化樹脂からなる場合、強化繊維と樹脂の界面接合強度の観点からエポキシ樹脂が好ましく用いられる。
【0035】
さらに、樹脂には、その用途に応じてマイカ、タルク、カオリン、ハイドロタルサイト、セリサイト、ベントナイト、ゾノトライト、セピオライト、スメクタイト、モンモリロナイト、ワラステナイト、シリカ、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスマイクロバルーン、クレー、二硫化モリブデン、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アンチモン、ポリリン酸カルシウム、グラファイト、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、ホウ酸亜鉛、ホウ酸亜カルシウム、ホウ酸アルミニウムウィスカ、チタン酸カリウムウィスカおよび高分子化合物などの充填材、金属系、金属酸化物系、カーボンブラックおよびグラファイト粉末などの導電性付与材、臭素化樹脂などのハロゲン系難燃剤、三酸化アンチモンや五酸化アンチモンなどのアンチモン系難燃剤、ポリリン酸アンモニウム、芳香族ホスフェートおよび赤燐などのリン系難燃剤、有ホウ酸金属塩、カルボン酸金属塩および芳香族スルホンイミド金属塩などの有機酸金属塩系難燃剤、硼酸亜鉛、亜鉛、酸化亜鉛およびジルコニウム化合物などの無機系難燃剤、シアヌル酸、イソシアヌル酸、メラミン、メラミンシアヌレート、メラミンホスフェートおよび窒素化グアニジンなどの窒素系難燃剤、PTFEなどのフッ素系難燃剤、ポリオルガノシロキサンなどのシリコーン系難燃剤、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物系難燃剤、またその他の難燃剤、酸化カドミウム、酸化亜鉛、酸化第一銅、酸化第二銅、酸化第一鉄、酸化第二鉄、酸化コバルト、酸化マンガン、酸化モリブデン、酸化スズおよび酸化チタンなどの難燃助剤、顔料、染料、滑剤、離型剤、相溶化剤、分散剤、マイカ、タルクおよびカオリンなどの結晶核剤、リン酸エステルなどの可塑剤、熱安定剤、酸化防止剤、着色防止剤、紫外線吸収剤、流動性改質剤、発泡剤、抗菌剤、制振剤、防臭剤、摺動性改質剤、およびポリエーテルエステルアミドなどの帯電防止剤等を添加しても良い。とりわけ、用途が電気・電子機器、自動車、航空機などの場合には、難燃性が要求される場合があり、リン系難燃剤、窒素系難燃剤、無機系難燃剤が好ましく添加される。
上記難燃剤は、難燃効果の発現とともに、使用する樹脂の機械特性や成形時の樹脂流動性などと良好な特性バランスを保つために、樹脂100質量部に対して難燃剤1~20質量部とすることが好ましい。より好ましくは1~15質量部である。
【0036】
芯材(I)の比重は、サンドイッチ構造体の軽量性の観点から、0.01~1.5であることが好ましい。より好ましくは0.1~1.3であり、さらに好ましくは0.3~1.1である。比重の測定は、芯材(I)を切り出し、ISO1183(1987)またはISO0845(1988)に準拠して測定することができる。
【0037】
芯材(I)が繊維強化材料である場合、含まれる強化繊維の種類には特に制限はなく、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ボロン繊維、金属繊維、天然繊維、鉱物繊維などが使用でき、これらは1種または2種以上を併用してもよい。中でも、比強度、比剛性が高く軽量化効果の観点から、PAN系、ピッチ系、レーヨン系などの炭素繊維が好ましく用いられる。また、得られるサンドイッチ構造体の経済性を高める観点から、ガラス繊維を好ましく用いることができ、とりわけ機械特性と経済性のバランスから炭素繊維とガラス繊維を併用することが好ましい。さらに、得られるサンドイッチ構造体の衝撃吸収性や賦形性を高める観点から、アラミド繊維を好ましく用いることができ、とりわけ機械特性と衝撃吸収性のバランスから炭素繊維とアラミド繊維を併用することが好ましい。また、得られるサンドイッチ構造体の導電性を高める観点から、ニッケルや銅やイッテルビウムなどの金属を被覆した強化繊維やピッチ系の炭素繊維を用いることもできる。
【0038】
強化繊維は、サイジング剤で表面処理されていることが、機械特性向上の観点から好ましい。サイジング剤としては多官能エポキシ樹脂、アクリル酸系ポリマー、多価アルコール、ポリエチレンイミンなどが挙げられ、具体的にはグリセロールトリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、アラビトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテルなどの脂肪族多価アルコールのポリグリシジルエーテル、ポリアクリル酸、アクリル酸とメタクリル酸との共重合体、アクリル酸とマレイン酸との共重合体、あるいはこれらの2種以上の混合物、ポリビニルアルコール、グリセロール、ジグリセロール、ポリグリセロール、ソルビトール、アラビトール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、アミノ基を1分子中により多く含むポリエチレンイミン等が挙げられ、これらの中でも、反応性の高いエポキシ基を1分子中に多く含み、かつ水溶性が高く、塗布が容易なことから、グリセロールトリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルが好ましく用いられる。
【0039】
本発明における芯材(I)が多孔質体を含む場合において、多孔質体が繊維強化樹脂からなることが特に好ましい。繊維強化樹脂の強化繊維は、連続繊維であっても不連続繊維であってもよいが、不連続繊維であることが好ましく、不連続繊維が三次元的なネットワークを形成するとともに、不連続繊維同士の交点が樹脂により結合された構造を有することがより好ましい。不連続繊維同士が樹脂により接合することで、芯材(I)のせん断弾性率が高くなり、サンドイッチ構造体の剛性が高くなる。以下、この態様について説明する。
【0040】
繊維強化樹脂中において、不連続繊維は、500本未満の細繊度ストランドとして存在することが好ましく、より好ましくは単繊維状に分散されて存在していることが好ましい。不連続繊維の繊維長は1~50mmが好ましく、3~30mmがより好ましい。1mm以上であると不連続繊維による補強効果を効率良く発揮することができる。また、50mm以下であると不連続繊維の分散を良好に保つことができる。
【0041】
不連続繊維の単繊維同士が樹脂により結合している結合部分の個数の割合は、不連続繊維同士が交叉している全交叉部分の個数に対し50%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上である。
【0042】
不連続繊維の質量割合は、機械特性と成形性を両立する観点から、芯材(I)の全体に対して5~60質量%が好ましく、より好ましくは10~50質量%であり、さらに好ましくは15~40質量%である。
【0043】
繊維強化樹脂中において、不連続繊維は、その表面の30%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは80%以上が樹脂で被覆されていることが好ましい。かかる被覆率とすることで、芯材(I)の剛性を高くすることができる。被覆率は、走査型電子顕微鏡(SEM)で、芯材(I)の断面を観察し強化繊維と樹脂を区別することで測定される。
【0044】
[繊維強化材(II)]
本発明において、繊維強化材(II)はサンドイッチ構造体の表皮材を構成する、芯材(I)よりも弾性率が高い、強化繊維を含む部材である。
【0045】
繊維強化材(II)の材質は、芯材(I)よりも大きい弾性率を有する限り特に制限されず、連続繊維で強化された繊維強化樹脂であっても、または不連続繊維で強化された繊維強化樹脂であってもよい。連続繊維で強化された繊維強化樹脂としては、一方向繊維強化樹脂または織物繊維強化樹脂を用いることができる。不連続繊維で強化された繊維強化樹脂としては、短繊維強化樹脂または長繊維強化樹脂のいずれも用いることができる。サンドイッチ構造体の機械特性の観点からは、連続繊維強化材を用いることが好ましく、中でも一方向繊維強化材を用いることがより好ましい。一方、サンドイッチ構造体の賦型性の観点からは、不連続繊維強化材料を好適に用いることができる。また、繊維強化樹脂のマトリックス樹脂は特に制限はなく、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のいずれも用いることができ、上述の芯材(I)の説明で例示したものと同様の樹脂を用いることができる。さらに、マトリックス樹脂に添加剤を含有させても良く、添加剤としては、上述の芯材(I)の説明で例示した添加剤を挙げることができる。
【0046】
繊維強化材(II)に含まれる強化繊維の種類には特に制限はなく、上述の芯材(I)の説明で例示したものと同様の強化繊維を用いることができる。
【0047】
繊維強化材(II)における強化繊維の質量割合は、機械特性と成形性を両立する観点から、繊維強化材(II)100質量%に対して30~90質量%が好ましく、より好ましくは40~80質量%であり、さらに好ましくは50~70質量%である。上記の上限と下限のいずれを組み合わせた範囲であってもよい。
【0048】
本発明のサンドイッチ構造体において、繊維強化材(II)が炭素繊維強化樹脂を含むことが好ましく、炭素繊維強化樹脂からなることがより好ましい。炭素繊維強化樹脂は、炭素繊維とマトリックス樹脂からなる。炭素繊維強化樹脂からなることにより、軽量性や剛性、強度に優れたサンドイッチ構造体が得られやすくなる。炭素繊維の中でも、弾性率、熱伝導率の高いピッチ系炭素繊維がより好ましい。ピッチ系炭素繊維を用いることによって、サンドイッチ構造体の剛性、放熱性の向上が期待できる。
【0049】
なお、繊維強化材(II)は、上記のような部材を複数枚積層した積層構造をなしていてもよい。
【0050】
<サンドイッチ構造体の製造方法>
本発明のサンドイッチ構造体は、以下に示す[1]~[3]のいずれかの方法で、好ましく製造することができる。
【0051】
方法[1]:本発明のサンドイッチ構造体を製造する方法であって、熱伝導材(III)の少なくとも一つの表面及び少なくとも一つの端面に芯材(I)の前駆体を配置して熱プレスする工程、および前記芯材(I)の両面に前記繊維強化材(II)を接合する工程をこの順に含む、サンドイッチ構造体の製造方法。
【0052】
方法[2]:本発明のサンドイッチ構造体を製造する方法であって、熱伝導材(III)の少なくとも一つの表面及び少なくとも一つの端面に芯材(I)の前駆体を配置する工程、前記芯材(I)の前駆体の両面に繊維強化材(II)の前駆体を配置する工程、および熱プレスする工程をこの順に含む、サンドイッチ構造体の製造方法。
【0053】
方法[3]:本発明のサンドイッチ構造体を製造する方法であって、熱伝導材(III)の少なくとも一つの表面及び少なくとも一つの端面に芯材(I)の前駆体を配置して熱プレスする工程、および芯材(I)の両面に繊維強化材(II)の前駆体を配置する工程、および熱プレスする工程をこの順に含む、サンドイッチ構造体の製造方法。
【0054】
方法[1]~[3]において、「熱伝導材(III)の少なくとも一つの表面及び少なくとも一つの端面に芯材(I)の前駆体を配置する」とは、芯材(I)の前駆体が熱伝導材(III)の少なくとも一つの表面及び少なくとも一つの端面を覆うように配置することをいう。
【0055】
方法[1]~[3]において、熱伝導材(III)の両面に芯材(I)の前駆体が配置されることが好ましい。また、方法[1]~[3]において、芯材(I)の前駆体は、熱伝導材(III)の少なくとも二つの端面に配置されることがより好ましく、さらに熱伝導材(III)の両面に配置されることがさらに好ましく、熱伝導材(III)の両面および全ての端面に配置されている、すなわち熱伝導材(III)を内包していることが特に好ましい。
【0056】
芯材(I)の前駆体とは、例えば、芯材(I)が繊維強化樹脂である場合は、強化繊維および樹脂を含むプリプレグである。また、芯材(I)が非繊維強化樹脂である場合、発泡剤を含む樹脂シートや、樹脂シートの積層体などが挙げられる。
【0057】
本発明の好ましい態様の一つである、芯材(I)が多孔質体を含み、多孔質体が繊維強化樹脂からなる場合、芯材(I)の前駆体は、例えば、不連続強化繊維マットに熱可塑性樹脂のフィルムや不織布を圧縮しつつ含浸させることで製造することができる。不連続強化繊維マットは、例えば、不連続の強化繊維を予め、ストランド状、好ましくは略単繊維状、より好ましくは単繊維状に分散して製造される。より具体的には、不連続の強化繊維を空気流にて分散してシート化するエアレイド法や、不連続の強化繊維を機械的にくし削りながらシートに形成するカーディング法などの乾式プロセス、不連続の強化繊維を水中にて攪拌して抄紙するラドライト法による湿式プロセスなどが挙げられる。
【0058】
不連続の強化繊維をより単繊維状に近づける手段として、乾式プロセスにおいては、開繊バーを設ける手段、開繊バーを振動させる手段、カードの目をファインにする手段、カードの回転速度を調整する手段などが例示できる。また、湿式プロセスにおいては、不連続の強化繊維の攪拌条件を調整する手段、分散液の強化繊維濃度を希薄化する手段、分散液の粘度を調整する手段、分散液を移送させる際に渦流を抑制する手段などが例示できる。特に、不連続強化繊維マットは、湿式法で製造されることが好ましく、投入繊維の濃度を増やしたり、分散液の流速(流量)とメッシュコンベアの速度を調整したりすることで、不連続強化繊維マットにおける強化繊維の割合を容易に調整することができる。例えば、分散液の流速に対して、メッシュコンベアの速度を遅くすることで、得られる不連続強化繊維マット中の繊維の配向が引き取り方向に向き難くなり、嵩高い不連続強化繊維マットを製造可能である。不連続強化繊維マットとしては、不連続の強化繊維単体から構成されていてもよく、不連続の強化繊維が粉末形状や繊維形状のマトリックス樹脂成分と混合されていたり、不連続の強化繊維が有機化合物や無機化合物と混合されていたり、不連続の強化繊維同士が樹脂成分で目留めされていてもよい。
【0059】
不連続強化繊維マットに熱可塑性樹脂のフィルムや不織布を含浸させる際の圧力は、好ましくは0.5MPa以上30MPa以下、より好ましくは1MPa以上5MPa以下とするのがよい。0.5MPaよりも圧力が小さいと熱可塑性樹脂が不連続強化繊維マットに含浸しないことがあり、また30MPaよりも大きいと芯材の前駆体の厚さの調整が困難になる。熱可塑性樹脂のフィルムや不織布を含浸させる際の温度は、熱可塑性樹脂の融点あるいはガラス転移点以上の温度であることが好ましく、融点あるいはガラス転移点に、10℃を加えた温度以上であることがより好ましく、融点あるいはガラス転移点に、20℃を加えた温度以上であることがさらに好ましい。なお、熱可塑性樹脂のフィルムや不織布を含浸させる際の温度が、熱可塑性樹脂の融点あるいはガラス転移点よりも温度が高すぎる場合、熱可塑性樹脂の分解や劣化が生じることがあるため、熱可塑性樹脂の融点あるいはガラス転移点に、150℃を加えた温度以下であるのが好ましい。
【0060】
不連続強化繊維マットに熱可塑性樹脂のフィルムや不織布を含浸させる方法を実現するための設備としては、圧縮成形機、ダブルベルトプレス機を好適に用いることができる。圧縮成形機はバッチ式であり、加熱用と冷却用の2機以上を並列した間欠式プレスシステムとすることで生産性の向上が図れる。ダブルベルトプレス機は連続式であり、連続的な加工を容易におこなうことができるため連続生産性に優れる。
【0061】
繊維強化材(II)の前駆体とは、通常は強化繊維および樹脂を含むプリプレグである。例えば、連続繊維で強化された一方向繊維プリプレグまたは織物繊維プリプレグ、あるいは、強化繊維シートと樹脂シートを積層した積層体などが挙げられる。
【0062】
方法[1]~[3]はいずれも、熱プレスする工程を有する。この工程においては、熱伝導材(III)の少なくとも一つの表面及び少なくとも一つの端面に芯材(I)の前駆体を配置して、芯材(I)の前駆体の膨脹温度または接合に必要な温度で熱プレスすることにより、熱伝導材を芯材に含ませることができる。熱プレスの設備としては、圧縮成形機を好適に用いることができる。圧縮成形機はバッチ式であり、加熱用と冷却用の2機以上を並列した間欠式プレスシステムとすることで生産性の向上が図れる。
【0063】
方法[1]は、芯材(I)の成形過程で、熱伝導材(III)を芯材(I)に含ませた後、成形した芯材(I)の両面に繊維強化材(II)を接合する方法である。芯材(I)と繊維強化材(II)とを接合させる手段としては、特に限定されないが、例えば、芯材(I)と繊維強化材(II)とを、熱板溶着、振動溶着、超音波溶着、レーザー溶着、抵抗溶着、誘導加熱溶着、あるいは、接着剤などにより接合する方法がある。芯材(I)と繊維強化材(II)の成形温度や成形圧力などの成形条件が大きく異なる場合などに好ましく用いることができる。
【0064】
方法[2]は、芯材(I)と繊維強化材(II)の成形および接合を同時に実施する方法である。芯材(I)と繊維強化材(II)の成形温度や成形圧力などの成形条件が近しい場合などに好ましく用いることができる。芯材(I)と繊維強化材(II)の成形・接合が同時にできるため、生産性の観点から好ましい。
【0065】
方法[3]は、芯材(I)の成形過程で、熱伝導材(III)を芯材(I)に含ませた後、成形した芯材(I)の両面に繊維強化材(II)の前駆体を配置して熱プレスをする方法である。芯材(I)と繊維強化材(II)の接合と繊維強化材(II)の成形が同時にできるため、生産性の観点から好ましい。
【0066】
<筐体>
本発明の筐体は、本発明のサンドイッチ構造体を用いてなる。本発明のサンドイッチ構造体を利用することで優れた力学特性と軽量性を両立した筐体を得ることが出来る。また、量産性の観点でもプレス成形などのハイサイクル成形での成形が可能であるため好ましい。
【0067】
本発明の筐体は、例えば、上述のサンドイッチ構造体の製造方法により、所望の筐体の形状のサンドイッチ構造体を作製することにより得ることができる。
【実施例
【0068】
以下、実施例より本発明をさらに詳細に説明する。
【0069】
(1)サンドイッチ構造体の曲げ強度、曲げ弾性率測定
作製したサンドイッチ構造体の曲げ試験片を、ISO178法(1993)に従い曲げ特性を測定した。曲げ試験片の最表面の繊維方向を曲げ方向として、測定数n=5とし、平均値を曲げ強度および曲げ弾性率とした。測定装置としてはインストロン・ジャパン(株)製、“インストロン”(登録商標)5565型万能材料試験機を使用した。
【0070】
(2)サンドイッチ構造体の放熱性評価
図3に示すように、作製したサンドイッチ構造体1の裏面四隅に10mm×10mmの厚み3mmのゴム製スペーサ6を貼り付け、実験台に設置した。設置したサンドイッチ構造体の表面片隅に50mm×25mmのマイクロセラミックヒーター5(坂口電熱(株)製、マイクロセラミックヒーターMS-2(商品名))を設置し、一定電流・一定電圧下、10Wでヒーターを加熱した。ヒーター加熱開始から15分後のヒーター温度が一定になった時のヒーター温度から放熱性を、下記基準により評価した。
A:ヒーター温度100℃未満(放熱性が非常に高い)
B:ヒーター温度100℃以上120℃未満(放熱性が高い)
C:ヒーター温度120℃以上(放熱性が低い)
(参考例1)炭素繊維束の作製
ポリアクリロニトリルを主成分とする重合体から紡糸、焼成処理を行い、総フィラメント数12000本の炭素繊維連続束を得た。該炭素繊維連続束に浸漬法によりサイジング剤を付与し、120℃の温度の加熱空気中で乾燥し、炭素繊維束を得た。この炭素繊維束の特性は次の通りであった。
【0071】
単繊維径:7μm
単位長さ当たりの質量:0.8g/m
密度:1.8g/cm
引張強度:4.2GPa
引張弾性率:230GPa
サイジング種類:ポリオキシエチレンオレイルエーテル
サイジング付着量:1.5質量%
(参考例2)炭素繊維マットの作製
参考例1の炭素繊維束をカートリッジカッターで繊維長6mmにカットし、チョップド炭素繊維束を得た。界面活性剤(ナカライテクス(株)製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(商品名))0.1質量%の水分散液を作製し、この分散液とチョップド炭素繊維束を抄紙機に投入し、炭素繊維マットを作製した。
【0072】
抄紙機は、分散槽、抄紙槽、そして分散槽と抄紙槽を接続する輸送部を備えている。分散槽は、攪拌機が付属し、投入した分散液とチョップド炭素繊維束を分散可能である。抄紙槽は、底部に抄紙面を有するメッシュコンベアを備え、抄紙された炭素繊維マットを運搬可能なコンベアをメッシュコンベアに接続している。抄紙は、分散液中の繊維濃度を0.05質量%として行った。抄紙した炭素繊維マットを200℃の乾燥炉で乾燥した。続いて、コンベアにより運搬される炭素マットの上面部に結着剤として、結着剤(日本触媒(株)製、“ポリメント”(登録商標)SK-1000)の3質量%の水分散液を散布した。余剰分の結着剤を吸引し、200℃の乾燥炉で乾燥し、炭素繊維マットを得た。得られた炭素繊維マットの目付は50g/mであった。
【0073】
(参考例3)ポリプロピレン樹脂フィルムの作製
無変性ポリプロピレン樹脂(プライムポリマー(株)製、“プライムポリプロ”(登録商標)J105G)を90質量%と、酸変性ポリプロピレン樹脂(三井化学(株)製、“アドマー”(登録商標)QE510)を10質量%と、をブレンドした。このブレンド品を押出機で溶融混錬した後、T字ダイから押出した。その後、60℃のチルロールで引き取り、樹脂を冷却固化することで、ポリプロピレン樹脂フィルムを得た。
【0074】
(参考例4)エポキシ樹脂フィルムの作製
エポキシ樹脂(ベースレジン:ジシアンジアミド/ジクロロフェニルメチルウレア硬化系エポキシ樹脂)を、コーターを用いて、離型紙上に塗布してエポキシ樹脂フィルムを得た。
【0075】
(参考例5)一方向プリプレグの作製
参考例1の炭素繊維束をシート状に一方向に配列させ、参考例4のエポキシ樹脂フィルム2枚を炭素繊維束の両面から重ね、加熱加圧により樹脂を含浸させ、炭素繊維の目付が110g/m、厚み0.1mm、マトリックス樹脂の質量分率が30質量%の一方向プリプレグを得た。
【0076】
(実施例1)
参考例2の炭素繊維マットと、参考例3のポリプロピレン樹脂フィルムと、参考例5の一方向プリプレグと、グラファイトシート(パナソニック(株)製、“PGS”(登録商標)EYGS182307、面内熱伝導率1000W/m・K)とを用いて、サンドイッチ構造体を作製した。炭素繊維マットと、ポリプロピレン樹脂フィルムと、一方向プリプレグを50mm×150mmのサイズに調整し、グラファイトシートを40mm×140mmのサイズに調整した後、[一方向プリプレグ0°/一方向プリプレグ90°/ポリプロピレン樹脂フィルム/炭素繊維マット/グラファイトシート/炭素繊維マット/ポリプロピレン樹脂フィルム/一方向プリプレグ90°/一方向プリプレグ0°]の順に表面の一方向プリプレグの繊維方向がサンプルの長手方向となるように積層した。この際、グラファイトシートは積層体の中央に配置した。この積層体を離型フィルムで挟み、さらにツール板で挟んだ。それらを盤面温度が180℃のプレス成形機に投入し、3MPaで10分間、加熱プレスすることで、プリプレグの硬化と炭素繊維マットへのポリプロピレン樹脂の含浸を行った。次に、ツール板の間に厚み1mmのスペーサを挿入し、盤面温度が40℃のプレス成形機に投入し、面圧3MPaで積層体が冷えるまで冷却プレスすることで、熱伝導材の周囲に芯材が配置された、サンドイッチ構造体を得た。マイクロメーターでサンプルの厚みを測定したところ、厚みは1.0mmであった。ツール板の間に厚み1.0mmのスペーサを挿入することで、ポリプロピレン樹脂が含浸した炭素繊維マットがスプリングバックし、芯材が多孔質体となる。なお、本実施例におけるサンプルは平板であるため、厚みは一定である。したがって、サンプルのいずれかの点で測定した厚みが最大厚みとなる。他の実施例、比較例についても同様である。
【0077】
また、曲げ試験片は、炭素繊維マットと、ポリプロピレン樹脂フィルムと、一方向プリプレグを50mm×40mmのサイズに調整し、グラファイトシートを40mm×30mmのサイズに調整したこと以外は同様にして、プリフォーム、プレス成形を行い、熱伝導材の周囲に芯材が配置された、サンドイッチ構造体の曲げ試験片を得た。得られたサンドイッチ構造体の断面図を図4に示す。得られたサンドイッチ構造体では図4のように芯材2の両面に一方向繊維強化材0°7及び一方向繊維強化材90°8からなる繊維強化材層を有している。また、グラファイトシート9は芯材により両面および全ての端面が覆われた構造となっており、芯材に保護された構造となっている。そのため、得られたサンドイッチ構造体の機械特性は優れており、グラファイトシートの剥離やグラファイトシート破片の飛散はなかった。また、グラファイトシートを含んでいるため、放熱性も優れていた。
【0078】
(実施例2)
グラファイトシートの積層枚数を4枚に変更し、[一方向プリプレグ0°/一方向プリプレグ90°/ポリプロピレン樹脂フィルム/炭素繊維マット/グラファイトシート/グラファイトシート/グラファイトシート/グラファイトシート/炭素繊維マット/ポリプロピレン樹脂フィルム/一方向プリプレグ90°/一方向プリプレグ0°]の順に積層したこと以外は実施例1と同様にして、プリフォーム、プレス成形を行い、熱伝導材の周囲に芯材が配置された、サンドイッチ構造体と、サンドイッチ構造体の曲げ試験片を得た。得られたサンドイッチ構造体の断面図を図5に示す。グラファイトシートが芯材に保護されているため、得られたサンドイッチ構造体の機械特性は優れていた。また、複数のグラファイトシートを含んでいるため、放熱性も非常に優れていた。
【0079】
(比較例1)
グラファイトシートのサイズを50×150mmのサイズに調整したこと以外は実施例1と同様にして、プリフォーム、プレス成形を行い、熱伝導材のすべての端部が露出したサンドイッチ構造体を得た。また、曲げ試験片作製時は、グラファイトシートを50mm×40mmのサイズに調整したこと以外は実施例1と同様にして、プリフォーム、プレス成形を行い、熱伝導材のすべての端部が露出した、サンドイッチ構造体の曲げ試験片を得た。得られたサンドイッチ構造体の断面図を図6に示す。得られたサンドイッチ構造体は、グラファイトシートのすべての端部が露出しているため、グラファイトシートの層間で剥離が生じた。
【0080】
(比較例2)
グラファイトシートのサイズを50×150mmのサイズに調整したこと以外は実施例2と同様にして、プリフォーム、プレス成形を行い、熱伝導材のすべての端部が露出したサンドイッチ構造体を得た。また、曲げ試験片作製時は、グラファイトシートを50mm×40mmのサイズに調整したこと以外は実施例2と同様にして、プリフォーム、プレス成形を行い、熱伝導材のすべての端部が露出した、サンドイッチ構造体の曲げ試験片を得た。得られたサンドイッチ構造体の断面図を図7に示す。得られたサンドイッチ構造体の強度はとても低く、プレス成形後にグラファイトシートとグラファイトシートの間で剥離が生じたため、曲げ試験、放熱性評価は実施できなかった。
【0081】
(比較例3)
グラファイトシートを積層しなかったこと以外は実施例1と同様にして、プリフォーム、プレス成形を行い、熱伝導材を含まないサンドイッチ構造体を得た。また、曲げ試験片作製時も同様に、グラファイトシートを積層しなかったこと以外は実施例1と同様にして、プリフォーム、プレス成形を行い、熱伝導材を含まないサンドイッチ構造体の曲げ試験片を得た。得られたサンドイッチ構造体の断面図を図8に示す。得られたサンドイッチ構造体は、熱伝導材を含んでいないため、放熱性が低かった。
【0082】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明のサンドイッチ構造体は、優れた放熱性と優れた機械特性を両立することができる。そのため、電気・電子機器、ロボット、二輪車、自動車、航空機の構造部材等として幅広い産業分野に適用可能である。特に、高い放熱性が要求される電子機器等の筐体に好ましく適用することができる。
【符号の説明】
【0084】
1.サンドイッチ構造体
2.芯材(I)
3.繊維強化材(II)
4.熱伝導材(III)
5.ヒーター
6.ゴム製スペーサ
7.一方向繊維強化材0°
8.一方向繊維強化材90°
9.グラファイトシート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8