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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-03
(45)【発行日】2025-06-11
(54)【発明の名称】ポリエステル組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/00 20060101AFI20250604BHJP
   C08K 3/32 20060101ALI20250604BHJP
   C08K 3/26 20060101ALI20250604BHJP
   C08L 67/02 20060101ALI20250604BHJP
【FI】
C08L67/00
C08K3/32
C08K3/26
C08L67/02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021027162
(22)【出願日】2021-02-24
(65)【公開番号】P2022128763
(43)【公開日】2022-09-05
【審査請求日】2023-08-17
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】原田 恭佑
(72)【発明者】
【氏名】松本 麻由美
(72)【発明者】
【氏名】坂本 純
【審査官】武貞 亜弓
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-097438(JP,A)
【文献】特開昭61-028522(JP,A)
【文献】特開平04-277552(JP,A)
【文献】特開平01-153717(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G63、C08L67
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸カルシウム粒子、リン原子(元素)を含有し、リン酸とリン酸アルカリ金属塩を用いてなり、以下の式(I)、(II)、(V)、(VI)を満たすポリエステル組成物。
0.2≦R≦0.8 (I)
0.38/R≦P (II)
遊離のカルシウム原子(元素)含有量≦5ppm (V)
0.01ppm≦ナトリウム原子(元素)含有量(ポリエステル組成物に対する重量比)≦30ppm以下 (VI)
R:炭酸カルシウム粒子の体積平均径(μm)
:ポリエステル組成物から下記の方法で単離して得られる単離粒子中に含まれるリン原子(元素)含有量(wt%:単離粒子に対する重量比)
(単離方法:ポリエステル組成物をo-クロロフェノール中で150℃、1時間溶解後、遠心加速度40900G、20℃で1時間遠心分離し、得られた固形分にジクロロメタンを加え、同条件で遠心分離し、固形分を得る。得られた固形分に再度ジクロロメタンを加え、同条件で遠心分離を行う。このジクロロメタンによる遠心分離を合計3回行って得られる固形分を単離粒子とする。)
(遊離のカルシウム原子(元素)含有量は、ポリエステル組成物をo-クロロフェノール中で150℃、1時間溶解後、遠心加速度40900G、20℃で1時間遠心分離し、得られた上澄み溶液をデカンテーションにより採取しアセトンを加えて沈殿させ、沈殿物を濾過により採取し、150℃で12時間真空乾燥して得られるポリマー中のカルシウム原子(元素)含有量)
【請求項2】
カルシウム原子(元素)含有量が100ppm(ポリエステル組成物に対する重量比)以上である請求項1に記載のポリエステル組成物。
【請求項3】
飽和水蒸気下、155℃で4時間湿熱処理前後のカルボン酸末端基増加量ΔCOOHが80eq/t以下である請求項1に記載のポリエステル組成物。
【請求項4】
ポリエステルがポリエチレンテレフタレートである請求項1に記載のポリエステル組成物。
【請求項5】
ジカルボン酸またはジカルボン酸エステルおよびジオールをエステル化反応またはエステル交換反応し、次いで重縮合反応してポリエステル組成物を製造するに際して、重縮合反応終了前に炭酸カルシウム粒子およびリン酸とリン酸アルカリ金属塩の混合溶液を含む化合物を混合スラリーとして添加し、以下の式(III)、(IV)、(VII)を満たすポリエステル組成物の製造方法。
0.2≦R≦0.8 (III)
0.38/R≦P (IV)
0.01ppm≦ナトリウム原子(元素)添加量(ポリエステル組成物に対する重量比)≦30ppm以下 (VII)
R:炭酸カルシウム粒子の体積平均径(μm)
:混合スラリーとして添加するリン原子(元素)量(wt%:炭酸カルシウムに対する重量比)
【請求項6】
炭酸カルシウム粒子の添加量がカルシウム原子(元素)として100ppm(ポリエステル組成物に対する重量比)以上である請求項5に記載のポリエステル組成物の製造方法。
【請求項7】
ポリエステルがポリエチレンテレフタレートである請求項5に記載のポリエステル組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル組成物およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルは機械特性、熱特性、耐薬品性、電気特性、成形性に優れ、様々な用途に用いられている。ポリエステルの中でも、特にポリエチレンテレフタレート(以降PETと記す)は、透明性や加工性に優れていることから、光学フィルムや離型フィルムなど高品位性が求められる用途に幅広く使われている。離型フィルムは搬送性や離型性を向上させるための方法として、ポリエステル中に粒子を適量配合し、フィルム表面に微細な突起を形成する技術が知られている。一般的な離型フィルムには、離型性を維持しつつ離型フィルム上に離型対象物を設けた際に、離型フィルムの欠点が離型対象物へ転写されないような平滑性が求められる。また、液晶偏光板離型では、離型フィルムが偏光板と貼り合わされたままクロスニコル検査を受けるため、そのクロスニコル検査を阻害しないために離型フィルム内の異物を低減することが要望される。
【0003】
しかし、粒子自体が有する活性により、高温下において粒子が変性して異物化したり、ポリエステル組成物のCOOH末端基量が高くなって耐加水分解性に劣る課題がある。
【0004】
これらの課題に対して、以下の文献に示されるような検討がされてきている。
特許文献1、特許文献2では、ポリエステル樹脂にリン酸アルカリ金属塩を含有させることにより、耐加水分解性が向上することが記載されている。
特許文献3では、表面処理された粒子を用いることにより、粒子分散性および耐熱性の優れたポリエステル組成物を提供する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO2014/021095号公報
【文献】特開2013-189521号公報
【文献】特開平8-143756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述した従来技術のように、ポリエステル組成物の耐加水分解性を向上させるだけでは、粒子の異物化抑制が不十分という課題があった。そして、粒子の異物化を抑制させるのみであれば、ポリエステル溶融時の熱分解や加水分解を防ぐことができなかった。また、表面処理された粒子を用いるだけでは、ポリエステルの分解反応を抑制することができなかった。すなわち、従来の耐加水分解性向上、粒子の表面処理技術では、ポリエステル組成物の耐加水分解性と粒子の安定化を両立することができなかった。
【0007】
本発明の目的は、炭酸カルシウム粒子の凝集や粗大異物化を抑制し、耐加水分解性に優れるポリエステル組成物およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、炭酸カルシウム粒子の凝集や粗大異物化を抑制し、耐加水分解性に優れるポリエステル組成物およびその製造方法を見出し、本発明に到達した。
本発明の目的は以下の手段によって達成される。
(1)炭酸カルシウム粒子、リン原子(元素)を含有し、リン酸とリン酸アルカリ金属塩を用いてなり、以下の式(I)、(II)、(V)、(VI)を満たすポリエステル組成物。
0.2≦R≦0.8 (I)
0.38/R≦P (II)
遊離のカルシウム原子(元素)含有量≦5ppm (V)
0.01ppm≦ナトリウム原子(元素)含有量(ポリエステル組成物に対する重量比)≦30ppm以下 (VI)
R:炭酸カルシウム粒子の体積平均径(μm)
:ポリエステル組成物から下記の方法で単離して得られる単離粒子中に含まれるリン原子(元素)含有量(wt%:単離粒子に対する重量比)
(単離方法:ポリエステル組成物をo-クロロフェノール中で150℃、1時間溶解後、遠心加速度40900G、20℃で1時間遠心分離し、得られた固形分にジクロロメタンを加え、同条件で遠心分離し、固形分を得る。得られた固形分に再度ジクロロメタンを加え、同条件で遠心分離を行う。このジクロロメタンによる遠心分離を合計3回行って得られる固形分を単離粒子とする。)
(遊離のカルシウム原子(元素)含有量は、ポリエステル組成物をo-クロロフェノール中で150℃、1時間溶解後、遠心加速度40900G、20℃で1時間遠心分離し、得られた上澄み溶液をデカンテーションにより採取しアセトンを加えて沈殿させ、沈殿物を濾過により採取し、150℃で12時間真空乾燥して得られるポリマー中のカルシウム原子(元素)含有量)
(2)カルシウム原子(元素)含有量が100ppm(ポリエステル組成物に対する重量比)以上である(1)に記載のポリエステル組成物。
(3)飽和水蒸気下、155℃で4時間湿熱処理前後のカルボン酸末端基増加量ΔCOOHが80eq/t以下である(1)に記載のポリエステル組成物。
(4)ポリエステルがポリエチレンテレフタレートである(1)に記載のポリエステル組成物。
(5)ジカルボン酸またはジカルボン酸エステルおよびジオールをエステル化反応またはエステル交換反応し、次いで重縮合反応してポリエステル組成物を製造するに際して、重縮合反応終了前に炭酸カルシウム粒子およびリン酸とリン酸アルカリ金属塩の混合溶液を含む化合物を混合スラリーとして添加し、以下の式(III)、(IV)、(VII)を満たすポリエステル組成物の製造方法。
0.2≦R≦0.8 (III)
0.38/R≦P (IV)
0.01ppm≦ナトリウム原子(元素)含有量(ポリエステル組成物に対する重量比)≦30ppm以下 (VII)
R:炭酸カルシウム粒子の体積平均径(μm)
:混合スラリーとして添加するリン原子(元素)量(wt%:炭酸カルシウムに対する重量比)
(6)炭酸カルシウム粒子の添加量がカルシウム原子(元素)として100ppm(ポリエステル組成物に対する重量比)以上である(5)に記載のポリエステル組成物の製造方法。
(7)ポリエステルがポリエチレンテレフタレートである(5)に記載のポリエステル組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により得られるポリエステル組成物は、炭酸カルシウム粒子の凝集や粗大異物化が抑制され、耐加水分解性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明のポリエステル組成物とは、炭酸カルシウム粒子、リン原子(元素)を含有し、以下の式(I)、(II)を満たすポリエステル組成物である。
0.2≦R≦0.8 (I)
0.38/R≦P (II)
R:炭酸カルシウム粒子の体積平均径(μm)
:ポリエステル組成物から下記の方法で単離して得られる単離粒子中に含まれるリン原子(元素)含有量(wt%:単離粒子に対する重量比)
本発明のポリエステル組成物は、炭酸カルシウム粒子を含有し、該粒子の体積平均径Rが0.2μm以上0.8μm以下であることが必要である(上記式(II)。体積平均径の測定方法は、ポリエステル組成物をプラズマ処理して粒子を露出させ、日立製電界放射型走査電子顕微鏡(型番S-4000)、ニデコ製SEM-IMAGEANALYZER(型番ルーデックスAP)にて、倍率5000倍で20視野以上の測定を行い、最低200個以上の粒子から円相当径を測定し、それを擬似的な立体球状とみなすことで算出した。体積平均径Rの下限として好ましくは0.4μm以上である。上記下限以上とすることで、粒子の凝集がないポリエステル組成物を提供することが可能である。また、体積平均径はポリエステル組成物をフィルムに加工した際の表面物性に影響し、体積平均径の大きな粒子ではフィルム表面に粗大突起が形成される要因となる。したがって、上記上限以下の体積平均径とすることで、粗大突起を低減したフィルムとすることが可能となる。
【0012】
また、本発明のポリエステル組成物は、リン原子(元素)を含有していることが必要である。リン原子(元素)を含有することにより、ポリエステル組成物に耐加水分解性を付与させることができ、さらにリン化合物により炭酸カルシウム粒子表面を保護することで、熱履歴などを受けても粒子の凝集が発生しにくくなり、良好な粒子分散性を有するポリエステル組成物を提供することが可能となる。
【0013】
本発明のポリエステル組成物から単離して得られる単離粒子中に含まれるリン原子(元素)含有量P(wt%:単離粒子に対する重量比)は、下記式を満足する必要がある。
0.38/R≦P (II)
ここで、Pの上限として好ましくは2.5wt%以下である。
上記範囲内とすることで、ポリエステルの重合反応を阻害することなく、粒子の凝集を抑制したポリエステル組成物を提供することが可能となる。なお、ポリエステル組成物からの粒子の単離は次の方法によって行う。すなわち、ポリエステル組成物1gあたり10mlのo-クロロフェノール中で150℃、1時間溶解後、遠心加速度40900G、20℃で1時間遠心分離を行う。分離後、上澄み液をデカンテーションにより除去し、得られた固形分にジクロロメタンを加えて沈殿物をかき混ぜた後、同条件で遠心分離し、固形分を得る。得られた固形分に再度ジクロロメタンを加えて沈殿物をかき混ぜた後、同条件で遠心分離を行う。このジクロロメタンによる遠心分離を合計3回行って得られる固形分を単離粒子とする。炭酸カルシウム粒子はリン化合物と混合添加することで、リン化合物が粒子表面に付着する。この表面に付着したリン化合物が粒子を保護する効果があるため、粒子の表面積に応じた添加が必要となる。(II)式を満足するリン原子(元素)が含有されていることで、粒子表面の保護を効果的に行え、粒子の凝集や粗大異物化を抑制することが可能となる。
【0014】
本発明のポリエステル組成物はカルシウム原子(元素)をポリエステル組成物の重量に対し100ppm以上含有していることが好ましい。上記下限以上のカルシウム原子(元素)が含有されていることで、ポリエステル組成物をフィルムに加工した際の搬送性や離型性が良好となる。
【0015】
本発明のポリエステル組成物における遊離のカルシウム原子(元素)含有量はポリエステル組成物の重量に対し10ppm以下であることが好ましく、5ppm以下であることがさらに好ましい。遊離のカルシウム含有量とは、詳細は実施例に記載のとおり、該ポリエステル組成物1gあたり10mlのo-クロロフェノール中で150℃、1時間溶解後、遠心加速度40900G、20℃で1時間遠心分離を行って得られる上澄み溶液をデカンテーションにより採取し、これにアセトンを加えて沈殿させ、濾過により回収して得られる粒子が除去されたポリマー中のカルシウム含有量のことである。炭酸カルシウム粒子を含有したフィルムにおいて、製膜時の熱履歴などにより、炭酸カルシウム粒子より遊離のカルシウムが発生する。この発生した遊離のカルシウムは、ポリエステル組成物と副生成物を形成し、粒子の凝集や粗大異物化の原因となる。炭酸カルシウム粒子の表面を十分な量のリン化合物で保護することで、炭酸カルシウム粒子からのカルシウムの遊離を防ぐことができる。遊離のカルシウム量を上記上限以下に抑えることで、炭酸カルシウム粒子の凝集を抑制することが可能となる。
【0016】
また、本発明のポリエステル組成物は、ナトリウム原子(元素)をポリエステル組成物の重量に対し0.01ppm以上30ppm以下含有していることが好ましい。上記範囲とすることで、耐加水分解性が良好となり、さらに炭酸カルシウム粒子の表面保護も効果的に行える。
【0017】
本発明のポリエステル組成物の耐加水分解性はΔCOOHの値で評価する。ΔCOOHとは、飽和水蒸気下で155℃、4時間湿熱処理した際のCOOH末端基増加量であり、ΔCOOHが少ない値であるほど、耐加水分解性が良好となる。本発明のポリエステル組成物ではΔCOOHが80.0以下であることが好ましい。ΔCOOHの値が80.0以下の場合、耐加水分解性が良好であり、粒子の凝集の原因となるポリエステルの分解を抑制できる。ΔCOOHの値は70.0以下であることがより好ましく、60.0以下であることがさらに好ましい。
【0018】
次に、本発明のポリエステル組成物の製造方法について記載する。
本発明のポリエステル組成物の製造方法は、ジカルボン酸またはそのエステルとジオールを主原料とし、次の2段階の工程からなる。すなわち、(A)エステル化反応、または(B)エステル交換反応からなる1段階目の工程と、それに続く(C)重縮合反応からなる2段階目の工程である。
【0019】
本発明のポリエステル組成物を製造する原料は、ジカルボン酸またはジカルボン酸エステルとジオールを用いることができ、2種類以上を組み合わせて使用することも可能である。
【0020】
本発明のジカルボン酸は、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、ジフェニル4,4’-ジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、マロン酸、ダイマー酸などが挙げられる。また、ジカルボン酸エステルとは、先に述べたジカルボン酸の低級アルキルエステル、酸無水物、アシル塩化物などであり、メチルエステル、エチルエステル、ヒドロキシエチルエステルなどが好ましく用いられる。本発明におけるジカルボン酸またはジカルボン酸エステルとしてより好ましい態様は、融点が高く、フィルムや繊維などに加工しやすいポリエステル組成物を得ることができる点で、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、またはこれらのアルキルエステルである。
【0021】
本発明のジオールとしては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどの脂肪族ジオール、脂環式ジオールとしてはシクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジエタノール、ノルボルナンジメタノール、ノルボルナンジエタノール、トリシクロデカンジメタノール、トリシクロデカンジエタノール、デカリンジメタノール、デカリンジエタノールなどの飽和脂環式1級ジオール、イソソルビドなどの環状エーテルを含む飽和ヘテロ環1級ジオール、その他シクロヘキサンジオール、ビシクロヘキシル-4,4’-ジオール、2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシルプロパン)、2,2-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)シクロヘキシル)プロパン、シクロペンタンジオール、3-メチル-1,2-シクロペンタジオール、4-シクロペンテン-1,3-ジオール、アダマンタンジオールなどの各種脂環式ジオールや、パラキシレングリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールS,スチレングリコール、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンなどの芳香環式ジオールが例示できる。またジオール以外にも本発明の効果を損なわない範囲で、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの多官能アルコールも用いることができる。本発明の効果を十分果たすことができる点、およびフィルムや繊維などに加工しやすいポリエステル組成物を得ることができる点でエチレングリコールが好ましい。
【0022】
本発明の製造方法において、1段階目の工程のうち、(A)エステル化反応の工程は、ジカルボン酸とジオールとを所定温度でエステル化反応させ、所定量の水が留出するまで反応を行い、低重合体を得る工程である。エステル化反応により低重合体を得る場合、エステル化反応性、耐熱性の観点から、エステル化反応開始前のジカルボン酸とジオールのモル比(ジオール/ジカルボン酸)は、1.05以上1.40以下の範囲であることが好ましい。より好ましくは1.05以上1.30以下、さらに好ましくは1.05以上1.20以下である。上記範囲とすることで、良好な反応性を有し、またジオールの2量体などの副生成物の生成を抑制できることから、耐熱性を良好にすることができる。
【0023】
また(B)エステル交換反応の工程は、ジカルボン酸エステルとジオールとをエステル交換反応させ、所定量のアルコールが留出するまで反応を行い、低重合体を得る工程である。エステル交換反応にて低重合体を得る場合、反応性、耐熱性の観点から、ジカルボン酸エステルとジオールのモル比(ジオール/ジカルボン酸エステル)は1.7以上2.3以下の範囲であることが好ましい。上記範囲とすることで、エステル交換反応を効率的に進行させることができ、ジオールの2量体の副生を抑えることができることから、耐熱性を良好にすることができる。
【0024】
2段階目の工程のうち、(C)重縮合反応は、(A)エステル化反応または(B)エステル交換反応で得られた低重合体からポリエステル組成物を得る工程である。
【0025】
また、本発明の製造方法は、バッチ重合、半連続重合、連続重合が適用できる。
【0026】
本発明のポリエステル組成物の製造方法において、(A)エステル化反応に用いられる触媒は、マンガン、コバルト、亜鉛、チタン、カルシウムなどの化合物を用いても構わないが、重縮合反応段階での熱分解や異物の発生などの観点から、エステル化反応は無触媒で実施することが好ましい。ここで、(A)エステル化反応は無触媒においてもカルボン酸の自己触媒作用によって、反応は十分に進行する。また、(B)エステル交換反応に用いられる触媒としては、公知のエステル交換触媒を用いることができる。エステル交換触媒としては、有機マンガン化合物、有機マグネシウム化合物、有機カルシウム化合物、有機コバルト化合物、有機リチウム化合物などが挙げられ、具体的には、炭酸塩、酢酸塩、安息香酸塩、酸化物、水酸化物などがあるが、これに限定されるものではない。
【0027】
また、(C)重縮合反応に用いられる触媒は、公知の重縮合触媒を用いることが出来る。例えば、アンチモン、チタン、アルミニウム、スズ、ゲルマニウムなどの化合物などが挙げられる。
アンチモン化合物としては、アンチモンの酸化物、アンチモンのカルボン酸塩、アンチモンアルコキシドなどが挙げられる。
チタン化合物としては、チタンキレート錯体、チタンアルコキシド、チタンアルコキシドの加水分解により得られるチタン酸化物などが挙げられる。
【0028】
アルミニウム化合物としては、カルボン酸アルミニウム、アルミニウムアルコキシド、アルミニウムキレート化合物、塩基性アルミニウム化合物などが挙げられる。
【0029】
スズ化合物としては、アルキル基を持つスズ化合物、ヒドロキシル基を持つスズ化合物などが挙げられる。
【0030】
ゲルマニウム化合物としては、ゲルマニウムの酸化物、ゲルマニウムアルコキシドなどが挙げられる。
【0031】
上記の金属化合物は、水和物であってもよい。
この中でも、重合時間および経済性の観点から、アンチモン化合物を重縮合反応触媒として用いることが好ましい。
本発明のポリエステル組成物の製造方法において、炭酸カルシウム粒子およびリン原子(元素)を含む化合物を混合スラリーとして添加し、以下の式(III)、(IV)を満たす必要がある。
0.2≦R≦0.8 (III)
0.38/R≦P (IV)
R:炭酸カルシウム粒子の体積平均径(μm)
:混合スラリーとして添加するリン原子(元素)量(wt%:炭酸カルシウムに対する重量比)。
【0032】
本発明のポリエステル組成物の製造方法において、添加する炭酸カルシウム粒子の体積平均径Rは0.2μm以上0.8μm以下であることが必要である。下限として好ましくは0.4μm以上である。上記下限以上とすることで、粒子分散性に優れたポリエステル組成物を提供することが可能である。また、体積平均径はポリエステル組成物をフィルムに加工した際の表面物性に影響を与え、体積平均径の大きな粒子ではフィルム表面に粗大突起が形成される要因となる。したがって、上記上限以下の体積平均径とすることで、粗大突起を低減したフィルムとすることが可能となる。
【0033】
本発明のポリエステル組成物に対して、リン原子(元素)を含む化合物の添加量Pは、炭酸カルシウム粒子の体積平均径Rに対し下記式(IV)を満足するように炭酸カルシウム粒子と混合しポリエステル組成物中に添加することが必要である。
0.38/R≦P (IV)
の上限として好ましくは3.0wt%以下である。上記範囲内とすることで、重合反応を阻害することなく、粒子の凝集を抑制したポリエステル組成物を提供することが可能となる。添加するリン量が炭酸カルシウム粒子の体積平均径Rに対して、0.38/R未満となると、粒子表面の保護を十分に行うことができず、粒子の凝集や粗大異物化の原因となる。リン化合物として、リン酸、トリメチルリン酸、エチルジエチルホスホノアセテート、亜リン酸などを利用することができ、複数のリン化合物を併用することも可能である。このリン化合物はリン酸であることが特に好ましい。リン化合物を添加することにより、炭酸カルシウム粒子の表面保護を効果的に行え、さらにポリエステル組成物に耐加水分解性を付与させることができる。
【0034】
また、本発明のポリエステル組成物の製造方法において、ナトリウム原子(元素)をポリエステル組成物の重量に対し0.01ppm以上30ppm以下となるよう添加することが好ましい。上記範囲とすることで、耐加水分解性が良好となり、さらに炭酸カルシウム粒子の表面保護も効果的に行える。
【0035】
ナトリウム原子(元素)を含む化合物は特に限定しない。例えば、ナトリウムのリン酸塩、水酸化物、酢酸塩、炭酸塩、硝酸塩、塩化物などが挙げられる。耐加水分解性の点から、リン酸ナトリウム塩であることがさらに好ましい。リン酸ナトリウム塩としては、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウムが挙げられる。耐加水分解性の点からリン酸二水素ナトリウムが特に好ましい。また、複数のリン酸ナトリウム塩を併用しても構わない。
【0036】
また、上記リン酸ナトリウム塩と他のリン原子(元素)を含む化合物を併用することが好ましい。リン酸ナトリウム塩とリン酸とからなる緩衝溶液として混合することが特に好ましい。リン酸ナトリウム塩とリン酸からなる緩衝溶液を炭酸カルシウム粒子スラリーと混合することで、炭酸カルシウム粒子表面を被覆し、重縮合反応や製膜など溶融成型時の加熱などによる炭酸カルシウム粒子表面からのカルシウム溶出を抑制することが可能となる。
【0037】
本発明のポリエステル組成物の製造方法において、炭酸カルシウム粒子およびリン原子(元素)を含む化合物は前記(A)エステル化反応または(B)エステル交換反応工程、それに続く(C)重縮合反応工程のいずれの段階で添加してもよいが、重縮合反応終了前かつ炭酸カルシウム粒子とリン原子(元素)を含む化合物を混合してから添加することで、COOH末端基量を低減し耐加水分解性を向上させることができ、さらに良好な粒子分散性を有するポリエステル組成物を得ることができる。
【0038】
また、上記リン原子(元素)を含む化合物と、他のアルカリ金属化合物を併用しても構わない。例えば、水酸化カリウムを併用することで、静電印加製膜に必要なポリエステルの溶融比抵抗を小さくすることができ、成形性が向上する。
【0039】
本発明のポリエステル組成物の製造方法において、(A)エステル化反応を経て実施する場合、エステル化反応後から、炭酸カルシウム粒子およびリン原子(元素)を含む化合物を混合スラリーとして添加するまでの間に、エチレングリコールなどグリコール成分の追加添加を実施することが好ましい。エステル化反応にて得られるポリエステル組成物の低分子量体は、エステル交換反応で得られる低分子量体よりも重合度が高いために炭酸カルシウム粒子やリン酸ナトリウム塩が分散しにくく、異物化が起こりやすい。したがって、エチレングリコールなどのグリコールを追加添加し、解重合によって重合度を一旦低下させておくことで異物化を抑制できる。
【0040】
この追加添加するエチレングリコールなどグリコールは、全酸成分に対し0.05倍モル以上0.5倍モル以下であることが好ましい。より好ましくは0.1倍モル以上0.3倍モル以下である。上記範囲とすることで、重合系内の温度降下による重合時間の遅延を起こすことなく、リン酸アルカリ金属塩の異物化を抑制できる。
【0041】
炭酸カルシウム粒子およびリン原子(元素)を含む化合物を添加する際の形態は、粒子分散性の点から、スラリーとして添加することが好ましい。スラリーとして添加する場合、粒子と分散溶媒が十分に混合されていることが好ましいため、少なくとも10秒以上混合することが好ましい。混合は攪拌機やマグネチックスターラーなどの攪拌装置を用いて行ってもよい。また、粒子分散溶媒はポリエステル組成物のジオールと同一にすることが好ましく、PETの場合はエチレングリコールを用いることが特に好ましい。
【0042】
炭酸カルシウム粒子およびリン原子(元素)を含む化合物の添加時および添加後は、反応系内を攪拌することが好ましい。攪拌することで添加物をより均一に分散できる。
【0043】
また、本発明のポリエステル組成物の製造方法において、高分子量のポリエステル組成物を得るため、固相重合を行ってもよい。固相重合は、装置・方法は特に限定されないが、ポリエステル組成物を不活性ガス雰囲気下または減圧下で加熱処理することで実施される。不活性ガスはポリエステル組成物に対して不活性なものであればよく、例えば窒素、ヘリウム、炭酸ガスなどを挙げることができるが、経済性から窒素が好ましく用いられる。また、減圧条件では、より高真空にすることが固相重合反応に要する時間を短くできるため有利であり、具体的には110Pa以下を保つことが好ましい。
【0044】
以下、本発明におけるポリエステル組成物の製造方法の具体例を挙げるが、これに制限されない。
【0045】
250℃にて溶解したビスヒドロキシエチルテレフタレート(BHT)が仕込まれたエステル化反応器に、テレフタル酸とエチレングリコール(テレフタル酸に対し1.15倍モル)のスラリーを徐々に添加し、エステル化反応を進行させる。反応系内の温度は245~250℃になるようにコントロールし、反応率が95%に到達した段階でエステル化反応を終了とする。
【0046】
こうして得られた255℃のエステル化反応物を重合装置に移送し、重縮合触媒、追加添加のエチレングリコールおよび炭酸カルシウム粒子とリン原子(元素)を含む化合物の混合スラリーなどを添加する。これらの操作の際は、エステル化物が固化しないように、反応系内の温度を240~255℃に保つことが好ましい。
【0047】
その後、重合装置内の温度を290℃まで徐々に昇温しながら、重合装置内の圧力を常圧から250Pa以下まで徐々に減圧してエチレングリコールを留出させる。所定の撹拌トルクに到達した段階で反応を終了とし、反応系内を窒素ガスで常圧にし、溶融ポリエステルを冷水中にストランド状に吐出、カッティングし、ポリエステル組成物を得る。
【0048】
本発明で得られたポリエステル組成物は、公知の成形加工方法で成形することができ、フィルム、繊維、ボトル、射出成形品など各種製品に加工することができる。
【0049】
本発明のポリエステル組成物を各製品に加工する際に、本発明の効果を損なわない範囲で各種添加剤、例えば、顔料および染料を含む着色剤、滑剤、帯電防止剤、難燃剤、紫外線吸収剤、抗菌剤、核剤、可塑剤、離型剤などの添加剤を1種以上添加することもできる。
【0050】
本発明のポリエステル組成物は、耐加水分解性および粒子分散性に優れ、溶融成形や加工工程にて発生する分解異物や粒子の凝集異物が少ない。したがってフィルム、繊維、ボトル、射出成形品など各製品として利用することができ、特に光学フィルムや離型フィルムなどの高品位フィルムに用いることが可能である。
【0051】
フィルムとしては、本発明のポリエステル組成物から構成される単膜フィルムでも本発明のポリエステル組成物を少なくとも1層有する積層フィルムでもよい。特に積層フィルムの場合は、本発明のポリエステル組成物からなる層を少なくとも片表面に有する積層フィルムが好ましい。本発明のポリエステル組成物からなる層がフィルム表面に存在する場合、粒子由来の凝集異物や粗大突起を抑制できる。
【0052】
本発明のポリエステル組成物より製造された成形品は、熱安定性、色調にも優れるため、農業用資材、園芸用資材、漁業用資材、土木・建築用資材、文具、医療用品、自動車用部品、電気・電子部品またはその他の用途として有用であり、特に2軸延伸フィルムでは離型用工程フィルムや光学用フィルムに好適である。
【実施例
【0053】
以下実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例中の物性値は以下の方法で測定した。以下記載する方法は、本発明のポリエステル組成物単成分の場合の測
定方法を記載しているが、積層フィルムなどのように複数樹脂からなる成形品の場合、各
層の樹脂を削り出すなどして単離し、分析を行う。
また、実施例4、実施例9、実施例10は参考例と読み替える。
【0054】
(1)ポリエステル組成物のCOOH末端基量(単位:eq/tは当量/tを指す)
Mauriceの方法によって測定した(文献 M.J.Maurice,F.Huizinga,Anal.Chem.Acta、22、363(1960))。
すなわち、ポリエステル樹脂組成物0.5gを0.001g以内の精度で秤量する。該試料にo-クレゾール/クロロホルムを7/3の質量比で混合した溶媒50mlを加え、加熱して内温が90℃になってから20分間加熱攪拌して溶解する。また混合溶媒のみもブランク液として同様に別途加熱する。溶液を室温に冷却し、1/50Nの水酸化カリウムのメタノール溶液で電位差滴定装置を用いて滴定を行う。また、混合溶媒のみのブランク液についても同様に滴定を実施する。
ポリエステル樹脂組成物のCOOH末端基量は、以下の式により計算した。
COOH末端基量(eq/t)={(V1-V0)×N×f}×1000/S
ここでV1は試料溶液での滴定液量(mL)、V0はブランク液での滴定液量(mL)、Nは滴定液の規定度(N)、fは滴定液のファクター、Sはポリエステル樹脂組成物の質量(g)である。
【0055】
(2)ポリエステル組成物のアルカリ金属原子(元素)の定量(単位:ppm)
ポリエステル組成物1gを白金皿にとり、700℃にて1.5hrかけて完全に灰化させ、つぎに灰化物を0.25N塩酸水溶液20mLに溶かし、0.1N塩酸水溶液となるように純水を加え、測定試料とし、原子吸光法((株)日立製作所製:偏光ゼーマン原子吸光光度型180-80、フレーム:アセチレン-空気)にて定量を行った。
【0056】
(3)ポリエステル組成物中のCa原子(元素)、P原子(元素)の定量(単位:ppm)
ポリエステル組成物7gを溶融プレス機で円柱状に成型し、理学電機(株)製蛍光X線分析装置(型番:3270)を用いて定量を行った。
【0057】
(4)ポリエステル組成物中の遊離のカルシウム原子(元素)含有量(単位:ppm)
ポリエステル組成物30gをo-クロロフェノール300mL中に加え、150℃で1時間溶解後、遠心加速度40900G、20℃で1時間遠心分離した。得られた上澄み溶液をデカンテーションにより採取しアセトン500mLを加えて沈殿させ、沈殿物を濾過により採取し、150℃で12時間真空乾燥したものを(3)の分析方法にて定量を行った。
遠心機はHITACHI製himacCR20G(ローター:R19A)を用いた。
【0058】
(5)ポリエステル組成物からの炭酸カルシウム粒子の単離と単離粒子中のリン元素(原子)含有量測定(単位:wt%)
ポリエステル組成物30gをo-クロロフェノール300mL中に加え、150℃で1時間溶解後、18000rpm(40900G)、20℃で1時間遠心分離した。得られた固形分にジクロロメタン300mLを加えて沈殿物をかき混ぜた後、遠心加速度40900G、20℃、1時間で遠心分離し、固形分を得た。得られた固形分に再度ジクロロメタン300mLを加えて沈殿物をかき混ぜた後同条件で遠心分離を行った。このジクロロメタンによる遠心分離を合計3回行って得られる固形分を単離粒子とした。単離粒子中のリン原子(元素)含有量は、ICP発光分光分析装置(日立ハイテクサイエンス製PS3520VDDII)用いて測定した。
遠心機は日立製himacCR20G(ローター:R19A)を用いた。
【0059】
(6)ポリエステル組成物中の粒子体積平均径測定(単位:μm)
ポリエステル組成物をプラズマ処理し、日立製電界放射型走査電子顕微鏡(型番S-4000)、ニデコ製SEM-IMAGEANALYZER(型番ルーデックスAP)にて、粒子の体積平均径測定をおこなった。また、粒子径を解析する際は倍率5000倍で20視野以上の測定を行い、最低200個以上の粒子から円相当径を測定し、それを擬似的な立体球状とみなし体積平均粒子径を算出した。
【0060】
(7)ポリエステル組成物の加熱処理と粒子の凝集・粗大異物化評価
ポリエステル組成物を前処理として150℃で3時間、さらに180℃で7.5時間真空乾燥し、窒素流通下、300℃で10時間加熱溶融した後、水中で急冷する。得られた組成物を上記(6)の方法にて体積平均粒子径を算出し、(6)で算出した加熱処理前の体積平均径で除した比(加熱後体積平均径/加熱前体積平均径)を粒子の凝集・粗大異物化の指標として評価した(◎と〇を合格とした)。
◎:1.2以下
○:1.2~1.5
×:1.5以上。
【0061】
(8)ポリエステル組成物の耐加水分解性評価(ΔCOOH)
ポリエステル組成物を飽和水蒸気下、155℃で4時間湿熱処理し、処理前後のCOOH末端基量を測定することで、COOH末端基増加量(ΔCOOH=処理後COOH-処理前COOH)を算出した。
なお、処理装置はPRESSER COOKER 306SIII(HIRAYAMA製作所(株)製)を使用した。
【0062】
(9)2軸配向フィルムの作製と3次元粗さ測定
[PET-Aの作製] 250℃にて溶融したBHT105重量部が仕込まれたエステル化反応器に、テレフタル酸86重量部とエチレングリコール37重量部(テレフタル酸に対し1.15倍モル)からなるスラリーを徐々に添加し、エステル化反応を進行させる。反応系内の温度は245~250℃になるようにコントロールし、反応率が95%に到達した段階でエステル化反応を終了とし、BHTを得る。エステル化反応器から105重量部(PET100重量部相当)のBHTを重合装置へ溶融状態で仕込み、温度を255℃とする。ここに酢酸マンガン4水和物のエチレングリコール溶液(ポリエステル組成物の重量に対しMn原子(元素)として40ppm)、三酸化二アンチモンのエチレングリコールスラリー(ポリエステル組成物の重量に対しSb原子(元素)として100ppm)、リン酸(ポリエステル組成物の重量に対しリン原子(元素)として35ppm)を添加する。その後、重合装置内を290℃まで徐々に昇温するとともに、圧力を常圧から250Pa以下まで減圧し、290℃で所定の攪拌トルクを示すまで重合反応させる。重合反応終了後、反応系内を窒素ガスにて常圧にし、重合装置内の溶融ポリエステルをストランド状に水槽へ吐出して冷却後、カッティングしてペレット状のポリエステル組成物(固有粘度0.62)を得る。
【0063】
[2軸配向フィルムの作製]A層を構成する樹脂としてPET-Aを50重量部、本発明のポリエステル組成物を50重量部となるようにブレンドし160℃で2時間減圧乾燥した後、A層用の押出機に投入する。またB層を構成する樹脂としてPET-A100重量部を160℃で2時間減圧乾燥した後、B層用の押出機に投入する。押出機内でそれぞれの原料を280℃で溶融させ、層用合流ブロックで合流積層し、A層/B層が2/12.5の積層比となる2層積層とし、表面温度25℃のキャスティングドラム上に押し出し、静電印加を行いながら2層構造をもつ積層シートを作製する。続いて、該シートを加熱したロール群で予熱した後、90℃の温度で長手方向に3.5倍延伸を行った後、25℃の温度のロール群で冷却して一軸延伸フィルムを得る。得られた一軸延伸フィルムの両端をクリップで把持しながらテンター内の110℃の温度の加熱ゾーンで長手方向に直角な幅方向に4.0倍延伸する。さらに引き続いて、テンター内の熱処理ゾーンで230℃の温度で10秒間の熱固定を実施する。次いで、冷却ゾーンで均一に徐冷後、巻き取って、厚さ25μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得る。
【0064】
[2軸配向フィルムの3次元粗さ測定]得られた二軸配向ポリエステルフィルムを10cm四方に切り出し、非接触光学式粗さ測定器(Zygo社製NewView7300)を用い、50倍対物レンズを使用して測定面積139μm×104μmで、場所をランダムに変えて40視野測定を行った。このとき、粒子含有層が観察面となるよう、サンプルをセットした。該測定器に内蔵された表面解析ソフトMetroProにより、波長1.65~50μmの帯域通過フィルタを用いて、算術平均粗さRa(単位:nm)を求めた。光学用離型フィルムに求められるRaの指標として下記基準に従い評価し、◎と○を合格とした。
◎:15.5未満
○:15.5以上17.0未満
×:17.0以上。
【0065】
(実施例1)
250℃にて溶融したBHT105重量部が仕込まれたエステル化反応器に、テレフタル酸86重量部とエチレングリコール37重量部(テレフタル酸に対し1.15倍モル)からなるスラリーを徐々に添加し、エステル化反応を進行させる。反応系内の温度は245~250℃になるようにコントロールし、反応率が95%に到達した段階でエステル化反応を終了とし、BHTを得た。
エステル化反応器から105重量部(PET100重量部相当)のBHTを重合装置へ溶融状態で仕込み、温度を255℃とした。酢酸マンガン4水和物のエチレングリコール溶液(ポリエステル組成物の重量に対しMn原子(元素)として24ppm)、三酸化二アンチモンのエチレングリコールスラリー(ポリエステル組成物の重量に対しSb原子(元素)として255ppm)を添加した。その後、エチレングリコール5重量部(テレフタル成分対比0.15倍モル)を追加添加して解重合を進め、次いでリン酸(ポリエステル組成物の重量に対しP原子(元素)として49ppm)およびリン酸2水素ナトリウム2水和物(ポリエステル組成物の重量に対しNa原子(元素)として16ppm、P原子(元素)として23ppm)のエチレングリコール溶液と炭酸カルシウム粒子の濃度が20wt%のエチレングリコールスラリー(体積平均径0.8μm)を全て混合し、60秒間攪拌を行い均質なスラリーとしたものを添加した。(炭酸カルシウムとして1重量部)。
その後、重合装置内を290℃まで徐々に昇温するとともに、圧力を常圧から250Pa以下まで減圧し、290℃で所定の攪拌トルクを示すまで重合反応させた。重合反応終了後、反応系内を窒素ガスにて常圧にし、重合装置内の溶融ポリエステルをストランド状に水槽へ吐出して冷却後、カッティングしてペレット状のポリエステル組成物を得た。得られたポリエステル組成物の特性を表1に示す。
実施例1で得られたポリエステル組成物は、粒子の凝集や粗大異物化がなく、耐加水分解性にも優れることから、光学フィルムや離型フィルムに好適な物性を有していた。
【0066】
(実施例2~4、比較例1~2)
炭酸カルシウム粒子の体積平均径およびリン原子(元素)を含む化合物の添加量を表1の通り変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル組成物を得た。得られたポリエステル組成物の特性を表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
実施例2~4にて得られたポリエステル組成物は、粒子の凝集や粗大異物化がなく、耐加水分解性にも優れることから、光学フィルムや離型フィルムに好適な物性を有していた。
比較例1で得られたポリエステル組成物は、炭酸カルシウム粒子の体積平均径が小さく、粒子の凝集が見られ、不合格であった。
比較例2で得られたポリエステル組成物は、炭酸カルシウム粒子の体積平均径が大きく、フィルムに成型した際に粗大突起が形成され、不合格であった。
【0069】
(実施例5~8、比較例3)
リン原子(元素)を含む化合物の添加量を表2の通り変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル組成物を得た。得られたポリエステル組成物の特性を表2に示す。
【0070】
【表2】
【0071】
実施例5~8で得られたポリエスエル組成物は、リン原子(元素)の増加によって、加熱処理後の体積平均径がわずかに増加したが、粒子の凝集や粗大異物化がなく、耐加水分解性にも優れることから、光学フィルムや離型フィルムに好適な物性を有していた。
比較例3で得られたポリエステル組成物は、リン原子(元素)を含む化合物の添加量が少なく、ポリエステル組成物から単離した炭酸カルシウム粒子中のリン原子(元素)含有量が少なく、粒子の凝集と粗大異物化が起こり、また、耐加水分解性も悪く不合格であった。
【0072】
(実施例9~10、比較例4)
リン元素(原子)を含む化合物の種類を表3の通り変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル組成物を得た。得られたポリエステル組成物の特性を表3に示す。
実施例9~10で得られたポリエステル組成物は、用いるリン種の酸性度の違いにより、粒子の凝集が多少見られたものの、耐加水分解性に優れ、光学フィルムや離型フィルムに好適な物性を有していた。
比較例4で得られたポリエステル組成物は、リン酸のみを炭酸カルシウム粒子と混合して添加しており、炭酸カルシウム粒子からカルシウムイオンが溶出し、遊離のカルシウム原子(元素)含有量が増加し、また、単離粒子中のリン原子(元素)含有量も少なかった。
【0073】
(実施例11~12)
炭酸カルシウム粒子の添加量およびリン原子(元素)を含む化合物の添加量を表3の通り変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル組成物を得た。得られたポリエステル組成物の特性を表3に示す。
実施例11~12で得られたポリエステル組成物は、粒子の添加量が増えると凝集や粗大異物化が多少見られたが、光学フィルムや離型フィルムに好適な物性を有していた。
【0074】
(実施例13)
テレフタル酸ジメチル101.0重量部、エチレングリコール64.6重量部(テレフタル酸ジメチルの2倍モル)の割合でそれぞれ計量し、エステル交換反応装置に仕込んだ。内容物を150℃で溶解した後、酢酸マンガン4水和物のエチレングリコール溶液(ポリエステル組成物の重量に対しMn原子(元素)として24ppm)、三酸化二アンチモンのエチレングリコールスラリー(ポリエステル組成物の重量に対しSb原子(元素)として255ppm)添加し撹拌した。240℃まで昇温しながらメタノールを留出させ、所定量のメタノールが留出したところで、エステル交換反応を終了した。その後、反応物を重合装置に移送し、リン酸(ポリエステル組成物の重量に対しP原子(元素)として49ppm)およびリン酸2水素ナトリウム2水和物(ポリエステル組成物の重量に対しNa原子(元素)として16ppm、P原子(元素)として23ppm)のエチレングリコール溶液と炭酸カルシウム粒子の濃度が20wt%のエチレングリコールスラリーを全て混合し、60秒間攪拌を行い均質なスラリーとしたものを添加した。(炭酸カルシウムとして1重量部)。添加後、重合装置内を290℃まで徐々に昇温するとともに、圧力を常圧から250Pa以下まで減圧し、290℃で所定の攪拌トルクを示すまで重合反応させた。重合反応終了後、反応系内を窒素ガスにて常圧にし、重合装置内の溶融ポリエステルをストランド状に水槽へ吐出して冷却後、カッティングしてペレット状のポリエステル組成物を得た。得られたポリエステル組成物の特性を表3に示す。
実施例14で得られたポリエステル組成物は、粒子の凝集や粗大異物化がなく、耐加水分解性にも優れることから、光学フィルムや離型フィルムに好適な物性を有していた。
【0075】
(比較例5)
実施例1と同様の方法でエステル化反応器から105重量部(PET100重量部相当)のBHTを重合装置へ溶融状態で仕込み、温度を255℃とした。酢酸マンガン4水和物のエチレングリコール溶液(ポリエステル組成物の重量に対しMn原子(元素)として24ppm)、三酸化二アンチモンのエチレングリコールスラリー(ポリエステル組成物の重量に対しSb原子(元素)として255ppm)を添加した。その後、エチレングリコール5重量部(テレフタル成分対比0.15倍モル)を追加添加して解重合を進め、次いでリン酸(ポリエステル組成物の重量に対しP原子(元素)として49ppm)とリン酸2水素ナトリウム2水和物(ポリエステル組成物の重量に対しNa原子(元素)として16ppm、P原子(元素)として23ppm)の混合エチレングリコール溶液を添加した。リン化合物を添加した後、炭酸カルシウム粒子の濃度が20wt%のエチレングリコールスラリーを添加した(炭酸カルシウムとして1重量部)。その後、重合装置内を290℃まで徐々に昇温するとともに、圧力を常圧から250Pa以下まで減圧し、290℃で所定の攪拌トルクを示すまで重合反応させた。重合反応終了後、反応系内を窒素ガスにて常圧にし、重合装置内の溶融ポリエステルをストランド状に水槽へ吐出して冷却後、カッティングしてペレット状のポリエステル組成物を得た。
得られたポリエステル組成物は、リン化合物による粒子表面の保護が行えておらず、遊離のカルシウム成分が多く、さらに加熱処理によって粒子形状を維持できていないため粒子の凝集が起こり、二軸配向フィルムに加工した際の3次元粗さが不合格であった。
【0076】
【表3】