IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 宇部興産株式会社の特許一覧

特許7690750アミン変性フェノール樹脂及びその製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-03
(45)【発行日】2025-06-11
(54)【発明の名称】アミン変性フェノール樹脂及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 61/00 20060101AFI20250604BHJP
   C08G 8/28 20060101ALI20250604BHJP
   C08L 61/14 20060101ALI20250604BHJP
   C08L 65/00 20060101ALI20250604BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20250604BHJP
   C09D 161/14 20060101ALI20250604BHJP
   C09D 165/00 20060101ALI20250604BHJP
【FI】
C08G61/00
C08G8/28 A
C08L61/14
C08L65/00
C09D5/02
C09D161/14
C09D165/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021030685
(22)【出願日】2021-02-26
(65)【公開番号】P2021138940
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-12-15
(31)【優先権主張番号】P 2020034009
(32)【優先日】2020-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】UBE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 晃太郎
【審査官】大塚 龍平
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-263682(JP,A)
【文献】特開平08-143648(JP,A)
【文献】特開2004-262143(JP,A)
【文献】特開平10-001781(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 61/00
C08G 8/28
C08L 61/14
C08L 65/00
C09D 5/02
C09D 161/14
C09D 165/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1-1)及び(1-2)に示す構造を合計で80モル%以上有するアミン変性フェノール樹脂。
【化1】
(式中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のヒドロキシアルキル基を表し、
及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のヒドロキシアルキル基、アリル基又はベンジル基を表し、
p1及びp2は、それぞれ独立に、1~3の整数を表し、
q1及びq2は、それぞれ独立に、0~3の整数を表し、
1≦p1+q1≦3であり、1≦p2+q2≦3であり、
mは0以上の数、nは1以上の数を表し、
m及びnは、m/n=0~2.04を満たす。)
【請求項2】
m=0である、請求項1に記載のアミン変性フェノール樹脂。
【請求項3】
下記一般式(2-1)及び(2-2)に示す構造を有するフェノール樹脂と、前記フェノール樹脂の構造中に存在する、水酸基が結合した構造を有するベンゼン環1モルに対し、下記一般式(3)で示されるアミン類0.8~1.5モルと、前記アミン類と同モル量のホルムアルデヒドとを反応させる工程を含む請求項1又は2に記載のアミン変性フェノール樹脂の製造方法。
【化2】
(式中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のヒドロキシアルキル基を表し、
及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のヒドロキシアルキル基、アリル基又はベンジル基を表し、
p1及びp2は、それぞれ独立に、1~3の整数を表し、
q1及びq2は、それぞれ独立に、0~3の整数を表し、
1≦p1+q1≦3であり、1≦p2+q2≦3であり、
mは0以上の数、nは1以上の数を表し、
m及びnは、m/n=0~2.04を満たす。)
【請求項4】
前記一般式(2-1)及び(2-2)に示す構造を有するフェノール樹脂の重量平均分子量(Mw)が1,000~15,000である請求項3に記載のアミン変性フェノール樹脂の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のアミン変性フェノール樹脂と、無機化合物若しくは有機化合物又はそれら双方からなる酸性化合物のいずれか1種を含有してなる水系フェノール樹脂組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の水系フェノール樹脂組成物を含有する金属表面処理剤。
【請求項7】
請求項5に記載の水系フェノール樹脂組成物を含有する水系塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミン変性フェノール樹脂及びその製造方法、並びにアミン変性フェノール樹脂と酸性化合物とを含む水系フェノール樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
フェノール樹脂は耐食性や密着性、耐熱性に優れているため、塗料や接着剤の原料、エポキシ樹脂の前駆体や硬化剤として幅広く使用されている。
【0003】
昨今のVOC低減等、環境問題の観点から、塗料や接着剤組成物の水性化が活発に検討され、水系フェノール樹脂の要望が強くなってきている。フェノール樹脂にアミノメチル基を導入したアミン変性フェノール樹脂は、水溶性フェノール樹脂であり、優れた耐食性や密着性を有することから、金属表面処理剤(化成処理剤)や電着塗料用の結合剤、水性塗料添加剤等への利用が提案されている(特許文献1~4)。
【0004】
また近年では、リチウムイオン電池等の二次電池の外装用積層体に用いられる金属箔用の化成処理剤として、アミン変性フェノール樹脂、リン酸、フッ化クロム化合物からなる組成物が使用されている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平7-62048号公報
【文献】特開平7-278410号公報
【文献】特開平9-263682号公報
【文献】特開2004-107432号公報
【文献】特開2019-061966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のアミン変性フェノール樹脂は、フェノール樹脂の高い架橋密度により優れた耐酸性や耐油性を示す一方、アルカリには弱いという欠点があった。さらに架橋密度が高いため得られる皮膜が固く脆いという欠点を有しており、処理後の材料の柔軟性や加工性が損なわれるという問題があった。
【0007】
また、非水系電池の外装用積層体に用いられる金属箔用の金属表面処理剤には、安全性強化のため、得られる皮膜の耐熱性が良好であることが求められているが、従来のアミン変性フェノール樹脂を用いた金属表面処理剤では、得られる皮膜の耐熱性が十分でないという問題もあった。
【0008】
本発明は、酸性水溶液への溶解性に優れ、これまでのアミン変性フェノール樹脂よりも優れた柔軟性と耐熱性と耐アルカリ性とを有する硬化物が得られるアミン変性フェノール樹脂及びその製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の課題解決のため鋭意研究を重ねた結果、ビフェニル構造を有するフェノール樹脂に、2級アミン化合物及びホルムアルデヒドを反応させた構造を有するアミン変性フェノール樹脂を用いることで、優れた柔軟性と耐熱性と耐アルカリ性とを有する硬化物が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明は、下記一般式(1-1)及び(1-2)に示す構造を合計で80モル%以上有するアミン変性フェノール樹脂である。
【0011】
【化1】
(式中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のヒドロキシアルキル基を表し、
及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のヒドロキシアルキル基、アリル基又はベンジル基を表し、
p1及びp2は、それぞれ独立に、1~3の整数を表し、
q1及びq2は、それぞれ独立に、0~3の整数を表し、
1≦p1+q1≦3であり、1≦p2+q2≦3であり、
mは0以上の数、nは1以上の数を表し、
m及びnは、m/n=0~20を満たす数である。)
【0012】
また、本発明は、下記一般式(2-1)及び(2-2)に示す構造を有するフェノール樹脂と、前記フェノール樹脂の構造中に存在する、水酸基が結合した構造を有するベンゼン環1モルに対し、下記一般式(3)で示されるアミン類0.8~1.5モルと、前記アミン類と同モル量のホルムアルデヒドとを反応させる工程を含む前記アミン変性フェノール樹脂の製造方法である。
【0013】
【化2】
(式中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のヒドロキシアルキル基を表し、
及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のヒドロキシアルキル基、アリル基又はベンジル基を表し、
p1及びp2は、それぞれ独立に、1~3の整数を表し、
q1及びq2は、それぞれ独立に、0~3の整数を表し、
1≦p1+q1≦3であり、1≦p2+q2≦3であり、
mは0以上の数、nは1以上の数を表し、
m及びnは、m/n=0~20を満たす数である。)
【0014】
また、本発明は、上記アミン変性フェノール樹脂と、無機化合物若しくは有機化合物又はそれら双方からなる酸性化合物のいずれか1種を含有してなる水系フェノール樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0015】
本発明のアミン変性フェノール樹脂は、酸性水溶液への溶解性に優れ、また、これまでのアミン変性フェノール樹脂よりも優れた柔軟性と耐熱性と耐アルカリ性とを有する硬化物が得られる。そのため、本発明のアミン変性フェノール樹脂は、金属表面処理剤の樹脂成分として好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のアミン変性フェノール樹脂は、下記一般式(1-1)及び(1-2)に示す構造を合計で80モル%以上有するものである。
【0017】
【化3】
(式中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のヒドロキシアルキル基を表し、
及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のヒドロキシアルキル基、アリル基又はベンジル基を表し、
p1及びp2は、それぞれ独立に、1~3の整数を表し、
q1及びq2は、それぞれ独立に、0~3の整数を表し、
1≦p1+q1≦3であり、1≦p2+q2≦3であり、
mは0以上の数、nは1以上の数を表し、
m及びnは、m/n=0~20を満たす数である。)
【0018】
前記一般式(1-1)及び(1-2)に示す構造は、フェノール樹脂中の水酸基が結合した構造を有するベンゼン環(以下、「フェノール環」ともいう。)に、下記一般式(a)で表されるアミノメチル基が置換した構造である。これらの構造を80モル%以上有するとは、フェノール樹脂中のフェノール環の80モル%以上がアミノメチル基で置換されていることを意味する。
【0019】
【化4】
(式中、R及びRは、前記一般式(1)中のR及びRと同じである。)
【0020】
、R、R及びRで表される炭素数1~10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基及びデシル基等が挙げられる。
【0021】
、R、R及びRで表される炭素数1~10のヒドロキシアルキル基としては、前記炭素数1~10のアルキル基中の水素原子の1つ以上が水酸基で置換された基が挙げられ、例えば、ヒドロキシメチル基、2-ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシプロピル基、3-ヒドロキシプロピル基及び4-ヒドロキシブチル基等が挙げられる。
【0022】
本発明においては、酸性水溶液への溶解性を良好にする観点から、前記R及びRが、炭素数1~10のヒドロキシアルキル基であることが好ましく、炭素数1~4のヒドロキシアルキル基であることがより好ましく、特に2-ヒドロキシエチル基であることが好ましい。すなわち、前記一般式(a)で表される基が、[N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ]メチル基であることが好ましい。
【0023】
前記R及びRは、得られる硬化物の柔軟性と耐熱性と耐アルカリ性のバランスの観点から、炭素数1~10のアルキル基、アリル基又はベンジル基であることが好ましく、炭素数1~5のアルキル基又はアリル基であることがより好ましく、特にメチル基又はアリル基であることが好ましい。
【0024】
前記p1及びp2は、得られる硬化物の柔軟性と耐熱性と耐アルカリ性のバランスの観点から、1又は2であることが好ましく、特に1であることが好ましい。
【0025】
前記q1及びq2は、得られる硬化物の柔軟性と耐熱性と耐アルカリ性のバランスの観点から、0~2の整数であることが好ましく、0又は1であることがより好ましく、特に0であることが好ましい。
【0026】
前記m及びnは、その比が前記一般式(1-1)と(1-2)に示す構造の割合を示し、その合計が繰り返し単位の総数を示すものである。
酸性水溶液への溶解性、及び得られる硬化物の柔軟性と耐熱性と耐アルカリ性のバランスの観点から、m/n=0~10であることが好ましく、m/n=0~1であることがより好ましく、特にm/n=0、すなわち、m=0であることが好ましい。
【0027】
前記アミン変性フェノール樹脂は、酸性水溶液への溶解性、及び得られる硬化物の柔軟性と耐熱性と耐アルカリ性のバランスの観点から、前記一般式(1-1)及び(1-2)に示す構造を合計で80モル%以上有することが好ましく、90モル%以上有することがより好ましく、特に95モル%以上有することが好ましい。
【0028】
前記アミン変性フェノール樹脂は、酸性水溶液への溶解性、及び得られる硬化物の柔軟性と耐熱性と耐アルカリ性のバランスの観点から、重量平均分子量(Mw)が1,000~15,000であるフェノール樹脂のフェノール環に、前記一般式(a)で表される基が置換したものであることが好ましい。前記フェノール樹脂の重量平均分子量は、1,000~5,000であることがより好ましく、特に1,000~3,000であることが好ましい。
前記重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算分子量として求めた値である。
【0029】
前記アミン変性フェノール樹脂は、酸性水溶液への溶解性、及び得られる硬化物の柔軟性と耐熱性と耐アルカリ性のバランスの観点から、水酸基当量が150~500であるフェノール樹脂のフェノール環に、前記一般式(a)で表される基が置換したものであることが好ましい。
【0030】
前記アミン変性フェノール樹脂は、下記一般式(2-1)及び(2-2)に示す構造を有するフェノール樹脂と、前記フェノール樹脂の構造中に存在するフェノール環1モルに対し、下記一般式(3)で示されるアミン類0.8~1.5モルと、前記アミン類と同モル量のホルムアルデヒドとを反応させることによって製造することができる。
【0031】
【化5】
(式中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のヒドロキシアルキル基を表し、
及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のヒドロキシアルキル基、アリル基又はベンジル基を表し、
p1及びp2は、それぞれ独立に、1~3の整数を表し、
q1及びq2は、それぞれ独立に、0~3の整数を表し、
1≦p1+q1≦3であり、1≦p2+q2≦3であり、
mは0以上の数、nは1以上の数を表し、
m及びnは、m/n=0~20を満たす数である。)
【0032】
前記一般式(2)及び(3)中の、R、R、R及びRで表される基は、前記一般式(1)中のR、R、R及びRで表される基と同じである。
また、前記一般式(2)及び(3)中の、p1及びp2、q1及びq2、並びにm及びnで表される数は、前記一般式(1)中のp1及びp2、q1及びq2、並びにm及びnで表される数と同じである。
【0033】
前記反応は、反応が完結する条件で行えばよく、例えば、前記フェノール樹脂及びアミン類を溶媒に溶解し、得られた溶液にホルムアルデヒド水溶液(ホルマリン)を10~120分かけて逐次添加し、50~120℃で1~12時間加熱することで行うことができる。これにより、フェノール環をアミノメチル化することができる。
【0034】
前記アミン類としては、例えば、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、プロパノールアミン、イソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン等が挙げられる。
【0035】
前記反応におけるアミン類及びホルムアルデヒドの使用量は、アミノメチル化されるフェノール環の量が所望の量となるよう適宜調整すればよいが、前記フェノール樹脂の構造中に存在するフェノール環1モルに対して0.8~1.5モルであることが好ましく、1.0~1.5モルであることがより好ましく、特に1.1~1.3モルであることが好ましい。
【0036】
また、アミン類とホルムアルデヒドの使用量は、アミン類1モルに対してホルムアルデヒドが0.8~1.2モルであることが好ましく、0.9~1.1モルであることがより好ましい。特に未反応のアミン類及びホルムアルデヒドを少なくする観点から、アミン類とホルムアルデヒドとが同モル量であることが好ましい。
【0037】
前記溶媒としては、前記フェノール樹脂を溶解できる水溶性の溶媒であればよいが、好ましいものとして、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、プロピレングリコールモノメチルエーテル及びジエチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル系溶媒が挙げられる。
【0038】
本発明のアミン変性フェノール樹脂の製造に用いる前記フェノール樹脂は、公知の方法により得ることが出来る。具体的には、前記一般式(2-1)及び(2-2)に示す構造を有するフェノール樹脂においてm=0であるフェノール樹脂、すなわち、前記一般式(2-1)に示す構造のフェノールビフェニル樹脂は、フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ヒドロキノン等のフェノール化合物より選ばれる少なくとも1種のフェノール類と、4,4’-ビス(メトキシメチル)-1,1’-ビフェニル等のビス(メトキシメチル)ビフェニル化合物、又は4,4’-ビス(クロロメチル)-1,1’-ビフェニル等のビス(ハロゲノメチル)ビフェニル化合物とを酸性触媒下又は無触媒下で縮合又は共縮合させて得られる。
【0039】
また、前記一般式(2-1)及び(2-2)に示す構造を有するフェノール樹脂においてm≠0であるフェノール樹脂は、前記フェノール類と、ビス(メトキシメチル)ビフェニル化合物又はビス(ハロゲノメチル)ビフェニル化合物と、ホルムアルデヒドとを酸触媒下又は無触媒下で縮合又は共縮合させて得られる。
【0040】
さらに、前記一般式(2-1)及び(2-2)に示す構造を有するフェノール樹脂においてm≠0であるフェノール樹脂は、前記フェノール類とビス(メトキシメチル)ビフェニル化合物又はビス(ハロゲノメチル)ビフェニル化合物とを酸触媒下又は無触媒下で縮合又は共縮合させて得られる前記一般式(2-1)に示す構造のフェノールビフェニル樹脂と、前記フェノール類とホルムアルデヒドとを酸触媒下又は無触媒下で縮合又は共縮合させて得られる前記一般式(2-2)に示す構造のフェノールホルムアルデヒド樹脂とを、溶融混合又は溶剤存在下で溶解混合することによっても得られる。
【0041】
本発明のアミン変性フェノール樹脂は、前記一般式(2-1)に示す構造のフェノールビフェニル樹脂と、前記樹脂の構造中に存在するフェノール環1モルに対し、前記一般式(3)で示されるアミン類0.8~1.5モルと、前記アミン類と同モル量のホルムアルデヒドとを反応させることによって製造されたアミン変性フェノール樹脂、及び前記一般式(2-2)に示す構造のフェノールホルムアルデヒド樹脂と、前記樹脂の構造中に存在するフェノール環1モルに対し、前記一般式(3)で示されるアミン類0.8~1.5モルと、前記アミン類と同モル量のホルムアルデヒドとを反応させることによって製造されたアミン変性フェノール樹脂を混合することによっても製造することができる。
【0042】
本発明のアミン変性フェノール樹脂の製造に用いる前記一般式(2-1)及び(2-2)に示す構造を有するフェノール樹脂は、酸性水溶液への溶解性、及び得られる硬化物の柔軟性と耐熱性のバランスの観点から、重量平均分子量(Mw)が1,000~15,000であることが好ましい。
前記一般式(2-1)に示す構造のフェノールビフェニル樹脂の重量平均分子量は、1,000~5,000であることが好ましく、特に1,000~3,000であることが好ましい。前記一般式(2-2)に示す構造のフェノールホルムアルデヒド樹脂の重量平均分子量は、1,000~15,000であることが好ましい。
【0043】
本発明のアミン変性フェノール樹脂の製造に用いる前記フェノール樹脂は、酸性水溶液への溶解性、及び得られる硬化物の柔軟性と耐熱性と耐アルカリ性のバランスの観点から、水酸基当量が150~500であることが好ましい。
【0044】
本発明のアミン変性フェノール樹脂において、優れた耐熱性と柔軟性と耐アルカリ性とを達成するための好ましい態様の一つは、下記一般式(4)で示されるアミン変性フェノールビフェニル樹脂である。
【0045】
【化6】
(式中、Xは、それぞれ独立に、水素原子又は前記一般式(a)で表されるアミノメチル基を表し、
p1a、p1b及びp1cは、それぞれ独立に、1~3の整数を表し、
q1a、q1c及びq1cは、それぞれ独立に、0~3の整数を表し、
1≦p1a+q1a≦3であり、1≦p1b+q1b≦4であり、1≦p1c+q1c≦4であり、
n1は0以上10以下の数を表す。)
【0046】
ただし、前記一般式(4)で示されるアミン変性フェノールビフェニル樹脂において、存在する全ての置換基Xのうち、80モル%以上が前記一般式(a)で表されるアミノメチル基である。
【0047】
ここで、前記一般式(4)中のRで表される基は、前記一般式(1-1)中のRで表される基と同じである。
【0048】
本発明のアミン変性フェノール樹脂において、耐熱性と柔軟性と耐アルカリ性とコストとのバランスの観点から、好ましい態様の一つは、前記一般式(4)で示されるアミン変性フェノールビフェニル樹脂と、下記一般式(5)で示されるアミン変性フェノールホルムアルデヒド樹脂とを含有してなるアミン変性フェノール樹脂である。
【0049】
【化7】
(式中、Xは、それぞれ独立に、水素原子又は前記一般式(a)で表されるアミノメチル基を表し、
p2a、p2b及びp2cは、それぞれ独立に、1~3の整数を表し、
q2a、q2c及びq2cは、それぞれ独立に、0~3の整数を表し、
1≦p2a+q2a≦3であり、1≦p2b+q2b≦4であり、1≦p2c+q2c≦4であり、
m1は0以上10以下の数を表す。)
【0050】
ただし、前記一般式(4)で示されるアミン変性フェノールビフェニル樹脂と、前記一般式(5)で示されるアミン変性フェノールホルムアルデヒド樹脂とを含有してなるアミン変性フェノール樹脂において、存在する全ての置換基Xと置換基Xとの合計のうち、80モル%以上が前記一般式(a)で表されるアミノメチル基である。
【0051】
ここで、前記一般式(5)中のRで表される基は、前記一般式(1-2)中のRで表される基と同じである。
【0052】
前記一般式(4)で示されるアミン変性フェノールビフェニル樹脂及び前記一般式(5)で示されるアミン変性フェノールホルムアルデヒド樹脂の含有割合は、[前記一般式(5)で示されるアミン変性フェノールホルムアルデヒド樹脂の質量]/[前記一般式(4)で示されるアミン変性フェノールビフェニル樹脂の質量]の範囲が0.05~10であることが好ましく、0.1~1であることがより好ましく、0.2~0.5以下であることが特に好ましい。
【0053】
本発明のアミン変性フェノール樹脂において、耐熱性と柔軟性と耐アルカリ性とコストとのバランスの観点から、好ましい態様の一つは、下記一般式(6)で示されるアミン変性フェノール樹脂である。
【0054】
【化8】
(式中、Xは、それぞれ独立に、水素原子又は前記一般式(a)で表されるアミノメチル基を表し、
及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のヒドロキシアルキル基、アリル基又はベンジル基を表し、
p1d及びp2dは、それぞれ独立に、1~3の整数を表し、
q1d及びq2dは、それぞれ独立に、0~3の整数を表し、
1≦p1d+q1d≦3であり、1≦p2d+q2d≦3であり、
m2及びn2は、m2/n2=0.01~20を満たす数である。)
【0055】
ただし、前記一般式(6)で示されるアミン変性フェノール樹脂において、存在する全ての置換基Xのうち、80モル%以上が前記一般式(a)で表されるアミノメチル基である。
【0056】
ここで、前記一般式(6)中のR及びRで表される基は、前記一般式(1-1)及び(1-2)中のR及びRで表される基と同じである。
【0057】
前記反応により、本発明のアミン変性フェノール樹脂は、通常、溶液の状態で得られる。得られたアミン変性フェノール樹脂溶液はそのまま金属表面処理剤の原料として使用することができ、必要に応じて濃縮又は希釈して使用することもできる。
【0058】
本発明の水系フェノール樹脂組成物は、前記アミン変性フェノール樹脂と、無機化合物若しくは有機化合物又はそれら双方からなる酸性化合物のいずれか1種を含有してなるものである。
【0059】
前記無機化合物としては、硫酸、塩酸、リン酸、フッ化水素酸及びポリリン酸などか挙げられ、前記有機化合物としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、フマル酸及びマレイン酸等が挙げられる。
【0060】
前記水系フェノール樹脂組成物は、金属表面処理剤、水系塗料及び接着剤用の、硬化剤又は添加剤等として好適に使用することができる。前記水系フェノール樹脂組成物を金属表面処理剤として使用する場合の耐食性及び密着性の観点からは、前記水系フェノール樹脂組成物が酸性化合物としてリン酸を含むことが好ましい。
【実施例
【0061】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0062】
[1]アミン変性フェノール樹脂の合成及び評価
以下のアミン変性フェノール樹脂の合成及び評価で用いた分析方法及び評価方法について説明する。以下、特に断りのない場合、「%」とは「質量%」のことである。
【0063】
<ベース樹脂であるフェノール樹脂の分析方法及び評価方法>
[重量平均分子量(Mw)]
下記ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)装置を用いて、下記条件でポリスチレン換算分子量としてフェノール樹脂の重量平均分子量(Mw)を求めた。
使用機器:Waters Alliance 2695
カラム:LF-804(SHODEX製)
ガードカラム:KF-G(SHODEX製)
測定条件:カラム圧力2.7MPa
溶解液:テトラヒドロフラン(THF)
検出器:UV-Visivle Detector 2489
検出波長:254nm
フローレート:1mL/min.
カラムオーブン温度:40℃
インジェクション量:100μL
試料濃度:0.1mg/mL
【0064】
[水酸基当量]
JIS K0070に準じた水酸基当量測定を行った。
具体的には、フェノール樹脂を過剰の無水酢酸によりアセチル化し、過剰分の無水酢酸をアルカリで中和滴定する逆滴定法により水酸基当量を測定した。
【0065】
<アミン変性フェノール樹脂の分析方法及び評価方法>
[外観]
目視により観察した。
【0066】
[粘度]
JIS K7117-2: 1999に従いE型粘度計で測定した。
【0067】
[不揮発分]
φ50mmのアルミカップにアミン変性フェノール樹脂1.0gを計量し、180℃オーブンで1時間乾燥後の残量から求めた。
【0068】
[酸溶解性及び溶解時間]
200mLビーカーにアミン変性フェノール樹脂溶液0.2g(固形分換算)を秤量し、pH2.0に調整したリン酸水溶液100mLを加えた後、速やかにマグネチックスターラーにて攪拌し、溶解するか否かの観察、及び溶解時間を測定した。マグネチックスターラーにて攪拌を開始してからアミン変性フェノール樹脂がリン酸水溶液に溶解するまでの時間を溶解時間とした。なお、目視で透明均一な溶液となった時に、溶解したと判断した。
【0069】
〔実施例1〕
攪拌機、コンデンサー及び温度計を具備した反応装置に、下記一般式(I)で表されるフェノール樹脂(フェノールビフェニル樹脂1:水酸基当量218g/eq.、Mw1,900)100g、ブチルセロソルブ168g、ジエタノールアミン57.9g(0.55mol)を加え、70℃で溶解させた。次いで42%ホルマリン39.3g(0.55mol)を1時間かけて添加した。添加後、100℃に昇温し、同温度で6時間反応させ、アミン変性フェノール樹脂Aを含む溶液358.6gを得た。アミン変性フェノール樹脂Aは、前記一般式(1-1)に示す構造のみを有し(すなわち、m=0)、p1が1、q1が0、R及びRが2-ヒドロキシエチル基である前記アミン変性フェノール樹脂に相当する。
得られたアミン変性フェノール樹脂Aを含む溶液は、粘度が238mPa・s、不揮発分が39.5%であった。評価結果を表1に示す。
【0070】
【化9】
(式中、nは前記水酸基当量及びMwを満たす任意の数を表す。)
【0071】
〔実施例2〕
攪拌機、コンデンサー及び温度計を具備した反応装置に、前記一般式(I)で表されるフェノール樹脂(フェノールビフェニル樹脂2:水酸基当量206g/eq.、Mw1,300)100g、ブチルセロソルブ168g、ジエタノールアミン61.0g(0.58mol)を加え、70℃で溶解させた。次いで42%ホルマリン41.5g(0.58mol)を1時間かけて添加した。添加後、100℃に昇温し、同温度で6時間反応させ、アミン変性フェノール樹脂Bを含む溶液364.9gを得た。アミン変性フェノール樹脂Bは、前記一般式(1-1)に示す構造のみを有し(すなわち、m=0)、p1が1、q1が0、R及びRが2-ヒドロキシエチル基である前記アミン変性フェノール樹脂に相当する。
得られたアミン変性フェノール樹脂Bを含む溶液は、粘度が191mPa・s、不揮発分が39.5%であった。評価結果を表1に示す。
【0072】
〔実施例3〕
攪拌機、コンデンサー及び温度計を具備した反応装置に、前記一般式(I)で表されるフェノール樹脂(フェノールビフェニル樹脂1:水酸基当量218g/eq.、Mw1,900)70g、下記一般式(II)で表されるフェノール樹脂(フェノールホルムアルデヒド樹脂:水酸基当量107g/eq.、Mw1,900)30g、ブチルセロソルブ168g、ジエタノールアミン69.1g(0.66mol)を加え、70℃で溶解させた。次いで42%ホルマリン47.0g(0.66mol)を1時間かけて添加した。添加後、100℃に昇温し、同温度で6時間反応させ、アミン変性フェノール樹脂Cを含む溶液363.7gを得た。
得られたアミン変性フェノール樹脂Cを含む溶液は、粘度が360mPa・s、不揮発分が41.7%であった。評価結果を表1に示す。
【0073】
【化10】
(式中、nは前記水酸基当量及びMwを満たす任意の数を表す。)
【0074】
〔実施例4〕
攪拌機、コンデンサー及び温度計を具備した反応装置に、前記一般式(I)で表されるフェノール樹脂(フェノールビフェニル樹脂1:水酸基当量218g/eq.、Mw1,900)50g、前記一般式(II)で表されるフェノール樹脂(フェノールホルムアルデヒド樹脂:水酸基当量107g/eq.、Mw1,900)50g、ブチルセロソルブ168g、ジエタノールアミン76.6g(0.73mol)を加え、70℃で溶解させた。次いで42%ホルマリン52.1g(0.73mol)を1時間かけて添加した。添加後、100℃に昇温し、同温度で6時間反応させ、アミン変性フェノール樹脂Dを含む溶液387.9gを得た。
得られたアミン変性フェノール樹脂Dを含む溶液は、粘度が415mPa・s、不揮発分が41.9%であった。評価結果を表1に示す。
【0075】
〔比較例1〕
攪拌機、コンデンサー及び温度計を具備した反応装置に、前記一般式(II)で表されるフェノール樹脂(フェノールホルムアルデヒド樹脂:水酸基当量107g/eq.、Mw1,900)100g、ブチルセロソルブ168g、ジエタノールアミン95.3g(0.91mol)を加え、70℃で溶解させた。次いで42%ホルマリン65.1g(0.91mol)を1時間かけて添加した。添加後、100℃に昇温し、同温度で6時間反応させ、アミン変性フェノール樹脂Cを含む溶液417.7gを得た。得られたアミン変性フェノール樹脂Cを含む溶液は、粘度が1373mPa・s、不揮発分が48%であった。評価結果を表1に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
[2]アミン変性フェノール樹脂の硬化物(塗膜)の調製及び評価
以下のアミン変性フェノール樹脂の硬化物(塗膜)の評価で用いた分析方法及び評価方法について説明する。
【0078】
[色相]
目視により観察した。
【0079】
[柔軟性]
円錐型マンドレルテスターを用いて、以下の方法で塗膜の柔軟性を評価した。
脱脂処理した市販のアルミニウム板(JIS A5052、75mm×100mm)に、実施例及び比較例で得られたアミン変性フェノール樹脂溶液をアプリケーター(ギャップ:50μm)で塗布し、210℃で10分間焼き付けをして、アルミニウム板上に塗膜が形成された試験サンプルを作製した。
前記試験サンプルを円錐型マンドレルテスターにセットし、円錐軸の端でピボット中心となっているアーム(可動域180°)を手動操作し、φ:3.2mm~16.2mmの範囲の直径を有する円錐マンドレルに塗装板を15秒以内で巻き付けたときの塗膜の割れや剥がれの有無を観察した。柔軟性は、以下の基準で評価した。
〇:割れ・剥離 なし
×:割れ・剥離 あり
【0080】
[20%重量減少温度]
脱脂処理した市販のアルミニウム板(JIS A5052)をφ4mmの円状に打ち抜き、そこに実施例及び比較例で得られたアミン変性フェノール樹脂溶液を滴下し、210℃で10分間焼き付けをして、アルミニウム板上に塗膜が形成された試験サンプルを作製した。
前記試験サンプルを用いて、下記条件にてTG-DTA測定を行ない、サンプル重量からアルミ板重量を差し引いた重量をもとに20%重量減少温度を算出した。
装置 :日立製作所製 TG-DTA 装置名 TG-DTA7200
昇温条件 :10℃/分
測定温度 :25~550℃
試料量 :10mg
雰囲気 :55mL/分の窒素気流下
【0081】
[耐アルカリ性]
脱脂処理した市販のアルミニウム板(JIS A5052、75mm×100mm)に、実施例1、実施例4及び比較例1で得られたアミン変性フェノール樹脂をアプリケーター(ギャップ:50μm)で塗布し、210℃で10分間焼き付けをして、アルミニウム板上に膜厚約9μmの塗膜が形成された試験サンプルを作製した。
500mlのビーカーに5%水酸化ナトリウム水溶液を入れ、25℃で前記試験サンプルを浸漬し、浸漬から3時間後の塗膜の表面状態を観察した。耐アルカリ性は、以下の基準で評価した。
◎:塗膜に微小な気泡が発生するにとどまる
○:塗膜に気泡が発生したが、基材の腐食なし
×:塗膜の亀裂や剥がれ、基材の著しい腐食あり
これら評価結果を表2に示す。
【0082】
【表2】
【0083】
表2に示したように、本発明のアミン変性フェノール樹脂は、得られる硬化物の柔軟性が高く、耐熱性も高く、且つ耐アルカリ性にも優れる。