IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本電気株式会社の特許一覧

特許7690803親水性カーボンナノホーン集合体およびその製造方法
<>
  • 特許-親水性カーボンナノホーン集合体およびその製造方法 図1
  • 特許-親水性カーボンナノホーン集合体およびその製造方法 図2
  • 特許-親水性カーボンナノホーン集合体およびその製造方法 図3
  • 特許-親水性カーボンナノホーン集合体およびその製造方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-03
(45)【発行日】2025-06-11
(54)【発明の名称】親水性カーボンナノホーン集合体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/18 20170101AFI20250604BHJP
【FI】
C01B32/18
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021122084
(22)【出願日】2021-07-27
(65)【公開番号】P2023018182
(43)【公開日】2023-02-08
【審査請求日】2024-06-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 克博
(72)【発明者】
【氏名】弓削 亮太
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-095624(JP,A)
【文献】特開2007-182363(JP,A)
【文献】特表2016-536261(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノホーンの先端部に導入された酸素含有官能基を有するカーボンナノホーン集合体と、
前記カーボンナノホーンの先端部をキャップしているシクロデキストリンであって、前記酸素含有官能基とシクロデキストリンのOH基との水素結合によって、前記シクロデキストリンがカーボンナノホーンの先端部をキャップした状態で安定化されたシクロデキストリンと
を有する親水性カーボンナノホーン集合体。
【請求項2】
前記シクロデキストリンが、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、およびその誘導体からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の親水性カーボンナノホーン集合体。
【請求項3】
前記酸素含有官能基が、前記カーボンナノホーンの先端部が、酸化処理されて導入されたものである、請求項1または2に記載の親水性カーボンナノホーン集合体。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の親水性カーボンナノホーン集合体と、水を含有する、親水性カーボンナノホーン集合体分散液。
【請求項5】
動的散乱光散乱法により求めた粒子径分布において、前記親水性カーボンナノホーン集合体の90質量%以上が400nm以下の粒子径を有する、請求項4に記載の親水性カーボンナノホーン集合体分散液。
【請求項6】
カーボンナノホーン集合体を、酸素、空気、過酸化水素、二酸化炭素および一酸化炭素からなる群より選ばれるガスに接触させる気相プロセスによる酸化処理を実施するか、またはカーボンナノホーン集合体を、酸化性物質を含む液体に接触させる液相プロセスによる酸化処理を実施する、酸化処理工程と、
酸化処理されたカーボンナノホーン集合体とシクロデキストリンとを、シクロデキストリンを溶解した溶液中で接触させるシクロデキストリン処理工程と、
を含む、親水性カーボンナノホーン集合体の製造方法。
【請求項7】
前記酸化処理工程が、気相プロセスによる酸化処理の場合は250~650℃の温度で実施され、液相プロセスによる酸化処理の場合は室温から120℃の温度範囲で実施され、それによってカーボンナノホーンの先端部に酸素含有官能基が導入される、請求項6に記載の親水性カーボンナノホーン集合体の製造方法。
【請求項8】
前記シクロデキストリンによる処理工程によって、前記カーボンナノホーンの先端部前記シクロデキストリンでキャップされ、且つカーボンナノホーンの先端部に導入された前記酸素含有官能基とシクロデキストリンのOH基との水素結合によって前記シクロデキストリンがカーボンナノホーンの先端部をキャップした状態で固定される、請求項7に記載の親水性カーボンナノホーン集合体の製造方法。
【請求項9】
前記酸化処理工程において、温度、時間、ガス雰囲気のうち少なくとも1つによって酸化の程度を調整する、請求項6~8のいずれか1項に記載の親水性カーボンナノホーン集合体の製造方法。
【請求項10】
前記酸化処理工程において、酸化の程度が、全体の炭素に対して酸素が1.0×10-5~1.0×10原子%の割合で含むように酸化処理を行う、請求項9に記載の親水性カーボンナノホーン集合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水に分散可能な親水性カーボンナノホーン集合体、親水性カーボンナノホーン集合体を含有する親水性カーボンナノホーン集合体分散液および親水性カーボンナノホーン集合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノサイズの大きさを有するナノ炭素材料が、優れた導電性をはじめ様々な特性を有することが見出され、カーボンナノチューブ、グラフェン、カーボンナノホーン集合体等が発見され、研究されている。このカーボンナノホーン集合体は、球状構造のもの(例えば特許文献1)が知られていたが、近年、繊維状構造体(例えば特許文献2)も見いだされており。センサやアクチュエータの応答速度向上、蓄電池やキャパシタの出力向上、ゴムやプラスチック複合材の導電性向上をはじめとする、幅広い分野における応用が期待されている。
【0003】
生成時のカーボンナノホーン集合体は、親水基を持たない疎水性構造体であるため、カーボンナノホーン集合体を修飾して親水性を与える試みが知られている。例えば、非特許文献1には、カーボンナノホーンの先端部や側面部を過酸化水素、酸素等で酸化処理することで、カーボンナノホーンの先端部や側面部が酸化され、カルボキシル基やカルボニル基が先端部や側面部に付加され、それにより、水に対する分散性が向上することが開示されている。
【0004】
また、非特許文献2には、シクロデキストリンを添加すると、シクロデキストリンがナノホーン先端に結合し、界面活性剤の働きをすることで、カーボンナノホーン集合体を水に分散することができることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-190928号公報
【文献】国際公開第2016/147909号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】M. Zhang et al. ACS Nano, 1, 2007,265
【文献】H. Hanayama et al. Chem Asian J. 2020, 15, 1549
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1に記載の方法では、ナノホーン先端部や欠陥部が酸化により開孔され、カーボンナノホーン集合体の内部に様々なものが取り込まれる。そのため、機能化するための化学修飾反応や触媒担持等が困難になる問題がある。また、非特許文献2に記載の方法では、カーボンナノホーン集合体が完全な撥水性であるためにキャップ化されにくく、40時間程度で得られる分散体の収率が27wt%程度と、キャップ化の効率が悪い問題がある。さらに、キャップが徐々に脱離するため、長時間の安定性に問題がある。このように水溶液中での分散性が悪い場合には、カーボンナノホーン集合体の製造時に含まれる不純物としてグラファイトの除去が困難になるという問題もある。
【0008】
本発明は、水分散媒体中で、長期にわたって優れた分散性を示す親水性カーボンナノホーン集合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態は、カーボンナノホーンの先端部に導入された酸素含有官能基を有するカーボンナノホーン集合体と、前記カーボンナノホーンの先端部をキャップし、安定化されたシクロデキストリンとを有する親水性カーボンナノホーン集合体に関する。
本発明の異なる一実施形態は、カーボンナノホーン集合体を酸化処理する工程と、酸化処理されたカーボンナノホーン集合体をシクロデキストリンで処理する工程と、を含む、親水性カーボンナノホーン集合体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一実施形態によれば、水溶液中で、長期にわたって優れた分散性を示す親水性カーボンナノホーン集合体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】カーボンナノホーン先端(以下、単にナノホーン先端ともいう)の構造を模式的に示す図である。
図2】(a)実施例で製造したCD-oxCNHs分散液の粒子径分布を示す図、(b)比較例で製造したCD-CNHs分散液の粒子径分布を示す図、および(c)実施例の中間工程で製造されたoxCNHs分散液の粒子径分布を示す図である。
図3】CD-oxCNHsのTGA結果を示すグラフである。
図4】左からoxCNHs、CD-CNHs、およびCD-oxCNHs分散液の(a)10分後、(b)10時間後における分散状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態の親水性カーボンナノホーン集合体について説明する。
【0013】
(親水性カーボンナノホーン集合体)
本実施形態の親水性カーボンナノホーン集合体は、後述するようにカーボンナノホーン集合体に対して弱い酸化処理を行い、その後水溶液中でシクロデキストリン処理を行って得られる。
【0014】
図1にカーボンナノホーン先端(以下、単にナノホーン先端ともいう)の構造を模式的に示す。カーボンナノホーン集合体をシクロデキストリンで処理することによって、ナノホーン先端がシクロデキストリンでキャップされることは、非特許文献2にも示されており、図1のように、カーボンナノホーンの先端部1がシクロデキストリン2によりキャップされていると考えられる。本実施形態ではカーボンナノホーンは弱い酸化処理されており、ナノホーン先端部1に酸素含有官能基が導入されている。一方のシクロデキストリン2は図1に示すようにOH基(水酸基)を有しているため、ナノホーン先端部1の酸素含有官能基と相互作用して安定化される。ここで「安定化される」とは、実施例に示すようにカーボンナノホーン集合体の水分散液を室温(例えば20℃~30℃の範囲)にて1週間保存しても、カーボンナノホーン集合体が分散していることを意味する。また、具体的に「相互作用して安定化される」は、シクロデキストリンのOH基(水酸基)がナノホーン先端部の酸素含有官能基と水素結合によって安定化されていることを意味する。酸素含有官能基とOH基とが水素結合することは良く知られており、本実施形態においても水素結合によってシクロデキストリンのキャッピングが安定化、即ちデキャップ(キャップの外れ)が防止されていると考えられる。実施例で示すように、本実施形態の親水性カーボンナノホーン集合体が長期に渡って安定した分散性を示すことからも、キャピング状態が前記相互作用、より詳細には水素結合によって安定化されていることが強く推定され、それ以外の理由は考え難い。
【0015】
本実施形態に係る親水性カーボンナノホーン集合体の製造方法は、後述するように、カーボンナノホーン集合体を酸化処理する工程(この工程でナノホーン先端部に酸素含有官能基が導入される)と、シクロデキストリン処理工程(ナノホーン先端部がシクロデキストリンによりキャップされ、且つシクロデキストリンが固定される)とを含む。さらに、超音波処理、および/または遠心分離処理を行い、不純物を除去する工程を含むことができる。以下、親水性カーボンナノホーン集合体の製造方法とともに詳細を説明する。
【0016】
<原料カーボンナノホーン集合体>
原料となるカーボンナノホーン集合体は、球状のカーボンナノホーン集合体および繊維状のカーボンナノホーン集合体(カーボンナノブラシ)(特許第6179678号)のどちらでもよく、またその混合物であってもよい。
【0017】
球状のカーボンナノホーン集合体(以下、CNHsと略すこともある)は、種型、つぼみ型、ダリア型、ペタルダリア型、ペタル型(グラフェンシート構造)等のカーボンナノホーン集合体が、単独で、または複合して球状構造(必ずしも真球という意味ではなく、楕円形状、ドーナツ状等その他の形状であってもよい)を有する。種型とは、集合体の表面に角状の突起がほとんどみられない、あるいは全くみられない形状、つぼみ型は集合体の表面に角状の突起が多少みられる形状、ダリア型は集合体の表面に角状の突起が多数みられる形状、ペタル型は集合体の表面に花びら状の突起がみられる形状である(グラフェンシート構造)。生成するカーボンナノホーン集合体は、ガスの種類や流量によってその形態および粒径が変わる。球状のカーボンナノホーン集合体については、例えば特開2009-190928号公報(特許文献1)に記載されており、この文献の開示内容はその引用をもって本明細書に組み込み記載されているものとする。
【0018】
カーボンナノホーン(単体)はグラフェンシートが巻かれた構造の先端が先端角約20°の角(ホーン)状に尖った、円錐型の形状を有する炭素構造体であり、カーボンナノホーン(単体)の直径は1nm~20nmであり、長さは30nm~100nmである。球状のカーボンナノホーン集合体では、先端を外側に向けて放射状に集合している。球状カーボンナノホーン集合体(CNHs)の大きさとしては、粒子径が20nm~200nm程度、好ましくは30nm~150nm程度である。
【0019】
球状カーボンナノホーン集合体の製造方法は特に限定されず各種の手段で製造することが可能であるが、通常は、不活性ガス雰囲気中で、グラファイト等の固体状炭素単体物質をターゲットとするレーザーアブレーション法によって製造することができる。
【0020】
繊維状のカーボンナノホーン集合体は、カーボンナノブラシ(CNB)とも呼ばれ、複数のカーボンナノホーンが、放射状に集合し、かつ、繊維状に繋がった構造を有する。この構造は、試験管ブラシやモールのような形状に似ている。繊維状のカーボンナノホーン集合体は、単にカーボンナノホーンが複数連なって繊維状に見えるものとは異なり、遠心分離や超音波分散等の操作を行っても繊維状の形状を維持できる。
【0021】
繊維状のカーボンナノホーン集合体は、上記の球状のカーボンナノホーン集合体が、さらにカーボンナノホーンで繋がって形成されており、すなわち、繊維状の構造体中に1種類または複数のこれらカーボンナノホーン集合体が含まれている。繊維状のカーボンナノホーン集合体については、国際公開第2016/147909号(特許文献2)に記載されており、この文献の開示内容はその引用をもって本明細書に組み込み記載されているものとする。
【0022】
繊維状のカーボンナノホーン集合体を製造する際、同時に球状のカーボンナノホーン集合体も生成される。繊維状のカーボンナノホーン集合体と球状のカーボンナノホーン集合体とは、サイズの違いにより分離することが可能である。さらに、カーボンナノホーン集合体以外の不純物が含まれる場合、遠心分離法、沈降速度の違い、サイズによる分離等により除去できる。また、生成条件を変えることで、繊維状のカーボンナノホーン集合体と球状のカーボンナノホーン集合体の比率を変えることが可能である。
【0023】
さらに、カーボンナノホーン集合体は、カーボンナノチューブを含んでもよい。このカーボンナノホーンの炭素構造は、単層でも多層でもよいが、単層であるのが好ましい。
【0024】
カーボンナノホーン(単体)の直径は1nm~10nmであり、長さは30nm~80nmである。繊維状のカーボンナノホーン集合体は、直径が30nm~150nm程度で、長さが1μm~50μm程度である。繊維状のカーボンナノホーン集合体のアスペクト比(長さ/直径)は6~1700であり、好ましくは、50~500である。球状のカーボンナノホーン集合体は、直径が30nm~150nm程度でほぼ均一なサイズである。
【0025】
繊維状のカーボンナノホーン集合体は、導電性が高いカーボンナノホーンが繊維状に繋がり、長い導電性パスを持つ構造を特徴とするため、高い導電性を有する。
【0026】
繊維状のカーボンナノホーン集合体の製造方法は特に限定されず各種の手段で製造することが可能であるが、例えば、触媒を含有した炭素をターゲットとし、窒素雰囲気、不活性雰囲気、又は、混合雰囲気下でレーザーアブレーション法により製造することができる。蒸発した炭素と触媒が冷却される過程で繊維状のカーボンナノホーン集合体及び球状のカーボンナノホーン集合体が得られる。また、繊維状のカーボンナノホーン集合体の作製方法として、レーザーアブレーション法以外にアーク放電法や抵抗加熱法を用いることができる。しかしながら、レーザーアブレーション法は、室温、大気圧中で連続生成できる観点からより好ましい。
【0027】
<カーボンナノホーン集合体の酸化処理>
カーボンナノホーン集合体の先端部は、6員環より反応活性が大きい5員環や7員環構造を含むため、酸化処理により優先的にその部分が酸化され、酸素含有官能基が導入される。炭素環の酸化により生じる酸素含有官能基としては、カルボニル基、カルボキシル基、水酸基、ニトロ基、スルホン基、フェノール基、エーテル結合またはエステル結合を含む官能基等であるがこれらに限定されるものではない。
【0028】
本実施形態においては、弱く酸化処理を行うことが重要であり、過度に酸化を行わないことが好ましい。酸化処理によって、先端部に多く存在する反応性の高い5員環や7員環から酸化が始まるが、過度な酸化処理ではさらに酸化が進行してナノホーン先端が消失してシクロデキストリンによるキャップができなくなったり、またナノホーン胴部も酸化を受けて孔が生成し、(親水性)カーボンナノホーン集合体のバルクの性質が変わって目的の機能化が不可能になったりする場合があるからである。
【0029】
従って、酸化の程度としては、全体の炭素(100原子%)に対し、酸素を好ましくは1.0×10-5原子%~1.0×10原子%、より好ましくは1.0×10-3原子%~1.0×10原子%の割合で含む程度とすることが好ましい。炭素に対する酸素の割合は、様々な分析手法が使えるが、例えばX線光電子分光のO1sとC1sの強度比から見積もることができる。
【0030】
この酸化処理の方法は特に限定されないが、気相プロセスと液相プロセスのどちらでも使用できる。気相プロセスの場合は、酸素、空気、過酸化水素、二酸化炭素、一酸化炭素等のガス雰囲気中で行う。
【0031】
酸化処理は、温度、時間、ガス雰囲気のうち少なくとも1つで酸化の程度を調整することができる。すなわち、酸化処理を、異なる温度、および/または、異なる時間、および/または、異なる雰囲気下において行うことによって、酸化の程度を調節することができる。典型的には、より高い温度、および/または、より長い時間、および/または、より高い酸素濃度において酸化処理を行うことによって、酸化の程度を増加させことができる。
【0032】
ガス雰囲気下での酸化処理温度は、好ましくは250~650℃、より好ましくは300~500℃であり、さらにより好ましくは300℃~400℃である。温度が低すぎると酸化が起こりにくく、高すぎると酸化が早すぎてコントロールが困難になるからである。処理時間としては、適宜調整できるが、1℃/分の昇温速度なら5時間~7時間程度の範囲内であることが好ましい。
【0033】
液相プロセスの場合、硝酸、硫酸、過酸化水素等の酸化性物質を含む液体中で酸化処理を行う。硝酸や硫酸の場合は、室温から120℃の温度範囲であることが好ましい。過酸化水素の場合、室温~100℃の温度範囲で使用でき、40℃以上がより好ましい。40~100℃の温度範囲では酸化力が効率的に作用する。処理時間としては、適宜調整できるが、例えば0.5時間~3時間程度の範囲内であることが好ましい。また液相プロセスのとき、光照射を併用するとより効果的である。
【0034】
以上の酸化処理により、カーボンナノホーンの先端部に、カルボニル基、カルボキシル基、水酸基、ニトロ基、スルホン基、フェノール基、エーテル結合またはエステル結合を含む酸素含有官能基を付加することができる。
【0035】
<シクロデキストリン処理>
酸化処理を行ったカーボンナノホーン集合体をシクロデキストリン含有液で処理することで、ナノホーン先端部がシクロデキストリンでキャップされた親水性カーボンナノホーン集合体を製造することができる。カーボンナノホーン集合体の先端部には、酸素含有官能基が導入されているため、シクロデキストリンのOH基と相互作用、詳細には水素結合してシクロデキストリンが固定化され、安定化される。
【0036】
シクロデキストリン(以下、「CD」と略す場合がある)は、環状のオリゴ糖であり、グルコース残基がα-1,4結合で環状に結合した非還元糖であり、底のないバケツまたは王冠状とも呼ばれるトーラス構造を有している。シクロデキストリンの内部は疎水性であるが、外側に多数のOH基を有しているために水溶性である。
【0037】
シクロデキストリンとしては、構成するグルコース数の違いにより、6~12個のグルコース単位を含有する非置換シクロデキストリンのような、周知のシクロデキストリン、特にα-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン及び/又はそれらの誘導体、及び/又はそれらの混合物を挙げることができる。α-シクロデキストリンは6個のグルコース単位から成り、β-シクロデキストリンは7個のグルコース単位から成り、γ-シクロデキストリンは8個のグルコース単位から成り、それぞれ空洞の大きさが異なる。本実施形態では、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリンおよびγ-シクロデキストリンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0038】
シクロデキストリン処理は、シクロデキストリンが溶解した溶液中で、酸化処理したカーボンナノホーン集合体とシクロデキストリンとを接触させる。分散媒体としては、水、または水に加えて必要により界面活性剤、水溶性の有機溶媒等を含有する分散媒体が使用される。
【0039】
シクロデキストリンの添加量は、適宜選択することができるが、酸化処理を行ったカーボンナノホーン集合体100質量部に対して、例えば0.1~50質量部、好ましくは0.5~10質量部である。
処理条件は特に限定されないが、例えば0~100℃の範囲、好ましくは10℃~70℃の範囲で適宜選択すればよい。一実施形態では、例えば室温に近い15℃~60℃の範囲が好ましい。処理時間も適宜設定すればよいが、例えば10分以上、好ましくは3時間以上であり、上限は特にないが、例えば10日以下の範囲で実施すればよい。
【0040】
以上により、カーボンナノホーン集合体の先端部の酸素含有官能基とシクロデキストリンの水酸基が相互作用、詳細には水素結合により固定化され、安定化された親水性カーボンナノホーン集合体が得られる。親水性が得られることで、水媒体中での分散性が向上する。
【0041】
<超音波処理、および/または遠心分離工程>
このようにして得られた親水性カーボンナノホーン集合体をさらに良好に分散させるため、シクロデキストリン処理後、そのままの液体中で、または親水性カーボンナノホーン集合体を回収後に異なる液体中、好ましくは水溶液中で、超音波処理を行うことが好ましい。この際、液体を保持する容器の外側から超音波を印加するバス型、容器内にチップ型の発振子を挿入して行うチップ型等の処理装置が使用できるが、簡便で、不純物が混入しないバス型が好ましい。周波数、処理時間は適宜設定できるが、周波数は28KHz~100KHz、処理時間は5分~30分間が好ましい。
【0042】
さらに必要により、続いて遠心分離処理を行って、カーボンナノホーン集合体の不純物、例えばグラファイト等を除去してもよい。
【0043】
このようにして得られる親水性カーボンナノホーン集合体は、不純物の含有量が少なく、胴部表面に孔が生成されないため、触媒担持体や化学修飾基を使用した親水性カーボンナノホーン集合体の機能化にも適している。
【0044】
本実施形態で得られた親水性カーボンナノホーン集合体は水に対する分散性が極めて優れている。球状カーボンナノホーン集合体の場合では、動的散乱光散乱法により求めた粒子径分布において、水を分散媒体とした分散液中で、親水性カーボンナノホーン集合体の90質量%以上、好ましくは95質量%以上、より好ましくは98質量%以上が、400nm以下の粒子径を有している。
【0045】
本発明に係る親水性カーボンナノホーン集合体は、様々な用途に使用できる。カーボンナノホーン集合体は、導電性、触媒活性、吸着・吸収性、熱伝導性に優れることから、例えば、リチウムイオン電池、燃料電池、キャパシタ、電気化学アクチュエータ、空気電池、太陽電池の電極材、電磁シールド、熱伝導シート、放熱シート、保護シート、フィルタ、吸収材等、幅広い用途に応用できる。
【実施例
【0046】
以下に実施例を示し、さらに詳しく本発明について説明するが、本発明は下記実施例によって限定されるものではない。
【0047】
<実施例1>
(工程1:CNHsの製造)
カーボンナノホーン集合体(CNHs)をCOレーザーアブレーション法により作製した。先ず、固体状炭素物質としての焼結丸棒炭素を真空容器内に設置し、Ar雰囲気下でレーザーパワー密度:30kW/cm、ターゲット回転数:2rpmの条件でCOレーザー光を前記固体状炭素物質に室温中、30分照射した。これにより得られたすす状物質を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察し、カーボンナノホーン集合体構造であることを確認した。
【0048】
(工程2:oxCNHsの製造)
ナノホーン先端部が酸化され、酸素含有基が導入されたカーボンナノホーン集合体(oxCNHs)を、工程1で製造したCNHsを、卓上マッフル炉(KDFS70)により、空気雰囲気下、加熱炉中で300℃~400℃の範囲で、4~7時間加熱することで製造した。
【0049】
(工程3:CD-oxCNHsの製造)
シクロデキストリンでキャップした親水性カーボンナノホーン集合体(CD-oxCNHs)を次のように製造した。まず、工程2で製造されたoxCNHs20mgを水80mLに入れ、超音波分散処理を15分間行い、oxCNHs分散液を作製した。次に、γ-CD5mgを添加し、40℃で12時間撹拌した。その後、超音波処理を15分間行い、3000rpmで20分間、遠心分離処理を行った。続いて、孔径200nmのフィルタを用いてフィルタ洗浄を行い、余分なγ-CDを洗浄除去し、CD-oxCNHsを製造した。
【0050】
<比較例1> (CD-CNHsの製造)
カーボンナノホーン集合体を酸化処理することなくシクロデキストリンでキャップしたカーボンナノホーン集合体(CD-CNHs)を次のように製造した。まず、実施例1の工程1で作製されたCNHs20mgを水80mLに入れ、超音波分散処理を15分間行った。次に、γ-CD5mgをCNHs分散液に入れ、40℃で12時間撹拌した。その後、超音波処理を15分間行い、その後3000rpmで20分間、遠心分離処理を行った。続いて、孔径200nmのフィルタを用いてフィルタ洗浄を行い、余分なγ-CDを洗浄除去し、比較例のCD-CNHsを製造した。
【0051】
図2(a)~(c)に動的光散乱法により求めた粒径分布を、実施例1で製造したCD-oxCNHs(図2(a))、比較例1で製造したCD-CNHs(図2(b))および実施例1の工程2で製造したoxCNHs(図2(c))について示す。
【0052】
図2(a)より、CD-oxCNHsでは、ナノホーン粒子がほぼ1次粒子として分散していることがわかるが、図1(b)より、CD-CNHsでは、ナノホーン粒子が凝集していることがわかる。また、図1(c)より、酸化処理したoxCNHsは、分散しているナノホーン粒子と凝集しているナノホーン粒子が幅広く存在していることがわかる。
【0053】
図3はCD-oxCNHsのTGA結果を示すグラフである。図3より、遠心分離後、フィルタ洗浄後は、不純物が除去されて、CDとCNHsの重量減少のみになることがわかる。
【0054】
oxCNHs、CD-CNHs、およびCD-oxCNHsをそれぞれ1mg採取して10mLの水に分散した。図4は、左からoxCNHs、CD-CNHs、およびCD-oxCNHs分散液の(a)10分後、(b)10時間後における分散状態を示す写真である。図4(b)に示される10時間後では、CD-oxCNHs以外は凝集し、沈殿した。また、CD-oxCNHsは1週間後も変化がなく、よって、高分散状態で安定的に存在することが明らかとなった。
【0055】
以上、実施形態および実施例を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記実施形態および実施例に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0056】
上記の実施形態の一部または全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、本出願の開示事項は以下の付記に限定されない。
【0057】
(付記1)
カーボンナノホーンの先端部に導入された酸素含有官能基を有するカーボンナノホーン集合体と、
前記カーボンナノホーンの先端部をキャップし、安定化されたシクロデキストリンと
を有する親水性カーボンナノホーン集合体。
【0058】
(付記2)
前記シクロデキストリンが、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、およびその誘導体からなる群より選択される少なくとも1種である、付記1に記載の親水性カーボンナノホーン集合体。
【0059】
(付記3)
前記酸素含有官能基が、前記カーボンナノホーンの先端部が、酸化処理されて導入されたものである、付記1または2に記載の親水性カーボンナノホーン集合体。
【0060】
(付記4)
付記1~3のいずれか1項に記載の親水性カーボンナノホーン集合体と、水を含有する、親水性カーボンナノホーン集合体分散液。
【0061】
(付記5)
動的散乱光散乱法により求めた粒子径分布において、前記親水性カーボンナノホーン集合体の90質量%以上が400nm以下の粒子径を有する、付記4に記載の親水性カーボンナノホーン集合体分散液。
【0062】
(付記6)
カーボンナノホーン集合体を酸化処理する工程と、
酸化処理されたカーボンナノホーン集合体をシクロデキストリンで処理する酸化処理工程と、
を含む、親水性カーボンナノホーン集合体の製造方法。
【0063】
(付記7)
前記酸化処理工程が、カーボンナノホーンの先端部に酸素含有官能基を導入する工程である、付記6に記載の親水性カーボンナノホーン集合体の製造方法。
【0064】
(付記8)
前記シクロデキストリンによる処理工程が、前記カーボンナノホーンの先端部を前記シクロデキストリンでキャップし、且つ前記シクロデキストリンを固定する工程である、付記7に記載の親水性カーボンナノホーン集合体の製造方法。
【0065】
(付記8a)
さらに、超音波処理、および/または遠心分離処理を行う工程を含む、付記6~8のいずれか1項に記載の親水性カーボンナノホーン集合体の製造方法。
【0066】
(付記9)
前記酸化処理工程において、温度、時間、ガス雰囲気のうち少なくとも1つによって酸化の程度を調整する、付記6~8のいずれか1項に記載の親水性カーボンナノホーン集合体の製造方法。
【0067】
(付記9a)
前記ガス雰囲気が、酸素、空気、過酸化水素、二酸化炭素、および一酸化炭素から選択される少なくとも1種のガスを含有する、付記9に記載の親水性カーボンナノホーンの製造方法。
【0068】
(付記10)
前記酸化処理工程において、酸化の程度が、全体の炭素に対して酸素が1.0×10-5~1.0×10原子%の割合で含むように酸化処理を行う、付記6~9のいずれか1項に記載の親水性カーボンナノホーン集合体の製造方法。
【符号の説明】
【0069】
1 カーボンナノホーンの先端部
2 シクロデキストリン
図1
図2
図3
図4