(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-03
(45)【発行日】2025-06-11
(54)【発明の名称】ハイブリッドシステム用駆動装置
(51)【国際特許分類】
F16H 57/04 20100101AFI20250604BHJP
B60K 17/04 20060101ALI20250604BHJP
B60K 17/06 20060101ALI20250604BHJP
H02K 9/19 20060101ALI20250604BHJP
H02K 7/116 20060101ALI20250604BHJP
【FI】
F16H57/04 P
F16H57/04 G
F16H57/04 E
F16H57/04 J
B60K17/04 G
B60K17/06 G
H02K9/19
H02K7/116
(21)【出願番号】P 2022014419
(22)【出願日】2022-02-01
【審査請求日】2024-03-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】中村 敦郎
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-156309(JP,A)
【文献】特開2010-000939(JP,A)
【文献】国際公開第2018/030372(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
B60K 17/04
B60K 17/06
H02K 9/19
H02K 7/116
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの出力が伝達される回転軸を出力軸とする油冷式モータと、
前記回転軸から動力が伝達されるトランスミッションと、
前記油冷式モータを収容するモータ室と前記トランスミッションを収容するトランスミッション室とを隔離する隔壁部を備えるハウジングと、
を有し、
前記ハウジングの底部には
前記モータ室のオイルパンと前記トランスミッション室のオイルパンが設けられ、
前記隔壁部は、前記ハウジングの底部において、前記モータ室と前記トランスミッション室と連通する連通油路を備え、
前記連通油路は、前記トランスミッション室で発生した気泡が前記モータ室へ流入しないように、前記トランスミッションの下端から所定距離だけ下方に設けられており、
前記ハウジングの底部において、前記モータ室の前記オイルパン、前記連通油路及び前記トランスミッション室の前記オイルパンには、オイルが貯留する液層が形成されており、前記液層の上面は、前記トランスミッションの下端から所定距離だけ下方に設けられる、
ハイブリッドシステム用駆動装置。
【請求項2】
前記トランスミッション室の前記オイルパンに貯留されたオイルは、オイルポンプにより、油路を通って車両のラジエータの熱交換器に送られ、前記熱交換器で冷却されたオイルは更に、前記回転軸の軸心内の油路を通って、前記モータ室に到達し、オイルは、前記回転軸の回転に伴い、前記油冷式モータに対し、撒き散らされ、前記油冷式モータの熱を奪って、その後、前記モータ室の前記オイルパンに貯留するように構成されている、請求項1に記載のハイブリッドシステム用駆動装置。
【請求項3】
前記連通油路は、オイルが充填されるように構成され、
前記車両の前記ラジエータの前記熱交換器で冷却されたオイルは更に、前記回転軸の軸心内の油路を通って、前記トランスミッション室に到達し、オイルは、前記回転軸の回転に伴い、前記トランスミッションに対し、撒き散らされ、前記トランスミッションの熱を奪って、その後、前記トランスミッション室の前記オイルパンに貯留するように構成されている、請求項2に記載のハイブリッドシステム用駆動装置。
【請求項4】
前記トランスミッション室の底部に形成されたオイルパンの容積は、前記モータ室の底部に形成されたオイルパンの容積より大きくなるように構成されている、請求項1~3のいずれか一項に記載のハイブリッドシステム用駆動装置。
【請求項5】
前記駆動装置は、フロントエンジンリアドライブ式の自動車用である、請求項1~4のいずれか一項に記載のハイブリッドシステム用駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ハイブリッドシステム用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッドシステム用駆動装置として、油冷式モータを用いることが知られている。
【0003】
特許文献1には、ハイブリッド電気自動車のクラッチ及びモータハウジング構造が開示されている。これは、エンジンからの駆動力を変速機側に伝達するための湿式油圧クラッチを収容するクラッチハウジング、及び油冷式の走行用モータを収容するモータハウジング内の圧力上昇を抑制するエアブリーザの取付構造である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
油の攪拌により発生した気泡がモータ室内のコイルやロータを覆うと、冷却性能が低下してしまうため、ブリーザを設ける手法が知られている。しかし、ブリ―ザを設けることで部品点数が増加してしまう。
【0006】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、部品点数の増加を抑制しつつ、油の攪拌により発生した気泡による、冷却性能の低下を防止したハイブリッドシステム用駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様にかかるハイブリッドシステム用駆動装置は、
エンジンの出力が伝達される回転軸を出力軸とする油冷式モータと、
前記回転軸から動力が伝達されるトランスミッションと、
前記油冷式モータを収容するモータ室と前記トランスミッションを収容するトランスミッション室とを隔離する隔壁部を備えるハウジングと、
を有し、
前記ハウジングの底部にはオイルが貯留されており、
前記隔壁部は、前記ハウジングの底部において、前記モータ室と前記トランスミッション室と連通する連通油路を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、部品点数の増加を抑制しつつ、油の攪拌により発生した気泡による、冷却性能の低下を防止したハイブリッドシステム用駆動装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態にかかるハイブリッドシステム用駆動装置の断面図である。
【
図2】実施の形態にかかるハイブリッドシステム用駆動装置のATFの流路を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下では、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。各図面において、同一又は対応する要素には同一の符号が付されており、説明の明確化のため、必要に応じて重複説明は省略される。
【0011】
図1は、実施の形態にかかるハイブリッドシステム用駆動装置1の断面図である。
図1は、フロントエンジンリアドライブ式のハイブリッド自動車用の駆動装置を例示している。ハイブリッドシステム用駆動装置1は、モータジェネレータ(回転電機)MGと、エンジンに連結される回転軸11と、回転軸11と連結するAT(Automatic Transmission)ギア13を有する。モータジェネレータは、単にモータとも呼ばれ得る。ハイブリッドシステム用駆動装置1は、ハウジング10に収納される。具体的には、
図1は、車両側面からハウジング10を見た図であり、ハウジング10は、前方のモータ室Mと、後方のギア室Gと、モータ室Mとギア室Gとを隔離する隔壁部Pを有する。モータ室Mは、モータケースとも呼ばれる。ギア室Gは、ギアケース、トランスミッション室、トランスミッションケースとも呼ばれる。
【0012】
図示されていないが、駆動装置1の前方にエンジンが配置される。エンジン(図示せず)は、ガソリンや軽油などを燃料としてピストンの往復運動をクランクシャフト(回転軸)の回転運動へと変換する内燃機関である。モータ室Mは、エンジンの出力が伝達される回転軸11を出力軸とする油冷式モータジェネレータMGを収容する。モータジェネレータMGは、モータ室Mに収納されるステータ100とロータ200を備える。ステータ100は、環状のステータコア101と、当該ステータコア101に巻回されるステータコイル102を含む。ロータ200は、ロータコア201と、当該ロータコア201の軸方向における両側に配置されるエンドプレート202,203と、を含む。ロータコア201は、例えばプレス加工により円環状に形成された電磁鋼板を複数積層することにより形成される。また、ロータコア201には、周方向に間隔をおいてそれぞれ軸方向に延びる図示しない複数の貫通孔が形成され、各貫通孔には、永久磁石が埋設される。ハイブリッド用モータのような発熱量の大きなモータでは、冷却及び潤滑用の油をコア及びコイルエンドにかけることにより冷却する油冷式が一般的である。
【0013】
図1に示すように、ハウジング10のモータ室Mの外殻部81の一端(前端)すなわち開放端側の外周には、複数のボルト孔を有する前側フランジ部81fが形成されている。前側フランジ部81fは、それぞれ対応するボルト孔に挿通される図示しない複数のボルトを介してエンジンのエンジンブロックに締結(固定)される。また、外殻部81の他端部は、端壁82よりも前側フランジ部81fとは反対側に突出しており、外殻部81の他端(後端)の外周には、複数のボルト孔を有する後側フランジ部81rが形成されている。後側フランジ部81rは、それぞれ対応するボルト孔に挿通される複数のボルトを介して動力伝達装置のトランスミッションケース(ギア室G)の前端に締結(固定)される。
【0014】
ハウジング10のモータ室Mは、アルミニウム合金の鋳造により形成され、筒状の外殻部81と、当該外殻部81の他端を塞ぐ端壁(壁部)82とを含む。モータケースは、一端が開放されたモータ室Mと、当該一端を覆うように固定されるカバー88とを含む。カバー88は、複数のボルトを介してハウジング10のモータ室Mに固定される。カバー88は、エンジン側でモータジェネレータMGおよびクラッチK0と対向するように径方向に延在するモータケースの端壁部を形成する。クラッチK0は、回転軸11aすなわちエンジンのクランクシャフトと回転軸(伝達軸)11bすなわちモータジェネレータMGのロータ200とを連結すると共に両者の連結を解除するものである。
【0015】
同様に、ハウジング10のギア室Gは、アルミニウム合金の鋳造により形成され、筒状の外殻部91と、当該外殻部91の他端を塞ぐ端壁(壁部)92と、を含む。ギアケースは、一端が開放されたギア室Gと、当該一端を覆うように固定されるカバー98とを含む。カバー98は、複数のボルト99を介してハウジング10のギア室Gに固定される。ギア室Gは、回転軸11からの動力が伝達されるトランスミッション(
図1では、ATギア13)を収容する。なお、本例においては、モータ室における回転軸も、ギア室における回転軸も、同じ一軸である。回転軸11a~11cは、回転軸11と総称される。
【0016】
ハウジング10の底部にはオイルが貯留している。このオイルは、ATF(Automatic Transmission Fluid)とも呼ばれる。具体的には、ハウジング10において、モータ室Mの底部111には、オイルパン110が形成されており、ギア室Gの底部131には、オイルパン130が形成されている。ギア室Gにおいて、ATギア13が回転軸11に対称に構成され、ATギア13の下端(1点破線)より下側に、オイルパン130が設けられている。また、ギア室Gのオイルパン130の後方に隣接して、オイルを
図2に示す経路に沿って循環させるオイルポンプ140が設けられている。以上より、ハウジング10の底部において、オイルパン110、連通油路120及びオイルパン130が、オイルが貯留する液層SLを形成している。
【0017】
また、オイルパン130の容積は、オイルパン110の容積より大きくなるように設計されている。すなわち、オイルパン130は、オイルパン110より前後方向に長く設計され、かつ、上下方向にも長く設計されている。さらに、オイルパン130の下端は、オイルパン110の下端より下方にまで設計されている。これにより、オイルは、モータ室Mのオイルパン110からトランスミッション室Gのオイルパン130に流れるように設計されている。なお、液層SLの上面は、ATギア13の下端から所定距離Hだけ下方に配置されるように設計され得る。
【0018】
オイルパン130内のオイルの油面は、ATFの温度上昇又は走行中の車両の姿勢変化等により、上昇又は下降する場合がある。ギア室Gの底部のATFの油面が上昇し、ATギア13に触れると、ATギア13の回転に伴って、このオイルが撹拌され、気泡が発生する場合がある(
図1の気泡層AB)。その後、ATFの油面が下降すると、発生した気泡がモータ室Mに到達し、モータコイル102やロータ200を覆うと、冷却性能(放熱)を阻害する恐れがある。
【0019】
そこで、本開示では、こうした課題を解決するため、モータ室Mとギア室Gを別々に配置し、それらを隔離する隔壁部Pの底部において、モータ室Mへの気泡の流入を防止するようにオイルの連通油路120を設けている。連通油路120は、オイルパン110の底部111及びオイルパン130の底部131よりもわずかに高い位置に配置され、オイルパン110とオイルパン130とを連通するように設けられている。車両の前後方向における連通油路120の長さは、所定距離以上であってもよい。具体的には、オイルの連通油路120は、ATギア13の下端から所定の距離Dだけ下側に設けられている。この所定の距離は、ATギア13の回転により発生した気泡がモータ室Mに到達しにくい又は完全に到達しないように任意に設定され得る。
【0020】
いくつかの実施形態では、ハウジング10は、ATFの油面が連通油路120よりも上側にあるように設計されてもよい。これにより、ATFが連通油路120内に充填されているので、モータ室への気泡の逆流をできる限り抑制することができる。
【0021】
走行中、車両が左傾している時、連通油路120より、トランスミッション室内の気泡が発生し得る気泡層ABが上方にあるため、モータ室への気泡の流入が抑制される。一方、走行中、車両が右傾している時、ATFはトランスミッション室側に偏るため、モータ室への気泡の流入が抑制される。
【0022】
図2は、実施の形態にかかるハイブリッドシステム用駆動装置のATFの流路を示す概略図である。
AT部(トランスミッション室)のオイルパン130に貯留されたオイルは、オイルポンプ140により、油路を通って車両のラジエータの熱交換器150に送られる。熱交換150で冷却されたオイルは更に、回転軸11の軸心内の油路を通って、モータ室Mに到達する。オイルは、回転軸11の回転に伴い、モータMGに対し、撒き散らされ、モータMGの熱を奪って、その後、モータ室Mのオイルパン110に貯留する。
【0023】
同様に、熱交換150で冷却されたオイルは更に、回転軸11の軸心内の油路を通って、トランスミッション室Gに到達する。オイルは、回転軸11の回転に伴い、ATギア13に対し、撒き散らされ、ATギア13の熱を奪って、その後、トランスミッション室Gのオイルパン130に貯留する。
【0024】
上述したオイルの連通油路120は、モータ室Mのオイルパン110と、トランスミッション室Gのオイルパン130を連通する。
図2に示すように、オイルは、モータ室Mのオイルパン110からトランスミッション室Gのオイルパン130に流れるように設計されており、トランスミッション室GのATギア13でオイルパン130側に発生した気泡のモータ室への逆流を防止している。
【0025】
オイルパン110およびオイルパン130に貯留するオイルは再び、オイルポンプ140により熱交換器150およびラジエータに送られる。熱交換器150は、オイルと外部との間で熱交換を行う。モータやギアから熱を奪った高温のオイルは、熱交換器150により、冷却される。
【0026】
以上説明した実施形態にかかるハイブリッドシステム用駆動装置は、ブリーザなど部品点数の増加を抑制しつつ、油の攪拌により発生した気泡による、冷却性能の低下を防止することができる。
【0027】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0028】
M モータ室
P 隔壁部
G ギア室(トランスミッション室)
MG モータジェネレータ
K0 クラッチ
AB 気泡層
SL 液層
1 ハイブリッドシステム用駆動装置
10 ハウジング
11(11a~11c) 回転軸
13 ATギア
81 外殻部
91 外殻部
100 ステータ
110 オイルパン
111 底部
120 連通油路
130 オイルパン
131 底部
140 オイルポンプ
150 熱交換器
200 ロータ