(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-03
(45)【発行日】2025-06-11
(54)【発明の名称】二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 12/08 20060101AFI20250604BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20250604BHJP
H01M 50/497 20210101ALI20250604BHJP
H01M 50/423 20210101ALI20250604BHJP
H01M 50/414 20210101ALI20250604BHJP
【FI】
H01M12/08 K
H01M50/489
H01M50/497
H01M50/423
H01M50/414
(21)【出願番号】P 2022521980
(86)(22)【出願日】2022-03-28
(86)【国際出願番号】 JP2022014880
(87)【国際公開番号】W WO2022210489
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2024-09-27
(31)【優先権主張番号】P 2021059764
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】生駒 啓
(72)【発明者】
【氏名】清田 彩
(72)【発明者】
【氏名】佃 明光
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-125736(JP,A)
【文献】特開2003-132963(JP,A)
【文献】特開2020-057596(JP,A)
【文献】特開2013-173862(JP,A)
【文献】特開2006-152009(JP,A)
【文献】特開2007-302717(JP,A)
【文献】特開2013-127908(JP,A)
【文献】特表2015-519686(JP,A)
【文献】国際公開第2013/073292(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/089710(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M12/00-16/00
H01M50/40-50/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極、非水電解液、水系電解液およびセパレータを含む二次電池であって、
前記非水電解液と前記水系電解液が前記セパレータにより分離されてなり、
前記正極側に前記水系電解液を配置し、前記負極側に前記非水電解
液を配置されてなり、前記正極は、空気極であり、前記負極は、負極集電体と、その上に形成された負極合剤層からなり、前記負極合剤層は金属リチウム、マグネシウム、亜鉛、アルミニウムからなる群より選択される一つ以上の成分を含むものであり、前記セパレータは透気度が10000秒より大きく、イオン伝導度が1×10
-5S/cm以上であり、水の接触角が90°以上であるポリマー膜であり、前記ポリマー膜のジメチルカーボネートを用いて測定される接触角が90°以上である、二次電池。
【請求項2】
前記ポリマー膜の、水を滴下10秒後の接触角に対する水を滴下1時間後の接触角の変化率が、10%未満である請求項1に記載の二次電池。
【請求項3】
前記ポリマー膜の、ジメチルカーボネートを滴下10秒後の接触角に対するジメチルカーボネートを滴下1時間後の接触角の変化率が10%未満である請求項1または2に記載の二次電池。
【請求項4】
前記ポリマー膜のメルトダウン温度が300℃以上である請求項1~3のいずれかに記載の二次電池。
【請求項5】
ポリマー膜を構成するポリマーに芳香族ポリアミド、芳香族ポリイミドまたは芳香族ポリアミドイミドを含む請求項1~4のいずれかに
記載の二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年携帯用電子機器の小型化は急速に進んでおり、その電源も高エネルギー密度化が要求されている。電池の軽量化および高エネルギー化に向け、金属Li負極、全固体、空気電池などが盛んに研究されている。特に、正極が空気をエネルギー源とする空気極に進化することで、現行酸化物に対して圧倒的な軽量化が可能になることから、現在、広く使用されているリチウム二次電池と比較して高容量で、次世代電源として有望である。空気電池としては、例えば、リチウム空気電池、マグネシウム空気電池、亜鉛空気電池等の金属空気電池が知られている。
【0003】
金属空気電池には、実用化に向けて正極、負極、セパレータ、電解液等の設計に課題が多く残されている。正極について電極反応によって生成する固体(以下、生成物固体と称する)が空気極に蓄積し、空気極が目詰まりを起こして電解液と空気との接触が遮断され、充放電に支障をきたすという問題が生じていた。
【0004】
生成物固体の析出の問題を解決する技術として、金属空気電池の電解質として水性電解液を用いることが提案されている。水性電解液を用いる金属空気電池の場合、生成物固体として金属の水酸化物が生成し、生成物固体が水溶性を有するため、水性電解液中に生成物固体を溶解させることができ、生成物固体の析出を抑制できる。
【0005】
しかしながら水性電解液を用いる金属空気電池には、水性電解液中の塩の飽和溶解度を超えた場合に生成物固体が析出し、電池が失活するという問題があったり、負極に金属リチウムを使用する場合、安全性の観点から実用化が困難である。
【0006】
また、負極についても、各種金属負極のデンドライトによる安全性の低下や寿命特性の低下が課題となる。
【0007】
そこで、上記空気電池の抱える課題を、異なる2種類の電解質を併用することで解決することが重要となる。
【0008】
異なる2種類の電解質を併用する取り組みとして、特許文献1では、正極側に水系電解液と負極側にはイオン伝導性のガラスセラミックを配置することで、電池特性を向上する提案がされている。特許文献2では、リチウムイオン伝導性固体電解質の表面における高分子含有電解質コーティング層を設けることにより負極保護ができ、特性が向上する提案がされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2010-192313号公報
【文献】特開2017-191766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1はガラスセラミックを使用しており、強度が高いものの、柔軟性に乏しく、衝撃を受けた際の水系電解液の分離性が不十分であり、特許文献2は、水系電解液を使用していないもしくは使用できないことから空気極の根本的な課題解決には寄与しないと考えられる。
【0011】
したがって、本発明の目的は、上記問題に鑑み、非水電解液、水系電解液を使用した電池において、非水電解液と水系電解液を分離することができるセパレータを用いることで、電池容量が高く、サイクル特性に優れた二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため本発明の二次電池は次の構成を有する。
(1)正極、負極、非水電解液、水系電解液およびセパレータを含む二次電池であって、前記正極は、空気極であり、前記負極は、負極集電体と、その上に形成された負極合剤層からなり、前記負極合剤層は金属リチウム、マグネシウム、亜鉛、アルミニウムからなる群より選択される一つ以上の成分を含むものであり、前記セパレータは透気度が10000秒より大きく、イオン伝導度が1×10-5S/cm以上であり、水の接触角が90°以上であるポリマー膜である、二次電池。
(2)前記ポリマー膜の、水を滴下10秒後の接触角に対する水を滴下1時間後の接触角の変化率が10%未満である(1)に記載の二次電池。
(3)前記ポリマー膜のジメチルカーボネートを用いて測定される接触角が90°以上である(1)または(2)に記載の二次電池。
(4)前記ポリマー膜の、ジメチルカーボネートを滴下10秒後の接触角に対するジメチルカーボネートを滴下1時間後の接触角の変化率が10%未満である(1)~(3)のいずれかに記載の二次電池。
(5)前記ポリマー膜のメルトダウン温度が300℃以上である(1)~(4)のいずれかに記載の二次電池。
(6)ポリマー膜を構成するポリマーに芳香族ポリアミド、芳香族ポリイミドまたは芳香族ポリアミドイミドを含む(1)~(5)のいずれかに記載の二次電池。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電池容量が高く、サイクル特性に優れた二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態にかかる二次電池について、以下詳細に説明する。
本発明の実施形態にかかる二次電池は、正極、負極、非水電解液、水系電解液およびセパレータを含む二次電池であって、前記正極は、空気極であり、前記負極は、負極集電体と、その上に形成された負極合剤層からなり、前記負極合剤層は金属リチウム、マグネシウム、亜鉛、アルミニウムからなる群より選択される一つ以上の成分を含むものであり、前記セパレータは透気度が10000秒より大きく、イオン伝導度が1×10-5S/cm以上であり、水の接触角が90°以上であるポリマー膜である、二次電池である。
【0015】
[正極]
本発明の実施形態において、正極に用いられる電極は空気をエネルギー源とする空気極である。空気極は、例えば多孔質カーボンシートに白金などの酸素還元触媒を担持した構成や触媒活性の高いカーボン、例えば、グラフェンやカーボンナノチューブなどのシート構成になる。多孔質カーボンシートは、例えば、カーボンペーパーやカーボンブラック、アセチレンブラックシートなどである。
【0016】
[負極]
負極は、負極集電体と、負極集電体の上に形成された負極合剤層とを含む。負極集電体は、例えば、銅、ニッケル、又はステンレス製の負極集電体を用いることができる。
【0017】
本発明の実施形態において、負極合剤層に含まれる負極活物質は、金属リチウム、マグネシウム、亜鉛、アルミニウムからなる群より選択される一つ以上の成分を含むものである。中でも、電池の作動電圧、負極活物質の理論容量の観点から金属リチウムを用いることが好ましい。
【0018】
負極は、例えば、以下のようにして製造される。金属リチウムの場合、負極集電体の上にガスデポジション法でリチウムナノ粒子を生成しHeガスとともに噴射堆積させることで作製することができる。
【0019】
[電解質]
本発明の実施形態において用いる電解質は、非水電解液、水系電解液を使用する。非水電解液は有機溶媒と溶質からなる。
【0020】
非水電解液の有機溶媒には、環状エステル類、鎖状エステル類、環状エーテル類、鎖状エーテル類、アミド類等が用いられ、具体的には、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、γ-ブチロラクトン(γBL)、2メチル-γ-ブチロラクトン、アセチル-γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、1,2-ジメトキシエタン(DME)、1,2-エトキシエタン、ジエチルエーテル、エチレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、トリエチレングリコールジアルキルエーテル、テトラエチレングリコールジアルキルエーテル、ジプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルブチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、ブチルプロピルカーボネート、プロピオン酸アルキルエステル、マロン酸ジアルキルエステル、酢酸アルキルエステル、テトラヒドロフラン(THF)、アルキルテトラヒドロフラン、ジアルキルアルキルテトラヒドロフラン、アルコキシテトラヒドロフラン、ジアルコキシテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、アルキル-1,3-ジオキソラン、1,4-ジオキソラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,3-ジオキソラン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリル、ニトロメタン、蟻酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、リン酸トリエステル、N-メチル-2-ピロリドンなどの有機溶媒およびこれらの誘導体や混合物などが好ましく用いられる。
【0021】
非水電解液に含まれる溶質としては、アルカリ金属、特にリチウムのハロゲン化物、過塩素酸塩、チオシアン塩、ホウフッ化塩、リンフッ化塩、砒素フッ化塩、アルミニウムフッ化塩、トリフルオロメチル硫酸塩などが好ましく用いられる。例えば、過塩素酸リチウム(LiClO4)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、4フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、六フッ化砒素リチウム(LiAsF6)、トリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、ビストリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム[LiN(CF3SO2)2]などのリチウム塩(溶質)などの1種以上の塩を用いることができるが、耐酸化性および耐還元性の観点から六フッ化リン酸リチウムが好ましい。
【0022】
溶質の有機溶媒に対する溶解量は、0.5~3.0モル/Lとすることが好ましく、特に0.8~1.5モル/Lが好ましい。
【0023】
また非水電解液には必要に応じて添加剤を用いてもよい。添加剤としては、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、エチレンサルファイト、1,4-ブタンスルトン、プロパンサルトン、2,4-ジフルオロアニソール、ビフェニル、シクロヘキシルベンゼン等が挙げられ、これらのうちの1種類以上を用いてもよい。
【0024】
水系電解液は、酸性電解液、アルカリ性電解液がある。酸性電解液は、例えば、塩酸、硫酸、フッ酸などがある。アルカリ性電解液は、水酸化カリウム水溶液、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウムなどがある。
【0025】
また、電池の安全性、寿命特性および電池が安定に作動することから、本発明の二次電池における電解液は、正極側が水系電解液、負極側が非水系電解液であることが好ましい。
【0026】
[セパレータ]
セパレータは透気度が10000秒より大きく、イオン伝導度が1×10-5S/cm以上であり、水の接触角が90°以上である、ポリマー膜である。
【0027】
セパレータは、非水電解液、水系電解液の2種類の電解液を使用した電池において、電解液を分離する必要があることから透気度が10000秒より大きい。なお、透気度が10000秒より大きい場合、実質的にセパレータに連続孔がない無孔構造と見なすことができる。
【0028】
セパレータが電解液で膨潤しない、水系電解液を透過させない必要があることから、セパレータは水の接触角が90°以上のポリマー膜であることが重要である。水の接触角が90%未満であると、水系電解液がセパレータを透過し、非水電解液と混合してしまい、電池特性が低下する場合があるまた、電池使用時に電解液の分離できることかつ電池特性の観点から、セパレータの水を滴下10秒後の接触角に対する水を滴下1時間後の接触角の変化率が10%未満が好ましく、さらに好ましくは7%未満が好ましい。
【0029】
また、非水電解液においても膨潤しない、非水電解液を透過させない必要があることから、セパレータはジメチルカーボネートを用いて測定される接触角が90°以上のポリマー膜であることが好ましい。また、電池使用時に電解液の分離できることかつ電池特性の観点から、セパレータのジメチルカーボネートを滴下10秒後の接触角に対するジメチルカーボネートを滴下1時間後の接触角の変化率が10%未満が好ましく、さらに好ましくは7%未満が好ましい。
【0030】
セパレータが、無孔構造なため電解液を含浸することができず、かつ電解液の膨潤もないことから、ポリマー膜がイオン伝導性を有していることが電池特性の観点から重要となる。セパレータのイオン伝導性の指標であるイオン伝導度は1×10-5S/cm以上であることが重要である。イオン伝導度が1×10-5S/cm未満であると、抵抗が高く、電池特性が低下する場合がある。
【0031】
電池の安全性の観点から、セパレータのメルトダウン温度が300℃以上が好ましく、さらに好ましくは350℃以上が好ましい。
【0032】
上記のセパレータを達成するポリマー膜について詳述する。
【0033】
セパレータであるポリマー膜を構成するポリマーとしては、耐熱性、強度、柔軟を両立するものとして、主鎖上に芳香族環を有するポリマーが好適である。このようなポリマーとして例えば、芳香族ポリアミド(アラミド)、芳香族ポリイミド、芳香族ポリアミドイミド、芳香族ポリエーテルケトン、芳香族ポリエーテルエーテルケトン、芳香族ポリアリレート、芳香族ポリサルフォン、芳香族ポリエーテルサルフォン、芳香族ポリエーテルイミド、芳香族ポリカーボネートなどが挙げられる。また、複数のポリマーのブレンドとしてもよい。中でも耐熱性に優れ、薄膜化した際に高強度を維持しやすいことから、芳香族ポリアミド、芳香族ポリイミドまたは芳香族ポリアミドイミドを膜全体の質量を100%としたとき、30~100質量%含むことが好ましい。より好ましくは50~100質量%である。
【0034】
本発明において好適に用いることができるポリマーとして、膜を構成するポリマー中に以下の化学式(I)~(III)のいずれかの構造を有するポリマーを含むことが好ましく、芳香族ポリアミドとしては次の化学式(I)、芳香族ポリイミドとしては次の化学式(II)、芳香族ポリアミドイミドとしては次の化学式(III)で表される繰り返し単位を有するものを挙げることができる。
化学式(I):
【0035】
【0036】
化学式(II):
【0037】
【0038】
化学式(III):
【0039】
【0040】
ここで、化学式(I)~(III)中のAr1および/またはAr2は芳香族基であり、それぞれ単一の基であってもよいし、複数の基で、多成分の共重合体であってもよい。また、芳香環上で主鎖を構成する結合手はメタ配向、パラ配向のいずれであってもよい。さらに、芳香環上の水素原子の一部が任意の基で置換されていてもよい。
【0041】
本発明において電解液の分離や耐熱性と優れたイオン伝導性とを両立する手段として、ポリマーの極性を制御することでイオンをホッピングで輸送する方法が挙げられる。
【0042】
本発明において、芳香族ポリアミドまたは芳香族ポリイミドもしくは芳香族ポリアミドイミドを用いた場合、構造中にカルボニル基を有するため、一般的にこれがリチウムイオンと親和性が高い部位となることが多い。そのため、ポリマー膜中をリチウムイオンが移動するにはリチウムイオンとの親和性がカルボニル基より低い部位が必要となることから、主鎖または側鎖に(主鎖中あるいは側鎖上に)エーテル結合またはチオエーテル結合を有することが好ましい。より好ましくは、主鎖中にエーテル結合を有する、あるいは、芳香環上置換基に少なくともカルボン酸基、カルボン酸塩基、スルホン酸基、スルホン酸塩基、アルコキシ基、シアネート基のいずれか1つの基を有することが好ましい。さらに好ましくは、化学式(I)~(III)中のAr1およびAr2のすべての基の合計の25~100モル%が、次の化学式(IV)~(VI)で表される基から選ばれた少なくとも1つの基であることであり、上記の割合は50~100モル%であることがより好ましい。
化学式(IV)~(VI):
【0043】
【0044】
(化学式(IV)~(VI)中の二重破線は、1または2本の結合手を表す)
ここで、化学式(IV)~(VI)の芳香環上の水素原子の一部が、フッ素、臭素、塩素などのハロゲン基;ニトロ基;シアノ基;メチル、エチル、プロピルなどのアルキル基;メトキシ、エトキシ、プロポキシなどのアルコキシ基、カルボン酸基等の任意の基で置換されていてもよい。
【0045】
また、ポリマー膜中のイオン伝導を容易にするためにリチウム塩を添加することが好ましく、よりイオン伝導性を向上するために、アニオン半径の大きなリチウムイオンの解離性の高いリチウム塩を添加することがさらに好ましい。ここで、添加するリチウム塩は電解液に含まれる溶質と同様のリチウム塩を用いることができる。中でも、過塩素酸リチウム(LiClO4)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、4フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、六フッ化砒素リチウム(LiAsF6)、トリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、ビストリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム[LiN(CF3SO2)2]が好ましく、アニオン半径およびリチウムイオンの解離性の観点から、トリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、ビストリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム[LiN(CF3SO2)2]の添加が好ましい。より好ましくは、アニオン半径が大きなビストリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム[LiN(CF3SO2)2]の添加が好ましい。
【0046】
次にセパレータであるポリマー膜の製造方法について、以下に説明する。
【0047】
[ポリマー合成]
まず、本発明のポリマー膜に用いることができるポリマーを得る方法を芳香族ポリアミドおよび芳香族ポリイミドを例に説明する。もちろん、本発明に用いることができるポリマーおよびその重合方法はこれに限定されるものではない。
【0048】
芳香族ポリアミドを得る方法は種々の方法が利用可能であるが、例えば、酸ジクロライドとジアミンを原料として低温溶液重合法を用いる場合には、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン性有機極性溶媒中で合成される。溶液重合の場合、分子量の高いポリマーを得るために、重合に使用する溶媒の水分率を500ppm以下(質量基準、以下同様)とすることが好ましく、200ppm以下とすることがより好ましい。
【0049】
芳香族ポリイミドあるいはその前駆体であるポリアミド酸を、例えば、テトラカルボン酸無水物と芳香族ジアミンを原料として重合する場合には、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン性有機極性溶媒中で溶液重合により合成する方法などをとることができる。原料のテトラカルボン酸無水物および芳香族ジアミンの両者を等量用いると超高分子量のポリマーが生成することがあるため、モル比を、一方が他方の90.0~99.5モル%になるように調整することが好ましい。
【0050】
芳香族ポリアミドおよび芳香族ポリイミドあるいはその前駆体であるポリアミド酸の対数粘度(ηinh)は、0.5~6.0dl/gであることが好ましく、3.0~6.0dl/gであることがより好ましい。対数粘度が0.5dl/g未満であると、ポリマー分子鎖の絡み合いによる鎖間の結合力が減少するため、靭性や強度などの機械特性が低下したり、熱収縮率が大きくなることがある。対数粘度が6.0dl/gを超えると、イオン透過性が低下することがある。
【0051】
[製膜原料の調製]
次に、本発明のポリマー膜を製造する工程に用いる製膜原液(以下、単に製膜原液ということがある。)について、説明する。
【0052】
製膜原液には重合後のポリマー溶液をそのまま使用してもよく、あるいはポリマーを一度単離してから上述の非プロトン性有機極性溶媒や硫酸などの無機溶剤に再溶解して使用してもよい。
【0053】
製膜原液中のポリマーの濃度は、3~30質量%が好ましく、より好ましくは5~20質量%である。製膜原液には、イオン伝導性向上の観点から上述したリチウム塩を添加することが好ましい。リチウム塩の添加量は、リチウム塩のリチウムとポリマーの酸素のモル比が0.1以上が好ましく、0.2以上がより好ましい。
【0054】
[ポリマー膜の製膜]
次に本発明のポリマー膜を製膜する方法について説明する。上記のように調製された製膜原液は、いわゆる溶液製膜法により製膜を行うことができる。溶液製膜法には乾湿式法、乾式法、湿式法などがあり、いずれの方法で製膜しても差し支えないが、ここでは乾湿式法を例にとって説明する。なお、本発明のポリマー膜は、空孔を有する基材上や電極上に直接製膜することで積層複合体を形成してもよいが、ここでは、単独のフィルムとして製膜する方法を説明する。
【0055】
乾湿式法で製膜する場合は製膜原液を口金からドラム、エンドレスベルト、フィルム等の支持体上に押し出して膜状物とし、次いでかかる膜状物が自己保持性を持つまで乾燥する。乾燥条件は例えば、60~220℃、60分以内の範囲で行うことができる。ただし、ポリアミド酸ポリマーを使用し、イミド化させずに芳香族ポリアミド酸からなる膜を得たい場合、乾燥温度は60~150℃とすることが好ましく、より好ましくは60~120℃である。乾式工程を終えたフィルムは支持体から剥離されて湿式工程に導入され、脱塩、脱溶媒などが行なわれ、さらに延伸、乾燥、熱処理が行なわれる。延伸は延伸倍率として面倍率で0.8~8.0(面倍率とは延伸後のフィルム面積を延伸前のフィルムの面積で除した値で定義する。1以下はリラックスを意味する。)の範囲内にあることが好ましく、より好ましくは1.0~5.0である。また、熱処理としては80℃~500℃、好ましくは150℃~400℃の温度で数秒から数10分間熱処理が実施される。ただし、ポリアミド酸ポリマーを使用し、イミド化させずにポリアミド酸からなる膜を得たい場合、熱処理温度は80~150℃とすることが好ましい。より好ましくは減圧下で80~120℃とすることである。
【0056】
[二次電池]
本実施形態の空気電池の形態としては、例えば、コイン電池、ラミネート電池等の形態が挙げられる。空気電池の製造方法としては、例えば、ラミネート電池、コイン電池の場合、所定のサイズの正極シート、セパレータ、負極シート、セパレータの順に重ね合わせて積層して積層体を作製し、作製した捲回体もしくは積層体を、それぞれの電池ケースに充填し、正極及び負極のリード体の溶接を行った後、電解液を電池ケース内に注入し、電池ケースの開口部を封口して完成する。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれにより何ら制限されるものではない。本実施例で用いた測定法を以下に示す。
[測定方法]
(1)セパレータのメルトダウン温度
50mm×50mmサイズのセパレータを切り出し、中央に12mmの貫通孔のある2枚のステンレス板で試料を挟み、さらにその両側から中央に12mmの貫通孔のある加熱ブロック板で挟んだ。貫通孔にタングステン・カーバイド製で直径9.5mmの球を乗せ、加熱ブロックを5℃/分で昇温していき、球が落下した際の温度を計測した。試験は5回実施し、平均値をメルトダウン温度(℃)とした。
【0058】
(2)セパレータの透気度
王研式透気抵抗度計(旭精工株式会社製、EGO-1T)を使用して、JIS P8117(1998)に準拠して測定した。
【0059】
なお、透気度は10000秒が測定限界となり、セパレータは実質的に無孔構造を有している。
【0060】
(3)イオン伝導度(単位:S/cm)
ポリマー膜を電解液(1M LiTFSI エチレンカーボネート(EC)/ジエチルカーボネート(DEC)=1/1、三井化学社製)に24h浸漬した後、電極部分をカバーするようにSUS304電極上に置き、電解液を滴下してからもう1枚のSUS電極ではさみ、電極/ポリマー膜/電極の積層体を作製した。積層体がずれないようにシリコン板で固定して評価セルを作製した。
【0061】
作製したセルについて、25℃で電気化学試験装置(Biologic社製、型番:SP-150)にて振幅10mV、周波数1MHz-10mHzの条件で交流インピーダンスを測定し、複素平面上にプロットしたグラフから抵抗値を読み取り、下記式に代入し、イオン伝導度を計算した。5回測定し、計算した平均値をイオン伝導度とした。
【0062】
σ=d1/AR
σ:イオン伝導度(S/cm)
d1:ポリマー膜の厚み(cm)(電解液浸漬前)
A:電極の面積(cm2)
R:抵抗値(Ω)
(4)セパレータの水の接触角およびその変化率
まず、セパレータを室温23℃相対湿度65%の雰囲気中に24時間放置後する。その後、同雰囲気下で、セパレータに対して、水を滴下10秒後の接触角を、協和界面科学社製 接触角計DropMaster DM-501により、5点測定する。5点の測定値の最大値と最小値を除いた3点の測定値の平均値を水の接触角とした。
【0063】
また、滴下1時間後の接触角を同様に測定し、滴下10秒後の接触角からの変化率を以下の式を用いて評価した。
【0064】
(式)(1-(滴下1時間後の接触角)/(滴下10秒間後の接触角))×100
(5)セパレータのジメチルカーボネートを用いて測定される接触角およびその変化率
まず、セパレータを室温23℃相対湿度65%の雰囲気中に24時間放置後する。その後、同雰囲気下で、セパレータに対して、ジメチルカーボネートを滴下10秒後の接触角を、協和界面科学社製 接触角計DropMaster DM-501により、5点測定する。5点の測定値の最大値と最小値を除いた3点の測定値の平均値をジメチルカーボネートを用いて測定される接触角とした。
【0065】
また、滴下1時間後の接触角を同様に測定し、滴下10秒後の接触角からの変化率を以下の式を用いて評価した。
(式)(滴下1時間後の接触角)/(滴下10秒後の接触角)×100-100
(6)ポリマーの対数粘度(単位:dl/g)
臭化リチウム(LiBr)を2.5wt%添加したN-メチルピロリドン(NMP)に、ポリマーを0.5g/dlの濃度で溶解させ、ウベローデ粘度計を使用して、30℃にて流下時間を測定した。ポリマーを溶解させないブランクのLiBr2.5wt%/NMPの流下時間も同様に測定し、下式を用いて粘度η(dl/g)を算出した。
【0066】
η=[ln(t/t0)]/0.5
t0:ブランクの流下時間(S)
t:サンプルの流下時間(S)
(7)充放電サイクル特性
各実施例及び比較例にて作製した二次電池について、充放電サイクル特性を下記手順にて試験を行い、放電容量維持率を算出した。
【0067】
〈1~30サイクル目〉
充電、放電を1サイクルとし、充電条件を0.1C、5Vの定電流充電、放電条件を0.1C、2.8Vの定電流放電とし、25℃下で充放電を150回繰り返し行った。
〈放電容量維持率の算出〉
(30サイクル目の放電容量)/(1サイクル目の放電容量)×100で放電容量維持率を算出した。各実施例及び比較例にて作製した二次電池について5個試験を実施し、放電容量維持率が最大、最小となる結果を除去した3個の測定結果の平均を放電容量維持率とした。放電容量維持率が60%未満をC(不可)、60%以上70%未満をB(可)、70%以上75%未満の場合をA(良)、75%以上の場合をS(優)とした。また、電池作動できない場合は-とした。
【0068】
(実施例1)
下記のとおりセパレータ及び二次電池を作製した。表1にセパレータの物性と二次電池の特性を示した。
〔正極〕
カーボンペーパーに白金触媒を20%担持した空気極を用いた。
〔負極〕
市販の金属リチウム箔(本城金属(株)製)を用いた。
〔電解液〕
非水電解液は以下のように作製した。エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との体積比1:1の混合溶媒1Lに、1.0molのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)を溶解して混合液を作製し、その混合液100質量部に、更にビニレンカーボネート(VC)を2質量部加えて、非水電解液を調製した。
【0069】
水系電解液は以下のように作製した。純水に1mol%の水酸化カリウム(KOH)を溶解して混合液を作製し、水系電解液を調製した。
〔セパレータ〕
脱水したN-メチル-2-ピロリドンに、ジアミンとして4,4’-ジアミノジフェニルエーテルを窒素気流下で溶解させ、30℃以下に冷却した。そこへ、系内を窒素気流下、30℃以下に保った状態で、ジアミン全量に対して99モル%に相当する2-クロロテレフタロイルクロライドを30minかけて添加し、全量添加後、約2hの撹拌を行うことで、芳香族ポリアミドを重合した。得られた重合溶液を、酸クロライド全量に対して97モル%の炭酸リチウムおよび6モル%のジエタノールアミンにより中和することでポリマー溶液Aを得た。得られたポリマーの対数粘度ηは2.5dl/gであった。
【0070】
得られたポリマー溶液に、リチウム塩であるビストリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム[LiN(CF3SO2)2]をリチウム塩のリチウムとポリマーの酸素のモル比が0.2となるように添加して、ミキサー(THINKY社製、型番:AR-250)を用いて撹拌および脱泡を行い、均一透明溶液を得た。得られたポリマーとリチウム塩の均一混合溶液を支持体であるガラス板上に膜状に塗布し、熱風温度60℃でポリマー膜が自己支持性を持つまで乾燥させた後、ポリマー膜を支持体から剥離した。次いで、25℃の水浴に導入することで、溶媒および中和塩などの抽出を行った。続いて、得られた含水状態のポリマー膜の表面の水を拭き取った後、温度180℃のテンター室内にて、1minの熱処理を施し、厚み5μmのポリマー膜を得た。
〔電池の組み立て〕
ドライ雰囲気中で、2室セル(イーシーフロンティア製SB-100B)を用いて上記正極と上記負極を、上記セパレータとともに2室セルに配置し、正極側に水系電解液を、負極側に非水電解液を注液して、電池容量3mAhの二次電池を作製した。なお、空気極に供給する酸素は簡易の酸素ボンベを取り付け水系電解液に酸素を供給することで空気極に酸素を供給した。
【0071】
(実施例2)
水系電解液を1mol%の塩酸に変更した以外は、実施例1と同様にして二次電池を作製した。
【0072】
(実施例3)
セパレータの作製において、リチウム塩であるビストリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム[LiN(CF3SO2)2]をリチウム塩のリチウムとポリマーの酸素のモル比が0.1となるように添加した以外は、実施例1と同様にして二次電池を作製した。
【0073】
(実施例4)
セパレータの作製において、脱水したN-メチル-2-ピロリドンに、ジアミンとして4,4’-ジアミノジフェニルエーテルを窒素気流下で溶解させ、30℃以下に冷却した。そこへ、系内を窒素気流下、30℃以下に保った状態で、ジアミン全量に対して99.5モル%に相当する2-クロロテレフタロイルクロライドを30minかけて添加し、全量添加後、約2hの撹拌を行うことで、芳香族ポリアミドを重合した。得られた重合溶液を、酸クロライド全量に対して97モル%の炭酸リチウムおよび6モル%のジエタノールアミンにより中和することでポリマー溶液Bを得た。得られたポリマーの対数粘度ηは3.5dl/gであった。得られたポリマー溶液Bを用いた以外は、実施例1と同様にして二次電池を作製した。
【0074】
(実施例5)
セパレータの作製において、リチウム塩をトリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)に変更した以外は、実施例1と同様にして二次電池を作製した。
【0075】
(実施例6)
非水電解液を1,2-ジメトキシエタン(DME)に、1.0molのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)を溶解して混合液を作製し、その混合液100質量部に、更にビニレンカーボネート(VC)を2質量部加えた以外は実施例1と同様にして二次電池を作製した。
【0076】
(比較例1)
正極側電解液、負極側電解液ともに非水電解液に変更した以外は、実施例1と同様にして二次電池を作製した。
【0077】
(比較例2)
正極側電解液、負極側電解液ともに水系電解液に変更した以外は、実施例1と同様にして二次電池を作製したが、金属リチウムと水系電解液が反応し、電池として成立しなかった。
【0078】
(比較例3)
セパレータをセルロース製不織布(厚さ40μm、密度0.40g/cm3)とした以外は実施例1と同様にして二次電池を作製した。上記不織布は、再生セルロース繊維であるリヨセル繊維を100質量%用い、長網抄紙機で作製した。
【0079】
(比較例4)
セパレータの作製において、リチウム塩を含有しないポリマー溶液単体に変更した以外は、実施例3と同様にして二次電池を作製した。
【0080】
【0081】
表1から、実施例1、2、3、4、5は、非水電解液、水系電解液を含み、セパレータの物性における水の接触角が90°以上であり、本願発明範囲を満たしており、二次電池は良好なサイクル特性を示していた。
【0082】
一方、比較例1、2、3、4は、セパレータの物性における水の接触角が90°未満で、本願発明範囲から外れていたか、もしくは、電解液の溶媒組成が1種類であり、二次電池のサイクル特性が十分ではなかった。