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特許7691087衛星航法システムにおける補正情報の生成方法,補正情報を生成する情報処理装置及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-03
(45)【発行日】2025-06-11
(54)【発明の名称】衛星航法システムにおける補正情報の生成方法,補正情報を生成する情報処理装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01S 19/07 20100101AFI20250604BHJP
【FI】
G01S19/07
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2025076276
(22)【出願日】2025-05-01
【審査請求日】2025-05-01
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、権利譲渡・実施許諾の用意がある。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】723010371
【氏名又は名称】イエローテイル・ナビゲーション株式会社
(72)【発明者】
【氏名】坂井 丈泰
【審査官】東 治企
(56)【参考文献】
【文献】特許第7591242(JP,B1)
【文献】特許第7568249(JP,B1)
【文献】特開2024-065535(JP,A)
【文献】特開2000-314770(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 19/00-19/55
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測位信号を送信する複数の航法衛星と,
前記複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定するユーザ局と,
地上に固定された受信機により前記複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定し,各々の航法衛星ごとに距離の測定誤差に関する補正値を生成して,この補正値を前記複数の航法衛星についてまとめて補正情報として補正局に提供する基準局と,
前記基準局より得た補正情報を加工してユーザ局に提供する前記補正局を備える衛星航法システムにおいて,
前記補正局は,
前記複数の航法衛星の各々について,当該航法衛星の軌道情報を用いて前記基準局の位置において測定される距離の受信機時計誤差に対応する成分を除く推定値を計算し,これより当該航法衛星について提供された補正値を差し引くことで,基準局が当該航法衛星について測定した距離の情報を復元し,
この復元された距離情報を前記ユーザ局に提供することを特徴とする,衛星航法システムにおける補正情報の生成方法。
【請求項2】
測位信号を送信する複数の航法衛星と,
前記複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定するユーザ局と,
地上に固定された受信機により前記複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定し,各々の航法衛星ごとに距離の測定誤差に関する補正値を生成して,この補正値を前記複数の航法衛星についてまとめて補正情報として補正局に提供する複数の基準局と,
前記複数の基準局より得た補正情報を加工してユーザ局に提供する前記補正局を備える衛星航法システムにおいて,
前記補正局は,
前記複数の基準局及び前記複数の航法衛星の各々について,当該航法衛星の軌道情報を用いて当該基準局の位置において測定される距離の受信機時計誤差に対応する成分を除く推定値を計算し,これより当該航法衛星について提供された補正値を差し引くことで,当該基準局が当該航法衛星について測定した距離の情報を復元し,
この復元された距離情報を用いて,前記航法衛星の時計誤差及び位置誤差,電離圏伝搬遅延量並びに対流圏伝搬遅延量といった測位誤差の要因別に新たな補正情報を生成し,この新たな補正情報を前記ユーザ局に提供することを特徴とする,衛星航法システムにおける補正情報の生成方法。
【請求項3】
測位信号を送信する複数の航法衛星と,
前記複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定するユーザ局と,
地上に固定された受信機により前記複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定し,各々の航法衛星ごとに距離の測定誤差に関する補正値を生成して,この補正値を前記複数の航法衛星についてまとめて補正情報として補正局に提供する基準局と,
前記基準局より得た補正情報を加工してユーザ局に提供する前記補正局を備える衛星航法システムにおいて,
前記補正局にて動作する,
前記複数の航法衛星の各々について,当該航法衛星の軌道情報を用いて前記基準局の位置において測定される距離の受信機時計誤差に対応する成分を除く推定値を計算し,これより当該航法衛星について提供された補正値を差し引くことで,基準局が当該航法衛星について測定した距離の情報を復元し,
この復元された距離情報を前記ユーザ局に提供することを特徴とする,衛星航法システムにおける補正情報を生成する情報処理装置。
【請求項4】
測位信号を送信する複数の航法衛星と,
前記複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定するユーザ局と,
地上に固定された受信機により前記複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定し,各々の航法衛星ごとに距離の測定誤差に関する補正値を生成して,この補正値を前記複数の航法衛星についてまとめて補正情報として補正局に提供する複数の基準局と,
前記複数の基準局より得た補正情報を加工してユーザ局に提供する前記補正局を備える衛星航法システムにおいて,
前記補正局にて動作する,
前記複数の基準局及び前記複数の航法衛星の各々について,当該航法衛星の軌道情報を用いて当該基準局の位置において測定される距離の受信機時計誤差に対応する成分を除く推定値を計算し,これより当該航法衛星について提供された補正値を差し引くことで,当該基準局が当該航法衛星について測定した距離の情報を復元し,
この復元された距離情報を用いて,前記航法衛星の時計誤差及び位置誤差,電離圏伝搬遅延量並びに対流圏伝搬遅延量といった測位誤差の要因別に新たな補正情報を生成し,この新たな補正情報を前記ユーザ局に提供することを特徴とする,衛星航法システムにおける補正情報を生成する情報処理装置。
【請求項5】
測位信号を送信する複数の航法衛星と,
前記複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定するユーザ局と,
地上に固定された受信機により前記複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定し,各々の航法衛星ごとに距離の測定誤差に関する補正値を生成して,この補正値を前記複数の航法衛星についてまとめて補正情報として補正局に提供する基準局と,
前記基準局より得た補正情報を加工してユーザ局に提供する前記補正局を備える衛星航法システムにおいて,
前記補正局にて動作する,
前記複数の航法衛星の各々について,当該航法衛星の軌道情報を用いて前記基準局の位置において測定される距離の受信機時計誤差に対応する成分を除く推定値を計算し,これより当該航法衛星について提供された補正値を差し引くことで,基準局が当該航法衛星について測定した距離の情報を復元し,
この復元された距離情報を前記ユーザ局に提供することを特徴とする,衛星航法システムにおける補正情報を生成するプログラム。
【請求項6】
測位信号を送信する複数の航法衛星と,
前記複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定するユーザ局と,
地上に固定された受信機により前記複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定し,各々の航法衛星ごとに距離の測定誤差に関する補正値を生成して,この補正値を前記複数の航法衛星についてまとめて補正情報として補正局に提供する複数の基準局と,
前記複数の基準局より得た補正情報を加工してユーザ局に提供する前記補正局を備える衛星航法システムにおいて,
前記補正局にて動作する,
前記複数の基準局及び前記複数の航法衛星の各々について,当該航法衛星の軌道情報を用いて当該基準局の位置において測定される距離の受信機時計誤差に対応する成分を除く推定値を計算し,これより当該航法衛星について提供された補正値を差し引くことで,当該基準局が当該航法衛星について測定した距離の情報を復元し,
この復元された距離情報を用いて,前記航法衛星の時計誤差及び位置誤差,電離圏伝搬遅延量並びに対流圏伝搬遅延量といった測位誤差の要因別に新たな補正情報を生成し,この新たな補正情報を前記ユーザ局に提供することを特徴とする,衛星航法システムにおける補正情報を生成するプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,衛星航法システムにおける補正情報の生成方法,補正情報を生成する情報処理装置及びプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
人工衛星により位置を測定する衛星航法システムはGNSS(Global Navigation Satellite System)と総称され,その代表例は米国によるGPS(Global Positioning System)である。GNSSは一般に,航法衛星と呼ばれる人工衛星が送信する測位信号を受信機により受信し,航法衛星と受信機との間の距離を測定することで,受信機の位置を計算により求める。位置を求めるべき受信機を,ユーザ受信機あるいはユーザ局などと呼ぶ。求められた位置の真の位置に対する誤差を,測位誤差という。
【0003】
受信機の位置を計算するためには測位信号を送信している航法衛星の位置を知る必要があるが,このために必要な軌道情報は航法衛星自身が測位信号に重畳することで送信する。軌道情報は予測により作成されていることから,数メートル程度の誤差を含んでおり,これは受信機位置の計算の際に測位誤差の要因になる。
【0004】
航法衛星が測位信号を送信するタイミングはあらかじめ決まっており,航法衛星は自身が備える時計の時刻にもとづいて測位信号を送信する。この時計としては高精度な原子時計が使用されるが,ごくわずかな時刻のずれは避けられないため,ユーザ受信機は航法衛星の時計が指す時刻の情報を必要する。この情報は,送信機時計誤差として,航法衛星自身が軌道情報に含めて送信する。送信機時計誤差は予測により作成されていることから,これにより計算される測位信号の送信タイミングは距離に換算して数メートル程度までに相当する誤差を含んでおり,これは航法衛星の送信機時計誤差の推定誤差(単に時計誤差という)としてユーザ受信機の位置の計算の際に測位誤差の要因になる。
【0005】
測位信号が地上に到達するまでの間に,上空にある電離圏及び対流圏を通過するが,それぞれの領域を測位信号が通過する際に遅延が生じる。これらの遅延は,それぞれ電離圏伝搬遅延及び対流圏伝搬遅延と呼ばれ,測位信号が遅れて到着することから当該測位信号により測定される距離は本来より長くなり,いずれも測位誤差の要因になる。距離に換算した電離圏伝搬遅延及び対流圏伝搬遅延の大きさを,それぞれ電離圏伝搬遅延量及び対流圏遅延量という。
【0006】
航法衛星の時計誤差は,受信機の位置によらず一律に距離の測定誤差としてあらわれる。航法衛星の位置誤差は,受信機から航法衛星への視線方向との内積成分が距離の測定誤差としてあらわれる。電離圏伝搬遅延量は,航法衛星が送信した測距信号が受信機に到達するまでの経路上における電離圏の電子密度分布の積分が距離の測定誤差としてあらわれる。対流圏伝搬遅延量は,航法衛星が送信した測距信号が受信機に到達するまでの経路上における大気の屈折率の積分が距離の測定誤差としてあらわれる。すなわち,航法衛星の時計誤差以外は,いずれも受信機の位置により距離の測定誤差は異なってあらわれる。
【0007】
ところで,地上に固定された基準局に受信機を設置して,これにより測定した距離から,上述した距離の測定誤差に対する補正値を作成し,これを補正情報としてユーザに対して提供することで,ユーザ局において測定した距離を補正値により補正し,ユーザ局における位置の測定精度(「測位精度」と呼ぶ)を改善することが行われている。この方式はディファレンシャルGPS(DGPS:Differential GPS)と呼ばれる。個々の航法衛星に関して距離の測定誤差を補正する数値を補正値といい,複数の航法衛星に関する補正値の組を補正情報という。
【0008】
単にDGPSと称する場合,単一の基準局が生成した補正情報を提供することを意味するのが通常である。この個々の基準局によるDGPSは,後述のWADGPSと区別するために,LADGPS(Local Area DGPS)と呼ばれる場合がある。異なる位置にある基準局同士が生成するLADGPS補正情報は,それらの位置において各航法衛星に関する距離の測定誤差が異なってあらわれることにより,一般に互いに異なる。
【0009】
LADGPSの実用例としては,船舶向け中波ビーコンやFM多重ディジタル放送によるものがあったが,現在ではいずれも廃止された。一方,2018年に運用を開始した日本の準天頂衛星システムはSLAS(Submeter-Level Augmentation Service)としてLADGPSの補正情報を人工衛星から送信している。SLASサービスでは,単一の人工衛星からの信号を受信することで,日本全国に配置された13局の基準局における補正情報を一括して得られる特徴がある。SLASサービスを利用する受信機は,最寄りの基準局の補正情報を選択して利用することとされている。SLASサービスでは,ユーザ局については1周波数の測位信号に対応した受信機を備えるものとされている。
【0010】
ディファレンシャルGPSの方式には,上に述べた個々の基準局による方式のほかにも,多数の基準局の測定データを統合して広い地理的範囲で有効な広域補正情報を作成する広域ディファレンシャルGPS(WADGPS:Wide Area DGPS)と呼ばれる方式がある。この方式では,基準局が測定した距離を用いて,航法衛星の時計誤差,航法衛星の位置誤差,電離圏伝搬遅延量及び対流圏伝搬遅延量といった測位誤差の要因別に補正情報を生成し,ユーザ局に提供する。これらそれぞれの誤差要因は,ユーザ局の位置によって距離の測定誤差としてのあらわれ方が違ってくることから,ユーザ局においては自身の位置に応じて補正情報から自身が使用すべき補正値を計算して補正に使用する。
【0011】
WADGPSの実用例としては,航空機向けにSBAS(Satellite-Based Augmentation System)が規格化されている。SBAS規格では補正情報の伝送形式が定められており,航法衛星の時計誤差及び航法衛星の位置誤差,電離圏伝搬遅延といった測位誤差の要因別に補正情報を収容したうえで,人工衛星から送信する。なお,対流圏伝搬遅延については,対流圏伝搬遅延モデルにより十分な精度で補正できることから,SBAS規格の伝送形式には含まれず,補正情報を生成するマスタ局及び補正情報を利用するユーザ局の双方においてあらかじめ定められた対流圏伝搬遅延モデルを使用して補正する。
【0012】
SBASの一例としては,日本の航空局が運用しているMSAS(Michibiki-Based Satellite Augmentation System)が実用されている。他にも米国によるWAAS(Wide Area Augmentation System),欧州のEGNOS(European Geostationary Navigation Overlay Service),及びインドのGAGAN(GPS-Aided GEO-Augmented Navigation)があり,最近になって韓国がKASS(Korea Augmentation Satellite System)の運用を開始した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特許第7326650号
【文献】米国特許出願公開第2015/0301189号明細書
【非特許文献】
【0014】
【文献】坂井丈泰・惟村和宣著,「複数の基準局を用いた場合のDGPS測位精度」,電子情報通信学会技術研究報告,SANE99-44,1999年7月
【文献】坂井丈泰・惟村和宣著,「複数基準局の利用によるGPS測位精度の改善」,日本航海学会論文集,第101号,p.15~20,1999年9月
【文献】田中敏幸・川村景太著,「長基線基準局を用いたDGPSにおける測位精度改善」,測位航法学会論文誌,第1巻,第1号,p.1~8,2010年
【文献】坂井丈泰,福島荘之介,新井直樹,伊藤憲,「GPS広域補強システムのプロトタイプ評価」,電子情報通信学会論文誌,Vol.J89-B,No.7,p.1297~1306,2006年7月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の第一の課題を述べる。LADGPSとWADGPSのいずれであっても,DGPSサービスによりユーザ局に提供されるのは補正情報であって,基準局が測定した距離の情報ではない。ユーザ局は補正情報を適用することで測位精度の改善を期待できるが,補正情報を適用する手順はあらかじめ定められており,ユーザ局が独自の補正処理を実行する余地はない。
【0016】
近年における衛星航法技術の進展,特に電離圏伝搬遅延や対流圏伝搬遅延のモデル化精度の向上といった事情を鑑みると,ユーザ局において独自の補正処理を実行することにより測位性能を改善できる可能性がある。このためには,DGPSの補正情報ではなく,DGPSの基準局が測定した距離の情報を利用する必要がある。
【0017】
LADGPSの実用例としてSLASサービスがあり,13の基準局がそれぞれ個々に生成したLADGPS補正情報をユーザ局に提供している。これらの基準局が測定した距離の情報を利用できれば,ユーザ局において独自の補正処理を実行する余地がある。ただし,SLASサービスが提供するのは補正情報だけであるから,各基準局が測定した距離の情報は提供されず,ユーザ局において独自の補正処理を実行するのは不可能であった。
【0018】
SLASサービスの場合は複数の基準局による補正情報が得られることから,特許文献1及び非特許文献1~3の手法により,複数の基準局の補正情報を補間して用いることで測位精度を改善することが可能である。しかしながら,特許文献1及び非特許文献1~3のいずれにおいても,基準局が測定した距離の情報を復元する手法は述べられていない。
【0019】
特許文献2には,基準局が測定した距離測定値について,多項式により近似したうえで当該多項式の係数及び当該多項式からの残差として伝送する手法が説明されている。この手法により,距離測定値をそのまま伝送する場合に比べて伝送する情報量を低減できる可能性があるが,距離測定値の残差に加えて多項式の係数を伝送する必要がある。すなわち,この手法を利用しても,基準局が提供した補正情報だけから基準局が測定した距離の情報を復元することはできない。
【0020】
本発明の第二の課題を述べる。WADGPSでは,基準局が測定した距離を用いて,航法衛星の時計誤差,航法衛星の位置誤差,電離圏伝搬遅延量及び対流圏伝搬遅延量といった測位誤差の要因別に補正情報を生成する。このうち,航法衛星の時計誤差については,ユーザ局の位置によらない。また,対流圏伝搬遅延量については,対流圏伝搬遅延モデルにより十分な精度をもって補正できる。
【0021】
航法衛星の位置誤差及び電離圏伝搬遅延量については,いずれもユーザ局の位置により距離の測定誤差は異なってあらわれる。こうした特性を反映して補正情報を生成する必要があることから,WADGPSにおいては,一般にサービス範囲内に4以上,典型的には6以上の基準局を地理的に離して配置する構成となっている。
【0022】
ここで基準局の最小数である4は,航法衛星の時計誤差及び位置誤差をあわせた未知数の数に起因する。電離圏伝搬遅延量については個々の基準局がそれぞれ測定できるが,距離の測定誤差から航法衛星の時計誤差及び位置誤差を正しく分離して取り出すには,4個の未知数に対応して,4以上の基準局を必要とする。
【0023】
また,サービス範囲内で有効なWADGPSの補正情報を生成するためには,航法衛星の位置誤差及び電離圏伝搬遅延量について,基準局の位置によって距離の測定誤差としてのあらわれ方が違ってくることを利用して計算処理を行う。従って,この距離の測定誤差としてのあらわれ方に十分な差異を生じる程度に基準局を地理的に離す必要があり,一般的には,基準局間には500~1,000キロメートル程度の距離をもたせることが多い。こうしたWADGPS基準局の構成は,設置及び運用のうえでの負担が大きい。
【0024】
LADGPSの実用例としてSLASサービスがあり,13の基準局がそれぞれ生成したLADGPS補正情報をユーザ局に提供している。これらの基準局を利用できれば,WADGPSのための基準局を設置することなくWADGPSを構成できる。ただし,SLASサービスが提供するのは補正情報だけであるから,各基準局が測定した距離の情報は提供されず,WADGPSの基準局としては利用できなかった。
【0025】
SLASサービスの場合は複数の基準局による補正情報が得られることから,特許文献1及び非特許文献1~3の手法により,複数の基準局の補正情報を補間して用いることで測位精度を改善することが可能である。しかしながら,特許文献1及び非特許文献1~3のいずれにおいても,基準局が測定した距離の情報をWADGPSが利用可能となるように復元する手法は述べられていない。
【0026】
特許文献2については[0019]で説明した通りで,基準局が測定した距離測定値について,多項式により近似したうえで当該多項式の係数及び当該多項式からの残差として伝送する手法が説明されている。しかしながら,この手法を利用しても,基準局が提供した補正情報だけから基準局が測定した距離の情報を復元することはできず,従ってLADGPSの基準局を利用してWADGPSを構成することはできない。
【0027】
以上の通り,LADGPSにおいては基準局が測定した距離の情報がユーザ局に提供されないという第一の課題があり,またWADGPSにおいては既存のLADGPS基準局を利用できないという第二の課題があった。本発明の課題は,既存のLADGPSサービスにより提供されている補正情報を用いてこれらを解決することであり,LADGPSの基準局が測定した距離の情報をユーザ局に提供できるようにし,また,LADGPSの基準局を利用してWADGPSを構成できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明は,既存のLADGPSサービスにより提供されている補正情報を用いて上述の課題を解決する。上述の課題はいずれも基準局が測定した距離の情報を必要とするものであるから,既存のLADGPSサービスにより提供されている補正情報からLADGPSの基準局が測定した距離の情報を復元できれば,上述の課題を解決できる。
【0029】
すなわち,補正局において,既存のLADGPSサービスにより提供されている補正情報から基準局が測定した距離の情報を復元し,これをユーザ局に提供する。また,補正局において,既存のLADGPSサービスにより提供されている補正情報から複数の基準局が測定した距離の情報を復元し,これを用いてWADGPSの補正情報を生成することで,LADGPSの基準局を利用してWADGPSを構成する。補正局において多数の基準局が測定した距離の情報を用いてWADGPSの補正情報を生成する方法については,例えば非特許文献4に詳細に述べられている。
【0030】
LADGPSサービスが提供した補正情報から各基準局が測定した距離の情報を復元するために,まずLADGPSにおける補正値の性質について述べる。基準局をあらわす符号をrとすると,この基準局が航法衛星iについて測定する擬似距離は次のように書ける。ここで,R(i,r)は航法衛星iと基準局rの間の幾何学的距離,B(i)は航法衛星iの送信機時計誤差,I(i,r)は航法衛星iと基準局rの間における電離圏伝搬遅延,T(i,r)は航法衛星iと基準局rの間における対流圏伝搬遅延,S(r)は基準局rの受信機時計誤差である。
【0031】
(数1)
P(i,r)
=R(i,r)-B(i)+I(i,r)+T(i,r)+S(r)
【0032】
基準局rにおいては,航法衛星iの軌道情報を用いて,航法衛星iとの間で測定される距離の推定値を次式により求める。ここで,R’(i,r)は航法衛星iの軌道情報から計算される航法衛星iと基準局rの間の距離,B’(i)は航法衛星iの軌道情報から計算される航法衛星iの送信機時計誤差,S’(r)は,基準局rの受信機時計誤差の推定値である。
【0033】
(数2)
P’(i,r)
=R’(i,r)-B’(i)+S’(r)
【0034】
基準局rによる航法衛星iについての補正値C(i,r)は,(数2)から(数1)を差し引くことで次式のように得られる。ここで,航法衛星iの軌道情報に含まれる誤差に起因する距離の推定誤差をΔR(i,r)=R’(i,r)-R(i,r),航法衛星iの軌道情報に含まれる誤差に起因する送信機時計誤差をΔB(i)=B’(i)-B(i),基準局rの受信機時計誤差の推定誤差をΔS(r)=S’(r)-S(r)とする。
【0035】
(数3)
C(i,r)
=P’(i,r)-P(i,r)
=△R(i,r)-ΔB(i)-I(i,r)-T(i,r)+ΔS(r)
【0036】
一般に,ユーザ局が補正値を適用する際には,受信機時計誤差についてはユーザ局の位置の計算の過程で推定されるので,ΔS(r)については任意にオフセットしてよい。これは基準局rについての関数であり,航法衛星iについての関数ではないから,このことは,ある基準局がN機の衛星について生成した補正値は,その全てに任意の同一の値をオフセットしてよいことを意味する。このことを利用すると,I(i,r)及びT(i,r)が常に正になる性質の下でも,N個の補正値の絶対値の最大値を抑制できる。
【0037】
ユーザ局をあらわす符号をuとすると,ユーザ局uが測定する擬似距離は次式のように書ける。
【0038】
(数4)
P(i,u)
=R(i,u)-B(i)+I(i,u)+T(i,u)+S(u)
【0039】
ユーザ局uにおいては,補正値C(i,r)の提供を受け,これをユーザ局uが測定した擬似距離に加える。このとき,ユーザ局uと基準局rの間の距離が大きくなければ,航法衛星iの軌道情報に含まれる誤差に起因する距離の推定誤差ΔR(i,r)とΔR(i,u)はほぼ同じであり,電離圏伝搬遅延量I(i,u)とI(i,r)もほぼ同じであり,また対流圏伝搬遅延量T(i,u)とT(i,r)もほぼ同じとみなせるから,補正後の擬似距離は次のようになり,(数4)と比較すると電離圏伝搬遅延量及び対流圏伝搬遅延量が消去されることになる。これがDGPSの基本的な原理といえる。
【0040】
(数5)
P(i,u)+C(i,r)
=R(i,u)-B(i)+I(i,u)+T(i,u)+S(u)
+△R(i,r)-ΔB(i)-I(i,r)-T(i,r)+ΔS(r)
=R’(i,u)-B’(i)+S(u)+ΔS(r)
【0041】
ここで,航法衛星iとユーザ局uの間の幾何学的距離R(i,u)は航法衛星iの軌道情報から計算される航法衛星iとユーザ局uの間の距離R’(i,u)に,また航法衛星iの送信機時計誤差B(i)は航法衛星iの軌道情報から計算される送信機時計誤差B’(i)にそれぞれ置き換わっているが,ユーザ局uは自身の位置を航法衛星iの軌道情報から計算される航法衛星iの位置及び送信機時計誤差にもとづいて計算するのであるから,これにより航法衛星iの軌道情報に含まれる誤差の影響を受けることがなくなる。
【0042】
また,(数5)では,基準局rにおける受信機時計誤差に対応する成分ΔS(r)が補正後の擬似距離に残留することになるが,これは受信機時計誤差S(u)がS(u)+ΔS(r)に置き換わっているだけなので,ユーザ局uが位置を計算する過程でS(u)+ΔS(r)を受信機時計誤差として取り扱えば何ら問題なく位置を計算できる。
【0043】
補正局において,基準局から提供された補正値(数3)から当該基準局が測定した距離情報を復元することを考える。基準局rの位置が既知であれば,基準局rにおいて航法衛星iの軌道情報から計算される航法衛星iとの間で測定される距離の推定値は(数2)の通りであるが,これは基準局rにおける受信機時計誤差を含むから,補正局によっては計算できない。
【0044】
このため,(数2)の代わりに,基準局rにおける受信機時計誤差を含まない次式を用いる。
【0045】
(数6)
P’(i,r)-S’(r)
=R’(i,r)-B’(i)
【0046】
(数6)の右辺は基準局rの受信機時計誤差を含まないから,基準局rの位置及び航法衛星iの軌道情報から,補正局によって計算できる。補正局においては,この(数6)から補正値(数3)を差し引けば,次式の通り基準局rが測定した距離情報(数1)を復元できる。
【0047】
(数7)
P’(i,r)-S’(r)-C(i,r)
=R’(i,r)-B’(i)
-△R(i,r)+ΔB(i)+I(i,r)+T(i,r)-ΔS(r)
=P(i,r)-S’(r)
【0048】
ここで,基準局rにおける受信機時計誤差の推定値S’(r)が残留しているが,もともと基準局rにおける受信機時計誤差S(r)及びその推定値S’(r)はユーザ局にとっては未知であるから,S’(r)がどのような値であってもユーザ局にとっては同じことである。この観点から,(数7)により,ユーザ局にとっては必要十分な程度に基準局が測定した距離情報を復元できるのである。
【0049】
なお,特許文献2については[0019]で説明した通りであるが,当該文献の手法によれば,このS’(r)が残留することなく,基準局における受信機時計誤差を含むP(i,r)が復元される。本発明の方法では,特許文献2の手法における多項式の係数に相当する情報はないから,基準局における受信機時計誤差についてまでは復元されないのであるが,これはユーザ局にとっては必要十分である。
【0050】
この方法により,LADGPSサービスが提供した補正情報からLADGPSの基準局が測定した距離情報を復元することができる。復元された基準局が測定した距離の情報をユーザ局に提供することで,ユーザ局において当該距離情報を利用できる。また,複数の基準局を利用できるのであれば,非特許文献4に述べられている方法を利用して,この復元された距離情報を用いてWADGPSの補正情報を生成することで,LADGPSの基準局を利用してWADGPSを構成できる。
【0051】
請求項1に係る発明は,測位信号を送信する複数の航法衛星と,前記複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定するユーザ局と,地上に固定された受信機により前記複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定し,各々の航法衛星ごとに距離の測定誤差に関する補正値を生成して,この補正値を前記複数の航法衛星についてまとめて補正情報として補正局に提供する基準局と,前記基準局より得た補正情報を加工してユーザ局に提供する前記補正局を備える衛星航法システムにおいて,前記補正局は,前記複数の航法衛星の各々について,当該航法衛星の軌道情報を用いて前記基準局の位置において測定される距離の受信機時計誤差に対応する成分を除く推定値を計算し,これより当該航法衛星について提供された補正値を差し引くことで,基準局が当該航法衛星について測定した距離の情報を復元し,この復元された距離情報を前記ユーザ局に提供することを特徴とする,衛星航法システムにおける補正情報の生成方法である。
【0052】
請求項2に係る発明は,測位信号を送信する複数の航法衛星と,前記複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定するユーザ局と,地上に固定された受信機により前記複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定し,各々の航法衛星ごとに距離の測定誤差に関する補正値を生成して,この補正値を前記複数の航法衛星についてまとめて補正情報として補正局に提供する複数の基準局と,前記複数の基準局より得た補正情報を加工してユーザ局に提供する前記補正局を備える衛星航法システムにおいて,前記補正局は,前記複数の基準局及び前記複数の航法衛星の各々について,当該航法衛星の軌道情報を用いて当該基準局の位置において測定される距離の受信機時計誤差に対応する成分を除く推定値を計算し,これより当該航法衛星について提供された補正値を差し引くことで,当該基準局が当該航法衛星について測定した距離の情報を復元し,この復元された距離情報を用いて,前記航法衛星の時計誤差及び位置誤差,電離圏伝搬遅延量並びに対流圏伝搬遅延量といった測位誤差の要因別に新たな補正情報を生成し,この新たな補正情報を前記ユーザ局に提供することを特徴とする,衛星航法システムにおける補正情報の生成方法である。
【0053】
請求項3に係る発明は,測位信号を送信する複数の航法衛星と,前記複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定するユーザ局と,地上に固定された受信機により前記複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定し,各々の航法衛星ごとに距離の測定誤差に関する補正値を生成して,この補正値を前記複数の航法衛星についてまとめて補正情報として補正局に提供する基準局と,前記基準局より得た補正情報を加工してユーザ局に提供する前記補正局を備える衛星航法システムにおいて,前記補正局にて動作する,前記複数の航法衛星の各々について,当該航法衛星の軌道情報を用いて前記基準局の位置において測定される距離の受信機時計誤差に対応する成分を除く推定値を計算し,これより当該航法衛星について提供された補正値を差し引くことで,基準局が当該航法衛星について測定した距離の情報を復元し,この復元された距離情報を前記ユーザ局に提供することを特徴とする,衛星航法システムにおける補正情報を生成する情報処理装置である。
【0054】
請求項4に係る発明は,測位信号を送信する複数の航法衛星と,前記複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定するユーザ局と,地上に固定された受信機により前記複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定し,各々の航法衛星ごとに距離の測定誤差に関する補正値を生成して,この補正値を前記複数の航法衛星についてまとめて補正情報として補正局に提供する複数の基準局と,前記複数の基準局より得た補正情報を加工してユーザ局に提供する前記補正局を備える衛星航法システムにおいて,前記補正局にて動作する,前記複数の基準局及び前記複数の航法衛星の各々について,当該航法衛星の軌道情報を用いて当該基準局の位置において測定される距離の受信機時計誤差に対応する成分を除く推定値を計算し,これより当該航法衛星について提供された補正値を差し引くことで,当該基準局が当該航法衛星について測定した距離の情報を復元し,この復元された距離情報を用いて,前記航法衛星の時計誤差及び位置誤差,電離圏伝搬遅延量並びに対流圏伝搬遅延量といった測位誤差の要因別に新たな補正情報を生成し,この新たな補正情報を前記ユーザ局に提供することを特徴とする,衛星航法システムにおける補正情報を生成する情報処理装置である。
【0055】
請求項5に係る発明は,測位信号を送信する複数の航法衛星と,前記複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定するユーザ局と,地上に固定された受信機により前記複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定し,各々の航法衛星ごとに距離の測定誤差に関する補正値を生成して,この補正値を前記複数の航法衛星についてまとめて補正情報として補正局に提供する基準局と,前記基準局より得た補正情報を加工してユーザ局に提供する前記補正局を備える衛星航法システムにおいて,前記補正局にて動作する,前記複数の航法衛星の各々について,当該航法衛星の軌道情報を用いて前記基準局の位置において測定される距離の受信機時計誤差に対応する成分を除く推定値を計算し,これより当該航法衛星について提供された補正値を差し引くことで,基準局が当該航法衛星について測定した距離の情報を復元し,この復元された距離情報を前記ユーザ局に提供することを特徴とする,衛星航法システムにおける補正情報を生成するプログラムである。
【0056】
請求項6に係る発明は,測位信号を送信する複数の航法衛星と,前記複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定するユーザ局と,地上に固定された受信機により前記複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定し,各々の航法衛星ごとに距離の測定誤差に関する補正値を生成して,この補正値を前記複数の航法衛星についてまとめて補正情報として補正局に提供する複数の基準局と,前記複数の基準局より得た補正情報を加工してユーザ局に提供する前記補正局を備える衛星航法システムにおいて,前記補正局にて動作する,前記複数の基準局及び前記複数の航法衛星の各々について,当該航法衛星の軌道情報を用いて当該基準局の位置において測定される距離の受信機時計誤差に対応する成分を除く推定値を計算し,これより当該航法衛星について提供された補正値を差し引くことで,当該基準局が当該航法衛星について測定した距離の情報を復元し,この復元された距離情報を用いて,前記航法衛星の時計誤差及び位置誤差,電離圏伝搬遅延量並びに対流圏伝搬遅延量といった測位誤差の要因別に新たな補正情報を生成し,この新たな補正情報を前記ユーザ局に提供することを特徴とする,衛星航法システムにおける補正情報を生成するプログラムである。
【発明の効果】
【0057】
請求項1,3,5に係る発明は,上記のように構成したので,LADGPSの基準局が測定した距離の情報をユーザ局に提供できる。
【0058】
請求項2,4,6に係る発明は,上記のように構成したので,LADGPSの基準局を利用してWADGPSを構成できる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
図1】この発明の第一の実施例を示すもので,この発明の衛星航法システムにおける補正情報の生成方法を説明するための模式図である。
図2】この発明の第二の実施例を示すもので,この発明の衛星航法システムにおける補正情報の生成方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0060】
以下,本発明の具体的実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0061】
この発明の第一の実施例を,図1に基づいて詳細に説明する。この実施例は,請求項1,3,5に対応する。なお,図1には航法衛星を3機しか表示していないが,これは例示であり,4機以上による場合もあり得る。また,図1には1局の基準局を表示してあるが,これは例示であり,この実施例では1局以上の任意の局数の基準局による構成が可能である。
【0062】
航法衛星1(1a,1b・・・)は,それぞれ測位信号を送信する。
【0063】
ユーザ局2は,航法衛星1(1a,1b・・・)が送信した測位信号を受信して,各々の航法衛星からの距離を測定する。
【0064】
LADGPS基準局3は,航法衛星1(1a,1b・・・)が送信した測位信号を受信して,各々の航法衛星からの距離を測定し,当該航法衛星ごとに距離の測定誤差に関する補正値を生成し,これを補正情報4として補正局5に提供する機能を有する。
【0065】
補正局5は,航法衛星1(1a,1b・・・)の各々について,当該航法衛星の軌道情報を用いて基準局3の位置において測定される距離の受信機時計誤差に対応する成分を除く推定値を計算し,これより当該航法衛星について提供された補正値を差し引くことで,基準局3が当該航法衛星について測定した距離の情報を復元する。ここで復元される距離の情報は,基準局3による距離の測定値から基準局3の受信機時計誤差の推定値が減じられているものである。
【0066】
補正局5は,復元された距離情報6を,ユーザ局2に提供する。
【0067】
次に,作用動作について説明する。
【0068】
ユーザ局2は,補正局5が復元した,LADGPSサービスを提供している基準局3が測定した距離情報6を得る。この情報は,当該基準局が測定した距離の情報であり,当該基準局が生成した補正情報とは異なる。この情報は,基準局3による距離の測定値から基準局3の受信機時計誤差の推定値が減じられたものであるが,ユーザ局2にとってはもともと基準局3の受信機時計誤差は未知であるから,特に差支えない。
【0069】
ユーザ局2は,この距離情報6を使用して,自身が測定した航法衛星までの距離に対して,LADGPS基準局が補正値を生成するのとは異なる方法による独自の補正処理を実行できる。
【0070】
なお,この実施例では補正局5はユーザ局2とは別に設置されるものとしているが,ユーザ局2に補正局5の機能を内蔵させる構成も可能である。
【実施例2】
【0071】
この発明の第二の実施例を,図2に基づいて詳細に説明する。この実施例は,請求項2,4,6に対応する。なお,図2には航法衛星を3機しか表示していないが,これは例示であり,4機以上による場合もあり得る。また,図2には4局の基準局を表示してあるが,これは例示であり,この実施例では4局以上の任意の局数の基準局による構成が可能である。
【0072】
航法衛星1(1a,1b・・・)は,それぞれ測位信号を送信する。
【0073】
ユーザ局2は,航法衛星1(1a,1b・・・)が送信した測位信号を受信して,各々の航法衛星からの距離を測定する。
【0074】
LADGPS基準局3(3a,3b・・・)は,航法衛星1(1a,1b・・・)が送信した測位信号を受信して,各々の航法衛星からの距離を測定し,当該航法衛星ごとに距離の測定誤差に関する補正値を生成し,これを補正情報4(4a,4b・・・)として補正局5に提供する機能を有する。
【0075】
補正局5は,基準局3(3a,3b・・・)及び航法衛星1(1a,1b・・・)の各々について,当該航法衛星の軌道情報を用いて当該基準局の位置において測定される距離の受信機時計誤差に対応する成分を除く推定値を計算し,これより当該航法衛星について提供された補正値を差し引くことで,当該基準局が当該航法衛星について測定した距離の情報を復元する。ここで復元される距離の情報は,当該基準局による距離の測定値から当該基準局の受信機時計誤差の推定値が減じられているものである。
【0076】
補正局5は,この復元された距離情報を用いて,航法衛星1(1a,1b・・・)の時計誤差及び位置誤差,電離圏伝搬遅延量並びに対流圏伝搬遅延量といった測位誤差の要因別に新たな補正情報7を生成する。復元された距離情報は,基準局3(3a,3b・・・)による距離の測定値から当該基準局の受信機時計誤差の推定値が減じられたものであるが,補正局5にとってはもともと基準局(3a,3b・・・)の受信機時計誤差は未知であるから,特に差支えない。
【0077】
補正局5は,この新たな補正情報7をWADGPS補正情報としてユーザ局2に提供する。
【0078】
次に,作用動作について説明する。
【0079】
ユーザ局2は,補正局5から,WADGPS補正情報7を得る。この補正情報は,航法衛星1(1a,1b・・・)の時計誤差及び位置誤差,電離圏伝搬遅延量並びに対流圏伝搬遅延量といった測位誤差の要因別に生成されているから,ユーザ局がこの補正情報を適用することで,WADGPSの補正処理を実行することになる。
【0080】
ユーザ局2は,自身の位置に応じて,このWADGPS補正情報7から自身が使用すべき補正値を計算し,これを自身が測定した航法衛星までの距離に対して適用する。これにより,WADGPSの方法にて自身の位置に適合した補正処理を実行できる。
【0081】
なお,この実施例では補正局5はユーザ局2とは別に設置されるものとしているが,ユーザ局2に補正局5の機能を内蔵させる構成も可能である。
【産業上の利用可能性】
【0082】
この発明の衛星航法システムにおける補正情報の生成方法により,LADGPSにおいては基準局が測定した距離の情報がユーザ局に提供されず,またWADGPSにおいては既存のLADGPS基準局を利用できなかったところ,既存のLADGPSサービスにより提供されている補正情報から基準局が測定した距離の情報を復元することで,LADGPSの基準局が測定した距離の情報をユーザ局に提供でき,また,LADGPSの基準局を利用してWADGPSを構成できる。
【符号の説明】
【0083】
1(1a,1b・・・) 航法衛星
2 ユーザ局
3(3a,3b・・・) 基準局
4(4a,4b・・・) 基準局が生成した補正情報
5 補正局
6 距離情報
7 新たな補正情報
【要約】
【課題】 DGPSサービスにより提供されている補正情報から基準局が測定した距離の情報を復元する。
【解決手段】 米国によるGPSや日本の準天頂衛星システムを含む衛星航法システムにおいて,DGPSサービスによりユーザ局に提供されるのは通常は補正情報であって,基準局が測定した距離の情報ではないから,それら基準局が測定した距離の情報がユーザ局に提供されず,またWADGPS(広域DGPS)においては既存のDGPS基準局を利用できなかったところ,既存のDGPSサービスにより提供されている補正情報から基準局が測定した距離の情報を復元することで,DGPSの基準局が測定した距離の情報をユーザ局に提供できるようにし,また,DGPSの基準局を利用してWADGPSを構成できるようにする。
【選択図】 図1
図1
図2