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特許7691317検出方法、学習方法、推定方法、印刷方法、および検出装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-03
(45)【発行日】2025-06-11
(54)【発明の名称】検出方法、学習方法、推定方法、印刷方法、および検出装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20250604BHJP
【FI】
B41J2/01 203
B41J2/01 451
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021141421
(22)【出願日】2021-08-31
(65)【公開番号】P2023034928
(43)【公開日】2023-03-13
【審査請求日】2024-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】岡本 悟史
(72)【発明者】
【氏名】猿渡 健
(72)【発明者】
【氏名】中島 駿
(72)【発明者】
【氏名】木村 知玄
(72)【発明者】
【氏名】木村 崇也
【審査官】高松 大治
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-049741(JP,A)
【文献】特開2021-062565(JP,A)
【文献】特開2015-107572(JP,A)
【文献】国際公開第2017/183396(WO,A1)
【文献】特開2020-172084(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0191670(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第112829466(CN,A)
【文献】独国特許出願公開第102017101251(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺帯状の基材を長手方向に搬送しつつ、前記基材の表面にインクを吐出する印刷装置において、前記基材の2次元的な歪みの検出方法であって、
a)参照用入稿データを印刷したときの前記基材の歪みを示す第1歪みデータを取得する第1歪みデータ取得工程と、
b)評価用入稿データを印刷したときの前記基材の歪みを示す第2歪みデータを取得する第2歪みデータ取得工程と、
c)前記第1歪みデータと前記第2歪みデータとを前記長手方向にシフトさせつつ比較し、歪みが最も同期するシフト量を算出するシフト量算出工程と、
d)前記第2歪みデータと、前記シフト量に基づいてシフトされた前記第1歪みデータとの差分を取って補正データを取得するデータ補正工程と、
を含む、検出方法。
【請求項2】
請求項1に記載の検出方法であって、
前記工程a)および前記工程b)はそれぞれ、
p1)入稿データに基づいて前記基材に画像を印刷する工程と、
p2)工程p1)において印刷がなされた前記基材を撮像する工程と、
p3)工程p2)において撮像された撮影画像に基づいて歪みを算出する工程と、
を含み、
前記工程a)において前記入稿データは前記参照用入稿データであり、
前記工程b)において前記入稿データは前記評価用入稿データである、検出方法。
【請求項3】
請求項2に記載の検出方法であって、
前記参照用入稿データは、所定の間隔で配列された複数のマークのみを含む画像データであり、
前記評価用入稿データは、
前記参照用入稿データと同じ間隔で配列された複数の前記マークと、
評価用の絵柄または文字と、
を含む画像データであり、
前記工程p3)において、前記撮影画像における前記基材上の前記マークの位置に基づいて、歪みを算出する、検出方法。
【請求項4】
請求項3に記載の検出方法であって、
前記マークは、
第1の色で形成されたベース図形と、
前記ベース図形と重なる位置に、前記第1の色とは異なる第2の色で形成されたマーク図形と、
を含む、検出方法。
【請求項5】
請求項4に記載の検出方法であって、
前記第1の色は、インクの吐出を必要としない白色であり、
前記第2の色は、黒色である、検出方法。
【請求項6】
請求項3から請求項5までのいずれか1項に記載の検出方法であって、
前記工程p3)において、隣り合う前記マークの間隔の変化に基づいて歪みを算出する、検出方法。
【請求項7】
請求項3から請求項5までのいずれか1項に記載の検出方法であって、
前記工程p3)において、前記マークの変位量に基づいて歪みを算出する、検出方法。
【請求項8】
請求項3から請求項7までのいずれか1項に記載の検出方法であって、
前記評価用の絵柄または文字は、濃度値または印字率が異なる複数の領域を含む、検出方法。
【請求項9】
機械学習により、前記基材の歪みを推定可能な推定モデルを生成する学習方法であって、
x1)請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載の検出方法の各工程と、
x2)前記評価用入稿データを入力変数とし、前記補正データを教師データとして、機械学習により、前記基材の歪みを推定可能な推定モデルを生成する学習工程と、
を含む、学習方法。
【請求項10】
長尺帯状の基材を長手方向に搬送しつつ、基材の表面にインクを吐出する印刷装置において、基材の歪みを推定する推定方法であって、
y1)請求項9に記載の学習方法の各工程と、
y2)印刷すべき画像データである印刷用入稿データを取得するデータ取得工程と、
y3)前記印刷用入稿データの印刷よりも前に、前記印刷用入稿データに基づいて、インクによる基材の歪みを示す推定結果を出力する推定工程と、
を含み、
前記工程y3)では、前記工程y1)において生成された前記推定モデルに前記印刷用入稿データを入力し、前記推定モデルから出力される歪みを、前記推定結果とする、推定方法。
【請求項11】
長尺帯状の基材を長手方向に搬送しつつ、基材の表面にインクを吐出する印刷装置において、基材に画像を印刷する印刷方法であって、
z1)請求項10に記載の推定方法の各工程と、
z2)前記推定結果に基づいて前記基材に対するインクの吐出位置を補正しつつ、前記基材の表面にインクを吐出する印刷工程と、
を実行する、印刷方法。
【請求項12】
長尺帯状の基材を長手方向に搬送しつつ、前記基材の表面にインクを吐出する印刷装置において、前記基材の2次元的な歪みの検出装置であって、
参照用入稿データに対する前記基材の歪みを示す第1歪みデータを取得する第1歪みデータ取得部と、
評価用入稿データに対する前記基材の歪みを示す第2歪みデータを取得する第2歪みデータ取得部と、
前記第1歪みデータと前記第2歪みデータとを前記長手方向にシフトさせつつ比較し、歪みが最も同期するシフト量を算出するシフト量算出部と、
前記第2歪みデータと、前記シフト量に基づいてシフトされた前記第1歪みデータとの差分を取って補正データを取得するデータ補正部と、
を有する、検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺帯状の基材を長手方向に搬送しつつ、基材の表面にインクを吐出する印刷装置において、基材の歪みを検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、長尺帯状の基材を長手方向に搬送しつつ、複数のヘッドからインクを吐出することにより、基材に画像を印刷するインクジェット方式の印刷装置が知られている。インクジェット方式の印刷装置は、複数のヘッドから、それぞれ異なる色のインクを吐出する。そして、各色のインクにより形成される単色画像の重ね合わせによって、基材の表面に多色画像を印刷する。従来の印刷装置については、例えば特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-268361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の印刷装置では、基材がインクを吸収する時、または、基材上のインクが乾燥する時に、基材が僅かに伸縮する。その結果、基材の表面に形成される印刷画像に、歪みが生じる。このような基材の伸縮により、複数のヘッドから吐出されるインクの位置がずれる場合がある。基材の伸縮による印刷品質の低下をなるべく抑えるためには、基材の伸縮による基材の歪みを把握する必要がある。
【0005】
しかしながら、基材の歪みは、インクによる基材の伸縮に起因する非周期的な歪み成分だけでなく、搬送機構の構造等の他の要因によって生じる周期的な歪み成分も含む。このため、より正確に基材の歪みを把握するためには、非周期的な歪み成分と、周期的な歪み成分とを分離して検出する必要がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、基材の歪みを、周期的な成分と非周期的な成分とに分離して検出できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本願の第1発明は、長尺帯状の基材を長手方向に搬送しつつ、前記基材の表面にインクを吐出する印刷装置において、前記基材の2次元的な歪みの検出方法であって、a)参照用入稿データを印刷したときの前記基材の歪みを示す第1歪みデータを取得する第1歪みデータ取得工程と、b)評価用入稿データを印刷したときの前記基材の歪みを示す第2歪みデータを取得する第2歪みデータ取得工程と、c)前記第1歪みデータと前記第2歪みデータとを前記長手方向にシフトさせつつ比較し、歪みが最も同期するシフト量を算出するシフト量算出工程と、d)前記第2歪みデータと、前記シフト量に基づいてシフトされた前記第1歪みデータとの差分を取って補正データを取得するデータ補正工程と、を含む。
【0008】
本願の第2発明は、第1発明の検出方法であって、前記工程a)および前記工程b)はそれぞれ、p1)入稿データに基づいて前記基材に画像を印刷する工程と、p2)工程p1)において印刷がなされた前記基材を撮像する工程と、p3)工程p2)において撮像された撮影画像に基づいて歪みを算出する工程と、を含み、前記工程a)において前記入稿データは前記参照用入稿データであり、前記工程b)において前記入稿データは前記評価用入稿データである。
【0009】
本願の第3発明は、第2発明の検出方法であって、前記参照用入稿データは、所定の間隔で配列された複数のマークのみを含む画像データであり、前記評価用入稿データは、前記参照用入稿データと同じ間隔で配列された複数の前記マークと、評価用の絵柄または文字と、を含む画像データであり、前記工程p3)において、前記撮影画像における前記基材上の前記マークの位置に基づいて、歪みを算出する。
【0010】
本願の第4発明は、第3発明の検出方法であって、前記マークは、第1の色で形成されたベース図形と、前記ベース図形と重なる位置に、前記第1の色とは異なる第2の色で形成されたマーク図形と、を含む。
【0011】
本願の第5発明は、第4発明の検出方法であって、前記第1の色は、インクの吐出を必要としない白色であり、前記第2の色は、黒色である。
【0012】
本願の第6発明は、第3発明から第5発明までのいずれかの検出方法であって、前記工程p3)において、隣り合う前記マークの間隔の変化に基づいて歪みを算出する。
【0013】
本願の第7発明は、第3発明から第5発明までのいずれかの検出方法であって、前記工程p3)において、前記マークの変位量に基づいて歪みを算出する。
【0014】
本願の第8発明は、第3発明から第7発明までのいずれかの検出方法であって、前記評価用の絵柄または文字は、濃度値または印字率が異なる複数の領域を含む。
【0015】
本願の第9発明は、機械学習により、前記基材の歪みを推定可能な推定モデルを生成する学習方法であって、x1)第1発明から第8発明までのいずれかの検出方法の各工程と、x2)前記評価用入稿データを入力変数とし、前記補正データを教師データとして、機械学習により、前記基材の歪みを推定可能な推定モデルを生成する学習工程と、を含む。
【0016】
本願の第10発明は、長尺帯状の基材を長手方向に搬送しつつ、基材の表面にインクを吐出する印刷装置において、基材の歪みを推定する推定方法であって、y1)第9発明の学習方法の各工程と、y2)印刷すべき画像データである印刷用入稿データを取得するデータ取得工程と、y3)前記印刷用入稿データの印刷よりも前に、前記印刷用入稿データに基づいて、インクによる基材の歪みを示す推定結果を出力する推定工程と、を含み、前記工程y3)では、前記工程y1)において生成された前記推定モデルに前記印刷用入稿データを入力し、前記推定モデルから出力される歪みを、前記推定結果とする、推定方法。
【0017】
本願の第11発明は、長尺帯状の基材を長手方向に搬送しつつ、基材の表面にインクを吐出する印刷装置において、基材に画像を印刷する印刷方法であって、z1)第10発明の推定方法の各工程と、z2)前記推定結果に基づいて前記基材に対するインクの吐出位置を補正しつつ、前記基材の表面にインクを吐出する印刷工程と、を実行する。
【0018】
本願の第12発明は、長尺帯状の基材を長手方向に搬送しつつ、前記基材の表面にインクを吐出する印刷装置において、前記基材の2次元的な歪みの検出装置であって、参照用入稿データに対する前記基材の歪みを示す第1歪みデータを取得する第1歪みデータ取得部と、評価用入稿データに対する前記基材の歪みを示す第2歪みデータを取得する第2歪みデータ取得部と、前記第1歪みデータと前記第2歪みデータとを前記長手方向にシフトさせつつ比較し、歪みが最も同期するシフト量を算出するシフト量算出部と、前記第2歪みデータと、前記シフト量に基づいてシフトされた前記第1歪みデータとの差分を取って補正データを取得するデータ補正部と、を有する。
【発明の効果】
【0019】
本願の第1発明~第12発明によれば、基材の歪みを、周期的な成分と非周期的な成分とに分離して検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】印刷装置の構成を示した図である。
図2】印刷部の付近における印刷装置の部分上面図である。
図3】コンピュータと印刷装置の各部との接続を示したブロック図である。
図4】コンピュータの機能を概念的に示したブロック図である。
図5】歪み検出部の機能を概念的に示したブロック図である。
図6】歪み検出処理の流れを示したフローチャートである。
図7】参照用入稿データの例を示した図である。
図8】評価用入稿データの例を示した図である。
図9】評価用入稿データの一部分の拡大図である。
図10】基材の歪みの計測方法の一例を示した図である。
図11】基材の歪みの計測方法の他の例を示した図である。
図12】シフト量を算出する際の様子を概念的に示した図である。
図13】学習処理の流れを示したフローチャートである。
図14】印刷処理の流れを示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0022】
<1.印刷装置の構成>
図1は、本発明の一実施形態に係る印刷装置1の構成を示した図である。この印刷装置1は、長尺帯状の基材9を搬送しつつ、複数のヘッド21~24から基材9へ向けてインクの液滴を吐出することにより、基材9の表面に画像を印刷する装置である。基材9は、印刷用紙であってもよく、あるいは、樹脂製のフィルムであってもよい。また、基材9は、金属箔や、ガラス製の基材であってもよい。図1に示すように、印刷装置1は、搬送機構10、印刷部20、乾燥部30、カメラ40、およびコンピュータ50を備えている。
【0023】
搬送機構10は、基材9をその長手方向に沿う搬送方向に搬送する機構である。本実施形態の搬送機構10は、巻き出し部11、複数の搬送ローラ12、および巻き取り部13を有する。基材9は、巻き出し部11から繰り出され、複数の搬送ローラ12により構成される搬送経路に沿って搬送される。各搬送ローラ12は、搬送方向に対して垂直な方向に延びる軸を中心として回転することにより、基材9を搬送経路の下流側へ案内する。搬送後の基材9は、巻き取り部13へ回収される。また、基材9には、搬送方向の張力が掛けられている。これにより、搬送中における基材9の弛みや皺が抑制される。
【0024】
印刷部20は、搬送機構10により搬送される基材9に対して、インクの液滴(以下「インク滴」と称する)を吐出する処理部である。本実施形態の印刷部20は、第1ヘッド21、第2ヘッド22、第3ヘッド23、および第4ヘッド24を有する。第1ヘッド21、第2ヘッド22、第3ヘッド23、および第4ヘッド24は、基材9の搬送方向に沿って、間隔をあけて配列されている。基材9は、4つのヘッド21~24の下方を、印刷面を上方に向けた状態で搬送される。
【0025】
図2は、印刷部20の付近における印刷装置1の部分上面図である。図2中に破線で示したように、各ヘッド21~24の下面には、基材9の幅方向と平行に配列された複数のノズル201が設けられている。各ヘッド21~24は、複数のノズル201から基材9の上面へ向けて、多色画像の色成分となるK(ブラック)、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)の各色のインク滴を、それぞれ吐出する。
【0026】
すなわち、第1ヘッド21は、搬送経路上の所定の位置において、基材9の上面に、K色のインク滴を吐出する。第2ヘッド22は、第1ヘッド21の吐出位置よりも下流側において、基材9の上面に、C色のインク滴を吐出する。第3ヘッド23は、第2ヘッド22の吐出位置よりも下流側において、基材9の上面に、M色のインク滴を吐出する。第4ヘッド24は、第3ヘッド23の吐出位置よりも下流側において、基材9の上面に、Y色のインク滴を吐出する。
【0027】
乾燥部30は、ヘッド21~24の搬送方向下流側に配置される。乾燥部30は、基材9へ向けて加熱された気体を吹き付けて、基材9に付着したインクを乾燥させる。これにより、インクが基材9上に定着する。なお、本実施形態の乾燥部30は、基材9の上面側から加熱された気体を吹き付けるものである。しかしながら、乾燥部30に代えて、基材9の下面側に接触する加熱ローラ等の、その他の乾燥機構が用いられてもよい。
【0028】
カメラ40は、印刷部20を通過した基材9の印刷面を撮影する撮像装置である。カメラ40は、乾燥部30の搬送方向下流側に配置される。カメラ40は、4つのヘッド21~24よりも搬送経路の下流側において、基材9の印刷面に対向して配置される。カメラ40には、例えば、CCDやCMOS等の撮像素子が、幅方向に複数配列されたラインセンサが使用される。カメラ40は、基材9の印刷面を撮影することにより、撮影画像を取得する。そして、カメラ40は、得られた撮影画像を、コンピュータ50へ送信する。
【0029】
コンピュータ50は、印刷装置1を制御するための情報処理装置である。図3は、コンピュータ50と、印刷装置1の各部との接続を示したブロック図である。図3中に概念的に示したように、コンピュータ50は、CPU等のプロセッサ501、RAM等のメモリ502、およびハードディスクドライブ等の記憶部503を有する。記憶部503には、後述する学習処理および印刷処理を実行するためのコンピュータプログラムPが、記憶されている。
【0030】
図3に示すように、コンピュータ50は、上述した搬送機構10、4つのヘッド21~24、乾燥部30、およびカメラ40と、それぞれ通信可能に接続されている。また、コンピュータ50は、外部記憶装置であるサーバ2と、通信可能に接続されている。サーバ2には、参照用入稿データD1、評価用入稿データD2、および印刷用入稿データD3が記憶されている。これらの入稿データD1,D2,D3は、印刷装置1において基材9に対してどのような印刷をするかを示した画像データである。参照用入稿データD1および評価用入稿データD2は、後述する推定モデルMを学習させるために用いられる。また、印刷用入稿データD3は、製品としての印刷物を得るために、印刷装置1において印刷すべき画像データである。
【0031】
コンピュータ50は、サーバ2から入稿データD1~D3を取得し、当該入稿データD1に基づいて、搬送機構10および4つのヘッド21~24を動作制御する。これにより、印刷装置1における印刷処理が進行する。
【0032】
<2.コンピュータの機能について>
この印刷装置1では、4つのヘッド21~24が、インク滴を吐出することによって、基材9の上面に、それぞれ単色画像を印刷する。そして、4つの単色画像の重ね合わせにより、基材9の上面に、多色画像が形成される。したがって、仮に、4つのヘッド21~24から吐出されるインク滴の基材9上における位置が相互にずれていると、印刷物の画像品質が低下する。このような、基材9上における単色画像の相互の位置ずれ(見当ずれ)を許容範囲内に抑えることが、高品質な印刷物を得るための重要な要素となる。
【0033】
吐出されたインクが基材9に吸収されるとき、または、基材9上のインクが乾燥するときには、基材9が不均一に伸縮する。このような基材9の伸縮が生じると、印刷面に形成される印刷画像が歪む。また、基材9の伸縮が生じると、上記の見当ずれも生じやすくなる。例えば、1つめのヘッド21で吐出されたインクによって基材9に伸縮が生じて基材9が歪むと、1つめのヘッド21におけるインク滴の着弾位置と、2つめ以降のヘッド22~24におけるインク滴の着弾位置がずれる。これにより、見当ずれが生じる。
【0034】
ここで、印刷対象となる画像毎に各色のインクの吐出密度が異なるとともに、1つの画像の中にインクの吐出密度の低い領域と高い領域とが存在する場合がある。このため、どのような画像を印刷するかによって基材9にどのような歪みが生じるのかが異なってくる。そこで、印刷前に見当ずれを予測するために、印刷対象となる画像の入稿データに基づいて、基材9の歪みを印刷前に推定するために、入稿データと基材9の歪みとの関係を学習した推定モデルを作成することが好ましい。そのためには、入稿データと基材9の歪みとの関係を学習させるための学習データを用意する必要がある。
【0035】
一方、印刷装置1のように搬送機構10を有する印刷装置では、基材9に、インクの吸収・乾燥に起因する基材9の非周期的な歪みの他に、搬送機構10における各部の製造誤差、組み立て誤差や駆動時の振動等に起因する周期的な歪みが発生する。このため、推定モデル作成用の学習データを取得しようとすると、当該学習データに非周期的な歪みだけでなく周期的な歪みが重畳されるため、入稿データと基材9の非周期的な歪みとの正確な対応を学習することが困難となる。
【0036】
そこで、この印刷装置1のコンピュータ50は、参照用入稿データD1と評価用入稿データD2とのそれぞれについて基材9の歪みを検出して比較することにより、学習処理に使用される学習用データD8を取得する。また、コンピュータ50は、学習用データD8を用いて、入稿データから基材9の伸縮状態を印刷前に推定するための推定モデルを作成する。そして、コンピュータ50は、入稿データに基づいて、基材9の伸縮状態を印刷前に推定し、その推定結果を利用して、インク滴の吐出位置を補正しつつ印刷を行う機能を有する。図4は、コンピュータ50の当該機能を、概念的に示したブロック図である。
【0037】
図4に示すように、コンピュータ50は、入稿データ取得部51、歪み計測部52、データ補正部53、学習部54、推定部55、補正値算出部56、および動作制御部57を有する。入稿データ取得部51、歪み計測部52、データ補正部53、学習部54、推定部55、補正値算出部56、および動作制御部57の各機能は、コンピュータ50のプロセッサ501が、コンピュータプログラムPに従って動作することにより、実現される。
【0038】
入稿データ取得部51は、参照用入稿データD1、評価用入稿データD2、および印刷用入稿データD3を取得するための処理部である。入稿データ取得部51は、サーバ2から参照用入稿データD1、評価用入稿データD2、および印刷用入稿データD3を読み出す。そして、入稿データ取得部51は、読み出した参照用入稿データD1を、歪み計測部52および動作制御部57へ引き渡す。入稿データ取得部51は、読み出した評価用入稿データD2を、学習部54および動作制御部57へ引き渡す。また、入稿データ取得部51は、読み出した印刷用入稿データD3を、推定部55および動作制御部57へ引き渡す。
【0039】
歪み計測部52は、カメラ40から送信される第1撮影画像D4および第2撮影画像D5に基づいて、基材9の2次元的な歪みを計測するための処理部である。歪み計測部52は、計測された基材9の第1歪みデータD6および第2歪みデータD7を、データ補正部53へ入力する。
【0040】
データ補正部53は、第2歪みデータD7を第1歪みデータD6を用いて補正し、学習用データD8を得るための処理部である。データ補正部53は、得られた学習用データD8を、学習部54へ入力する。
【0041】
歪み計測部52およびデータ補正部53は、評価用入稿データD2についての歪みデータ(第2歪みデータD7)を補正し、評価用入稿データD2についての基材9の非周期的な2次元的な歪み(学習用データD8)を検出する歪み検出部60を構成する。歪み検出部60の機能については、後述する。
【0042】
学習部54は、画像データと、その画像データを印刷したときの基材9の非周期的な歪みとの関係を学習するための処理部である。この印刷装置1は、製品となる印刷物を得るための印刷用入稿データD3の印刷よりも前に、学習部54による学習処理を行う。
【0043】
学習処理時には、学習部54には、評価用入稿データD2と、学習用データD8とが入力される。上述の通り、学習用データD8は、評価用入稿データD2についての基材9の非周期的な歪みを検出したものである。学習部54は、評価用入稿データD2を入力変数とし、歪み検出部60において検出された学習用データD8を教師データとして、教師あり機械学習アルゴリズムにより、学習処理を行う。学習部54は、このような学習処理を、所定の終了条件を満たすまで繰り返す。これにより、学習部54は、入力された画像データに基づいて、基材9の非周期的な歪みを示す推定結果を出力できる推定モデルMを生成する。学習処理の詳細については、後述する。
【0044】
学習部54は、機械学習アルゴリズムとして、例えば、ディープラーニング(多層ニューラルネットワーク)を使用する。ただし、学習部54が使用する機械学習アルゴリズムは、ディープラーニングに限定されるものではない。ディープラーニングに代えて、マルコフ確率場(MRF)やボルツマンマシンなど他の機械学習アルゴリズムを使用してもよい。
【0045】
推定部55は、印刷用入稿データD3に基づいて、その印刷用入稿データD3を印刷したときの基材9の非周期的な歪みを推定するための処理部である。推定部55は、学習部54により生成された推定モデルMを使用して、推定処理を行う。推定部55は、入稿データ取得部51が取得した印刷用入稿データD3を、推定モデルMへ入力する。すると、推定モデルMから、印刷用入稿データD3に対応する基材9の歪みが出力される。推定部55は、この推定モデルMから出力された歪みを、推定結果D9とする。
【0046】
補正値算出部56は、推定結果D9に基づいて、補正値D10を算出するための処理部である。補正値算出部56は、推定結果D9が示す基材9の2次元的な歪みをキャンセルする方向の補正値D10を算出する。算出された補正値D10は、動作制御部57へ入力される。
【0047】
動作制御部57は、搬送機構10および4つのヘッド21~24を動作制御するための処理部である。
【0048】
学習部54による学習処理を行う前に、歪み検出部60において学習用データD8を作成する際には、動作制御部57には、参照用入稿データD1および評価用入稿データD2が入力される。そして、動作制御部57は、これらの入稿データD1,D2に基づく指令値を、搬送機構10および4つのヘッド21~24へ出力する。これにより、搬送機構10および4つのヘッド21~24を動作させて、基材9の印刷面に参照用入稿データD1および評価用入稿データD2の画像を印刷する。このとき、カメラ40が、印刷後の基材9を撮影することにより、第1撮影画像D4および第2撮影画像D5を取得する。
【0049】
一方、印刷用入稿データD3を印刷する場合には、動作制御部57は、印刷用入稿データD3に基づく指令値を、補正値D10により補正する。そして、動作制御部57は、補正後の指令値を、搬送機構10および4つのヘッド21~24へ出力する。これにより、搬送機構10および4つのヘッド21~24を動作させて、基材9の印刷面に印刷用入稿データD3の画像を印刷する。
【0050】
<3.歪み検出処理について>
次に、歪み検出部60の構成および歪み検出部60において実行される歪み検出処理について、説明する。本実施形態の歪み検出装置は、歪み検出部60を有するコンピュータ50によって構成される。図5は、歪み検出部60の機能を概念的に示したブロック図である。
【0051】
図4および図5に示すように、歪み検出部60は、上述の歪み計測部52およびデータ補正部53を有する。また、図5に示すように、歪み計測部52は、第1歪みデータ取得部61と、第2歪みデータ取得部62とを有する。データ補正部53は、シフト量算出部63と、差分処理部64とを有する。
【0052】
第1歪みデータ取得部61には、入稿データ取得部51から参照用入稿データD1が入力されるとともに、カメラ40から第1撮影画像D4が入力される。第1撮影画像D4は、参照用入稿データD1を印刷装置1において基材9に印刷したものを、カメラ40が撮影した画像である。第1歪みデータ取得部61は、参照用入稿データD1および第1撮影画像D4に基づいて、第1撮影画像D4に映された基材9の2次元的な歪みを算出し、第1歪みデータD6を取得する。歪みの算出方法については、後述する。
【0053】
第2歪みデータ取得部62には、入稿データ取得部51から参照用入稿データD1が入力されるとともに、カメラ40から第2撮影画像D5が入力される。第2撮影画像D5は、評価用入稿データD2を印刷装置1において基材9に印刷したものを、カメラ40が撮影した画像である。第2歪みデータ取得部62は、参照用入稿データD1および第2撮影画像D5に基づいて、第2撮影画像D5に映された基材9の2次元的な歪みを算出し、第2歪みデータD7を取得する。歪みの算出方法については、後述する。
【0054】
シフト量算出部63には、第1歪みデータ取得部61から第1歪みデータD6が入力されるとともに、第2歪みデータ取得部62から第2歪みデータD7が入力される。シフト量算出部63は、第1歪みデータD6と第2歪みデータD7とを、搬送方向(基材9の長手方向)にシフトさせつつ比較して、第1歪みデータD6と第2歪みデータD7との歪みが最も同期するシフト量DSを算出する。当該シフト量DSの算出方法については、後述する。
【0055】
差分処理部64は、第2歪みデータD7と、シフト量算出部63から入力されたシフト量DSに基づいてシフトされた第1歪みデータD6との差分を取ることにより、補正データである学習用データD8を取得する。
【0056】
図6は、歪み検出部60における歪み検出処理の流れを示したフローチャートである。この歪み検出処理は、学習部54において行われる学習処理よりも前に実行される。
【0057】
図6に示すように、歪み検出処理を行うときには、まず、入稿データ取得部51が、サーバ2から参照用入稿データD1および評価用入稿データD2を読み出す。これにより、入稿データ取得部51は、参照用入稿データD1および評価用入稿データD2を取得する(ステップS11)。そして、入稿データ取得部51は、参照用入稿データD1を動作制御部57と歪み計測部52とに入力する。
【0058】
図7は、参照用入稿データD1の例を誇張して示した図である。図8は、図7の例の参照用入稿データD1に対応した評価用入稿データD2の例を示した図である。図7および図8に示すように、参照用入稿データD1と、各評価用入稿データD2とには、それぞれ、複数のグリッドマーク90が組み込まれている。
【0059】
参照用入稿データD1は、所定の間隔を空けて配列された複数のグリッドマーク90のみを含む画像データである。参照用入稿データD1において、複数のグリッドマーク90は、搬送方向および幅方向に、所定の間隔で配列される。なお、図7および図8の例では、理解容易のため、入稿データD1,D2の大きさに対してグリッドマーク90が大きく表示されているとともに、グリッドマーク90の数が少なく(密度が小さく)表示されている。
【0060】
評価用入稿データD2は、参照用入稿データD1と同じ間隔で配列された複数のグリッドマーク90と、パターン91とを含む画像データである。パターン91は、歪みを評価するための評価用の絵柄または文字である。複数の評価用入稿データD2は、互いに異なるパターン91を有するものを用いる。
【0061】
評価用入稿データD2は、後に基材9の歪みを学習するために用いられる。基材9の伸縮量は、基材9に吐出されるインクの量により異なる。このため、評価用入稿データD2の少なくとも一部について、パターン91は、濃度値または印字率が異なる複数の領域を含む画像であることが望ましい。これにより、濃度値または印字率に応じた基材9の伸縮量を学習することができる。
【0062】
グリッドマーク90は、参照用入稿データD1および評価用入稿データD2内の所定の座標位置を示すマークである。グリッドマーク90は、参照用入稿データD1および評価用入稿データD2の全体に亘って配列されている。また、複数のグリッドマーク90は、基材9の搬送方向および幅方向に沿って、互いに間隔をあけて配列されている。また、評価用入稿データD2において、複数のグリッドマーク90は、パターン91よりも前面側に配置されている。
【0063】
図9は、評価用入稿データD2の一部分の拡大図である。図9の上側の領域では、黒色で塗り潰されたパターン91aの中にグリッドマーク90が配置されている。また、図9の下側の領域では、白色で塗り潰されたパターン91bの中にグリッドマーク90が配置されている。
【0064】
図9に示すように、本実施形態のグリッドマーク90は、ベース図形901とマーク図形902とで構成されている。ベース図形901は、白色に塗り潰された矩形の図形である。白色とは、濃度値0%であり、インクの吐出を必要としない色である。マーク図形902は、ベース図形901の前面側に重なる黒色の十字状の図形である。
【0065】
図9の上側の領域のように、黒色の背景の上にグリッドマーク90が配置された場合、背景となる黒色のパターン91aとマーク図形902とは、同じ黒色であるが、マーク図形902は、白色のベース図形901上にあるため、マーク図形902を識別できる。また、図9の下側の領域のように、背景となる白色のパターン91bの上にグリッドマーク90が配置された場合、ベース図形901と背景は、同じ白色であるため境界が識別できないが、黒色のマーク図形902は識別できる。
【0066】
このように、本実施形態では、グリッドマーク90が、白色のベース図形901と、ベース図形901の前面側に重なる黒色のマーク図形902とで構成されるため、背景となるパターン91の色にかかわらず、マーク図形902を識別することができる。また、グリッドマーク90のうち、多くの面積を占めるベース図形901が濃度値0%の白色であることにより、グリッドマーク90の印刷のために吐出されるインクの量を抑制できる。すなわち、グリッドマーク90の印刷によって基材9に歪みが生じることを抑制できる。
【0067】
ステップS11に続いて、動作制御部57は、参照用入稿データD1に基づいて、搬送機構10および4つのヘッド21~24の動作を制御する。これにより、基材9の印刷面に参照用入稿データD1を印刷する(ステップS12)。すなわち、基材9の印刷面に、複数のグリッドマーク90が印刷される。そして、インクが吐出された基材9の印刷面は、乾燥部30によって乾燥され、インクが定着する。
【0068】
カメラ40は、参照用入稿データD1が印刷された基材9の印刷面を撮影し、第1撮影画像D4を取得する(ステップS13)。そして、撮影により得られた第1撮影画像D4は、カメラ40からコンピュータ50へ送信されて、歪み計測部52の第1歪みデータ取得部61へ入力される。
【0069】
また、動作制御部57は、評価用入稿データD2に基づいて、搬送機構10および4つのヘッド21~24の動作を制御する。これにより、基材9の印刷面に評価用入稿データD2を印刷する(ステップS14)。すなわち、基材9の印刷面に、パターン91と、複数のグリッドマーク90とが印刷される。そして、インクが吐出された基材9の印刷面は、乾燥部30によって乾燥され、インクが定着する。
【0070】
カメラ40は、評価用入稿データD2が印刷された基材9の印刷面を撮影し、第2撮影画像D5を取得する(ステップS15)。そして、撮影により得られた第2撮影画像D5は、カメラ40からコンピュータ50へ送信されて、歪み計測部52の第2歪みデータ取得部62へ入力される。
【0071】
第1歪みデータ取得部61は、第1撮影画像D4を解析し、参照用入稿データD1が印刷された基材9の歪みを計測した第1歪みデータD6を取得する(ステップS16)。このとき、第1歪みデータ取得部61は、参照用入稿データD1を参照しつつ、第1撮影画像D4から、基材9上の複数のグリッドマーク90の位置を抽出する。そして、それらのグリッドマーク90の位置に基づいて、基材9の歪みを計測する。
【0072】
なお、本実施形態では、ステップS12、ステップS13およびステップS16によって、参照用入稿データD1を印刷したときの基材9の歪みを示す第1歪みデータD6を取得する第1歪みデータ取得工程が構成される。
【0073】
第2歪みデータ取得部62は、第2撮影画像D5を解析し、評価用入稿データD2が印刷された基材9の歪みを計測した第2歪みデータD7を取得する(ステップS17)。このとき、第2歪みデータ取得部62は、参照用入稿データD1を参照しつつ、第2撮影画像D5から、基材9上の複数のグリッドマーク90の位置を抽出する。そして、それらのグリッドマーク90の位置に基づいて、基材9の歪みを計測する。
【0074】
なお、本実施形態では、ステップS14、ステップS15およびステップS17によって、評価用入稿データD2を印刷したときの基材9の歪みを示す第2歪みデータD7を取得する第2歪みデータ取得工程が構成される。
【0075】
ステップS17において、グリッドマーク90の位置の抽出に、参照用入稿データD1におけるグリッドマーク90の位置を参照しているが、評価用入稿データD2におけるグリッドマーク90の位置を参照してもよい。本実施形態では、参照用入稿データD1におけるグリッドマーク90の位置と、評価用入稿データD2におけるグリッドマーク90の位置とが同じであるため、ステップS17において参照用入稿データD1におけるグリッドマーク90の位置を参照することにより、ステップS15と共通する工程を省略できる。
【0076】
しかしながら、参照用入稿データD1におけるグリッドマーク90の位置と、評価用入稿データD2におけるグリッドマーク90の位置とが異なっていてもよい。その場合、ステップS16において、グリッドマーク90の位置の抽出に、評価用入稿データD2におけるグリッドマーク90の位置を参照する。
【0077】
ここで、図10および図11を参照しつつ、ステップS16およびステップS17において第1歪みデータ取得部61および第2歪みデータ取得部62(以下ではまとめて歪み計測部52として説明する)が第1撮影画像D4または第2撮影画像D5の歪みを計測する方法について説明する。
【0078】
図10は、基材9の歪みの計測方法の一例を示した図である。図10の例では、歪み計測部52は、撮影画像D4,D5中の隣り合うグリッドマーク90の間隔を計測する。そして、計測されたグリッドマーク90の間隔と、参照用入稿データD1におけるグリッドマーク90の間隔との差を、歪みとして算出する。すなわち、図10の方法では、隣り合うグリッドマーク90の間隔の変化を計測する。歪み計測部52は、このような歪みの計測を、撮影画像D4,D5中の全ての隣り合うグリッドマーク90について行う。その結果、基材9における歪みの分布を示すヒートマップを取得する。すなわち、図10の方法では、第1撮影画像D4における当該ヒートマップが第1歪みデータD6となり、第2撮影画像D5における当該ヒートマップが第2歪みデータD7となる。
【0079】
基材9が伸縮により歪む場合、基材9上の各領域の変位量は、その領域の伸縮量だけではなく、他の領域の伸縮量も影響し、それらの伸縮量を累積した値となる。しかしながら、図10の計測方法により得られるヒートマップは、基材9の領域ごとの局所的な歪みを表すものとなる。したがって、当該ヒートマップは、後述する学習処理において、教師データとして取り扱いやすい。
【0080】
図11は、基材9の歪みの計測方法の他の例を示した図である。図11の例では、歪み計測部52は、撮影画像D4,D5中の各グリッドマーク90の位置を計測する。具体的には、撮影画像D4,D5中の特定のグリッドマーク90を原点として、当該原点に対する他のグリッドマーク90の座標位置を、それぞれ計測する。そして、計測された座標位置と、参照用入稿データD1におけるグリッドマーク90の座標位置との差を、歪みとして算出する。すなわち、図11の方法では、基材9における各グリッドマーク90の変位量を計測する。歪み計測部52は、このような歪みの計測を、撮影画像D4,D5中の全てのグリッドマーク90について行う。その結果、基材9における歪みの分布を示すベクトルマップが得られる。すなわち、図11の方法では、第1撮影画像D4における当該ベクトルマップが第1歪みデータD6となり、第2撮影画像D5における当該ベクトルマップが第2歪みデータD7となる。
【0081】
図11の計測方法により得られるベクトルマップは、基材9の各部の座標位置の変位量を表すものとなる。歪み検出処理の後に行われる学習処理において、このようなベクトルマップを学習データとして用いる場合、後述する推定モデルMから出力される推定結果も、基材9の各部の座標位置の変位量を表すものとなる。このため、図11の計測方法を採用すれば、補正値算出部56において、基材9に吐出されるインクの座標位置を補正する際に、推定結果を利用しやすくなる。
【0082】
その後、第1歪みデータ取得部61は、第1歪みデータD6をデータ補正部53のシフト量算出部63へと引き渡す。また、第2歪みデータ取得部62は、第2歪みデータD7をシフト量算出部63へと引き渡す。
【0083】
続いて、シフト量算出部63は、第1歪みデータD6と第2歪みデータD7とを、搬送方向(基材9の長手方向)にシフトさせつつ比較して、第1歪みデータD6と第2歪みデータD7との歪みが最も同期するシフト量DSを算出する(ステップS18:シフト量算出工程)。
【0084】
図12は、第1歪みデータD6と第2歪みデータD7とからシフト量DSを算出する際の様子を概念的に示した図である。図12には、参照用入稿データD1、評価用入稿データD2、第1歪みデータD6、第2歪みデータD7の例が示されている。なお、図12の例では、評価用入稿データD2のパターン91が、幅方向の半分が黒で塗り潰され、もう半分が白で塗り潰されたものである。
【0085】
図12に示すように、第1歪みデータD6と第2歪みデータD7との双方において、搬送方向に周期的に歪みが現れる。ここで、参照用入稿データD1においてインクの吐出量が僅かであるため、第1歪みデータD6には、インクの吐出による非周期的な基材9の歪みは殆ど含まれない。このため、第1歪みデータD6に現れる基材9の歪みは、インクの吐出に起因しない周期的な歪みであると考えられる。
【0086】
一方で、複数用意される評価用入稿データD2には、種々のパターン91が含まれるため、印刷時のインクの吐出によって基材9に非周期的な歪みが生じる。このため、第2歪みデータD7には、第1歪みデータD6に現れる周期的な歪みと、インクの吐出による非周期的な歪みとが重畳している。
【0087】
そこで、ステップS18において、シフト量算出部63は、図12に示すように第1歪みデータD6を搬送方向にシフトさせたシフトデータD6sをシフト量DSを変更しつつ複数枚作成し、第2歪みデータD7と比較する。そして、第1歪みデータD6と第2歪みデータD7との歪みが最も同期するシフト量DSを算出する。本実施形態では、シフトデータD6sと第2歪みデータD7とにおいて、最小二乗法を用いて最も近似するシフト量DSを選択する。具体的には、ヒートマップの対応する位置ごとの差分をとり、当該差分の二乗和が最小となるようなシフト量DSを選択する。
【0088】
その後、差分処理部64は、第2歪みデータD7と、シフト量算出部63の算出したシフト量DSに基づいて第1歪みデータD6をシフトしたものとの差分を取って、第2歪みデータD7を補正する(ステップS19:データ補正工程)。このようにして、差分処理部64は、補正データである学習用データD8を取得する。
【0089】
このように第2歪みデータD7を補正することにより、第2歪みデータD7に含まれる周期的な歪み成分を除去し、非周期的な歪み成分のみが含まれる学習用データD8を得ることができる。
【0090】
<4.学習処理について>
続いて、学習部54において実行される学習処理について、図13を参照しつつ、説明する。図13は、学習処理の流れを示したフローチャートである。
【0091】
学習処理において、まず、学習部54に、入稿データ取得部51から評価用入稿データD2が入力されるとともに、データ補正部53の差分処理部64から、評価用入稿データD2に対応する学習用データD8が入力される(ステップS21)。
【0092】
学習部54は、評価用入稿データD2を入力変数とし、学習用データD8を教師データとして、教師あり機械学習プログラムにより、機械学習を行う。このとき、学習部54は、画像データに基づいて基材9の非周期的な歪みを推定するための推定モデルMを用意する。推定モデルMは、入力された評価用入稿データD2に基づいて、非周期的な歪みの推定結果を出力する。学習部54は、推定モデルMから出力される推定結果が、教師データである学習用データD8に近づくように、推定モデルMのパラメータを調整する(ステップS22)。
【0093】
その後、学習部54は、所定の終了条件を満たすか否かを判定する(ステップS23)。終了条件は、例えば、推定結果と教師データとの差が、予め設定された閾値よりも小さくなること、とすればよい。また、終了条件は、ステップS21~S22の繰り返し回数が、予め設定された閾値に到達すること、としてもよい。終了条件を満たしていない場合(ステップS23:No)、コンピュータ50は、上述したステップS21~S22の処理を繰り返す。その際、評価用入稿データD2および学習用データD8が複数あり、処理を繰り返す度に異なる評価用入稿データD2および学習用データD8を使用してもよい。
【0094】
ステップS21~S22の学習処理が繰り返されることにより、推定モデルMの推定精度が向上する。やがて、終了条件が満たされると(ステップS23:Yes)、学習部54は、学習処理を終了する。これにより、入力された画像データに基づいて、その画像データを印刷したときの基材9の非周期的な歪みを精度よく推定できる、学習済みの推定モデルMが生成される。学習部54は、生成された推定モデルMを、推定部55へ提供する。
【0095】
<5.印刷処理について>
続いて、上述した学習処理の後に、印刷装置1において実行される印刷処理について、図14を参照しつつ、説明する。図14は、印刷処理の流れを示すフローチャートである。
【0096】
図10に示すように、印刷処理を行うときには、まず、印刷すべき印刷用入稿データD3を取得する(ステップS31)。具体的には、入稿データ取得部51が、サーバ2から印刷用入稿データD3を読み出す。そして、入稿データ取得部51は、推定部55と動作制御部57とに、印刷用入稿データD3を入力する。
【0097】
推定部55は、学習部54により生成された推定モデルMに、印刷用入稿データD3を入力する。そうすると、推定モデルMは、基材9の歪みの推定結果D9を出力する(ステップS32)。この推定結果D9は、印刷装置1において印刷用入稿データD3を印刷した場合の、インクによる基材9の非周期的な歪みの推定値を示すものである。推定部55は、得られた推定結果D9を、補正値算出部56へ出力する。
【0098】
補正値算出部56は、推定部55から出力された推定結果D9に基づいて、補正値D10を算出する(ステップS33)。この補正値D10は、基材9に対するインク滴の吐出位置を微調整するための制御値である。補正値算出部56は、推定結果D9が示す基材9の歪みをキャンセルする方向に、補正値D10を設定する。例えば、基材9の歪みにより、基材9ある部分が幅方向の一方側へ変位すると推定される場合、補正値算出部56は、インク滴の吐出位置を幅方向の他方側へ補正するように、補正値D10を算出する。そして、補正値算出部56は、算出された補正値D10を、動作制御部57へ入力する。
【0099】
その後、動作制御部57は、入稿データ取得部51から取得した印刷用入稿データD3と、補正値算出部56から取得した補正値D10とに基づいて、搬送機構10および4つのヘッド21~24を動作制御する。動作制御部57は、印刷用入稿データD3により指定されるインクの吐出位置を、補正値D10に従って補正する。この補正は、例えば、印刷用入稿データD3のピクセルごとに行う。そして、基材9の印刷面の補正後の吐出位置に、インク滴を吐出する。これにより、基材9の印刷面に、印刷用入稿データD3が印刷される(ステップS34)。
【0100】
以上のように、この印刷装置1では、印刷用入稿データD3の印刷よりも前に、印刷用入稿データD3に基づいて、推定モデルMを使用してインクによる基材9の非周期的な歪みを推定する。特に、この印刷装置1では、歪み検出部60において、搬送方向の位置に左右される周期的な歪み成分を除去し、入稿データの画像に依存する非周期的な歪み成分のみを抽出した学習用データD8を得ることができる。すなわち、推定モデルMの学習処理において、入稿データと基材9の非周期的な歪みとの正確な対応を学習することができる。そして、この印刷装置1では、当該推定モデルMによる推定結果を考慮して、インクの吐出位置を補正しながら、基材9の印刷面にインク滴を吐出できる。その結果、印刷画像の歪みが小さく、見当ずれも少ない、高品質な印刷物を得ることができる。
【0101】
<6.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。
【0102】
<6-1.第1変形例>
上記の実施形態では、学習用データD8において、複数のグリッドマーク90が、等間隔に配列されていた。しかしながら、複数のグリッドマーク90の間隔は、必ずしも均等でなくてもよい。例えば、パターン91の濃度値の変化または印字率の変化が大きい部分には、グリッドマーク90を、他の部分よりも密に配置してもよい。
【0103】
<6-2.第2変形例>
上記の実施形態では、グリッドマーク90が、白色のベース図形901と、黒色のマーク図形902とで構成されていた。しかしながら、ベース図形901の色は、必ずしも白色に限定されるものではない。また、マーク図形902の色は、必ずしも黒色に限定されるものではない。例えば、ベース図形901が黒色で、マーク図形902が白色であってもよい。また、ベース図形901およびマーク図形902は、他の色であってもよい。すなわち、グリッドマーク90は、ベース図形901が第1の色で形成され、マーク図形902が、第1の色とは異なる第2の色で形成されていればよい。また、ベース図形901およびマーク図形902の形状も、上記の実施形態とは異なる形状であってもよい。
【0104】
<6-3.第3変形例>
上記の実施形態では、機械学習により生成された推定モデルMに基づいて、基材9の歪みを推定していた。しかしながら、他の方法で、基材9の歪みを推定してもよい。例えば、入稿データに含まれる各領域の濃度値または印字率と、基材9の歪みとの関係を、定式化してもよい。また、入稿データに含まれる各領域の濃度値または印字率と、基材9の歪みとの対応関係を、テーブルにより規定してもよい。そして、印刷用入稿データD3を印刷する前に、印刷用入稿データD3と、上記の定式またはテーブルとに基づいて、基材9の歪みを示す推定結果を出力してもよい。
【0105】
ただし、定式またはテーブルを使用する場合、印刷装置1の状態や基材9の種類が変更されるたびに、定式またはテーブルを修正する必要がある。この定式またはテーブルを修正する作業は、様々な観点から検討する必要があるため、ユーザの負担が大きい。これに対し、上記の実施形態のように、機械学習を利用すれば、印刷装置1の状態や基材9の種類が変更された場合でも、一定の学習処理を行うことにより、推定モデルMを再作成することができる。したがって、条件の変化に容易に対応できる。
【0106】
<6-4.他の変形例>
また、上記の実施形態では、図2のように、各ヘッド21~24において、ノズル201が幅方向に一列に配置されていた。しかしながら、各ヘッド21~24において、ノズル201が2列以上に配置されていてもよい。
【0107】
また、上記の実施形態の印刷装置1は、4つのヘッド21~24を備えていた。しかしながら、印刷装置1が備えるヘッドの数は、1~3つ、あるいは5つ以上であってもよい。例えば、印刷装置1は、K,C,M,Yの各色に加えて、特色のインクを吐出するヘッドを備えていてもよい。
【0108】
また、上記の実施形態や変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0109】
1 印刷装置
9 基材
40 カメラ
51 入稿データ取得部
52 歪み計測部
53 データ補正部
54 学習部
55 推定部
56 補正値算出部
57 動作制御部
60 歪み検出部
61 第1歪みデータ取得部
61 第2歪みデータ取得部
62 第2歪みデータ取得部
63 シフト量算出部
64 差分処理部
90 グリッドマーク
901 ベース図形
902 マーク図形
D1 参照用入稿データ
D2 評価用入稿データ
D3 印刷用入稿データ
D6 第1歪みデータ
D7 第2歪みデータ
D8 学習用データ
D9 推定結果
DS シフト量
M 推定モデル
図1
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