(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-03
(45)【発行日】2025-06-11
(54)【発明の名称】亜硫酸金ナトリウムまたは亜硫酸金カリウムの製造方法及び亜硫酸金ナトリウム溶液または亜硫酸金カリウム溶液
(51)【国際特許分類】
C01G 7/00 20060101AFI20250604BHJP
【FI】
C01G7/00
(21)【出願番号】P 2024191280
(22)【出願日】2024-10-31
【審査請求日】2024-10-31
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】596133201
【氏名又は名称】松田産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水橋 正英
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 優介
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開昭52-010891(JP,A)
【文献】特開2023-071468(JP,A)
【文献】特開2006-249485(JP,A)
【文献】特開平03-146419(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104692416(CN,A)
【文献】中国実用新案第214436906(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 7/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金原料を酸溶解して、金酸溶液を調製するステップ、
金酸溶液にアンモニア水を添加して、雷金を沈殿させるステップ、
純水と
、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、及び炭酸カリウム水溶液からなる群より選択される1種以上のアルカリ性水溶液で前記雷金を洗浄するステップ、及び
前記洗浄した雷金に金属の亜硫酸塩を添加し、亜硫酸金
ナトリウム溶液または亜硫酸金カリウム溶液を調製するステップ、を含む、亜硫酸金
ナトリウムまたは亜硫酸金カリウムの製造方法。
【請求項2】
前記金酸溶液を調製するステップで使用する金原料は、リサイクル金である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記金酸溶液を調製するステップで使用する金原料は、リサイクル金とバージン金の混合物である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記金酸溶液を調製するステップで使用する金原料は、バージン金である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
溶液中の塩化物イオン濃度が1g/L未満であり、溶液1mL中に存在する1μm以上のパーティクル数が800個以下である、亜硫酸金
ナトリウム溶液または亜硫酸金カリウム溶液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜硫酸金塩の製造方法及び亜硫酸金塩溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
亜硫酸金塩は、金めっき液の原料や、金の化合物を製造するための原料として用いられており、その製造方法はいくつか提案されている。
【0003】
特許文献1には、従来技術として、塩化金酸溶液にアンモニア水を加えて雷金を沈殿生成させたのち、ろ過洗浄した雷金に亜硫酸ナトリウムを添加することで、亜硫酸金塩溶液を製造することが開示されている。しかしながら、雷金は極めて不安定な物質であるばかりではなく爆発などの危険性が高く、工業的な製法としては好ましくないことも開示されている。
【0004】
そのため特許文献1では、安全に亜硫酸金塩を合成するために、雷金を中間物質として生成することのない方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1で提案された、雷金を中間物質として生成することのない亜硫酸金塩の製造方法では、確かに安全性は高いと考えられるものの、工程が複雑になり、製造コストも増大する。そのため、アンモニア水を加えて雷金を中間物質として生成させる方法が簡易であるが、雷金を安全に取り扱うことができず、簡易な製造方法を採用できないことが現状である。
本発明は上記課題を解決することであり、雷金を中間物質として生成させて亜硫酸金塩を製造する方法であって、安全性の高い方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を重ね、沈殿物として生成する雷金の改質処理に着目した。通常、雷金は純水で洗浄したのち次工程に投入されるが、純水への洗浄に加えてアルカリ性水溶液で洗浄することで、雷金が改質されて、爆発のリスクが極めて小さくなることを見出した。そして、生成する雷金の改質処理条件を鋭意検討し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明は、金原料を酸溶解して、金酸溶液を調製するステップ、金酸溶液にアンモニア水を添加して、雷金を沈殿させるステップ、純水とアルカリ性水溶液で前記雷金を洗浄するステップ、及び前記洗浄した雷金に金属の亜硫酸塩を添加し、亜硫酸金塩溶液を調製するステップ、を含む亜硫酸金塩の製造方法である。
【0009】
前記金原料はリサイクル金またはバージン金のいずれでもよいし、その混合物であってもよい。
また、本発明の別の形態は、亜硫酸金塩溶液であって、溶液中の塩化物イオン濃度が1g/L未満であり、溶液1mL中に存在する平均粒子径1μm以上のパーティクル含有量が800個以下である。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、中間物質として生成する雷金の安全性を高めることができるため、安全性の高い簡易な亜硫酸金塩の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0012】
本発明の一実施形態は亜硫酸金塩の製造方法であって、金原料を酸溶解して、金酸溶液を調製するステップ、金酸溶液にアンモニア水を添加して、雷金を沈殿させるステップ、純水とアルカリ性水溶液で前記雷金を洗浄するステップ、及び前記洗浄した雷金に金属の亜硫酸塩を添加し、亜硫酸金塩溶液を調製するステップ、を含む。
本実施形態は、上記ステップを含むものであり、上記ステップ以外のステップを含んでもよい。
【0013】
金酸溶液を調製するステップでは、金原料を酸溶解する。金原料は特に限定されず、バージン金であってもリサイクル金であってもよい。また、バージン金とリサイクル金を任意の比率で混合して用いてもよい。バージン金に対するリサイクル金の混合比率は0から100%の間で任意に設定することができる。一例としては、バージン金とリサイクル金とが1:99~50:50であってもよく、1:99~40:60の範囲内であってもよく、1:99~20:80の範囲内であってもよい。
また、金原料を酸溶解する酸は一般的に王水が用いられ、王水に金原料を溶解することで、金酸溶液が調製される。
【0014】
本実施形態は、雷金を中間物質として生成させて亜硫酸金塩溶液を得る製造方法であり、その安全性を高めるため、中間物質である雷金を洗浄することで雷金を改質するものである。
本発明者らが検討したところ、雷金の洗浄時に、純水に加えて、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液などのアルカリ性水溶液で洗浄することで雷金が改質され、以降の作業で安全に作業できることを見出した。
【0015】
調製した金酸溶液のpHは通常5以下であり、3以下であってよく、1以下であってよい。強酸の水溶液であるから通常は下限を定めないが、水酸化ナトリウム溶液などを用いてpHを2以上3以下に調整してもよい。
【0016】
雷金を沈殿させるステップでは、調製した金酸溶液にアンモニア水を添加する。アンモニア水の添加量は特に限定されず、王水に溶解させたリサイクル金、バージン金またはその混合物が雷金として沈殿するのに十分な量を添加すればよい。この際の溶液のpHは8以上であることが好ましく、9以上であってよく、また11以下であってよい。
【0017】
沈殿させた雷金は、通常、ろ過により取り出され、洗浄される。洗浄は、通常、純水により行われる。この際、雷金は爆発の危険がある物質であり常に湿潤状態にする必要がある。本形態では純水の洗浄に加えて、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、炭酸カリウム水溶液などのアルカリ性水溶液で洗浄することで、雷金の改質が施され、爆発性の低い雷金を得ることができる。
【0018】
雷金の改質に用いるアルカリ性水溶液の濃度は任意に定めることができる。また、洗浄回数も必要に応じて任意に定めることができる。イオン交換水で1回、アルカリ性水溶液
で1回洗浄することで十分に安定な雷金を得ることができるが、改質効果をより確実にするために、イオン交換水とアルカリ性水溶液でそれぞれ2回ずつ洗浄することが好ましい。3回以上洗浄してもよいが、回数が多くなると作業時間が長くなり、また廃液の発生量も増えるので、イオン交換水とアルカリ性水溶液による全洗浄回数は6回以下とすることが好ましい。また、雷金の洗浄順番は、任意に設定してよい。雷金には王水に由来する成分が残存していることがあるので、その成分をまずは純水で洗浄してから、アルカリ性水溶液で洗浄することが好ましい。アルカリ性水溶液が雷金中に残留しても、次工程には影響しない。
なお、洗浄に用いるイオン交換水の品質は、とくに制限されないが、電気伝導度が2μS/cm以下のイオン交換水を用いることが好ましく、より好ましくは1μS/cmのイオン交換水である。
【0019】
本実施形態において、雷金の洗浄に用いるアルカリ性水溶液は、とくに限定されないが、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、及び炭酸カリウム水溶液からなる群より選択される1種以上を用いることが好ましい。目的の亜硫酸金塩の塩の種類と合致するアルカリ性水溶液を選定することが好適である。例えば、亜硫酸金塩として亜硫酸金ソーダ(ナトリウム)を得たい場合には、洗浄のアルカリ性水溶液として、水酸化ナトリウム水溶液や炭酸ナトリウム水溶液を選ぶことが好適である。これにより、目的物への不要なアルカリ金属イオンの混入を防止することができる。
アルカリ性水溶液のアルカリ濃度も特に限定されないが、通常0.1g/L~500g/Lの範囲内であり、好ましくは1g/L~100g/Lの範囲内である。
【0020】
アルカリ性水溶液で洗浄した雷金は、爆発の危険性が低減される。この詳細なメカニズムは明らかとなっていないが、以下のように推察することができる。一般に雷金の化学組成は不定であるが、金に加えて塩素、窒素、酸素を含む化合物である。不安定な化学結合を含むために雷金自体も不安定であり、乾燥時の衝撃で爆発しやすい。アルカリ性水溶液で洗浄すると、雷金と接触したアルカリ性水溶液が、雷金が不安定化する要因の塩素を除去すると考えられる。これにより、安定化された雷金を得ることができる。通常、雷金をイオン交換水で洗浄すると、雷金における塩素と金の原子数比(Cl/Au)は、0.05~0.5となる。一方、アルカリ性水溶液で洗浄した場合には0.05未満となる。より安定で安全な雷金を得るためには、Cl/Auが0.02以下であることが好ましい。
なお、雷金の成分は、エネルギー分散型エックス線分析装置などで分析することができる。また、雷金の安定性・安全性は実施例に記載した方法で確認することができる。
【0021】
亜硫酸金塩溶液を調製するステップでは、取り出された雷金に、亜硫酸ナトリウムや亜硫酸カリウムなどの亜硫酸塩の金属塩を添加し、亜硫酸金塩溶液を調製する。亜硫酸金塩溶液中の亜硫酸金塩は、典型的には亜硫酸金ナトリウムや亜硫酸金カリウムであるが、これらに限られるものではない。雷金は、純水中に添加して、その後亜硫酸ナトリウムなどの亜硫酸の金属塩を加えてもよく、雷金を亜硫酸塩溶液に添加してもよい。
【0022】
通常、亜硫酸金塩溶液は、王水に由来する塩化物イオン濃度を不純物として含有する。前述のように、洗浄工程において雷金を洗浄することで改質され、雷金中のCl/Au比率が低減される。改質された雷金から調製された亜硫酸金塩溶液においては、塩化物イオン濃度が3g/L未満、好ましくは1g/L未満に低減される。洗浄工程において雷金を洗浄しない場合、亜硫酸金塩溶液の塩化物イオン濃度は3g/L以上となる。
また、亜硫酸金塩溶液は、平均粒子径1μm以上のパーティクル含有量が低減されており、好ましくは1mLあたり800個以下であり、600個以下であることがより好ましい。亜硫酸金塩溶液中のパーティクル量の測定は、パーテイクルカウンター測定器により行うことができる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の範囲が実施例の記載により限定されないことはいうまでもない。
【0024】
<実施例1>
リサイクル金(松田産業株式会社製4N)10gを王水40mLに溶解させ、pH1未
満の塩化金酸溶液を得た。この塩化金酸溶液を室温(25℃)に冷却し、アンモニア水を35mL添加して45分間攪拌し、その後室温で1時間静置することで、雷金粒子を沈殿させた。
次に、沈殿した雷金粒子を漏斗上で、吸引による真空ろ過し、水分を含有した雷金粒子を得た。吸引したまま約100mlのイオン交換水を通液し、雷金を洗浄した。この作業を2回繰り返した。続いて、50g/Lの水酸化ナトリウム水溶液を50ml通液して、雷金を洗浄した。この作業を2回繰り返した。得られた雷金をエネルギー分散型エックス線分析装置で分析し、雷金における塩素と金の原子数比(Cl/Au)を測定した。
【0025】
得られた雷金を約150mlのイオン交換水と混合し、65℃以上に加温し、攪拌しながら亜硫酸ナトリウム25g添加し約3時間保持した後、1時間静置することで冷却し亜硫酸金ナトリウム溶液を得た。
加温時に雷金の安定性・安全性を簡便に評価した。具体的には、雷金と混合したイオン交換水を加熱する際に、容器上部に乾燥する部分が発生し、この乾燥部分に付着した雷金を薬さじで圧砕した。この際、破裂音が確認されれば、不安定な雷金であると判断した。一方、破裂音が確認されなければ、安定で安全な雷金であると判断した。本実施例においては、この破裂音の確認を5回繰り返し、すべてにおいて破裂音が確認されなければ合格(〇)とした。一度でも破裂音を確認したら不合格(×)とした。
次に、亜硫酸金ナトリウム溶液1mL中のパーティクル量(1μm以上)を、パーテイクルカウンター測定器により測定した。また、亜硫酸金ナトリウム溶液の塩化物イオン濃度を測定した。これらの結果を表1に示す。
【0026】
<実施例2>
金原料をバージン金に変更し、洗浄で用いた水酸化ナトリウム水溶液の濃度を10g/Lに変更した以外は、実施例1と同様に、亜硫酸金ナトリウム溶液を得た。
【0027】
<実施例3>
金原料をリサイクル金とバージン金を1:1の重量比で混合したものに変更した以外は実施例1と同様に、亜硫酸金ナトリウム溶液を得た。
【0028】
<比較例1>
雷金の洗浄工程において、水酸化ナトリウム水溶液(アルカリ性水溶液)を用いず、イオン交換水のみで4回通液洗浄した以外は、実施例1と同様に実験を行った。
【0029】
【0030】
本開示に係る発明により、SGDsの12:Responsible Consumption and Productionに貢献できる。
【要約】
【課題】雷金を中間物質として生成させて亜硫酸金塩を製造する方法であって、安全性の高い方法を提供することを課題とする。
【解決手段】金原料を酸溶解して、金酸溶液を調製するステップ、金酸溶液にアンモニア水を添加して、雷金を沈殿させるステップ、純水及びアルカリ水溶液で前記雷金を洗浄するステップ、及び洗浄した雷金に金属の亜硫酸塩を添加し、亜硫酸金塩溶液を調製するステップ、を含む製造方法により、課題を解決する。
【選択図】なし