(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-04
(45)【発行日】2025-06-12
(54)【発明の名称】シミュレーション装置、プログラム、シミュレーション方法
(51)【国際特許分類】
A61C 7/08 20060101AFI20250605BHJP
A61C 7/00 20060101ALI20250605BHJP
【FI】
A61C7/08
A61C7/00
(21)【出願番号】P 2024020452
(22)【出願日】2024-02-14
【審査請求日】2024-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】503081553
【氏名又は名称】株式会社計算力学研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】槇 宏太郎
(72)【発明者】
【氏名】石井 英之
【審査官】白土 博之
(56)【参考文献】
【文献】特表2021-534933(JP,A)
【文献】特開2022-220(JP,A)
【文献】特開2020-68875(JP,A)
【文献】特開2023-58940(JP,A)
【文献】特開2017-47206(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 7/08
A61C 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アライナを用いて患者の歯の矯正治療を行う際の、前記患者の歯の動きを予想するシミュレーション装置であって、
前記患者のそれぞれの前記歯の形状に関する情報と、前記矯正治療が行われる前の前記患者の歯の配列状態を示す情報と、及び前記患者の歯の周囲組織に関する情報を少なくとも含む歯情報と、前記アライナの形状や物性に関する情報を少なくとも含むアライナ情報に基づいて、所定の歯の矯正後の配置位置及び姿勢を示す配置状態を算出する移動計算部を備え、
前記移動計算部は、前記アライナによって前記所定の歯に作用される矯正力と、前記所定の歯に前記矯正力が作用された際に、前記所定の歯の周囲組織によって生じる負荷の大きさに基づいて前記配置状態を算出するものであり、
前記移動計算部は、前記負荷の大きさを、時間の経過とともに所定の特性に従って減衰する減衰モデルを用いて算出して前記配置状態を算出する、
シミュレーション装置。
【請求項2】
前記減衰モデルは、所定の物質のクリープ現象に基づいた数学的モデルである、
請求項1に記載のシミュレーション装置。
【請求項3】
前記移動計算部は、前記歯情報及び前記アライナ情報に基づいて、
前記アライナと、前記患者の歯と、及び前記歯の周囲の組織のそれぞれが、梁状の形状をした複数の梁要素を用いて表された簡易モデルを用いて前記配置状態を算出するものであり、
前記簡易モデルを構成する前記梁要素のそれぞれは、前記アライナ、前記歯、あるいは前記歯の周囲組織のいずれかの一部にそれぞれ対応し、
前記移動計算部は、それぞれの前記梁要素が、対応する前記一部が有する物性に対応した曲げ剛性、及び捩り剛性を有するものとして前記配置状態を算出する、
請求項1または請求項2に記載のシミュレーション装置。
【請求項4】
前記移動計算部は、
前記歯に前記矯正治療に用いられるアタッチメントが設けられている場合には、前記アタッチメントが設けられている前記歯に関連する前記アライナの部分に対応する前記梁要素の前記捩り剛性を、前記歯に前記アタッチメントが設けられていない場合よりも大きな値に設定して前記配置状態を算出する、
請求項3に記載のシミュレーション装置。
【請求項5】
電子計算機器を、アライナを用いて患者の歯の矯正治療を行う際の、前記患者の歯の動きを予想するシミュレーション装置として作動させるプログラムであって、
前記電子計算機器を、
前記患者のそれぞれの前記歯の形状に関する情報と、前記矯正治療が行われる前の前記患者の歯の配列状態を示す情報と、及び前記患者の歯の周囲組織に関する情報を少なくとも含む歯情報と、前記アライナの形状や物性に関する情報を少なくとも含むアライナ情報に基づいて、所定の歯の矯正後の配置位置及び姿勢を示す配置状態を算出する移動計算部を備え、
前記移動計算部は、前記アライナによって前記所定の歯に作用される矯正力と、前記所定の歯に前記矯正力が作用された際に、前記所定の歯の周囲組織によって生じる負荷の大きさに基づいて前記配置状態を算出するものであり、
前記移動計算部は、前記負荷の大きさを、時間の経過とともに所定の特性に従って減衰する減衰モデルを用いて算出して前記配置状態を算出する、
シミュレーション装置として作動させるプログラム。
【請求項6】
電子計算機器を用いて、アライナを用いた患者の歯の矯正治療を行う際の、前記患者の歯の動きを予想するシミュレーション方法であって、
電子計算機器が、前記患者のそれぞれの前記歯の形状に関する情報と、前記矯正治療が行われる前の前記患者の歯の配列状態を示す情報と、及び前記患者の歯の周囲組織に関する情報を少なくとも含む歯情報と、前記アライナの形状や物性に関する情報を少なくとも含むアライナ情報に基づいて、所定の歯の矯正後の配置位置及び姿勢を示す配置状態を算出する移動計算ステップを備え、
前記移動計算ステップは、前記アライナによって前記所定の歯に作用される矯正力と、前記所定の歯に前記矯正力が作用された際に、前記所定の歯の周囲組織によって生じる負荷の大きさに基づいて前記配置状態を算出するステップであり、
前記移動計算ステップにおいて、前記負荷の大きさは、時間の経過とともに所定の特性に従って減衰する減衰モデルを用いて算出されて前記配置状態が算出される、
シミュレーション方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アライナを用いた歯科矯正治療のシミュレーション装置、プログラム、シミュレーション方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、アライナを用いた歯の矯正治療が行われている。このアライナを用いた矯正治療では、患者の状況に応じて個別に作成されたアライナを、患者が、予め設定された計画に従って装着することで、歯の矯正が行われる。アライナは、ある程度の弾性を有する素材から形成されたマウスピース形状の矯正器具である。このアライナは、患者に装着された際に、矯正が必要とされる歯(矯正対象の歯)に対応する部分が一定の割合で引き延ばされるように設計される。このため、患者がアライナを装着すると、矯正対象の歯に、アライナの引き延ばされた部分が元に戻ろうとする力が加わる。この力によって歯の矯正が行われる。
【0003】
一つのアライナによって、歯を移動させることができる距離には限りがあるため、実際の矯正治療では、複数のアライナが用いられる。即ち、患者が、予め作成された複数のアライナを、所定の順番でそれぞれ装着することで、矯正治療が行われる。
【0004】
アライナは、一般的に柔らかい素材から作成されているため、従来のブラケットやワイヤなどを用いた矯正治療より、患者が不快感を覚えることが少ない。また、アライナは透明性のある樹脂などによって形成されているため、従来のブラケットやワイヤなどを用いた矯正治療より審美性に優れていると言われている。
【0005】
一方、アライナの設計が適切でない場合には、矯正対象の歯が、理想の位置とは異なる位置に移動してしまったり、理想的な状態よりも傾いてしまったりする場合がある。また、歯の矯正治療は、その終了までに長い期間を要するため、アライナの設計が適切であるか否かを、矯正治療を開始する前に判断することが難しい。このため、例えば特許文献1に示されているように、コンピュータを用いてシミュレーションを行い、矯正治療の効果を事前に確認することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の特許文献1に記載された技術では、矯正器具と歯との間に働く力の相互作用を解析するために、有限要素解析などの複雑な計算処理が行われる。このため、高い演算能力を有するCPUを用いる必要があり、更に、必要な計算処理を実効するために膨大な時間が必要となってしまう。
【0008】
一方、処理速度を向上させるために、簡易的な理論に従ったシミュレーションを実施することも行われている。例えば、矯正対象の歯が、外部からの力によって並進移動するものと仮定し、簡易な演算処理でシミュレーションを実施することも行われている。しかしながら、そのようなシミュレーションでは、処理速度を向上させることができる一方で、その結果が不正確になる場合がある。即ち、矯正治療における歯の実際の動きが適切に反映されない解析処理が行われてしまう可能性がある。
【0009】
本開示は、複雑な有限要素解析などの計算処理を用いた従来の技術よりも、計算処理のための負荷が軽く、正確な解析処理が可能な、歯科矯正治療のシミュレーション装置、プログラム、シミュレーション方法の一例を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本開示は、以下の手段を提供する。
本開示のシミュレーション装置は、アライナを用いて患者の歯の矯正治療を行う際の、患者の歯の動きを予想するシミュレーション装置である。本開示のシミュレーション装置は、患者の歯情報と、アライナ情報に基づいて、所定の歯の矯正後の配置位置及び姿勢を示す配置状態を算出する移動計算部を備えている。歯情報とは、患者のそれぞれの歯の形状に関する情報と、矯正治療が行われる前の患者の歯の配列状態を示す情報、及び患者の歯の周囲組織に関する情報を少なくとも含む情報である。アライナ情報とは、アライナの形状や物性に関する情報を少なくとも含む情報である。そして、移動計算部は、アライナによって所定の歯に作用される矯正力と、所定の歯に矯正力が作用された際に、所定の歯の周囲組織によって生じる負荷の大きさに基づいて配置状態を算出する。この際、移動計算部は、その負荷の大きさを、時間の経過とともに所定の特性に従って減衰する減衰モデルを用いて算出して配置状態を算出する。
【0011】
上記のように構成されることで、歯の周囲組織の特性を考慮した正確なシミュレーションを行うことができる。即ち、本開示のシミュレーション装置は、従来の技術のような複雑な演算処理を行うことなく、矯正治療による所定の歯の動きや、矯正治療後の歯の配列状態を、歯の周囲組織の特性を考慮して正確に予測することができる。
【0012】
上記の開示において、減衰モデルは、所定の物質のクリープ現象に基づいた数学的モデルであることが好ましい。このようにされることで、複雑な演算処理を行うことなく、実際の周囲組織の特性が考慮された負荷の大きさを計算することによって、矯正治療後の歯の配置状態を正確に予測することができる。
【0013】
上記の開示において、移動計算部は、歯情報及びアライナ情報に基づいて、アライナと、患者の歯と、及び歯の周囲組織のそれぞれが、梁状の形状をした複数の梁要素を用いて表された簡易モデルを用いて配置状態を算出することが好ましい。この簡易モデルを構成する梁要素のそれぞれは、アライナ、歯、及び歯の周囲組織のいずれかの一部にそれぞれ対応し、移動計算部は、それぞれの梁要素が、それらが対応する部分が有する物性に対応した曲げ剛性、及び捩り剛性を有するものとして配置状態を算出することが好ましい。
【0014】
このように構成されることで、アライナと、歯と、及び歯の周囲の組織のそれぞれが、簡易なモデルで表されるため、それぞれの間の相互作用を考慮したシミュレーションを、解析処理のための計算負荷が軽減される。即ち、各部の特徴が反映された、正確なシミュレーションを、向上した処理速度で行うことができる。
【0015】
上記の開示において、移動計算部は、歯に、矯正治療に用いられるアタッチメントが設けられている場合には、アタッチメントが設けられている歯に関連するアライナの部分に対応する梁要素の捩り剛性を、矯正対象の歯にアタッチメントが設けられていない場合よりも大きな値に設定して配置状態を算出することが好ましい。
【0016】
上記のように構成されることで、所定の歯にアタッチメントが設けられている場合の特性を適切に反映したシミュレーションを、追加のプロセスを行うことなく実施することができる。
【0017】
更に本開示は、上記のシミュレーション装置として電子計算機器(コンピュータ)を作動させるためのプログラムや、同様の処理を行うシミュレーション方法も含まれる。
【発明の効果】
【0018】
本開示のシミュレーション装置、プログラム、シミュレーション方法によれば、従来の技術よりも向上した処理速度で、各部の特性が反映された正確なシミュレーションを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本開示のシミュレーション装置を説明するブロック図である。
【
図2】本開示のシミュレーション装置の機能を説明するブロック図である。
【
図3】
図3(a)は、歯に作用される力を説明する概略図である。
図3(b)は、歯とアライナを説明する概略図である。
【
図4】矯正力とアライナの変化量の関係を示す数学的モデル(矯正力算出モデル)の一例を説明する図である。
【
図5】歯の周囲組織による負荷の時間変化の様子を示す数学的モデル(減衰モデル)の一例を説明する図である。
【
図7】処理の流れの一例を説明するフロー図である。
【
図8】矯正治療前の歯の配置状態の一例を説明する図(STL画像)である。
【
図9】事前に設定された、理想的な歯の配置状態を説明する図である。
【
図11】解析処理後の結果を示す三次元画像の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本開示のシミュレーション装置1について、主に
図1から
図7を参照しながら説明を行う。以降の説明において、前後、左右、上下の方向は、特に断りのない限りそれぞれ図中に示す方向とする。また、患者の歯の口腔の側を内側と、その反対の側(唇側あるいは頬側)(口腔前庭の側)を外側と記載する。また、患者の歯の外側を向く面を外側面あるいは前庭面と、患者の歯の口腔側の面を内側面あるいは口腔面とも記載する。また、歯を噛み合わせた際に、向かい合う歯と噛み合う側の面(食物などが咀嚼される面)を咬合面とも記載する。
【0021】
1.構成の説明
はじめに、シミュレーション装置1の構成について説明する。シミュレーション装置1は、汎用のコンピュータ(電子計算機器)に専用のソフトウェア(プログラム)がインストールされたものである。シミュレーション装置1は、コンピュータ本体10と、入力デバイス3と、表示/出力装置4を主に備えている(
図1参照。)。シミュレーション装置1は、上記とは異なる追加の構成を更に備えたものであってもよい。
【0022】
コンピュータ本体10は、CPU5や、RAMやROMなどのメモリ6や、インターフェース部7といった、汎用のコンピュータやサーバ装置が通常備える構成を備えている。インターフェース部7としては、通信インターフェースや入出力デバイスインターフェースなどが例示される。またコンピュータ本体10は、ハードディスクやSDDなどの汎用の記憶装置である記憶部2も備えている。記憶部2は、コンピュータ本体10に内蔵されたものであっても、外付けされたものであってもよい。あるいは、コンピュータ本体10が接続されたネットワークに、アクセス可能に接続されている記憶装置や、同ネットワークに接続されている、他のコンピュータやサーバ装置が備える記憶装置であってもよい。また、記憶部2は、複数の記憶装置が組み合わされたものであってもよい。コンピュータ本体10の構成は、以下に説明するそれぞれの機能が実現できる構成であれば、上記には限定されない。
【0023】
入力デバイス3は、使用者が操作を行うマウスやキーボードなどのデバイスである。表示/出力装置4は、コンピュータ本体10からの出力信号に応じた出力を行う出力装置である。表示/出力装置4としては、LCDディスプレイなどの表示装置や、プリンタなどが例示されるが、特に限定される訳ではない。
【0024】
シミュレーション装置1は、記憶部2などにインストールされた専用のプログラムが読み出され、CPU5や、メモリ6や、及びインターフェース部7などのハードウェアと協働した作動を行うことによって、詳細は以降に記載する各部の機能を実現する。
【0025】
具体的に説明を行うと、シミュレーション装置1は、専用のプログラムと、コンピュータを構成するハードウェアが協働して作動することで、情報取得部11、配列計算部12、移動計算部13、及び表示信号出力部14のそれぞれが有する各機能を実現している。換言すれば、シミュレーション装置1は、情報取得部11、配列計算部12、移動計算部13、及び表示信号出力部14を備えている(
図2参照。)。各部が有する機能の詳細は後述する。なお、シミュレーション装置1は、以下に記載する各部の機能をそれぞれ有する、専用のハードウェアから構成されたものであってもよい。
【0026】
情報取得部11は、X線CT装置などによって取得された患者の三次元情報から、歯の形態に関する情報や、その周囲の組織の形態に関する情報や、及び組織の特性に関する情報などを取得する機能を有する。以降において、情報取得部11が取得する患者の歯やその周囲の組織に関する情報を少なくとも含む情報を「歯情報」とも記載する。
【0027】
歯情報には、患者のそれぞれの歯の形状に関する情報や、矯正治療が行われる前の患者の歯並び(歯の配列状態)を示す情報が少なくとも含まれる。例えば、患者の上下歯列のそれぞれ歯の歯冠部及び歯根部の三次元形状に関する情報や、それぞれの歯の配置位置や姿勢(傾き)に関する情報、及びそれぞれの歯の配列状態を示す情報などが少なくとも含まれる。
【0028】
また、歯情報には、歯の周囲を囲む組織に関する情報も含まれている。歯の周囲を囲む組織とは、歯茎や、歯槽骨や、及び歯根膜などの部分である。以降の説明において、上記の患者の歯の周囲を囲む組織を「歯の周囲組織」又は単に「周囲組織」とも記載する。
【0029】
歯の周囲組織に関する情報には、例えば歯槽骨の形状や、歯槽骨と対応する歯との間の距離(歯根膜などの組織の厚さ)などを示す情報も含まれる。また、歯の周囲組織に関する情報には、その特性を表す情報も含まれる。周囲組織の特性を表す情報としては、患者の骨密度が例示されるが、その他の歯の周囲の組織の物理的、あるいは生理学的な特徴などを表す情報が含まれていてもよい。
【0030】
歯情報には、特定の歯にアタッチメントが設けられている場合に、そのアタッチメントに関する情報も含まれる。即ち、アタッチメントが設けられている歯の位置や、アタッチメントの形状に関する情報も含まれる。歯にアタッチメントが設けられている場合の詳細は後述する。
【0031】
情報取得部11は、取得した歯情報に含まれる、歯やそれらの周囲組織の形態に関する三次元情報が、所定のフォーマットに従った汎用性のあるデータに変換された情報を取得する。この汎用性のあるデータとしては、STLデータが例示される。なお、情報取得部11は、他のフォーマットに従ったデータに変換された情報を取得してもよい。以降において、情報取得部11が変換したデータを、「STL情報」とも記載する。情報取得部11によって取得された歯情報と、変換されたSTL情報は、記憶部2に記憶される。なお、情報取得部11が、X線CT装置などによって取得された情報に基づいて、STL情報などの汎用性のあるデータに変換をする機能を有してもよい。 更に情報取得部11は、使用者が入力デバイス3などを用いて入力した情報に基づいて、患者に関する情報や、アライナに関する情報などを取得する機能も有する。患者に関する情報としては、患者の骨密度に関する情報や、患者の年齢に関する情報などが例示される。アライナに関する情報としては、アライナの素材(材質)などの情報が例示される。
【0032】
配列計算部12、移動計算部13、及び表示信号出力部14は、主にシミュレーションのための解析処理、及びその結果の出力処理を行う部分である。配列計算部12は、解析処理のプリプロセッサとしての機能を有する。
【0033】
配列計算部12は、使用者による操作に従って、矯正治療後の理想的な歯並びの状態を示す三次元情報を生成する機能を有する。具体的には、使用者が入力デバイス3などを操作して設定した、患者の歯が理想的な状態で並んでいる様子を示す三次元情報(理想的な歯並びを示す情報)を作成する機能を有する。
【0034】
更に配列計算部12は、矯正治療に用いられるアライナに関する情報を作成する機能を有する。アライナに関する情報には、解析処理に必要となるアライナの寸法に関する情報が含まれる。このアライナの寸法に関する情報には、アライナの各部の寸法、及び矯正治療が行われる際のアライナの変形割合に関する情報が少なくとも含まれる。
【0035】
具体的に説明を行うと、配列計算部12は、患者の歯情報に含まれる歯などの形態に関する情報や、使用者が設定した理想的な歯の配列状態を示す情報に基づいて、患者の歯に対応する、アライナのそれぞれの部分の寸法に関する情報を算出する機能を有する。また、配列計算部12は、アライナの寸法に関する情報の一つとして、矯正治療が行われる際のアライナの変形割合を算出する機能を有する。即ち、配列計算部12は、矯正対象の歯を、使用者が設定した理想的な位置まで移動させるために、アライナを元の状態からどの程度変形させる必要があるか(どの程度引き延ばす必要があるか)を、アライナの寸法に関する情報の一つとして算出する機能を有する。前述のように、アライナを用いた矯正治療では、患者がアライナを装着すると、アライナの矯正対象の歯に対応する部分が引き延ばされ(変形され)、その部分が元に戻ろうとする力によって、歯の矯正が行われる。即ち、矯正対象の歯を、理想的な位置まで移動させるのに必要な移動距離(矯正移動距離)は、矯正治療のためにアライナが変形される量(引き延ばされる長さ)に相当する。このため配列計算部12は、使用者が設定した理想的な歯の配列状態を示す情報と、矯正治療前の歯の配列状態を示す情報に基づいて、矯正対象の歯を、理想的な位置まで移動させるのに必要な移動距離(矯正移動距離)を算出する。そして、算出した矯正移動距離を、矯正治療の際にアライナが変形される量として記憶部2に記憶させる機能を有する。
【0036】
一つのアライナで矯正対象の歯を動かすことができる距離は限られているため、実際の矯正治療では、複数のアライナが用いられる。即ち、矯正治療の際にアライナが変形される量は、矯正治療に用いられる各アライナのそれぞれの変形量(引き延ばされる長さ)の総和である。換言すれば、矯正移動距離は、矯正治療に用いられる各アライナの変形量(引き延ばされる長さ)の総和に相当する。
【0037】
また、配列計算部12は、矯正治療を行う際に必要となるアライナの数を算出する機能も有する。前述のように、一つのアライナで矯正対象の歯を動かすことができる距離は限られている。このため、配列計算部12は、矯正治療に必要となるアライナの数を、矯正対象の歯を理想的な位置まで移動させるのに必要な移動距離と、一つのアライナによって矯正対象の歯を移動させることができる距離に基づいて算出する機能を有する。
【0038】
更に配列計算部12は、矯正対象の歯が、矯正治療期間中にアライナから受ける力を算出する機能を有する。以降において、患者の歯がアライナから受ける力、言い換えるとアライナによって所定の歯に働く力を「矯正力」とも記載する。配列計算部12は、アライナの寸法に関する情報、及びアライナの物性に関する情報に基づいて、詳細は後述する矯正力算出モデルを利用して矯正力の大きさを算出する。
【0039】
アライナの物性に関する情報とは、アライナを構成する素材の物理的な特性などを示す情報である。このアライナの物性に関する情報には、例えば、アライナを構成する素材(材質)の曲げ剛性や捩り剛性などの情報が含まれる。
【0040】
以降の説明において、上述したアライナに関する情報を「アライナ情報」とも記載する。即ち、アライナの寸法に関する情報、及びアライナの物性に関する情報などの患者の矯正治療に用いられるアライナに関する情報を総括して「アライナ情報」とも記載する。
【0041】
更に配列計算部12は、患者の歯、その周囲組織、及びアライナが、実際の形状よりも簡易な形状で表された簡易モデルを作成する機能を有している。具体的には、配列計算部12は、歯情報とアライナ情報に基づいて、歯と、その周囲組織と、及びアライナのそれぞれの部分が、梁状の形状をした複数の梁要素で表された簡易モデルを作成する機能を有している。簡易モデルの詳細は後述する。
【0042】
移動計算部13は、アライナを用いた矯正治療によって、患者の所定の歯に作用する力をそれぞれ解析し、アライナによる矯正治療による歯の動きを算出する部分である。言い換えると、移動計算部13は、装着されたアライナによる影響が及ぶ患者の歯のそれぞれに作用する力を解析し、それぞれの歯の動きを算出する。
図3(a)を参照して説明を行うと、一般的に患者がアライナ26を装着すると、アライナ26が装着された歯冠部20aは、アライナ26の引き延ばされた部分が元に戻ろうとする方向に、アライナ26から矯正力Fを受ける。一方、歯根部20bは、歯茎23や歯根膜24及び歯槽骨25などの周囲組織に囲まれているため、矯正力Fが作用されると、その周囲組織から、矯正力Fの向きとは逆向きの力(負荷R)を受ける(
図3(a)参照。)。
【0043】
所定の方向の力が加えられている状態において、歯が、その周囲組織から受ける負荷R(抵抗)の大きさは、時間の経過と共に減少することが知られている。移動計算部13は、この負荷Rの大きさを、時間の経過と共に所定の特性に従って減少する減衰モデルを用いて算出する機能を有している。減衰モデルの詳細は後述する。
【0044】
また、移動計算部13は、配列計算部12が作成した簡易モデルと、アライナによる矯正力と、減衰モデルを用いて、矯正治療後のそれぞれの歯の配置位置やその姿勢(傾き)を算出する機能を有している。以降において、所定の歯の配置位置や姿勢を示す状態を「配置状態」とも記載する。また移動計算部13は、算出したそれぞれの歯の配置状態に基づいて、その際の歯並び(歯の配列状態)を示す情報を作成する機能も有している。
【0045】
表示信号出力部14は、解析処理におけるポストプロセスを行う部分であり、情報取得部11によって変換されたSTL情報や、移動計算部13が算出した解析結果に基づいて、三次元画像を生成する機能を有する。以降において、STL情報に基づいて作成された画像を「STL画像」とも記載する。即ち、表示信号出力部14は、記憶部2に記憶されているSTL情報や、移動計算部13が行った解析処理結果に基づいて、それぞれの歯の配置状態が表された三次元画像情報を生成する機能を有する。表示信号出力部14が生成した三次元画像情報は、表示/出力装置4に出力される。以降の説明において、矯正治療前の患者の歯並びの状態を示す三次元画像を、「矯正治療前の三次元画像」とも記載する。また、使用者による操作に従って設定された、理想的な歯並びの状態を示す三次元画像を「理想的な歯並びの三次元画像」とも記載する。
【0046】
記憶部2は、シミュレーションに必要となる情報が記憶される部分である。記憶部2には、シミュレーションを行うための専用のプログラムが記憶されている。また、記憶部2には、患者の歯情報や、STL情報や、使用者が設定した患者の歯の理想的な配列状態に関する情報や、移動計算部13が算出した情報などが記憶される。
【0047】
また、記憶部2には、アライナの物性に関する情報が記憶されている。具体的には、アライナを形成するために一般的に利用される素材の物性に関する情報が、その素材の名前や種類を表す情報に紐付けられて記憶されている。また、記憶部2には、詳細は後述する矯正力算出モデルに関する情報や、減衰モデルに関する情報も記憶されている。
【0048】
2.矯正力算出モデルについて
アライナは、弾性を有する素材から形成されているため、アライナを引き延ばすなどして変形させた場合には、元の状態に戻ろうとする力が生じる。この元に戻ろうとする力の大きさは、アライナの変形割合に応じて変化する。即ち、アライナは、その変化割合が大きな場合には、大きな力(矯正力)が生じ、その変形割合が小さくなるにつれて、その力の大きさが減少するという特性を有する。ここで変形割合とは、アライナの形状が、元の状態からどの程度変形しているかを示す情報(変化量)である。
【0049】
シミュレーション装置1は、上記のアライナの特性に基づいて、矯正力を算出する。具体的には、
図4に例示されているような、アライナの変形割合(変化量)と、矯正力(変形された状態から元に戻ろうとする力)の関係を表す数学的モデルである矯正力算出モデルを用いて、アライナが装着された際に生じる矯正力の大きさを算出する。シミュレーション装置1は、アライナ情報と歯情報に基づいて、所定のアライナが患者に装着された際のアライナの変形割合を算出する。そして、シミュレーション装置1は、算出した変形割合に基づいて、対応する矯正力算出モデルを参照し、矯正力を算出する。
【0050】
アライナの変形割合(変化量)と、矯正力の関係は、アライナを構成する素材によって異なるため、記憶部2には、アライナの素材(材質)に対応した複数の矯正力算出モデルが記憶されている(
図4参照。)。
図4には、アライナの材質に応じて特性の異なる3つの矯正力算出モデルM1,M2,M3が示されている。即ち、患者によって入力されたアライナの素材(材質)に関する情報に従って、矯正力算出モデルM1,M2,M3のいずれかが選択されて、矯正力が算出される。なお、
図4は例示であって、矯正力算出モデルの数やそれらの特性は、
図4に示されている内容に限定されない。
【0051】
3.減衰モデルについて
前述のように、歯に矯正力が作用されている状態において、その歯が、その周囲組織から受ける負荷R(抵抗)の大きさは、時間の経過とともに所定の特性に従って減少(減衰)することが知られている。これは、歯根部を囲む歯槽骨の、矯正力によって力を受けている側の組織(
図3(a)において、破線で囲まれている領域Pの組織)が、歯が受ける負荷Rの反作用の力による圧力によって死滅するとともに、その反対側の組織(
図3(a)において破線にて囲まれている領域Qの組織)が成長するためであると言われている。このため、矯正力が加えられた歯が、周囲組織から受ける負荷(抵抗)の大きさは、一般的に何れの患者においても、同じ特性(傾向)に従って減少(減衰)することが知られている。
【0052】
シミュレーション装置1は、この時間の経過に伴い、所定の特性に従って負荷の減少を表す数学的モデルである減衰モデル(
図5参照)を用いて、所定の時間における負荷(抵抗)の大きさを算出する。この所定の特性とは、負荷の大きさが、はじめの一定の期間においては、大きな割合で減少し、次第にその減少の割合が徐々に緩やかになり、その後は緩やかに減少する
図5に例示されているような特性である。移動計算部13は、アライナの装着後に経過した時間に基づいて、この減衰モデルを参照し、矯正力を受けている歯が、周囲組織から受ける負荷(抵抗)の大きさを算出する処理を行う。
【0053】
この減衰モデルは、複数の臨床模型が用いられた物理実験の結果と、その解析データから、患者の歯に矯正力が作用された際に周囲組織に生じる特性が、特定の物質のクリープ現象の特性と類似していることに着目して作成された数学的モデルである。即ち、この減衰モデルは、患者の歯に矯正力が作用された際に、その歯槽骨などの周囲組織に生じる生理学的な現象に基づく特性が、物理現象の一つである物質のクリープ現象に類似した特徴を有していることに着目して作成された数学モデルである。ここで、特定の物質とは、周囲組織に生じる生理学的な現象に基づく特性と、類似した特性のクリープ現象が生じる任意の物質であって、患者の歯の周囲組織の組成に含まれる物質と異なる物質であっても、あるいは患者の歯の周囲組織の組成に含まれる物質と同じ物質であっても構わない。
【0054】
減衰モデルは、実際の組織の特性が反映された臨床模型を用いた物理実験の結果とその解析データとに基づいて、実際の歯槽骨などの周囲組織に生じる現象の特性と同じ特性になるように作成されている。この物理実験に用いられた臨床模型は、複数の患者や被験者から得られた複数の臨床データ(歯情報)に基づいて作成された模型であり、人体の歯とその周囲組織の物理的な特徴などが反映されたものである。減衰モデルによって、臨床模型を用いた物理実験の結果と非常に近似した結果が得られることが確認されている。
【0055】
なお、矯正力が加えられた歯が、周囲組織から受ける負荷(抵抗)の大きさや、その減衰の特性は、周囲組織の状態によって異なることが知られている。例えば、患者の骨密度や、患者の年齢などに応じて、その周囲組織から受ける負荷(抵抗)の特性が異なることが知られている。このため記憶部2には、患者の年齢や、骨密度などの患者に関する情報に応じた、複数の減衰モデルが記憶されている。
図5には、患者の骨密度に応じた、特徴の異なる3つの減衰モデルm1,m2,m3が示されている。即ち、使用者によって入力された、骨密度などの患者に関する情報に従って、減衰モデルm1,m2,m3が選定され、周囲組織から受ける負荷(抵抗)の大きさが算出される。なお、
図5は例示であって、減衰モデルの数やそれらの特性は、
図5に示されている内容に限定されない。
【0056】
4.簡易モデルについて
以降において、解析処理に用いられる簡易モデルについて、説明を行う。本開示のシミュレーション装置1にて用いられる簡易モデルは、患者の歯、その周囲組織、及びアライナが、梁状の形状をした複数の梁要素で表されたモデルである。配列計算部12は、予め定められた条件に従い、患者の歯、周囲組織、及びアライナなどの部分を、それぞれ分割し、分割されたそれぞれの部分に対応する梁要素を生成する。具体的には、配列計算部12は、歯情報、及びアライナ情報に基づいて、分割された部分に対応する梁要素を生成する。そして配列計算部12は、分割されたそれぞれの部分が、生成された梁要素にて置き換えられた簡易モデルを生成する。即ち、配列計算部12は、実際の歯や、その周囲組織や、アライナのそれぞれの部分の寸法に関する情報や、それぞれの部分の物性に関する情報が、反映された簡易な形状のモデルを生成する。
【0057】
以降において、主に
図3(b)及び
図6を参照して、簡易モデルの詳細を説明する。なお、
図3(b)には、患者の上顎側の隣接した2本の歯30,40と、歯30,40の周囲組織60と、矯正治療に用いられるアライナ50の一部であるアライナ部50Pが示されている。ここで、アライナ部50Pについて具体的に説明を行うと、アライナ部50Pは、歯30の外側面、内側面、及び咬合面のそれぞれの約半分の領域(歯40の側の約半分の領域)と、更に歯40の外側面、内側面、及び咬合面のそれぞれの約半分の領域(歯30の側の約半分の領域)を覆うアライナ50の部分である。
図3(b)において斜線が引かれた領域がアライナ部50Pである。
【0058】
以降において、上記のように隣接している二つの歯の、それぞれの歯の隣接する側の約半分の領域を総称して、二つの歯の間の区間とも記載する。例えば、上記においてその咬合面の側がアライナ部50Pにて覆われている、歯30の歯40の側の部分と、歯40の歯30側の部分を総称して、歯30と歯40の間の区間とも記載する。
【0059】
図6には、
図3(b)に対応する簡易モデル100が示されている。
図6において、X軸の正方向が、患者の口腔から外側に向かう方向に対応し、X軸の負方向が、内側に向かう方向に対応する。
【0060】
簡易モデル100において、歯30は、梁要素31aと梁要素31bが節点33にて直線状につながれた梁部30Aにて表されている。梁要素31aは、
図6において節点32と節点33の間をつなぐ二点鎖線で示された部分であり、梁要素31bは、節点33と節点34をつなぐ二点鎖線で示された部分である。梁要素31aは歯30の歯冠部に対応し、梁要素31bは、歯30の歯根部に対応している。歯40も同様に、梁要素41aと梁要素41bが節点43にて直線状につながれた梁部40Aにて表されている。梁要素41aは、節点42と節点43の間をつなぐ二点鎖線で示された部分であり、梁要素41bは、節点43と節点44の間をつなぐ二点鎖線で示された部分である。
【0061】
簡易モデル100において、歯30と歯40の間の区間を覆うアライナ部50Pは、4本の梁要素51f,51r,52f,52rにて表されている。梁要素51f,52fは、歯30,40の外側面に配置される部分に対応する。梁要素51r,52rは、歯30,40の内側面に配置される部分に対応する。梁要素51f,51rは、歯30と歯40の間の区間の咬合面の側に配置される部分に対応し、梁要素52f,52rは、歯30と歯40の間の区間の歯茎側に配置される部分に対応する。
【0062】
アライナ部50Pを表す梁要素の数は、2本以上であれば、4本とは異なる本数の梁要素で表されていてもよい。例えば2本や3本の梁要素で表されてもよく、あるいは5本以上の梁要素にて表されてもよい。
【0063】
簡易モデル100において、節点32は、歯30の咬合面の、歯根部から離れる方向に最も突出した部分に対応している。節点35は、歯30の内側面、あるいは外側面のうち、内側あるいは外側に最も突出した部分に対応している。節点42、及び節点45についても同様である。また、梁要素53f~56f,及び梁要素53r~56rは、それぞれ歯30の歯冠部の部分を表している。
【0064】
簡易モデル100において、節点33は、歯30の歯冠部と歯茎との境に対応する。また、節点34は、歯30の歯根部の咬合面から遠い側の端部に対応する。節点43,44も同様に、歯40のそれぞれの部分に対応している。
【0065】
簡易モデル100において、歯30の歯根部の周囲を囲む、歯槽骨などの周囲組織60は、梁要素36x,36y,36zと、梁要素37x,37y,37zにて表されている。梁要素36x,36y,36zは、歯30の周囲組織60のうち、歯30の歯冠部に近い側の組織に対応する。また、梁要素37x,37y,37zは、歯30の周囲組織60のうち、歯30の歯冠部から遠い側の組織に対応する。歯40の歯根部の周囲を囲む周囲組織60も同様に、梁要素46x,46y,46zと、梁要素47x,47y,47zにて表されている。
【0066】
梁要素36x,36y,36zのそれぞれは、簡易モデルの基準座標のX,Y,Z軸と同じ方向に延びている。即ち梁要素36xは、X軸と同じ方向に延び、梁要素36yは、Y軸と同じ方向に延び、梁要素36zは、Z軸と同じ方向に延びている。即ち梁要素36xは、歯30の周囲組織60のX軸方向の特性を表しており、梁要素36yは、歯30の周囲組織60のY軸方向の特性を表しており、更に梁要素36zは、歯30の周囲組織60のZ軸方向の特性を表している。梁要素37x~37z、梁要素46x~46z、及び梁要素47x~47zも同様である。以降において、梁要素36x~36zを総称して梁部36とも記載する。また、梁要素37x~37z、梁要素46x~46z、及び梁要素47x~47zも同様に、梁部37、梁部46、梁部47とも記載する。このように周囲組織60が、簡易モデルの基準座標のX,Y,Z軸と同じ方向に延びる複数の梁要素で表されることで、周囲組織60の特性が適切に反映されたモデルとなる。
【0067】
配列計算部12は、それぞれの梁要素の長さを、原則として対応する部分の実際の長さに対応した長さで表す。例えば、簡易モデル100において梁要素31aと梁要素31bは、それぞれ歯30の歯冠部と歯根部のそれぞれの実際の長さに対応する長さで表されている。一方、梁要素の長さは、対応する部分の実際の特性が正確に反映されて、適切な解析が行われるように、最適化(修正)されてもよい。また、周囲組織60を表す梁要素は、周囲組織60の特性に応じた長さが設定される。例えば梁要素36x,36y,36z、及び梁要素37x,37y,37zのそれぞれの梁要素の長さは、歯30に矯正力が作用された場合に生じる負荷の基準軸方向(X,Y,Z方向)の成分が適切に表される長さがそれぞれ設定されている。
【0068】
簡易モデル100において、それぞれの梁要素は、対応する部分が有する物性に対応した特性がそれぞれ設定される。この特性には、対応する部分の物性に対応した曲げ剛性と捩り剛性が含まれる。例えばアライナ部50Pを表す梁要素51f~52rには、アライナ部50Pのそれぞれの梁要素が対応する部分が有する物性に対応した特性がそれぞれ設定されている。例を挙げて説明をおこなうと、梁要素51fには、アライナ部50Pの、歯30,40の外側面の咬合面の側を覆う部分が有する物性に対応した、曲げ剛性や捩り剛性などの特性がそれぞれ設定される。梁要素51r,52f,52rも同様に、それぞれの梁要素が対応するアライナ部50Pの部分が有する物性に対応した、曲げ剛性や捩り剛性などの特性が設定される。
【0069】
他の梁要素についても同様に、対応する部分が有する物性に対応した特性が、それぞれ設定される。即ち、梁要素31a,31b,41a,41b,及び梁要素53f~56rは、剛体である歯30,40に対応する部分であるため、剛体としての特性がそれぞれ設定される。また、梁要素36x~37z、及び梁要素46x~47zには、例えば歯槽骨の形状や歯30,40と歯槽骨との間の距離(歯根膜の厚さなど)や、骨の骨密度など、周囲組織60の特徴から推定される特性が反映される。即ち、歯情報に基づいて得られる周囲組織60の特性の、基準軸方向の成分が、対応する梁要素に割り当てて設定される。
【0070】
<特定の歯にアタッチメントが設けられている場合>
患者の歯に、アライナを固定するためのアタッチメントが設けられていた場合には、配列計算部12は、そのアタッチメントが設けられている歯に関連するアライナの各部分に対応する梁要素の捩り剛性を、アタッチメントが設けられていない場合よりも大きな値に設定する。ここで、アタッチメントが設けられている歯に関連するアライナの各部分とは、そのアタッチメントの存在によって力学的な影響を受けるアライナのそれぞれの部分である。例えば、アタッチメントが設けられている歯と、その歯に隣接する歯との間を覆うアライナの部分や、アタッチメントが設けられている歯から一定の長さの範囲にあるアライナの部分である。
【0071】
患者の歯にアタッチメントが設けられていた場合には、アライナの対応する部分がアタッチメントに嵌合して固定された状態になるため、アライナがずれたり、捩れたりしにくくなる。このため配列計算部12は、患者の歯にアタッチメントが設けられている場合には、その部分に通常よりも捩れにくいアライナが装着されていると見なして、その歯に関連するアライナの部分に対応する梁要素の捩り剛性を、大きな値に設定する。即ち、その梁要素の捩り剛性を、アタッチメントが設けられていない場合よりも大きな値に設定する処理を行う。配列計算部12が、このような処理を行うことで、簡易な方法によって、アタッチメントによる特性が、簡易モデルに反映される。
【0072】
5.簡易モデルを用いた解析処理(シミュレーション)
以降において、移動計算部13が行う、簡易モデルを用いた解析処理について説明を行う。前述のように移動計算部13は、アライナを用いた矯正治療が行われる際に、患者の歯に加わる力をそれぞれ解析し、矯正期間中における患者の歯の動きを算出する。移動計算部13は、この処理を行う際に、簡易モデルに、前述の矯正力算出モデルと減衰モデルをそれぞれ適用して解析処理を行う。
図6を参照して具体的に説明を行うと、移動計算部13は、簡易モデル100のアライナ部50Pに対応する梁要素に、それぞれ矯正力算出モデルを適用し、アライナ部50Pの各部に生じる変形割合に基づいて各梁要素によって生じる力を算出して解析処理を行う。例えば、移動計算部13は、簡易モデル100の梁要素51fに、矯正力算出モデルを適用し、アライナ部50Pの対応する部分の変形割合に基づいて、その部分に生じる矯正力を算出する。アライナ部50Pの他の部分に対応する梁要素51r,52f,52rについても同様に、矯正力算出モデルを適用して、それぞれの部分によって生じる、矯正力を算出する。
【0073】
また移動計算部13は、簡易モデル100の周囲組織60に対応する梁部36,37,46,47を構成する梁要素のそれぞれに減衰モデルを適用して、各梁要素によって生じる負荷の大きさを算出して解析処理を行う。例えば、移動計算部13は、歯30の歯冠部側の周囲組織60に対応する梁要素36x,36y,36zに減衰モデルを適用して、梁要素36x,36y,36zによって生じる負荷の大きさを算出する。
【0074】
そして、移動計算部13は、それぞれの梁要素がなす角度や、各梁要素の長さやそれらの回転モーメント、及び各梁要素に設定された特性(曲げ剛性、及び捩り剛性)などに基づいて、所定の時間が経過した後の簡易モデル100の状態を算出する。
【0075】
6.処理のフロー
以降において、主に
図7~
図11を参照して、シミュレーション装置1による処理の流れを説明する。即ち、シミュレーション装置1によるシミュレーション方法について説明を行う。以降において、矯正治療に用いられるアライナを、アライナ80と記載する。
【0076】
はじめに、情報取得部11が、患者の歯情報を取得する(S100)(歯情報取得ステップ)。情報取得部11は、DICOMなどの規格に従ってX線CT装置などから出力されたデータから歯情報を取得してもよい。あるいは、情報取得部11は、コンピュータ本体10が、X線CT装置などと直接通信を行って取得した情報から、歯情報を取得してもよい。歯情報を取得するために用いられる患者の三次元情報は、X線CT装置からの情報に限定される訳ではなく、例えばX線以外の光を利用して三次元情報を取得するX線CT装置とは異なる装置からの情報であってもよい。情報取得部11は、取得した歯情報を記憶部2に記憶させる。
【0077】
情報取得部11は、例えば表示/出力装置4に入力画面を表示させ、使用者に情報の入力を求めるなどの方法で、患者に関する情報を取得する。例えば、患者の骨密度に関する情報や、患者の年齢に関する情報など、解析処理に必要となる患者の情報を取得する。患者の骨に関する情報は、取得したX線CT装置などの画像情報に基づいて、情報取得部11やコンピュータ本体10の他の部分が算出してもよい。あるいは、患者の年齢に基づいて、記憶部2に記憶されている、標準的な骨密度が年齢と紐付けられたテーブルを参照して得られる骨密度の情報が用いられてもよい。情報取得部11は、取得した患者に関する情報を、歯情報の一部として記憶部2に記憶させる。
【0078】
また情報取得部11は、使用者に矯正治療に用いられるアライナの素材(材質)に関する情報の入力を求めて、アライナの素材(材質)に関する情報を取得する。情報取得部11は、取得したアライナの素材に関する情報を、アライナ情報の一部として記憶部2に記憶させる。
【0079】
更に情報取得部11は、記憶部2に記憶させた歯情報を読み出し、STL情報に変換する(S110)。情報取得部11は、変換したSTL情報を記憶部2に記憶させる。
【0080】
続いて、使用者の操作に従って、矯正治療後の理想的な歯並びの状態を設定する処理が行われる。具体的には、表示信号出力部14が、STL情報に基づいて、矯正治療前の三次元画像を表示/出力装置4に表示する(S120)(
図8参照。)。
図8において、矯正治療前の患者の上顎側の歯である歯71~76のSTL画像が示されている。なお、
図8において、歯71~76の各歯根部を囲む周囲組織は示されていない。
【0081】
使用者は、表示/出力装置4に表示された矯正治療前の三次元画像を確認しながら、マウスなどの入力デバイス3を操作して、矯正対象の歯の位置や姿勢を設定する。配列計算部12は、使用者による操作に従って設定された、理想的な歯並びの状態を示す情報を作成する(S130)。表示信号出力部14は、作成された情報に基づいて理想的な歯並びを示す三次元画像を作成し、表示/出力装置4に表示させる(
図9参照。)。
図9には、使用者によって設定された理想的な配置の三次元画像が例示されている。
図9における歯71i~76iは、
図8における歯71~76にそれぞれ対応している。
図8において、歯73が矯正対象の歯であり、
図9には、
図8における歯73が、歯72と歯74との間の隙間に移動された、理想的な配列状態が示されている。
【0082】
使用者によって設定された理想的な配置の三次元画像は、矯正治療前の三次元画像と重ねて(オーバーレイされて)表示されてもよい。あるいは、矯正治療前の三次元画像とは異なる領域に表示されてもよい。
【0083】
使用者によって、理想的な歯並びの状態が設定されると、配列計算部12が、患者の矯正治療に用いられるアライナ80のアライナ情報を作成する。
【0084】
具体的に配列計算部12は、歯情報に基づいて、簡易モデルを作成する際に必要になる、アライナ80の各部分の寸法に関する情報を生成する。また、配列計算部12は、使用者が設定した理想的な歯の配列状態を示す情報と、矯正治療前の歯の配列状態を示す情報に基づいて、矯正治療が行われる際のアライナ80の変形割合(変形量)をアライナ情報として作成する。
【0085】
配列計算部12は、矯正治療中に矯正治療に用いられるアライナ80によって矯正対象の歯に作用される矯正力の全体の大きさを算出する。具体的には、矯正移動距離と、アライナ80の材質の物性に関する情報に基づいて、矯正治療に用いられるアライナ80によって、矯正治療中に歯に加えられる矯正力の大きさを算出する。
【0086】
配列計算部12は、アライナ80の寸法に関する情報とアライナ80の材質(素材)に関する情報をそれぞれ紐づけて、アライナ情報を生成する(アライナ情報作成ステップ)。配列計算部12は、アライナ情報と、算出した全体の矯正力の大きさに関する情報を、記憶部2に記憶する。
【0087】
続けて、アライナが装着された場合の解析処理が行われる(移動計算ステップ)。
はじめに、アライナ情報の読み出しが行われる(S150)(アライナ情報読み出し/更新ステップ)。具体的には、配列計算部12が、記憶部2を参照して、アライナ80のアライナ情報を読み出す。配列計算部12は、矯正治療前の歯のSTL情報も併せて読み出す。
【0088】
配列計算部12は、読み出したアライナ情報と、歯のSTL情報と、及び歯情報に基づいて、簡易モデル200を生成する(
図10参照)。具体的には、患者の歯71~76と、歯71~76のそれぞれの周囲組織と、アライナ80のそれぞれの部分が、対応する長さを有した梁要素にて置き換えられた簡易モデル200を作成する(S160)(簡易モデル作成ステップ)。
図10において、歯71は、梁要素71aと梁要素71bが直線状につながれた梁部71Aにて表されている。また歯72~76も同様に、梁部72A~76Aにて表されている。
図10において、梁部71A~76Aは、太い二点鎖線にて表されている。
【0089】
矯正治療に用いられるアライナ80のうち、歯71と歯72の間の区間を覆う部分は、4つの梁要素811f,811r,812f,812rから構成された梁部81Aにて表されている。また、アライナ80の歯72と歯73の間の区間を覆う部分は、同様に4つの梁要素から構成された梁部82Aにて表されている。歯73と歯74の間、歯74と歯75の間、及び歯75と歯76の間のそれぞれの間の部分を覆うアライナ80の部分も同様に、梁部83A,84A,85Aによって表されている。
図10において、梁部83A,84A,85Aは、太い破線にて表されている。
【0090】
歯71の周囲組織は、それぞれXYZ軸と同じ向きに伸びる3つの梁要素から構成された、梁部61a,61bにて表されている。歯72~歯76のそれぞれの周囲組織も同様に、梁部62a~66bによって表されている。
図10において、梁部61a~66bは、細い実線にて示されている。
【0091】
続いて移動計算部13は、アライナ80に対応する梁部81A~85Aを構成するそれぞれの梁要素に対して、矯正力算出モデルを適用して、梁部81A~85Aに生じる矯正力を算出する(矯正力算出ステップ)(S170)。なお、移動計算部13は、使用者によって入力された、アライナ80の素材(材質)に対応した矯正力算出モデルを選定して、それぞれの矯正力を算出する。移動計算部13は、算出した矯正力を、対応する梁要素にそれぞれ紐づけて、矯正力データとして記憶部2に記憶させる。
【0092】
移動計算部13は、歯情報と減衰モデルに基づいて、歯の周囲組織に対応するそれぞれの梁要素に、周囲組織に対応した特性を設定する(物性パラメータ設定ステップ)(S180)。歯71の周囲組織を例に説明を行うと、移動計算部13は、減衰モデルに基づいて、周囲組織が有する負荷としての特性を、梁部61a,61bを構成するそれぞれの梁要素に対して、その方向に応じて割り当てる。移動計算部13は、他の歯72~76の周囲組織についても同様に、歯情報と減衰モデルに基づいて、梁部62a~66bのそれぞれを構成する各梁要素に、対応する特性を割り当てる。なお、移動計算部13は、使用者によって入力された患者に関する情報(骨密度や年齢などの情報)に応じた減衰モデルを選定して、周囲組織に対応する梁要素に設定する。
【0093】
移動計算部13は、アライナ情報に基づいて、梁部81A~85Aを構成するそれぞれの梁要素に対して、対応するアライナ80の対応する部分が有する物性に応じた曲げ剛性、及び捩り剛性を設定する。
【0094】
移動計算部13は、簡易モデル200のそれぞれの部分に生じる力や負荷の大きさ、及びそれぞれの向きを算出するとともに、それぞれの時間変化を算出する処理を行う(シミュレーションスステップ)(S190)。移動計算部13は、その算出した結果に基づいて、一定の期間が経過した後の、それぞれの梁要素の位置や姿勢に関する情報を変更する処理を行う。即ち、移動計算部13は、一定の時間経過後の、梁部71A~76Aの配置状態を算出する。
【0095】
移動計算部13は、所定の時間が経過して、アライナ80による矯正が終了したと判断される状態となったら、その時点における簡易モデル200の情報を記憶部2に記憶させる。表示信号出力部14は、移動計算部13が解析処理を行った簡易モデル200の情報に基づいて、歯71~76の配列状態を示す三次元画像を生成し、矯正後のシミュレーション結果を示す三次元画像として表示/出力装置4に表示する(S200)(
図11参照。)。
【0096】
図11には、シミュレーション結果である歯71s~76sの三次元画像が表示されている。
図11における歯71s~76sは、それぞれ
図8の歯71~76に対応している。なお、シミュレーション結果を示す三次元画像は、使用者が設定した理想的な歯並びの三次元画像との違いが分かるように、理想的な歯並びの三次元画像に重ねて表示されてもよい。あるいは理想的な歯並びの三次元画像とは異なる領域に表示されてもよい。又は、矯正治療前の状態と比較できるように、矯正治療前の三次元画像に重ねて表示されてもよい。あるいは理想的な矯正治療前の三次元画像とは異なる領域に表示されてもよい。
【0097】
7.効果の説明
上記のように構成されたシミュレーション装置1では、移動計算部13が、歯情報とアライナ情報に基づいて、それぞれの歯の配置状態を算出する処理を行う。このため、患者の歯や、その周囲組織の状態や、矯正治療に用いられるアライナの特性に基づいた、解析処理行われる。換言すれば、患者の状態や、アライナの特性を考慮した矯正治療の効果を予測することができる。更に、移動計算部13が、患者の歯が、矯正治療中にその周囲組織から受ける負荷の大きさを、減衰モデルを用いて算出する。この減衰モデルは、簡易な数学的モデルであるため、従来のシュミュレーションと比べ、複雑な演算処理を行う必要がない。即ち、本開示のシミュレーション装置1によるシミュレーションでは、従来技術と比べ、必要となる演算処理能力が低減されている。このため、患者の歯の周囲組織の特性が適切に反映された正確な解析処理、従来のシミュレーション装置のような複雑な解析処理を行うことなく行うことができる。即ち、アライナを用いて患者の歯の矯正治療が行われる際の、歯の動きや、矯正後の歯の配列状態を、複雑な解析処理を行うことなく正確に予想することができる。シミュレーション装置1の専用プログラム、及びシミュレーション装置1によるシミュレーション方法も同様の効果を有する。
【0098】
この減衰モデルは、所定の物質のクリープ現象に基づいた数学的モデルである。このため、複雑な演算処理を行うことなく、実際の矯正治療における周囲組織の特性が適切に反映された、正確な解析処理を行うことができる。
【0099】
また、本開示のシミュレーション装置1では、歯や、歯の周囲組織や、及びアライナのそれぞれの部分が、複数の梁要素で表された簡易モデルを用いて解析処理が行われる。それぞれの梁要素は、対応する部分が有する物性に対応した曲げ特性、及び捩り特性が設定されている。
【0100】
このため、矯正治療の際に、歯や、その周囲組織や、及びアライナの各部にはたらく力や、それらの動きを、簡易な演算処理を行うことで分析することができる。即ち従来のシミュレーションよりも向上された処理速度で、それぞれの部分の形態的、及び物性的な特徴を考慮した、正確な解析処理を行うことができる。
【0101】
また、上記の実施形態に示されているように、例えば、患者の歯を、それぞれ歯冠部と歯根部に対応する2つの梁要素で表すことで、簡易モデルに歯の臨床的な特徴を反映させることができる。また、アライナを、それぞれが配置される領域毎に分割し、それぞれの領域に対応した梁要素を用いてアライナを表すことができる。このようにすれば、矯正治療が行われている際に、それぞれの領域の大きさ(広さ)や、それぞれの領域に作用する力の違いなどを考慮した簡易モデルとすることができる。
【0102】
即ち、上記のように構成された簡易モデルを利用して、解析処理を行うことで、歯や、歯の周囲組織や、及びアライナのそれぞれの部分の異なる特性や、各部の大きさや、各部に作用する力の違いなどを考慮した正確なシミュレーションを行うことができる。
【0103】
更に、所定の歯に、アタッチメントが設けられていた場合には、当該アタッチメントが設けられている歯に関連するアライナに対応する梁要素の捩り剛性を、アタッチメントが設けられてない場合よりも大きな値に設定する。即ち、アタッチメントが設けられている歯に関連する部分に、通常よりも捩り剛性の大きなアライナの部分が配置されているものとして解析処理が行われる。このため、アタッチメントが設けられていることによって追加の処理を行う必要はなく、通常の場合(アタッチメントがない場合)と同じプロセスで、解析処理を行うことができる。
【0104】
なお、本開示の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
さらに、本開示は、上述の実施形態に記載された開示の趣旨に合致するものであればよく、上述の実施形態に限定されない。したがって、上述した複数の実施形態のうち少なくとも2つの実施形態が組み合わせられた構成、又は上述の実施形態において、図示された構成要件もしくは符号を付して説明された構成要件のうちいずれかが廃止された構成であってもよい。
【符号の説明】
【0105】
1…シミュレーション装置 2…記憶部 3…入力デバイス
4…表示/出力装置 5…CPU 6…メモリ 7…インターフェース部
10…コンピュータ本体 11…情報取得部 12…配列計算部
13…移動計算部 14…表示信号出力部
20,100,200…簡易モデル 30,40,71~76…歯
50…アライナ 50P…アライナ部 60…周囲組織
30A,40A,71A~76A,81A~85A,91~95…梁部
【要約】
【課題】従来の技術よりも、計算処理のための負荷が軽く、正確なシミュレーションが可能な、シミュレーション装置、シミュレーション用のプログラム、及びシミュレーション方法を提供する。
【解決手段】アライナを用いて患者の歯の矯正治療を行う際の歯の動きを予想するシミュレーション装置1であって、患者の歯情報とアライナ情報に基づいて、所定の歯の配置状態を算出する移動計算部13を備え、移動計算部13は、アライナによる矯正力と、所定の歯の周囲組織によって生じる負荷の大きさに基づいて配置状態を算出するものであり、移動計算部13は、負荷の大きさを、時間の経過ともに所定の特性に従って減衰する減衰モデルを用いて算出して配置状態を算出する。
【選択図】
図2