(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-04
(45)【発行日】2025-06-12
(54)【発明の名称】塩素含有粉体の水洗方法及び水洗システム
(51)【国際特許分類】
B09B 3/70 20220101AFI20250605BHJP
B09B 5/00 20060101ALI20250605BHJP
C02F 1/56 20230101ALI20250605BHJP
【FI】
B09B3/70
B09B5/00 N
C02F1/56 K
(21)【出願番号】P 2020046937
(22)【出願日】2020-03-17
【審査請求日】2022-07-19
【審判番号】
【審判請求日】2023-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】平前 太基
(72)【発明者】
【氏名】辰巳 慶展
【合議体】
【審判長】原 賢一
【審判官】深草 祐一
【審判官】増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-106853(JP,A)
【文献】国際公開第2019/181385(WO,A1)
【文献】特開2004-105833(JP,A)
【文献】特開平7-109533(JP,A)
【文献】特開2018-154544(JP,A)
【文献】特開2020-6365(JP,A)
【文献】特開2005-152741(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 3/00
C02F 1/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素含有粉体の脱塩を目的とする塩素含有粉体の水洗方法であって、
塩素含有粉体に水を加えてスラリーにするスラリー化工程と、
前記スラリーを固液分離し、液相として洗浄排水を回収する第一固液分離工程と、
前記洗浄排水に酸化還元電位調整剤を添加する酸化還元電位調整剤添加工程と、
前記酸化還元電位調整剤が添加された前記洗浄排水に、鉄系無機凝集剤を添加しつつ、酸化還元電位を測定し、
前記鉄系無機凝集剤の添加量の制御によって、該酸化還元電位が特定の範囲内に制御された第一凝集体スラリーを形成させる第一凝集工程と、
前記第一凝集体スラリーに高分子凝集剤を添加して第二凝集体スラリーを形成させる第二凝集工程と、
前記第二凝集体スラリーを固液分離し、固相として重金属類を回収する第二固液分離工程と、を備えることを特徴とする塩素含有粉体の水洗方法。
【請求項2】
前記第一凝集工程における前記第一凝集体スラリーの酸化還元電位の特定の範囲を、-400mV~-100mVとする、請求項1に記載の塩素含有粉体の水洗方法。
【請求項3】
前記スラリー化工程における前記スラリーのpHを9~10.5とする、請求項1又は請求項2に記載の塩素含有粉体の水洗方法。
【請求項4】
前記スラリー化工程における前記スラリーのpH調整を、二酸化炭素を高濃度に含むガスを用いて行う、請求項3に記載の塩素含有粉体の水洗方法。
【請求項5】
前記酸化還元電位調整剤添加工程における前記酸化還元電位調整剤の添加により、前記洗浄排水の酸化還元電位を、-300mV~-100mVに調整する、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の塩素含有粉体の水洗方法。
【請求項6】
前記酸化還元電位調整剤が硫化水素ナトリウムである、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の塩素含有粉体の水洗方法。
【請求項7】
前記鉄系無機凝集剤が塩化第一鉄である、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の塩素含有粉体の水洗方法。
【請求項8】
請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の塩素含有粉体の水洗方法を行うための水洗システムであって、
収容された塩素含有粉体に水を加えてスラリーにするための粉体溶解槽と、
前記粉体溶解槽から排出された前記スラリーを固液分離するための第一固液分離装置と、
前記第一固液分離装置から液相として回収された洗浄排水を収容し、該洗浄排水に酸化還元電位調整剤を添加して混合するための酸化還元電位調整剤混合槽と、
前記酸化還元電位調整剤混合槽から排出された前記酸化還元電位調整剤混合後の洗浄排水を収容し、該洗浄排水に鉄系無機凝集剤を添加して第一凝集体スラリーを形成させるための第一凝集槽であって、前記第一凝集体スラリーの酸化還元電位を測定するための第一酸化還元電位測定装置を備える該第一凝集槽と、
前記第一凝集槽から排出された前記第一凝集体スラリーを収容し、該第一凝集体スラリーに高分子凝集剤を添加して第二凝集体スラリーを形成させるための第二凝集槽と、
前記第二凝集槽から排出された前記第二凝集体スラリーを固液分離するための第二固液分離装置と、を備えていることを特徴とする水洗システム。
【請求項9】
前記第一酸化還元電位測定装置の測定結果に基づいて前記鉄系無機凝集剤の添加量を自動的に制御可能とする鉄系無機凝集剤添加装置と、を更に備えている、請求項8に記載の水洗システム。
【請求項10】
前記酸化還元電位調整剤混合槽内の洗浄排水の酸化還元電位を測定するための第二酸化還元電位測定装置と、前記第二酸化還元電位測定装置の測定結果に基づいて前記酸化還元電位調整剤の添加量を自動的に制御可能とする酸化還元電位調整剤添加装置と、を更に備えている、請求項8又は請求項9に記載の水洗システム。
【請求項11】
前記粉体溶解槽が、槽内のスラリーに二酸化炭素を高濃度に含むガスを散気するためのガス吹込み装置を備えている、請求項8~請求項10のいずれか1項に記載の水洗システム。
【請求項12】
前記ガス吹込み装置が筒型散気装置である、請求項11に記載の水洗システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、都市ごみなどの焼却で発生する焼却灰やセメントキルン窯尻部からの抽気ダストなどの塩素含有粉体を、脱塩処理するための水洗方法及び水洗システムに関する。
【背景技術】
【0002】
都市ごみ焼却飛灰などの高濃度の塩素を含有する塩素含有粉体をセメント原料としてリサイクルする場合、予めその塩素を除去する必要があることから、水洗脱塩処理を行って水溶性の塩素化合物を除去した後にセメント原料として利用することが行われている。
【0003】
塩素含有粉体を水洗脱塩処理した際に発生する洗浄排水には、塩素含有粉体から溶出した塩素と共に、塩素含有粉体由来の多種の重金属類も含まれている。そのため、かかる洗浄排水については、系外排水前に重金属類を除去することが必要となる。
【0004】
洗浄排水から重金属類を除去する技術に関し、例えば特許文献1や特許文献2には、多種の重金属類の不溶化処理が可能で、且つ、使用する薬剤コストの低廉化に優れた方法として、酸化還元電位調整剤である硫化水素ナトリウム(NaSH)、無機凝集剤である塩化第一鉄(FeCl2)、及び高分子凝集剤を用いて洗浄排水を処理する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-51868号公報
【文献】特開2018-154544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、洗浄排水に含まれる重金属類の量に対して理論相当量の凝集剤で処理した場合でも、排水の管理基準値を超過することが往々にして起こり得ることが判明した。
【0007】
よって、本発明の目的は、塩素含有粉体の水洗脱塩処理で発生する洗浄排水について、安定に排水の管理基準値を満たすようにするための、塩素含有粉体の水洗方法及び水洗システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、その第1の観点では、
塩素含有粉体の脱塩を目的とする塩素含有粉体の水洗方法であって、
塩素含有粉体に水を加えてスラリーにするスラリー化工程と、
前記スラリーを固液分離し、液相として洗浄排水を回収する第一固液分離工程と、
前記洗浄排水に酸化還元電位調整剤を添加する酸化還元電位調整剤添加工程と、
前記酸化還元電位調整剤が添加された前記洗浄排水に、鉄系無機凝集剤を添加しつつ、酸化還元電位が特定の範囲内に制御された第一凝集体スラリーを形成させる第一凝集工程と、
前記第一凝集体スラリーに高分子凝集剤を添加して第二凝集体スラリーを形成させる第二凝集工程と、
前記第二凝集体スラリーを固液分離し、固相として重金属類を回収する第二固液分離工程と、を備えることを特徴とする塩素含有粉体の水洗方法を提供するものである。
【0009】
本発明の塩素含有粉体の水洗方法によれば、塩素含有粉体に水を加えてスラリーにしたうえ固液分離するので、塩素含有粉体の塩素含有量が低減され、セメント原料として再利用するのに適した性状のものとすることができる。また、生じた洗浄排水には、酸化還元電位調整剤、鉄系無機凝集剤、及び高分子凝集剤を添加して凝集体スラリーを形成させたうえ固液分離するので、その固相として重金属類を回収することができる。これにより、処理後の洗浄排水の重金属類含有量が低減され、系外に放出するのに適した性状のものとすることができる。加えて、鉄系無機凝集剤を添加する際には、第一凝集体スラリーの酸化還元電位を特定の範囲内に制御する。これにより、鉄系無機凝集剤の添加量の不足による不溶化しない重金属類の発生や、添加過剰による化学的酸素要求量(COD)の増加を回避することができると共に、薬剤使用量にも無駄がなく、ひいては、より安定に排水の管理基準値を満たすようにすることができる。
【0010】
本発明の塩素含有粉体の水洗方法においては、前記第一凝集工程における前記第一凝集体スラリーの酸化還元電位の特定の範囲を、-400mV~-100mVとすることが好ましい。
【0011】
これによれば、洗浄排水の液相中に溶解している重金属類がより凝集し易くなり、ひいては、洗浄排水から重金属類をより回収し易くなる。
【0012】
また、本発明の塩素含有粉体の水洗方法においては、前記スラリー化工程における前記スラリーのpHを9~10.5とすることが好ましい。
【0013】
これによれば、スラリー液相中への重金属類の溶解をできるだけ避けつつ塩素を溶解させることで、その後の洗浄排水からの重金属類の除去工程において、酸化還元電位調整剤等の薬剤使用量を削減することができる。
【0014】
また、本発明の塩素含有粉体の水洗方法においては、前記スラリー化工程における前記スラリーのpH調整を、二酸化炭素を高濃度に含むガスを用いて行うことが好ましい。
【0015】
これによれば、セメントキルンからの排ガスなどを、pH調整の目的で、有効に利用することができると共に、例えば、本法を使用した水洗システム内におけるスラリーを攪拌することやスケールの生成を抑制することができる。
【0016】
また、本発明の塩素含有粉体の水洗方法においては、前記酸化還元電位調整剤添加工程における前記酸化還元電位調整剤の添加により、前記洗浄排水の酸化還元電位を、-300mV~-100mVに調整することが好ましい。
【0017】
これによれば、塩素を高濃度に含んでいても溶存する重金属類を効率的に不溶化させることができ、続く第一凝集工程において、洗浄排水の液相中に溶解している重金属類がより凝集し易くなり、ひいては、洗浄排水から重金属類をより回収し易くなる。
【0018】
また、本発明の塩素含有粉体の水洗方法においては、前記酸化還元電位調整剤が硫化水素ナトリウムであることが好ましい。
【0019】
また、本発明の塩素含有粉体の水洗方法においては、前記鉄系無機凝集剤が塩化第一鉄であることが好ましい。
【0020】
上記目的を達成するために、本発明は、その第2の観点では、
上記の塩素含有粉体の水洗方法を行うための水洗システムであって、
収容された塩素含有粉体に水を加えてスラリーにするための粉体溶解槽と、
前記粉体溶解槽から排出された前記スラリーを固液分離するための第一固液分離装置と、
前記第一固液分離装置から液相として回収された洗浄排水を収容し、該洗浄排水に酸化還元電位調整剤を添加して混合するための酸化還元電位調整剤混合槽と、
前記酸化還元電位調整剤混合槽から排出された前記酸化還元電位調整剤混合後の洗浄排水を収容し、該洗浄排水に鉄系無機凝集剤を添加して第一凝集体スラリーを形成させるための第一凝集槽と、
前記第一凝集槽から排出された前記第一凝集体スラリーを収容し、該第一凝集体スラリーに高分子凝集剤を添加して第二凝集体スラリーを形成させるための第二凝集槽と、
前記第二凝集槽から排出された前記第二凝集体スラリーを固液分離するための第二固液分離装置と、を備えていることを特徴とする水洗システムを提供するものである。
【0021】
本発明が提供する水洗システムの構成によれば、上記した塩素含有粉体の水洗方法を好適に実施し得る。
【0022】
本発明の水洗システムにおいては、前記第一凝集槽内の前記第一凝集体スラリーの酸化還元電位を測定するための第一酸化還元電位測定装置と、前記第一酸化還元電位測定装置の測定結果に基づいて前記鉄系無機凝集剤の添加量を自動的に制御可能とする鉄系無機凝集剤添加装置と、を更に備えていることが好ましい。
【0023】
これによれば、鉄系無機凝集剤の添加量の管理をより安定して行うことができ、ひいては、より安定に排水の管理基準値を満たすようにすることができる。
【0024】
また、本発明の水洗システムにおいては、前記酸化還元電位調整剤混合槽内の洗浄排水の酸化還元電位を測定するための第二酸化還元電位測定装置と、前記第二酸化還元電位測定装置の測定結果に基づいて前記酸化還元電位調整剤の添加量を自動的に制御可能とする酸化還元電位調整剤添加装置と、を更に備えていることが好ましい。
【0025】
これによれば、酸化還元電位調整剤の添加量の管理をより安定して行うことができ、ひいては、より安定に排水の管理基準値を満たすようにすることができる。
【0026】
また、本発明の水洗システムにおいては、前記粉体溶解槽が、槽内のスラリーに二酸化炭素を高濃度に含むガスを散気するためのガス吹込み装置を備えていることが好ましい。
【0027】
これによれば、セメントキルンからの排ガスなどを、pH調整の目的で、有効に利用することができると共に、本水洗システム内におけるスケールの生成を抑制することができる。
【0028】
また、本発明の水洗システムにおいては、前記ガス吹込み装置が筒型散気装置であることが好ましい。
【0029】
これによれば、前述のセメントキルンからの排ガスなどを用いて、スラリーを攪拌することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明に係る塩素含有粉体の水洗システムの一実施形態を示す概略構成説明図である。
【
図2】
図1に示す水洗システムにおいて行われる水洗方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照して、本発明に係る塩素含有粉体の水洗システムについて説明する。
【0032】
図1には、本発明に係る塩素含有粉体の水洗システムの一実施形態が示される。
図1において、実線の矢印は塩素含有粉体や洗浄排水等の固体及び液体の流れ、点線は信号の経路をそれぞれ示している。この実施形態の塩素含有粉体の水洗システム1(以下、「水洗システム1」という。)は、塩素含有粉体P1と水W1からなるスラリーS1を生成するための粉体溶解槽2と、粉体溶解槽2から排出されたスラリーS1を固液分離するための第一固液分離装置3と、第一固液分離装置3から液相として回収された洗浄排水W2を収容し、該洗浄排水W2に酸化還元電位調整剤A1を添加して混合するための酸化還元電位調整剤混合槽4と、酸化還元電位調整剤混合槽4から排出された洗浄排水W3を収容し、該洗浄排水W3に鉄系無機凝集剤A2を添加して第一凝集体スラリーS2を形成させるための第一凝集槽5と、第一凝集槽5から排出された第一凝集体スラリーS2を収容し、該第一凝集体スラリーS2に高分子凝集剤A3を添加して第二凝集体スラリーを形成させるための第二凝集槽6と、第二凝集槽6から排出された第二凝集体スラリーS3を固液分離するための第二固液分離装置7を備えている。
【0033】
粉体溶解槽2では、塩素含有粉体P1と水W1を混合撹拌してスラリーS1を生成する処理、及び、そのスラリーS1中の塩素含有粉体P1から塩素を液相に溶出させる処理が行われる。
【0034】
粉体溶解槽2には、塩素含有粉体P1を粉体溶解槽2に供給するための粉体供給装置21及び、水W1を粉体溶解槽2に供給するための液体供給装置22が付設されている。さらに、塩素含有粉体P1と水W1の混合、及び、その混合によって生成したスラリーS1の攪拌のためにスラリー攪拌装置23が付設されている。
図1の実施形態では、スラリー攪拌装置23として筒型散気装置が使用され、セメント製造設備Kから供給される二酸化炭素を高濃度に含む燃焼排ガスG1がスラリーS1内に散気されている。
【0035】
スラリー攪拌装置23としては、例えば、パドル型やスクリュー型の一般的なスラリー撹拌装置を使用してもよい。
【0036】
ここで、スラリー攪拌装置23として二酸化炭素を高濃度に含む燃焼排ガスG1を散気する筒型散気装置を使用することによって、粉体溶解槽2内のスラリーS1の全体にわたって塩素含有粉体P1が良好に分散された状態が形成されるために、後段の第一固液分離装置3における固液分離工程では液相が通り抜けやすいケーキが形成されて、固液分離に要する時間を短縮することができる。また、これに加えて、燃焼排ガスG1中の二酸化炭素によってスラリーS1のpHが酸性側に変化して、スラリーS1の液相中に溶出しているカルシウムイオンを炭酸カルシウムとして析出させて、後段の第一固液分離装置3で脱水ケーキC1として回収することができる。これによって、本水洗システム内におけるスケール(硫酸カルシウム)の生成を抑制する効果がもたらされる。このように、スケールの生成を抑制する観点からは、二酸化炭素を高濃度に含むガスの散気によって、スラリーS1のpHを9~10.5にするのが好ましい。
【0037】
十分に混合撹拌されたスラリーS1は、粉体溶解槽2から第一固液分離装置3に輸送される。スラリーS1の輸送には、スラリー用渦巻きポンプ、ピストンポンプ、及び、モーノポンプ等の通常のスラリー液用輸送装置(不図示)を用いればよい。
【0038】
第一固液分離装置3は、輸送されたスラリーS1を、塩素含有粉体P1から溶出した塩素を含む洗浄排水W2(液相)と、塩素を溶出させた塩素含有粉体P1及び液相中のカルシウムイオン由来の炭酸カルシウムからなる脱水ケーキC1(固相)とに分離する。
【0039】
第一固液分離装置3としては、フィルタープレス、加圧葉状ろ過装置、スクリュープレス、ベルトプレス、ベルトフィルター等の通常のろ過装置等を用いればよい。
【0040】
第一固液分離装置3において分離回収された脱水ケーキC1(固相)は、セメント製造設備Kに輸送されてセメント原料としてリサイクルされる。脱水ケーキC1(固相)の輸送には、例えば、ベルトコンベア、スクリューコンベア、パイプコンベア等の一般的なケーキ輸送装置(不図示)を用いればよい。
【0041】
第一固液分離装置3において分離回収された洗浄排水W2(液相)は、酸化還元電位調整剤混合槽4に付設されている液体供給装置41に輸送される。洗浄排水W2の輸送には、例えば、ピストンポンプ、プランジャーポンプ、ダイヤフラムポンプ、ギアーポンプ、ねじポンプ、遠心ポンプ、カスケードポンプ等の一般的な液体輸送用ポンプ(不図示)を用いればよい。
【0042】
酸化還元電位調整剤混合槽4では、洗浄排水W2(液相)に酸化還元電位調整剤A1を添加して、洗浄排水W2を所定の酸化還元電位を有する洗浄排水W3(液相)にする処理が行われる。
【0043】
酸化還元電位調整剤混合槽4には、洗浄排水W2を酸化還元電位調整剤混合槽4に供給するための液体供給装置41及び、酸化還元電位調整剤A1を酸化還元電位調整剤混合槽4に供給するための液体供給装置42が付設されている。さらに、洗浄排水W2と酸化還元電位調整剤混合槽4の混合、及び、その混合によって生成した洗浄排水W3の攪拌のために攪拌装置43が付設されている。
図1の実施形態では、攪拌装置43として撹拌翼が用いられている。
【0044】
攪拌装置43としては、一般的な、パドル型やスクリュー型のものを用いればよい。
【0045】
酸化還元電位調整剤混合槽4には、洗浄排水W3の酸化還元電位を連続的に測定する酸化還元電位計(以後、「ORP測定装置」と称す。)44が付設されている。そして、ORP測定装置44の測定結果が、制御装置10に随時送信されるようになっている。
【0046】
ORP測定装置44としては、公知の酸化還元電位測定機器を用いればよい。
【0047】
液体供給装置42は、制御装置10からの信号に基づいて、酸化還元電位調整剤混合槽4に液状の酸化還元電位調整剤A1を供給する。すなわち、本実施形態では、液体供給装置42から供給される酸化還元電位調整剤A1によって、酸化還元電位調整剤混合槽4で生成される洗浄排水W3の酸化還元電位を調整しており、制御装置10が、ORP測定装置44の測定結果に基づいて、酸化還元電位調整剤A1の供給量を自動的に制御するようにしている。これにより、塩素含有粉体P1の種類によらず、安定した処理を行うことができる。
【0048】
酸化還元電位調整剤混合槽4において所定の酸化還元電位に調整された洗浄排水W3(液相)は、第一凝集槽5に付設されている液体供給装置51に輸送される。洗浄排水W3の輸送には、例えば、ピストンポンプ、プランジャーポンプ、ダイヤフラムポンプ、ギアーポンプ、ねじポンプ、遠心ポンプ、カスケードポンプ等の一般的な液体輸送用ポンプ(不図示)を用いればよい。
【0049】
第一凝集槽5では、洗浄排水W3(液相)に鉄系無機凝集剤A2を添加して、重金属類の凝集体を生成させて、洗浄排水W3を第一凝集体スラリーS2にする処理が行われる。
【0050】
第一凝集槽5には、洗浄排水W3を第一凝集槽5に供給するための液体供給装置51及び、鉄系無機凝集剤A2を第一凝集槽5に供給するための液体供給装置52が付設されている。さらに、洗浄排水W3と鉄系無機凝集剤A2の混合、及び、その混合によって生成した第一凝集体スラリーS2の攪拌のために攪拌装置53が付設されている。
図1の実施形態では、攪拌装置53として撹拌翼が用いられている。
【0051】
攪拌装置53としては、一般的な、パドル型やスクリュー型のものを用いればよい。
【0052】
第一凝集槽5には、第一凝集体スラリーS2の酸化還元電位を連続的に測定するORP測定装置54が付設されている。そして、ORP測定装置54の測定結果が、制御装置10に随時送信されるようになっている。
【0053】
ORP測定装置54としては、公知の酸化還元電位測定機器を用いればよい。
【0054】
液体供給装置52は、制御装置10からの信号に基づいて、第一凝集槽5に液状の鉄系無機凝集剤A2を供給する。これは、鉄系無機凝集剤A2の添加によって第一凝集体スラリーS2の酸化還元電位が変化するために行うものであって、本実施形態では、液体供給装置52から供給される鉄系無機凝集剤A2によって、第一凝集体スラリーS2の酸化還元電位を調整しており、制御装置10が、ORP測定装置54の測定結果に基づいて、鉄系無機凝集剤A2の供給量を自動的に制御するようにしている。
【0055】
第一凝集槽5における第一凝集体スラリーS2の酸化還元電位の管理範囲は、その範囲であれば第一凝集体スラリーS2中のほとんど全ての重金属類は凝集体を形成し、且つ、その凝集体の形成に用いられる鉄系無機凝集剤A2の使用量が必要最小限となるよう、特定の範囲を設定することができる。
【0056】
第一凝集槽5において必要最小限の鉄系無機凝集剤A2の添加によって形成された第一凝集体スラリーS2は、第二凝集槽6に付設されているに液体供給装置61に輸送される。第一凝集体スラリーS2の輸送には、例えば、ピストンポンプ、プランジャーポンプ、ダイヤフラムポンプ、ギアーポンプ、ねじポンプ、遠心ポンプ、カスケードポンプ等の一般的な液体輸送用ポンプ(不図示)を用いればよい。
【0057】
第二凝集槽6では、第一凝集体スラリーS2に高分子凝集剤A3を添加して、重金属類の大型の凝集体を生成させて後段の固液分離における重金属類の回収を効果的にするために、第一凝集体スラリーS2を大型の凝集体を含む第二凝集体スラリーS3に変化させる処理が行われる。
【0058】
第二凝集槽6には、第一凝集体スラリーS2を第二凝集槽6に供給するための液体供給装置61及び、高分子凝集剤A3を第二凝集槽6に供給するための粉体供給装置62が付設されている。さらに、第一凝集体スラリーS2と高分子凝集剤A3の混合、及び、その混合によって生成した第二凝集体スラリーS3の攪拌のために攪拌装置63が付設されている。
図1の実施形態では、攪拌装置63として撹拌翼が用いられている。
【0059】
攪拌装置63としては、一般的な、パドル型やスクリュー型のものを用いればよい。
【0060】
十分に混合撹拌された第二凝集体スラリーS3は、第二凝集槽6から第二固液分離装置7に輸送される。第二凝集体スラリーS3の輸送には、例えば、ピストンポンプ、プランジャーポンプ、ダイヤフラムポンプ、ギアーポンプ、ねじポンプ、遠心ポンプ、カスケードポンプ等の一般的な液体輸送用ポンプ(不図示)を用いればよい。
【0061】
第二固液分離装置7は、輸送された第二凝集体スラリーS3を、重金属類が有効に取り除かれた排水W4(液相)と、重金属類の凝集体からなる脱水ケーキC2(固相)とに分離する。
【0062】
第二固液分離装置7としては、フィルタープレス、加圧葉状ろ過装置、スクリュープレス、ベルトプレス、ベルトフィルター等の通常のろ過装置等を用いればよい。
【0063】
第二固液分離装置7において分離回収された脱水ケーキC2(固相)は、セメント製造設備Kに輸送されてセメント原料としてリサイクルされる。脱水ケーキC2(固相)の輸送には、例えば、ベルトコンベア、スクリューコンベア、パイプコンベア等の一般的なケーキ輸送装置(不図示)を用いればよい。
【0064】
第二固液分離装置7において分離回収された排水W4(液相)は、排水の管理基準値を満足するものであり、系外に排出することができる。
【0065】
次に、
図1と共に
図2を参照して、水洗システム1において行われる塩素含有粉体の水洗方法について説明する。
【0066】
本発明の水洗対象物である塩素含有粉体とは、水溶性の塩素を含有する粉体であれば特に制限はないが、例えば焼却飛灰、溶融飛灰、セメントクリンカダスト等が挙げられる。これらは、従来、水洗による脱塩の処理の後にセメント原料として有効利用されている廃棄物等であり、典型的な都市ごみ焼却飛灰には、塩素が10質量%~30質量%程度含有されており、また、ガス化溶融炉から発生した飛灰には、一般に、塩素が10質量%~40質量%程度含有されている。また、セメントキルン抽気ガスに含まれるダストであるセメントクリンカダストには、一般に、塩素が10質量%~40質量%程度含有されている。
【0067】
本発明の水洗方法によれば、上記のような塩素含有粉体の塩素の濃度を、例えば典型的には0.1質量%~3質量%程度の濃度、より典型的には0.1質量%~2質量%程度の濃度にまで低減し、これを例えばセメント原料として有効利用することができる。塩素含有粉体の塩素の濃度は、周知の方法で測定することができ、例えば、ISO 29581-2 Cement-Test methods-Part2:Chemical analysis by X-ray fluorescence、又は、セメント協会標準試験方法JCAS I-05「蛍光X線分析によるセメント中の塩素の定量方法」等を準用した、蛍光X線分析法などが好ましく例示される。
【0068】
本発明の塩素含有粉体の水洗方法は、塩素含有粉体P1に水W1を加えてスラリーS1にするスラリー化工程と、当該スラリーS1を固液分離し、液相として洗浄排水W2を回収する第一固液分離工程と、当該洗浄排水W2に酸化還元電位調整剤A1を添加する酸化還元電位調整剤添加工程と、酸化還元電位調整剤A1が添加された当該洗浄排水W3に、鉄系無機凝集剤A2を添加しつつ、酸化還元電位が特定の範囲内に制御された第一凝集体スラリーS2を形成させる第一凝集工程と、当該第一凝集体スラリーS2に高分子凝集剤A3を添加して第二凝集体スラリーS3を形成させる第二凝集工程と、当該第二凝集体スラリーS3を固液分離し、固相として重金属類を回収する第二固液分離工程を備える。
【0069】
スラリー化工程では、粉体溶解槽2の内部で、塩素含有粉体P1と水W1と攪拌してスラリーS1をつくる。かかるスラリーS1における塩素含有粉体P1と水W1との質量比(W1/P1)は、4~10が好ましく、4~7がより好ましく、4~5が特に好ましい。質量比(W1/P1)が4よりも小さい場合、塩素含有粉体P1からの塩素の溶出が不十分となる場合がある。また、質量比(W1/P1)が10よりも大きい場合、つづく第一固液分離工程において分離回収する洗浄排水W2(液相)が多くなる。
【0070】
粉体溶解槽2において塩素含有粉体P1と混合され、スラリーS1を構成する水W1の塩素イオン濃度は、3質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましく、1質量%以下が特に好ましい。下限は特に設定されないが、通常、河川水や地下水等が由来の工業用水の塩素濃度が0.005質量%程度である。水W1の塩素イオン濃度が、3質量%よりも大きい場合、塩素含有粉体P1の塩素含有量によっては、スラリー化工程における塩素含有粉体P1からの塩素の溶出効率が低下する場合がある。
【0071】
撹拌を継続しているスラリーS1の中で、塩素含有粉体P1から水W1への塩素の溶出に要する時間は、塩素を十分に溶出させるためには30分以上とすることが好ましく、45分以上がより好ましい。
【0072】
また、スラリー化工程における温度条件は、高い程、塩素含有粉体P1からの塩素の溶出量が多くなるが、処理に係るコストの観点からは、5℃~50℃とすることが好ましく、25℃~50℃がより好ましい。その場合、
図1の実施形態の様に、セメント製造設備からの燃焼排ガスG1等の高温ガスのスラリーS1内への散気や、粉体溶解槽2にヒーター等の温度管理装置を備えればよい。
【0073】
スラリー化工程におけるスラリーS1のpHは、好ましくは9~10.5、より好ましくは9~10.3、特に好ましくは9~10である。スラリーS1のpHを9~10.5にすることで、スラリーS1中に溶解している重金属類の濃度が減少するため、後工程における酸化還元電位調整剤A1の使用量を低減することができる。このpHの調整は、例えば、
図1の実施形態の様に、セメント製造設備から排出される二酸化炭素を高濃度に含む燃焼排ガスG1をスラリーS1内に散気することで、その二酸化炭素の溶解によってpHを下げることが可能である。また、一般的な方法である、希硫酸や塩酸等のpH調整剤のスラリーS1への添加であってもよい。
【0074】
次に、第一固液分離装置3が、粉体溶解槽2から供給されたスラリーS1を、塩素が溶出した塩素含有粉体P1からなる脱水ケーキC1(固相)と洗浄排水W2(液相)とに分離回収する第一固液分離工程に移行する。
【0075】
第一固液分離工程で分離回収された脱水ケーキC1の含水率は、脱水ケーキC1に液相に溶出した塩素がその液相とともに残留することを防止するために、20質量%~70質量%とすることが好ましい。
【0076】
脱水ケーキC1の含水率を整えるための圧搾の圧力は0.2MPa~2MPaであればよく、また、濾布の目開きは粒径0.1μm以上の固相を捕集できるものであればよい。
【0077】
また、第一固液分離装置3としてフィルタープレスを用いた場合、一旦固液分離して回収した脱水ケーキC1に対して、水W1による洗浄を行ってもよい。これにより、脱水ケーキC1からの脱塩をより確実にすることができる。この洗浄における脱水ケーキC1と水W1との質量比(W1/C1)は、洗浄排水の発生量を抑制する観点から、4~10が好ましく、4~7がより好ましく、4~5が特に好ましい。なお、発生した洗浄排水は、水W1として再利用することができる。
【0078】
第一固液分離工程で分離回収された脱水ケーキC1は、塩素含有量が3.0質量%以下に有効に低減されており、セメント原料として支障なく使用できる。
【0079】
次に、第一固液分離装置3から分離回収された洗浄排水W2に酸化還元電位調整剤A1を添加して、所定の酸化還元電位を有する洗浄排水W3とするための酸化還元電位調整剤添加工程に移行する。
【0080】
酸化還元電位調整剤添加工程では、供給された洗浄排水W2の酸化還元電位(ORP)を-100mV以下に、好ましくは-300mV~-100mVに変化させる。変化後の洗浄排水W3の酸化還元電位を-100mV以下とすることによって、塩素を高濃度に含んでいても溶存する重金属類を効率的に不溶化しつつ、使用する酸化還元電位調整剤A1の使用量を最小限にすることができる。
【0081】
洗浄排水W2に添加する酸化還元電位調整剤A1としては、汎用のものを使用できるが、中でも硫化水素ナトリウム(水硫化ソーダ)が好ましい。
【0082】
この酸化還元電位調整剤添加工程における、洗浄排水W2から重金属類が不溶化した洗浄排水W3に変化させるための撹拌時間は1分間以上、より好ましくは3分間以上、さらに好ましくは5分間以上であり、上記の酸化還元電位は、この撹拌終了後の測定値である。
【0083】
続いて、不溶化した重金属類を含有する洗浄排水W3を、特定の範囲内に酸化還元電位を制御しつつ鉄系無機凝集剤A2を添加して、不溶化した重金属類の凝集体を含有する第一凝集体スラリーに変化させるための第一凝集工程に移行する。
【0084】
この第一凝集工程においては、不溶化した重金属類を小型の凝集体とすることによって、次工程の高分子凝集剤による第二凝集工程において凝集体を大型化し、そしてその後の第二固液分離工程において重金属類の分離回収を容易にすることができる。そのような観点からは、第一凝集工程において使用される鉄系無機凝集剤A2は、凝集助剤として機能するとみることもできる。
【0085】
第一凝集工程で用いられる鉄系無機凝集剤A2としては、塩化第一鉄(FeCl2)及び硫酸第一鉄(FeSO4)の、2価の鉄イオンを生ずる鉄系凝集剤である。
【0086】
これらの鉄系無機凝集剤A2から生ずる2価の鉄イオンは還元剤として働くため、第一凝集工程において第一凝集体スラリーS2の酸化還元電位を低下させ、第一凝集体スラリーS2に含まれる重金属類の不溶化の程度をさらに推し進める。このように重金属類の分離回収には良好な方向に寄与する鉄系無機凝集剤A2であるが、一方で、かかる鉄系無機凝集剤A2を多量に添加すると第一凝集体スラリーS2中に溶存する鉄の量が増加すると共に、第一凝集体スラリーS2の化学的酸素要求量(COD)も増加する。
【0087】
したがって、第一凝集工程における鉄系無機凝集剤A2の添加量には、本水洗方法における最終の排水W4に含まれる鉄の量及び化学的酸素要求量が排水の管理基準値を満足するための上限値を設定する必要がある。
【0088】
一方で後述する試験の結果にみられるように、塩素含有粉体を水洗脱塩処理した際に発生する洗浄排水に鉄系無機凝集剤を用いた場合、硫化水素ナトリウムの添加量が重金属類の不溶化に対して適当量であっても、鉄系無機凝集剤の添加量によっては重金属類が排水の管理基準値を超過する場合が起こり得ることが分かった。これは、鉄系無機凝集剤の一部が硫化水素ナトリウムと反応して、硫化水素ナトリウムの一部が消費されることに因るものであると考えられた。
【0089】
したがって、第一凝集工程における鉄系無機凝集剤A2の添加量は、上述した酸化還元電位調整剤添加工程で添加した酸化還元電位調整剤A1の一部は、鉄系無機凝集剤A2の添加により消費されてしまうことにかんがみて、必要的な下限値を設定する必要がある。
【0090】
そこで、本水洗方法では、その鉄系無機凝集剤A2の添加量を、第一凝集体スラリーS2の酸化還元電位によって、具体的には、第一凝集体スラリーS2の酸化還元電位が-400mV~-100mVの範囲内になるように鉄系無機凝集剤A2を添加する。酸化還元電位がこの範囲になるように鉄系無機凝集剤A2を添加することで、塩素を高濃度に含んでいる第一凝集体スラリーS2であっても、溶存する重金属類を効率的に不溶化しつつ、使用する鉄系無機凝集剤A2の使用量を最小限にすることができる。
【0091】
この第一凝集工程における第一凝集体スラリーS2の酸化還元電位の変化は、鉄系無機凝集剤A2を添加した当初は、鉄系無機凝集剤A2から生じた2価の鉄イオンが、前述のとおり酸化還元電位調整剤A1の一部を消費するために0mV程度まで上昇した後、継続する鉄系無機凝集剤A2の添加によって徐々に低下する。
【0092】
鉄系無機凝集剤A2による上記の酸化還元電位の変化は1分以内に完了する反応なので、この第一凝集工程における、洗浄排水W3から第一凝集体スラリーS2に変化させるための撹拌時間は1分間以上、より好ましくは3分間以上、さらに好ましくは5分間以上行う。上記の第一凝集体スラリーS2の酸化還元電位は、この撹拌終了後の測定値である。
【0093】
次いで、不溶化した重金属類の小型の凝集体を含有する第一凝集体スラリーS2に、高分子凝集剤A3を添加して、大型化した凝集体を含有する第二凝集体スラリーS3に変化させるための第二凝集工程に移行する。
【0094】
高分子凝集剤A3は、第一凝集工程で形成された重金属類を含有する小型の凝集体を大型化するために用いられる。高分子凝集剤A3としては、ポリアクリルアミドを主成分とするアニオン系凝集剤などアルカリ性領域での固液分離に用いられる凝集剤を用いればよい。この際、第一凝集体スラリーS2への高分子凝集剤A3の添加量は、用いる凝集剤の標準添加量とすればよい。
【0095】
第二凝集工程における第二凝集体スラリーS3の撹拌時間は5分間以上、より好ましくは10分間以上、さらに好ましくは20分間以上行う。
【0096】
次いで、第二固液分離装置7が、第二凝集槽6から供給された第二凝集体スラリーS3を、重金属類の凝集体からなる脱水ケーキC2(固相)と排水W4(液相)とに分離回収する第二固液分離工程に移行する。
【0097】
第二固液分離工程で分離回収された脱水ケーキC2の含水率は、脱水ケーキC2に液相に溶出した塩素がその液相とともに残留することを防止するために、20質量%~70質量%とすることが好ましい。
【0098】
脱水ケーキC2の含水率を整えるための圧搾の圧力は0.2MPa~2MPaであればよく、また、濾布の目開きは粒径0.1μm以上の固相を捕集できるものであればよい。
【0099】
また、第二固液分離装置7としてフィルタープレスを用いた場合、一旦固液分離して回収した脱水ケーキC2に対して、水W1による洗浄を行ってもよい。これにより、脱水ケーキC2からの脱塩をより確実にすることができる。この洗浄における脱水ケーキC2と水W1との質量比(W1/C2)は、洗浄水の発生量を抑制する観点から、4~10が好ましく、4~7がより好ましく、4~5が特に好ましい。なお、発生した洗浄水は、排水W4と共に系外排水が可能である。
【0100】
第二固液分離工程で分離回収された脱水ケーキC2は、塩素含有量が3.0質量%以下に有効に低減されており、セメント原料として支障なく使用できる。
【0101】
最後に、本発明の塩素含有粉体の水洗方法の試験について説明する。試験は、第一凝集工程での鉄系無機凝集剤A2の添加量を変化させた場合の最終排水W4の排水管理項目値(Se、Pb、Cd、Fe、COD)を、スラリー化工程におけるスラリーS1のpH調整の有りと無しの場合で評価した。
【0102】
塩素含有粉体P1にはごみ焼却飛灰(塩素含有量:21.2質量%)を、水W1には水道水を用いて、P1:S1=1:4のスラリーS1-Aを作成した。スラリーS1-AのpHは13であった。このスラリーS1-Aを、スラリーS1のpH調整が無しの場合の試験に用いた。
【0103】
スラリー撹拌時に二酸化炭素ガスを吹き込んだ以外は前記スラリーS1-Aと同様にして、スラリーS1-Bを作成した。スラリーS1-BのpHは10であった。このスラリーS1-Bを、スラリーS1のpH調整が有りの場合の試験に用いた。
【0104】
得られたスラリーS1-A及びS1-Bについて、それぞれブフナーロート(吸引ろ過器)を用いた第一固液分離工程を実施して、スラリーS1-Aからは洗浄排水W2-Aを、スラリーS1-Bからは洗浄排水W2-Bを得た後、洗浄排水W2-Aと洗浄排水W2-Bのそれぞれの酸化還元電位が-100mvとなるまで硫化水素ナトリウム(酸化還元電位調整剤A1)を添加して、洗浄排水W2-Aからは洗浄排水W3-Aを、洗浄排水W2-Bからは洗浄排水W3-Bを得た。
【0105】
得られた洗浄排水W3-A及び洗浄排水W3-Bに、塩化第一鉄(鉄系無機凝集剤A2)を、(i)50mg/L、(ii)100mg/L、(iii)300mg/L、(iv)500mg/L、(v)1000mg/L、(vi)3000mg/L、(vii)6000mg/L添加して、それぞれの洗浄排水W3について7水準の第一凝集体スラリーS2を形成させた。各第一凝集体スラリーS2について、ORP測定装置(株式会社堀場製作所製D72S+ORP電極)を用いて測定した酸化還元電位の測定値を表1及び表2に示す。
【0106】
得られた14ケの第一凝集体スラリーS2の個々について、FK-flock(商品名、クボタ化水株式会社製、高分子凝集剤A3)の標準添加量を添加して第二凝集体スラリーS3を形成させた後、ブフナーロートを用いて第二固液分離工程を実施して排水W4を得た。
【0107】
得られた14ケの排水W4について、Se、Pb、Cd及びFeの濃度はICP質量分析法(使用装置:Agilent Technologies製Agilent 7900 ICP-MS(商品名))を用いて、COD値はJIS K 0102:2019の17.100℃における過マンガン酸カリウムによる酸素消費量(CODMn)に準拠して測定した。それらの測定結果を表1及び表2に示す。
【0108】
なお、第一固液分離工程で得られた2つの脱水ケーキC1と、第二固液分離工程で得られた14ケの脱水ケーキC2の塩分含有量(Cl含量)は、全ての検体について1.5質量%以下であった。
【0109】
【0110】
【0111】
表1及び表2より、第一凝集体スラリーS2の酸化還元電位が-400mV~-100mVの範囲であれば、排水W4の重金属類及びCODが排水基準を満足することが分かる。
【0112】
また、塩化第一鉄の添加量が同じ場合での第一凝集体スラリーS2の酸化還元電位を比較すると、スラリーS1のpH調整を行った方が低い酸化還元電位が得られている。すなわち、スラリーS1のpH調整を行うことによって、所定の酸化還元電位を得る場合の鉄系凝集剤の使用量を少なくすることができるので、鉄を除く重金属類の不溶化に加えて、鉄の溶解量やCODの増加を抑制することが可能になる。
【符号の説明】
【0113】
1 : 水洗システム
2 : 粉体溶解槽
21 : 粉体供給装置
22 : 液体供給装置
23 : スラリー撹拌装置
3 : 第一固液分離装置
4 : 酸化還元電位調整剤混合槽
41、42 : 液体供給装置
43 : 撹拌装置
44 : 酸化還元電位計
5 : 第一凝集槽
51、52 : 液体供給装置
53 : 撹拌装置
54 : 酸化還元電位計
6 : 第二凝集槽
61 : 液体供給装置
62 : 粉体供給装置
63 : 撹拌装置
7 : 第二固液分離装置
10 : 制御装置
A1 : 酸化還元電位調整剤
A2 : 鉄系無機凝集剤
A3 : 高分子凝集剤
C1,C2 : 脱水ケーキ
G1 : 燃焼排ガス
K : セメント製造設備、
P1 : 塩素含有粉体
S1 : スラリー
S2、S3 : 凝集体スラリー
W1 : 水
W2、W3 : 洗浄排水