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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-04
(45)【発行日】2025-06-12
(54)【発明の名称】偏心揺動型減速装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/32 20060101AFI20250605BHJP
   F16C 9/02 20060101ALI20250605BHJP
   F16C 33/34 20060101ALI20250605BHJP
【FI】
F16H1/32 A
F16C9/02
F16C33/34
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020195203
(22)【出願日】2020-11-25
(65)【公開番号】P2022083709
(43)【公開日】2022-06-06
【審査請求日】2023-05-19
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 純
(72)【発明者】
【氏名】石塚 正幸
(72)【発明者】
【氏名】村越 温子
(72)【発明者】
【氏名】門井 幸太
(72)【発明者】
【氏名】南雲 稔也
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-56478(JP,A)
【文献】特開2004-76850(JP,A)
【文献】特開2012-7709(JP,A)
【文献】特開2017-141915(JP,A)
【文献】特開2011-140982(JP,A)
【文献】国際公開第2009/104494(WO,A1)
【文献】特開2006-194320(JP,A)
【文献】国際公開第2012/033043(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
F16C 9/02
F16C 33/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏心部を有するクランク軸と、
前記クランク軸を支持するクランク軸軸受と、
前記偏心部の径方向外側に配置される偏心体軸受と、
を備え、
前記偏心体軸受は、総ころ軸受であり、
前記偏心部は、反偏心方向側において凹んでおり、
前記偏心体軸受のころは、軸方向外端部の外径が軸方向中心部の外径よりも小さく、
前記クランク軸の外周に配置されて前記ころの軸方向の移動を規制する抜止部を有し、
前記抜止部は、前記ころの本減速装置の外側への軸方向の移動を規制する外側抜止部を含み、
前記外側抜止部は、前記クランク軸とは別体に設けられ、
前記クランク軸は、前記ころと対向し、前記ころを前記外側抜止部が規制する方向と同一な方向への前記ころの移動を規制する第1対向面を有し、
前記外側抜止部の外形は、偏心方向に位置する前記ころの中心線よりも径方向外側に延びることを特徴とする偏心揺動型減速装置。
【請求項2】
前記クランク軸は、前記偏心部の反偏心方向の領域において、前記ころと軸方向に対向する第1対向面から前記ころと径方向に対向する第2対向面まで曲線で接続される曲部を有することを特徴とする請求項1に記載の偏心揺動型減速装置。
【請求項3】
前記ころの軸方向端部の外径は、前記ころの軸方向中心部の外径の20%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の偏心揺動型減速装置。
【請求項4】
前記偏心体軸受は、軸方向に離隔して配置される第1偏心体軸受と第2偏心体軸受とを含み、
前記抜止部は、前記第1偏心体軸受と前記第2偏心体軸受との間に配置され、前記第1偏心体軸受および前記第2偏心体軸受の軸方向移動を規制する中間抜止部を含み、
前記中間抜止部は、前記偏心部の外周面上に設けられることを特徴とする請求項1または2に記載の偏心揺動型減速装置。
【請求項5】
偏心部を有するクランク軸と、
前記クランク軸を支持するクランク軸軸受と、
前記偏心部の径方向外側に配置される偏心体軸受と、
を備え、
前記偏心体軸受は、総ころ軸受であり、
前記偏心部は、反偏心方向側において凹んでおり、
前記偏心体軸受のころは、軸方向外端部の外径が軸方向中心部の外径よりも小さく、
前記クランク軸の外周に配置されて前記ころの軸方向の移動を規制する抜止部を有し、
前記抜止部は、前記クランク軸とは別体に設けられ、
前記クランク軸の回転に連れて揺動する外歯歯車の自転と同期するキャリヤを有し、
前記抜止部は、前記キャリヤの内周部から径方向内向きに延出する延出抜止部を含むことを特徴とする偏心揺動型減速装置。
【請求項6】
前記偏心体軸受は、軸方向に離隔して配置される第1偏心体軸受と第2偏心体軸受とを含み、
前記抜止部は、前記第1偏心体軸受と前記第2偏心体軸受との間に配置され、前記第1偏心体軸受および前記第2偏心体軸受の軸方向移動を規制する中間抜止部を含み、
前記中間抜止部は、前記クランク軸とは別体に設けられることを特徴とする請求項1からのいずれかに記載の偏心揺動型減速装置。
【請求項7】
前記クランク軸の回転に連れて揺動する外歯歯車を有し、
前記中間抜止部は、反偏心方向に位置する場合および偏心方向に位置する場合において前記外歯歯車の軸方向移動を規制することを特徴とする請求項に記載の偏心揺動型減速装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏心揺動型減速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、偏心部用軸受として総ころのニードルベアリングを採用した差動減速機が記載されている。この減速機は、ケーシング内に支持される出力軸と、内歯歯車と、出力軸及び内歯歯車を同軸で貫通し、ボールベアリングを介して支持される入力軸と、偏心部用軸受と、内歯歯車に内接して噛合する外歯歯車と、外歯歯車を遊挿するピン部材を介して出力軸に連結されるキャリヤとを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-155264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の減速機では、外歯歯車は、総ころのニードルベアリングである偏心部用軸受を介して入力軸の偏心部に外装される。また、入力軸の偏心部の外径は、ボールベアリングが設けられる軸支部の外径よりも小さい。このように、入力軸の偏心部の外径が軸支部の外径よりも小さい場合、外歯歯車を組み込む際に、外歯歯車の内径がクランク軸に干渉しないようにする必要があるため、偏心部用軸受のころの軸方向規制部を径方向にあまり大きくできない。したがって、偏心部用軸受のころが軸支部側に抜け易い。
【0005】
本発明の目的は、このような課題に鑑み、偏心体軸受のころが抜けにくい偏心揺動型減速装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の偏心揺動型減速装置は、偏心部を有するクランク軸と、クランク軸を支持するクランク軸軸受と、偏心部の径方向外側に配置される偏心体軸受と、を備える。偏心体軸受は、総ころ軸受であり、偏心部は、反偏心方向側において凹んでおり、偏心体軸受のころは、軸方向外端部の外径が軸方向中心部の外径よりも小さく、クランク軸の外周に配置されてころの軸方向の移動を規制する抜止部を有する。抜止部は、クランク軸とは別体に設けられる。
【0007】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、偏心体軸受のころが抜けにくい偏心揺動型減速装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態に係る偏心揺動型減速装置を示す側面断面図である。
図2図1のクランク軸を示す側面断面図である。
図3】第2実施形態に係る偏心揺動型減速装置を示す側面断面図である。
図4】第3実施形態に係る偏心揺動型減速装置を示す側面断面図である。
図5】第4実施形態に係る偏心揺動型減速装置を示す側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を好適な実施形態をもとに各図面を参照しながら説明する。実施形態および変形例では、同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0011】
また、第1、第2などの序数を含む用語は多様な構成要素を説明するために用いられるが、この用語は一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的でのみ用いられ、この用語によって構成要素が限定されるものではない。
【0012】
[第1実施形態]
以下、図1図2を参照して、本開示の第1実施形態に係る偏心揺動型減速装置100(以下、単に「減速装置100」と表記することがある)の構成を説明する。図1は、減速装置100を概略的に示す側面断面図である。減速装置100の用途に限定はなく、この例の減速装置100は、例えばロボット等の多様な用途に使用できる。
【0013】
減速装置100の全体構成を説明する。減速装置100は、クランク軸12と、外歯歯車14、15と、内歯歯車16と、キャリヤ18、20と、ケーシング22と、主軸受24と、抜止部26、27、28と、クランク軸軸受30、32と、偏心体軸受34、36と、内ピン38とを主に備える。減速装置100は、クランク軸12の回転により、偏心体軸受34、36を介して外歯歯車14、15を揺動させ、内ピン38を介して外歯歯車14、15の自転をキャリヤ18、20に伝達するセンタークランク型の遊星歯車装置である。
【0014】
以下、内歯歯車16の中心軸線Laに沿った方向を「軸方向」といい、その中心軸線Laを中心とする円の円周方向、半径方向をそれぞれ「周方向」、「径方向」とする。また、以下、便宜的に、軸方向の一方側(図中右側)を入力側といい、他方側(図中左側)を反入力側という。このような方向の表記は、減速装置100の使用姿勢を制限するものではなく、減速装置100は、任意の姿勢で使用されうる。
【0015】
本実施形態の減速装置100は、クランク軸12が内歯歯車16の中心軸線Laと同軸線上に設けられるセンタークランクタイプの偏心揺動型減速機として機能する。減速装置100は、中央部に軸方向に貫通するホロー部Hを有する。
【0016】
クランク軸12は、中心にホロー部Hを有する中空円筒状を有する。例えば、クランク軸12の入力側の端部にモータ軸がボルトなどの連結具により連結される。クランク軸12は、複数の偏心部を有し、外歯歯車を揺動させる偏心体として機能する。本実施形態では、クランク軸12は、位相が180°ずれた2つの偏心部12a、12bを有する。
【0017】
偏心部12a、12bは、第1偏心部12aと、第1偏心部12aの入力側に設けられる第2偏心部12bとを含む。偏心部12a、12bの各外周面が中心軸線Laから径方向に最も離れる方向を偏心方向といい、偏心方向と反対方向を反偏心方向という。つまり、偏心部12a、12bの反偏心方向の外周面は、径方向で中心軸線Laに最接近している部分である。図1では、第1偏心部12aの偏心方向は図中の上方向であり、第2偏心部12bの偏心方向は図中の下方向である。偏心部12a、12bは、偏心方向側に突出し、反偏心方向側において凹んでいる。偏心部の数は、2に限られず、1または3以上であってもよい。ここで、反偏心方向側において凹んでいるとは、反偏心方向位置(最大偏心方向位置から180度の位置)を含む所定範囲が凹んでいる(隣接する軸支部よりも中心軸線Laまでの距離が小さい)ということであり、凹んでいる範囲は特に限定されないが、例えば本実施形態においては、反偏心方向から±45度の範囲において凹んでいる。
【0018】
図2も参照する。図2は、クランク軸12を示す断面図である。クランク軸12は、クランク軸軸受30、32を介してキャリヤ18、20およびケーシング22に支持される。クランク軸12は、クランク軸軸受30、32に支持される軸支部12c、12dを有する。軸支部12c、12dは、偏心部12aの反入力側に設けられる第1軸支部12cと、偏心部12bの入力側に設けられる第2軸支部12dとを含む。第1軸支部12cには後述する第1クランク軸軸受30が外嵌され、第2軸支部12dには後述する第2クランク軸軸受32が外嵌される。
【0019】
クランク軸軸受30、32は、クランク軸12を支持する。クランク軸軸受30、32は、外歯歯車14、15の反入力側に配置される第1クランク軸軸受30と、外歯歯車14、15の入力側に配置される第2クランク軸軸受32とを含む。クランク軸軸受30、32の構成に制限はないが、この例のクランク軸軸受30、32の転動体は球体である。
【0020】
第1クランク軸軸受30は、クランク軸12に外嵌され、クランク軸12の外周溝に係止されるワッシャ41によって反入力側への移動が規制される。第2クランク軸軸受32は、クランク軸12に外嵌され、クランク軸12に設けられた外周溝に係止されるワッシャ42と、後述する第4ケーシング22dの軸受支持孔22hに設けられた内周溝に係止されるワッシャ43とによって入力側への移動が規制される。
【0021】
第1クランク軸軸受30の反入力側にワッシャ41を挟んで隣接する第1オイルシール45が設けられる。第2クランク軸軸受32の入力側にワッシャ42、43を挟んで隣接する第2オイルシール46が設けられる。第1オイルシール45は、後述する第1キャリヤ18の径方向中央孔18hとクランク軸12との間に配置される。第2オイルシール46は、第4ケーシング22dの軸受支持孔22hとクランク軸12との間に配置される。
【0022】
偏心体軸受34、36は、偏心部12a、12bと外歯歯車14、15との間に配置される。偏心体軸受34、36は、第1偏心部12aの外周に配置される第1偏心体軸受34と、第2偏心部12bの外周に配置される第2偏心体軸受36とを含む。偏心体軸受34、36は、転動体として複数のころ34a、36aを有する総ころ軸受である。ここで、総ころ軸受とは、周方向に隣接するころところの周方向の接触を規制する(各ころの周方向位置を規制する)保持器(リテーナ)を有さない軸受をいう。
【0023】
外歯歯車14、15は、第1偏心体軸受34の外周に配置される第1外歯歯車14と、第2偏心体軸受36の外周に配置される第2外歯歯車15とを含む。キャリヤ18、20は、外歯歯車14、15の反入力側に配置される第1キャリヤ18と、外歯歯車14、15の入力側に配置される第2キャリヤ20とを含む。
【0024】
外歯歯車14、15は、偏心体軸受34、36を介して対応する偏心部12a、12bに回転自在に支持される。外歯歯車14、15には、中心孔14c、15cと、複数の内ピン孔14h、15hとが形成される。中心孔14c、15cは、外歯歯車14、15の中心に設けられる貫通孔である。複数の内ピン孔14h、15hは、外歯歯車14、15の中心からオフセットされた位置に設けられる貫通孔である。図1の例では、複数(例えば6つ)の内ピン孔14h、15hが周方向に所定の間隔(例えば60°)で配置される。内ピン孔14h、15hには内ピン38が挿通される。外歯歯車14、15の外周に形成された歯が、内歯歯車16の歯と噛み合いながら回転することで、外歯歯車14、15が揺動する。
【0025】
内歯歯車16は、外歯歯車14、15と噛み合う。本実施形態の内歯歯車16は、ケーシング22(後述する第3ケーシング22c)の内周側に一体化された内歯歯車本体16bと、内歯歯車本体16bに回転自在に支持される外ピン16a(ピン部材)とで構成される。外ピン16aは、内歯歯車16の内歯を構成する。内歯歯車16の内歯数(外ピン16aの数)は、外歯歯車14、15の外歯数よりも僅かだけ(この例では1だけ)多い。
外ピン16aの入力側の端部は、後述する第4ケーシング22dの反入力側の側面によって軸方向の移動が規制される。
【0026】
外ピン16aの反入力側の端部は、規制ワッシャ40の入力側の側面によって軸方向の移動が規制される。規制ワッシャ40は、その外周部が後述する第2ケーシング22bと第3ケーシング22cとに挟持される中空円板状の部材である。
【0027】
キャリヤ18、20は、円形部材である。第1キャリヤ18は、第1クランク軸軸受30を介してクランク軸12の反入力側の端部を支持する。第1キャリヤ18は、径方向中央孔18hと、複数の貫通孔18pとを有する。径方向中央孔18hは、第1クランク軸軸受30を支持する。複数(例えば6つ)の貫通孔18pは、中心軸線Laから径方向にオフセットした位置に周方向に所定の間隔(例えば60°)で設けられる。
【0028】
第2キャリヤ20は、第2クランク軸軸受32を介してクランク軸12の入力側の端部を支持する。第2キャリヤ20は、径方向中央孔20hと、複数の貫通孔20pとを有する。径方向中央孔20hは、第2クランク軸軸受32を支持する。複数(例えば6つ)の貫通孔20pは、中心軸線Laから径方向にオフセットした位置に周方向に所定の間隔(例えば60°)で設けられる。
【0029】
第1キャリヤ18と第2キャリヤ20とは、貫通孔18p、20pに挿通される内ピン38によって連結される。この例の第2キャリヤ20は、内ピン38の入力側を支持する内ピン支持部材として機能する。
【0030】
第1キャリヤ18とケーシング22の一方は、被駆動装置(不図示)に回転動力を出力する出力部材として機能し、他方は減速装置100を支持するための外部部材に固定される被固定部材として機能する。本実施形態において、出力部材は第1キャリヤ18であり、被固定部材はケーシング22である。第1キャリヤ18の反入力側の端面に、被駆動装置を連結するためのボルト孔18cが設けられる。
【0031】
内ピン38は、外歯歯車14、15の軸芯から径方向にオフセットした位置において、外歯歯車14、15の内ピン孔14h、15hを軸方向に貫通する。この例では、複数(例えば6つ)の内ピン38が周方向に所定の間隔で配置される。図1では、1つの内ピン38を示す。内ピン38は、反入力側から第1キャリヤ18の貫通孔18pに挿入され、内ピン孔14h、15hを通過し、第2キャリヤ20の貫通孔20pに嵌合することで、第1キャリヤ18と第2キャリヤ20とを連結する連結ピンである。
【0032】
内ピン38の外周には、スリーブ38sが回転可能に嵌合する。スリーブ38sは、内ピン孔14h、15hに隙間を有する状態で挿通される。内ピン38は、スリーブ38sを介して内ピン孔14h、15hの一部と当接する。内ピン38は、外歯歯車14、15の自転を拘束し、その揺動のみを許容する。この構成により、キャリヤ18、20は、内ピン38を介して、外歯歯車14、15の自転と同期して運動する。
【0033】
ケーシング22は、減速装置100の外殻を構成する。ケーシング22は、反入力側から入力側に向かってこの順で積層される第1ケーシング22a、第2ケーシング22b、第3ケーシング22cおよび第4ケーシング22dを含む。第1ケーシング22a、第2ケーシング22bおよび第3ケーシング22cは、中空円筒状の部材である。第4ケーシング22dは、径方向中央に軸受支持孔22hを有する略円板状の部材である。
【0034】
第1ケーシング22aおよび第2ケーシング22bは、主に第1キャリヤ18を環囲する。第3ケーシング22cは、主に外歯歯車14、15を環囲する。第3ケーシング22cの内周面には内歯歯車16が設けられる。第4ケーシング22dは、主に第2キャリヤ20の外周面および入力側側面を覆う。第4ケーシング22dの軸受支持孔22hは、第2クランク軸軸受32を支持する軸方向貫通孔である。
【0035】
第1ケーシング22a、第2ケーシング22bおよび第3ケーシング22cは、ボルトB1により固定される。ボルトB1は、反入力側から第1ケーシング22aおよび第2ケーシング22bを貫通して、第3ケーシング22cのネジ孔22mにねじ込まれる。第4ケーシング22dは、ボルトB2により第3ケーシング22cに固定される。ボルトB2は、入力側から第4ケーシング22dを貫通して、第3ケーシング22cのネジ孔22nにねじ込まれる。この構成によりケーシング22は、一体化される。
【0036】
主軸受24は、外歯歯車14、15の反入力側に配置される。主軸受24は、第1キャリヤ18とケーシング22の間に配置される。主軸受24の構成に制限はないが、この例の主軸受24は、クロスローラベアリングである。主軸受24の外輪は、第1ケーシング22aおよび第2ケーシング22bと一体的に形成される。主軸受24の内輪は、キャリヤ18と一体的に形成される。主軸受24は、第1キャリヤ18をケーシング22に対して回転自在に支持する。
【0037】
図1図2を参照して、本実施形態の特徴的な構成を説明する。図2は、クランク軸12を示す断面図である。偏心体軸受34、36の強度を高めるために、偏心体軸受34、36のころ34a、36aを大径化することが考えられる。しかし、単にころを大径化すると、これに応じて減速装置100が大型化する。そこで、本実施形態では、クランク軸12の偏心部12a、12bの第1外径D1は、クランク軸12のクランク軸軸受30、32に支持される軸支部12c、12dの第2外径D2よりも小さい。第1外径D1が小さいため、ころ34a、36aを大径化しても装置の大型化を抑制できる。
【0038】
偏心部12a、12bを小径化すると、クランク軸12の強度が低下する場合がある。特に、偏心部12a、12bの反偏心方向に窪んだ領域の角部(以下、「凹角部」という)に応力が集中する可能性が有る。図2の例では、凹角部の応力を分散するため、偏心部12a、12bの反偏心方向に窪んだ領域に曲部12kを有する。曲部12kは、偏心部12a、12bの反偏心方向の領域において、ころ34a、36aと軸方向に対向する第1対向面12uから、ころ34a、36aと径方向に対向する第2対向面12vまで曲線で接続される部分である。
【0039】
また、ころ34a、36aの軸方向端部に曲部12kと干渉を避ける曲面部34k、36kが設けられる。曲部12kおよび曲面部34k、36kは、R形状に加えて、曲面、平面、曲面と平面の複合面等からなる各種の形状であってもよい。曲部12kおよび曲面部34k、36kの形状は、所望の強度に応じてシミュレーションにより設定できる。
【0040】
図2に示すように、偏心体軸受34、36のころ34a、36aは、軸方向端部の外径Deが軸方向中心部の外径Dcよりも小さい。この場合、ころ34a、36aは、曲部12kとの干渉を回避できる。
【0041】
好ましくは、ころ34a、36aの軸方向端部の外径Deは、ころ34a、36aの軸方向中心部の外径Dcの20%以下であってもよい。この場合、曲部12kの曲率半径が大きい場合であっても、曲部12kとの干渉を回避できる。また、ころ34a、36aの軸方向端部は軸方向と垂直な平坦面を有さなく(外径Deがゼロ)てもよい。一例として、ころ34a、36aの軸方向端部は曲率半径が一定の球面であってもよいし、さらには半球状であってもよいし、曲率半径が一定でない曲面であってもよい。この場合、ころ34a、36aの抜止部26、27、28との摺動抵抗を低減できる。
【0042】
ころ34a、36aに曲面部34k、36kを設けると、ころ34a、36aがクランク軸軸受30、32側に抜ける可能性が大きくなる。また、ころ端面の摺動相手が外歯歯車、偏心部、隣接ころと変化するため、寿命上不利になる。ころの抜けを防止するために、クランク軸の外周に全周に亘って偏心部より大径のフランジ部を一体に設けることが考えられる。しかし、この場合、フランジ部がクランク軸と一体であるため、フランジ部の外径を大きくすると、外歯歯車の中心孔と干渉して組み付けが難しくなる。
【0043】
そこで、本実施形態では、ころ34a、36aの軸方向の移動を規制するために、中空円板状の抜止部26、27、28が、クランク軸12とは別体に、クランク軸12の外周に配置される。この構成により、組み付け性を維持しつつ、抜止部26、27、28の大径化を可能とし、ころ34a、36aの抜けを効果的に防止できる。
【0044】
本実施形態では、抜止部26、27、28は、第1クランク軸軸受30と第1ころ34aとの間に配置される第1抜止部26と、第2クランク軸軸受32と第2ころ36aとの間に配置される第2抜止部28と、第1偏心体軸受34と第2偏心体軸受36との間に配置される中間抜止部27とを含む。
【0045】
第1抜止部26を有することにより、第1ころ34aの第1クランク軸軸受30側への移動を規制できる。第2抜止部28を有することにより、第2ころ36aの第2クランク軸軸受32側への移動を規制できる。中間抜止部27を有することにより、第1ころ34aと第2ころ36aとの相互干渉を防止できる。図1に示すように、中間抜止部27は、反偏心方向に位置する場合および偏心方向に位置する場合において外歯歯車14、15と当接する。この場合、中間抜止部27は、外歯歯車14、15の揺動位置に関わらず、外歯歯車14、15と接触し、外歯歯車14、15の軸方向移動も規制できる。
【0046】
図1に示すように、本実施形態では、抜止部26、27、28の外形は、偏心方向に位置するころ34a、36aの中心線L34、L36よりも径方向外側に延びる。この場合、ころ34a、36aの抜けを一層効果的に防止できる。
【0047】
図2に示すように、本実施形態では、第1抜止部26は、第1偏心部12aの反入力側に隣接して第1軸支部12cの入力側への延長部分に嵌合し、第2抜止部28は、第2偏心部12bの入力側に隣接して軸支部12dの反入力側への延長部分に嵌合する。中間抜止部27は、第1偏心部12aの偏心方向の領域および、第2偏心部12bの偏心方向の領域に嵌合する。
【0048】
減速装置100の動作を説明する。モータからクランク軸12に回転が伝達されると、クランク軸12の偏心部12a、12bがクランク軸12を通る回転中心線周りに回転し、偏心体軸受34、36を介して外歯歯車14、15が揺動する。外歯歯車14、15が揺動すると、外歯歯車14、15と内歯歯車16の噛合位置が順次ずれる。この結果、クランク軸12が一回転する毎に、外歯歯車14、15と内歯歯車16との歯数差に相当する分、外歯歯車14、15および内歯歯車16の一方の自転が発生する。本実施形態においては、内ピン38を介して、外歯歯車14、15の自転と同期する第1キャリヤ18から減速回転が出力される。
【0049】
このように構成された減速装置100の特徴を説明する。減速装置100は、偏心部の反偏心方向に窪んだ領域に曲部12kを有するため、この部分への応力集中を緩和できる。また、抜止部の外形を大きくできるため、ころ34a、36aの軸方向移動を規制でき、偏心部12a、12bの潤滑剤が主軸受24側に漏れるのを抑制できる。また、中間抜止部27を有するため、ころ34a、36aの端面の摺動相手が変わらず、寿命上有利であり、偏心部12a、12bの潤滑剤が外歯歯車14、15の中心孔14c、15cから漏れるのを抑制できる。
【0050】
以下、本開示の第2~第5実施形態を説明する。第2~第5実施形態の図面および説明では、第1実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。第1実施形態と重複する説明を適宜省略し、第1実施形態と相違する構成について重点的に説明する。したがって、第2~第5実施形態における第1実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、第1実施形態の説明が適用される。
【0051】
[第2実施形態]
図3を参照して、本開示の第2実施形態に係る偏心揺動型減速装置100の構成を説明する。図3は、本実施形態に係る減速装置100の全体構成を示す断面図である。
【0052】
本実施形態では、第2抜止部28が第2キャリヤ20と一体的に形成され、クランク軸12に第2抜止部28に対応する突起12pが設けられる点で第1実施形態と異なり、他の構成は共通である。したがって、主に第2抜止部28およびクランク軸12の突起12pを説明する。
【0053】
図3の例では、第2キャリヤ20は、内ピン38の入力側を支持するキャリヤ本体部20bと、キャリヤ本体部20bの内周部から径方向内向きに延出する中空円板状の延出抜止部20cとを有する。キャリヤ本体部20bおよび延出抜止部20cは一体的に形成される。延出抜止部20cは、軸方向から見て、反偏心方向に位置するころ36a(図中上側のころ)の中心線L36と重ならず、偏心方向に位置するころ36a(図中下側のころ)の中心線L36と重なる内側形状を有する。
【0054】
図3の例では、突起12pは、延出抜止部20cに対応する軸方向位置において、第2軸支部12dの反入力側への延長部分から径方向外向きに突出する略円板状の部分である。軸方向から見て、突起12pは、反偏心方向に位置するころ36a(図中上側のころ)の中心線L36と重なり、偏心方向に位置するころ36a(図中下側のころ)の中心線L36と重ならない。
【0055】
本実施形態は、第1実施形態と同様の作用と効果を奏する。
【0056】
[第3実施形態]
図4を参照して、本開示の第3実施形態に係る偏心揺動型減速装置100の構成を説明する。図4は、本実施形態に係る減速装置100の全体構成を示す断面図である。
【0057】
本実施形態では、クランク軸12に第1抜止部26に対応する突起12q、12rが設けられる点で第1実施形態と異なり、他の構成は共通である。したがって、主にクランク軸12の突起12q、12rを説明する。
【0058】
図4の例では、突起12qは、第1抜止部26に対応する軸方向位置において、第1軸支部12cの入力側への延長部分から径方向外向きに突出する略円板状の部分である。突起12rは、第2抜止部28に対応する軸方向位置において、第2軸支部12dの反入力側への延長部分から径方向外向きに突出する略円板状の部分である。突起12qの外形は、軸方向から見て、偏心方向に位置するころ34aの中心線L34と重ならない。また、第1抜止部26の内側形状は、軸方向から見て、突起12qの外側と重なる。突起12rの外形は、軸方向から見て、偏心方向に位置するころ36aの中心線L36と重ならない。また、第2抜止部28の内側形状は、軸方向から見て、突起12rの外側と重なる。
【0059】
本実施形態は、第1実施形態と同様の作用と効果を奏する。
【0060】
[第4実施形態]
図5を参照して、本開示の第4実施形態に係る偏心揺動型減速装置100の構成を説明する。図5は、本実施形態に係る減速装置100の全体構成を示す断面図である。
【0061】
本実施形態では、第1抜止部26の内側が大径化され、クランク軸12に第1抜止部26に対応する突起12sが設けられる点で第1実施形態と異なり、他の構成は共通である。したがって、主にクランク軸12の突起12sを説明する。
【0062】
図5の例では、突起12sは、第1抜止部26に対応する軸方向位置において、第1軸支部12cの入力側への延長部分から径方向外向きに突出する略円板状の部分である。本実施形態の突起12sの外形は、第1実施形態の突起12qの外形よりも大きい。また、本実施形態の第1抜止部26の内側形状は、軸方向から見て、突起12sと重ならない。したがって、第1抜止部26は、突起12sの外周を隙間を介して環囲する。
【0063】
本実施形態は、第1実施形態と同様の作用と効果を奏する。
【0064】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明した。前述した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施形態の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態の」「実施形態では」等との表記を付して説明するが、そのような表記のない内容に設計変更が許容されないわけではない。また、図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
【0065】
以下、変形例について説明する。変形例の図面および説明では、実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。実施形態と重複する説明を適宜省略し、実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0066】
[変形例]
実施形態の説明では、ケーシング22が4部材で構成される例を示したが、ケーシングは、3以下または5以上の部材で構成されてもよい。
【0067】
実施形態の説明では、外歯歯車の数が2である例を示したが、外歯歯車の数は、1または3以上であってもよい。
【0068】
キャリヤ18、20を接続するためのピン部材として内ピン38とは別に駆動力の伝達に寄与しないキャリヤピンを備えてもよい。
【0069】
実施形態の説明では、内ピン38が第1キャリヤ18と別体の例を示したが、内ピン38は、第1キャリヤ18と一体的に形成されてもよい。
【0070】
実施形態の説明では、主軸受24の内輪が、キャリヤ18と一体的に形成され、主軸受24の外輪が、ケーシング22と一体的に形成される例を示したが、主軸受の内輪または外輪は、キャリヤまたはケーシングと別体であってもよい。
【0071】
実施形態の説明では、減速装置100がいわゆるセンタークランク型の遊星歯車装置である例を示したが、これに限定されない。本発明は、例えば、振り分け型等の偏心揺動型減速装置にも適用できる。
【0072】
上述の各変形例は実施形態と同様の作用と効果を奏する。
【0073】
上述した実施形態の構成要素と変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施形態は、組み合わされる実施形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【符号の説明】
【0074】
12 クランク軸、 12a 第1偏心部、 12b 第2偏心部、 12c 第1軸支部、 12d 第2軸支部、 12k 曲部、 12p 突起、 12u 第1対向面、 12v 第2対向面、 14 第1外歯歯車、 15 第2外歯歯車、 18 第1キャリヤ、 20 第2キャリヤ、 22 ケーシング、 26 第1抜止部、 27 中間抜止部、 28 第2抜止部、 30 第1クランク軸軸受、 32 第2クランク軸軸受、 34 第1偏心体軸受、 34k 曲面部、 36 第2偏心体軸受、 34a、36a ころ、 100 偏心揺動型減速装置。
図1
図2
図3
図4
図5