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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-04
(45)【発行日】2025-06-12
(54)【発明の名称】偏心揺動型減速装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/32 20060101AFI20250605BHJP
   F16C 19/28 20060101ALI20250605BHJP
   F16C 23/06 20060101ALI20250605BHJP
   F16C 33/66 20060101ALI20250605BHJP
   F16H 57/04 20100101ALI20250605BHJP
【FI】
F16H1/32 A
F16C19/28
F16C23/06
F16C33/66 Z
F16H57/04 J
F16H57/04 Q
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021035065
(22)【出願日】2021-03-05
(65)【公開番号】P2022135326
(43)【公開日】2022-09-15
【審査請求日】2024-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】阿部 瞬
(72)【発明者】
【氏名】大橋 拓也
【審査官】岸本 和真
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-38088(JP,A)
【文献】特開2015-197158(JP,A)
【文献】特開2020-186812(JP,A)
【文献】特開2017-57899(JP,A)
【文献】特開2009-204156(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0320735(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
F16C 19/28
F16C 23/06
F16C 33/66
F16H 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外歯歯車と、
前記外歯歯車を偏心揺動させる偏心体軸と、
前記外歯歯車と前記偏心体軸との間に配置される偏心体軸受を有する偏心揺動型減速装置において、
前記偏心体軸受は、押さえ部によって軸方向の移動が規制され、
前記押さえ部は、軸方向に延びる円筒部と、前記円筒部の径方向に延びるフランジ部を有し、
前記押さえ部前記偏心体軸受側へ動を規制する規制部が前記偏心体軸に設けられ
前記偏心体軸は、前記規制部と前記偏心体軸受の間に前記規制部の外形よりも径方向内側に凹んだ凹部を有することを特徴とする偏心揺動型減速装置。
【請求項2】
前記円筒部の軸方向寸法は、前記偏心体軸受のリテーナのリング部の軸方向寸法よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の偏心揺動型減速装置。
【請求項3】
前記円筒部の軸方向寸法は、前記フランジ部の軸方向寸法よりも大きいことを特徴とする請求項1または2に記載の偏心揺動型減速装置。
【請求項4】
前記凹部は、前記押さえ部と径方向から見て重なることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の偏心揺動型減速装置。
【請求項5】
前記凹部は、前記フランジ部と径方向から見て重なることを特徴とする請求項4に記載の偏心揺動型減速装置。
【請求項6】
外歯歯車と、
前記外歯歯車を偏心揺動させる偏心体軸と、
前記外歯歯車と前記偏心体軸との間に配置される偏心体軸受を有する偏心揺動型減速装置において、
前記偏心体軸受は、押さえ部によって軸方向の移動が規制され、
前記押さえ部は、軸方向に延びる円筒部と、前記円筒部の径方向に延びるフランジ部を有し、
前記偏心体軸は、前記押さえ部と径方向から見て重なる位置で径方向内側に凹んだ凹部を有し、
前記偏心体軸は、前記凹部の前記偏心体軸受とは反対側に隣接する位置で径方向外側に突き出た凸部を有することを特徴とする偏心揺動型減速装置。
【請求項7】
前記押さえ部は、前記円筒部の前記フランジ部とは反対側に設けられる当接部を有し、当該当接部は、前記規制部と当接して前記押さえ部の軸方向移動を規制することを特徴とする請求項1に記載の偏心揺動型減速装置。
【請求項8】
前記偏心体軸の最大偏心方向において、前記円筒部の外周は、前記偏心体軸の偏心部の外周よりも径方向で外側に位置することを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の偏心揺動型減速装置。
【請求項9】
前記偏心体軸の反最大偏心方向において、前記偏心体軸の偏心部の外周は、前記規制部の外周よりも径方向で内側に位置することを特徴とする請求項7に記載の偏心揺動型減速装置。
【請求項10】
前記凹部は、前記偏心体軸受と径方向から見て重なることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の偏心揺動型減速装置。
【請求項11】
外歯歯車と、
前記外歯歯車を偏心揺動させる偏心体軸と、
前記外歯歯車と前記偏心体軸との間に配置される偏心体軸受を有する偏心揺動型減速装置において、
前記偏心体軸受は、押さえ部によって軸方向の移動が規制され、
前記押さえ部は、軸方向に延びる円筒部と、前記円筒部の径方向に延びるフランジ部を有し、
前記偏心体軸の最大偏心方向において、前記フランジ部の外周は、前記偏心体軸受のリテーナの外周よりも径方向で外側に位置することを特徴とする偏心揺動型減速装置。
【請求項12】
前記偏心体軸の反最大偏心方向において、前記フランジ部の内周は、前記偏心体軸受のリテーナの外周よりも径方向で内側に位置することを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載の偏心揺動型減速装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏心揺動型減速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
偏心体軸受を備えた偏心揺動型の減速装置が知られている。本出願人は、特許文献1において、内歯歯車に内接噛合する外歯歯車を有し、外歯歯車と内歯歯車のいずれか一方を、偏心体軸に形成した偏心体によって揺動回転させるように構成した揺動内接噛合遊星歯車装置を開示している。この歯車装置は、偏心体軸を支持する偏心体軸用軸受を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-285396号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、偏心揺動型の減速装置を検討し下記の認識を得た。
減速装置の外歯歯車と偏心体軸との間に配置される偏心体軸受の信頼性を確保するためには、偏心体軸受に潤滑材を安定的に供給して潤滑性を向上することが重要である。しかし、特許文献1の減速装置は、これらの観点で十分な対応がなされたものでなく、改良の余地があった。
【0005】
本発明は、こうした状況に鑑みてなされたもので、偏心体軸受の潤滑性を向上できる偏心揺動型減速装置を提供することを目的の一つとしている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の偏心揺動型減速装置は、外歯歯車と、外歯歯車を偏心揺動させる偏心体軸と、外歯歯車と偏心体軸との間に配置される偏心体軸受を有する偏心揺動型減速装置において、偏心体軸受は、押さえ部によって軸方向の移動が規制され、押さえ部は、軸方向に延びる円筒部と、円筒部の径方向に延びるフランジ部を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、偏心体軸受の潤滑性を向上できる偏心揺動型減速装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態に係る偏心揺動型減速装置を示す側面断面図である。
図2図1の偏心揺動型減速装置のA-A線断面図である。
図3図1の偏心体軸の周辺を拡大して示す断面図である。
図4図3の押さえ部の周辺を拡大して示す断面図である。
図5図3の押さえ部の周辺を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を好適な実施形態をもとに各図面を参照しながら説明する。実施形態および変形例では、同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0010】
また、第1、第2などの序数を含む用語は多様な構成要素を説明するために用いられるが、この用語は一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的でのみ用いられ、この用語によって構成要素が限定されるものではない。
【0011】
[実施形態]
以下、図面を参照して、本開示の実施形態に係る偏心揺動型減速装置100(以下、「減速装置100」ということがある)の構成を説明する。図1は、本実施形態の減速装置100を概略的に示す側面断面図である。図2は、図1のA-A線断面図である。図3は、偏心体軸12の周辺を拡大して示す断面図である。減速装置100の用途に限定はないが、この例の減速装置100は例えば多関節ロボットの関節に使用できる。
【0012】
減速装置100の全体構成を説明する。減速装置100は、主に、偏心体軸12と、外歯歯車14と、内歯歯車16と、キャリヤ18、20と、ケーシング22と、主軸受24、26と、偏心体軸受30と、内ピン32と、偏心体軸軸受33、34と、押さえ部40とを備える。
【0013】
以下、内歯歯車16の中心軸線Laに沿った方向を「軸方向」といい、その中心軸線Laを中心とする円の円周方向、半径方向をそれぞれ「周方向」、「径方向」とする。また、以下、便宜的に、軸方向の一方側(図中右側)を入力側といい、他方側(図中左側)を反入力側という。このような方向の表記は、減速装置100の使用姿勢を制限するものではなく、減速装置100は、任意の姿勢で使用されうる。
【0014】
キャリヤ18、20は、外歯歯車14の反入力側に配置される第1キャリヤ18と、外歯歯車14の入力側に配置される第2キャリヤ20とを含む。主軸受24、26は、外歯歯車14の反入力側に配置される第1主軸受24と、外歯歯車14の入力側に配置される第2主軸受26とを含む。偏心体軸軸受33、34は、外歯歯車14の反入力側に配置される第1偏心体軸軸受33と、外歯歯車14の入力側に配置される第2偏心体軸軸受34とを含む。
【0015】
本実施形態の減速装置100は、偏心体軸12が内歯歯車16の中心軸線Laと同軸線上に設けられるセンタークランクタイプである。減速装置100は、中央部に軸方向に貫通するホロー部Hを有する。ホロー部Hは、偏心体軸12に設けられる。
【0016】
ケーシング22は、減速装置100の外殻を構成する。キャリヤ18、20は、ケーシング22の内側に配置され、ケーシング22と相対回転する。偏心体軸12は、中心にホロー部Hを有する中空円筒状を有する。例えば、偏心体軸12の入力側の端部にモータ軸がボルトなどの連結具により連結される。
【0017】
偏心体軸12は、複数の偏心部128を有し、外歯歯車14を揺動させる偏心体として機能する。この例では、偏心体軸12は、位相が180°ずれた2つの偏心部128を有する。偏心体軸12の両端部は、偏心体軸軸受33、34を介してキャリヤ18、20に支持される。なお、偏心部128の数は、2つに限られず、1つまたは3つ以上であってもよい。
【0018】
図3に示すように、偏心体軸12は、偏心体軸受30の反入力側の近傍位置で径方向内側に凹んだ凹部124を有する。また、偏心体軸12は、凹部124の偏心体軸受30とは反対側に隣接する位置で径方向外側に突き出た凸部126を有する。凹部124および凸部126については後述する。ケーシング22の内側、特に、偏心体軸受30の近傍には潤滑剤Gが封入される。
【0019】
偏心体軸軸受33、34の構成に制限はない。この例では、反入力側に配置される第1偏心体軸軸受33は、転動体332がボール(球体)である深溝玉軸受である。転動体332は、内輪334と、外輪336との間で転動する。入力側に配置される第2偏心体軸軸受34は、転動体342がころ(円筒体)であるころ軸受である。第2偏心体軸軸受34は、内輪、外輪を有せず、転動体342は、偏心体軸12の外周面132と、第2キャリヤ20の内周面202との間で転動する。
【0020】
本実施形態では、偏心体軸受30は、円筒ころ形状の転動体302とリテーナ304とを有する。転動体302は、偏心部128の周りに所定の間隔で複数(例えば、38個)配置される。リテーナ304は、複数の転動体302を回転可能に所定位置に保持する。リテーナ304は、転動体302の軸方向両端の側部に設けられる円環状のリング部306と、転動体302を収容するポケット(不図示)とを有する。偏心体軸受30は、内輪および外輪を有しておらず、転動体302は偏心部128の外周面と外歯歯車14の中心孔14cの内周面との間で転動する。図3に示すように、偏心体軸受30は、押さえ部40によって反入力側への軸方向の移動が規制されている。偏心体軸受30は、止め輪352と、ワッシャ354によって、第2偏心体軸軸受34を介して入力側への軸方向の移動が規制されている。押さえ部40については後述する。
【0021】
図2に示すように、外歯歯車14は、偏心体軸受30を介して対応する偏心部128に回転自在に支持される。外歯歯車14には、中心孔14cと、複数の内ピン孔14hとが形成されている。中心孔14cは、外歯歯車14の中心に設けられる貫通孔である。複数の内ピン孔14hは、外歯歯車14の中心からオフセットされた位置に設けられる貫通孔である。図2の例では、10個の内ピン孔14hが周方向に36°間隔で配置されている。内ピン孔14hには内ピン32が挿通される。外歯歯車14の外周に形成された歯が、内歯歯車16の歯と噛み合いながら回転することで、外歯歯車14が揺動する。
【0022】
図2に示すように、内歯歯車16は、外歯歯車14と噛み合う。本実施形態の内歯歯車16は、ケーシング22と一体化された内歯歯車本体と、この内歯歯車本体に回転自在に支持される外ピン16p(ピン部材)とで構成されている。外ピン16pは、内歯歯車16の内歯を構成する。内歯歯車16の内歯数(外ピン16pの数)は、外歯歯車14の外歯数よりも僅かだけ(この例では1だけ)多い。
【0023】
図1に示すように、第1キャリヤ18および第2キャリヤ20は、主軸受24、主軸受26を介してケーシング22に回転自在に支持されている。第1キャリヤ18は、第1偏心体軸軸受33を介して偏心体軸12を支持する。第2キャリヤ20は、第2偏心体軸軸受34を介して偏心体軸12を支持する。
【0024】
第1キャリヤ18と第2キャリヤ20とは、内ピン32を介して連結される。内ピン32は、外歯歯車14の軸芯から径方向にオフセットした位置において、外歯歯車14の内ピン孔14hを軸方向に貫通する。
【0025】
キャリヤ18、20とケーシング22の一方は、被駆動装置に回転動力を出力する出力部材として機能し、他方は減速装置100を支持するための外部部材に固定される被固定部材として機能する。本実施形態において、出力部材は第1キャリヤ18および第2キャリヤ20であり、被固定部材はケーシング22である。
【0026】
図2の例では、内ピン32は、周方向に36°間隔で10個配置される。図1では、1つの内ピン32を示す。内ピン32は、反入力側が第1キャリヤ18に固定され、入力側が第2キャリヤ20に固定される。内ピン32は、第1キャリヤ18と第2キャリヤ20とを連結する。図1の例では、内ピン32は、第1キャリヤ18と一体的に形成されており、入力側が第2キャリヤ20にボルトB1によって固定されている。内ピン32の外周にはスリーブ32sが設けられる。内ピン32は、内ピン孔14hに隙間を有する状態で挿通される。内ピン32は、スリーブ32sを介して内ピン孔14hの一部と当接している。内ピン32は、外歯歯車14の自転を拘束しその揺動のみを許容している。
【0027】
主軸受24、26は、第1キャリヤ18とケーシング22の間および第2キャリヤ20とケーシング22の間に配置される。主軸受24、26の構成に制限はないが、この例の主軸受24、26は、転動体24e、26eが円筒ころであるころ軸受けである。図1では、転動体24e、26eを保持する保持器の記載を省略している。主軸受24、26の外輪は、ケーシング22に支持される。第1主軸受24の内輪は、キャリヤ18と一体的に形成されている。第2主軸受26の内輪は、キャリヤ20と一体的に形成されている。
【0028】
ケーシング22は、キャリヤ18、20を環囲する中空円筒状の部材である。図1に示すように、ケーシング22と、第1キャリヤ18との間には、主軸受24からの潤滑剤をシールするオイルシール28が設けられている。
【0029】
以下、本実施形態の特徴構成を説明する。
【0030】
本発明者は、減速装置について研究して以下の知見を得た。
減速装置の小型、軽量化のために外歯歯車と偏心体軸との間に配置される偏心体軸受の転動体を小型化するニーズがある。例えば、減速装置100をロボットの関節等に適用する場合、配線や配管を通すために、偏心体軸12のホロー部Hの中空径を大きくすることが望ましい。全体の大きさを変えずに中空径を大きくするために、偏心体軸受30のころ(転動体302)のころ径を小さくすることが考えられる。しかし、ころ径を小さくすると、軸受寿命が低下する傾向にある。
【0031】
ころ径を小さくしながら軸受寿命を確保するために、潤滑性を高めることが有効である。潤滑性を高めるために、減速装置の内部に潤滑材をフル充填することが考えられる。この場合、高速回転する偏心体軸12の周囲が潤滑材で満たされ、潤滑材の攪拌抵抗が増大して損失が増える。また、潤滑材の充填量を減らすと、回転時の遠心力により外周側に偏在し、転動体302の潤滑に寄与する潤滑材が減り、寿命が低下する。
【0032】
これらから、本発明者は、転動体302の周囲に潤滑材の保持空間を設ける観点で検討を重ねた。この結果、転動体302を所定の形状の押さえ部で押さえることにより、転動体302の近傍に潤滑材の保持空間を確保できることが見出された。この構成により、潤滑材の攪拌抵抗の増大を抑えつつ、遠心力の影響を低減できることが示唆された。以下、具体的に説明する。
【0033】
図3図5を参照して、押さえ部40を説明する。図4図5は、押さえ部40の周辺(破線Eの範囲)を拡大して示す断面図である。図5は、図4に対して偏心体軸12が180°回転した状態を示す。押さえ部40は、偏心体軸受30の反入力側への軸方向の移動を規制するとともに、転動体302の周囲に潤滑材Gの保持空間を確保し、遠心力による潤滑材Gの逃げを低減するように構成されている。
【0034】
図3図5に示すように、押さえ部40は、円筒部402と、フランジ部404と、当接部406とを有する。押さえ部40は、中空円環状の部材で金属や樹脂で形成できる。押さえ部40は、円筒部402、フランジ部404および当接部406が、周方向に均一で、孔、凸部、凹部などがないものであってもよいし、周方向に不均一で、周方向の一部に孔、凸部、凹部などが設けられてもよい。
【0035】
円筒部402は、軸方向に延びる筒状の部分で、外径が軸方向に一定であってもよいし、外径が軸方向で変化してもよい。フランジ部404は、円筒部402の径方向に延びる鍔状の部分である。この例では、フランジ部404は、円筒部402の入力側の端部から径方向外側に向かって張り出している。フランジ部404の外形は、軸方向から見て円形であってもよいし非円形であってもよい。図3図5に示すように、フランジ部404は、偏心体軸受30のリテーナ304のリング部306の反入力側に当接する。
【0036】
当接部406は、押さえ部40の軸方向移動を規制する部分である。この例では、当接部406は、円筒部402のフランジ部404とは反対側(反入力側)に設けられ、円筒部402の端部から径方向内側に向かって張り出している。当接部406の内形は、軸方向から見て円形であってもよいし非円形であってもよい。図3図5に示すように、当接部406は、偏心体軸12の凸部126と、第1偏心体軸軸受33の内輪334との軸方向隙間に挿入される。当接部406は、第1偏心体軸軸受33の内輪334に当接する。
【0037】
図4に示すように、偏心体軸12は、第2偏心体軸軸受34が嵌合する外周面132と、第1偏心体軸軸受33が設けられる外周面133とを有する。偏心体軸12の径方向において、偏心部128が、最も外側に偏心している方向を最大偏心方向といい、その反対に偏心した方向を反最大偏心方向という。図4図5において、偏心体軸12の偏心部128-Aは、最大偏心方向を示しており、偏心部128-Bは、反最大偏心方向を示している。偏心部128-Aの最大偏心方向の外周を符号129で示し、偏心部128-Bの反最大偏心方向の外周を符号130で示す。外周線Aは、偏心部128-Aの最大偏心方向の外周位置を軸方向に延長した線であり、外周線Bは、偏心部128-Bの反最大偏心方向の外周位置を軸方向に延長した線である。
【0038】
本実施形態では、偏心体軸受30は、押さえ部40によって軸方向の移動が規制され、押さえ部40は、軸方向に延びる円筒部402と、円筒部402の径方向に延びるフランジ部404を有する。この場合、円筒部402の内側空間に潤滑材Gを保持できる。
【0039】
転動体302の周囲に潤滑材Gの保持空間を確保する観点で、円筒部402の軸方向寸法W1は、大きいことが望ましい。そこで、本実施形態では、円筒部402の軸方向寸法W1は、偏心体軸受30のリテーナ304のリング部306の軸方向寸法W2よりも大きい。この場合、トータルの軸方向の寸法が一定の条件で、潤滑材Gの保持空間を広くできる。
【0040】
同様に、潤滑材Gの保持空間を確保する観点で、本実施形態では、円筒部402の軸方向寸法W1は、フランジ部404の軸方向寸法W3よりも大きい。この場合、押さえ部40のトータルの軸方向の寸法が一定の条件で、潤滑材Gの保持空間を広くできる。
【0041】
同様に、潤滑材Gの保持空間を確保する観点で、本実施形態では、偏心体軸12は、押さえ部40と径方向から見て重なる位置で径方向内側に凹んだ凹部124を有する。凹部124を有することにより、その分、潤滑材Gの保持空間が広くなる。また、凹部124は、リテーナ304のリング部306と径方向に対向する(径方向から見て重なる)してもよい。この場合、凹部124の潤滑材Gが偏心体軸受30に絡みやすく、潤滑性向上に有利である。
【0042】
凹部124が、潤滑材Gの保持空間から遠いと、凹部124の潤滑材Gが偏心体軸受30に絡みにくい。そこで、本実施形態では、凹部124は、フランジ部404と径方向から見て重なる(径方向に対向する)。この場合、凹部124の潤滑材Gが偏心体軸受30の潤滑に効果的に寄与する。
【0043】
凹部124の潤滑材Gが反入力側に逃げると、偏心体軸受30の潤滑に不利である。そこで、本実施形態では、偏心体軸12は、凹部124の偏心体軸受30とは反対側に隣接する位置で径方向外側に突き出た凸部126を有する。この場合、凹部124の潤滑材Gをせき止めて、反入力側への逃げを減らせる。本実施形態では、凹部124および凸部126の軸方向寸法は概ね同じである。
【0044】
押さえ部40と凹部124の位置関係が不安定だと、凹部124の潤滑材Gによる偏心体軸受30の潤滑性向上効果が不安定になる。そこで、本実施形態では、押さえ部40は、円筒部402のフランジ部404とは反対側に設けられ、凸部126と当接して押さえ部40の軸方向移動を規制する当接部406を有する。この場合、凸部126を当接部406に軸方向に対向させることにより、押さえ部40の偏心体軸12に対する位置が安定し、潤滑材Gによる潤滑性向上効果を安定化できる。当接部406は、第1偏心体軸軸受33の内輪334と、凸部126との間の軸方向隙間に介在し、両者に軸方向に当接している。
【0045】
潤滑材Gの保持空間を確保する観点で、本実施形態では、図4に示すように、偏心体軸12の最大偏心方向において、円筒部402の外周407は、偏心体軸12の偏心部128の外周129よりも径方向で外側に位置する。外周407が大きくなることにより、潤滑材Gの保持空間を広くできる。本実施形態では、偏心体軸12の最大偏心方向において、円筒部402の外周は、軸方向全長にわたって偏心部128よりも径方向外側に位置する。
【0046】
また、本実施形態では、円筒部402の外周407は、第1偏心体軸軸受33の内輪334の外周335よりも径方向で内側に位置する。換言すると、外周407の外径は、外周335の外径よりも小さい。この場合、押さえ部40が第1偏心体軸軸受33のリテーナ(不図示)に干渉する可能性を低くできる。
【0047】
また、本実施形態では、図5に示すように、偏心体軸12の反最大偏心方向において、偏心体軸12の偏心部128の外周130(外周線B)は、凸部126の外周131よりも径方向で内側に位置する。また、本実施形態では、図4に示すように、偏心体軸12の最大偏心方向において、偏心体軸12の偏心部128の外周129(外周線A)は、凸部126の外周131よりも径方向で外側に位置する。
【0048】
また、本実施形態では、図4図5に示すように、円筒部402は、軸方向で、偏心体軸受30側が大径になる形状を有し、外周の輪郭線が軸方向に対して傾斜している。円筒部402は、例えば、テーパ形状を有してもよく、外周の輪郭線が直線または曲線であってもよい。この場合、偏心体軸受30側を大径にすることにより、小径の場合に比べて潤滑材Gの保持空間を広くできる。
【0049】
また、本実施形態では、図4に示すように、偏心体軸12の最大偏心方向において、フランジ部404の外周408は、リテーナ304の外周308よりも径方向で外側に位置する。この場合、フランジ部404の外周408が、リテーナ304の近傍の潤滑材Gをせき止め、潤滑材Gの逃げを低減する。
【0050】
また、本実施形態では、図5に示すように、偏心体軸12の反最大偏心方向において、フランジ部404の内周409は、リテーナ304の外周308よりも径方向で内側に位置する。この場合、フランジ部404とリテーナ304のリング部306との接触面積を確保できるので、製造過程でリテーナ304が外れる可能性を低くできる。
【0051】
このように構成された減速装置100の動作を説明する。モータから偏心体軸12に回転が伝達されると、偏心体軸12の偏心部128が偏心体軸12を通る回転中心線周りに回転し、偏心体軸受30を介して外歯歯車14が揺動する。外歯歯車14が揺動すると、外歯歯車14と内歯歯車16の噛合位置が順次ずれる。この結果、偏心体軸12が一回転する毎に、外歯歯車14と内歯歯車16との歯数差に相当する分、外歯歯車14および内歯歯車16の一方の自転が発生する。本実施形態においては、外歯歯車14が自転し、内ピン32を介して第1キャリヤ18および第2キャリヤ20から減速回転が出力される。
【0052】
このように構成された減速装置100の特徴を説明する。減速装置100は、外歯歯車14と、外歯歯車14を偏心揺動させる偏心体軸12と、外歯歯車14と偏心体軸12との間に配置される偏心体軸受30を有する偏心揺動型減速装置において、偏心体軸受30は、押さえ部40によって軸方向の移動が規制され、押さえ部40は、軸方向に延びる円筒部402と、円筒部402の径方向に延びるフランジ部404を有する。
【0053】
この構成によれば、押さえ部40により、転動体302の近傍に潤滑材を保持できる空間を確保できる。また、この構成により、潤滑材Gの攪拌抵抗の増大を抑えつつ、遠心力の影響を低減できる。この結果、偏心体軸受30の潤滑性を向上できる。
【0054】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明した。前述した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施形態の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態の」「実施形態では」等との表記を付して説明しているが、そのような表記のない内容に設計変更が許容されないわけではない。また、図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
【0055】
以下、変形例について説明する。変形例の図面および説明では、実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。実施形態と重複する説明を適宜省略し、実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0056】
[変形例]
実施形態の説明では、減速装置100がセンタークランクタイプの偏心揺動型減速装置である例を示したが、本発明はこれに限定されない。減速装置は、外歯歯車と偏心体軸との間に偏心体軸受が配置されるものであればよく、減速機構の種類は特に限定されず、例えば、中心からオフセットした位置に複数のクランク軸が配置されるいわゆる振り分けタイプの偏心揺動型減速装置であってもよい。
【0057】
実施形態の説明では、外歯歯車14の数が2である例を示したが、外歯歯車の数は、1または3以上であってもよい。
【0058】
実施形態の説明では、キャリヤ18、20を接続するためのピン部材として、外歯歯車14の駆動力の伝達に寄与する内ピン32を備える例を示した。キャリヤ18、20を接続するためのピン部材として内ピン32とは別に駆動力の伝達に寄与しないキャリヤピンを備えてもよい。
【0059】
実施形態の説明では、内ピン32が第1キャリヤ18と一体的に形成される例を示したが、内ピン32は、第1キャリヤ18と別体に形成されてボルト等の固定具によって連結されてもよい。
【0060】
実施形態の説明では、偏心体軸受30が内輪、外輪を有しない例を示したが、偏心体軸受30は、内輪または外輪を有してもよい。
【0061】
実施形態の説明では、主軸受24、26の内輪が、キャリヤ18、20と一体的に形成される例を示したが、主軸受の内輪は、キャリヤとは別体であってもよい。
【0062】
実施形態の説明では、主軸受24、26の転動体24e、26eが円筒ころである例を示したが、主軸受の転動体は、テーパころや球体等の円筒ころとは別の形状を有してもよい。また、主軸受は、一対の軸受で構成されるものに限定されず、例えばクロスローラ軸受でもよい。実施形態の説明では、偏心体軸軸受33、34の転動体332が球体である例を示したが、偏心体軸軸受の転動体は、球体とは別の形状(例えば、円筒ころ形状等)を有してもよい。実施形態の説明では、偏心体軸受30の転動体302が円筒ころである例を示したが、偏心体軸受の転動体は、円筒ころとは別の形状(例えば、球体等)を有してもよい。
【0063】
実施形態の説明では、隣接する例として、偏心体軸12の凸部126が凹部124のすぐ隣に配置される例を示したが、偏心体軸の凸部と凹部の間に平坦部等が設けられてもよい。
【0064】
実施形態の説明では、偏心体軸12の最大偏心方向において、偏心部128よりも径方向外側に位置する例として、偏心体軸12の最大偏心方向において、円筒部402の外周は、軸方向全長にわたって偏心部128よりも径方向外側に位置する例を示したが、偏心部128よりも径方向外側に位置するとは、円筒部の外周は、軸方向範囲の一部が偏心部よりも径方向外側に位置する構成であってもよい。
【0065】
上述の各変形例は実施形態と同様の作用・効果を奏する。
【0066】
上述した実施形態の構成要素と変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施形態は、組み合わされる実施形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【符号の説明】
【0067】
12 偏心体軸、 14 外歯歯車、 30 偏心体軸受、 40 押さえ部、 124 凹部、 126 凸部、 128 偏心部、 129、130、131 外周、 304 リテーナ、 306 リング部、 308 外周、 335 外周、 402 円筒部、 404 フランジ部、 406 当接部、 407、408 外周、 W1、W2、W3 軸方向寸法、 100 偏心揺動型減速装置。
図1
図2
図3
図4
図5