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特許7691839セメント組成物および超高強度セメント質硬化体の製造方法
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  • 特許-セメント組成物および超高強度セメント質硬化体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-04
(45)【発行日】2025-06-12
(54)【発明の名称】セメント組成物および超高強度セメント質硬化体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/04 20060101AFI20250605BHJP
   C04B 14/06 20060101ALI20250605BHJP
   C04B 40/02 20060101ALI20250605BHJP
   C04B 14/02 20060101ALI20250605BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20250605BHJP
   B28B 11/24 20060101ALI20250605BHJP
【FI】
C04B28/04
C04B14/06 Z
C04B40/02
C04B14/02 B
C04B18/14 Z
B28B11/24
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021055209
(22)【出願日】2021-03-29
(65)【公開番号】P2022152433
(43)【公開日】2022-10-12
【審査請求日】2024-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(74)【代理人】
【識別番号】100208605
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 龍一
(72)【発明者】
【氏名】黒野 承太郎
(72)【発明者】
【氏名】河野 克哉
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-100898(JP,A)
【文献】特開2017-101380(JP,A)
【文献】特開2007-246293(JP,A)
【文献】特開2005-022931(JP,A)
【文献】特開2010-089982(JP,A)
【文献】特開平08-218512(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 -32/02
C04B 40/02
B28B 11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低熱型ポルトランドセメントを20~35体積%、BET比表面積が15~25m/gのシリカフュームを5~23体積%、50%体積累積粒径が0.8~5μmの無機粉末を1~13体積%、最大粒径が1.2mm以下である骨材A、高性能減水剤、消泡剤および水を含むセメント組成物にさらに、煮沸吸水率が15%以上38.2%以下の軽量骨材を飽和吸水状態にした軽量骨材Bが添加され、前記骨材Aの添加量は、前記セメント組成物の全体100体積%に対して20~50体積%であり、前記軽量骨材Bの添加量は、前記セメント組成物の全体100体積%に対して0.2~0.8体積%であることを特徴とするセメント組成物。
【請求項2】
請求項1記載のセメント組成物から超高強度セメント質硬化体を製造する方法であって、
前記セメント組成物を練り混ぜる練混ぜ工程と、
前記練り混ぜられて硬化していないセメント組成物を型枠内に充填する成形工程と、
前記型枠に充填された硬化していないセメント組成物を10~40℃の温度で24時間以上の封緘養生または気中養生した後に脱型して成形体を得る常温養生工程と、
常温養生工程で得られた前記成形体を70℃以上100℃未満の温度で48時間以上の蒸気養生を行う加熱養生工程と、
加熱養生工程後の前記成形体を150℃以上200℃未満の温度で48時間以上の加熱乾燥を行う高温加熱工程と、
を少なくとも含む超高強度セメント質硬化体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超高強度セメント質硬化体用のセメント組成物および当該セメント組成物を用いた超高強度セメント質硬化体の製造方法に関する。
【0002】
近年、ダムや橋梁などの大規模な構造物や建築物において、コンクリートが多用されており、コンクリートは建築において必要不可欠な建築材料となっている。また、建築物の高層化や土木構造物の長大化が進むにつれ、高強度コンクリートの需要が高まっている。そのような中、高い圧縮強度を有し、コンクリート中の空隙を極限まで減少させ「無孔化」を実現した超高強度コンクリートが開発されている。
【0003】
超高強度コンクリートとは、従来のコンクリートにおいて課題であった作製工程においてコンクリート内部に入ってしまう空隙を、究極的に小さく、かつ数を少なくすることにより、高強度コンクリートよりも高い強度を有するコンクリートである。
【0004】
超高強度コンクリートは、材料および製造方法が、これまでの高強度コンクリートとは異なる。高強度コンクリートでは、一般に、粒子径の大きいセメント粒子間を埋める材料として、超微粉材料であるシリカフュームが用いられている。しかしながら、セメント粒子とシリカフュームの大きさは大きく異なるため、シリカフュームがセメント粒子間の隅々まで行き渡らず、空隙が残ってしまう。一方、超高強度コンクリートでは、セメント粒子とシリカフュームの間の大きさを有する粒子を新たに加えることによって、材料のパッキングに起因した内部空隙を減少させることを実現している。
【0005】
高強度コンクリートは、普通コンクリート等よりも小さい水セメント比で混ぜることにより硬化体の内部空隙を少なくしている。しかしながら、水セメント比を減らしたことによりセメントの全量に水和反応を生じさせるほどには含有している水分が不足しているという課題がある。そのため、超高強度コンクリートは、硬化体の製造方法において、脱型後に外部からの吸水処理を施した後に、蒸気養生と加熱養生を連続して行う2段階の熱養生を施している。この熱養生前の吸水処理では、浸水状態の硬化体を収容している密閉容器内の空気を脱気して硬化体に吸水させる脱気吸水処理や、煮沸して硬化体中の空気をお湯と入れ替える煮沸吸水処理のいずれかが用いられる。
【0006】
このように、超高強度コンクリートの製造方法では、最密充填構造を形成する材料設計、脱型後の吸水処理による外部からの水分供給、および蒸気養生と加熱養生を連続して行う2段階の熱養生を特徴としている。すなわち、超高強度コンクリートの製造には、吸水処理のための専用設備等を必要とするとともに、製造方法が煩雑であることが課題となっている。
【0007】
特許文献1には、骨材の一部を高い吸水率を有する多孔質骨材に置換することにより、コンクリート内の水和反応によって消費される水をかかる多孔質骨材中に含有している水で補償して、強度を高めるとともに細孔空隙中の乾燥を抑えることにより自己収縮を低減した高強度コンクリートが記載されている。
【0008】
また、特許文献2には、高強度コンクリートにおいて、粗骨材の一部を人工軽量骨材で置換して自己収縮の低減を図る技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2010-089982号公報
【文献】特開2005―022931号公報
【0010】
しかしながら、特許文献1および特許文献2は、100N/mm~200N/mm程度の圧縮強度を有する高強度コンクリートに関する技術であり、300N/mm以上の圧縮強度を有する超高強度コンクリートについて、その効果は検討されていない。
【0011】
本願発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、骨材の一部に、吸水させた軽量骨材を添加することにより、300N/mm以上の圧縮強度を発現しつつ、収縮ひずみの低減を可能とする超高強度セメント質硬化体用のセメント組成物、および当該セメント組成物を用いることで簡便となった超高強度セメント質硬化体の製造方法を提供することを目的とする。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)上記目的を達成するために、本発明は、以下のような手段を講じた。すなわち、本発明のセメント組成物は、低熱型ポルトランドセメント、BET比表面積が15~25m/gのシリカフューム、50%体積累積粒径が0.8~5μmの無機粉末、最大粒径が1.2mm以下である骨材A、高性能減水剤、消泡剤および水を含むセメント組成物にさらに、煮沸吸水率が15%以上の軽量骨材を飽和吸水状態にした軽量骨材Bが添加され、前記軽量骨材Bの添加量は、骨材Aと軽量骨材Bの合計100体積%において0.5~2.5体積%であることを特徴とする。これにより、300N/mm以上の圧縮強度を発現しつつ、収縮ひずみが低減された超高強度セメント質硬化体を提供することが可能となる。
【0013】
(2)また、本発明の超高強度セメント質硬化体の製造方法は、(1)記載のセメント組成物から超高強度セメント質硬化体を製造する方法であって、前記セメント組成物を練り混ぜる練混ぜ工程と、前記練り混ぜられて硬化していないセメント組成物を型枠内に充填する成形工程と、前記型枠に充填された硬化していないセメント組成物を10~40℃の温度で24時間以上の封緘養生または気中養生した後に脱型して成形体を得る常温養生工程と、常温養生工程で得られた前記成形体を70℃以上100℃未満の温度で48時間以上の蒸気養生を行う加熱養生工程と、加熱養生工程後の前記成形体を150℃以上200℃未満の温度で48時間以上の加熱乾燥を行う高温加熱工程と、を少なくとも含む。これにより、これまで必要であった成形体への外部からの吸水工程が不要となり、超高強度コンクリート等の製造が簡便となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、骨材として吸水させた軽量骨材を添加することで、超高強度セメント質硬化体への300N/mm以上の圧縮強度の付与と収縮ひずみの低減を可能とし、かつ超高強度セメント質硬化体の製造工程の簡略化を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態に係る超高強度セメント質硬化体の製造方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者らは、セメント組成物に飽和吸水状態の軽量骨材を骨材として添加することにより、300N/mm以上の圧縮強度を有する超高強度セメント質硬化体の製造を簡便にできることを見出した。以下に、本発明について詳細に説明する。
【0017】
なお、本明細書中で用いる用語の定義は次の通りである。
絶乾密度とは、絶対乾燥状態の骨材の質量を、骨材の絶対容積で除した値である。
絶対乾燥状態(絶乾状態)とは、骨材中に含まれる自由水(分子が動き回ることができる水)が乾燥等によって取り去られた状態をさす。
表乾密度とは、表面乾燥状態の骨材の質量を、骨材の絶対容積で除した値である。
表面乾燥状態(表乾状態)とは、骨材粒の表面水がなく、かつ、骨材粒の内部の空隙がすべて水で満たされている状態をさす。
吸水率とは、表面乾燥状態の骨材に含まれている全水量の、絶対乾燥状態の骨材質量に対する百分率である。なお、吸水率を測定する試験方法としては、24時間吸水、煮沸吸水、真空吸水、加圧吸水等がある。本明細書では、簡便に骨材の空隙を満たすことができる煮沸吸水による煮沸吸水率を測定している。
ここで、煮沸吸水率とは、絶対乾燥状態の骨材を2時間煮沸し、自然冷却した後に、表乾状態とした骨材の給水量から算出する値である。
【0018】
(セメント組成物)
本発明のセメント組成物は、低熱型ポルトランドセメント、BET比表面積が15~25m/gのシリカフューム(以下、単に、シリカフュームともいう)、50%体積累積粒径が0.8μmの無機粉末(以下、単に無機粉末ともいう)、最大粒径が1.2mm以下の骨材A、高性能減水剤、消泡剤および水を含むセメント組成物であって、さらに、煮沸吸水率が15%以上の軽量骨材を飽和吸水状態にした軽量骨材Bが添加される。この軽量骨材Bの添加量は、骨材Aと軽量骨材Bの合計添加量100体積%において0.5~2.5体積%である。
【0019】
本発明のセメント組成物に用いる低熱型ポルトランドセメントは、中庸熱ポルトランドセメントまたは低熱ポルトランドセメントの1種以上である。
【0020】
また、硬化していない状態(以下、フレッシュ状態と称する)のセメント組成物の流動性をより向上させ、かつ、本発明の製造方法で得られる成型体(超高強度セメント質硬化体)が300N/mm以上の圧縮強度を発現する観点から、低熱型ポルトランドセメントとして、中庸熱ポルトランドセメントまたは低熱ポルトランドセメントを構成する粒子を研磨処理してなる、表面部分に丸みを帯びさせてなる粒径20μm以上の粗粒子、および、この研磨処理によって生じる粒径20μm未満の微粒子を含み、50%体積累積粒径が10~18μm、かつ、ブレーン比表面積が2,100~2,900cm/gであるセメントであってもよい。
【0021】
シリカフュームのBET比表面積は、15~25m/g、好ましくは17~23m/g、特に好ましくは18~22m/gである。該BET比表面積が15m/g未満の場合、得られる超高強度セメント質硬化体の圧縮強度が低下する。該比表面積が25m/gを超える場合、フレッシュ状態のセメント組成物の流動性が低下する。
【0022】
50%体積累積粒径が0.8~5μmの無機粉末(以下、単に「無機粉末」ともいう)としては、例えば、珪石粉末(石英粉末)、火山灰、およびフライアッシュ、スラグ粉末、石灰石粉末、長石類粉末、ムライト類粉末、アルミナ粉末、シリカゾル、炭化物粉末、窒化物粉末、エメリー砂(人工または天然)の粉砕物等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、フレッシュ状態のセメント組成物の流動性を向上させ、かつ、得られる超高強度セメント質硬化体の圧縮強度を300N/mm以上とする観点から、珪石粉末またはフライアッシュの使用が好ましい。なお、本発明では、50%体積累積粒径が0.8~5μmの無機粉末には、前記低熱型ポルトランドセメントは含まれない。
【0023】
無機粉末の50%体積累積粒径は、0.8~5μm、好ましくは1~4μm、より好ましくは1.1~3.5μm、特に好ましくは1.2μm以上3μm未満である。該粒径が0.8μm未満の場合、フレッシュ状態のセメント組成物の流動性が低下する。該粒径が5μmを超える場合、超高強度セメント質硬化体の圧縮強度が低下する。なお、本明細書中、無機粉末の50%体積累積粒径は、市販の粒度分布測定装置(例えば、日機装社製、製品名「マイクロトラックHRA モデル9329-X100」)を用いて求めることができる。
【0024】
無機粉末の最大粒径は、得られる超高強度セメント質硬化体の圧縮強度を300N/mm以上とする観点から、好ましくは15μm以下、より好ましくは14μm以下、特に好ましくは13μm以下である。無機粉末の95%体積累積粒径は、得られる超高強度セメント質硬化体の圧縮強度を300N/mm以上とする観点から、好ましくは8μm以下、より好ましくは7μm以下、特に好ましくは6μm以下である。
【0025】
無機粉末としては、珪石粉末などのSiOを主成分とするものが好ましい。無機粉末中のSiOの含有率は、得られる超高強度セメント質硬化体の圧縮強度を300N/mm以上とする観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。
【0026】
本発明のセメント組成物において、低熱型ポルトランドセメントの体積割合は、好ましくは20~35体積%、より好ましくは25~30体積%である。該体積割合が20体積%以上の場合、得られる超高強度セメント質硬化体の圧縮強度がより高くなる。該体積割合が35体積%以下の場合、フレッシュ状態のセメント組成物の流動性がより向上する。
【0027】
なお、以後、低熱型ポルトランドセメント、シリカフュームおよび無機粉末の全体を「粉末原料」と称する場合がある。
【0028】
本発明のセメント組成物において、シリカフュームの体積割合は、好ましくは5~23体積%、より好ましくは10~18体積%である。該体積割合が5体積%以上の場合、得られる超高強度セメント質硬化体の圧縮強度がより高くなる。該体積割合が23体積%以下の場合、フレッシュ状態のセメント組成物の流動性がより向上する。
【0029】
本発明のセメント組成物において、無機粉末の体積割合は、好ましくは1~13体積%、より好ましくは2~8体積%である。該体積割合が1体積%以上の場合、得られる超高強度セメント質硬化体の圧縮強度がより高くなる。該体積割合が13体積%以下の場合、フレッシュ状態のセメント組成物の流動性がより向上する。
【0030】
骨材Aとしては、川砂、山砂、陸砂、海砂、砕砂、珪砂、天然エメリー砂、スラグ細骨材等の人工細骨材、再生細骨材、またはこれらの混合物等が挙げられ、中でも、吸水率が3.5%以下、かつ、連続空隙率が5%以下であるものが好ましい。
【0031】
上記骨材Aとして、得られる超高強度セメント質硬化体の圧縮強度を300N/mm以上とする観点から、珪砂が特に好ましく用いられる。さらに、同様の観点から珪砂中のSiOの含有率は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。
【0032】
骨材Aの最大粒径は、得られる超高強度セメント質硬化体の圧縮強度を300N/mm以上とする観点から、1.2mm以下、好ましくは1.1mm以下、より好ましくは1.0mm以下である。
【0033】
骨材Aの粒度分布は、フレッシュ状態のセメント組成物の流動性を向上させ、かつ得られる超高強度セメント質硬化体の圧縮強度を300N/mm以上とする観点から、0.6mm以下の粒径の骨材の質量割合が95質量%以上、0.3mm以下の粒径の骨材の割合が40~50質量%、および、0.15mm以下の粒径の骨材の割合が6質量%以下、の3つの条件をすべて満たすことが好ましい。
【0034】
セメント組成物中の骨材Aの体積割合は、セメント組成物の全体100体積%に対して、好ましくは20~50体積%、より好ましくは25~45体積%、さらに好ましくは30~40体積%である。該体積割合が20体積%以上であれば、フレッシュ状態のセメント組成物の流動性をより向上させることができるとともに、超高強度セメント質硬化体の硬化過程におけるセメント水和発熱量を小さくし、かつ、超高強度セメント質硬化体の収縮量をより小さくすることができる。該体積割合が50体積%以下であれば、超高強度セメント質硬化体の圧縮強度をより向上させることができる。
【0035】
軽量骨材Bの粒度分布は、フレッシュ状態のセメント組成物の流動性を向上させ、かつ超高強度セメント質硬化体の圧縮強度を300N/mm以上とする観点から、平均粒子径が1~10mm、より好ましくは1~3mmである。
【0036】
軽量骨材Bの粒度分布は、フレッシュ状態のセメント組成物の流動性を向上させ、かつ得られる超高強度セメント質硬化体の圧縮強度を300N/mm以上とする観点から、5mm以下の粒径の軽量骨材の割合が90質量%以上、2.5mm以下の粒径の軽量骨材の割合が40~65質量%、および、0.6mm以下の粒径の軽量骨材の割合が3質量%以下、の3つの条件を全て満たすことが好ましい。
【0037】
軽量骨材Bは、飽和吸水状態にしたものがセメント組成物に用いられる。
従来、超高強度セメント質硬化体は、製造工程において外部からの吸水処理を施して、超高強度セメント質硬化体の内部の未水和反応セメント粒子へ水分供給することで超高強度化を実現している。これに対し、飽和吸水状態にした軽量骨材Bを用いることで、外部からの吸水処理を行わなくとも超高強度セメント質硬化体の内部の未水和反応セメント粒子への水分供給が可能となる。
【0038】
飽和吸水して軽量骨材Bとなる軽量骨材には、高い保水性と透水性が求められ、具体的には、煮沸吸水率が15%以上である軽量骨材が好ましい。
【0039】
セメント組成物中の軽量骨材Bの体積割合は、セメント組成物の全体100体積%に対して、好ましくは0.1~1.5体積%、より好ましくは0.1~1.0体積%、さらに好ましくは0.2~0.8体積%である。該体積割合が0.1~1.5体積%であれば、得られる超高強度セメント質硬化体の圧縮強度の向上と、収縮ひずみの低減が可能となる。
【0040】
高性能減水剤としては、ナフタレンスルホン酸系、メラミン系、ポリカルボン酸系等の高性能減水剤を使用することができる。中でも、フレッシュ状態のセメント組成物の流動性を向上させ、得られる超高強度セメント質硬化体の圧縮強度を300N/mm以上とする観点から、ポリカルボン酸系の高性能減水剤が好ましい。
【0041】
高性能減水剤の添加量は、粉末原料の合計量100質量部に対して、固形分換算で、好ましくは1.0~4.0質量部、より好ましくは2.0~3.0質量部である。該添加量が1.0質量部以上であれば、得られる超高強度セメント質硬化体の圧縮強度が向上する。該添加量が4.0質量以下であれば、フレッシュ状態のセメント組成物の作業性が良好である。
【0042】
消泡剤としては、ノニオン系界面活性剤等の汎用の消泡剤を使用することができる。消泡剤の添加量は、粉末原料の合計量100質量部に対して、好ましくは0.1~0.3質量部、より好ましくは0.15~0.25質量部である。該添加量が0.1質量部以上であれば、得られる超高強度セメント質硬化体の圧縮強度が向上する。該添加量が0.3質量部を超えると、超高強度セメント質硬化体の圧縮強度を向上させる効果が頭打ちとなる。
【0043】
水としては、水道水等を使用することができる。水の配合量は、粉末原料の合計量100質量部に対して、好ましくは5~20質量部、より好ましくは7~15質量部である。該量が5質量部以上であれば、フレッシュ状態のセメント組成物の流動性が向上する。該量が20質量部以下であれば、得られる超高強度セメント質硬化体の圧縮強度が向上する。
【0044】
(超高強度セメント質硬化体の製造方法)
セメント質硬化体の製造方法について説明する。図1は、本発明の超高強度セメント質硬化体の製造方法を示すフロー図である。
【0045】
(1)混練工程
まず、上記で説明したセメント組成物である、低熱型ポルトランドセメント、シリカフューム、無機粉末、骨材A、軽量骨材B、高性能減水剤、消泡剤および水を、ミキサを用いて混練する(S1)。セメント組成物を混練する方法としては、特に限定されるものではない。また、混練に用いる装置も特に限定されるものではなく、オムニミキサ、パン型ミキサ、二軸練ミキサ、傾胴ミキサ等の慣用のミキサを使用することができる。
【0046】
(2)成形工程
次に、混練したセメント組成物を型枠内に充填する成形工程(S2)に移行する。
成型工程における型枠への打設方法および充填方法は、特に限定されるものではない。型枠に充填されるフレッシュ状態のセメント組成物は、気泡を低減または除去したものであってもよい。フレッシュ状態のセメント組成物中の気泡を低減または除去することで、得られる超高強度セメント質硬化体の圧縮強度を向上させることができる。
【0047】
(3)常温養生工程
次いで、常温養生工程に移行する。
常温養生工程では、型枠に充填されたフレッシュ状態のセメント組成物を、10~40℃、好ましくは15~30℃の温度で24時間以上、好ましくは24~72時間の封緘養生または気中養生をした後、脱型して成形体を得る(S3)。この、常温養生工程においては、得られた成形体が、20~100N/mmの圧縮強度を有するのが好ましい。
【0048】
(4)加熱養生工程
次いで、加熱養生工程に移行する。
この加熱養生工程は、前記常温養生工程で得られた成形体について、70℃以上100℃未満、好ましくは75~95℃の温度で6時間以上の、蒸気養生または温水養生、および、100~200℃、好ましくは160~190℃の温度で1時間以上のオートクレーブ養生の、いずれか一方または両方を行う工程(S4)である。
【0049】
この加熱養生工程において、蒸気養生または温水養生のみを行う場合は、その養生時間は、好ましくは24時間以上、より好ましくは24~96時間である。また、オートクレーブ養生のみを行う場合は、その養生時間は、好ましくは8~60時間、より好ましくは12~48時間である。そして、蒸気養生または温水養生とオートクレーブ養生の両方を行う場合、例えば、蒸気養生または温水養生を行った後、さらにオートクレーブ養生を行う場合、蒸気養生または温水養生における養生時間は、好ましくは6~72時間、より好ましくは12~48時間であり、オートクレーブ養生における養生時間は、好ましくは1~24時間、より好ましくは4~18時間である。
【0050】
(5)高温加熱工程
次いで、高温加熱工程に移行する。
この高温加熱工程は、加熱養生後の成型体を、150~200℃、好ましくは170~190℃の温度で24時間以上、好ましくは24~72時間、加熱して、超高強度セメント質硬化体を得る工程(S5)である。すなわち、本高温加熱工程における加熱は、乾燥雰囲気下で行われる。
【0051】
[実施例]
以下、実施例を説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施例により何ら限定されい。
[使用材料]
使用材料は、以下に示す通りである。
(1)低熱型ポルトランドセメント(C1):太平洋セメント社製低熱ポルトランドセメント、密度3.22g/cm3
(2)普通ポルトランドセメント(C2):太平洋セメント社製、密度3.16g/cm3
(3)シリカフューム(SF):巴工業社製、密度2.39g/cm3
(4)無機粉末(M):珪石粉末、最大粒径12μm、95%体積累積粒径:5.8μm、密度2.69g/cm3
(5)骨材A(S):珪砂、最大粒径1.0mm、0.6mm以下98質量%、0.3mm以下45質量%、0.15mm以下3質量%、密度2.63g/cm
(6)軽量骨材B(L1):珪質頁岩、平均粒径1.1mm、絶乾密度1.62g/cm3、表乾密度1.88g/cm、煮沸吸水率32.1%
(7)軽量骨材B(L2):太平洋セメント社製アサノライト(登録商標)、平均粒径1.3mm、絶乾密度1.65g/cm、表乾密度1.80g/cm、煮沸吸水率19.3%
(8)軽量骨材B(L3):上記L2の分級品、平均粒径0.5mm、絶乾密度1.83g/cm3、表乾密度2.09g/cm3、煮沸吸水率14.6%
(9)軽量骨材B(L4):パーライト、平均粒径1.1mm、絶乾密度1.25g/cm3、表乾密度1.54g/cm3、煮沸吸水率38.2%
(10)軽量骨材B(L5):上記L4の焼成品、平均粒径1.2mm、絶乾密度0.20g/cm3、表乾密度0.27g/cm3、煮沸吸水率81.8%
(11)高性能減水剤(SP):フローリック社製フローリックSF500U(登録商標)、ポリカルボン酸系、固形分量27.4質量%
(12)消泡剤(DF):ポゾリスソリューションズ社製マスターエア404(登録商標)、ポリアルキレングリコール誘導体
(13)水(W):水道水(佐倉市上水道水)
【0052】
[供試体の作製]
各供試体は、以下の方法で作製した。低熱型ポルトランドセメント(C1)または普通ポルトランドセメント(C2)、シリカフューム(SF)、無機粉末(M)および骨材A(S)をオムニミキサに投入し、15秒間空練りを行った。骨材A(S)の混合量は、セメント組成物中の骨材A(S)の割合が35.0±5.0体積%となる量である。該混練物に、表1に示す種類及び量(体積%)の飽和吸水状態の軽量骨材B(L1~L5)または絶乾状態の軽量骨材B(L1)を添加し、さらに15秒間空練りを行った。
【0053】
次いで、該混練物に、粉体原料100質量部に対して、11.3質量部となる量の水(W)、2.5質量部となる量の高性能減水剤(SP)、0.2質量部となる量の消泡剤(DF)をオムニミキサに投入し、2分間混練した。混練後、オムニミキサ内の側壁に付着した混合物を掻き落とし、さらに4分間混練を行い、オムニミキサから混練物を排出した。
表1に各水準の配合を示す。
【0054】
【表1】
【0055】
得られた混練物を、φ50×100mmおよびφ100×400mmの円筒形の型枠に充填した後、20℃で48時間の封緘養生を行った。なお、φ100×400mmの供試体には、中心部に埋込型ひずみ計(東京測器社製KM-100HB)を埋設した。
【0056】
その後、封緘養生で得られた成型体に90℃で48時間の蒸気養生を行った後、180℃で48時間の加熱養生を行った。得られたφ50×100mm供試体の圧縮強度を「JIS A 1108(コンクリートの圧縮強度試験方法)」に準拠して測定した。また、得られたφ100×400mm供試体の収縮ひずみを埋設した埋込型ひずみ計から測定した。全ての実施例および比較例の、圧縮強度および収縮ひずみの測定結果を表2に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
実施例1~5の結果から、本発明のセメント組成物を、本発明の製造方法に用いることによって、300N/mm以上の圧縮強度を有する超高強度セメント質硬化体が、簡便に得られることが分かる。さらに、かかる超高強度セメント質硬化体は、収縮ひずみが十分に小さいことも分かる。
図1