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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-04
(45)【発行日】2025-06-12
(54)【発明の名称】焼結体及び半導体製造装置用部材
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/553 20060101AFI20250605BHJP
   C04B 35/505 20060101ALI20250605BHJP
   H01L 21/3065 20060101ALI20250605BHJP
【FI】
C04B35/553
C04B35/505
H01L21/302 101G
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021126059
(22)【出願日】2021-07-30
(65)【公開番号】P2023020603
(43)【公開日】2023-02-09
【審査請求日】2024-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】今井 雅人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 康隆
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/179296(WO,A1)
【文献】特開2016-098143(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/553
C04B 35/50
H01L 21/3065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オキシフッ化イットリウムのマトリックス中にフッ化イットリウムからなる粒子が分散した焼結体であって、前記焼結体の断面における、前記フッ化イットリウムからなる粒子間の平均重心間距離Lと前記フッ化イットリウムからなる粒子の平均円相当径Dの関係が1.50≦L/D≦20.0であり、
前記フッ化イットリウムからなる粒子間の平均重心間距離Lが、2.20μmを超え、10.0μm以下であり、
前記フッ化イットリウムからなる粒子の平均円相当径Dが0.10~5.00μmであり、
前記焼結体には空隙が存在し、前記焼結体の断面における空隙率は2.00%以下であることを特徴とする焼結体。
【請求項2】
請求項1に記載の焼結体を備えることを特徴とする半導体製造装置用部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結体及び半導体製造装置用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の製造における各工程、特に、ドライエッチング、プラズマエッチング及びクリーニングの工程ではフッ素系腐食性ガスや塩素系腐食性ガス及びこれらを用いたプラズマが使用される。
【0003】
これらの腐食性ガスやプラズマを使用すると、半導体製造装置の構成部材が腐食されたり、上記構成部材の表面からはく離した微細粒子(パーティクル)が半導体の表面に付着し、製品不良の原因となりやすい。そのため、半導体製造装置の構成部材には、ハロゲン系プラズマに対して耐食性の高いセラミックスがバルク材料として使用される必要がある。
【0004】
このようなバルク材料として、イットリウムのオキシフッ化物(オキシフッ化イットリウム)からなる焼結体が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5911036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された焼結体は耐衝撃性が不十分であり、半導体製造装置の構造部材としてはさらに改善の余地があった。
【0007】
本発明では、上記課題を鑑み、耐衝撃性に優れたオキシフッ化イットリウムの焼結体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明の焼結体は、オキシフッ化イットリウムのマトリックス中にフッ化イットリウムからなる粒子が分散した焼結体であって、上記焼結体の断面における、上記フッ化イットリウムからなる粒子間の平均重心間距離Lと上記フッ化イットリウムからなる粒子の平均円相当径Dの関係が1.50≦L/D≦20.0を満たすことを特徴とする。
【0009】
以下、本明細書においてフッ化イットリウムからなる粒子を、単にフッ化イットリウム粒子又はYF粒子とも表記する。
【0010】
フッ化イットリウム粒子により、オキシフッ化イットリウムのマトリックス中では応力場が不均一となり、フッ化イットリウム粒子の周囲で局所的な変形が引き起こされる。このような変形がマトリックス中に分散している多数のフッ化イットリウム粒子の周囲に発生して衝撃のエネルギーを吸収するため、焼結体の耐衝撃性が改善されると推定している。
本発明者らの知見によれば、フッ化イットリウムからなる粒子間の平均重心間距離Lとフッ化イットリウムからなる粒子の平均円相当径Dの関係L/Dが1.50~20.0に調整されることで、特に効果的に焼結体の耐衝撃性を改善することができる。
【0011】
フッ化イットリウムからなる粒子の平均重心間距離Lとフッ化イットリウムからなる粒子の平均円相当径Dの関係L/Dは次のように計測する。
焼結体を切断して、その断面を電子顕微鏡にて観察し(倍率1000倍)、波長分散型蛍光X線分析装置を用いて、イットリウム、酸素、フッ素のマッピングから酸素の含有量がマトリックス領域に比べて相対的に少なく、フッ素の含有量がマトリックス領域に比べて相対的に多い粒子をフッ化イットリウム粒子として特定する。
【0012】
次に、電子顕微鏡で撮影した断面写真(倍率1000倍)を二値化(焼結体内にさらに空隙を含む場合は三値化などの多値化処理を行う)し、マトリックス中に分散した複数のフッ化イットリウム粒子について、平均重心間距離Lおよび平均円相当径Dを画像処理ソフト(ImageJ)により演算する。
ここで、平均重心間距離Lは、次のように計測される。
(1)あるフッ化イットリウム粒子Aの輪郭を持つ図形について、その図形の重心を演算して求め、その粒子Aの周りに隣接するフッ化イットリウム粒子A1、A2、A3、A4・・・ANの重心をそれぞれ演算する。フッ化イットリウム粒子Aの重心とその周囲のフッ化イットリウム粒子A1、A2、A3、A4・・・ANの重心を結ぶ線分の距離をそれぞれ演算して計測し、距離が最も短いものから3つの線分を選択し、その平均値をフッ化イットリウム粒子Aについてその周囲のフッ化イットリウム粒子との間の重心間距離とする。
(2)ついで、画面に存在する全てのフッ化イットリウム粒子についてフッ化イットリウム粒子Aと同様に演算を行い、各フッ化イットリウム粒子についてその周囲のフッ化イットリウム粒子との間の重心間距離を求め、これらの重心間距離の平均値を平均重心間距離Lとして計測する。
【0013】
平均円相当径Dについては次のように計測される。
(1)あるフッ化イットリウム粒子Aについて、画像処理ソフト(ImageJ)によりフッ化イットリウム粒子Aの輪郭を持つ図形の面積を演算して計測し、その面積と同じ面積を持つ真円の直径をフッ化イットリウム粒子Aの円相当径として算出する。
(2)ついで、画面に存在する全てのフッ化イットリウム粒子についてフッ化イットリウム粒子Aと同様に各フッ化イットリウム粒子の円相当径を演算して求め、それらの円相当径の平均値を平均円相当径Dとして計測する。
【0014】
本発明の焼結体においては、フッ化イットリウムからなる粒子間の平均重心間距離Lが、2.20μmを超え、10.0μm以下であることが望ましい。フッ化イットリウム粒子の周囲に局所的変形を発生させやすいからである。
本発明の焼結体においては、フッ化イットリウムからなる粒子の平均円相当径Dが0.10~5.00μmであることが望ましい。フッ化イットリウム粒子の周囲に局所的変形を発生させやすいからである。
本発明の焼結体には空隙が存在し、焼結体の断面における空隙率は2.00%以下であることが望ましい。焼結体の耐衝撃性を改善できるからである。
【0015】
焼結体の断面における空隙率は、焼結体の断面の電子顕微鏡写真を多値化(例えば、オキシフッ化イットリウムのマトリックス、フッ化イットリウムからなる粒子及び空隙をそれぞれ異なるものとして三値化できる)し、空隙の面積の合計が、画像の全面積に占める割合を演算することで計測する。
【0016】
また、本発明の半導体製造装置用部材は、上記オキシフッ化イットリウムの焼結体を備える。
上記オキシフッ化イットリウムの焼結体は、ハロゲンや酸素プラズマに対し耐食性が高い。このため、耐食性および耐衝撃性に優れた半導体製造装置用部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1A図1Aは、比較例1に係るオキシフッ化イットリウムの焼結体の断面電子顕微鏡写真である。
図1B図1Bは、図1Aの断面電子顕微鏡写真を三値化処理した画像である。
図2A図2Aは、図1Aの断面電子顕微鏡写真を三値化処理した図1Bの画像からドメインの円相当径を演算して求めたヒストグラムである。
図2B図2Bは、図1Aの断面電子顕微鏡写真を三値化処理した図1Bの画像からフッ化イットリウム粒子間の重心間距離を演算して求めたヒストグラムである。
図3A図3Aは、実施例1に係るオキシフッ化イットリウムの焼結体の断面電子顕微鏡写真である。
図3B図3Bは、図3Aの断面電子顕微鏡写真を三値化処理した画像である。
図4A図4Aは、図3Aの断面電子顕微鏡写真を三値化処理した図3Bの画像からドメインの円相当径を演算して求めたヒストグラムである。
図4B図4Bは、図4Aの断面電子顕微鏡写真を三値化処理した図3Bの画像からフッ化イットリウム粒子間の重心間距離を演算して求めたヒストグラムである。
図5A図5Aは、実施例2に係るオキシフッ化イットリウムの焼結体の断面電子顕微鏡写真である。
図5B図5Bは、図5Aの断面電子顕微鏡写真を三値化処理した画像である。
図6A図6Aは、図5Aの断面電子顕微鏡写真を三値化処理した図5Bの画像からドメインの円相当径を演算して求めたヒストグラムである。
図6B図6Bは、図5Aの断面電子顕微鏡写真を三値化処理した図5Bの画像からフッ化イットリウム粒子間の重心間距離を演算して求めたヒストグラムである。
図7図7は、実施例1に係る焼結体の断面の電子顕微鏡写真と当該断面についてフッ素(F)、酸素(O)、イットリウム(Y)の元素マッピング像を波長分散型蛍光X線分析装置により撮像した画像である。
図8図8は、実施例1に係る焼結体の粉末X線回折チャート図である。
図9図9は、実施例2に係る焼結体の粉末X線回折チャート図である。
図10図10は、実施例3に係る焼結体の粉末X線回折チャート図である。
図11図11は、実施例1に係る焼結体について、耐衝撃性試験を実施した後の写真である。
図12図12は、比較例1に係る焼結体について、耐衝撃性試験を実施した後の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(オキシフッ化イットリウムの焼結体)
本発明のオキシフッ化イットリウムの焼結体は、オキシフッ化イットリウムのマトリックス中にフッ化イットリウムからなる粒子が分散している。
オキシフッ化イットリウムとしては、Yが望ましく、フッ化イットリウムとしては、YFが望ましい。
【0019】
以下、オキシフッ化イットリウムとしてY、フッ化イットリウムとしてYFを含む場合を例にして説明する。
本発明におけるオキシフッ化イットリウムの焼結体はYとYFとが主成分であるので、ハロゲンや酸素プラズマに対し耐食性が高い。
また、本発明におけるオキシフッ化イットリウムの焼結体において、焼結体の断面における、YF粒子間の平均重心間距離LとYF粒子の平均円相当径Dの関係が1.50≦L/D≦20.0を満たしている。
YF粒子の平均円相当径DとYF粒子間の平均重心間距離Lを調整することで、YF粒子の周囲であって、Yマトリックス中に生じる局所的な変形を適度に分散させて生じせしめることができるため、衝撃のエネルギーをこの変形によって吸収することができ、耐衝撃性を改善することが可能となる。
【0020】
本発明の焼結体におけるYF粒子の含有割合は、焼結体の断面について、電子顕微鏡写真を多値化し、この多値化した画像からYF3粒子の面積の合計を演算して求めることができる。YF3粒子の面積の合計は、この画像の全面積に対して5~49%であることが好ましい。
YF粒子の占有面積が5%以上であるとYF粒子の周囲に変形が生じにくく、YF粒子の占有面積が49%以下であると、やはりYF粒子の周囲に変形が生じにくく、焼結体の耐衝撃性が低下するからである。
【0021】
本発明のオキシフッ化イットリウムの焼結体においては、YF粒子間の平均重心間距離Lが、2.20μmを超え、10.0μm以下であることが望ましい。YF粒子の周囲に局所的変形を発生させやすいからである。
【0022】
本発明のオキシフッ化イットリウムの焼結体においては、YF粒子の平均円相当径Dが0.10~5.00μmであることが望ましい。YF粒子の周囲に局所的変形を発生させやすいからである。
【0023】
本発明における焼結体には空隙が存在し、焼結体の断面における空隙率は2.00%以下であることが望ましい。焼結体の耐衝撃性を改善できるからである。
【0024】
(オキシフッ化イットリウムの焼結体の製造方法)
本発明のオキシフッ化イットリウムの焼結体は、次のような製造方法により製造することができる。
本発明においては、原料としてYとYFとを組み合わせて用いてもよいし、YとYFとを組み合わせてもよい。
上記のような原料を組み合わせることにより、YとYFを主成分とするオキシフッ化イットリウムを得ることができる。
【0025】
原材料組成物の粉末において、YとYFとを組み合わせる際には、YとYFとのモル比は、Y:YF=100:1~40が好ましい。
この原材料組成物を焼結させた焼結体であれば、Yマトリックス中のYF粒子間の平均重心間距離LとYF粒子の平均円相当径Dの関係が1.50≦L/D≦20.0を満たすように調整できる。
【0026】
また、YとYFを組み合わせる場合には、モル比でY:YF=100:175~300が好ましい。
この原材料組成物を焼結させた焼結体であれば、Yマトリックス中のYF粒子間の平均重心間距離LとYF粒子の平均円相当径Dの関係が1.50≦L/D≦20.0を満たすように調整できる。
また、焼成条件を調整することで、Yマトリックス中のYF粒子間の平均重心間距離LとYF粒子の平均円相当径Dの関係が1.50≦L/D≦20.0を満たすように調整することもできる。例えば、焼成時の焼成温度、時間、加圧条件を調整することで、上記L/Dの値を調整できる。
焼成時に高い圧力をかけると、L/Dの値が1.50よりも小さくなる傾向がある。
【0027】
本発明の焼結体の原料としては、特許第5911036号にあるようなY粉末とバインダおよび必要に応じて添加される焼結助剤のみを用いることは適切ではない。本明細書に比較例2として記載している焼結体は、特許第5911036号にあるようなYの粉末とバインダのみを使用して製造したものであり、十分な耐衝撃性が得られていないことが理解される。
【0028】
また、原材料組成物には、上記したY、Y、及びYFなどのフッ化物のほか、有機バインダ、潤滑剤、分散媒液、成形助剤等の添加物を適宜加えてもよい。
有機バインダとしては特に限定されず、例えば、ポリアクリルニトリル(PAN)、アクリル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、イミド樹脂、フラン樹脂等が挙げられる。
上記潤滑剤としては特に限定されず、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル等のポリオキシアルキレン系化合物等が挙げられる。
【0029】
分散媒液としては特に限定されず、例えば、水、ベンゼン等の有機溶媒、メタノール等のアルコール等が挙げられる。
成形助剤としては特に限定されず、例えば、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸、脂肪酸石鹸、ポリアルコール等が挙げられる。
【0030】
原材料組成物を造粒して得られる粉末の粒子の大きさ(平均粒子径)は、例えば、10~200μmが好ましい。
【0031】
オキシフッ化イットリウムの焼結体を製造する工程を説明する。
前述した原材料組成物の粉末を仮成形して所定の形状に整え、仮成形体を作製する。仮成形の方法は、特に限定されるものではないが、型押し成形、CIP成形などを適用することができる。
【0032】
得られた成形体を脱脂し、焼成して粒子同士を結合させて焼結することによって、本発明のオキシフッ化イットリウムの焼結体を得ることができる。
焼成の温度、雰囲気は特に限定されないが、雰囲気は例えば、アルゴンなどの不活性雰囲気が好ましく、焼成温度は800~1100℃が好ましい。
また焼成時の圧力は常圧でもよいし、成形体を加圧しながら粒子を焼結させる熱間等方圧加圧法(HIP)や、機械的圧力とパルス通電加熱により粒子を焼結させる放電プラズマ焼結法(SPS)等を採用してもよい。
【0033】
本発明の半導体製造装置用部材は、上記のオキシフッ化イットリウムの焼結体を備えることを特徴とする。
オキシフッ化イットリウムの焼結体は、YとYFとが主成分であるので、ハロゲンや酸素プラズマに対し耐食性が強い。
また、焼結体の断面における、YF粒子間の平均重心間距離LとYF粒子の平均円相当径Dの関係が1.50≦L/D≦20.0を満たしている。
YF粒子の平均円相当径DとYF粒子間の平均重心間距離Lを調整することで、YF粒子の周囲であって、Yマトリックス中に生じる局所的な変形を適度に分散させて生じせしめることができるため、衝撃のエネルギーをこの変形によって吸収することができ、耐衝撃性に優れた半導体製造装置用部材を提供することができる。
【0034】
また、本発明の半導体製造装置用部材によれば、半導体製造装置用部材として、オキシフッ化イットリウムの焼結体を用いており、主成分がYとYFからなるため、ハロゲン系プラズマに対して、腐食されにくく、優れた耐性を有し、長期に渡って使用することができる。
【0035】
具体的な本発明の半導体製造装置用部材は、特に限定されるものではないが、例えば、ウェハ等の半導体部材の載置台、静電チャック、ガス供給部、冷却材供給部、搬送アーム、チャンバ内壁材、上部電極、シャワープレート、フォーカスリング、エッジプレート等が挙げられる。
【実施例
【0036】
以下、本発明をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明は、以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0037】
(実施例1)
を36.3重量部、YFを63.7重量部(すなわち焼成反応後の組成は、モル比でY:YF=100:35)、有機バインダとしてアクリル樹脂を3.0重量部、分散媒液としてアルコール系溶媒を40重量部、を混合した後、スプレードライヤーを用いて70℃で乾燥、造粒して、顆粒状の原材料組成物を調製した。
得られた顆粒状の造粒粒子について、粒子径80μm以上の粒子をカット(除去)し粒度調整した。なお、アルコール系溶媒は、エタノール86重量%、イソプロピルアルコール14重量%であり、スプレードライでは、完全に乾固させることなく、湿気をもった造粒粒子であった。スプレードライの温度よりも沸点が高いイソプロピルアルコールが残留しているものと考えられる。
【0038】
次に、この造粒粒子をφ25mmの型に充填し、6MPaで一軸成形し全体の形状を整えた後、さらにゴムバックに詰め200MPaでCIP成形した。
【0039】
上記成形体を大気中、600℃で2時間、脱脂処理を行った後、アルゴン雰囲気中、950℃で2時間焼成し、オキシフッ化イットリウムの焼結体を得た。
得られたオキシフッ化イットリウムの焼結体は、φ19mm、厚さ3mmの板状であった。
【0040】
(実施例2)
を45.1重量部、YFを54.9重量部(すなわち焼成反応後の組成は、モル比でY:YF=100:5)、有機バインダとしてアクリル樹脂を3.0重量部、分散媒液としてアルコール系溶媒を40重量部、を混合した後、スプレードライヤーを用いて70℃で乾燥、造粒して、顆粒状の原材料組成物を調製した。
得られた顆粒状の造粒粒子について、粒子径80μm以上の粒子をカット(除去)し粒度調整した。
【0041】
次に、この造粒粒子をφ25mmの型に充填し、6MPaで一軸成形し全体の形状を整えた後、さらにゴムバックに詰め200MPaでCIP成形した。
【0042】
上記成形体を大気中、600℃で2時間、脱脂処理を行った後、アルゴン雰囲気中、950℃で2時間焼成し、オキシフッ化イットリウムの焼結体を得た。
得られたオキシフッ化イットリウムの焼結体は、φ19mm、厚さ3mmの板状であった。
【0043】
(比較例1)
実施例1と同様であるが、脱脂処理した成形体を、アルゴン雰囲気中、21MPa、950℃の条件で、2時間ホットプレス焼成し、オキシフッ化イットリウムの焼結体を得た。
【0044】
(実施例3)
を46.2重量部、YFを53.8重量部(すなわち焼成反応後の組成は、モル比でY:YF=100:2)、有機バインダとしてアクリル樹脂を3.0重量部、分散媒液としてアルコール系溶媒を40重量部、を混合した後、スプレードライヤーを用いて70℃で乾燥、造粒して、顆粒状の原材料組成物を調製した。
その他は実施例2と同様にしてオキシフッ化イットリウムの焼結体を得た。
【0045】
(比較例2)
を46.9重量部、YFを53.1重量部(すなわち焼成反応後の組成は、モル比でY:YF=100:0)を混合し、700℃で2時間焼成してYを合成し、この合成物を粉砕して平均粒子径1.1μmの大きさに粉末化したものと有機バインダとしてアクリル樹脂を3.0重量部、分散媒液としてアルコール系溶媒を40重量部、を混合した後、スプレードライヤーを用いて70℃で乾燥、造粒して、顆粒状の原材料組成物を調製した。
その他は実施例1と同様にしてオキシフッ化イットリウムの焼結体を得た。この焼結体は、電子顕微鏡写真ではごく微量のYFの粒子が確認された。
【0046】
得られた実施例1~3および比較例1、2の焼結体について、以下の条件にて電子顕微鏡写真で断面写真を撮影し、その画像からYF粒子間の平均重心間距離L、YF粒子の平均円相当径Dを計測した。
計測結果はまとめて表1に示した。
【0047】
なお、実施例1、2および比較例1については、それらの撮像結果を以下の図に記載した。電子顕微鏡の撮像条件は以下の通りである。
装置:株式会社日立ハイテク製S-4800
加速電圧:15kV
倍率:1000倍
【0048】
図1Aは、比較例1に係るオキシフッ化イットリウムの焼結体の断面電子顕微鏡写真であり、図1Bは、図1Aの断面電子顕微鏡写真を三値化処理した画像である。
図2Aは、図1Aの断面電子顕微鏡写真を三値化処理した図1Bの画像からドメインの円相当径を演算して求めたヒストグラムであり、図2Bは、図1Aの断面電子顕微鏡写真を三値化処理した図1Bの画像からフッ化イットリウム粒子間の重心間距離を演算して求めたヒストグラムである。
図3Aは、実施例1に係るオキシフッ化イットリウムの焼結体の断面電子顕微鏡写真であり、図3Bは、図3Aの断面電子顕微鏡写真を三値化処理した画像である。
図4Aは、図3Aの断面電子顕微鏡写真を三値化処理した図3Bの画像からドメインの円相当径を演算して求めたヒストグラムであり、図4Bは、図4Aの断面電子顕微鏡写真を三値化処理した図3Bの画像からフッ化イットリウム粒子間の重心間距離を演算して求めたヒストグラムである。
図5Aは、実施例2に係るオキシフッ化イットリウムの焼結体の断面電子顕微鏡写真であり、図5Bは、図5Aの断面電子顕微鏡写真を三値化処理した画像である。
図6Aは、図5Aの断面電子顕微鏡写真を三値化処理した図5Bの画像からドメインの円相当径を演算して求めたヒストグラムであり、図6Bは、図5Aの断面電子顕微鏡写真を三値化処理した図5Bの画像からフッ化イットリウム粒子間の重心間距離を演算して求めたヒストグラムである。
【0049】
YF粒子間の平均重心間距離L、YF粒子の平均円相当径Dは、上記の画像のうち、図1B図3B図5Bのような断面電子顕微鏡写真を三値化処理した画像から求めた。
また、断面電子顕微鏡写真を三値化処理した画像は、オキシフッ化イットリウムのマトリックス、フッ化イットリウムからなる粒子及び空隙をそれぞれ異なるものとして三値化したものであり、この画像から空隙率を求めた。
【0050】
また、実施例1~3および比較例1、2で得られた焼結体の断面について、波長分散型蛍光X線分析装置を用いてイットリウム、フッ素、酸素の元素マッピングを行った。
図7は、実施例1に係る焼結体の断面の電子顕微鏡写真と当該断面についてフッ素(F)、酸素(O)、イットリウム(Y)の元素マッピング像を波長分散型蛍光X線分析装置により撮像した画像である。
図7から理解できるように、焼結体の断面には、電子顕微鏡の画像で白く(薄い灰色で)みえるマトリックス中に濃い灰色の粒子が分散した状態が確認される。
元素マッピング像では、濃い灰色に見える粒子にはOが存在しておらず、YとFが確認されたことから、この濃い灰色の粒子の領域をYFと判断した。
実施例2、3、比較例1、2についても同様に濃い灰色に見える粒子にはOが存在せず、YとFが確認されたことから、この濃い灰色の粒子の領域を、YFと判断した。
【0051】
波長分散型蛍光X線分析装置による元素マッピング条件は以下の通りである。
装置:日本電子株式会社製 JXA―8500F
加速電圧:15.0kV
照射電流:2.695×10-8
倍率:3000倍
時間:5ms
サイズ:X:0.1303μm
Y:0.1303μm
【0052】
さらに、実施例1~3、比較例1、2で得られた焼結体について以下の条件にて粉末X線回折(XRD)を実施し、粉末X線回折チャートを得た。いずれのチャートにもYの結晶構造が確認された。また、図8図9に示す粉末X線回折チャートには、YFのピークが観察された。
図8は、実施例1に係る焼結体の粉末X線回折チャート図であり、図9は、実施例2に係る焼結体の粉末X線回折チャート図である。図10は、実施例3に係る焼結体の粉末X線回折チャート図である。
図8図9及び図10におけるYの結晶構造の特定は、JCPDSカード番号01-080-1124を用いて行った。
【0053】
粉末X線回折の測定条件は以下の通りである。
装置:株式会社リガク製 SmartLab
電圧:40kV、電流:20mA
X線源:CuKα
走査範囲:2θ=10~70°
走査速度:10°/min
【0054】
実施例1~3および比較例1、2の焼結体について、以下の条件で耐衝撃性を測定した。結果を表1に示した。
焼結体に破断やクラックの発生があった場合は×で表記し、外観的に変化が無い場合は〇で表記した。
【0055】
(耐衝撃性試験)
耐衝撃性試験は、デュポン式衝撃試験機(TP技研株式会社製)を用い、ポンチは、直径12.5mmで試料接触面は平坦なものを使用し、荷重112g、高さ5mmで落下試験を実施した。
代表例として図11に実施例1に係る焼結体について耐衝撃性試験を実施した後の写真を、図12に比較例1に係る焼結体について耐衝撃性試験を実施した後の写真をそれぞれ示した。
【0056】
【表1】
【0057】
各実施例で得られた焼結体はL/Dの値が所定の範囲内であるので耐衝撃性に優れていた。一方、各比較例で得られた焼結体はL/Dの値が所定の範囲を外れていたため耐衝撃性が劣っていた。

図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11
図12