IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JX日鉱日石エネルギー株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-04
(45)【発行日】2025-06-12
(54)【発明の名称】インダン及びヒドリンダンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 5/03 20060101AFI20250605BHJP
   C07C 2/52 20060101ALI20250605BHJP
   C07C 13/465 20060101ALI20250605BHJP
   C07C 5/42 20060101ALI20250605BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20250605BHJP
【FI】
C07C5/03
C07C2/52
C07C13/465
C07C5/42
C07B61/00 300
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022575627
(86)(22)【出願日】2022-01-13
(86)【国際出願番号】 JP2022000952
(87)【国際公開番号】W WO2022154048
(87)【国際公開日】2022-07-21
【審査請求日】2024-07-25
(31)【優先権主張番号】P 2021004948
(32)【優先日】2021-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】荒木 泰博
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 敦司
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 泰之
(72)【発明者】
【氏名】大内 太
(72)【発明者】
【氏名】眞弓 和也
(72)【発明者】
【氏名】吉原 透容
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-133293(JP,A)
【文献】特開2003-327551(JP,A)
【文献】特開2001-220359(JP,A)
【文献】国際公開第2011/027755(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/176247(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 5/
C07C 2/
C07C 13/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3a,4,7,7a-テトラヒドロインデンを含む原料組成物を、白金を含有する固体触媒を含む連続式反応器に導入し、150~350℃の条件下で前記原料組成物を前記固体触媒に接触させて、インダン及びヒドリンダンを含む反応生成物を得る反応工程を備え、
単位時間当たりに前記連続式反応器に導入される水素分子の量(mol/min)が、単位時間当たりに前記連続式反応器に導入される3a,4,7,7a-テトラヒドロインデンの量(mol/min)に対して、倍以下であり、
単位時間当たりに前記連続式反応器に導入される酸素分子の量(mol/min)が、単位時間当たりに前記連続式反応器に導入される3a,4,7,7a-テトラヒドロインデンの量(mol/min)に対して、0.01倍以下であり、
前記固体触媒が、担体と、当該担体に担持された担持金属と、を含有し、
前記担体がアルミニウムを含み、前記担持金属が白金を含む、インダン及びヒドリンダンの製造方法。
【請求項2】
前記反応工程において、0.1~5.0MPaGの条件下で前記原料組成物を前記固体触媒に接触させる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記担持金属に占める前記白金の割合が、80質量%以上である、請求項に記載の製造方法。
【請求項4】
前記白金が、塩素原子を含まない白金源を用いて前記担体に担持されたものである、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記原料組成物中の3a,4,7,7a-テトラヒドロインデンの含有量が、5質量%以上である、請求項1~のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記反応生成物中のヒドリンダンの含有量Cに対するインダンの含有量Cの質量比(C/C)が、1.0以上4.5以下である、請求項1~のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記反応生成物が3a,4,7,7a-テトラヒドロインデンを更に含み、
前記反応生成物の一部を、前記反応工程の前記原料組成物として再利用する、請求項1~のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
ブタジエンと、シクロペンタジエン及びジシクロペンタジエンからなる群より選択される少なくとも一種と、を反応させて、3a,4,7,7a-テトラヒドロインデンを得る原料合成工程を更に備える、請求項1~のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インダン及びヒドリンダンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インダンは、医薬品の合成原料、メタロセン触媒の原料等として有用な物質として知られている。インダンの製造方法としては、例えば、テトラヒドロインデンの脱水素反応によってインダンを製造する方法が知られている(例えば特許文献1)。
【0003】
また、ヒドリンダンは、優れた溶解性を有し、塗料用の溶剤、洗浄剤等の用途に好適に用いられている。ヒドリンダンの製造方法としては、例えば、テトラヒドロインデンの水素化反応によってヒドリンダンを製造する方法が知られている(例えば特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-133293号公報
【文献】特開2011-051951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、インダン及びヒドリンダンを同時に効率良く製造可能な、インダン及びヒドリンダンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、特定の触媒及び特定の反応条件によって、3a,4,7,7a-テトラヒドロインデンを含む原料組成物から、インダン及びヒドリンダンの両方を効率的に製造することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
本発明の一側面は、3a,4,7,7a-テトラヒドロインデンを含む原料組成物を、白金を含有する固体触媒を含む連続式反応器に導入し、150~350℃の条件下で上記原料組成物を上記固体触媒に接触させて、インダン及びヒドリンダンを含む反応生成物を得る反応工程を備える、インダン及びヒドリンダンの製造方法に関する。
【0008】
上記製造方法において、単位時間当たりに上記連続式反応器に導入される水素分子の量(mol/min)は、単位時間当たりに上記連続式反応器に導入される3a,4,7,7a-テトラヒドロインデンの量(mol/min)に対して、5倍以下である。また、上記製造方法において、単位時間当たりに上記連続式反応器に導入される酸素分子の量(mol/min)が、単位時間当たりに前記連続式反応器に導入される3a,4,7,7a-テトラヒドロインデンの量(mol/min)に対して、0.1倍以下である。
【0009】
一態様において、上記反応工程は、0.1~5.0MPaGの条件下で上記原料組成物を上記固体触媒にさせる工程であってよい。
【0010】
一態様において、上記固体触媒は、担体と、当該担体に担持された担持金属と、を含有するものであってよく、上記担体がアルミニウムを含み、上記担持金属が白金を含むものであってよい。
【0011】
一態様において、上記担持金属に占める上記白金の割合は、80質量%以上であってよい。
【0012】
一態様において、上記白金は、塩素原子を含まない白金源を用いて上記担体に担持されたものであってよい。
【0013】
一態様において、上記原料組成物中の3a,4,7,7a-テトラヒドロインデンの含有量は、5質量%以上であってよい。
【0014】
一態様において、上記反応生成物中のヒドリンダンの含有量Cに対するインダンの含有量Cの質量比(C/C)は、1.0以上4.5以下であってよい。
【0015】
一態様において、上記反応生成物は3a,4,7,7a-テトラヒドロインデンを更に含んでいてよく、上記反応生成物の一部を、上記反応工程の上記原料組成物として再利用してもよい。
【0016】
一態様に係る製造方法は、ブタジエンと、シクロペンタジエン及びジシクロペンタジエンからなる群より選択される少なくとも一種と、を反応させて、3a,4,7,7a-テトラヒドロインデンを得る原料合成工程を更に備えていてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、インダン及びヒドリンダンを同時に効率良く製造可能な、インダン及びヒドリンダンの製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0019】
本実施形態に係るインダン及びヒドリンダンの製造方法は、3a,4,7,7a-テトラヒドロインデン(以下、単に「THI」ともいう。)を含む原料組成物を、白金を含有する固体触媒を含む連続式反応器に導入し、150~350℃の条件下で原料組成物を固体触媒に接触させて、インダン及びヒドリンダンを含む反応生成物を得る、反応工程を備える。
【0020】
本実施形態の製造方法では、単位時間当たりに連続式反応器に導入される水素分子の量(mol/min)が、単位時間当たりに連続式反応器に導入されるTHIの量(mol/min)に対して、5倍以下である。また、本実施形態の製造方法では、単位時間当たりに連続式反応器に導入される水素分子の量(mol/min)が、単位時間当たりに連続式反応器に導入されるTHIの量(mol/min)に対して、0.1倍以下である。
【0021】
本実施形態の製造方法によれば、インダン及びヒドリンダンを、同時に効率良く製造することができる。
【0022】
本実施形態の製造方法では、特定の固体触媒及び特定の反応条件を採用することで、連続式反応器におけるTHIの反応が効率的に進行し、インダン及びヒドリンダンの両方をバランス良く得ることができる。
【0023】
以下、本実施形態における固体触媒について詳述する。
【0024】
固体触媒は、例えば、担体と、該担体に担持された担持金属と、を含有する触媒であってよい。このとき、固体触媒は、担持金属として白金を含有することが好ましい。
【0025】
担体は、アルミニウムを含む担体であることが好ましく、アルミニウムを含む無機酸化物担体であることがより好ましい。担体は、アルミナ(Al)を含むものであってよく、アルミナと他の元素の酸化物とを含むものであってもよく、アルミニウムと他の元素との複合酸化物を含むものであってもよい。他の元素としては、例えば、ケイ素(Si)、マグネシウム(Mg)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、亜鉛(Zn)、セレン(Se)、鉄(Fe)、インジウム(In)等が挙げられ、これらのうち、好ましくはケイ素(Si)、マグネシウム(Mg)及びスズ(Sn)が好ましい。アルミナとしては、γ-アルミナが特に好ましい。
【0026】
担体の比表面積は、例えば、20m/g以上であってよく、好ましくは100m/g以上、より好ましくは150m/g以上である。これにより、触媒活性がより向上する傾向がある。また、担体の比表面積は、例えば、500m/g以下であってよく、好ましくは400m/g以下、より好ましくは300m/g以下である。これにより、担体の強度及び成型性がより向上する傾向となる。なお、本明細書中、担体の比表面積は、窒素吸着法を用いたBET比表面積計で測定される。
【0027】
固体触媒において、担体に担持される担持金属は、白金を含んでいればよく、白金以外の他の金属を更に含んでいてもよい。他の金属としては、例えば、Pd、Re、Sn、Fe、Zn、Co、Ni、Ga、In、Mn等が挙げられる。
【0028】
固体触媒は、担持金属が主に白金であることが好ましい。具体的には、担持金属に占める白金の割合は、例えば70質量%以上であってよく、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上であり、95質量%以上、97質量%以上、99質量%以上又は99.5質量%以上であってもよい。
【0029】
固体触媒中の担持金属の含有量は、触媒活性がより向上する観点から、例えば0.1質量%以上であってよく、好ましくは0.2質量%以上であり、0.5質量%以上、1質量%以上又は1.5質量%以上であってもよい。また、固体触媒中の担持金属の含有量は、経済性により優れる観点から、例えば10質量%以下であってよく、好ましくは8質量%以下、より好ましくは6質量%以下、更に好ましくは4質量%以下であり、2質量%以下又は1質量%以下であってもよい。
【0030】
固体触媒中の白金の含有量の好適な範囲は、上記担持金属の含有量の好適な範囲と同じであってよい。
【0031】
固体触媒は、金属源を用いて担持金属を担体に担持させたものであってよい。金属源は、塩素原子を含まない金属源であることが好ましい。これにより、装置の腐食が抑制され、より効率的にインダン及びヒドリンダンの製造を行うことができる。
【0032】
白金を担持するための金属源(白金源)としては、テトラアンミン白金(II)硝酸塩([Pt(NH](NO)、ジニトロジアンミン白金(II)(Pt(NO(NH)、テトラアンミン白金(II)水酸塩([Pt(NH](OH))、ヘキサアンミン白金(IV)水酸塩([Pt(NH](OH))、ヘキサアンミン白金(IV)硝酸塩([Pt(NH)(NO]、テトラアンミン白金(II)酢酸塩([Pt(NH](CHCOO))等が挙げられる。これらのうち、白金源としては、テトラアンミン白金(II)硝酸塩([Pt(NH](NO)、ジニトロジアンミン白金(II)(Pt(NO(NH)、テトラアンミン白金(II)水酸塩([Pt(NH](OH))が特に好適である。
【0033】
担持金属の担持方法は特に限定されず、例えば、含浸法、沈着法、共沈法、混練法、イオン交換法、ポアフィリング法等公知の担持方法を用いることができる。
【0034】
固体触媒の形状は特に限定されず、反応器の形状等に応じて適宜選択することができる。固体触媒の形状は、例えば、ペレット状、粒状、ハニカム状、スポンジ状等であってよい。
【0035】
固体触媒は、前処理として還元処理が行われたものを用いてもよい。還元処理は、例えば、還元性ガスの存在下、100~700℃で固体触媒を保持することで行うことができる。保持時間は、例えば10分~20時間であってよい。還元性ガスは、例えば、水素、一酸化炭素等が挙げられる。還元処理された固体触媒を用いることで、反応初期の誘導期を短くすることができる。なお、誘導期とは、固体触媒中の担持金属のうち、活性状態にあるものが少なく、触媒活性が低い状態をいう。
【0036】
次いで、本実施形態における反応工程について詳述する。
【0037】
本実施形態の製造方法では、反応工程において、THIを含む原料組成物を、白金を含有する固体触媒を含む連続式反応器に導入し、150~350℃の条件下で原料組成物を固体触媒に接触させる。これにより、THI間での水素移行反応が生じ、インダン及びヒドリンダンを含む反応生成物が得られる。
【0038】
原料組成物は、THI以外の他の成分を更に含有していてもよい。他の成分としては、例えば、アルカン類、オレフィン類、芳香族化合物、THIの水素化物等が挙げられる。
【0039】
原料組成物中のTHIの含有量は、反応性及び経済性により優れる観点から、例えば1質量%以上であり、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上であり、10質量%以上、30質量%以上、50質量%以上、70質量%以上、90質量%以上又は95質量%以上であってもよく、100質量%であってもよい。
【0040】
連続式反応器は、連続式の反応が可能な反応器であればよい。連続式反応器としては、例えば、管型反応器、連続槽型反応器が挙げられる。
【0041】
反応工程の反応形式は、特に限定されず、例えば固定床式、移動床式又は流動床式であってよい。これらのうち、設備コストの観点からは固定床式が好ましい。
【0042】
反応工程において、原料組成物を固体触媒に接触させる際の温度(反応温度)は、150℃以上であり、好ましくは170℃以上、より好ましくは190℃以上、更に好ましくは200℃以上である。反応温度が低いと、反応が進行し難い傾向がある。また、反応温度は、350℃以下であり、好ましくは320℃以下、より好ましくは300℃以下、更に好ましくは290℃以下である。反応温度が高いと、触媒劣化が進行しやすい傾向がある。反応温度は、反応器内の温度、ということもできる。
【0043】
反応工程において、原料組成物を固体触媒に接触させる際の圧力(反応圧力)は、反応性がより向上する観点から、例えば0.01MPaG以上であってよく、好ましくは0.05MPaG以上、より好ましくは0.1MPaG以上であり、0.7GMPa以上又は0.9MPaG以上であってもよい。また、反応圧力は、経済性により優れる観点から、例えば9.0MPaG以下であってよく、好ましくは7.0MPaG以下、より好ましくは5.0MPaG以下、更に好ましくは3.0MPaG以下である。
【0044】
反応器内の条件は、THIが液体となる条件であることが好ましい。すなわち、反応工程は、液体の原料組成物を固体触媒に接触させる工程であることが好ましい。
【0045】
反応工程において、WHSVは、経済性により優れる観点から、例えば0.1h-1以上であってよく、好ましくは0.5h-1以上、より好ましくは1.0h-1以上、更に好ましくは3.0h-1以上である。また、WHSVは、反応性がより向上する観点から、例えば30h-1以下であってよく、好ましくは20h-1以下、より好ましくは10h-1以下、更に好ましくは5.0h-1以下である。なお、WHSVは、反応器に充填された固体触媒に対する、原料組成物の単位時間当たりの供給量の重量比を示す。
【0046】
反応工程では、原料組成物と共に、水素ガス、酸素ガス、空気、不活性ガス等を連続式反応器に導入してもよい。
【0047】
反応工程において、単位時間当たりに連続式反応器に導入される水素分子の量(mol/min)は、単位時間当たりに連続式反応器に導入されるTHIの量(mol/min)に対して、5倍以下である。言い換えると、単位時間当たりに連続式反応器に導入されるTHIの量C(mol/min)に対する、単位時間当たりに連続式反応器に導入される水素分子の量CH2(mol/min)の比(CH2/C)は、5以下である。本実施形態の製造方法では、THI間での水素移動反応によってインダン及びヒドリンダンが生成するため、連続式反応器への水素の導入は必ずしも必要としない。水素ガスの導入量が多すぎると、インダンの収率が著しく低下する場合がある。
【0048】
比(CH2/C)は、好ましくは3以下、より好ましくは1以下、更に好ましくは0.5以下、一層好ましくは0.1以下であり、0であってもよい。
【0049】
反応工程において、単に時間当たりに連続式反応器に導入される酸素分子の量(mol/min)は、単位時間当たりに連続式反応器に導入されるTHIの量(mol/min)に対して、0.1倍以下である。言い換えると、単位時間当たりに連続式反応器に導入されるTHIの量C(mol/min)に対する、単位時間当たりに連続式反応器に導入される酸素分子の量CO2(mol/min)の比(CO2/C)は、0.1以下である。本実施形態の製造方法では、THI間の水素移行反応によってインダン及びヒドリンダンが生成するため、連続式反応器への酸素の導入は必要としない。酸素が導入されると、インダン及びヒドリンダンの合計収率が低下する。
【0050】
比(CO2/C)は、好ましくは0.05以下であり、より好ましくは0.01以下であり、0であってもよい。
【0051】
反応工程では、THIの反応により生成したインダン及びヒドリンダンを含む、反応生成物が得られる。また、生成したヒドリンダンは、cis体とtrans体とを含んでいてよい。
【0052】
反応工程において、THIの転化率は、例えば70%以上であってよく、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、更に好ましくは95%以上であり、97%以上、98%以上又99%以上であってよく、100%であってもよい。
【0053】
反応工程において、インダン及びヒドリンダンの合計の選択率は、例えば10モル%以上であってよく、好ましくは30モル%以上、より好ましくは50モル%以上、更に好ましくは90モル%以上であり、100モル%であってもよい。なお、インダン及びヒドリンダンの合計の選択率は、THIの転化率に対する、インダン及びヒドリンダンの合計収率の比から求めることができる。
【0054】
反応生成物中のヒドリンダンの含有量Cに対するインダンの含有量Cの質量比(C/C)は、例えば0.5以上であってよく、好ましくは0.7以上、より好ましくは1.0以上、更に好ましくは1.3以上、1.5以上又は2.0以上であってもよい。また、質量比(C/C)は、例えば5以下であってよく、好ましくは4.7以下、より好ましくは4.5以下、更に好ましくは4.3以下、一層好ましくは4以下である。
【0055】
反応生成物の一部は、反応工程の原料組成物の一部として再利用されてよい。これにより、原料組成物が希釈され、水素移行反応による発熱が抑制され、急激な発熱による触媒劣化が抑制され、プロセス全体でのインダン及びヒドリンダンの製造効率が向上する場合がある。
【0056】
本実施形態の製造方法は、ブタジエンと、シクロペンタジエン及びジシクロペンタジエンからなる群より選択される少なくとも一種と、を反応させて、THIを得る原料合成工程を更に備えていてもよい。
【0057】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【実施例
【0058】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0059】
(実施例1)
市販のγ-アルミナ(住友化学株式会社製)に対し、スズ酸ナトリウム(キシダ化学株式会社製、NaSnO・3HO)水溶液を混合した。得られた混合物を130℃で12時間乾燥後、550℃で3時間焼成し、イオン交換水で洗浄した。この洗浄作業を3回繰り返し、担体を調製した。得られた担体の酸化スズ(SnO)含有量は30質量%であった。この担体にジニトロジアンミン白金(II)硝酸溶液(田中貴金属工業株式会社製、[Pt(NH(NO]/HNO)を用いて、白金の含有量が3.0質量%になるよう白金を含浸担持し、得られた白金担持物を130℃で一晩乾燥後、550℃で3時間焼成した。さらに得られた焼成物を炭酸カリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製、KCO)水溶液を用いて、カリウムの含有量が0.3質量%になるようカリウムを含浸担持し、得られたカリウム担持物を130℃で一晩乾燥後、550℃で3時間焼成し、触媒CAT-1を得た。
【0060】
1.0gの触媒CAT-1を管型反応器に充填し、反応管を固定床流通式反応装置に接続した。反応管を常圧にて300℃まで昇温した後、当該温度で保持しながら水素を50mL/minで60分間流通し、触媒の前処理を行った。次いで、反応管にTHIを含む原料組成物を、必要に応じて窒素ガス又は水素ガスと共に導入し、表2に記載の温度、圧力及びWHSVの条件で反応を行った。
【0061】
反応開始時(原料組成物の導入時)から所定の時間が経過した時点で反応生成物をサンプリングし、水素炎検出器を備えたガスクロマトグラフ(株式会社島津製作所製、GC-2014、FID-GC、カラムHP-1)を用いて分析した。上記ガスクロマトグラフを用いた分析結果に基づき、採取された反応生成物の各成分(単位:質量%)を定量した。THI、インダン及びヒドリンダンのモル数から、所定時間経過時のTHIの転化率、インダン及びヒドリンダンの収率を算出した。なお、THIの転化率は下記式(1)で定義され、インダンの収率は式(2)で定義され、ヒドリンダンの収率は式(3)で定義される。
TC={1-(t1/t0)}×100 (1)
I={(i1-i0)/t0}×100 (2)
H={(h1-h0)/t0}×100 (3)
式中、TCはTHIの転化率(%)、Iはインダンの収率(%)、Hはヒドリンダンの収率(%)、t0は原料組成物中のTHIのモル数、t1は反応生成物中のTHIのモル数、i1は反応生成物中のインダンのモル数、i0は原料組成物中のインダンのモル数、h1は反応生成物中のヒドリンダンのモル数、h0は原料組成物中のヒドリンダンのモル数を示す。
【0062】
触媒の組成を表1に示す。反応条件及び測定結果を表2に示す。
【0063】
(実施例2)
実施例1と同じ触媒を用い、反応条件を表2に記載のとおり変更したこと以外は、実施例1と同様にしてインダン及びヒドリンダンの製造を行った。結果を表2に示す。
【0064】
(実施例3)
実施例1と同じ触媒を用い、反応条件を表2に記載のとおり変更したこと以外は、実施例1と同様にしてインダン及びヒドリンダンの製造を行った。結果を表2に示す。
【0065】
(実施例4)
東ソー株式会社製ゼオライトH-MFI(SiO/Al=1500)にジニトロジアンミン白金(II)硝酸溶液(田中貴金属工業株式会社製、[Pt(NH(NO]/HNO)を用いて、白金の含有量が1.0質量%になるよう白金を含浸担持し、得られた白金担持物を130℃で一晩乾燥後、550℃で3時間焼成し、CAT-2を得た。
【0066】
CAT-2を触媒として用い、反応条件を表3に記載の条件としたこと以外は、実施例1と同様の方法でインダン及びヒドリンダンの製造を行った。結果を表3に示す。
【0067】
(実施例5)
市販のγ-アルミナ(水澤化学工業株式会社製ネオビード)20.0gと、硝酸マグネシウム六水和物(和光純薬工業株式会社製、Mg(NO・6HO)25.1gを150mlの水に溶解した水溶液とを混合した。得られた混合液を50℃で180分間撹拌し、その後エバポレータを用いて減圧下で水を除去した。その後、得られた混合物を130℃で一晩乾燥後、550℃で3時間焼成し、続けて800℃で3時間焼成した。得られた焼成物と、硝酸マグネシウム六水和物(和光純薬工業株式会社製、Mg(NO・6HO)25.1gを150mlの水に溶解した水溶液とを混合し、50℃で180分間撹拌し、その後エバポレータを用いて減圧下で水を除去した。その後、得られた混合物を130℃で一晩乾燥後、550℃で3時間焼成し、続けて800℃で3時間焼成した。これにより、スピネル型構造を有するアルミナ-マグネシア担体を得た。なお、得られたアルミナ-マグネシア担体は、X線回折測定(X線源:CuKα、装置:リガク社製、RINT 2500)により、2θ=36.9、44.8、59.4、65.3degにMgスピネルに由来する回折ピークが確認された。このMgスピネル担体にジニトロジアンミン白金(II)硝酸溶液(田中貴金属工業株式会社製、[Pt(NH(NO]/HNO)を用いて、白金の含有量が0.5質量%になるよう白金を含浸担持し、得られた白金担持物を130℃で一晩乾燥後、550℃で3時間焼成し、CAT-3を得た。
【0068】
CAT-3を触媒として用い、反応条件を表3に記載のとおり変更したこと以外は、実施例1と同様にしてインダン及びヒドリンダンの製造を行った。結果を表3に示す。
【0069】
(実施例6)
エヌ・イー ケムキャット株式会社製0.5%Pt/アルミナ球(CAT-4)を触媒として用い、反応条件を表3に記載のとおり変更したこと以外は、実施例1と同様にしてインダン及びヒドリンダンの製造を行った。結果を表3に示す。
【0070】
(実施例7)
エヌ・イー ケムキャット株式会社製0.5%Pt/アルミナペレット(CAT-5)を触媒として用い、反応条件を表3に記載のとおり変更したこと以外は、実施例1と同様にしてインダン及びヒドリンダンの製造を行った。結果を表3に示す。
【0071】
(実施例8)
市販γ-アルミナ(住友化学株式会社製)にジニトロジアンミン白金(II)硝酸溶液(田中貴金属工業株式会社製、[Pt(NH(NO]/HNO)を用いて、白金の含有量が0.5質量%になるよう白金を含浸担持し、得られた白金担持物を130℃で一晩乾燥後、550℃で3時間焼成し、CAT-6を得た。
【0072】
CAT-6を触媒として用い、反応条件を表4に記載のとおり変更したこと以外は、実施例1と同様にしてインダン及びヒドリンダンの製造を行った。結果を表4に示す。
【0073】
(実施例9)
実施例8と同じ触媒CAT-6を用い、反応条件を表4に記載のとおり変更したこと以外は、実施例1と同様にしてインダン及びヒドリンダンの製造を行った。結果を表4に示す。
【0074】
(実施例10)
実施例8と同じ触媒CAT-6を用い、反応条件を表4に記載のとおり変更したこと以外は、実施例1と同様にしてインダン及びヒドリンダンの製造を行った。結果を表4に示す。
【0075】
(実施例11)
実施例8と同じ触媒CAT-6を用い、反応条件を表5に記載のとおり変更したこと以外は、実施例1と同様にしてインダン及びヒドリンダンの製造を行った。なお、原料組成物は、THIを10質量%、インダンを63質量%、ヒドリンダンを21質量%含む組成物とした。結果を表5に示す。
【0076】
(実施例12)
実施例8と同じ触媒CAT-6を用い、反応条件を表5に記載のとおり変更したこと以外は、実施例1と同様にしてインダン及びヒドリンダンの製造を行った。なお、初期の原料組成物は、THIを10質量%、インダンを61質量%、ヒドリンダンを27質量%含む組成物とした。また、原料組成物のTHI濃度を10質量%に維持しつつ、得られた反応生成物の一部を原料組成物としてリサイクルして反応を行った。このため、反応の進行とともに原料組成物の組成は変化し、1900hにおける原料組成物は、THIを10質量%、インダンを53質量%、ヒドリンダンを16質量%含む組成物となった。結果を表5に示す。
【0077】
(比較例1)
実施例1と同じ触媒CAT-1を用い、反応条件を表6に記載のとおり変更したこと以外は、実施例1と同様にしてインダン及びヒドリンダンの製造を行った。結果を表6に示す。
【0078】
(比較例2)
実施例1と同じ触媒CAT-1を用い、反応条件を表6に記載のとおり変更したこと以外は、実施例1と同様にしてインダン及びヒドリンダンの製造を行った。結果を表6に示す。
【0079】
(比較例3)
触媒を用いず、反応条件を表6に記載のとおり変更したこと以外は、実施例1と同様にしてインダン及びヒドリンダンの製造を行った。結果を表6に示す。
【0080】
(比較例4)
東ソー株式会社製ゼオライトH-MFI(SiO/Al=1500)を触媒CAT-7として用い、反応条件を表6に記載のとおり変更したこと以外は、実施例1と同様にしてインダン及びヒドリンダンの製造を行った。結果を表6に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
【表3】
【0084】
【表4】
【0085】
【表5】
【0086】
【表6】