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特許7692020海中林ブロック構造体および前記海中林ブロック構造体を備えた藻場礁
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-04
(45)【発行日】2025-06-12
(54)【発明の名称】海中林ブロック構造体および前記海中林ブロック構造体を備えた藻場礁
(51)【国際特許分類】
   A01K 61/75 20170101AFI20250605BHJP
   A01G 33/00 20060101ALI20250605BHJP
   A01K 61/60 20170101ALI20250605BHJP
【FI】
A01K61/75
A01G33/00
A01K61/60 321
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023164058
(22)【出願日】2023-09-26
(65)【公開番号】P2025054865
(43)【公開日】2025-04-08
【審査請求日】2025-01-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523369064
【氏名又は名称】酒井 秀男
(74)【代理人】
【識別番号】100106954
【弁理士】
【氏名又は名称】岩城 全紀
(72)【発明者】
【氏名】酒井 秀男
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】実開昭55-083982(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/75
A01G 33/00
A01K 61/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海面下の海中に浮かせて海藻類を繁茂育成することを可能とする海中林ブロック構造体であって、
海藻類を繁茂育成する藻場を上面に形成した藻場基盤ブロックと、
前記藻場基盤ブロックを浮かせる浮体と、
前記藻場基盤ブロックを海中に浮かせて海底に係留する係留装置と、
を備え、
前記藻場基盤ブロックは、上面に上面開口の藻場用穴部を形成し、この藻場用穴部の内部に、海藻類を繁茂育成する泥炭モルタルを収容したことを特徴とする海中林ブロック構造体。
【請求項2】
前記藻場基盤ブロックは、
上面に適宜間隔を介して並列に形成した複数の海藻カートリッジ用穴部と、
この海藻カートリッジ用穴部に抜き差し可能に形成し、かつ海藻類を繁茂育成する泥炭モルタルを収容した上面開口の海藻カートリッジと、
を備えていることを特徴とする請求項1に記載の海中林ブロック構造体。
【請求項3】
前記藻場基盤ブロックは、泥炭モルタルの中に、海藻の胞子、幼体あるいは成熟体の少なくともいずれか一種を付着した海藻種苗付着体の複数個を分散して投入したことを特徴とする請求項1又は2に記載の海中林ブロック構造体。
【請求項4】
前記泥炭モルタルは、海藻類を繁茂育成するために有効な有機酸を含有する泥炭と、セメント固化材とを混ぜて構成したことを特徴とする請求項1又は2に記載の海中林ブロック構造体。
【請求項5】
前記藻場基盤ブロックは、上面のほぼ中央で上下方向に挿通する支柱を設け、前記支柱を少なくとも藻場基盤ブロックの下面から下方へ延伸し、この支柱の下端を前記係留装置に連結したことを特徴とする請求項1又は2に記載の海中林ブロック構造体。
【請求項6】
前記支柱が、浮力を有する材質であることを特徴とする請求項5に記載の海中林ブロック構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海藻類を繁茂育成する海中林を保全・改善する海中林ブロック構造体および前記海中林ブロック構造体を備えた藻場礁を提供する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、藻類を増殖させる藻場増殖礁は、天然の岩場、あるいはテトラポット、コンクリートブロック、各種コンクリート製品などを重積したり、その間に自然石を配設したりして利用され、種々工夫されてきた。
藻類には、大型の海藻として例えば、コンブ、アラメ、カジメ、クロメなどのコンブ科の海藻があり、海藻の群落である海中林が形成される。この海中林は、海の“ゆりかご”と称されるほどの魚介類の産卵の場であり、養魚を守るバリケードである。
【0003】
しかしながら、近年、各地の沿岸海域においては、地球温暖化によって海水温が上昇したことなどを要因として海藻類が消失している。あるいは海水の干満の差が激しい海域では、例えば3m(メートル)ほどの干満差があるので満潮時に太陽光が十分にとどかず、海藻類などの光合成が十分にできなくなっている。そのために海藻の群落(いわゆる海中林)が極端に減少している。さらに、海中の藻食性魚介類による食害などの様々な原因によって藻類が死滅してしまい、藻場で生活してきた魚介類が減少するという磯焼け現象が生じている。
【0004】
磯焼け現象の直接的あるいは間接的な原因ともいえる地球温暖化を防止するために、新しい二酸化炭素吸収方法として「ブルーカーボン」が注目されている。ブルーカーボンとは、2009年に国連環境計画によって命名されたもので、藻場・浅場等の海洋生態系に取り込まれた炭素をいう。ブルーカーボン生態系には、海草藻場・海藻藻場・塩性湿地、干潟・マングローブ林がある。地球上に排出された二酸化炭素は、一部が海洋生態系に光合成されて有機炭素として貯められる。一方、陸地の森林等に光合成して取り込まれる有機炭素はグリーンカーボンという。
なお、ブルーカーボンは、森林のグリーンカーボンの吸収率に匹敵、あるいはそれ以上の吸収率の固定能力を有している。
【0005】
しかし、前述のように磯焼け現象によって、ブルーカーボン生態系である海藻群落は著しく被害を受けているので、所謂ブルーカーボンの減少が生じている。この課題を解消するための取り組みの一環としてブルーカーボンの生態系を保全・改善するために、消滅した藻場の再生や造成が必要である。
【0006】
この点では、従来においても海中林を造成するための種々の方法や形態が開発されている。例えば、特許文献1における海中林造成方法は、基盤に複数本の柱体を立設した造成用構造物に、海草種苗を一部の柱体に取着し、この海草種苗から放出される胞子を介して他の柱体にも海藻を繁茂させる。これらの柱体に繁茂した海草種苗が核となって、造成用構造物全体に広がる。さらにはその周囲にも海藻が繁茂する。
【0007】
また、特許文献2における海中林造成方法では、海草種苗が付設された複数の造成用構造物からなる造成用構造物群を、相互に間隔をあけて複数群形成する。これらの造成用構造群によって形成される藻場相互間に、漁網の挿入可能な漁獲領域を形成する。基盤に立設した柱体に海草種苗を付設してなる柱状構造物を、海流の方向に対して略直交し、かつ互いに略平行に並んだ複数の列に配列する。これにより、良好な藻場を形成し、魚介類の安定した繁殖を得、漁獲作業にも適した配置としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2000-69878公報
【文献】特開2000-23593公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来では、特許文献1および特許文献2に示されているように、造成用構造物は海底に設置するが、海底は必ずしも平坦ではなく高低差に起伏のある状態が多い。この場合は造成用構造物の基盤が傾斜して設置されることが多くなるので、基盤に垂直状態に設けた柱体が傾斜することになる。上記の造成用構造物および造成用構造物群では、複数あるいは多数の柱体において海草の胞子の着生や生育が良好に促進するには、各柱体が垂直状態に立設されることが大切な要素となる。実際、各柱体が垂直状態に設置するために海底の起伏状態をある程度、平坦にするには大変な労力と設備を必要とする。
【0010】
また、上記の造成用構造物は、海底の砂泥の堆積によって基盤および柱体の下部が埋まることもあるので、海草の生育が半減することになる。この場合は、柱体の上部で海藻が生育するとしても、藻食性魚介類による食害を受けることになりかねない。柱体を設けているとはいえ、藻食性魚介類による食害を防止するには必ずしも十分とはいえない。
【0011】
また、前述のように地球温暖化によって海水の干満の差が激しい海域では、特に満潮時に太陽光が十分にとどかず、海藻類などの光合成が十分にできなくなっているが、従来の造成用構造物および造成用構造物群は、海底に設置するので対応できない。
【0012】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、地球温暖化によって海水の干満の差が激しい海域であっても、あるいは海底の起伏状態に関わりなく、海藻類を繁茂育成することを可能とし、藻食性魚介類の食害を防止できる海中林ブロック構造体を提供する。
【0013】
さらに、所定区域内に藻食性魚介類や魚介類の養殖を可能とする藻場礁を提供することを目的とする。これにより、ブルーカーボンの生態系を保全・改善することで、地球温暖化対策と疲弊する水産業の活性化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1記載の発明は、海面下の海中に浮かせて海藻類を繁茂育成することを可能とする海中林ブロック構造体であって、 海藻類を繁茂育成する藻場を上面に形成した藻場基盤ブロックと、前記藻場基盤ブロックを浮かせる浮体と、前記藻場基盤ブロックを海中に浮かせて海底に係留する係留装置と、を備え、前記藻場基盤ブロックは、上面に上面開口の藻場用穴部を形成し、この藻場用穴部の内部に、海藻類を繁茂育成する泥炭モルタルを収容したことを特徴としている。
【0016】
請求項2記載の発明は、上記1項において、前記藻場基盤ブロックは、上面に適宜間隔を介して並列に形成した複数の海藻カートリッジ用穴部と、この海藻カートリッジ用穴部に抜き差し可能に形成し、かつ海藻類を繁茂育成する泥炭モルタルを収容した上面開口の海藻カートリッジと、を備えていることを特徴としている。
【0017】
請求項3記載の発明は、上記1項又は2項において、泥炭モルタルの中に、海藻の胞子、幼体あるいは成熟体の少なくともいずれか一種を付着した海藻種苗付着体の複数個を分散して投入したことを特徴としている。
【0018】
請求項4記載の発明は、上記1項又は2項において、前記泥炭モルタルは、海藻類を繁茂育成するために有効な有機酸を含有する泥炭と、セメント固化材とを混ぜて構成したことを特徴としている。
【0019】
請求項5記載の発明は、上記1項又は2項において、前記藻場基盤ブロックは、上面のほぼ中央で上下方向に挿通する支柱を設け、前記支柱を少なくとも藻場基盤ブロックの下面から下方へ延伸し、この支柱の下端を前記係留装置に連結したことを特徴としている。
【0020】
請求項6記載の発明は、上記5項において、前記支柱が、浮力を有する材質であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0025】
本発明の請求項1によれば、海面下の海中にて藻場を形成するので、温暖化などのために海水の干満の差が大きくても、太陽光が海藻に常にあたるように海面から一定の深さを保つように調整できる。藻場基盤ブロックの海面からの深さは係留装置によって調整できる。したがって、海藻類が確実に藻場で繁茂育成するので、磯焼け対策となる。さらに、藻場基盤ブロックを係留装置で係留して海中に浮かせるので、藻食性魚介類の食害を防止できる。また、繁茂育成した海藻類から藻食性魚介類に給餌できるので、藻食性魚介類の養殖が可能となる。また、海藻類が繁茂育成するので魚類の養殖を可能となる。
加えて、泥炭モルタルが海藻類を繁茂育成する藻場となる。数年の間、海藻類の繁茂育成と収穫を何回か繰り返すと、泥炭モルタルを交換する必要があるが、上面開口の藻場用穴部に藻場を形成したので、例えば海上から船に搭載したクレーン等で泥炭モルタルを交換することが容易である。
【0027】
本発明の請求項2によれば、複数の各海藻カートリッジ用穴部に複数の各海藻カートリッジを差し込むことで、各海藻カートリッジに収容した泥炭モルタルが海藻類を繁茂育成する藻場となる。数年の間、海藻類の繁茂育成と収穫を何回か繰り返すと、泥炭モルタルを交換する必要がある。この時、各海藻カートリッジは海藻カートリッジ用穴部から抜き出し、新たな海藻カートリッジを海藻カートリッジ用穴部へ差し込むことで、簡単に新たな泥炭モルタルに交換できる。さらに、前記の海藻カートリッジ用穴部から抜き出した海藻カートリッジは、新たな泥炭モルタルに交換してから再び利用可能となる。
【0028】
本発明の請求項3によれば、複数個の海藻種苗付着体を泥炭モルタルの中に分散して投入するので、海藻種苗付着体に予め付着した海藻の胞子、幼体あるいは成熟体による海藻の着生および生育が促進される。
【0029】
本発明の請求項4によれば、泥炭モルタルは、海藻に有効なフルボ酸、フミン酸等の有機酸を含有するので海藻類の繁茂育成を促進することができる。前記の有機酸は鉄イオンを媒介するので、この鉄イオンによって海藻類の生育が良くなる。
【0030】
本発明の請求項5によれば、支柱が藻場基盤ブロックの上面のほぼ中央を上下方向に通過し、かつ藻場基盤ブロックの下面から下方へ延伸したことで、構造全体の重心が藻場基盤ブロックの下方に位置する。さらに加えて、支柱の下端が係留装置に連結しているので、支柱には常に下方へ引っ張られる。その結果、藻場基盤ブロックの上面が海面とほぼ平行に安定した状態で維持される。
【0031】
本発明の請求項6によれば、支柱が、例えば木材である場合は木材自体が浮力を有するので、藻場基盤ブロックを浮かせる。さらに木材自体が魚類に活気を与える。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明に係る海中林ブロック構造体の全体を示す斜視図である。
図2図1の海中林ブロック構造体で使用される海藻カートリッジの斜視図である。
図3】本発明の他の実施形態に係る海中林ブロック構造体の全体を示す斜視図である。
図4】本発明の別の実施形態に係る海中林ブロック構造体の全体を示す斜視図である。
図5】本発明に係る藻場礁を示す概略的な斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態に係る海中林ブロック構造体について図面を参照して説明する。
本実施形態の海中林ブロック構造体10は、図1に示すように、基本的に、海藻類を繁茂育成する藻場21を上面に形成した藻場基盤ブロック20と、この藻場基盤ブロック20を浮かせる浮体30と、前記藻場基盤ブロック20を海中に浮かせて海底に係留する係留装置40とを備えている。
【0038】
海中林ブロック構造体10は、図1および図5に示すように、藻場基盤ブロック20は、浮体30が備える浮力によって浮遊するのであるが、係留装置40によって藻場基盤ブロック20を海面下にて、一定距離の深さの海中に浮いた状態で留めることができる。したがって、海面から藻場基盤ブロック20の上面までの深さは係留装置40により調整可能となる。
本実施形態の海中林ブロック構造体10の特徴は、藻場基盤ブロック20が海面下の海中に浮いた状態で海藻類を繁茂育成することを可能とすることである。
【0039】
藻場基盤ブロック20は、基本的に上面に、海藻類を繁茂育成するための藻場21を形成することであり、そのための種々の形態を工夫することができる。例えば、藻場基盤ブロック20の上面に、上面開口の藻場用穴部を形成し、この藻場用穴部の内部に、海藻類を繁茂育成する泥炭モルタルを収容することができる。
【0040】
したがって、藻場基盤ブロック20の上面に設けた泥炭モルタルが海藻類を繁茂育成する藻場21となる。この実施形態の場合、数年の間、海藻類の繁茂育成と収穫を何回か繰り返すと、泥炭モルタルを交換する必要があるが、上面開口の藻場用穴部に藻場21を形成したので、例えば海上から船に搭載したクレーン等で泥炭モルタルを交換することができる。
【0041】
泥炭モルタルは、海藻類を繁茂育成するために有効な有機酸を含有する泥炭と、セメント固化材とを混ぜて構成している。
したがって、泥炭モルタルは、海藻に有効なフルボ酸、フミン酸等の有機酸を含有していることから海藻類の繁茂育成を促進することができる。前述の有機酸は鉄イオンを媒介するので、この鉄イオンによって海藻類の生育が良くなる。また、有機酸は、海藻類に鉄イオンを媒介する際にマイナスイオンが発生するので、このマイナスイオンは海水を浄化することに貢献する。
また、泥炭モルタルには、プランクトンに有効なタンパク質等が混ぜ込まれており、窒素N、りんP、カリウムKイオンと結合してプランクトンの体内に吸収される。また、植物プランクトンは動物プランクトンの発生に貢献する。
さらに、泥炭モルタルの重さは1.1kg/L程度であるために取り扱いが容易であることから、泥炭モルタルを交換する際に、小型船の上から作業することも可能である。
【0042】
また、他の実施形態の海中林ブロック構造体10としては、図1に示すように、藻場基盤ブロック20には、その上面に複数の海藻カートリッジ用穴部22,・・・,22が適宜間隔をあけて並列に形成されている。本実施形態では断面円形であるが、四角形や他の断面形状であってもよく、特に限定されない。
【0043】
さらに、複数の海藻カートリッジ23,・・・,23は、複数の海藻カートリッジ用穴部22,・・・,22に抜き差し可能に形成されており、各海藻カートリッジ23,・・・,23は、上面開口の円筒形の容器となっており、海藻類を繁茂育成する泥炭モルタル21aを収容している。
なお、各海藻カートリッジ23,・・・,23は、いずれの海藻カートリッジ用穴部22,・・・,22に対しても互換性を持つように形成することが望ましい。海藻カートリッジ用穴部22と海藻カートリッジ23が断面円形であることは、互換性を持たせるために容易に加工できる点で望ましいが、これらの断面形状は特に限定されない。
【0044】
上記の各海藻カートリッジ23について詳しく説明する。
海藻カートリッジ23は、図2に示すように、上面開口の円筒形の容器であり、海藻類を繁茂育成する泥炭モルタル21aを収容する。この泥炭モルタル21aには、図2では8本の海藻活着用棒鋼23a,・・・,23aを、適宜間隔をあけて、しかも海藻カートリッジ23の底部にまで深く差し込んでいる。海藻活着用棒鋼23a,・・・,23aは、予め海藻の胞子、幼体あるいは成熟体を付着した海藻種苗付着体である。
したがって、各海藻活着用棒鋼23a,・・・,23aに予め付着した海藻の胞子、幼体あるいは成熟体は、泥炭モルタル21aの中に分散して投入されているので、海藻の着生および生育がいっそう促進される。
【0045】
なお、海藻種苗付着体は、海藻活着用棒鋼23aのような材質や形状に限定されない。例えば棒状、板状、チップ状などの形状、あるいは小片、長尺の形状、その他の形状であっても良い。また、材質は鉄鋼に限らず、他の金属、あるいは木材、その他の材質であっても良い。
【0046】
また、海藻カートリッジ23は、図2に示すように、円形の上面開口のほぼ中心位置に、泥炭モルタル21aの表面から上方へ突出するフック部23bを形成している。例えば、U字形の棒状のフック部23bは、U字形の端部を海藻カートリッジ23の底部に固定している。
海藻カートリッジ23を海藻カートリッジ用穴部22から引き抜く時、引き上げ用掛け具をフック部23bに引っ掛けて簡単に引き抜くことができる。また、その逆に、海藻カートリッジ23は引き上げ用掛け具をフック部23bに引っ掛けて搬送し、所望の海藻カートリッジ用穴部22へ差し込むことができる。
【0047】
なお、本発明者は、海藻カートリッジ23の実施形態としてタイプA,B,C,Dの4種類の寸法で円筒形の海藻カートリッジ23を製作した。
タイプAは、直径が12cmで、高さが15cmである。
タイプBは、直径が18cmで、高さが15cmである。
タイプCは、直径が12cmで、高さが30cmである。
タイプDは、直径が18cmで、高さが30cmである。
上記のうち、高さ30cmの円筒形(タイプC,D)は海藻カートリッジ23の内部の泥炭が溶解できることが分かった。大きさを上記のように設定することで、埋め込む海藻の胞子や成長したときの海藻の大きさに合わせることができるとともに、混ぜ込んだ成分が放出し易くなる。
【0048】
以上のことから、複数の海藻カートリッジ用穴部22,・・・,22に複数の海藻カートリッジ23,・・・,23を差し込むことで、各海藻カートリッジ23,・・・,23に収容した泥炭モルタル21a,・・・,21aが海藻類を繁茂育成する藻場21となる。
数年の間、海藻類の繁茂育成と収穫を何回か繰り返すと、泥炭モルタル21a,・・・,21aを交換する必要がある。この時、海藻カートリッジ23は海藻カートリッジ用穴部22から簡単に抜き出すことができる。さらに、新たな海藻カートリッジ23を海藻カートリッジ用穴部22へ差し込むことで、簡単に新たな泥炭モルタル21aに交換できる。
さらに、前記の海藻カートリッジ用穴部22から抜き出した海藻カートリッジ23は、新たな泥炭モルタル21aに交換してから再び利用可能となる。
【0049】
次に、浮体30について詳しく説明する。
浮体30は、藻場基盤ブロック20を浮かせる浮力を与えるのであればよい。図1の実施形態では、浮体30は発泡スチロール31であり、藻場基盤ブロック20の下面全体に浮力が伝わるように取り付けている。この浮体30は藻場基盤ブロック20の下面とほぼ同じ大きさで、必要な浮力を得るのに十分な厚みを有している。発泡スチロール31は成型加工が容易であるので、藻場基盤ブロック20の形状や大きさに容易に合わせる点で望ましい。
【0050】
この実施形態では、藻場基盤ブロック20の上面のほぼ中央位置で、上下方向に挿通する支柱24を取り付けている。つまり、藻場基盤ブロック20と浮体30の両方に、上下に貫通する支柱用穴部25を形成し、この支柱用穴部25に支柱24を挿通している。支柱24の上端側は藻場基盤ブロック20の上面から上方へ突出し、この突出部分に支柱24の長手方向に直交するストッパ用穴部24aを形成している。藻場基盤ブロック20の上面に係合するストッパ24bをストッパ用穴部24aに挿通している。支柱24の下端側は藻場基盤ブロック20の下面から下方へ延伸しており、この支柱24の下端を係留装置40に連結している。
【0051】
上述のように、支柱24が藻場基盤ブロック20の上面のほぼ中央を上下方向に通過し、かつ藻場基盤ブロック20の下面から下方へ延伸したことで、構造全体の重心は藻場基盤ブロック20より下方に位置する。しかも、支柱24の下端が係留装置40に連結しているので、支柱24には常に下方へ引っ張る力がかかる。一方、藻場基盤ブロック20の浮力は支柱24の上端側のストッパ24bによって抑えられる。これらの理由で、藻場基盤ブロック20の上面が海面とほぼ平行に安定した状態で維持される。
【0052】
なお、支柱24は浮力を有する材質であることが望ましいが、この限りではない。例えば、支柱24が木材である場合は木材自体が浮力を有するので、藻場基盤ブロック20を浮かせることに寄与する。さらに木材自体が魚類に活気を与えるので望ましい。この実施形態では、楢の木を支柱24として使用している。楢の木には特有の成分が含まれていることから、フナクイムシが繁殖し、このフナクイムシは魚類のエサになる。
【0053】
前述の藻場基盤ブロック20は、支柱24の下端を係留装置40に連結しているが、この実施形態に限定されない。例えば、支柱24を用いなくてもよいし、浮体30は他の実施形態でもよい。さらに、藻場基盤ブロック20は下端側のほぼ中央位置で、あるいは任意の複数個所を係留装置40に連結することができる。あるいはその他の実施形態で係留装置40に連結することができる。ただし、上記のいずれの場合であっても、藻場基盤ブロック20の上面が海面とほぼ平行に安定した状態を維持する必要がある。
【0054】
さらに、浮体30における他の実施形態について説明する。
図3の実施形態では、浮体30は密閉した鋼管で製作したフロート32である。このフロート32は藻場基盤ブロック20の側面の外周を囲むように取り付け固定している。図3では一体型のフロート32を示しているが、分割したフロート32を藻場基盤ブロック20の各側面に取り付けることができる。また、フロート32内の容積を調整することによって藻場基盤ブロック20に応じた十分な浮力を得ることができ、全体としてコンパクトになる。しかも、鋼管は潮流などの大きな衝撃にも耐える十分な強度が得られるので、藻場基盤ブロック20を種々の衝撃から保護することになる。なお、フロート32の材質や形状は他の形態でもよく、特に限定されない。
【0055】
図4の実施形態では、浮体30はプラスチックの球体33である。複数のプラスチックの球体33,・・・,33が藻場基盤ブロック20の上部の外周に沿って適宜間隔をあけて取り付けられている。この実施形態では、藻場基盤ブロック20の上面の外周に沿って適宜間隔をあけて8個のフック33a,・・・,33aを設け、各フック33a,・・・,33aにチェーン33b,・・・,33bなどの連結部材で8個のプラスチックの球体33,・・・,33を連結している。
【0056】
このプラスチックの球体33は安価であり、藻場基盤ブロック20の大きさや重量に応じてプラスチックの球体33の数を増減することができる。さらに何らかの衝撃により1つの球体33が破損しても他の球体33,・・・,33でカバーでき、破損した球体33は簡単に交換できる。なお、球体33の材質や形状は他の形態でもよく、特に限定されない。
【0057】
次に、係留装置40について詳しく説明する。
本実施形態の係留装置40は、図1に示すように、海底に固定する機能を備えたアンカーブロック41に、藻場基盤ブロック20をチェーン42で連結した構成である。
アンカーブロック41は、海底にほぼ固定するよう伝達する役割を持つブロックをいう。図1では、藻場基盤ブロック20とアンカーブロック41とをチェーン42で連結する方法として、アンカーブロック41のフック部41aにシャックル43を介してチェーン42の一端側を連結し、藻場基盤ブロック20に取り付けた支柱24の下端にフック部24cを設け、このフック部24cにシャックル43を介してチェーン42の他端側を連結する。
【0058】
したがって、アンカーブロック41は、海底の高低差に起伏のある状態に関わりなく所定位置に容易に設置できる。つまり、海底の起伏のためにアンカーブロック41が傾斜したり、たとえ横になったりしても、チェーン42で連結しているので藻場基盤ブロック20の機能に何ら影響を与えない。また、チェーン42の連結箇所を変更することで、海面から藻場基盤ブロック20の上面までの深さを簡単に調整することができる。また、藻場基盤ブロック20はチェーン42で連結したので、藻食性魚介類51はチェーン42を登ることが難しいために、食害を防止できる。
【0059】
次に、上述の海中林ブロック構造体10の全体的な作用について説明する。
本実施形態の海中林ブロック構造体10は、図1ないしは図5に示すように、海面下の海中にて藻場21を形成するので、温暖化などのために海水の干満の差が大きくても、太陽光が海藻に常にあたるように海面から一定の深さを保つように調整できる。前述のように藻場基盤ブロック20の海面からの深さは係留装置40によって調整できるからである。この結果、海藻類が藻場21で確実に繁茂育成して海中林11が形成される。
【0060】
また、藻場基盤ブロック20を係留装置40で係留して海中に浮かせるので、藻食性魚介類51の食害を防止できる。
【0061】
したがって、磯焼け現象で枯渇寸前となっている海藻の群落(海中林11)を回復し、繁茂育成した海藻類によって海底に生息する藻食性魚介類51に給餌できるので、藻食性魚介類51の養殖が可能となる。また、海藻類が繁茂育成するので魚類52の養殖を可能となる。結果として海藻の群落(海中林11)に多量のブルーカーボンを吸収させ、海藻とウニ類、魚類52の養殖で水産業を活性化することに貢献できる。
【0062】
次に、本実施形態の藻場礁について図面を参照して説明する。
本実施形態の藻場礁1は、図5に示すように、所定区域内に本実施形態の海中林ブロック構造体10を複数設置する。所定区域内の複数の海中林ブロック構造体10,・・・,10の全てが、前述の説明と同様の効果が得られるので、海面下の海中にて藻場礁1を形成し、海藻類が確実に繁茂育成して海中林11,・・・,10を形成する。
その結果、本実施形態の藻場礁1は、海中林11,・・・,10を乱立した所謂“海藻類の森”が形成されるので、ブルーカーボンの生態系を保全・改善し、地球温暖化対策と疲弊する水産業の活性化を図ることに貢献する。
【0063】
上記の複数の海中林ブロック構造体10,・・・,10は、各藻場基盤ブロック20,・・・,20がアンカーブロック41,・・・,41の連結部(フック部41a)を通過する垂線に対して30°傾いても隣り合う藻場基盤ブロック20,・・・,20と接触しないように配置することできる。
その結果、天候によって海が荒れても、隣り合う藻場基盤ブロック20,・・・,20がぶつかりにくくなるので、各海中林ブロック構造体10,・・・,10の耐久性が向上する。
【0064】
さらに、本実施形態の藻場礁1は、所定区域内の複数の海中林ブロック構造体10,・・・,10の全周囲を漁網3で囲んだ生け簀2を形成することができる。
その結果、繁茂育成する海藻類から藻食性魚介類51に給餌できるので、藻食性魚介類51の養殖が可能となる。また、海藻類が繁茂育成して海中林11,・・・,10を形成するので魚類52の養殖が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、ブルーカーボン生態系である海藻の群落(海中林)を保全・改善することに関わる広範囲の分野において、利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0066】
1 藻場礁 2 生け簀
3 漁網
10 海中林ブロック構造体 11 海中林
20 藻場基盤ブロック 21 藻場
21a 泥炭モルタル 22 海藻カートリッジ用穴部
23 海藻カートリッジ 23a 海藻活着用棒鋼(海藻種苗付着体)
23b フック部 24 支柱
24a ストッパ用穴部 24b ストッパ
24c フック部 25 支柱用穴部
30 浮体 31 発泡スチロール
32 フロート(鋼管) 33 プラスチックの球体
33a フック 33b チェーン
40 係留装置 41 アンカーブロック
41a フック部 42 チェーン
43 シャックル
51 藻食性魚介類 52 魚類
図1
図2
図3
図4
図5