(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-04
(45)【発行日】2025-06-12
(54)【発明の名称】接合体
(51)【国際特許分類】
H10N 30/853 20230101AFI20250605BHJP
H10N 30/30 20230101ALI20250605BHJP
H10N 30/88 20230101ALI20250605BHJP
H10N 30/093 20230101ALI20250605BHJP
H10D 48/50 20250101ALI20250605BHJP
C04B 37/00 20060101ALI20250605BHJP
【FI】
H10N30/853
H10N30/30
H10N30/88
H10N30/093
H10D48/50 B
C04B37/00 C
(21)【出願番号】P 2023534810
(86)(22)【出願日】2022-07-12
(86)【国際出願番号】 JP2022027369
(87)【国際公開番号】W WO2023286758
(87)【国際公開日】2023-01-19
【審査請求日】2024-01-05
(31)【優先権主張番号】P 2021116437
(32)【優先日】2021-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003029
【氏名又は名称】弁理士法人ブナ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】太田 翔一
(72)【発明者】
【氏名】章 欽
【審査官】宮本 博司
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-130334(JP,A)
【文献】特開平11-339561(JP,A)
【文献】特開2014-170926(JP,A)
【文献】特開2011-148688(JP,A)
【文献】特開2017-211375(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 30/853
H10N 30/30
H10N 30/88
H10N 30/093
H10D 48/50
C04B 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化アルミニウムを主成分とする多結晶の第1セラミックスを含有する、枠体と、
酸化アルミニウムを主成分とする多結晶の第2セラミックスを含有し、前記枠体よりも薄い板状体と、
を含み、
前記枠体と前記板状体とが、厚み方向で拡散接合された構造を有し、
前記板状体は、前記枠体と反対側に位置する第1主面および前記枠体側に位置する第2主面を有し、
前記第2セラミックスに含まれる酸化アルミニウムの含有量が、前記第1セラミックスに含まれる酸化アルミニウムの含有量よりも多
く、
前記第1セラミックスおよび前記第2セラミックスは、アルミン酸マグネシウムを含有し、前記第2セラミックスは、前記第1セラミックスよりも、前記アルミン酸マグネシウムの含有量が少ない、
接合体。
【請求項2】
前記第1セラミックスに含まれる酸化アルミニウムの含有量が、92質量%以上である、請求項1に記載の接合体。
【請求項3】
前記第1セラミックスおよび前記第2セラミックスは、珪素、マグネシウムおよびカルシウムからなる群より選択される少なくとも1種を、さらに含み、
これらの元素を酸化物に換算した含有量の合計は、第2セラミックスの方が第1セラミックスよりも少ない、請求項1に記載の接合体。
【請求項4】
前記第1セラミックスに含まれる珪素、マグネシウムおよびカルシウムを酸化物に換算した含有量の合計が、6.7質量%以下である、請求項3に記載の接合体。
【請求項5】
前記第2セラミックスは、前記第1セラミックスよりも、酸化アルミニウムの結晶粒子の円相当径の平均値が小さい、請求項1に記載の接合体。
【請求項6】
前
記第1主面は、前
記第2主面よりも粗さ曲線における25%の負荷長さ率での切断レベルと、粗さ曲線における75%の負荷長さ率での切断レベルとの差である切断レベル差(Rδc)の平均値が大きい、請求項1に記載の接合体。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれかに記載の接合体を含む、ダイヤフラム構造体。
【請求項8】
請求項
7に記載のダイヤフラム構造体と、
該ダイヤフラム構造体の前記板状体の前記第1主面に搭載されたセンサ素子と、
を含む、圧力センサ。
【請求項9】
請求項
7に記載のダイヤフラム構造体と、
該ダイヤフラム構造体の前記板状体の前記第1主面に搭載された厚膜抵抗体と、
を含む、圧力センサ。
【請求項10】
酸化アルミニウムを主成分とする多結晶の第1セラミックスを含有する枠体と、酸化アルミニウムを主成分とする多結晶の第2セラミックスを含有し、前記枠体よりも薄い板状体とを、厚み方向に対向するように配置する工程と、
前記枠体と前記板状体とを厚み方向から押圧しながら熱処理する工程と、
を含
み、
前記第1セラミックスおよび前記第2セラミックスは、アルミン酸マグネシウムを含有し、前記第2セラミックスは、前記第1セラミックスよりも、前記アルミン酸マグネシウムの含有量が少ない、
接合体の製造方法。
【請求項11】
前記第1セラミックスおよび前記第2セラミックスは、珪素、マグネシウムおよびカルシウムを含み、
これらの元素を酸化物に換算した含有量の合計は、前記第2セラミックスの方が前記第1セラミックスよりも少ない、
請求項
10に記載の接合体の製造方法。
【請求項12】
前記枠体と前記板状体とを対向するように配置する前に、前記枠体の前記板状体と対向する第1領域および前記板状体の前記枠体と対向する第2領域の少なくとも一方は、研削および研磨の少なくとも一方の加工が施されている、請求項
10または
11に記載の接合体の製造方法。
【請求項13】
前記熱処理する工程は、前記板状体を下側にして行われる、請求項
10または
11に記載の接合体の製造方法。
【請求項14】
前記枠体の前記板状体と反対側の第1主面および前記板状体の前記枠体と反対側の第1主面の少なくとも一方は、前記熱処理する工程の後に、研削および研磨の少なくとも一方の加工が施されている、請求項
10または
11に記載の接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、可撓性を有する膜と、この膜で被覆された窓部を有する基体とを備えたダイヤフラム構造体が、各種センサの構成部材などとして用いられている。例えば、センサの構成部材として用いられる場合、ダイヤフラム構造体のダイヤフラム部が測定すべき対象によって受ける屈曲変位を、適当な検出手段にて検出するように構成されている。さらに、近年では、ダイヤフラム構造体は圧電/電歪アクチュエータの構成部材としても用いられている。圧電/電歪アクチュエータの構成部材として用いられる場合、ダイヤフラム構造体のダイヤフラム部が、圧電/電歪素子によって変形し、ダイヤフラム構造体の内部に形成された加圧室に圧力が生じるようにしてされている。
【0003】
このようなダイヤフラム構造体として、例えば特許文献1には、信頼性、耐熱および耐食性の点から、成形体同士を一体的に焼結させ、ダイヤフラム部が、窓部とは反対方向となる外方に凸状にされたダイヤフラム構造体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示に係る接合体は、酸化アルミニウムを主成分とする多結晶の第1セラミックスを含有する枠体と、酸化アルミニウムを主成分とする多結晶の第2セラミックスを含有し、枠体よりも薄い板状体とを含む。本開示に係る接合体は、枠体と板状体とが厚み方向で拡散接合された構造を有する。第2セラミックスに含まれる酸化アルミニウムの含有量が、第1セラミックスに含まれる酸化アルミニウムの含有量よりも多い。
【0006】
本開示に係るダイヤフラム構造体は、上記の接合体を含む。本開示に係る圧力センサは、このダイヤフラム構造体と、ダイヤフラム構造体の板状体の第1主面に搭載されたセンサ素子または厚膜抵抗体とを含む。
【0007】
本開示に係る接合体の製造方法は、酸化アルミニウムを主成分とする多結晶の第1セラミックスを含有する枠体と、酸化アルミニウムを主成分とする多結晶の第2セラミックスを含有し、枠体よりも薄い板状体とを、厚み方向に対向するように配置する工程と;枠体と板状体とを厚み方向から押圧しながら熱処理する工程とを含む。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の一実施形態に係る接合体を示す平面図である。
【
図2】
図1に示すX-X線で切断した際の断面を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
上記のように、特許文献1には、信頼性、耐熱および耐食性の点から、成形体同士を一体的に焼結させ、ダイヤフラム部が、窓部とは反対方向となる外方に凸状にされたダイヤフラム構造体が開示されている。しかし、ダイヤフラム部が繰り返し屈曲させられると、凸状にされたダイヤフラム部は残留応力の増加が著しくなる。その結果、早期に破損するという問題がある。したがって、繰り返し屈曲させられても、長期間にわたって破損しにくい接合体が求められている。
【0010】
本開示に係る接合体は、上記のように、セラミックスからなる構造体とセラミックスからなる板状体とが厚み方向で拡散接合された構造を有する。そのため、セラミックスからなる板状体は、両主面が平面状となる。したがって、本開示に係る接合体は、繰り返し屈曲させられても、長期間にわたって破損しにくい。
【0011】
さらに、本開示に係る接合体の製造方法は、上記のように、セラミックスからなる構造体とセラミックスからなる板状体とが厚み方向で拡散接合する工程を含む。そのため、セラミックスからなる板状体は、両主面が平面状となる。したがって、本開示に係る接合体の製造方法によれば、繰り返し屈曲させられても、長期間にわたって破損しにくい接合体を提供することができる。
【0012】
本開示の接合体を、
図1および2に基づいて説明する。
図1に示す本開示の一実施形態に係る接合体1は、第1セラミックスを含有する枠体2と、第2セラミックスを含有する板状体3とを含む。一実施形態に係る接合体1は、
図2に示すように、枠体2と板状体3とが厚み方向で拡散接合された構造を有している。拡散接合された構造を有することによって、板状体3の両主面(第1主面31および第2主面32)は平面状になる。その結果、一実施形態に係る接合体1は、繰り返し屈曲させられても、長期間にわたって破損しにくい。
【0013】
以下、板状体3の両主面のうち、枠体2と反対側に位置している主面を第1主面31とし、枠体2側に位置している主面を第2主面32、枠体2の両主面のうち、板状体3と反対側に位置している主面を第1主面21と定義して説明する。
【0014】
枠体2に含まれる第1セラミックスは、多結晶からなり、酸化アルミニウムを主成分とする。本明細書において「酸化アルミニウムを主成分とする」とは、着目するセラミックスの合計100質量%において、酸化アルミニウムの含有量が90質量%以上であることを意味する。
【0015】
第1セラミックスは、酸化アルミニウムの含有量が92質量%以上であってもよい。第1セラミックスの酸化アルミニウムの含有量が92質量%以上であると、不可避不純物が少なくなるため、機械的強度を向上させることができる。第1セラミックスに含まれる酸化アルミニウムの含有量よりも、第2セラミックスに含まれる酸化アルミニウムの含有量の方が多い。そのため、第1セラミックスの酸化アルミニウムの含有量が92質量%以上であると、後述の第2セラミックスに含まれる酸化アルミニウムの含有量も92質量%を超えることになる。したがって、第2セラミックスの機械的強度も向上させることができる。
【0016】
第1セラミックスには、酸化アルミニウム以外に、例えば、珪素、マグネシウムおよびカルシウムからなる群より選択される少なくとも1種が含まれていてもよい。これらの元素の酸化物に換算した含有量(以下、酸化物に換算した含有量を酸化物換算量という。)は、例えば合計で6.7質量%以下であってもよい。これらの元素の酸化物換算量がこの範囲であると、第1セラミックスの剛性を向上させることができる。その結果、枠体2は板状体3をより安定して支持することができる。例えば、第1セラミックスに含まれる珪素の酸化物換算量は2質量%以上7質量%以下、マグネシウムの酸化物換算量は0.42質量%以上1質量%以下、カルシウムの酸化物換算量は0.17質量%以上1.1質量%以下である。
【0017】
枠体2は、
図1に示すように、平面視した場合に四角形状を有している。枠体2の形状は四角形状に限定されず、円形状、楕円形状、四角形状以外の多角形状であってもよい。四角形状も含め多角形状の場合、正多角形でもよく、不等辺多角形であってもよい。
【0018】
枠体2の大きさは限定されず、接合体1の用途に応じて適宜設定される。枠体2の大きさは、四角形状など多角形状の場合、外周における1辺の長さは、例えば15mm以上30mm以下であってもよい。枠体2が円形状または楕円形状を有する場合、外径が、例えば15mm以上30mm以下であってもよい。楕円形状の場合、長径および短径のいずれもが、このような範囲であればよい。
図2に示すように、枠体2の厚みT1は限定されず、接合体1の用途に応じて適宜設定される。枠体2の厚みT1は、例えば、10mm以上20mm以下であってもよい。
【0019】
板状体3に含まれる第2セラミックスは、多結晶からなり、酸化アルミニウムを主成分とする。主成分の定義については、上述の通りである。第2セラミックスにも、酸化アルミニウム以外に、例えば、珪素、マグネシウムおよびカルシウムからなる群より選択される少なくとも1種が含まれていてもよい。例えば、第2セラミックスに含まれる珪素の酸化物換算量は0.01質量%以上0.04質量%以下、マグネシウムの酸化物換算量は0.028質量%以上0.049質量%以下、カルシウムの酸化物換算量は0.022質量%以上0.039質量%以下である。
【0020】
第2セラミックスに含まれるこれらの元素の酸化物換算量は、第1セラミックスに含まれるこれらの元素の酸化物換算量よりも少なくてもよい。第2セラミックスに含まれるこれらの元素の酸化物換算量が少ない場合、例えば、板状体3にセンサ素子などを搭載する際に、センサ素子などに影響を及ぼすおそれのある化学的な反応を低減することができる。
【0021】
一実施形態に係る接合体1において、第2セラミックスに含まれる酸化アルミニウムの含有量は、第1セラミックスに含まれる酸化アルミニウムの含有量よりも多い。すなわち、枠体2よりも板状体3の方が、静的弾性率が高くなるため、板状体3の方が枠体2よりも剛性が高くなる。その結果、板状体3の厚みを薄くしても、板状体3は破損しにくくなる。第2セラミックスに含まれるこれらの元素の酸化物換算量と、第1セラミックスに含まれるこれらの元素の酸化物換算量との差は、例えば、3.5質量%以上4質量%以下である。
【0022】
第1セラミックスおよび第2セラミックスには、アルミン酸マグネシウムが、さらに含まれていてもよい。アルミン酸マグネシウムの含有量は、限定されず、例えば、第2セラミックスに含まれるアルミン酸マグネシウムは、第1セラミックスに含まれるアルミン酸マグネシウムよりも少なくてもよい。板状体3の厚みは枠体2の厚みよりも薄いため、板状体3の耐熱衝撃性が枠体2の耐熱衝撃性よりも乏しくなる。しかし、耐熱衝撃性に影響を及ぼすアルミン酸マグネシウムの含有量を、枠体2よりも板状体3の方を少なくすることによって、板状体3の耐熱衝撃性の低下を抑制することができる。
【0023】
第1セラミックスと第2セラミックスとのアルミン酸マグネシウムの含有量の差は、0.5質量%以上であって、第1セラミックスに含まれるアルミン酸マグネシウムの含有量は、0.5質量%以上3質量%以下であるとよい。第2セラミックスにはアルミン酸マグネシウムが含有されていない場合がある。この場合、板状体3の耐熱衝撃性の低下をさらに抑制することができる。
【0024】
第1セラミックスおよび第2セラミックスに含まれる各成分は、CuKα線を用いたX線回折装置を用いて同定すればよい。各元素の含有量は、蛍光X線分析装置(XRF)またはICP発光分光分析装置(Inductively coupled plasma optical emission spectrometer)(ICP)を用いて、X線回折装置で同定された化合物に換算すればよい。アルミン酸マグネシウムの含有量については、リートベルト法を用いて求めればよい。
【0025】
板状体3は、
図1に示すように、平面視した場合に四角形状を有している。板状体3の形状は、枠体2と同様に、四角形状に限定されず、円形状、楕円形状、四角形状以外の多角形状であってもよい。四角形状も含め多角形状の場合、正多角形でもよく、不等辺多角形であってもよい。板状体3の形状および大きさは、枠体2の形状に応じて適宜設定される。
【0026】
一実施形態に係る接合体1において、
図2に示すように、板状体3の厚みT2は、枠体2の厚みT1よりも薄ければ限定されない。板状体3の厚みT2は、例えば、0.1mm以上2mm以下であってもよい。上述のように、枠体2よりも板状体3の方が、酸化アルミニウムの含有量が多く、静的弾性率が高くなるため、板状体3の方が枠体2よりも剛性が高くなる。その結果、板状体3の厚みを薄くすることができる。板状体3の厚みT2は、0.2mm以上0.6mm以下であるとよい。板状体3の静的弾性率は、例えば、360GPa以上である。
【0027】
図1および2に示す枠体2は直方体であり、直方体の厚み方向に貫通する直方体形状の内部空間を有しているが、直方体に限定されず多面体、錐台、円柱などの厚み方向に貫通する内部空間を有している構造体でも良い。この場合、内部空間は直方体形状に限定されず、多面体、錐台、円柱などの形状でもよい。内部空間は必ずしも貫通している必要はなく、板状体3の反対側に位置している枠体2の第1主面21は開口部を有さない構造体でもよい。この場合、内部空間は板状体3の第2主面32に接している。第1主面21が開口部を有さない場合は、第1主面21に内部空間と外部空間とを接続する少なくとも1つ以上の孔が形成されていてもよい。
【0028】
第1セラミックスに含まれる酸化アルミニウムの結晶粒子の大きさおよび第2セラミックスに含まれる酸化アルミニウムの結晶粒子の大きさは、限定されない。例えば、第2セラミックスに含まれる酸化アルミニウムの結晶粒子は、第1セラミックスに含まれる酸化アルミニウムの結晶粒子よりも、小さい円相当径の平均値を有していてもよい。ここで、円相当径とは、第1セラミックスおよび第2セラミックスをそれぞれ順次研磨、サーマルエッチングした面における各結晶粒子の面積と同じ面積の円の直径である。
【0029】
その手順は、まず、平均粒径D50が3μmのダイヤモンド砥粒を用いて銅盤にて、板状体3の第1主面31を研磨する。その後、平均粒径D50が0.5μmのダイヤモンド砥粒を用いて錫盤にて研磨する。これらの研磨によって得られる研磨面を、結晶粒子と粒界層とが識別可能になるまで、例えば、1480℃でサーマルエッチングし、測定対象面とする。熱処理は、例えば30分程度である。枠体2についてもまず、平均粒径D50が3μmのダイヤモンド砥粒を用いて銅盤にて枠体2の第1主面21を研磨し、以降、上述した手順と同じ手順により、測定対象面を得ることができる。
【0030】
熱処理された面を光学顕微鏡で観察し、例えば400倍の倍率で撮影する。撮影された画像のうち、面積が4.8747×102mの範囲を計測範囲とする。この計測範囲を、画像解析ソフト(例えば、三谷商事(株)製、Win ROOF)を用いて解析することによって、個々の結晶粒子の円相当径を得ることができる。円相当径を求めるに当たり、円相当径の閾値は、0.21μmとし、0.21μm未満の円相当径は平均値の算出の対象とはしない。
【0031】
円相当径の平均値が小さいと、セラミックスの機械的強度や剛性を向上させることができる。すなわち、第1セラミックスよりも第2セラミックスの機械的強度や剛性を向上させることができる。その結果、板状体3の厚みを薄くしても、板状体3は破損しにくくなる。
【0032】
第2セラミックスに含まれる酸化アルミニウムの結晶粒子の円相当径は、例えば、1μm以上5μm以下である。第1セラミックスに含まれる酸化アルミニウムの結晶粒子の円相当径は、例えば、4μm以上10μm以下である。第2セラミックスに含まれる酸化アルミニウムの結晶粒子の円相当径と、第1セラミックスに含まれる酸化アルミニウムの結晶粒子の円相当径との差は、例えば、1μm以上、特に、2μm以上であるとよい。
【0033】
板状体3の主面における表面性状は、特に限定されない。例えば、板状体3の第1主面31は、板状体3の第2主面32よりも粗さ曲線における25%の負荷長さ率での切断レベルと、粗さ曲線における75%の負荷長さ率での切断レベルとの差である切断レベル差(Rδc)の平均値が大きくてもよい。板状体3にセンサ素子などを搭載し、接合剤などで固定する場合に、センサ素子などに適切なアンカー効果が発揮される。その結果、板状体3にセンサ素子などを強固に固定することができる。
【0034】
第1主面31の切断レベル差(Rδc)の平均値は、例えば、0.6μm以上1.5μm以下である。第2主面32の切断レベル差(Rδc)の平均値は、例えば、0.3μm以上0.9μm以下である。第1主面31の切断レベル差(Rδc)の平均値と、第2主面32の切断レベル差(Rδc)の平均値との差は、例えば、0.3μm以上0.6μm以下である。
【0035】
粗さ曲線における切断レベル差(Rδc)は、JIS B0601:2001で規定されている粗さ曲線における負荷長さ率Rmr1およびRmr2にそれぞれ一致する切断レベルC(Rrm1)およびC(Rrm2)の高さ方向の差を示す指標である。粗さ曲線における切断レベル差(Rδc)の値が小さいほど、凹凸が少ない平滑な表面であることを示す。
【0036】
切断レベル差(Rδc)は、JIS B 0601:2001に準拠し、レーザー顕微鏡((株)キーエンス製、超深度カラー3D形状測定顕微鏡(VK-X1000またはその後継機種))を用いて測定することができる。測定条件としては、照明方式を同軸落射方式、カットオフ値λsを無し、カットオフ値λcを0.08mm、カットオフ値λfを無し、終端効果の補正を有り、測定倍率を240倍、測定対象とする第1主面31および第2主面32から1か所当たりの測定範囲を1428μm×1070μmとして、各測定範囲に、測定範囲の長手方向に沿って測定対象とする線を4本引いて、線粗さ計測を行えばよい。線粗さ計測する前に、補正の強さを5として、うねり除去による面形状補正を行う。計測の対象とする線1本当たりの長さは、例えば、1282μmである。第1主面31および第2主面32からそれぞれ測定範囲を2箇所設定し、合計8本の線からそれぞれ切断レベル差(Rδc)を計測し、平均値を算出すればよい。
【0037】
一実施形態に係る接合体1を製造する方法は限定されない。接合体1は、例えば、枠体2と板状体3とを対向するように配置し、厚み方向から押圧しながら熱処理することによって製造される。具体的には、次のような工程によって製造される。
工程(a):酸化アルミニウムを主成分とする多結晶の第1セラミックスを含有する枠体と、酸化アルミニウムを主成分とする多結晶の第2セラミックスを含有し、枠体よりも薄い板状体とを、厚み方向に対向するように配置する工程。
工程(b):枠体と板状体とを厚み方向から押圧しながら熱処理する工程。
【0038】
工程(a)について、まず、枠体2と板状体3とを準備する。枠体2および板状体3については上述の通りであり、詳細な説明は省略する。枠体2および板状体3に含まれる第1セラミックスおよび第2セラミックスは、例えば、次のような手順で得られる。
【0039】
酸化アルミニウム(純度が99.9質量%以上)、水酸化マグネシウム、酸化珪素および炭酸カルシウムの各粉末とを粉砕用ミルに溶媒(イオン交換水)とともに投入する。次いで、粉末の平均粒径(D50)が1.5μm以下になるまで粉砕した後、有機結合剤と酸化アルミニウム粉末を分散させる分散剤とを添加し、混合してスラリーを得る。有機結合剤としては、例えば、アクリルエマルジョン、ポリビニールアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイドなどが挙げられる。
【0040】
ここで、第1セラミックスを得るには、例えば、上記粉末の合計100質量%における水酸化マグネシウム粉末の含有量を0.6質量%以上1.5質量%以下、酸化珪素粉末の含有量を2質量%以上7質量%以下、炭酸カルシウム粉末の含有量を0.3質量%以上2質量%以下であり、残部を酸化アルミニウム粉末とする。不可避不純物の含有量の合計は、0.25質量%以下とする。
【0041】
第2セラミックスを得るには、例えば、上記粉末の合計100質量%における水酸化マグネシウム粉末の含有量を0.04質量%以上0.07質量%以下、酸化珪素粉末の含有量を0.01質量%以上0.04質量%以下、炭酸カルシウム粉末の含有量を0.04質量%以上0.07質量%以下であり、残部を酸化アルミニウム粉末とする。不可避不純物の含有量の合計は、0.25質量%以下とする。
【0042】
スラリーを噴霧造粒して顆粒を得た後、1軸プレス成形装置あるいは冷間静水圧プレス成形装置を用いて、成形圧を78Mpa以上128MPa以下として加圧することにより、最終的に得られる枠体2および板状体3の形状に相当する成形体を得る。これらの成形体を、1500℃以上1700℃以下および4時間以上6時間以下の条件で焼成することによって、第1セラミックスを含有する枠体2および第2セラミックスを含有する板状体3が得られる。
【0043】
得られた枠体2および板状体3を、厚み方向に対向するように配置する。具体的には、枠体2の板状体3と対向する第1領域2aおよび板状体3の枠体2と対向する第2領域3aとが対向するように配置する。第1領域2aおよび第2領域3aの少なくとも一方の領域に、必要に応じて水を塗布していてもよい。
【0044】
枠体2と板状体3とを対向するように配置する前に、第1領域2aおよび第2領域3aの少なくとも一方は、研削および研磨の少なくとも一方の加工が施されていてもよい。第1領域2aおよび第2領域3aの少なくとも一方にこのような加工が施されていると、後述する工程(b)において、第1領域2aと第2領域3aとの吸着力を向上させることができる。
【0045】
研削方法および研磨方法は限定されない。研削は、例えば、平面研削盤などを用いて行えばよい。研磨は、例えば、0.5μm以上3μm以下の平均粒径を有するダイヤモンドスラリーを、銅製、錫製または錫鉛合金製のラップ盤に所定時間毎に供給して行えばよい。
【0046】
次いで、工程(b)では、対向するように配置した枠体2と板状体3とを、厚み方向から押圧しながら熱処理を行う。このように、押圧しながら熱処理を行って接合する方法としては、拡散接合が挙げられる。具体的には、枠体2と板状体3とを対向するように配置し、厚み方向から、例えば板状体3の自重によって押圧し、1000℃以上1800℃以下および4時間以上6時間以下の条件で熱処理する。必要に応じて、厚み方向から、例えば800gf以上3kgf以下の力で押圧し、上記条件で熱処理してもよい。このように熱処理することによって、一実施形態に係る接合体1が得られる。
【0047】
工程(b)において熱処理は、例えば、板状体3を下側にして行われるのがよい。板状体3を下側にして熱処理を行うことによって、板状体3を上側にして熱処理する場合に比べて、板状体3の両主面(第1主面31および第2主面32)の平面度を制御しやすくなる。
【0048】
さらに、工程(b)の後に、枠体2の第1主面21および板状体3の第1主面31の少なくとも一方に、研削および研磨の少なくとも一方の加工を施してもよい。
【0049】
枠体2と板状体3とを対向するように配置する前に、板状体3の枠体2と対向する第2領域3aを研削し、工程(b)の後に、板状体3の第1主面31を研削する場合、第1主面31の研削に用いる砥石は、第2領域3aの研削に用いる砥石よりも粒度番号の大きい砥石を用いればよい。
【0050】
枠体2と板状体3とを対向するように配置する前に、板状体3の枠体2と対向する第2領域3aを研磨し、工程(b)の後に、板状体3の第1主面31を研磨する場合、第1主面31の研磨に用いる砥粒は、第2領域3aの研磨に用いる砥粒よりも粒度番号の大きい砥粒を用いればよい。
【0051】
枠体2と板状体3とを対向するように配置する前に、板状体3の枠体2と対向する第2領域3aを研磨し、工程(b)の後に、板状体3の第1主面31を研削すると、効率的に接合体を得ることができる。
【0052】
このような加工を施すことによって、枠体2の第1主面21に対する板状体3の第1主面31の平行度や平面度を制御しやすくなる。研削および研磨については、上述の通りであり、詳細な説明は省略する。上述した方法は、枠体2が直方体であり、直方体の厚み方向に貫通する直方体形状の内部空間を有している場合について説明したが、直方体に限定されず多面体、錐台、円柱などの厚み方向に貫通する内部空間を有している構造体などであっても同様である。
【0053】
一実施形態に係る接合体1は、例えば、ダイヤフラム構造体として使用される。ダイヤフラムは、圧力の影響によって変位を生じる膜である。本開示に係る圧力センサは、このダイヤフラム構造体と、ダイヤフラム構造体の板状体(接合体1の板状体3に相当し、ダイヤフラム本体として作用する)の第1主面(板状体3の第1主面31)に搭載されたセンサ素子または厚膜抵抗体とを含む。
【0054】
具体的には、一実施形態に係る圧力センサは、ダイヤフラム構造体の板状体の第1主面の中央部にセンサ素子が設けられている。一実施形態に係る圧力センサは、枠体2内の圧力と、特定の圧力に維持された枠体2の外側との差圧によって生じるダイヤフラム構造体の板状体(板状体3)のたわみを、センサ素子によって検出する。
【0055】
他の実施形態に係る圧力センサは、センサ素子の代わりに厚膜抵抗体が、ダイヤフラム構造体の板状体の第1主面に設けられている。他の実施形態に係る圧力センサも一実施形態に係る圧力センサと同様、枠体2内の圧力と、特定の圧力に維持された枠体2の外側との差圧によって生じるダイヤフラム構造体の板状体(板状体3)のたわみを、厚膜抵抗体によって検出する。
【0056】
本開示のダイヤフラム構造体は、圧力センサだけではなく、振動センサ、歪みセンサ、音響センサ、MEMSセンサ、生体用センサ、超音波センサなどの各種センサに用いてもよい。
【0057】
さらに、本開示の接合体は、ダイヤフラム構造体だけではなく、内部空間を有する多面体(容器)と、多面体よりも薄い板状体と、を含む筐体(パッケージ)であってもよい。この筐体の内部空間には、振動を吸収するための球体が移動可能な状態で収容されていてもよく、球体が収容されている場合、ボールセンサとして用いることもできる。
【符号の説明】
【0058】
1 接合体
2 枠体
21 枠体の第1主面
2a 第1領域
3 板状体
31 板状体の第1主面
32 板状体の第2主面
3a 第2領域