(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-04
(45)【発行日】2025-06-12
(54)【発明の名称】押出成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 48/92 20190101AFI20250605BHJP
B29C 48/14 20190101ALI20250605BHJP
B29C 48/88 20190101ALI20250605BHJP
B29C 48/305 20190101ALI20250605BHJP
B29B 9/08 20060101ALI20250605BHJP
C08J 5/00 20060101ALI20250605BHJP
【FI】
B29C48/92
B29C48/14
B29C48/88
B29C48/305
B29B9/08
C08J5/00 CFD
(21)【出願番号】P 2024205462
(22)【出願日】2024-11-26
【審査請求日】2024-12-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000214272
【氏名又は名称】長瀬産業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】513066041
【氏名又は名称】ナガセプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 豊一郎
(72)【発明者】
【氏名】宮本 朗
【審査官】田村 佳孝
(56)【参考文献】
【文献】特許第7454097(JP,B1)
【文献】特開2024-100322(JP,A)
【文献】特表2015-536377(JP,A)
【文献】特開2023-146094(JP,A)
【文献】特開2024-126574(JP,A)
【文献】特開2024-139591(JP,A)
【文献】国際公開第2021/010054(WO,A1)
【文献】特開平03-047723(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00
B29C 48/00
B29B 9/00
C08J 5/00
C08L 67/02
C08L 101/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
押出成形体の製造方法であって、
供給ゾーン、圧縮ゾーン、及び計量ゾーンを有する単軸フライトスクリューを有する押出成形機によりポリヒドロキシアルカノエート(PHA)を押出成形することを含み、
前記押出成形が、PHA粉体を含む粉体造粒物を可塑化溶融温度T
P(単位:℃)で溶融して溶融物を得ること、前記溶融物をダイスから押し出すこと、及び押し出された前記溶融物を冷却して固化することを含み、
前記可塑化溶融温度T
Pが、式(1)
T
M-10<T
P≦T
M+20 (1)
(式中、T
M(単位:℃)は、窒素雰囲気中で前記粉体造粒物を室温から10℃/minの速度で昇温させる示差走査熱量測定において観測される最高融解ピーク温度を表す。)を満たす、方法。
【請求項2】
押出成形体の製造方法であって、
押出成形機によりポリヒドロキシアルカノエート(PHA)を押出成形することを含み、
前記押出成形が、PHA粉体を含む粉体造粒物を可塑化溶融温度T
P
(単位:℃)で溶融して溶融物を得ること、前記溶融物をT型ダイスから押し出すこと、及び押し出された前記溶融物を第1ロール及び第2ロールで挟み込んで冷却して固化することを含み、
前記可塑化溶融温度T
P
が、式(1)
T
M
-10<T
P
≦T
M
+20 (1)
(式中、T
M
(単位:℃)は、窒素雰囲気中で前記粉体造粒物を室温から10℃/minの速度で昇温させる示差走査熱量測定において観測される最高融解ピーク温度を表す。)を満たし、
冷却された前記溶融物が前記第2ロールの表面に沿って搬送され、
前記第1ロールの表面温度T
R1
(単位:℃)、前記第2ロールの表面温度T
R2
(単位:℃)、及び前記粉体造粒物の結晶化温度T
C
が、式(2)、式(3)、及び式(4)
T
C
-80<T
R1
≦T
C
(2)
T
C
-60<T
R2
≦T
C
(3)
T
R1
<T
R2
(4)
を満たし、
前記粉体造粒物の前記結晶化温度T
C
が、窒素雰囲気中で前記粉体造粒物を10℃/minの速度で180℃まで昇温し、180℃に2分間保持し、10℃/minの速度で降温する示差走査熱量測定において、降温中に観測される結晶化発熱ピークのピーク温度と定義される、方法。
【請求項3】
押出成形体の製造方法であって、
押出成形機によりポリヒドロキシアルカノエート(PHA)を押出成形することを含み、
前記押出成形が、PHA粉体を含む粉体造粒物を可塑化溶融温度T
P
(単位:℃)で溶融して溶融物を得ること、前記溶融物をダイスから押し出すこと、及び押し出された前記溶融物を冷却して固化することを含み、
前記可塑化溶融温度T
P
が、式(1)
T
M
-10<T
P
≦T
M
+20 (1)
(式中、T
M
(単位:℃)は、窒素雰囲気中で前記粉体造粒物を室温から10℃/minの速度で昇温させる示差走査熱量測定において観測される最高融解ピーク温度を表す。)を満たし、
前記押出成形体の結晶化温度T
CA
(単位:℃)及び前記粉体造粒物の結晶化温度T
C
(単位:℃)が、式(5)
0.8≦T
CA
/T
C
≦1.2 (5)
を満たし、
前記粉体造粒物の前記結晶化温度T
C
が、窒素雰囲気中で前記粉体造粒物を10℃/minの速度で180℃まで昇温し、180℃に2分間保持し、10℃/minの速度で降温する示差走査熱量測定において、降温中に観測される結晶化発熱ピークのピーク温度と定義され、
前記押出成形体の前記結晶化温度T
CA
が、窒素雰囲気中で前記押出成形体を10℃/minの速度で180℃まで昇温し、180℃に2分間保持し、10℃/minの速度で降温する示差走査熱量測定において、降温中に観測される結晶化発熱ピークのピーク温度と定義される、方法。
【請求項4】
押出成形体の製造方法であって、
押出成形機によりポリヒドロキシアルカノエート(PHA)を押出成形することを含み、
前記押出成形が、PHA粉体を含む粉体造粒物を可塑化溶融温度T
P
(単位:℃)で溶融して溶融物を得ること、前記溶融物をダイスから押し出すこと、及び押し出された前記溶融物を冷却して固化することを含み、
前記可塑化溶融温度T
P
が、式(1)
T
M
-10<T
P
≦T
M
+20 (1)
(式中、T
M
(単位:℃)は、窒素雰囲気中で前記粉体造粒物を室温から10℃/minの速度で昇温させる示差走査熱量測定において観測される最高融解ピーク温度を表す。)を満たし、
前記PHA粉体のメルトフローレートMFR
ORI
(単位:g/10min)、前記粉体造粒物のメルトフローレートMFR
GRN
(単位:g/10min)、及び前記押出成形体のメルトフローレートMFR
ART
(単位:g/10min)が、式(a)、(b)、及び(c)
1≦MFR
GRN
/MFR
ORI
≦5 (a)
1≦MFR
ART
/MFR
GRN
≦5 (b)
1≦MFR
ART
/MFR
ORI
≦10 (c)
を満たし、前記PHA粉体のメルトフローレートMFR
ORI
、前記粉体造粒物のメルトフローレートMFR
GRN
、及び前記押出成形体のメルトフローレートMFR
ART
が、ISO1133に準拠して165℃、荷重5kgで測定される、方法。
【請求項5】
前記粉体造粒物が、メルトメモリー効果を有する、請求項1
~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記粉体造粒物が圧縮造粒物である請求項1
~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記粉体造粒物が、前記粉体造粒物の外縁に位置する前記PHA粉体の少なくとも一部が溶融固化して構成された外壁部を有し、前記外壁部の内側に圧縮された前記PHA粉体が収まっている、請求項
6に記載の方法。
【請求項8】
前記ダイスがT型ダイスであり、
前記ダイスから押し出された前記溶融物が少なくとも1つの冷却ロールで冷却される、請求項1
、3、4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つの冷却ロールが、前記溶融物を挟み込む第1ロール及び第2ロールを含み、
冷却された前記溶融物が前記第2ロールの表面に沿って搬送され、
前記第1ロールの表面温度T
R1(単位:℃)、前記第2ロールの表面温度T
R2(単位:℃)、及び前記粉体造粒物の結晶化温度T
Cが、式(2)、式(3)、及び式(4)
T
C-80<T
R1≦T
C (2)
T
C-60<T
R2≦T
C (3)
T
R1<T
R2 (4)
を満たし、
前記粉体造粒物の前記結晶化温度T
Cが、窒素雰囲気中で前記粉体造粒物を10℃/minの速度で180℃まで昇温し、180℃に2分間保持し、10℃/minの速度で降温する示差走査熱量測定において、降温中に観測される結晶化発熱ピークのピーク温度と定義される、請求項
8に記載の方法。
【請求項10】
前記第2ロールの表面温度T
R2が50℃~80℃である、請求項
2に記載の方法。
【請求項11】
前記第2ロールの表面温度T
R2
が50℃~80℃である、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記押出成形機が、供給ゾーン、圧縮ゾーン、及び計量ゾーンを有する単軸フライトスクリューを有する、請求項
2~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
100rpm以下のスクリュー回転数で前記押出成形が行われる、請求項
1に記載の方法。
【請求項14】
100rpm以下のスクリュー回転数で前記押出成形が行われる、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記粉体造粒物の結晶化温度T
C(単位:℃)が80℃以上であり、
前記粉体造粒物の前記結晶化温度T
Cが、窒素雰囲気中で前記粉体造粒物を10℃/minの速度で180℃まで昇温し、180℃に2分間保持し、10℃/minの速度で降温する示差走査熱量測定において、降温中に観測される結晶化発熱ピークのピーク温度と定義される、請求項1
~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記押出成形体が、管状形状を有する、請求項1
~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記押出成形体の結晶化温度T
CA(単位:℃)及び前記粉体造粒物の結晶化温度T
C(単位:℃)が、式(5)
0.8≦T
CA/T
C≦1.2 (5)
を満たし、
前記粉体造粒物の前記結晶化温度T
Cが、窒素雰囲気中で前記粉体造粒物を10℃/minの速度で180℃まで昇温し、180℃に2分間保持し、10℃/minの速度で降温する示差走査熱量測定において、降温中に観測される結晶化発熱ピークのピーク温度と定義され、
前記押出成形体の前記結晶化温度T
CAが、窒素雰囲気中で前記押出成形体を10℃/minの速度で180℃まで昇温し、180℃に2分間保持し、10℃/minの速度で降温する示差走査熱量測定において、降温中に観測される結晶化発熱ピークのピーク温度と定義される、請求項1
、2、4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記PHA粉体のメルトフローレートMFR
ORI(単位:g/10min)、前記粉体造粒物のメルトフローレートMFR
GRN(単位:g/10min)、及び前記押出成形体のメルトフローレートMFR
ART(単位:g/10min)が、式(a)、(b)、及び(c)
1≦MFR
GRN/MFR
ORI≦5 (a)
1≦MFR
ART/MFR
GRN≦5 (b)
1≦MFR
ART/MFR
ORI≦10 (c)
を満たし、前記PHA粉体のメルトフローレートMFR
ORI、前記粉体造粒物のメルトフローレートMFR
GRN、及び前記押出成形体のメルトフローレートMFR
ARTが、ISO1133に準拠して165℃、荷重5kgで測定される、請求項1
~3のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、押出成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)は、微生物がその体内で産生するバイオポリエステル樹脂であり、微生物による海洋生分解性を有することで知られている。一方、PHAは、熱によっても容易に分解し、例えば、180℃を超える温度領域では熱分解が著しく進行してしまう。また、PHAは結晶性ポリマーであるが、結晶固化速度が遅いため、押出成形において、冷却ロールへの貼りつき、押出成形体同士の融着、後収縮による形状及び寸法の不安定性等の問題を生じる。このため、PHAの押出成形では、原料PHA粉末を溶融混練して作製されるペレット(以下、「溶融ペレット」と称すこともある)に結晶化核剤を添加したもの又はPHAを他の樹脂と複合化して作製された溶融ペレットを成形材料として使用する場合がある。しかし、結晶化核剤は、押出物の冷却ロールへの貼りつき、ダイスへの付着物(目やにと呼ばれる)等を発生させて連続成形を妨げる要因となることがある。更に、溶融混練プロセスによるPHA溶融ペレットの製造は、多量の電力を要する。PHAを他の樹脂と複合化して作製された溶融ペレットを用いて製造された製品は、一般に海洋分解速度が遅い傾向がある。
【0003】
特許文献1では、溶融混練を経ずに製造することができる粉体造粒物が開示されている。粉体造粒物は、溶融ペレットよりも少ない熱履歴及び小さい消費電力で製造される。
【0004】
特許文献2では、結晶化核剤を配合せずとも「メルトメモリー効果」により優れた結晶化特性を示すことができる粉体造粒物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第7387950号
【文献】特許第7454097号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、PHA粉体造粒物を用いて、安定的にPHA押出成形体を連続的に製造することができる、押出成形体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の態様は以下のものを含む。
[態様1]
押出成形体の製造方法であって、
押出成形機によりポリヒドロキシアルカノエート(PHA)を押出成形することを含み、
前記押出成形が、PHA粉体を含む粉体造粒物を可塑化溶融温度TP(単位:℃)で溶融して溶融物を得ること、前記溶融物をダイスから押し出すこと、及び押し出された前記溶融物を冷却して固化することを含み、
前記可塑化溶融温度TPが、式(1)
TM-10<TP≦TM+20 (1)
(式中、TM(単位:℃)は、窒素雰囲気中で前記粉体造粒物を室温から10℃/minの速度で昇温させる示差走査熱量測定において観測される最高融解ピーク温度を表す。)
を満たす、方法。
[態様2]
前記粉体造粒物が、メルトメモリー効果を有する、態様1に記載の方法。
[態様3]
前記粉体造粒物が圧縮造粒物である態様1又は2に記載の方法。
[態様4]
前記粉体造粒物が、前記粉体造粒物の外縁に位置する前記PHA粉体の少なくとも一部が溶融固化して構成された外壁部を有し、前記外壁部の内側に圧縮された前記PHA粉体が収まっている、態様3に記載の方法。
[態様5]
前記ダイスがT型ダイスであり、
前記ダイスから押し出された前記溶融物が少なくとも1つの冷却ロールで冷却される、態様1~4のいずれかに記載の方法。
[態様6]
前記少なくとも1つの冷却ロールが、前記溶融物を挟み込む第1ロール及び第2ロールを含み、
冷却された前記溶融物が前記第2ロールの表面に沿って搬送され、
前記第1ロールの表面温度TR1(単位:℃)、前記第2ロールの表面温度TR2(単位:℃)、及び前記粉体造粒物の結晶化温度TCが、式(2)、式(3)、及び式(4)
TC-80<TR1≦TC (2)
TC-60<TR2≦TC (3)
TR1<TR2 (4)
を満たし、
前記粉体造粒物の前記結晶化温度TCが、窒素雰囲気中で前記粉体造粒物を10℃/minの速度で180℃まで昇温し、180℃に2分間保持し、10℃/minの速度で降温する示差走査熱量測定において、降温中に観測される結晶化発熱ピークのピーク温度と定義される、態様5に記載の方法。
[態様7]
前記第2ロールの表面温度TR2が50℃~80℃である、態様6に記載の方法。
[態様8]
前記押出成形機が、供給ゾーン、圧縮ゾーン、及び計量ゾーンを有する単軸フライトスクリューを有する、態様1~7のいずれかに記載の方法。
[態様9]
100rpm以下のスクリュー回転数で前記押出成形が行われる、態様8に記載の方法。
[態様10]
前記粉体造粒物の結晶化温度TC(単位:℃)が80℃以上であり、
前記粉体造粒物の前記結晶化温度TCが、窒素雰囲気中で前記粉体造粒物を10℃/minの速度で180℃まで昇温し、180℃に2分間保持し、10℃/minの速度で降温する示差走査熱量測定において、降温中に観測される結晶化発熱ピークのピーク温度と定義される、態様1~9のいずれかに記載の方法。
[態様11]
前記押出成形体が、管状形状を有する、態様1~4、又は態様1~4を引用する態様8~10のいずれかに記載の方法。
[態様12]
前記押出成形体の結晶化温度TCA(単位:℃)及び前記粉体造粒物の結晶化温度TC(単位:℃)が、式(5)
0.8≦TCA/TC≦1.2 (5)
を満たし、
前記粉体造粒物の前記結晶化温度TCが、窒素雰囲気中で前記粉体造粒物を10℃/minの速度で180℃まで昇温し、180℃に2分間保持し、10℃/minの速度で降温する示差走査熱量測定において、降温中に観測される結晶化発熱ピークのピーク温度と定義され、
前記押出成形体の前記結晶化温度TCAが、窒素雰囲気中で前記押出成形体を10℃/minの速度で180℃まで昇温し、180℃に2分間保持し、10℃/minの速度で降温する示差走査熱量測定において、降温中に観測される結晶化発熱ピークのピーク温度と定義される、態様1~11のいずれかに記載の方法。
[態様13]
前記PHA粉体のメルトフローレートMFRORI(単位:g/10min)、前記粉体造粒物のメルトフローレートMFRGRN(単位:g/10min)、及び前記押出成形体のメルトフローレートMFRART(単位:g/10min)が、式(a)、(b)、及び(c)
1≦MFRGRN/MFRORI≦5 (a)
1≦MFRART/MFRGRN≦5 (b)
1≦MFRART/MFRORI≦10 (c)
を満たし、前記PHA粉体のメルトフローレートMFRORI、前記粉体造粒物のメルトフローレートMFRGRN、及び前記押出成形体のメルトフローレートMFRARTが、ISO1133に準拠して165℃、荷重5kgで測定される、態様1~12のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本開示により、PHA粉体造粒物を用いて、安定的にPHA押出成形体を連続的に製造することができる、押出成形体の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係る方法で用いられる押出成形機の一例を示す概略図である。
【
図2】実施例で使用したPHA粉体及びPHA粉体造粒物の昇温DSC曲線である。
【
図3】実施例で使用したPHA粉体及びPHA粉体造粒物の降温DSC曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
A.粉体造粒物
まず、実施形態に係る押出成形体の製造方法において押出成形材料として用いられる粉体造粒物を説明する。
【0011】
粉体造粒物は、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)粉体を含み、好ましくはPHA粉体を主成分として含み、より好ましくはPHA粉体から本質的になり、さらに好ましくはPHA粉体からなる。本明細書において、「~を含む」及び「~を含有する」は、特段の記載がない限り、追加の成分又は要素を含み得ることを意味し、「~から本質的になる」及び「~からなる」を包含する。「~から本質的になる」は、実質的に悪影響を及ぼさない追加の成分又は要素を含み得ることを意味する。「~からなる」は、記載された材料又は要素のみを含むことを意味するが、不可避の不純物をさらに含むことを除外しない。
【0012】
粉体造粒物は、PHA粉体を造粒することにより製造される。このような粉体造粒物は、メルトメモリー効果を有する。粉体造粒物は、好ましくは粉体圧縮造粒法(以下、圧縮造粒法ともいう)により製造することができる。粉体造粒物の製造方法の詳細は後述する。
【0013】
本明細書において、メルトメモリー効果を有する粉体造粒物とは、以下のi)及びii)の特徴を有する粉体造粒物を意味する。
i)粉体造粒物が、窒素雰囲気中で粉体造粒物を室温から10℃/minの速度で第1のホールド温度TH1まで昇温し、第1のホールド温度TH1で2分間保持し、10℃/minの速度で降温させる第1の示差走査熱量測定(DSC)において、降温中にPHAの結晶化発熱ピークが観測される第1のホールド温度TH1(単位:℃)を有する。第1のホールド温度TH1は、最高融解ピーク温度TMよりも高い。ここで、最高融解ピーク温度TM(単位:℃)は、窒素雰囲気中で粉体造粒物を室温から10℃/minの速度で昇温させる示差走査熱量測定において観測される融解ピークのピーク温度のうち最も高い温度と定義される。
ii)粉体造粒物が、窒素雰囲気中で粉体造粒物を室温から10℃/minの速度で第2のホールド温度TH2まで昇温し、第2のホールド温度TH2で2分間保持し、10℃/minの速度で降温させる第2のDSCにおいて、降温中にPHAの結晶化発熱ピークが観測されない第2のホールド温度TH2(単位:℃)を有する。第2のホールド温度TH2は、第1のホールド温度TH1よりも高い。
【0014】
メルトメモリー効果とは、結晶性ポリマーを融点以上に加熱溶融(熱可塑化)した際に、溶融物中に疑似的な結晶相構造秩序が残存している現象を表す。メルトメモリー効果は、融点以上の温度領域にありながら、熱擾乱によりランダムな凝集状態へ変化する緩和時間が長いために、短時間では無秩序なランダムな状態となるに至らない領域が残存する、結晶性ポリマーに発現し得る特有の現象である。以下、メルトメモリー効果によって生じた疑似的な結晶相構造秩序をメルトメモリー構造と称することがある。このような粉体造粒物は特許第7454097号に記載されており、特許第7454097号に記載の方法で製造することができる。
【0015】
粉体造粒物のメルトメモリー効果は、特許第7454097号に記載の方法により評価することができる。すなわち、粉体造粒物をPHAの融点以上の温度まで昇温した後、10℃/minの速度で降温させる示差走査熱量測定(DSC)により得られる降温DSC曲線において観測される結晶化発熱ピークのピーク温度(すなわち、粉体造粒物の結晶化温度)TC(単位:℃)が、同様にして測定されるPHA粉体の結晶化温度よりも高ければ、粉体造粒物は高いメルトメモリー効果を有する。粉体造粒物が高いメルトメモリー効果を有する場合、粉体造粒物の結晶化発熱ピークは、同様にして測定されるPHA粉体の結晶化発熱ピークの半値幅よりも小さい半値幅を有することが多い。上記DSCは、例えば、測定片を窒素雰囲気中で室温から180℃まで10℃/minの速度で昇温し、次いで180℃に2分間保持した直後に、測定片を窒素雰囲気中で10℃/minの速度で降温させながら行い得る。
【0016】
メルトメモリー効果を有する粉体造粒物を加熱溶融したときに溶融物中に残存するPHAのメルトメモリー構造は、降温時に結晶化の核として機能する。メルトメモリー構造はPHAそのものの疑似的な結晶相構造であるから、メルトメモリー構造を核として結晶化する粉体造粒物の結晶化温度TCは、結晶化核剤を添加した溶融ペレットの結晶化温度よりも高い。また、粉体造粒物のメルトメモリー効果は溶融滞留時間に対する持続性に優れる。一方で、溶融物中のメルトメモリー構造が、熱擾乱により失われてランダムな凝集状態に至ってしまうと、降温時に結晶化が容易に進行しなくなる。
【0017】
メルトメモリー効果を有する粉体造粒物を押出成形材料として使用する押出成形体の製造方法は、従来の結晶化核剤入りの溶融ペレットを押出成形材料として使用する押出成形体の製造方法と比べて、以下の点で有利となり得る。
【0018】
i)粉体造粒物は、特許第7454097号に記載されるように造粒直後の造粒物温度がPHAの融点以下となる条件で製造されるため、造粒過程でのPHAの加熱分解及びそれによる分子量の低下が抑制される。そのため、粉体造粒物に含まれるPHAは溶融ペレットに含まれるPHAよりも大きい分子量を有し得る。したがって、粉体造粒物から製造される押出成形体中のPHAも大きい分子量を有することができ、それにより押出成形体が優れた物性を有することができる。
【0019】
ii)粉体造粒物を製造するプロセスは、溶融ペレットを製造するための押出機による溶融混練造粒プロセスに比べて、使用電力量が大幅に小さい。そのため、粉体造粒物から押出成形体を製造することにより、トータルの使用電力量を大幅に節約できる。
【0020】
iii)粉体造粒物のメルトメモリー効果を有利に利用することで、成形加工の条件(押出成形機及び冷却ロールの設定温度、スクリュー回転数等)の範囲を拡張できるため、押出成形体の外観及び結晶化度を制御しやすく、また、押出成形体の形状の自由度(押出成形体の厚み等)を増すこともできる。
【0021】
iv)粉体造粒物を用いることにより、結晶化核剤を含まない押出成形体を製造できる。製造された押出成形体は、結晶化核剤が溶出するおそれがないため、食品用途、医療用途等の用途にも用いることができる。また、結晶化核剤は、冷却ロールに付着したり、目やにを生じさせたり、押出物及び/又は押出成形体の粘着性を増加させて押出物の冷却ロールへの貼りつき及び押出成形体同士の融着を生じさせたりする等の問題を引き起こし、連続的な押出成形を妨げることがある。結晶化核剤を含まない粉体造粒物を用いて押出成形を行うことにより、これらの問題を回避できるため、連続的な押出成形が容易となる。
【0022】
一実施形態において、粉体造粒物は、粉体造粒物の外縁に位置するPHA粉体の少なくとも一部が溶融固化して構成された外壁部を有し、外壁部の内側には、圧縮されたPHA粉体が収まっている。本願において、溶融固化とは溶融後に固化することを意味する。外壁部は粉体造粒物の外縁に位置する。本明細書において、外壁部をシェル部とも称す。外壁部の内側の圧縮されたPHA粉体は、少なくとも一部が溶融固化して溶着されていてもよく、少なくとも一部が溶融固化していなくてもよい。外壁部の内側の圧縮されたPHA粉体は、未溶融状態であってもよい。すなわち、外壁部の内側の圧縮されたPHA粉体の少なくとも一部が、未溶融の圧縮された粉体状形態を含んでもよく、部分的に溶融固化した形態を含んでいてもよい。部分的に溶融固化した形態とは、PHA粉体の構成成分が部分的に溶融固化しているが、外壁部のようにPHA粉体を保持できるほどに強固な溶着構造とはなっていない形態を意図している。なお、本明細書において、外壁部の内側をコア部とも称す。外壁部の内側のコア部には、圧縮されたPHA粉体が収まっている。本明細書において、「圧縮された」とは、造粒前のPHA粉体の嵩密度に比べて、コア部に位置するPHA粉体の密度が高くなっていることを指す。このような粉体造粒物は特許第7387950号に記載されており、特許第7387950号に記載の方法で製造することができる。また、このような粉体造粒物は上述したメルトメモリー効果を有する。
【0023】
外壁部(シェル部)は、PHA粉体の溶融固化物を含む密な構造を有する。一方、その内側のコア部は、圧縮されてはいるものの、溶融固化物を含む外壁部の密な構造(溶着構造)に比べて、疎な構造を有する。PHA粉体の溶融固化物を含む外壁が、コア部に存在する圧縮されたPHA粉体を保持するため、粉体造粒物は、安定した構造、少ない粉落ち、並びに優れた取扱い性及び安全性を有することができ、かつ、押出成形体の製造のための作業環境の良化をもたらし得る。
【0024】
外壁部(シェル部)は、粉体造粒物の外縁に位置する熱可塑性樹脂粉体の少なくとも一部が溶融固化した溶着構造を有する。外壁部は、光沢面外観を有する程に平滑面となっていてもよい。また、平滑面となる程までには溶融していないものの、熱可塑性樹脂粉体の構成成分の一部が溶融して隣接する成分と部分的に溶着することにより、外壁部が構成されていてもよい。外壁部は、圧縮造粒において、例えばダイス孔との接触面で、壁面との摩擦熱又は壁面からの伝熱によってPHA粉体の少なくとも一部が溶融することで形成され得る。外壁部の厚みは、PHA粉体造粒物の製造条件に応じて様々な厚みを取り得る。
【0025】
コア部は、外壁部の内側に位置する部分であって、圧縮された熱可塑性樹脂粉体が収まっている部分である。コア部に位置するPHA粉体は、多孔質状となっていてもよいし、造粒時に熱がコア部までには伝わらずに、非溶着構造となっていてもよい。コア部は、PHA粉体が粉体形状を維持した構造(すなわち非溶着構造又は粉体状構造)、又は一部が溶着しているがPHA粉体の形状が残存する構造を有し得る。
【0026】
本明細書において、説明の簡便化のために「外壁部(シェル部)」や「コア部」との用語を用いているが、上述の通り、外壁部は、造粒時の熱によってPHA粉体が溶融して形成されるものであるため、実際には、外壁部(シェル部)とコア部の境界は明確に存在するものではない。外壁部(シェル部)は、PHA粉体の溶着構造を含み、粉体造粒物の外縁に位置して粉体造粒物の一定の形状を保つのに寄与する部分を指し、コア部は、外壁部(シェル部)の内側に位置する部分を指す。
【0027】
粉体造粒物の形状は、略円柱状又は略角柱状であることが好ましく、粉体造粒物は、粉体造粒物の側面に外壁部を有することが好ましい。本開示において、粉体造粒物は、略円柱状又は略角柱状を有し、略円柱状又は略角柱状を有する粉体造粒物の側面に外壁部が形成されていることが好ましい。
【0028】
このような形状を有する粉体造粒物は、熱可塑性樹脂用の押出成形機へ直接供給できるため、押出成形用材料として使用され得る。
【0029】
粉体造粒物は、任意の適切な形状であり得る。代表的には、粉体造粒物が粉体の圧縮造粒で製造され、円形状のダイス孔を通過させて造粒を行う場合、粉体造粒物の基本的な形状は円柱状のペレット形状である。
【0030】
尚、本明細書において、粉体造粒物の製造に用いる「ダイス」とは、PHA粉体造粒物を圧縮して形状付与するための型に相当する工具を総称するものとする。
【0031】
粉体造粒物が略円柱状である場合、粉体造粒物の直径は、例えば、2mm~7mmであり、好ましくは、3mm~5mmである。粉体造粒物の長さ(高さ)は、例えば、1mm~10mmであり、好ましくは、2mm~7mmである。このような形状であれば、ハンドリングしやすい粉体造粒物となる。粉体造粒物の直径は、例えば、造粒の際のディスクプレート(ダイスプレート)のダイス孔の径により調整でき、長さはディスクプレートとカッター間の距離で調整できる。当該距離は任意の適切な距離とされ得る。ディスクプレートとカッター間の距離は、例えば、1mm~30mmであり、好ましくは2mm~20mmであり、好ましくは3mm~10mmである。
【0032】
粉体造粒物の木屋式硬度計の測定に基づく破壊強度は、好ましくは1.0kg以上であり、好ましくは2.0kg以上であり、好ましくは3.0kg以上であり、好ましくは4.0kg以上であり、好ましくは5.0kg以上であり、好ましくは6.0kg以上であり、好ましくは7.0kg以上であり、好ましくは8.0kg以上であり、好ましくは9.0kg以上であり、好ましくは10.0kg以上である。上限は木屋式硬度計の測定限界(シロ産業社製、商品名「WPF1600-B」では10kgが測定限界)を超えてもよい。このような範囲であれば、ハンドリング性と溶融加工性に優れる粉体造粒物を得ることができる。ここで、破壊強度とは、20粒以上(好ましくは25粒以上)の粉体造粒物を、粉体造粒物の長手方向(押出方向)に対して垂直な方向に圧し潰すことで測定した平均の破壊応力(破壊荷重)を意味する。粉体造粒物では、シェル部が溶融樹脂で構成されるため、粉体造粒物であるにもかかわらず、造粒物として安定な形状を維持することが可能となる。木屋式硬度計の加圧アタッチメントの加圧面の直径は、例えば、5mmである。
【0033】
粉体造粒物の嵩密度は、任意の適切な嵩密度とされ得るが、好ましくは0.3kg/L~2.0kg/Lであり、好ましくは0.5kg/L~1.0kg/Lである。嵩密度を高くすることで、押出成形機への粉体造粒物の供給速度と供給安定性が高まる。
【0034】
粉体造粒物の嵩密度は、粉体造粒物を容積1リットルの升に自然落下させてすり切り一杯にして、正確に1リットルの容積の粉体造粒物をはかり取り、その質量を測定することで算出される(単位:kg/L)。
【0035】
B.PHA粉体
粉体造粒物の原料であるPHA粉体は、粉末状のポリヒドロキシアルカノエート(PHA)樹脂である。PHAは、例えば、微生物が、糖質、油脂類等を餌として体内で生成した化合物であり得る。このようなPHAは、一次的には微生物から粉体状のポリマーとして取り出される。
【0036】
PHAは、原料成分であるヒドロキシアルカン酸を重合成分として含み、ヒドロキシアルカン酸から誘導された繰り返し単位を少なくとも有する。PHAは、人工的に合成したものであってもよいし、微生物により生合成されたものであってもよい。ヒドロキシアルカン酸の例としては、グリコール酸、3-ヒドロキシブチレート、3-ヒドロキシプロピオネート、3-ヒドロキシバレレート、3-ヒドロキシヘキサノエート、3-ヒドロキシヘプタノエート、3-ヒドロキシオクタノエート、3-ヒドロキシナノエート、3-ヒドロキシデカノエート、3-ヒドロキシテトラデカノエート、3-ヒドロキシヘキサデカノエート、3-ヒドロキシオクタデカノエート、4-ヒドロキシブチレート、4-ヒドロキシバレレート、5-ヒドロキシバレレート、又は6-ヒドロキシヘキサノエート等が挙げられる。ヒドロキシアルカン酸の炭素数は2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、又は8以上であってよく、好ましくは3以上である。ヒドロキシアルカン酸の炭素数は15以下、12以下、10以下、8以下、6以下、又は4以下であってよく、好ましくは10以下、特に6以下である。ヒドロキシアルカン酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
PHAとしては、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)及びポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)が好ましく挙げられる。
【0038】
PHA粉体において、PHAの重量平均分子量(Mw)は、20万以上、好ましくは30万以上、好ましくは50万以上、好ましくは70万以上である。メルトメモリー効果は、ポリマー分子鎖が、溶融状態において結晶秩序状態からランダム状態へ移行する過程での時間的遅れによって発現するので、分子量が大きいほど、緩和時間(ランダム鎖への移行時間)が長くなり、その効果の持続性において有利となる。PHAの重量平均分子量が20万以上である場合、熱擾乱によるメルトメモリー効果の低下又は失活を効果的に遅延させることができるため好ましい。一方、PHAの分子量が大きくなり過ぎると、粘度が高くなり過ぎて、固相変形を生じさせるのに不利となり、また、粉体造粒が困難となる傾向にある。そのため、PHAの重量平均分子量は、好ましくは300万以下であり、好ましくは200万以下、好ましくは150万以下、好ましくは100万以下である。
【0039】
上記の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエンションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算の重量平均分子量として求めることができる。例えば、GPC装置として、昭和電工社製「ショーデックスGPC-101」を用い、カラム充填剤としてポリスチレンゲル(昭和電工社製「ショーデックスK-804」)を用い、有機溶媒移動相(例えば、クロロホルム)を用いたGPCにより評価することができる。なお、カラム装置、カラム充填剤及び有機溶媒移動相は、適宜選択し得るが、例えば、クロロホルムを使用することができる。
【0040】
PHA粉体は、その製造プロセスを経て得られた粉体状樹脂、すなわち、製造プロセスを要因とした粉体状であってもよく、又はペレット状、塊状もしくは成形体等の非粉体状のPHA樹脂を粉砕して得られたものであってもよい。PHA粉体は、例えば、成形体、ペレット、押出成形において発生するトリミング端材、又は射出成形において発生するスプル若しくはランナー等を室温下で、あるいは必要に応じてドライアイス又は液体窒素を用いて冷却した後に、粉砕機(例えば、ダルトン社製、商品名「ネアミル」、「シルフィードミル」、「アトマイザー」、又は「インパクトミル」等)を使用して粉砕することにより得ることができる。
【0041】
PHA粉体の粒子径は、本実施形態の効果が得られる限り、その形態に応じて、任意の適切な粒子径とされ得る。造粒前のPHA粉体の粒子の最大径は5mm以下であることが好ましく、また最小径は、0.0001mm以上が好ましい。
【0042】
PHA粉体の平均粒子径は、例えば、0.001mm以上1.0mm以下である。PHA粉体の平均粒子径は、好ましくは1.0mm以下であり、好ましくは0.01mm以上0.8mm以下であり、好ましくは0.1mm以上0.5mm以下である。本明細書において、平均粒子径は、レーザー回折法で測定され得る。PHA粉体の平均粒子径は、体積基準での累積粒度分布における累積50%となるメジアン径(d50)であり得る。メジアン径(d50)は、一次粒子と凝集粒子の混在物であってもよい。PHA粉体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組みあわせて用いてもよい。
【0043】
造粒前のPHA粉体は、任意の嵩密度を有し得るが、PHA粉体の嵩密度は、好ましくは、0.05kg/L~1.0kg/Lであり、より好ましくは0.1kg/L~0.8kg/L、さらに好ましくは0.2kg/L~0.6kg/Lである。PHA粉体の嵩密度がこの範囲にある場合、圧縮造粒が行い易い。
【0044】
PHA粉体の嵩密度は、PHA粉体を容積1リットルの升に自然落下させてすり切り一杯にして、正確に1リットルの容積のPHA粉体をはかり取り、その質量を測定することで算出される(単位:kg/L)。
【0045】
C.PHA粉体造粒物に含まれる他の成分
粉体造粒物は、必要に応じて、任意の適切な添加剤を含み得る。添加剤は、粉体等の固体状であってもよく、液体状であってもよい。添加剤としては、例えば、結着剤、分散剤、結晶化核剤、酸化防止剤、光安定剤、発泡剤、紫外線吸収剤、ブロッキング防止剤、熱安定剤、衝撃改質剤、抗菌剤、相溶化剤、加工助剤、潤滑剤、カップリング剤、加水分解抑制剤、脱酸素剤、又は着色剤(染顔料)等が挙げられる。添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
粉体造粒物中の添加剤の含有量は、例えば10.0質量%以下であり、好ましくは5.0質量%以下であり、好ましくは3.0質量%以下であり、より好ましくは1.0質量%以下である。
【0047】
粉体造粒物は、添加剤として、結着剤(バインダー)を含み得る。ここで、「結着剤」とは、原料のPHA粉体の構成成分以外に、PHA粉体間に存在して、粉体同士を結着させ、造粒物の破壊強度を高める作用効果を発揮させ得る化合物を総称して表すものとするが、必要に応じて、結着効果を奏する様々な化合物、好ましくは、水分散系あるいは水溶性のポリマー化合物、多糖類等を結着剤として適宜選択して使用することができる。
【0048】
一実施形態において、PHA粉体の構成成分の一部を融解及び結着させて粉体造粒物とすることが好ましく、結着剤を配合しないことが好ましい。
【0049】
結着剤の含有量は、PHA粉体造粒物の全質量に対して、通常、10.0質量%以下であり、好ましくは5.0質量%以下であり、好ましくは3.0質量%以下であり、好ましくは1.0質量%以下であり、好ましくは0.5質量%以下であり、好ましくは0.1質量%以下であり、好ましくは0質量%(検出不可)である。
【0050】
一実施形態において、添加剤として、分散剤が好ましく使用される。分散剤としては、界面活性剤が好ましく用いられる。分散剤(界面活性剤)における親水性/疎水性バランスは、分散剤となる化合物のエステル化度、脂肪酸の種類(例えば、水酸基の有無、飽和又は不飽和脂肪酸、アルキル鎖長)、重合度等を調整することにより制御することができる。分散剤の使用は、粉体造粒物の生産性(吐出速度)を向上させる、造粒時の摩擦熱を低下させる、造粒装置の清掃性を高める等の効用をもたらし得る。
【0051】
分散剤としては、例えば、脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸スルホン酸塩、脂肪酸アマイド、アクリルアミド、多価アルコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルが挙げられる。分散剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組みあわせて用いてもよい。
【0052】
一実施形態において、分散剤は、多価アルコール脂肪酸エステル、脂肪酸アマイド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、縮合ヒドロキシ脂肪酸及び縮合ヒドロキシ脂肪酸のアルコールエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0053】
多価アルコール脂肪酸エステルとは、多価アルコールと脂肪酸とから構成されるエステル化合物である。多価アルコール脂肪酸エステルとしては、例えば、ペンタエリスリトール、グリセリン等の多価アルコールと炭素数が8以上(好ましくは炭素数8~24、より好ましくは炭素数10~22)の脂肪酸のエステル類が用いられる。
【0054】
脂肪酸アマイドとは、脂肪酸とアンモニアあるいは1級、2級アミンとが脱水縮合した構造を持つ化合物である。脂肪酸アマイドとしては、例えば、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド等の飽和脂肪酸モノアミド類が挙げられる。
【0055】
ポリグリセリン脂肪酸エステルとは、ポリグリセリンと脂肪酸とから構成されるエステル化合物である。ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、例えば、ジグリセリンパルミチン酸エステル、ジグリセリンステアリン酸エステル、ジグリセリンオレイン酸エステル、デカグリセリンパルミチン酸エステル、デカグリセリンステアリン酸エステル、デカグリセリンオレイン酸エステル等が挙げられる。
【0056】
分散剤の含有量は、粉体造粒物の全質量に対して、通常、0質量%~10.0質量%であり、好ましくは0.01質量%~9.0質量%であり、好ましくは0.1質量%~7.0質量%であり、より好ましくは0.3質量%~5.0質量%である。また、分散剤の含有量は、粉体造粒物の全質量に対して、通常、10.0質量%以下であり、好ましくは5.0質量%以下であり、好ましくは3.0質量%以下であり、好ましくは1.0質量%以下であり、好ましくは0.5質量%以下であり、好ましくは0.1質量%以下であり、好ましくは0質量%(検出不可)である。
【0057】
粉体造粒物には、添加剤として、結晶化核剤を配合することが可能である。粉体造粒物に配合可能な結晶化核剤としては、例えば、リン酸エステル金属塩、安息香酸金属塩、ピメリン酸金属塩、ロジン金属塩、シュウ酸金属塩、脂肪酸金属塩等の有機金属塩化合物類、脂肪族有機エステル、リン酸トリアリル、ポリアルキレングリコールもしくはその誘導体、脂肪族ポリエステル、ベンジリデンソルビトール等の有機化合物類、ペンタエリスリトール、キナクドリン、シアニンブルー、カーボンブラック等の染顔料類、タルク、マイカ、カオリン、クレー、炭酸塩鉱物、金属酸化物、金属硫酸塩等の鉱物類、アイオノマー、又は高融点ポリアミド等の高分子化合物類等が挙げられる。
【0058】
一実施形態において、結晶化核剤として、タルク、マイカ、カオリン、又は炭酸カルシウム等が用いられる。結晶化核剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
結晶化核剤の粉体造粒物中の含有量は、例えば0.1質量%以上10.0質量%以下であり、好ましくは0.1質量%超10.0質量%未満であり、好ましくは0.2質量%以上7.0質量%以下であり、好ましくは0.3質量%以上5.0質量%以下である。
【0060】
一実施形態において、粉体造粒物は、結晶化核剤を実質的に含有しない。粉体造粒物はメルトメモリー効果を奏することができるため、結晶化核剤を使用せずとも、成形加工において、優れた結晶化特性を奏することができる。
【0061】
「結晶化核剤を実質的に含有しない」とは、例えば、粉体造粒物中の結晶化核剤の含有量が0.1質量%以下であることを意味し、好ましくは、粉体造粒物中の結晶化核剤の含有量が0.1質量%未満であることを意味し、好ましくは、粉体造粒物中の結晶化核剤の含有量が0.01質量%以下であることを意味し、好ましくは、粉体造粒物中の結晶化核剤の含有量が0.005質量%以下であることを意味し、好ましくは、粉体造粒物中の結晶化核剤の含有量が0.001質量%以下であることを意味し、好ましくは、粉体造粒物中の結晶化核剤の含有量が0質量%(検出不可)であることを意味する。
【0062】
なお、当業者であれば、粉体造粒物が結晶化核剤を含み得ること又は粉体造粒物を結晶化核剤とともに使用し得ることを理解するはずである。粉体造粒物が結晶化核剤を含む又は粉体造粒物を結晶化核剤とともに使用する場合、メルトメモリー効果による結晶化促進作用に加え、結晶化核剤による結晶化促進作用を得ることができる。
【0063】
D.PHA粉体造粒物の製造方法
粉体造粒物は、各種の粉体造粒機により製造することができるが、例えば、ディスクペレッター方式、スクリュー押出方式、ブリケッティング方式、コンパクション方式、タブレッティング方式等の圧縮造粒機が好ましい造粒機として挙げられる。圧縮造粒機により製造された粉体造粒物は、造粒過程におけるダイス孔の壁面からの強いせん断応力により、配向した結晶を含む外壁部を有すると考えられる。そのため、圧縮造粒法により製造された粉体造粒物(すなわち圧縮造粒物)は、特に高いメルトメモリー効果を有することができる。
【0064】
上記に例示する中で、造粒生産性、並びに得られる粉体造粒物の品質及び形状均一性の観点から、ディスクペレッター方式が好ましく採用される。ディスクペレッター方式では、適度な水分をPHA粉体に含有させる半湿式造粒法が採用され得る。水を使用することなく造粒を行うことが可能な場合もある。水を使用せずに造粒を行う場合、後述する造粒後の乾燥処理が不要となり得る。水を使用せずに造粒を行う場合、乾燥工程で必要となるエネルギー量を削減でき、製造過程で発生する二酸化炭素の排出量を大きく削減できる。
【0065】
前述の通り、PHA粉体造粒物は、特許第7454097号又は特許第7387950号に記載の造粒方法により有利に得られ得る。
【0066】
粉体造粒物が、二種類以上のPHA粉体原料を含む混合物である場合、またはPHA以外の任意の成分を含む場合は、任意の適切な混合機を用いて、均一に混合することが好ましい。混合機としては、例えば、ヘンシェルミキサー、ナウターミキサー、粉体用ニーダー(KDH、KDA、CKD、CPM)(ダルトン社)、スパルタンミキサー(SPM)(ダルトン社)、及びSPグラニュレーター(SPG)(ダルトン社)を挙げることができる。造粒性に優れた好ましい混合物を得るために、適切な攪拌羽根を備える混合攪拌装置を用いること好ましい。例えば、ヘンシェルミキサータイプの混合機を使用する場合、ミキサーの羽根は上羽根と下羽根の組み合わせとし、上羽根はY1羽根(商品名、日本コークス工業(株)製)とし、下羽根はS0羽根(商品名、日本コークス工業(株)製)を使用することが好ましい。また、撹拌槽内にデフレクターを装着し、混合することが好ましい。すなわち、混合物全体にわたって各成分を均一に分散させることが可能な混合装置を用いることにより、最終的に得られる粉体造粒物の生産性と品質安定性を高めることに有利となる。
【0067】
上述した半湿式造粒法で粉体造粒物を製造する場合、水の配合量は、粉体の特性(例えば吸水性)により、任意の適切な量とされ得る。この場合、水の配合量は、結晶性ポリマー粉体100質量部に対して、3質量部~30質量部であり、好ましくは5~25質量部、好ましくは5~20質量部である。半湿式法は造粒性の安定性を向上させるために採用することができる。
【0068】
粉体造粒物の造粒工程において、局所的な発熱はダイス詰まりを生じることに繋がるために、造粒において適度な水分をPHA粉体に含ませて、水の気化熱により造粒時の過度の昇温を抑制することが、連続的に造粒する上で有利となる場合がある。
【0069】
粉体造粒物は造粒後に乾燥処理を行うこともできるが、最終的な粉体造粒物の水分量は、好ましくは10質量%以下であり、好ましくは5.0質量%以下であり、好ましくは3.0質量%以下であり、好ましくは1.0質量%以下であり、好ましくは0.5質量%以下である。最終的な粉体造粒物の水分量は、使用目的に応じて適宜選択され得る。
【0070】
粉体造粒物は、水の添加なしで造粒されたものであることが好ましい。粉体造粒物の水分量が低い場合は、造粒後の乾燥処理が不要となり得る。水を使用せずに造粒できれば、乾燥処理が不要となるので、粉体造粒工程で発生する二酸化炭素の排出量を大きく削減できる。
【0071】
水の添加なしで造粒された粉体造粒物の水分量は、例えば1.0質量%以下であり、好ましくは0.5質量%以下であり、好ましくは0.3質量%以下であり、好ましくは0.2質量%以下である。
【0072】
粉体造粒物をスクリュー押出方式の圧縮造粒機で製造する場合、圧縮造粒機に温調装置を装着しやすいこと、及び低スクリュー回転数で圧縮造粒できることから、造粒中の急激なせん断発熱による局所発熱を軽減することができる。粉体造粒物をブリケッティング方式、コンパクション方式、又はタブレッティング方式の圧縮造粒機で製造する場合は、ディスクペレッター方式と比べて粉体がダイス孔の壁面から受けるせん断応力が小さいため、造粒中の局所発熱を軽減することができる。そのため、スクリュー押出方式、ブリケッティング方式、コンパクション方式、及びタブレッティング方式では、水の添加なしでも局所的な発熱によるダイス詰まりを引き起こすことなく、粉体造粒物を連続的に安定して製造し得る。水の添加なしで造粒を行う場合、造粒後の乾燥処理が不要となるため、製造工程を簡略化できるとともに乾燥処理のためのエネルギー消費を削減することができる。
【0073】
粉体造粒物の水分量は赤外線水分計を用いて測定される。
【0074】
ディスクペレッター方式の造粒機は、基本構造として、2mm~30mmの孔が多数あけられた1個(平板状ダイス)又は2個のディスク(円筒状ダイスを示す)と、ディスクの孔に原料を圧送するためのローラーとを有する。ディスクとローラーの間、又は2個のディスクの間に供給されたPHA粉体(水分を含んでもよい)が、ローラーの回転に伴い、ディスクの孔に圧入され、円柱状の押出物が成形される。押出物がディスクの裏面においてカッター等で切断されることで、ペレット状の粉体造粒物を得ることができる。造粒物の長さは、ディスクの裏面とカッター間の距離、ローラーの回転数等によって調整が可能である。ディスクプレートとカッター間の距離は、任意の適切な距離とされ得る。ディスクプレートとカッター間の距離は、例えば、1mm~30mmであり、より好ましくは2mm~20mmであり、さらに好ましくは3mm~10mmである。
【0075】
ディスクペレッター方式としては、より具体的には、ローラー・ディスクダイ方式、ローラー・リングダイ方式、ダブルダイス方式、フラットダイ方式等が挙げられる。市販のディスクペレッター方式の造粒機としては、例えば、ダルトン社製のディスクペレッターFシリーズを挙げることができる。
【0076】
粉体造粒物は、押出成形材料として用いる直前に、十分に乾燥させてもよい。それにより、押出成形に伴うPHAの分子量低下及び/又は押出成形体の外観不良を効果的に抑制することができる。押出成形材料として用いる直前の粉体造粒物の水分量は、好ましくは0.3質量%以下、0.1質量%以下、0.05質量%以下、0.03質量%以下、又は0.02質量%以下である。乾燥は、通常、70℃~110℃、75℃~100℃、又は80℃~90℃で、所定の水分量となるまで行うことが好ましい。粉体造粒物の水分量は赤外線水分計を用いて測定される。
【0077】
E.押出成形による押出成形体の製造方法
実施形態に係る押出成形体の製造方法は、PHAを含む粉体造粒物を成形材料とし、押出成形機によりPHAを押出成形することを含む。押出成形は、押出成形機に投入した粉体造粒物を溶融して溶融物を得ること、溶融物をダイスから押し出すこと、及び押し出された溶融物を冷却して固化することを含む。押出成形体はシート状又は管状の形状を有し得るが、これらに限定されない。
【0078】
なお、本明細書において、押出成形に用いられる「ダイス」は、PHA溶融物を所望の形状にして吐出する型に相当する工具の総称である。
【0079】
E-1.シート状の押出成形体の製造方法
シート状の押出成形体を製造する場合、例えば
図1に示す押出成形機1を用いて押出成形体を製造することができる。押出成形機1は、押出機10、少なくとも1つの冷却ロール30、少なくとも1つの搬送ロール50、及び巻取りロール70を備える。押出機10は、シリンダー12、シリンダー12内に収容されたスクリュー14、シリンダー12に粉体造粒物92を供給するためのホッパー16、ダイヘッド17、アダプター19、及びT型ダイス18を備える。ホッパー16は押出機10の最上流部に設けられる。ダイヘッド17、アダプター19、及びT型ダイス18は、シリンダー12の下流にこの順に連結される。T型ダイス18は、押出機10の最下流部に設けられる。冷却ロール30はT型ダイス18の重力方向における下方に設けられる。
図1に示される押出成形機1において、少なくとも1つの冷却ロール30は第1ロール32及び第2ロール34からなり、少なくとも1つの搬送ロール50は、第2ロール34の下流に設けられた第3ロール52、及び第3ロール52の下流に設けられた一対のピンチロール54からなる。押出成形機1の各部位の温度は、各部位に設けられた加熱ヒーター(不図示)及び/又は冷却ユニット(不図示)により制御し得る。
【0080】
ホッパー16に投入された粉体造粒物92は、シリンダー12内に供給される。粉体造粒物92は、シリンダー12内で加熱されて溶融する。溶融物は、回転するスクリュー14によって、ダイヘッド17及びアダプター19を介してT型ダイス18へ送られ、T型ダイス18からシート状の溶融物94が連続的に押し出される。
【0081】
押出機10における粉体造粒物92の可塑化溶融温度TP(単位:℃)は、式(1)
TM-10<TP≦TM+20 (1)
(式中、TM(単位:℃)は、窒素雰囲気中で粉体造粒物を室温から10℃/minの速度で昇温させる示差走査熱量測定(DSC)において観測される最高融解ピーク温度を表す。)
を満たす。
【0082】
なお、最高融解ピーク温度TMは、DSCにより複数の融解ピークが観測された場合は、それらの融解ピークのピーク温度のうち最も高い温度を意味し、DSCにより一つの融解ピークが観測された場合は、その融解ピークのピーク温度を意味する。
【0083】
本明細書において、可塑化溶融温度TPは、ダイヘッド17内の溶融物の温度と定義される。ダイヘッド17内の溶融物の温度は、ダイヘッド17に装着された熱電対により測定される。
【0084】
可塑化溶融温度TPが式(1)を満たすことにより、熱擾乱、機械的混合等による粉体造粒物92のメルトメモリー効果の消失を抑制することができ、それによりメルトメモリー効果を有効に利用した押出成形を行うことができる。
【0085】
可塑化溶融温度TPは、好ましくは、
TM-8<TP≦TM+15
を満たし、より好ましくは、
TM-5<TP≦TM+10
を満たし、更に好ましくは、
TM-5<TP≦TM+5
を満たす。
【0086】
PHAの溶融ペレットを成形材料として使用する従来の押出成形では、可塑化溶融温度TPを溶融ペレットの融解ピーク温度未満とすると、押出機に過剰の負荷を与えてしまうのみならず、可塑化が不十分となり、残留した未溶融物が押出成形体に混入したり、流動不足のために押出成形体にヒケ、転写不良、流動むら、厚みの不均一性、ゆず肌等の外観不良が発生したりしやすくなる。
【0087】
これに対し、PHAの粉体造粒物92を成形材料として用いる本実施形態に係る方法では、粉体造粒物92の大きな空隙率により押出機10への負荷が緩和されるため、可塑化溶融温度TPがTM-10<TP<TMを満たす場合であっても、成形機に過剰の負荷を与えることなく粉体造粒物92を十分に可塑化して押出成形を行うことができる。
【0088】
押出機10内部では、可塑化計量のためのスクリュー14の回転に伴って流動場が形成される。流動場におけるメルトメモリー効果が維持される最高温度は、静止場におけるメルトメモリー効果が維持される最高温度よりも低くなり得る。可塑化溶融温度TPが、TP>TM+20を満たす場合、流動場の作用によりメルトメモリー効果が低下又は消失してT型ダイス18から押し出された溶融物94の結晶固化が遅くなり、それにより、冷却ロール30からの離型不良及び押出成形体同士の貼りつき、それらに伴う押出成形体の変形、押出成形体の薄肉化の困難性、有効シート幅の減少、後収縮等の様々な問題が生じて、生産性が低下し得る。なお、有効シート幅とは、シート状の押出成形体のうち設定した範囲内の厚みを有する領域の幅を指す。
【0089】
一実施形態において、スクリュー14は、単軸フライトスクリューである。単軸フライトスクリューは、粉体造粒物及びその溶融物の流れ方向の上流から下流に向かって、供給ゾーン、圧縮ゾーン、及び計量ゾーンを有する。このような単軸フライトスクリューは、熱擾乱及び/又は機械的混合により生じる流動場によるメルトメモリー効果の低下又は消失を抑制し得る。押出成形機のスクリューが単軸フライトスクリューである場合、スクリュー14の回転数SRは、好ましくは100rpm以下、80rpm以下、60rpm以下、50rpm以下、又は30rpm以下である。スクリュー14の回転数SRを小さくすることにより、機械的混合により生じる流動場によるメルトメモリー効果の低下又は消失を抑制し得る。スクリュー14の回転数SRは10rpm以上であってよい。
【0090】
T型ダイス18から押出されたシート状の溶融物94は、冷却ロール30を構成する第1ロール32と第2ロール34の間に引き落とされる。溶融物94は、第1ロール32及び第2ロール34の間に挟み込まれ、次いで、第2ロール34の表面に沿って搬送される。この間に溶融物94が冷却ロール30により冷却されて結晶固化する。それにより、シート状の押出成形体96が形成される。押出成形体96は、搬送ロール50を介して巻取りロール70へ搬送され、巻取りロール70により巻き取られる。押出成形体96の巻取り速度は、第2ロール34の回転数により制御し得る。
【0091】
第1ロール32はエラストマーからなる最外層を有してもよい。第1ロール32の最外層がエラストマーからなる場合、第1ロール32が変形して溶融物94全体を第2ロール34に押し付けることができ、押出成形体96の厚みを効率的に制御できる。第1ロール32及び/又は第2ロール34の表面は、鏡面であってよく、又は所定の形状の凹凸が形成されていてもよい。第1ロール32及び/又は第2ロール34の表面形状は、押出成形体96の表面に転写され得る。
【0092】
冷却ロール30(すなわち第1ロール32及び第2ロール34)及び搬送ロール50の表面温度は適宜設定することができる。第1ロール32の表面温度TR1及び第2ロール34の表面温度TR2は、好ましくは、それぞれ独立して制御される。第1ロール32の表面温度TR1及び第2ロール34の表面温度TR2は一体的に制御されてもよい。第2ロール34の表面温度TR2は、第3ロール52の表面温度TR3と一体的に制御されてもよい。各ロールの表面温度は、各ロールに設けられた温調装置(例えば、水冷装置、油冷装置、ヒーター)により制御することができる。複数のロールが一つの温調装置を共有してもよく、それにより該複数のロールの表面温度が一体的に制御される。各ロールの表面温度は、各ロールの表面に設けられた接触式温度計(例えば、熱電対)により測定される。
【0093】
一実施形態において、第1ロール32の表面温度TR1(単位:℃)、第2ロール34の表面温度TR2(単位:℃)、及び粉体造粒物92の結晶化温度TC(単位:℃)は、式(2)、(3)、及び(4)
TC-80<TR1≦TC (2)
TC-60<TR2≦TC (3)
TR1<TR2 (4)
を満たしてよい。なお、結晶化温度TCは、窒素雰囲気中で粉体造粒物92を10℃/minの速度で180℃まで昇温し、180℃に2分間保持し、10℃/minの速度で降温する示差走査熱量測定(DSC)において、降温中に観測される結晶化発熱ピークのピーク温度と定義される。
【0094】
第1ロール32の表面温度TR1が第2ロール34の表面温度TR2よりも低いことにより、溶融物94が第1ロール32に貼り付くことが防止されて、溶融物94が高い信頼性で第2ロール34の表面に沿って搬送される。第2ロール34の表面温度TR2と第1ロール32の表面温度TR1の差(TR2-TR1)は、5℃~60℃、10℃~50℃、又は20℃~40℃であってよい。
【0095】
第1ロール32の表面温度TR1、第2ロール34の表面温度TR2、及び粉体造粒物92の結晶化温度TCは、好ましくは、
TC-75<TR1≦TC、及び
TC-60<TR2≦TC
より好ましくは、
TC-70<TR1≦TC、及び
TC-55<TR2≦TC
さらに好ましくは、
TC-70<TR1≦TC、及び
TC-50<TR2≦TC
特に好ましくは、
TC-70<TR1≦TC、及び
TC-45<TR2≦TC
を満たす。
【0096】
第2ロール34の表面温度TR2を粉体造粒物92の結晶化温度TC以下にすることで、T型ダイス18から押し出された溶融物94の結晶固化を迅速に進めることができ、品質及び外観に優れた押出成形体96を高い生産性で製造することができる。上述のようにメルトメモリー効果を有する粉体造粒物92の結晶化温度TCは、結晶化核剤を添加した溶融ペレットの結晶化温度よりも高いため、メルトメモリー効果を有する粉体造粒物92を成形材料として押出成形を行う場合、溶融ペレットを用いる従来の押出成形と比べて、第2ロール34の表面温度TR2をより高くし得る。第2ロール34の表面温度TR2が高いことは、製造される押出成形体96の結晶化度の向上に有利である。結晶化度の向上は、高い耐熱性、高い弾性率(剛性)、並びに高い形状及び寸法の安定性を有するとともに外観不良の少ない押出成形体96を製造することにつながる。なお、高い耐熱性とは、熱収縮開始温度が高いことを意味する。高い形状及び寸法の安定性とは、押出成形体96の製造後の収縮がないか又は小さく、波打ちが生じないこと、及び収縮が生じてもその異方性が小さいことを意味する。
【0097】
一実施形態において、粉体造粒物92の最高融解ピーク温度TMは140℃以上であり、粉体造粒物92はメルトメモリー効果に由来して80℃以上の高い結晶化温度TCを有し得る。この場合、第2ロール34の表面温度TR2を50℃~80℃の高い温度としながら、第2ロール34と接触している溶融物94を速やかに結晶固化させることができる。それにより第2ロール34に押出成形体96が貼りつくことなく、品質及び外観に優れた押出成形体96を高い生産性で製造し得る。
【0098】
例えば、後述する実施例で使用される粉体造粒物は、最高融解ピーク温度TMが147℃であり、結晶化温度TCが95℃である。この粉体造粒物を用いて押出成形を行う場合、第2ロール34の表面温度TR2を63℃としながら、第2ロール34と接触している溶融物94を速やかに結晶固化させることができる。それにより第2ロール34に押出成形体96が貼りつくことなく、品質及び外観に優れた押出成形体96を高い生産性で製造し得る。
【0099】
押出成形機1の各ロールの表面温度は、粉体造粒物92の結晶化温度TCに応じて適宜設定してよい。例えば、粉体造粒物92の結晶化温度TCが95℃~100℃である場合は、第1ロール32の表面温度TR1は好ましくは20℃~60℃、より好ましくは30℃~50℃であり、第2ロール34の表面温度TR2は、好ましくは50℃~95℃であり、より好ましくは55℃~90℃であり、さらに好ましくは58℃~85℃であり、最も好ましくは60℃~80℃である。
【0100】
例えば、粉体造粒物92の結晶化温度TCが80℃~95℃である場合は、第1ロール32の表面温度TR1は好ましくは10℃~50℃、より好ましくは20℃~45℃であり、第2ロール34の表面温度TR2は、好ましくは50℃~85℃であり、より好ましくは40℃~80℃であり、さらに好ましくは40℃~80℃であり、最も好ましくは40℃~70℃である。
【0101】
このように、粉体造粒物の結晶化温度TCに応じて、第1ロール32の表面温度TR1及び第2ロール34の表面温度TR2を適宜選択することにより、メルトメモリー効果を有効に利用して、溶融物94を迅速に結晶化させることができる。それにより、冷却ロール30からの離型性の向上及び押出成形体96同士の貼りつきの防止、それらに伴う押出成形体96の変形の防止又は軽減、押出成形体96の薄肉化の容易性の向上、有効シート幅の増大、押出成形後の収縮の軽減等の様々な利点が生じ、効率的な押出成形が可能となる。また、製造される押出成形体96は、高い結晶化度を有することができるため、高い耐熱性、弾性率、及び形状及び寸法の安定性を有することができ、外観不良も少ない。
【0102】
第2ロール34の表面温度TR2が、粉体造粒物92の結晶化温度TCよりも60℃以上低い場合、製造される押出成形体96は十分な結晶化度を有することができず、押出成形後の収縮により押出成形体96の寸法及び形状の安定性が低下するとともに、シートの波打ち、転写不良、厚みの不均一性等の外観不良の増加をもたらし得る。
【0103】
実施形態に係る方法では、結晶化核剤を含まない粉体造粒物92を成形材料として用いることができる。結晶化核剤は、冷却ロールに付着したり、目やにを生じさせたり、押出物及び/又は押出成形体の粘着性を増加させて押出物の冷却ロールへの貼りつき及び押出成形体同士の融着を生じさせたりする等の問題を引き起こし、連続押出成形を妨げることがある。また、結晶化核剤は、製造される押出成形体の耐熱性の低下の要因にもなる。結晶化核剤を含まない粉体造粒物を用いて押出成形を行うことにより、これらの問題を回避できる。
【0104】
一実施形態において、押出成形体96の結晶化温度TCA(単位:℃)及び粉体造粒物92の結晶化温度TC(単位:℃)は、式(5)
0.8≦TCA/TC≦1.2 (5)
を満たす。なお、粉体造粒物92の結晶化温度TCは、窒素雰囲気中で粉体造粒物92を10℃/minの速度で180℃まで昇温し、180℃に2分間保持し、10℃/minの速度で降温するDSCにおいて、降温中に観測される結晶化発熱ピークのピーク温度と定義される。押出成形体96の結晶化温度TCAは、窒素雰囲気中で押出成形体96(詳細には、押出成形体96から切り出した測定片)を10℃/minの速度で180℃まで昇温し、180℃に2分間保持し、10℃/minの速度で降温するDSCにおいて、降温中に観測される結晶化発熱ピークのピーク温度と定義される。
【0105】
上記式(5)は、押出成形体96の結晶化温度TCAが粉体造粒物92の結晶化温度TCとほぼ同等であること、すなわち、押出成形による結晶化温度の変化が小さいことを表しており、押出成形において粉体造粒物92のメルトメモリー効果が有効に発揮されたことを示す。メルトメモリー効果を有効に発揮することは、上述したように、押出成形体96の結晶化度の向上に有利であり、その結果、押出成形体96は、大きな有効シート幅、軽減された押出成形後の収縮、及び高い耐熱性を有することができる。
【0106】
押出成形体96の結晶化温度TCAが粉体造粒物92の結晶化温度TCよりも高くてもよい。その場合、押出成形体96は粉体造粒物92よりも高いメルトメモリー効果を有すると考えられ、押出成形体96をさらに成形加工する場合に有利となり得る。
【0107】
一実施形態において、粉体造粒物92は造粒直後の造粒物温度がPHAの融点以下となる条件で製造され、この場合、PHA粉体のメルトフローレートMFRORI(単位:g/10min)、粉体造粒物92のメルトフローレートMFRGRN(単位:g/10min)、及び押出成形体96のメルトフローレートMFRART(単位:g/10min)は、式(a)、(b)、及び(c)
1≦MFRGRN/MFRORI≦5 (a)
1≦MFRART/MFRGRN≦5 (b)
1≦MFRART/MFRORI≦10 (c)
を満たし得る。PHA粉体のメルトフローレートMFRORI、粉体造粒物92のメルトフローレートMFRGRN、及び押出成形体96のメルトフローレートMFRARTは、ISO1133に準拠して165℃、荷重5kgで測定される。
【0108】
上記式(a)、(b)、及び(c)は、PHA粉体からPHAの押出成形体96を製造する過程におけるPHAの分子量の低下が十分に抑制されたことを表している。PHAの分子量の低下を抑制することで、より優れた機械的物性を有する押出成形体96を製造することが可能となる。
【0109】
E-2.管状の押出成形体の製造方法
管状の押出成形体の例として、ストロー、パイプ等の内部に空洞を有する細長い円筒状の成形品が挙げられる。押出成形体は略円形の断面形状を有する。
【0110】
管状の押出成形体は、シリンダー、シリンダー内に収容されたスクリュー、シリンダーに粉体造粒物を供給するためのホッパー、及び環状ダイスを備える押出機を用いて製造することができる。押出機は、T型ダイスの代わりに環状ダイスを備えること以外は
図1に示される上述の押出機10と同様の構成を有する。この押出機における可塑化溶融温度は、
図1に示される押出機における可塑化溶融温度T
Pと同様に設定される。シリンダー内で粉体造粒物を溶融して、環状ダイスから管状の溶融物を水中へ押し出し、水中で溶融物を冷却して結晶固化させることにより、管状の押出成形体を製造することができる。
【0111】
押出成形体を飲用のストローとして用いる場合、飲料の飲みやすさの観点から、押出成形体は、好ましくは2mm~10mm、より好ましくは4mm~8mm、さらに好ましくは5mm~7mmの外径を有し、好ましくは0.005mm~0.5mm、より好ましくは0.01mm~0.3mm、さらに好ましくは0.02~0.2mm、一層好ましくは0.03mm~0.15mm、特に好ましくは0.04mm~0.10mmの平均厚みを有する。実施形態に係る方法では、粉体造粒物のメルトメモリー効果を有効に利用することで結晶化核剤なしでも迅速に溶融物を結晶固化させることができるため、このような小さい平均厚み(例えば0.1mm以下の平均厚み)を有するとともに十分な厚み精度、剛性、及び耐熱性を有する押出成形体を製造することができる。押出成形体を飲用のストローとして用いる場合、押出成形体の断面は真円に近いほど好ましい。
【0112】
押出成形体を飲用のストローとして用いる場合、押出成形体に、ストッパー部及び/又は蛇腹部等を形成するための二次加工を施してもよい。
【0113】
E-3.その他の形状の押出成形体
実施形態に係る方法により、ボトル又は容器として使用可能な押出成形体を製造することもできる。詳細には、シリンダー、シリンダー内に収容されたスクリュー、シリンダーに粉体造粒物を供給するためのホッパー、及び環状ダイスを備える押出機を用いて、粉体造粒物をシリンダー内で溶融して、環状ダイスから管状の溶融物を押し出し、開いた金型内へ送り出す。金型を閉じて管状の溶融物の一端を閉じ、溶融物に空気を吹き込むことにより溶融物を金型に密着させ、溶融物を冷却して結晶固化させる。それにより、ボトル又は容器として使用可能な押出成形体を製造することができる。
【0114】
実施形態に係る方法により製造される押出成形体の用途は特に限定されない。押出成形体は、医療用資材、食器用資材、農業用資材、漁業用資材、山林用資材、OA用部品、家電部品、自動車用部材、日用雑貨類、文房具類、ボトル成形用プリフォーム等の様々な用途に使用され得る。実施形態に係る方法で用いられる粉体造粒物は、従来の押出成形で用いられる溶融ペレットに比べて、低エネルギーで製造が可能である。また、実施形態に係る方法によって製造される押出成形体は優れた物性及び外観を有するとともに、海水分解性も有する。そのため、実施形態に係る方法は、温暖化ガス発生量の低減及びプラスチックの海洋投棄による環境問題の改善に対して貢献し得る。
【実施例】
【0115】
以下に、本実施形態を実施例により具体的に説明するが、本実施形態はこれら実施例により何ら限定されるものではない。尚、部及び%は特に断りのない限り質量基準に基づく。
【0116】
実施例1
(1)原料粉体の調製
市販の3-ヒドロキシ酪酸と3-ヒドロキシヘキサン酸の共重合ポリエステルであるポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(PHBH)の粉体(PHA粉体)を用意した。PHA粉体のヒドロキシヘキサノエート含有率は6mol%であり、嵩密度は0.33kg/Lであり、最高融解ピーク温度は145℃であり、結晶化温度は85℃であり、メルトフローレートMFRORIは3.0g/10minであった。PHBHの重量平均分子量は50万(ポリスチレン換算)であった。
【0117】
なお、PHA粉体の嵩密度は、後述する粉体造粒物の嵩密度と同様の方法で測定した。
【0118】
PHA粉体の最高融解ピーク温度及び結晶化温度は、重量5mgのPHA粉体を用いて、後述する粉体造粒物の最高融解ピーク温度T
M及び結晶化温度T
Cと同様にして測定した(
図2及び
図3参照)。
【0119】
PHA粉体のメルトフローレートMFRORIは、ISO1133に準拠し、メルトインデクサー(安田精機製作所社製「No.120-FWP」)を用い、シリンダー設定温度165℃、荷重5kg、予備加熱4分で測定した。
【0120】
(2)粉体造粒物の製造
FMミキサー(日本コークス工業(株)製、商品名「5FM5C/I」;処理容積:5L)に、100質量部のPHA粉体を投入し、攪拌羽根を回転数2,000rpmで回転させながら、水道水20質量部を5分間連続的に噴霧注入し、含水粉体を得た。
【0121】
含水粉体をディスクペレッター(ダルトン社製、商品名「ディスクペレッターF-5/11-175」)に投入し、ローラー回転数108rpmの条件で略円柱状の造粒物前駆体を作製した。尚、ディスクペレッターのダイスプレートの厚みは15mmとし、孔径は3mmφとした。含水粉体がダイスプレート内部において、ダイス孔壁面から圧縮応力を受ける長さ(有効長と称す)は10mmとした。造粒速度は43kg/hであった。
【0122】
得られた造粒物前駆体を、熱風式循環型乾燥機(エスペック製、商品名「PH-402」)を用いて100℃で4時間乾燥して粉体造粒物を得た。
【0123】
(3)粉体造粒物の評価
i)嵩密度
乾燥後の粉体造粒物を容積1リットルの升に自然落下させて得た1リットルの粉体造粒物の質量を測定して、粉体造粒物の嵩密度を算出した。粉体造粒物の嵩密度は0.40kg/Lであった。
【0124】
ii)水分量
赤外線水分計(ケット科学研究所製FD-660)を用いて、粉体造粒物に残存する水分量を測定した。粉体造粒物の水分量は0.5質量%であった。
【0125】
iii)破壊応力
木屋式硬度計(シロ産業社製、商品名「WPF1600-B」)を用いて、25個の粉体造粒物の破壊応力(単位:kg)を測定し、測定値の平均を算出した。破壊応力は、粉体造粒物の側面が下になるように硬度計にセットし、5mmφの円柱状の押し具を用いて、粉体造粒物を側面から圧し潰すことで測定した。換言すると、粉体造粒物を長手方向(押出方向)に対して垂直方向に圧し潰すことで、破壊応力の測定を行った。粉体造粒物の平均破壊応力は1.5kgであり、粉体造粒物は優れたハンドリング性を有していた。
【0126】
iv)最高融解ピーク温度T
M及び結晶化温度T
C
粉体造粒物を剃刀刃で長手方向(押出方向)に対して垂直に切断して重量5mgの測定片を得た。エスアイアイ・ナノテクノロジー社製「DSC6220」を用いて、測定片の示差走査熱量測定(DSC)を行った。具体的には、窒素雰囲気中で、測定片を10℃/minの速度で室温から180℃まで昇温し、180℃に2分間保持し、10℃/minの速度で降温させながらDSCを行って、
図2及び
図3に示されるDSC曲線を得た。
図2に示される昇温中のDSC曲線において、融解吸熱ピークが観測され、その最も高いピーク温度(すなわち最高融解ピーク温度)T
Mは、147℃であった。
図3に示される降温中のDSC曲線において、明瞭な結晶化発熱ピークが観測され、そのピーク温度(すなわち結晶化温度)T
Cは95℃であった。粉体造粒物の結晶化温度T
Cは原料のPHA粉体の結晶化温度(85℃)よりも高かった。また、窒素雰囲気中で、測定片を10℃/minの速度で室温から200℃まで昇温し、200℃に2分間保持し、10℃/minの速度で降温させながらDSCを行ったところ、結晶化発熱ピークは観測されなかった。これらのことから、粉体造粒物において高いメルトメモリー効果が発現していることが示された。また、粉体造粒物の結晶化発熱ピークの半値幅は、PHA粉体の結晶化発熱ピークの半値幅よりも小さかった。
【0127】
v)メルトフローレートMFRGRN
粉体造粒物のメルトフローレートMFRGRNを、ISO1133に準拠し、メルトインデクサー(安田精機製作所社製「No.120-FWP」)を用い、シリンダー設定温度165℃、荷重5kg、予備加熱4分で測定した。粉体造粒物のメルトフローレートMFRGRNは3.0g/10minであった。
【0128】
(4)押出成形
乾燥機(エスペック製、商品名「PH-402」)を用いて、粉体造粒物を100℃で8時間乾燥し、粉体造粒物の水分量を0.05質量%以下とした。乾燥後、粉体造粒物を、
図1に示されるような押出成形機により成形した。押出成形機は、第1ロール及び第2ロールからなる一対の冷却ロールと、第2ロールの下流に設けられた第3ロール及び第3ロールの下流に設けられた一対のピンチロールからなる搬送ロールと、巻取りロールとを備えていた。押出機としては、L/D=28のフルフライトスクリューを備える40mmφ単軸押出機(GSI Creos社製、商品名「691C-EF049」)を用いた。第1ロールとしては、最外層がシリコーンゴム製であるロールを用いた。第1ロールの表面温度は水冷により制御した。第2ロール及び第3ロールとしては、表面がクロムめっきされた金属鏡面ロールを用いた。第2ロール及び第3ロールは温水による温調装置を共有しており、第2ロール及び第3ロールの表面温度を一体的に制御した。
【0129】
押出機のシリンダーは粉体造粒物及びその溶融物の流れ方向の上流から下流に向かって5個の領域C1~C5に分けられ、各領域の温度を独立に制御した。なお、領域C1は、粉体造粒物を投入するホッパーの下の領域であった。T型ダイスはT型ダイスから押し出される溶融物の幅方向に3個の領域D1~D3に分けられ、各領域の温度を独立に制御した。なお、領域D2は、領域D1及び領域D3の間に挟まれた、T型ダイスの中央を含む領域であった。シリンダーの領域C1~C5、シリンダーの先端に装着されたダイヘッド(HD)、アダプター(AD)、及びT型ダイスの領域D1~D3の設定温度を下記表1の通りとした。
【0130】
【0131】
ダイヘッドに装着された熱電対により測定されたダイヘッド内の溶融物の温度、すなわち可塑化溶融温度TPは、表5に記載の通りであった。
【0132】
スクリュー回転数SR30rpmで、ダイス幅300mmのT型ダイスからシート状の溶融物を連続的に押出し、T型ダイスの直下に配置された、第1ロール及び第2ロールからなる一対の冷却ロールで溶融物を挟み込んで冷却した。第1ロールの表面の設定温度は20℃であった。接触型熱電対(理化工業株式会社製、ST-41-K-1000-3C/A)で測定した第1ロールの表面温度は30℃であった。第2ロール及び第3ロールの表面の設定温度は70℃とした。上記と同様の接触型熱電対で測定した第2ロール及び第3ロールの表面温度はいずれも63℃であった。溶融物は第2ロールと接触すると速やかに63℃に冷却されて、厚み80μmの単層シート(押出成形体)が得られた。シートは、第3ロール及びピンチロールを介して、巻取りロールに送られ、巻き取られた。シートの巻取り速度は1.3m/minとした。なお、巻取り速度は、第2ロールの回転数により制御し、それによりシートの厚みを制御した。
【0133】
(5)押出成形体の評価
i)第2ロールへの貼りつきにくさ
シートの第2ロールへの貼りつきにくさを以下の基準に従って評価した。結果を表5中に示す。
【0134】
A:シートが第2ロールに貼りつくことはなかった。
B:シートが第2ロールに貼りついた、又は貼りつくことがあった。
【0135】
ii)有効幅
シートにおいて設計厚み(実施例1では80μm)の±10μmの範囲内の厚みを有する領域の幅(以下、「有効幅」という)を測定した。ここで、幅とは、搬送方向(機械方向、MD)に垂直な方向(TD)における長さを意味する。結果を表5中に示す。
【0136】
iii)結晶化温度TCA
剃刀刃を用いて、シートの中央部から重量5mgの測定片を切り出した。上述した粉体造粒物のメルトメモリー効果と同様の方法で、シートの結晶化温度TCAを測定した。結果を表5中に示す。シートの結晶化温度TCAは99℃であり、粉体造粒物の結晶化温度TC(95℃)よりも4℃高かった。
【0137】
iv)メルトフローレートMFRART
シートから測定片を切り出し、その測定片を用いてシートのメルトフローレートMFRARTを測定した。測定は、ISO1133に準拠し、メルトインデクサー(安田精機製作所社製「No.120-FWP」)を用い、シリンダー設定温度165℃、荷重5kg、予備加熱4分で行った。結果を表5中に示す。
【0138】
v)外観
以下の基準に従ってシートの外観を評価した。なお、以下の基準中の外観不良とは、波打ち、ゆず肌等を意味する。結果を表5中に示す。
【0139】
AA:外観不良がほとんどなかった。
A+:外観不良が散見された(外観不良が軽度であった)。
A:外観不良が容易に確認された(外観不良が中程度であった)。
B:外観不良が激しかった(外観不良が重度であった)。
【0140】
vi)加熱収縮
シートから120mm×120mmの正方形の小片を切り出し、小片の表面に二本の線を描いた。二本の線は小片の中心で直交し、それぞれ100mmの長さを有していた。二本の線の一方は、シートの搬送方向(機械方向、MD)に平行であり、二本の線の他方はMDに垂直な方向(TD)に平行であった。PHAの融点付近の温度である150℃、又はPHAの融点を超える温度である170℃に設定したオーブン内に、小片を30分間載置した。その後、小片に描いた線の長さを測定して、MD及びTDのそれぞれにおけるシートの収縮量を求めた。結果を表5中に示す。
【0141】
表5に示されるように、シートは、第2ロールに貼りつくことなく、安定して巻き取ることができた。シートは、外観不良のほとんどない安定した形状及び寸法を有していた。シートは加熱しても収縮しなかった。
【0142】
実施例2
押出成形において、シートの巻取り速度を1.5m/minとしたこと、及びシートの設計厚みを50μmとしたこと以外は、実施例1と同様にしてシートを作製し、実施例1と同様にしてシートを評価した。結果を表5中に示す。シートは、第2ロールに貼りつくことなく、安定して巻き取ることができた。シートは、外観不良のほとんどない安定した形状及び寸法を有していた。シートは加熱しても収縮しなかった。
【0143】
実施例3
押出成形において、シートの巻取り速度を3.0m/minとしたこと、及びシートの設計厚みを30μmとしたこと以外は、実施例1と同様にしてシートを作製し、実施例1と同様にしてシートを評価した。結果を表5中に示す。シートは、第2ロールに貼りつくことなく、安定して巻き取ることができた。シートは、外観不良のほとんどない安定した形状及び寸法を有していた。シートは加熱しても収縮しなかった。
【0144】
実施例4
押出成形において、シリンダーの領域C1~C5、シリンダーの先端に装着されたダイヘッド(HD)、アダプター(AD)、及びT型ダイスの領域D1~D3の設定温度を下記表2の通りとし、可塑化溶融温度TPを160℃としたこと、及びシートの巻取り速度を1.2m/minとしたこと以外は、実施例1と同様にしてシートを作製し、実施例1と同様にしてシートを評価した。結果を表5中に示す。シートは、第2ロールに貼りつくことなく、安定して巻き取ることができた。シートは、軽度の外観不良を有していた。シートは加熱しても収縮しなかった。
【0145】
【0146】
実施例5
押出成形において、第2ロール及び第3ロールの表面の設定温度を40℃としたこと以外は、実施例1と同様にしてシートを作製した。実測した第2ロール及び第3ロールの表面温度はいずれも37℃であった。得られたシートを実施例1と同様にして評価した。結果を表5中に示す。シートは、第2ロールに貼りつくことなく、安定して巻き取ることができた。シートは、中程度の外観不良を有していた。シートは加熱しても収縮しなかった。
【0147】
比較例1
押出成形において、シリンダーの領域C1~C5、シリンダーの先端に装着されたダイヘッド(HD)、アダプター(AD)、及びT型ダイスの領域D1~D3の設定温度を下記表3の通りとし、可塑化溶融温度TPを170℃としたこと以外は、実施例1と同様にしてシートを作製し、シートの、第2ロールへの貼りつきにくさ、結晶化温度TCA、及び外観を、実施例1と同様にして評価した。結果を表5中に示す。シートは、第2ロールに貼りついて、安定して巻き取ることができなかった。
【0148】
【0149】
比較例2
押出成形において、シリンダーの領域C1~C5、シリンダーの先端に装着されたダイヘッド(HD)、アダプター(AD)、及びT型ダイスの領域D1~D3の設定温度を下記表4の通りとし、可塑化溶融温度TPを135℃としたこと以外は、実施例1と同様にしてシートを作製した。Tダイスから押し出された溶融物に未溶融のPHAが含まれており、作製されたシートには皺及び穴があった。
【0150】
【0151】
比較例3
粉体造粒物に代えて、結晶化核剤が添加された市販のPHA溶融ペレット(BluePHA社製、商品名「BP-330-05」)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてシートを作製し、シートの、第2ロールへの貼りつきにくさ、結晶化温度TCA,メルトフローレートMFRART、及び外観を、実施例1と同様にして評価した。溶融ペレットの最高融解ピーク温度TM、結晶化温度TC、及びメルトフローレートMFRPLTは表5に記載の通りであった。評価結果を表5中に示す。シートは、第2ロールに貼りついて、連続的に巻き取ることができなかった。
【0152】
比較例4
押出成形において、第2ロール及び第3ロールの表面の設定温度を40℃としたこと、シートの巻取り速度を2.0m/minとしたこと、及びシートの設計厚みを80μmとしたこと以外は比較例3と同様にしてシートを作製した。実測した第2ロール及び第3ロールの表面温度はいずれも37℃であった。得られたシートを実施例1と同様にして評価した。結果を表5中に示す。シートは、第2ロールに貼りつくことがあったが、辛うじて連続的にシートを製造できた。しかし、シートは、有効幅が小さく、波打っており、形状及び寸法の安定性に劣るものであった。また、シートは170℃でMDにおいて収縮するとともにTDにおいて伸長し、耐熱性に劣っていた。
【0153】
【0154】
本明細書において、記号「~」を用いて表される数値範囲は、特段の記載がない限り、記号「~」の前後に記載される数値のそれぞれを下限及び上限として含む。また、本明細書中に記載した数値範囲の上限値及び/又は下限値は、それぞれ任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。例えば、数値範囲の上限値及び下限値を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができ、数値範囲の上限値同士を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができ、また、数値範囲の下限値同士を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。
【0155】
本願において、用語「及び/又は」は、列挙された項目のうちの少なくとも1つ及び全ての可能な組み合わせを表す。
【0156】
以上、本実施形態を詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲における設計変更があっても、それらは本開示に含まれるものである。
【符号の説明】
【0157】
1 押出成形機、10 押出機、12 シリンダー、14 スクリュー、16 ホッパー、17 ダイヘッド、18 T型ダイス、19 アダプター、30 冷却ロール、32 第1ロール、34 第2ロール、50 搬送ロール、52 第3ロール、54 ピンチロール、70 巻取りロール、92 粉体造粒物、94 溶融物、96 押出成形体
【要約】
【課題】ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)粉体造粒物を用いて、安定的にPHA押出成形体を連続的に製造することができる、押出成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】押出成形体の製造方法は、押出成形機によりポリヒドロキシアルカノエート(PHA)を押出成形することを含む。前記押出成形は、PHA粉体を含む粉体造粒物を可塑化溶融温度T
P(単位:℃)で溶融して溶融物を得ること、前記溶融物をダイスから押し出すこと、及び押し出された前記溶融物を冷却して固化することを含む。前記可塑化溶融温度T
Pは、式(1)
T
M-10<T
P≦T
M+20 (1)
(式中、T
M(単位:℃)は、窒素雰囲気中で前記粉体造粒物を室温から10℃/minの速度で昇温させる示差走査熱量測定において観測される最高融解ピーク温度を表す。)
を満たす。
【選択図】
図1