(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-05
(45)【発行日】2025-06-13
(54)【発明の名称】モノボディベースのキメラ抗原受容体及びそれを含む免疫細胞
(51)【国際特許分類】
C07K 19/00 20060101AFI20250606BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20250606BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20250606BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20250606BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20250606BHJP
C07K 16/40 20060101ALI20250606BHJP
A61K 35/15 20250101ALI20250606BHJP
A61K 35/17 20250101ALI20250606BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20250606BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20250606BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20250606BHJP
C07K 14/725 20060101ALN20250606BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20250606BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20250606BHJP
C12N 15/60 20060101ALN20250606BHJP
【FI】
C07K19/00
C12N15/63 Z ZNA
C12N5/10
C12N15/12
C12N15/62 Z
C07K16/40
A61K35/15
A61K35/17
A61P35/00
A61P35/02
A61P35/04
C07K14/725
C07K16/28
C12N15/13
C12N15/60
(21)【出願番号】P 2023572755
(86)(22)【出願日】2022-05-24
(86)【国際出願番号】 KR2022007379
(87)【国際公開番号】W WO2022250431
(87)【国際公開日】2022-12-01
【審査請求日】2023-11-22
(31)【優先権主張番号】10-2021-0067276
(32)【優先日】2021-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】523442828
【氏名又は名称】ヴァクセル-バイオ
【氏名又は名称原語表記】VAXCELL-BIO
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【氏名又は名称】金子 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100179648
【氏名又は名称】田中 咲江
(74)【代理人】
【識別番号】100222885
【氏名又は名称】早川 康
(74)【代理人】
【識別番号】100140338
【氏名又は名称】竹内 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100227695
【氏名又は名称】有川 智章
(74)【代理人】
【識別番号】100170896
【氏名又は名称】寺薗 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100219313
【氏名又は名称】米口 麻子
(74)【代理人】
【識別番号】100161610
【氏名又は名称】藤野 香子
(72)【発明者】
【氏名】イ ジュンヘン
【審査官】齋藤 光介
(56)【参考文献】
【文献】Han, X. et al.,Adnectin-Based Design of Chimeric Antigen Receptor for T Cell Engineering,Molecular Therapy,2017年,vol.25, no.11,p.2466-2476
【文献】Park, S-H. et al.,Isolation and Characterization of a Monobody with a Fibronectin Domain III Scaffold That Specifically Binds EphA2,PLos ONE,2015年,vol.10, no.7,e0132976
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C07K
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノボディを含む細胞外リガンド結合ドメインを有する、モノボディベースのキメラ抗原受容体
であって、
前記モノボディが、配列番号8のアミノ酸配列を含み、
前記モノボディベースのキメラ抗原受容体は、CD8アルファ鎖のヒンジ及び膜貫通ドメイン、並びにCD3ゼータの細胞内シグナル伝達ドメインを含み、
前記モノボディベースのキメラ抗原受容体は、さらにCD28又は4-1BBの細胞内シグナル伝達ドメインを含む、モノボディベースのキメラ抗原受容体。
【請求項2】
前記CD8アルファ鎖のヒンジ及び膜貫通ドメインは、配列番号9のアミノ酸配列からなる、請求項
1に記載のモノボディベースのキメラ抗原受容体。
【請求項3】
前記CD3
ゼータの細胞内シグナル伝達ドメインは、配列番号12のアミノ酸配列からなる、請求項1に記載のモノボディベースのキメラ抗原受容体。
【請求項4】
前記
CD28の細胞内シグナル伝達ドメインが、
配列番号10のアミノ酸配列からなる、請求項
1に記載のモノボディベースのキメラ抗原受容体。
【請求項5】
前記4-1BBの細胞内シグナル伝達ドメインが、配列番号11のアミノ酸配列からなる、請求項
1に記載のモノボディベースのキメラ抗原受容体。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか一項に記載のモノボディベースのキメラ抗原受容体をコードする核酸配列を含む、ポリヌクレオチド。
【請求項7】
請求項
6に記載のポリヌクレオチドを含む、発現ベクター。
【請求項8】
請求項1~
5のいずれか一項に記載のモノボディベースのキメラ抗原受容体を細胞表面膜上に発現させた、免疫細胞。
【請求項9】
前記免疫細胞が、白血球、好中球、好酸球、好塩基球、単核球、リンパ球、T細胞、細胞傷害性T細胞、ナチュラルキラーT細胞、樹状細胞、またはそれらの組み合わせであることを特徴とする、請求項
8に記載の免疫細胞。
【請求項10】
請求項
8に記載の免疫細胞を含む、癌を予防または治療するための薬学的組成物。
【請求項11】
前記癌が、黒色腫、扁平上皮癌、乳癌、頭頸部癌、甲状腺癌、軟部組織肉腫、骨肉腫、精巣癌、前立腺癌、卵巣癌、膀胱癌、皮膚癌、脳癌、血管肉腫、肥満細胞腫、白血病、リンパ腫、肝臓癌、肺癌、膵臓癌、胃癌、腎臓癌、大腸癌、造血器腫瘍及びそれらの転移癌からなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする、請求項
10に記載の癌を予防または治療するための薬学的組成物。
【請求項12】
前記癌が、膵臓癌、前立腺癌、または卵巣癌であることを特徴とする、請求項
11に記載の癌を予防または治療するための薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モノボディベースのキメラ抗原受容体に関する。前記モノボディベースのキメラ抗原受容体は、モノボディを含む細胞外リガンド結合ドメインを有する。また、本発明は、モノボディベースのキメラ抗原受容体を細胞表面膜上に発現させた免疫細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
固形癌の治療において、外科的切除だけでは、癌幹細胞や残存している癌細胞、または転移性癌細胞を完全に除去することが難しいため、外科的切除術と共に放射線療法(radiation therapy)、化学療法(chemotherapy)、標的治療(targettherapy)及び免疫治療法(immunotherapy)などを組み合わせた複合治療法が用いられている。特に、免疫治療法は、体内の免疫系を利用するため、放射線治療や化学療法で見られる副作用がほとんどない。
【0003】
T細胞は、適応性免疫反応(adaptive immunity)を媒介する免疫細胞であり、全リンパ球の75%を占める。T細胞は、血液中ではほとんどが不活性状態で存在するが、抗原刺激を受けると活性形態に変化し、特定の抗原を有する細胞を除去することができる。T細胞の作用は、抗原を認識することができる受容体(T cell receptor;TCR)、共刺激因子(co-stimulatory molecules)及びサイトカイン(cytokine)などによって活性化される。
【0004】
しかしながら、T細胞のTCRは、腫瘍関連抗原が結合したMHC(major histocompatibility complex)分子に結合するが、癌細胞は、そのようなMHCの発現を抑制したり、T細胞の表面に発現したCTLA-4、PD-1などの免疫チェックポイント(immune checkpoint)の機能を変化させ、T細胞の機能を抑制する。故に、MHC分子を認識するのではなく、腫瘍関連抗原を直接認識することができるキメラ抗原受容体を細胞内に発現させたT細胞(Chimeric Antigen Receptor T cell;CAR-T)、または癌細胞の免疫チェックポイント受容体に対する特異的な抗体配列を細胞内で発現させたT細胞が開発され始めた。
【0005】
現在開発されているキメラ抗原受容体の構造は、抗原を認識するscFv(single chain variable fragment)部分、膜貫通ドメイン(transmembrane domain)、及び細胞内にシグナルを伝達するシグナル伝達ドメイン(signaling domain)に分けられる。ノバルティス、ギリアド、セルジーン、アブクロンなどの製薬会社や臨床医は、血液癌の治療法として、血液癌細胞のCD19抗原に特異的に結合するscFvを用いたCAR-Tを開発した(特許文献10~14)。
【0006】
固形癌に対しても、様々な遺伝子操作技術が融合したCARベースの免疫細胞治療が切望されているが、固形癌の場合、患者ごとに異なる抗原を発現する異形性(heterogeneity)、低酸素環境(hypoxia)などの腫瘍微小環境(tumor microenvironment)の複雑な特性、T細胞の移動及び活性の制約などにより進展がない状態である。
【0007】
エフリン受容体(Ephrin receptor)は、サイズ108kDaの膜受容体型チロシンキナーゼ(Receptor Tyrosine Kinase;RTK)であり、3つの部分に分かれている。細胞膜の外側には、リガンド結合ドメイン(ligand-binding domain)、高システイン領域(cystein-rich region)及び2つのフィブロネクチンIII反復構造があり、中央には膜貫通部分があり、そして細胞質側には、キナーゼ活性ドメインを有する(非特許文献4)。エフリン受容体は、リガンドであるエフリンと結合し、リン酸化過程を介して細胞外部の信号を細胞内に伝達するタンパク質であり、細胞増殖、細胞移動、分化及び神経細胞のシナプス伝達、組織再構築、骨細胞分化と血管新生に関与する(非特許文献5、6)。エフリン受容体の構造とリガンド-受容体の結合特異性(ligand-receptor specificity)によって、9種類のグループA(EphA1-8及びEphA10)と5種類のグループB(EphB1-4及びEphB6)に分けられる(非特許文献7~10)。これらのうち、エフリン受容体A2(Ephrin receptor A2;EphA2)は、正常細胞ではごく少量しか発現しないが、肝臓癌、前立腺癌、膵臓癌、頭頸部癌、胃癌、大腸癌、肺癌、子宮頸癌、卵巣癌など、ほとんどの癌細胞では非特異的に過剰発現され、発癌(carcinogenesis)、転移(metastasis)、血管新生(angiogenesis)、癌の耐性(resistance of tumors)などを促進する。EphA2は、EphA1と約65%のタンパク質相同性を有し、ラットの肺においてほぼ同じ位置で発見される。それは、非細胞肺癌を始めとするいくつかの悪性腫瘍において、EphA1及びリガンドであるEphrin-A1と共に過剰発現され、EphA2/A1-Ephrin-A1との相互作用によって、発癌及び悪性化の進行に関与する(非特許文献11、12)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】韓国公開特許第10-2020-0105840号公報
【文献】韓国公開特許第10-2018-0121904号公報
【文献】韓国公開特許第10-2018-0127344号公報
【文献】韓国公開特許第10-2007-0107721号公報
【文献】韓国特許第10-1528939号公報
【文献】韓国特許第10-1521668号公報
【文献】韓国特許第10-1636882号公報
【文献】韓国公開特許第10-2018-0134347号公報
【文献】韓国特許第10-2157197号公報
【文献】国際公開第2016/16473号
【文献】国際公開第2015/157252号
【文献】国際公開第2018/023025号
【文献】国際公開第2017/211900号
【文献】国際公開第2016/028896号
【非特許文献】
【0009】
【文献】Park SH,Park S,Kim DY,Pyo A,Kimura RH,Sathirachinda A,Choy HE,Min JJ,Gambhir SS,Hong Y.Isolation and Characterization of a Monobody with a Fibronectin Domain III Scaffold That Specifically Binds EphA2.PLoS One.2015 Jul 15;10(7):e0132976.doi:10.1371/journal.pone.0132976.eCollection 2015.PMID:26177208
【文献】Kim MA,Yoon HS,Park SH,Kim DY,Pyo A,Kim HS,Min JJ,Hong Y.Engineering of monobody conjugates for human EphA2-specific optical imaging.PLoS One.2017 Jul 7;12(7):e0180786.doi:10.1371/journal.pone.0180786.eCollection 2017.PMID:28686661
【文献】Pyo A,You SH,Sik Kim H,Young Kim J,Min JJ,Kim DY,Hong Y.Production of(64)Cu-labeled monobody for imaging of human EphA2-expressing tumors.Bioorg Med Chem Lett.2020 Jul 15;30(14):127262.doi:10.1016/j.bmcl.2020.127262.Epub 2020 May 15.PMID:32527560
【文献】Labrador et al.,1997;Pasquale,1997
【文献】Pasquale EB.Cell.133:38-52,2008
【文献】Barquilla A et al.,Annu.Rev.Pharmacol.Toxicol.55:465-487,2015
【文献】Ieguchi K.Endocr Metab Immune Disord Drug Targets.15:119-128,2015
【文献】Eph Nomenclature Committee.Cell.90:403-404,1997
【文献】Lindberg RA et al.,Mol Cell Biol.10(6):6324,1990
【文献】Davis S et al.,Science.266(5186):816-819,1994
【文献】Naj AC et al.,Nat Genet.43:436-441,2011
【文献】Finney AC et al.,Circulation.136:566-582,2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の抗体の単鎖可変領域フラグメント(single chain variable fragment;scFv)を細胞外リガンド結合ドメインとして用いたCAR免疫細胞(例えば、CAR-T細胞)では、以下の問題点があった。
【0011】
1)マウスのモノクローナル抗体から得られた動物由来タンパク質であるため、癌抗原との結合が強く、故にサイトカイン放出症候群(cytokine releasesyndrome;CRS)、移植片対宿主病、及び腫瘍溶解症候群などの重篤な副作用が発生し、免疫系の過剰な活性により急速な免疫系収縮が起こることから、長期的には腫瘍抑制効果が低下する。
【0012】
2)CD19を単一抗原とする血液癌とは異なり、固形癌は、患者ごとに異なる様々な抗原(heterogeneity)を有しており、これらの癌抗原に対する多様なライブラリーを構築するためには、動物由来の抗体情報を用いる必要があるため、高コスト、長時間、及び多大な努力が必要となる。
【0013】
3)抗体、二重抗体、scFvはサイズが大きく、固形癌の治療に用いると、組織への浸透力が低く、十分な治療効果を発揮しにくい。
【0014】
4)バイシストロニック(bicistronic)scFv、すなわち2つの抗原認識部位をT細胞またはNK細胞に発現させた場合、抗原に対するscFvの親和性が低下し、治療効果が低下するか、あるいは非特異的結合による副作用が起こり得る。
【0015】
5)scFvベースのCAR免疫細胞治療剤を投与しても、CARの標的となる癌細胞エピトープで突然変異が生じ、抗原回避の発生率が高い。
【0016】
これらのscFvの問題を解決するために、モノボディが開発された。モノボディは、scFvと類似しており、抗原を認識することができ、scFvに比べてサイズが小さいので組織への浸透力が高いという利点を有するが、癌細胞の治療に用いるには次のような問題点がある。
【0017】
1)抗体及びscFvと比較して、抗原への結合力が比較的に低い。
【0018】
2)モノボディそのものは癌細胞に対する毒性がないため、癌治療剤として用いるためには様々な操作(例えば、抗癌剤を結合させるか、あるいはT細胞またはNK細胞を融合させる方式など)が必要となる。
【0019】
3)モノボディそのものは血清中で安定性が低く、例えば、モノボディを造影剤として用いるためには、比較的に大量を投与しなければならない(例えば、約60μg超)。
【0020】
4)モノボディは体内半減期が短いので(<24h)、頻繁に注入しなければならない。
【0021】
前記課題を解決するために、本発明者らは、癌細胞を選択的に認識して結合することができ、生体内浸透力に優れ、有効性が高く、大量を投与しても無害で、組織内に持続的に留まりながら免疫記憶を誘導することができる、新規なモノボディベースのCAR免疫細胞の完成に至った。
【0022】
本発明は、前述の従来技術の課題を解決するために、モノボディベースのキメラ抗原受容体及びそれを細胞表面膜上に発現させた免疫細胞を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は、モノボディを含む細胞外リガンド結合ドメインを有するモノボディベースのキメラ抗原受容体に関する。
【0024】
前記モノボディは、CRL1、エフリン受容体、EphA2、β-ガラクトシダーゼ、RAS、Ablキナーゼ、VEGFR2、MBP、SARS-CoV-2、Bcr-Ablキナーゼ、STAT3、EGFR、VEGFR2、ヒトLynチロシンキナーゼのSH3ドメイン、MLKL、Fluc同族体(homologues)、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)、ERK2、MAPK14、キナーゼSH2ドメイン、SUMO、AurA、WDR5、Flucファミリー、GFP、SARS-CoV-2の受容体結合ドメイン、FYNのSH3ドメイン、ABLのSH2ドメイン、SUMO1、Bcr-Abl、GPR56 ECR、PD-L1、グリピカン-3、PCSK9、Gp41、CD4、及びIL-23からなる群から選択されるタンパク質に特異的に結合してもよい。
【0025】
前記モノボディは、エフリン受容体、EphA2、またはヒトEphA2に特異的に結合してもよい。
【0026】
前記モノボディは、配列番号8のアミノ酸配列を含んでもよい。
【0027】
前記モノボディベースのキメラ抗原受容体は、膜貫通ドメインと、細胞内シグナル伝達ドメインとをさらに含んでもよい。
【0028】
前記膜貫通ドメインは、T細胞受容体アルファ鎖、T細胞受容体ベータ鎖、T細胞受容体ゼータ鎖、CD8アルファ鎖、CD8ベータ鎖、CD28、CD3イプシロン、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD154、それらの一部、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つであってもよい。
【0029】
前記細胞内シグナル伝達ドメインは、TCRゼータ、FcRガンマ、FcRベータ、FcRイプシロン、CD3ガンマ、CD3デルタ、CD3イプシロン、CD3ゼータ、CD5、CD22、CD79a、CD79b及びCD66dからなる群から選択される少なくとも1つのシグナル伝達ドメインを含んでもよい。
【0030】
前記細胞内シグナル伝達ドメインは、OX40ドメイン、CD2ドメイン、CD27ドメイン、CD28ドメイン、CDSドメイン、ICAM-1ドメイン、LFA-1ドメイン及び4-1BBドメインからなる群から選択される少なくとも1つを含んでもよい。
【0031】
本発明のモノボディベースのキメラ抗原受容体は、ヒンジをさらに含んでもよい。
【0032】
本発明のモノボディベースのキメラ抗原受容体をコードする核酸配列を含むポリヌクレオチドに関してもよい。
【0033】
本発明は、前記ポリヌクレオチドを含む発現ベクターに関してもよい。
【0034】
本発明は、前記モノボディベースのキメラ抗原受容体を細胞表面膜上に発現させる操作された免疫細胞に関してもよい。
【0035】
前記免疫細胞は、白血球、好中球、好酸球、好塩基球、単核球、リンパ球、T細胞、細胞傷害性T細胞、ナチュラルキラーT細胞、樹状細胞、またはそれらの組み合わせであってもよい。
【0036】
本発明は、前記免疫細胞を含む、癌を治療するための薬学的組成物に関してもよい。
【発明の効果】
【0037】
本発明に係るモノボディベースのキメラ抗原受容体、それを細胞表面膜上に発現させた免疫細胞、及びそれを用いて癌を予防または治療する組成物は、以下の効果を示す。
【0038】
1)急速な細胞増殖のみを抑制する従来方式の放射線治療法またはDNAヌクレオチド類似体(シスプラチン系及び5-FU系)などの化学療法治療において、正常細胞の成長まで抑制することにより発生する副作用(例えば、脱毛や消化障害)を下げることができる。
【0039】
2)ヒトFN3ベースの小さいサイズのモノボディを用いるため、動物由来の抗体ベースの抗癌治療法として用いられている標的抗体治療法と、マウスモノクローナル抗体のライブラリーから得られたscFvを用いたキメラT細胞治療法とで発生する自己免疫疾患の副作用や抗癌剤耐性による癌細胞の転移などを最低限に抑えることができる。
【0040】
3)癌に対する殺傷能力がなく、不安定で、寿命が短いので診断のためのみに用いられていたモノボディの限界を超えて、癌抗原(例えば、EphA2)を発現する固形癌を効果的に抑制または除去することができるので、癌の診断と治療が同時に可能である。
【0041】
4)モノボディベースのCAR免疫細胞は、従来のT細胞を単独で投与する固形癌治療と比較して、抗癌効果に優れており、例えば、EphA2を抗原として発現する膵臓癌、前立腺癌、卵巣癌などの固形癌を治療または予防するための免疫抗癌剤として用いることができる。
【0042】
5)FN3モノボディは、標的抗原に対して様々な種類のモノボディを作製できるという利点を有する。それにより、様々な抗原に対して特異的なモノボディベースのCAR免疫細胞を作製することができるので、癌の治療に非常に効果的である。
【0043】
6)モノボディベースのCAR免疫細胞は、他のCAR免疫細胞と比較してサイズが小さく(例えば、モノボディのサイズは、scFvサイズの約1/3)、scFvベースのCARよりも癌組織への浸透が容易であり、multivalent CARをウイルスベクターに作製したい場合、ウイルスパッキング(viral packing)を考慮し、最大4個まで癌抗原を認識するモノボディ配列をベクターに組み込むことができ、固形癌の特性である癌抗原の多様性(heterogeneity)を克服できるメリットになる。また、癌抗原に対して十分な選択性及び特異性を有するため、癌の免疫細胞の回避などを遮断し、癌を効果的に予防または治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1】モノボディベースのキメラ抗原受容体を発現するベクターの構造を示す図である。
【
図2A】モノボディベースのキメラ抗原受容体を発現するベクターの作製方法を示す図である。
【
図2B】モノボディベースのキメラ抗原受容体を発現するベクターの作製方法を示す図である。
【
図3】モノボディベースのキメラ抗原受容体が細胞膜表面上に発現された構造を示す図である。
【
図4】E1モノボディキメラ抗原受容体を発現するベクターが組み込まれた免疫細胞におけるベクターの発現程度をFACSで分析した結果図である。
【
図5】VEC-1及びVEC-2免疫細胞において、T細胞活性因子であるCD25及びCD69の活性度をFACSで分析した結果図である。
【
図6】固形癌細胞(胃癌、大腸癌、膵臓癌、卵巣癌及び前立腺癌)におけるEphA2タンパク質の発現の程度をFACSで分析した結果図である。
【
図7】RTCAを用いて分析したVEC-1及びVEC-2免疫細胞の癌細胞殺害能を示す図である。
【
図8】3D共培養法を用いたE1モノボディCAR-T(VEC-1)免疫細胞の癌細胞殺害能を示した図である。
【
図9】異種移植マウスモデルにおける腫瘍サイズの変化を示す図である。
【
図10】異種移植マウスモデルにおけるマウスの体重変化を示す図である。
【
図11】異種移植マウスモデルにおいて、カプラン・マイヤー法を用いたマウスの生存曲線グラフである。
【
図12】異種移植マウスモデルにおいて、腫瘍移植後44日目のマウスの腫瘍サイズを比較した写真である。
【
図13】膵臓癌の異種移植マウスモデルにおける膵臓癌腫瘍の転移及び増殖の程度を比較したIVIS撮影の結果図である。
【
図14】膵臓癌の異種移植モデルにおいて、生物発光イメージングによって分析した膵臓癌の腫瘍増殖曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明で特に定義しない限り、本発明で使用される全ての技術用語及び科学用語は、遺伝子治療法、生化学、遺伝学、及び分子生物学の分野における当業者であれば、一般に理解するものと同じ意味を有する。
【0046】
特に明記しない限り、本発明を実施する際に、細胞生物学、細胞培養、分子生物学、微生物学、組換えDNA及び免疫学の従来の技術を利用することができ、それは当該分野の技術に属するものである。
【0047】
モノボディベースのキメラ抗原受容体
本発明のモノボディベースのキメラ抗原受容体(CAR)に関する。
【0048】
本発明のモノボディベースのキメラ抗原受容体は、細胞外リガンド結合ドメインを有してもよい。
【0049】
本発明に用いられる「細胞外リガンド結合ドメイン」なる用語は、リガンドに結合することができるオリゴペプチドまたはポリペプチドを意味する。好ましくは、ドメインは、細胞表面分子と相互作用することができる。例えば、細胞外リガンド結合ドメインは、任意の疾患に関連する標的細胞上の細胞表面マーカーとして作用するリガンドを認識するために選択されてもよい。
【0050】
本発明に用いられる「モノボディ(monobody)」なる用語は、標的細胞の表面に存在するリガンドまたは抗原に特異的に結合するものである。モノボディは、所望の標的に応じて様々に選択することができる。例えば、モノボディは、CRL1、エフリン受容体、EphA2、β-ガラクトシダーゼ(β-galatosidase)、RAS、Ablキナーゼ、VEGFR2、MBP、SARS-CoV-2、Bcr-Ablキナーゼ、STAT3、EGFR、VEGFR2、ヒトLynチロシンキナーゼのSH3ドメイン、MLKL、Fluc同族体(homologues)、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)、ERK2、MAPK14、キナーゼSH2ドメイン、SUMO、AurA、WDR5、Flucファミリー、GFP、SARS-CoV-2の受容体結合ドメイン、FYNのSH3ドメイン、ABLのSH2ドメイン、SUMO1、Bcr-Abl、GPR56 ECR、PD-L1、グリピカン-3、PCSK9、Gp41、CD4、及びIL-23からなる群から選択されるタンパク質に特異的に結合してもよいが、それらに限定されるものではない。
【0051】
さらに、モノボディは、公知のものであってもよい。
【0052】
モノボディは、エフリン受容体、EphA2、またはヒトEphA2に特異的に結合してもよい。
【0053】
モノボディは、配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%、または99%の配列同一性を有してもよい。
【0054】
モノボディベースのCARは、ヒンジ、膜貫通ドメイン、及び細胞内シグナル伝達ドメインからなる群から選択される少なくとも1つをさらに含んでもよい。
【0055】
さらに、モノボディベースのCARは、細胞表面膜上に発現される。よって、モノボディベースのCARは、膜貫通ドメインを含んでもよい。適切な膜貫通ドメインの際立った特徴は、細胞、好ましくは、本発明では免疫細胞(特にリンパ球細胞またはNK細胞)の表面上に発現され、所定の標的細胞に対する免疫細胞の細胞応答を誘導するために相互作用する能力を備える。膜貫通ドメインは、天然供給源または合成供給源に由来してもよい。膜貫通ドメインは、任意の膜結合または膜貫通タンパク質に由来してもよい。
【0056】
前記膜貫通ドメインは、T細胞受容体アルファ鎖、T細胞受容体ベータ鎖、T細胞受容体ゼータ鎖、CD8アルファ鎖、CD8ベータ鎖、CD28、CD3イプシロン、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD154、それらの一部、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つであってもよい。
【0057】
ヒンジ及び膜貫通ドメインは、ヒトCD8アルファ鎖またはその一部を含んでもよい。ヒンジ及び膜貫通ドメインは、配列番号9のアミノ酸配列を含んでもよく、好ましくは、配列番号9のアミノ酸配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでもよい。
【0058】
モノボディベースのCARの細胞内シグナル伝達ドメインは、免疫細胞及び免疫応答の活性化を引き起こす標的に細胞外リガンド結合ドメインを結合させた後に、細胞内シグナル伝達の原因となり得る。シグナル伝達ドメインは、モノボディベースのCARを発現する免疫細胞の正常なエフェクター機能の少なくとも1つの活性化の原因となり得る。例えば、T細胞のエフェクター機能は、サイトカインの分泌を含む細胞傷害活性またはヘルパー活性であってもよい。
【0059】
本発明に用いられる「シグナル伝達ドメイン」なる用語は、免疫細胞内のエフェクター機能シグナルを変換し、特別な機能を果たすために、細胞を誘導するタンパク質の一部を指す。
【0060】
細胞内シグナル伝達ドメインは、TCRゼータ、FcRガンマ、FcRベータ、FcRイプシロン、CD3ガンマ、CD3デルタ、CD3イプシロン、CD3ゼータ、CD5、CD22、CD79a、CD79b及びCD66dからなる群から選択される少なくとも1つを含んでもよい。
【0061】
前記細胞内シグナル伝達ドメインは、OX40ドメイン、CD2ドメイン、CD27ドメイン、CD28ドメイン、CDSドメイン、ICAM-1ドメイン、LFA-1ドメイン及び4-1BBドメインからなる群から選択される少なくとも1つを含んでもよい。
【0062】
細胞内シグナル伝達ドメインは、CD28ドメイン、4-1BBドメイン、及びCD3ゼータドメインからなる群から少なくとも1つを含んでもよく、好ましくは、CD28ドメイン及びCD3ゼータドメイン、または4-1BBドメイン及びCD3ゼータドメインを含んでもよい。
【0063】
CD28ドメインは、配列番号10のアミノ酸配列、または少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%、または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでもよい。
【0064】
4-1BBドメインは、配列番号11のアミノ酸配列、または少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%、または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでもよい。
【0065】
CD3ゼータドメインは、配列番号12のアミノ酸配列、または少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%、または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでもよい。
【0066】
ポリヌクレオチド及びベクター
本発明は、モノボディベースのCARをコードする核酸配列を含むポリヌクレオチド、またはそのような核酸配列またはポリヌクレオチドを含むベクターに関する。ここで、ベクターは、発現ベクターを意味してもよい。
【0067】
ポリヌクレオチドは、配列番号2の核酸配列を含んでもよい。ポリヌクレオチドは、配列番号2の核酸配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%、または99%の配列同一性を有する核酸配列を含んでもよい。
【0068】
ポリヌクレオチドは、配列番号1~6のうち少なくとも1つの核酸配列を含んでもよく、あるいは配列番号1~6の核酸配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%または99%の配列同一性を有する各核酸配列を少なくとも1つ含んでもよい。
【0069】
モノボディベースのCARをコードする核酸配列は、ヒト細胞における発現のために、コドン最適化されてもよい。
【0070】
本発明に用いられる「ベクター」は、少なくとも1つの目的の遺伝子または配列を宿主細胞内に送達することができる、好ましくはそれを発現することができる構築物を意味してもよい。例えば、ウイルスベクター、裸のDNAまたはRNA発現ベクター、プラスミド、コスミドまたはファージベクター、カチオン性縮合剤と結合したDNAまたはRNA発現ベクター、リポソームにカプセル化されたDNAまたはRNA発現ベクター、及び特定の真核細胞、例えば、プロデューサー細胞を含むが、それらに限定されるものではない。
【0071】
ウイルスベクターは、レトロウイルス、アデノウイルス パルボウイルス(例えば、アデノ関連ウイルス)、コロナウイルス、ネガティブ鎖RNAウイルス、例えば、オルソミクソウイルス(例えば、インフルエンザウイルス)、ラブドウイルス(例えば、狂犬病及び水疱性口内炎ウイルス)、パラミクソウイルス(例えば、はしか及びセンダイ)、ポジティブ鎖RNAウイルス、例えば、ピコルナウイルス及びアルファウイルス、並びにアデノウイルス、ヘルペスウイルス(例えば、単純ヘルペスウイルス1型及び2型、エプスタイン・バーウイルス、サイトメガロウイルス)、及びポックスウイルス(例えば、ワクシニア、鶏痘、及びカナリア痘)を含む二本鎖DNAウイルスを含んでもよい。ベクターとして使用され得る他のウイルスは、例えば、ノーウォークウイルス、トガウイルス、フラビウイルス、レオウイルス、パポバウイルス、ヘパドナウイルス、及び肝炎ウイルスであってもよい。レトロウイルスの例としては、トリ白血病肉腫(avian leukosis-sarcoma)、哺乳動物C型、B型ウイルス D型ウイルス、HTLV-BLV群、レンチウイルス、スプーマウイルスが含まれる。
【0072】
免疫細胞を操作する方法
本発明は、免疫細胞にモノボディベースのCARを導入し、前記細胞を拡大することを含む、免疫療法のための免疫細胞を作製する方法に関する。
【0073】
本発明は、免疫細胞を提供するステップと、前記免疫細胞へポリヌクレオチドを導入するステップとを含む、免疫細胞を操作する方法に関する。
【0074】
本発明は、免疫細胞を提供し、前記細胞の表面上にモノボディベースのCARを発現させることを含む、免疫細胞を操作する方法に関する。
【0075】
本発明は、モノボディベースのCARをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドで免疫細胞を修飾し、前記ポリヌクレオチドを前記細胞に発現させることを含んでもよい。本発明の免疫細胞を作製または操作する方法は、インビトロまたは生体外の方法であってもよい。前記ポリヌクレオチドは、細胞における安定した発現のために、レンチウイルスベクターに含まれてもよい。
【0076】
操作された免疫細胞
本発明は、前記免疫細胞の作製方法または操作方法により得られる単離された細胞または細胞株に関する。ここで単離された細胞は、モノボディベースのCARを含んでもよい。
【0077】
本発明の単離された細胞は、異なる細胞外リガンド結合ドメインを有するCARの集団を含んでもよい。特に、前記単離された細胞は、CARをコードする外因性ポリヌクレオチド配列を含んでもよい。
【0078】
本発明の免疫細胞は、先天性及び/または後天性免疫応答の開始及び/または実行において、機能的に含まれる造血起源の細胞を意味してもよい。本発明の免疫細胞は、幹細胞に由来してもよい。幹細胞は、成人幹細胞、非ヒト胚性幹細胞、非ヒト幹細胞、臍帯血幹細胞、前駆細胞、骨髄幹細胞、誘導多能性幹細胞、多能性幹細胞、または造血幹細胞であってもよい。
【0079】
本発明の免疫細胞は、ヒトCD3+T細胞であってもよい。一実施形態において、単離された細胞は、樹状細胞、キラー樹状細胞、肥満細胞、NK細胞、B細胞または炎症性Tリンパ球、細胞傷害性Tリンパ球、調節性Tリンパ球またはヘルパーTリンパ球からなる群から選択されるT細胞であってもよい。一実施形態において、前記細胞は、CD4+Tリンパ球及びCD8+Tリンパ球からなる群に由来してもよい。
【0080】
細胞は、様々な非限定的な方法によって被験体から得られる。細胞は、末梢血単核細胞、骨髄、リンパ節組織、臍帯血、胸腺組織、感染症部位からの組織、腹水、胸膜滲出液、脾臓組織、及び腫瘍を含む複数の非限定的な供給源から得ることができる。
【0081】
利用可能で当業者に知られている任意のT細胞株を用いてもよい。前記細胞は、健康なドナーに由来してもよく、癌診断を受けた患者に由来してもよく、あるいは感染症の診断を受けた患者に由来してもよい。前記細胞は、異なる表現型特徴を示す細胞の混合集団の一部であってもよい。前記の方法に従って操作されたT細胞から得られた細胞株を用いることができ、本発明に係る免疫細胞は、免疫抑制処理に対して耐性を有してもよい。
【0082】
前記免疫細胞は、白血球、好中球、好酸球、好塩基球、単核球、リンパ球、T細胞、細胞傷害性T細胞、ナチュラルキラーT細胞、樹状細胞、またはそれらの組み合わせであってもよいが、それらに限定されるものではない。
【0083】
モノボディベースのCAR免疫細胞を用いた治療
モノボディベースのCAR免疫細胞、操作された免疫細胞、またはそれらの細胞の集団は、癌を予防または治療するための薬学的組成物として用いてもよい。
【0084】
本発明は、モノボディベースのCAR免疫細胞または操作された免疫細胞を含む、癌を予防または治療するための薬学的組成物に関する。
【0085】
本発明は、モノボディベースのCAR免疫細胞をそれを必要とする対象に投与するステップを含む、それを必要とする対象における癌を予防または治療する方法に関する。
【0086】
本発明は、癌を予防または治療するための薬剤を製造するためのモノボディベースのCAR免疫細胞の用途に関する。
【0087】
本発明は、癌を予防または治療するために用いるためのモノボディベースのCAR免疫細胞であってもよい。
【0088】
本発明に用いられる「対象体」なる用語は、哺乳動物、より好ましくはヒトである。哺乳動物には、家畜、ペット、霊長類、ウマ、イヌ、ネコ、マウス、及びラットなどが含まれるが、それらに限定されるものではない。
【0089】
本発明において、前記治療は、自己免疫療法の一部または同種異系免疫療法療法の一部であってもよい。自己(autologous)とは、対象体を治療するために使用される細胞、細胞株または細胞の集団が、前記対象体からまたはヒト白血球抗原(HLA)と適合性のあるドナーから得られたことを意味してもよい。同種異系(allogeneic)とは、対象体を治療するために使用される細胞または細胞の集団が対象から得られたのではなく、ドナーから得られたものを意味してもよい。
【0090】
癌は、黒色腫、扁平上皮癌、乳癌、頭頸部癌、甲状腺癌、軟部組織肉腫、骨肉腫、精巣癌、前立腺癌、卵巣癌、膀胱癌、皮膚癌、脳癌、血管肉腫、肥満細胞腫、白血病、リンパ腫、肝臓癌、肺癌、膵臓癌、胃癌、腎臓癌、大腸癌、造血器腫瘍またはそれらの転移癌であってもよく、それらに限定されるものではない。さらに、癌は、非固形腫瘍または固形癌であってもよい。
【0091】
非固形腫瘍または非固形癌は、骨髄腫、リンパ腫、または白血病であってもよいが、それらに限定されるものではない。
【0092】
固形癌は、膵臓癌、前立腺癌、卵巣癌、乳癌、子宮頸癌、皮膚癌、結腸直腸癌、腎臓癌、肝臓癌、脳癌、及び肺癌からなる群から選択される少なくとも1つであってもよいが、それらに限定されるものではない。
【0093】
以下の実施例は、例示のみを目的として提供されており、本発明の範囲をいかなる形でも限定するものではない。実際、本発明に提示され記載されたものに加えて、本発明の様々な変形は、前記の記載から関連技術分野の当業者には明らかであり、それは添付の特許請求の範囲内に含まれる。
【0094】
従来の抗癌免疫治療は、マウスに基づく抗体分子、具体的には抗体断片(scFv)によりヒト癌抗原を認識して結合した後、様々なサイトカイン分泌または周辺免疫細胞の攻撃によって癌細胞が除去される血液癌治療法として知られているが、動物由来の抗体による副作用、scFvのサイズによる組織への浸透力の低さ、及び固形癌の場合、患者ごとに異なる抗原を発現する特性(Heterogeneity)によって少なくとも2つ以上の抗原を同時に認知する必要があるという問題点がある。
【0095】
本発明では、そのようなscFvの欠点を補うために、ヒトフィブロネクチンFN3をベースとするモノボディをキメラ抗原受容体の細胞外リガンド結合部位として用いると、優れた固形癌の予防及び治療効果を有することを確認した。
【実施例1】
【0096】
モノボディベースのキメラ抗原受容体を発現するベクターの調製
1.組換えレンチウイルスベクターの調製のための準備
モノボディベースのキメラ抗原受容体を発現する組換えプラスミドベクターの調製のために、以下の菌株及びベクターを準備した。
【0097】
(1)複製対象となるベクター
ヒトEphA2に特異的に結合するモノボディ(以下、E1モノボディ)を発現する核酸配列(配列番号2)を含むpETh-E1GSE1ベクターを、全南大学産学協力団所属のホン・ヨンジン教授研究チームから分譲を受け、キメラ抗原受容体を発現するベクターを準備した。具体的には、発現ベクターは、インビトロジェン社のpLenti7.3/V5-DESTTM Gateway(登録商標) Vectorを用い、前記pLenti7.3/V5-DESTベクターの5’UTRと3’UTRの間に、CD8αリーダー配列-MSLNscFv-CD8 H&TM-CD28-CD3ζまたはCD8αリーダー配列-MSLN scFv-CD8 H&TM-4-1BB-CD3ζからなるキメラ抗原受容体を発現する核酸配列を含むようにした。そのように2つのレンチウイルスベクターを準備した(pLenti7.3::CD8αリーダー配列-MSLNscFv-CD8 H&T-CD28-CD3ζベクター及びpLenti7.3::CD8αリーダー配列-MSLNscFv-CD8 H&T-4-1BB-CD3ζベクター)。
【0098】
組換えプラスミドベクター中のモノボディベースのキメラ抗原受容体を構成する核酸配列を以下の表1に示す。
【0099】
【0100】
表1の核酸配列は、免疫細胞内で発現され、以下の表2のアミノ酸配列からなるモノボディベースのキメラ抗原受容体を細胞表面膜上に発現させることができる。
【0101】
【0102】
(2)ベクター複製のための細胞の準備
pETh-E1GSE1ベクターのための宿主細胞:E.coli DH5α(F-endA1 glnV44 thi-1 recA1 relA1 gyrA96 deoR nupG purB20 φ80d lacZΔM15 Δ(lacZYA-argF)U169,hsdR17(rK-mK+),λ-)
pレンチウイルスベクターのための宿主細胞:E.coli Stbl3(F-mcrB mrrhsdS20(rB-,mB-)recA13 supE44 ara-14 galK2 lacY1 proA2 rpsL20(StrR)xyl-5 λleumtl-1),Invitrogen(登録商標)
【0103】
前記宿主細胞をLB(Luria-Bertani)固体培地(Difco Laboratories社,USA)を用いて37℃、200rpmの条件下で培養し、全ての培地に100μg/mLのカナマイシンまたはアンピシリンを加えて、宿主細胞を準備した。その後、培養した各宿主細胞の単一コロニーをLB液体培地(Difco Laboratories社,USA)に接種して前培養し、それをSOB(Super Optimal Broth)培地に1%接種して、18℃で24時間培養してから、Inoue TBバッファーで洗浄して準備した。
【0104】
(3)ベクター大量生産のための形質転換細胞の調製
前記準備した各ベクターと宿主細胞を混合し、その後、氷に10分間静置し、42℃で90秒間、氷で3分間処理して、各ベクターが組み込まれた形質転換細胞を作製した。前記作製した形質転換細胞を抗生物質を含むLB固体培地に塗抹した後、37℃で培養した。それにより、各ベクターを大量に準備した。
【0105】
2.E1モノボディ-キメラ抗原受容体を発現する組換えレンチウイルスベクターの調製
前記で準備した2つのレンチウイルスベクター(pLenti7.3::CD8αリーダー配列-MSLNscFv-CD8 H&T-CD28-CD3ζベクター及びpLenti7.3::CD8αリーダー配列-MSLNscFv-CD8 H&T-4-1BB-CD3ζベクター)から、scFv配列を除いたレンチウイルスベクターを調製した。まず、2種類のベクターを鋳型として、下記表3のCPL-Fプライマー、CPL-Rプライマー、及びCloneAmp HiFi PCRプレミックス(Takara社)を用いてインバースPCRを行った。そのように増幅されたベクターを分離精製し、2種類のMSLNscFv-freeキメラ抗原受容体ベクターを準備した。
【0106】
E1モノボディ配列は、pETh-E1GSE1ベクターを下記表3のE1-Fプライマー及びE1-Rプライマーを用いてPCRを行って増幅し、その後、分離及び精製して準備した。
【0107】
【0108】
準備したベクター及びE1モノボディ配列を、Overlap cloner DNA cloning kit(Elpisbio社)を用いた相同組換え(homologous recombination)法によりscFv配列が存在した部位にE1モノボディ配列を挿入し、E1モノボディを含むキメラ抗原受容体を発現する組換えレンチウイルスベクター(pLenti7.3-EphA2モノボディキメラ抗原受容体ベクター)を調製した。調製された組換えレンチウイルスベクターを、それぞれEphA2 mCAR-1及びEphA2 mCAR-2と命名した。その構造を
図1に示す。前記ベクターの調製方法の模式図を
図2A及び2Bに示す。
【実施例2】
【0109】
E1モノボディ-キメラ抗原受容体を細胞膜表面上に発現させた免疫細胞の調製(VEC-1及びVEC-2)及び評価
1.組換えレンチウイルスベクターを含むレンチウイルスの作製
実施例1で調製したEphA2 mCAR-1及びEphA2 mCAR-2を含むレンチウイルスを準備した。
【0110】
2.免疫細胞の準備及びウイルス感染による形質導入
(1)PBMCからCD3+T細胞の分離
ヒトドナー血液から末梢血単核細胞(PBMC)をリンフォプレップ(LymphoprepTM,STEMCELL)に分離した。その後、CD3マイクロビーズ(Miltenyi Biotech社)を用いて陽性選択(Positiveselection)法により、分離したPBMCからヒトCD3+T細胞を分離した。
【0111】
(2)CD3+T細胞の活性化
抗CD3/抗CD28磁気ビーズ(anti-CD3/CD28 Dynabead;Gibco社)と、分離したヒトCD3+T細胞とを1:1で混合した。混合24時間後、活性化磁気ビーズをMACSiMAGセパレータ機構を用いて除去した。その後、RPMI-1640を用いて細胞を洗浄した。
【0112】
(3)レンチウイルスへの形質導入
ポリブレン(polybrene,Sigma Aldrich社)を用いたウイルス感染法により、レンチウイルスに感染したT細胞を調製した。具体的に活性化されたヒトCD3+T細胞に、EphA2 mCAR-1及びEphA2 mCAR-2をそれぞれ含むレンチウイルスを感染させ、24時間後にウイルス培地を交換した。感染の48時間後から細胞の増殖が始まる。そのようにして調製された操作された免疫細胞をそれぞれVEC-1及びVEC-2と名付けた(それぞれEphA2 mCAR-1及びEphA2 mCAR-2を含む)。モノボディベースのキメラ抗原受容体が細胞膜表面上に発現された構造を
図3に示す。
【0113】
3.操作された免疫細胞の評価
前記で調製したVEC-1及びVEC-2免疫細胞から導入したEphA2 mCAR-1及びEphA2 mCAR-2ベクターが正しく発現されるか否か、及びそのような免疫細胞の活性状態をFACS(Fluorescence-activated cellsorting)を利用して確認した。
【0114】
実験にはAttune NxTフローサイトメトリー(Thermo Fisher Scientific社)を用いた。各免疫細胞について、抗GFP(Green Fluorescent Protein;緑色蛍光タンパク質)抗体を用いて、導入されたベクターの発現の有無を確認した。当該ベクターにはGFP発現部位が一緒に存在するため、そのようなベクターを大量に発現している免疫細胞では、抗GFP抗体による分析結果が高く測定されるはずである。また、抗CD25-PE抗体(PE Mouse Anti-Human CD25,BD PharmingenTM)と抗CD69-APC抗体(APC Mouse Anti-Human CD69,BD Pharmingen(登録商標))でT細胞への活性化の有無を確認した。
【0115】
導入されたベクター(すなわち、E1モノボディ-キメラ抗原受容体配列)の発現率をFACSで比較分析したところ、ベクターを導入していない対照群に対して、VEC-1免疫細胞は、約40%の発現率を示し、VEC-2免疫細胞は、約30%の発現率を示した(
図4を参照)。それらの結果から、免疫細胞に導入されたベクターが良好に発現されること、並びに操作された免疫細胞VEC-1及びVEC-2内でE1モノボディ-キメラ抗原受容体が適切に発現されることが確認された。
【0116】
また、操作された免疫細胞VEC-1及びVEC-2では、細胞増殖活性マーカーであるCD25が対照群と同様に発現されること、及び細胞傷害性T細胞の活性マーカーであるCD69が対照群に比べてより大量に発現されることが確認された(
図5を参照)。よって、VEC-1とVEC-2は、いずれも活性状態であることが確認された。
【実施例3】
【0117】
インビトロで癌細胞殺害能の評価
E1モノボディ-キメラ抗原受容体を発現する操作された免疫細胞VEC-1及びVEC-2のEphA2特異的癌抗原に対する抗癌能力を評価するために、EphA2を発現する癌細胞(卵巣癌細胞株OVCAR-3;膵臓癌細胞株CAPAN-2及びAsPC-1;前立腺癌細胞株PC-3、MSI-H 胃癌細胞株SNU638及びMSI-H 大腸癌細胞株DLD1、Lovo、HCT8、HCT15、
図6を参照)と、E1モノボディCAR-T細胞(すなわち、VEC-1及びVEC-2細胞)とを共培養し、操作された免疫細胞の癌細胞殺害能を測定した(
図7、
図8を参照)。
【0118】
(1)韓国細胞株銀行(Korean Cell Line Bank)から卵巣癌細胞株OVCAR-3;膵臓癌細胞株Capan-2及びAsPC-1;及び前立腺癌細胞株PC-3;胃癌細胞株SNU638、大腸癌細胞株DLD1、LoVo、HCT-8、HCT-15を購入して用いた。
【0119】
それらの細胞株において、EphA2が発現されるかどうかを確認するために、抗EphA2抗体を用いてEphA2抗原の発現の有無及び発現程度をFACSにより分析した。その結果、それらの癌細胞株は、全てEphA2を高レベルで発現することが確認され(
図6を参照)、それを用いてEphA2を標的とするE1モノボディCAR-T細胞の癌細胞殺害能を確認することができるはずである。
【0120】
(2)前記でEphA2抗原の発現が確認された癌細胞株を、各ウェルに1×104個ずつ96ウェルプレートに播種し、BSCに30分間置いた後、癌細胞を37℃、5%CO2条件下、細胞培養器で24時間培養した。その後、各ウェル当たり4×104個のE1モノボディCAR-T細胞(すなわち、VEC-1及びVEC-2細胞)を処理し、72~90時間共培養しながら、RTCAで細胞の生存有無及び細胞運動活性を以下のように分析した。
【0121】
(3)RTCA(xCELLigence,ACEA Biosciences,Inc.)による運動学分析
マイクロタイタープレート(E-Plate)ウェル(well)の底面に付着した金微小電極(gold microelectrodes)をバイオセンサーとして用いた。導電性溶液(例えば、緩衝液または標準的な組織培養培地)に浸漬し、そのような電極(バイオセンサの両端)に電位を印加すると、電子がカソード端子を出る。この電子はバルク溶液を通過し、アノード端子に堆積され、回路を完成する。電極-溶液の界面に付着細胞が存在すると電子の流れが妨げられるが、それはバルク溶液とバイオセンサーの間の相互作用に応じて信号が変化するからである。よって、細胞が成長している間に発生するインピーダンスという抵抗値を測定することで、様々な細胞反応(細胞数、増殖速度、細胞サイズ、細胞の形状、基質付着状態の変化)を運動学(kinetic)で自動測定できるようになる。細胞によって検知された抵抗値は、Cell Index(CI)という指標で表され、CI値の変化は細胞の形状変化を示す。
【0122】
(4)形質導入されたE1モノボディCAR-T細胞(VEC-1またはVEC-2)と、形質導入されていないヒトT細胞(対照群)との癌細胞に対する殺害能を比較して分析したところ、対照群に対して、VEC-1とVEC-2の殺害能が著しく増加する(20~100%)ことをRTCAによる分析によって確認した(
図7を参照)。それらの結果から、本発明による操作された免疫細胞が、優れた癌細胞殺害能を有することが分かる。
【0123】
(5)3D共培養法を用いたE1モノボディCAR-T(VEC-1)免疫細胞の癌細胞殺害能を対照群と比較して評価した。
【0124】
1×10
3細胞数で前立腺癌細胞(PC-3)を96ウェルプレート(96 well plate)に播種し、その後、3日間培養後に形成された球状(sphere)に2×10
3細胞数のVEC-1を培地に入れて共培養してから、Sartorius社のIncuCyte(登録商標) S3 Live-Cell Analysis Systemを用いて、cytotoxic-T細胞対照群(Control-T)とVEC-1の癌細胞殺傷能力を比較して分析したところ、対照群よりも先だって、VEC-1が共培養58分後から前立腺癌細胞株(PC-3)球状構造物に侵入して球状構造を破壊し、細胞株に対する殺害が行われることが観察された。共培養14時間58分には、VEC-1が前立腺癌細胞(PC-3)の球状(sphere)構造を完全に消滅させることが観察されるのに対し、cytotoxic-T細胞対照群は、球状構造の形態を破壊することなく球状を保持したまま、球状形態中央で観察された(
図8を参照)。
【実施例4】
【0125】
異種移植マウスモデルにおける免疫細胞の抗腫瘍能の評価
全ての動物実験は、生命倫理委員会(IACUC,全南大学,大韓民国)の承認を受けて行われた。4週齢の雌NSG(NOD SCID gamma)マウスは、和順ワクチンセンターSPF動物実験室から供給された。
【0126】
膵臓癌細胞AsPC-1/lucは、PBS(Welgene社)と高濃度マトリゲル(Corning社)を1:1で混合した溶液に、4×106細胞/200uL~8x106細胞/200uLの濃度で浮遊させた。PC-3細胞は、PBS(Welgene社)と高濃度マトリゲル(Corning社)を1:1に混ぜた溶液に、3×106細胞/100uL~1×107細胞/100uLの濃度で浮遊させた。実験では、マウスの右脇腹にAsPC-1/luc(2×106細胞)、PC-3(3×106細胞)を皮下注射した。
【0127】
腫瘍のサイズが100~150mm3に達したとき、用意されたPBS、対照群T細胞、VEC-1、VEC-2免疫細胞1×107/200uLを静脈内に1回注射した。マウスはグループごとに5~10匹を使用し、腫瘍のサイズとマウスの体重は週に2回測定した。
【0128】
1.細胞解凍(Cell thawing)及び細胞培養(Cell culture)
実験材料:RPMI 1640(Gibco社)、FBS(Gibco社)、P/S(Gibco社)、L-グルタミン200mM(Gibco社)、100φ細胞培養フラスコ、バスケット、腫瘍細胞株(AsPC-1及びPC-3)、Solution 18 AO・DAPI(ChemoMetec社)、PBS(Welgene社)、TrypLETM(Gibco社)。ヒト膵臓癌細胞株AsPC-1及びヒト前立腺癌細胞株PC-3は、ATCC(American Type Culture Collection)から供給されたものを用いた。ルシフェラーゼを発現するヒト膵臓癌細胞株AsPC-1/lucは、JCRB(Cell bank,Austrailia)から供給されたものを用いた。
【0129】
細胞解凍:液体窒素タンクから腫瘍細胞株を37℃の恒温水浴に入れて急速に解凍し、その後、薄氷が浮いたところでクリーンベンチに移し、15mLの円錐形チューブに入れた。細胞培養培地(RPMI 1640+10%FBS+1%P/S+2mM L-グルタミン)9mLを15mLのチューブに入れ、350g、3分条件で遠心分離した。上澄み液を除去し、1mLの細胞培養液を加えて完全に再浮遊させた後、9mLの細胞培養液を加えて10mLに合わせてから再浮遊させた。細胞数カウント溶液(PBS:Solution 18=90:5)を用いて細胞数を計算し、細胞密度を0.5×106/10mL及び1×106/10mL(それぞれPC-3及びAsPC-1に対して)に合わせて100φフラスコに細胞を広げた。その後、3日間隔で(細胞密度が70~80%になる場合)継代培養した。
【0130】
継代培養:フラスコ中の上澄み液を除去し、その後、10mLのPBSを入れて細胞残渣などの不純物を除去するために洗浄してから、上澄み液を捨てた。細胞をフラスコから剥離するために、TrypLETM(2mLまたは4mL)をそれぞれ100φ及び150φフラスコに入れた。顕微鏡で観察し、細胞が丸い形をして浮遊したら、10mLまたは30mLの細胞培養培地(RPMI 1640+10%FBS+1%P/S+2mM L-グルタミン)を入れ、細胞を50mLの円錐形チューブに入れて500g、3~5分間遠心分離した。上澄み液を除去し、その後、1mLの細胞培養液を入れて再浮遊させてから、9mLの細胞培養液を入れた。細胞数カウント溶液(PBS:Solution 18=90:5)を用いて細胞数を測定した後、癌細胞(例えば、膵臓癌細胞AsPC-1:1×106/10mL)を培養容器に入れて培養した。
【0131】
2.マウスの準備
実験材料:PICO 5053(オリエントバイオ)、g-irradiated 18%beta-chip(オリエントバイオ)、滅菌水道水と水ボトル、高圧蒸気滅菌器、クリッパー(ジョンドB&P)、ウェットティッシュ、Ifran液(ハナ製薬)、脱毛剤(veet)、呼吸麻酔機及びチャンバー
実験方法:週に2回、飼料(PICO 5053)、敷きわら(r-irradiated 18%ベータチップ)、滅菌水道水、ケージを交換した。腫瘍を植える3日前には毛を除去し、実験中に腫瘍がよく見えないほど成長した場合は除去した。マウスは濃度2~3%のイソフルランで呼吸麻酔させ、マウスの右脇の毛をバリカンで除去し、脱毛剤を塗って1分程度置いてから、ウェットティッシュで脱毛剤を拭き取った。
【0132】
3.ヒト腫瘍異種移植マウスモデルの製造
実験材料:細胞、1mLシリンジ(韓国ワクチン社)、251/2 G針(韓国ワクチン社)、高濃度マトリゲル(Corning社)、アイスボックス、EPチューブ、呼吸麻酔機及びチャンバー、Ifran液(ハナ製薬社)。マトリゲルの場合、異種移植の前日に冷蔵室でオーバーナイトした。マトリゲルは常温でゲル化するので、常に氷に刺して実験を行った。
実験方法:2~3%のイソフルランで呼吸麻酔したマウスの右側の脇腹にAsPC-1/luc(2×106細胞)及びPC-3(3×106細胞)とマトリゲルとを1:1で混合した溶液100μLを皮下注射した。また、マウス腹腔にそれぞれ腫瘍細胞株(4×106細胞/100μLのPBS)とマトリゲルとを1:1で混合した溶液100μLを皮下注射した。
【0133】
4.キメラ抗原受容体T細胞の注入
実験材料:271/2 G針(チョンリム社)、1mLシリンジ(韓国ワクチン社)、PBS、正常T細胞(対照群)、E1モノボディCAR-T細胞(VEC-1及びVEC-2)、マウス補正器(ジョンドB&P社)、熱照射器(ジョンドB&P社)、70%アルコール綿、ノギス(ジョンドB&P社)、体重計、カメラ。
実験方法:マウスの腫瘍サイズ及び体重を測定し、グループごとにマウスの腫瘍サイズ及び体重を同様に調整した。腫瘍サイズが100~150mm3に達したとき、200uLのPBS及び細胞(1×107/200μLの対照群正常T細胞及びE1モノボディCAR-T細胞)をマウスの尾静脈に静脈内注射した。
【0134】
5.マウスモニタリング(腫瘍サイズ及び体重測定)
実験材料:呼吸麻酔機及びチャンバー、Ifran液(ハナ製薬社)、ノギス(ジョンドB&P社)、体重計、カメラ。
実験方法:2~3%のイソフルランでマウスを呼吸麻酔した後、週に2回腫瘍サイズと体重を測定した。マウス腫瘍のサイズは、ノギスで長軸(L)、短軸(W)、高さ(H)を測定し、その後、0.52を乗じて計算し、電子天秤を用いてマウスの体重を測定した。
【0135】
6.実験結果
(1)前立腺癌細胞株を用いた実験
前立腺癌細胞株(PC-3)1×10
7細胞/100μL及び1×PBSをマウス右背中部の皮下組織に異種移植したマウスモデルに、腫瘍生成12日後、各群ごとにPBS、対照群T細胞(ウイルスで形質導入されていない活性化対照群正常T細胞;Cont-T)、VEC-1細胞及びVEC-2細胞を静脈内注射し、その後、腫瘍サイズをスケールバーで測定した。その結果を
図9に示す。
【0136】
図9に示すように、VEC-1またはVEC-2を注入したマウスでは、腫瘍生成22日以降からは、対照群正常T細胞またはPBSのみを注入したマウスよりも腫瘍のサイズが有意に減少した。
【0137】
E1モノボディCAR-T細胞を静脈投与し、その後、マウスの体調回復の有無及び投与による副作用の有無を把握するために、マウスの体重を測定した。その結果を
図10に示す。
【0138】
図10に示すように、VEC-1またはVEC-2を投与したマウスは、対照群正常T細胞を投与したマウスよりも早く健康状態が回復し、その後正常T細胞が30日後に回復傾向を示し始めた。PBSのみを与えたマウスは、腫瘍のサイズに比例して体重が減少しながら、健康状態が悪化した。
【0139】
実験の終了時点(50日)における前立腺癌異種移植マウスモデルの生存率をカプラン・マイヤー法を用いて評価した。その結果を
図11に示す。
図11に示すように、VEC-1とVEC-2を投与したマウス群は、いずれも高い生存率を示し、それは対照群正常T細胞に比べて著しく優れていた。
【0140】
マウスの右背中部に腫瘍を移植してから44日後、E1モノボディCAR-T細胞(VEC-1またはVEC-2)を静脈注射し、その後28日目に腫瘍のサイズを測定した。その結果を
図12に示す。
図12に示すように、VEC-1またはVEC-2を投与したマウス群では、正常T細胞を投与したマウス及びPBSのみを投与したマウス群に対して、腫瘍が著しく小さいことが確認された。
【0141】
(2)膵臓癌細胞株を用いた実験
膵臓癌細胞(AsPC-1、2×10
6個の細胞)をマウス腹腔内に移植し、14日後にPBS、正常T細胞、VEC-1及びVEC-2を腹腔内投与した。投与後4週目に生体内画像化システム(In Vivo Imaging System;IVIS)を用いて膵臓癌細胞の転移度合いを撮影した。その結果を
図13に示す。
図13に示すように、正常T細胞とPBSのみを投与したマウスに対して、VEC-1及びVEC-2を投与したマウスでは、腫瘍がほとんど増殖または転移しないことが確認された。
【0142】
マウスの腹腔内に2×10
6個の膵臓癌細胞を移植し、14日後にPBS、正常T細胞(Con T)、VEC-1及びVEC-2を腹腔内投与し、生物発光イメージング(Bioluminescence Imaging;BIO)で腫瘍のサイズを測定した。その結果を
図14に示す。
図14に示すように、正常T細胞を投与したマウスとPBSのみを投与したマウスに対して、VEC-1またはVEC-2を投与したマウスでは、腫瘍がほとんど増殖せず、それは膵臓癌細胞の移植後4週間まで持続した。
【0143】
本発明に係るモノボディベースのキメラ抗原受容体及びそれを細胞膜表面上に発現させた免疫細胞(例えば、細胞傷害性T細胞)は、前立腺癌及び膵臓癌細胞の増殖を顕著に抑制し、マウスの生存率を顕著に増加させる優れた抗癌効果を有することがわかる。よって、モノボディベースのキメラ抗原受容体を含む免疫細胞を用いて、固形癌を始めとする様々な癌を予防または治療することができる。
【配列表】