(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-05
(45)【発行日】2025-06-13
(54)【発明の名称】多重特異性抗原結合分子を含む組成物における不純物分子の分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 30/02 20060101AFI20250606BHJP
G01N 30/89 20060101ALI20250606BHJP
C07K 16/46 20060101ALN20250606BHJP
【FI】
G01N30/02 B ZNA
G01N30/89
C07K16/46
(21)【出願番号】P 2022512686
(86)(22)【出願日】2021-04-01
(86)【国際出願番号】 JP2021014120
(87)【国際公開番号】W WO2021201202
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2024-03-05
(31)【優先権主張番号】P 2020066824
(32)【優先日】2020-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003311
【氏名又は名称】中外製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 元彦
(72)【発明者】
【氏名】村田 博子
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-518436(JP,A)
【文献】国際公開第2007/114325(WO,A1)
【文献】PHUNG W. et al.,Characterization of bispecific and mispaired IgGs by native charge-variant mass spectrometry,International Journal of Mass Spectrometry,2019年,Vol.446, 116229
【文献】YIN Y. et al.,Precise quantification of mixtures of bispecific IgG produced in single host cells by liquid chromatography-Orbitrap high-resolution mass spectrometry,MABS,2016年,Vol.8, No.8, p.1467-1476
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00 -30/96
B01J 20/281-20/292
G01N 33/48 -33/98
C07K 16/46
C12N 15/13
C12P 21/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多重特異性抗原結合分子を含む組成物における、軽鎖交換体分子の分析方法であって、
多重特異性抗原結合分子は第一の抗原に対する第一の重鎖可変ドメインと第一の軽鎖可変ドメインを含む第一のF(ab)(H1L1)と、第二の抗原に対する第二の重鎖可変ドメインと第二の軽鎖可変ドメインを含む第二のF(ab)(H2L2)とを含む分子(H1L1/H2L2)であり、
軽鎖交換体分子は第一の重鎖可変ドメインと第二の軽鎖可変ドメインを含む第三のF(ab)(H1L2)と、第二の重鎖可変ドメインと第一の軽鎖可変ドメインを含む第四のF(ab)(H2L1)とを含む分子(H1L2/H2L1)であり、
分析方法は以下の工程1~2を含む方法。
1)多重特異性抗原結合分子を含む組成物を処理し、2種以上のF(ab)フラグメントを生成する工程
2)電荷又は疎水性相互作用に基づく分離法により2種以上のF(ab)フラグメントを測定し、
吸光値を用いた当該測定の結果から直接的に組成物中の軽鎖交換体分子の含有量、または多重特異性抗原結合分子に対する軽鎖交換体分子の含有比率を求める工程
【請求項2】
工程1は、以下の工程1-1と1-2を含む、請求項1に記載の方法。
1-1)組成物に含まれる分子を切断してF(ab)’2フラグメントを生成する工程
1-2)F(ab)’2フラグメントを切断して2種以上のF(ab)フラグメントを生成する工程
【請求項3】
工程1-1は、プロテアーゼにより、組成物に含まれる分子のヒンジ部のFc側を切断する工程である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
プロテアーゼが細菌由来の抗体分解酵素、ペプシン、フィシンのいずれか又はこれらの組合せである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
工程1-2は、還元剤により、F(ab)’2フラグメントのジスルフィド結合を切断する工程である、請求項2~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
還元剤がTCEP、2-MEA、Cysteine、Dithiothreitol、2-Mercaptoethanol、3-mercapto-1,2-propanediol、TBPのいずれか又はこれらの組み合わせである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
工程1は、プロテアーゼにより、組成物に含まれる分子のヒンジ部のF(ab)側を切断する工程である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
プロテアーゼが細菌由来の抗体分解酵素、パパイン、Lys-Cのいずれか又はこれらの組合せである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
工程2は、陽イオン交換クロマトグラフィー,陰イオン交換クロマトグラフィー,疎水性相互作用クロマトグラフィー,逆相クロマトグラフィーのいずれか又はこれらの組合せにより、2種以上のF(ab)フラグメントを測定する工程である、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
工程1で生成する2種以上のF(ab)フラグメントはそれぞれ等電点が異なる、請求項1~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
多重特異性抗原結合分子(H1L1/H2L2)は、以下の不純物(1)~(8)との間で等電点に差を設けるようアミノ酸残基が改変された分子である、請求項1~10のいずれかに記載の方法。
(1)第一の重鎖可変ドメインと第一の軽鎖可変ドメインを含む第一のF(ab)(H1L1)のホモ二量体(H1L1/H1L1)
(2)第二の重鎖可変ドメインと第二の軽鎖可変ドメインを含む第二のF(ab)(H2L2)のホモ二量体(H2L2/H2L2)
(3)第一の重鎖可変ドメインと第二の軽鎖可変ドメインを含む第三のF(ab)(H1L2)のホモ二量体(H1L2/H1L2)
(4)第二の重鎖可変ドメインと第一の軽鎖可変ドメインを含む第四のF(ab)(H2L1)のホモ二量体(H2L1/H2L1)
(5)第一の重鎖可変ドメインと第一の軽鎖可変ドメインを含む第一のF(ab)(H1L1)と、第一の重鎖可変ドメインと第二の軽鎖可変ドメインを含む第三のF(ab)(H1L2)とを含むヘテロ二量体(H1L1/H1L2)
(6)第一の重鎖可変ドメインと第一の軽鎖可変ドメインを含む第一のF(ab)(H1L1)と、第二の重鎖可変ドメインと第一の軽鎖可変ドメインを含む第四のF(ab)(H2L1)とを含むヘテロ二量体(H1L1/H2L1)
(7)第二の重鎖可変ドメインと第二の軽鎖可変ドメインを含む第二のF(ab)(H2L2)と、第一の重鎖可変ドメインと第二の軽鎖可変ドメインを含む第三のF(ab)(H1L2)とを含むヘテロ二量体(H2L2/H1L2)
(8)第二の重鎖可変ドメインと第二の軽鎖可変ドメインを含む第二のF(ab)(H2L2)と、第二の重鎖可変ドメインと第一の軽鎖可変ドメインを含む第四のF(ab)(H2L1)とを含むヘテロ二量体(H2L2/H2L1)
【請求項12】
多重特異性抗原結合分子を含む組成物は、等電点の差を利用した精製工程により不純物(1)~(8)が除去されている、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
多重特異性抗原結合分子は二重特異性抗体である、請求項1~12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
二重特異性抗体は、重鎖可変ドメインにおけるKabatナンバリングによる1位、3位、5位、8位、10位、12位、13位、15位、16位、19位、23位、25位、26位、39位、42位、43位、44位、46位、68位、71位、72位、73位、75位、76位、81位、82b位、83位、85位、86位、97位、105位、108位、110位及び112位のアミノ酸残基、及び、重鎖定常ドメインにおけるEUナンバリングによる137位、196位、203位、214位、217位、233位、268位、274位、276位、297位、355位、392位、419位及び435位のアミノ酸残基から選ばれる少なくとも一つのアミノ酸残基が改変された抗体である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
多重特異性抗原結合分子または二重特異性抗体を含む組成物は医薬組成物である、請求項1~14のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、多重特異性抗原結合分子を含む組成物における、不純物分子の分析方法に関する。より具体的には、本開示は、多重特異性抗原結合分子を含む組成物において、当該多重特異性抗原結合分子の軽鎖の掛違いにより生じた軽鎖交換体分子の含有量を定量する方法に関し、組成物に含まれる分子を処理して複数種のF(ab)フラグメントを生成する工
程と、当該F(ab)フラグメントを測定して、各フラグメントの含有量または含有比率を測
定する工程とを含む。
【背景技術】
【0002】
非共通軽鎖の多重特異性抗原結合分子(特に二重特異性抗体)では、2種類の重鎖(H1,
H2)と2種類の軽鎖(L1, L2)を有すため、培養工程において目的分子(H1L1/H2L2)の
他に、重鎖同士、または重鎖と軽鎖の掛違いによる不純物分子が9種生成される(
図5)
。これらの不純物分子を抑制するために、Knobs-into-holesと呼ばれる技術(特許文献1)や、重鎖間または重鎖-軽鎖間の電荷制御を利用した技術(特許文献2、特許文献3)
が知られている。また、生成された不純物分子について、重鎖、軽鎖のアミノ酸残基に改変を導入し、目的分子と不純物分子とのpI差を利用して、クロマトグラフィーにより分離して除去する技術が知られている(特許文献4)。
しかし、pI差を利用した分離方法では、不純物分子のうち8種までは分離可能であるが
、H1, H2とペアになるべきL1, L2が反転した残り1種の不純物分子(H1L2/H2L1、以下「軽鎖交換体分子」と呼ぶ)については、理論pIを含む物理的性質が目的分子と共通するため、分離することができない。したがって、精製工程を終えて得られた組成物中の軽鎖交換体分子の含有の有無、および含有量または含有比率を正確に測定する手法が品質管理上求められる。
【0003】
Yinらは、軽鎖交換体分子を含む不純物分子の分析方法を開示する(非特許文献1)。
この文献では、各分子をF(ab)に分離し、質量分析を行い、その質量分析結果と重鎖-軽鎖の組合せの確率に基づく理論計算を使って、各分子の含有量の推定値を算出する方法を用いる。しかし、この方法は、分析結果から直接的に含有量を測るのでなく、理論計算を用いて推定値を得るに留まるため、軽鎖交換体分子の正確な定量ができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO96/27011
【文献】WO2006/106905
【文献】WO2013/065708
【文献】WO2007/114325
【非特許文献】
【0005】
【文献】Yin et.al.,MABS2016, VOL. 8, NO. 8, 1467-1476
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示中の発明は上記のような状況に鑑みてなされたものであり、非限定的な一態様において、組成物中に含まれる目的の多重特異性抗原結合分子と軽鎖交換体分子を区別して定量する分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
非限定的な一態様において、本発明者らは、鋭意研究の結果、多重特異性抗原結合分子および軽鎖交換体分子に含まれるF(ab)フラグメントの組み合わせの違いを利用して、組
成物中に含まれる多重特異性抗原結合分子および軽鎖交換体分子の含有量(含有比率)を測定する分析方法を見出した。具体的には、組成物に含まれる分子を処理して複数種のF(ab)フラグメントを生成し、その電荷差等を利用して各F(ab)フラグメントを分離し、それぞれの含有量(含有比率)を測定することで、組成物中の軽鎖交換体分子の含有の有無、および含有量または含有比率を測定することを可能にしたものである。
【0008】
本開示はこのような知見に基づくものであり、具体的には以下に例示的に記載する実施態様を包含するものである。
[1] 多重特異性抗原結合分子を含む組成物における、軽鎖交換体分子の分析方法であって、
多重特異性抗原結合分子は第一の抗原に対する第一の重鎖可変ドメインと第一の軽鎖可変ドメインを含む第一のF(ab)(H1L1)と、第二の抗原に対する第二の重鎖可変ドメイン
と第二の軽鎖可変ドメインを含む第二のF(ab)(H2L2)とを含む分子(H1L1/H2L2)であり、
軽鎖交換体分子は第一の重鎖可変ドメインと第二の軽鎖可変ドメインを含む第三のF(ab)(H1L2)と、第二の重鎖可変ドメインと第一の軽鎖可変ドメインを含む第四のF(ab)(H2L1)とを含む分子(H1L2/H2L1)であり、
分析方法は以下の工程1~2を含む方法。
1)多重特異性抗原結合分子を含む組成物を処理し、2種以上のF(ab)フラグメントを生成する工程
2)電荷又は疎水性相互作用に基づく分離法により2種以上のF(ab)フラグメントを測定し、組成物中の軽鎖交換体分子の含有量、または多重特異性抗原結合分子に対する軽鎖交換体分子の含有比率を求める工程
[2] 工程1は、以下の工程1-1と1-2を含む、[1]の方法。
1-1)組成物に含まれる分子を切断してF(ab)’2フラグメントを生成する工程
1-2)F(ab)’2フラグメントを切断して2種以上のF(ab)フラグメントを生成する工程
[3] 工程1-1は、プロテアーゼにより、組成物に含まれる分子のヒンジ部のFc側を切断する工程である、[2]の方法。
[4] プロテアーゼが細菌由来の抗体分解酵素、ペプシン、フィシンのいずれか又はこれらの組合せである、[3]の方法。
[5] 工程1-2は、還元剤により、F(ab)’2フラグメントのジスルフィド結合を切断する工程である、[2]~[4]のいずれかの方法。
[6] 還元剤がTCEP、2-MEA、Cysteine、Dithiothreitol、2-Mercaptoethanol、3-mercapto-1,2-propanediol、TBPのいずれか又はこれらの組み合わせである、[5]の方法。
[7] 工程1は、プロテアーゼにより、組成物に含まれる分子のヒンジ部のF(ab)側を切
断する工程である、[1]の方法。
[8] プロテアーゼが細菌由来の抗体分解酵素、パパイン、Lys-Cのいずれか又はこれら
の組合せである、[7]の方法。
[9] 工程2は、陽イオン交換クロマトグラフィー,陰イオン交換クロマトグラフィー,疎水性相互作用クロマトグラフィー,逆相クロマトグラフィーのいずれか又はこれらの組合せにより、2種以上のF(ab)フラグメントを測定する工程である、[1]~[8]のいずれかの方法。
[10] 工程1で生成する2種以上のF(ab)フラグメントはそれぞれ等電点が異なる、[1]
~[9]のいずれかに記載の方法。
[11] 多重特異性抗原結合分子(H1L1/H2L2)は、以下の不純物(1)~(8)との間で
等電点に差を設けるようアミノ酸残基が改変された分子である、[1]~[10]のいずれかの方法。
(1)第一の重鎖可変ドメインと第一の軽鎖可変ドメインを含む第一のF(ab)(H1L1)の
ホモ二量体(H1L1/H1L1)
(2)第二の重鎖可変ドメインと第二の軽鎖可変ドメインを含む第二のF(ab)(H2L2)の
ホモ二量体(H2L2/H2L2)
(3)第一の重鎖可変ドメインと第二の軽鎖可変ドメインを含む第三のF(ab)(H1L2)の
ホモ二量体(H1L2/H1L2)
(4)第二の重鎖可変ドメインと第一の軽鎖可変ドメインを含む第四のF(ab)(H2L1)の
ホモ二量体(H2L1/H2L1)
(5)第一の重鎖可変ドメインと第一の軽鎖可変ドメインを含む第一のF(ab)(H1L1)と
、第一の重鎖可変ドメインと第二の軽鎖可変ドメインを含む第三のF(ab)(H1L2)とを含
むヘテロ二量体(H1L1/H1L2)
(6)第一の重鎖可変ドメインと第一の軽鎖可変ドメインを含む第一のF(ab)(H1L1)と
、第二の重鎖可変ドメインと第一の軽鎖可変ドメインを含む第四のF(ab)(H2L1)とを含
むヘテロ二量体(H1L1/H2L1)
(7)第二の重鎖可変ドメインと第二の軽鎖可変ドメインを含む第二のF(ab)(H2L2)と
、第一の重鎖可変ドメインと第二の軽鎖可変ドメインを含む第三のF(ab)(H1L2)とを含
むヘテロ二量体(H2L2/H1L2)
(8)第二の重鎖可変ドメインと第二の軽鎖可変ドメインを含む第二のF(ab)(H2L2)と
、第二の重鎖可変ドメインと第一の軽鎖可変ドメインを含む第四のF(ab)(H2L1)とを含
むヘテロ二量体(H2L2/H2L1)
[12] 多重特異性抗原結合分子を含む組成物は、等電点の差を利用した精製工程により不純物(1)~(8)が除去されている、[11]の方法。
[13] 多重特異性抗原結合分子は二重特異性抗体である、[1]~[12]のいずれかの方法。
[14] 二重特異性抗体は、重鎖可変ドメインにおけるKabatナンバリングによる1位、3
位、5位、8位、10位、12位、13位、15位、16位、19位、23位、25位、26位、39位、42位、43位、44位、46位、68位、71位、72位、73位、75位、76位、81位、82b位、83位、85位、86位、97位、105位、108位、110位及び112位のアミノ酸残基、及び、重鎖定常ドメインに
おけるEUナンバリングによる137位、196位、203位、214位、217位、233位、268位、274位、276位、297位、355位、392位、419位及び435位のアミノ酸残基から選ばれる少なくとも一つのアミノ酸残基が改変された抗体である、[13]の方法。
[15] 多重特異性抗原結合分子または二重特異性抗体を含む組成物は医薬組成物である、[1]~[14]のいずれかの方法。
[16] 二重特異性抗体は、血液凝固第IX因子および/または活性化血液凝固第IX因子に結合するF(ab)と、血液凝固第X因子に結合するF(ab)とを含む抗体である、[13]または[14]の方法。
[17] 多重特異性抗原結合分子を含む医薬組成物の品質管理方法であって、
多重特異性抗原結合分子は第一の抗原に対する第一の重鎖可変ドメインと第一の軽鎖可変ドメインを含む第一のF(ab)(H1L1)と、第二の抗原に対する第二の重鎖可変ドメイン
と第二の軽鎖可変ドメインを含む第二のF(ab)(H2L2)とを含む分子(H1L1/H2L2)であり、
軽鎖交換体分子は第一の重鎖可変ドメインと第二の軽鎖可変ドメインを含む第三のF(ab)(H1L2)と、第二の重鎖可変ドメインと第一の軽鎖可変ドメインを含む第四のF(ab)(H2L1)とを含む分子(H1L2/H2L1)であり、
品質管理方法は以下の工程1~3を含む方法。
1)多重特異性抗原結合分子を含む組成物を処理し、2種以上のF(ab)フラグメントを生成する工程
2)電荷又は疎水性相互作用に基づく分離法により2種以上のF(ab)フラグメントを測定し、組成物中の軽鎖交換体分子の含有量、または多重特異性抗原結合分子に対する軽鎖交換体分子の含有比率を求める工程
3)工程2で求められた軽鎖交換体分子の含有量または含有比率が、予め設定された含有量/含有比率の許容値以下であることを確認する工程
[18] 多重特異性抗原結合分子を含む医薬組成物の品質評価方法であって、
多重特異性抗原結合分子は第一の抗原に対する第一の重鎖可変ドメインと第一の軽鎖可変ドメインを含む第一のF(ab)(H1L1)と、第二の抗原に対する第二の重鎖可変ドメイン
と第二の軽鎖可変ドメインを含む第二のF(ab)(H2L2)とを含む分子(H1L1/H2L2)であり、
軽鎖交換体分子は第一の重鎖可変ドメインと第二の軽鎖可変ドメインを含む第三のF(ab)(H1L2)と、第二の重鎖可変ドメインと第一の軽鎖可変ドメインを含む第四のF(ab)(H2L1)とを含む分子(H1L2/H2L1)であり、
品質評価方法は以下の工程1~3を含む方法。
1)多重特異性抗原結合分子を含む組成物を処理し、2種以上のF(ab)フラグメントを生成する工程
2)電荷又は疎水性相互作用に基づく分離法により2種以上のF(ab)フラグメントを測定し、組成物中の軽鎖交換体分子の含有量、または多重特異性抗原結合分子に対する軽鎖交換体分子の含有比率を求める工程
3)工程2で求められた軽鎖交換体分子の含有量または含有比率が、予め設定された含有量/含有比率の許容値以下であることを確認する工程
[19] 工程1は、以下の工程1-1と1-2を含む、[17]または[18]の方法。
1-1)組成物に含まれる分子を切断してF(ab)’2フラグメントを生成する工程
1-2)F(ab)’2フラグメントを切断して2種以上のF(ab)フラグメントを生成する工程
[20] 工程1-1は、プロテアーゼにより、組成物に含まれる分子のヒンジ部のFc側を切断する工程である、[19]の方法。
[21] プロテアーゼが細菌由来の抗体分解酵素、ペプシン、フィシンのいずれか又はこれらの組合せである、[20]の方法。
[22] 工程1-2は、還元剤により、F(ab)’2フラグメントのジスルフィド結合を切断する工程である、[19]~[21]のいずれかの方法。
[23] 還元剤がTCEP、2-MEA、Cysteine、Dithiothreitol、2-Mercaptoethanol、3-mercapto-1,2-propanediol、TBPのいずれか又はこれらの組み合わせである、[22]の方法。
[24] 工程1は、プロテアーゼにより、組成物に含まれる分子のヒンジ部のF(ab)側を
切断する工程である、[17]または[18]の方法。
[25] プロテアーゼが細菌由来の抗体分解酵素、パパイン、Lys-Cのいずれか又はこれ
らの組合せである、[24]の方法。
[26] 工程2は、陽イオン交換クロマトグラフィー,陰イオン交換クロマトグラフィー,疎水性相互作用クロマトグラフィー,逆相クロマトグラフィーのいずれか又はこれらの組合せにより、2種以上のF(ab)フラグメントを測定する工程である、[17]~[25]のいずれかの方法。
[27] 工程1で生成する2種以上のF(ab)フラグメントはそれぞれ等電点が異なる、[17]~[26]のいずれかに記載の方法。
[28] 多重特異性抗原結合分子(H1L1/H2L2)は、以下の不純物(1)~(8)との間で
等電点に差を設けるようアミノ酸残基が改変された分子である、[17]~[27]のいずれかの方法。
(1)第一の重鎖可変ドメインと第一の軽鎖可変ドメインを含む第一のF(ab)(H1L1)の
ホモ二量体(H1L1/H1L1)
(2)第二の重鎖可変ドメインと第二の軽鎖可変ドメインを含む第二のF(ab)(H2L2)の
ホモ二量体(H2L2/H2L2)
(3)第一の重鎖可変ドメインと第二の軽鎖可変ドメインを含む第三のF(ab)(H1L2)の
ホモ二量体(H1L2/H1L2)
(4)第二の重鎖可変ドメインと第一の軽鎖可変ドメインを含む第四のF(ab)(H2L1)の
ホモ二量体(H2L1/H2L1)
(5)第一の重鎖可変ドメインと第一の軽鎖可変ドメインを含む第一のF(ab)(H1L1)と
、第一の重鎖可変ドメインと第二の軽鎖可変ドメインを含む第三のF(ab)(H1L2)とを含
むヘテロ二量体(H1L1/H1L2)
(6)第一の重鎖可変ドメインと第一の軽鎖可変ドメインを含む第一のF(ab)(H1L1)と
、第二の重鎖可変ドメインと第一の軽鎖可変ドメインを含む第四のF(ab)(H2L1)とを含
むヘテロ二量体(H1L1/H2L1)
(7)第二の重鎖可変ドメインと第二の軽鎖可変ドメインを含む第二のF(ab)(H2L2)と
、第一の重鎖可変ドメインと第二の軽鎖可変ドメインを含む第三のF(ab)(H1L2)とを含
むヘテロ二量体(H2L2/H1L2)
(8)第二の重鎖可変ドメインと第二の軽鎖可変ドメインを含む第二のF(ab)(H2L2)と
、第二の重鎖可変ドメインと第一の軽鎖可変ドメインを含む第四のF(ab)(H2L1)とを含
むヘテロ二量体(H2L2/H2L1)
[29] 多重特異性抗原結合分子を含む組成物は、等電点の差を利用した精製工程により不純物(1)~(8)が除去されている、[28]の方法。
[30] 多重特異性抗原結合分子は二重特異性抗体である、[17]~[29]のいずれかの方法。
[31] 二重特異性抗体は、重鎖可変ドメインにおけるKabatナンバリングによる1位、3
位、5位、8位、10位、12位、13位、15位、16位、19位、23位、25位、26位、39位、42位、43位、44位、46位、68位、71位、72位、73位、75位、76位、81位、82b位、83位、85位、86位、97位、105位、108位、110位及び112位のアミノ酸残基、及び、重鎖定常ドメインに
おけるEUナンバリングによる137位、196位、203位、214位、217位、233位、268位、274位、276位、297位、355位、392位、419位及び435位のアミノ酸残基から選ばれる少なくとも一つのアミノ酸残基が改変された抗体である、[30]の方法。
[32] 多重特異性抗原結合分子または二重特異性抗体を含む組成物は医薬組成物である、[17]~[31]のいずれかの方法。
[33] 二重特異性抗体は、血液凝固第IX因子および/または活性化血液凝固第IX因子に結合するF(ab)と、血液凝固第X因子に結合するF(ab)とを含む抗体である、[30]または[31]の方法。
[34] [17]~[33]のいずれかの品質管理方法または品質評価方法により品質の担保された、医薬品原体。
【発明の効果】
【0009】
非限定的な一態様において、本開示の分析方法は、陽イオン交換クロマトグラフィー(CEX)等による測定結果から直接的に、軽鎖交換体分子の含有量を正確に測定できること
を実証したものであり、理論計算を用いて推定値を得る従来の分析方法と異なる。
本開示の分析方法により、目的分子たる多重特異性抗原結合分子を含む組成物において、軽鎖交換体分子が不純物として含まれているか否か、また含まれている場合にはその含有量(含有比率)を正確に定量することが可能となった。分析対象の多重特異性抗原結合分子の分子形は限定されず、二重特異性抗体のほか、二重特異性のF(ab)’2フラグメントやscFv等にも適用可能である。また、2つの異なるF(ab)を有し、その一方のF(ab)が2つ以上の抗原に対し結合特異性を有する多重特異性抗原結合分子とすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】血液凝固第IX因子および/または活性化血液凝固第IX因子(FIX(a))に対する重鎖、軽鎖からなるホモ二量体(H1L1/H1L1)、血液凝固第X因子(FX)に対する重鎖、軽鎖からなるホモ二量体(H2L2/H2L2)、血液凝固第IX因子および/または活性化血液凝固第IX因子に対する重鎖、および血液凝固第X因子に対する軽鎖からなるホモ二量体(H1L2/H1L2)、血液凝固第X因子に対する重鎖、および血液凝固第IX因子および/または活性化血液凝固第IX因子に対する軽鎖からなるホモ二量体(H2L1/H2L1)を作製し、H1L1, H2L2, H1L2, H2L1の4種のF(ab)フラグメントに分離してCEXで分析した結果を示す。
【
図2】エピレギュリン(EREG)に対する重鎖、軽鎖からなるホモ二量体(H1L1/H1L1)、GPC3に対する重鎖、軽鎖からなるホモ二量体(H2L2/H2L2)、EREGに対する重鎖、およびGPC3に対する軽鎖からなるホモ二量体(H1L2/H1L2)、GPC3に対する重鎖、およびEREGに対する軽鎖からなるホモ二量体(H2L1/H2L1)を作製し、H1L1, H2L2, H1L2, H2L1の4種のF(ab)フラグメントに分離してCEXで分析した結果を示す。
【
図3】IL-6受容体(IL-6R)に対する重鎖、軽鎖からなるホモ二量体(H1L1/H1L1)、KLHに対する重鎖、軽鎖からなるホモ二量体(H2L2/H2L2)、IL-6Rに対する重鎖、およびKLHに対する軽鎖からなるホモ二量体(H1L2/H1L2)、KLHに対する重鎖、およびIL-6Rに対する軽鎖からなるホモ二量体(H2L1/H2L1)を作製し、H1L1, H2L2, H1L2, H2L1の4種のF(ab)フラグメントに分離してCEXで分析した結果を示す。
【
図4】抗IL-6R/抗KLH抗体とその不純物分子(軽鎖交換体分子)の混合試料における不純物含量の定量結果を示す。
【
図5】非共通軽鎖の二重特異性抗体の製造工程において生成され得る、目的の二重特異性抗体、その軽鎖交換体分子、および他のミスペアによる不純物(8種)を示す模式図である。目的の二重特異性抗体は、図中、H1L1、H2L2と示されている2種類のF(ab)を有し、本明細書においてH1L1/H2L2と呼ぶことがある。その軽鎖交換体分子は、図中、H1L2、H2L1と示されている2種類のF(ab)を有し、本明細書においてH1L2/H2L1と呼ぶことがある。その他のミスペアによる不純物がそれぞれ含む2つのF(ab)の組み合わせは、目的の二重特異性抗体が含むものとも、その軽鎖交換体分子が含むものとも異なる。各分子の模式図の上には、表1に記載されている抗FIX(a)/抗FX二重特異性抗体が目的の二重特異性抗体である場合の各分子の理論pI(等電点)の値を括弧書きで示している。
【
図6】2段階の処理により、目的分子およびその軽鎖交換体分子から4種類のF(ab)フラグメントを生成する方法の一例を示す模式図である。各F(ab)フラグメントの下には、表1に記載されている抗FIX(a)/抗FX二重特異性抗体が目的の二重特異性抗体である場合の各フラグメントの分子量(MW)および理論pI値を括弧書きで示している。
【
図7】1段階の処理により、目的の二重特異性抗体およびその軽鎖交換体分子から4種類のF(ab)フラグメントを生成する方法の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
I.定義
抗原結合分子
本明細書で用語「抗原結合分子」は、その最も広い意味において、抗原決定基(エピトープ)に特異的に結合する分子を指す。一態様において、抗原結合分子は、抗体、抗体断片、または抗体誘導体である。一態様において、抗原結合分子は、非抗体タンパク質、またはその断片、もしくはその誘導体である。
【0012】
本明細書において「特異的に結合する」とは、特異的に結合する分子の一方の分子がその一または複数の結合する相手方の分子以外の分子に対しては何ら有意な結合を示さない状態で結合することをいう。また、抗原結合ドメインが、ある抗原中に含まれる複数のエピトープのうち特定のエピトープに対して特異的である場合にも用いられる。また、抗原結合ドメインが結合するエピトープが複数の異なる抗原に含まれる場合には、当該抗原結合ドメインを有する抗原結合分子は当該エピトープを含む様々な抗原と結合することができる。
【0013】
本開示において、「同じエピトープに結合する」とは、2つの抗原結合ドメインが結合
するエピトープが少なくとも一部重複することを意味する。重複する程度は、限定されないが、少なくとも10%以上、好ましくは20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、特に好ましくは90%以上、最も好ましくは100%重複する。
【0014】
抗体
本明細書で用語「抗体」は、最も広い意味で使用され、所望の抗原結合活性を示す限りは、これらに限定されるものではないが、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)および抗体断片を含む、種々の抗体構造を包含する。
【0015】
「結合活性(binding activity)」は、分子(例えば、抗体)の1個またはそれ以上の
結合部位と、分子の結合パートナー(例えば、抗原)との間の、非共有結合的な相互作用の合計の強度のことをいう。ここで、結合活性は、ある結合対のメンバー(例えば、抗体と抗原)の間の1:1相互作用に厳密に限定されない。例えば、結合対のメンバーが1価での1:1相互作用を反映する場合、結合活性は固有の結合アフィニティ(「アフィニティ」)のことをいう。結合対のメンバーが、1価での結合および多価での結合の両方が可能である場合、結合活性は、これらの結合力の総和となる。分子XのそのパートナーYに対する結合活性は、一般的に、解離定数 (KD) または「単位リガンド量当たりのアナライト結合量」により表すことができる。結合活性は、本明細書に記載のものを含む、当該技術分野において知られた通常の方法によって測定され得る。
【0016】
一局面において、本開示の方法により分析される抗原結合分子および抗体は、例えばELISA、ウエスタンブロット等の公知の方法によって、その抗原結合活性に関して試験され
得る。
【0017】
本明細書でいう用語「モノクローナル抗体」は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体のことをいう。すなわち、その集団を構成する個々の抗体は、生じ得る変異抗体(例えば、自然に生じる変異を含む変異抗体、またはモノクローナル抗体調製物の製造中に発生する変異抗体。そのような変異体は通常若干量存在している。)を除いて、同一でありおよび/または同じエピトープに結合する。異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を典型的に含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、モノクローナル抗体調製物の各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対するものである。したがって、修飾語「モノクローナル」は、実質的に均一な抗体の集団から得られるものである、という抗体の特徴を示し、何らかの特定の方法による抗体の製造を求めるものと解釈されるべきではない。例えば、本発明にしたがって用いられるモノクローナル抗体は、これらに限定されるものではないが、ハイブリドーマ法、組換えDNA法、ファージディスプレイ法、
ヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部または一部を含んだトランスジェニック動物を利用する方法を含む、様々な手法によって作成されてよく、モノクローナル抗体を作製するためのそのような方法および他の例示的な方法は、本明細書に記載されている。
【0018】
「天然型抗体」は、天然に生じる様々な構造を伴う免疫グロブリン分子のことをいう。例えば、天然型IgG抗体は、ジスルフィド結合している2つの同一の軽鎖と2つの同一の重
鎖から構成される約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。N末端からC末
端に向かって、各重鎖は、可変重鎖ドメインまたは重鎖可変ドメインとも呼ばれる可変領域 (VH) を有し、それに3つの定常ドメイン(CH1、CH2、およびCH3)が続く。同様に、N
末端からC末端に向かって、各軽鎖は、可変軽鎖ドメインまたは軽鎖可変ドメインとも呼
ばれる可変領域 (VL) を有し、それに定常軽鎖 (CL) ドメインが続く。抗体の軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)およびラムダ(λ)と呼ばれる、2つのタイプの1つに帰属させられてよい。
【0019】
用語「全長抗体」、「完全抗体」、および「全部抗体」は、本明細書では相互に交換可能に用いられ、天然型抗体構造に実質的に類似した構造を有する、または本明細書で定義するFc領域を含む重鎖を有する抗体のことをいう。
【0020】
本明細書において「抗原結合ドメイン」とは、抗原の一部または全部に特異的に結合し且つ相補的である領域をいう。本明細書において、抗原結合分子は抗原結合ドメインを含んで成る。抗原の分子量が大きい場合、抗原結合ドメインは抗原の特定部分にのみ結合することができる。当該特定部分はエピトープと呼ばれる。一態様において、抗原結合ドメインは特定の抗原に結合する抗体断片を含む。抗原結合ドメインは一または複数の抗体の「可変ドメイン」より提供され得る。非限定的な一態様において、抗原結合ドメインは抗体軽鎖可変領域(VL)と抗体重鎖可変領域(VH)とを含む。こうした抗原結合ドメインの例としては、「scFv(single chain Fv)」、「単鎖抗体(single chain antibody)」、「Fv」、「scFv2(single chain Fv 2)」、「Fab」または「Fab'」等が挙げられる。別
の態様において、抗原結合ドメインは特定の抗原に結合する非抗体タンパク質またはその断片を含む。特定の態様において、抗原結合ドメインはヒンジ領域を含む。
【0021】
可変ドメイン
用語「可変領域」または「可変ドメイン」は、抗原結合分子や抗体を抗原へと結合させることに関与する、抗体の重鎖または軽鎖のドメインのことをいう。天然型抗体の重鎖および軽鎖の可変ドメイン(それぞれVHおよびVL)は、通常、各ドメインが4つの保存され
たフレームワーク領域 (FR) および3つの超可変領域 (HVR) を含む、類似の構造を有する。(例えば、Kindt et al. Kuby Immunology, 6th ed., W.H. Freeman and Co., page 91
(2007) 参照。)1つのVHまたはVLドメインで、抗原結合特異性を与えるに充分であろう
。さらに、ある特定の抗原に結合する抗体は、当該抗原に結合する抗体からのVHまたはVLドメインを使ってそれぞれVLまたはVHドメインの相補的ライブラリをスクリーニングして、単離されてもよい。例えばPortolano et al., J. Immunol. 150:880-887 (1993); Clarkson et al., Nature 352:624-628 (1991) 参照。
【0022】
本明細書で用いられる用語「超可変領域」または「HVR」は、配列において超可変であ
り(「相補性決定領域」または「CDR」(complementarity determining region))、およ
び/または構造的に定まったループ(「超可変ループ」)を形成し、および/または抗原接触残基(「抗原接触」)を含む、抗体の可変ドメインの各領域のことをいう。通常、抗体は6つのHVRを含む:VHに3つ(H1、H2、H3)、およびVLに3つ(L1、L2、L3)である。本明細書での例示的なHVRは、以下のものを含む:
(a) アミノ酸残基26-32 (L1)、50-52 (L2)、91-96 (L3)、26-32 (H1)、53-55 (H2)、および96-101 (H3)のところで生じる超可変ループ (Chothia and Lesk, J. Mol. Biol. 196:901-917 (1987));
(b) アミノ酸残基24-34 (L1)、50-56 (L2)、89-97 (L3)、31-35b (H1)、50-65 (H2)、 および95-102 (H3)のところで生じるCDR (Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991));
(c) アミノ酸残基27c-36 (L1)、46-55 (L2)、89-96 (L3)、30-35b (H1)、47-58 (H2)、および93-101 (H3) のところで生じる抗原接触 (MacCallum et al. J. Mol. Biol. 262: 732-745 (1996));ならびに、
(d) HVRアミノ酸残基46-56 (L2)、47-56 (L2)、48-56 (L2)、49-56 (L2)、26-35 (H1)
、26-35b (H1)、49-65 (H2)、93-102 (H3)、および94-102 (H3)を含む、(a)、(b)、およ
び/または(c)の組合せ。
別段示さない限り、HVR残基および可変ドメイン中の他の残基(例えば、FR残基)は、
本明細書では上記のKabatらにしたがって番号付けされる。
【0023】
「フレームワーク」または「FR」は、超可変領域 (HVR) 残基以外の、可変ドメイン残
基のことをいう。可変ドメインのFRは、通常4つのFRドメイン:FR1、FR2、FR3、およびFR4からなる。それに応じて、HVRおよびFRの配列は、通常次の順序でVH(またはVL)に現れる:FR1-H1(L1)-FR2-H2(L2)-FR3-H3(L3)-FR4。
【0024】
定常領域
本発明の一つの実施態様としての定常領域とは、好ましくは抗体定常領域であり、より好ましくはIgG1、IgG2、IgG3、IgG4型の抗体定常領域であり、さらにより好ましくはヒトIgG1、IgG2、IgG3、IgG4型の抗体定常領域である。また本発明の別の一つの実施態様としての定常領域とは、好ましくは重鎖定常領域であり、より好ましくはIgG1、IgG2、IgG3、IgG4型の重鎖定常領域であり、さらにより好ましくはヒトIgG1、IgG2、IgG3、IgG4型の重鎖定常領域である。ヒトIgG1定常領域、ヒトIgG2定常領域、ヒトIgG3定常領域およびヒトIgG4定常領域のアミノ酸配列は公知である。ヒトIgG1、ヒトIgG2、ヒトIgG3、ヒトIgG4抗体の定常領域としては、遺伝子多型による複数のアロタイプ配列がSequences of proteins of immunological interest, NIH Publication No.91-3242に記載されているが、本発
明においてはそのいずれであっても良い。なお本発明のアミノ酸が改変された定常領域は、本発明のアミノ酸変異を含むものである限り、他のアミノ酸変異や修飾を含んでもよい。
【0025】
「ヒンジ領域」という用語は、野生型抗体重鎖においてCH1ドメインおよびCH2ドメインを連結する、例えばEUナンバリングシステムによれば216位あたりから230位あたりまでの、またはKabatナンバリングシステムによれば226位あたりから243位あたりまでの、抗体
重鎖ポリペプチド部分を意味する。天然型IgG抗体において、ヒンジ領域におけるEUナン
バリング220位のシステイン残基は、抗体軽鎖における214位のシステイン残基とジスルフィド結合を形成することが知られている。さらに、2つの抗体重鎖の間では、ヒンジ領域におけるEUナンバリング226位のシステイン残基どうし、および229位のシステイン残基どうしがジスルフィド結合を形成することが知られている。本明細書におけるヒンジ領域は、野生型のほか、野生型においてアミノ酸残基の置換、付加、または欠失させた改変体も包含する。
【0026】
本明細書で用語「Fc領域」は、少なくとも定常領域の一部分を含む免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために用いられる。この用語は、天然型配列のFc領域および変異
体Fc領域を含む。一態様において、ヒトIgG重鎖Fc領域はCys226から、またはPro230から
、重鎖のカルボキシル末端まで延びる。ただし、Fc領域のC末端のリジン (Lys447) また
はグリシン‐リジン(Gly446-Lys447)は、存在していてもしていなくてもよい。本明細
書では別段特定しない限り、Fc領域または定常領域中のアミノ酸残基の番号付けは、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health
Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD 1991 に記載の、EUナンバリ
ングシステム(EUインデックスとも呼ばれる)にしたがう。
【0027】
抗体断片
「抗体断片」および「抗体フラグメント」は、完全抗体が結合する抗原に結合する当該完全抗体の一部分を含む、当該完全抗体以外の分子のことをいう。抗体断片の例は、これらに限定されるものではないが、Fv、Fab、Fab'、Fab’-SH、F(ab')2;ダイアボディ;線状抗体;単鎖抗体分子(例えば、scFv);単鎖Fab(scFab);シングルドメイン抗体;および、抗体断片から形成された多重特異性抗体を含む。
【0028】
Fv(variable fragment)
本明細書において、「Fv(variable fragment)」という用語は、抗体の軽鎖可変領域
(VL(light chain variable region))と抗体の重鎖可変領域(VH(heavy chain variable region))とのペアからなる抗体由来の抗原結合ドメインの最小単位を意味する。1988年にSkerraとPluckthunは、バクテリアのシグナル配列の下流に抗体の遺伝子を挿入し
大腸菌中で当該遺伝子の発現を誘導することによって、均一でかつ活性を保持した状態で大腸菌のペリプラズム画分から調製されることを見出した(Science (1988) 240 (4855),
1038-1041)。ペリプラズム画分から調製されたFvは、抗原に対する結合を有する態様でVHとVLが会合していた。
【0029】
scFv、単鎖抗体、またはsc(Fv)2
本明細書において、「scFv」、「単鎖抗体」、または「sc(Fv)2」という用語は、単一
のポリペプチド鎖内に、重鎖および軽鎖の両方に由来する可変領域を含むが、定常領域を欠いている抗体断片を意味する。一般に、単鎖抗体は、抗原結合を可能にすると思われる所望の構造を形成するのを可能にする、VHドメインとVLドメインの間のポリペプチドリンカーをさらに含む。単鎖抗体は、The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, 113巻, Rosenburg、及び、Moore編, Springer-Verlag, New York, 269~315(1994)においてPluckthunによって詳細に考察されている。同様に、国際特許出願公開WO1988/001649および
米国特許第4,946,778号および同第5,260,203号を参照。特定の態様において、単鎖抗体はまた、二重特異性であるか、かつ/またはヒト化され得る。
【0030】
scFvはFvを構成するVHとVLとがペプチドリンカーによって連結された抗原結合ドメインである(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (1988) 85 (16), 5879-5883)。当該ペプチド
リンカーによってVHとVLとが近接した状態に保持され得る。
【0031】
sc(Fv)2は二つのVLと二つのVHの4つの可変領域がペプチドリンカー等のリンカーによって連結され一本鎖を構成する単鎖抗体である(J Immunol. Methods (1999) 231 (1-2), 177-189)。この二つのVHとVLは異なるモノクローナル抗体から由来することもあり得る。例えば、Journal of Immunology (1994) 152 (11), 5368-5374に開示されるような同一抗原中に存在する二種類のエピトープを認識する二重特異性(bispecific sc(Fv)2)も好適に挙げられる。sc(Fv)2は、当業者に公知の方法によって作製され得る。例えば、scFvを
ペプチドリンカー等のリンカーで結ぶことによって作製され得る。
【0032】
本明細書におけるsc(Fv)2を構成する抗原結合ドメインの構成としては、二つのVH及び
二つのVLが、一本鎖ポリペプチドのN末端側を基点としてVH、VL、VH、VL([VH]リンカ
ー[VL]リンカー[VH]リンカー[VL])の順に並んでいることを特徴とする抗体が挙げられるが、二つのVHと2つのVLの順序は特に上記の構成に限定されず、どのような順序で
並べられていてもよい。例えば以下のような、順序の構成も挙げることができる。
[VL]リンカー[VH]リンカー[VH]リンカー[VL]
[VH]リンカー[VL]リンカー[VL]リンカー[VH]
[VH]リンカー[VH]リンカー[VL]リンカー[VL]
[VL]リンカー[VL]リンカー[VH]リンカー[VH]
[VL]リンカー[VH]リンカー[VL]リンカー[VH]
【0033】
F(ab)
本明細書において、「F(ab)」(Fab、Fab’とも呼ばれる)は、VL(軽鎖可変領域)お
よびCL(軽鎖定常領域)からなる軽鎖と、重鎖のVH(重鎖可変領域)およびCH1(重鎖定
常領域中のγ1領域)からなる部分とから構成され、重鎖の当該部分と軽鎖がC末端領域でジスルフィド結合により結合した構造をとり得る。また、F(ab)はヒンジ領域の一部を含
み得る。抗体断片としてのF(ab)は、単にF(ab)と呼ばれるか、またはF(ab)フラグメント
と呼ばれ得る。抗原結合分子(例えば、抗体)の一部分としてのF(ab)も同様に単にF(ab)と呼ばれるが、F(ab)フラグメントと区別してF(ab)部分またはF(ab)領域と呼ばれること
もある。
本明細書において、F(ab)は、抗原結合活性を有してもよいし、有さなくてもよい。例
示的な一態様において、多重特異性抗原結合分子(H1L1/H2L2)に含まれる2種のF(ab)は
、いずれも抗原結合活性を有する。例示的な一態様において、多重特異性抗原結合分子の軽鎖交換体分子(H1L2/H2L1)に含まれる2種のF(ab)の一方または両方の抗原結合活性は
、当該多重特異性抗原結合分子に含まれる2種のF(ab)の抗原結合活性よりも弱い。特定の態様において、多重特異性抗原結合分子の軽鎖交換体分子に含まれる2種のF(ab)の一方または両方は、抗原結合活性を有さない。
【0034】
F(ab’)2
本明細書において、「F(ab’)2」(F(ab)’2とも呼ばれる)は、2つのF(ab)が結合した構造をとる抗体断片(F(ab’)2フラグメントとも呼ばれる)または抗原結合分子中の一部分(F(ab’)2部分もしくはF(ab’)2領域とも呼ばれる)を指す。F(ab’)2における2つのF(ab)の結合は、例えばイムノグロブリンヒンジ領域におけるジスルフィド結合であるが、これに限定されない。一態様において、F(ab’)2はヒンジ領域の一部を含む。一態様において、F(ab’)2は、二本の軽鎖、ならびに、2つの重鎖部分間でジスルフィド結合が形成
されるようにCH1ドメインおよびCH2ドメインの一部分の定常領域を含む二本の重鎖部分を含む。
本明細書において、F(ab’)2は、抗原結合活性を有してもよいし、有さなくてもよい。例示的な一態様において、多重特異性抗原結合分子に含まれるF(ab’)2は、いずれも抗原結合活性を有する。例示的な一態様において、多重特異性抗原結合分子の軽鎖交換体分子に含まれるF(ab’)2の抗原結合活性は、当該多重特異性抗原結合分子に含まれるF(ab’)2の抗原結合活性よりも弱い。特定の態様において、二重特異性抗体の軽鎖交換体分子に含まれるF(ab’)2は、抗原結合活性を有さない。
【0035】
多重特異性抗原結合分子
特定の態様において、本明細書で提供される抗原結合分子は、多重特異性抗原結合分子(例えば、二重特異性抗原結合分子)である。多重特異性抗原結合分子は、少なくとも2
つの異なる部位に結合特異性を有する、モノクローナル抗原結合分子である。特定の態様において、結合特異性の1つは、ある特定の抗原(例えば、血液凝固第IX因子(FIX)、エピレギュリン(EREG)、IL-6受容体(IL-6R)など)に対するものであり、もう1つは他の任意の抗原(例えば、血液凝固第X因子(FX)、GPC3、KLHなど)へのものである。特定の態様において、多重特異性抗原結合分子は、ある1つの抗原上の異なった2つのエピトー
プに結合してもよい。また、特定の態様において、多重特異性抗原結合分子は、2つ以上
の異なる抗原に対して結合特異性を有する1つの抗原結合部位を含む。一例として、多重
特異性抗原結合分子は、2つ以上の異なる抗原に対する第1の抗原結合部位と、1つの抗原
に対する第2の抗原結合部位とを含む。当該多重特異性抗原結合分子は、2つの異なる抗原結合部位を有し、かつ3つ以上の異なる抗原に対して結合特異性をもつ分子である。多重
特異性抗原結合分子は、全長抗体としてまたは抗体断片として調製され得る。
【0036】
多重特異性抗原結合分子を作製するための手法は、これらに限定されるものではないが、異なる特異性を有する2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖ペアの組み換え共発現(Milstein and Cuello, Nature 305: 537 (1983)、WO93/08829、およびTraunecker et al., EMBO J. 10: 3655 (1991) 参照)、およびknob-in-hole技術(例えば、米国特許第5,731,168号参照)を含む。多重特異性抗原結合分子は、Fcヘテロ二量体分子を作製するために静電ステアリング効果 (electrostatic steering effects) を操作すること (WO2009/089004A1);2つ以上の抗体または断片を架橋すること(米国特許第4,676,980号およびBrennan et al., Science, 229: 81 (1985)参照);ロイシンジッパーを用いて2つの特異性を有する抗体を作成すること(Kostelny et al., J. Immunol., 148(5):1547-1553 (1992) 参照);「ダイアボディ」技術を用いて二重特異性抗体断片を作製すること(Hollinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:6444-6448 (1993) 参照);および、単鎖Fv (scFv) 二量体を用いること(Gruber et al., J. Immunol., 152:5368 (1994) 参照);および、例えばTutt et al. J. Immunol. 147: 60 (1991) に記載されるように三重特異性抗体を調
製すること、によって作製してもよい。
【0037】
組成物の処理によるF(ab)フラグメント、F(ab’)2フラグメントの生成
特定の態様においては、本明細書で提供される多重特異性抗原結合分子を含む組成物を処理し、F(ab)フラグメントを生成する。当該態様において、組成物を「処理し」または
「処理する」とは、組成物に対し、多重特異性抗原結合分子および/または軽鎖交換体分子を切断してF(ab)を生成するため処理を施すことであり、当業者に公知の方法で実施で
きる。分子を「切断する」とは、例えば、分子中のアミノ酸残基同士の結合やジスルフィド結合を分離することを指す。
処理の方法としては、例えば、組成物にプロテアーゼを添加し、多重特異性抗原結合分子および/または軽鎖交換体分子を切断することができる。プロテアーゼは、GingisKHAN(登録商標)(Kgp)、FabRICATOR(登録商標)(IdeS)、FabRICATOR(登録商標)Z(IdeZ)、FabALACTICA(登録商標)(IgdE)、FabULOUS(登録商標)(SpeB)(いずれもGenovis)などに代表される細菌由来の抗体分解酵素や、ペプシン、パパイン、Lys-Cなどを
用いることができる。
プロテアーゼの処理により、多重特異性抗原結合分子および/または軽鎖交換体分子のヒンジ部のFc側を切断することもできるし、F(ab)側を切断することもできる。
F(ab)側を切断する場合は、切断によりF(ab)フラグメントを生成する(
図7参照)。このようにしてF(ab)フラグメントを生成した後に、FcフラグメントをプロテインAカラムに吸着させて除去することにより、F(ab)フラグメントを取得することができる。
一方、Fc側を切断する場合、F(ab’)2フラグメントを生成する(
図6参照)。F(ab’)2フラグメントの取得は、F(ab’)2フラグメントを生成する条件下で抗体をフィシンと反応させることによっても可能である。これらのプロテアーゼにて抗原結合分子(例えば完全モノクローナル抗体)を部分消化した後に、FcフラグメントをプロテインAカラムに吸着
させて除去することにより、F(ab’)2フラグメントを取得することができる。
次いで、還元剤によりF(ab’)2フラグメントのジスルフィド結合を切断し、F(ab)フラ
グメント(Fab’フラグメントとも呼ばれる)を生成することができる(
図6参照)。還
元剤は、TCEP、2-MEA、Cysteine、Dithiothreitol、2-Mercaptoethanol、3-mercapto-1,2-propanediol、TBP等をもちいることができる。
【0038】
用語「宿主細胞」、「宿主細胞株」、および「宿主細胞培養物」は、相互に交換可能に用いられ、外来核酸を導入された細胞(そのような細胞の子孫を含む)のことをいう。宿主細胞は「形質転換体」および「形質転換細胞」を含み、これには初代の形質転換細胞および継代数によらずその細胞に由来する子孫を含む。子孫は、親細胞と核酸の内容において完全に同一でなくてもよく、変異を含んでいてもよい。オリジナルの形質転換細胞がスクリーニングされたまたは選択された際に用いられたものと同じ機能または生物学的活性を有する変異体子孫も、本明細書では含まれる。
【0039】
本明細書で用いられる用語「ベクター」は、それが連結されたもう1つの核酸を増やす
ことができる、核酸分子のことをいう。この用語は、自己複製核酸構造としてのベクター、および、それが導入された宿主細胞のゲノム中に組み入れられるベクターを含む。あるベクターは、自身が動作的に連結された核酸の、発現をもたらすことができる。そのようなベクターは、本明細書では「発現ベクター」とも称される。
【0040】
組み換えの方法および構成
例えば、米国特許第4,816,567号に記載されるとおり、抗原結合分子は組み換えの方法
や構成を用いて製造することができる。そのような製造の非限定的な例において、抗原結合分子をコードする単離された核酸が用いられる。そのような核酸は、抗原結合分子のVLを含むアミノ酸配列および/またはVHを含むアミノ酸配列(例えば、抗原結合分子の軽鎖および/または重鎖)をコードしてもよい。このような核酸を含む1つまたは複数のベク
ター(例えば、発現ベクター)が用いられてもよい。例示的な態様において、このような核酸またはベクターを含む宿主細胞が用いられる。このような態様の1つでは、宿主細胞
は、(1)抗原結合分子のVLを含むアミノ酸配列および抗原結合分子のVHを含むアミノ酸配
列をコードする核酸を含むベクター、または、(2)抗原結合分子のVLを含むアミノ酸配列
をコードする核酸を含む第一のベクターと抗原結合分子のVHを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む第二のベクターを含む(例えば、形質転換されている)。一態様において、宿主細胞は、真核細胞である(例えば、チャイニーズハムスター卵巣 (CHO) 細胞)ま
たはリンパ系の細胞(例えば、Y0、NS0、Sp2/0細胞))。一態様において、抗原結合分子の発現に好適な条件下で、上述のとおり当該抗原結合分子をコードする核酸を含む宿主細胞を培養すること、および任意で、当該抗原結合分子を宿主細胞(または宿主細胞培養培地)から回収することを含む、抗原結合分子を作製する方法が提供される。
【0041】
抗原結合分子の組み換え製造のために、抗原結合分子をコードする核酸を単離し、さらなるクローニングおよび/または宿主細胞中での発現のために、1つまたは複数のベクタ
ーに挿入する。そのような核酸は、従来の手順を用いて容易に単離および配列決定されるだろう(例えば、抗原結合分子の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを用いることで)。
【0042】
抗原結合分子をコードするベクターのクローニングまたは発現に好適な宿主細胞は、本明細書に記載の原核細胞または真核細胞を含む。例えば、抗原結合分子は、特にグリコシル化およびFcエフェクター機能が必要とされない場合は、細菌で製造してもよい。細菌での抗体断片およびポリペプチドの発現に関して、例えば、米国特許第5,648,237号、第5,789,199号、および第5,840,523号を参照のこと。(加えて、大腸菌における抗体断片の発
現について記載したCharlton, Methods in Molecular Biology, Vol. 248 (B.K.C. Lo, ed., Humana Press, Totowa, NJ, 2003), pp.245-254も参照のこと。)発現後、抗原結合
分子は細菌細胞ペーストから可溶性フラクション中に単離されてもよく、またさらに精製することができる。
【0043】
原核生物に加え、部分的なまたは完全なヒトのグリコシル化パターンを伴う抗原結合分子の産生をもたらす、グリコシル化経路が「ヒト化」されている菌類および酵母の株を含む、糸状菌または酵母などの真核性の微生物は、抗原結合分子コードベクターの好適なクローニングまたは発現宿主である。Gerngross, Nat. Biotech. 22:1409-1414 (2004)および Li et al., Nat. Biotech. 24:210-215 (2006) を参照のこと。
【0044】
多細胞生物(無脊椎生物および脊椎生物)に由来するものもまた、グリコシル化された抗原結合分子の発現のために好適な宿主細胞である。無脊椎生物細胞の例は、植物および昆虫細胞を含む。昆虫細胞との接合、特にSpodoptera frugiperda細胞の形質転換に用い
られる、数多くのバキュロウイルス株が同定されている。
【0045】
植物細胞培養物も、宿主として利用することができる。例えば、米国特許第5,959,177
号、第6,040,498号、第6,420,548号、第7,125,978号、および第6,417,429号(トランスジェニック植物で抗原結合分子を産生するための、PLANTIBODIES(商標)技術を記載)を参照のこと。
【0046】
脊椎動物細胞もまた宿主として使用できる。例えば、浮遊状態で増殖するように適応された哺乳動物細胞株は、有用であろう。有用な哺乳動物宿主細胞株の他の例は、SV40で形質転換されたサル腎CV1株 (COS-7);ヒト胎児性腎株(Graham et al., J. Gen Virol. 36:59 (1977) などに記載の293または293細胞);仔ハムスター腎細胞 (BHK);マウスセル
トリ細胞(Mather, Biol. Reprod. 23:243-251 (1980) などに記載のTM4細胞);サル腎
細胞 (CV1);アフリカミドリザル腎細胞 (VERO-76);ヒト子宮頸部癌細胞 (HELA);イヌ
腎細胞 (MDCK);Buffalo系ラット肝細胞 (BRL 3A);ヒト肺細胞 (W138);ヒト肝細胞 (Hep G2);マウス乳癌 (MMT 060562);TRI細胞(例えば、Mather et al., Annals N.Y. Acad. Sci. 383:44-68 (1982) に記載);MRC5細胞;および、FS4細胞などである。他の有用
な哺乳動物宿主細胞株は、DHFR- CHO細胞 (Urlaub et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:4216 (1980)) を含むチャイニーズハムスター卵巣 (CHO) 細胞;およびY0、NS0、およびSp2/0などの骨髄腫細胞株を含む。抗原結合分子産生に好適な特定の哺乳動物宿主細
胞株の総説として、例えば、Yazaki and Wu, Methods in Molecular Biology, Vol. 248 (B.K.C. Lo, ed., Humana Press, Totowa, NJ), pp. 255-268 (2003) を参照のこと。
【0047】
多重特異性抗原結合分子(H1L1/H2L2)およびその軽鎖交換体分子(H1L2/H2L1)
本明細書において、第一の重鎖可変ドメイン(H1に含まれるVH)と第一の軽鎖可変ドメイン(L1に含まれるVL)を含むまたはこれらからなる第一のF(ab)をH1L1、第二の重鎖可変ド
メイン(H2に含まれるVH)と第二の軽鎖可変ドメイン(L2に含まれるVL)を含むまたはこれらからなる第二のF(ab)をH2L2と呼び、H1L1とH2L2を含む多重特異性抗原結合分子をH1L1/H2L2と呼ぶ。また、第一の重鎖可変ドメイン(H1に含まれるVH)と第二の軽鎖可変ドメイン(L2に含まれるVL)を含むまたはこれらからなる第三のF(ab)をH1L2、第二の重鎖可変ドメイ
ン(H2に含まれるVH)と第一の軽鎖可変ドメイン(L1に含まれるVL)を含むまたはこれらからなる第四のF(ab)をH2L1と呼び、H1L2とH2L1を含む分子、すなわちH1L1/H2L2の軽鎖交換体分子を、H1L2/H2L1と呼ぶ。したがって、本明細書における軽鎖交換体分子とは、目的と
する多重特異性抗原結合分子を構成する2つの異なる重鎖と2つの異なる軽鎖との組合せが反転して(ミスペアを起こして)生成された不純物分子である。
非限定的な一態様において、軽鎖交換体分子H1L2/H2L1は、多重特異性抗原結合分子H1L1/H2L2を含む組成物中に不純物として含まれ得る。
一態様において、多重特異性抗原結合分子H1L1/H2L2は、第一の重鎖可変(VH)ドメイ
ンおよびCH1ドメインを含むもしくはこれらからなる重鎖部分(H1)と、第一の軽鎖可変(VL)ドメインおよびCLドメインを含むもしくはこれらからなる軽鎖部分(L1)とを含むまた
はこれらからなる第一のF(ab)(H1L1を呼ぶ)、ならびに第二の重鎖可変(VH)ドメイン
およびCH1ドメインを含むもしくはこれらからなる重鎖部分(H2)と、第二の軽鎖可変(VL
)ドメインおよびCLドメインを含むもしくはこれらからなる軽鎖部分(L2)とを含むまたはこれらからなる第二のF(ab)(H2L2と呼ぶ)を含む。
一態様において、多重特異性抗原結合分子H1L1/H2L2の軽鎖交換体分子であるH1L2/H2L1は、第一の重鎖可変(VH)ドメインおよびCH1ドメインを含むもしくはこれらからなる重
鎖部分(H1)と、第二の軽鎖可変(VL)ドメインおよびCLドメインを含むもしくはこれらからなる軽鎖部分(L2)とを含むまたはこれらからなる第三のF(ab)(H1L2と呼ぶ)、ならび
に第二の重鎖可変(VH)ドメインおよびCH1ドメインを含むもしくはこれらからなる重鎖
部分(H2)と、第一の軽鎖可変(VL)ドメインおよびCLドメインを含むもしくはこれらからなる軽鎖部分(L1)とを含むまたはこれらからなる第四のF(ab)(H2L1と呼ぶ)を含む。
第一のF(ab)であるH1L1、および第二のF(ab)であるH2L2は、それぞれ抗原結合活性を有してもよいし、有さなくてもよい。好ましい例示的な一態様において、H1L1およびH2L2は、いずれも抗原結合活性を有する。
第三のF(ab)であるH1L2、および第四のF(ab)であるH2L1は、それぞれ抗原結合活性を有してもよいし、有さなくてもよい。非限定的な一態様において、H1L2およびH2L1の一方または両方は、抗原結合活性を有する。例示的な一態様において、H1L2およびH2L1の一方または両方の抗原結合活性は、H1L1およびH2L2の一方または両方の抗原結合活性と比べて弱い。特定の態様において、H1L2およびH2L1の一方または両方は、抗原結合活性を有さない。
【0048】
多重特異性抗原結合分子および軽鎖交換体分子を含む組成物の分析方法
一局面において、本開示は、多重特異性抗原結合分子を含む組成物における、不純物分子(例えば軽鎖交換体分子)の分析方法を提供する。本局面の一態様において、本開示は、多重特異性抗原結合分子を含む組成物における、不純物分子(例えば軽鎖交換体分子)の検出方法を提供する。別の一態様において、本開示は、多重特異性抗原結合分子を含む組成物における、不純物分子(例えば軽鎖交換体分子)の含有量および/または含有比率
を測定する方法を提供する。
別の局面において、本開示は、多重特異性抗原結合分子および不純物分子(例えば軽鎖交換体分子)を含む組成物における、多重特異性抗原結合分子および不純物分子の分析方法を提供する。本局面の一態様において、本開示は、多重特異性抗原結合分子および不純物分子(例えば軽鎖交換体分子)を含む組成物における、不純物分子の検出方法を提供する。本局面の一態様において、本開示は、多重特異性抗原結合分子および不純物分子(例えば軽鎖交換体分子)を含む組成物における多重特異性抗原結合分子および不純物分子の含有量および/または含有比率を測定する方法を提供する。別の一態様において、本開示
は、多重特異性抗原結合分子および不純物分子(例えば軽鎖交換体分子)を含む組成物における多重特異性抗原結合分子の含有量および/または含有比率を測定する方法を提供す
る。別の一態様において、本開示は、多重特異性抗原結合分子および不純物分子(例えば軽鎖交換体分子)を含む組成物における多重特異性抗原結合分子の純度を測定する方法を提供する。
【0049】
一態様において、本開示の方法は、以下の工程1~2を含む:
1)多重特異性抗原結合分子を含む組成物を処理し、複数のF(ab)フラグメントを生成す
る工程;ならびに
2)電荷又は疎水性相互作用に基づく分離法により前記複数のF(ab)フラグメントを測定
し、組成物中の軽鎖交換体分子の含有量または多重特異性抗原結合分子に対する軽鎖交換体分子の含有比率を求める工程。
【0050】
特定の態様において、工程1は、プロテアーゼにより、組成物に含まれる分子のヒンジ部のF(ab)側を切断する工程である。特定の態様において、工程1は、F(ab)フラグメントを生成する条件下で、イムノグロブリンヒンジ領域(抗原結合分子のヒンジ部)のF(ab)
領域側を切断するプロテアーゼにより処理して、F(ab)フラグメントを生成することを含
む。そのようなプロテアーゼの非限定的な例として、パパイン、Lys-C、GingisKHAN(登
録商標)(Genovis)、FabALACTICA(登録商標)(Genovis)、フィシンを挙げることが
できる。
【0051】
別の特定の態様において、工程1は、以下の工程1-1と1-2を含む:
1-1)組成物に含まれる分子を切断してF(ab)’2フラグメントを生成する工程;ならびに
1-2)F(ab)’2フラグメントを切断して2種以上のF(ab)フラグメントを生成する工程。
特定の態様において、工程1-1は、プロテアーゼにより、組成物に含まれる分子のヒンジ部のFc側を切断する工程である。特定の態様において、工程1-1は、F(ab)’2フラグメントを生成する条件下での、イムノグロブリンヒンジ領域(抗原結合分子のヒンジ部)のFc領域側を切断するプロテアーゼによる処理を含む。そのようなプロテアーゼの非限定的な例として、ペプシン、FabRICATOR(登録商標)(Genovis)、FabRICATOR(登録商
標)Z(Genovis)、FabULOUS(登録商標)(Genovis)、フィシンを挙げることができる
。
特定の態様において、工程1-2は、還元剤により、F(ab)’2フラグメントのジスルフィド結合を切断する工程である。そのような還元剤の非限定的な例として、TCEP、2-MEA
、Cysteine、Dithiothreitol、2-Mercaptoethanol、3-mercapto-1,2-propanediol、TBPを挙げることができる。一態様において、当該還元剤による処理は、F(ab)’2フラグメントのヒンジ部(イムノグロブリンヒンジ領域)におけるジスルフィド結合を切断する条件下で行われ、そのような条件は当業者に公知である。
【0052】
特定の態様において、工程2は、当業者に公知の、電荷又は疎水性相互作用に基づく分離法により行うことができる。そのような分離法としては、例えば、陽イオン交換(CEX
)クロマトグラフィー,陰イオン交換(AEX)クロマトグラフィー,疎水性相互作用クロ
マトグラフィー(HIC),逆相クロマトグラフィーを挙げることができるが、これらに限
定されない。
【0053】
特定の態様において、工程1で生成される2種以上のF(ab)フラグメントはそれぞれ等電点が異なる。一態様において、H1L1, H2L2, H1L2, H2L1のF(ab)フラグメントを構成する
少なくとも1つのアミノ酸残基が改変されることにより、それぞれのF(ab)フラグメントの等電点に差異がでるように構成されている。
【0054】
特定の態様において、多重特異性抗原結合分子(H1L1/H2L2)は、以下の不純物(1)~
(8):
(1)第一の重鎖可変ドメインと第一の軽鎖可変ドメインを含む第一のF(ab)(H1L1)の
ホモ二量体(H1L1/H1L1)
(2)第二の重鎖可変ドメインと第二の軽鎖可変ドメインを含む第二のF(ab)(H2L2)の
ホモ二量体(H2L2/H2L2)
(3)第一の重鎖可変ドメインと第二の軽鎖可変ドメインを含む第三のF(ab)(H1L2)の
ホモ二量体(H1L2/H1L2)
(4)第二の重鎖可変ドメインと第一の軽鎖可変ドメインを含む第四のF(ab)(H2L1)の
ホモ二量体(H2L1/H2L1)
(5)第一の重鎖可変ドメインと第一の軽鎖可変ドメインを含む第一のF(ab)(H1L1)と
、第一の重鎖可変ドメインと第二の軽鎖可変ドメインを含む第三のF(ab)(H1L2)とを含
むヘテロ二量体(H1L1/H1L2)
(6)第一の重鎖可変ドメインと第一の軽鎖可変ドメインを含む第一のF(ab)(H1L1)と
、第二の重鎖可変ドメインと第一の軽鎖可変ドメインを含む第四のF(ab)(H2L1)とを含
むヘテロ二量体(H1L1/H2L1)
(7)第二の重鎖可変ドメインと第二の軽鎖可変ドメインを含む第二のF(ab)(H2L2)と
、第一の重鎖可変ドメインと第二の軽鎖可変ドメインを含む第三のF(ab)(H1L2)とを含
むヘテロ二量体(H2L2/H1L2)
(8)第二の重鎖可変ドメインと第二の軽鎖可変ドメインを含む第二のF(ab)(H2L2)と
、第二の重鎖可変ドメインと第一の軽鎖可変ドメインを含む第四のF(ab)(H2L1)とを含
むヘテロ二量体(H2L2/H2L1)
との間で等電点に差を設けるようアミノ酸残基が改変された分子である。
特定の態様において、多重特異性抗原結合分子を含む組成物は、等電点の差を利用した精製工程により不純物(1)~(8)が除去されている。
【0055】
特定の態様において、多重特異性抗原結合分子は二重特異性抗体である。一態様において、二重特異性抗体は、pI(等電点)差を有する第一および第二の重鎖を含む。そのような重鎖は、pI差を有する重鎖可変ドメインおよび/またはpI差を有する重鎖定常ドメインを含む。
pI差を有する重鎖定常ドメインとしては、pI差を有する抗体の重鎖定常領域が挙げられ、元来pIに差のあるIgG1、IgG2、IgG3、IgG4の重鎖定常領域を用いて第一および第二の重鎖にpI差を導入することもできるし、第一および第二の重鎖中の重鎖定常領域における、これらサブクラス間の等電点の違いに起因するアミノ酸のみ、あるいはそれらの等電点には影響しない隣接するアミノ酸を同時に改変することにより非野生型ヒト定常領域を作製し、2つの定常領域にpI差を導入することもできる。定常領域にpI差を導入するための改変箇所としては、例えば重鎖定常領域のEUナンバリングで、H鎖137番目、196番目、203番目、214番目、217番目、233番目、268番目、274番目、276番目、297番目、355番目、392
番目、419番目、435番目が挙げられる。また、重鎖定常領域の糖鎖を除去することによりpI差が生じることから、糖鎖付加部位の297番目もpI鎖を導入するための改変箇所として
挙げられる。
重鎖可変ドメインについても同様に、第一および第二の重鎖中の重鎖可変ドメインにおける特定の位置のアミノ酸残基を改変し、2つの重鎖可変ドメインにpI差を導入することができる。そのようなpI差を有する重鎖可変ドメインとしては、例えば、第一の重鎖可変ドメインの特定の位置のアミノ酸残基が電荷を有し、第二の重鎖可変ドメインの当該位置のアミノ酸残基は、第一の重鎖可変ドメインにおける当該位置のアミノ酸残基とは反対の電荷を有するか、または電荷を有しないものを挙げることができる。
特定の態様において、二重特異性抗体は、重鎖可変ドメインにおけるKabatナンバリン
グによる1位、3位、5位、8位、10位、12位、13位、15位、16位、19位、23位、25位、26位、39位、42位、43位、44位、46位、68位、71位、72位、73位、75位、76位、81位、82b位
、83位、85位、86位、97位、105位、108位、110位及び112位のアミノ酸残基、及び、重鎖定常ドメインにおけるEUナンバリングによる137位、196位、203位、214位、217位、233位、268位、274位、276位、297位、355位、392位、419位及び435位のアミノ酸残基から選ばれる少なくとも一つのアミノ酸残基が改変された抗体である。特定の態様において、二重特異性抗体は、血液凝固第IX因子および/または活性化血液凝固第IX因子に結合するF(ab)と、血液凝固第X因子に結合するF(ab)とを含む抗体である。
【0056】
特定の態様において、多重特異性抗原結合分子または二重特異性抗体を含む組成物は医薬組成物である。
【0057】
特定の態様において、本開示の方法は、以下の工程1~3を含む、医薬組成物の品質管理方法(または品質評価方法)である。
1)多重特異性抗原結合分子を含む組成物を処理し、複数のF(ab)フラグメントを生成す
る工程;
2)電荷又は疎水性相互作用に基づく分離法により前記複数のF(ab)フラグメントを測定
し、組成物中の軽鎖交換体分子の含有量または多重特異性抗原結合分子に対する軽鎖交換体分子の含有比率を求める工程;ならびに
3)工程2で求められた軽鎖交換体分子の含有量または含有比率が、予め設定された不純物分子の含有量/含有比率の許容値以下であることを確認する工程
【0058】
特定の態様において、本開示は、上記品質管理方法(または品質評価方法)により品質の担保された医薬品原体を提供する。
【0059】
なお、本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0061】
<多重特異性抗原結合分子およびその軽鎖交換体分子のF(ab)>
本実施例において、第一の重鎖可変(VH)ドメインおよびCH1ドメインを含む重鎖部分(H1)と、第一の軽鎖可変(VL)ドメインおよびCLドメインを含む軽鎖部分(L1)とを含む第
一のF(ab)をH1L1と呼び、第二の重鎖可変(VH)ドメインおよびCH1ドメインを含む重鎖部分(H2)と、第二の軽鎖可変(VL)ドメインおよびCLドメインを含む軽鎖部分(L2)とを含む第二のF(ab)をH2L2と呼ぶ。Fab部分にH1L1のみを含むホモ二量体をH1L1/H1L1と、H2L2の
みを含むホモ二量体をH2L2/H2L2と表す。また、Fab部分にH1L1とH2L2を含む多重特異性抗原結合分子をH1L1/H2L2と表す。また、第一の重鎖可変(VH)ドメインおよびCH1ドメインを含む重鎖部分(H1)と、第二の軽鎖可変(VL)ドメインおよびCLドメインを含む軽鎖部分(L2)とを含む第三のF(ab)をH1L2、第二の重鎖可変(VH)ドメインおよびCH1ドメインを含む重鎖部分(H2)と、第一の軽鎖可変(VL)ドメインおよびCLドメインを含む軽鎖部分(L1)とを含む第四のF(ab)をH2L1と呼ぶ。Fab部分にH1L2のみを含むホモ二量体をH1L2/H1L2と
、H2L1のみを含むホモ二量体をH2L1/H2L1と表す。また、Fab部分にH1L2とH2L1を含む分子、すなわち多重特異性抗原結合分子H1L1/H2L2の軽鎖交換体分子を、H1L2/H2L1と呼ぶ。本実施例において用いた各ホモ二量体および多重特異性抗原結合分子、軽鎖交換体分子のアミノ酸配列を以下の表1に示す。
【0062】
【0063】
<実施例1>抗FIX(a)/抗FX二重特異性抗体およびその不純物分子(軽鎖交換体分子)に
含まれるF(ab)フラグメントの分離
表1に記載されている抗FIX(a)抗体および抗FX抗体の重鎖、軽鎖からなる各ホモ二量体
をコードする発現ベクターをHEK細胞に導入し、4日間培養したのちに培養上清を回収した。プロテインAカラムによる精製を行い、ホモ二量体H1L1/H1L1、H2L2/H2L2、H1L2/H1L2
、およびH2L1/H2L1を含む試料が作製された。その後、試料にFabRICATOR(Genovis)が添加され,酵素処理が行われた。さらに,終濃度5 mMとなるTCEP(Thermo Fisher Scientific)が添加され、H1L1、H2L2、H1L2、H2L1のF(ab)フラグメントを含む試料が調製された
。
この試料について、実施例5に示す方法に従ってCEX分析が実施された。
図1に結果を示す。各F(ab)フラグメントに由来するピークが異なる溶出時間で観測された。すなわち、
抗FIX(a)/抗FX二重特異性抗体および軽鎖交換体分子に含まれるF(ab)ドメインであるH1L1、H2L2、H1L2、H2L1が異なる保持時間で溶出された。
【0064】
<実施例2>抗EREG/抗GPC3二重特異性抗体およびその不純物分子(軽鎖交換体分子)に含まれるF(ab)フラグメントの分離
表1に記載されている抗EREG抗体および抗GPC3抗体の重鎖、軽鎖からなる各ホモ抗体を
コードする発現ベクターをHEK細胞に導入し、4日間培養したのちに培養上清を回収した。プロテインAカラムによる精製を行い、ホモ二量体H1L1/H1L1、H2L2/H2L2、H1L2/H1L2、
およびH2L1/H2L1を含む試料が作製された。その後、試料にGingisKHAN(Genovis)が添加され、H1L1、H2L2、H1L2、H2L1のF(ab)フラグメントを含む試料が調製された。
この試料について、実施例5に示す方法に従ってCEX分析が実施された。
図2に結果を示
す。各F(ab)フラグメントに由来するピークが異なる溶出時間で観測された。すなわち、
抗EREG/抗GPC3二重特異性抗体および軽鎖交換体分子に含まれるF(ab)ドメインであるH1L1、H2L2、H1L2、H2L1が異なる保持時間で溶出された。
【0065】
<実施例3>抗IL-6R/抗KLH二重特異性抗体およびその不純物分子(軽鎖交換体分子)に含まれるF(ab)フラグメントの分離
表1に記載されている抗IL-6R抗体および抗KLH抗体の重鎖、軽鎖からなる各ホモ抗体を
コードする発現ベクターをHEK細胞に導入し、4日間培養したのちに培養上清を回収した。プロテインAカラムによる精製を行い、ホモ二量体H1L1/H1L1、H2L2/H2L2、H1L2/H1L2、
およびH2L1/H2L1を含む試料が作製された。その後、試料にGingisKHAN(Genovis)が添加され、H1L1、H2L2、H1L2、H2L1のF(ab)フラグメントを含む試料が調製された。
この試料について、実施例5に示す方法に従ってCEX分析が実施された。
図3に結果を示
す。各F(ab)フラグメントに由来するピークが異なる溶出時間で観測された。すなわち、
抗IL-6R/抗KLH二重特異性抗体および軽鎖交換体分子に含まれるF(ab)ドメインであるH1L1、H2L2、H1L2、H2L1が異なる保持時間で溶出された。
【0066】
<実施例4>抗IL-6R/抗KLH二重特異性抗体とその不純物分子(軽鎖交換体分子)の混合試料中における不純物分子の含有比率の定量
表1に記載されている抗IL-6R/抗KLH二重特異性抗体(H1L1/H2L2)およびその軽鎖交換
体分子(H1L2/H2L1)をコードする発現ベクターをそれぞれHEK細胞に導入し、4日間培養
したのちに培養上清を回収した。プロテインAカラムによる精製を行い、抗IL-6R/抗KLH
二重特異性抗体H1L1/H2L2と、軽鎖交換体分子H1L2/H2L1とが作製された。これらを、二重特異性抗体と軽鎖交換体分子との質量比が90:10となるように混合して試料が調製された。この試料にGingisKHAN(Genovis)が添加され,二重特異性抗体および軽鎖交換体分子
から分解されたH1L1、H2L2、H1L2、H2L1のF(ab)フラグメントを含む試料が調製された。
この試料について,実施例5に示す方法に従ってCEX分析が実施された。
図4に結果を示
す。H1L1,H2L2,H1L2,H2L1の各F(ab)フラグメントに由来するピークが観測された。不
純物分子由来であるH1L2およびH2L1のピークエリア値を全体のピークエリア値で割ったもの,すなわち(H1L2のピーク面積+H2L1のピーク面積)/(H1L1のピーク面積+H2L2のピ
ーク面積+H1L2のピーク面積+H2L1のピーク面積)の計算式により,不純物分子の含有比率は10%と算出された。
【0067】
<実施例5>F(ab)を含む試料のCEX分析
Prominence(島津製作所)装置を用いて分析が行われた。移動相Aに20 mM MES-NaOH, pH 5.5が,移動相Bに20 mM MES-NaOH, 500 mM NaCl, pH 5.5がそれぞれ用いられた。ProPAC WCX-10 4×250 mm(Thermo Fisher Scientific)カラムが取り付けられ,流速0.5 mL/min,B 1%,カラム温度25℃の条件で平衡化された。調製された各F(ab)を含む試料10 μg
分がカラムにインジェクションされた。0.5 mL/minの流速で送液しながらB%を1 %/minの
速度で上昇させることで陽イオン交換クロマトグラフィー(CEX)が実施された。ピーク
の検出は280 nmの吸光値を用いて行われた。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本開示の方法は、多重特異性抗原結合分子を含む組成物における不純物分子(例えば軽鎖交換体分子)の含有量または含有比率を正確に測定することができ、理論計算を用いて推定値を得るに留まる従来の分析方法と比べて有用である。
【配列表】