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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-05
(45)【発行日】2025-06-13
(54)【発明の名称】浮体式洋上風力発電施設の施工方法
(51)【国際特許分類】
   B63B 75/00 20200101AFI20250606BHJP
   F03D 13/25 20160101ALI20250606BHJP
【FI】
B63B75/00
F03D13/25
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023174198
(22)【出願日】2023-10-06
(65)【公開番号】P2025064432
(43)【公開日】2025-04-17
【審査請求日】2024-05-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000219406
【氏名又は名称】東亜建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】川又 義徳
(72)【発明者】
【氏名】加藤 大
(72)【発明者】
【氏名】迫 大介
【審査官】大野 明良
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-203195(JP,A)
【文献】特表2017-506184(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第114179983(CN,A)
【文献】Bechtel Infrastructure Ireland Limited,Vision 2041 Strategic Review,SHANNON FOYNES PORT,2022年09月,p.18,27,48-49,52-53,インターネット<URL:sfpc.ie/wp-content/uploads/2022/11/SFPC-Vision-2041-Strategic-Review-Final-Report.pdf>
【文献】株式会社大林組、東亜建設工業株式会社,1,250t吊 自己昇降式台船「柏鶴」,作業船 WORK VESSEL,日本,一般社団法人 日本作業船協会,2023年07月25日,JULY 2023(夏季号),表紙、3-6、64ページ,ISSN 0287-590X
【文献】港で浮体に風車搭載、SEP船利用,海事プレス,日本,海事プレス社,2023年04月17日,16744号,P.10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 75/00
F03D 1/00-80/80
E02B 3/04- 3/06
3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
設置対象海域において係留される浮体と、前記浮体上に立設された風力発電装置とを有して、前記浮体を前記設置対象海域に係留した状態で、水面から前記浮体の下端までの喫水が20m以下となる浮体式洋上風力発電施設を複数基並行して施工する施工方法であって、
水深が8m以上20m以下の海域に仮設の水上構造物を構築し、
前記水上構造物に隣接した海域に複数の作業エリアを設け、
前記風力発電装置を構成するナセルハブ、ブレードおよびタワーの組立部品を複数組前記水上構造物上に仮置きしておき、
任意の前記作業エリアに停船させた自己昇降式台船のクレーンを使用して、その作業エリアの海底に着底させている前記浮体に対して、前記水上構造物に仮置きされている一組の前記組立部品を設置して、前記浮体上に前記風力発電装置が構築された組立体を組立てる組立作業を行い、
前記自己昇降式台船は、前記組立作業を終えた前記作業エリアから別の前記作業エリアに順次移動させて、その作業エリアの海底に着底させている前記浮体に対して前記組立作業を行い、それに並行して、前記組立作業を先行して終えた前記組立体に対しては調整作業を含む付加作業を行い、
前記付加作業を終えた前記組立体は順次、前記設置対象海域まで海上輸送し、前記設置対象海域においてその前記組立体を係留することを特徴とする浮体式洋上風力発電施設の施工方法。
【請求項2】
前記自己昇降式台船により前記別の作業エリアで前記浮体に対して前記組立作業を行っているときに、それに並行して、前記組立作業を先行して終えた前記作業エリアにおいて前記組立体に対する前記付加作業を行う請求項1に記載の浮体式洋上風力発電施設の施工方法。
【請求項3】
前記水上構造物として、海域に桟橋または浮体式構造物を構築する請求項1または2に記載の浮体式洋上風力発電施設の施工方法。
【請求項4】
前記組立体を前記設置対象海域へ海上輸送した前記作業エリアの海底に、新たな前記浮体を着底させる請求項1または2に記載の浮体式洋上風力発電施設の施工方法。
【請求項5】
前記水上構造物を陸地から離間させて構築し、複数の前記作業エリアを前記水上構造物を挟んで対向する領域に設ける請求項1または2に記載の浮体式洋上風力発電施設の施工方法。
【請求項6】
前記水上構造物上のそれぞれの前記作業エリア近傍の場所毎に、一組の前記組立部品を仮置きしておく請求項1または2に記載の浮体式洋上風力発電施設の施工方法。
【請求項7】
前記水上構造物を防波堤の内側の海域に構築する請求項1または2に記載の浮体式洋上風力発電施設の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浮体式洋上風力発電施設の施工方法に関し、さらに詳しくは、岸壁に浮体式洋上風力発電施設の搭載拠点(基地港湾)を整備しなくとも、設置対象海域に係留した状態での浮体の喫水が20m以下の浮体式洋上風力発電施設を効率的に施工できる浮体式洋上風力発電施設の施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
海域に係留される浮体の上に風力発電装置を立設した構造の浮体式洋上風力発電施設は、浮体の構造毎に、スパー型、セミサブ型、TLP(テンションレグプラットフォーム)型、バージ(コンクリート製)型に分類されている。例えば、スパー型の浮体式洋上風力発電施設は、高さが50m~100m程度の柱形状のスパー型浮体の大部分を潜水させた状態とし、その1本の巨大なスパー型浮体の上に風力発電装置を立設している(例えば、特許文献1参照)。設置対象海域に係留した状態でのスパー型の浮体の喫水は50m~100m程度である。一方で、スパー型以外のセミサブ型、TLP型、バージ型の浮体式洋上風力発電施設では、浮体を半潜水状態で海上に浮かべた状態とし、設置対象海域に係留した状態でのセミサブ型の浮体、TLP型の浮体、バージ型の浮体の喫水はそれぞれ、20m以下である。具体的には、例えば、セミサブ型の浮体式洋上風力発電施設では、高さが20m~40m程度の複数のコラムとコラムどうしを連結する連結体(所謂、フーチング部材等)とを有するセミサブ型の浮体を半潜水状態で海上に浮かべた状態とし、浮体の1ヶ所のコラム上に風力発電装置を立設している。
【0003】
一般的なスパー型の浮体式洋上風力発電装置の施工方法では、岸壁などの陸上においてスパー型の浮体と風力発電装置を構成するタワーとを横に倒した状態で接続し、スパー型の浮体とタワーの一体物をそのまま横に倒した状態で半潜水台船に積み込み、水深が100m以上の海域まで運搬する。そして、水深が100m以上の海域でスパー型の浮体とタワーの一体物を進水させ、スパー型の浮体のバラスト水の調整を行うことで、横に倒していた一体物を起こして立てた状態にする。その後、立てた状態の一体物を設置対象海域まで曳航し、水深が100m以上の設置対象海域において一体物を係留する。次いで、固定式起重機船を使用してタワーの上部にナセルハブを設置して、ナセルハブにブレードを設置することで、スパー型の浮体式洋上風力発電装置の立設が完了する。
【0004】
特許文献1に記載の発明では、タワーの中途に屈曲部を設けている点と、陸上でタワーに風車(ナセルハブおよびブレード)を設置する点で一般的な施工方法とは異なるが、特許文献1に記載の発明においても、スパー型の浮体(基礎)と風力発電装置のタワーの一体物を陸上で組み立てている。
【0005】
浮体式洋上風力発電施設を構成する浮体と風力発電装置はサイズが非常に大きく重量も非常に大きい。それ故、浮体とタワーの一体物を、陸上で長距離輸送することは困難である。そのため、一般的な施工方法や特許文献1に記載の発明のように、浮体とタワーの組立体(一体物)を陸上で組立てる場合には、岸壁などの陸地に、浮体と風力発電装置の組立部品を搭載するスペースを確保することや、組立体の組立作業を行うスペースを確保して組立体を直接海上に進水させる必要がある。しかし、一般的な岸壁では多くの場合、地盤が組立体の荷重に耐え得る強度を有していない。そのため、浮体式洋上風力発電施設の搭載拠点を岸壁に整備するには、岸壁やエプロンに対して地耐力を向上させる地盤改良工事などの大規模な工事が必要となり、比較的多くのコストや労力や時間を要するという問題がある。特に、陸上で複数の組立体を組立てる場合には、岸壁に浮体式洋上風力発電施設の搭載拠点としての広大なスペースを確保することが困難な場合もある。
【0006】
また、スパー型の浮体式洋上風力発電施設の一般的な施工方法では、水深が100m以上の海域で横に倒していたスパー型の浮体とタワーの一体物を起こして立てた状態にする作業が必要となる。特許文献1に記載の構築方法においても、ヒンジ開閉手段によってタワーのヒンジから後方の部分とスパー型の浮体(基礎)を横倒しの状態から直立状態に変化させる必要がある。それ故、従来提案されている施工方法では、海上において高度で煩雑な作業が必要になるという問題もある。このように、従来提案されている施工方法には様々な問題があり、改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-202250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、岸壁に浮体式洋上風力発電施設の搭載拠点を整備しなくとも、設置対象海域に係留した状態での浮体の喫水が20m以下の浮体式洋上風力発電施設を効率的に施工できる浮体式洋上風力発電施設の施工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため本発明の浮体式洋上風力発電施設の施工方法は、設置対象海域において係留される浮体と、前記浮体上に立設された風力発電装置とを有して、前記浮体を前記設置対象海域に係留した状態で、水面から前記浮体の下端までの喫水が20m以下となる浮体式洋上風力発電施設を複数基並行して施工する施工方法であって、水深が8m以上20m以下の海域に仮設の水上構造物を構築し、前記水上構造物に隣接した海域に複数の作業エリアを設け、前記風力発電装置を構成するナセルハブ、ブレードおよびタワーの組立部品を複数組前記水上構造物上に仮置きしておき、任意の前記作業エリアに停船させた自己昇降式台船のクレーンを使用して、その作業エリアの海底に着底させている前記浮体に対して、前記水上構造物に仮置きされている一組の前記組立部品を設置して、前記浮体上に前記風力発電装置が構築された組立体を組立てる組立作業を行い、前記自己昇降式台船は、前記組立作業を終えた前記作業エリアから別の前記作業エリアに順次移動させて、その作業エリアの海底に着底させている前記浮体に対して前記組立作業を行い、それに並行して、前記組立作業を先行して終えた前記組立体に対しては調整作業を含む付加作業を行い、前記付加作業を終えた前記組立体は順次、前記設置対象海域まで海上輸送し、前記設置対象海域においてその前記組立体を係留することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、設置対象海域に係留した状態での浮体の喫水が20m以下の浮体式洋上風力発電施設を複数基並行して施工する方法であり、スパー型を除くその他の型(セミサブ型、TLP型、バージ型)の浮体式洋上風力発電施設の施工に採用できる。本発明では、水深が8m以上20m以下の比較的浅い海域に仮設の水上構造物を構築するので、水上構造物の構築に要するコストや労力や時間は比較的少ない。風力発電装置の組立部品を水上構造物上に仮置きするので、岸壁に組立部品をまとめて仮置きするような浮体式洋上風力発電施設の搭載拠点を整備する必要もない。水上構造物を水深が8m以上20m以下の海域に構築することで、水上構造物の近傍に自己昇降式台船を停船させることが可能であり、水上構造物の近傍の海底に浮体を容易に着底させることができる。波浪の影響を受けない自己昇降式台船のクレーンを使用し、さらに、浮体を海底に着底させていることで、浮体に対して一組の組立部品を設置して、浮体上に風力発電装置が構築された組立体を組み立てる組立作業を非常に安定した状態で効率的に行える。さらに、水上構造物に隣接した海域に複数の作業エリアを設け、任意の作業エリアで組立作業を終えた自己昇降式台船を、組立作業を終えた作業エリアから別の作業エリアに順次移動させて、その作業エリアで組立作業を行い、それに並行して、組立作業を先行して終えた組立体に対しては調整作業を含む付加作業を行う。これにより、組立作業と付加作業をそれぞれ別々の場所で並行して行うことができ、自己昇降式台船を効率的に活用できる。付加作業を終えた組立体は設置対象海域まで海上輸送し、設置対象海域において組立体を係留するだけで浮体式洋上風力発電施設の施工が完了する。それ故、本発明では、岸壁に浮体式洋上風力発電施設の搭載拠点を整備しなくとも、設置対象海域に係留した状態での浮体の喫水が20m以下の浮体式洋上風力発電施設(スパー型を除くその他の型の浮体式洋上風力発電施設)を複数基並行して効率的に施工できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明で施工するセミサブ型の浮体式洋上風力発電施設を正面視で模式的に例示する説明図である。
図2】海域に仮設の水上構造物として桟橋を構築し、水上構造物に隣接した海域に複数の作業エリアを設けた状態を平面視で模式的に例示する説明図である。
図3図2の水上構造物を側面視で模式的に例示する説明図である。
図4図2の水上構造物を構築している海域を平面視で模式的に例示する説明図である。
図5図2の水上構造物上に複数組の風力発電装置の組立部品を仮置きした状態を平面視で模式的に例示する説明図である。
図6図5の水上構造物の第一の作業エリアの海底に浮体を着底させ、第一の作業エリアに自己昇降式台船を停船させた状態を平面視で模式的に例示する説明図である。
図7図6の水上構造物と自己昇降式台船を側面視で模式的に例示する説明図である。
図8】自己昇降式台船のクレーンを使用して、タワーを構成する分割部材を立て起こす前の状態を正面視で模式的に例示する説明図である。
図9図8の状態から自己昇降式台船のクレーンを使用して、タワーを構成する分割部材を立て起こした状態を正面視で模式的に例示する説明図である。
図10】自己昇降式台船のクレーンを使用して、水上構造物に仮置きしていたタワーの分割部材とナセルハブを、浮体に対して設置した状態を側面視で模式的に例示する説明図である。
図11図10の状態からナセルハブにブレードを装着した状態を平面視で模式的に例示する説明図である。
図12図11の状態から自己昇降式台船を第2の作業エリアに移動させた状態を平面視で模式的に例示する説明図である。
図13図12の状態から第2の作業エリアの海底に着底させている浮体に対して、水上構造物に仮置きしていたタワーの分割部材とナセルハブとブレードを設置し終えた状態を平面視で模式的に例示する説明図である。
図14図13の状態から自己昇降式台船を第3の作業エリアに移動させた状態を平面視で模式的に例示する説明図である。
図15図14の状態から第3の作業エリアの海底に着底させている浮体に対して、水上構造物に仮置きしていたタワーの分割部材とナセルハブとブレードを設置し終え、自己昇降式台船を第1の作業エリアに移動させた状態を平面視で模式的に例示する説明図である。
図16図15の状態から第1の作業エリアの海底に着底させている浮体に対して、水上構造物に仮置きしていたタワーの分割部材とナセルハブとブレードを設置し終え、自己昇降式台船を第4の作業エリアに移動させた状態を平面視で模式的に例示する説明図である。
図17】水上構造物を構成する浮体式構造物の上に風力発電装置の組立部品を仮置きしている状態を平面視で模式的に例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の浮体式洋上風力発電施設の施工方法を、図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0013】
図1に例示するように、浮体式洋上風力発電施設1は、設置対象海域において係留される浮体2と、浮体2上に立設された風力発電装置3とを有する。設置対象海域において浮体2は、係留索7やアンカー8等を用いて海底SBに対して係留される。図1に例示するように、本発明は、浮体2を設置対象海域に係留した状態で、水面から浮体2の下端までの喫水DFが20m以下となる浮体式洋上風力発電施設1の施工方法である。言い換えると、本発明は、スパー型を除くその他の型(セミサブ型、TLP型、バージ型)の浮体式洋上風力発電施設1の施工に採用できる。本発明は、特にセミサブ型の浮体式洋上風力発電施設1の施工に適している。本発明では、設置対象海域において係留する以前の浮体2と風力発電装置3との一体物を組立体9とし、設置対象海域において係留した状態の組立体9を浮体式洋上風力発電施設1とする。
【0014】
この実施形態では、セミサブ型の浮体式洋上風力発電施設1を施工する場合を例示する。図1に例示するように、セミサブ型の浮体2は、海域において所定の喫水DFまで沈められて半潜水状態で係留される。風力発電装置3は、上下方向に延在するタワー4の上部にナセルハブ(ナセルとハブの一体物)5が設置されていて、ナセルハブ5に複数のブレード6が放射状に配設された構造になっている。ナセルハブ5の内部には、発電機やブレーキ装置、増速機(ギアボックス)などの電気設備が内蔵されていて、発電機に接続された電力ケーブルはタワー4の内側に配設されている。
【0015】
この実施形態では、3枚のブレード6を有し、タワー4が3本の分割部材4aで構成されている風力発電装置3を例示している。風力発電装置3が備えるブレード6の枚数やブレード6の構造、タワー4を構成する分割部材4aの本数などはこの実施形態に限定されない。例えば、ブレード6を複数の部材を連結した構造にしてもよいし、タワー4を1本の長尺の部材で構成してもよい。
【0016】
タワー4の長手方向の長さ(高さ)は80m~150m程度であり、タワー4の幅(太さ)は5m~15m程度である。タワー4の重量は1000t~2000t程度である。それぞれの分割部材4aの長手方向の長さ(高さ)は25m~50m程度であり、それぞれの分割部材4aの重量は300t~700t程度である。ナセルハブ5は高さが8m~15m程度であり、長手方向の長さが15m~25m程度、幅が7m~15m程度である。ナセルハブ5の重量は、600t~1000t程度である。一枚のブレード6の長手方向の長さは80m~150m程度であり、一枚のブレード6の重量は50t~90t程度である。
【0017】
セミサブ型の浮体2は、上下方向に延在する柱形状の複数のコラム2aと、コラム2aどうしを連結する連結体2b(所謂、フーチング部材)とを有している。この実施形態では、連結体2bが平面視で十字形状の連結部と、連結部の4カ所の端部にそれぞれ設けられた平面視で多角形状の支持部とを有する構造になっていて、4カ所の支持部の上にそれぞれコラム2aが立設されている。セミサブ型の浮体2を構成する1本のコラム2aに対してタワー4の下端部が固定されることで、1本のコラム2aの上に風力発電装置3が立設される構成になっている。コラム2aの上端部とタワー4の下端部は、例えば、ボルト接合や溶接などによって接合される。
【0018】
浮体2は内部にバラスト水を貯水(漲水)できる構造になっていて、バラスト水の貯水量を調整することで、浮体2の喫水や姿勢を調整できる構成になっている。セミサブ型の浮体2の平面視での長さと幅はそれぞれ60m~100m程度であり、セミサブ型の浮体2のコラム2aがある位置の高さは25m~50m程度である。なお、浮体2の構造、具体的には、セミサブ型の浮体2の場合には、コラム2aの形状や構造、連結体2bの形状や構造、連結体2bに立設されるコラム2aの数や配置、風力発電装置3が立設されるコラム2aの位置などは、この実施形態の構成に限定されず、他にも様々な構成の浮体2を採用することができる。この実施形態では、セミサブ型の浮体2を例示しているが、TLP型の浮体式洋上風力発電施設1を施工する場合には公知のTLP型の浮体2を使用し、バージ型の浮体式洋上風力発電施設1を施工する場合には公知のバージ型の浮体2を使用する。
【0019】
以下に、本発明の浮体式洋上風力発電施設1の施工方法の作業手順を説明する。本発明では、浮体式洋上風力発電施設1を複数基並行して施工する。
【0020】
図2および図3に例示するように、本発明では、水深DW(海面位置WLから海底SBまでの深さ)が8m以上20m以下の海域に仮設の水上構造物10を構築する。この実施形態では、仮設の水上構造物10として、海域に桟橋10aを構築する場合を例示する。本発明では、仮設の水上構造物10として、海域に浮体式構造物を構築することもできる。この実施形態では、平面視で長方形状の水上構造物10を例示している。水上構造物10は、風力発電装置3を構成するナセルハブ5、ブレード6およびタワー4(分割部材4a)の組立部品を複数組仮置き可能な広さとし、仮置きする複数組の組立部品の重量に耐え得る構造にする。水上構造物10の構築に使用する部材は、運搬船等を使用して水上構造物10の構築対象エリアまで輸送し、公知の方法で海域に水上構造物10を構築する。
【0021】
図2に例示するように、この実施形態では、水上構造物10に対する運搬船の係留に使用する設備として、水上構造物10の近傍に仮設の係留設備15と仮設の防衝設備16を設けている。なお、図2以外の図面では係留設備15と防衝設備16は省略して図示していない。
【0022】
水上構造物10は、波浪の影響が小さい穏やかな海域に構築することが好ましい。図4に例示するように、好ましくは、湾などに設置されている防波堤40の内側の海域に水上構造物10を構築するとよい。ここでいう防波堤40の内側の海域は、防波堤40によって波浪の影響が軽減されている海域を示している。水上構造物10は、好ましくは、浮体式洋上風力発電施設1を設ける設置対象海域や、風力発電装置3の組立部品を運搬船に積み込む岸壁50に近い海域に構築するとよい。
【0023】
図4に例示するように、この実施形態では、水上構造物10の延在方向(長手方向)が海域の波向に沿う向きで、水上構造物10を構築している。このような向きで水上構造物10を配置すると、水上構造物10に対して波があたる面積を小さくできるので、波によって水上構造物10にかかる負荷や衝撃を低減するには有利になる。例えば、岸壁50側(陸地側)から沖側にかけて海底SBの高低差が比較的大きい海域に水上構造物10を構築する場合には、岸壁50側から沖側に向かう方向に対して交差する方向(例えば、直交する方向)に延在するように水上構造物10を構築するとよい。前述した向きで水上構造物10を構築すると、水上構造物10の延在方向において海底SBの高低差が比較的小さくなるので、岸壁50側から沖側にかけて海底SBの高低差が比較的大きい海域においても水上構造物10を構築し易くなる。
【0024】
図2に例示するように、本発明では、水上構造物10に隣接した海域に、組立体9の組立作業やその後の付加作業を行う作業エリアAを複数箇所に設ける。この実施形態では、水上構造物10に隣接した海域に6ヶ所の作業エリアA1~A6を設けている。図5に例示するように、この実施形態の水上構造物10は、風力発電装置3の組立部品を8組仮置き可能な構成にしている。水上構造物10に隣接した海域に設ける作業エリアAの数は、施工する浮体式洋上風力発電施設1の数に応じて適宜決定でき、例えば、5ヶ所以下の作業エリアAを設ける構成にすることもできるし、7ヶ所以上の作業エリアAを設ける構成にすることもできる。
【0025】
水上構造物10の平面視での長手方向の長さは例えば150m以上450m以下、幅は例えば80m以上120m以下に設定する。図3に例示するように、海面位置WLから水上構造物10の上面までの高さHは例えば、1m以上10m以下に設定するとよい。水上構造物10の耐荷重は例えば1t/m2以上15t/m2以下に設定するとよい。水上構造物10は全ての範囲を同じ耐荷重に設定してもよいが、風力発電装置3の組立部品を載置する範囲と載置しない範囲とで異なる耐荷重に設定することもできる。また、風力発電装置3のそれぞれの組立部品の仮置きエリア毎に異なる耐荷重に設定することもできる。具体的には、水上構造物10において、ナセルハブ5を載置するエリアの耐荷重は例えば8t/m2以上12t/m2以下、タワー4の分割部材4aを載置するエリアの耐荷重は例えば3t/m2以上8t/m2以下、ブレード6を載置するエリアの耐荷重は例えば1t/m2以上5t/m2以下に設定するとよい。
【0026】
図3に例示するように、水上構造物10として桟橋10aを構築する場合には、例えば、海底SBに打設する複数の支持杭11や、支持杭11どうしの間に架け渡す複数の桁材12、桟橋の上部の天板を形成する複数の甲板材13、支持杭11どうしの連結を補強する複数のブレース14などを用いて桟橋10aを構築する。支持杭11には例えば、H形鋼等の型鋼や鋼管杭などを使用する。桁材12とブレース14には例えば、H形鋼等の型鋼などを使用する。甲板材13には例えば、覆工板などを使用する。
【0027】
水上構造物10として海域に浮体式構造物を構築する場合には、海域に浮体式構造物の土台となる係留設備を杭等で設置する。その後、海底SBに固定されている係留設備に浮体式構造物の上部を構成するフロート(台船)を固定することで、水上構造物10として浮体式構造物を構築する。なお、海域での水上構造物10の構築方法は特に限定されず、公知の方法で構築すればよい。
【0028】
水上構造物10は、水深が8m以上20m以下の海域に構築できて、風力発電装置3の組立品を複数組仮置きできる構成であればよく、水上構造物10の形状や構造はこの実施形態で例示している構成に限定されない。例えば、平面視でL字形状や十字形状などのその他の平面形状の水上構造物10を構築することもできる。
【0029】
図2に例示するように、この実施形態では、水上構造物10の幅方向の一方側に第1の作業エリアA1、第2の作業エリアA2、第3の作業エリアA3をそれぞれ設け、水上構造物10の幅方向の他方側に第4の作業エリアA4、第5の作業エリアA5、第6の作業エリアA6を設けている。水上構造物10の長手方向の中央に第1の作業エリアA1と第4の作業エリアA4を設けている。水上構造物10の長手方向において、第1の作業エリアA1の一方側に第2の作業エリアA2を設け、第1の作業エリアA1の他方側に第3の作業エリアA3を設けている。水上構造物10の長手方向において、第4の作業エリアA4の一方側に第6の作業エリアA6を設け、第4の作業エリアA4の他方側に第5の作業エリアA5を設けている。
【0030】
それぞれの作業エリアAの広さは、浮体2と後に説明する自己昇降式台船20(以下、SEP船20という)とをそれぞれ配置できる広さとし、それぞれの作業エリアAに、浮体2を着底させる着底エリアBAとSEP船20を停船させる停船エリアSAを設ける。図2では、それぞれの作業エリアAの仮想的な外枠を一点鎖線で示し、着底エリアBAと停船エリアSAの仮想的な外枠を破線で示している。それぞれの作業エリアAは、少なくとも停船エリアSAが水上構造物10に隣接していればよく、着底エリアBAは水上構造物10から離間していてもよい。
【0031】
この実施形態では、第1の作業エリアA1と第4の作業エリアA4では、停船エリアSAと着底エリアBAを水上構造物10に隣接した位置に配置している。第2の作業エリアA2、第3の作業エリアA3、第5の作業エリアA5および第6の作業エリアA6ではそれぞれ、水上構造物10に隣接した位置に停船エリアSAを配置し、水上構造物10から離間した位置に停船エリアSAを配置している。好ましくは、海域にそれぞれの作業エリアA(着底エリアBA、停船エリアSA)の範囲を可視化する浮標などを設けるとよい。なお、それぞれの作業エリアAの範囲やその境界線は施工に関わる作業者や管理者が把握していればよく、海域にそれぞれの作業エリアAの範囲を可視化することは必須ではない。
【0032】
本発明では水上構造物10を構築した後に、クレーンを搭載した運搬船(具体的には例えば、LOLO船等)等を使用して、風力発電装置3を構成するナセルハブ5、ブレード6およびタワー4(分割部材4a)の組立部品を複数組水上構造物10まで輸送する。そして、運搬船のクレーンを使用して、図5に例示するように、輸送した複数組の組立部品を水上構造物10上に仮置きする。風力発電装置3の組立部品は水上構造物10まで海上輸送することが好ましいが、岸壁50に近い海域に水上構造物10を構築する場合には、例えば、水上構造物10に配置したクレーン30や岸壁50に配置したクレーンを使用して、岸壁50から水上構造物10に組立部品を輸送(荷役)することもできる。また、例えば、ヘリコプターや大型のドローンなどの飛行体を使用して、水上構造物10に組立部品を輸送してもよい。
【0033】
図5に例示するように、この実施形態では、8基分の風力発電装置3の組立部品、即ち8組の組立部品を水上構造物10上に仮置きしている。さらにこの実施形態では、移動式のクレーン30と、タワーリフト用吊具24と、立て起こし装置32を搭載した作業台車31(SPMT:多軸台車)を水上構造物10上に配置している。タワーリフト用吊具24と立て起こし装置32の詳細は後に説明する。この実施形態では、水上構造物10の中央に水上構造物10の長手方向に延在するクレーン30の走行路RWを設けて、その走行路RWの両側方にそれぞれ風力発電装置3の組立部品を仮置きしている。風力発電装置3の組立部品は、風力発電装置3の1基分の組立部品を集約した状態で、それぞれの作業エリアA1~A6の近傍に仮置きする。タワーリフト用吊具24と、立て起こし装置32を搭載した作業台車31は、第1の作業エリアA1の近傍に配置している。
【0034】
この実施形態では、水上構造物10にナセルハブ5を支持する架台を設けて、その架台の上にナセルハブ5を載置している。また、水上構造物10にタワー4を構成するそれぞれの分割部材4aを支持する架台を設けて、その架台の上に分割部材4aを横に倒した状態で載置している。この実施形態では、1本のタワー4を構成する3本の分割部材4aを横に並べて配置している。さらに、水上構造物10に複数のブレード6を上下に離間させた状態で搭載できる構造の架台を設けて、複数のブレード6を上下に並べて配置している。それぞれのブレード6は横に倒した状態で配置していて、水上構造物10の端に配置しているブレード6の一部は水上構造物10から突出した状態になっている。即ち、水上構造物10は風力発電装置3を構成するブレード6の一部がはみ出す広さであってもよい。ナセルハブ5と分割部材4aは比較的重量が大きいため、互いに上下に重ねずに配置することが好ましい。ブレード6はサイズが大きく、比較的軽量であるため、複数のブレード6を上下に並べて配置するとよい。
【0035】
この実施形態では、第1の作業エリアA1と第4の作業エリアA4の近傍にそれぞれ2組の組立部品を仮置きしている。そして、第2の作業エリアA2、第3の作業エリアA3、第4の作業エリアA4、第5の作業エリアA5の近傍にそれぞれ1組の組立部品を仮置きしている。第1の作業エリアA1と第4の作業エリアA4の近傍では、それぞれ風力発電装置3の2基分のブレード6を上下に並べて配置している。第2の作業エリアA2、第3の作業エリアA3、第4の作業エリアA4、第5の作業エリアA5の近傍では、それぞれ風力発電装置3の1基分のブレード6を上下に並べて配置している。
【0036】
水上構造物10上に風力発電装置3の組立部品を仮置きし終えた後には、運搬船を水上構造物10から離岸させる。その後、図6に例示するように、浮体2を海上輸送して、それぞれの作業エリアA(A1~A6)の着底エリアBAの海底SBに順次、浮体2を着底させた状態にする。そして、任意の作業エリアAにSEP船20を停船させた状態にする。この実施形態では、まず、第1の作業エリアA1の着底エリアBAの海底SBに浮体2を着底させた状態とし、第1の作業エリアA1の停船エリアSAにSEP船20を停船させる。
【0037】
浮体2は、海上輸送時にはバラスト水の貯水量を比較的少ない状態にして海上に浮かべた状態とし、曳船などを使用して水上構造物10の近傍まで曳航する。浮体2を着底エリアBAまで移動させた後には、浮体2にバラスト水を注水することで、浮体2を徐々に沈めて、浮体2の底部を海底SBに着底させた状態にする。浮体2を着底させる海底SBの地盤が平坦でない場合には、浮体2を水上構造物10の近傍に配置する以前に予め海底SBの地盤を平坦に整地または養生しておくとよい。好ましくは、浮体2を着底させる海底SBの上に土嚢などを配設して、浮体2を着底させる平坦なマウンドを形成しておき、そのマウンドの上に浮体2を着底させるとよい。浮体2は、風力発電装置3を立設するコラム2aが水上構造物10側および停船エリアSA側に位置する向きで配置することが好ましい。
【0038】
本発明では、水深DWが8m以上20m以下の海域に水上構造物10を構築していることで、セミサブ型の浮体2や、TLP型の浮体2、バージ型の浮体2を、水上構造物10の近傍の作業エリアAまで曳航できる。また、水深DWが8m以上20m以下の海域であるため、それぞれの型の浮体2を海底SBに容易に着底させることができ、海底SBに着底させた状態の浮体2に対して風力発電装置3の組立部品を設置できる状態になる。言い換えると、水深DWが8m未満の海域では水深DWが浅すぎるため、浮体2を水上構造物10の近傍まで曳航することが難しくなる。水深DWが20mを超える海域では水深DWが深すぎるため、浮体2を海底SBに着底させた状態では、浮体2に対して風力発電装置3の組立部品を設置することが困難な状態になる。
【0039】
図6および図7に例示するように、SEP船20は、クレーン23が搭載されている船首側または船尾側を水上構造物10の側部に沿うように停船させる。SEP船20は、水上を移動可能な台船本体(プラットフォーム)21と、台船本体21に対して上下方向に相対移動可能な複数の昇降用脚(レグ)22と、台船本体21に搭載された大型のクレーン23とを備えている。台船本体21に推進装置を備えた自航式のSEP船20を使用することが好ましいが、推進装置を備えずに曳航して移動させる非自航式のSEP船20を使用することもできる。
【0040】
図7に例示するように、SEP船20を停船させる際には、海域に浮かんだ状態の台船本体21に対してそれぞれの昇降用脚22を下向きに相対移動させて、それぞれの昇降用脚22の下端を海底SBに着底させた状態にする。その状態からそれぞれの昇降用脚22に対して台船本体21を上向きに相対移動させることで、台船本体21を海面より高い位置に移動させ、昇降用脚22によって台船本体21を中空に支持した状態にする。台船本体21を波浪の届かない高さまで上昇させることで、台船本体21が波浪の影響を受けない状態になる。
【0041】
SEP船20が昇降用脚22によって停船できる水深は、概ね40m以下である。本発明では、水深DWが8m以上20m以下の海域に水上構造物10を構築するため、水上構造物10の近傍の作業エリアAにSEP船20を安定した状態で停船させることができる。なお、停船エリアSAに設定している海底SBの地盤がSEP船20を安定して停船させるために十分な強度を有していない場合には、予め海底SBの強度を高める簡易な地盤改良などを行うとよい。
【0042】
その後、作業エリアA(停船エリアSA)に停船させたSEP船20のクレーン23を使用して、作業エリアA(着底エリアBA)の海底SBに着底させた状態の浮体2に対して一組の組立部品を設置して、浮体2上に風力発電装置3が構築された組立体9を組立てる組立作業を行う。
【0043】
この実施形態では、第1の作業エリアA1に停船させているSEP船20のクレーン23を使用して、水上構造物10上の第1の作業エリアA1の近傍に仮置きしておいた一組の組立部品を、第1の作業エリアA1の海底SBに着底させた状態の浮体2に設置することで組立体9を組立てる。
【0044】
具体的には、まず、SEP船20のクレーン23を使用して、水上構造物10上に仮置きされているタワー4の根元部を構成する分割部材4aを、浮体2の1本のコラム2aに設置する作業を行う。図8に例示するように、分割部材4aの設置作業では、タワーリフト用吊具24と、作業台車31に搭載されている立て起こし装置32を使用する。作業台車31は、操縦者が搭乗して操縦するものであってもよいし、リモートコントローラで遠隔操作するものであってもよい。
【0045】
タワーリフト用吊具24はクレーン23の吊具として使用する。タワーリフト用吊具24には、複数の挟持部24aが設けられている。横に倒した状態で仮置きされている分割部材4aの上端部(分割部材4aを立てて設置する際の上側の端部)をそれぞれの挟持部24aによって挟持した状態にすることで、分割部材4aの上端部に対してタワーリフト用吊具24を連結した状態にする。
【0046】
立て起こし装置32は、保持部33、支持部34および回転機構35を有して構成されている。作業台車31の荷台に支持部34が固定されていて、支持部34の上部に回転機構35を介して保持部33が支持されている。保持部33は回転機構35によって支持部34に対して回転可能に接続されている。図8に例示するように、分割部材4aの設置作業では、立て起こし装置32を搭載している作業台車31を、横に倒した状態で仮置きされている分割部材4aの下端部の近傍に移動させる。そして、分割部材4aの下部を保持部33で保持した状態にする。
【0047】
次いで、図8に示している矢印のように、クレーン23によりタワーリフト用吊具24を介して分割部材4aの上端部を、立て起こし装置32の上方に向けて吊上げるとともに、立て起こし装置32をガイドにして分割部材4aの下端部を回転させることで、図9に例示するように、分割部材4aを立て起こす。この実施形態では、クレーン23により分割部材4aの上端部を、立て起こし装置32の真上に移動させる過程で、保持部33が回転機構35により回転することで、保持部33の向きが変わる。
【0048】
分割部材4aを立て起こす作業では、分割部材4aの荷重は、クレーン23によって吊り持ちした状態にするとよい。そのようにすると、立て起こし装置32や作業台車31にかかる負荷を小さくでき、立て起こし装置32を簡素に構成できる。
【0049】
図9に例示するように、分割部材4aを立て起こした後には、クレーン23によりタワーリフト用吊具24を介して、立て起こした状態の分割部材4aを、立て起こし装置32よりも上方に吊り上げる。そして、クレーン23により、分割部材4aを浮体2の1本のコラム2aの上方まで移動させ、分割部材4aの下端部をコラム2aの上に載置した状態にする。そして、分割部材4aの下端部を浮体2の1本のコラム2aの上端部にボルト接合や溶接などによって固定する。その後、分割部材4aの上端部に対するタワーリフト用吊具24の連結を解除し、分割部材4aの上端部からタワーリフト用吊具24を分離する。
【0050】
次いで、同様に、クレーン23と、タワーリフト用吊具24と、作業台車31に搭載されている立て起こし装置32を使用して、水上構造物10上に仮置きされているタワー4の中間部を構成する分割部材4aを立て起こす。そして、クレーン23とタワーリフト用吊具24を使用して、タワー4の中間部を構成する分割部材4aを、タワー4の根元部を構成する分割部材4aの上に連結する。その後、同様に、水上構造物10上に仮置きされているタワー4の上端部を構成する分割部材4aを立て起こし、タワー4の上端部を構成する分割部材4aをタワー4の中間部を構成する分割部材4aの上に連結することで、コラム2a上にタワー4を立設する。次いで、図10に例示するように、クレーン23を使用して、水上構造物10上に仮置きされているナセルハブ5をタワー4の上部に設置する。その後、クレーン23を使用して、水上構造物10上に仮置きされている3枚のブレード6をナセルハブ5にそれぞれ装着する。以上の作業を行うことで、図11に例示するように、第1の作業エリアA1において組立体9の組立作業が完了する。
【0051】
その後、本発明では、図12に例示するように、SEP船20は、組立作業を終えた作業エリアAから別の作業エリアAに順次移動させて停船させる。そして、図13に例示するように、SEP船20のクレーン23を使用して、その作業エリアAの海底SBに着底させている浮体2に対して同様に組立作業を行う。それに並行して、組立作業を先行して終えた組立体9に対しては調整作業を含む付加作業を行う。付加作業は、設置対象海域に輸送する前の組立体9に対して行う準備作業であり、具体的には、プレアセンブリー作業やプレコミッショニング作業が挙げられる。プレアセンブリー作業は、組立体9の電気設備のセッティングを行う作業である。プレコミッショニング作業は、組立体9の電気設備の試験や調整等を行う作業である。この実施形態では、組立作業を先行して終えた作業エリアAにおいて、組立作業を終えた組立体9に対する付加作業を行う。組立作業を終えた組立体9に対する付加作業は、例えば、組立体9を作業エリアAの外側に移動させて、作業エリアAの外側の水域で行ってもよい。
【0052】
この実施形態では、SEP船20が第1の作業エリアA1で組立作業を終える以前に、第2の作業エリアA2に浮体2を海上輸送して、第2の作業エリアA2の着底エリアBAに浮体2を着底させた状態にしておく。第1の作業エリアA1で組立作業を終えたSEP船20は、第1の作業エリアA1の停船エリアSAから第2の作業エリアA2の停船エリアSAに移動させて停船させる。立て起こし装置32を搭載した作業台車31は、第2の作業エリアA2の近傍の仮置きエリアに移動させる。そして、第2の作業エリアA2に停船させているSEP船20のクレーン23を使用して、水上構造物10上の第2の作業エリアA2の近傍に仮置きしておいた一組の組立部品を、第2の作業エリアA2の海底SBに着底させた状態の浮体2に設置することで組立体9を組立てる。それに並行して、組立作業を先行して終えた第1の作業エリアA1では、組立作業を終えた組立体9に対して、水上構造物10に配置したクレーン30等を使用して、付加作業としてプレアセンブリー作業を行う。
【0053】
その後は同様の作業手順で、図14に例示するように、SEP船20は、組立作業を終えた作業エリアAから別の作業エリアAに順次移動させて停船させる。そして、SEP船20のクレーン23を使用して、その作業エリアAの海底SBに着底している浮体2に対して組立作業を行う。それに並行して、組立作業を先行して終えた作業エリアAでは、組立作業を終えた組立体9に対して付加作業を行う。
【0054】
この実施形態では、SEP船20が第2の作業エリアA2で組立作業を終える以前に、第3の作業エリアA3に浮体2を海上輸送して、第3の作業エリアA3の着底エリアBAに浮体2を着底させた状態にしておく。SEP船20は、組立作業を終えた第2の作業エリアA2の停船エリアSAから第3の作業エリアA3の停船エリアSAに移動させて停船させる。立て起こし装置32を搭載した作業台車31は、第3の作業エリアA3の近傍の仮置きエリアに移動させる。そして、第3の作業エリアA3に停船させているSEP船20のクレーン23を使用して、水上構造物10上の第3の作業エリアA3の近傍に仮置きしておいた一組の組立部品を、第3の作業エリアA3の海底SBに着底させた状態の浮体2に設置することで組立体9を組立てる。それに並行して、組立作業を先行して終えた第2の作業エリアA2では、組立作業を終えた組立体9に対して、付加作業としてプレアセンブリー作業を行う。
【0055】
プレアセンブリー作業を終えた作業エリアAでは、次に、組立体9に対して付加作業としてプレコミッショニング作業を行う。そして、プレコミッショニング作業で風力発電装置3に異常がないことを確認した組立体9は、順次、浮体2のバラスト水の貯水量を低減させることで、海底SBから浮上させる。そして、組立体9を海上に浮かべた状態で曳船などを使用して、組立体9を設置対象海域まで海上輸送する。この実施形態では、第3の作業エリアA3で組立作業を行っている間に、第1の作業エリアA1では付加作業(プレコミッショニング作業)を完了し、第3の作業エリアA3で組立作業を終えるまでに、付加作業を終えた組立体9を第1の作業エリアA1の外側に移動させる。
【0056】
図1に例示するように、付加作業を終えた組立体9は設置対象海域まで海上輸送し、設置対象海域において組立体9(浮体2)を係留索7やアンカー8等を用いて海底SBに対して係留する。その後、風力発電装置3に対して海底ケーブルを接続し、浮体式洋上風力発電施設1の最終運転確認(所謂、最終コミッショニング)を実施する。以上により、浮体式洋上風力発電施設1の施工が完了する。
【0057】
図15に例示するように、組立体9を設置対象海域へ海上輸送した作業エリアAでは、新たに海上輸送した浮体2を海底SBに着底させる。この実施形態では、第3の作業エリアA3で組立作業を終えるまでに、第1の作業エリアA1に浮体2を海上輸送して、第1の作業エリアA1の着底エリアBAに浮体2を着底させた状態にしておく。
【0058】
その後は同様の作業手順で、図15に例示するように、SEP船20は、組立作業を終えた第3の作業エリアA3から第1の作業エリアA1に移動させて停船させる。立て起こし装置32を搭載した作業台車31は、第1の作業エリアA1の近傍の仮置きエリアに移動させる。この実施形態では、第1の作業エリアA1において、第1の作業エリアA1の近傍に仮置きしている一組の組立部品に近い位置にSEP船20を停船できるように、着底エリアBAと停船エリアSAの位置を1回目の作業と2回目の作業とで異なる配置にしている。
【0059】
次いで、第1の作業エリアA1に停船させたSEP船20のクレーン23を使用して、第1の作業エリアA1の海底SBに着底している浮体2に対して組立作業を行う。それに並行して、組立作業を先行して終えた第3の作業エリアA3では、組立作業を終えた組立体9に対してプレアセンブリー作業を行う。プレアセンブリー作業を終えた第2の作業エリアA2ではプレコミッショニング作業を行い、風力発電装置3に異常がないことを確認した組立体9は、海底SBから浮上させて設置対象海域まで海上輸送し、設置対象海域においてその組立体9を係留する。
【0060】
この実施形態では、SEP船20が第1の作業エリアA1で2回目の組立作業を終える以前に、第4の作業エリアA4に浮体2を海上輸送して、第4の作業エリアA4の着底エリアBAに浮体2を着底させた状態にしておく。その後は同様の作業手順で、図16に例示するように、SEP船20は、組立作業を終えた第1の作業エリアA1から第4の作業エリアA4に移動させて停船させる。立て起こし装置32を搭載した作業台車31は、第4の作業エリアA4の近傍の仮置きエリアに移動させる。そして、第4の作業エリアA4に停船させたSEP船20のクレーン23を使用して、第4の作業エリアA4の海底SBに着底させている浮体2に対して組立作業を行う。それに並行して、組立作業を先行して終えた第1の作業エリアA1では、組立作業を終えた組立体9に対してプレアセンブリー作業を行う。プレアセンブリー作業を終えた第3の作業エリアA3ではプレコミッショニング作業を行い、風力発電装置3に異常がないことを確認した組立体9は、海底SBから浮上させて設置対象海域まで海上輸送し、設置対象海域においてその組立体9を係留する。
【0061】
その後は同様の作業手順で、SEP船20と立て起こし装置32を搭載した作業台車31を第4の作業エリアA4から第5の作業エリアA5、第5の作業エリアA5から第6の作業エリアA6、第6の作業エリアA6から第4の作業エリアA4、と順次移動させながら、組立作業、付加作業、付加作業を終えた組立体9を設置対象海域に海上輸送して係留する作業を、それぞれ別々の作業エリアAで並行して行うことで計8基の浮体式洋上風力発電施設1の施工を行う。
【0062】
8基以上の浮体式洋上風力発電施設1の施工を行う場合には、第1~第3の作業エリアA1~A3での組立作業、付加作業、組立体9の海上輸送作業を終えて、第1~第3の作業エリアA1~A3にSEP船20と浮体2が配置されていないときに、風力発電装置3の組立部品を運搬する運搬船を水上構造物10の第1~第3の作業エリアA1~A3側の海域に停船させて、風力発電装置3の組立部品を複数組新たに仮置きする。その後、運搬船を水上構造物10から離岸させ、第1~第3の作業エリアA1~A3の着底エリアBAまでそれぞれ浮体2を海上輸送して、それぞれの作業エリアA1~A3の着底エリアBAの海底SBに浮体2を着底させた状態にする。
【0063】
そして、第4の作業エリアA4で2回目の組立作業を終えたSEP船20は、第4の作業エリアA4から第1の作業エリアA1に移動させて停船させる。そして、第1の作業エリアA1に停船させたSEP船20のクレーン23を使用して、第1の作業エリアA1の海底SBに着底している浮体2に対して組立作業を行う。その後は、上述した作業手順と同様の方法で、9基目以降の浮体式洋上風力発電施設1の施工を行う。
【0064】
このように、水上構造物10上に風力発電装置3の組立部品を仮置きする作業、組立作業、付加作業、付加作業を終えた組立体9を設置対象海域に海上輸送して係留する作業を並行して行うことで、多数の浮体式洋上風力発電施設1を並行して施工することができる。
【0065】
製造拠点としての水上構造物10の利用を終えた後には、海域から水上構造物10を撤去する。この実施形態のように、水上構造物10として桟橋10aを構築していた場合には、支持杭11を挿設していた海底SBの穴を埋め戻すことで、海底SBの状態を、水上構造物10を構築する前の状態に復元する。
【0066】
上述したように、本発明は、設置対象海域に係留した状態での浮体2の喫水が20m以下の浮体式洋上風力発電施設1を複数基並行して施工することが可能であり、スパー型を除くその他の型の浮体式洋上風力発電施設1の施工に採用できる。本発明では、水深DWが8m以上20m以下の比較的浅い海域に仮設の水上構造物10を構築するので、水上構造物10の構築に要するコストや労力や時間は比較的少ない。この実施形態のように、水上構造物10として桟橋10aを構築する場合には、比較的浅い海域であるため、海底SBに打設する支持杭11の長さは比較的短く、桟橋10aの構築に要するコストや労力や時間は比較的少ない。水上構造物10として浮体式構造物を構築する場合にも、比較的浅い海域であるため、浮体式構造物を構成する係留設備を海底SBに対して固定する作業も比較的簡易に行うことができ、浮体式構造物の構築に要するコストや労力や時間は比較的少ない。
【0067】
本発明では、風力発電装置3の組立部品を水上構造物10まで輸送して、組立部品を水上構造物10上に仮置きするので、岸壁50に組立部品をまとめて仮置きするような浮体式洋上風力発電施設1の搭載拠点を整備する必要もない。即ち、浮体式洋上風力発電施設1の搭載拠点を陸地に整備するには、岸壁50の地耐力を向上させる地盤改良工事などの大規模な工事が必要となり、比較的多くのコストや労力や時間を要するが、本発明ではそのような岸壁50の大規模な工事を行う必要がなく、岸壁50背後に広大なスペースを確保する必要もない。本発明では、水深DWが比較的浅い海域に水上構造物10を構築するため、水上構造物10の設置場所を港湾区域内で確保しやすいというメリットもある。
【0068】
また、本発明では、水上構造物10を水深DWが8m以上20m以下の海域に構築することで、水上構造物10の近傍にSEP船20を停船させることが可能であり、水上構造物10の近傍の海底SBに浮体2を容易に着底させることができる。波浪の影響を受けないSEP船20のクレーン23を使用し、さらに、浮体2を海底SBに着底させていることで、組立体9を組立てる作業を非常に安定した状態で効率的に行える。
【0069】
さらに、本発明では、水上構造物10に隣接した海域に複数の作業エリアAを設け、任意の作業エリアAで組立作業を終えたSEP船20を、組立作業を終えた作業エリアAから別の作業エリアAに移動させて、その作業エリアAで組立作業を行い、それに並行して、組立作業を先行して終えた組立体9に対しては、調整作業を含む付加作業を行う。これにより、組立作業と付加作業をそれぞれ別々の場所で並行して行うことができ、SEP船20を効率的に活用できる。
【0070】
一般的に付加作業には1ヶ月程度の期間を要する。例えば、組立作業を終えた組立体9に対する付加作業を作業エリアAとは別の場所で行う場合には、組立体9の移動先を確保する必要があり、組立体9を浮上させて別の場所に移動させる作業にも時間と労力を要する。それに対して、本発明では、組立作業を終えた組立体9に対する付加作業を水上構造物10の近傍の作業エリアAで継続して行いつつ、他の作業エリアAでは別の組立体9の組立作業を並行して行うことが可能である。
【0071】
そして、海域では作業環境が穏やかな施工に適した時期はある程度限られているので、その適した時期に施工完了しなければ、次の年の施工に適した時期まで施工を停止する必要がある。このような施工時期に制約がある条件下で、多数の浮体式洋上風力発電施設1を施工する場合にも、本発明によれば、岸壁水域などに組立体9に対する付加作業を行う場所を確保することなく、効率的に施工することができる。即ち、多数の浮体式洋上風力発電施設1を順次施工するサイクルタイムを削減できる本発明によれば、施工全体に要する時間を短縮して多数の浮体式洋上風力発電施設を構築するには極めて有利になる。
【0072】
付加作業を終えた組立体9は設置対象海域まで海上輸送し、設置対象海域において組立体9を係留するだけで浮体式洋上風力発電施設1の施工が完了する。本発明では設置対象海域において煩雑で高度な作業を行う必要もない。それ故、本発明では、岸壁50に浮体式洋上風力発電施設1の搭載拠点を整備しなくとも、設置対象海域に係留した状態での浮体2の喫水が20m以下の浮体式洋上風力発電施設1を複数基並行して効率的に施工できる。
【0073】
また、本発明では、比較的浅い海域に仮設の水上構造物10を構築するので、製造拠点としての水上構造物10の利用を終えた後には、水上構造物10を比較的簡易に撤去することができる。海底SBの状態を、水上構造物10を構築する前の状態に復元する作業も比較的簡易に行うことができる。
【0074】
さらに、本発明では、風力発電装置3の組立部品を仮置きする水上構造物10を設けることで、組立部品を輸送する作業をSEP船20以外の運搬船で行うことが可能になる。それ故、SEP船20によって風力発電装置3の組立部品を海上輸送する必要がなくなり、SEP船20を組立体9の組立作業に非常に効率よく活用できる。SEP船20は特殊な船舶で、国内に存在する船数が少ないため、SEP船20を組立体9の組立作業に効率的に活用して、浮体式洋上風力発電施設1を効率よく施工できることは当業者にとって非常に大きなメリットである。また、本発明では、水上構造物10を設けることで、運搬船は、組立部品を水上構造物10に仮置きした後に、速やかに次の輸送に移行できる。それ故、水上構造物10を設けることで運搬船の稼働率も向上させることができる。
【0075】
この実施形態のように、SEP船20により別の作業エリアAで浮体2に対して組立作業を行っているときに、それに並行して、組立作業を先行して終えた作業エリアAにおいて組立体9に対する付加作業を行う構成にすると、組立作業を終えた作業エリアAでそのまま付加作業を継続して行える。また、水上構造物10に近い作業エリアAで付加作業を行うことで、水上構造物10に配置しているクレーン30や電源設備を使用することができる。それ故、前述した構成にすると、非常に効率よく組立体9に対する付加作業を行える。
【0076】
水上構造物10を防波堤40の内側の海域に構築すると、波浪の影響が少ない海域で水上構造物10を構築できるので、水上構造物10の構築に要する労力を低減するには有利になる。また、海底SBに着底させた状態の浮体2や浮体2に設置したタワー4に波浪による水圧が作用するリスクが低くなるので、浮体2やタワー4にかかる負荷を低減するにも有利になる。なお、本発明では、波浪の影響が小さい穏やかな海域であれば、例えば、水上構造物10を防波堤40の外側の海域や防波堤40が設けられていない海域に構築することもできる。
【0077】
水上構造物10に対して設ける作業エリアAの数は、施工する浮体式洋上風力発電施設1の数や工期に応じて適宜決定できるが、水上構造物10に隣接した海域に6カ所以上の作業エリアAを設けると、多数の浮体式洋上風力発電施設1を効率よく施工するには有利になる。特に、この実施形態のように、1隻のSEP船20を使用する場合には、水上構造物10の両側方に3カ所ずつ、計6ヶ所の作業エリアAを設けると、それぞれの作業エリアAを並行して有効に活用でき、1隻のSEP船20で円滑に効率よく多数の浮体式洋上風力発電施設1を施工できる。
【0078】
水上構造物10に対して仮置きする風力発電装置3の組立部品の組数は、施工する浮体式洋上風力発電施設1の数や工期に応じて適宜決定できるが、6組以上、より好ましくは8組以上の組立部品を仮置きできる水上構造物10を構築すると、多数の浮体式洋上風力発電施設1を効率よく施工するには有利になる。特に、この実施形態のように、水上構造物10に隣接した海域に6ヶ所の作業エリアAを設ける場合には、8組の組立部品を仮置きできる水上構造物10を構築すると、多数の浮体式洋上風力発電施設1を円滑に効率よく施工するには有利になる。
【0079】
この実施形態のように、組立体9を設置対象海域へ海上輸送した作業エリアAの海底SBに、新たな浮体2を着底させる構成にすると、1ヶ所の作業エリアAで複数の組立体9を組立てることができるので、多数の浮体式洋上風力発電施設1を非常に効率よく施工できる。特に、この実施形態のように、水上構造物10に設けている作業エリアAの数よりも、水上構造物10に仮置きする組立部品の組数を多くすると、1ヶ所の作業エリアAで複数回、組立体9を組立てることができるので、多数の浮体式洋上風力発電施設1を効率よく施工するには有利になる。
【0080】
この実施形態のように、立て起こし装置32を搭載した作業台車31を使用すると、タワー4を構成する分割部材4aを立て起こす作業を安定して効率的に行うことができる。立て起こし装置32を使用しない従来の方法では、横に倒した状態の分割部材4aを立て起こす作業に2台のクレーンを使用する必要があった。具体的には、従来の方法では、分割部材4aの下端部と分割部材4aの上端部をそれぞれ別々のクレーンで空中に吊り下げた状態にして、分割部材4aの下端部に対して分割部材4aの上端部を相対的に上方に吊上げることで、分割部材4aを立て起こしていた。
【0081】
そのため、従来の方法を採用した場合には、分割部材4aの上端部を吊り上げるSEP船20のクレーン23とは別に、分割部材4aの下端部を吊り上げることが可能な大型のクローラクレーン(例えば、300t吊級の場合、上載荷重量20t/m2以上)を水上構造物10上に配備する必要がある。水上構造物10に大型のクローラクレーンを配備する場合には、水上構造物10に大型のクローラクレーンが移動できる比較的広いスペースを確保する必要がある。また、水上構造物10全体の耐荷重を大型のクローラクレーンを搭載できる上載荷重で設計する必要があり、水上構造物10の構築に要する工期や費用が増大する。それに対して、この実施形態のように、立て起こし装置32を搭載した作業台車31を使用すると、大型のクローラクレーンを使用する必要がないことから、水上構造物10の上載荷重を、作業台車31の上載荷重量10t/m2または風力発電装置3の組立部品の重量に合わせてより経済的に設計することが可能になる。なお、作業台車31を用いずに、立て起こし装置32を直接、水上構造物10上に設置する場合は、上記上載荷重量10t/m2以下となるよう、必要な養生を行う。
【0082】
また、従来の方法では、大型のクローラクレーンによって分割部材4aの下端部を吊り上げた状態で分割部材4aを立て起こすため、分割部材4aの向きを変える際に、分割部材4aの動きや姿勢を安定させることが難しく、分割部材4aが空中で動揺し易い状態になる。それに対して、この実施形態のように、立て起こし装置32を搭載した作業台車31を使用すると、分割部材4aの向きを変える際に、分割部材4aの下端部が移動する経路が立て起こし装置32によって一定の経路になり、分割部材4aの動きや姿勢が安定する。それ故、分割部材4aを立て起こす作業を非常に安定した状態でより安全に行うことができる。
【0083】
なお、本発明では、例えば、立て起こし装置32を作業台車31に搭載せずに、立て起こし装置32をクレーン30などで移動させる構成にすることもできる。また、本発明では、立て起こし装置32やタワーリフト用吊具24は任意に用いることができ、立て起こし装置32やタワーリフト用吊具24を使用しない別の方法で、分割部材4aの設置作業を行うこともできる。
【0084】
この実施形態では、SEP船20のクレーン30を使用して水上構造物10上に仮置きしている組立部品を浮体2上の設置位置まで直接移動させる場合を例示したが、風力発電装置3の組立部品はそれぞれサイズと重量が大きい。そのため、SEP船20のクレーン30のサイズによっては、水上構造物10上に仮置きしている組立部品を浮体2上の設置位置まで直接移動させることが困難な場合がある。そのような場合には、SEP船20の船側が水上構造物10に沿うようにSEP船20を停船させ、SEP船20のクレーン23を使用して、水上構造物10上に仮置きされている組立部品をSEP船20に積み替える。そして、SEP船20の向きを変えた後に、SEP船20上に積み替えた組立部品を、クレーン30を使用して、浮体2上の設置位置に移動させるとよい。
【0085】
この実施形態では、それぞれの作業エリアAで組立体9を組立てる際に、浮体2に対する風力発電装置3の向きを、設置対象海域において係留するときの正規な向きで組立てる場合を例示しているが、風力発電装置3のブレード6は巨大なため、風力発電装置3を正規な向きで組立てた場合に、ブレード6が他の作業エリアAでの作業を阻害する場合がある。そのような場合には、風力発電装置3のブレード6が他の作業エリアAの作業を阻害しないように、浮体2に対するタワー4の向き、或いは、タワー4に対するナセルハブ5の向きを、正規の向きからずらした向きで組立てるとよい。そして、組立体9を作業エリアAの外側に移動させた後や、組立体9を設置対象海域へ移動させた後に、浮体2に対するタワー4の向き、或いは、タワー4に対するナセルハブ5の向きを正規の向きに直すとよい。
【0086】
この実施形態では、1隻のSEP船20を使用する場合を例示したが、例えば、2隻以上のSEP船20を使用して、浮体式洋上風力発電施設1の施工を行うこともできる。例えば、2隻のSEP船20を使用する場合には、1隻のSEP船20を水上構造物10の一方側の海域の作業エリアA(第1~第3の作業エリアA1~A3)で順次移動させながら組立体9の組立作業を行い、もう1隻のSEP船20を水上構造物10の他方側の海域の作業エリアA(第4~第6の作業エリアA4~A6)で順次移動させながら組立体9の組立作業を行う。このように、2隻以上のSEP船20を使用すると、多数の浮体式洋上風力発電施設1をより短い工期で施工するには有利になる。
【0087】
図17に例示する実施形態では、水上構造物10を浮体式構造物10bで構成した場合を例示している。
【0088】
水上構造物10を浮体式構造物10bで構成する場合には、例えば、浮体式構造物10bの上部の天板を構成するフロート上に予め風力発電装置3の組立部品を載置し、組立部品が載置された状態のフロートを、水上構造物10を構築する構築対象エリアまで曳航する。そして、構築対象エリアの海底SBに対して固定されている係留設備の上に、風力発電装置3の組立部品が仮置きされた状態のフロートを固定する。このようにすると、水上構造物10を構築した後に、運搬船等によって風力発電装置3の組立部品を輸送する必要がなくなるので、浮体式洋上風力発電施設1を非常に効率的に施工できる。なお、水上構造物10を浮体式構造物10bで構成する場合にも、桟橋10aを構築する場合と同様に、浮体式構造物10bを海域に構築した後に、運搬船等で風力発電装置3の組立部品を輸送して、組立部品を浮体式構造物10bに仮置きすることもできる。
【0089】
上述したように、水深が8m以上20m以下の海域に仮設した水上構造物10とSEP船20を使用する本発明は、スパー型を除くその他の型の浮体式洋上風力発電施設1の施工に適した方法であり、スパー型の浮体式洋上風力発電施設を施工する場合とは着想が大きく異なっている。
【0090】
その理由としては、例えば、一般的な施工方法や特許文献1に記載の発明のように、スパー型の浮体式洋上風力発電装置を陸上で製造する場合には、岸壁50などの陸地に浮体式洋上風力発電装置の製造拠点を整備する必要がある。
【0091】
また、例えば、一般的な構造のスパー型の浮体と風力発電装置の組立体を海域で製造する場合には、高さが50m~100m程度のスパー型の浮体を水中に立てた状態で配置する必要があり、水深が100m~200m程度の深い海域にスパー型の浮体を配置することになる。水深が100m~200m程度の深い海域では、SEP船20の昇降用脚22を海底SBに着底させることはできない。それ故、スパー型の浮体式洋上風力発電施設の施工では、SEP船20を有効に活用することはできない。また、水深が100m~200m程度の深い海域に、仮設の水上構造物を構築するには多くのコストや労力や時間を要し、水上構造物にはSEP船20に搭載されているような大型のクレーンを設置する必要がある。また、水深が深い海域では、水上構造物を撤去する作業や海底SBの状態を復元する作業にも多くのコストと労力を要することになる。
【0092】
このように、本発明はスパー型を除くその他の型の浮体式洋上風力発電施設1の特徴を考慮して見出した施工方法であり、スパー型の浮体式洋上風力発電施設を施工する場合とは技術的思想が大きく異なっている。
【0093】
なお、上記では、セミサブ型の浮体式洋上風力発電施設1を施工する場合を例示したが、TLP型の浮体式洋上風力発電施設1やバージ型の浮体式洋上風力発電施設1を施工する場合にも、同様の施工方法で同様の効果を奏することができる。本発明は、複数の型の浮体式洋上風力発電施設1を並行して施工する場合にも採用できる。
【符号の説明】
【0094】
1 浮体式洋上風力発電施設
2 浮体
2a コラム
2b 連結体
3 風力発電装置
4 タワー
4a 分割部材
5 ナセルハブ
6 ブレード
7 係留索
8 アンカー
9 組立体
10 水上構造物
10a 桟橋
10b 浮体式構造物
11 支持杭
12 桁材
13 甲板材
14 ブレース
15 係留設備
16 防衝設備
20 自己昇降式台船(SEP船)
21 台船本体
22 昇降用脚
23 (自己昇降式台船に搭載されている)クレーン
24 タワーリフト用吊具
24a 挟持部
30 (水上構造物に配置される)クレーン
31 作業台車
32 立て起こし装置
33 保持部
34 支持部
35 回転機構
40 防波堤
50 岸壁
SB 海底
WL 海面位置
A、A1~A6 (第1~第6の)作業エリア
BA 着底エリア
SA 停船エリア
RW 走行路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17