(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-05
(45)【発行日】2025-06-13
(54)【発明の名称】匍匐害虫誘引剤、匍匐害虫誘引方法、及び匍匐害虫捕獲器
(51)【国際特許分類】
A01N 37/06 20060101AFI20250606BHJP
A01N 37/02 20060101ALI20250606BHJP
A01N 63/10 20200101ALI20250606BHJP
A01N 65/08 20090101ALI20250606BHJP
A01N 65/30 20090101ALI20250606BHJP
A01N 65/44 20090101ALI20250606BHJP
A01P 19/00 20060101ALI20250606BHJP
A01M 1/02 20060101ALI20250606BHJP
A01M 1/14 20060101ALI20250606BHJP
【FI】
A01N37/06
A01N37/02
A01N63/10
A01N65/08
A01N65/30
A01N65/44
A01P19/00
A01M1/02 A
A01M1/14 E
(21)【出願番号】P 2023518640
(86)(22)【出願日】2022-03-28
(86)【国際出願番号】 JP2022015171
(87)【国際公開番号】W WO2022234747
(87)【国際公開日】2022-11-10
【審査請求日】2023-09-28
(31)【優先権主張番号】P 2021079059
(32)【優先日】2021-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000207584
【氏名又は名称】大日本除蟲菊株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【氏名又は名称】沖中 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100171310
【氏名又は名称】日東 伸二
(72)【発明者】
【氏名】片山 南美
(72)【発明者】
【氏名】三石 帆波
(72)【発明者】
【氏名】猪口 佳浩
(72)【発明者】
【氏名】引土 知幸
(72)【発明者】
【氏名】川尻 由美
(72)【発明者】
【氏名】中山 幸治
【審査官】鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】特開昭51-009728(JP,A)
【文献】国際公開第2016/121528(WO,A1)
【文献】特開平06-256109(JP,A)
【文献】国際公開第2011/049065(WO,A1)
【文献】特開2016-202129(JP,A)
【文献】特開2003-026508(JP,A)
【文献】特開2017-081828(JP,A)
【文献】TAGATA Yoshinari,“ごま油市場”を創造した驚くべきヒット商品-『かどや 純正ごま油』かどや製油株式会社-,NewFoodIndustry,Vol.54, No.12,2012年,p.63-70
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01P
A01M
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数5~18の脂肪酸と、
植物性成分及び/又は動物性成分と、
を含有
し、
前記脂肪酸は、リノール酸、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、及びラウリン酸からなる群より選択される1種又は2種以上であり、
前記植物性成分は、米ぬか、さつまいも粉、及び蕎麦粉からなる群より選択される1種又は2種以上であり、
前記動物性成分は、オキアミ粉、鶏肉粉、及び魚粉からなる群より選択される1種又は2種以上であり、
ダニ類を対象害虫とする匍匐害虫誘引剤。
【請求項2】
前記脂肪酸は、リノール酸であり、
前記植物性成分は、米ぬかであり、
前記動物性成分は、鶏肉粉、及び/又は魚粉である請求項1に記載の匍匐害虫誘引剤。
【請求項3】
水をさらに含有する請求項1又は2に記載の匍匐害虫誘引剤。
【請求項4】
前記ダニ類は、ヤケヒョウヒダニ又はケナガコナダニである請求項1~3の何れか一項に記載の匍匐害虫誘引剤。
【請求項5】
1ヵ月以上に亘って
前記ダニ類を誘引する
請求項1~4の何れか一項に記載の匍匐害虫誘引剤。
【請求項6】
請求項1~5の何れか一項に記載の匍匐害虫誘引剤を用いて匍匐害虫を誘引する匍匐害虫誘引方法。
【請求項7】
請求項1~5の何れか一項に記載の匍匐害虫誘引剤と、
粘着捕獲部と、
を含む匍匐害虫捕獲器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、匍匐害虫誘引剤、匍匐害虫誘引方法、及び匍匐害虫捕獲器に関する。より詳細には、ダニ類等の匍匐害虫を誘引する匍匐害虫誘引剤、匍匐害虫誘引方法、及び匍匐害虫捕獲器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の気密性が増した住居環境では、ダニ類が繁殖し易いことが問題となっている。ダニ類は、アトピー性皮膚炎、喘息、アレルギー性疾患等の主な原因とされているため、一般住民からは、ダニ類を確実且つ安全に防除する手段・方法が望まれている。
【0003】
ダニ類の防除には、殺虫剤や忌避剤等の薬剤を用いる方法がある。ところが、この方法は、ダニ類の数を積極的に減少させるものではなく、ダニ類の死骸が残るという問題がある。また、化学薬品に敏感な人は薬剤の影響が懸念されるため、できるだけ薬剤を使用せず、手軽にダニを防除できる手段・方法が求められている。
【0004】
そこで、ダニ類を防除するにあたり、ダニ類を殺虫又は忌避するのではなく、ダニ類を誘引して捕獲するタイプの製品(ダニシート)が開発されている。このようなダニシートにおいて、誘引剤は捕獲性能を左右するものであるため重要である。
【0005】
誘引剤に関して、炭素数が4~18の直鎖脂肪酸から選ばれた1種以上の化合物を有効成分としたダニ類誘引組成物がダニ類誘引効果を奏することが知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0006】
また、炭素数が6~18の直鎖脂肪酸と、発酵食品又は食品を発酵させる微生物の少なくとも一方を含有するダニ類誘引剤も知られている(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平6-256109号公報
【文献】特開2020-200253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のダニ類誘引組成物は、使用される脂肪酸が特有の臭気を有するため、設置場所の周囲に不快感を誘発することが懸念される。一方、臭気を減らすため使用量を少なくすると、十分な誘引効果が得られないという問題がある。特許文献2のダニ類誘引剤は、発酵食品又は食品を発酵させる微生物の少なくとも一方を含有することで、特有の臭気を有する脂肪酸の使用量を少なくしながら、高いダニ類誘引効果を実現するものであるが、発酵食品等に由来する不快臭が発生するという別の新たな問題が生じる。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、臭気による不快感を低減し、なおかつ、ダニ類等の匍匐害虫に対する優れた誘引効果を示す匍匐害虫誘引剤、匍匐害虫誘引方法、及び匍匐害虫捕獲器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明に係る匍匐害虫誘引剤の特徴構成は、
炭素数5~18の脂肪酸と、
植物性成分及び/又は動物性成分と、
を含有することにある。
【0011】
本構成の匍匐害虫誘引剤によれば、使用する脂肪酸の量を減らしてその特有の臭気による不快感を低減し、さらに、脂肪酸のダニ類誘引効力増強作用を示す発酵食品等に由来する不快臭もなく、ダニ類等の匍匐害虫の優れた誘引効果を奏する。すなわち、本発明によれば、炭素数5~18の脂肪酸、あるいは、植物性成分及び/又は動物性成分をそれぞれ単独で使用した場合よりも優れた誘引効果が得られ、これらの成分の組み合わせによる相乗効果が得られることから、優れたダニ類等の匍匐害虫の誘引効果を奏しながらも、使用する誘引成分に由来する臭気による不快感を低減することができる。
【0012】
本発明に係る匍匐害虫誘引剤において、
前記植物性成分及び/又は動物性成分は、植物性粉末及び/又は動物性粉末であることが好ましい。
【0013】
本構成の匍匐害虫誘引剤によれば、植物性成分及び/又は動物性成分が、植物性粉末及び/又は動物性粉末であることにより、錠剤等への製剤化が容易であり、使い勝手の良い匍匐害虫誘引剤を得ることができる。
【0014】
本発明に係る匍匐害虫誘引剤において、
前記植物性成分は、麦粉末、小麦粉末、大麦粉末、蕎麦粉末、茶粉末、タピオカ粉末、じゃがいも粉末、さつまいも粉末、米粉末、とうもろこし粉末、片栗粉末、及び大豆粉末からなる群より選択される1種又は2種以上であることが好ましい。
【0015】
本構成の匍匐害虫誘引剤によれば、植物性成分として適切なものを含むため、炭素数5~18の脂肪酸と組み合わせることでより高い相乗効果が得られ、優れたダニ類等の匍匐害虫の誘引効果を奏しながらも、使用する誘引成分に由来する臭気による不快感を低減することができる。
【0016】
本発明に係る匍匐害虫誘引剤において、
前記動物性成分は、豚粉末、牛粉末、鶏粉末、及び魚介粉末からなる群より選択される1種又は2種以上であることが好ましい。
【0017】
本構成の匍匐害虫誘引剤によれば、動物性成分として適切なものを含むため、炭素数5~18の脂肪酸と組み合わせることでより高い相乗効果が得られ、優れたダニ類等の匍匐害虫の誘引効果を奏しながらも、使用する誘引成分に由来する臭気による不快感を低減することができる。
【0018】
本発明に係る匍匐害虫誘引剤において、
前記脂肪酸は、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オクチル酸、イソステアリン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、及びリノレン酸からなる群より選択される1種又は2種以上であることが好ましい。
【0019】
本構成の匍匐害虫誘引剤によれば、脂肪酸として適切なものを含むため、植物性成分及び/又は動物性成分と組み合わせることでより高い相乗効果が得られ、優れたダニ類等の匍匐害虫の誘引効果を奏しながらも、使用する誘引成分に由来する臭気による不快感を低減することができる。
【0020】
本発明に係る匍匐害虫誘引剤において、
ダニ類を対象害虫とすることが好ましい。
【0021】
本構成の匍匐害虫誘引剤によれば、近づいてきたダニ類を確実に誘引できる優れた匍匐害虫誘引剤を提供することができる。
【0022】
本発明に係る匍匐害虫誘引剤において、
1ヵ月以上に亘ってダニ類を誘引することが好ましい。
【0023】
本構成の匍匐害虫誘引剤によれば、長期間に亘ってダニ類を誘引し続けることができるため、匍匐害虫捕獲器に設置した場合、取り換えの頻度を少なくすることができる。
【0024】
上記課題を解決するための本発明に係る匍匐害虫誘引方法の特徴構成は、
上記の何れかの匍匐害虫誘引剤を用いて匍匐害虫を誘引することにある。
【0025】
本構成の匍匐害虫誘引方法によれば、本発明の匍匐害虫誘引剤を用いているため、使用する脂肪酸の量を減らしてその特有の臭気による不快感を低減し、さらに、脂肪酸のダニ類誘引効力増強作用を示す発酵食品等に由来する不快臭もなく、ダニ類等の匍匐害虫の優れた誘引効果を奏する。すなわち、本発明によれば、炭素数5~18の脂肪酸、もしくは、植物性成分及び/又は動物性成分をそれぞれ単独で使用した場合よりも優れた誘引効果が得られ、これらの成分の組み合わせによる相乗効果が得られることから、優れたダニ類等の匍匐害虫の誘引効果を奏しながらも、使用する誘引成分に由来する臭気による不快感を低減することができる。
【0026】
上記課題を解決するための本発明に係る匍匐害虫捕獲器の特徴構成は、
上記の何れかの匍匐害虫誘引剤と、
粘着捕獲部と、
を含むことにある。
【0027】
本構成の匍匐害虫捕獲器によれば、本発明の匍匐害虫誘引剤を用いているため、使用する脂肪酸の量を減らしてその特有の臭気による不快感を低減し、さらに、脂肪酸のダニ類誘引効力増強作用を示す発酵食品等に由来する不快臭もなく、ダニ類等の匍匐害虫の優れた誘引効果を奏する。すなわち、本発明によれば、炭素数5~18の脂肪酸、もしくは、植物性成分及び/又は動物性成分をそれぞれ単独で使用した場合よりも優れた誘引効果が得られ、これらの成分の組み合わせによる相乗効果が得られることから、優れたダニ類等の匍匐害虫の誘引効果を奏しながらも、使用する誘引成分に由来する臭気による不快感を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の匍匐害虫誘引剤、匍匐害虫誘引方法、及び匍匐害虫捕獲器について詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態に記載される構成に限定されることを意図しない。
【0029】
[匍匐害虫誘引剤]
本発明の一実施形態は、炭素数5~18の脂肪酸と、植物性成分及び/又は動物性成分と、を含有する匍匐害虫誘引剤である。
【0030】
本発明の匍匐害虫誘引剤に用いられる脂肪酸は、炭素数5~18の脂肪酸である。当該脂肪酸は、単独で使用した場合にも、ダニ類等の匍匐害虫に対して一定程度の誘引効果を奏するが、後述の植物性成分及び/又は動物性成分と組み合わせることで、相乗的により優れた誘引効果を奏することができる。
【0031】
炭素数5~18の脂肪酸としては、特に限定されないが、形状としては、直鎖の脂肪酸、及び分岐鎖を有する脂肪酸の何れでもよく、分子構造としては、飽和脂肪酸、及び不飽和脂肪酸の何れも用いることができる。例えば、直鎖の飽和脂肪酸としては、吉草酸(炭素数5)、カプロン酸(炭素数6)、エナント酸(炭素数7)、カプリル酸(炭素数8)、ペラルゴン酸(炭素数9)、カプリン酸(炭素数10)、ラウリン酸(炭素数12)、ミリスチン酸(炭素数14)、ペンタデシル酸(炭素数15)、パルミチン酸(炭素数16)、マルガリン酸(炭素数17)、及びステアリン酸(炭素数18)等が挙げられる。分岐鎖を有する飽和脂肪酸としては、オクチル酸(炭素数8)、及びイソステアリン酸(炭素数18)等が挙げられる。直鎖の不飽和脂肪酸としては、パルミトレイン酸(炭素数16)、オレイン酸(炭素数18)、リノール酸(炭素数18)、及びリノレン酸(炭素数18)等が挙げられる。これらの中でも、炭素数8~18の脂肪酸が好ましく、炭素数12~18の脂肪酸がより好ましい。具体的には、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、及びリノレン酸が好ましい。なお、これらの炭素数5~18の脂肪酸は、それぞれ単独で使用できるが、2種以上を組み合わせてもよい。
【0032】
炭素数5~18の脂肪酸は、そのものを使用してもよく、牛乳、バター、卵黄、チョコレート、菜種油、ごま油、パーム油、トウモロコシ油、大豆油、サラダ油、ピーナッツオイル、ココナッツオイル、オリーブオイル、アボカド、マーガリン、ショートニング、及び加工油脂等のように炭素数5~18の脂肪酸を含有する食品を使用してもよい。炭素数5~18の脂肪酸を含有する食品は、それぞれ単独で使用できるが、2種以上を組み合わせてもよい。
【0033】
匍匐害虫誘引剤中の炭素数5~18の脂肪酸の配合量は、特に限定されないが、0.1~50質量%であることが好ましく、0.3~30質量%であることがより好ましく、0.5~20質量%であることがさらに好ましい。
【0034】
本発明の匍匐害虫誘引剤は、植物性成分及び/又は動物性成分を含有し、好ましくは植物性成分及び動物性成分を含有する。植物性成分及び/又は動物性成分は、発酵していないものが好ましい。植物性成分は、植物に由来する成分であれば特に限定されず、後述の植物性粉末や、当該植物性粉末を溶剤(水、エタノール、アセトン等)で抽出等の処理をした植物性粉末由来のエキス、オイル等も植物性成分に含まれる。動物性成分は、動物に由来する成分であれば特に限定されず、後述の動物性粉末や、当該動物性粉末を溶剤(水、エタノール、アセトン等)で抽出等の処理をした動物性粉末由来のエキス、オイル等も動物性成分に含まれる。匍匐害虫誘引剤が上記の炭素数5~18の脂肪酸とともに、植物性成分及び/又は動物性成分を含有することで、ダニ類等の匍匐害虫の相乗的な誘引効果を奏しながらも、使用する誘引成分に由来する臭気による不快感を低減することができる。
【0035】
植物性成分は、植物性粉末であることが好ましい。植物性成分が、植物性粉末であることにより、錠剤等への製剤化が容易であり、使い勝手の良い匍匐害虫誘引剤を得ることができる。植物性粉末としては、特に限定されないが、麦粉等の麦粉末、小麦粉等の小麦粉末、大麦粉等の大麦粉末、蕎麦粉等の蕎麦粉末、緑茶乾燥茶葉等の茶粉末、タピオカ粉等のタピオカ粉末、じゃがいも粉等のじゃがいも粉末、さつまいも粉等のさつまいも粉末、米粉や米ぬか等の米粉末、とうもろこし粉等のとうもろこし粉末、片栗粉等の片栗粉末、及びきなこ等の大豆粉末等が挙げられる。これらの植物性粉末は、それぞれ単独で使用できるが、2種以上を組み合わせてもよい。なお、後述の担体や賦形剤において、デンプン等の植物由来の粉末を含む場合があるが、担体や賦形剤に含まれる植物由来の粉末は、本発明の匍匐害虫誘引剤に使用される植物性粉末とは区別される。
【0036】
動物性成分は、動物性粉末であることが好ましい。動物性成分が、動物性粉末であることにより、錠剤等への製剤化が容易であり、使い勝手の良い匍匐害虫誘引剤を得ることができる。動物性粉末としては、特に限定されないが、豚骨粉や豚肉粉等の豚粉末、牛骨粉や牛肉粉等の牛粉末、鶏骨粉、鶏肉粉、鶏卵粉、鶏卵殻粉等の鶏粉末、乾燥魚粉、オキアミ粉、乾燥エビ粉、及び乾燥カニ粉等の魚介粉末等が挙げられる。これらの動物性粉末は、それぞれ単独で使用できるが、2種以上を組み合わせてもよい。
【0037】
植物性成分及び/又は動物性成分の匍匐害虫誘引剤中の配合量は、特に限定されないが、10~90質量%であることが好ましく、20~85質量%であることがより好ましく、30~80質量%であることがさらに好ましい。
【0038】
炭素数5~18の脂肪酸と、植物性成分及び/又は動物性成分との配合比は、特に限定されないが、質量ベースで、(植物性成分及び/又は動物性成分)/(炭素数5~18の脂肪酸)=1~900であることが好ましく、2~250であることがより好ましく、3~150であることがさらに好ましい。配合比が上記の範囲内であると、ダニ類等の匍匐害虫の相乗的な誘引効果を奏しながらも、使用する誘引成分に由来する臭気による不快感を低減することができる。
【0039】
本発明の匍匐害虫誘引剤は、酸化による劣化等の腐食を防ぐために、ビタミンC(アスコルビン酸)、ビタミンE(アルファ-トコフェロール)、BHT(ジブチルヒドロキシトルエン)、BHA(ブチルヒドロキシアニソール)、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、及び亜硫酸ナトリウムなどの酸化防止剤を添加することができる。これらの酸化防止剤は、それぞれ単独で使用できるが、2種以上を組み合わせてもよい。
【0040】
本発明の匍匐害虫誘引剤は、本発明の効果を妨げない範囲において、公知の殺虫成分や殺ダニ成分、殺菌剤、防黴剤、防腐剤、担体、賦形剤、ゲル化剤、徐放化剤、分散剤、滑沢剤、界面活性剤、結合剤、香料、着色料、乳化剤、増粘剤等を含有してもよい。これらの成分は、それぞれ単独で使用できるが、2種以上を組み合わせてもよい。また、これらの成分は、そのままの状態でも使用できるが、水や有機溶媒等の液体に溶解させた溶液、又は分散させた分散液等の形態で使用することも可能である。
【0041】
殺虫成分や殺ダニ成分としては、特に限定されないが、ピレトリン、アレスリン、プラレトリン、フタルスリン、イミプロトリン、フラメトリン、レスメトリン、ペルメトリン、フェノトリン、エムペントリン、シペルメトリン、シフェノトリン、フェンプロパトリン、フェンバレレート、トランスフルトリン、プロフルトリン、メトフルトリン、モンフルオロトリン、及びこれらの光学又は幾何学異性体等のピレスロイド系化合物;カルバリル、及びプロポクスル等のカーバメート系化合物;フェニトロチオン、フェンチオン、DDVP(ジメチル2,2-ジクロルビニルホスフェイト)、ダイアジノン、マラソン、ブロモフォス、及びピリダフェンチオン等の有機リン系化合物;メトキサジアゾン、アミドフルメト、シラフルオフェン、並びにブロフラニリド等が挙げられる。この他にも、IBTA(チオシアノ酢酸イソボルニル)、N-(フルオロジクロロメチルチオ)フタルイミド、N,N-ジメチル-N’-フェニル-N’-(フルオロジクロロメチルチオ)-スルファミド、2,4,4’-トリクロロ-2’-ハイドロキシジフェニルエーテル、サリチル酸フェニル、安息香酸ベンジル、4-クロロフェニル-3’-ヨード-プロパルギルホルマール、第四級アンモニウム塩、植物精油、テルペン化合物、二塩基酸エステル、ディート、イカリジン、IR3535、チョコレートフレーバー、及びアーモンドフレーバー等の食品フレーバー等が例示できる。これらは、それぞれ単独で使用できるが、2種以上を組み合わせてもよい。
【0042】
殺菌剤、防黴剤、及び防腐剤としては、安息香酸又はその塩、サリチル酸又はその塩、ソルビン酸又はその塩、デヒドロ酢酸又はその塩、パラオキシ安息香酸エチル、及びパラオキシ安息香酸ブチル等のパラオキシ安息香酸エステル、p-クロロ-m-キシレノール、2-(4’-チアゾイル)ベンズイミダゾール、イソプロピルメチルフェノール、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジニウム、塩化デカリニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、塩酸クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、2,4,4’-トリクロロ-2’-ハイドロキシジフェニルエーテル、チモール、ヒノキチオール、α-ブロモシンナミックアルデヒド、N-ジメチル-N-フェニル-N’-(フルオロジクロロメチル)チオスルファミド、イマザリル、並びにチアベンダゾール等が例示できる。これらは、それぞれ単独で使用できるが、2種以上を組み合わせてもよい。
【0043】
担体、及び賦形剤としては、ケイ酸、カオリン、活性炭、ベントナイト、珪藻土、タルク、クレー、炭酸カルシウム、及び陶磁器粉等の鉱物質粉末、木粉、大豆粉、及び小麦粉等の植物質粉末等、シクロデキストリン等の包接化合物、トリシクロデカン、シクロドデカン、2,4,6-トリイソプロピル-1,3,5-トリオキサン、トリメチレンノルボルネン、アダマンタン、及びしょうのう等の昇華性担体、純水や水道水等の水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、及びグリセリン等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、及びシクロヘキサノン等のケトン類、テトラヒドロフラン、及びジオキサン等のエーテル類、ヘキサン、ケロシン、パラフィン、及び石油ベンジン等の脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、及びキシレン等の芳香族炭化水素類、酢酸エチル等のエステル類、並びにジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類等を例示できる。これらは、それぞれ単独で使用できるが、2種以上を組み合わせてもよい。
【0044】
ゲル化剤としては、ベンジリデン-D-ソルビトール、カラギーナン、キサンタンガム、グアーガム、ペクチン、ローカストビーンガム、及びカルボキシメチルセルロース等を例示できる。これらは、それぞれ単独で使用できるが、2種以上を組み合わせてもよい。
【0045】
本発明の匍匐害虫誘引剤は、炭素数5~18の脂肪酸と、植物性成分及び/又は動物性成分とを混合することにより製造することができる。このとき、必要に応じて任意の成分を混合することも可能である。各成分の混合は、公知の手段を用いて行うことができる。本発明の匍匐害虫誘引剤は、固形状(粉末状、顆粒状等を含む)、半固形状、又は液状等の何れの剤型であってもよい。一例を挙げると、炭素数5~18の脂肪酸と、植物性成分及び/又は動物性成分と、水とを捏和混合し、成型して自然乾燥させることにより、固形状の匍匐害虫誘引剤とすることができる。
【0046】
本発明の匍匐害虫誘引剤が誘引対象とする匍匐害虫の種類は、特に限定されない。一例を挙げると、匍匐害虫は、ケナガコナダニ等のコナダニ、ヤケヒョウヒダニやコナヒョウヒダニ等のチリダニ、ワクモ、ハダニ、トゲダニ、イエダニ、ツメダニ、トリサシダニ、ニクダニ、ヒゼンダニ、及びタカラダニ等のダニ類、クモ類、ムカデ類、アリ類、ゲジ類、ヤスデ類、ダンゴムシ類、ワラジムシ類、シロアリ類、ケムシ類、シラミ類、マダニ類、ゴキブリ類、並びにトコジラミ類等である。本発明の匍匐害虫誘引剤は、これらの中でも、ダニ類、シラミ類、ゴキブリ類、及びトコジラミ類を誘引対象とすることが好ましく、ダニ類を誘引対象とすることがより好ましい。
【0047】
本発明の匍匐害虫誘引剤は、任意の場所に設置等をして使用できる。設置等の場所としては、玄関、台所、洗面台、寝室、及び居間等の部屋、押入れ、タンス、食品収納庫、衣装ケース、及び人形ケース等の収納家具内等が挙げられる。設置等の方法は、任意の場所に置く、ぶら下げる、貼り付ける、散布する、及び噴霧する等が挙げられる。
【0048】
本発明の匍匐害虫誘引剤は、設置等の場所に応じて、適宜製剤設計をすることができる。例えば、液剤、粉剤、顆粒剤、ベイト剤、ペースト剤、ゲル剤、エアゾール剤、及びスプレー剤等の剤型とすることができる。
【0049】
このような製剤とした本発明の匍匐害虫誘引剤は、単独で、又は他の成分と併せて、粘着捕獲器等に用いることができる。そして、本発明の匍匐害虫誘引剤は、1個当たりの誘引剤の大きさや量にもよるが、1ヵ月以上、少なくとも1~48時間に亘ってダニ類を誘引することが可能であり、有効である。そのため、本発明の匍匐害虫誘引剤を匍匐害虫誘引装置に設置した場合、取り換えの頻度を少なくすることができる。
【0050】
[匍匐害虫誘引方法]
本発明の一実施形態は、炭素数5~18の脂肪酸と、植物性成分及び/又は動物性成分と、を含有する匍匐害虫誘引剤を用いて匍匐害虫を誘引する匍匐害虫誘引方法である。
【0051】
本発明における匍匐害虫誘引剤は、上記の「匍匐害虫誘引剤」に記載したとおりである。
【0052】
本発明の匍匐害虫誘引方法は、匍匐害虫誘引剤を、上記のようにダニ類等の匍匐害虫を誘引したい任意の場所に適宜設置等することで実施される。本発明の匍匐害虫誘引方法は、使い勝手や誘引したダニ類等の匍匐害虫の捕獲の観点から、匍匐害虫誘引剤を収納したダニ捕獲器、及びゴキブリ捕獲器等の匍匐害虫捕獲器等を、ダニ等の匍匐害虫を誘引したい任意の場所に設置等することで実施されることが好ましい。
【0053】
[匍匐害虫捕獲器]
本発明の一実施形態は、炭素数5~18の脂肪酸と、植物性成分及び/又は動物性成分と、を含有する匍匐害虫誘引剤と、粘着捕獲部と、を含む匍匐害虫捕獲器である。
【0054】
本発明における匍匐害虫誘引剤は、上記の「匍匐害虫誘引剤」に記載したとおりである。
【0055】
匍匐害虫捕獲器は、少なくとも匍匐害虫誘引剤と、その表面に粘着性を備える粘着捕獲部とを有していればよく、匍匐害虫捕獲器における匍匐害虫誘引剤と粘着捕獲部との配置については特に制限されない。以下に例を挙げて説明する。例えば、匍匐害虫捕獲器において、匍匐害虫誘引剤と粘着捕獲部とが接するように配置することができる。また、匍匐害虫誘引剤と基材とを組み合わせて複合物を形成し、匍匐害虫捕獲器において、当該複合物を粘着捕獲部に接するように(すなわち、匍匐害虫誘引剤及び基材の少なくとも一方が粘着捕獲部に接するように)配置することもできる。また、匍匐害虫捕獲器において、匍匐害虫誘引剤及び/又は前記複合物を粘着捕獲部の一部または全体と混合して配置することもできる。あるいは、匍匐害虫捕獲器において、匍匐害虫誘引剤及び/又は前記複合物を粘着捕獲部とは接しないものの粘着捕獲部付近に配置することもできる。さらに、匍匐害虫捕獲器において、匍匐害虫誘引剤及び粘着捕獲部を、匍匐害虫捕獲器の一部に配置したり、複数箇所に配置したり、全体に配置することもできる。
【0056】
基材としては、特に限定されないが、匍匐害虫誘引剤を保持できるものであればよく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、及びポリエステル等の合成樹脂、天然樹脂、並びにこれらの混合樹脂、合成繊維、天然繊維、並びにこれらの混合繊維、ガラス、アルミニウム、ステンレス、及び亜鉛等の金属を主原料とするもの等を含む基材が例示される。また、基材の形態は制限されないが、固形状であるものが好ましく、匍匐害虫誘引剤の塗布、噴霧、含浸、収容、及びコート等が可能なシート状の基材(紙、織布、不織布、皮革、繊維、フィルム、及びプラスチック板等)、匍匐害虫誘引剤を収容可能な容器状、及び袋状等の基材、並びに匍匐害虫誘引剤と混合可能な固形状(粉末、及び顆粒等)の基材等が例示される。このように従来公知の方法に従って、上記複合物が得られる。複合物における匍匐害虫誘引剤の含有量は、本発明の効果が得られる限り制限されない。
【0057】
粘着捕獲部としては、粘着性を有する物質を用いるものであれば、特に限定されないが、ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、タンパク質系粘着剤、及び多糖類系粘着剤等の汎用のものを使用することができる。これらの粘着剤は、溶剤型粘着剤、エマルジョン型粘着剤、及びホットメルト型粘着剤の何れも使用可能である。例えば、ゴム系粘着剤としては、天然ゴム系粘着剤、スチレン・ブタジエンゴム系粘着剤、再生ゴム系粘着剤、ポリイソブチレン・ブチレンゴム系粘着剤、ポリブテン系粘着剤、及びブロックコポリマー系粘着剤等が挙げられる。これらの粘着剤は、それぞれ単独で使用できるが、2種以上を組み合わせてもよい。これらの粘着剤を、厚紙、及びダンボール等の紙類、PE、PP、PET、及びPVC等の樹脂シート、並びに金属板等に貼着したり、塗布したりすることにより、粘着捕獲部を構成することができる。
【0058】
匍匐害虫捕獲器は、上記匍匐害虫誘引剤と上記粘着捕獲部とを上記のように配置することにより得られる。例えば、匍匐害虫誘引剤と粘着捕獲部とを両者が接するように配置し、これをシート状の繊維基材に収容することにより、匍匐害虫捕獲器を得ることができる。
【0059】
本発明の匍匐害虫捕獲器の設置等の場所としては、特に限定されないが、玄関、台所、洗面台、寝室、及び居間等の部屋、押入れ、タンス、食品収納庫、衣装ケース、及び人形ケース等の収納家具内等が挙げられ、これらの場所において、本発明の匍匐害虫誘引方法を実施することができる。
【実施例】
【0060】
以下、本発明の匍匐害虫誘引剤、匍匐害虫誘引方法、及び匍匐害虫捕獲器に係る実施例を示す。ただし、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0061】
〔匍匐害虫誘引剤による害虫誘引試験〕
表1及び表2に記載の実施例1~13、比較例1~5、及び参考例1の組成(賦形剤はタルクを使用、表中の数値は質量%)の固形状の匍匐害虫誘引剤1mgをろ紙(1×1cm)の上に設置し、これを粘着テープ(5×5cm)の中央に貼り付け、ヤケヒョウヒダニ、又はケナガコナダニを放飼した毛布(10×20cm)の上に設置し、48時間後に粘着テープに捕捉されたダニ類の数を実体顕微鏡下で数えた。
【0062】
結果を表1及び表2に示す。固形状にした実施例1~13の匍匐害虫誘引剤を設置したろ紙を貼着した粘着テープでは、明らかに捕捉ダニ類の数の相乗的な増加が認められ、本発明の匍匐害虫誘引剤による優れたダニ誘引効果が確認できた。例えば、脂肪酸としてリノール酸のみを含む比較例1のヤケヒョウヒダニの捕獲数は13匹であり、植物性粉末として米ぬかのみを含む比較例3のヤケヒョウヒダニの捕獲数は15匹であったが、リノール酸及び米ぬかを含む実施例1のヤケヒョウヒダニの捕獲数は36匹であり、それぞれ単独の成分を含む2つの比較例の合計よりも多くのヤケヒョウヒダニを捕獲することができた。さらに、植物性粉末及び動物性粉末を含有する実施例11~13においては、植物性粉末又は動物性粉末を含有する実施例1~10に対して、捕捉ダニ類の数のさらなる増加が確認できた。
【0063】
【0064】
【0065】
〔匍匐害虫捕獲器を用いた害虫誘引試験1〕
実施例13の匍匐害虫誘引剤を直径15mmで2mm厚の円盤状に打ち抜き、錠剤(重さ1g)を作製した。次にポリブテン(分子量900)95部、ポリイソブチレン(分子量120万)5部からなる粘着剤を調製し、この粘着剤を広さ8×15cm、厚さ1mmのボール紙に、0.5mm厚で塗着して粘着捕獲部を得た。この粘着捕獲部の中央に、先に作製した錠剤を置き、匍匐害虫捕獲器を得た。この匍匐害虫捕獲器をキッチンの端に設置し、48時間放置したところ、5匹のチャバネゴキブリが捕獲されていた。
【0066】
〔匍匐害虫捕獲器を用いた害虫誘引試験2〕
実施例13の匍匐害虫誘引剤を直径15mmで2mm厚の円盤状に打ち抜き、錠剤(重さ1g)を作製した。次に合成ゴム系ホットメルト樹脂からなる粘着剤を調製し、この粘着剤を広さ10×10cm、厚さ1mmのボール紙に、0.5mm厚で塗着して粘着捕獲部を得た。この粘着捕獲部の中央に、先に作製した錠剤を置き、匍匐害虫捕獲器を得た。この匍匐害虫捕獲器を家具の裏に設置し、48時間放置したところ、多数のケナガコナダニが捕獲されていた。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の匍匐害虫誘引剤、匍匐害虫誘引方法、及び匍匐害虫捕獲器は、屋内に潜むダニ類の捕獲を目的として利用することが可能である。