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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-05
(45)【発行日】2025-06-13
(54)【発明の名称】膣内リング
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/565 20060101AFI20250606BHJP
   A61K 31/57 20060101ALI20250606BHJP
   A61P 5/30 20060101ALI20250606BHJP
   A61P 5/24 20060101ALI20250606BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20250606BHJP
   A61K 9/00 20060101ALI20250606BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20250606BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250606BHJP
   A61F 6/06 20060101ALI20250606BHJP
【FI】
A61K31/565
A61K31/57
A61P5/30
A61P5/24
A61P15/00
A61K9/00
A61K47/32
A61P43/00 121
A61F6/06
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2024543444
(86)(22)【出願日】2023-01-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-30
(86)【国際出願番号】 EP2023051390
(87)【国際公開番号】W WO2023139221
(87)【国際公開日】2023-07-27
【審査請求日】2024-10-24
(31)【優先権主張番号】22152795.5
(32)【優先日】2022-01-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】524274325
【氏名又は名称】セバー ファーマ ソリューションズ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】デ グラフ, ワウター
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン ラールホーヴェン, ハンス
【審査官】星 浩臣
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-539205(JP,A)
【文献】特表2007-502316(JP,A)
【文献】国際公開第2015/086489(WO,A1)
【文献】特表2016-508789(JP,A)
【文献】特開平10-287549(JP,A)
【文献】特表2011-504484(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0209539(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第103566462(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第113365634(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61F
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
膣内リングであって、該膣内リングは、
酢酸ビニル含有量が26~40重量%である第1のエチレン-酢酸ビニルコポリマー(3)と、エストロゲンステロイド(4)とを含有するコア(2)、及び
酢酸ビニル含有量が20~40重量%である第2のエチレン-酢酸ビニルコポリマー(6)と、シースの重量を基準として少なくとも10重量%のプロゲステロンステロイド(7)とを含有するシース(5)
を備え、
シースが、膣内リングの外層である、膣内リング。
【請求項2】
シースが、当該シースの重量を基準として少なくとも15重量%少なくとも20重量%、又は少なくとも30重量%のプロゲステロンステロイドを含有する、請求項1に記載の膣内リング。
【請求項3】
シースが、当該シースの重量を基準として40重量%以下、又は35重量%以下のプロゲステロンステロイドを含有する、請求項1に記載の膣内リング。
【請求項4】
プロゲステロンステロイドが、第2のエチレン-酢酸ビニルコポリマー中に、粒子の形態、例えば結晶の形態で分散されている、かつ/又は組み込まれている、請求項1に記載の膣内リング。
【請求項5】
エストロゲンステロイドが、第1のエチレン-酢酸ビニルコポリマー中に、25℃での当該エストロゲンステロイドの飽和濃度以下で溶解されている、請求項1に記載の膣内リング。
【請求項6】
エストロゲンステロイドが、第1のエチレン-酢酸ビニルコポリマー中に、粒子の形態、例えば結晶の形態で分散されている、かつ/又は組み込まれている、請求項1に記載の膣内リング。
【請求項7】
コアが、当該コアの重量を基準として少なくとも10重量%少なくとも15重量%、又は少なくとも20重量%のエストロゲンステロイドを含有する、請求項6に記載の膣内リング。
【請求項8】
第2のエチレン-酢酸ビニルコポリマーにおけるプロゲステロンステロイドの粒子が、レーザー回折により決定して、3μm~40μmの間、8μm~24μmの間、又は10μm~24μmの間の粒径を有する、請求項4に記載の膣内リング。
【請求項9】
第1のエチレン-酢酸ビニルコポリマーにおけるエストロゲンステロイドの粒子が、レーザー回折により決定して、3μm~40μmの間、8μm~24μmの間、又は10μm~24μmの間の粒径を有する、請求項6に記載の膣内リング。
【請求項10】
第1のエチレン-酢酸ビニルコポリマーの酢酸ビニル含有量が、26重量%、33重量%、又は40重量%である、請求項1に記載の膣内リング。
【請求項11】
第2のエチレン-酢酸ビニルコポリマーの酢酸ビニル含有量が、24重量%、28重量%、33重量%、又は40重量%である、請求項1に記載の膣内リング。
【請求項12】
エストロゲンステロイドがエストラジオールである、請求項1に記載の膣内リング。
【請求項13】
プロゲステロンステロイドが、プロゲストゲン、エトノゲストレル、レボノルゲストレル、d-1-ノレストレル、及びノルエチンドロンからなる群から選択される、請求項1に記載の膣内リング。
【請求項14】
シースの厚さが、0.05mm~3mmの間0.05mm~2mmの間0.1mm~2mmの間、又は0.1mm~0.6mmの間にある、請求項1に記載の膣内リング。
【請求項15】
コアの断面直径が、2~8mmの間3mm~6mmの間、又は4mm~5mmある、請求項1に記載の膣内リング。
【請求項16】
膣内リングの外径が、45mm65mmの範囲にあるか、およそ54mmである、請求項1に記載の膣内リング。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか一項に記載の膣内リングを製造する方法であって、
a.酢酸ビニル含有量が26~40重量%である第1のエチレン-酢酸ビニルコポリマーと、エストロゲンステロイドとを含有するコアを用意すること、
b.酢酸ビニル含有量が20~40重量%である第2のエチレン-酢酸ビニルコポリマーと、シースの重量を基準として少なくとも10重量%のプロゲストゲンステロイドとを含有するシースを用意すること、
c.コア及びシースを共押し出しして繊維にすること、
d.繊維を適切な長さに切断することによって、繊維要素をもたらすこと、及び
e.繊維要素の端部を組み合わせて、膣内リングを形成すること、
を含む、方法。
【請求項18】
シースにおいて少なくともプロゲステロンステロイドの結晶をもたらすために、工程cからもたらされた繊維を約20℃の温度に冷却する、冷却工程をさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
少なくとも28日の処置期間の間、エストロゲンステロイドについて実質的に0次の放出速度をもたらすための、請求項1から16のいずれか一項に記載の膣内リング
【請求項20】
エストラジオールの平均放出速度が、少なくとも28日の処置期間の間、80μg/日~160μg/日である、請求項19に記載の膣内リング
【請求項21】
プロゲストゲンの平均放出速度が、少なくとも28日の処置期間の間、5mg/日~10mg/日である、請求項19に記載の膣内リング
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膣内リング、当該リングの製造方法、及び当該リングの使用に関する。
【0002】
好ましくはリングの表面を通じた拡散により、活性成分を制御して持続的に放出するために、様々なタイプの(IVR)が開発されてきた。
【0003】
このような器具の例は、Estring(登録商標)、Femring(登録商標)、及びNuvaring(登録商標)であり、これらは全て長期間、例えば数週間/数か月間にわたり、ステロイド分子を制御しながら持続的に放出する。望ましくない妊娠の防止に加えて、この器具には、いくつかの利点がある:その使用は、女性によって制御される;使用者が注意することなく、薬物の用量をより良好に調整することができる;経口投与された対応物と比較して、薬物の1日の用量のうちかなりの部分の破壊(腸による、また最初に肝臓を通過することによる)を回避することができる。
【0004】
これら既知の膣リングは、ステロイドの放出に特に有用であることが判明しており、その比較的小さい分子サイズ、及び実質的に水不溶性の性質により、疎水性エラストマー/ポリマーを通じた効果的な浸透が可能になり、治療濃度が体内で直ちに達成され得る。
【0005】
しかしながら、ポリマー内での拡散は複雑であり、複数の異なる要因に依存することが知られており、それは例えば、温度、製造プロセス、ポリマーへの薬物の溶解性及び拡散性、薬物リザーバの表面積、薬物が器具表面に到達するために器具を通って拡散する距離、及び薬物の分子量である。したがって、ポリマー系への低分子及び高分子の拡散を理解、予測、及び制御することは、いまだに困難である。この点で、薬物を送達するための膣内リングの使用には、器具の寿命を通じて適切な一日の用量を使用者に信頼性をもって提供できるように、放出速度を制御する設計が必要である。
【0006】
リザーバ系、すなわち、非薬用膜/シースに取り囲まれた薬物充填コアでは、薬物がまず、リザーバからシース内へと分配され、それからシースのもう片側(ここで受容媒体により取り込まれる)へと拡散する。リザーバが飽和している間、膜内で薬物の一定の濃度勾配が維持され、薬物フラックスの速度は一定であり、0次の放出が達成される。しかしながら、リザーバ内における薬物濃度が低下すると、膜にわたる勾配、及び薬物の放出速度も減少する。
【0007】
さらに、リザーバシステムは、信頼性をもって作製するのが困難なことがあり、リザーバを取り囲むシース内にピンホール欠陥及び亀裂があると、ドーズダンピング、すなわち意図していない、短期間での急速な薬物放出につながり得る。
【0008】
薬物の同時送達/放出は、様々な異なる領域で用途が見出されている。しかしながら、1つの膣内リングに薬物のブレンドを所望の送達速度比に等しい割合で配置しても、所望の結果が得られることは、ほとんどない。多くの場合、薬物はブレンド中に存在するため、薬物が表面又は膜を通じて同じ速度で一緒に拡散することはない。そうではなく、この速度は、例えば速度制御膜を通じた薬物について正規化された浸透速度の固有速度に依存することになる。よってフレキシビリティは、シースに適したポリマー候補の選択に限られることになる。したがって、送達速度比の範囲、及び送達速度比にわたる制御の程度は、極めて限られている。
【0009】
もちろん、特定の送達速度比を維持する必要性は、薬物ごとに別個の膣内リングを使用することによって、満たすことができる。しかしながら、これは明らかに望ましくない。1つの膣内リングでさえも、動物又はヒトの正常な生理学的活性に混乱を生じさせることがあるのに、2つ以上の膣内リングが存在すると、この混乱が複合的になるからである。加えて、1つの膣内リングに不具合があると、所望の送達比が失われることになる。さらに、1つの膣内リングでの完全な治療は、患者にとってより受け入れやすく、挿入及び取り外しがより効率的である。
【0010】
特定の送達速度の調整はまた、2つ又は多数のコンパートメント型膣内リング、及び薬物放出カプセルを含むリング体により、満たすこともできる。しかしながら、このようなリングを工業的規模で製造することは複雑であり、また高価である。
【0011】
複数の薬物を放出するために配置構成された既知の膣内リングでのさらなる問題は、このようなリングでは通常、異なる薬物について最適とは言えない放出パターンが見られる一方で、一般的には、全ての薬物が特定の持続期間にわたり、制御された速度で放出されるのが好ましいことである。
【0012】
よって、2つの活性成分/薬物を制御しながら正確な速度で放出するために配置構成された新規の膣内リング、及び単純で安価に当該膣内リングを製造する方法が、必要とされている。
【0013】
よって、本発明の第1の態様では、エストロゲンステロイド及びプロゲステロンステロイドをともに負荷可能な膣内リングであって、各ステロイドが、もう一方のステロイドとは独立した制御速度で放出される、膣内リングが提供される。
【0014】
本発明の第2の態様では、ステロイドについて経時的な放出速度変動を減少させる、膣内リングが提供される。
【0015】
本発明の第3の態様では、複雑で高価な製造プロセス、ドーズダンピング、及び薬物の初期バーストに関連する既知の問題を解消すると同時に、エストロゲンステロイドについて実質的に0次の放出速度をもたらす膣内リングが提供される。
【0016】
本発明の第4の態様では、室温で安定的な膣内リングが提供される。
【0017】
これらの態様及びさらなる態様を達成する、本発明による新規で独特な特徴は、
・酢酸ビニル含有量が26~40重量%である第1のエチレン-酢酸ビニルコポリマーと、エストロゲンステロイドとを含有するコア、及び
・酢酸ビニル含有量が20~40重量%である第2のエチレン-酢酸ビニルコポリマーと、シースの重量を基準として少なくとも10重量%のプロゲステロンステロイドとを含有するシース
を備える、膣内リングによって提供される。
【0018】
本発明による膣内リングは、シースによって少なくとも部分的に、ただし好ましくは完全に取り囲まれたコアを含む、システムに関する。しかしながら、この種の従来のシステムとは対照的に、本発明によるシースは、高濃度の活性成分も含み、これによって2つのステロイドが同時に放出される。
【0019】
2つのステロイドのデュアル投与は、様々な領域(例えば避妊リング、及びホルモン補充をもたらすリング)で用途が見出されている。
【0020】
このような膣内リングについては、2つのステロイドを同時に、同じタイミングで放出する必要がある。よって、これらのステロイドの放出速度を独立して、生理学的最適速度(mg/日)に調整する必要がある。本発明による膣内リングを使用することにより、部材を複雑に組み立てる必要なく、また洗練された多層押し出し技術を使用する必要なく、2つのステロイド(エストロゲンステロイド及びプロゲステロンステロイド)を独立して最適に放出可能なことを、本発明者らは見出した。
【0021】
シース内のプロゲステロンステロイドの濃度が少なくとも10重量%である膣内リングを使用することにより、コア内のエストロゲンステロイドについて所望のほぼ0次の放出挙動が、より長い期間にわたって観察されることが保証される。加えて、活性成分についてこのように高い濃度は、プロゲステロンステロイドの良好な物理的安定性と結びついている。
【0022】
実質的に0次放出とは、所定の期間にわたり、エストロゲンステロイドが実質的に一定の量で放出されることを意味する。いくつかの実施態様では、本システムが、少なくとも14日間、好ましくは少なくとも28日間、さらにより好ましくはおよそ2~3か月の処置期間にわたり、エストロゲンステロイドについて実質的に0次の放出特性を示す。
【0023】
先に述べたように、コア/リザーバ内でより深いところにある1又は複数の活性成分が表面に拡散しなければならないため、コア内の活性成分の放出速度が減少するという問題は、よく知られている。しかしながら、プロゲステロンステロイドをシースに高濃度で負荷することにより、コアにおけるエストロゲンステロイドの放出速度が経時的にやや増加し、これによって当該ステロイドが、周囲への放出のために膣内リングの表面へと移動しなければならないさらなる距離が補償され、これによって、エストロゲンステロイドについて実質的に0次の放出速度が所望の処置期間にわたりもたらされることを、本発明者らは見出した。
【0024】
プロゲステロンステロイドが、シースを通じてエストロゲンステロイドの拡散速度を制御するのに充分なほど、第2のエチレン-酢酸ビニルコポリマー中に分散及び/又は組み込まれていることが、重要である。
【0025】
理論に拘束されることなく、シースにおけるプロゲステロンステロイドがフィラーとして作用し、エストロゲンステロイドの放出速度を制御すると考えられる。シースに存在するプロゲステロンステロイドが周囲に放出されると、プロゲステロンステロイドの濃度が減少し、シース内への水の拡散が容易になって、空の多孔質マトリックス及び/又は空のポケット/穴が残り、かつ/又はシースが崩壊することによって、エストロゲンステロイドについて、所望の0次放出特性が保証されると考えられる。よって、当初はプロゲステロンステロイドにより占められていた空間が、空の多孔質マトリックス(水の侵入により水で充填され得る)を残し、かつ/又は空のポケット/穴を残し得ると考えられる。これは、非薬用シースに取り囲まれているコアにおける活性成分の放出速度が経時的にやや減少する(つまり、所望の0次放出速度が、このような従来の膣リングについて所望の処置期間にわたって維持できない)という従来の知見と、矛盾するものである。
【0026】
いくつかの実施態様では、プロゲステロンステロイドが、第2のエチレン-酢酸ビニルコポリマー中に、好ましくは少なくとも15重量%、さらにより好ましくは、少なくとも20重量%、さらにより好ましくは、少なくとも25重量%、分散されている。
【0027】
エストロゲンステロイドがシース全体に放出可能なことを保証するために、シースがプロゲステロンステロイドを、シースの重量を基準として40重量%以下、好ましくは35重量%以下の濃度で含有することが好ましい。
【0028】
プロゲステロンステロイドが比較的高い濃度でシースに存在することにより、エストロゲンステロイドの分子がシースにおける2つの点を移動しなければならない平均経路長の増加につながるだけでなく、シースの第2のエチレン-酢酸ビニルコポリマーに溶解可能なエストロゲンステロイドの量も減少させることになり、したがって当該シースを通じたエストロゲンステロイドの放出速度が減少する。これにより、信頼性の高い放出速度が得られ、エストロゲンステロイドの初期バーストがより低くなる。したがって、シースをより小さくすることができ、エストロゲンステロイドのバーストが著しく低い、より小さな製品を提供することができる。
【0029】
この点で、プロゲステロンステロイドが、第2のエチレン-酢酸ビニルコポリマーに粒子の形で、好ましくは結晶で組み込まれている、かつ/又は分散されているのが好ましい。このような粒子/結晶は、溶解していない固体の結晶(これは種結晶として、すなわち徐放性貯蔵庫として作用する)の保管場所を形成することになる。時間が経つにつれて、プロゲステロンステロイドが周囲に送達されると、結晶のうち一部が、第2のエチレン-酢酸ビニルコポリマーへと解放され、これによってプロゲステロンステロイドが、長期間放出される。さらに、膣内リングにおけるプロゲステロンステロイドの安定性は、プロゲステロンステロイドが、溶解されていない粒子/結晶としてシースに組み込まれると、改善される。
【0030】
理論に拘束されることなく、シースにおいてプロゲステロンステロイドの濃度を高濃度に維持することにより、結晶によって多孔質ネットワーク経路が生じ、第2のエチレン-酢酸ビニルコポリマーのマトリックス内の多数の部位/開口/細孔が空いたままになり、エストロゲンステロイドは、シース内の曲がりくねった経路を通ってのみ放出可能になり、これによって拡散長が増大し、放出速度が制御されることが保証されると考えられる。
【0031】
処置期間の間、エストロゲンステロイドについて所望の0次放出を得るためには、エストロゲンステロイドが、第1のエチレン-酢酸ビニルコポリマーに溶解されていることが好ましく、これらの実施態様では、エストロゲンステロイドが第1のエチレン-酢酸ビニルコポリマー中に、25℃における当該エストロゲンステロイドの飽和濃度以下の濃度で存在することが好ましい。
【0032】
エストロゲンステロイドのうち一部は、貯蔵時に膣内リング全体に再分布することになる(すなわち、コアにおけるステロイドの濃度は、ステロイドの一部がシース内へと拡散するにつれて、低下する)と予測されるため、「飽和濃度を下回る」という用語は、平衡化された膣内リング(すなわち、膣内リングにおいてエストロゲンステロイドの平衡化が達成されたとき)で測定された、コア内のエストロゲンステロイドの濃度を指す。
【0033】
あるいは、エストロゲンステロイドは、プロゲステロンステロイドについて開示したのと同じ理由で、粒子の形態、好ましくは結晶の形態でコアに存在していてよい。このようにして、エストロゲンステロイド及びプロゲステロンステロイドの双方について安定性が改善され、ひいては本発明による膣内リングの安定性が改善される。
【0034】
エストロゲンステロイドがコア内に粒子として存在する場合、当該エストロゲンステロイドは、コアの第1のエチレン-酢酸ビニルコポリマー中に、コアの総重量の少なくとも10重量%、好ましくは少なくとも15重量%、さらにより好ましくは少なくとも20重量%の濃度で、分散されているかつ/又は組み込まれているのが好ましい。
【0035】
薬物が負荷されたコアを取り囲むシースには、活性成分が低濃度で含まれることが知られているにもかかわらず(例えばWO2013/120888参照)、本発明で特許請求されているように、シースに高濃度でプロゲステロンステロイドを含有させることが知られていないことに、留意されたい。低濃度の活性成分、すなわち10重量%を充分に下回る濃度では、コアにおける活性成分の放出速度には、まったく影響を及ぼさないか、又は非常に限定的な影響しか及ぼさず、したがって、本発明にとっては重要ではない。
【0036】
本発明の文脈に基づき当業者は、シースにおけるプロゲステロンステロイドの量/濃度を変更することにより、第2のエチレン-酢酸ビニルコポリマーについて異なるグレードを使用することにより、かつ/又はプロゲステロンステロイドについて異なる粒子サイズ、若しくは異なる粒子サイズのブレンドを使用することにより、シースを通じた拡散速度の制御及び/又は調整が可能なことを理解するだろう。
【0037】
しかしながら、プロゲステロンステロイド、及び任意選択的なエストロゲンステロイドの粒子/結晶は好ましくは、平均粒径が3μm~40μm、好ましくは8μm~24μm、さらにより好ましくは10μm~24μmである。このような粒径によって、所望のほぼ0次の放出速度が長期間にわたり、すなわち少なくとも14日間、好ましくは少なくとも28日間の所望の処置期間にわたり、もたらされることが判明しているからである。
【0038】
本明細書で使用するように、「結晶」という用語は、活性成分の粒子が規則正しい顕微鏡構造に配置されて、結晶格子を形成することを指す。「結晶サイズ」又は「粒径」という用語は、結晶又は粒子の平均粒子直径を指す。粒子サイズ、結晶サイズ及び/又は粒径分布は、レーザー回折を用いて、例えばMalvernのレーザー散乱粒子サイズ分析器を用いて測定するのが好ましい。しかしながら、当業者に知られたその他の粒子測定装置又は技術も、使用することができ、それは例えば、動的光散乱、又はふるい分析である。本明細書中で使用されるように、「結晶サイズ」又は「粒子サイズ」という用語は、粒子/結晶の粒子分布直径を指す。一例を挙げれば、D90は、例えばレーザー回折、動的光散乱、又はふるい分析で測定した場合に、粒子の90%が、所定の値を下回る直径を有することを意味する。
【0039】
本発明の膣内リングで使用される第1及び第2のエチレン-酢酸ビニル(EVA)コポリマーは、膣管に配置するために適しており、すなわち、当該材料は、患者又は動物に対して無毒で非吸収性であり、機械的及び物理的特性がともに優れていると考えられる。
【0040】
EVAコポリマーの酢酸ビニル濃度によって、活性成分が系を通じて全般的に拡散する速度が決まり、酢酸ビニル濃度が低いほど、活性成分がコポリマーから放出される速度、又は活性成分がコポリマーを通じて移動する速度が遅くなる。
【0041】
第2のエチレン-酢酸ビニルコポリマーは、酢酸ビニル含有量が20~40重量%、例えば24重量%、28重量%、33重量%又は40重量%である。これらの材料は、例えばプロゲステロンステロイド放出速度が最適なレベルにあることを保証することにより、シースを通じて所望の放出特性をもたらすからである。
【0042】
エストロゲンステロイドについて所望の0次放出特性をもたらすために、コアは、酢酸ビニル含有量が26~40重量%、好ましくは26重量%、33重量%、又は40重量%のエチレン-酢酸ビニルコポリマーを含有するのが好ましい。
【0043】
本発明の1つの実施態様では、第1及び第2のエチレン-酢酸ビニルコポリマーが、同じ酢酸ビニル含有量を有する(すなわち、第1及び第2のエチレン-酢酸ビニルコポリマーが同じ)。
【0044】
特定の酢酸ビニル含有量、例えば20重量%が言及される場合、これは製造業者により提供された重量%含有量を指す。しかしながら、製造業者は、酢酸ビニル含有量を決定するために異なる内部分析法を使用することがあるため、実際の酢酸ビニル含有量は、製造業者により1~2%の範囲で変動し得る。よって本発明において、酢酸ビニル含有量とは、標準的な手法に従い高分解能NMRによって決定された、エチレン-酢酸ビニルコポリマーにおける酢酸ビニル含有量をさす。エチレン-酢酸ビニルコポリマーにおける酢酸ビニル含有量の重量%は、エチレン-酢酸ビニルコポリマーの重量を基準とする。
【0045】
本発明による膣内リングは、デュアル薬物送達リングである。すなわち当該リングは、エストロゲンステロイド及びプロゲステロンステロイドの双方を含む。好ましい実施態様では、エストロゲンステロイドがエストラジオールであり、プロゲステロンステロイドが、プロゲストゲン、エトノゲストレル、レボノルゲストレル、D-1-ノレストレル、及びノルエチンドロンからなる群から選択され、好ましくはレボノルゲストレルである。これらのステロイドは、避妊を予防するため、又は何らかの状態(例えば膣の萎縮)を処置するため、又はホルモン補充療法、例えば更年期障害に関連する症状(例えばほてり)のために、選択され得る。
【0046】
本発明による膣内リングは、当該ステロイドについて医薬的に有効な量を送達するように適合されている。「医薬的に有効」とは、対象における所望の生理学的又は薬理学的変化に影響を与えるのに充分な量を意味する。この量は、ステロイドの効力、所望の生理学的又は薬学的作用、及び意図された処置の期間などによって変動する。当業者であれば、標準的な手順に従って、所定のステロイドについて医薬的な有効量を決定することができるだろう。
【0047】
シース(これは好ましくは、本発明による膣内リングの外層である)の厚さは、エストロゲンステロイド及びプロゲステロンステロイドの放出速度をさらに制御するため、変えることができる。よって、本発明による薬物送達システムは、活性成分を有さないシース/膜(例えば速度制御シース)を含まない/備えないのが好ましい。
【0048】
1つの実施態様では、シースの厚さが0.05mm~3mmの間にある。この厚さは、好ましくは0.05~2mm、より好ましくは、0.1mm~2mm、さらにより好ましくは、0.2mm~0.6mmであり得る。特定の実施態様では、シースの厚さが100μm、200μm、300μm、400μm、500μm、又は600μmである。
【0049】
本発明に接した当業者であれば、薄いシースが、厚いシースよりも少ない活性成分を有し得ること、及びシースにおけるプロゲステロンステロイドの濃度が、所望の処置期間にわたり、関連する活性成分を所望の速度で放出することを維持するのに充分であるべきことを理解するだろう。酢酸ビニル含有量がより高い、又はより低いグレードのエチレン-酢酸ビニルコポリマーを使用することにより、エストロゲンステロイドについて平均放出速度を実質的に同一に維持したまま、シースの厚さを変えることができる。例えば、より多くのプロゲステロンステロイドをシースに収容することが必要なため、より厚いシースが望ましい場合、酢酸ビニル含有量がより高いエチレン-酢酸ビニルコポリマーのグレードを選択することができる。
【0050】
コアは、断面直径が2~8mmの円形断面を有するのが好ましく、当該断面直径は、より好ましくは3mm~6mm、さらにより好ましくは、およそ4mmである。
【0051】
膣内リングの寸法は、対象の解剖学的構造、患者に送達すべき活性成分の量、活性成分が送達されるべき期間、活性成分の拡散特性、及びその他の製造上の考慮事項によって変わり得る。唯一の要件は、膣内リングに、膣腔内に曲げて挿入できるほど柔軟性があること、また膣の上皮に摩耗を引き起こすことなく、膣の筋肉組織の排出力に耐えるほど剛性があることである。このような膣内リングの外径は、例えば約45mm~約65mmの範囲であってよく、かつ/又は膣内リングを形成する繊維要素の長さは、150~170mm、好ましくは154~160mm、例えば約157mmであり得る。
【0052】
本発明の文脈において、膣内リングという用語は、他の形状、例えば、多角形形状及び/又は波型の形状を有するリングの設計又は構造、又は当該構造が完全な及び/又は閉鎖された円/形状ではないものも考慮している。
【0053】
好ましい実施態様では、膣内リングが、
・酢酸ビニル含有量が28重量%~33重量%である第1のエチレン-酢酸ビニルコポリマーと、25℃における飽和濃度を下回るエストロゲンステロイド濃度とを有するコア、及び
・酢酸ビニル含有量が24重量%、28重量%、33重量%、又は40重量%である第2のエチレン-酢酸ビニルコポリマーと、シースの重量を基準として30重量%のプロゲステロンステロイドとを含有するシース、
を備える。
【0054】
好ましい実施態様のコアは、断面直径が4mmであり、シースの厚さが600μmである。リングの直径は、54mmである。
【0055】
好ましい実施態様において、エストラジオールの平均放出速度は、28日間の処置期間の間、80μg/日~160μg/日であり、好ましくは、ほぼ0次の放出速度がもたらされる。しかしながら当該平均放出速度は、これより高くてもよく、例えば最大200μg/日、例えば180μg/日、又は約165μg/日であり得る。
【0056】
さらに、又は代替的に、プロゲストゲンの平均放出速度は、28日の処置期間にわたり、5mg/日~10mg/日である。シースにおけるプロゲストゲンの含有量が枯渇するので、プロゲストゲンの放出速度は、治療期間にわたり減少すると予測される。
【0057】
本願に基づいて当業者は、本願発明の範囲において、エストラジオール及びプロゲストゲンの平均放出速度の組み合わせが考慮されていることを理解するだろう。例えば、1つの膣内リングにおいて、エストラジオールの平均放出速度が80μg/日であり、プロゲストゲンの放出速度が、0mg/日であり、異なる実施態様では、エストラジオールの平均放出速度が100μm/日であり、プロゲストゲンの平均放出速度が5mg/日であり、第3の実施態様では、エストラジオールの平均放出速度が160μm/日であり、プロゲストゲンの平均放出速度が8mg/日であるなど。
【0058】
本発明による好ましい実施態様では、膣内リングが、2つのステロイド(すなわち、エストロゲンステロイド及びプロゲステロンステロイド)以外のステロイドを含有せず、かつ/又はさらなるコア及び/又は層(例えばシース及び膜)を備えない。すなわち、本発明による膣内リングは、1つのコアと、当該コアを完全に取り囲む1つのシースとからなり、コアにはエストロゲンステロイドがあり、シースにはプロゲステロンステロイドがある。
【0059】
本発明はまた、本発明による膣内リングを製造する方法に関する。
【0060】
当該方法は、
a.酢酸ビニル含有量が26~40重量%である第1のエチレン-酢酸ビニルコポリマーと、エストロゲンステロイドとを含有するコアを用意すること、
b.酢酸ビニル含有量が20~40重量%である第2のエチレン-酢酸ビニルコポリマーと、シースの重量を基準として少なくとも10重量%のプロゲストゲンステロイドとを含有するシースを用意すること、
c.コア及びシースを共押し出しして繊維にすること、
d.繊維を適切な長さに切断することによって、繊維要素をもたらすこと、及び
e.繊維要素の端部を組み合わせて、膣内リングを形成すること
を含む。
【0061】
コア及びシースが共押し出しされるので、本発明によれば非常に単純で安価な実施態様がもたらされるが、好ましい場合には、コア及びシースを別の射出成型型又は押出工程で形成することができる。射出成型型及び押出成形は、当業者によく知られており、本願ではこれ以上論じない。
【0062】
本方法はさらに、冷却工程を含むことが好ましく、当該冷却工程では、シース及び任意選択的にコア中にステロイドの結晶をもたらすために、用意した繊維又は繊維要素が20℃以下の温度に冷却される。これは例えば、繊維を冷却水浴に配置することによって、達成することができる。
【0063】
理論に拘束されることなく、本発明者らは、シース及び任意選択的にコアで形成される結晶は、再結晶化の速度論によって引き起こされると考えている。シース及び任意選択的にコアにおける活性成分の濃度が相対的に高いと、「種」結晶の濃度が比較的高くなり、これによって、共押し出し後に繊維を冷却するときに、再結晶が起こり得る。
【0064】
当該冷却工程は、工程cの直後に行われるのが好ましく、すなわち、製造の観点からは事実上可能な限り早く、すなわち、工程cにおける繊維の完成から30分以内が好ましい。
【0065】
リングは、さらなるEVA材料又は接着材料を添加せずに、繊維端部を一緒に熱で溶接することによって製造されるのが好ましい。
【0066】
本発明を以下で、本発明による膣内リングの例示的な実施態様を記載することによって、さらに詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0067】
図1】本発明による膣リングについて好ましい実施態様の斜視図を示す。
図2】リングAE3についてシミュレーションした、プロゲステロンの平均放出を示す。
図3】リングAE3についてシミュレーションした、エストラジオールの平均放出を示す。
図4】シミュレーションしたプロゲステロン放出と、早期枯渇に対するシース厚さの影響を示す。
図5】エストラジオール放出特性に対する、断面直径の影響を示す。
図6】リングBF1についてシミュレーションした、エストラジオールの平均放出を示す。
図7】リングBF1についてシミュレーションした、プロゲステロンの平均放出を示す。
図8】シミュレーションしたエストラジオール放出と、放出速度に対するシース厚さの影響を示す(リングBF1、BF2及びBF3)。
図9】リングBF1においてシミュレーションした、プロゲステロン放出を示す。
図10】0.39重量%のエストラジオールが負荷されたコアと、5重量%のプロゲステロンが負荷されたシースとを有する繊維の断面図を示す写真であり、シースの厚さは、(a)200μm、(b)300μm、(c)400μmである。
図11】0.39重量%のエストラジオールが負荷されたコアと、33.9重量%のプロゲステロンが負荷されたシースとを有する繊維の断面図を示す写真であり、シースの厚さは、(a)200μm、(b)300μm、(c)400μmである。
図12】10重量%のエストラジオールが負荷されたコアと、33.9重量%のプロゲステロンが負荷されたシースとを有する繊維の断面図を示す写真であり、シースの厚さは、(a)200μm、(b)300μm、(c)400μmである。
図13A】コアに0.39w/w%のエストラジオールを有し、シースに5w/w%のプロゲステロンを有するIVRについて、プロゲステロン及びエストラジオールの放出を示す。
図13B】コアに0.39w/w%のエストラジオールを有し、シースに5w/w%のプロゲステロンを有するIVRについて、プロゲステロン及びエストラジオールの放出を示す。
図14A】様々なIVRのプロゲステロン放出を示す。
図14B】様々なIVRのプロゲステロン放出を示す。
図14C】様々なIVRのプロゲステロン放出を示す。
図15】コアに10w/w%のエストラジオールを有し、シースに33.9w/w%のプロゲステロンを有する様々なIVRについて、プロゲステロン放出を示す。
図16A】コア及びシースに様々なエストラジオール及びプロゲステロン濃度を有する様々なIVRについて、エストラジオール放出を示す。
図16B】コア及びシースに様々なエストラジオール及びプロゲステロン濃度を有する様々なIVRについて、エストラジオール放出を示す。
図16C】コア及びシースに様々なエストラジオール及びプロゲステロン濃度を有する様々なIVRについて、エストラジオール放出を示す。
図17A】様々なIVRのエストラジオール放出を示す。
図17B】様々なIVRのエストラジオール放出を示す。
【0068】
図1は、本発明による膣内リング(IVR)1の好ましい実施態様を示す。当該実施態様においてIVRは、エストロゲンステロイド4を含有する、第1のエチレン-酢酸ビニルコポリマー3製のコア2と、プロゲステロンステロイド7を含有する、第2のエチレン-酢酸ビニルコポリマー6製のシース5とを備える。
【0069】
図2~17については、下記実施例を参照しつつ、以下でさらに詳細に論じる。
【0070】
実施例1
外径及びシース厚さの影響を評価するために、一連の膣内リングの放出速度を、コンピュータモデリングにより評価した。このモデルでは、薬物の拡散(系内の濃度勾配と、シースに分散したプロゲステロン(P4)のゆっくりとした溶解によって駆動される)が考慮され、受け入れ媒体が完全なシンク(sink)であると仮定している。リングの断面直径によって系の表面積が決まるため、より直径が大きいリングは、それに比例してより多くの薬物放出を示すと仮定される。
【0071】
シースの厚さによって、リングに存在するプロゲステロンの量が決まる(プロゲステロンの濃度は均一/変化しないと仮定)。送達システムに負荷された薬剤物質の量は、重要な設計パラメータである。プロゲステロン放出は、意図された使用期間にわたって維持されるべきである一方、経済的及び環境的な理由で、大幅な超過は避けるべきだからである。
【0072】
評価したリングはEVA28製であり、コア及びシースの両方のために使用する。貯蔵中には、溶解したプロゲステロン及びエストラジオールの再分配が、内部拡散プロセスによって起こる。当初コアに負荷された薬剤(すなわち、エストラジオール(溶解))の画分は、シース内へと拡散し、このプロセスは、リングが平衡化されるまで続くことになり、シースの厚さ及び貯蔵条件に応じて、これは数週間、続くことがある。表1に挙げたエストラジオール負荷量は、リング(シース及びコア含む)内で0.27重量%という均一な濃度で平衡化した後に生じるものであり、これは、37℃におけるEVA28のエストラジオール飽和濃度に相当する。リングにプロゲステロンが負荷されたシース(表1参照)の熱力学的平衡は、シースに30重量%、コアに1.7重量%というプロゲステロン濃度をもたらす。
【0073】
このシミュレーションにより、この特別な場合では、シースの厚さが、エストラジオール放出に影響しないという当業者の予測が、確認される。薬物は、平衡化後には均一に分布しており、コアもシースもEVA28製であるため、コアとシースとの間に分配は起こらないからである。
【0074】
一連の9つのリング(シースの厚さと断面直径が異なる)の放出速度を、表1に挙げた。この表からは、プロゲステロン(P4)及びエストラジオール(E2)の放出速度が、断面直径によりスケーリングされることが明らかになる。
【0075】
【0076】
図2及び3は、リングAE3についてシミュレーションした、プロゲステロン及びエストラジオールそれぞれの平均放出を示す。当該図面から分かるように、ステロイドの放出速度は、28日の処置期間にわたり、減少する。
【0077】
図4は、リングA1及びA3からのプロゲステロン放出シミュレーションを示す。このシミュレーションは、早期枯渇を説明しており、早期枯渇が起こるのは、シース厚さが不充分であり、意図された28日間の使用にわたり、プロゲステロンの放出を維持するのにプロゲステロン含有量が不充分な場合である。
【0078】
E2の放出特性に対する断面直径の影響が、図5に示されている。図4及び5に可視化された放出速度は、実際の放出速度であることに留意されたい。よって、溶出のごく初期時点における放出は、もちろん一日目の平均よりずっと高いため、バーストははるかに高く見える。
【0079】
実施例2
放出速度に対する、コアに分散されたエストラジオールE2及びシース厚さの影響を評価するために、一連の膣内リングを、コンピュータモデリングにより評価した。
【0080】
シース厚さが異なる一連の3つのリングについての放出速度を、表に2挙げる。この表からは、エストラジオールの放出速度が、シース厚さによりスケーリングされることが明らかになる。さらに、送達システム(BF1、BF2、及びBF3)により、28日目であっても、エストラジオールについて持続的で高い放出速度がもたらされる。シース厚さを変えても、プロゲステロンの放出速度に対して顕著な影響はなかった。
【0081】
【0082】
図6は、BF1からの一日の平均放出を示す。当該リングにより、使用期間全体(28日間)にわたり、充分なエストラジオールがもたらされる。400μm(リングBF1)から600μm(リングBF3)へとシース厚さを増やすと、一日の平均放出がほぼ30%減少する(図2及び8参照)。
【0083】
図7及び9は、リングBF1からのプロゲステロン放出シミュレーションを示す。薬物負荷が35重量%と高くても早期枯渇は起こり、意図された28日の使用期間にわたって充分な放出を維持するためには、リング内のプロゲステロンが不充分であることが分かる。
【0084】
実施例3
コアにおけるエストラジオール(E2)濃度の作用、シースにおけるプロゲステロン(P4)濃度の作用、並びにエストラジオール及びプロゲステロンそれぞれの放出速度に対するシース厚さの影響を評価するために、一連の膣内リング(IVR)を以下のように製造した。
【0085】
【0086】
プロセススキーム及び製造
APIのエストラジオール及びプロゲステロンを含有するコア/シース繊維を、繊維製造のための以下のプロセスフローに示すように製造した。
【0087】
【0088】
粉砕されたEVA及びAPIを、表3に詳述した割合に従って秤量した。4つのバッチは全て、同じ混合プロトコルを用いて混合した。コンパウンド化は、緊密にかみ合う11mmの2軸スクリュー押し出し機(Thermo scientific社の2軸スクリュー押し出し機Pharma 11)を用いて行った。まとめると、4つのバッチを表3に従ってコンパウンド化し、活性の顆粒/ペレットを製造した。すべてのバッチについて、コンパウンド化設定温度は、90℃である。
【0089】
【0090】
共押し出しプロセスにおけるペレットの処理特性を強化するため、ステアリン酸マグネシウム(MgSt)を全てのバッチに添加した。まず、0.1重量%のMgStを活性ペレットが入った混合バッグに加え、その後、手でおよそ3分間、混合した。
【0091】
5mmのダイを備えた共押し出しラインを使用して、5mmのシース/コア繊維を製造した。共押し出しラインは、シースのための1軸スクリュー押し出し機16/25(D/L)(すなわち、16は直径であり、25は長さであり、直径比がD/L)と、コアのための1軸スクリュー25/25(D/L)とを備える。
【0092】
製造された繊維のコアとシースの双方に、活性成分が含まれている:さらに、シースの厚さを調合ごとに変えて、繊維直径5mmでシースの厚さを200μm、300μm、及び400μmにした(表5参照)。
【0093】
繊維特性(直径及びシース厚さ)は、押し出し機1(シース)及び押し出し機2(コア)のメルトポンプ速度によって制御し、直径5mmの繊維を必要なシース厚さで製造した。すべての繊維は、90℃~100℃で押出成形した。メルトポンプ速度は、ポンプの能力に基づき計算した。コアと比較したシース厚さは、図11(ACバッチ)及び図12(DCバッチ)に見られる。ABバッチ(図10)について、境界は見えなかった。各バッチについてのメルトポンプ速度1及び2を、表4に挙げる。
【0094】
シースについてのメルトポンプ体積は0.6cm3であり、コアについては2.4cm3である。
【0095】
共押し出し後に、繊維を157mmの長さに切断し、その後、溶接して膣内リング(IVR)を形成する。製造されたIVR(各バッチ)を、表5に挙げる。
【0096】
ABバッチの場合、シースに負荷されたプロゲステロン濃度は5重量%であり、押出成形の間にプロゲステロンは、予想されたとおり、完全に溶解している。内部拡散の結果として、プロゲステロンはリング全体に再分布し、早期の結晶化が起こらない場合、リングにおけるプロゲステロン濃度は、リングが平衡状態になると、完全に均一になる。
【0097】
*200、300及び400という数字はそれぞれ、200μm、300μm及び400μmのシース厚さを表す。
【0098】
繊維の光学的観察
各バッチAB200、AB300及びAB400、すなわち、0.39重量%のエストラジオール及び5重量%のプロゲステロンについては、コアとシースとの間に明確な境界が観察できなかった(図10参照)のに対して、他のバッチについては、明確な境界が観察できた(図11及び12参照)。これは、エストラジオール及びプロゲステロンが、シース及びコアのそれぞれにあるEVA28に溶解されたからである。
【0099】
コアとシースとの間のコントラスト(すなわち境界)は、エストラジオール(0.39重量%)が溶解され、プロゲステロン(33.9重量%)が結晶で負荷された各バッチAC200、AC300及びAC400について、最大である(図11との対比)。
【0100】
コントラスト(すなわち境界)は、両方のAPIが結晶形態で存在するとき、すなわち、10重量%のエストラジオールと、33.9重量%のプロゲステロンとを含有するIVRの場合(溶解されたAPI画分に加えて)に、低い(図12のDC200、DC300、及びDC400の場合に見られる)。
【0101】
観察されたシース/コアのシステムは一般的に、中心に寄った/集中した(centered/concentred)幾何学形状を示した(図11及び12参照)。
【0102】
製造したIVRのエストラジオール及びプロゲステロンの放出速度は、表6(エストラジオールデータを示す)、表7(プロゲステロンデータを示す)、及び対応する図面13~17に示してある。
【0103】
【0104】
【0105】
表6及び7からの結果について、以下でさらに詳細に論じる。
【0106】
用意したIVRにおけるエストラジオール及びプロゲステロンの放出
様々なシース厚さで、0.39重量%のエストラジオールと、5重量%のプロゲステロンとを含有するIVR(ABバッチ)
0.39重量%のエストラジオールと、5重量%のプロゲステロンとを含有するバッチから得られたIVR(すなわち、AB200、AB300及びAB400)からの、エストラジオール及びプロゲステロンの放出を、図13A及び13Bに示す。
【0107】
当該図面から明らかなように、プロゲステロンの放出は、シースの厚さが増加するにつれて増える:全ての場合について、1日の放出量は、10日後に1日あたり1mg未満である。
【0108】
エストラジオールは、ABバッチ中に低濃度(0.39重量%)でしか存在しないので、エストラジオールは、リング中に溶解する。シース及びコアは、AB200、AB300及びAB400のバッチについて同じポリマーから作製されている(図10参照)ので(分配無し)、平衡状態のエストラジオール濃度は均一であり、このためシース厚さの影響を受けない。しかしながら、図13Bにはわずかな影響がみられる。これは少量のプロゲステロン結晶が、有効な拡散経路を増加させているという事実に起因すると予測されるが、これは僅かでしかない。
【0109】
よって、シースにおける低濃度(5重量%)のプロゲステロンが、コアにおけるエストラジオールの放出速度に対して影響をもたらさない、又は非常に限定的な影響しかもたらさないことは明らかである。
【0110】
コア内のエストラジオール濃度に依存した、プロゲステロンの放出
エストラジオールの濃度及びシースの厚さに依存した、シースにおけるプロゲステロンの放出速度の比較を、図14A、14B及び14Cに示す。
【0111】
当該図面から明らかなように、シースに33.9重量%のプロゲステロンを有するIVRにおけるプロゲステロンの放出は、シースに5重量%のプロゲステロンを有するIVRと比較して、ずっと高い。
【0112】
しかしながら、図14A、B及びCのデータから分かるように、エストラジオールが、溶解されて、すなわち相対的に低いエストラジオール濃度(0.39重量%)で、及び/又は結晶状態で、すなわち比較的高いエストラジオール濃度(10重量%)で存在していれば、プロゲステロンの放出に影響を与えないと結論付けることもできる。結晶性エストラジオールを含有するリングはまた、エストラジオールを溶解状態で(飽和濃度又はそれに近い可能性が高い)含むことに留意されたい。
【0113】
例えば、図14Aでは、IVRのAC200(0.39重量%のエストラジオール)及びDC200(10重量%のエストラジオール)が、実質的に同一のプロゲステロン放出特性を有し、同じことが図14AにおけるAC300(0.39重量%のエストラジオール)及びDC300(10重量%のエストラジオール)、及び図14CにおけるAC400(0.39重量%のエストラジオール)及びDC400(10重量%のエストラジオール)に見られる。
【0114】
プロゲステロンの放出に対する、シース厚さの影響
図15に示したように、シースの厚さを増大させることにより、プロゲステロンについて持続的な送達が可能になる。
【0115】
AC及びDCのバッチ双方からの一日のプロゲステロン放出(シース厚さが同じ場合)は、枯渇現象が、各シース厚さにとって重要になるまで、同じである。DC200(AC200)では早くも七日目に、IVRに対する枯渇の影響が見られるのに対して、DC300(AC300)でこれが起こるのは、12~13日目である。図15には、DC200バッチについてのデータのみが示されているものの、これらのデータは、各ACバッチについて同一である。
【0116】
エストラジオールの放出に対する、シース厚さの影響
図16A、B及びCから明らかなように、シースにプロゲステロンが存在することにより、エストラジオールについて一日の放出が減少する。
【0117】
この作用は、エストラジオール(0.39重量%)が、主にコアに溶解しているAB及びACのIVRのように、シースの厚さが例えば200μmと薄い場合、それほど顕著ではない(図16A参照)。
【0118】
DCバッチのように、エストラジオールがコアに結晶形態で(例えば10重量%)存在する場合、最大放出閾値は、プロゲステロン結晶が負荷されたシース厚さにより規定される(図16A、B及びC参照)。
【0119】
エストラジオールの放出を妨げる溶解プロゲステロンに加えて(図13参照)、プロゲステロンが結晶形態で存在することによっても、エストラジオールの放出に影響がもたらされる(図16参照)。
【0120】
図17A及びBから明らかなように、エストラジオールが結晶形態で存在することにより、すなわち、10重量%のエストラジオールを有するDCバッチによって、IVRからエストラジオールを0次放出速度で28日間、持続的に放出することが可能になる。
【0121】
14日後のエストラジオール放出がやや増加したのは、2つの物理現象の結果であり得る:プロゲステロンがシースに結晶で存在することによって、拡散長が増大(すなわち、平均放出速度が減少)する傾向があり、シースにおける結晶の枯渇により、シースの穴を通じたより速い拡散が可能になる。この点で、当初はプロゲステロンに占められていた空間には、空の多孔質マトリックス(穴)が残り、当該マトリックスは、空であり得るか、又は水の侵入によって水で満たされ得ると考えられる。これは、リングが浸透されているか、又はIVRの外面近くで結晶が稠密であることを意味する。
【0122】
よって、当初はプロゲステロンステロイドに占められていた空間には、空の多孔質マトリックスが残り、当該マトリックスは、水の侵入によって水で満たされ得る、かつ/又は空の穴を残すことがあり、これによってエストラジオールの自由通路が、ひいては所望の0次放出特性がもたらされると考えられる。
【0123】
シース厚さの増加により、コアに埋め込まれたエストラジオールの放出速度が減少する。シースの厚さが200~400μmに増加すると、24日目のエストラジオールの一日の平均放出が、409.14μgから226.64μgに低下する(DC400及びDC200それぞれについて)。
【0124】
EVA28(EVA28重量%)を用い、実験を行ったところ、EVA28は、速度制御シースのように働いた。同様の結果は、本発明による好ましいその他のEVAでも予測され、これは例えば、酢酸ビニル含有量が24重量%、33重量%、又は40重量%のエチレン-酢酸ビニルポリマーである。
【0125】
コアに10重量%のエストラジオールが負荷されている場合には、プロゲステロンの存在により、エストラジオールの放出速度が制限/調節され、28日の処置期間中に、エストラジオールについて0次放出速度がもたらされる。
【0126】
よって、実験データに基づいて、シースに負荷されたプロゲステロン結晶は、試験したVA含有量では、速度制御シースの役割を果たすと結論付けることができる。理論に拘束されることはないが、これについてプロゲステロンは、フィラーとして機能し、コアにおけるエストラジオールの放出を制御すると考えられる。シースに存在するプロゲステロンステロイドが減少すると、シースへの水の拡散が容易になり、空の多孔質マトリックス及び/又は空のポケット/穴が残り、かつ/又はシースが崩壊することによって、エストロゲンステロイドについて所望の0次放出特性が保証されると考えられる。このような0次放出は、DCバッチ(コアに10重量%のエストラジオール、シースに33.9重量%のプロゲステロン)で得られた(図17B参照)。
【0127】
本発明による膣内リングを使用することにより、本発明者らは、2つの活性成分、すなわちエストロゲンステロイド及びプロゲステロンステロイドについて、部材の複雑な組み立てを必要とせずに、また洗練された多層押し出し技術を必要とせずに、独立して最適に放出することが可能なことを見出した。
【0128】
本膣内リングは、設計が単純で安価であるため、私的にも、また医療用施設又は病院施設でも、同様に良好に使用することができる。
【0129】
上記原理及び設計について修正及び組み合わせをすることは、本発明の範囲内において予め意図されている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13A
図13B
図14A
図14B
図14C
図15
図16A
図16B
図16C
図17A
図17B